高校野球の大会を主催する高野連（最近は学生野球連盟を隠れ蓑にしているが同じ事だ）はどうやら偉くなりすぎているようだ。
　
　「青少年の健全育成」を錦の御旗にしてどんなところにも口出しをするようになっている。
　
　今年も、色んなところに目を光らせて自分の思うままに世の中を動かしているようだ。

　近江高校の準優勝を祝って地元のスパーが値引きセールをしようとすると、高野連はそれをさっそく嗅ぎつけて、中止要請の文書を送りつけた。これは自由な商業活動の妨害であろう。
　
　青森では地元の新聞に光星学院の学生がレポートを掲載していたのを見つけて、さっそくやめさせた。報道の自由の妨害である。

　長野県知事が地元の塚原星雲高校の応援に県のマスコットの着ぐるみを連れてきたら、それもやめさせた。表現の自由の妨害である。高野連はどうやら県知事より偉いと思っているらしい。

　今年はＰＬ学園が対外試合禁止になったが、原因は三年生による下級生いじめだそうである。その結果、三年生はおろか二年生も試合が出来なくなってしまった。加害者だけでなく被害者も悪いというわけだ。親の因果が子に報いという連座制を適用しているが、憲法違反である。

　また、プロ野球の自由競争の対象になることを拒否して、高校生が自由に自分の就職先を選ぶことを妨害している。職業選択の自由に反した措置である。これも憲法違反。

　高知県が女子部員を大会に出場することを求めたら、それも危ないからと言って拒否。大学野球では女性が現に出ているのにである。これは明確な男女差別で、もちろん憲法違反。

　　さらに、高校生の投手に何日も連投をさせることを禁止していないのは、児童虐待ではないか。投手はアメリカの大リーグでさえ何日も間隔をおいて投げさせる。それを間隔をおかず毎日子供の投手に投げさせるのだから、子供の人権条約に違反していることは間違いない。

　特に真夏の炎天下に野球の試合をするなどは、本当は自殺行為である（だからこそ、プロ野球も大リーグも夏には試合を夜にやっている。大リーグで先発投手として活躍している野茂、石井が甲子園に出ていないのは、真夏の甲子園での消耗をまぬがれたからにちがいない）。子供たちにそんな馬鹿なことをさせて名誉だと思わせているのは、文明の進歩に反した蛮行だろう。

　このように、高野連は「青少年の育成」の口実に憲法違反や人権侵害を繰り返している。彼らは自分たちが憲法の上に立つ存在であると思い上がっているようだ。

　むかし、高校野球を広めるために全国を頭を下げて歩いてまわった謙虚な姿はどこへいったのか。

　いまやこの団体は、全国に秘密警察の網を張り巡らして、自分の言うことを聞かないものに対して弾圧を加える戦前の特高のようなものになってしまっている。

　野球部員の上級生による下級生いじめは止むことがないが、当然だ。高野連が処分処分と強権を発動して、弱い者いじめの手本を示しているのだから。

　いったい、高校生の他のスポーツでこんなことをしている団体があるだろうか。ところが、こんな高野連に対して文句の言える人が今の日本にいるだろうか。もはや独裁者でありヒトラーとなってしまっているのである。

　そもそも「青少年の育成」という目標自体とっくの昔に破綻している。ＰＬ学園の事件は象徴的だ。しかしながら、その失敗の責任を自ら負うことなく、それを各学校、さらには学生に負わせて事たれりとしている。頻発する暴力事件に対して、会長はどんな責任をとったというのか。

　この目標は何も昨日今日つくられたものではない。もう何十年にもわたって言い続けてきたものだ。それが達成できていないのである。とするなら、この組織は何一つ達成できなかったと言うことではないのか。

　そのうえ、スポーツをするための組織のために、スポーツが出来なくなる人たちが出てくる。これを本末転倒と言わずして何と言えよう。

　もともとそんな目標を立てること自体が間違っているのである。野球の目標は野球を楽しむこと以外にはないはずだ。

　高野連が本当に高校生の健全育成を考えているのなら、まずなによりもＮＨＫに対して全国大会の全国中継の中止を要請すべきだろう。しかし、そんな話は聞いたことがない。彼らはＮＨＫに対してだけは口出しできないのだろうか。そんなことはあるまい。

　だが、すこし野球が出来るだけの十八才の子供をヒーローのように扱うことが、「青少年の育成」に有害なのは明らかではないか。

　いっそのこと、全国大会そのものをやめたらどうだ。巨大化しすぎた大会と、それを運営するために強大な権力を振り回すようになった高野連。こんな大会はいらないし、こんな高野連はもう不要だ。（2001年8月23日）