わたしはさっそく、販売店に苦情を申し入れた。その対応はすばやかった。受付の女性が、住んでいる住所を言えば、その地域だけスピーカーを切るようにすると言ったのである。それでわたしは安心したが、これが嘘だということがすぐに分かった。スピーカーが切られることなどなかったのである。そこですぐにもう一度苦情を申し入れた。しかし、似たような対応をするだけだった。
そもそも住宅地の中での拡声器による宣伝放送は選挙の時にだけ許されることのはずである。それを毎週2回(多の競合店と合わせると毎週4回になる)流すことが、法的に許されているはずが無い。そう確信したわたしは、県の公害担当者に法的にどうなっているのか問い合わせてみた。すると、案の定、このような販売方法は条例違反であるという答えを得た。
詳しく聞くと『環境の保全と想像に関する条例』 の61条に違反しているのだそうだ。それによると、第1・2種低層住宅地域では拡声器を使う営業活動は禁止されているのである。これには罰則規定すらある。それなら、あの販売方法自体が違法だということになる。少なくとも、厳密に法を順守するならは、あの販売方法はとれないはずである。
そこで、わたしはその担当者の指導に従って、私の住む町の役場の環境行政の担当者にシューワ石油に巡回時間の変更の申し入れをしてもらうことにした。
この役場の担当者の申し入れに対して、シューワ石油は、巡回時間の変更はできないが、住所を教えてくれればその地域だけ、スピーカーの音を切ると約束したのである。
わたしは役場の担当者にこの報告を受けたとき、一瞬安心してしまった。これで静けさが取り戻せると思ったのだ。役場に対する対応なら違うだろうと。
しかし、考えて直してみると、これは私の苦情に対する受付の女性の対応と同じである。これはひょっとして、役場の担当者は受付の女性としか話ができなかったのではないか。そして、受付の女性は、なんと役場の人間に対しても、一般の苦情と同じやり方で処理したのではないと思えてきた。そして、わたしの心配は不幸にも当たってしまったのだ。
結果から言って、役場の対応によっても、わたしの騒音被害は何一つ変わらなかったのである。
それでこの結果を、役場の人に報告すると、もう一度申し入れをすると約束してくれた。その時、彼は「店長は夕方にならないといないから、夕方になってからまた電話してみる」と言ったのである。やはり、彼は店長と交渉できていなかったのである。その後、当方に対する役場からの連絡のないところを見ると、あいかわらず彼は店長と連絡が取れずにいるらしい。
役場の人間は夕方になれば仕事は終わってしまうから、この分では、店長が居るという夕方の時間帯には役場の人間はいつまでたっても連絡は取れないことになる。
このような企業が今の時代に生き残れている理由は、唯一このような企業からの商品を容認している多くの人がいるからである。もっと苦情が寄せられるようになれば、業者も当然他の販売方法を考えざるを得なくなるはずだ。
そうならないのは、日本人の騒音公害に対する意識はまだまだ低いためである。実際、尼崎公害訴訟のようなことがあっても、便利なら多少の公害は辛抱すべきだと言う人がまだまだたくさんいるのである。しかし、被害者の立場に立てば、公害はけっして許してはならないものである。そのために、数々の法令が制定されてきているのである。
灯油についても、住民の音環境に対する意識が高くなって、今のように騒音と引き換えの便利さより大切なものがあることが分かってくれば、このような会社もきっとなくなるのではないか。
わたしと同じように、被害を受けている人は遠慮せずに運転手を怒鳴りつけるか、諭すかして、靜かにするように要求するべきである。すくなくともそこだけはさっさと帰るようになる。
この会社に電話して、自分の住やも名前を言ってはいけない。この会社はどうやら苦情を言ってきた人間の名前を近所に言い触らすらしいからである。そうやって反対運動を阻止しようとしているらしい。しかし、これはおそらくは明白な法律違反であり、そんなことをする会社からものを買ふこと自体恥ずべきことである。
そして、灯油が欲しければ車でガソリンスタンドに買うことだ。酒を安売り店に車で買いに行く時代に、高い灯油を宅配で買う必要はない。 実際、灯油はガソリンスタンドの方がはるかに安い値段で売っているのである(18リットル630円)。それに、そもそもこの暖冬だから、一冬に18リットルタンクが三つもあれば充分だから、一度買いに行けば済むのだ。車のない家ならともかく、灯油を宅配で買うことなどないのである。
この宅配が便利だという人もいるだろう。しかし、便利だからといって人に迷惑をかけてよい理由にならないことはいうまでもない。ある人に便宜を供与して、それによって別の人に害を与えることを公害というのである。
ところが、拡声器を使つた宣伝行為をともなふ灯油の巡回販売を行ふ会社は、増えることはあつても減る気配はない。わが家の近辺でも、最初シューワ1社だけだつたものが、いまや4社である。つまり、ほぼ毎日灯油の拡声器販売の騒音を聞かされるやうになつたのだ。
そして、かういふ悪徳商法の例に漏れず、一番新しく参入した企業が一番悪質である。それは加古川の多木化学の子会社しき島商事が走らせている桃太郎の巡回車で、こいつは週二回、日に二回と三回来る。
うるささではこのしき島商事の桃太郎が最悪で、シューワはその後塵を拝してゐるくらゐだ。その次が、「北風小僧の寒太郎」の福田屋石油と「垣根の曲がり角」の富士ワールドである。最後の二つは週に一回一度来るだけだから、許せる面もあるが、回数が増えるほど違法度は高くなる。住宅地での拡声器による宣伝行為を禁じた、兵庫県の環境条例(環境の保全と創造に関する条例)にはつきり違反してゐるからである。
かうして灯油の巡回販売が週にのべ9回も来る播磨町は、自治会の拡声機と併せて拡声機騒音地獄となつたと言つても過言ではない。
ちなみに、電車の中の痴漢行為も県条例違反である。痴漢野郎からもの買ふやうな馬鹿なことはよすにしくはないだらう。