テレンティウス作『義母(しゅうとめ)』







パンピロス 若旦那、ラケスとソストラータの息子、ピロメーナの夫

ラケス 大旦那、パンピロスの父、ソストラータの夫

ソストラータ パンピロスの母、ラケスの妻

ピディッポス
 大旦那、ピロメーナの父、ミュリナの夫

ミュ リナ ピロメーナの母、ピディッポスの妻

パルメノン ラケスの召使1

ソーシア ラケスの召使2

ピローティス 遊女、娼婦、花魁

シュラ 老女、遣り手

バッキス 花魁、遊女、娼婦、パンピロスの元恋人
 

あらすじ

 若旦那のパンピロスは長年遊女のバッキスと付き合っていたが、父ラケスの指図で隣家のピディッポスの娘ピロメーナと結婚した。しかし、彼は以前の恋人が忘れらずに二か月間妻を抱こうとしなかった。しかし、夫婦はすぐに仲良くなった。パンピロスが船旅に出ると、新妻は夫の母親のソストラタ(題名の義母である)と一緒に家に残された。数カ月後、突然ピロメーナは義母の家を出て自分の母親のもとに戻ってしまう。そのために芝居の第二幕で舅のラケスは、姑が嫁と敵対していじめる習慣を非難して、ソストラータと激しい夫婦げんかをする。妻は自分の無実を言い張るが信じてもらえない。

 結婚式の十ヶ月後に帰ってきたパンピロスは、妻が病気になって母親のミュリナの元に帰ってしまったと告げられた。パンピロスは予告なしにすぐに妻に会おうとした。すると彼は偶然ちょうど妻がお産をしている所に出くわす。帰ろうとするパンピロスにピロメーナの母親は娘の不幸を口外しないように懇願する。「娘は結婚前に見知らぬ男に無理やり犯された。あとで子供は捨てるつもりだ。このあとパンピロスが妻を連れて帰るも置いて行くも好きにしていい」と。彼女に同情したパンピロスは秘密を守ると約束する。

 パンピロスは生まれた息子が自分の子だとは思いもしなかった。しかし、父親のラケスは赤ん坊が生まれたことを知ると、その子を自分の孫だと思い、せがれにその子を認知して妻を連れ戻すように勧める。約束で真実を語れないパンピロスは、妻への愛よりも母ソストラータへの孝行の方が大切だと答える。しかし、母ソストラータは嫁の憎まれ役はいやだから自分はもう田舎に引っ込むと言い出す。パンピロスは両親の願いをかわして何も言わすに出ていってしまう。

 父親たちピディッポスとラケスは相談して、パンピロスはバッキスへの思いから妻を連れ帰らない(実際には妻を愛しはじめていた)と考え、さらに、パンピロスがバッキスと付き合っているために、姑のミュリナは聟を嫌っていて、そのためにミュリナは娘の結婚で生まれた息子を隠してこっそり捨てようとしたのだと考えた。そこで二人はバッキスを呼び出すが、バッキスはずっとパンピロスには会っていないと言う。そこで父親たちは花魁をミュリナのもとに送って、自分たちに言ったとおりだとミュリナに対して誓わせた。その時、ミュリナはバッキスの指に、娘が見知らぬ男に犯されたときに奪われた指輪があるのを見つけた。バッキスはこの指輪は昔ある夜に酒に酔ったパンピロスからもらったものだと答える。パンピロスこそは見知らぬ強姦魔であり赤ん坊の本当の父親だったのである。最後に全てがめでたしめでたしで終わる。

 このストーリーは、パンピロスが自分の知った真実を言えない間に近親者たちから苦しめられることを除けば、あまり喜劇的ではない。笑いはむしろ召使のパルメノンなどの脇役から生まれてくる。それでもこの喜劇はコミカルな要素が欠けている。(ウィキ・ラテンより)


スルピキウス・アポリナリウスのあらすじ

パンピロスはピロメーナと結婚する。
彼女は結婚前に知らずにレイプした相手だった。
彼女から力ずくで奪った指輪を彼は
遊女のバッキスにプレゼントしていた。
結婚後、彼はエーゲ海のインブロス島に出かけたが、花嫁の体には触れずにいた。
その花嫁が妊娠すると、母親はそれが姑に知られないように、
病気と称して自宅へ移す。パンピロスが帰ってくると
嫁のお産に出くわしたが人には言わずにいる。しかし、妻を連れ帰る
ことは断る。舅はバッキスへの婿の愛情のせいだと言う。
バッキスが潔白を主張したとき、嫁の母親のミュリナはレイプされた娘が
なくした指輪に偶然気がついた。
パンピロスは赤ん坊とともに妻を連れ帰る。


舞台はアテナイ、ラケスとピディッポスとバッキスの家が並ぶ。右手が広場、左手が港と田舎。


プロローグ 略


第一幕第一場 ピローティス、シュラ(バッキス花魁の恋人のパンピロスが結婚したことが明かされる場面)

(ピローティスとシュラがバッキスの家から出てくる)

ピローティス 婆さん、本当に、遊女との約束を守る殿方の何と少な いことでしょう。60
ここでもパンピロスさんは何度もバッキス花魁に厳かに誓っていたわ。あなたが生きているかぎり僕は永遠に
妻を娶ることはありませんと。あんなことを言われたら誰だって簡単に信じてしまうわよ。ところがどうでしょう、
あの人も奥さんをもらってしまったのよ

シュラ だから私はあなたにいつも熱心に忠告しているでしょう。男に 情けをかけてはだめよ、
男をつかまえたら骨の髄までしゃぶりつくしなさいと。65


ピローティス 例外はないの? 

シュラ そうですよ。だって、覚えておきなさい、あなたのところに来 る男の人は甘い言葉を
つかって、なるべく安い費用で、自分の欲望をあなたで満たそうと、みんなしている70
のですよ。 ねえ、あなたはそういう男たちに対抗して何か作戦を立てないのですか?

ピローティス でも、どのお客さんもみんな一緒くたに扱うのはよく ないわ。

シュラ そうでしょうか。敵に仕返しをするのがよくないことですか? 彼らがあなたを誑(たら)し
込むのと同じやり方で彼らを誑し込むのがよくないことですか? ああ、ほんとうに情けないわ、
どうしてあなたの若さと美しさがわたしになくて、わたしの知恵があなたにないのかしら。75



第一幕第二場  パルメノン、ピローティス、シュラ(パルメノンの結婚の経緯と、嫁のピロメーナが実家に帰ってしまったことが明らかにされる場面)

パルメノン(ラケスの家から出がけに家の中にむかって)大旦那様が俺 のことをお聞きになったら、
パンピロスの若旦那がお帰りかどうか港へ見に行ったと言ってくれ。スキルトス、俺の
言うこと聞いているのか。もし聞かれたら、そう言うんだぞ。聞かれなかったら、言わなくていい、80
この口実をいま使わなかったら別の機会に使えるようにな。あそこに見えるのはピローティスさんかな? 彼女は
どこから来たんだろう? ピローティスさん、こんにちわ。

ピローティス こんにちわ、パルメノンさん。

シュラ これはごきげんよう、パルメノンさん。

パルメノン 本当にあなたもごきげんよう、シュラさん。ねえ、ピローティスさん、こんなに長いことどこで浮かれていたの?85

ピローティス
 浮かれてなんかいませんわ。人でなしの軍人さんとコリントに行ってましたの、
二年間ずっとあそこであの人に言うことに耐えていたんですわ。

パルメノン ピローティスさん、あなたはきっと何度もアテナイへの 郷愁を募らせて、出てきたことを 90
後悔したんだね。

ピローティス それはもう言葉にできないほどですよ。私がどれほど 帰りたかったことか。軍人さんとはお別れして、
昔よくやったように、あなた達とここで会って、自由にお話ししたいわと。だって、あそこでは
私はあの人の気に入るようなことしか喋れなかったんですもの。本当に面倒くさい人だったんですよ。95

パルメノン 喋ることまで軍人さんにとやかく言われたらつまらないだ ろうなあ。

ピローティス ところであれはどういうことかしら? いまバッキス 花魁からこの中で聞いたことですよ。
本当に、信じられないことだわ。彼女が生きているというのに、あの人が結婚する気になっただなんて。100

パルメノン 結婚するだって? 

ピローティス ええ! 嘘なの?

パルメノン 本当だよ。結婚したのはしたけど、あんな結婚が長続きす るかどうか、心配しているんだ。

ピローティス バッキスさんの為になることなら、そんな結婚はこわ れたらいいのよ。でも、パルメノンさん、その結婚が
長続きしないと思う理由を教えてちょうだい。

パルメノン そんなことは人前では言えないよ。詮索するのはやめてく れよ。105

ピローティス ああそうなの、人に知られたくないのね。私があなた にお尋ね
するのは決して人に言うためではなくて、黙って一人で楽しむためですわ。

パルメノン あなたがどんなにうまいこと言ったって、あなたが約束を 破って私が
罰を受けるようなことになるのは嫌ですよ。

ピローティス やめてよ、パルメノン。 本当は私が聞きたがっている以上に、あなたは喋りたいくせに。110

パルメノン(傍白)図星だな。これは大失敗だった。(ピローティス に)もし黙っていると約束してくれるなら、言ってもいいよ。

ピローティス やっと自分の本性(ほんしょう)に戻ったわね。約束 するわ、教えてよ。

パルメノン よく聞けよ。

ピローティス 聞かせてもらうわ。

パルメノン 若旦那はここのバッキスにべた惚れになってたんだが、 ちょうどその頃に親父さんが若旦那に 115
嫁を貰ってくれと懇願し始めたのさ。それはどこの父親も言う理屈、つまり、自分はもう年だし、
息子はお前だけだから、わしの老後の生活を守ってくれと。 若旦那も初めは断っていたんだけど、親父さんが120
どんどんしつこく言ってくると、気持ちが揺れだした。親孝行を取るか恋愛を取るかと。大旦那さまはうるさく
言い続けてとうとう我を通した。ここの隣の娘さんと婚約させたのさ。このことを若旦那は全然まじめに 125
受け止めていなかったが、とうとう結婚式の当日になって、式の準備ができてもう結婚を引き延ばせない
と分かると、悲しみだしたのさ。バッキス花魁がその場に居たら、彼を哀れんだと思うくらいだったよ。 130
若旦那はほかの人から離れて、俺と二人きりで話ができるようになると、「畜生、パルメノンよ、僕はなん
てことをしたんだ。ひどいことになってしまった。こんなことに耐えられない、なあパルメノン、僕はもうだめだ
よ」と言ったのさ。

ピローティス あそこの大旦那さまも余計なことをしたもんだわね え。 135

パルメノン 手短かに言うと、若旦那は嫁をもらった。
でも新婚初夜に新妻に手を出さなかった。その次の夜もずっと同じ事さ。

ピローティス 何を言ってるの? 若旦那は新妻の床に入ったのに、
彼女に手を出さなかったというの、大酒でも飲んでいたのかしら? 140
そんな話は有り得ないし信じられないわねえ。

パルメノン そうだろうねえ。だって、君のところに行く男は君が欲し くて
行くんだからねえ。ところが若旦那はいやいや彼女と結婚したんだから。

ピローティス それでどうなったの? 

パルメノン 数日後に若旦那は俺を一人だけ外に呼び出して 145
まだ奥さんには触れずにいると、おっしゃったのさ。「結婚まえは、
この結婚は何とかやっていけると思ったけれど、もう彼女を家に置いておくわけ
にはいかないと思う。パルメノンよ、 彼女を家族に元通りの
体で返さずに、彼女を慰み物にするのは、 150
僕の名誉にも関わるし、彼女自身にとっても不幸なことだ」。

ピローティス あんたは若旦那の本性が純粋で立派だと言いたいの ね。

パルメノン 「こんな事を世間に知られるのは僕にとっても得策ではな い
と思う。何の落ち度もない女性を出戻りにするのは侮辱になる。155
だから、彼女が僕と一緒にやっていけないと分かって、
自分から出て行ってくれることを期待している」とね。

ピローティス その間、若旦那はどうしていたの? バッキスの所に 通っていたの? 

パルメノン そりゃもう毎日ですよ。でも、花魁は若旦那が結婚して人 の物になったのを知ると、
よくあるように、急に冷たくなってつらく当たるようになったんです。160

ピローティス
 それは本当にあり得ることだわね。

パルメノン そういうことがあって、若旦那も花魁のところへ行かなく なったんです。
若旦那は自らの身の上と花魁のことを考え、それに家にいる花嫁の事も分かるようになって、
二人の 実生活から性格を比べてみると、妻の方は育ちがいいし、女らしく慎みがあって謙虚で、 165
夫とのごたごたやひどい仕打ちなどのあらゆる屈辱に耐えて黙っている。そのうち、若旦那の気持ちは
一方で妻への同情心に動かされて、他方で花魁の冷たい態度に勝てずに、次第に花魁から離れて、
妻の方へ移ったというわけさ。 妻の中に自分と似たものを見出したんだね。 170
そのうちにインブロス島でこの家の親戚の大旦那(ファニア)が亡くなったのさ。
その人の遺産は法律でこの家のものに なった。大旦那は妻を愛していた若旦那を無理やりそこへを送り出した。
それで、若旦那は新妻を姑といっしょに残して出かけていったというわけだ。なぜなら、大旦那は 175
田舎に引っ込んでしまい、町にはめったに出て来ないんだよ。

ピローティス それでこの結婚はどうして長続きしないというのよ?  

パルメノン いまから言うよ。はじめの数日間は嫁と姑の関係はとても うまく行ってたんだ。
そのうちに妙な具合に嫁が姑を嫌い始めたのさ。 二人の間には喧嘩もないし、何の不満もなかったのに。180

ピローティス それでどうなったの? 

パルメノン 姑が嫁のところに話をしに行くと、とたんに嫁は逃げてし まって、会おうとしないんだ。
そしてとどのつまりは、法事で実家に呼ばれたと言って出て行ってしまったんだよ。 185
実家に何日もいると、姑が呼び戻すんだけど、実家の人は何か言い訳をする。また呼びにやる。
でも嫁は帰らなかった。何度も呼びに来たあとで、娘は病気だと言い出した。すると姑は突然嫁に
会いに行った。でも中へ入れてもらえなかった。大旦那がそれを知ると、 190
昨日この事のために田舎から出て来て、嫁の父親に急に会ったんだ。
二人が何を話したかはまだ俺は知らない。ただ、これがどうなるかにはとても興味がある。
俺の話はこれで全部だよ。じゃあ、俺は用事に行く途中なので行くよ。 195

ピローティス
 私も行くわ。ある外国のお客さんと約束があってその人に会いにいくの。

パルメノン うまくいくといいね。

ピローティス ではごきげんよう。

パルメノン あなたも、ピローティス。


第二幕第一場 ラケス、ソストラータ(嫁姑の仲違いから嫁が実家へ行って帰ってこないことを舅のラケスが嘆く場面)

(ラケスとソストラータが自分たちの家から出てくる)

ラケス いやはや、こいつらは何ていう種族なんだ。こいつらは全員同 じ考えを
もった人間の集りなんだよ! 女というのはどいつもこいつも同じ物を好み、同じ物を嫌うもんだ。 200
ほかの女とちょっとでも本性の違う女なんて一人としていやしない。
姑はどいつもこいつも嫁を嫌うし、どの女も亭主に逆らうのに必死で、
決してそれをやめようとしないのも同じだ。女というのはみんな同じ学校でこの意地の悪さを学んできたに
ちがいない。そして、もしそんな学校があるとしたら、この女こそは きっとそこの総代だな。 205

ソストラータ
 ひどいわ、私がどうしてそんなにひどく言われなきゃならないの。

ラケス 何を!? お前、分からないのか!?

ソストラータ 本当にわたし分からないのよ、あなた。私たち夫婦は
一緒に仲良くずっと暮らしていきましょうよ。

ラケス やめてくれ!

ソストラータ それに私はあなたにひどく言われるようなことは
何もしていないわ。これはそのうちあなたも分かるはず。これは確かだわ。 

ラケス 何もしていないだと? あんなことをしておいて、お前は
褒めてもらえるとでも思ったのか。 210
お前は息子を悲しませるだけでなく、この家に恥を
かかせたんだぞ。お前はうちの家族になってくれた
親切な人たちを敵に回してしまったんだぞ。
あの人達は自分の娘をう ちの息子にやってもいいと言って
くれた人たちなのに、お前一人の出しゃばりの
せいで、こうしたことを全部ぶち壊してしまったんだよ。

ソストラータ 私がですか? 

ラケス そうだ。お前だよ。わしのことを人とも思わず、
石ころか何かと思っている、そのお前だ。 215
それとも、わしがいつも田舎にひっこんでいるので、
お前たちがここでどんな暮らしをしているか
知らないと思ったのか? わしは自分が暮らして
いる田舎のことより も、こっちの出来事の方を
よく知っているんだ。なぜなら、わしの田舎での評判は
お前のこの家での振る舞いのせいで台無しになっているからだよ。
最近わしは嫁のピロメーナがお前を嫌っているとい う
うわさを聞かされたんだぞ。 まあそんなところだと思ったよ。 220
むしろお前が嫌われていないほうが不思議なくらいだ。
ところが、ピロメーナがうちの家族全員を嫌っているとは
思っても見なかった よ。わしがもしそれに気づいていたら、
嫁を家に残してお前を追い出していたよ。しかし、妻よ、
わしががお前のせいでこんなに悩まされるのが、
どんなに不当 なことだか分かっているのか。
お前のためを思って、わしは田舎に行って住む
ことにして、土地の管理をしているのも、 225
お前の出費やお前の余暇の出費をわしの収入で
賄うためで、わしは年相応以上のむちゃな労働も厭わずいるんだ。
ところが、わしがこれだけやっているのに、
お前はわしの気が休まるようにしてくれないのさ。

ソストラータ いいえ、絶対に私は悪くない。これは私のせいじゃない わ!

ラケス いいや、確かにお前のせいだ。ここにはお前しか居なかっ
たんだから、ソストラータ、お前一人に全ての責任があるんだよ。 230
わしはお前をほかの気苦労から解放してやっているんだから、
ここの事はお前が気を使うべきだったんだ。お前はいい
年をして小娘と喧嘩を始めるなんて恥ずかしくないのか? 
それどころか、こうなったのは嫁のせいだというのか? 

ソストラータ いいえ、そんなことは言わないわよ、あなた。

ラケス それは息子のためによかった。お前が罪をしょいこんでも
これ以上お前の評判が下がることがないのは、わしがよく知っている。 235

ソストラータ
 ねえ、あなた、あの子は単に自分の母親ともっと一緒に
居たいために、私を嫌っているふりをしただけじゃないのかしら? 

ラケス 何を言うんだよ。お前が昨日嫁の所に行っても中に入れて
もらえなかったのは、お前が嫌われている証拠じゃないか?

ソストラータ だって、「娘はとても疲れています」と言われ
たのよ。それで私は入れてもらえなかっただけよ。

ラケス わしが思うには、彼女はお前のやり方がほかのどんな事よりも むかつくんだよ。240
それは仕方がないさ。お前たちはどいつもこいつも自分の息子を結婚させたがる。そして
自分に気に入った娘と結婚させる。そうやって、お前たちがうるさく言って来てもらった嫁を
今度はうるさく言って追い出すのさ。


第二幕第二場(ピディッポス、ラケス、ソストラータ)(新妻は戻るつもりがないことを父親が舅に明らかにする場面)

(ピディッポス、自分の家から出てくる)

ピディッポス(自分の家にいる娘に話しかける)娘よ、父さんはお前 を無理に
言うとおりにさせたっていいことは知っているけれど、子の可愛さに勝てない。245
お前はしたいようにしたらいいよ、父さんはお前の気持ちに逆らうようなことはしないからね。

ラケス(独白)いい所にピディッポスさんが出てきたぞ。どうなって いるか
聞いてみよう。ピディッポスさん、わしは自分の家族の気持ちを重んじるのが
大切なことは知っていますが、家族を甘やかして性根を駄目にしてし
まうことがないようにしています。もしあんたも同じようにしてくれるなら、わしの家にとってもあんたの家にとっても
いいんですがねえ。どうやら、あんたは自分の家族の言いなりなっておられますなあ。 250

ピディッポス え?、そう見えますか?

ラケス 昨日娘さんのことであんたにお会いしましたね。でも会う前と 何の変化もなく、よく分からないままで
お別れしたんですよ。もし、あんたにこの親戚関係を続ける気があるのなら、争いの原因を
隠すのはよくないと思いますよ。もしわしの家に落ち度があるのならどうか言ってください。そうすれば、
わしはあんたに直接弁解したり謝罪したりして、うちの落ち度を償うことが出来きます。 255
でも、彼女をそちらに引き止めている理由がご病気というのでは、ピディッポスさん、それはわしに対して
あまり親切だとは言えないのです。それでは、あんたはあの子がわしの家では熱心に看病してもらえないと思って
いることになりますからね 。たとえあんたがあの子の父親だとしても、わしがあの子の健康を願う
気持ちは、絶対にあんたには負けませんよ。これは息子のことを思えばなおさらです。 260
わしの息子が彼女のことを自分自身よりも大切に思っていることを、わしは知っています。
だから、この事を知ったら、息子がどれほど悲しむか、わしはよく知っているのです。
だから、息子が帰えってくる前にあの子にはこちらの家に戻ってほしいんだ。

ピディッポス ラケスさん、あなたが良かれと思って仰っていること も、あなたが
心を痛めておられることも私はよく知っています。まったく全部あなたの言うとおりですよ。 265
ですから、今は私の言うことを信じてください。私は何とかして娘をあなた
の家に戻したいと思っているのですよ。

ラケス どうしてあんたはそれが出来ないんですか? まさか、彼女は 夫に対して
何か不満を持っているわけではないのでしょう?

ピディッポス そんなことはありません。娘に戻るように言ったり、 無理に戻らせようとすると、
あの子は、「旦那さんの帰らない間はあちらの家には居られない」と、真剣に言うのですよ。 270
人にはみな欠点がありますが、私は生まれつき性格が弱いので、家族の言うことには逆らえないのです。

ラケス おや、うちの婆さんが出て来たぞ。

ソストラータ 本当に情けない。

ラケス(ピディッポスに)では、そちらのお考えはそういうことなん ですね? 

ピディッポス 当面はそうなりますね。ほかに私に用はないですか。 私は今から広場に行かないといけないので。

ラケス 一緒に行きましょう。


第二幕第三場 ソストラータ(姑のソストラータが無実を訴える場面)

(ソストラータが舞台に残る)

ソストラータ(独白)本当に不公平だわ。私たちって
一部の女のせいで全員が同じように夫から 275
悪く言われるんだから。女はみんな悪く言われて
当たり前のようになってるけど、私は違うわ。
本当に私は夫が非難しているような悪いことは
何もしていない。でも罪を晴ら すのは簡単じゃないわ。
姑というのはみんな意地悪だと決めて掛かっ
てるんだもの。でも私は絶対に違う。
だって私はあの子をいつも自分の娘のように
してきた んだもの。だからどうしてこうなってしまったのかわからない。 280
私に出来ることは息子の帰りをひたすら待つことだけだわ(ソストラータ、自分の家に入る)。


第三幕第一場(パンピロス、パルメノン、ミュリナ)(帰国したパンピロスが新妻の家の騒ぎを知って中に入るまで)

(パンピロスとパルメノン、左手、港の方角から登場)

パンピロス(召使のパルメノンに)自分の恋の結末がこんな面倒な事 に
なったのは、僕ぐらいじゃないかと思うよ。本当についてないよ。
こんなことなら命からがら帰ってくることはなかったんだ。僕が何とかして故郷へ
帰りたいと思ったのは、こんなことのためじゃなかったんだ!
ほんとうに、 国へ帰ったらこんな事になってるのを知るくらい
なら、いっそのこと、どこへでもいいから他所の国へ行って暮らすほうがよほどましだ。 285
なぜなら、自分の前途に災難が待っている場合には、誰だって
それに直面するのを先延ばししようとするものだからな。

パルメノン だけど、こうしてお帰りになればこそ、若旦那もこの災難 から抜け出す方法を
早く見つけられるというものです。もしお帰りでなければ、もっとひどいことになるところですよ。290
若旦那、嫁姑のお二人もあなたがお帰りなれば、考えが変わることもありますよ。
ですから、若旦那はまずはいまの状況を見極めて、不仲を取り除いて、仲直りさせてあげて下さい。
きっと案ずるより産むが易しということになりますよ。

パンピロス どうしてそんな気休めを言うんだい。そもそもどこに僕 ほど情け
ない人間がいるというんだい。今の嫁を貰う前に、僕は別の女性に惚れていた。295
でも父が押し付けてきた嫁を断る勇気が僕にはなかったのさ。それで、いまこんな事になって
しまったんだ。自分の情けさは僕が言わなくても誰にでも分かる。
僕は あの泥沼からやっとこさ抜け出て、女に溺れた自分の気持を振りきった。
そしてやっと今の嫁に対する気持ちが芽生えてきたんだ。ところが、また新しい問題が生ま
れて 、僕は嫁から引き離されたというわけだ。この問題の
原因は、母か嫁かどちらかにあるとは思うけれど、300
それが分かったとしても、どっちみち僕は惨めなだけだろう?
だってパルメノン、母親が原因なら僕は親だから我慢するしかない。
とすると嫁に借りができる。嫁 は性格がいいから、以前も
僕のことを我慢してくれた。僕があれだけひどい事をしたのに、
それを絶対に人に言わなかった。だから今度の事では
何か大変な事があっ たに違いないんだ、パルメノン。
こんなに長いこと仲違いしていることを考えるとね。 305

パルメノン そんな事は絶対にありません、これはきっと些細な問題
ですよ。若旦那が真の原因をお調べになったら、
きっと、つまらない事でここまでこじれたということが
分かりますよ。別の人なら全然腹が立たないようなこと
でも、同じ事が原因で大げんかを始める人がいるものなんです。310
子供たちはどんな些細なことからでも喧嘩を始めますよね! 
なぜでしょう。子供は自分を支配している精神力が弱いからです。
女たちの精神の弱さは丁度この子供たちと同じなんですよ。だから、何か
一言いったことが原因で二人はこんなに仲違いしてしまったんですよ。

パンピロス パルメノン、お前は中へ行って、僕が帰ったと伝えてこ い。

パルメノン (ピディッポスの家から聞こえる音に)あれっ、これは 何だろう? 

パンピロス しっ! 大慌てで人が走り回っている音が聞こえるぞ。 315

パルメノン 扉に近づいてみましょう。聞こえますか。

パンピロス しゃべるんじゃない! なんてことだ、泣き声が聞こえ たぞ。

パルメノン 私にはしゃべるなといって、若旦那はしゃべるんですか?

ミュリナ(中で)娘よ、お願いだから静かにして!

パンピロス あれは俺の嫁の母親の声だ。畜生! 

パルメノン どうしてそんな事をいうんです? 

パンピロス くそ! 

パルメノン ねえ、どうしたんですか。 

パンピロス 何か大変な事になっているようなんだ。それも僕に知ら れたくないことがね。 320

パルメノン 本当かどうかはわかりませんが、奥様のピロメーナ様は何か寒気がするという話でした。

パンピロス 畜生、どうしてお前はそれを僕に言わなかったんだ。

パルメノン 一度に全部は言えませんよ。

パンピロス 何の病気なんだ? 

パルメノン 存じません。

パンピロス なぜだい? 誰も医者を呼ばなかったのか? 

パルメノン 存じませんよ。

パンピロス これは中に入って何事なのか急いで確かめ
てくるよ。 僕のピロメーナ! どうしたんだい? 325
もし君の身に何かあったら、僕は生きてはいられない・・
(パンピロスがピディッポスの家に入る)

パルメノン(独白)俺は一緒に中に入るべきではないな。
だって、うちの人間は皆ここの人間から嫌われているん
だから。昨日もうちの奥様は中に入れてもらえなかった。
もし病気がひどくなったら(若旦那のためにはそんなことになって欲しくはないが)、330
うちのおかみさんの召使が中に入って、何か変なものを
持ち込んだために彼女の病気が悪くなった、と言いふら
されるにちがいない。おかみさんが非難され
たら、その罰を受けるのは俺だからなあ。335


第三幕第二場(ソストラータ、パルメノン、パンピロス)

(ソストラータが隣のラケスの家から出てくる)

ソストラータ いやだわねえ、さっきからここで何か大騒ぎしているの が聞こえるわ。
心配だわ。あの子の病状がひどくなったんじゃないかしら。
どうか、神様、仏様、そんなことがありませんように。ちょっと見に行こうかしら。

パルメノン おや、奥様! 

ソストラータ(パルメノンに気づかず)何かしら?

パルメノン また締め出しをくらいますよ。 340

ソストラータ おや、パルメノン、ここにいたの? 
困ったわ、私はどうしたらいいかしら。私は
自分のせがれの嫁に会わせてもらえないのかしら。
となりの家で病気になっているというのに。

パルメノン お嫁さんに会えないかって? 誰も
見に行かせてはいけませんよ。自分を嫌っている
相手の心配をするなんて馬鹿も休み休みに言ってくださいよ。
そんなことは骨折り損のくたびれ儲けだし、おまけに、相手さまにも迷惑ですよ。345
あなたの息子さんがお帰り早々、何がどうなっているのか、
中へ見に行かれましたよ。

ソストラータ なんですって? 息子が帰ってきているのですか? 

パルメノン そうですとも。

ソストラータ それはよかったわ。ああ、そのことを聞いて
私も元気が戻ってきたわ。これで一安心だわ。

パルメノン だからこそ奥様は中に入ってはいけないと言って
いるんです。というのは、お嫁さんがご病気から少しでも回復されたら、350
息子さんと二人っきりになった時にすぐに全部お話しになる
でしょうから。あなた達お二人の間で何があったか、
いさかいのそもそもの原因は何だったのかをね。おや、もう若旦那が
出てこられました。なんという浮かない顔をされているのでしょうか。

ソストラータ ねえ、おまえ!

パンピロス ああ、母さん、こんにちわ。

ソストラータ お前が無事に帰ってきてうれしいわ。ピロメーナは元 気なの? 

パンピロス だいぶよくなっています。

ソストラータ 本当にそうなってくれたらいいんだけど! 355
でも、おまえのその涙はどうしたの? 
どうしてそんなに元気がないの?

パンピロス 僕は大丈夫です、母さん。

ソストラータ この騒ぎは何だったの、教えて。 痛みが急に襲ってき たの?

パンピロス そうです。

ソストラータ 何の病気なの? 

パンピロス 熱があるんです。

ソストラータ 毎日なの? 

パンピロス そういう話です。よかったら母さんは
家の中へ戻っていて下さい。僕もあとから行きますから。

ソストラータ そうするわ。(ソストラータ、自分の家の中へ入る)

パンピロス(パルメノンに)パルメノンよ、お前はうちの召使たちを
迎えに行って、荷物を運ぶのを手伝ってやってくれ。360

パルメノン どうしてです? 召使たちはどこを通って来ればいいか、 道ぐらいは知ってるでしょう。

パンピロス 早くしろ。(パルメノン、左手の港の方向へ行く)


第三幕第三話 パンピロス

パンピロス(独白)僕の身にふり掛かったこの思いがけない出来事を
どこから話せばいいのか分からない。それは僕がいまこの目で見て、この耳で
聞いてきたことなんだが、僕はびっくりして急いで外へ出てきたんだ。365
だって、僕がさっき妻が病気だと思って、心配して中に飛び込んだときに、
この目で見た彼女は病気どころではなかった。全くなんていう事だ。
僕が来たのを女中たちが見かけると、皆で一斉に「若旦那がお着きです」と
嬉しそうな顔をして叫んだ。僕の来たのがあまりに急なことだったんだな。
ところが、すぐに彼女たちの顔色が変わるのが分かった。
僕の帰国は彼らにはよほど不都合な巡り合せだったんだろう。370
そのうち、その一人が急いで僕の帰りを伝えるために駈け出した。
僕は嫁に会いたい一心で、そのあとにぴったりとついて行った。
そして中に入ると、すぐに彼女が何の病気がわかった。
僕の目から彼女を隠す暇がなかっただけじゃない。彼女がまさに 375
上げた声を聞けば、誰にも事態は明らかだった。
僕はその光景に、「あんまりだ!」と叫んで、涙ながらに飛び出してきた。
信じられな いほどおぞましい事の成り行きに僕は取り乱してしまった。
彼女の母親が僕のあとを追ってきた。僕が家の外へ出ようとすると、彼女はみじめに泣きくずれた。
僕は憐れに思った。本当に、僕達は偶然の出来事で幸福になったり惨めになったりするのだ。 380
彼女は僕にこんなことを言い始めた。「パンピロスさん、娘があなたの家 をなぜ
出てきたのか、その理由をあなたはご自分でご覧になりましたわね。実はあの子は結婚前に
見知らぬ悪い男に無理やり犯されたんです。いまあの子がここに身を寄せている のは、お産を
あなた達の目から隠すためなのです」。 僕は彼女の言葉を思い出すたびに涙が止まらない。385
彼女はこう言ったんだ。「あなたがどういう運命のめぐり合わせで、丁度今日という日に
帰っていらしたのか は知りませんが、あの子のためにお願いしますわ。是非とも、あの子の
不幸を人には黙っていてほしいのです。もしあの子のあなたに対する優しい気持ちに
お 気づきなら、パンピロスさん、 あの子は、ほかに何もして頂かなくてもいいから、これだけは 390
お願いしています。それから、あの子を後で連れ戻すかどうかは、あなたの
ご都合のいいようになさって下さい。あの子がお産をしたことと、子供の父親があなたでない
ことを知っているのは、あなただけです。というのは、あの子があなたと床を共にしたのは
結婚して 二ヶ月後のことだったそうですから。あなたの家に嫁いでから、今でまだ7ヶ月にしかなりませんわ。395
こんなことは私が言うまでもなく全部ご存知でしたわね。それから、パンピロスさんにお願いしたいのは、
このお産のことを誰よりもあの子の父親には隠しておきたいのです。
それでも、どうしても隠し切れないようでしたら、流産だったと言うつもりです。
赤ん坊はあなたの子だと誰もが思う でしょう。そうでないと思う人などいませんわ。400
でもすぐに捨てさせます。そうすれば、もうあなたにとっては何の不都合なことはありませんし、
あの子が乱暴されたことは隠しおおせますわ」。もちろん僕は黙っていると約束したし、その
約束を守るつもりだ。嫁に対する僕の 愛情と愛着の気持ちはとても強いけれども、
あの嫁を家に連れて帰るのは不名誉なことだと思うから、それはやめておく。405
これからの僕にどんな人生が待っているか、どんな孤独が待っているのかとを思うと僕は悲しい。
運命とは何と気まぐれなんだろう。とはいえ、前の恋のお陰で僕はこんなことにも
慣れている。僕は前の恋をよく考えてから諦めたんだ。今回も同じようにしよう。
(通りを見て)おや、パルメノンが召使たちと一緒にやって来た。410
この件にはパルメノンの存在は邪魔だな。結婚したてのころに僕が新妻に手を
出さないでいることをあいつだけに打ち明けたんだ。あいつが彼女の大きな声を
繰り返して聞いて、お産のことに気づいたら困ったことになる。ピロメーナの
お産の間、あいつをどこかへ追い払わないといけないぞ。


第三幕第四場 パルメノン、ソーシア、パンピロス

(パルメノンが左手港の方向から荷物を運ぶ召使たちと共に登場)

パルメノン(ソーシアに)この旅はとても辛い旅だったとお前は言うん だな?  415

ソーシア パルメノン、実際に船旅がどれほど辛いかはとても言葉では 言えないよ。

パルメノン そうなのかい? 

ソーシア あんたは運のいい人だよ。海に行ったことがないから、
自分がどんな災難を免れてきたかを知らないんだよ。420
だから、ほかの災難はいいから、これだけは知って
おいてほしい。僕は三〇日以上も船の上にいたんだよ。その間
ずっと悪天候に悩まされて、死の恐怖に怯えていたんだよ。

パルメノン 大変だったな。

ソーシア そんなこと分かってますよ。あんなところへ 425
もう一回行くと分かったら、帰ってくるより逃げてしまいたいくらいですよ。

パルメノン むかしのお前ならもっと些細な理由でいま言ってることを
したもんだ がなあ、ソーシア。(パンピロスを見て)おや、若旦那が
戸口の前で立っていらっしゃる。(ソーシアたちに)中へ入れ。おれは、
何か御用がないか若旦那に話 しをしてくる。 430
若旦那、ずっと立ってらっしゃるんですか。

パンピロス お前を待っているんだよ。

パルメノン 何か御用ですか?

パンピロス 丘の方まで一走りしないといけないんだ。

パルメノン 誰がですか。

パンピロス お前がだよ。

パルメノン 丘の方ですか。何しに行くんです。

パンピロス ミコノス島のお客さんのカッリデミデスさんに会って来 てくれ。僕と一緒に航海してきた人だよ。

パルメノン(傍白)畜生。若旦那はきっと無事に帰国できたら 435
この俺を使い走りでクタクタにしてやりますと願掛けでもしたんだな。

パンピロス 早くしろ。

パルメノン おことづけはなんですか? 会うだけでいいんですか?

パンピロス いいや。僕はその人と今日会う約束だったんだが、会え なくなったと伝えてくれ。
あんなところで無駄にお待たせしてはいけないから、さあ、行ってくれ。

パルメノン でも、あっしはその人の顔を知らないんですよ。

パンピロス 分かるようにしてやるよ。 440
その人は背が高くて、赤ら顔で、縮れ毛で、太っていて、目が鋭くて、青ざめた顔の人だ。

パルメノン(傍白)くそ!(パンピロスに)もしその人が来なければ どうするんです。夕方まで待つんですか?

パンピロス そのとおりだ。さあ、走れ! 

パルメノン 無理ですよ、疲れてるんですから(いやいや右手に去 る)。

パンピロス やつは行っちゃった。さあ、僕はどうしたらいい。参っ たなあ。 445
彼女の母親に頼まれたけど、全くどうやってこの事を隠したらいいか分からない。
彼女のお産のことだよ。ほんとに彼女は気の毒な人だ。自分の親を
裏切らない範囲で僕が出来ることは何で もしてやろううと思う。もちろん、
女に対する愛情よりも親孝行のほうを大切にしなければいけない。
おやおや、あそこに彼女の父親と僕の 父親が見えるぞ。450
こっちに来るぞ。僕は一体何と言ったらいいかな。


第三幕第五場 ラケス、ピディッポス、パンピロス

(ラケスとピディッポス、右手、広場から登場)

ラケス(ピディッポスに) 娘さんはうちの息子の帰りを待っている と言っ
ていると、あんたはさっき言いましたね?

ピディッポス そうですよ。

ラケス 息子は帰っているそうですよ。だから、彼女もうちへ帰れます よ。

パンピロス(傍白)弱ったなあ。彼女をうちへ連れ
て帰れない理由として何を親父に言えばいいかなあ。

ラケス(ピディッポスに)誰がしゃべってるんでしょうねえ?

パンピロス(傍白)とにかく一旦決めたことはやり抜かないといけな い。455

ラケス(ピディッポスに)噂をすれば影というやつですね。

パンピロス こんにちわ、お父さん。

ラケス せがれよ、元気かい。

ピディッポス お帰りなさい、パンピロス君。
無事に元気で帰られたのは何よりです。

パンピロス 本当におっしゃるとおりです。

ラケス さっき着いたのかい? 

パルメノン そうです。

ラケス それで、わしの従兄弟のファニアが
残した遺産はいくらだったんだい。

パンピロス 生きている間は やりたい放題やった人ですからねえ。そんな
人が相続人にとって有り難い人なわけがありませんよ。 460
「彼は生きている間は立派に生きた」という評判が残っただけですよ。

ラケス それではお前はその言葉以外には何も持って帰らなかったのか い?

パンピロス それが何であれ残してくれただけで有り難いですよ。

ラケス いや、有り難くないよ。それなら彼には元気に生きていてもら いたかったね。

ピディッポス それを言うのは簡単ですよ。
彼が生き返ってくることは永久にないんですから。465
(傍白) もっとも、あなたがどっちを望んでいるかは知ってますよ。

ラケス(パンピロスに)この人は昨日お前のお嫁さんにお前と別れて 帰ってこいと言ったん
だよ。(ピディッポスに)ねえ、言いましたよね。

ピディッポス(ラケスに傍白)突付かないでくださいよ。(パンピロスに)そう言いましたよ。

ラケス でも今日は彼女を我が家に戻すとおっしゃっているんだ。

ピディッポス そうですよ。

パンピロス 何があったかは全部知っていますよ(=嫁姑の確執説の ふりをしている)。さっき着いた時に聞いたんですから。

ラケス 人を幸せを妬んであれこれ言いふらす人がいるんだよ。  470

パンピロス(ピディッポスに)僕はピディッポスさんの家から非 難されることがないよ
うに充分がんばっていたつもりです。もし僕がここでどれほど彼女に優しくして女房孝行
だったかをお話しするつもりなら出来ますよ。でも、それは彼女の口から直接聞
いて欲しいんです。 もし僕を裏切った彼女の口から公平な話を聞けたら、
あなたもきっと僕の性格を信じて下さるでしょう。この別れは 475
僕のせいではないことは神に誓ってもいいですよ。彼女が
僕の母親のやり方におとなしく合わせるのは、彼女のプライドが許さなかったんですよ。
だからあの二人を仲直りさせることは出来ないんです、ピディッポスさん。出来るのは、 480
僕が母親と別れるか嫁と別れるかなんです。そして、いま僕は息子の義務として
母親の味方をするしかないんですよ。

ラケス せがれよ、いまのお前の話を聞いて、わしは、お前が親を何よ り大事に思っていることが
分かって、嬉しいよ。ただ、腹立ちまぎれに間違ったことに執着しないようにするんだぞ。485

パンピロス
 僕が腹立ちまぎれに彼女に辛くあたっているとでも言うのですか? 
お父さん、彼女は僕が望まないことは何もしなかったし、いつも僕がして
欲しいように仕 えてくれたのをよく知っています。僕は彼女を愛し尊敬
していて、別れを惜しんでいるのですよ。
なぜなら彼女の素晴らしい性格を僕は知っ ているからです。だから、 490
彼女には、僕より運のいい男と一緒になって、これからの人生を送ってほしい。
だって、彼女は僕とは別れるしかないんですよ。

ピディッポス 君次第でそうしないこともできるんだぞ。

ラケス お前に分別があるなら、彼女に帰ってこいと言いなさい。

パンピロス お父さん、僕にはその積りはありません。495
僕は母さんのために行動します。(パンピロス、去る)

ラケス おい、どこへ行くんだい。待ってくれ! 待てと言っているだ ろ。
どこへ行くんだい。(パンピロス、自分の家に入る)

ピディッポス どうしれ彼はあんなに頑固なんですか?

ラケス ピディッポスさん、私は言ったでしょう、息子はこの状況に 耐えられないと。
だからこそ、私はあなたに娘さんをうちに送り返すように頼んだのです。

ピディッポス 彼があんなに非人情な男だとは思いませんでしたよ。  500
彼は私が懇願するとでも思っているんでしょうか。彼が妻を連れ帰りたいと思うなら、そうすればいいし、
連れ帰らないというなら、持参金をこちらへ返してから、そうすればいいんですよ。

ラケス おやおや、あんたもひどい怒りようですね。

ピディッポス(中のパンピロスに)パンピロス君! 
君はひどく頑固になって帰ってきたんだね。 505

ラケス あの子が怒るのは当然だとしても、その怒りもいつかは治まり ますよ。

ピディッポス あなた達は小金が手に入ったから、ご機嫌なんでしょ うなあ。

ラケス 今度は私に突っかかるんですか?

ピディッポス 娘が要るのか要らないのか、よく考えて今日中に答え るように
息子さんに言って下さい。もし彼が断るなら別の男に嫁がせますから。 510

ラケス
 ピディッポスさん、こっちへ来て、ちょっと話を聞いて下さいよ。
(独白)行ってしまったよ。畜生、あんなこと、わしはどうでもいんだ。結局は当人たちが
好きなように決めたらいいんだよ。息子もあの人も全然
わしの話を聞かないんだから。わしの言うことなんか何の値打ちもないん
だろう。この言い争いのこ とをわしの妻に教えてやろう。これもすべてはあいつの考え
から出たことなんだ。この不愉快な気分を全部あいつに吐き出してやるさ。(自分の家に入る) 515




第四幕第一場 ミュリナ、ピディッポス

(興奮したミュリナが自分の家から出てくる)

ミュリナ(独白)困ったわ、どうしましょう。どうすればいいかしら。
もうだめだわ。 夫には何と答えましょう。赤ん坊の泣き声が
夫に 聞こえたにちがいないわ。急に黙ってあの子の所に飛んで来たんだもの。
もし自分の娘の出産に気づいたら、どうしてその事を隠していたのか、 520
あの人にどう言えばいいかさっぱりわかないわ。扉が開く音が
するわ。あの人が出て来るわ。私はもうおしまいだわ。

ピディッポス(独白)家内は私が娘のところに行くのを見ると出て 行ってしまった。
あそこにいるな。(ミュリナに)どうしたんだい、ミュリナ? お前に言ってるんだよ。

ミュリナ 私ですか? あなた。

ピディッポス(怒って) 私はお前の亭主だろ? お前は私がお前の 亭主だ
ということが分かってるのか? いやそもそも人間だと分かってるのか? 525
だって、お前が私のことをそのどちらかだと思っていたら、
お前は私をそんな態度で馬鹿にしたりしないはずだ。

ミュリナ 何のことですか?

ピディッポス わかるだろ。娘がお産をしたんだぞ。それなのに、
お前は黙っているつもりか? あの赤ん坊は誰の子なんだ? 

ミュリナ 娘の父親がそんな質問をするものですか? がっかりです よ! 
ねえ、あの赤ん坊があの子の嫁いだ人の子でなくて誰の子だというのですか。

ピディッポス そりゃそうだ。確かに娘の父親だったら、
それ以外のことは考えるべきではない。だが、 530
どうしてお前がこのお産を必死に人に隠そうとしているのか、
不思議でならんのだ。娘は月満ちた安産だったんだぞ。
それをお前がそんなに強情になって、この赤ん坊を闇に葬りたいのか。
お前はあの子が両家の絆となることはお前も知っているはずだ。
それなのにお前は、あの男との結婚が気に入らないから壊したいのかね。 535
今度のゴタゴタは、向こうの家の連中に原因があると
私は思っていたよ、ところが、実際の原因はお前だったんだな。

ミュリナ 心外だわ。

ピディッポス 私の考えが間違いだったら、どれだけうれしいこと か。
あの男が聟になった時にお前が言ったことを、 私は思い出したよ。
お前は、遊女と付き合っていて外で夜を過ごすような男と娘が結婚するのに反対だった。540

ミュリナ
(傍白)本当の理由でなければ、どんな事を疑ってくれても構わないわ。

ピディッポス ねえ、あの男に恋人がいることについては私はお前な んか
よりずっと前から知っていたんだよ。しかし、若いうちは
そんなことは全然悪いことじゃないと思っていたん だ。それが男の
性(さが)だからだ。でも彼は自分のしてることが嫌になる時が必ず来る
んだよ。ところが、お前は昔言ったことに今でもこだわって、 545
娘をあの男から取り上げて、私がしつらえた縁組を
つぶそうとしているんだ。本当にこんどの事でお前がどうしたいのかよくわかったよ。

ミュリナ 私のことを頑固だとおっしゃるけど、私はあの子の母親です よ。
もしこの結婚が私たちにとって望ましいものなら、私がこんなに頑固にはなりますか!?

ピディッポス 何が我が家にとって望ましいかが分かるほど、お前に は先見の明があるのかい。 550
お前は多分あの男が遊女の家に出入りするのを見たという人の話を聞いたんだろ。
それがどうだというんだ? あの男の遊女通いも稀なことで控えめなも のなら、それ
は知らないふりをするのが人情というものだ。それをあれこれ詮索してお前は彼に嫌われ
たいのかい? だって、もし彼が長年親しんだ相 手と急に別れることが出来るような人間なら、555
そんなのは男じゃない。娘にとっても長年連れ添ういい亭主になれるとは思えないんだ。 

ミュリナ ねえ、あの人が若いからとか私のことを頑固だとか言うのは もうやめて! 
あなたは自分で出かけて行って彼とさしで会って、娘を妻として連れ戻すつもりがあるのか
ないのか聞いてきてよ。それで連れ戻すというのなら、娘を返してやってよ。
もしその気がないというなら、娘に対する私の心配は正しかったことになるんだわ。 560

ピディッポス
 たとえ彼に娘と暮らしていく気がなくても、
たとえお前の考えでは悪いのは彼だとしても、私はここ
にいたんだから、今度の事は私の判断で決め てほしかっ
た。私が怒っているのは、お前が私の許可なしに勝手
にこんなことをしたからなんだよ。言っておくが、お前
は赤ん坊を家の外へ持ち出したりしてはならんぞ。しかし、
私がこう言って妻が言うとおりにすると思う私も愚かだな。565
私は中へ入って召使いたちに赤ん坊をどこへも持ち出させるなと
命じてくる。(中に入る)

ミュ リナ (独 白)  私ほどにみじめな女はこの世にはいないわ。
だって、あの人はこの程度のことでも、これだけ怒り出すんだ
から。もし本当の事を見つけ出したら、どれほど怒り出すか
明らかだもの。本当に、これからどうすれば彼の考えを変えられるかしら。 570
これはもうとんでもないことになってしまったわ。もしこのままあの人が
あの赤ん坊を育てろと私に言い出したら、どうなるのよ。だって、
あの子の父親は誰だかわからないのよ。娘が犯された ときに、
相手の顔は暗くて分からかなかったし、誰だか分かる証拠に
なるような物を相手から奪い取れなかった。相手の男は
娘が指にはめていた 指輪を力づくで奪って逃げてしまった。 575
それに、あのお婿さんは、他人の子を自分の子供 として
育てることになることが分かったときでも、私が
頼んだ秘密をずっと守ってくれるかどうか心配だわ。


第四幕第二場 ソストラータ、パンピロス、(ラケス)

(ソストラータとパンピロスが自分たちの家から登場)

ソストラータ せがれや、たとえお前が一生懸命に隠そうと
しても、お前が私を疑っていることは分かるのよ。お前の
お嫁さんがこの家から出ていったのは私のやり方が悪かったか
らだとね。でもねえ、お願いだから、私の話も聞いて欲しいんだよ。580
私はあの子に嫌われて当然のことなんかしていないんだよ。お前が私に
対して優しい子だということは前から知っていたし、
今度のことで、お前はその確信を強めてくれたわ。
だって、どれほどお前が私のことをお嫁さんよりも大事に
思ってくれているかを、お父さんが中でさっき話してくれ
たんだよ。だから、私がお前の親孝行に感謝している事を
分かってもらうために、お前にお礼をすることにしたのよ。585
せがれや、こうすればお前たち夫婦のためにも、
私の評判のためにもなるわ。つまり、私はお父さんと一緒に
ここから田舎へ引っ込むことに決めたのよ。そうすれば、
私の存在がお前の邪魔になることはないし、、
お前のお嫁さんが帰って来るための障害は一切なくなるわ。

パンピロス ねえ、なんてことを考えてるんですか? 
愚かな嫁のせいで、お母さんは町から田舎に引っ越すんですか? 590
お母さんはそんな事はしないで下さい。お母さんが田舎へ
引っ込んだのは遠慮深いためではなく、僕が意地悪だからと
口さがない連中に、言われたくないんですよ それに、
僕のためにお母さんがお友達や親戚の女性と別れて、
今の楽しい暮らしを捨てるようなことはして欲しくありません。

ソストラータ  そんなことはもう楽しみでも何でもないわ。
そりゃ 若い頃は存分に楽しんだわ。でもそんな楽しみにはもう飽きたのよ。595
いまの私の一番の願いは、長生きして人の邪魔にならないこと、死ぬのを
待つことだけよ。私は何も悪くなのに、ここでは嫌われ者。 引退する時期
なのよ。こうして全ての原因を断ち切るのが一番いい と私は思うの。
そうすればもう邪推からも免れるし(ピディッポスの 家を指して)
彼らに嫌われることもなくなるわ。お願いだから、600
姑の嫁いびりなんて悪口を聞かされるのは勘弁してちょうだい。

パンピロス この事(=子供がいること)さえなかったら、この母と
あの嫁をもっている僕は 、全てに申し分のない幸せ者なんだがなあ。

ソストラータ ねえ、せがれや、お前はどんな不都合な事(=嫁が
姑を嫌うこと)でも我慢する積りじゃないのですか?  それなら、もし
ほかの点で彼女が、私が考えているように、お前の好み
にかなっているというのなら、605
せがれよ、私の言うことを聞いて、彼女を連れ戻しなさい。

パンピロス ああ、困ったなあ。

ソストラータ 私もそうなのよ。この問題はあなたにとっても私と同じ ぐらい悩ましいのよ。


第四幕第三場 ラケス、ソストラータ、パンピロス

(前の場面の間にラケスがこっそり登場している)

ラケス(ソストラータに)お前がいまの話をしている間、わしはここで立ち聞きさせてもらったよ。
妻よ、それは賢明な考えだよ。お前は必要な時には気持ちを切り変えることが出
来るんだね。あとになってしなきゃならないことを(=引退すること)、今からしようと言うんだから。610

ソストラータ そうだといいんだけど。

ラケス お前は田舎へ引っ込めばいいんだよ。そこでわしとお前でお互いに我慢しあえ ばいい。

ソストラータ 多分そうなりそうね。

ラケス だから中へ入って荷物をまとめなさい。わしの言い たいことは以上だ。

ソストラータ あなたの言うとおりにするわ(家に入る)。

パンピロス お父さん。

ラケス 何だ、息子よ。

パンピロス 母さんはここから出ていくんですか? それはだめです よ。

ラケス それはどういう意味なんだ?

パンピロス 僕は自分の妻をどうしたらいいかまだ決めてないんです から。

ラケス 何だって? 連れ戻さないでどうするんだい? 615
 
パンピロス(傍白)そうしたいのは山々だし、その気持は押えられない が、
自分の考えを変えることは出来ない。僕は最善のことをやるだけだ。
(ラケスに)もし僕が彼女を連れ帰ったら、女性たちは仲良くできないですよ。

ラケス それはどうかなあ。それに、妻が田舎に引っ込んだら、あの二人の仲について
お前はもう気にすることはなくなるんだよ。それに、若い娘にはあの年頃の女は苦手なのさ。 620
だから、消えてなくなるのが最善なんだよ。要するに俺たちは芝居にある『老夫婦』
なんだよ、パンピロス。だが、ピディッポスさんがいい時に出てきたぞ。話してみるよ。


第四幕第四場 ピディッポス、ラケス、パンピロス

(ピディッポスが自分の家から出てくる)

ピディッポス(中の娘に)娘よ、私はお前のことで
本当に怒っているんだぞ。お前は本当に馬鹿な事(=出産を隠したこと)をしてくれた。625
お前は母親の言うとおりにしたという申し訳けが立つが、
母親の方は申し訳けが立たないぞ。

ラケス ピディッポスさん! ちょうどいい時に出て来られました。

ピディッポス どういうことですか?

パンピロス(傍白、どうすべきか考え続ける)彼らにどう答えよう?  
これ(=嫁を連れ戻さないこと)をどういう風に打ち明けたらいいだろう?

ラケス 娘さんに言って下さい。うちのソストラータはもう田舎へ引っ こむと。 630
だからもう何の気兼ねもなしに家に戻れると。

ピディッポス ああ、この問題ではあなたの奥さんは
何も悪くないんですよ。私の妻のミュリナが全ての原因なんですよ。

パンピロス(傍白)こっちでもトラブルなのか。

ピディッポス ラケスさん、私たちが困ったことになっていたのは、
私の妻のせいだったんですよ。

パンピロス(傍白)僕が妻を連れ戻らないでいると、
ますますトラブルが大きくなっていきそうだなあ。 635

ピディッポス
 パンピロスくん、私は出来れば両家の
この親戚関係を長く続けたいんだよ。
だが、もし君がそう考えていなくても、赤ん坊だけは連れ帰ってくれ。

パンピロス(傍白)この人はもうお産のことを知ってるんだ。畜生!

ラケス 赤ん坊? どの赤ん坊だ? 

ピディッポス 私たちに男の孫が生まれたんですよ。 640
あの子はお宅から帰ってきたときに妊娠していたんですよ。
私も今日はじめて娘が妊娠していたことを知ったんですが。

ラケス それはいい知らせをもってきてくれました。
男の子が生まれて、娘さんもご無事だとは何よりです。
それにしても、あんたの奥さんもひどい人
ですね。日頃からそうなんですか。645
こんな事をこんなに長い間隠しているなんて!
これにはわたしもショックで、言葉も出ないほどですよ。

ピディッポス あなただけでなく私も大いに
ショックなんですよ、ラケスさん。

パンピロス(傍白)さっきまでは迷っていたけれど、もう迷いはな い。
嫁を戻せば他人の子供が付いて来てしまう。そんなことはできない。650

ラケス
 せがれよ、お前はもうくよくよ考えることはないんだ。

パンピロス(傍白)畜生。

ラケス こんな日が来るのをわしは待っていたんだ。お前が
人の父親になる日が来るのを。その日が来たんだ。神に感謝するよ。

パンピロス(傍白)もうだめだ。

ラケス 彼女を連れ戻すんだぞ、わしに逆らうなよ。655

パンピロス
 お父さん、もし彼女が僕の子供を欲しがっているのなら、いやもし
彼女が僕の妻でいたいのなら、彼女はこんな隠し事をして僕に黙っているはず
はないと思います。もう彼女の気持ちは僕から離れているんですよ、だから
これから僕達は二人で仲良く暮らしていけるとは思えないんです。660
それなのに、どうして彼女を連れ戻すんですか? 

ラケス 若い彼女は自分の母親の言いなりになっただけなんだ。
それが不思議なことだろうか。お前は落ち度のない女性を見つけら
れると思っているのかい。男には落ち度がないとでもいうのかい。

ピディッポス ラケスさんとパンピロスくんの二人でよく考えてく ださい。 665
娘を出戻りにするか連れ戻すかを。私の妻のするこ
とは私にはどうにもできないし、私はどちらでも構いません。でも、赤ん坊はどうするんです? 

ラケス 馬鹿な質問ですね。何があろうと、せがれの子は
せがれに渡してもらいます。うちの子として育てるんです。670

パンピロス(思わず言ってしまう) 父親に見捨てられた子を僕が育 てるんですか? 

ラケス(息子の言う意味がよくわからないで言う) 
何だって? 息子よ、うちで育てないつもりか。お前はあの子を見捨 てるつもりか? 
お前は頭がどうかしたのか? もうわしは黙っていられない。
この人(ピディッポスを指す)のいる前で、言いたくもないことを
お前が言わせるんだぞ。675
わしがお前の涙に気づいていないと思っているのか。お前が
何故そんなに悲しんでいるか知らないとでも思っているのか? 
お前があの嫁を家に置いておけない理由を、最初お前は 
母さんのせいにした。そこで、母さんは家から出ていくことにしたんだ。680
ところが、この理由がなくなると、今度はお前は嫁が隠れてお産をした
からと言い出したんだ。わしにお前の本心がわからないと思ったら大 間違いだぞ。
いつかお前も結婚する気になるだろうと思って、わしはどれだけ長い間
お前の遊女通いを許したことか!お前が遊女にいくら使っても大目に見たんだ。685
それからお前に結婚してくれと説得して懇願した。もう潮時だと言った。わしにさんざ言われて
お前は結婚した。わしの言うことに耳を傾けて、やっと人並みの道を歩きだしたんだ。
ところが、お前の気持ちはまた遊女の方に戻ってしまったのさ。 690
その女の言うことに耳を傾けて、お前は自分の妻を裏切ったのだ。
お前はまた元の木阿弥に戻ってしまったのさ。

パンピロス 僕がですか? 

ラケス そうさ。お前はひどいやつだよ。嫁と別れて遊女と
暮らすため に、仲違いの理由をでっち上げたんだ。 695
嫁のほうでもそれに気づいたのさ。だって、他に
どんな理由があってあの嫁が自分から出ていったというんだい。

ピディッポス 図星だ。実際そうなってるからなあ。

パンピロス そんなことは決してないと誓いますよ。

ラケス それなら、嫁を連れ戻しなさい。それが出来ないならその理由を言いな さい。

パンピロス いまはその時ではないんですよ。

ラケス 赤ん坊だけは連れて帰りなさい。あの子に 700
罪はない。子供の母親のことはあとで考えることにすればいい。

パンピロス(傍白)まったく八方塞がりだ、どうしたらいいか分から ない。
父親にこんなに言われて僕は追い込まれてしまった。僕はもうここに
いてもどうにも出来ないから、ここから逃げだすことにしよう。
僕の同意なしに赤ん坊を連れて来ることはないはずだ。 705
特にこの問題では姑のミュリナさんが僕の立場を分かってくれているんだから(左へ去る)。

ラケス(パンピロスに)おまえ、わしにちゃんとした返事もせずに、逃げるのか?
(ピディッポスに)あの子は自分を見失っているのです。許してやってください。
ピディッポスさん、赤ん坊は私に渡して下さい。私が育てますから。

ピディッポス 分かりました。私の妻が遊女のことに
耐えられなくても不思議ではありません。 710
女は気難しいんです。こういうことには中々我慢出来ないんです。
その事で彼女は怒っているのです。私にも言っていました。
このことは息子さんのいるときには言えなかったんです。
私は彼女の言うことを最初は信じられませんでした。でも今は全てが明らかです。
息子さんは結婚したことを心から悔いているのですよ。 715

ラケス
 では私はどうしたらいいでしょう、ピディッポスさん? あなたのお考えは?

ピディッポス あなたがどうすればいいかって? まずその遊女に会 うことだと
思います。お願いしたり、けなしたりして、そして「彼とのつきあい
をやめないのなら、こちらにも考えがある」と言うのです。

ラケス あなたの忠告どおりにやりましょう(中へ呼びかける)。
おい、召使、このお隣のバッキスさんの所へ 720
一っ走りして、ここに出てきて欲しいと私が言っている
と伝えて来てくれ。(ピディッポスに)あんたにはこれからも助けてもらいますよ。

ピディッポス もちろんですよ、さっきも言いましたが、もう一度言 いますよ、ラケスさん。
私はこの両家の親戚関係をできる限り長く続けたいのです。それが私の望みです。 725
ところで、あなたが遊女と会う間、私も同席しましょうか?

ラケス いや、帰って、子供の乳母を用意して下さい。



第五幕第一場 バッキス、ラケス

(バッキスが自分の家から登場)

バッキス(独白)ラケスさんが今頃わたしに面会を求めてくるとは、余 程のことだわね。
あの人の狙いはあたしにも見当はつくわ。

ラケス(独白)こんなにかっかしていてはいかん。さもなきゃ 出来ることも出来なくなってしまう。 730
だが、やり過ぎてあとで後悔するのもまずい。さあ、彼女に話しかけてみよう、(バッキスに)花魁、ごきげんよう。

バッキス こんにちわ、ラケスさん。

ラケス 花魁、さぞかし驚いたでしょう。何のために召使を 使ってわしがあんたを呼び出したのかと。

バッキス わたしの職業を考えると、むしろ不安な気持ちでいっぱいです わ。 735
仕事の評判がわたしに不利になるのではないかと。でも私にはやましいことは何もありませんわ。

ラケス もしあんたが本当のことを言ってくれたら、わしのことを怖がることは何もあり ません、花魁。
というのは、わしももう無茶なことをしても許される年ではないんです。
わしは無闇な行動はしないようにいつも充分気をつけているんです。
もしあんたが善人として相応しい行動を今後ともとられるなら、 740
わしがあんたをひどい目にあわせるのは許されないことです。

バッキス そう言っていただけると本当に有難いですわ。だって、
ひどい事を言われて、後で謝ってもらっても何にもなりませんもの。
ところで、どんなご用件ですの。

ラケス うちの息子のパンピロスがあんたのところに通っています ね。

バッキス え?

ラケス(バッキスが反論しようとするが構わずに)まあ言わせて下さ い。
息子が結婚するまでは、わしも息子があなたのところへ通うのを大目に見ていたんですよ。745
(バッキスがまた反論しようとする)まあ待ってください。わしの話はまだ終わってはいません。
せがれは今は結婚しているんです。ですから、あんたに相手をより好みする余裕のあるうちに
ほかのもっとちゃん とした相手を探して欲しいんです。あの子もいつまでも同じ
気持ちではいませんし、あんたもずっと今の若さでいられるわけ ではないでしょう。

バッキス(やっと反論する) パンピロスさんがまだ来ているなんて誰が言ってるのですか? 

ラケス 彼の姑ですよ。

バッキス それは本当に私のことですか? 

ラケス そうです。そのためにあの姑は娘を実家に引きとってしまった んですよ。
今度生まれた赤ん坊もそのためにこっそり始末しようとしたんです。 750

バッキス
 あなた達に信じてもらえるなら、私はお誓いもするし、もっと神聖な儀式があれば、
ラケスさん、それによって証言もしましょう。私はパンピロスさんが結婚なさったときに
きっぱりとお別れしましたわ。

ラケス それはよかった。そんなら一つこうしてくれませんか。

バッキス 何ですか。言って下さい。

ラケス 中の女たちのところへ行って、その事を彼女たちに誓って証言して欲しいんです。 755
そうして、あんたはこの疑惑を晴らして、彼女たちを安心させてやってください。

バッキス 分かりましたわ。そんなことのために既婚女性の前に姿を出 すなんて、この
仕事をしているほかの女性は決してしないでしょうけどね。で も、お宅の息子さんが間違った噂の
せいで白い目で見られたり、浮気者だとあなた達に非難されるのを放ってはおけません。 760
彼は私にはとてもやさしくしてくれましたから、彼のためになることなら私何でもしますわ。

ラケス あんたの言葉を聞いて私はあんたに親しみと好感を覚えまし たよ。
実は、妻たちだけじゃなく、わしもあんたを疑っていたんです。でも今では
もうあんたはわしらが考えていたような人ではないことがはっきりしました。
あんたはこれからもそのままの心で居て下さい。そして、よかったらわしらと昵懇にしてください。 765
もしそれが嫌なら・・・。いやもうやめておこう。口は災いの元だから。
ただ一つだけ言わせてもらえば、わしという男が味方になったら、
どれだけ親切で役に立つかを、あんたに試して欲しいんですよ。



第五幕第二場 ピディッポス、ラケス、バッキス

(ピディッポス、左手から乳母を連れて登場)

ピディッポス(乳母に)お前が家に来れば何にも不自由のないようにしてや るからな。
お前が必要なものも全部手配してやる。でもお前が
自分の飲み食いに満足したら、赤ん坊も満足させてやってくれよ。770

ラケス
(独白)うちの舅さまのお帰りだな。赤ん坊の乳母を連れてきた。
(ピディッポスに)ピディッポスさん、バッキスさんは真剣に誓って言っていますよ・・

ピディッポス その人がそうですか。

ラケス そうです。

ピディッポス 彼女たちは神を恐れないし、神を敬っていないはず ですが。

バッキス 私の腰元たちを差し出しますから、拷問でも何でもして私のことを聞いてみてください。
今問題になっていることは、パンピロスさんの所に奥さんが戻れるようにしてあげることですわね。775
それが出来れば、ほかの遊女が決してやりたがらないことを私が初めてしたと言われても悔いはありませんわ。

ラケス ピディッポスさん、うちの家内を疑うのが間違いなのをわしはもう確かめました。
次はこの人に聞いてみましょう。そして、もしあんたの奥さんが自分の勘違いに気がついたら、780
奥さんの怒りも収まることでしょう。でも、もし自分の妻が隠れて子供を産んだことでせがれが怒っているなら、
それは大した問題じゃない。そんなものすぐに収まりますよ。結局、離婚するほど深刻な事は何も無いんだ。

ピディッポス そうだといいんですが。

ラケス 花魁がここいますから、聞いてみて下さい。彼女はあんたの気が済むようにしてくれますよ。

ピディッポス 何で私にそんなことを言うのですか? この問題に
ついての私の考えは、さっきあなたに話したでしょう(=親戚関係を大切にしたい)。785
ラケスさん。だから、あとは中の女たちを満足させればいいんですよ。(中に入る)

ラケス 花魁、お願いします。約束どおりにして下さい。

バッキス そのために私に中へ入れと言うのですか?

ラケス 入って下さい。そして女たちの気が済むまで、
つまり、女たちが信じるまで、話をしてきて下さい。

バッキス 行きますわ。きっと彼女たちはいま私を見るのをいやがるで
しょうけど。夫と仲違いしている妻にとって遊女は敵ですからね。790

ラケス
 あんたが何のために来たかわかったら、彼女たちはすぐにあんたの味方になりますよ。(791は削除)
あんたは彼女たちの誤解を解いて、そのうえ、自分の疑いを晴らすのですから。

バッキス(独白)困ったわ、あたし、ピロメーナさん(=新妻)に会うのは恥ずかしいわ。
(腰元に)二人とも中についてきて(バッキス、ピディッポスの家に入る)。

ラケス(独白)花魁にとってはこれが一番いいはずなんだ。 795
彼女は女たちの好意を勝ち取れるし、私の役にもたつ。
しかもそれを彼女は何の損もせずに出来るんだから。
もし彼女がパンピロスと別れたというのが本当なら、 これで
彼女の評判はよくなるし、信用ができて得なことに気付くだろう。
なにせ、これで彼女は息子の贔屓に報いて、同時にわしらと仲良くなれるんだから。



第五幕第三場 パルメノン、バッキス

(パルメノン、左手広場方角より登場)

パルメノン(独白)本当に俺の働きも若旦那にえらく軽く見られたもんだ。 800
意味もなく俺を送り出すんだからねえ。丘の上でミュコノス島から来た
カッリデミデスというお客さんを待ちながら、俺はまる一日を無駄にしちゃったよ。
いままで馬鹿正直にもそこに座って、誰か来る度に「すいません、
ちょっとお尋ねします、ミュコノス島から来た方ですか?」と話しかけると、
「いいえちがいます」。「カッリデミデスさんでしょ?」「ちがいます」 805
「パンピロスという 人のお客さんですよね?」誰も彼も「違います」
というんだ。これでそんな人はいないんだと俺は思ったね。最後には決まり
悪くなって、帰ってきたよ。ところで、バッキス花魁が何でうちの隣
から出てきたんだ? 彼女はここに何の用があったんだ?

バッキス パルメノン! いい所に来てくれたわ。若旦那のところ へひとっ走りしてちょうだい。

パルメノン 何の御用で? 

バッキス 来て欲しいと私が言っていると伝えてちょうだい。

パルメノン 花魁のところへですか? 

バッキス いいえ、ピロメーナさんのところです。 810

パルメノン
 なにがあるんですか? 

バッキス 聞かないでちょうだい。あなたには関係ないことだから。

パルメノン ほかに何か伝えることはないですか? 

バッキス あるわ。むかし若旦那が私にくれた指輪を ミュリナさんが見て、
ご自分の娘さんの指輪であることに気づいたことも。

パルメノン わかりました。それだけですか? 

バッキス それだけよ。若旦那はあなたからそれを聞い
たらきっと飛んで来るわ。なにをぐずぐずしているの。

パルメノン いえそんなことは。ただ、今日はもうあっしには力が残っていないんで すよ。 815
走ったり歩いたりして一日じゅう過ごしていましたから。(左へ去る)

バッキス(独白)私が今日ここに来たおかげで若旦那は万々歳だわねえ。
私があの人にどれほど多くの幸せをもたらしたことか。私がどれほど多くの心配事を取り除いて
あげたことか。ここの人たちとあの人の誤解で捨てられかけた赤ん坊も私が
助けてあげたし、あの人が別れると決めていた奥さんとも私がよりを戻してあげた。820
父親と舅さんから掛けられていた嫌疑も私が解消してあげました。全ての真相が明らかに
なったきっかけは、この指輪でした。今からおよそ十カ月前の夕暮れ方に、
酔ったあの人が息せき切って私のうちに一人で駆け込んできました。その時に、
あの人はこの指輪を持っていたんです。私は心配になって聞きました「どうしたの、 825
そんなに慌てて、ねえ? その指輪をどこで手に入れたの? お願いだから、教え
て」と。彼は何か考え事をしている振りをしました。それを見て私は彼のことが益々
疑わしくなりました。私は彼に「説明してちょうだい」と言いました。そこで彼は白状したのです
外で知らない女性を犯してきたと。そして彼女と揉み合っているときに
指輪を奪ったと言ったのです。その指輪にさっきミュリナさんが気づいたんです。 830
私が指にしているのを見た彼女はそれをどこで手に入れたのか聞いたので、私はすべてをお話しました。
それでピロメーナさんが彼に犯されてあの子が生まれたことが分かったのです。
私のおかげで彼がこれだけ沢山の幸せを手に入れられたことは同時に私の喜びなんです。
ほかの遊女たちはこんなことは喜びませんわ、遊女にとっては、 835
自分の恋人がほかの女と幸せな結婚をするのは決して得なことではないからです。
しかし、私は損得のために意地悪をする気持ちにはなれません。
彼が私の所に通ってきてくれている間、彼はとても優しいくていい人でした。
彼が結婚したときに私が辛かったことは本当です。でも、私は
そんな目に会っても仕方がないようなことは決し てしませんでしたわ。 840
彼のお陰でいろいろ楽しいこともあったのですもの、
彼のために泣かされても耐え忍ぶべきなのですわ。


第五幕第四場 パンピロス、パルメノン、バッキス

(パンピロス、パルメノンと一緒に左手から登場)

パンピロス パルメノン、その話は本当に確かなんだろうな、気を つけてくれよ。
少しの間だけ糠喜びで僕を喜ばそうとしているんじゃないだろうね。

パルメノン 確かな話です。

パンピロス 本当かい? 

パルメノン 本当ですとも。

パンピロス もしそれが本当なら僕は天にも昇る心地だよ。

パルメノン 事実はすぐに明らかになりますよ。

パンピロス ちょっと待ってくれよ。お前が言ってることと僕の考え ていることが食い違っていないか心配だ。 845

パルメノン
 なるほどねえ。

パンピロス お前の話では、僕の姑が彼女の指輪を花魁がしてい るところを見つけたというんだな。

パルメノン そうです。

パンピロス その指輪は昔僕が花魁に贈ったものなのか。 そして、花魁はこの事を僕に伝えるように言った。そういうことだな? 

パルメノン まさにその通りです。

パンピロス それなら、僕はなんて運がいい男なんだろう。僕は本当にラッキーな男だ。この事を
知らせてくれたお前に、僕はどんなお礼をしたらいいだろう。何がいいかなあ。850

パルメノン
 わたしにはわかってます。

パンピロス なんだって? 

パルメノン お礼なんて要らないんですよ。だって、あっしがこの伝言で若旦那にどんなお役に立てたのか、皆目分からないですから。

パンピロス 死にかけの僕を地獄からお天道さまの下にまで引き上げてくれたお前を
僕が褒美もやらずに帰らせるなんて出来るかい? 僕がそんなにケチな男だと思っているのかい。
ところで、花魁があそこの戸の前に立っているのが見える。 855
きっと僕を待っているんだろう。行ってみよう。

バッキス ごきげんよう、若旦那。

パンピロス やあ、花魁、僕のバッキス、君は僕の救いの神だ!

バッキス どういたしまして、よかったですわ。

パンピロス これだけのことをしてくれた君のその言葉に 嘘はないと思うよ。
ところで、君は相変わらずの美しさだねえ。だから、君と会って話をするのは
楽しいし、いつでもどこでも君が会いに来てくれるのはうれしいことだよ。 860

バッキス あなたも本当にお変わりありませんわ。世の中の男 の中であなたほど素敵な人はいませんわ。

パンピロス ははは、相変わらずだな。 

バッキス 若旦那、あなたがあの奥さんを好きなったの は当然ですわ。
私は今日初めてあの方をこの目で拝見しましたが、本当に素敵な奥さんですわ。

パンピロス おい、嘘を言うなよ。

バッキス(笑いながら) 誓って、本当ですわ。865

パンピロス
 ところで、教えてくれ。この事(=いまバッキスから伝言で聞いた事)を君は親父には何も言っていないのかい? 

バッキス 言っていませんわ。

パンピロス これは耳打ちする必要もないんだよ。喜劇でよくあるようにはしなくていい。
喜劇では全員が全てを知ることになるけど、ここでは知るべき人
だけ知ればいい。知るべきでない人は知らなくていいんだ。

バッキス 大丈夫です。この秘密が漏れることはありませんわ。そのわ けを言いますと、 870
ミュリナさんが大旦那さまに「バッキスさんの誓いは信用できますから、私たちの婿は無実で
す」とおっしゃったんです。

パンピロス それでいい。全部僕たちの思い通りにいきそうだ。(バッキ ス、自分の家に入る)

パルメノン(パンピロスに近づいて) 若旦那、あっしは今日若旦那のどんな
お役に立てたか教え てください。お二人で何を話をしていたんですか? 

パンピロス 教えられないよ。

パルメノン でもあっしには疑問が残るんですよ。(独白)あっしが
若旦那を地 獄からどうやって救い出したっていうんですかねえ? 875
 
パンピロス パルメノン、今日お前がどれほど僕の役に立ってくれた か、
どんな苦境から僕を救い出してくれたかは、お前には教えられないのさ。

パルメノン(はったりで)いえ、あっしには分かってますよ。ちゃんと分 かってました。

パンピロス(はったりで)そうだろうさ。

パルメノン そもそも、若旦那のお役に立てる機会をあっしが うっかり見逃したりするでしょうか?

パンピロス パルメノン、中へついてこい。

パルメノン ついて行きますとも。(独白)あっしがこれまでちゃんと承知のうえでやっ てきたご奉公より、
今日一日わけもわからずやったご奉公のほうがお役に立てたなんてねえ。

合唱 拍手を!


HECYRA
P. TERENTI AFRI

テレンティウス作『義母(しゅうとめ)』

Argumentum

Lachetis patris iussu Pamphilus adulescens Philomenam, filiam vicini Phidippi uxorem duxit, quamvis ei cum Bacchide meretrice consuetudo diuturna(長続きしていた) erat. Desiderio autem prioris amoris a concubitu(同衾) uxoris per duos menses abstinuit. Mox tamen coniuges propiores(近づく) fiunt. Cum Pamphilo navigatio(旅行) facienda esset, uxorem domi cum matre sua Sostrata (est socrus/hecyra tituli) reliquit. Subito post aliquot menses Philomena e domo socrus(属格) aufugit atque ad matrem redit. Itaque primo actu(第一幕) huius fabulae Laches vehementi jurgio(喧嘩) in Sostratam invehitur(攻撃する), dum incusat(非難) acerbos mores et inimicitiam solitam(習慣の) inter socrus et nurus. Illa vero innocentiam suam frustra testatur.

あらすじ

若旦那のパンピロスは長年遊女のバッキスと付き合っていたが、父ラケスの指図で隣のピディッポスの娘ピロメーナと結婚した。しかし、彼は以前の恋人が忘れらずに二か月間妻を抱こうとしなかった。しかし、夫婦はすぐに仲良くなった。パンピロスが船旅に出ると、妻は聟の母親のソストラータ(題名の義母である)と一緒に家に残された。数カ月後、突然ピロメーナは義母の家から出て自分の母親もとに戻ってしまう。そのために芝居の第二幕で舅のラケスは、姑が嫁を苛めて敵対する習慣を非難して、ソストラータと激しい夫婦げんかをする。妻は自分の無実を言い張るが信じてもらえない。

Decimo mense post nuptias Pamphilo reduci uxor aegra(病気で) esse nuntiatur atque ad matrem Myrrhinam redisse. Statim(すぐに) necopinatam(予想しない妻) visere vult : forte in eam cum maxime(ちょうど) parturientem(お産をしている) incidit(出くわす). Abire conatur sed mater Philomenae eum precatur(懇願) ne infortunium(不幸) puellae divulgaret : ”vim ab ignoto filiae invitae(いやいや) ante nuptias factam ; porro infantem sese exposituras(捨てる) esse ac postea Pamphilum uxorem aut reducturum aut repudiaturum, ut libitum (<libet 好きなように)fuerit”. Cuius miseritus(同情する) adulescens silentium pollicitus est.

結婚式の十ヶ月後に帰ってきたパンピロスは、妻が病気になって母親のミュリナの元に帰ってしまったと告げられた。パンピロスは予告なしにすぐに妻に会おうとした。すると彼は偶然ちょうど妻がお産をしている所に出くわす。帰ろうとするパンピロスにピロメーナの母親は娘の不幸を口外しないように懇願する。娘は結婚前に見知らぬ男に無理やり犯された。あとで子供は捨てるつもりだ、そのあとパンピロスが妻を連れて帰るも置いて行くも好きにしていい、と。彼女に同情した若旦那は秘密を守ると約束する。

Pamphilus scit filium suum esse non posse. At cum pater Laches rescivit(発見) infantem natum esse, nepotem suum eum arbitratur et filium hortatur ut eum tollat(自分の子と認める) uxoremque domum reducat. Pamphilus, cui vera dicere per promissa non licet, respondet sibi pietatem erga matrem potiorem(より重要) esse coniugis amore. At Sostrata pollicetur sese rus abituram nec nurui odio (D.)fore. Tum Pamphilus preces parentum eludit(避ける) abeundo nec quicquam dicendo.

パンピロスは生まれた息子が自分の子だとは思いもしなかった。しかし、父親のラケスは赤ん坊が生まれたことを知ると、その子を自分の孫だと思って、せがれにその子を認知して妻を連れ戻すように勧める。約束で真実を語れないパンピロスは、妻への愛よりも母親への孝行の方が大切だと答える。しかし、母のソストラータは嫁の憎まれ役はいやだから自分はもう田舎に引っ込むと約束する。パンピロスは両親の願いをかわして何も言わすに出ていってしまう。

Patres Phidippus et Laches consilia(考え) inter se communicant(伝える) : credunt desiderio Bacchidis Pamphillum uxorem reducere nolle (re vera uxorem adamare coeperat), praeterea(その上に) Myrrhinae(D.) generum(聟) odio esse ob illum meretricium(娼婦の) amorem. Ita enim interpretantur quod ea natum filium maritum celare conata est velut clam expositura. Itaque meretricem accersunt(呼び出す) sed Bacchis negat sese adhuc(ずっと) Pamphilum visere.Tum senes eam apud Myrrhinam miserunt, ut ei iuraret quod sibi dixisset. Quae Myrrhina in digito(指) Bacchidis agnoscit anulum filiae ab ignoto luctando(組打ちする) surreptum(奪われた). Bacchis respondet hunc anulum sibi a Pamphilo ebrio(酔った) olim nocte quadam datum. Compressor(強姦魔) ignotus et verus pater infantis erat Pamphilus: omnia in fine feliciter eveniunt.

父親たちピディッポスとラケスは相談して、パンピロスはバッキスへの思いから妻を連れ帰らない(実際には妻を愛しはじめていた)と思い、さらに、聟がミュリナを嫌っているのも遊女を愛しているからだと思っていた。そこで二人はミュリナが娘の結婚で生まれた息子をこっそり捨てるために隠そうとしたのだと考えた。そのために二人の父親は花魁を呼び出すが、バッキスはずっとパンピロスには会っていないと言う。そこで父親たちは花魁をミュリナのもとに送って、自分たちに言ったことが本当だとミュリナに対して誓わせた。その時、ミュリナはバッキスの指に、娘が見知らぬ男に犯されたときに奪われた娘の指輪があるのを見つけた。バッキスはこの指輪は昔ある夜酒に酔ったパンピロスからもらったものだと答える。パンピロスこそは見知らぬ強姦魔であり赤ん坊の本当の父親だったのである。最後に全てはめでたしめでたしで終わる。

Hoc argumentum(ストーリー) parum(不充分な) comicum videtur nisi quod Pamphilus a propinquis cruciatur dum quae scit dicere non potest. Risus potius ex scaenis et personis adventiciis(脇役の) ut(~のような) servo Parmenone oritur. Nihilominus haec comoedia vi comica caret.

このストーリーは、パンピロスが自分が知ったことを言えない間近親者たちから苦しめられることを除けば、あまり喜劇的ではない。笑いはむしろ召使のパルメノンなどの脇役から生まれてくる。それでもこの喜劇はコミカルな要素が欠けている。

DIDASCALIA

INCIPIT TERENTI HECYRA
ACTA LVDIS MEGALENSIBVS
SEXTO IVLIO CAESARE CN. CORNELIO DOLABELLA
AEDILIBVS CVRVLIBVS
MODOS FECIT FLACCVS CLAVDI
TIBIS PARIBVS
TOTA GRAECA MENANDRV
FACTA EST V
ACTA PRIMO SINE PROLOGO DATA
SECVNDO CN. OCTAVIO TITO MANLIO COS.
RELATA EST LVCIO AEMILIO PAVLO LUDIS FVNERALIBUS
NON EST PLACITA
TERTIO RELATA EST Q. FULVIO LVC. MARCIO AEDILIBVS CVRVLIBVS
EGIT LVC AMBIVIVS LVC SERGIVS TVRPIO
PLACVIT

PERSONAE

PHILOTIS MERETRIX
SYRA ANVS
PARMENO SERVOS
(SCIRTVS SERVOS)
LACHES SENEX
SOSTRATA MATRONA
PHIDIPPVS SENEX
PAMPHILVS ADVLESCENS
SOSIA SERVOS
MYRRINA MATRONA
BACCHIS MERETRIX
CANTOR

ピローティス 遊女、娼婦、花魁
シュラ 老女
バッキス 花魁、遊女、娼婦、パンピロスの元恋人
パルメノン ラケスの召使
パンピロス 若旦那、ラケスとミュリナの息子、ピロメーナの夫
ラケス 大旦那、ソストラータの夫、パンピロスの父
ソストラータ ラケスの妻、パンピロスの母
ピディッポス 大旦那、ミュリナの夫、ピロメーナの父
ソーシア ラケスの召使
ミュリナ ピディッポスの妻、ピロメーナの母

PERIOCHA C. SVLPICI APOLLINARIS
スルピキウス・アポリナリウスのあらすじ

Vxorem ducit Pamphilus Philumenam,
パンピロスはピロメーナと結婚する。
cui quondam(かつて) ignorans virgini vitium(レイプ) obtulit,
彼女は少女のとき知らずにレイプした相手だった。
cuiusque per vim quem detraxit anulum
彼女から力づくで奪った指輪を彼は
dederat amicae Bacchidi meretriculae.
遊女のバッキスにプレゼントした。
dein profectus in Imbrum est: nuptam(花嫁) haud attigit.
それから彼はエーゲ海のインブロス島に出かけたが、花嫁の体には触れずにいた。
hanc mater utero(子宮) gravidam(妊娠して), ne id sciat socrus,
その花嫁が妊娠すると、母親はそれが姑に知られないように、
ut aegram ad sese transfert. reuenit Pamphilus,
病気と称して自宅へ移す。パンピロスが帰ってくると
deprendit(発見) partum(出産), celat; uxorem tamen
嫁のお産に出くわしたが人には言わずにいる。しかし、妻を連れ帰る
recipere non uolt. pater incusat Bacchidis
ことは断る。舅はバッキスへの愛情を非難する。
amorem. dum se purgat(潔白をいう) Bacchis, anulum
バッキスが潔白を主張したとき、嫁の母親のミュリナはレイプされた娘
mater vitiatae(レイプされた娘) forte adgnoscit Myrrina.
がなくした指輪に偶然気がついた。
uxorem recipit Pamphilus cum filio(赤ん坊).
パンピロスは赤ん坊とともに妻を連れ帰る。


舞台はアテナイ、ラケスとピディッポスとバッキスの家が並ぶ。右手が広場、左手が港と田舎。

PROLOGVS (I)

Hecyra est huic nomen fabulae. haec quom datast
nova, novom intervenit vitium et calamitas
ut neque spectari neque cognosci potuerit:
ita populus studio stupidus in funambulo
animum occuparat. nunc haec planest pro nova,5
et is qui scripsit hanc ob eam rem noluit
iterum referre ut iterum possit vendere.
alias cognostis eius: quaeso hanc noscite.

PROLOGVS (II)

Orator ad vos venio ornatu prologi:
sinite exorator sim eodem ut iure uti senem 10
liceat quo iure sum usus adulescentior,
novas qui exactas feci ut inveterascerent,
ne cum poeta scriptura evanesceret.
in is quas primum Caecili didici novas
partim sum earum exactus, partim vix steti. 15
quia scibam dubiam fortunam esse scaenicam,
spe incerta certum mihi laborem sustuli,
easdem agere coepi ut ab eodem alias discerem
novas, studiose ne illum ab studio abducerem.
perfeci ut spectarentur: ubi sunt cognitae, 20
placitae sunt. ita poetam restitui in locum
prope iam remmotum iniuria advorsarium
ab studio atque ab labore atque arte musica.
quod si scripturam sprevissem in praesentia
et in deterrendo voluissem operam sumere,25
ut in otio esset potius quam in negotio,
deterruissem facile ne alias scriberet.
nunc quid petam mea causa aequo animo attendite.
Hecyram ad vos refero, quam mihi per silentium
numquam agere licitumst; ita eam oppressit calamitas. 30
eam calamitatem vostra intellegentia
sedabit, si erit adiutrix nostrae industriae.
quom primum eam agere coepi, pugilum gloria
(funambuli eodem accessit exspectatio),
comitum conventus, strepitus, clamor mulierum35
fecere ut ante tempus exirem foras.
vetere in nova coepi uti consuetudine
in experiundo ut essem; refero denuo.
primo actu placeo; quom interea rumor venit
datum iri gladiatores, populus convolat,40
tumultuantur clamant, pugnant de loco:
ego interea meum non potui tutari locum.
nunc turba nulla est: otium et silentiumst:
agendi tempus mihi datumst; vobis datur
potestas condecorandi ludos scaenicos.45
nolite sinere per vos artem musicam
recidere ad paucos: facite ut vostra auctoritas
meae auctoritati fautrix adiutrixque sit.
si numquam avare pretium statui arti meae
et eum esse quaestum in animum induxi maxumum50
quam maxume servire vostris commodis,
sinite impetrare me, qui in tutelam meam
studium suom et se in vostram commisit fidem,
ne eum circumventum inique iniqui inrideant.
mea causa causam accipite et date silentium,55
ut lubeat scribere aliis mihique ut discere
novas expediat posthac pretio emptas meo.

プロローグ 


ACTVS I

Philotis Syra

I.i

第一幕第一場 ピローティス、シュラ(バッキス花魁の恋人のパンピロスが結婚したことが明かされる場面)

(ピローティスとシュラがバッキスの家から出てくる)

PHIL. Per pol quam paucos reperias meretricibus
ピローティス 遊女に対する約束を守り通す
fidelis evenire amatores, Syra.
男の何て少ないんでしょうねえ、お婆さん。
vel hic Pamphilus iurabat quotiens Bacchidi,60
ここでパンピロスさんは何度もバッキス花魁に
quam sancte, uti quivis facile posset credere,
厳かに誓っていたわ、あれでは誰でも簡単に信じてしまうわ。
numquam illa viva ducturum uxorem domum!
彼女が生きている限り自分は永遠に結婚しないと、
em duxit. SY. ergo propterea te sedulo
ところがほら結婚したわよ。シュラ だから私はあなたに熱心に
et moneo et hortor ne quoiusquam misereat,
忠告して励ましているでしょ、誰にも情けをかけるな、
quin spolies,mutiles,laceres quemque nacta sis. 65
手に入れた男は骨までしゃぶりつくしなさいと。
PHIL. utine(=ut+ne) eximium neminem habeam? SY. neminem.
ピローティス 例外はないの? シュラ そうですよ。
nam nemo illorum quisquam, scito, ad te venit
だって、覚えておおき、あなたのところに来る男の人はみんな、
quin ita paret sese abs te ut blanditiis suis
しているのよ。甘い言葉をつかって、
quam minimo pretio suam voluptatem expleat.
なるべく安い費用で、あなたによって自分の欲望を満たそうと
hiscin tu amabo non contra insidiabere? 70
ねえ、あなたはそういう男たちに対抗して作戦を立てないの?
PHIL. tamen pol eandem iniuriumst esse omnibus.
ピローティス でも、どの客もみんな一緒くたに扱うのはよくないわ。
SY. iniurium autem est ulcisci advorsarios,
シュラ そうかしら。敵に仕返しをするのがよくないことですか?
aut qua via te captent eadem ipsos capi?
彼らがあなたを誑し込むのと同じやり方で彼らを誑し込むのがよくないのですか?
eheu me miseram, quor non aut istaec mihi
ああ、ほんとに情けないわ、その若さと美貌がわたしにあればいいのに、
aetas et formast aut tibi haec sententia? 75
この考え方があなたにあればいいのに。


Parmeno Philotis Syra

I.ii
第一幕第二場  パルメノン、ピローティス、シュラ(パルメノンの結婚の経緯と、嫁のピロメーナが実家に帰ってしまったことが明らかにされる場面)

PA. Senex si quaeret me, modo isse(=ivisse) dicito
パルメノン(ラケスの家から出がけに家の中へ)大旦那様が俺のことをお聞きになったら、
ad portum percontatum adventum Pamphili.
パンピロスの若旦那がお帰りかどうか港へ見に行ったと言ってくれ。
audin quid dicam, Scirte? si quaeret me, uti
スキルトス、おれが言うこと聞いているのか。もし聞かれたら、言うんだぞ。
tum dicas; si non quaeret, nullus dixeris,
聞かれなかったら、言わなくていい、
alias ut uti(<utor) possim causa hac integra. 80
未使用のこの口実を別の機会に使えるようにな。
sed videon ego Philotium? unde haec advenit?
ピローティスがいるのか? 彼女はどこから来たんだろう?
Philotis, salve multum. PHIL. o salve, Parmeno.
ピローティス、こんにちわ。ピローティス こんにちわ、パルメノン。
SY. salve mecastor, Parmeno. PA. et tu edepol, Syra.
シュラ ほんとうにごきげんよう、パルメノン。パルメノン ほんとうにあなたも、シュラ、
dic mi, ubi, Philotis, te oblectasti tam diu?
ねえ、ピローティス、こんなに長いことどこで楽しんでいたんですか、
PHIL. minime equidem me oblectavi, quae cum milite85
ピローティス 楽しんでなんかいませんわ。人でなしの軍人さんと
Corinthum hinc sum profecta inhumanissimo.
コリントに行ってましたの、
biennium ibi perpetuom misera illum tuli.
二年間ずっとそこであの人に耐えていたんですわ。
PA. edepol te desiderium Athenarum arbitror,
パルメノン きっと何度もアテナイへの郷愁に駆られて、
Philotium, cepisse saepe et te tuom
ピローティス、元の考えを
consilium contempsisse. PHIL. non dici potest90
捨ててしまったんだね。ピローティス 言葉にできないほどよ、
quam cupida eram huc redeundi, abeundi a milite
私がどれほどここへ帰って来たかったことか、軍人から別れて、
vosque hic videndi, antiqua ut consuetudine
あなた達にここで会いたい、昔よくやったように、
agitarem inter vos libere convivium.
気前よくあなた達と宴会を開きたいと、
nam illi(adv.) haud licebat nisi praefinito loqui
だって、あそこで私はあの人があらかじめ決めたようにしかしゃべらせてもらえないもの。
quae illi placerent. PA. haud opinor commode95
あの人が気に入るようなこと パルメノン 軍人さんにしゃべることを
finem statuisse orationi militem.
決められるのはつまらないなあ。
PHIL. sed quid hoc negotist? modo quae narravit mihi
ピローティス ところでこれはどういうことですの? バッキスがこの家の中で
hic intus Bacchis! quod ego numquam credidi
私に話したことといったら! 私は信じられないわ。
fore, ut ille hac viva posset animum inducere
彼女が生きているのにあの人が結婚する気になれたりする
uxorem habere. PA. habere autem? PHIL. eho tu, an non habet?100
なんて。パルメノン 結婚するかって? ピローティス ええっ! しないんですか。
PA. habet, sed firmae haec vereor ut sint nuptiae.
パルメノン するさ。でも結婚しても長続きするかどうか、俺は心配なんだよ。
PHIL. ita di deaeque faxint, si in rem est Bacchidis.
ピローティス バッキスのためになるなら、そんな結婚はこわれたらいいのよ。
sed qui istuc credam ita esse dic mihi, Parmeno.
でも、結婚が長続きしないと信じられる理由を教えてちょうだい、パルメノン。
PA. non est opus prolato hoc. percontarier
パルメノン そんなことを人前では言えないよ。詮索するのは
desiste. PHIL. nempe ea causa ut ne id fiat palam?105
やてくれよ。ピローティス ああそうなの、人に知られたくないのね。
ita me di amabunt, haud propterea te rogo,
私があなたにお尋ねするのはけっして
uti hoc proferam, sed ut tacita mecum gaudeam.
人に言うためではなくて、黙って一人で楽しむためですわ。
PA. numquam tam dices commode ut tergum meum
パルメノン あなたがどんなにうまいこと言ったって、
tuam in fidem committam. PHIL. ah noli, Parmeno.
あなたが約束を破って私が罰を受けるようなことになるのは嫌ですよ。ピローティス 私は言わないわ、パルメノン。
quasi tu non multo malis narrare hoc mihi 110
本当は私が聞きたがっている以上に
quam ego quae percontor scire. PA. vera haec praedicat
あなたは喋りたがっているくせに。パルメノン(傍白)図星だな。
et illud mihi vitiumst maxumum. si mihi fidem
これは俺の大失敗だ。(ピローティスに)もし黙っていると約束してくれるなら、
das te tacituram, dicam. PHIL. ad ingenium redis.
言ってもいいよ。ピローティス やっと本性(ほんしょう)に戻ったわね。
fidem do: loquere. PA. ausculta. PHIL. istic sum. PA. hanc Bacchidem
約束するわ、教えて。パルメノン よく聞くんだよ。ピローティス 聞かせてもらうわ。パルメノン 若旦那は
amabat ut quom maxume tum Pamphilus 115
ここのバッキスにべた惚れになってたんだが、ちょうどその頃に
quom pater uxorem ut ducat orare occipit
親父さんが嫁を貰ってくれと若旦那に懇願し始めたのさ。
et haec communia omnium quae sunt patrum,
それはどこの父親も言う理屈、つまり、
sese senem esse dicere, illum autem unicum,
自分はもう年だし、息子はお前だけだから、
praesidium velle se senectuti suae.
わしの老後の生活を守ってくれと。
ill‘ primo se negare, sed postquam acrius120
若旦那も初めは断っていたんだけど、親父さんがどんどんしつこく
pater instat, fecit animi ut incertus foret
言ってくると、気持ちが揺れだした。
pudorin anne amori obsequeretur magis.
親孝行を取るか恋愛を取るか。
tundendo atque odio denique effecit senex:
大旦那さまはうるさく言い続けてとうとう我を通した。
despondit ei gnatam huius vicini proxumi.
ここの隣の娘さんと婚約させたのさ。
usque illud visum est Pamphilo ne utiquam grave125
このことを若旦那は全然まじめに受け止めていなかったが、
donec iam in ipsis nuptiis, postquam videt
とうとう結婚式の当日になって、式の
paratas nec moram ullam quin ducat dari,
準備ができてもう結婚を引き延ばせないと分かると、
ibi demum ita aegre tulit ut ipsam Bacchidem,
悲しみだしたので、バッキス花魁がその場に居たら、
si adesset, credo ibi eius commiseresceret(impers).
彼を哀れんだと思います。
ubiquomque datum erat spatium solitudinis130
若旦那は他の人から離れて、
ut conloqui mecum una posset, ”Parmeno,
私と二人きりで話ができるようになると、「パルメノン、
perii, quid ego egi! in quod me conieci malum!
畜生、僕はなんてことをしたんだ。ひどいことになってしまった。
non potero ferre hoc, Parmeno. perii miser.”
こんなことに耐えられない、パルメノン、僕はもうだめだよ」と言ったんだよ。
PHIL. at te di deaeque perduint cum istoc odio, Lache!
ピローティス あの爺さんも余計なことをしたもんだわねえ。
PA. ut ad pauca redeam, uxorem deducit domum. 135
パルメノン 手短に言うと、若旦那は奥さんを家に連れて帰ったよ。
nocte illa prima virginem non attigit.
でも結婚の最初の夜も手を出さなかった。
quae consecutast nox eam, nihilo magis.
その次の夜もずっと同じ事さ。
PHIL. quid ais? cum virgine una adulescens cubuerit
ピローティス 何を言ってるの? 若旦那は
plus potus, sese illa abstinere ut potuerit?
彼女に手を触れないですむように、大酒を飲んでからいっしょに寝たとでもいうの?
non veri simile dicis neque verum arbitror. 140
そんな話は有り得ないし信じられないわね。
PA. credo ita videri tibi. nam nemo ad te venit
パルメノン そうだろうねえ。だって、君のところに行く男は
nisi cupiens tui; ille invitus illam duxerat.
君が欲しくて行くんだからねえ。ところが若旦那はいやいや彼女と結婚したんだから。
PHIL. quid deinde fit? PA. diebus sane pauculis
ピローティス それでどうなったの? パルメノン 数日後に
post Pamphilus me solum seducit foras
若旦那は俺を一人そとに呼び出して
narratque ut virgo ab se integra etiam tum siet,145
まだ奥さんには手付かずのままだと、とおっしゃったのさ。
seque ante quam eam uxorem duxisset domum,
結婚するまえには、
sperasse eas tolerare posse nuptias.
自分はこの結婚に耐えられると思ったけど、
”sed quam decrerim(<decerno決める) me non posse diutius
でも、もう彼女を家に置いておくわけにはいかないと思うんだ。
habere, eam ludibrio haberi, Parmeno,
パルメノンよ、彼女を慰み物にするのは、
quin(=without) integram itidem reddam, ut accepi ab suis,150
彼女の家族に元通りの体で返さずに、
neque honestum mihi neque utile ipsi virginist.”
僕の名誉にも関わるし、彼女自身にとっても不幸なことだからね。
PHIL. pium ac pudicum ingenium narras Pamphili.
ピローティス あんたは若旦那の本性が純粋で立派なものだと言うんだね。
PA. ”hoc ego proferre incommodum mi esse arbitror.
パルメノン 「こんな事を世間に知られるのは僕にも得策ではないとは思うんだ。
reddi patri autem, quoi tu nil dicas viti,
何の落ち度もない女性が出戻りされるのは屈辱だからね。
superbumst. sed illam spero, ubi hoc cognoverit 155
だから、彼女が僕と一緒にやっていけないと分かって自分から
non posse se mecum esse, abituram denique.”
出て行ってくれることを期待しているんだ」と。
PHIL. quid interea? ibatne ad Bacchidem? PA. cotidie.
ピローティス その間はどうなの? バッキスの所に通っていたの? パルメノン 毎日ですよ。
sed ut fit, postquam hunc alienum ab sese videt,
でも、彼女は若旦那が結婚して人のものになったのを知ると、よくあるように、
maligna multo et mage procax facta ilico est.
急に偉そうになって意地悪するようになったんです。
PHIL. non edepol mirum. PA. atque ea res multo maxume 160
ピローティス それは本当にありえることだわね。パルメノン そういうことがあって
diiunxit illum ab illa, postquam et ipse se
若旦那も花魁のところへ行かなくなったんです。とくに
et illam et hanc quae domi erat cognovit satis,
若旦那は自分と花魁と家にいる妻のことをよく知るようになって、
ad exemplum ambarum mores earum existimans.
実際の生活から二人の性格をよく考えて、
haec, ita uti liberali esse ingenio decet,
妻のほうが育ちいい女性らしく
pudens,modesta,incommoda atque iniurias165
慎みがあって謙虚で、夫とのトラブルや浮気や
viri omnis ferre et tegere contumelias.
あらゆる侮辱に耐えて秘密にすることができる。
hic animus partim uxoris misericordia
一方で彼の気持ちは妻への同情心に負けて、
devinctus, partim victus huius iniuriis
一方では花魁の意地悪に勝てずに、
paullatim elapsust Bacchidi atque huc transtulit
次第に花魁から離れて、妻の方へ愛情を移したんだ。
amorem, postquam par ingenium nactus est. 170
妻の中に自分と同じものを見出したんだね。
interea in Imbro moritur cognatus senex
そのうちにインブロス島でこの家の親戚の大旦那(ファニア)が亡くなった。
horunc. ea ad hos redibat lege hereditas.
その人の遺産は法律でこの家のものになった。
eo amantem invitum Pamphilum extrudit pater.
そこへここの大旦那がいやがる若旦那(妻を愛していた)を送り出した。
reliquit cum matre hic uxorem. nam senex
若旦那は姑といっしょに新妻を残していった。ところで、大旦那は
rus abdidit se, huc raro in urbem commeat.175
田舎に引っ込んでしまい、町にはめったに出て来なかった。
PHIL. quid adhuc habent infirmitatis nuptiae?
ピローティス それでこの結婚はどうして長続きしないというのよ?
PA. nunc audies. primo dies complusculos
パルメノン いまから言うよ。はじめの数日間は
bene convenibat sane inter eas. interim
嫁姑の関係はとてもうまく行ってたんだ。そのうちに
miris modis odisse coepit Sostratam,
妙な具合に嫁が姑を嫌い始めたのさ。
neque lites ullae inter eas, postulatio 180
二人の間に喧嘩もないし、何の不満もなかったのに。
numquam. PHIL. quid igitur? PA. siquando ad eam accesserat
それでどうなったの? パルメノン 姑が嫁のもとに話をしに
confabulatum, fugere e conspectu ilico,
行くと、とたんに嫁は逃げてしまい、
videre nolle. denique ubi non quit pati,
会おうとしないんだ。そして最後に耐えられなくなると、
simulat se ad matrem accersi ad rem divinam, abit.
法事で実家に呼ばれたと言って出て行ってしまったんだよ。
ubi illic dies est compluris, accersi iubet:185
実家に何日もいると、姑が呼び戻すんだけど、
dixere causam tum nescioquam. iterum iubet:
実家の人は何か言い訳をする。また呼びにやる。
nemo remisit. postquam accersunt saepius,
でも嫁は帰らなかった。何度も呼びに来たあとで、
aegram esse simulant mulierem. nostra ilico
娘は病気だと言い出した。すると姑は突然
it visere ad eam: admisit nemo. hoc ubi senex
嫁に会いに行った。でも中へ入れてもらえなかった。大旦那が
rescivit, heri ea causa rure huc advenit,190
それを知ると、昨日そのために田舎からここへやってきて、
patrem continuo convenit Philumenae.
嫁の父親に突然会ったのだ。
quid egerint inter se nondum etiam scio,
二人が何を話したかはまだ俺は知らない。
nisi sane curaest quorsum eventurum hoc siet.
ただ、これがどうなるかにはとても興味がある。
habes omnem rem. pergam quo coepi hoc iter.
僕の話はこれで全部だよ。では、私は用事に行く途中なので行くよ。
PH. et quidem ego. nam constitui cum quodam hospite 195
ピローティス 私も。ある外国の人と約束が
me esse illum conventuram. PA. di vortant bene
あってその人に会いにいくの。パルメノン うまくいくといいね。
quod agas! PH. vale. PA. et tu bene vale, Philotium.
ピローティス ではごきげんよう。パルメノン あなたも、ピローティス。


ACTVS II

Laches Sostrata

II.i
第二幕第一場 ラケス、ソストラータ(嫁姑の仲違いから嫁が実家へ行って帰ってこないことを舅のラケスが嘆く場面)

(ラケスとソストラータが自分たちの家から出てくる)

LA. Pro deum atque hominum fidem, quod hoc genus est, quae haec est coniuratio!
ラケス いやはや、こいつら何ていう種族なんだ。こいつらは全員が同じ考えをもった人間の集りなんだな!
utin(=ut ne asseverative) omnes mulieres eadem aeque studeant nolintque omnia
女は皆どんなことでも同じ物を好み、同じ物を嫌う。
neque declinatam quicquam ab aliarum ingenio ullam reperias!200
わしは他の女とちょっとでも本性の違う女に一人として出会ったことがない。
itaque adeo uno animo omnes socrus oderunt nurus.
姑は全員例外なく嫁を嫌うのもこの一例だろう。
viris esse advorsas aeque studiumst, similis pertinaciast,
夫を敵だと思っているのも同じだし、それが治らないのも同じだ。
in eodemque omnes mihi videntur ludo doctae ad malitiam. et
女というのはみんな同じ学校でこの意地の悪さを学んできたにちがいない。
ei ludo, si ullus est, magistram hanc esse satis certo scio.
そして、もしそんな学校があるとしたら、この女はきっとそこの級長だな。
SO. me miseram, quae nunc quam ob rem accuser nescio. LA. hem205
ソストラータ ひどいわ、私がそんな非難を受ける理由がわからないわ。ラケス なんだって?
tu nescis? SO. non, ita me di bene ament, mi Lache,
お前分からないのか。ソストラータ 本当に分からないのよ、あなた。
itaque una inter nos agere aetatem liceat. LA. di mala prohibeant.
私たちは一緒に仲良くずっと暮らしていけばいいじゃないの。ラケス やめてくれ!
SO. meque abs te inmerito esse accusatam post modo rescisces. scio,
ソストラータ それに私が貴方に不当に非難されていることは後であなたも分かります。これは確かです。 
LA. te inmerito? an quicquam pro istis factis dignum te dici potest?
ラケス 不当だと? お前、こんなことをしておいて何を言われるのが不当だというんだ。
quae me et te et familiam dedecoras, filio luctum paras. 210
お前は息子を悲しませるだけでなく、この家に恥をかかせたんだぞ。
tum autem ex amicis inimici ut sint nobis adfines facis,
うちの家族になってくれたような有り難い人たちを敵に回してしまったんだ。
qui illum decrerunt dignum suos quoi liberos committerent.
自分の娘をうちの息子にやってもいいと思ってくれた人たちなのに。
tu sola exorere quae perturbes haec tua impudentia.
お前一人の出しゃばりのせいでこうしたことをぶち壊してしまったんだよ。
SO. egon? LA. tu inquam, mulier, quae me omnino lapidem, non hominem putas.
ソストラータ 私がですか? ラケス そうだ、わしのことを石ころか何かと思って人とは思っていないそのお前だよ。
an, quia ruri esse crebro soleo, nescire arbitramini 215
それとも、わしがいつも田舎にいるというので、
quo quisque pacto hic vitam vostrarum exigat?
お前たちがここでどんな暮らしをしているか知らないと思ったのか?
multo melius hic quae fiunt quam illi ubi sum adsidue scio.
わしは自分がいつもいる田舎のことよりもこっちの出来事の方がよく知っているのだ。
ideo quia, ut vos mihi domi eritis, proinde ego ero fama foris.
なぜなら、わしの田舎での評判はお前の家での行動にかかっているからだ。
iampridem equidem audivi cepisse odium tui Philumenam,
ピロメーナがお前を嫌っているというのが最近聞いた評判だ。
minumeque adeo mirum, et ni id fecisset mage mirum foret.220
それは不思議でもなんでもない。むしろ嫌っていないほうがもっと不思議なくらいだ。
sed non credidi adeo ut etiam totam hanc odisset domum.
でもピロメーナがうちの家族全員を嫌っているとは思っても見なかったよ。
quod si scissem illa hic maneret potius, tu hinc isses foras.
わしがもしそれを知っていたら、嫁は家に残してお前を出て行かせたんだよ。
at vide quam inmerito aegritudo haec oritur mi abs te, Sostrata.
しかし、妻よ、わしががお前のせいでこんなに悩まされるのがどれほど不公平なことだかわかっているのか。
rus habitatum abii concedens vobis et rei serviens,
お前に譲歩してわしは田舎に行って住むようになって、土地の管理をしているのも、
sumptus vostros otiumque ut nostra res posset pati, 225
お前の出費やお前の余暇の費用をわしの収入で賄うためで、
meo labori haud parcens praeter aequom atque aetatem meam.
わしは年相応以上のむちゃな労働も厭わなった。
non te pro his curasse rebus ne quid aegre esset mihi!
ところがわしがこれだけのやっているのにお前はわしの気が休まるようにしてくれない。
SO. non mea opera neque pol culpa evenit. LA. immo maxume.
ソストラータ これは私のせいじゃないのよ。ラケス いいや確かにお前のせいだ。
sola hic fuisti, in te omnis haeret culpa sola, Sostrata.
ここにはお前しか居なかったんだから、妻よ、お前一人に全責任があるんだよ。
quae hic erant curares, quom ego vos curis solvi ceteris.230
わしはお前をほかの気苦労から解放しているんだから、ここの事はお前が気を使うべきだったんだ。
cum puella anum suscepisse inimicitias non pudet?
お前はいい年をして小娘と喧嘩を始めるなんて恥ずかしくないのか?
illius dices culpa factum? SO. haud equidem dico, mi Lache.
それをこうなったのは嫁のせいだというのか? ソストラータ そんなことは言わないわ、あなた。
LA. gaudeo, ita me di ament, gnati causa. nam de te quidem
ラケス それは息子のためには本当によかった。お前が罪を背負い込んでも
satis scio peccando detrimenti nil fieri potest.
もうこれ以上お前の評価が下がることがないのは、わしがよく知っているからだ。
SO. qui scis an ea causa(→ut), mi vir, me odisse adsimulaverit235
ソストラータ ねえ、あの子は単に自分の母親ともっと一緒に居るために
ut cum matre plus una esset? LA. quid ais? non signi hoc sat est,
私を嫌っているふりをしたんじゃないどうして分かるの? ラケス 何を言うんだ。
quod heri nemo voluit visentem ad eam te intro admittere?
お前が昨日嫁の所に行っても中に入れてもらえなかったのが充分な証拠だろ。
SO. enim lassam oppido tum esse aibant: eo ad eam non admissa sum.
ソストラータ 娘はとても疲れていると言われたのよ。だから入れてもらえなかったのよ。
LA. tuos esse ego illi mores morbum mage quam ullam aliam rem arbitror,
ラケス わしが思うには、彼女はお前の態度が他のどんなことよりもむかつくんだよ。
et merito adeo. nam vostrarum nullast quin gnatum velit240
それは仕方がないさ。お前たちは誰も彼もみんな自分の息子を結婚させたがる。
ducere uxorem. et quae vobis placitast condicio datur:
そして自分に気に入った娘と結婚させる。そうやって、
ubi duxere impulsu vostro, vostro impulsu easdem exigunt.
お前たちが散々言って来てもらった嫁を今度は散々言って追い出すのさ。


Phidippvs Laches Sostrata

II.ii
第二幕第二場(ピディッポス、ラケス、ソストラータ)(新妻は帰るつもりがないことを父親が舅に明らかにする場面)

(ピディッポス、自分の家から出てくる)

PHID. Etsi scio ego, Philumena, meum ius esse ut te cogam
ピディッポス(自分の家にいる娘に話しかける)娘よ、私はお前に無理やり
quae ego imperem facere, ego tamen patrio animo victus faciam
命じたとおりにさせたっていいんだが、でも親心に負けて、
ut tibi concedam neque tuae lubidini advorsabor. 245
お前のしたいようにさせることにしたよ、お前の気持ちに逆らうようなことはしないよ。
LA. atque eccum Phidippum optume video. hinc iam scibo hoc quid sit.
ラケス(独白)いい所にピディッポスさんが出てきたぞ。どうなっているか聞いてみよう。
Phidippe, etsi ego meis me omnibus scio esse adprime obsequentem,
ピディッポスさん、わしは自分の家族の気持ちを大事にするのがいいと思っていますが、
sed non adeo ut mea facilitas corrumpat illorum animos.
家族を甘やかして性格を駄目にしてしまうほどではありません。
quod tu si idem faceres, magis in rem et vostram et nostram id esset.
あんたがもし家族に対して節度を保っているなら、わしらにもあんたらにもいいことなんですよ。
nunc video in illarum potestate esse te. PHID. heia vero?250
ところが、あんたはいま自分の家族の言いなりなっておられる。ピディッポス おやおや、本当ですか?
LA. adii te heri de filia: ut veni, itidem incertum amisti.
ラケス 昨日娘さんのことであんたに会いましたね。でも会う前と同じでよく分からないまま別れたんですよ。
haud ita decet, si perpetuam hanc vis esse adfinitatem,
もしこの親戚関係を長く続ける気があんたにおありなら、
celare te iras. siquid est peccatum a nobis profer:
争いの原因を隠すのはよくないですよ。もしわしらに落ち度があるのなら言ってください。
aut ea refellendo aut purgando vobis corrigemus
わしらは弁解したり謝罪したりして落ち度を償うことが出来る。
te iudice ipso. sin east causa retinendi apud vos 255
あんたの目の前でね。しかし、彼女を引き止めている理由が病気というのでは、
quia aegrast, te mihi iniuriam facere arbitror, Phidippe,
ピディッポスさん、それはわしに対してあまり親切だとは言えないですよ。
si metuis satis ut meae domi curetur diligenter.
あんたは彼女がうちでは熱心に看病してもらえないと思っていることになるからね。
at ita me di ament, haud tibi hoc concedo--etsi illi pater es--
だけど、たとえあんたが彼女の父親だといっても、彼女の健康を願う気持ちが
ut tu illam salvam mage velis quam ego. id adeo gnati causa,
わしよりあんたのほうが強いとは絶対に言わせませんよ。息子のためですからね。
quem ego intellexi illam haud minus quam se ipsum magni facere.260
わしは息子が彼女のことを自分以上に大切に思っていることを知っているんですよ。
neque adeo clam me est quam esse eum graviter laturum credam,
息子がどれだけ悲しむかということは、わしにははっきりしています。
hoc si rescierit. eo domum studeo haec prius quam ille redeat.
息子がこの事を知ったら。だから、息子より先に彼女に我が家に帰って来てほしいんだ。
PHID. Laches, et diligentiam vostram et benignitatem
ピディッポス ラケスさん、あなたの熱意も善意も
novi et quae dicis omnia esse ut dicis animum induco,
知っています。あなたが言っていることが本当だと思っていますし、
et te hoc mihi cupio credere: illam ad vos redire studeo265
あなたにこれは信じて欲しいのです。それは私が何とかして娘をあなたの家に
si facere possim ullo modo. LA. quae res te id facere prohibet?
帰したいと思っていることです。ラケス どうしてあんたはそうできないんですか?
eho numquidnam(=num quidnam) accusat virum? PHID. minime. nam postquam attendi
彼女は夫に対して何か不満があるわけではないのでしょう。ピディッポス そんなことはありません。帰るように注意をしたり
magis et vi coepi cogere ut rediret, sancte adiurat
無理やり帰らせようとすると、彼女はまじめに誓っていうんだ、
non posse apud vos Pamphilo se absente perdurare.
旦那さんのいないときにあちらには居られないと。
aliud fortasse aliis viti est: ego sum animo leni natus,270
人にはそれぞれ欠点がありますが、私は生まれつき性格が優しいので、
non possum advorsari meis. LA. em Sostrata. SO. heu me miseram!
家族には逆らえないのです。ラケス おや、ソストラータが来た。ソストラータ 本当に情けないわ。
LA. certumne est istuc? PHID. nunc quidem ut videtur. sed num quid vis?
ラケス(ピディッポスに)それはもう決まりなんですか? ピディッポス 当面はそうなりますね。ほかに用はないですか。
nam est quod me transire ad forum iam oportet. LA. eo tecum una.
私は今から広場にいく用事があります。ラケス 一緒にいきますよ。


Sostrata

II.iii
第二幕第三場 ソストラータ(姑のソストラータが無実を訴える場面)

(ソストラータが舞台に残る)

Edepol ne nos sumus inique aeque omnes invisae viris
ソストラータ(独白)本当に不公平だわ。私たちって一部の女のせいで全員が夫から
propter paucas, quae omnes faciunt dignae ut videamur malo.275
悪く言われるんだから。女はみんな性格が悪いようになってるけどおかしいわよ。
nam ita me di ament, quod me accusat nunc vir, sum extra noxiam.
本当に私は夫が非難しているような悪いことは何もしていない。
sed non facile est expurgatu, ita animum induxerunt socrus
でも罪を晴らすのは簡単じゃないわ。姑というのはみんな意地悪だと
omnis esse iniquas. haud pol mequidem. nam numquam secus
決めて掛かってるんだもの。でも私は絶対に違う。だって私はあの子を
habui illam ac si ex me esset gnata, nec qui hoc mi eveniat scio;
いつも自分の娘のようにしてきたんだもの。だからどうしてこうなってしまったのかわからないわ。
nisi pol filium multimodis iam exspecto ut redeat domum.280
私に出来ることはもう息子の帰国をひたすら待つことだけだわ。


ACTVS III

Pamphilvs Parmeno (Myrrina)

III.i
第三幕第一場(パンピロス、パルメノン、ミュリナ)(帰国したパンピロスが新妻の家の騒ぎを知って中に入るまで)

(パンピロスとパルメノン、左手、港の方角から登場)

PAM. Nemini plura acerba credo esse ex amore homini umquam oblata
パンピロス(パルメノンに)恋のせいでこんなつらい目にあったのは僕ぐらいじゃないかと思うよ。
quam mi. heu me infelicem, hancin ego vitam parsi perdere!
本当についてないよ。こんな人生なら生きている甲斐がないよ。
hacin causa ego eram tanto opere cupidus redeundi domum! hui
だから、僕が熱心に家へ帰りたいと思うわけがない。ほんとうに、
quanto fuerat praestabilius ubivis gentium agere aetatem
いっそどこでもいいから他所の国へ言って暮らすほうがよっぽどいいよ。
quam huc redire atque haec ita esse miserum me resciscere!285
家へ帰ってきたらこんな事になってるのを知る情けなさに比べたら、
nam nos omnes quibus est alicunde aliquis obiectus labos,
なぜなら、何かが原因で自分の前途に災難が待っている場合には、
omne quod est interea tempus prius quam id rescitumst lucrost.
実際にそれを知るまでの時間を先に延ばすのが得策だからね。
PAR. at sic citius qui(=how) te expedias his aerumnis reperias:
パルメノン だけど、こうしてお帰りになってこそ、若旦那もこのトラブルから抜け出る方法が早く見つかりますよ。
si non rediisses, haec irae factae essent multo ampliores.
もし若旦那がお帰りでなければ、このトラブルはもっと大きくなってしまいますよ。
sed nunc adventum tuom ambas, Pamphile, scio reverituras.290
でも若旦那、嫁姑のお二人もあなたのお帰りをなおざりにすることはないですよ。
rem cognosces, iram expedies, rursum in gratiam restitues.
それで若旦那はまずは状況を見極めて、不仲を取り除いて、仲直りさせてあげて下さい。
levia sunt quae tu pergravia esse in animum induxti tuom.
きっと案ずるより産むが易しということになりますよ。
PAM. quid consolare me? an quisquam usquam gentiumst aeque miser?
パンピロス どうして気休めを言うんだい。そもそもどこに僕ほど情けない人間はいるかい。
prius quam hanc uxorem duxi habebam alibi animum amori deditum.
今の嫁を貰う前には別の女性に惚れていた。
tamen numquam ausus sum recusare eam quam mi obtrudit pater.295
でも父が押し付けてきた嫁を断る勇気はなかった。
iam in hac re, ut(=however) taceam, quoivis facile scitust quam fuerim miser.
それが、いまこんな事になってしまって、僕が言わなくても、自分の情けないことは誰にでも分かるさ。
vix me illim abstraxi atque impeditum in ea expedivi animum meum,
僕はあの泥沼からやっとこさ抜け出て、女に溺れた自分の気持を振りきった。
vixque huc contuleram: em nova res ortast porro ab hac quae me abstrahat.
そしてやっとこさ今の嫁に気持ちを移したんだ。ところが、また新しい問題が生まれてきて僕は嫁から引き離されたのさ。
tum matrem ex ea re me aut uxorem in culpa inventurum arbitror.
この問題の原因を僕は母か嫁かどちらかに見い出せると思っている。
quod quom ita esse invenero, quid restat nisi porro ut fiam miser?300
それが分かったとしても、どっちみち僕は惨めなだけだろ?
nam matris ferre iniurias me, Parmeno, pietas iubet;
だって母親が悪くても、パルメノン、親だから我慢するしかない。
tum uxori obnoxius sum: ita olim suo me ingenio pertulit,
となると嫁に借りができる。妻は性格がいいから前は僕のことを我慢してくれた。
tot meas iniurias quae numquam in ullo patefecit loco.
僕があれだけひどい事をしたのに、それを絶対に人に言わなかった。
sed magnum nescioquid necessest evenisse, Parmeno,
だから今度の事では何か大変な事があったに違いないんだよ、パルメノン。
unde ira inter eas intercessit quae tam permansit diu. 305
こんなに長いこと二人が仲違いをするんだから、
PAR. haud quidem hercle: parvom. si vis vero veram rationem exsequi,
パルメノン そんな事は絶対にありません、些細な事ですよ。若旦那が本当の説明を要求するお積りなら、
non maxumas quae maxumae sunt interdum irae iniurias
ささいな事でここまで仲がこじれたということですよ(iras iniuriaeで訳す)。
faciunt. nam saepe est quibus in rebus alius ne iratus quidem est,
別の人なら全然腹を立てないようなことでも、
quom de eadem causast iracundus factus inimicissimus.
同じ事が原因で大げんかを始める人もいるんです。
pueri inter sese quam pro levibus noxiis iras gerunt! 310
子供たちはどんな些細な原因から喧嘩を始めますよね!
quapropter? quia enim qui eos gubernat animus eum(animum) infirmum gerunt.
なぜでしょう。子供たちは自分を支配している精神が弱いのです。
itidem illae mulieres sunt ferme ut pueri levi sententia.
女たちの精神が弱いことでは丁度この子供たちと同じなんですよ。
fortasse unum aliquod verbum inter eas iram hanc concivisse.
多分、何か一言ったことで二人はこんな仲違いするようになったんですよ。
PAM. abi, Parmeno, intro ac me venisse nuntia. PAR. hem quid hoc est? PAM. tace.
パンピロス パルメノン、お前は中へ行って、僕が帰ったと伝えてこい。パルメノン (ピディッポスの家から聞こえる音に)えっ、これは何だろな? パンピロス 静かに!
trepidari sentio et cursari rursum prorsum. PAR. agedum, ad fores315
大慌てで人が走り回っている音が聞こえるぞ。パルメノン よし! 
accedo propius. em sensistin? PAM. noli fabularier.
戸に近づいてみましょう。聞こえますか。パンピロス しゃべるんじゃない!
pro Iuppiter, clamorem audivi. PAR. tute loqueris, me vetas.
なんてことだ、泣き声が聞こえたぞ。パルメノン 私にはしゃべるなといって、あなたがしゃべってるんですか。
MY. (intus) tace obsecro, mea gnata. PAM. matris vox visast Philumenae.
ミュリナ(中で)娘よ、お願いだから静かにして。パンピロス あれは俺の嫁の母親の声だ。
nullus sum. PAR. quidum? PAM. perii. PAR. quam ob rem? PAM. nescioquod magnum malum
畜生! パルメノン どうしたんですか? パンピロス くそ! パルメノン どうしたんですか。 パンピロス 何か大変な事になってるのに、パルメノ ンよ、
profecto, Parmeno, me celant. PAR. uxorem Philumenam320
きっと僕には隠してるんだ。パルメノン 奥様のピロメーナ様は
pavitare nescioquid dixerunt. id si forte est nescio.
何か寒気がするという話でしたが、それが本当かどうかはわかりません。
PAM. interii! quor mihi id non dixti? PAR. quia non poteram una omnia.
パンピロス 畜生、どうしてお前はそれを僕に言わなかったんだ。パルメノン 一度に全部は言えませんよ。
PAM. quid morbi est? PAR. nescio. PAM. quid? nemon medicum adduxit? PAR. nescio.
パンピロス 何の病気なんだ? パルメノン 存じません。パンピロス なぜだ。誰も医者を連れて来なかったのか? パルメノン 存じません。
PAM. cesso hinc ire intro ut hoc quam primum quidquid est certo sciam?
パンピロス 僕が中に入って何事なのか急いで確かめてこよう。
quonam modo, Philumena mea, nunc te offendam adfectam?325
僕のピロメーナ! どうしたんだい?
nam si periclum ullum in te inest, perisse me una haud dubiumst.
もし君の身に何かあったら、僕も生きてはいられない・・(パンピロスがピディッポスの家に入る)
PAR. non usus factost mihi nunc hunc intro sequi.
パルメノン(独白)俺は一緒になかに入るべきではないな。
nam invisos omnis nos esse illis sentio:
だってうちの人間はみんなここの人間に嫌われているんだからね。
heri nemo voluit Sostratam intro admittere.
昨日もうちの奥様は中に入れてもらえなかった。
si forte morbus amplior factus siet 330
もし病気がひどくなったら、
(quod sane nolim, maxume eri causa mei),
(そんなことになって欲しくない、特に若旦那のためには)
servom ilico introisse dicent Sostratae,
うちの奥様の召使が中に入って、何か変なものを持ち込んだと
aliquid tulisse comminiscentur mali
言いふらされるにちがいない。
capiti atque aetati illorum morbus qui auctus sit.
それで彼女の病気が悪くなったんだと。
era in crimen veniet, ego vero in magnum malum. 335
うちの奥様が悪口を言われたら、その罰を受けるのは俺だからなあ。


Sostrata Parmeno Pamphilvs

III.ii
第三幕第二場(ソストラータ、パルメノン、パンピロス)

(ソストラータがラケスの家から出てくる)

SO. Nescioquid iamdudum audio hic tumultuari misera.
ソストラータ 困ったわ、さっきから何か騒がしい音が聞こえてくる。
male metuo ne Philumenae mage morbus adgravescat,
心配だわ。お嫁さんの病気が悪くなったんじゃないかしら。
quod te, Aesculapi(<Aesculapius voc), et te, Salus, nequid sit huius oro.
どうにかそんなことがなければいいんだけど。
nunc ad eam visam. PAR. heus Sostrata. SO. hem. PAR. iterum istinc excludere.
今から見に行かないと。パルメノン おや、奥様! ソストラータ 何かしら。パルメノン また締め出しをくらいますよ。
SO. ehem Parmeno, tun hic eras? perii, quid faciam misera?340
ソストラータ おや、パルメノン、ここにいたの? 困ったわ、私はどうしたらいいのからしら。
non visam uxorem Pamphili, quom in proxumo hic sit aegra?
私はせがれの嫁に会えないかしら。となりの家で病気になっているというのに。
PAR. non visas? ne mittas quidem visendi causa quemquam.
パルメノン 嫁に会えないかって? 誰も見に行かせてはいけませんよ。
nam qui amat quoi odio ipsus est, bis facere stulte duco:
自分を嫌っている相手を愛するなんて、二重に愚かな行為だと思います。
laborem inanem ipsus capit et illi molestiam adfert.
労力の無駄遣いだし、相手にも迷惑ですから。
tum filius tuos intro iit videre, ut venit, quid agat. 345
何が起こっているのかは、あなたの息子さんがお帰り早々に、中へ見に行かれましたよ。
SO. quid ais? an venit Pamphilus? PAR. venit. SO. dis gratiam habeo.
ソストラータ お前は何を言っているの? 息子が帰ってきているの? パルメノン そうです。ソストラータ それはよかったわ。
hem istoc verbo animus mihi redit et cura ex corde excessit.
おや、その言葉を聞いて私も元気が戻ってきたわ。これで安心ね。
PAR. iam ea te causa maxume nunc hoc intro ire nolo.
パルメノン だからこそ奥様が中に入ってはいけないと言っているんです。
nam si remittent quidpiam Philumenae dolores,
というのは、お嫁さんの痛みが少しでもやわらいだら、
omnem rem narrabit, scio, continuo sola soli 350
彼女は息子さんと二人っきりになったらすぐに全部お話しするでしょう。
quae inter vos intervenerit, unde ortumst initium irae.
あなた達の間で何があったか。いさかいの最初の原因は何なのかを。
atque eccum video ipsum egredi. quam tristist! SO. o mi gnate!
おや、もう若旦那が出てこられました。なんて浮かない顔をしているんでしょう。ソストラータ ねえ、おまえ!
PAM. mea mater, salve. SO. gaudeo venisse salvom. salvan
パンピロス ああ、母さん、こんにちわ。ソストラータ 無事に帰ってきてうれしいわ。
Philumenast? PAM. meliusculast. SO. utinam istuc ita di faxint!
ピロメーナは元気なの? パンピロス 幾分よくなっています。ソストラータ そうなってくれたらいいんだけど!
quid tu igitur lacrumas? aut quid es tam tristis? PAM. recte, mater.355
それなのにどうしてお前は悲しんでいるの? どうしてそんなに浮かない顔をしているの? パンピロス 大丈夫です、母さん。
SO. quid fuit tumulti? dic mihi. an dolor repente invasit?
ソストラータ この騒ぎは何だったの、教えて。 痛みは急に襲ってきたの?
PAM. ita factumst. SO. quid morbist? PAM. febris. SO. cotidiana? PAM. ita aiunt.
パンピロス そうです。ソストラータ 何の病気なの? パンピロス 発熱です。ソストラータ 毎日なの? パンピロス そうらしいです。
i sodes intro, consequar iam te, mea mater. SO. fiat.
出来たら母さんは中へ行って下さい。僕もあとから行きますから。ソストラータ そうするわ。(ソストラータ、中へ入る)
PAM. tu pueris curre, Parmeno, obviam atque is onera adiuta.
パンピロス(パルメノンに)パルメノンよ、お前はボーイを迎えに行って、荷物を運ぶのを手伝ってやってくれ。
PAR. quid? non sciunt ipsi viam domum qua veniant? PAM. cessas?360
パルメノン なんですって? ボーイたちはどこを来ればいいか道は知ってるでしょ。パンピロス 早くしろ。


Pamphilvs

III.iii
第三幕第三話 パンピロス

Nequeo mearum rerum initium ullum invenire idoneum
パンピロス この思いがけない出来事について、何から話したらいいか、
unde exordiar narrare quae necopinanti accidunt,
僕が身にふり掛かった出来事に適当な糸口を見つけられない。
partim quae perspexi hisce oculis, partim quae accepi auribus,
僕がいまこの目で見この耳で聞いた出来事の。
qua me propter(=quapropter me) exanimatum citius eduxi foras.
そのために僕はびっくりして急いで外に出てきたんだ。
nam modo intro me ut corripui timidus, alio suspicans365
だって、僕がさっき妻が病気だと思って心配で中に飛び込んだときに、
morbo me visurum adfectam ac sensi esse uxorem, ei mihi!
実際に見た彼女は病気どころではなかった。まったくなんていう事だ。
postquam me aspexere ancillae advenisse, ilico omnes simul
僕が来たのを女中たちが見ると、思いがけない僕の姿に
laetae exclamant ”venit”, id quod(=for this that) me repente aspexerant.
急に嬉しそうな顔をしてみんな一斉に「到着されました」と叫んだ。
sed continuo voltum earum sensi inmutari omnium,
でも僕はすぐに彼女たちの顔色が変わるのを見た。
quia tam incommode illic fors obtulerat adventum meum.370
僕の帰国は彼らにはとても不都合な巡り合せだったからだろう。
una illarum interea propere praecucurrit nuntians
そのうちその中の一人が急いで僕の帰国を伝えるために走っていった。
me venisse. ego eius videndi cupidus recta consequor.
彼女に会いたい一心で、僕はそのあとにぴったりついていった。
postquam intro adveni, extemplo eius morbum cognovi miser.
中に入ってみると、すぐに彼女の病名がわかった。
nam neque ut celari posset tempus spatium ullum dabat
彼女を隠す時間はなかったからだ。
neque voce alia ac res monebat ipsa poterat conqueri.375
まさに彼女の自分の状態を表す泣き声を上げるしかなかった。
postquam aspexi, ”o facinus indignum” inquam et corripui ilico
僕はそれを見ると、「何とふしだらな」と言って、泣きながら
me inde lacrumans, incredibili re atque atroci percitus.
そこから飛び出てきた。信じられないほどおぞましい事態に僕は取り乱してしまったんだ。
mater consequitur. iam ut limen exirem, ad genua accidit
彼女の母親があと追ってきた。僕が敷居の外へ出ようとすると、彼女は
lacrumans misera. miseritumst. profecto hoc sic est, ut puto:
みじめに泣きながら跪いたんだ。僕は可哀想になってしまった。本当だ、
omnibus nobis ut res dant sese ita magni atque humiles sumus.380
自分の置かれた環境次第で僕達は幸福になったり惨めになったりするんだ。
hanc habere orationem mecum principio institit:
彼女の母親は最初に次のようなことを僕に言った。
”o mi Pamphile, abs te quam ob rem haec abierit causam vides.
「パンピロスさん、娘が何故家を出たかその理由をあなたはご自分でご覧になりました。
nam vitiumst oblatum virgini olim a nescioquo improbo.
実はあの子は知らない悪い男に娘時代に無理やり犯されたんです。
nunc huc confugit te atque alios partum ut celaret suom.”
いまあの子がここに身を寄せているのはお産をあなた達から隠すためなのです」
sed quom orata huius reminiscor nequeo quin lacrumem miser. 385
僕は彼女の懇願を思い出すために涙を止められない。
”quaeque fors fortunast” inquit ”nobis quae te hodie obtulit,
彼女は続けて言いました。「あなたがどういう運命のめぐり合わせで丁度今日という日に帰っていらしたかはともかく、
per eam te obsecramus ambae, si ius si fas est, uti
あの子のためにお願いしますわ。是非とも、
advorsa eius per te tecta tacitaque apud omnis sient.
あの子の不幸は他の人には黙っておいてほしいのです。
si umquam erga te animo esse amico sensisti eam, mi Pamphile,
もしあの子のあなたに対する愛しい気持ちをお気づきなら、パンピロスさん、
sine labore hanc gratiam te uti sibi des pro illa nunc rogat.390
何もして要らないから、これだけはして欲しいと、あの子はあなたに求めています。
ceterum de redducenda id facias quod in rem sit tuam.
それに、彼女を連れて帰るかどうかはあなたの得になるようにして下さい。
parturire eam nec gravidam esse ex te solus consciu‘s(=conscius es).
あの子がお産をしたこと、でも子供の父親はあなたではないことをあなただけにお知らせしますわ。
nam aiunt tecum post duobus concubuisse mensibus.
というのは、あの子があなたと床を共にしたのは結婚して二ヶ月後のことだそうですから。
tum, postquam ad te venit, mensis agitur hic iam septimus:
あなたの所に行ってから、今月で7ヶ月になりますわ。
quod te scire ipsa indicat res. nunc si potis est, Pamphile,395
実際の出来事からもそれがあなたにもお分かりでしょう。もし出来たら、
maxume volo doque operam ut clam partus eveniat patrem
パンピロスさん、この出産は是非ともこの子の父親や他の人から
atque adeo omnis. sed si id fieri non potest quin sentiant,
隠すようにして下さい。それでもどうしても知られてしまうようだったら、
dicam abortum esse. scio nemini aliter suspectum fore
死産だったと言いましょう。そうではないと思う人などいませんよ。
quin, quod veri similest, ex te recte eum natum putent.
その子はあなたの子だと誰もが思うでしょう。
continuo exponetur. hic tibi nil est quicquam incommodi,400
あの子はすぐに捨てさせます。そうすればもうあなたにとってはもう何も不都合なことはありませんわ。
et illi miserae indigne factam iniuriam contexeris(<contego).”
あの子が暴行を受けたことはあなたが隠せばいいのです」
pollicitus sum et servare in eo certumst quod dixi fidem.
僕はそうすると約束したし、この約束を守る決心だ。
nam de redducenda, id vero ne utiquam honestum esse arbitror
妻を家に連れて帰ることは、絶対に間違っていると思うから、
nec faciam, etsi amor me graviter consuetudoque eius tenet.
そうするつもりなはい。僕の彼女への愛情や親しみの気持ちがとても強いけれども、
lacrumo quae posthac futurast vita quom in mentem venit405
これからどんな人生が、どんな孤独が待っているか
solitudoque. o fortuna, ut numquam perpetuo‘s data!
と思うと悲しい。なんて運命とは気まぐれなんだろう。
sed iam prior amor me ad hanc rem exercitatum reddidit,
とはいえ、前の恋のお陰でこんなことにも僕は慣れている。
quem ego tum consilio missum feci. idem huic operam dabo.
前の恋を僕はよく考えて諦めたんだ。今回も同じようにしよう。
adest Parmeno cum pueris. hunc minumest opus
(通りを見て)パルメノンがボーイたちといる。
in hac re adesse. nam olim soli credidi 410
あいつはこの件では必要がない。結婚した彼女に僕が手を出さないでいることを
ea me abstinuisse in principio quom datast.
最初に打ち明けたのはあいつだけだった。
vereor, si clamorem eius hic crebro exaudiat,
あいつが何度も彼女の泣き声を聞いて、お産に気づかなければ
ne parturire intellegat. aliquo mihist
いいんだがなあ。ピロメーナのお産の間、
hinc ablegandus dum parit Philumena.
あいつをどこかへ追い払わないといけない。


Parmeno Sosia Pamphilvs

III.iv
第三幕第四場 パルメノン、ソーシア、パンピロス

(パルメノンが左手港の方向から荷物を運ぶボーイたちと共に登場)

PAR. Ain(=Ais ne) tu tibi hoc incommodum evenisse iter?415
パルメノン(ソーシアに)この旅が辛かったというのかい?
SO. non hercle verbis, Parmeno, dici potest
ソーシア パルメノンさん、言葉でとはとても言い表せません。
tantum quam re ipsa navigare incommodumst.
本当に大変な航海でしたよ。
PAR. itan est? SO. o fortunate, nescis quid mali
パルメノン そんなにかい? ソーシア あなたは運のいい人ですよ。どんな災難を免れたか
praeterieris qui numquam‘s ingressus mare.
ご存じないんです。海に行ったことがないですから。
nam alias ut mittam miserias, unam hanc vide.420
だって、ほかの事は別として、これだけは知っていて下さい。
dies triginta aut plus eo in navi fui
僕は三〇日間以上もあの船にいたんですよ。
quom interea semper mortem exspectabam miser.
その間ずっと死の恐怖に怯えていたんですから。
ita usque advorsa tempestate usi sumus.
ずっと悪天候に悩まされたんです。
PAR. odiosum. SO. haud clam me est. denique hercle aufugerim
パルメノン 大変だったな。ソーシア そんなこと分かってますよ。あんなところへ
potius quam redeam, si eo mihi redeundum sciam.425
もう一回行くと分かったら、帰ってくるより逃げてしまいたいくらいですよ。
PAR. olim quidem te causae impellebant leves,
パルメノン むかしならお前はもっと些細な理由で
quod nunc minitare facere, ut faceres, Sosia.
いま言ってることをしたもんだがなあ、ソーシアよ。
sed Pamphilum ipsum video stare ante ostium.
(パンピロスを見て)おや、若旦那が戸口の前で立っていらっしゃる。
ite intro. ego hunc adibo, siquid me velit.
(ソーシアたちに)中へ入れ。おれは、御用がないか若旦那に話してくる。
ere, etiam tu hic stas? PAM. et quidem te exspecto. PAR. quid est?430
若旦那、ずっと立ってらっしゃるんですか。パンピロス お前を待っているんだ。パルメノン 何か御用ですか?
PAM. in arcem transcurso(<transcurro ppp.abl impers.) opus est. PAR. quoi homini? PAM. tibi.
パンピロス 丘の方まで一走りしないといけないんだ。パルメノン 誰がですか。パンピロス お前がだよ。
PAR. in arcem? quid eo? PAM. Callidemidem hospitem
パルメノン 丘の方ですか。何をしに行くんです。パンピロス ミコノス島のお客さんの,
Myconium,qui mecum una vectust, conveni.
カッリデミデスさんに会うんだ。僕と一緒に航海してきた。
PAR. perii. vovisse hunc dicam, si salvos domum
パルメノン(傍白)畜生。若旦那はきっと無事に帰国できたら
redisset umquam, ut me ambulando rumperet? 435
この俺を使い走りでクタクタにしてやりますと願掛けでもしたのかな。
PAM. quid cessas? PAR. quid vis dicam? an conveniam modo?
パンピロス はやくしろ。パルメノン おことづけはなんですか? 会うだけでいいんですか?
PAM. immo quod constitui me hodie conventurum eum,
パンピロス いいや。僕はその人と今日会う約束だったんだが、
non posse, ne me frustra illi exspectet. vola.
会えなくなったとね。そこで無駄に待たせちゃいけないから。さあ、行きな。
PAR. at non novi hominis faciem. PAM. at faciam ut noveris.
パルメノン でも、あっしはその人の顔を知らないですよ。パンピロス 分かるようにしてやるよ。
magnus,rubicundus,crispus,crassus,caesius 440
その人は背が高くて、赤ら顔で、縮れ毛で、太っていて、目が鋭くて、
cadaverosa facie. PAR. di illum perduint!
青ざめた顔の人だ。パルメノン(傍白)畜生!
quid si non veniet? maneamne usque ad vesperum?
(パンピロスに)もしその人が来なければどうするんです。夕方まで待つんですか?
PAM. maneto. curre. PAR. non queo: ita defessu‘ sum.
パンピロス そのとおりだ。走れ! パルメノン それは無理ですよ。疲れてるんですから(いやいや右手に去る)。
PAM. ille abiit. quid agam infelix? prorsus nescio
パンピロス やつは行っちゃった。僕はどうしたらいいかなあ。困ったなあ。
quo pacto hoc celem quod me oravit Myrrina,445
彼女の母親に頼まれたけど、全くどうやってこの事を隠したらいいか分からない。
suae gnatae partum. nam me miseret mulieris.
彼女のお産のことだよ。ほんとに彼女は気の毒な人だ。
quod potero faciam, tamen ut pietatem colam.
僕が出来ることは何でもしよう。親を裏切らない範囲でだが。
nam me parenti potius quam amori obsequi
当然、女に対する愛情よりも親に対する愛情のほうを大切にしなければ
oportet. attat eccum Phidippum et patrem
いけない。おやおや、あそこに彼女の父親と僕の父親が見えるぞ。
video. horsum pergunt. quid dicam hisce incertu‘sum.450
こっちに来るぞ。いったい僕は何を言ったらいいんだろう。


Laches Phidippvs Pamphilvs



III.v
第三幕第五場 ラケス、ピディッポス、パンピロス

(ラケスとピディッポス、右手、広場から登場)

LA. Dixtin dudum illam dixisse se exspectare filium?
ラケス(ピディッポスに)あなたがおっしゃったのはこういうことですか? 娘さんはうちの息子の帰りを待っていると言っていると。
PHID. factum. LA. venisse aiunt. redeat. PA. causam quam dicam patri
ピディッポス そうです。ラケス 息子は帰ってるそうですよ。だから、彼女はうちへ帰させますよ。パンピロス(傍白)親父に
quam ob rem non redducam nescio. LA. quem ego hic audivi loqui?
彼女を連れて帰らないどんな理由を言えばいいのか分からないよ。ラケス(ピディッポスに)誰がしゃべってるんでしょうねえ?
PA. certum offirmare est viam me quam decrevi persequi.
パンピロス(傍白)僕はいったんこうと決めたやり方は守る決心だ。
LA. ipsus est de quo hoc agebam tecum. PA. salve, mi pater.455
ラケス(ピディッポスに)噂をすれば影というやつですね。パンピロス こんにちわ、お父さん。
LA. gnate mi, salve. PHID. bene factum te advenisse, Pamphile;
ラケス せがれよ、元気かい。ピディッポス おかえりなさい、パンピロス君。
atque adeo, id quod maxumumst, salvom atque validum. PA. creditur.
無事で元気で帰られたのは何よりです。パンピロス 全くおっしゃるとおりです。
LA. advenis modo? PA. admodum. LA. cedo, quid reliquit Phania
ラケス さっき着いたのかい? パルメノン そうです。ラケス それで、わしの従兄弟の
consobrinus noster? PA. sane hercle homo voluptati obsequens
ファニアが残した遺産はいくらだったんだい。パンピロス 生きている間は
fuit dum vixit; et qui sic sunt haud multum heredem iuvant,460
やりたい放題やった人ですからねえ。そんな人が相続人にとって有り難い人なわけがありませんよ。
sibi vero hanc laudem relinquont ”vixit, dum vixit, bene.”
「彼は生きている間はよく生きた」という評判が残っただけですよ。
LA. tum tu igitur nil attulisti plus una hac sententia?
ラケス それではお前はその言葉以外には何も持って帰らなかったのかい?
PA. quidquid est id quod reliquit, profuit. LA. immo obfuit.
パンピロス 彼が残したのがそんな物でも少しは役に立っていますよ。ラケス いや、損失だよ。
nam illum vivom et salvom vellem. PHID. impune optare istuc licet.
それなら彼には元気に生きていてもらいたかったねえ。ピディッポス それを言うのは簡単ですよ。
ill‘ revivescet iam numquam. et tamen utrum malis scio. 465
彼が生き返ってくることは永久にないんですから。(傍白)あんたがどっちを望んでいるかは知ってるさ。
LA. heri Philumenam ad se accersi hic iussit. dic iussisse te.
ラケス(パンピロスに)この人は昨日ピロメーナに別れて帰ってこいと仰ったんだよ。(ピディッポスに)あんたもそう言ったと言って下さいよ。
PHID. noli fodere. iussi. LA. sed eam iam remittet. PHID. scilicet.
ピディッポス(ラケスに)突付かないでくれ。(パンピロスに)わしは言ったよ。ラケス でも今日は彼女をうちに戻すとおっしゃっているんだ。ピディッポス そうだ。
PA. omnem rem scio ut sit gesta. adveniens audivi modo.
パンピロス どういうことになっているか僕は全部知っています。さっき着いた時に聞いたんですから。
LA. at istos invidos di perdant qui haec lubenter nuntiant.
ラケス こんなことをうれしそうに言い触らすなんてけしからん奴らだ。
PA. ego me scio cavisse ne ulla merito contumelia 470
パンピロス(ピディッポスに)僕はピディッポスさんの家から苦情が来ないように気を付けていたんですよ。
fieri a vobis posset; idque si nunc memorare hic velim
もしわたしがここで
quam fideli animo et benigno in illam et clementi fui,
どれほど僕が彼女に親切で女房孝行だったかをお父さんにお話するつもりなら出来ますよ。
vere possum, ni te ex ipsa haec mage velim resciscere.
でも、それは彼女の口から直接聞いてほしいんです。
namque eo pacto maxume apud te meo erit ingenio fides,
そうすればあなたもきっとわたしの性格を信用して下さるでしょう。
quom illa, quae nunc in me iniquast, aequa de me dixerit.475
もし僕をひどい目に会わせた彼女が僕に良い事を言ってくれたら、
neque mea culpa hoc discidium evenisse, id testor deos.
二人の仲違いは僕のせいでないことは神に誓っていいですよ。
sed quando sese esse indignam deputat matri meae
そうではなくて、彼女は自分が僕の母親のやり方に
quae concedat huiusque mores toleret sua modestia,
おとなしく合わせるのはプライドが許さなかったんですよ。
neque alio pacto componi potest inter eas gratia,
だから二人を仲直りさせることはできないんですよ、ピディッポスさん、
segreganda aut mater a me est, Phidippe, aut Philumena.480
出来るのは、僕が母親と別れるか嫁と別れるかなんです。
nunc me pietas matris potius commodum suadet sequi.
いま僕は義務として母親の側に立つのがいいと思っています。
LA. Pamphile, haud invito ad auris sermo mi accessit tuos,
ラケス せがれよ、いまのお前の話を聞いていて、
quom te postputasse omnis res prae parente intellego.
お前が親を全てに優先すると分かって、わしは嬉しいよ。
verum vide ne impulsus ira prave insistas, Pamphile.
ただ、怒りに駆られて間違ったことに固執しないようにしなさい。
PA. quibus iris pulsus nunc in illam iniquo‘ sim485
パンピロス 僕が怒りにかられて彼女につらくあたっているというのですか?
quae numquam quicquam erga me commeritast(<commereor), pater,
お父さん、彼女は僕が望まないことは何もせずに、
quod nollem, et saepe quod vellem meritam scio?
いつも僕が望んだように仕えてくれたのを僕は知っているんですよ。
amoque et laudo et vehementer desidero.
僕は彼女を愛しているし尊敬しているし大変好きなんですよ。
nam fuisse erga me miro ingenio expertu‘ sum.
なぜなら彼女が素晴らしい性格をしているのを僕は知っているからです。
illique exopto ut relicuam vitam exigat 490
彼女にはこれからの人生を送ってほしい。
cum eo viro me qui sit fortunatior,
僕より運のいい男と一緒に、
quandoquidem illam a me distrahit necessitas.
だって、どうしても彼女と僕は別れなければならないからです。
PHID. tibi id in manust ne fiat. LA. si sanus sies,
ピディッポス 君次第でそうしないこともできるんだぞ。ラケス お前が正気なら、
iube illam redire. PA. non est consilium, pater.
彼女に帰ってこいと言ってくれ。パンピロス お父さん、僕にはその積りはありません。
matris servibo commodis. LA. quo abis? mane!495
母さんのために行動します。ラケス どこへ行くんだい。待て!
mane, inquam! quo abis? PHID. quae haec est pertinacia?
待てと言っているだろ。どこへ行くんだい。(パンピロス、自分の家に入る)ピディッポス どうしてあんなに頑固なんだろう?
LA. dixin(=dixi ne), Phidippe, hanc rem aegre laturum esse eum?
ラケス ピディッポスさん、私は言ったでしょう、息子はこの事態に耐えられないと。
quam ob rem te orabam filiam ut remitteres.
だから、私はあなたに娘さんをうちに送り返すように頼んだのです。
PHID. non credidi edepol adeo inhumanum fore.
ピディッポス あんなに非人情だとは思わなかった。
ita nunc is sibi me supplicaturum putat? 500
私が懇願すると思っているんでしょうか。
sist(=si est) ut velit redducere uxorem, licet;
彼が妻を連れ帰りたいと思うなら、それもよし。
sin aliost animo, renumeret dotem huc, eat.
それがいやなら、持参金をこちらへ返してから、そうすればいい。
LA. ecce autem tu quoque proterve iracundus es!
ラケス ほら、あなたもひどく怒っていますね。
PHID. percontumax redisti huc nobis, Pamphile!
ピディッポス(パンピロスに)パンピロス君! 君は頑固者になって帰ってきたんだね。
LA. decedet iam ira haec, etsi merito iratus est.505
ラケス 怒るのは当然ですが、その怒りは抑えて下さい。
PHID. quia paullum vobis accessit pecuniae,
ピディッポス あんたは金が手に入ったので、
sublati animi sunt. LA. etiam mecum litigas?
機嫌がいいんだろう。ラケス 私と争うんですか?
PHID. deliberet renuntietque hodie mihi
ピディッポス よく考えて今日中に伝えるように息子さんに言って下さい。
velitne an non, ut alii(D.), si huic non est, siet.
娘が要るのか要らないのか、もし彼が断るなら別の男に嫁がせるないといけない。
LA. Phidippe, ades, audi paucis. abiit. quid mea? 510
ラケス ピディッポスさん、こっちへ来て、ちょっと聞いて下さい。(独白)行ってしまったよ。くそ、わしに何の関係があるんだ。
postremo inter se transigant ipsi ut lubet,
結局は当人が話し合ってしかるべき結論に達するのがいいんだよ。
quando nec gnatus neque hic mi quicquam obtemperant,
息子もあの人も全然私の言うとおりにしないんだから。
quae dico parvi pendunt. porto hoc jurgium
わしの言うことには何の値打ちもないんだろう。この喧嘩のことを
ad uxorem quoius haec fiunt consilio omnia,
わしの妻に教えてやろう。これもすべては彼女の計略から出たことなんだだ。
atque in eam hoc omne quod mihi aegrest evomam.515
この不愉快な気持ちを全部彼女に吐き出してやろう。(自分の家に入る)


ACTVS IV

Myrrina Phidippvs

IV.i
第四幕第一場 ミュリナ、ピディッポス

(興奮したミュリナが自分の家から出てくる)

MY. Perii, quid agam? quo me vortam? quid viro meo respondebo
ミュリナ(独白)参ったわ、どうしましょう。どっちへ行ったらいいかしら。夫にどう答えましょう。
misera? nam audivisse vocem pueri visust vagientis:
困ったわ。夫は泣き声を上げる赤ん坊の声が聞こえたんだと思うわ。
ita corripuit derepente tacitus sese ad filiam.
急に黙ってあの子の所に飛んできたんだもの。
quod si rescierit peperisse eam, id qua causa clam me habuisse
もし自分の娘の出産に気づいたら、どうして出産を隠しているのかその理由を
dicam non edepol scio.520
あの人にどう言えばさっぱりわかないわ。
sed ostium concrepuit. credo ipsum exire ad me. nulla sum.
扉が開く音がするわ。あの人がここに出てくるんだわ。私はもうおしまいだわ。
PHID. uxor ubi me ad filiam ire sensit, se duxit foras.
ピディッポス(独白)家内はわしが娘のところに行くのを見ると出て行ってしまった。
atque eccam video. quid ais, Myrrina? heus tibi dico. MY. mihine, vir?
あそこにいる。(ミュリナに)どうしたんだい、ミュリナ? お前に言ってるんだよ。ミュリナ わたしですか? あなた。
PHID. vir ego tuos sim? tu virum me aut hominem deputas adeo esse?
ピディッポス わしはお前の亭主だろ? お前はわしを亭主だと、いやそもそも人間だと思っているのか?
nam si utrumvis horum, mulier, umquam tibi visus forem,525
だって、お前がわしのことをそのどちらかに思っていてくれたら、
non sic ludibrio tuis factis habitus essem. MY. quibus? PHID. at rogitas?
わしはお前にそんなに軽い扱いをされることはないはずだ。ミュリナ 何のことですか。ピディッポス わかるだろ。
peperit filia. hem! taces? ex qui? MY. istuc patrem rogare est aequom?
娘がお産をしたんだぞ。それなのに、お前は黙っているつもりか? あの子は誰の子なんだ? ミュリナ 娘の父親がそんな質問をしていいんですか? 
perii! ex quo censes nisi ex illo quoi datast nuptum obsecro?
がっかりよ! ねえ、あの子が嫁いだ男性の子でなくて誰があるというのですか。
PHID. credo, neque adeo arbitrari patris est aliter. sed demiror
ピディッポス そりゃそうだ。確かに娘の父親はそれ以外のことは考えるべきではない。だがなあ、
quid sit quam ob rem hunc tanto opere omnis nos celare volueris530
どうしてこのお産をわしから必死に隠そうとしているのか、不思議でならんのだ。
partum, praesertim quom et recte et tempore suo pepererit.
特に娘は月満ちた安産だったんだぞ。
adeon pervicaci esse animo ut puerum praeoptares perire,
それをお前がそんなに強情になっているとは、お前は両家の絆となるにちがいない
ex quo firmiorem inter nos fore amicitiam posthac scires,
この赤ん坊を闇に葬ってでも、
potius quam advorsum animi tui lubidinem esset cum illo nupta(<nubo)!
お前の意に反したあの男との結婚をこわしたいのかね。
ego etiam illorum esse hanc culpam credidi, quae test penes.535
こんどの事でわしは向こうの家の連中に原因があると思っていたよ、実際はお前だったんだ。
MY. misera sum. PHID. utinam sciam ita esse istuc! sed nunc mi in mentem venit
ミュリナ 心外だわ。ピディッポス わしの考えが的外れならどれだけいいことか。わしは思い出したよ。
de hac re quod locuta es olim, quom illum generum cepimus.
あの男が聟になった時にお前が言ったことを、
nam negabas nuptam posse filiam tuam te pati
お前は娘の結婚を許さなかった
cum eo qui meretricem amaret, qui pernoctaret foris.
遊女を愛している男の人と、外で夜を過ごすような男との、
MY. quamvis causam hunc suspicari quam ipsam veram mavolo.540
ミュリナ(傍白)本当の原因でなきゃどんな原因を疑ってくれても構わないわ。
PHID. multo prius scivi quam tu illum habere amicam, Myrrina.
ピディッポス 妻よ、あいつに恋人がいることをわしはお前よりずっと前に知っていた。
verum id vitium numquam decrevi esse ego adulescentiae.
しかし、わしは若いうちならそんなことは構わないと思っていたんだ。
nam id innatumst. at pol iam aderit se quoque etiam quom oderit.
それが男の性(さが)だからな。でも自分のやってることが嫌になる時が必ず来るんだよ。
sed ut olim te ostendisti, eadem esse nil cessavisti usque adhuc
ところが、お前は昔の態度を今に至っても変えようとしない。
ut filiam ab eo abduceres neu quod ego egissem esset ratum.545
だから、娘をあの男から取り上げて、わしのお膳立てをひっくり返そうとしているのだ。
id nunc res indicium haec facit quo pacto factum volueris.
こんどの事でお前がどうしたいのかがわかったよ。
MY. adeon me esse pervicacem censes, quoi mater siem,
ミュリナ あなたは私がそんなに意地悪だと思うのですか。私はあの子の母親ですよ。
ut eo essem animo, si ex usu esset nostro hoc matrimonium?
もしこの結婚が私たちに望ましいものなら、こんなことをすると思いますか。
PHID. tun prospicere aut iudicare nostram in rem quod sit potes?
ピディッポス 何が我々にとって望ましいかがお前には分かると言うんだな。
audisti ex aliquo fortasse qui vidisse eum diceret 550
お前は多分は誰かから聞いたんだろ。あの男が遊女のところに出入りするのを
exeuntem aut intro euntem ad amicam. quid tum postea?
見たという人から。それがどうだというんだ?
si modeste ac raro haec fecit, nonne ea dissimulare nos
あの男の遊女通いが控えめで稀なものなら、我々はそれを知らないふりをする方が、
magis humanumst quam dare operam id scire qui(wherewith) nos oderit?
あれこれ詮索して彼に嫌われるよりは、ずっと人間らしいのではないのかい?
nam si is posset ab ea sese derepente avellere
だって、もし彼が長年親しんだ相手と急に別れることが出来るようなら、
quicum tot consuesset annos, non eum hominem ducerem555
そんな男は娘にとっても、信頼にたる男ではないし
nec virum satis firmum gnatae. MY. mitte adulescentem obsecro
ずっと連れ添う亭主になるとの思えないんだ。 ミュリナ ねえ、若気の至りだとか私の
et quae me peccasse ais. abi, solus solum conveni,
意地悪だとかもう言うのはやめて! 自分で行って彼とさしで会って、
roga velitne uxorem an non. sist ut dicat velle se,
娘を妻として連れ帰るのかどうか聞いてみてよ。もし連れ帰るというのなら、
redde. sin est autem ut nolit, recte ego consului meae.
娘を戻してやってよ。もしその気がないなら、娘に対する私の心遣いは正しかったんだわ。
PHID. siquidem ille ipse non volt et tu sensti(<sentio) in eo esse, Myrrina, 560
ピディッポス もし本当に彼に娘と暮らす気がなくて、彼に落ち度があるとお前が思っていたのなら、
peccatum, aderam quoius consilio fuerat ea par prospici.
わしはここにいたんだから、この事もわしの判断で決めてほしかった。
quam ob rem incendor ira esse ausam facere haec te iniussu meo.
わしが怒りに震えている理由は、お前がわしの許可なしに勝手にここまでやってしまったことだ。
interdico ne extulisse extra aedis puerum usquam velis.
言っておくが、お前は赤ん坊を家の外に持ち出そうとしてはいかんぞ。
sed ego stultior meis dictis parere hanc qui postulem.
しかし、自分の妻に言うとおりにしろと要求するわしも馬鹿者だな。
ibo intro atque edicam servis ne quoquam ecferri sinant.565
わしは中へ入って召使いたちに赤ん坊をどこへも持ち出すなと命じてくる。(中に入る)
MY. nullam pol credo mulierem me miseriorem vivere.
ミュリナ 私ほどにみじめな女はこの世にはいないわ。
nam ut hic laturus hoc sit, si ipsam rem ut siet resciverit,
だって、あの人がもし本当の事を見つけ出したら、あの人はどれほど怒り出すか
non edepol clam me est, quom hoc quod leviust tam animo irato tulit.
私にはわかってるわ。この程度のことでもこれだけ怒り出すんだから。
nec qua via sententia eius possit mutari scio.
それに、これからどうやれば彼の考えを変えられるかしらねえ。
hoc mi unum ex plurumis miseriis relicuom fuerat malum,570
数々の不幸の中でも最大の不幸が残ってしまったわ。
si puerum ut tollam cogit, quoius nos qui sit nescimus pater.
もしあの人が誰か知らない男の赤ん坊を育てさせるとしたら、
nam quom compressast gnata, forma in tenebris nosci non quitast,
だって、娘が犯されたときに、相手の顔は暗くて分からかなかったし、
neque detractum ei tum quicquamst qui posset post nosci qui siet.
誰だったか分かる証拠になる物を相手から奪い取れなかった。
ipse eripuit vi, in digito quem habuit, virgini abiens anulum.
相手の男は娘が指にしていた指輪を力づくで奪って逃げてしまった。
simul vereor Pamphilum ne orata nostra nequeat diutius575
その上、パンピロスさんが私が頼んだ秘密をずっと守ってくれるかどうかも心配だわ。
celare, quom sciet alienum puerum tolli pro suo.
他人の子を自分の子供ととして育てられていることに気づいたときでも。


Sostrata Pamphilvs (Laches)

IV.ii
第四幕第二場 ソストラータ、パンピロス、ラケス

(ソストラータとパンピロスが自分たちの家から登場)

SO. Non clam mest, gnate mi, tibi me esse suspectam, uxorem tuam
ソストラータ 息子よ、私は分かるのよ、お前が私を疑っていることを、お前の妻が
propter meos mores hinc abisse, etsi ea dissimulas sedulo.
この家から出ていったのは私のやり方が悪かったからだと、たとえお前が一生懸命に隠そうとしても。
verum ita me di ament itaque obtingant ex te quae exoptem mihi ut
でもねえ、何を賭けてもいいけど、絶対に、
numquam sciens commerui merito ut caperet odium(主語) illam(目的語) mei, 580
私はあの子に嫌われて当然なことなんか決してしていないのよ。
teque ante quod me amare rebar, ei rei firmasti fidem.
お前は私に対して優しい子だということは前から知っていたけど、この事でもお前の私に対する気持ちに変わりはなかった。
nam mi intus tuos pater narravit modo quo pacto me habueris
だって、中でお父さんがさっき話してくれたは、どれほどお前が私を
praepositam amori tuo. nunc tibi me certumst contra(adv.) gratiam
大事に思ってくれているかを。これからはお前にお返しをしなければいけないわ。
referre ut apud me praemium esse positum pietati scias.
私はお前の孝行に褒美を上げたいの、分かってちょうだい。
mi Pamphile, hoc et vobis et meae commodum famae arbitror.585
パンピロスちゃん! こうすればお前にも得だし私の顔も立つのよ。
ego rus abituram hinc cum tuo me esse certo decrevi patre,
つまり、私はお父さんと共にここから田舎へ引っ込むことに決めたの。
ne mea praesentia obstet neu causa ulla restet relicua
私がいたりすることでお前のお嫁さんが帰って来れないようなことには
quin tua Philumena ad te redeat. PA. quaeso,quid istuc consilist?
なりたくないのよ。パンピロス ねえ、なんてことを考えてるんですか?
illius stultitia victa ex urbe tu rus habitatum migres?
嫁の愚かさに負けて、お母さんが町から田舎に引っ越すんですか?
haud facies, neque sinam ut qui nobis, mater, male dictum velit,590
お母さんはそんな事をしないで下さい。そんなことをしても、お母さんの遠慮深さ
mea pertinacia esse dicat factum, haud tua modestia.
のお陰ではなく僕の意地悪のせいだと、口さがない連中に言われるだけですよ。
tum tuas amicas te et cognatas deserere et festos dies
それに、僕のためにお母さんがお友達や親類の女性と別れて楽しい暮らしを捨てるようなことはして
mea causa nolo. SO. nil pol iam istaec mihi res voluptatis ferunt.
欲しくありません。ソストラータ そんなことは私の楽しみでも何でもないわ。
dum aetatis tempus tulit(許す), perfuncta satis sum. satias iam tenet
そりゃ若い頃は存分に楽しんだわ。でもそんな楽しみはもう飽きたのよ。
studiorum istorum. haec mihi nunc curast maxuma ut ne quoi mea 595
いま一番やりたい事は、長生きして人の邪魔にならないこと、
longinquitas aetatis obstet mortemve exspectet meam.
死ぬ時を待つことだけよ。
hic video me esse invisam inmerito. tempust me concedere.
おかしなことに私はここでは嫌われ者。引退する時期なのよ。
sic optume, ut ego opinor, omnis causas praecidam omnibus.
こうして全ての原因を断ち切るのが一番いいと私は思うの。
et me hac suspicione exsolvam et illis morem gessero.
そうすればもう邪推から免れるし(ピディッポスの家を指して)彼らにも気に入られるわ。
sine me obsecro hoc effugere volgus quod male audit(女の族が悪く言われる) mulierum.600
姑の嫁いびりなんて言われるのはもうこれっきりにさせてちょうだい。
PA. quam fortunatus ceteris sum rebus, absque una hac foret,
パンピロスこの事(=子供がいること)さえなかったら、この母にあの妻をもった僕は
hanc matrem habens talem, illam autem uxorem!SO. obsecro, mi Pamphile,
全てに申し分のない幸せ者なんだがなあ。ソストラータ ねえ、せがれや、
non tute incommodam rem, ut quaeque est, in animum induces pati?
お前はどんな不都合な事(=嫁が姑を嫌うこと)でも我慢する積りじゃないのかい?
si cetera ita sunt ut vis itaque uti esse ego illa(n.pl.) existumo,
それなら、もし彼女のことで他のことが、私が考えているように、お前の望みどおりなら(=嫁の性格)、
mi gnate, da veniam hanc mihi, redduc illam. PA. vae misero mihi!605
せがれよ、私の願いを聞いて、彼女を連れ戻しなさい。パンピロス ああ、困ったなあ。
SO. et mihi quidem. nam haec res non minus me male habet quam te, gnate mi.
ソストラータ 私もそうよ。この問題はあなたにも私にも同じぐらいに悩ましいのよ。


Laches Sostrata Pamphilvs

IV.iii
第四幕第三場 ラケス、ソストラータ、パンピロス

(前の場面の間にラケスがこっそり登場している)

LA. Quem cum istoc sermonem habueris procul hinc stans accepi, uxor.
ラケス(ソストラータに)お前がその話をしている間、離れて立って聞いていたんだ、妻よ。 
istuc est sapere, qui ubiquomque opus sit animum possis flectere,
お前の言うことは賢明だ。お前は必要な時には気持ちを切り変えることが出来るんだね。
quod sit faciundum fortasse post, idem hoc nunc si feceris.
あとになってしなきゃならないことを(=引退すること)、今からするなんて。
SO. fors fuat pol. LA. abi rus ergo hinc. ibi ego te et tu me feres.610
ソストラータ そうだといいんだけど。ラケス お前は田舎へ引っ込めばいい。そこでわたしとお前で我慢し合えばいい。
SO. spero ecastor. LA. i ergo intro et compone quae tecum simul
ソストラータ きっとそうなるわ。ラケス だから中へ入って持っていく荷物を
ferantur. dixi. SO. ita ut iubes faciam. PA. pater.
まとめなさい。わしの言いたいことは以上だ。ソストラータ あなたの言うとおりにするわ(家に入る)。パンピロス お父さん。
LA. quid vis, Pamphile? PA. hinc abire matrem? minime. LA. quid ita istuc vis?
ラケス 何だ、息子よ。パンピロス 母さんはここから出ていくんですか? それはだめですよ。ラケス それはどういう意味なんだ?
PA. quia de uxore incertus sum etiam quid sim facturus. LA. quid est?
パンピロス 僕は自分の妻をどうしたらいいかまだ分からないんですから。ラケス 何だって?
quid vis facere nisi redducere? PA. equidem cupio et vix contineor.615
連れ戻さないでどう何したいんだ? パンピロス(傍白)そうしたいのはやまやまだし、その気持は押えがたいが、
sed non minuam meum consilium. ex usu quod est id persequar.
自分の考えを変えることは出来ない。僕は最善のことをやるだけだ。
credo ea gratia concordes,si non redducam, fore.
(ラケスに)もし僕が彼女を連れ帰ったら女性たちは仲直りできないですよ。
LA. nescias. verum id tua refert nil utrum illaec fecerint
ラケス それはどうかな。それに、妻が出て行ったら、二人が仲直りするかどうかは、
quando haec aberit. odiosa haec est aetas adulescentulis(D.pl.).
もういいじゃないか。若い娘にはあの年頃の女は苦手なのさ。
e medio aequom excedere est. postremo nos iam fabulae620
消えてなくなるのが最善なんだよ。要するに俺たちは芝居にある
sumus, Pamphile, ”senex atque anus.”
『老夫婦』なんだよ、パンピロス。
sed video Phidippum egredi per tempus. accedamus.
だが、ピディッポスがいい時に出てきたぞ。話してみるよ。


Phidippvs Laches Pamphilvs



IV.iv
第四幕第四場 ピディッポス、ラケス、パンピロス

(ピディッポスが自分の家から出てくる)

PHID. Tibi quoque edepol sum iratus, Philumena,
ピディッポス(中の娘に)娘よ、わしはお前のことでは本当に怒っているんだぞ。
graviter quidem. nam hercle factumst abs te turpiter.
お前は本当に馬鹿な事をした。
etsi tibi causast de hac re: mater te impulit. 625
お前は母親の言いなりになっただけという言い訳があるが、
huic vero nullast. LA. opportune te mihi,
母親の方は申し訳が立たないぞ。ラケス ちょうどいい時に
Phidippe, in ipso tempore ostendis. PHID. quid est?
ピディッポスさん、出て来ましたね。ピディッポス どういうことですか?
PA. quid respondebo his? aut quo pacto hoc aperiam?
パンピロス(傍白、以後傍白でどうすべきか考え続ける)彼らにどう答えよう? これをどういう風に明かしたらいいんだろう?
LA. dic filiae rus concessurum hinc Sostratam,
ラケス 娘さんに言って下さい。うちのソストラータはもう田舎へ引っこむと。
ne revereatur minus iam quo redeat domum. PHID. ah630
だからもう何の気兼ねなしに家に帰れると。ピディッポス ああ、
nullam de his rebus culpam commeruit tua(=uxor 主語).
この問題ではあんたの奥さんは何も悪くないんですよ。
a Myrrina haec sunt mea uxore exorta omnia.
わしの妻のミュリナが全ての原因なんですよ。
PA. mutatio fit. PHID. ea nos perturbat, Lache.
パンピロス(傍白)こっちでもトラブルか。ピディッポス ラケスさん、わしの妻のせいでわたしたちは困ったことになっているんですよ。
PA. dum ne redducam, turbent porro quam velint.
パンピロス(傍白)僕が連れ帰らないでいると、彼らはますますトラブルが大きくなっていきそうだなあ。
PHID. ego, Pamphile, esse inter nos, si fieri potest, 635
ピディッポス パンピロスくん、わしは出来たら両家の間の
adfinitatem hanc sane perpetuam volo.
この親交関係を長続きさせたいんだよ。
sin est ut aliter tua siet sententia,
しかし、もし君がそう考えていなくても、
accipias puerum. PA. sensit peperisse. occidi.
赤ん坊だけは連れ帰ってくれ。パンピロス(傍白)お産を知ってるんだ。畜生!
LA. puerum? quem puerum? PHID. natus est nobis nepos.
ラケス 赤ん坊? どの赤ん坊だ? ピディッポス 俺たちの孫が生まれたんだよ。
nam abducta a vobis praegnas fuerat filia, 640
お宅から帰ってきた娘は妊娠していたんだ。
neque fuisse praegnatem umquam ante hunc scivi diem.
それまでは娘は妊娠したことはなかったのは確かだ。
LA. bene, ita me di ament, nuntias, et gaudeo
ラケス ほんとうにいい知らせをしてくれた。嬉しいよ。
natum, tibi illam salvam. sed quid mulieris
息子が生まれて、娘さんもご無事で。それにしても、あなたの奥さんは何という人ですか。
uxorem habes aut quibus moratam moribus?
何という性格をしているんですか。
nosne hoc celatos tam diu! nequeo satis 645
この事をこんなに長い間我々から隠すなんて! 
quam hoc mihi videtur factum prave proloqui.
なんて冷たいことをするんだ、これは私には言葉では表せないよ。
PHID. non tibi illud factum minus placet quam mihi, Lache.
ピディッポス あんただけでなくわしも大いに不愉快なんだ、ラケスさん。
PA. etiamsi dudum fuerat ambiguom hoc mihi,
パンピロス(傍白)さっきまでは迷っていたけれど、
nunc non est quom eam sequitur alienus puer.
もう迷いはない。嫁を戻せば人の子供が付いて来てしまう。そんなことはできない。
LA. nulla tibi, Pamphile, hic iam consultatiost.650
ラケス せがれよ、お前はもうくよくよ考えることはないんだ。
PA. perii. LA. hunc videre saepe optabamus diem
パンピロス(傍白)畜生。ラケス こんな日が来るのを私は待っていたんだ。
quom ex te esset aliquis qui te appellaret patrem.
お前が人の父親になる日が来るのを。
evenit. habeo gratiam dis. PA. nullus sum.
その日が来たんだ。神に感謝するよ。パンピロス(傍白)もうだめだ。
LA. redduc uxorem ac noli advorsari mihi.
ラケス 彼女を連れ帰るんだぞ、わしに逆らうなよ。
PA. pater, si ex me illa liberos vellet sibi655
パンピロス お父さん、もし彼女が僕との子供を望んでいるのなら、
aut sese mecum nuptam, satis certo scio,
いやもし彼女が僕の妻でいたいのなら、
non clam me haberet quae celasse intellego.
彼女はこんな隠し事をして僕に黙っているはずはないと思います。
nunc quom eius alienum esse animum a me sentiam
もう彼女の気持ちは僕から離れているんですよ、
nec conventurum inter nos posthac arbitror,
だからこれから二人で仲良く暮らしていけるとは思えないんです。
quam ob rem redducam? LA. mater quod suasit sua660
それなのに、どうして彼女を連れ帰れるでしょうか? ラケス 幼い彼女は自分の母親の言いなりに
adulescens mulier fecit. mirandumne id siet?
なっただけだ。それが不思議なことだろうか。
censen te posse reperire ullam mulierem
お前は欠点のない女性を見つけられる
quae careat culpa? an quia non delincunt viri?
と思っているのかい。男には欠点がないとでもいうのかい。
PHID. vosmet videte iam, Lache et tu Pamphile,
ピディッポス ラケスさんとパンピロスくんの二人でよく考えてください。
remissan opus sit vobis redductan domum.665
娘を出戻りにするか連れ帰るのか、どちらでもいいですよ。
uxor quid faciat in manu non est mea.
わしの妻のすることはわしにはどうにもできないし、
neutra in re vobis difficultas a me erit.
わしはどっちになっても困りはしません。
sed quid faciemus puero? LA. ridicule rogas.
だが、赤ん坊はどうするんです? ラケス 馬鹿な質問ですね。
quidquid futurumst, huic suom reddas scilicet
何があろうと、息子の子は息子に渡してもらいます。
ut alamus nostrum. PA. quem ipse neglexit pater,670
うちの子として育てるんです。パンピロス(思わず言ってしまう)父親に見捨てられた子を
ego alam? LA. quid dixti? eho an non alemus, Pamphile?
僕が育てるんですか? ラケス 何だって? うちで育てないのか、息子よ。
prodemus quaeso potius? quae haec amentiast?
あの子を見捨てるのか? 頭がどうかしたのか?
enimvero prorsus iam tacere non queo.
もうわしは黙っていられない。
nam cogis ea quae nolo ut praesente hoc loquar.
これはお前が喋らせるんだぞ。この人のいる前でわしが言いたくないことを。
ignarum censes tuarum lacrumarum esse me 675
わしがお前の涙の理由を知らないと思っているのか。
aut quid sit id quod sollicitare ad hunc modum?
お前がそんなに悩んでいる理由を知らないとでも?
primum hanc ubi dixti causam, te propter tuam
お前が最初にその原因を言ったときには、自分の母親のために
matrem non posse habere hanc uxorem domi,
あの嫁を家に置いておけないと言ったんだ。
pollicitast ea se concessuram ex aedibus.
それで母さんが家から出ていくと約束した。
nunc postquam ademptam hanc quoque tibi causam vides,680
するとお前はその口実が使えなくなったと見ると、
puer quia clam test natus, nactus alteram‘s.
彼女がお前に隠れて赤ん坊を生んだことを次の口実にしたのさ。
erras tui animi si me esse ignarum putas.
わしがお前の本音がわからないと思ったら大間違いだぞ。
aliquando tandem huc animum ut adiungas tuom,
いつかはお前が結婚する気になるだろうと思って、
quam longum spatium amandi amicam tibi dedi!
わしはお前がどれだけ長いこと遊女と付き合うのを許したことか!
sumptus quos fecisti in eam quam animo aequo tuli!685
お前が遊女にどれほど浪費をしてもわしは大目に見たんだ。
egi atque oravi tecum uxorem ut duceres,
わしはお前に結婚してくれと説得し懇願した。
tempus dixi esse. impulsu duxisti meo.
もう潮時だと言ったんだ。お前はわしの言うことを聞いて結婚した。
quae tum obsecutus mihi fecisti ut decuerat.
お前はわしの願いを叶えてくれたが、これは当然のことだったんだ。
nunc animum rursum ad meretricem induxti tuom.
ところがまたお前の気持ちは遊女の方に移してしまったのさ。
quoi tu obsecutus facis huic adeo iniuriam. 690
遊女の言いなりになってお前は自分の妻をひどい目に合わせているんだ。
nam in eandem vitam te revolutum denuo
お前はまた元の生活に逆戻りしたのさ。
video esse. PA. mene? LA. te ipsum. et facis iniuriam.
パンピロス 僕がですか? ラケス そうさ。ひどいやつだよ。
confingis falsas causas ad discordiam,
妻と別れる嘘の理由をこしらえたんだ。
ut cum illa vivas, testem hanc quom abs te amoveris.
遊女と暮らすために、お前はそれを知っている妻を遠ざけて、
sensitque adeo uxor. nam ei causa alia quae fuit695
お前の妻はそれに気づいた。だって、ほかに彼女にどんな理由があったんだい、
quam ob rem abs te abiret? PHID. plane hic divinat. nam id est.
彼女がお前のところから出ていく理由が。ピディッポス この人の言うとおりだ。実際そうなってるからなあ。
PA. dabo iusiurandum nil esse istorum mihi. LA. ah
パンピロス そんなことは決して無いと誓いますよ。ラケス ああ、
redduc uxorem aut quam ob rem non opus sit cedo.
妻を連れ帰らないのなら、それが出来ない理由を言いなさい。
PA. non est nunc tempus. LA. puerum accipias. nam is quidem
パンピロス いまはその時ではありません。ラケス 赤ん坊は連れ帰りなさい。あの子に
in culpa non est. post de matre videro. 700
罪はない。子供の母親のことはあとで考えよう。
PA. omnibus modis miser sum nec quid agam scio.
パンピロス(傍白)まったく八方塞がりだ、どうしたらいいか分からない。
tot nunc me rebus miserum concludit pater.
父親にこんなに言われて僕は窮地に追い込まれてしまった。
abibo hinc, praesens quando promoveo parum.
僕はもうここから抜けだそう。ここにいても何の進展もないから、
nam puerum iniussu credo non tollent meo,
僕の指図なしに赤ん坊を連れて来ることはないはずだ。
praesertim in ea re quom sit mi adiutrix socrus.705
特にこの問題では姑が僕の味方になってくれている(左へ去る)。
LA. fugis? hem! nec quicquam certi respondes mihi?
ラケス 逃げるのか? 何らちゃんとした返事をせずに?
num tibi videtur esse apud sese? sine.
(ピディッポスに)あの子は自分を見失っているのです。許してください。
puerum, Phidippe, mihi cedo. ego alam. PHID. maxume.
ピディッポスさん、赤ん坊は私にお渡し下さい。私が育てます。ピディッポス 分かりました。
non mirum fecit uxor si hoc aegre tulit.
私の妻はこのこと(=遊女のこと)に耐えられなくても不思議ではありません。
amarae mulieres sunt, non facile haec ferunt.710
女は気難しいんです。こんなことは容易に耐えられません。
propterea haec irast. nam ipsa narravit mihi.
あの事のために彼女は怒っているのです。自分で言っていました。
id ego hoc praesente tibi nolueram dicere,
こんなことは息子さんの目の前では言えなかったんです。
neque illi credebam primo. nunc verum palamst.
わたしは彼女の言うことを最初は信じられませんでした。でも全ては明らかです。
nam omnino abhorrere animum huic video a nuptiis.
息子さんは結婚が心から嫌っているのですよ。
LA. quid ergo agam, Phidippe? quid das consili? 715
ラケス ではどうしたらいいでしょう、ピディッポスさん? あなたのお考えは?
PHID. quid agas? meretricem hanc primum adeundam censeo.
ピディッポス あなたがどうすればいいかって? その遊女にまず会うことだと思います。
oremus,accusemus,gravius denique
お願いしたり、けなしたり、それでも
minitemur si cum illo habuerit rem postea.
これからも彼とつきあい続けるなら、ちょっと深刻に脅すことも必要でしょう。
LA. faciam ut mones. eho puere, curre ad Bacchidem hanc
ラケス あなたの忠告通りにしましょう(中へ呼びかける)。おい、ボーイ、このお隣のバッキスさんのところへ
vicinam nostram. huc evoca verbis meis.720
急いで行け。私の言うとおりに言って、ここへ呼んで来い。
et te oro porro in hac re adiutor sis mihi. PHID. ah
あなたはこれからも私を助けて下さいね。ピディッポス もちろんですよ、
iamdudum dixi idemque nunc dico, Lache.
さっきも言いましたが、同じ事を言いますよ、ラケスさん。
manere adfinitatem hanc inter nos volo,
私はこの両家の繋がりが続くことを願っているのです、
si ullo modo est ut possit, quod spero fore.
できることなら、それが私の望みです。
sed vin adesse me una dum istam convenis?725
彼女と会っている間、私もいっしょに居ましょうか?
LA. immo vero abi, aliquam puero nutricem para.
ラケス いいえ。帰っていいですよ。子供の乳母を用意して下さい。


ACTVS V

Bacchis Laches

V.i
第五幕第一場 バッキス、ラケス

(バッキスが自分の家から登場)

BA. Non hoc de nihilost quod Laches me nunc conventam esse expetit.
バッキス(独白)ラケスさんがいま私と会いたいと言っているのは、余程のことだわね。
nec pol me multum fallit quin quod suspicor sit quod velit.
彼の目当てはきっとあたしが見当をつけていることに違いはないわ。
LA. videndumst ne minus propter iram hanc impetrem quam possiem,
ラケス(独白)あんまりかっかしないようにしないとなあ。さもなきゃ出来ることも出来なくなってしまう。
aut ne quid faciam plus quod post me minus fecisse satiu‘ sit.730
やり過ぎてあとで後悔することにならないようにしないと。
adgrediar. Bacchis, salve.
話しかけてみよう、(バッキスに)花魁、ごきげんよう。
BA. salve, Lache. LA. credo edepol te non nil mirari, Bacchis,
バッキス こんにちわ、ラケスさん。ラケス さぞかし不審に思っておられるでしょう。
quid sit quapropter te huc foras puerum evocare iussi.
何のためにボーイを使って私があなたを外に呼び出したのかと。
BA. ego pol quoque etiam timida sum quom venit mi in mentem quae sim,
バッキス 自分の仕事を考えると、むしろ不安な気持ちになっています。
ne nomen mihi quaesti(G.business) obsiet. nam mores facile tutor(守る、動詞).735
商売の評判が自分の不利になっているのではないかと。でも私は何も悪いことはしていませんわ(自分の行動の説明は容易にできる)。
LA. si vera dicis nil tibist a me pericli, mulier.
ラケス もしあなたの言うとおりなら、私のことを恐がることはありませんよ、花魁。
nam iam aetate ea sum ut non siet peccato mi ignosci aequom.
というのは、私ももう無茶なことをして大目に見てもらえる年ではありません。
quo magis omnis res cautius ne temere faciam adcuro.
だから、どんな場合でも性急に行動しないように充分に気をつけています。
nam si id facis facturave es bonas quod par est facere,
もしあなたが正直な人で全てを正直に話してくれるなら、
inscitum offerre iniuriam tibi inmerenti iniquomst.740
無実のあなたを私がむやみに侮辱するようなことはありませんよ。
BA. est magna ecastor gratia de istac re quam tibi habeam.
バッキス そう言っていただけるとほんとうに有難いですわ。
nam qui post factam iniuriam se expurget parum mi prosit.
だって、ひどい事を言われたら、後で謝ってもらっても何にもなりませんもの。
sed quid istuc est?LA. meum receptas filium ad te Pamphilum. BA. ah.
ところで、どんな用件ですの。ラケス うちの息子のパンピロスがあなたのところに通っていますね。バッキス え?
LA. sine dicam. uxorem hanc prius quam duxit, vostrum amorem pertuli.
ラケス(バッキスが反論しようとするが構わずに)まあ言わせて下さい。息子が結婚するまではわしも息子があなたのところへ通うことを大目に見ていたんです よ。
mane. nondum etiam dixi id quod volui. hic nunc uxorem habet. 745
(バッキスがまた反論しようとする)待ってください。まだ言いたいことがあるんです。せがれはいまは結婚しています。
quaere alium tibi firmiorem dum tibi tempus consulendi est.
ですから、あなたは別のもっとちゃんとした相手を探してください、あなたに相手を選ぶ余裕のある間にね、
nam neque ille hoc animo erit aetatem(永遠に) neque pol tu eadem istac aetate.
あの子はいつまでも同じ気持ちではいませんし、あなたもずっと今の若さでいられるわけではないですよ。
BA. quis id ait? LA. socrus.BA. men? LA. te ipsam. et filiam abduxit suam,
バキス そんなことを誰が言ってるのです? ラケス 息子の姑ですよ。バッキス それは本当に私のことですか? ラケス そうだ。そのために娘を実家に引きとってしまったんですよ。
puerumque ob eam rem clam voluit, natus qui est, exstinguere.
今度生まれた赤ん坊もそのためにこっそり始末しようとしたんですよ。
BA. aliud si scirem qui(=wherewith) firmare meam apud vos possem fidem750
バッキス あなた達に信じてもらえるなら、私はお誓いもするし、
sanctius quam iusiurandum, id pollicerer tibi, Lache,
もっと厳かな儀式があれば、ラケスさん、それによって証言します。
me segregatum habuisse, uxorem ut duxit, a me Pamphilum.
私はパンピロスさんが結婚してから彼とは一切お付き合いしていませんわ。
LA. lepida‘s. sed scin quid volo potius sodes facias? BA. quid vis? cedo.
ラケス それはよかった。それなら一つこうしてくれませんか。バッキス 何ですか。言って下さい。
LA. eas(<ire) ad mulieres huc intro atque istuc iusiurandum idem
ラケス 中の女たちのところへ行ってその事を彼女らに誓いの言葉を伝えて欲しいんです。
polliceare illis. exple animum eis teque hoc crimine expedi.755
そうしてあなたもこの疑惑を晴らして、彼女たちを安心させてやってください。
BA. faciam quod pol, si esset alia ex hoc quaestu, haud faceret, scio,
バッキス 分かりました。そんなことのために既婚女性の前に姿を出すなんて、
ut de tali causa nuptae mulieri se ostenderet.
そんなことはこの仕事をしているほかの人は決してしないでしょうけどね。
sed nolo esse falsa fama gnatum suspectum tuom,
でも、お宅の息子さんが間違った噂のせいで白い目で見られたり、
nec leviorem vobis, quibus est minime aequom, eum viderier(inf.pass.)
不当にも浮気な人だとあなた達に思われているのを放っておけません。
inmerito. nam meritus de mest quod queam illi ut commodem.760
彼は私にとても親切にしてくれましたから、彼のためになることなら私は何でもしますわ。
LA. facilem benivolumque lingua tua iam tibi me reddidit.
ラケス あなたの言葉を聞いて私はあなたに親しみと好感を覚えました。
nam non sunt solae arbitratae haec. ego quoque etiam credidi.
妻たちだけではなくて私も、まだ付き合ってると思っていたんです。
nunc quam ego te esse praeter nostram opinionem comperi,
今はもうあなたは私たちが考えていたような人ではないことが分かりました。
fac eadem ut sis porro. nostra utere amicitia ut voles.
あなたはこれからも変わらずに居て下さい。私たちはあなたの味方ですよ。お役に立ちますよ。
aliter si facies--reprimam me ne aegre quicquam ex me audias.765
あなたの方でそれがお嫌でも、私はあなたの悪口を言うことはありません。
verum hoc moneo unum: qualis sim amicus aut quid possiem
でもこれはお勧めしますよ。一旦味方になったら私がどういう人間か、何が
potius quam inimicus, periclum facias.
出来るか、一度試してみてください。


Phidippvs Laches Bacchis


V.ii
第五幕第二場 ピディッポス、ラケス、バッキス

(ピディッポス、左手から乳母を連れて登場)

PHID. Nil apud me tibi
(乳母に)わしの家に来れば何も不足がないようにしてやるよ、
defieri patiar, quin quod opus sit benigne praebeatur.
必要なものは充分に手に入るようにしてやる。
sed quom tu satura atque ebria eris, puer ut satur sit facito.
でもお前が充分に飲み食いしたら、赤ん坊にもそうしてやってくれよ。
LA. noster socer, video, venit. puero nutricem adducit. 770
ラケス(独白)うちの舅さまのお帰りだな。赤ん坊のために乳母を連れてきた。
Phidippe, Bacchis deierat persancte-- PHID. haecin east? LA. haec est.
(ピディッポスに)ピディッポスさん、バッキスさんは厳かに誓っています。ピディッポス その女性がそうですか。ラケス そうです。
PHID. nec pol istae metuont(=metuunt) deos neque eas respicere deos opinor.
ピディッポス 彼女たちは神を恐れないし神を尊敬していないはずですが。
BA. ancillas dedo. quolubet cruciatu per me exquire.
バッキス 腰元たちを差し出します。どんな拷問でもして私について質問してください。
haec res hic agitur. Pamphilo me facere ut redeat uxor
今私がすべきことは、パンピロスさんの元にお嫁さんが戻るようにすることです。
oportet. quod si perficio non paenitet me famae,775
それが私にできるならば、気にしませんわ。
solam fecisse id quod aliae meretrices facere fugitant.
ほかの遊女たちがやらないようなことを私一人がやったと言われても
LA. Phidippe, nostras mulieres suspectas fuisse falso
ラケス ピディッポスさん、うちの女たちを疑ったのは間違いだったことは
nobis in re ipsa invenimus. porro hanc nunc experiamur.
もう分かっていますね。次はこの女性のことを調べましょう。
nam si compererit crimini tua se uxor credidisse,
そして、もしあなたの奥さんが自分の間違いに気づいたら、
missam iram faciet. sin autem est ob eam rem iratus gnatus780
彼女の怒りは消えるでしょう。でも、もしうちのせがれが怒っている理由が
quod peperit uxor clam, id levest. cito ab eo haec ira abscedet.
妻が隠れて子を産んだことなら、それは大した問題じゃない。息子はこの怒りをすぐに忘れるでしょう。
profecto in hac re nil malist quod sit discidio dignum.
離婚するほどひどい事は何も無いんだから。
PHID. velim quidem hercle. LA. exquire. adest. quod satis sit faciet ipsa.
ピディッポス そうなりゃいいですが。ラケス 花魁がここいますから、聞いてみて下さい。あなたの気が済むまで彼女は答えてくれますよ。
PHID. quid mihi istaec narras? an quia non tute ipse dudum audisti
ピディッポス 何で私にそんなことを言うのですか? あなたにさっきお話したでしょう。
de hac re animus meus ut sit, Laches? illis modo explete animum.785
この問題に対する私の考えを、ラケスさん。あとは女性たちを満足させもらえばいいのです。
LA. quaeso edepol, Bacchis, quod mihi es pollicita tute ut serves.
ラケス 花魁、お願いします。約束したとおりにして下さい。
BA. ob eam rem vin ego introeam? LA. i, atque exple animum eis, coge ut credant.
バッキス わたしにそのために中に入って欲しいのですか。ラケス 入って下さい。そして彼女たちの気が済むまで、彼女たちが信じるまで、話しをしてきて下 さい。
BA. eo, etsi scio pol eis fore meum conspectum invisum hodie.
バッキス 行きますわ。きっと彼女たちはいま私を見るのをいやがるでしょうが。
nam nupta meretrici hostis est, a viro ubi segregatast.
夫に捨てられた既婚女性にとって遊女は敵ですからね。
LA. at haec amicae erunt, ubi quam ob rem adveneris resciscent.790
ラケス 彼女たちはあなたの味方になりますよ、何のためにあなたが来たのかを知れば。
[PHID. at easdem amicas fore tibi promitto rem ubi cognorint.
ピディッポス 事態が飲み込めたら彼女たちはきっとあなたの味方になりますよ。]
nam illas errore et te simul suspicione exsolves.
あなたは彼女たちの誤解を解いて自分に対する疑いを晴らすのですから。
BA. perii, pudet Philumenae. me sequimini huc intro ambae.
バッキス(独白)困ったわ、ピロメーナさんに会うのは恥ずかしい。(腰元に)二人とも中についてきて(バッキス、ピディッポスの家に入る)。
LA. quid est quod mihi malim quam quod huic intellego evenire,
ラケス(独白)これ以上うまい方法あるだろうか。
ut gratiam ineat sine suo dispendio et mihi prosit? 795
彼女は女たちの好意を勝ち取り、私の役にもたってくれて、しかも何も失うものはないんだから。
nam sist(=si est) ut haec nunc Pamphilum vere ab se segregarit,
もし彼女がパンピロスと別れているというのが本当になら、
scit sibi nobilitatem ex eo et rem natam et gloriam esse.
この事で自分によい評判と利益と名誉をもたらされることを知るからだ。
referet gratiam ei unaque nos sibi opera amicos iunget.
この一度の努力で彼女は彼に恩を返し、我々を味方にすることになるのだ。


Parmeno Bacchis



V.iii
第五幕第三場 パルメノン、バッキス

(パルメノン、左手広場方角より登場)

PA. Edepol ne meam erus esse operam deputat parvi preti,
パルメノン(独白)きっと若旦那は俺の働きは必要がないと見てるんだな、
qui ob rem nullam misit frustra ubi totum desedi diem,800
くだらない仕事に送り出して、おかげで俺はまる一日を何もしないで無駄に過ごしたよ。
Myconium hospitem dum exspecto in arce Callidemidem.
丘の上でミュコノス島から来たカッリデミデスというお客さんを待って、
itaque ineptus hodie dum illi sedeo, ut quisque venerat,
バカな俺はそこで座っている間に誰か来ると、その度に
accedebam. ”adulescens, dicdum quaeso mi, es tu Myconius?”
「すいません、ちょっとお尋ねします、ミュコノス島からいらした方ですか?」と話しかける。すると
”non sum.” ”at Callidemides?” ”non.” ”hospitem ecquem Pamphilum
「いいえちがいます」「カッリデミデスさんでしょ?」「ちがいます」「パンピロスという
hic habes?” omnes negabant. neque eum quemquam esse arbitror.805
人の所に来られたんですか?」。全員が「違います」というんだ。これはそんな人はいないんだと思ったね。
denique hercle iam pudebat. abii. sed quid Bacchidem
最後にはきまりが悪くなってきて、帰ってきたよ。ところで、どうしてバッキス花魁が
ab nostro adfine exeuntem video? quid huic hic est rei(=quid rei)?
うちの隣から出てきたんだろう? 彼女はここへ何しに来たんだろう?
BA. Parmeno, opportune te offers. propere curre ad Pamphilum.
バッキス パルメノン、いい所に来てくれたわ。急いで若旦那のところへ行ってちょうだい。
PA. quid eo? BA. dic me orare ut veniat. PA. ad te? BA. immo ad Philumenam.
パルメノン どうしてですか? バッキス 私が来て欲しがってると伝えてちょうだい。パルメノン 花魁のところへですか? バッキス いいえ、ピロメーナさんのところです。
PA. quid rei est? BA. tua quod nil refert percontari desinas.810
パルメノン なんのために? バッキス 聞かないで、あなたには関係がないことだから。
PA. nil aliud dicam? BA. etiam. cognosse anulum illum Myrrinam
パルメノン ほかに何か伝えることはないですか? バッキス あるわ。ミュリナさんが
gnatae suae fuisse quem ipsus olim mi dederat. PA. scio.
自分の娘さんの指輪であることに気づいたことも。むかし若旦那が私にくれた指輪が。パルメノン わかりました。
tantumne est? BA. tantum. aderit continuo hoc ubi ex te audiverit.
それだけですか? バッキス それだけよ。若旦那はあなたからそれを聞いたらすぐに来るでしょう。
sed cessas? PA. minime equidem. nam hodie mihi potestas haud datast.
はやく行きなさい。パルメノン はいすぐに。今日はもうあっしには力が残っていないんですよ。
ita cursando atque ambulando totum hunc contrivi(<contero) diem.815
走ったり歩いたりして今日一日を使ってしまいましてね。(左へ去る)
BA. Quantam obtuli adventu meo laetitiam Pamphilo hodie!
バッキス(独白)今日私が来たことで若旦那はどれほど喜んでくれたでしょう。
quot commodas res attuli! quot autem ademi curas!
どれだけ幸せになったでしょう。どれほど安心したでしょう。
gnatum ei restituo, qui paene harunc ipsiusque opera periit.
彼女らと一緒になって殺しかけていた赤ん坊も私のお陰で助かったし、
uxorem, quam numquam est ratus posthac se habiturum, reddo.
あの人が別れると決めていた奥さんも私のお陰で戻ったし、
qua re suspectus suo patri et Phidippo fuit, exsolvi.820
自分の父親と舅さんから疑われていた疑惑も私のお陰で解消しました。
hic adeo his rebus anulus fuit initium inveniundis.
本当のことが分かったきっかけはこの指輪でした。
nam memini abhinc mensis decem fere ad me nocte prima
いまからおよそ10ヶ月前の夕方に、あの人は
confugere anhelantem domum sine comite, vini plenum,
酒に酔って一人で喘ぎながら私の家へ走ってきたわ。
cum hoc anulo. extimui ilico. ”mi Pamphile,” inquam ”amabo,
この指輪を持って。その場で私は心配になって、「お願いだから教えて、
quid exanimatu‘s,obsecro? aut unde anulum istum nactu‘s?825
どうして息を切らせているの、ねえ? どこでこの指輪を手に入れたの?
dic mi.” ille alias res agere se simulare. postquam id video,
教えて」と。彼はほかの事を考えている振りをしていました。私はそれを見て、
nescioquid suspicarier mage coepi, instare ut dicat.
さらに疑い始めました。彼にしゃべってくれと言いました。
homo se fatetur vi in via nescioquam compressisse,
そこで彼は誰か知らない女性を道で犯してきたと告白したのです。
dicitque sese illi anulum, dum luctat, detraxisse.
そして彼女と揉み合っているときに彼女の指輪を奪ったと言ったのです。
eum haec cognovit Myrrina in digito modo me habentem,830
さっきミュリナさんがその指輪を私がしているのを見つけて、
rogat unde sit. narro omnia haec. inde est cognitio facta
どこで手に入れたか聞いたので、私はすべてを話しました。それで
Philumenam compressam esse ab eo et filium inde hunc natum.
ピロメーナさんが彼に暴行されたこと、そのためにあの子が生まれたことが分かったのです。
haec tot propter me gaudia illi contigisse laetor.
彼にこんなに多くの喜ばしい出来事が私のお陰で起こって本当によかったわ。
etsi hoc meretrices aliae nolunt. neque enimst in rem nostram
こんなことはほかの遊女は喜ばないでしょうけどね。だって、私たちにとっては
ut quisquam amator nuptiis laetetur. verum ecastor 835
自分の恋人が他の女と幸せな結婚をするのは困ったことだからです。しかし、私は
numquam animum quaesti gratia ad malas adducam partis.
仕事のためにけちな真似をするに気には絶対になりません。
ego dum illo licitumst usa sum benigno et lepido et comi.
私が彼と付き合うことを許されている間、彼を優しいくていい人でした。
incommode mihi nuptiis evenit, factum fateor.
彼が結婚したことがわたしにとってつらかったのは認めます。
at pol me fecisse arbitror ne id merito mi eveniret.
しかし、私は捨てられて当然なことは決してしなかった。
multa ex quo fuerint commoda, eius incommoda aequomst ferre.840
彼のお陰でいろいろ楽しいことがあったのだから、彼のために泣かされても我慢するしかないわ。



Pamphilvs Parmeno Bacchis

V.iv
第五幕第四場 パンピロス、パルメノン、バッキス

(パンピロス、パルメノンと一緒に左手から登場)

PAM. Vide, mi Parmeno, etiam sodes ut mi haec certa et clara attuleris,
パンピロス パルメノンよ、その話は本当に確かな話なんだろうな、気をつけてくれよ。
ne me in breve conicias tempus gaudio hoc falso frui.
少しの間だけ糠喜びで僕を喜ばそうとしているんじゃないだろうね。
PAR. visumst. PAM. certen? PAR. certe. PAM. deus sum si hoc itast. PAR. verum reperies.
パルメノン 確かな話です。パンピロス 本当かい? パルメノン 本当です。パンピロス もしそれが本当なら僕は神だ。パルメノン 本当のことがお分かりになりますよ。
PAM. manedum sodes. timeo ne aliud credam atque aliud nunties.
パンピロス ちょっと待ってくれよ。お前が言ってることと僕の信じていることが食い違ってないか心配だ。
PAR. maneo. PAM. sic te dixe(inf.) opinor, invenisse Myrrinam845
パルメノン 待ちますよ。パンピロス お前の話では、僕の姑が
Bacchidem anulum suom habere. PAR. factum. PAM. eum quem olim ei dedi.
自分の指輪をバッキスがしている見つけたそうだな。パルメノン そうです。パンピロス その指輪は昔彼女が僕からもらったものだと言うんだな。
eaque hoc te mihi nuntiare iussit. itanest factum? PAR. ita, inquam.
そして、彼女はこの出来事を僕に伝えるように言ったのか? パルメノン その通りです。
PAM. quis me est fortunatior venustatisque adeo plenior?
パンピロス 僕はなんて運がいいんだろう。僕は本当に女性に恵まれた男だな。
egon pro hoc te nuntio qui donem? qui? qui? nescio.
僕にこの事を知らせてくれたお前にどんなお礼をしたらいいだろう。どうしよう、どうしよう。こまったなあ。
PAR. at ego scio. PAM. quid? PAR. nihilo enim.850
パルメノン そんなことはありません。パンピロス なんだって? パルメノン そんなもの要りませんよ。
nam neque in nuntio neque in me ipso tibi boni quid sit scio.
だって、あっしは伝言をお伝えしただけで何のお役にも立てなかったですよ。
PAM. egon (=te) qui ab Orco mortuom me reducem in lucem feceris
パンピロス 死にかけの僕を地獄から地上に生還させてくれたお前を
sinam sine munere a me abire? ah nimium me ignavom putas.
僕が褒美なしに帰らせる? 僕をそんなに駄目な男だと思っているんだね。
sed Bacchidem eccam video stare ante ostium.
ところで、バッキスがあそこの戸の前に立っているのが見える。
me exspectat credo. adibo. BA. salve, Pamphile.855
きっと僕を待っているんだろう。行ってみよう。バッキス ごきげんよう、若旦那。
PAM. o Bacchis, o mea Bacchis, servatrix mea!
パンピロス やあ、花魁、僕のバッキス、僕の救いの神よ!
BA. bene factum et volup est. PAM. factis ut credam facis.
バッキス どういたしまして、よかったですわ。パンピロス あれだけのことをしてくれたんだから、その言葉に嘘はないと信じるよ。
antiquamque adeo tuam venustatem obtines
ところで、君は相変わらずの美しさだなあ。
ut voluptati(様態の与格) obitus(出会い),sermo,adventus tuos, quoquomque adveneris,
君と会って話をするのは楽しいし、いつでもどこでも君が会いに来てくれるのは
semper siet. BA. at tu ecastor morem antiquom atque ingenium obtines860
うれしいよ。バッキス あなたも本当にお変わりありませんわ。
ut unus hominum homo te vivat numquam quisquam blandior.
世の中の男という男の中であなたほどやさしい人はいませんわ。
PAM. hahahae, tun mihi istuc? BA. recte amasti, Pamphile, uxorem tuam.
パンピロス ははは、相変わらずだな。 バッキス パンピロスさん、あなたはご自分の奥さんを好きなったのは当然のことですわ。
nam numquam ante hunc diem meis oculis eam, quod nossem, videram.
私は今日初めて彼女をこの目で拝見しましたが、
perliberalis visast. PAM. dic verum. BA. ita me di ament, Pamphile.
本当に素敵な奥さんですわ。パンピロス ねえ、本当のことを教えてくれ。バッキス 分かりました、若旦那。
PAM. dic mi, harunc rerum numquid dixti iam patri? BA. nil. PAM. neque opus est865
パンピロス 教えてくれ、指輪の事を君は何も親父には言っていないのかい? バッキス 言ってないわ。パンピロス この事は耳打ちする必要さえ
adeo muttito. placet non fieri hoc itidem ut in comoediis
ないんだ。喜劇にあるのと同じようにはしないほうがいい。喜劇では全員が
omnia omnes ubi resciscunt. hic quos par fuerat resciscere
全てを知るけど、ここで知っているべき人だけがは知ればいいんだ。
sciunt. quos non autem aequomst scire neque resciscent neque scient.
知るべきでない人は知らなくていいんだ。
BA. immo etiam qui hoc occultari facilius credas dabo.
バッキス この秘密が守られることをもっと信じられる理由を教えてあげますわ。
Myrrina ita Phidippo dixit iureiurando meo 870
だって、ミュリナさんは自分の旦那さんに「バッキスさんの誓いは信用できますから、
se fidem habuisse et propterea te sibi purgatum. PAM. optumest.
婿は無実です」とおっしゃったんですもの。パンピロス 最高だ。
speroque hanc rem esse eventuram nobis ex sententia.
僕たちの思い通りに事が進みそうだ。(バッキス、自分の家に入る)
PAR. ere, licetne scire ex te hodie, quid sit quod feci boni?
パルメノン 若旦那、あっしは今日若旦那のどんなお役に立てたたか教えてください。
aut quid istuc est quod vos agitis? PAM. non licet. PAR. tamen suspicor.
お二人で何のことを話していたのですか? パンピロス 教えられないよ。パルメノン でも疑わしいですねえ。
ego hunc ab Orco mortuom? quo pacto? PAM. nescis, Parmeno,875
(独白)俺がこの人を地獄からどうやって救いだしたんだろう? パンピロス お前にはわからない、パルメノン。
quantum hodie profueris mihi et ex quanta aerumna extraxeris.
どれほど今日お前が僕の役に立ってくれたか、どんな苦境から僕を救い出してくれたかは。
PAR. immo vero scio, neque imprudens feci. PAM. ego istuc satis scio. PAR. an
パルメノン(はったりで)いえ、あっしは分かってますよ。ちゃんと分かってやってました。パンピロス(はったりで)そうだろうさ。パルメノン そもそ も、
temere quicquam Parmeno praetereat quod facto usu‘ sit?
若旦那のお役に立てるのにそれををあっしがうっかり見逃したりするでしょうか?
PAM. sequere me intro, Parmeno. PAR. sequor. equidem plus hodie boni
パンピロス パルメノン、中へついてこい。パルメノン ついて行きます。(独白)今日までにがんばって
feci imprudens quam sciens ante hunc diem umquam. CANTOR. plaudite!
やってきたことより今日知らずにやったことのほうがお役に立てたらしい。合唱 拍手を!


Terence‘s text fromThe Latin Library,adapted to the new Loebversion.

参考文献 TERENCEEDITED AND TRANSLATED BY JOHN BARSBY (HARVARD UNIVERSITY PRESS 2001),
TERENCE THE COMEDIES TRANSLATED BY BETTY RACICE (PENGUIN CLASSICS 1965),
Terence‘s Comedies(Google eブックス)2 Samuel PatrickGilbert and Hodges, 1810 
Aelii Donati in Hecyram Terenti commentum
Elementary Latin Dictionary and A Latin Dictionary in Perseus.




Translated into Japanese by (c)Tomokazu Hanafusa 2012.1.18-11.12



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