アエネアスはトロイ戦争でのトロイ方の武将で、ギリシャ神話やホメロスの物語では敵方にあたる。ホメロスでは主人公はみなギリシャ人だったからだ。
しかしローマ文学では攻守ところを替えてアエネアスが英雄になる。なぜならローマ人は自分たちの祖先をあのトロイ戦争に敗れたトロイヤ人だと思っていたからだ。そしてそのアエネアスはビーナスの子ということになっているから、ローマ人の祖先は神であるということになる。 「アエネイス」はこのローマ人の祖先アエネアスがローマに来て国を作るまでを描いた叙事詩だ。
ホメロスの英雄たちと違って、ヴァージル(Vergilius 前70-前19)の描くアエネアスは少しも無骨な武人のにおいがしない。むしろ繊細な都会人という感じがする。
何より「アエネイス」には「イリアス」や「オデッセイ」にはない恋物語という要素がある。そのアエネイスとディドーの恋物語は第一巻からはじまる。
そのほかの点では「アエネイス」の世界はホメロスとよく似ている。たとえば、それはジュピター、ネプチューン、ジュノー、ビーナスなどの神々が人間の世界に直接かかわってくる不思議な世界だ。