テレンティウス作『宦官(かんがん、去勢された男)』

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登場人物


デメア 大旦那、パエドリアスとカエレアスの父

パエドリアス 若旦那、デメアの息子、タイスに惚れている

パルメノン デメアの召使

カエレアス 坊ちゃん、パエドリアスの弟、パンピラに惚れている

アンティポン カエレアスの友達

クレメース パンピラの兄

トラソン 軍人、兵隊さん、タイスの客

グナートン トラソンの取り巻き、太鼓持ち、食客

ドーロス 宦官、去勢された男、奄人(えんじん)

サンガス トラソンの料理人、召使

タイス 娼婦、花魁(おいらん)

ピュティアス タイスの侍女

ドリュアス タイスの侍女

パンピラ トラソンがタイスにプレゼントする娘。タイスの妹と思われているが、実はクレメースの妹。

ソフローナ パンピラの家の乳母



C.スルピキウス・アポリナリスによるあらすじ

 軍人のトラソンは、タイスの妹だと誤解されている娘を身元を知らずに連れてきてタイスにプレゼントする。実は彼女はアテナイ市民だった。タイスを恋するパエドリアスは、買っておいた宦官ドーロスをタイスに与えるように召使に命じて自分は田舎に去り、頼まれたとおりに二日間タイスをトラソンに譲ろうとした。パエドリアスの未成年の弟カエレアスが、タイスにプレゼントされた娘に惚れると、(パルメノンの勧めで)宦官の服を身にまとって、タイスの家に入り込み、娘を犯す。しかし、アテナイ市民である彼女の兄クレメースが見つかると、この兄は犯された娘をこの男カエレアスに嫁がせる。トラソンはパエドリアスと仲直りする。

プロローグ(略)


舞台はアテナイ、左にタイスの家、右にパエドリアスとカエレアスの家が並ぶ。右手が広場とトラソンの家、左手に港とアンティポンの家があり、左手の田舎にはパエドリアスの農園がある。


第1幕第1場 パエドリアス、パルメノン(パエドリアスが娼婦タイスの虜になっていることが明らかにされる場面)(46-)

(パエドリアスがパルメノンと一緒に家から出てくる)

パエドリアス それで結局僕はどうしたらいい? 花魁がわざわざ呼ぶんだから行くべきかなあ? それとも女の侮辱にはもう耐えられないと覚悟を決めるべきかなあ。彼女は僕をしめだしといて、また呼ぶんだよ。僕はまた行くべきかなあ。いいや、彼女にどんなにお願いされても、やっぱりやめておこう。(ここから自問自答)もし本当にお前にそれができるなら、それがベストだし一番男らしい。しかし、いったん始めておきながらそれを最後まで貫けずに、我慢できなくなって、向こうに来てくれとも言われないし、仲直りもしていないのに、彼女の所へのこのこ出かけて行くことになったら、こっちが惚れていて我慢出来ないことがばれてしまって、ゲームセット、万事休す。お前の負けだ。彼女は自分が勝ったと思ったらもうまともに相手にはしてくれなくなる。だから、まだ間に合う内に、よく考えないとだめだ。

パルメノン 若旦那、恋愛みたいに思慮分別とは無縁のものをあれこれ考えてもどうにもできませんよ。恋愛には厄介なことが全部含まれているのです。馬鹿にしたり、疑ったり、喧嘩したり、仲直りしたり、また喧嘩したかと思うと、また仲直りする。こんな訳のわからないものを理屈で考えてはっきりさせようとすると、くよくよしているうちにノイローゼにでもなるのが落ちですぜ。それに若旦那がいま怒りながら「あの女め!ほかの男の方がいいのか!僕を拒否するなんて!やめちまえ。死んだほうがましだ。彼女に僕がどういう男か見せてやる」などと考えておられましたが、そんな言葉も、若旦那は、彼女が目をこすって搾り出した嘘の涙を一滴でも見たら、あっという間に忘れてしまうんですよ。すると今度は逆に彼女が若旦那を責め始める。すると若旦那はまた彼女に償いをするんですよ。

パエドリアス ほんとに馬鹿げてるなあ。あの女が性悪女であることは知ってるんだよ。こっちは惨めなだけなこともね。もううんざりなんだ。でも好きなんだ。全部わかってるのに、生きたままで見ているまに破滅に向かっている。でも、どうすりゃいいか分からないんだ。

パルメノン どうすべきかっていうんですか? 出来るだけ安い手切れ金を払って自由の身になることですね。はした金で無理なら、出せるだけ出せばいいでしょう。そしてそんな悩みとはおさらばすることです。

パエドリアス お前はそれがいいと思うのか?

パルメノン 恋愛沙汰なんて元々悩ましいものなんですよ。だから、若旦那が賢かったら、これ以上恋の悩みをご自分で増やさないようにして、いまある悩みには立派に耐えることです。ところで、ほら、彼女が外に出てきましたよ。我が家の財産にとっての疫病神が。実際、我々がもらうべきものをあの女はピンはねしてるんですから。


第一幕第ニ場 タイス、パエドリアス、パルメノン(タイスがある軍人のためにパエドリアスに遠慮してもらいたい理由を明らかにする場面)(81-)

(タイスが自分の家から出てくる)

タイス(独白) 困ったわ。パエドリアスはあの事を怒ってるんじゃないかしら。昨日あの人を締めだしたことよ。あの人、誤解してなきゃいいんだけど。

パエドリアス(パルメノンに) パルメノンよ、僕は彼女を見たとたんに体中がぶるぶると震えだしたよ。

パルメノン(パエドリアスに)勇気を出して下さい。あの灯にもっと近寄れば、すぐに暖まって震えが止まりますよ。

タイス あそこで話しているのは誰かしら。あら、あなたなの? 私のパエドリアス? どうしてそんなところに立っているの。すぐに入っていらっしゃいよ。

パルメノン(傍白)今日は出てけとは言わないようですよ。

タイス どうして黙っているの?

パエドリアス(皮肉を込めて)それはもちろんこの扉が僕の前でいつも開いてるからさ。それに、僕は君にとって一番の男だからさ。

タイス そのことは忘れてよ。

パエドリアス 「忘れて」とはどういう意味だよ。ああ、タイス、タイス。この恋が僕の片思いじゃなくて君との両思いだったらなあ。この苦しみも僕と君とで一緒に分かちあえたのに。両思いだったら昨日君がした事も僕は全然気にならないのに。

タイス ねえ、もう自分を苦しめないでちょうだい、私のパエドリアス。神かけて、あなたより好きな人がいるから私はあんな事をしたんじゃなくってよ。あの時は事情があってそうしなければならなかったの。

パルメノン きっと、花魁は若旦那を愛するあまりに締めだしちまったんですね。よくあることでさ。

タイス そんなふうに言うの、パルメノン? よしてよ。(パエドリアスに)それより、何のためにあなたにここへ来てもらったかを言うから、聞いてちょうだい。

パエドリアス 言えよ。

タイス その前に、この人、口は堅いの? 

パルメノン あっしですか。大丈夫です。でもね、口外はいたしませんと約束するには一つ条件があります。あっしはねえ、人から聞いたことで本当のことについちゃあ絶対に人には漏らしません。秘密は守りますよ。でもね、嘘やいい加減な作り話だったら、すぐにばらしちまいます。あっしの体は穴だらけで、あちこちから漏れますよ。だから、花魁、もし秘密にしてほしかったら本当のことをおっしゃい。

タイス 私の母はサモスで生まれたのね。それからロードス島に来て暮らしたの。

パルメノン これは秘密に出来ますな。

タイス そこで、ある商売人が母に幼い少女をプレゼントしたのよ。その子はアテネからさらってきた子だったの。

パエドリアス アテナイ市民なのか。

タイス そう思うわ。でも、確かなことは分からない。その子は両親の名前を言ってたわ。でもどこで生まれたか知らなかったし、ほかに証拠になるようなものは何も持ってなかったの。まだ小さかったからそれは無理ね。商売人はこんなことも言っていたわ。この子は海賊から買ったんだけど、海賊の話では、スニオン岬でさらってきたというのよ。私の母はその子を受け取ってから、一生懸命に色んなことを教えて、まるで自分の娘のように育てたそうよ。世間の人達はその子のことを私の妹だと思っていたわ。私は当時お付き合いをしていた人が一人いて、その人とここに来たのね。私がいま持っている物は全部その人が残してくれ たものなの。

パルメノン この二つは嘘ですね。これは漏れますよ。

タイス どうしてよ。

パルメノン だって、あなたはたった一人で満足していなかったし、あなたに物をくれたのもたった一人じゃなかった。だって、この若旦那だって、あなたには多分の貢献をしていますよ。

タイス そりゃそうね。でも、話の先を続けさせてね。そうこうするうちに、私に惚れていた一人の軍人さんが、小アジアに旅立ったの。その間に私はあなたと出会ったのよ。それから私とあなたがどれほど親密なお付き合いをしているかは、あなたもご存知のとおりだわ。私が自分の考えを包み隠さずあなたに全部打ち明けてきたこともね。

パエドリアス パルメノンはこれは漏らすだろうね。

パルメノン これは嘘なんですか?

タイス ねえ、ちゃんと聞いてよ。最近、私の母が向こうで死んだの。母の弟は母よりお金儲けに貪欲な人なのね。で、その弟があの子の外見がいいのとギターが弾けるを見て、一儲けしようと、すぐさま市に出して売ってしまったのよ。たまたま運良くあの軍人さんがそこにいて、あの子をわたしへのプレゼントにするために買ったのよ。これまでの経緯は一切何も知らずにね。ところが、あの人が帰ってきて、私があなたともお付き合いしていることを知ってから、何かと理由を付けてあの娘を私にはやらないと言い出したのよ。曰く、彼があなたよりも好かれているという自信がもてたら、それで、あの子を私が手に入れても彼が私に見捨てられる心配がないとわかったら、あの子を私にやってもいいと。でも、その心配があると言うの。それで、私はぴんと来たのよ。あの人はあの子の方に気が移ってしまったんじゃないかと。

パエドリアス まだ手はつけてないのか。

タイス それは大丈夫、調べてあるの。パエドリアスさん、私があの子を引き取りたいと思う理由は色々あるの。まず、あの子は私の妹だと言われている事があるわ。それに、あの子を家族のもとに返してやりたいのよ。私は一人ぽっちで、ここでは友人も親戚もいないでしょ。だから、パエドリアスさん、私は人に親切にして友人を作りたいのよ。だから、お願い、それがうまくいくように、私を助けて欲しいの。この二、三日でいいのよ。私の一番いい人であるという立場をあの人に譲ってあげてほしいの。(パエドリアスは答えない)ねえ、どうなの? 

パエドリアス ひどいよ。こんなことをされて、僕に何を答えろというんだい。

パルメノン いいぞ、若旦那。やっとお怒りですね。それでこそ男だ。

パエドリアス 僕が君の話の本当の目的が分からなかったとでも思うのかい。「むかし幼い少女がこの町からさらわれたのよ。あたしの母が自分の娘同然に育てたの。その子はあたしの妹だと言われているわ。あたしはその子を引き取って家族に返してやりたいのよ」だなんて。だけど、この話の行き着く先はといえば、ぼくが締め出されて、あの男が迎え入れられるってことだろ。なぜなんだ。それは要するに、君が僕よりあの男のことが好きだからで、この町に来たあの少女にあの素晴らしい男を取られるのが心配だからだろ!

タイス 私がそんなことを心配してるっていうの? 

パエドリアス それ以外に君が何を心配しているんだよ。言ってくれ、君にプレゼントをくれるのはあの男だけなのかい? 僕の気前の良さには限度があると君は感じているのかい? 君がエチオピアの女奴隷を欲しいと言ったときにも、僕は全てを投げうって女奴隷を見つけ出してきたじゃないか? 次に「宦官が欲しいの。金持ちの女はみんなもってるから」と言ったときも、見つけてやったじゃないか。昨日二人のために代金の二〇ミナ(=二千ドラクマ)を払ってきたんだ。君にひどい扱いを受けても、これだけは忘れずにやったんじゃないか。そのお返しがまた締め出しなのかい。

タイス わかったわ、パエドリアス。私はあの子を引き取りたいし、そのためにはこうするのが一番いいと思うけど、でも、あなたに嫌われるのはいやだわ。あなたの言うとおりにします。

パエドリアス 「あなたに嫌われるのはいやだわ」というその言葉が、君の本心から出た言葉ならいいんだがなあ。もしその言葉が本当だと信じられるなら、僕はどんなことでも我慢できるのに。

パルメノン(傍白) 若旦那の怒りは早くも揺らいでいる。一言で陥落だな。

タイス 情けないわ。私が本心から言っていないというの? 戯れにもあなたが私に望んだことで叶わなかったことがあるかしら。それなのにあなたはたった二日我慢してという私のお願いさえも叶えてはくれないのね。

パエドリアス 本当に二日だけなのかい。それが二十日になったりしないよね。

タイス 大丈夫、二日だけだから。でも・・。

パエドリアス その「でも」はやめてくれ。

タイス やめておくわ。二日だけお願いね。

パエドリアス 分かった。好きなようにしたらいい。

タイス あなたは私が惚れた人だけのことはあるわ。ありがとう。

パエドリアス(独白) 僕は田舎に行くことにしよう。そこで僕は二日間痩せる思いをするんだ。僕はそうすると決めたよ。タイスの言うことを聞いてやるんだ。ねえ、パルメノン、君はあの二人をここへ連れてきてくれ。

パルメノン わかりました。

パエドリアス では、タイス、二日間だけど、元気でな。

タイス 私のパエドリアス、あなたもお元気でね。もうほかに何か言っておきたいことはないの。

パエドリアス 僕が何か言いたいことがあるかって? あの軍人と一緒の時にも、君は心までは一緒にならないで欲しい。昼も夜も僕の事を思って、僕を恋しがって、僕の夢を見て、僕を待ち焦がれて、僕のことを考えて、僕に期待して、僕を喜びとして、僕と一心同体でいて欲しいんだ。要するに、僕の心が君のものであるように、君の心も僕のものでいて欲しいんだ(パエドリアス、家に入る)。

タイス(独白)ああ、なさけない。きっとあの人はあたしのことを信じていないんだわ。私のことをほかの女と同じだと思っているんだわ。私は自分の身の程は知っているから、決して嘘はつかないし、あのパエドリアスより好きな人はほかにいないことは確かだわ。この件で私がしたことは全てあの子のためにしたことです。なぜって、どうやら私はあの子の兄弟を見つけたと思うからです。しっかりした家のとても立派な若者です。その人が今日わたしの家に来てくれることになっているんです。今から中へ入ってその人が来るの待つことにします。(タイス、家に入る)

第二幕第一場、パエドリアス、パルメノン(パエドリアスがタイスの望むままに田舎に出かける場面)(207-)

(パエドリアスがパルメノンといっしょに家から出てくる)

パエドリアス 僕が言ったとおりに、ちゃんと二人を渡してきてくれよ。

パルメノン わかりました。

パエドリアス ちゃんとやれよ。

パルメノン そうします。

パエドリアス すぐにやれよ。

パルメノン そうします。

パエドリアス よくわかったんだな。

パルメノン わかってますよ、難しいことはありませんから。若旦那がこうやって失う金を簡単に稼げる方法があったらいいんですがねえ。

パエドリアス 金どころか僕は自分を見失いそうだ。その方がもっと重大なことだよ。だから、そんなに惜しそうに言わないでくれ。

パルメノン わかりました。ちゃんとやっておきます。でも、ほかに何かお言い付けはありませんか。

パエドリアス 僕のプレゼントを出来るだけ褒めてほしいんだ。そしてあのライバルを出来るだけ彼女から遠ざけて欲しい。

パルメノン かしこまりました。若旦那の指図がなくてもそうしますよ。

パエドリアス 僕は田舎にいってそこにしばらくいるよ。

パルメノン それがよろしいかと。

パエドリアス おい、おまえ。

パルメノン 何ですか。

パエドリアス 僕は帰ってこずに頑張って辛抱できると思うかい。

パルメノン 若旦那がですか。あっしは絶対無理だと思いますがね。すぐに戻って来られるか、夜眠れなくなって戻って来てしままわれるか、どちらかでしょう。

パエドリアス 田んぼで働いて、疲れはてて、嫌でも眠れるようにするよ。

パルメノン 疲れても眠れないでしょう。そんなことしても疲れるだけで、同じ事ですよ。

パエドリアス おい、もういいよ、パルメノン。(独白)僕は自分の心の弱さを絶対に追い出すんだ。僕はあまりにも自分に甘すぎる。結局、僕という男は三日も彼女なしではすまないのか? 

パルメノン ええ! 三日も続けてですか? 大丈夫ですか。

パエドリアス 僕の決心は変わらないよ。(パエドリアス、田舎へ行く。左へ退場)

パルメノン(独白) 一体全体、これは何という病気だろう。あの花魁に惚れてから、あんなに人が変わってしまって、もう同じ人だとは思えないほどじゃないか。前はあれほど賢くて節度があってしっかりした人はいなかったのになあ。ところで、こっちへやって来るあの男は誰だろう。ああ、あれは確か軍人の太鼓持ちのグナートンだな。タイスへプレゼントする若い少女を連れている。おやまあ、綺麗な顔をした子だなあ。この調子だときっとこの俺は情けないことになるに違いない。こんな老いぼれた宦官を連れて来たんだから。あの子はタイスよりきれいじゃなか。

第二幕第二場 グナートン、パルメノン(軍人の太鼓持ちグナートンがパンピラをタイスに届ける場面)(232-)

グナートン(独白) 一体全体、人間の能力の違いはどこから来るんだろう。馬鹿と賢こはどこが違うんだろう。こんな考えが浮かんだのは、こんな事があったからなんだ。今日来る時に途中で俺と同じ仕事をしている同じ境遇の奴に出会った。悪い奴じゃないんだが、俺と同じように親の財産を食いつぶしちまった奴だ。モジャモジャ頭でむさくるしくて冴えない顔をしてボロをまとった年寄りさ。「ああ、なんていう格好してるんだ」と言うと、「運に見放されて身ぐるみ全部なくしちゃったんだよ。これが俺の成れの果ての姿さ。知り合いも友達もみんな知らんぷりなのさ」。俺は自分と引き比べてその男を軽蔑した。「どうしたんだ。情けないやつだな。そんなに自分に希望が持てないほど、よくもそこまで落ちぶれたものだな。金と一緒にオツムも捨てちまったのかい? 見ろよ、俺はお前と同じ境遇の人間なんだぜ。それがこの顔色、肌の艶、この出で立ち、この恰幅の良さだ。何も持っていないのに全てを持っている。何もないのに何も不足していないんだぜ」「残念だけど俺は人に笑われたり叩かれたりするのは苦手なんだよ」「何だって? 俺がそんなことしてると思っているのか。全然違う。かつての一時代前の大昔にはそんなやり方で商売をしていた頃もあったろうさ。しかし今では獲物を捕まえるやり方も違っているんだ。まあ、このやり方を発明したのは誰あろう俺様だけどね。実際は二流なのに何でも一流になりたがる連中がいるだろ。俺はそういう奴を狙うのさ。そういう人間を相手にして、俺が笑われるんじゃなくて、そいつらを笑ってやるのさ。それと同時に彼らの才能も褒めてやる。奴らが話すことは何でも褒めてやるのさ。相手が次に前と反対のことを言っても、また賛成する。否定すれば、こっちも否定する。肯定すれば、肯定してやる。要するに、どんなことにも合わせてやることにしたのさ。これが最近では一番儲かる商売のやり方なんだよ」

パルメノン(傍白) ほんとに賢い人だよ。この人の手にかかると馬鹿をああやってちゃんと馬鹿とわかるように見せてくれる。

グナートン(独白) 二人でこんなことをしゃべりながら、市場にやってくると、うまいもの屋の連中がみんな嬉しそうに俺を出迎えにきた。魚屋と肉屋に料理人、鶏屋に漁師たちだが、俺に金があったときに儲けさせてやったし金がなくなってからもよく儲けさせてやっている連中だ。やつらは、よく来てくれたと挨拶をして、俺を食事に招待してくれた。腹を減らしたさっきの惨めな男は、俺がこんなに大事にされて、こんなに容易く食い物を手に入れるのを見て、そのやり方を教えて欲しいと俺に懇願し始めた。それで俺は、よかったら俺の弟子にならないかと言ってやった。それで、哲学の学派がその名前を学者からつけるように、俺たち太鼓持ちのことをグナートン派と呼ばれるようにしたいんだよとね。

パルメノン(傍白、自分に対して)見たか、ぶらぶらして人の食い物を当てにする生活がどんなものかを。

グナートン それより早くこの娘をタイス花魁(おいらん)に引き渡して花魁を夕食に招待しなきゃ。だが、パルメノンの奴が家の戸口で浮かない顔をして立ってるぞ。あいつはうちの旦那の競争相手の召使だ。しめしめ。どうやらあいつらは花魁に冷たくあしらわれたらしい。あの能無しを一つからかってやることにしよう。

パルメノン(傍白) やつらはあのプレゼントでタイスの気持ちを勝ち取れると思ってるんだな。

グナートン グナートンから最高の友パルメノン殿に心からのご挨拶をさせて頂きますぞ。いかがお過ごしですか。

パルメノン 立ってお過ごしだよ。

グナートン なるほど。何かお目障りなものでもございますかな。

パルメノン お前だよ。

グナートン 確かに。ほかに何か?

パルメノン どういう意味だい?

グナートン 浮かない顔をされておられますから。

パルメノン 何でもないよ。

グナートン さぞかしそうでしょう。でも、この子をどう思われますか?

パルメノン 悪くはないね。

グナートン(傍白) 怒らせたようだ。

パルメノン(傍白) この男、ひどい勘違いをしているな。

グナートン このプレゼントはタイス嬢のお気に召すと思われますか?

パルメノン これで俺達をここから追い出したつもりなんだろ。だが見ておけ。どんなことにも運命の逆転はあるんだよ。

グナートン これからの半年間たっぷりあなたを休ませてさしあげますよ、パルメノンさん。もう上を下へと走りまわらなくていいし、朝まで夜更かししなくてもよくなりますよ。あなた、少しはうれしくないのですか? 

パルメノン 俺がかい。まったく大喜びだよ。

グナートン わたしはお友達にはいつもそうしているんです。

パルメノン すばらしいねえ。

グナートン お引き止めしましたね。多分どこかへお出かけのところだったのでしょう。

パルメノン いや、どこにも。

グナートン それならば、少しお助け願いませんか。花魁にお取次ぎを願いたいのですが。

パルメノン 大丈夫、行けよ。その子を連れてるんだからこの扉は開くさ。

グナートン(戸が簡単に開く、パルメノンに)中から誰か呼び出して欲しい人はないですか?(グナートン、パンピラとタイスの家に入る)

パルメノン(グナートンの背中に向けて)お前も今はツキが来てるから小指一本でこの扉をあけられるけど、これが二日経ってみろ、お前が何回蹴ってもこの扉は開かないようにしてやるからな。

グナートン(タイスの家から出てきて)そこにまだいらしたんですか、パルメノンさん? ここに残って見張ってるんですか? 軍人さんから彼女への使いがこっそり来ないかどうかを。(グナートン、右へ退場)

パルメノン(独白) 面白い事を言うねえ。あの男が軍人さんのお気に入りとは思えないね。おや、うちの若旦那の弟さんがこっちへ来るぞ。どうしてピラエウス港から出て来れたんだろう。兵役についている坊ちゃんは、あそこで番兵をやってるはずなんだが。何かわけがあるにちがいない。急いでやってくるぞ。何かを探してるようだな。

第二幕第三場 カエレアス、パルメノン(パンピラに一目惚れしたカエレアスが宦官の代わりにタイスの家に入り込むことを思いつく場面)(292-)

カエレアス(水兵の服装で登場、独白)畜生! あの子はどこにもいない。あの子を見失ってしまった。どこを探せばいいんだ、どこを調べたらいいんだ、誰に尋ねたらいいんだ、どの道を選べばいいんだ、まったく分からないよ。唯一の希望は、彼女ならどこにいたって、人目につかずにはいられないということだ。本当にきれいな子だからなあ。ほかの女のことは全部忘れてしまうくらいだよ。月並みな女たちの顔なんかもう見たくない。

パルメノン(傍白) ほら、またここにもう一人の方(ほう)が現れた。恋に浮かれて分けのわからないことをしゃべっているよ。大旦那様は気の毒だねえ。実際、この弟さんがもし本気になって、恋に狂って仕出かすことに比べたら、お兄さんの恋なんて子供だましとしか思われないだろうねえ。

カエレアス(独白)畜生、あの老いぼれ野郎、僕の邪魔をしやがって。それにあんな奴のために立ち止まって構ってやった僕も僕だよ。ところで、あそこにパルメノンがいるぞ。やあ。

パルメノン そんながっかりした顔をして、どうされました? それにひどく荒れてますね。どちらから来られましたか? 

カエレアス 僕かい。まったく分からないんだ。どっちから来たのかも、どこへ行くのかも。要するに、僕は完全に自分を見失ってしまったんだ。

パルメノン ねえ、いったいどうしたんですか?

カエレアス 僕は恋をしているんだ。

パルメノン ありゃりゃ。

カエレアス パルメノン、今こそお前の腕の見せどころだよ。いつも約束してくれていたよねえ、「カエレアス坊ちゃん、恋の相手をお見つけなさい。そういうことについてはこのあっしがお役に立てますぜ」ってね。あれは親父の食物を何でもこっそりとお前の部屋にどっさりと持って行ってやったときだったね。

パルメノン おやおや、馬鹿おっしゃいな。

カエレアス とうとうその相手を見つけたんだよ。だから、よかったら約束を果たしてくれないか。わざわざお前に力を発揮してもらう程のことならの話だけど。あの少女はそんじょそこらの女の子とは違うんだよ。今時の女の子たちは母親が撫で肩にして胸をまき付けて、細身に見えるようにやっきになっているだろ。娘が少しでもぽっちゃりしてくると、相撲取りにでもなるのかと言って、食事を抜いたりするんだ。たとえ素質はよくても、母親がそうやって世話を焼いて葦のように細くしてしまうのさ。それでも恋人を見つけられるんだからなあ。

パルメノン それで坊ちゃんの彼女はどうなんですか。

カエレアス そういうのとはぜんぜん違う美しさなんだよ。

パルメノン さぞかしそうなんでしょうなあ。

カエレアス 肌色が自然で、肉付きもよくて瑞々しくて。

パルメノン 歳は? 

カエレアス 歳は十六だな。

パルメノン まさに青春の花盛りですね。

カエレアス お前には、あの子を力づくでもペテンでも泣き落としでも何でもいいから、僕の手に渡して欲しいんだ。彼女が僕のものになるならその方法は問わないよ。

パルメノン ええ? それで誰の娘さんですか。

カエレアス 全然知らないんだ。

パルメノン どこから来た娘なんですか? 

カエレアス それも知らない。

パルメノン どこに住んでいるんです?

カエレアス それも知らない。

パルメノン どこで見かけたんです?

カエレアス 道で。

パルメノン そんな子を見失うなんて一体何をしてたんですか?

カエレアス そのことなんだよ。僕がここへ来るまでのあいだ、ずっと自分に怒っていたのは。こんなにすごい幸運に出会いながら、それが全部裏目に出てしまうだから。僕みたいなについていない奴はいないと思うよ。

パルメノン どんなまずいことがあったんですか?

カエレアス くそ。

パルメノン 何があったんです?

カエレアス 聞いてくれるかい。お前、うちの親戚で親父と同じ年格好のアルキデミデスさんを知っているかい? 

パルメノン もちろんですよ。

カエレアス 僕が彼女を追いかけている時に、その人が前からやってきたんだ。

パルメノン それは何とも残念でしたね。

カエレアス それどころか、災難だよ。残念というのはもっと他のことを言うんだよ、パルメノン。誓ってもいいけど、あの人とはこの六、七ヶ月全然会っていないんだよ。そんな人に今日みたいに、こっちは用もないし会いたくもない時に会うんだからなあ。こんなに妙なことがあるだろうか? えっ、どう思う?

パルメノン そうですねえ。

カエレアス その人が遠くからまっすぐに駆け寄ってきて、体を折り曲げて、震えたり、口を開けてゼイゼイ言ったりしながら、「ねえ、ねえ、カエレアス坊ちゃん、お願いしますよ」と言うんだ。僕は立ち止まったよ。「どうしてあたしが坊ちゃんを探していたか知ってますか?」「言えよ」「明日裁判なんですよ」「それで?」「お父様にちゃんとお伝えして欲しいんですよ。明日の朝、私の証人として来ていただく事をお忘れなきようにって」。あいつがこんな事を言っている間に一時間もたってしまったよ。ほかに何か用があるのかと聞くと、「大丈夫です」と言うんだ。それで別れて、女の子を探してこっちを見ると、ちょうど彼女はこっちの方角に曲がるところだったんだ。僕達の家のあるこの通りの方角にね。

パルメノン(傍白) この坊ちゃんがおっしゃっているのはきっと今花魁にプレゼントされた少女に違いないな。

カエレアス ところが僕がここに来た時には、もうあの子はどこにもいなかったんだよ。

パルメノン その少女にはたぶん何人か付き添いがついていたでしょう?

カエレアス そうだよ。太鼓持ちと女中が付いていた。

パルメノン(傍白) きっとあの子だ。(カエレアスに)その子はダメです。その子はおやめなさい。ゲームセットです。

カエレアス それは別の子の事だろ。

パルメノン いいえ。確かにその子です。

カエレアス おい、彼女のことを知っているのか。彼女を見たのかい。教えてくれよ。

パルメノン 彼女のことはあっしは見て存じています。連れ込まれた場所も知ってますよ。

カエレアス おや、僕の大切なパルメノンさん、お前は彼女を知ってるんだね? 彼女の居場所を知っているんですね?

パルメノン ここのタイスという花魁の家に入りました。花魁のプレゼントに贈られたんです。

カエレアス そんな豪華なプレゼントを出来る男ってどこの大金持ちなんだい? 

パルメノン トラソンという軍人です。うちの若旦那のライバルですよ。

カエレアス それじゃあ兄貴の負けだな。

パルメノン その通りです。お兄さんがあんなプレゼントに対抗して花魁に何を贈るかご存知ですか。もしご存知なら、よけいにそうお思いでしょうねえ。

カエレアス それは一体何なんだよ。

パルメノン 宦官でさ。

カエレアス ねえ、それは兄貴が昨日手に入れてきたあのみっともない年寄りのオトコ女のことかい。

パルメノン それです、それです。

カエレアス それじゃあ、兄貴はそのプレゼントもろとも蹴り出されるのがおちだな。でも、そのタイスって女が隣に住んでるとは知らなかったな。

パルメノン 最近のことですから。

カエレアス くそ、僕はそんな女なんか見たことないぞ。おい、教えてくれ、彼女はそんなに美人なのか? 

パルメノン 確かに。

カエレアス 僕の彼女と比べたら月とスッポンだろ?

パルメノン あの子は別物ですよ。

カエレアス ねえ、パルメノン、頼むから、あの子を僕のものになるようにしておくれよ。

パルメノン ひとつがんばってやってみましょう。あっしがお手伝いしますよ。それでほかに何か御用はありませんか?

カエレアス 今からお前、どこへ行くんだい?

パルメノン お屋敷ですよ。今からお兄さんの言いつけにしたがって、あの宦官たちをタイスのところへ連れていくんです。

カエレアス この家にはいれるとは、その宦官は幸せ者だなあ。

パルメノン どうして幸せなんですか。

カエレアス わかるだろ。この家の中であんな綺麗な女の子といっしょになって、いつも彼女を見ていられるし、彼女と話しができるし、彼女と同じ家にいられて、いつも一緒にご飯が食べれられて、時々はそばで眠られるんだよ。

パルメノン じゃあ、坊ちゃんがその幸せ者になれるとしたらどうです?

カエレアス どうやってなるんだよ、パルメノン。教えてくれよ。

パルメノン あの宦官の服を手に入れるんですよ。

カエレアス 服だって? それからどうするんだい?

パルメノン 宦官の代わりに坊ちゃんをあっしが連れて行くんです。

カエレアス それで? 

パルメノン 坊ちゃんのことを宦官だとあっしが言うんです。

カエレアス わかったぞ。

パルメノン 坊ちゃんはさっき宦官を羨やましく思ったまさにそのことをご自分で楽しめるんですよ。彼女と一緒にご飯を食べて、そばに居て、体に触れて、遊んで、近くで眠られますよ。仲間の女たちは誰も坊ちゃんの存在には気が付かないし、坊ちゃんが誰だか知らないんですからね。そのうえ、坊ちゃんの外見と年齢をもってすれば、簡単に宦官で通りますよ。

カエレアス よく教えてくれた。お前がこれまでにこんなにいいアドバイスをくれたことはなかったな。さあ、すぐに家に戻ろう。僕に服を着せて、急いで連れていってくれ。

パルメノン 坊ちゃん、何を考えてるんですか。さっきのは冗談ですよ。

カエレアス そんな馬鹿な。

パルメノン しまった。何てことをしてしまったんだ。(カエレアスに押されて)何で押すんですか? 倒れるじゃないですか。言ってるでしょう、やめてくださいよ。

カエレアス 入ろうよ。

パルメノン やるんですか。

カエレアス 僕は決めたんだ。

パルメノン こんなことをして厄介なことになったらどうするんですか。

カエレアス 大丈夫、そんなことはないよ。やらせてくれ。

パルメノン でもねえ、あとで叱られるのは私なんですから。

カエレアス(じれったそうに) もう。

パルメノン こんなことするのはよくないことですぜ。

カエレアス 僕が花魁の屋敷に連れ込まれることは悪いことなのかい! 兄貴や僕らを見下して、あらゆるやり方で僕達をいつも苦しめて堕落させてきた女たちに仕返しをするのが悪いことなのかい! あいつらに騙されてきたのと同じようにあいつらを騙すのが悪いことなのかい! それとも自分の父親をペテンにかけるほうが僕にはお似合いだとでも言うのかい! そんなことをして見つかったら誰だって怒るよ。でも花魁を騙したらみんなが褒めてくれるさ。

パルメノン わかりました。本気ならやりなさい。でも、あとであっしに罪をなすりつけないでくださいね。

カエレアス それはわかっている。

パルメノン どうしてもやるんですか。

カエレアス どうしてもやるかって? どうしてもだ。これは命令だ。僕は責任逃れを言わないよ。ついてこい。

パルメノン うまくいくといいんですけどねえ。(二人は大旦那の家に戻る)


第三幕第一場 トラソン、グナートン、パルメノン(トラソンの人柄とグナートンの策略を明らかにする場面)(391-)

(トラソンとグナートンが右手、広場の方角から登場)

トラソン 花魁はわしに大いに感謝しているのかね?

グナートン 大変なもんです。

トラソン 何だって? 喜んでくれたのかい? 

グナートン プレゼントを喜ぶというより、旦那さまから贈られたことのほうをお喜びです。本当に心から歓喜されていますよ。

パルメノン(独白) 坊ちゃんをいい頃合いにお連れしようと様子を見に来たんだが、あそこに軍人が来ているな。

トラソン わしは何をしても人に喜ばれるが、これはきっとわしの才能だな。

グナートン 本当に私もそう思っておりました。

トラソン 国王殿(=アレクサンダー大王の後継者たちを指す)は私のすることは何でもとても喜んでくれたからね。ほかの人の場合はそうは行かなかった。

グナートン 他人が苦労して手に入れた栄光を、賢い人はしばしば口先一つで我がものにできるのです。それが旦那です。

トラソン そのとおり。

グナートン だから国王はあなたを目に入れても痛くないほど 

トラソン そうだ。

グナートン かわいがって 

トラソン そうだ。わしに全軍を委ねて、作戦も委ねた。

グナートン すばらしい。

トラソン 国王は自分の家来に飽きたり仕事が嫌になった時や、息抜きをしたい時に、つまり、わかるか? 

グナートン 分かります。つまり、頭から雑念を吹き飛ばしたいときですね。

トラソン そのとおり。わしだけを食事の同伴者に呼び出したものだ。

グナートン なるほど。好みのうるさい国王様なのですね。

トラソン そうなんだ。国王はごく少数の人間しか近づけないんだよ。

グナートン(傍白)あんたと付き合ってるということは、きっとほかに誰にも付き合ってもらえないんだろうよ。

トラソン みんなはわしを妬んで、陰で悪口を言っていたよ。わしは気にはしなかったが、やらの妬みはひどいものだった。特にインド象を任されている男などはどうしようもないくらいで、あまりに失礼な時には言ってやったのさ。「ねえ、ストラトン、ゾウなんか扱ってるとやっぱり君も獰猛になるのかい」とね。

グナートン それはうまいこと言いましたね。さすがに、冴えてますね。それでは相手はいちころでしょう。で、そいつはどうなりました。

トラソン 急に黙ってしまったよ。

グナートン 当然ですね。

パルメノン(傍白) いやはや、どうしようもない奴だな。それにこちらも罰当たりなお人だ。

トラソン あれはどうだい、グナートン、どうやってわしがロードス人を宴会の席でやっつけたか、もうお前に言ったかな?

グナートン まだです。お願いします。(傍白)もう千回も聞いたよ。

トラソン 宴会の席にロードス島出身の一人の若者が同席していたんだよ。たまたま、わしは遊女を一人呼んでいた。ところが、その若者はその遊女といちゃついて私をからかい始めたのさ。そこでわしは言ってやったんだよ。「どういう積りだい。ふてい野郎だ。貴様ウサギの分際で狩りに出たつもりなのかい」ってね。

グナートン ははは。

トラソン どうだい。

グナートン うまい、すてき、すばらしい、絶品。ねえ、それは旦那の考えたセリフですか。昔から伝わっているセリフかと思いましたよ。

トラソン 聞いたことがあるのか。

グナートン よく聞きますよ。うまいと評判です。

トラソン だが、これはわしが考えたものだよ。

グナートン この言葉を向けられた無遠慮な若者は気の毒でしたな。

パルメノン(傍白)お前が気の毒になりゃいいんだ。

グナートン それでその男はどうしました。

トラソン 撃沈だな。その場にいた者たちは全員死ぬほど笑ったな。それからはみんながわしに気を使うようになったよ。

グナートン 当然でございますね。

トラソン ところで、おい、おまえ。あの少女のことだが、わしがあの少女に惚れているのではないかという花魁の疑いを晴らした方がいいのかな。

グナートン 駄目でございますよ。それどころか、もっと疑われるようになさいませ。

トラソン どうしてだ。

グナートン お分かりでしょう。花魁がパエドリアスのことを言って彼を褒めたら、旦那は腹が立つでございましょう? 

トラソン 腹が立つ。

グナートン そうならないための方法が一つありますよ。花魁がパエドリアスのことを言ったら、すぐに旦那はパンピラのことを言うんですよ。もし彼女が「パエドリアスさんを中に入れて楽しみましょう」といえば、パンピラを歌わせるために呼びましょうと言うのです。花魁がパエドリアスの美しさをほめたら、あなたは対抗してパンピラの美しさを褒めるのです。そうやって「目には目を」で返して彼女を困らせておやりなさいませ。

トラソン それは花魁が本当にわしに惚れている場合にはうまくいくだろうね、グナートン。

グナートン 花魁は旦那のプレゼントを待ち望んでいて、そのプレゼントを気に入っています。だから花魁はずっと旦那を気に入っているのです。だから花魁の気持ちを傷つけるのは簡単なことです。花魁がいつも心配しているのは、旦那を怒らせて自分が手に入れた宝をよそにやられてしまうことなんですから。

トラソン なるほどな。それには気が付かなかった。

グナートン そんな馬鹿な。じっくり考えてみなかっただけですよ。旦那がちょっと考えてたら、旦那はご自分で同じ事にもっと早く気づいておられるはずですから。


第三幕第ニ場 タイス、トラソン、グナートン、パルメノン、ピュティアス(軍人がタイスを迎えに来るときに、カエレアスが宦官の服を着てタイスの家に入る場面)(453-)


タイス いま私、軍人さんの声を聞いたような気がするわ。やっぱりだわ。あそこにいるわ。お元気? トラソンさん。

トラソン おお、わしのタイスよ、わたしの恋人よ、調子はどうだい。あのギター弾きの少女をプレゼントしたのだから、私を少しは愛してくれているかい? 

パルメノン(傍白)何と上品なことよ。最初の挨拶がこれだからね。

タイス あなたのことが大好きよ、当然だわ。

グナートン(タイスに)さあ、食事に行きましょう。何を待っているんです?

パルメノン(傍白)それに比べてこっちはどうだ。あれでも人から生まれたと言えるのか。

タイス よろしければ、すぐに参りますわ。

パルメノン 近寄って行って、いま出てきた振りをしよう。(タイスに)花魁、どこかへお出かけですか。

タイス おや、パルメノンさん、よくいらっしゃいましたわ。今から出かけますの。

パルメノン どちらへ。

タイス だって、この方が見えなくて?

パルメノン(タイスだけに)この人は知っておりますが、あっしは大嫌いでさあ。(大声で)よろしければ、うちの若旦那からの贈り物が届いておりますが。

トラソン 何をグズグズしているんだ。すぐに行こう。

パルメノン(トラソンに) お願いですから、ちょっと御勘弁なすって、花魁にプレゼントをさしあげて、ちょっとお話をする暇を下さいやし。

トラソン さぞかし、わしの綺麗なプレゼントに引けを取らない素敵なプレゼントだろうな。

パルメノン 見てのお楽しみでござい。(家の中へ)おい、そいつらに出て来いと言ってくれ。頼んでおいいた奴等だ。早くしろ。(エチオピアの女へ)こっちへ出てこい。この子が、はるばるエチオピアからきた娘です。

トラソン 三ミナだな。

グナートン ご名答。

パルメノン ドーロスはどこだ。こっちへこい。(カエレアスが宦官の服で出てくる)これがあなたの宦官です。何という品のある顔立ちでしょう。まさに青春のまっ盛りです。

タイス ほんとうに、ハンサムだわ。

パルメノン どうだい、グナートン。何か文句があるか。旦那はいかがです、トラソンさん? 黙っておられるということは、賞賛の気持ちの表れですな。(タイスに)この子をテストしてみて下さい。文学とレスリングと音楽と、自由人の若者が身につけておくべきことは、全部身につけていますよ。

トラソン(グナートンに)いざとなったら、わしはこの宦官をしらふでも・・・ 

パルメノン(タイスに)それにこのプレゼントをした若旦那は花魁を独り占めしようなんて了見はありませんぜ。戦いの話もしないし戦いの傷跡を見せびらかしたり、誰かさんみたいに花魁に通せんぼしたりしませんぜ。うちの若旦那は、花魁がご迷惑でない時、花魁の気が向いた時、花魁が都合のいい時に、迎え入れてくれるだけで満足なんです。

トラソン こいつがあの貧乏で貧素な主人に仕える召使だな。

グナートン 確かに、別の召使を雇う余裕があったら、こんな召使を我慢して使わないですよねえ。

パルメノン うるさいぞ。お前は最低の中でも最低の人間だな。お前、よくも、こんな軍人におべっかする気になったなあ。お前なら焼き場からでも食い物をかっぱらって来れるだろうに。

トラソン じゃあ、行こうか。

タイス それより、まず先にこの人たちを中へ入れて、必要な指図をしてきますわ。そのあとですぐに出て行きますわ。

トラソン(グナートンに)わしはもう行くぞ。お前は花魁のことを待っていてくれ。

パルメノン 将軍が花魁と一緒に歩くのは格好悪いんだな。(左へ去る)

トラソン(去っていくパルメノンに)お前にはこれだけ言えば沢山だ。「この主人にこの召使あり」とな。

グナートン ははは。

トラソン 何がおかしい。

グナートン 旦那がいまおっしゃったことですよ。それにロードス島の男に対しておっしゃった言葉も思い出したんですよ。おや、タイスが出てきました。

トラソン お前、先に行け、急いで行って、家の準備をしてこい。

グナートン わかりました。(グナートン去る) 

タイス(腰元をつれて家から出てくる)ピュティアスさん、もしクレメースさんがここに尋ねて来たら、丁寧にお迎えして、待っていただくようにお願いしてくださいね。それがお嫌なら、出直して下さるようにと言ってください。それがだめなら、クレメースさんを私のところへ寄越してちょうだいね。

ピュティアス わかりました(ピュティアス、タイスの家に入る)。 

タイス えっと? ほかに何を言うつもりだったのかしら。(自分の家の中に向かって)そうそう、あの少女の世話をちゃんとやるんですよ。家を空けないようにして下さいね。

トラソン 行こう。

タイス(腰元たちに)あなたたち、私について来なさい。



第三幕第三場 クレメース、ピュティアス(パンピラの兄クレメースがこれまでのいきさつ明らかにする場面)(507-)

クレメース(独白) 本当に、考えれば考えるほど、あのタイスという遊女は俺をとんでもない面倒に巻き込もうとしているにちがいない。初めて彼女に呼び出されて以来、俺は彼女の巧みな話術に引きずられっぱなしだ。花魁とはどういう関係かと言えば初対面なのだ。来てみると、彼女は俺を帰らせないために色々と口 実を出してくる。夕食の準備が出来たとか、大事な話があるとか言うんだ。それで俺はピンと来た。これは全部魂胆があってやっているんじゃないかと。彼女は俺の横に座って俺に身を任せるようにして話しかけてくる。話すことがなくなると、こんな事を聞き始めた。両親が亡くなってどれくらい経つのかと。俺は「大分長くなる」と答えた。それから、スンニー岬に農園は持っているか、それは海からどれほど離れているかと聞いてきた。きっと彼女はこれに目をつけて、それを俺から取り上げようとしていると思うんだ。それから、その別荘から俺の妹が居なくなりはしなかったか、妹と一緒に誰か居なくなりはしなかったか、居なくなった時に妹は何か持っていたか、誰か彼女を見分けられる人がいるか、と聞くのだ。どうして花魁はこんな質問するんだろう。きっと、厚かましくも自分こそは子供のときに居なくなった俺の妹だと言いだすにちがいない。しかし、あの子がもし生きていたとしても、まだ16歳程だ。花魁は俺より年上だぞ。その花魁がまた俺に来てくれと熱心に言ってきたんだ。そろそろ何が目当てかはっきり言ってほしい。さもなければ、もうほっといて欲しいんだ。もう俺は絶対に三度目は来ないぞ。(扉にノックしながら)おーい、おーい、誰かいるか。私だ。クレメースだ。

ピュティアス(出てきて)まあ、なんて素敵な方でしょう。

クレメース(傍白) 思ったとおりこれは罠だ。

ピュティアス 花魁はあなた様には是非とも明日(みょうにち)にいらして欲しいと申しておりました。

クレメース それならもう俺は町にはいないよ。

ピュティアス 是非ともそうお願いします。

クレメース それはできないと言っているだろ。

ピュティアス それでは花魁が帰るまで当家でお待ち下さい。

クレメース 無理だね。

ピュティアス どうしてですか、クレメースさま(クレメースの手を取ろうとする)。

クレメース 何するんだ、やめてくれ。

ピュティアス もしどちらも駄目だとおっしゃるのでしたら、お願いですから、花魁がいるところへ今からお出で下さい。

クレメース わかったよ。

ピュティアス(家の中へ向かって)ドリュアスちゃん、急いでこの方を軍人さんのところへご案内してちょうだい。


第三幕第四場 アンティポン(カエレアスが幹事でパーティーが開かれる予定だったことがカエレアスの友人のアンティポンによって明らかにされる)(539-)


アンティポン(軍服を着て港の方から登場、独白) 若者たちが昨日ペイラエウス港に集まって、今日持ち寄りでパーティーを開くことになった。カエレアスが幹事に選ばれたので、彼に前金が渡されて、場所と時 間は決まっている。だが、約束の時間は過ぎているのに、約束した場所の準備は出来ていないし、ご当人はどこにもいないときている。まったく呆れて開いた口がふさがらないよ。それで、僕があいつを探す役目をほかの奴らから仰せつかったというわけだ。で、ここまで来てあいつが家にいるかどうか見ているんだが。おや、タイスの家から出てくるのは一体誰だ? なんだ、あいつじゃないのか。そうだよ。あいつはまたなんていう奴だろう。なんであんな格好をしているんだ。一体何が起こっているんだ。驚かせてくれるなあ。まったくわけがわからないよ。何かしらないが、とにかく、何がどうなってるのかしばらく脇から観ていよう。


第三幕第五場 カエレアス、アンティポン(カエレアスがタイスの家に入り込んで望みを果たしたいきさつを語る場面)(549-)


カエレアス(タイスの家から出てくる、独白)誰かここにいるか? 誰もいない。誰かに跡をつけられているか。大丈夫だ。よし、もう喜びを爆発させてもいいぞ。やったあ。今なら僕は死んでもいい。死んでも構わない。そのうち人生の苦しみでこの幸福もきっと台無しにされてしまうんだ。それにしても、僕の事に興味を持って聞いてくれる人は誰もいないのか。僕と彼女の跡をつけてくる者はいない、僕に質問攻めする人はいない、僕がどうして興奮しているのか、どうして喜んでいるのか、僕はどこへ行くのか、どこからきたのか、どこでこんな服を手に入れたのか、僕は何をしようとしているのか、僕は正気なのか頭がおかしいのかなどと、僕に質問して困らせる人はいないのか。

アンティポン 僕が出て行ってあいつの望みを叶えてやるとするか。おい、カエレアス、お前はどうしてそんなに興奮しているんだい? その服装の狙いは何だい? 何を喜んでいるんだい。何をしようとしているんだい。お前は正気なのかい。どうして僕をじろじろ見てるんだい。どうして黙っているんだい。

カエレアス(アンティポンを抱擁して)ああ、嬉しい。やあ、ちょうどいま僕は誰よりも君に会いたいと思っていたんだよ。

アンティポン どうしたんだ、僕に話してくれよ。

カエレアス 僕の方も是非とも君に聞いて欲しいんだ。君は知っているかい、僕の兄貴が惚れこんでいるここの花魁のことを。

アンティポン 知ってるよ。確かタイスと言ったね。

カエレアス そのとおりだ。

アンティポン よく覚えているよ。

カエレアス 今日、その花魁のところにプレゼントとして一人の少女がやってきたんだ。彼女の美しさを君に説明する必要があるだろうか。僕がどれほど美人についてうるさいかは君も知っているだろう。僕はその少女に惚れてしまったんだ。

アンティポン まさか。

カエレアス 君だって実際に見たら最高だと言うにちがいないよ。あれこれ言う必要はない。僕は恋をしたのさ。幸いなことに、うちの家に兄貴がタイスのために買っておいた宦官がいて、まだタイスの家に連れていく前だったんだ。それで召使のパルメノンがアイデアを出してくれて僕はそれに乗ったというわけだ。

アンティポン それはどんなアイデアだい。

カエレアス 君は黙っていてくれたほうが話が早いよ。要するに、そいつと服を交換してそいつの代わりに僕がタイスの家に入りこむのさ。

アンティポン 宦官の代わりにかい。

カエレアス そうさ。

アンティポン そんなことをしてどんないいことがあるんだい。

カエレアス わかるだろ。彼女に会えるし、彼女の声が聞けるし、彼女と好きなだけ一緒にいられるんだよ、アンティポン。これが些細な動機だとでも言うのかい、これが間違った理由だと言うのかい。とにかく、僕は花魁のもとに送られたんだ。そして、花魁は僕を受け取ると、喜んで家の中に引き入れてくれた。そしてあの少女を僕に預けてくれたんだよ。

アンティポン 誰にだって? お前にかい? 

カエレアス そうだ。

アンティポン そんなことをしても大丈夫なのかい。

カエレアス 僕が言いつかった仕事は、男を少女に近づけないようにすることと、席を外さないようにすることだった。つまり奥の部屋で彼女と二人っきりで居ろというのさ。僕は慎ましく下を向いてうなずくだけだった。

アンティポン それは大変だな。

カエレアス 花魁は「わたしは食事に出かけてきます」と言って、腰元を何人も連れて出ていってしまった。あの子の周りに残ったのは若い子だけだ。その子たちもすぐにお風呂の準備を始めた。僕は彼女たちに風呂支度を急かせた。彼女たちが風呂の準備がしている間、少女のほうは部屋に座っていた。そして何か絵を見 ていた。それはこんな絵だった。ゼウスがダナエの懐の中に金の雨を降らせているところだ。僕もその絵を一緒に眺めはじめた。そして、むかしゼウスが僕と同じようにトリックを使っているところを見て、僕の気持ちはいよいよ高ぶってきた。神様が人の姿になって他人の家の屋根の上にやって来て、中庭の空をこっそり抜け て女をたぶらかしていたんだから。しかもそれは「大空を稲妻で揺さぶる神」ゼウスさまなのだ。か弱い人間の僕が同じことをしていけないはずはないじゃないか。 そういうわけで、僕も同じようやってみたんだよ。僕は躊躇しなかったね。僕がこの絵のことを考えていると、少女はお風呂が出来たと呼ばれた。それでお風呂にいって帰ってきた。それから女たちが少女をベッドに寝かせたのさ。僕は何か指図があるかと待っていた。すると一人の女が来て「ねえ、あんた、ドーロスさん、この団扇(うちわ)を取って、彼女をあおいであげてください。私たちはお風呂に入ってきますから。私たちのお風呂が終わったら、よかったらあなたもお入りなさいね」と言った。僕はしぶしぶ団 扇を受け取った。

アンティポン お前が、その時どんな恥知らずな顔をしていたか、どんな間抜けな格好をして、団扇を持っていたかを見てみたかったよ。

カエレアス その女はそう言うと、全員がすぐに部屋の外へ出て、風呂へ入りに行ったのさ。彼女たちは主人が居ないときによくあるように大騒ぎを始めた。その間に少女は寝入ってしまった。ぼくは少女を団扇の間からこっそりと盗み見た。それと同時に僕は大丈夫かどうか充分に方々(ほうぼう)見回した。大丈夫だとわかると、入り口にカンヌキを掛けたのさ。

アンティポン それで? 

カエレアス 決まってるだろ、この馬鹿。 

アンティポン そうだな。

カエレアス 僕が自分に与えられたこの束の間の喜びを、思いがけないこのチャンスを、見逃すと思うかい。もしそんなことをしたら、僕はまさに自分が演じていた宦官だということになってしまうよ。

アンティポン 本当に君の言うとおりだ。ところで、俺たちのパーティーはどうなった?

カエレアス 準備はできている。

アンティポン それはよかった。それで場所はどこだ? お前の家か?

カエレアス いや、番頭のディスカスの家だ。

アンティポン それは遠いね。急いで行こう。君は服を着替えろよ。

カエレアス どこで着替えようか。しまった。僕は家には帰れないんだ。兄貴が家にいたら困るし、父親が田舎から帰ってきていても困るんだ。

アンティポン 俺の家に行こう。一番近いから、そこで着替えればいい。

カエレアス そうだね。さあ行こう。途中で、あの少女をどうすれば僕だけのものに出来るか一緒に考えて欲しい。

アンティポン うん、そうしよう。


第四幕第一場 ドリュアス(軍人の食事の席にクレメースが同席して悶着になったことが明らかにされる場面)(615-)

タイスの侍女ドリュアスがトラソンの家の方向から登場。

ドリュアス(独白) ああ、どうしましよう。私が見てきた今日のあの軍人さんは、かっとなって面倒起こして、花魁に乱暴をするんじゃないかと、本当にはらはらさせられたわ。なぜって、あのパンピラという少女のお兄さんのクレメースという人が来てから、花魁がこの人を入れてあげてと軍人さんに頼むと、軍人さんは突然怒り出したのよ。でも、彼に断る勇気はなかったのよ。それで花魁は彼を是非入れてあげて欲しいとがんばったのよ。花魁はクレメースさんをずっと引き止めておきたかったのね。というのは、花魁がクレメースさんに妹さんの話を切り出すのはまだ早かったからなの。軍人さんはいやいやクレメースさんを引き入れたわ。それでクレメースさんも帰らずにいた。そこで花魁はクレメースさんとすぐに話しを始めたの。軍人さんは自分の目の前にライバルが現れたと思ったのね。それで花魁に腹いせをしようとしたの。「おい、ボーイ、パンピラをここへ呼べ、私の接待をさせるために」と彼は言ったの。すると花魁は「絶対にだめよ。あの子をパーティーに呼ぶなんて」と言い返したの。でも軍人は譲らなかったので口論になったの。その間に花魁は金の指輪をこっそりと外して、あたしに手渡して持って行かせたというわけ。これは出来るだけ早く抜け出すというサインだということを、あたしは知っているわ。 (パエドリアスが登場するが、ドリュアスは舞台に残る)


第四幕第二場 パエドリアス、(ドリュアス)(パエドリアスが田舎からすぐに帰ってきた理由を語る場面)(629-)


パエドリアス 心に悩み事がある時には誰にもよくあるように、田舎へ行く途中、僕の頭には次から次へと考えが浮かんできて、しかも全てが悪い事にばかり。そして、あれやこれやと考えている間に、僕はいつの間にか目的の村を通りすぎてしまっていたんだ。気がついた時には、もうだいぶ遠くまで来てしまっていた。僕は憂鬱な気持ちで後戻りをした。そして曲がり角に来た所で立ち止まった。そして、また考え始めた。「ほんとうに二日もここで彼女なしに一人で過ごさないといけないのだろうか。一体それで何が得られるというんだ。何もないじゃないか。これはどういうことなんだ。彼女に触れることが許されないということは、彼女を見ることも許されないということだろうか。触れるのは駄目でも見るのはいいだろう。遠くから眺めるだけでも何も無いよりましだ」とね。今度は僕はわざと村を通り過ぎた。ところで、タイスの腰元が慌てた顔をして飛び出てきたのはどうしてだろう。


第四幕第三場 ピュティアス、ドリュアス、パエドリアス(カエレアスが実際に何をしたかが侍女の口から明らかにされる場面)(643-)


ピュティアス(独白)どこへ行った、あの恥知らずの破廉恥男は。どこを探せばいいんだろう。それにしても、あんな大それた無茶苦茶な事をやってのけるとは! 

パエドリアス(傍白)畜生、これはどういうことなんだ、とても気になる。

ピュティアス 何よりひどいのは、少女をもてあそんだだけじゃなくて、可哀想に、あの子の着ているものを全部引き裂いて、髪の毛までも引きちぎって行ったのよ。

パエドリアス(傍白)えっ、なんだって?

ピュティアス いまあいつを引き渡してくれたら、すぐさまあの顔をめがけて飛びかかって、ひっかいてやるわ。

パエドリアス(傍白)僕が家にいない間に何か一騒動あったらしい。行ってみよう。(ピュティアスに)どうしたんだい? 何を慌てているんだ。誰を探しているんだよ? ピュティアス?

ピュティアス ああ、パエドリアスの若旦那、あたしが誰を探してるかって? あんたは自分が持ってきたあの気の利いたプレゼントをもって、どこかへ消えてしまえばいいのよ。

パエドリアス 何があったんだい?

ピュティアス 分かってるんでしょう、あんたがうちに連れてきたあの宦官が何をしてくれたかを? 花魁のプレゼントにと軍人さんが連れてきた少女に乱暴を働いたんですよ!

パエドリアス どういうことなんだ。 

ピュティアス 畜生!

パエドリアス お前、酔っ払ってるな。

ピュティアス こんな酔い方をするなんて、わたしは嫌ですよ。

ドリュアス(帰ってきたばかりで事情を知らない) まあ、ピュティアス、どんなひどいことがあったの?

パエドリアス(ピュティアスに)おまえ、頭がおかしいんじゃないか。どうして去勢された男が・・・。

ピュティアス あいつが誰だかは知らないけど、あいつがしたことは、事実が物語ってるわ。少女は泣いてばかりいて、何があったか聞いても何も言わないのよ。あの立派な男はとんずらしてしまったわ。ああ、情けない。あいつはきっと屋敷から何か盗んでいったんだわ。

パエドリアス あの老いぼれだよ。うちに帰っていなければ、そんなに遠くへ行っているはずがないよ。

ピュティアス お願いするわ、帰っているか見てきてちょうだい。

パエドリアス 必ず教えるよ。

ドリュアス まあ、どうしましょう。こんな無茶苦茶な話は聞いたことがないわ。

ピュティアス 宦官はとても女好きだけど何も出来ないって聞いたことがあるわ。でも、あんなことするなんて思いもよらなかったわ。さもなきゃ、あの男は別の部屋に閉じ込めて、けっして少女を任せたりしなかったわよ。


第四幕第四場 パエドリアス、ドーロス、ピュティアス、ドリュアス(パエドリアスが弟のやった狼藉を知る場面)(668-)


パエドリアス(家の中の宦官ドーロスに)おいこの馬鹿、出てこい、逆らうのか、ごろつき。表へ来い。この出来損ない。

ドーロス お願いしますよ。

パエドリアス ああ、これを見ろ、顔を引きつらしてるよ。この極悪人めが。なんで帰ってきているんだよ。何で服が違うんだよ。どう説明するんだ。(ピュティアスに)もう少し遅れたら、家の中に見つからなかったところだよ。逃げる準備をしていたからね。

ピュティアス あの人を捕まえたの? ねえ。

パエドリアス 当然だよ。

ピュティアス それはよかったわ。

ドリュアス 本当にそれはよかったですわ。

ピュティアス(見回して)それで、どこにいるのよ。

パエドリアス わかるだろ、見えないのか。

ピュティアス 見えないわよ。ねえ、その人は誰なの?

パエドリアス こいつだよ。

ピュティアス この人は誰なの?

パエドリアス 今日おたくに連れていかれた奴だよ。

ピュティアス こんな人見たことはないわ、若旦那。

パエドリアス 見たことないって? 

ピュティアス あのねえ、あなたはこの人がうちへ連れてこられたと思っているの?

パエドリアス だって、ほかに誰がいるんだよ。

ピュティアス まあ、この人はさっきの人とは比べものにならないわ。さっきの人はハンサムで育ちがよさそうだったんだもの。

パエドリアス さっきは色とりどりの服で着飾っていたから、そう見えたんだろ。今はその服を着ていないからひどく見えるんだよ。

ピュティアス お願い、ちょっと黙ってよ。ぜんぜん違うんだから。うちに今日連れてこられたのは若い人だったわ。あの人だったらあなたも一目見たいと思うはずよ、若旦那。この人は皺くちゃだらけ草臥れたお爺ちゃんじゃないの。それにイタチみたいな色をしてるわ。

パエドリアス 畜生、何を分けのわからないことを言ってるんだ。僕の頭を混乱させて、僕が自分で何をしたのか分からないようにする積りなのかい。(ドーロスに)おい、お前、お前を買ったのは確かに僕だな?

ドーロス 若旦那です。

ピュティアス 今度は私の質問に答えるようにその人に言ってよ。

パエドリアス 質問したらいいさ。

ピュティアス あんたは今日うちに来た?(パエドリアスに)違うと言ってるわ。若旦那の召使のパルメノンが連れてきたのは全然別人で年も十六ぐらいだったわよ。

パエドリアス(ドーロスに)さあ、おまえ、まずこの事から説明しろ。お前が今着ている服はどこから手に入れたんだ。答えないつもりか? このオカマ野郎。口が聞けないのか。

ドーロス カエレアス坊ちゃんがいらしたんですよお。

パエドリアス 僕の弟が来たのか?

ドーロス そうですよ。

パエドリアス いつのことだよ。

ドーロス 今日です。

パエドリアス 今日のいつだよ。

ドーロス ついさっきですよ。

パエドリアス 誰と一緒にいた?

ドーロス 召使のパルメノンさんとですよ。

パエドリアス お前は僕の弟を前から知っていたのか?

ドーロス いいえ。聞いたこともありませんよ。

パエドリアス じゃあ、どうしてぼくの弟だと分かったんだ。

ドーロス パルメノンさんがそう言ってましたから。この服は弟さんがくれたんですよ。

パエドリアス これは参ったな。

ドーロス そして、弟さんは私の服を着たんです。その後、二人は一緒に出かけて行きました。

ピュティアス これでもう私が酔っぱらっていないことも、嘘をついていないことがわかったでしょう? そして、これで少女が乱暴されたことがもうはっきりしたでしょ? 

パエドリアス 馬鹿を言うなよ。こんな奴の言うことを信用するのかい?

ピュティアス この人を信じる必要はないわよ。事実が物語っていますから。

パエドリアス(ドーロスに)お前、ちょっとこっちへ来い。聞こえるかい? もうちょっと来い。それでいい。ちょっと、もう一回言ってくれ。弟がお前の服を奪ったのか?

ドーロス そうですよ。

パエドリアス で、弟はそれを着たのか?

ドーロス そうですよ。

パエドリアス で、お前の代わりにこの家に連れていかれたのか?

ドーロス そのとおりです。

パエドリアス ああ、なんということだ。いまいましい馬鹿野郎めが。

ピュティアス(盗み聞きして)いい加減にしてよ、これでもまだ、私達がひどい目にあって弄ばれたことが嘘だというの?

パエドリアス(ピュティアスを馬鹿にして) きっとお前はこの男の言うことを信じたんだな。(独白)面倒な事になったぞ。(ドーロスに)おい、もう一回聞くから否定するんだぞ。 (ピュティアスに聞こえるように)さあ、今こそお前の口から本当のことを聞き出してやるぞ。お前は僕の弟のカエレアスに会ったのか? 

ドーロス いいえ。

パエドリアス お前は痛い目に会わないと本当のことを言えないのか。わかった。こっちへこい。(ピュティアスに)あいつはハイと言ったりイイエと言ったり、いい加減な奴なんだ。(ドーロスに傍白)僕に懇願するんだ。

ドーロス 本当にお願いしますよ、若旦那。

パエドリアス もう中へ入れ。

ドーロス(パエドリアスに蹴られる) 痛い。

パエドリアス(独白) 面子を損なわずにこの状況を切り抜けるにはこうするしかないんだ。(中のドーロスに)この能なしめ、僕の事をもう一度からかったりしたら、こうなるんだぞ。(パエドリアスも家に入る)

ピュティアス(ドリュアスに) これが召使のパルメノンの策略なのは火を見るより明らかだわね。

ドリュアス そうよ。

ピュティアス 絶対にこの仕返しをする機会をすぐに見つけてやるからね。ねえ、どうしたらいいと思う、ドリュアス? 

ドリュアス あの少女のために仕返しをするのね? 

ピュティアス そうよ。このことを黙ってるほうがいいかしら、それとも言い触らしてやるのがいいかしら。

ドリュアス それはもちろん、あんたが賢ければ、あんたが自分で分かるでしょ、宦官のことも少女が乱暴されたことも知らないことにするのよ。そうすれば、あんたはこのごたごたから解放されるし、彼女にも感謝されるわよ。だから、ドーロスが居なくなったことだけを言ったらいいわ。

ピュティアス そうするわ。

ドリュアス ところで、あそこに来るのはクレメースさんかしら。花魁がもうすぐ到着するわね。

ピュティアス どうして? 

ドリュアス わたしが帰る時、もめごとが始まっていたのよ。

ピュティアス その指輪はしまっておきなさい。わたしはあの人から何があったか訊き出すから。



第四幕第五場 クレメース、ピュティアス(クレメースがタイスの家に戻ってくる場面)(727-)


クレメース(独白)まったくいっぱい食わされたよ。それにひどく酔ってしまった。座っていた時にはぜんぜん酔ってないと思っていたんだが、立ち上がってからは足も頭も言うことを聞かない。

ピュティアス クレメースさん。

クレメース 誰だい、ああ、ピュティアスさんか。さっきよりずいぶん綺麗になったじゃないか。

ピュティアス 旦那もずいぶんご機嫌なご様子ですね。

クレメース 「恋心は食べ物と酒で熱くなる」という諺は本当だったね。ところで、花魁はだいぶ前に着いたのかい? 

ピュティアス えっ、花魁は軍人のところからもうお帰りになったんですか?

クレメース とっくの昔に帰ったよ。ひどい喧嘩になってしまってね。

ピュティアス 花魁は旦那について来るように言わなかったんですか。

クレメース 帰るときに合図をしてくれたが、それだけだよ。

ピュティアス まあ! それでたくさんじゃないですか。

クレメース 私は何の合図だか分からなかったんだ。でも私が分からなったことを軍人さんが教えてくれたよ。つまり、私を外へ追い出したんだよ。あっ、花魁があそこに来たようだ。私は彼女をどこで追い越したのかなあ。


第四幕第五場 タイス、クレメース、ピュティアス(軍人が少女を取り返しに来ることをタイスがクレメースに知らせて準備する場面)(739-)


タイス
(独白)軍人さんが少女を私から取り上げるために、もうそろそろ来る頃だわ。でもあの人がもし少女に指一本でも触れたりしたら、私はあの人の目ん玉を繰り抜いてやるわ。あの人の馬鹿話と自慢話は我慢できる。それが口だけのことならね。でも、実際に行動に出てきたら袋叩きにしてやるわよ。

クレメース 花魁、私はずっとここにいましたよ。

タイス ああ、クレメースさん。旦那のことをお探ししていましたわ。この騒動は元をたどればあなたが原因だということを知っていらして? これは全部旦那のためだということを。

クレメース 私のため? どうしてそうなるんです?

タイス 私は旦那に妹さんを返そうとして、あれこれしている間に、こんな事になったんですよ。

クレメース あの子はどこにいるんですか?

タイス あたしのうちにいるんです。

クレメース なんですって? 

タイス どうしたんです? 彼女は本人から見ても旦那がご覧になって恥ずかしくないほど立派に成長していますよ。

クレメース それは本当ですか? 

タイス 本当ですとも。私はあの子を旦那にプレゼントしますわ。もちろん何の見返りも要求せずにね。

クレメース 私は受けた恩義は必ず返しますよ、花魁、あなたにはその資格がありますから。

タイス ただし、あの子を私から受け取る前に人に奪われないようにしてくださいね、旦那。軍人さんが今からあの子を取り返しに来ますから。ピュティアスさん、証拠の品の入った箱を家から持ってきてちょうだい。

クレメース 花魁、あの軍人がもう来ましたよ。 花魁が- 

ピュティアス(出てきてタイスに)箱はどこにあるんですか。

タイス トランクの中よ。ぐずねえ。

クレメース あの軍人は花魁のところへいったい何人連れてくるんだ。全くのところ。

タイス 旦那は恐がっているんじゃないでしょうね? 

クレメース まさか。私が怖がってるですって? 私ほど恐さ知らずで生きてきた男はいませんよ。

タイス そう来なくては。

クレメース 私を見損なわってもらっては困ります。

タイス そんなことはありませんわ。次のことは覚えておいてくださいね、この件に関わっているあの軍人さんは外国の人で、旦那ほどの力もなく、知名度もなくて、友人も少ないということを。

クレメース それは知ってます。避けられるトラブルを引き起こすのは賢明ではありませんから。被害を受けたあとで仕返しするよりは、被害は予防する方がいいと思います。花魁は中にはいって内側から鍵を掛けておいて下さい。その間に私は広場までひとっ走り行ってきます。この問題では助っ人がいるほうがいいと思いますので。

タイス お待ちなさい。

クレメース その方がいいですよ。

タイス だめ!

クレメース すぐに戻ってきますから。

タイス 助っ人なんか要らないわ、旦那。これだけを言って下さいな。「少女はおれの妹で子供の時に居なくなったけれど、きょう再会したんだ」と。そして証拠を見せるんですよ。

ピュティアス(箱を持って戻る)証拠の品はここにあります。

タイス(クレメースに箱を渡す)これですよ。もし相手が力ずくでやってきたら、法廷に引き出すしかないですわ。分かりましたか? 

クレメース 確かに。

タイス がんばってそれだけは言ってちょうだいね。

クレメース やってみましょう。

タイス さあ、用意はいいですか。(傍白)これは駄目だわ。頼みの綱と思ってるこの人が、助っ人を必要としているだもの。



第四幕第七場 トラソン、グナートン、サンガス、クレメース、タイス(トラソンが仲間を連れてタイスに少女の返還を要求する場面)(771-)


トラソン グナートン、どうしてこのわしが公衆の面前で侮辱されなきゃいけないんだ? こんなことなら死んだほうがましだ。シマリオン、ドナクス、シュリスクス、ついて来い。まずは家からやっつけよう。

グナートン それがいいですね。

トラソン 少女を取り返すのだ。

グナートン そのとおり。

トラソン 花魁をたっぷりと懲らしめてやる。

グナートン まったくだ。

トラソン ドナクス、お前は金テコを持って真ん中に立て。 シマリオン、お前は左側を担当しろ。シュリスクス、お前は右側だ。ほかのやつらも付いて来い。百人隊長のサンガスと盗賊団はどこへ行った。

サンガス ここに来ております。

トラソン どうしたんだ、この役立たずども、そんなスポンジなんか持って来て。それで戦うつもりか。

サンガス 私のことですありますか? 将軍の勇敢さと兵士たちの力は存じております。戦いは血を見ずには終わりません。傷の血を拭くための備えが必要だと思いまして。

トラソン ほかの奴らはどこだ。

グナートン ほかの奴らって誰です。あとはサニオーだけですが、家で仕事をしてますよ。

トラソン お前にこの隊列を任せるぞ。わしは最前線の後ろに陣取ることにする。そこからみんなに指図するからな。

グナートン(傍白)これは賢こいやり方だな。こいつらを並ばせたら自分は隠れちゃったよ。

トラソン これはかのピュロス将軍が好んだ作戦だ。

クレメース(タイスに)花魁、あの男は何をしようとしてるかわかりますか。確かに、家を閉めたのはいい考えでしたね。

タイス(クレメースに)あの男はあなたの目にはすごい男に見えるかもしれないけれど、所詮はウドの大木よ。怖がることはないわ。

トラソン(グナートンに)情勢はどうだ? 

グナートン 旦那に投石機があることが望ましいですね。そうすれば、離れた所から隠れていて、あいつらをやっつけられるんですが。それで敵は退却しますよ。

トラソン 花魁があそこに出て来ているじゃないか。

グナートン すぐに突撃しますか。

トラソン 待て。武力を使う前にほかの手段を全部試してみるのが賢明だ。たぶん彼女は武力を使わなくてもわしの言うとおりにするぞ。

グナートン いやまったく、知恵がある事は何とすばらしいことでしょう。あなたに近づくたびにあっしは一つ賢くなりますよ。

トラソン 花魁! まずこの事に答えてくれ。わしがあの少女をあんたにプレゼントしたとき、あんたは数日間わしだけのものになってくれると言ったね。

タイス それがどうしたというのよ?

トラソン そうじゃないか。ところが、あんたはわしの目の前に自分のいい人を連れてきたんだ。

タイス その人がどうだというのよ?

トラソン あんたはその男とわしの前から消えてしまったんだ。

タイス あたしはそうしたかったからそうしたのよ。

トラソン それなら、少女を返してくれ。もし力ずくで奪われたくなかったらな。

クレメース 少女をお前に返すだと? あんたはあの子に指一本でも触れたら・・よりによって・・。 

グナートン 何を言ってるんだ。黙ってろ。

トラソン あんたは何が言いたいんだ。わしが自分の女に触れてはならんのか。

クレメース 自分の女だと? このゴロツキめ。

グナートン 口に気をつけたほうがいいぜ。あんたは誰にそんな口の聞き方をしているのか知らないのか。

クレメース(グナートンに)お前は引っ込んでろ。(トラソンに)本当の事情をあんたは知っているのか? もしあんたがここで面倒を起こしたら、あんたはこの日この場所この私のことを永遠に忘れられないようにしてやる。

グナートン(クレメースに)あんたも哀れなやつだ。こんな立派な人を敵にまわすなんて。

クレメース(トラソンに) さっさと帰らないとあんたの頭を叩き割ってやるぞ。

グナートン 本気で言ってるのか、このゴロツキめ。お前、そういう態度でいいのか?

トラソン(クレメースに)あんたは何者だ? 何が望みなんだ? この件と何の関係があるんだ?

クレメース(トラソンに)教えてやる。まず第一にあの少女は自由人だぞ。

トラソン え、なんだって。

クレメース アテナイ市民だ。

トラソン 嘘だろ。

クレメース 私の妹だ。

トラソン 図々しいことを言うやつだ。

クレメース 軍人さん、言っとくがあんたは少女に手出しをしてはならんぞ。(タイスに)花魁、私は証拠の品を見せてやるために乳母を連れて来ますよ。

トラソン(クレメースに)わしが自分の女に触れることをあんたは拒否するというのか、

クレメース 断る。

グナートン(トラソンに)聞きましたか。この男は人のものを盗んだことを告白しているんですよ。

クレメース(トラソンに)これで満足なのか。(乳母を呼びに退場)

トラソン 花魁も同じ考えなのか?

タイス 他の人にお聞き。あたしはもうあんたの相手をする気はないわ。(家の中へ退場)。

トラソン(グナートンに)さあどうしたらいいかな?

グナートン 帰りましょうや。そうすりゃ、花魁が自分の方から折れてきますよ。

トラソン そう思うか。

グナートン 確実です。私は女の本性はよく知っています。女というものは、こっちが求めるときにはすげなくて、こっちがすげなくすると求めてくるものですから。

トラソン なるほど。

グナートン もう軍隊は解散しますか? 

トラソン 好きにしろ。

グナートン サンガス、兵士に相応しく立派にふるまうんだ。そして、もと通りに家と台所のことを思いだせ。

サンガス もうずっと前から料理のことしか考えてないよ。

グナートン よろしい。

トラソン 全員わしのあとについてこい。(全員左へ去る)


第五幕第一場 タイス、ピュティアス(パンピラに暴行したのがカエレアスであることをタイスが知る場面)(817-)

(タイスがピュティアスと家から出てくる)

タイス 馬鹿ね、いつまでそんなわけの分からないことを言っているつもりなの? 私は知ってるけど知らないとか、犯人はもういないけれど私は聞いたとか、私はその場には居なかったとか。あなた、もっと分かるようにと言ってくれないこと? 少女は服がぼろぼろに破られて、何も言わずに泣いているわ。宦官は居ないし、どうしてなの。何があったの? 黙ってるつもりなの?

ピュティアス 花魁に何からお知らせしたらいいかしら。あの男は宦官じゃなかったとみんなは言っていますよ。

タイス それでは誰だったのよ。

ピュティアス カエレアスさんだと。

タイス カエレアスって誰なの? 

ピュティアス 若旦那の弟さんですよ。いま兵役中の。

タイス どういうことよ、嘘でしょ。

ピュティアス でも、これはちゃんと確かめました。

タイス それでその人が私たちと何の関係があるのよ? その人がどうしてうちに入り込んじゃったのよ?

ピュティアス それはわかりません。たぶんカエレアスさんが少女に惚れたんだと思います。

タイス ええ! 何を言うの。もしあなたの言うことが嘘じゃないなら、私はおしましいじゃないの。じゃあ、そのために少女は泣いてるっていうの? 

ピュティアス そうだと思います。

タイス なに言ってるのよ? この罰当たり者。出かけるときにくれぐれも気をつけなさいと言ったでしょ。

ピュティアス どうしたらよかったんですか。私は花魁の言いつけ通りにあの男に少女を任せたんですから。

タイス 馬鹿ねえ、それじゃあ、羊を狼に預けるようなもんじゃないの。恥ずかしいわ。じゃあ、あたしは騙されたのね。どんな男だったのよ?

ピュティアス(通りの方を見て)花魁、お願いですから、もうおっしゃらないで下さい。大丈夫です。もうその人は見つかりましたわ。

タイス どこにいるのよ?

ピュティアス ほら、左の方に。見えるでしょう。

タイス あの男なの?

ピュティアス 早く捕まえるように言って下さい。

タイス 馬鹿ねえ、捕まえてどうしようというのよ。

ピュティアス どうするか分からないんですか。いいですか、近くに来たらよく見て下さい、生意気な顔をしていませんか。そうでしょう? 本当に自信満々なんだから。



第五幕第二場 カエレアス、タイス、ピュティアス(カエレアスがタイスに許してもらう場面)(840-)


カエレアス(独白)アンティポンの家には御両親がお二人とも御在宅だったじゃないか。あれは偶々じゃないな。あれでは人に見つからずに中へは入れない。仕方なく玄関の前に突っ立っていたら、知り合いが前からやってくるじゃないか。それに気づいた僕は、いち早く人気のない横道に駆け込んだよ。そこから、また別の横道、また別の横道と、人に見つからないように必死で逃げたよ。ところで、いま出てきているのはタイス嬢じゃないか。そうだ。やっかいなことになった。まあ、いいや。どうにもできないだろう。

タイス(ピュティアスに)あの人に話しけてみますわ。(カエレアスに)ドーロスさん、こんにちわ。ねえ、教えてちょうだい。あなた逃げ出したのね?

カエレアス そうです、花魁。

タイス それであんたは満足したの?

カエレアス いいえ。

タイス あなた、逃げ出したりして、ただで済むと思ってるの? 

カエレアス 今度だけは見逃して下さい。もう一度やったら、命を差し上げますから。

タイス 私を冷酷な人間だと思ったからなの? 

カエレアス いいえ。

タイス じゃあ、どうして逃げたの?

カエレアス(ピュティアスを指して)この人が僕のことを言いつけるかと心配だったんです。

タイス あんた、何をしたのよ。

カエレアス ささいなことです。

ピュティアス 「ささいなこと」だなんて、まあなんて厚かましいの。あなたはあれがささいなことだとでも言うのですか。アテナイ人の少女に乱暴したのよ。

カエレアス 召使だと思ったのです。

ピュティアス 召使ですって! あたし、この人の髪の毛につかみ掛かりたい気持ちを抑えられないわ。ひどい人ね。(タイスに)この人は私たちを馬鹿にするために戻って来たんですよ。

タイス(ピュティアスに)やめなさい、あなた頭がどうかしたの? 

ピュティアス どうしてですか。このろくでなしにつかみ掛かったら、私に負い目が生ずるとでもいうのですか。特に彼はあなたの召使だと認めたんですよ。

タイス この件の片をつけましょう。カエレアスさん、あなたは恥ずべきことをなさったわね。なぜって、たとえ私がこんな侮辱を受けるのに相応しい女だとしても、あなたがこんなことをしてはいけないわ。それに、私はあの少女をどうしたらいいか、もう分からなくなってしまったわ。あなたは私の計画を台無しにしてしまったのよ。私はもう少女を家族にちゃんと引き渡すことは出来なくなったわ。これでもう私は人から好意を勝ち取ることは出来なくなったじゃないの、カエレアスさん。

カエレアス でも、これからはあたなと僕とですっと仲良くしていきましょうよ、花魁。真の友情というものは、こんな事件や不幸な事がきっかけで生まれるんですから。これはきっとどこかの神様のおぼしめしですよ。

タイス 私もそういう風に思いましょう。是非とも、そうあってほしいですわ。

カエレアス 僕もそうあって欲しいな。でも、これだけは知っておいてください。これははあなたを侮辱するためではなく、恋心のためだということを。

タイス それは知っていますま。だからこそ、あなたを許してあげるのです。私はそれほど人でなしではないのよ、カエレアスさん。私も恋の力を知らないほど馬鹿な人間ではありません。

カエレアス 花魁、僕は本当にあなたのことが大好きですよ。

ピュティアス 花魁、その人には用心なさった方がよろしいかと。

カエレアス 僕にはそこまで図々しくはありませんよ。

ピュティアス(カエレアスに)お前の言うことなんか信用出来ないよ。

タイス(ピュティアスに)よしなさい。

カエレアス 花魁、お願いですから、この件で僕を助けてください。僕はあなたに全部任せます。僕を守って下さい、花魁、お願いだ。僕は彼女を妻にできないなら死んでしまうよ。

タイス でも、もしあなたのお父様が・・

カエレアス なんですって? 父は賛成です。わかっています。彼女がアテナイ市民でさえあればね。

タイス すこし待ってくれたら、少女のお兄さんがここにやってきますわ。小さい頃彼女の世話をしていた乳母を呼びに行っているのです。カエレアスさん、再会の場にはあなたも居てちょうだいね。

カエレアス 待たせて頂きますとも。

タイス よろしければ、少女のお兄さんが来るまで、家の前じゃなくて家の中でご一緒に待ちませんこと?

カエレアス それがいいですね。

ピュティアス(タイスに)何をするおつもりですか。

タイス どうかしたの。

ピュティアス わかるでしょう。花魁はこの人を家の中に受け入れるおつもりですか。

タイスに いいじゃないの。

ピュティアス 私の言うことを信じて下さい。この男はまたトラブルをもたらすでしょう。

タイス お願いだから、黙っていて。

ピュティアス 花魁はこの男の大胆さを見損なっているのですよ。

カエレアス 変なことはしないよ、ピュティアス。

ピュティアス 信じられないわ、カエレアスさん、実際に何もしないとわかるまではね。

カエレアス じゃあ、あなたが僕を監視していればいいじゃないですか。

ピュティアス 私はあなたに何かを見張らせることもないし、私があなたを見張るつもりもないわ。いい加減にしてよ。

タイス いいところに少女のお兄さんが到着したわ。

カエレアス しまった。お願いですから、中へ入りましょう、花魁。僕はこんな服を着ているところを見られたくないんです。

タイス 一体どうしてですか。恥ずかしいの?

カエレアス そうなんです。

ピュティアス そうなんです? そんな殊勝な言い方をして、まるで少女だわ。

タイス(カエレアスに)あなたは先に行きなさい。私はあとから行きますから。ピュティアスはそこにいて、クレメースさんを中に案内してちょうだい。



第五幕第三場 ピュティアス、クレメース、ソフローナ(クレメースがパンピラの乳母を連れて来る場面)(910-)


ピュティアス(独白)何かいい考えはないかしらねえ。私たちのところにあの男を潜りこませたあの不届き者をどうやってお仕置きをしたらいいかしら。 

クレメース 乳母さん、もっと急いでください。

ソフローナ(乳母) 急いでいますよ。

クレメース わかってる。でもあんたは全然前へ進んでいないですよ。

ピュティアス(クレメースに)乳母に証拠の品をもう見せたのですか? 

クレメース 全部見せました。

ピュティアス ねえ、じゃあどうなんですか。認めたんですか? 

クレメース それはもうはっきりと覚えていました。

ピュティアス それはよかったですわ。あたしはあの少女が気に入ってるんです。さあ、中へ入って下さい。ずっと前から花魁があなた達のことを中でお待ちですわ。おや、あそこにパルメノンが来るのが見えるわ。あの落ち着いた歩きぶりを見てちょうだい。必ず私があの男を思いさま懲らしめてやる。でも今は再会に立ち会うために中へ入るわ。後でまた出て来て、あの罰当たりをどやしつけてやるわ。


第五幕第四場 パルメノン、ピュティアス(ピュティアスがパルメノンに嘘をついて脅す場面)(923-)

パルメノン(独白)カエレアス坊ちゃんがいまどうしているか見てやろう。ひょっとして、もし坊ちゃんがうまくやっているなら、このパルメノンめは大いにお褒めに預かることだろう。だって、坊ちゃんは愛する少女をやすやすと、あの欲深い花魁の手から、何も払わずに只で手に入れて、最も難しくて最も金のかかる恋を成就させてあげたんだから。それは言わずもがなだが、もう一つある。そして俺はこれこそ本当の手柄だと思うんだ。それは俺があの方法を見つけ出したおかげで、坊ちゃんは若くして遊女の本当の姿をいち早く知ることが出来たことだ。つまり、坊ちゃんは遊女に出会うと同時に遊女が嫌いになれるのである。彼女たちは恋人と食事をするときなど人前に出る時には、つんとすましているから、これほど凛として上品なものはないように見える。ところが、遊女が一人で家にいるときには、どんなに食い意地の張ったいやらしい存在であることか。遊女たちが昨日のスープで黒パンを貪り食う様子などを全部を知って、遊女たちの汚らしさケチ臭さを知ることは、坊ちゃんの助けになるにちがいないのだ。

ピュティアス(傍白)この悪党め、あんたの言った事した事のお礼は絶対にあたしがしてやるからね。私達に悪さをすると只ではすまないのよ。(ここからパルメノンに聞こえるように)まったく、ひどい事をしてくれたわね! あの若者も運の尽きだわ。あの子をここに引き入れた悪辣なパルメノン! 

パルメノン 何事だ?

ピュティアス ああ、可哀想に。もうこの目で見なくていいように、外へ出てきたのよ。みんなあの子を恥ずかしめて見せしめにすると言っているわ。

パルメノン ああ、一体全体、この騒ぎは何なんだ。俺は万事休すということなのかね。行ってみよう。どうしたんだい、ピュティアス。どういうことなんだ。誰が見せしめにされんだ。

ピュティアス 分かるでしょう。この厚顔無恥! あんたが宦官の代わりに引き入れたあの若者はあなたのせいでひどい目に会っているのよ、それもこれもあんたが私たちを騙そうとしたせいだわ。

パルメノン どうしてだい? 何があったんだ。言ってくれ。

ピュティアス 教えてあげましょう。花魁のプレゼントに今日届けられたあの少女はこの町の市民だったことを知っているの? それに彼女のお兄さんはとても立派な人だということを?

パルメノン そんなこと分からないよ。

ピュティアス それが分かったのよ。ところがその少女は、可哀想に、あんたの坊ちゃんに乱暴されたのよ。その事を知った世にも恐ろし乱暴なお兄さんは―

パルメノン どうしたんだ。

ピュティアス ―ひどいやり方で坊ちゃんを縛り上げて―

パルメノン 縛り上げた? 

ピュティアス ―それも花魁がやめて欲しいと懇願するのも聞かずによ。

パルメノン それから?

ピュティアス それから彼は間男に対して行われる刑罰を実行すると言っているわ。私はそんな光景は見たことがないし、これからも見たくはありません。

パルメノン なんと無茶な、そんなひどいことをするなんて。

ピュティアス 「ひどい」とはどういうことよ?

パルメノン そんな事するなんて無茶苦茶だよ。遊女の家で男が間男で捕まるなんて見たことがないよ。

ピュティアス 私も初耳だわ。

パルメノン お前に言っとくけど、ピュティアス、あの坊ちゃんはうちの大旦那様の息子さんなんだぞ。

ピュティアス まさか。本当に、そうなの?

パルメノン あの子が暴行されるのを花魁は許しちゃいけないよ。それより、いい加減に俺を中に入れてくれないか。

ピュティアス 気をつけなさいよ、パルメノン、何をするつもり? あの坊ちゃんを助けようとしてあなたがひどい目に合わないようにね。なぜってみんな知ってるんだから、あの仕業は全部あなたが仕組んだことだということをね。

パルメノン じゃあ、どうしたらいいんだ。何を始めたらいいんだ。おや、あそこに大旦那様が田舎から帰っていらした。大旦那様にこの事を話したほうがいいかなあ、やっぱり話さないほうがいいかなあ。やっぱり言おう。それでおれが罰を受けると分かっていても、大旦那様はきっと助けて下さるだろうから。

ピュティアス それは賢明なことだわ。私は中に入ります。あなたはここであったことを全部順番にあの人にお話しなさいな。



第五幕第五場 大旦那、パルメノン(ピュティアスに騙されたパルメノンが大旦那に事件のことを知らせてしまう場面)(971-)


大旦那(独白)田舎が近いとこんなにいいことがあるのだ。飽きてきたらすぐに行ったり来たりできるから、田舎も町も嫌いになることがないのだ。ところで、あれはうちのパルメノンじゃないか。そうだあいつだ。パルメノン! おまえ家の前で誰を待っているんだ?

パルメノン 誰だろう? おや、大旦那さま、無事のお帰りをお喜び申し上げます。

大旦那 そこで誰を待っているんだ?

パルメノン まいったな。恐ろしさで舌がひきつってしまったよ。

大旦那 え、何だって? 何をうろたえているんだ? 万事は順調なのか教えてくれ。

パルメノン 大旦那さま、何よりもまず事実を確かめることが肝心でございます。また、何があったにしろ、これは私めの責任ではございませんので。

大旦那 どうしたというんだ?

パルメノン よくぞ聞いて下さいました。本当のことをもっと前にお知らせておくべきでした。実は、若旦那様がここの花魁にプレゼントするために宦官をお買い求めになったんです。

大旦那 誰にだって? 

パルメノン タイス嬢にです。

大旦那 買ったというのか? 参ったな。いくらしたんだ。

パルメノン 二〇ミナです。

大旦那 万事休すじゃないか。

パルメノン それからカエレアス坊ちゃんが、ここのギター弾きの女に惚れました。

大旦那 ええ、何だって? 惚れたって? あの子は遊女がどういうものか知っているのか? それより何より、あの子は町へ来ているのか? 次から次へと面倒ばかり起こしおって。

パルメノン 大旦那さま、私の方を見ないで下さい。私がそそのかしたのではありませんから。

大旦那 お前のことはもういい。このごろつきめ。わしは生きている限りお前のことを・・。それよりまず事実をちゃんと説明しなさい。

パルメノン 坊ちゃんが宦官になりすましてここの花魁の家に入り込んだんです。

大旦那 宦官に? 

パルメノン そうなんです。それが今度は間男と間違われまして、捕えられて中で縛られているんです。

大旦那 それは大変だ。

パルメノン 遊女たちも無茶なことをするものです。

大旦那 お前がわしに言ってないことで、ほかにまだ不面目なことは残っていないのか?

パルメノン これで全部です。

大旦那 これはぐずぐずしている場合ではない。中へ押し入るしかないぞ(大旦那、中へ入る)。

パルメノン この調子だときっとおれは大目玉を食らうこと間違いなしだ。でも、俺はああするしかなった。だから、俺のせいでもう一つ面倒事があの女たちの身に起これば、それでよしとするさ。だって、ずっと前から大旦那様は遊女たちの懲らしめてやる口実を探しておられたんだから。いま、大旦那様はその口実を見つけたとい うことだ。



第五幕第六場 ピュティアス、パルメノン(ピュティアスがパルメノンを騙して脅かして意趣はらしをする場面)(1002-)

(ピュティアスが大笑いしながら家から出てくる)

ピュティアス(独白)こんなに思いどおりのことが起こったことはこれまでになかったわ。だって、さっきあの大旦那が勘違いしてうちの中に飛び込んできたんだもの。大旦那の心配の理由を私だけが知っていたものだから大笑いよ。

パルメノン(傍白)これはなんだ。

ピュティアス パルメノンの様子を見にきたんだけど、あの人はどこかしら。

パルメノン おれのことを探しているのかい。

ピュティアス(笑いながら)ここにいたわ。側へ行ってみよう。

パルメノン どうしたんだよ? この馬鹿、何がしたいんだ? 何がおかしい? まだ笑うのか。

ピュティアス いやだわ。あんたのことを笑いすぎて疲れたわ。

パルメノン どういうことだ。

ピュティアス わかるでしょ。これほど馬鹿な人をこれまで見たことがないし、これからも見ることがないわね。あんたのせいで、この家の中がどんなに可笑しなことになっているか、とても話し切れないわね。あんたのことを、前は賢くて抜け目のない男だと思っていたのにねえ。どうして私の言ったことをすぐに信じ ちゃったの? あんたが坊ちゃんをそそのかしてあんなことをさせただけで充分に恥ずかしいことだったのに、その上、可哀想な坊ちゃんを父親に売り渡してしまうなんて? だって、あんな服を着ている所を父親に見つけられた、坊ちゃんはどう感じると思うの? (パルメノンの絶望を見て)どうしたの? 自分はお終い だとわかったのね。

パルメノン お前は何を言い出すんだ、この最低な女め。あれは出鱈目だったのか! まだ笑うのか。俺のことを笑うのがそんなに楽しいのか、この性悪女め。

ピュティアス とっても楽しいわ。

パルメノン 本当にそんなことして、ただで済むと思うなよ。

ピュティアス どうするっていうのよ? 

パルメノン きっとこのお返しをしてやるからな。

ピュティアス きっとそうでしょうよ。でも、パルメノン、あんたのそんな脅しが実現するのはだいぶ先になりそうね。それより前に、あんたは吊るされるわね。あの愚かな坊ちゃんをたぶらかして悪事に手を染めさせておきながら、その坊ちゃんを父親の手に売ったのだから。二人ともあんたを見せしめにするわよ。

パルメノン ああ、おれはもうだめだ。

ピュティアス それがあんたのやった事に対する報酬なのよ。わたしはもう行くわ(ピュティアス、中へ入る)。

パルメノン 諺で言うように、おれは自分のおしゃべりのせいで自ら災を呼び込んでしまったよ。



第五幕第七場 グナートン、トラソン、(パルメノン)(軍人がタイスに降参するために来る場面)(1025-)

(太鼓持ちのグナートンと軍人のトラソンがトラソンの家がある右手から登場)

グナートン 今度は何ですか。どんな目論見で、どんな目当てがあって、ここに来られたのですか。何を始めようと言うのです、トラソンさん。

トラソン わしか? 花魁に降参して、彼女に命令されたことをするために来たのさ。

グナートン どういうことです。

トラソン いいじゃないか。ヘラクレスもオンファレーの言いなりになったんだよ。

グナートン よき前例に従うのですな。(傍白)花魁のスリッパであんたの頭がボコボコにされたるのを見たいもんだ。(トラソンに)おや、花魁のところの扉が開きますよ。

トラソン(カエレアスが扉から出てくるのを見て)え、なんてこった。こんなやつは見たことがない。一体全体どうしてこいつが急に飛び出してくるんだ?



第五幕第八場 カエレアス、パルメノン、グナートン、トラソン(カエレアスが本当の出来事、すべてがうまくいったことをパルメノンに教える場面)(1031-)


カエレアス みなさん、この僕ほど幸福な人間がこの世にいるでしょうか。絶対にいないと思います。神様が僕のためにありったけの力を見せてくれたんです。こんなにうまい具合にいいことが一度に全部起きるなんて。

パルメノン どうして坊ちゃんはあんなに喜んでいるんだろう。

カエレアス ああ、パルメノン、君こそ僕の全ての喜びのもとだ、君がきっかけを与えて君が実現してくれたんだ。僕がどんなに喜んでいるか知っているかい。僕のパンピラがアテナイ市民だと分かったんだよ。もう聞いたかい。

パルメノン 聞きました。

カエレアス 彼女と僕が婚約したのを知っているのか。

パルメノン それは本当によかったですね。

グナートン(トラソンに傍白)聞きましたか、あの男が言っていることを。

カエレアス 嬉しいことにパエドリアス兄さんの恋もうまく行っているんだよ。みんな一緒に暮らせるんだ。花魁は僕の父親に気に入られて、我が家に身請けされることになったんだ。

パルメノン 花魁がお兄さんのものになったんですか。

カエレアス そうなんだよ。

パルメノン それはまた喜ばしいことです。軍人さんは完全に蚊帳の外ですね。

カエレアス このことを兄貴に真っ先にに知らせてやってくれ。

パルメノン 家を見てきます。

トラソン(グナートンに傍白)グナートンよ、俺はいよいよ永遠にお払い箱らしいね。

グナートン どうやらそのようですね。

カエレアス(独白)何が一番良かったんだろう。あいつ僕にやり方を教えてくれたからなのか、それともそれを実行する勇気が僕にあったからなのか、運命の神が全てをたった一日のうちにうまく取り計らってくれたおかげなのか。それとも、親父が大甘で寛容だったからなのか。ああ、神よ、私たちのこの幸せを末永く見守って下さい。



第五幕第九場 パエドリアス、カエレアス、トラソン、グナートン(トラソンのためにグナートンがパエドリアスたちとトラソンの仲直りをとりもつ場面)(1049-)

               
パエドリアス やれやれ、とても信じられない、パルメノンから今聞いたこんだが、弟はどこにいるんだ? 

カエレアス 僕はここにいますよ。

パエドリアス うれしいよ。

カエレアス そうでしょう。兄貴、あんたのタイスほど、愛くるしい女性はいませんよ。彼女はうちの家族全員の守り神ですね。

パエドリアス おや、えらく彼女を褒めるじゃないか。

トラソン もうだめだ。希望がなくなるほど、わしの恋心は募ってくる。頼む、グナートン、お前が頼りだ。

グナートン どうして欲しいんですか。

トラソン 懇願するにせよ、金で丸め込むにしろ、花魁の家のどこかにわしの居場所を残しておいて欲しいんだ。

グナートン それはむつかしいです。

トラソン やる気さえあればできるさ。お前のことはよく知っている。もしうまくやったら、何でもいいから褒美を要求してくれ。欲しいものを何でもやるぞ。

グナートン 本当ですか。

トラソン 本当だ。

グナートン もしこれができたら、旦那の家を旦那がいる時もいない時も使わせ下さい。私が招かれなくても私の場所があるようにして下さい。

トラソン それは約束するよ。

グナートン じゃあ私の方の準備はできてます。

パエドリアス いま聞こえるのは誰の声だ。ああ、トラソンさんですか。

トラソン 助けてくれ。

パエドリアス 多分あなたは何があったか知らないのです。

トラソン 知っていますよ。

パエドリアス どうしてこんな所にあなたはいるんですか。

トラソン どうやらわしは君が頼りらしいんだ。

パエドリアス それがどの程度か分かってますか、軍人さん。教えてあげましょう。僕がいつかこの通りであなたと出くわしたら、あなたが「別の家を探していて、こっちに来てしまったんだ」と言ったとしても、僕は許しませんよ。

グナートン(パエドリアスに)ねえ、そんな言い方はないでしょう。 

パエドリアス もう言っちゃた。

トラソン 君はそんなに高慢な人ではないだろ。

パエドリアス ぼくはこれで行くんだ。

グナートン とにかく少し聞いてください。私の言うことが気に入ったらその通りにしてほしいんです。

カエレアス(パエドリアスに)聞いてやろうよ。

グナートン(トラソンに)トラソンさん、ちょっとそこへ下がってください。(トラソン以外に聞こえるように)最初にお二人にはこのことを是非とも分かって欲しいんですが、それは私がこうするのは自分の得になるからだという事です。もしそれがあなた達にも得になるなら、あなた達がそれをやらないのは愚かなこ とですよ。

パエドリアス それとは何だい? 

グナートン 私が思うに、軍人さんをライバルとして受け入れるということです。

パエドリアス え、なんだって? あの人を受け入れるんだって? 

グナートン ちょっと考えてみてくださいよ。若旦那が花魁と今と同じようにこれからも仲良くやっていくには、若旦那から花魁へのプレゼントは少なくても、花魁は沢山プレゼントをもらう必要があるんですよ。若旦那が自分の恋人に只でこれを全部まかなうには、この人ほど好都合で役 に立つ人はいませんよ。何より、この人は与える物を持っていますし、誰よりも気前のいい人です。この人は馬鹿で、退屈で、鈍くて、夜も昼もいびきをかくし、花魁が惚れる心配もありません。それにいつでも好きな時に追い出すことが出来るんですよ。

パエドリアス(カエレアスに)どうしようか。

グナートン それから、これが一番大切なことですが、この人ほどごちそうをしておごるのが好きな人はいませんよ。

カエレアス どのみち、この人が必要なのは確かですね。

パエドリアス 僕もそう思う。

グナートン よかった。一つ、これだけはあなた達にお願いします。私をお二人の仲間に入れてください。私はそれが目当てでずいぶん長いことがんばってるんですから。

パエドリアス あなたも仲間に入れてあげますよ。

カエレアス しかも、喜んで。

グナートン 若旦那と坊ちゃん、私はこれまでずっとこの人に大盤振る舞いをさせて、馬鹿にするのを楽しみにしてきましたが、その道楽をお二人にお譲りしますよ。

カエレアス それはおもしろい。

パエドリアス あの人の自業自得ですね。

グナートン トラソンさん、よかったらこっちに来て下さい。

トラソン ねえ、俺たちはどうなったんだい。

グナートン どうなったかって? この人達はあなたのことをよっく知らなかったんです。私がこの人達にあなたの人柄を説明して、ウソ偽りなくあなたの長所を褒めたので、うまく行きましたよ。

トラソン よくやった。本当に感謝しているよ。わしが行く所はどこでもみなさんがわしを可愛がってくれたもんなんだよ。

グナートン(パエドリアスとカエレアスに)ね、この人は都会風に洗練されていると言ったでしょう。

パエドリアス まさに期待どおりだね。こちらへお入り下さい(全員タイスの家に入る)。全員 みなさんごきげんよう、なにとぞ拍手ご喝采を。(了)


EUNUCHUS
P. TERENTI AFRI

DIDASCALIA

INCIPIT EVNVCHVS TERENTI
ACTA LVDIS MEGALENSIBVS
L. POSTVMIO ALBINO L. CORNELIO MERVLA AEDILIBVS CVRVLIBVS
EGERE L. AMBIVIVS TVRPIO L. ATILIVS PRAENESTINVS
MODOS FECIT FLACCVS CLAVDI
TIBIIS DVABVS DEXTRIS
GRAECA MENANDRV
FACTA II M. VALERIO C. FANNIO COS.

PERSONAE

(PROLOGVS)
PHAEDRIA ADVLESCENS
PARMENO SERVOS
THAIS MERETRIX
GNATHO PARASITVS
CHAEREA ADVLESCENS
THRASO MILES
PYTHIAS ANCILLA
CHREMES ADVLESCENS
ANTIPHO ADVLESCENS
DORIAS ANCILLA
DORVS EVNVCHVS
SANGA SERVOS
SOPHRONA NVTRIX
SENEX (DEMEA seu LACHES)
(CANTOR)

登場人物

デメア 大旦那、パエドリアスとカエレアスの父
パエドリアス 若旦那、デメアの息子、タイスに惚れている
カエレアス 坊ちゃん、パエドリアスの弟、パンピラに惚れている
アンティポン カエレアスの友達
クレメース パンピラの兄
トラソン 軍人、兵隊さん、タイスの客
グナートン トラソンの取り巻き、太鼓持ち、食客
ドーロス 宦官、去勢された男
パルメノン デメアの召使
サンガス トラソンの料理人、召使
タイス 娼婦、花魁(おいらん)
ピュティアス タイスの侍女
ドリュアス タイスの侍女
パンピラ タイスの妹と思われている娘、実はクレメースの妹。
ソフローナ パンピラの家の乳母



PERIOCHA
C. SVLPICI APOLLINARIS

C.スルピキウス・アポリナリスによるあらすじ

Sororem falso dictitatam Thaidis
軍人のトラソンは、タイスの妹と誤解されている娘を
id ipsum ignorans miles advexit Thraso
そうとは知らずに連れてきて
ipsi(与格、タイスに)que donat. erat haec civis Attica.
タイスにプレゼントする。実は彼女はアテナイ市民だった。
eidem eunuchum, quem emerat, tradi iubet
タイスを恋するパエドリアスは、買っておいた宦官をタイスに与えるように命じて
Thaidis amator Phaedria ac rus ipse abit,
自分は田舎に去る、
Thrasoni oratus biduum concederet.
頼まれたとおりに二日間タイスをトラソンに譲ろうとした。
ephebus frater Phaedriae puellulam
パエドリアスの未成年の弟がタイスにプレゼントされた娘に
cum deperiret(<depereo sbj,impf、惚れる) dono missam Thaidi,
惚れると、
ornatu(服) eunuchi induitur (suadet Parmeno):
(パルメノンの勧めで)宦官の服を身にまとって
introiit, vitiat virginem. sed Atticus
タイスの家に入り込み、娘を犯す。しかし、アテナイ市民である彼女の兄が
civis repertus frater eius conlocat(嫁にやる)
見つかると、兄は犯された娘をこの男に嫁がせる。
vitiatam ephebo. Phaedriam exorat Thraso.
トラソンはパエドリアスと仲直りする。

PROLOGVS

Si quisquamst qui placere se studeat bonis
quam plurimis et minime multos laedere,
in is poeta hic nomen profitetur suom.
tum siquis est qui dictum in se inclementius
existumavit esse, sic existumet 5
responsum, non dictum esse, quia laesit prior.
qui bene vortendo et easdem scribendo male
ex Graecis bonis Latinas fecit non bonas,
idem Menandri Phasma nunc nuper dedit,
atque in Thesauro scripsit causam dicere 10
prius unde petitur, aurum qua re sit suom,
quam illic qui petit, unde is sit thensaurus sibi
aut unde in patrium monumentum pervenerit.
de(h)inc ne frustretur ipse se aut sic cogitet
"defunctus iam sum, nil est quod dicat mihi," 15
is ne erret moneo, et desinat lacessere.
habeo alia multa quae nunc condonabitur,
quae proferentur post si perget laedere
ita ut facere instituit. quam nunc acturi sumus
Menandri Eunuchum, postquam aediles emerunt, 20
perfecit sibi ut inspiciundi esset copia.
magistratus quom ibi adesset occeptast agi.
exclamat furem, non poetam fabulam
dedisse et nil dedisse verborum tamen.
Colacem esse Naevi, et Plauti veterem fabulam: 25
parasiti personam inde ablatam et militis.
si id est peccatum, peccatum imprudentiast
poetae, non quo furtum facere studuerit.
id ita esse vos iam iudicare poteritis.
Colax Menandrist, in east parasitus Colax 30
et miles gloriosus. <ea>s se non negat
personas transtulisse in Eunuchum suam
ex Graeca. sed eas fabulas factas prius
Latinas scisse sese id vero pernegat.
quod si personis isdem huic uti non licet, 35
qui mage licet currentem servom scribere,
bonas matronas facere, meretrices malas,
parasitum edacem, gloriosum militem,
puerum supponi, falli per servom senem,
amare odisse suspicari? denique 40
nullumst iam dictum quod non dictum sit prius.
qua re aequom est vos cognoscere atque ignoscere
quae veteres factitarunt si faciunt novi.
date operam, cum silentio animum attendite,
ut pernoscatis quid sibi Eunuchus velit. 45

ACTVS I

Phaedria Parmeno

I.i
第1幕第1場 パエドリアス、パルメノン(パエドリアスが娼婦タイスの虜になっていることが明らかにされる場面)(46-)

パエドリアスがパルメノンといっしょに家から出てくる。

PHA. Quid igitur faciam? non eam(<eo) ne nunc quidem
パエドリアス それで結局僕はどうしたらいい? 花魁がわざわざ呼ぶんだから
quom accersor ultro? an potius ita me comparem
行くべきかなあ? それとも
non perpeti meretricum contumelias?
女の侮辱にはもう耐えられないと覚悟を決めるべきかなあ。
exclusit, revocat: redeam? non si me obsecret.
彼女は僕を締めだしといて、また呼ぶんだよ。僕はまた行くべきかなあ。いいや、彼女にどんなにお願いされても、やっぱりやめておこう。
siquidem hercle possis, nil prius neque fortius. 50
(ここから自問自答)もし本当にお前にそれができるなら、それがベストだし一番男らしい。
verum si incipies neque pertendes gnaviter
しかし、いったん始めておきながらそれを最後まで貫けずに、
atque, ubi pati non poteris, quom nemo expetet,
我慢できなくなって、向こうに来てくれとも言われないし、
infecta pace ultro ad eam venies indicans
仲直りもしていないのに、彼女の所へのこのこ出かけて行くことになったら、
te amare et ferre non posse, actumst, ilicet,
こっちが惚れていて我慢出来ないことがばれてしまって、ゲームセット、万事休す。
peristi; eludet ubi te victum senserit. 55
お前の負けだ。彼女は自分が勝ったと思ったらもうまともに相手にしてくれなくなる。
proin tu, dum est tempus, etiam atque etiam cogita,
だから、まだ間に合ううちに、よく考えないとだめだ。
PAR. ere, quae res in se neque consilium neque modum
パルメノン 若旦那、恋愛みたいに思慮分別とは無縁のものを
habet ullum, eam consilio regere non potes.
あれこれ考えてもどうにもできませんよ。
in amore haec omnia insunt vitia: iniuriae,
恋愛にはこんな厄介なものが全部含まれているのです。馬鹿にしたり、
suspiciones, inimicitiae, indutiae, 60
疑ったり、喧嘩したり、仲直りしたり、
bellum, pax rursum. incerta haec si tu postules
また喧嘩したと思うと、また仲直りする。こんな訳のわからないものを
ratione certa facere, nihilo plus agas
理屈で考えてはっきりさせようとすると
quam si des operam ut cum ratione insanias.
くよくよしているうちにノイローゼにでもなるのが落ちですぜ。
et quod nunc tute tecum iratus cogitas
それに若旦那がいま怒りながら
"egon illam, quae illum, quae me, quae non . . ! sine modo, 65
「あの女め!ほかの男がいいのか!僕を拒否するなんて!やめちまえ。
mori me malim, sentiet qui vir siem",
死んだほうがましだ。彼女に僕がどういう男か見せてやる」などと考えておられましたが、
haec verba una mehercle falsa lacrimula
そんな言葉も、若旦那は、彼女が目をこすって搾り出した
quam oculos terendo misere vix vi expresserit,
嘘の涙を一滴も見たらあっという間に忘れてしまうんですよ。
restinguet, et te ultro accusabit, et dabis
すると今度は逆に彼女が若旦那を責め始める。すると若旦那はまた彼女に
ultro supplicium. PHA. o indignum facinus! nunc ego 70
償いをするんですよ。パルメノン ほんとに馬鹿げてるなあ。あの女が
et illam scelestam esse et me miserum sentio.
性悪女であることは知ってるんだよ。こっちは惨めなだけなこともね。
et taedet et amore ardeo, et prudens sciens,
もううんざりなんだ。でも好きなんだ。全部わかってるのに
vivos vidensque pereo, nec quid agam scio.
生きながらにして見る間に破滅に向かっている。でも、どうすりゃいいか分からないんだ。
PAR. quid agas? nisi ut te redimas captum quam queas
パルメノン どうすべきかっていうんですか? 出来るだけ安い手切れ金を払って
minimo; si nequeas paullulo, at quanti queas. 75
自由の身になることですね。はした金では無理なら、出せる出せばいいでしょう。
et ne te adflictes. PHA. itane suades? PAR. si sapis,
そして悩みとはおさらばすることです。パエドリアス お前はそれがいいと思うのか。パルメノン 恋愛沙汰てのは元々悩ましいものなんですよ。
neque praeter quam quas ipse amor molestias
だから、若旦那が賢かったら、これ以上恋の悩みをご自分で増やさないように
habet addas, et illas quas habet recte feras.
して、いまの悩みには立派に耐えることです。
sed eccam ipsa egreditur, nostri fundi calamitas;
ところで、ほら、彼女が外に出てきましたよ。我が家の財産にとっての疫病神が。
nam quod nos capere oportet haec intercipit. 80
実際、我々がもらうべきものをあの女はピンはねしてるんですから。

Thais Phaedria Parmeno

I.ii

第一幕第ニ場 タイス、パエドリアス、パルメノン(タイスがある軍人のためにパエドリアスに遠慮してもらいたい理由を明らかにする場面)(81-)

THA. Miseram me, vereor ne illud gravius Phaedria
タイス(独白) 困ったわ。パエドリアスはあの事を怒ってるんじゃないかしら。
tulerit neve aliorsum atque ego feci acceperit,
昨日あの人を締めだしたことよ。あの人、誤解してなきゃ
quod heri intro missus non est. PHA. totus, Parmeno,
いいんだけど。パエドリアス(パルメノンに) パルメノンよ、僕は彼女を見たとたんに
tremo horreoque, postquam aspexi hanc. PAR. bono animo es:
体中がぶるぶると震えだしたよ。パルメノン(パエドリアスに)勇気を出して下さい。
accede ad ignem hunc, iam calesces plus satis. 85
あの炎にもっと近寄れば、すぐに暖まって震えが止まりますよ。
THA. quis hic loquitur? ehem tun hic eras, mi Phaedria?
タイス あそこで話しているのは誰かしら。あら、あなたなの? 私のパエドリアス?
quid hic stabas? quor non recta intro ibas? PAR. ceterum
どうしてそんなところに立っているの。すぐに入っていらっしゃいよ。パルメノン(傍白)もう締めだしは
de exclusione verbum nullum. THA. quid taces?
言わなそうですよ。タイス どうしてだまっているの?
PHA. sane quia vero haec mihi patent semper fores
パエドリアス(皮肉を込めて)それはもちろんこの扉が僕の前でいつも開いてるからさ。
aut quia sum apud te primus. THA. missa istaec face. 90
それに、僕は君にとって一番目の男だからさ。タイス そのことは忘れてよ。
PHA. quid "missa"? o Thais, Thais, utinam esset mihi
パエドリアス 「忘れて」とはどういう意味だよ。ああ、タイス、タイス。
pars aequa amoris tecum ac pariter fieret,
この恋が僕の片思いじゃなくて君との両思いだったらなあ。
ut aut hoc tibi doleret itidem ut mihi dolet
この苦しみも僕と君とで一緒に分かちあえたのに。
aut ego istuc abs te factum nihili penderem!
両思いだったら昨日君がした事も僕は全然気にしないのに。
THA. ne crucia te obsecro, anime mi, mi Phaedria. 95
タイス ねえ、もう自分を苦しめないでちょうだい、わたしのパエドリアス。
non pol quo quemquam plus amem aut plus diligam
神かけて、あなたより好きな人がいるから
eo feci; sed ita erat res, faciundum fuit.
あたしあんなことしたんじゃなくってよ。あの時は事情があってそうしなければならなかったの。
PAR. credo, ut fit, misera prae amore exclusti hunc foras.
パルメノン きっと、花魁は若旦那を愛するあまりに締めだしちまったんですね。よくあることでさ。
THA. sicin(=sic ne) agis, Parmeno? age; sed huc qua gratia
タイス そんなふうに言うの、パルメノン? よしてよ。(パエドリアスに)それより、何のために
te accersi iussi, ausculta. PHA. fiat. THA. dic mihi 100
あなたにここへ来てもらったかを言うから、聞いてちょうだい。パエドリアス 言えよ。タイス その前に、
hoc primum, potin est hic tacere? PAR. egon? optume.
この人、口は堅いの? パルメノン あっしですか。大丈夫です。
verum heus tu, hac lege tibi meam adstringo fidem.
でもね、口外はいたしませんと約束するには一つ条件がありますよ。
quae vera audivi taceo et contineo optume;
あっしはねえ、人から聞いたことで本当のことについちゃあ絶対に人にはもらしません、秘密は守りますよ。
sin falsum aut vanum aut finctumst, continuo palamst:
でもね、嘘やいい加減な作り話だったら、すぐにばらしちまいます。
plenus rimarum sum, hac atque illac perfluo. 105
あっしの体は穴だらけで、あちこちから漏れますよ。
proin tu, taceri si vis, vera dicito.
だから、花魁、もし秘密にしてほしかったら本当のことをおっしゃい。
THA. Samia mihi mater fuit. ea habitabat Rhodi.
タイス あたしの母はサモスの生まれだったのね。それからロードス島で暮らしたの。
PAR. potest taceri hoc. THA. ibi tum matri parvolam
パルメノン これは秘密に出来ますな。タイス そこである商売人が母に幼い
puellam dono quidam mercator dedit
少女をプレゼントしたのよ。
ex Attica hinc abreptam. PHA. civemne? THA. arbitror. 110
それはアテネからさらってきた子だったの。パエドリアス アテナイ市民なのか。タイス そう思うわ。
certum non scimus. matris nomen et patris
でも、確かなことは分からない。その子は両親の名前を言ってたわ。
dicebat ipsa. patriam et signa cetera
でもどこで生まれたか知らなかったし、ほかに証拠になるようなものは
neque scibat neque per aetatem etiam potis erat.
持ってなかったの。まだ小さかったからそれは無理ね。
mercator hoc addebat: e praedonibus,
商売人はこんなことも言ったわ。この子は海賊から
unde emerat, se audisse abreptam e Sunio. 115
買ったんだけど、海賊の言うにはスニオン岬でさらってきたというのよ。
mater ubi accepit, coepit studiose omnia
わたしの母はその子を受け取ってから、一生懸命にいろんなことを教えて、
docere, educere, ita uti si esset filia.
まるで自分の娘のように育てたそうよ。
sororem plerique esse credebant meam.
世間の人達はその子のことを私の妹だと思っていたわ。
ego cum illo, quocum tum uno rem habebam hospite,
わたしは当時お付き合いしていた人が一人いて、その人と
abii huc, qui mihi reliquit haec quae habeo omnia. 120
ここに来たのね。私がいま持っている物は全部その人が残してくれたものなの。
PAR. utrumque hoc falsumst: effluet. THA. qui istuc? PAR. quia
パルメノン この二つは嘘ですね。これは漏れますよ。タイス どうしてよ。パルメノン だって、
neque tu uno eras contenta neque solus dedit.
あなたは一人だけで満足していなかったし、あなたに物をくれたのも一人じゃなかった。
nam hic quoque bonam magnamque partem ad te attulit.
だって、この若旦那だって、あなたには多分の貢献をしていますよ。
THA. itast. sed sine me pervenire quo volo.
タイス そりゃそうね。でも、話の先を続けさせてね。
interea miles qui me amare occeperat 125
そうこうするうちに、わたしに惚れていた一人の兵隊さんが、
in Cariamst profectus. te interea loci
小アジアに旅立ったの。その間にわたしはあなたと
cognovi. tute scis postilla quam intumum
出会ったのよ。それからが私があなたとどれほど親密なお付き合いをしているかは
habeam te et mea consilia ut tibi credam omnia.
あなたもご存知のとおりだわ。私が自分の考えを包み隠さずあなたに全部打ち明けてきたこともね。
PHA. ne hoc quidem tacebit Parmeno. PAR. oh dubiumne id est?
パエドリアス パルメノンはこれは漏らすだろうね。パルメノン これは嘘なんですか?
THA. hoc agite, amabo. mater mea illic mortuast 130
タイス ねえ、ちゃんと聞いてよ。最近、私の母が向こうで
nuper, eius frater aliquantum ad remst avidior.
死んだの。母の弟は母よりお金儲けに貪欲な人なのね。
is ubi esse hanc forma videt honesta virginem
で、その弟があの子の外見がいいのと
et fidibus scire, pretium sperans ilico
ギターが弾けるを見て、一儲けしようとすぐさま
producit, vendit. forte fortuna adfuit
市に出して売ってしまったのよ。たまたま運良くあの兵隊さんが
hic meus amicus. emit eam dono mihi 135
そこにいて、あの子をわたしのプレゼントにするために買ったのよ。
imprudens harum rerum ignarusque omnium.
こういったいきさつは一切何も知らずにね。
is venit. postquam sensit me tecum quoque
ところが、その兵隊さんが帰ってきて、私があなたともお付き合いしていることを
rem habere, fingit causas ne det sedulo.
知って、何かと理由を付けてあの娘をやらないと言い出したのよ。
ait, si fidem habeat se iri praepositum tibi
曰く、彼があなたよりも好かれているという自信がもてたら、
apud me, ac non id metuat, ne, ubi acceperim, 140
それで、あの子を私が手に入れても、私が
sese relinquam, velle se illam mihi dare;
彼を見捨てる心配がないのなら、あの子を私にやってもいいと。
verum id vereri. sed ego quantum suspicor,
でも、その心配があると。それで、私はぴんと来たのよ。
ad virginem animum adiecit. PHA. etiamne amplius?
あの人はあの子の方に気が移ってしまったんじゃないかと。パエドリアス まだ手はつけてないのか。
THA. nil; nam quaesivi. nunc ego eam, mi Phaedria,
タイス それは大丈夫、調べてあるの。パエドリアスさん、わたしがあの子を
multae sunt causae quam ob rem cupio abducere: 145
引き取りたいと思う理由はいろいろあるの。
primum quod soror est dicta, praeterea ut suis
まず、あの子は私の妹だと言われていることがあるわ。それに、あの子を
restituam ac reddam. sola sum: habeo hic neminem
家族のもとに返してやりたいのよ。わたしは一人ぽっちで、
neque amicum neque cognatum. quam ob rem, Phaedria,
ここでは友達も親戚もいないでしょ。だから、パエドリアス、
cupio aliquos parere amicos beneficio meo.
わたしは人にいいことをして友達を作りたいのよ。
id amabo adiuta me, quo id fiat facilius, 150
だから、お願い、それがうまくいくように、私を助けて欲しいの。
sine illum priores partis hosce aliquot dies
この二三日でいいのよ。私の一番いい人であるという立場を
apud me habere. nil respondes? PHA. pessuma,
あの人に譲ってあげてほしいの。(パエドリアスは答えない)ねえ、どうなの? パエドリアス ひどいよ。
egon quicquam cum istis factis tibi respondeam?
こんなことされて僕に何を答えろというんだい。
PAR. eu noster, laudo. tandem perdoluit. vir es.
パルメノン いいぞ、若旦那。やっとお怒りですね。それでこそ男だ。
PHA. aut ego nescibam quorsum tu ires? "parvola 155
パエドリアス 僕が君の話の行き先が分からなかったとでも思うのかい。「むかし幼い少女が
hinc est abrepta; eduxit mater pro sua;
この町からさらわれたのよ。あたしの母が自分の娘同然に育てたの。
soror dictast; cupio abducere, ut reddam suis."
その子はあたしの妹だと言われているわ。あたしはあの子を引き取って家族に返してやりたいのよ」だなんて。
nempe omnia haec nunc verba huc redeunt denique:
だけど、この話の行き着く先はといえば、
ego excludor, ille recipitur. qua gratia?
ぼくが締め出されて、あの男が迎え入れられるってことだろ。なぜなんだ。
nisi si illum plus amas quam me et istam nunc times 160
それは要するに、君が僕よりあの男のことが好きだからで、
quae advectast ne illum talem praeripiat tibi.
この町に来たあの少女にあの素晴らしい男を取られるのが心配だからだろ。
THA. ego id timeo? PHA. quid te ergo aliud sollicitat? cedo:
タイス 私がそんなことを心配してるですって? パエドリアス それ以外に君が何を心配してるんだよ。言ってくれ、
num solus ille dona dat? num ubi meam
君にプレゼントをくれるのはあの男だけなのかい? 僕の気前の良さには
benignitatem sensisti intercludier?
限界があると君は感じたのかい? 
nonne ubi mi dixti cupere te ex Aethiopia 165
君がエチオピアの女奴隷を欲しいと言ったときにも、
ancillulam, relictis rebus omnibus
僕は全てをなげうって女奴隷を見つけ出してきたじゃないか?
quaesivi? porro eunuchum dixti velle te,
次に「宦官が欲しいの。
quia solae utuntur his reginae; repperi,
金持ちの女はみんなもってるから」と言ったときも、見つけてやったじゃないか。
heri minas viginti pro ambobus dedi.
昨日二人分の代金の二〇ミナを払ってきた。
tamen contemptus abs te haec habui in memoria; 170
君にひどい扱いを受けてもこれは忘れずにやったんじゃないか。
ob haec facta abs te spernor? THA. quid istic, Phaedria?
そのお返しがまた締め出しなのか。タイス わかったわ、パエドリアス。
quamquam illam cupio abducere atque hac re arbitror
私はあの子を引き取りたいし、そのためにはこうするのが一番いいと
id fieri posse maxume, verum tamen
思うけど、でも
potius quam te inimicum habeam, faciam ut iusseris.
あなたに嫌われるのはいやだわ。あなたの言うとおりにします。
PHA. utinam istuc verbum ex animo ac vere diceres 175
パエドリアス 「あなたに嫌われるのはいやだわ」というその言葉が
"potius quam te inimicum habeam"! si istuc crederem
君が本心から出た言葉ならいいんだがなあ。もしその言葉が
sincere dici, quidvis possem perpeti.
本当だと信じられるなら、僕はどんなことでも我慢できるのに。
PAR. labascit victus uno verbo quam cito!
パルメノン(傍白) 若旦那の怒りは早くも揺らいでいる。あの一言で陥落だな。
THA. ego non ex animo misera dico? quam ioco
タイス 情けないわ。私が本心から言っていないというの?
rem voluisti a me tandem, quin perfeceris? 180
戯れにもあなたが私に望んだことで叶わなかったことがあるかしら。
ego impetrare nequeo hoc abs te, biduom
それなのにあなたはたった二日我慢してという私のお願いさえも
saltem ut concedas solum. PHA. siquidem biduom;
叶えてはくれないのね。パエドリアス 本当に二日だけなのかい。
verum ne fiant isti viginti dies.
それが二十日になったりしないよね。
THA. profecto non plus biduom aut . . PHA. "aut" nil moror.
タイス 大丈夫、二日だけだから。でも・・。パエドリアス その「でも」はやめてくれ。
THA. non fiet; hoc modo sine te exorem. PHA. scilicet 185
タイス やめとく。二日だけお願いね。パエドリアス 分かった。
faciundumst quod vis. THA. merito te amo, bene facis.
好きなようにしたらいい。タイス あなたはわたしが惚れた人だけのことはあるわ。ありがと。
PHA. rus ibo. ibi hoc me macerabo biduom.
パエドリアス(独白) 僕は田舎に行くことにしよう。そこで僕は二日間痩せる思いをするんだ。
ita facere certumst, mos gerundust Thaidi.
僕はこうすると決めた。タイスの言うことを聞いてやるんだ。
tu, Parmeno, huc fac illi adducantur. PAR. maxume.
ねえ、パルメノン、君はあの二人をここへ連れてきてくれ。パルメノン わかりました。
PHA. in hoc biduom, Thais, vale. THA. mi Phaedria, 190
パエドリアス では、タイス、二日間だけど、元気でな。タイス 私のパエドリアス、
et tu. numquid vis aliud? PHA. egone quid velim?
あなたもお元気でね。もうほかに何か言っておきたいことはないの。パエドリアス 僕が何か言いたいことがあるかって?
cum milite istoc praesens absens ut sies;
あの軍人と一緒の時にも、君は心までは一緒にならないで欲しい。
dies noctesque me ames, me desideres,
昼も夜も僕の事を思って、僕を恋して、
me somnies, me exspectes, de me cogites,
僕の夢を見て、僕に待ち焦がれて、僕のことを考えて、
me speres, me te(abl) oblectes, mecum tota sis; 195
僕に期待して、僕を喜びとして、僕と一心同体でいて欲しいんだ。
meus fac sis postremo animus quando ego sum tuos.
要するに、僕の心が君のものであるように君の心も僕のものでいて欲しいんだ(パエドリアス、家に入る)。
THA. me miseram, fors sit an hic mihi parvam habeat fidem
タイス(独白) ああ、なさけない。きっとあの人はあたしのことを信じていないんだわ。
atque ex aliarum ingeniis nunc me iudicet.
私のことをほかの女と同じだと思ってるのよ。
ego pol, quae mihi sum conscia, hoc certo scio
私は自分の身の程は知っているから、
neque me finxisse falsi quicquam neque meo 200
私は決して嘘はつかないし、あのパエドリアスより
cordi esse quemquam cariorem hoc Phaedria.
好きな人はほかにいないことは確かだわ。
et quidquid huius feci causa virginis
この件で私がしたことは全てあの子のためにしたことです。
feci. nam me eius fratrem spero propemodum
というのは、どうやら私はあの子の兄弟を見つけたと思うんです。
iam repperisse, adulescentem adeo nobilem;
。しっかりした家のとても立派な若者ですわ。
et is hodie venturum ad me constituit domum. 205
その人が今日わたしの家に来てくれることになっています。
concedam hinc intro atque exspectabo dum venit.
今から中へ入ってその人が来るの待つことにします。(タイス、家に入る)

ACTVS II

Phaedria Parmeno

II.i

第二幕第一場、パエドリアス、パルメノン(パエドリアスがタイスの望むままに田舎に出かける場面)(207-)

パエドリアスがパルメノンといっしょに家から出てくる。

PHA. Fac, ita ut iussi, deducantur isti. PAR. faciam. PHA. at diligenter.
パエドリアス 僕が言ったとおりに、ちゃんと二人を渡してきてくれよ。パルメノン わかりました。パエドリアス ちゃんとやれよ。
PAR. fiet. PHA. at mature. PAR. fiet. PHA. satine hoc mandatumst tibi? PAR. ah
rogitare, quasi difficile sit!
パルメノン そうします。パエドリアス すぐにやれよ。パルメノン そうします。パエドリアス よーくわかったんだな。パルメノン わかってますよ、難しいことはありませんから。
utinam tam aliquid invenire facile possis, Phaedria, 210
若旦那がこうやって失う金を
quam hoc peribit. PHA. ego quoque una pereo, quod mist carius.
簡単に稼げる方法があったらいいんですがねえ。パエドリアス 金どころか僕は自分を見失いそうだ。その方がもっと重大なことだよ。
ne istuc tam iniquo patiare animo. PAR. minime, qui effectum dabo(=efficiam).
だからそんなに惜しそうに言わないでくれ。パルメノン わかりました。ちゃんとやっときます。
sed numquid aliud imperas?
でも、ほかに何かお言い付けはありませんか。
PHA. munus nostrum ornato verbis, quod poteris, et istum aemulum,
パエドリアス 僕たちのプレゼントを出来るだけ褒めてほしいんだ。そしてあのライバルを
quod poteris, ab ea pellito.   215
できるだけ彼女から遠ざけて欲しい。
PAR. memini, tam etsi nullus moneas. PHA. ego rus ibo atque ibi manebo.
パルメノン かしこまりました。若旦那の指図がなくてもそうしますよ。パエドリアス 僕は田舎にいってそこにしばらくいるよ。
PAR. censeo. PHA. sed heus tu. PAR. quid vis? PHA. censen posse me obfirmare et
パルメノン それがよろしいかと。パエドリアス おい、おまえ。パルメノン 何ですか。パエドリアス 僕は帰ってこずに
perpeti ne redeam interea? PAR. tene? non hercle arbitror;
頑張って辛抱できると思うかい。パルメノン 若旦那がですか。あっしは絶対無理だと思いますがね。
nam aut iam revortere aut mox noctu te adiget horsum insomnia.
すぐに戻って来るか、夜眠れなくて戻って来てしまうか、でしょう。
PHA. opus faciam, ut defetiger usque, ingratiis ut dormiam. 220
パエドリアス 田んぼで働いて、疲れはてて、いやでも眠れるようにするよ。
PAR. vigilabis lassus: hoc(=lassus esse) plus facies. PHA. abi, nil dicis, Parmeno.
パルメノン 疲れても眠れないでしょう。疲れるだけで同じ事ですよ。パエドリアス おい、もういいよ、パルメノン。
eiciunda hercle haec est mollities animi. nimis me indulgeo.
(独白)僕は自分の心の弱さを絶対に追い出すんだ。僕はあまりにも自分に甘すぎる。
tandem non ego illam caream, si sit opus, vel totum triduom? PAR. hui
結局、僕という男は三日間も彼女なしではすまないのか? パルメノン ええ!
univorsum triduom? vide quid agas. PHA. stat sententia.
三日も続けてですか? 大丈夫ですか。パエドリアス 僕の決心は変わらないよ。(パエドリアス、田舎へ行く。左へ退場)
PAR. di boni, quid hoc morbist(=morbi est)? adeon homines inmutarier 225
パルメノン(独白) 一体全体、これはなんという病気なんだろうね。あの花魁に惚れてからあんなに人が変わってしまって、
ex amore ut non cognoscas eundem esse! hoc nemo fuit
もう同じ人だとは思えないほどじゃないか。まえはあれほど
minus ineptus, mage severus quisquam nec mage continens.
賢くて節度があってしっかりした人はいなかったのになあ。
sed quis hic est qui huc pergit? attat hicquidem est parasitus Gnatho
ところで、こっちへやって来たあの男は誰だろう。ああ、あれは確かにグナートンだな。
militis. ducit secum una virginem dono huic. papae
兵隊さんの太鼓持ちの。タイスへプレゼントする若い少女を連れている。おやまあ、
facie honesta! mirum ni ego me turpiter hodie hic dabo 230
綺麗な顔をした子だなあ。この調子だときっとこの俺は情けないことになるに違いない。
cum meo decrepito hoc eunucho. haec superat ipsam Thaidem.
こんな老いぼれた宦官を連れて来たんだから。あの子はタイスよりきれいじゃないか。

Gnatho Parmeno

II.ii

第二幕第二場 グナートン、パルメノン(兵隊さんの太鼓持ちがパンピラをタイスに届ける場面)(232-)

GNA. Di inmortales, homini homo quid praestat? stulto intellegens
グナートン 一体全体、人間の能力の違いはどこから来るんだろう。馬鹿と賢こは
quid interest? hoc adeo ex hac re venit in mentem mihi.
どこが違うんだろう。こんな考えが浮かんだのはこんな事があったからなんだ。
conveni hodie adveniens quendam mei loci hinc atque ordinis,
今日来る時に途中で俺と同じ立場で同じ境遇の人間に出会った。
hominem haud impurum, itidem patria qui abligurrierat bona. 235
悪いやつじゃないんだが、同じように親の財産を食いつぶしちまった男。
video sentum squalidum aegrum, pannis annisque obsitum. "oh
モジャモジャ頭でむさくるしくて不機嫌な顔をしてボロをまとった老人だ。「ああ、
quid istuc" inquam "ornatist?(ornati est)" "quoniam miser quod habui perdidi, em
なんていう格好してるんだ」と言うと、「運に見放されて身ぐるみ全部なくしちゃったよ。
quo redactus sum. omnes noti me atque amici deserunt."
これが俺の成れの果ての姿さ。知り合いも友達もみんな知らんぷりさ」
hic ego illum contempsi prae me: "quid,homo" inquam "ignavissime?
俺は自分と引き比べてその男を馬鹿にしてやった。「どうしたんだ。情けないやつだな。
itan parasti te ut spes nulla relicua in te siet tibi? 240
そんな自分自身に希望が持てないほど、よくもそこまで落ちぶれたものだな。
simul consilium cum re amisti? viden me ex eodem ortum loco?
金と一緒にオツムも捨てちゃったのか? 見ろよ、俺はお前と同じ境遇の人間なんだぜ。
qui color,nitor,vestitus, quae habitudost corporis!
それがこの顔色、肌の艶、この出で立ち、この恰幅の良さだ。
omnia habeo neque quicquam habeo; nil quom est, nil defit tamen."
何も持っていないのに全てを持っている。何もないのに何も不足していないんだぜ」
"at ego infelix neque ridiculus esse neque plagas pati
「残念だけど俺は人に笑われたり叩かれたりするのは
possum." "quid? tu his rebus credis fieri? tota erras via. 245
苦手なんだ」「何だって。俺がそんなことしてると思っているのか。全然違う。
olim isti fuit generi quondam quaestus apud saeclum prius.
一時代前の昔ならそんな商売のやり方もあったさ。
hoc novomst aucupium; ego adeo hanc primus inveni viam.
しかし今では獲物を捕まえるやり方も違っているんだ。まあ、このやり方を発明したのは誰あろう俺様だけどね。
est genus hominum qui esse primos se omnium rerum volunt
何でも一流になりたがるのに実際は二流の人がいるだろ。
nec sunt. hos consector; hisce ego non paro me ut rideant,
俺はそういう人を狙うんだ。そういう人を相手にして俺が笑われるんじゃなくて
sed eis ultro adrideo et eorum ingenia admiror simul. 250
そいつらを笑ってやるのさ。それと同時に彼らの才能を褒めてやる。
quidquid dicunt laudo; id rursum si negant, laudo id quoque.
奴らが話すことは何でも褒めてやるのさ。次に前と反対のことを言っても、また賛成する。
negat quis,nego; ait,aio. postremo imperavi egomet mihi
否定すれば、こっちも否定する。肯定すれば、肯定してやる。要するに、どんなことにも
omnia adsentari. is quaestus nunc est multo uberrimus."
合わせてやることにしたのさ。これが一番儲かる商売のやり方なんだよ」
PAR. scitum hercle hominem! hic homines prorsum ex stultis insanos facit.
パルメノン ほんとに賢い人だよ。この人の手にかかると馬鹿はちゃんと馬鹿にみせてくれる。
GNA. dum haec loquimur, interea loci ad macellum ubi adventamus, 255
グナートン(独白) 二人でこんことをしゃべりながら、市場にやってくると、
concurrunt laeti mi obviam cuppedenarii omnes,
うまいもの屋の人達がみんな嬉しそうに俺を出迎えにきた。
cetarii,lanii,coqui,fartores,piscatores,
魚屋、肉屋、料理人、鶏肉屋、漁師たちだが、
quibus et re salva et perdita profueram et prosum saepe.
俺に金があったときにも儲けさせてやったし金がなくなってからもよく儲けさせてやっている連中だ。
salutant, ad cenam vocant, adventum gratulantur.
連中は俺によく来てくれたと挨拶をして食事に招待してくれた。
ille ubi miser famelicus videt mi esse tantum honorem et 260
惨めに腹を減らしたさっきの男は、俺がこんなに大事にされて、
tam facile victum quaerere, ibi homo coepit me obsecrare
こんなに容易く食い物を手に入れるのを見て、そのやり方を教えて欲しいと
ut sibi liceret discere id de me. sectari iussi,
俺にお願いし始めた。それで俺は、できたら俺の弟子になれと
si potis est, tamquam philosophorum habent disciplinae ex ipsis
言ってやった。哲学の学派がその名前を学者の名前からつけるように、
vocabula, parasiti ita ut Gnathonici vocentur.
太鼓持ちのことをグナートン派と呼ばれるのようにしたんだよ。
PAR. viden otium et cibus quid facit alienus? GNA. sed ego cesso 265
パルメノン(傍白)見ましたか、ぶらぶらして人の食い物を当てにする生活がどんなものかを。グナートン それより早く
ad Thaidem hanc deducere et rogare ad cenam ut veniat?
この娘をタイス花魁に引き渡して花魁を夕食に招待しなきゃ。
sed Parmenonem ante ostium hic stare tristem video,
だが、パルメノンが家の戸口で浮かない顔をして立ってるぞ。
rivalis(n.G) servom. salva res est. nimirum homines frigent.
やつはうちの旦那の競争相手の召使だ。しめしめ。どうやらやつらは冷たくあしらわれたらしい。
nebulonem hunc certumst ludere. PAR. hisce hoc munere arbitrantur
あの能無しをからかってやることにしよう。パルメノン(傍白) やつらはあのプレゼントで
suam Thaidem esse. GNA. plurima salute Parmenonem 270
タイスの気持ちを勝ち取れると思ってるんだな。グナートン グナートンから最高の友パルメノン殿に
summum suom impertit Gnatho. quid agitur? PAR. statur. GNA. video.
心からのご挨拶をさせて頂きます。いかがお過ごしですか。パルメノン 立ってお過ごしだよ。グナートン なるほど。
numquidnam hic quod nolis vides? PAR. te. GNA. credo. at numquid aliud?
何か目障りなものがございますかな。パルメノン お前だよ。グナートン 確かに。ほかに何か?
PAR. qui dum? GNA. quia tristi's. PAR. nil quidem. GNA. ne sis. sed quid videtur
hoc tibi mancupium? PAR. non malum hercle. GNA. uro hominem. PAR. ut falsus animist!
パルメノン どういう意味だよ。グナートン 浮かない顔をされておられますから。パルメノン 何でもないよ。グナートン さぞかしそうでしょう。でも、こ の子をどう思われますか。パルメノン 悪くはないね。グナートン(傍白) 怒らせたようだ。パルメノン(傍白) この男、ひどい勘違いをしているな。
GNA. quam hoc munus gratum Thaidi arbitrare esse? PAR. hoc nunc dicis 275
グナートン このプレゼントはタイスのお気に召すと思いますか。パルメノン これで
eiectos hinc nos. omnium rerum, heus, vicissitudost.
俺達をここから追い出したつもりなんだろ。だが見ておけ、どんなことにも運命の逆転はあるんだよ。
GNA. sex ego te totos, Parmeno, hos mensis quietum reddam
グナートン これからの半年間たっぷりあなたを休ませてあげますよ、パルメノンさん。
ne sursum deorsum cursites neve usque ad lucem vigiles.
もう上を下へと走りまわらなくて、朝まで夜更かししなくてもよくなりますよ。
ecquid beo te? PAR. men? papae. GNA. sic soleo amicos. PAR. laudo.
あなた少しはうれしくないのですか? パルメノン 俺がかい。まったくだ。グナートン 友達にはいつもそうしているんです。パルメノン すばらしい。
GNA. detineo te. fortasse tu profectus alio fueras. 280
グナートン お引き止めしましたね。多分どこかへお出かけのところだったのでしょう。
PAR. nusquam. GNA. tum tu igitur paullulum da mi operae. fac ut admittar
パルメノン いや、どこにも。グナートン それならば、少しお助け願いませんか。花魁に
ad illam. PAR. age modo, i. nunc tibi patent fores hae quia istam ducis.
お取次ぎをお願いします。パルメノン 大丈夫、行けよ。その子を連れてるんだからこの扉は開くさ。
GNA. numquem evocari hinc vis foras? PAR. sine biduom hoc praetereat:
グナートン(戸が簡単に開く)中から誰か呼び出して欲しい人はないですか(グナートン、パンピラとタイスの家に入る)。パルメノン(グナートンの背中に向けて)
qui mihi nunc uno digitulo fores aperis fortunatus,
お前も今はツキが来てるから小指一本でこの扉をあけてるけど、これが二日経ってみろ、
ne tu istas faxo calcibus saepe insultabis frustra. 285
お前が何回蹴ってもこの扉が開かないようにしてやるからな。
GNA. etiamnunc tu hic stas, Parmeno? eho numnam hic relictu's custos,
グナートン(タイスの家から出てきて)そこにまだいらしたんですか、パルメノンさん? ここに残って見張ってるんですか、
ne quis forte internuntius clam a milite ad istam curset?
兵隊さんから彼女へこっそり使いが来るかどうかを。(グナートン、右へ退場)
PAR. facete dictum! mira vero militi qui placeat?
パルメノン(独白) 面白い事を言うねえ。兵隊さんのお気に入りとは思えないね。
sed video erilem filium minorem huc advenire.
おや、うちの若旦那の弟さんがこっちへ来るぞ。
miror quid ex Piraeo abierit. nam ibi custos publice est nunc. 290
どうしてピラエウスから出て来たんだろう。あそこで兵役で番兵をやってるはずだが。
non temere est, et properans venit. nescioquid circumspectat.
わけがあるはずだ。急いでやってくるぞ。何か探してるようだ。

Chaerea Parmeno

II.iii

第二幕第三場 カエレアス、パルメノン(パンピラに一目惚れしたカエレアスが宦官の代わりにタイスの家に入り込むことを思いつく場面)(292-)

CHA. Occidi!
カエレアス(水兵の服装で登場、独白) 畜生!
neque virgost usquam neque ego, qui illam e conspectu amisi meo.
あの子はどこにもいない。あの子を見失ってしまったよ。
ubi quaeram, ubi investigem, quem perconter, quam insistam viam
どこを探せばいいんだ、どこを調べたらいいんだ、誰に尋ねたらいいんだ、どの道を選べばいいんだ、
incertus sum. una haec spes est: ubi ubi est, diu celari non potest. 295
まったく分からないよ。唯一の希望は、彼女ならどこにいたって、人目につかずにはいられないということだ。
o faciem pulchram! deleo omnis dehinc ex animo mulieres.
ほんとにきれいな子だからな。ほかの女のことは全部忘れてしまうくらいだよ。
taedet cotidianarum harum formarum. PAR. ecce autem alterum!
月並みな女たちの顔なんかもう見たくもない。パルメノン(傍白) ほら、ここにもう一人。
nescioquid de amore loquitur. o infortunatum senem!
恋に浮かれて分けのわからないことをしゃべっているよ。大旦那様は気の毒だねえ。
hic vero est qui si occeperit,
実際、この弟さんはもし本気になったら、
ludum iocumque dices fuisse illum alterum, 300
兄さんの恋なんて幼稚な子供だましとしか思われないだろうね。
praeut huius rabies quae(n.pl) dabit.
恋に狂ったこの弟が今から仕出かすことに比べたら。
CHA. ut illum di deaeque senium perdant qui me hodie remoratus est,
カエレアス(独白)畜生、あの老いぼれ野郎、僕の邪魔をしやがって。それに
meque adeo qui ei restiterim, tum autem qui illum flocci fecerim.
あんな奴のために立ち止まってかまってやった僕も僕だよ。
sed eccum Parmenonem. salve. PAR. quid tu's tristis? quidve es alacris?
ところで、あそこにパルメノンがいる。やあ。パルメノン そんながっかりした顔をして、どうしました。それにひどく荒れてますね。
unde is? CHA. egone? nescio hercle, 305
どちらから来ました? カエレアス 僕かい。まったく分からないんだ。
neque unde eam neque quorsum eam; ita prorsus sum oblitus mei.
どっちから来たのかもどこへ行くのかも。要するに、完全に自分を見失ってしまったんだ。
PAR. qui quaeso? CHA. amo. PAR. hem. CHA. nunc, Parmeno, ostendes te qui vir sies.
パルメノン ねえ、どうしたんですか。カエレアス 僕は恋をしているんだ。パルメノン ありゃりゃ。カエレアス パルメノン、今こそお前の腕の見せどころだよ。
scis te mihi saepe pollicitum esse "Chaerea, aliquid inveni
いつも約束していたよね「カエレアス坊ちゃん、恋の相手をお見つけなさい。
modo quod ames; in ea re utilitatem ego faciam ut cognoscas meam",
そういうことについてはこのあっしが役に立つ所をお見せしますぜ」ってね。
quom in cellulam ad te patris penum omnem congerebam clanculum. 310
あれは親父の食物を何でもこっそりとお前の部屋にどっさり持って行ってやったときだったね。
PAR. age, inepte. CHA. hoc hercle factumst. fac sis(si vis) nunc promissa adpareant,
パルメノン おやおや、馬鹿おっしゃいな。カエレアス とうとうその相手を見つけたんだ。だから、よかったら約束を果たしてくれないか。
si adeo digna res est ubi tu nervos intendas tuos.
わざわざお前に力を発揮してもらうほどのことだったらだけど。
haud similis virgost virginum nostrarum quas matres student
あの少女はそんじょそこらの女の子とは違うんだよ。いま時の子は撫で肩にして
demissis umeris esse, vincto pectore, ut gracilae sient.
胸を縛り付けて、細身に仕立てようと母親たちが必死にやっている。
si quaest habitior paullo,pugilem esse aiunt, deducunt cibum. 315
娘が少しでもぽっちゃりしてくると、相撲取りにでもなるのかと言って、食事の抜くのだ。
tam etsi bonast natura, reddunt curatura iunceas.
たとえ素質はよくても、母親が何かと世話を焼いて葦のようにしてしまうんだ。
itaque ergo amantur. PAR. quid tua istaec? CHA. nova figura oris. PAR. papae.
そうやって恋人を見つけるのさ。パルメノン それで坊ちゃんの彼女はどうなんですか。カエレアス そういうのとはぜんぜん違う美しさなんだよ。パルメノン さぞかしそうなんでしょうなあ。
CHA. color verus, corpus solidum et suci plenum. PAR. anni? CHA. anni? sedecim.
カエレアス 肌の色が自然で、肉付きもよくて瑞々しいんだ。パルメノン 歳は? カエレアス 歳は十六だよ。
PAR. flos ipse. CHA. ipsam hanc tu mihi vel vi vel clam vel precario
パルメノン まさに青春の花盛りですね。カエレアス あの子を力づくでもペテンでも泣き落としでも何でもいいから、
fac tradas. mea nil refert dum potiar modo. 320
僕に手渡して欲しいんだ。彼女が僕のものになるならその方法は問わない。
PAR. quid? virgo quoiast? CHA. nescio hercle. PAR. undest? CHA. tantundem. PAR. ubi habitat?
パルメノン ええ? それで誰の娘ですか。カエレアス 全然知らないんだ。パルメノン どこから来た娘です? カエレアス それも知らない。パルメノン どこに住んでいるんです?
CHA. ne id quidem. PAR. ubi vidisti? CHA. in via. PAR. qua ratione eam amisti?
カエレアス それも知らない。パルメノン どこで見かけたんです。カエレアス 道で。パルメノン そんな子を見失うなんて一体何したんですか?
CHA. id equidem adveniens mecum stomachabar modo,
カエレアス それだよ。僕が来る途中ずっと今まで自分に腹を立てていたのは。
nec quemquam ego esse hominem arbitror quoi mage bonae
こんなすごい幸運にめぐり合いながら
felicitates omnes advorsae sient. 325
それが全部裏目に出てしまうなんて、そんな僕みたいな奴はいないと思うよ。
PAR. quid hoc est sceleris? CHA.perii. PAR. quid factumst? CHA. rogas?
パルメノン どんな辛い事ですか。カエレアス クソ。パルメノン 何があったんですか。カエレアス 聞いてくれるのか。
patris cognatum atque aequalem Archidemidem
お前、親父の親戚で親父と同年輩のアルキデミデスを
nostin? PAR. quidni? CHA. is, dum hanc sequor, fit mi obviam.
知ってるかい? パルメノン もちろんです。カエレアス 僕が彼女を追いかけている時に、その人が前からやってきたんだ。
PAR. incommode hercle. CHA. immo enimvero infeliciter;
パルメノン それは何とも残念でしたね。カエレアス それどころか、災難だよ。
nam incommoda alia sunt dicenda, Parmeno. 330
残念というのはもっと他のことを言うんだよ、パルメノン。
illum liquet mihi deierare his mensibus
誓ってもいいけど、あの人とはもうこの六ヶ月も
sex septem prorsum non vidisse proxumis,
七ヶ月も全然会ってないんだよ。そんな人に今日みたいに、こっちは
nisi nunc quom minime vellem minimeque opus fuit.
用もないし会いたくもないときに会うんだからなあ。
eho nonne hoc monstri similest? quid ais? PAR. maxume.
こんな奇妙なことがあるだろうか。どう思う。パルメノン そうですね。
CHA. continuo accurrit ad me, quam longe quidem, 335
カエレアス 遠くからまっすぐ駆け寄ってきて、
incurvos,tremulus,labiis demissis,gemens.
体を折り曲げて震えながら、唇をたるませてゼイゼイしながら、
"heus heus tibi dico, Chaerea" inquit. restiti.
「ねえ、ねえ、カエレアス坊ちゃん、お願いしますよ」と言うのだ。僕は立ち止まったよ。
"scin quid ego te volebam?" "dic." "cras est mihi
「どうしてあたしが坊ちゃんを探していたか知ってますか?」「言えよ」「明日
iudicium." "quid tum?" "ut diligenter nunties
裁判なんです」「それで?」「ちゃんとお父様にお伝えして欲しいんです。
patri, advocatus mane mi esse ut meminerit." 340
明日の朝、私の証人として来ることをお忘れなきようにって」
dum haec dicit abiit hora. rogo numquid velit.
あいつがこんな事を言っている間に一時間がたってしまった。ほかに何か用があるのかと僕が聞くと、
"recte" inquit. abeo. quom huc respicio ad virginem,
「大丈夫です」と言うんだ。それで別れて、女の子を探してこっちを見ると、
illaec se interea commodum huc advorterat
ちょうど彼女はこっちへ曲がるところだったんだ。
in hanc nostram plateam. PAR. mirum ni hanc dicit, modo
僕達の家のあるこの通りの方にね。パルメノン(傍白) この子が言っているのは今
huic quae datast dono. CHA. huc quom advenio nulla erat. 345
タイスにプレゼントされた少女に違いない。カエレアス ところが僕がここに来た時にはあの子はどこにもいなかったんだよ。
PAR. comites secuti scilicet sunt virginem?
パルメノン その少女にはきっと付き添いがついていたでしょう?
CHA. verum: parasitus cum ancilla. PAR. ipsast. ilicet.
カエレアス そうだよ。太鼓持ちと女中が付いていた。パルメノン(傍白) きっとあの子だな。(カエレアスに)その子はダメです。
desine, iam conclamatumst. CHA. alias res agis.
その子はおやめなさい。ゲームセットです。カエレアス それは別の子の事だろ。
PAR. istuc ago equidem. CHA. nostin quae sit, dic mihi, aut
パルメノン いや確かにその子です。カエレアス おい、彼女のことを知っているのか。
vidistin? PAR. vidi,novi,scio quo abducta sit. 350
彼女を見たのかい。教えてくれ。パルメノン 彼女のことは見て知っています。連れ込まれた場所も知ってます。
CHA. eho Parmeno mi, nostin? et scis ubi siet?
カエレアス おや、僕の大切なパルメノンさん、君は彼女を知ってるんですね? 彼女の居場所を知っているんですね?
PAR. huc deductast ad meretricem Thaidem; ei dono datast.
パルメノン ここのタイスという花魁の家に入っています。花魁のプレゼントに贈られたんです。
CHA. quis is est tam potens cum tanto munere hoc? PAR. miles Thraso,
カエレアス そんな豪華なプレゼントを出来る男ってどこの金持ちなんだ? パルメノン トラソンという軍人です。
Phaedriae rivalis. CHA. duras fratris partis praedicas.
うちの若旦那のライバルです。カエレアス それでは兄貴の負けだな。
PAR. immo enim si scias quod donum huic dono contra conparet, 355
パルメノン その通りです。お兄さんがあのプレゼントに対抗して花魁に何を贈るかご存知ですか。もしご存知なら、
magis id dicas. CHA. quodnam quaeso hercle? PAR. eunuchum. CHA. illumne obsecro
よけいにそう思うでしょうねえ。カエレアス それは一体何なんだよ。パルメノン 宦官でさ。カエレアス ねえ、それは
inhonestum hominem, quem mercatus est heri, senem mulierem?
兄貴が昨日手に入れてきたあのみっともない年寄りのオトコ女のことかい。
PAR. istunc ipsum. CHA. homo quatietur certe cum dono foras.
パルメノン それです、それです。カエレアス それじゃあ、兄貴はそのプレゼントもろとも蹴り出されるのがおちだな。
sed istam Thaidem non scivi nobis vicinam. PAR. haud diust.
でも、そのタイスってのが隣に住んでるとは知らなかった。パルメノン 最近のことですから。
CHA. perii, numquamne etiam me illam vidisse! ehodum,dic mi 360
カエレアス くそ、僕はそんな女を見たことないぞ。おい、教えてくれ、彼女はそんなに
estne, ut fertur, forma? PAR. sane. CHA. at nil ad nostram hanc? PAR. alia rest.
美人なのか? パルメノン 確かに。カエレアス 僕の彼女と比べたら月とスッポンだろ。パルメノン あれは別物ですよ。
CHA. obsecro hercle, Parmeno, fac ut potiar. PAR. faciam sedulo ac
カエレアス ねえ、パルメノン、頼むから、あの子が僕のものになるようにしておくれ。パルメノン がんばって
dabo operam, adiuvabo. numquid me aliud? CHA. quo nunc is? PAR. domum,
やってみましょう。お手伝いしますよ。ほかに何かありませんか? カエレアス 今からお前どこへ行くんだ。パルメノン お屋敷ですよ。
ut mancupia haec, ita uti iussit frater, ducam ad Thaidem.
今からお兄さんに言われたように、あの宦官たちをタイスのところへ連れていくんです。
CHA. o fortunatum istum eunuchum quiquidem in hanc detur domum! 365
カエレアス この家に入れるとは、その宦官は幸せ者だなあ。
PAR. quid ita? CHA. rogitas? summa forma semper conservam domi
パルメノン どうして幸せなんですか。カエレアス わかるだろ。家の中であんな綺麗な少女の仲間になって
videbit,conloquetur,aderit una in unis aedibus,
いつも彼女を見られるし、彼女と話しをできるし、彼女と同じ家にいられるし、
cibum non numquam capiet cum ea, interdum propter dormiet.
いつも一緒にご飯が食べれて、時々そばで眠られるんだよ。
PAR. quid si nunc tute fortunatus fias? CHA. qua re, Parmeno?
パルメノン じゃあ、坊ちゃんがその幸せ者になれるとしたらどうです。カエレアス どうやってなるんだよ、パルメノン。
responde. PAR. capias tu illius vestem. CHA. vestem? quid tum postea? 370
教えてくれ。パルメノン あの宦官の服を手に入れるんですよ。カエレアス 服だって? それからどうするんだ?
PAR. pro illo te ducam. CHA. audio. PAR. te esse illum dicam. CHA. intellego.
パルメノン 宦官の代わりに坊ちゃんをあっしが連れて行くんです。カエレアス それで。パルメノン 坊ちゃんが宦官だと言うんです。カエレアス わかったぞ。
PAR. tu illis fruare commodis quibus tu illum dicebas modo:
パルメノン 坊ちゃんがさっき宦官を羨やましく思ったことを楽しめるんですよ。
cibum una capias, adsis,tangas,ludas,propter dormias.
彼女と一緒にご飯を食べて、そばに居て、体に触れて、遊んで、近くで寝られますよ。
quandoquidem illarum neque te quisquam novit neque scit qui sies.
仲間の女たちは誰も坊ちゃんの存在に気が付かないし、坊ちゃんが誰だか知らないですからね。
praeterea forma et aetas ipsast facile ut (te) pro eunucho probes. 375
さらに、坊ちゃんの外見と年齢をもってすれば、容易に宦官で通りますよ。
CHA. dixti pulchre. numquam vidi melius consilium dari.
カエレアス よく教えてくれた。こんなにいいアドバイスをくれたことはこれまでなかったな。
age eamus intro nunciam; orna me,abduc,duc quantum potest.
さあ、すぐに家に入ろう。僕に服を着せて、急いで連れていってくれ。
PAR. quid agis? iocabar equidem. CHA. garris. PAR. perii, quid ego egi miser!
パルメノン 何を考えてるんですか。さっきのは冗談ですよ。カエレアス そんな馬鹿な。パルメノン しまった。なんてことをやってしまったんだ。(カエレアスに押されて)
quo trudis? perculeris(<percello) iam tu me. tibi equidem dico, mane.
なんで押すんですか。倒れるじゃないですか。言ってるでしょう、やめてくださいよ。
CHA. eamus. PAR. pergin? CHA. certumst. PAR. vide ne nimium calidum hoc sit modo. 380
カエレアス 入ろうよ。パルメノン やるんですか。カエレアス 僕は決めたんだ。パルメノン こんなことをして厄介なことになったらどうするんですか。
CHA. non est profecto. sine. PAR. at enim istaec in me cudetur faba. CHA. ah.
カエレアス 大丈夫、そんなことはないよ。やらせてくれ。パルメノン でもねえ、あとで叱られるのは私なんですから。カエレアス(じれったそうに) もう。
PAR. flagitium facimus. CHA. an id flagitiumst si in domum meretriciam
パルメノン こんなことするのはよくないことですぜ。カエレアス 僕が花魁の屋敷に連れ込まれることは
deducar et illis crucibus, quae nos nostramque adulescentiam
悪いことなのかい。兄貴や僕達を見下して、
habent despicatam et quae nos semper omnibus cruciant modis,
あらゆるやり方で俺達をいつも苦しめて堕落させてきた女たちに
nunc referam gratiam atque eas itidem fallam, ut ab eis fallimur? 385
仕返しをするのが悪いことなのかい。あいつらに騙されてきたのと同じようにあいつらを騙すのは悪いことなのかい。
an potius haec patri aequomst fieri ut a me ludatur dolis?
それとも親父をペテンにかけるほうが僕にはお似合いだとでも言うのかい。
quod qui rescierint, culpent; illud merito factum omnes putent.
そんなことして見つかったら叱られるよ。でも花魁を騙したらみんなに褒められるさ。
PAR. quid istic? si certumst facere, facias. verum ne post conferas
パルメノン わかりました。本気ならやりなさい。でも、あとであっしに
culpam in me. CHA. non faciam. PAR. iubesne? CHA. iubeam? cogo atque impero.
罪をなすりつけないでくださいね。カエレアス それはわかっている。パルメノン どうしてもですか。カエレアス どうしてもかって? どうしてもだ。これは命令だ。
numquam defugiam auctoritatem. sequere. PAR. di vortant bene! 390
僕は責任逃れは言わないよ。ついてこい。パルメノン うまくいくといいんですけど。(二人は大旦那の家に戻る)

ACTVS III

Thraso Gnatho Parmeno

III.i
第三幕第一場 トラソン、グナートン、パルメノン(トラソンの人物とグナートンの策略を明らかにする場面)(391-)

TRA. Magnas vero agere gratias Thais mihi?
トラソン タイスはわしに対して大いに感謝しているのか?
GNA. ingentis. TRA. ain tu, laetast? GNA. non tam ipso quidem
グナートン 大変なもんです。トラソン 何だって? 喜んでくれたのか? グナートン プレゼントを喜ぶというより、
dono quam abs te datum esse. id vero serio
旦那さまから贈られたことをお喜びです。本当に心から
triumphat. PAR. hoc proviso ut, ubi tempus siet,
歓喜していますよ。パルメノン(独白) いい頃合いに坊ちゃんをお連れしようと
deducam. sed eccum militem. TRA. est istuc datum 395
様子を見に来たんだ。だけど、あそこに軍人が来ている。トラソン わしは何をしても人に喜ばれるが、
profecto ut grata mihi sint quae facio omnia.
これはきっとわたしの才能だな。
GNA. advorti hercle animum. TRA. vel rex semper maxumas(gratias)
グナートン 本当に私もそう思っていました。トラソン 王様は私のすることは何でも
mihi agebat quidquid feceram, aliis non item.
非常に喜んでくれたからね。ほかの人の場合はそうは行かなかった。
GNA. labore alieno magno partam gloriam
グナートン 他人が苦労して手に入れた栄光を、
verbis saepe in se transmovet qui habet salem; 400
賢い人はしばしば口先一つで我がものにするのです。
quod in test. TRA. habes. GNA. rex te ergo in oculis-- TRA. scilicet.
それが旦那です。トラソン そのとおり。グナートン だから王はあなたを目に入れても痛くないほど トラソン そうだ。
GNA. --gestare. TRA. vero. credere omnem exercitum,
グナートン かわいがって トラソン そうだ。わしに全軍を委ねて、
consilia. GNA. mirum. TRA. tum sicubi eum satietas
作戦も委ねた。グナートン すばらしい。トラソン 王は家来に飽きたり
hominum aut negoti siquando odium ceperat,
仕事が嫌になったりした時や、
requiescere ubi volebat, quasi . . nostin? GNA. scio: 405
息抜きをしたい時に、つまり、わかるか? グナートン 分かります。
quasi ubi illam exspueret miseriam ex animo. TRA. tenes.
つまり、頭から雑念を吹き飛ばしたいときですね。トラソン そのとおり。
tum me convivam solum abducebat sibi. GNA. hui!
わしだけを食事仲間に呼び出したもんだ。グナートン ほお。
regem elegantem narras. TRA. immo sic homost,
好みのうるさい王様ですね。トラソン そうなんだ。
perpaucorum hominum. GNA. immo nullorum arbitror,
王はごく少数の人間しか近づけないんだ。グナートン(傍白)あんたと付き合ってということは、
si tecum vivit. TRA. invidere(=Historical Infinitive) omnes mihi, 410
きっとほかに誰にも付き合ってもらえないんだろ。トラソン みんなわしを妬んで、
mordere clanculum. ego non flocci pendere.
裏で悪口を言っていた。わたしは気にしていなかったが、
illi invidere misere, verum unus tamen
あつらの妬みはひどいものだった。特に
impense, elephantis quem Indicis praefecerat.
インド象を任されている男などはどうしようもないくらいで、
is ubi molestus magis est, "quaeso" inquam "Strato,
あまりに失礼な時には言ってやるのさ。「ねえ、ストラトン、
eon(eone) es ferox quia habes imperium in beluas?" 415
ゾウなんか扱ってるとやっぱり君も獰猛になるのかい」とね。
GNA. pulchre mehercle dictum et sapienter. papae
グナートン それはうまいこと言ってやりましたね。さすが、頭がいいですね。
iugularas hominem. quid ille? TRA. mutus ilico.
相手はいちころですね。そいつはどうなりました。トラソン すぐに黙ってしまったよ。
GNA. quidni esset? PAR. di vostram fidem, hominem perditum
グナートン 当然ですね。パルメノン(傍白) いやはや、どうしようもない奴だな。
miserumque et illum sacrilegum! TRA. quid illud, Gnatho,
それにこちらも罰当たりなお人だ。トラソン あれはどうだい、グナートン、
quo pacto Rhodium tetigerim(<tango) in convivio, 420
どうやってロードス人を酒宴の席で怒らせたか。
numquam tibi dixi? GNA. numquam; sed narra obsecro.
もうお前に言ったかな。グナートン まだです。お願いします。
(plus miliens audivi.) TRA. una in convivio
(傍白)もう千回も聞いたよ。トラソン 酒宴の席に
erat hic, quem dico, Rhodius adulescentulus.
そのロードス島出の若者が同席していたんだよ。
forte habui scortum. coepit ad id adludere
たまたまわしは花魁を呼んでいた。その男はその花魁といちゃついて
et me inridere. "quid ais" inquam homini "impudens? 425
私をからかい始めた。そこで私は言ってやった「どういうつもりだい。ふてい野郎だ。
lepus tute's, pulpamentum quaeris?" GNA. hahahae.
貴様うさぎの分際で狩りに出たつもりかい」と。グナートン ははは。
TRA. quid est? GNA. facete,lepide,laute,nil supra.
トラソン どうだい。グナートン うまい、すてき、すばらしい、絶品。
tuomne, obsecro te, hoc dictum erat? vetus credidi.
ねえ、それは旦那の考えたセリフですか。昔からあるのかと思いましたよ。
TRA. audieras? GNA. saepe, et fertur in primis. TRA. meumst.
トラソン 聞いたことがあるのか。グナートン 何度も聞きますよ。最高だと評判ですぜ。トラソン このわしが考えたものだよ。
GNA. dolet dictum imprudenti adulescenti et libero. 430
グナートン この言葉を向けられた無遠慮な若者は気の毒でしたな。
PAR. at te di perdant! GNA. quid ille quaeso? TRA. perditus.
パルメノン(傍白)お前なんか糞食らえだ。グナートン それでそいつはどうしました。トラソン 撃沈だな。
risu omnes qui aderant emoriri. denique
その場にいた者たちは全員死ぬほど笑ったな。それからは
metuebant omnes iam me. GNA. haud iniuria.
みんながわしに気をつかうようになったよ。グナートン 当然でさあ。
TRA. sed heus tu, purgon ego me de istac Thaidi,
トラソン ところで、おい、おまえ。その少女だが、
quod eam me amare suspicatast? GNA. nil minus. 435
私がその少女に惚れているという花魁の疑いは晴らした方がいいかな。グナートン だめですよ。
immo auge mage suspicionem. TRA. quor? GNA. rogas?
それどころか、もっと疑われるようになさいませ。トラソン どうしてだ。グナートン ご存知でしょ。
scin, si quando illa mentionem Phaedriae
花魁がパエドリアスの名前を言って
facit aut si laudat, te ut male urat? TRA. sentio.
彼を褒めたら、旦那は腹が立つでしょう? トラソン 腹が立つ。
GNA. id ut ne fiat haec res solast remedio:
グナートン そうならないための方法は一つありますよ。
ubi nominabit Phaedriam, tu Pamphilam 440
花魁がパエドリアスの名前を言ったら、すぐに旦那はパンピラの名前を
continuo. siquando illa dicet "Phaedriam
言うんです。もし彼女が「パエドリアスさんを
intro mittamus comissatum," Pamphilam
中に入れて楽しみましょう」といえば、パンピラを
cantatum provocemus. si laudabit haec
歌わせるために呼びましょう。彼女がパエドリアスの
illius formam, tu huius contra. denique
美しさをほめたら、あなたは対抗してパンピラの美しさを褒めるのです。
par pro pari referto quod eam mordeat. 445
そうやって目には目をで返して彼女を困らせてやりなさい。
TRA. siquidem me amaret, tum istuc prodesset, Gnatho.
トラソン それは彼女が本当にわしに惚れている場合にうまくいくだろうね。グナートン。
GNA. quando illud quod tu das exspectat atque amat,
グナートン 彼女は旦那のプレゼントを待ち望んでいてそのプレゼントを愛しています。
iamdudum te amat, iamdudum illi facile fit
だから彼女はずっと旦那を愛しているのです。だから彼女を傷つける
quod doleat. metuit semper quem ipsa nunc capit
のは簡単です。彼女がいつも心配しているのは自分が
fructum ne quando iratus tu alio conferas. 450
手に入れた宝を、旦那を怒らせてよそにやられしまわないかということです。
TRA. bene dixti, ac mihi istuc non in mentem venerat.
トラソン なるほどな。それは気が付かなかった。
GNA. ridiculum! non enim cogitaras. ceterum
グナートン そんな馬鹿な。よく考えなかっただけですよ。さもなきゃ、
idem hoc tute melius quanto invenisses, Thraso!
旦那はご自分で同じ事をもっと上手に気づいておられるはずです。


Thais Thraso Gnatho Parmeno Pythias

III.ii

第三幕第ニ場 タイス、トラソン、グナートン、パルメノン、ピュティアス(軍人がタイスを迎えに来るときに、カエレアスが宦官の服を着てタイスの家に入る場面)(453-)

THA. Audire vocem visa sum modo militis.
タイス いまわたし軍人さんの声を聞いたような気がするわ。
atque eccum. salve, mi Thraso. THR. o Thais mea, 455
やっぱりだわ。あそこにいる。お元気、トラソンさん。トラソン ああ、わしのタイスよ、
meum savium, quid agitur? ecquid nos amas
わたしの恋人よ、調子はどうだい。あのギター弾きの少女をプレゼントしたので
de fidicina istac? PAR. quam venuste! quod dedit
私を少しは愛してくれているかい? パルメノン(傍白)何と上品なことよ。
principium adveniens! THA. plurimum merito tuo.
最初の挨拶がこれとはね。タイス 大好きよ、当然だわ。
GNA. eamus ergo ad cenam. quid stas? PAR. em alterum.
グナートン(タイスに)さあ、食事に行きましょう。何を待ってるんです? 
ex homine hunc natum dicas? THA. ubi vis, non moror. 460
パルメノン(傍白)それに比べてこっちはどうだ。あれでも人から生まれたと言えるのか。タイス よろしければ、すぐに参りますわ。
PAR. adibo atque adsimulabo quasi nunc exeam.
パルメノン 近寄って行って、いま出てきた振りをしよう。
ituran, Thais, quopiam es? THA. ehem Parmeno!
花魁、どこかへお出かけですか。タイス おや、パルメノンさん、
bene fecisti; hodie itura-- PAR. quo? THA. quid, hunc non vides?
よくいらっしゃいましたわ。いまから出かけますの。パルメノン どちらへ。タイス だって、この方が見えなくて?
PAR. video et me taedet. ubi vis, dona adsunt tibi
パルメノン(タイスだけに)この人は知っておりますが、あっしは大嫌いでさあ。(大声で)よければ、うちの
a Phaedria. THR. quid stamus? quor non imus hinc? 465
若旦那からの贈り物を届いておりますが。トラソン 何をグズグズしているのですか。すぐに行きましょう。
PAR. quaeso hercle ut liceat, pace quod fiat tua,
パルメノン(トラソンに) お願いですから、ちょっとご勘弁なすって、
dare huic quae volumus, convenire et conloqui.
花魁にプレゼントをさしあげて話をする暇を下さいやし。
THR. perpulchra credo dona aut nostri similia.
トラソン さぞかし、とてもわしの綺麗なプレゼントに引けを取らない素敵なプレゼントでしょうな。
PAR. res indicabit. heus iubete istos foras
パルメノン 見てのお楽しみでござい。(家の中へ)おい、そいつらに出て来いと言ってくれ。
exire, quos iussi, ocius. procede tu huc. 470
頼んどいたやつらだ。早くしろ。(エチオピアの女へ)こっちへ出てこい。
ex Aethiopiast usque haec. THR. hic sunt tres minae.
この子がはるばるエチオピアからきた娘です。トラソン 三ミナだな。
GNA. vix. PAR. ubi tu es, Dore? accede huc. em eunuchum tibi,
グナートン 正解。パルメノン ドーロスはどこだ。こっちへこい。(カエレアスが宦官の服で出てくる)これがあなたの宦官です。
quam liberali facie, quam aetate integra!
何という品のある顔立ちでしょう。まさに青春のまっ盛りです。
THA. ita me di ament, honestust. PAR. quid tu ais, Gnatho?
タイス ほんとうに、ハンサムだわ。パルメノン どうだい、グナートン。
numquid habes quod contemnas? quid tu autem, Thraso? 475
何か文句あるか。旦那はいかがですか、トラソンさん。
tacent: satis laudant. fac periclum in litteris,
黙っておられるということは、賞賛の表れですな。(タイスに)この子をテストして下さい。
fac in palaestra, in musicis. quae liberum
文学とレスリングと音楽と。自由人の若者が身につけておくべき
scire aequomst adulescentem, sollertem dabo.
ことは、全部身につけていますよ。
THR. ego illum eunuchum, si opus siet, vel sobrius . .
トラソン(グナートンに)いざとなったらわしはこの宦官をしらふでも・・・ 
PAR. atque haec qui misit non sibi soli postulat 480
パルメノン(タイスに)それにこのプレゼントをした若旦那は花魁を
te vivere et sua causa excludi ceteros,
独り占めしようなんて了見はありませんぜ。
neque pugnas narrat neque cicatrices suas
戦争の話もしないし自分の戦傷のあとを
ostentat neque tibi obstat, quod quidam facit;
見せびらかしたり、誰かさんみたいに花魁を独り占めしようとはしませんぜ。
verum ubi molestum non erit, ubi tu voles,
うちの若旦那は、花魁にご迷惑でない時、花魁の気が向いた時、
ubi tempus tibi erit, sat habet si tum recipitur. 485
花魁の都合のいい時に、迎え入れて下さるだけで満足なんです。
THR. adparet servom hunc esse domini pauperis
トラソン こいつがあの貧乏で貧素な主人に
miserique. GNA. nam hercle nemo posset, sat scio,
仕える召使だな。グナートン 確かに、別の召使を雇う余裕があったら
qui haberet qui(=wherewith) pararet alium, hunc perpeti.
こんな召使を我慢して使わないですよね。
PAR. tace tu, quem te ego esse infra infimos omnis puto
パルメノン うるさいぞ。お前は最低の中の最低の人間だな。
homines. nam qui huic animum adsentari induxeris, 490
お前、よくも、こんな軍人におべっかする気になったなあ。
e flamma petere te cibum posse arbitror.
お前なら焼き場からでも食い物をかっぱらえるだろうに。
THR. iamne imus? THA. hos prius intro ducam et quae volo
トラソン じゃあ、行こうか。タイス まず先にこの人たちを中へ入れて、必要な
simul imperabo. poste(=post) continuo exeo.
指図をしてきますわ。そのあとですぐに出てきます。
THR. ego hinc abeo; tu istanc opperire. PAR. haud convenit
トラソン(グナートンに)わしはもう行くぞ。お前は花魁を待っていてくれ。パルメノン 将軍が
una ire cum amica imperatorem in via. 495
花魁と一緒に歩くには格好悪いんだな。(左へ去る)
THR. quid tibi ego multa dicam? domini similis es.
トラソン(去っていくパルメノンに)お前にはこれだけ言えば沢山だ。この主人にこの召使ありとな。
GNA. hahahae. THR. quid rides? GNA. istuc quod dixti modo,
グナートン ははは。トラソン 何がおかしい。グナートン 旦那がいまおっしゃったことですよ。
et illud de Rhodio dictum quom in mentem venit.
それにロードス島の男に対しておっしゃった言葉も思い出したんですよ。
sed Thais exit. THR. abi prae, curre, ut sint domi
おや、タイスが出てきました。トラソン お前、先に行け、急いで行って、
parata. GNA. fiat. THA. diligenter, Pythias, 500
家の準備をしてこい。グナートン わかりました。(グナートン去る) タイス(腰元をつれて家から出てくる) ピュティアスさん、
fac cures, si Chremes hoc forte advenerit,
もしクレメースさんがここに尋ねて来たら、丁寧にお迎えして、待っていただくように
ut ores primum ut maneat; si id non commodumst,
お願いしてくださいね。それがお嫌なら、
ut redeat; si id non poterit, ad me adducito.
出直して下さるようにと。それがだめなら、クレメースさんを私のところへ寄越してちょうだい。
PY. ita faciam. THA. quid? quid aliud volui dicere?
ピュティアス わかりました(ピュティアス、タイスの家に入る)。 タイス えっと? ほかに何を言うつもりだったかしら。
ehem curate istam diligenter virginem; 505
(自分の家の中に向かって)そうそう、あの少女の世話をちゃんとやるんですよ。
domi adsitis facite. THR. eamus. THA. vos me sequimini.
家に居るようにして頂戴ね。トラソン 行こう。タイス(腰元たちに)あなたたち、私について来なさい。


Chremes Pythias

III.iii
第三幕第三場 クレメース、ピュティアス(パンピラの兄クレメースがこれまでのいきさつ明らかにする場面)(507-)

CHR. Profecto quanto mage magisque cogito,
クレメース(独白) 本当に、考えれば考えるほど、
nimirum dabit haec Thais mihi magnum malum:
あのタイスという遊女は俺を面倒に巻き込もうとしていると思えて仕方がない。
ita me ab ea astute video labefactarier,
初めて彼女に呼び出されて以来、彼女にうまいこと言われて、
iam tum quom primum iussit me ad se accersier. 510
俺はやられっぱなしだ。
roget quis "quid tibi cum illa?" :ne noram quidem.
「彼女とはどういう関係か」と人は聞くだろうが、俺は初対面だった。
ubi veni, causam ut ibi manerem repperit;
来てみると、彼女は俺を帰らせないために色々と口実を見つけてきた。
ait rem divinam fecisse et rem seriam
夕食の準備が出来ているとか、俺と大事な話が
velle agere mecum. iam tum erat suspicio
あるとか言ってね。そのとき俺はピンと来たね。
dolo malo haec fieri omnia. ipsa accumbere 515
これは何か魂胆があるんじゃないかと。彼女は私の横に座って
mecum, mihi sese dare, sermonem quaerere.
私に身を任せるようにして会話をしようとするのだ。
ubi friget, huc evasit, quam pridem pater
話しが弾まないと、こんな話を始めた。俺の両親が亡くなって
mihi et mater mortui essent. dico, iamdiu.
どれほど経つのかと。俺は「大分長くなる」と答えた。
rus Sunii ecquod habeam et quam longe a mari:
それから、スンニー岬に農園は持っているか、それは海からどれほど離れているか聞くのだ。
credo ei placere hoc; sperat se a me avellere. 520
きっと彼女はこれに目をつけて、それを私から取り上げようとしているのだ。
postremo, ecqua inde parva periisset soror,
そのあとは、その別荘から俺の妹が居なくなったか、
ecquis cum ea una, quid habuisset quom perit,
妹と一緒に誰か居なくなったか、居なくなった時に妹は何を持っていたかとか、
ecquis eam posset noscere. haec quor quaeritet?
誰か彼女を見分けられる人がいるかと続くのだ。どうして彼女はこんな質問するのだろうか。
nisi si illa forte quae olim periit parvola
きっと、厚かましくも自分こそは
soror, hanc se intendit esse, ut est audacia. 525
子供のときに居なくなったおれの妹だと言いだすにちがいない。
verum ea si vivit annos natast sedecim,
しかし、あの子はもし生きていたとしても
non maior; Thais quam ego sum maiusculast.
まだ16歳程度だ。花魁は俺より年上だぞ。
misit porro orare ut venirem serio.
彼女は俺に来てくれと熱心に頼んできたんだ。
aut dicat quid volt aut molesta ne siet;
彼女ははっきりと言いたいことを言うべきだ。さもなければもうほっといて欲しい。
non hercle veniam tertio. heus heus, ecquis hic? 530
私はもう三度目は来るつもりはない。おーい、おーい、誰かいるか。
ego sum Chremes. PY. o capitulum lepidissimum!
私はクレメースだ。ピュティアス(出てきて)まあ、なんて素敵な方でしょう。
CHR. dico ego mi insidias fieri? PY. Thais maxumo
クレメース(傍白) これは罠だと言ってるだろ。ピュティアス 花魁は
te orabat opere ut cras redires. CHR. rus eo.
あなた様にはまた明日いらして欲しいと言っておりました。クレメース それならもう町にはいないよ。
PY. fac amabo. CHR. non possum, inquam. PY. at tu apud nos hic mane
ピュティアス お願いしますわ。クレメース それはできない。ピュティアス それでは
dum redeat ipsa. CHR. nil minus. PY. quor, mi Chremes? 535
花魁が帰るまで当家でお待ち下さい。クレメース だめだ。ピュティアス どうしてですか、クレメースさま(クレメースの手を取ろうとする)。
CHR. malam rem hinc ibis? PY. si istuc ita certumst tibi,
クレメース よしてくれ。ピュティアス あなた様がそういうご決心なら、
amabo ut illuc transeas ubi illast. CHR. eo.
是非とも花魁のいるところまでお出で下さい。クレメース わかったよ。
PY. abi, Dorias, cito hunc deduce ad militem.
ピュティアス ドリュアスちゃん、急いでこの方を軍人さんのところへご案内して。


Antipho

III.iv

第三幕第四場 アンティポン(カエレアスが幹事のパーティーが開かれる予定だったことが明らかにされる)(539-)

ANT. Heri aliquot adulescentuli coiimus in Piraeo
アンティポン(軍服を着て港の方から登場、独白) 若者たちが昨日ペイラエウス港に集まって、
in hunc diem ut de symbolis essemus. Chaeream ei rei 540
持ち寄りのパーティーを今日開くことになって、カエレアスが幹事に
praefecimus; dati anuli; locus tempus constitutumst.
選ばれた。彼に前金を渡して、場所と時間が決まっている。
praeteriit tempus. quo in loco dictumst parati nil est;
だが、約束の時間は過ぎているのに、約束した場所の準備は出来ていないし、
homo ipse nusquamst neque scio quid dicam aut quid coniectem.
ご当人はどこにもいないときている。まったく呆れて開いた口がふさがらないよ。
nunc mi hoc negoti ceteri dedere ut illum quaeram
そこであいつを探す仕事を、ほかの奴らから僕が仰せつかったというわけ。
idque adeo visam si domist. quisnam hinc ab Thaide exit? 545
だから、ここまで来てあいつが家にいるかどうか見ているのさ。おや、タイスの家から出てくるのは一体誰だ?
is est an non est? ipsus est. quid hoc hominist(hominis est)? qui hic ornatust?
あいつじゃないのか。当たりだ。あいつはまたなんていう奴だ。なんであんな格好をしているんだろう。
quid illud malist? nequeo satis mirari neque conicere;
なんてひどい事になってるんだ。いくら驚いても足りないし、わけがわからない。
nisi, quidquid est, procul hinc lubet prius quid sit sciscitari.
何であれ、どうなってるのかしばらく脇から観察していてやろう。


Chaerea Antipho

III.v

第三幕第五場 カエレアス、アンティポン(カエレアスがタイスの家に入り込んで望みを果たしたいきさつを語る場面)(549-)

CHA. Numquis hic est? nemost. numquis hinc me sequitur? nemo homost.
カエレアス(タイスの家から出てくる、独白)誰かここにいるか? 誰もいない。誰かにつけられているか。大丈夫だ。
iamne erumpere hoc licet mi gaudium? pro Iuppiter, 550
よし、もう喜びを爆発させてもいいな。やったぞ。
nunc est profecto interfici quom perpeti me possum,
今のうちなら僕は死んでもかまわない。今のうちなら耐えられる。
ne hoc gaudium contaminet vita aegritudine aliqua.
この幸福が人生の苦しみで台無しにならなないうちに。
sed neminemne curiosum intervenire nunc mihi
しかし、誰も僕の事に興味を持って聞いてくれる人はいないのか。
qui me sequatur quoquo eam, rogitando obtundat,enicet
僕と彼女のあとをつける者はいない、質問攻めする人はいない、
quid gestiam aut quid laetus sim, quo pergam, unde emergam, ubi siem 555
僕がどうして興奮しているか、どうして喜んでいるのか、どこへ行くのか、どこからきたのか、どこで
vestitum hunc nanctus, quid mi quaeram, sanus sim anne insaniam!
こんな衣装を手に入れたのか、何をしようとしているのか、正気か狂気かなどと僕に尋ねて困らせるやつはいないのか。
ANT. adibo atque ab eo gratiam hanc, quam video velle, inibo.
アンティポン 僕が行ってあいつの望みどおりに機嫌をとってやるとするか。
Chaerea, quid est quod sic gestis? quid sibi hic vestitus quaerit?
カエレアス、お前はどうしてそんなに興奮しているんだ? そんな服装の狙いは何だ?
quid est quod laetus es? quid tibi vis? satine sanu's? quid me adspectas?
何を喜んでいるんだ。何をしようとしているのか。正気なのか。どうして僕をじろじろ見てるんだ。
quid taces? CHA. o festus dies! amice,salve,hominum omnium 560
どうして黙っている。カエレアス(アンティポンを抱擁して)ああ、嬉しい日だ。やあ、ちょうどいま僕は誰よりも
nemost quem ego nunciam magis cuperem videre quam te.
君と会いたいと思っていたんだよ。
ANT. narra istuc quaeso quid sit. CHA. immo ego te obsecro hercle ut audias.
アンティポン どうしたのか話してくれよ。カエレアス 僕の方も是非とも君に聞いて欲しいんだ。
nostin hanc quam amat frater? ANT. novi. nempe, opinor, Thaidem.
君は知っているかい、僕の兄貴が惚れているここの花魁を。アンティポン 知ってるよ。確かタイスと言ったね。
CHA. istam ipsam. ANT. sic commemineram. CHA. quaedam hodiest ei dono data
カエレアス そのとおりだ。アンティポン よく覚えているよ。カエレアス 今日、その花魁のところに
virgo. quid ego eius tibi nunc faciem praedicem aut laudem, Antipho, 565
プレゼントとして一人の少女がやってきたんだ。彼女の美しさを褒めたりして君に説明する必要があるだろうか。
quom ipsum me noris quam elegans formarum spectator siem?
僕がどれほど美人についてうるさいかは君も知っているだろう。
in hac commotus sum. ANT. ain tu? CHA. primam dices, scio, si videris.
僕はその少女に惚れてしまったんだ。アンティポン まさか。カエレアス 君だって実際に見たら最高だと言うにちがいないよ。
quid multa verba? amare coepi. forte fortuna domi
あれこれいう必要はない。僕は恋をしたのさ。幸いなことに、うちの家には
erat quidam eunuchus quem mercatus fuerat frater Thaidi,
兄貴がタイスのために買っておいた宦官がいて、
neque is deductus etiamdum ad eam. submonuit me Parmeno 570
まだタイスの屋敷に連れていく前だったんだ。召使のパルメノンがアイデアを出してくれて
ibi servos quod ego arripui. ANT. quid id est? CHA. tacitus citius audies:
僕はそれを頂いたというわけ。アンティポン それはどんなアイデアだい。カエレアス 君は黙って聞いてるほうが話が早いよ。
ut vestem cum illo mutem et pro illo iubeam me illoc ducier.
奴と服を交換して奴の代わりに僕が屋敷に入れてもらうようにするのさ。
ANT. pro eunuchon? CHA. sic est. ANT. quid ex ea re tandem ut caperes commodi?
アンティポン 宦官の代わりにかい。カエレアス そうさ。アンティポン そんなことしてどんないいことがあるんだい。
CHA. rogas? viderem,audirem,essem una quacum cupiebam, Antipho.
カエレアス わかるだろ。彼女を見られるし、彼女の声が聞けるし、彼女と好きなだけ一緒にいられるんだよ、アンティポン
num parva causa aut prava ratiost? traditus sum mulieri. 575
これが些細な動機だろうか、これが間違った理由だろうか。僕は花魁のもとに送られた。
illa ilico ubi me accepit, laeta vero ad se abducit domum,
花魁は僕を受け取るとすぐに家の中に喜んで引き入れてくれた。
commendat virginem. ANT. quoi? tibine? CHA. mihi. ANT. satis tuto tamen?
そしてあの少女を預けてくれたんだよ。アンティポン 誰に? お前にかい? カエレアス そうだ。アンティポン そんなことして大丈夫かい。
CHA. edicit ne vir quisquam ad eam adeat et mihi ne abscedam imperat;
カエレアス 僕が言いつかった仕事は、男を少女に近づけないようにすることと、席を外さないようにすることだった。
in interiore parti ut maneam solus cum sola. adnuo
つまり奥の部屋で彼女と二人っきりで居ろというのだ。
terram intuens modeste. ANT. miser. CHA. "ego" inquit "ad cenam hinc eo." 580
僕は慎ましく下を向いてうなずくだけ。アンティポン 可哀想に。カエレアス 花魁は「わたしは食事に行ってきます」と言った。
abducit secum ancillas; paucae quae circum illam essent manent
そして腰元を何人も引き連れて出ていった。あの子の周りには残ったのは
noviciae puellae. continuo haec adornant ut lavet.
若い子だけ。彼女たちはすぐにお風呂の準備を始めた。
adhortor properent. dum adparatur, virgo in conclavi sedet
僕は彼女たちを急がせた。風呂の準備が行われている間、少女は部屋に座っていた。
suspectans tabulam quandam pictam: ibi inerat pictura haec, Iovem
彼女は何か絵を見ていた。そこに書いてあったのはこんな絵だった。ゼウスが
quo pacto Danaae misisse aiunt quondam in gremium imbrem aureum. 585
ダナエの懐の中に金の雨を降らせるところだ。
egomet quoque id spectare coepi, et quia consimilem luserat
僕も一緒にその絵を眺めはじめた。そして、その昔ゼウスが僕と同じようなトリックを
iam olim ille ludum, impendio magis animus gaudebat mihi,
使っていたことを見て、僕の気持ちはますます高ぶった。
deum sese in hominem convortisse atque in alienas tegulas
神様が人間の姿になって人の家の屋根の上にやって来て、
venisse clanculum per impluvium fucum factum mulieri.
こっそりと中庭の空を通って女性をたぶらかしていたんだ。
at quem deum! "qui templa caeli summa sonitu concutit." 590
しかもそれは「大空を稲妻で揺さぶる神」ゼウスなのだ。
ego homuncio hoc non facerem? ego illud vero ita feci―ac lubens.
か弱い人間である僕が同じことをしていけないはずはないじゃないか。僕も同じようやってみたんだよ。僕に躊躇はなかったね。
dum haec mecum reputo, accersitur lavatum interea virgo.
僕がこの絵のことを考えていると、少女はお風呂に入るよう呼ばれた。
iit,lavit,rediit. deinde eam in lecto illae conlocarunt.
少女はお風呂に入って帰ってきた。それから女たちが少女をベッドに寝かせた。
sto exspectans siquid mi imperent. venit una, "heus tu" inquit "Dore,
僕は何か指図があるかと待っていた。一人の女が来て「ねえ、あんた、ドーロスさん、
cape hoc flabellum, ventulum huic sic facito, dum lavamur; 595
このうちわを取って、彼女を扇いであげて。私たちはお風呂に入ってくるから。
ubi nos laverimus, si voles, lavato." accipio tristis.
私達のお風呂が終わったら、よかったらあなたも入りなさい」と言った。僕はいやいや団扇を受け取った。
ANT. tum equidem istuc os tuom impudens videre nimium vellem,
アンティポン お前が、その時にどんな場違いな顔をしていたか、
qui esset status, flabellulum tenere te asinum tantum.
どんな間抜けな格好をして、うちわを持っていたかを見てみたかったよ。
CHA. vix elocutast hoc, foras simul omnes proruont se,
カエレアス その女はそう言うと、全員がすぐに部屋の外へ出て、
abeunt lavatum, perstrepunt, ita ut fit domini ubi absunt. 600
風呂へ入りに行った。彼女たちは主人が居ないときによくあるように大騒ぎを始めた。
interea somnus virginem opprimit. ego limis specto
その間に少女は寝入ってしまった。ぼくは少女をうちわの間から
sic per flabellum clanculum. simul alia circumspecto,
こっそりと盗み見ていた。それと同時にほかの方も充分に
satin explorata sint. video esse. pessulum ostio obdo.
大丈夫かどうか見回した。それを確認すると、入り口にカンヌキを掛けた
ANT. quid tum? CHA. quid "quid tum," fatue? ANT. fateor. CHA. an ego occasionem
アンティポン それで? カエレアス 決まってるだろ、この馬鹿? アンティポン そうだな。カエレアス 僕が自分に与えられた、
mi ostentam, tantam, tam brevem, tam optatam, tam insperatam 605
つかの間の、喜ばしい、思いがけないこのチャンスを、
amitterem? tum pol ego is essem vero qui simulabar.
見逃すと思うかい。もしそんなことをしたら、僕はまさに自分が演じていた宦官になってしまうよ
ANT. sane hercle ut dicis. sed interim de symbolis quid actumst?
アンティポン 本当に君の言うとおりだ。ところで、俺たちのパーティーのことはどうなった?
CHA. paratumst. ANT. frugi es: ubi? domin? CHA. immo apud libertum Discum.
カエレアス 準備はできている。よくやった。どこでだ。お前の家か。カエレアス いや、番頭のディスカスの家だ。
ANT. perlongest, sed tanto ocius properemus: muta vestem.
アンティポン 遠いね。それなら急いで行こう。服を着替えろよ。
CHA. ubi mutem? perii; nam domo exsulo nunc: metuo fratrem 610
カエレアス どこで着替えよう。しまった。僕は家には帰れないんだ。
ne intus sit, porro autem pater ne rure redierit iam.
兄貴が家にいたら困るし、父親が田舎から帰っていても困るんだ。
ANT. eamus ad me, ibi proxumumst ubi mutes. CHA. recte dicis.
アンティポン 俺の家に行こう。そこが一番近いから、そこで着替えをすればいい。カエレアス そうだね。
eamus; et de istac simul, quo pacto porro possim
さあ行こう。途中で、あの少女をどうすれば僕だけのものに出来るか
potiri, consilium volo capere una tecum. ANT. fiat.
一緒に考えて欲しい。アンティポン そうしよう。


ACTVS IV



Dorias



IV.i

第四幕第一場 ドリュアス(軍人の食事の席にクレメースが同席して悶着になったことが明らかにされる場面)

Ita me di ament, quantum ego illum vidi, non nil timeo misera, 615
ドリュアス(独白) 私が見たきたところでは、今日あの軍人はかっとなって面倒起こして
ne quam ille hodie insanus turbam faciat aut vim Thaidi.
花魁に乱暴なことをするんじゃないかと、本当にとっても心配だわ。
nam postquam iste advenit Chremes adulescens, frater virginis,
なぜって、あの少女の兄のクレメースという若旦那さんが到着してから、
militem rogat ut illum admitti iubeat: ill' continuo irasci,
花魁が軍人にこの人を入れてあげてと頼むと、軍人は突然怒り出したのよ。
neque negare audere; Thais porro instare ut hominem invitet.
でも彼に断る勇気はなかった。それで花魁は彼を入れてあげてとがんばった。
id faciebat retinendi illius causa, quia illa quae cupiebat 620
彼女はクレメースさんを引き止めておきたかったのね。というのは、彼女が
de sorore eius indicare ad eam rem tempus non erat.
クレメースさんに彼の妹について話すのにはまだ早かったからなの。
invitat tristis: mansit. ibi illa cum illo sermonem ilico.
軍人はいやいや引き入れたわ。クレメースさんは帰らずにいた。そこで花魁はクレメースさんとすぐに話し始めた。
miles vero sibi putare adductum ante oculos aemulum.
軍人は自分の目の前にライバルが現れたと思ったのね。
voluit facere contra huic aegre: "heus" inquit "puere, Pamphilam
それで花魁に腹いせをしようとしたの。「おい、ボーイ、パンピラを
accerse ut delectet hic nos." illa "minime gentium. 625
ここへ呼べ、私の接待をさせるために」と彼は言ったの。すると花魁は「絶対にだめ。
in convivium illam?" miles tendere: inde ad iurgium.
あの子をパーティーに呼ぶなんて」。軍人は譲らなかったので口論なったの
interea aurum sibi clam mulier demit, dat mi ut auferam.
その間に花魁は金の指輪をこっそり外して、あたしに手渡して持って行かせたというわけ。
hoc est signi: ubi primum poterit, se illinc subducet scio.
これは出来るだけ早く抜け出してくるというサインだということを、あたしは知っています。(パエドリアスが登場するが、ドリュアスは舞台に残る)


Phaedria <Dorias>

IV.ii

第四幕第二場 パエドリアス、(ドリュアス)(パエドリアスが田舎からすぐに帰ってきた理由を語る場面)(629-)

PHA. Dum rus eo, coepi egomet mecum inter vias,
パエドリアス 田舎へ行く途中、
ita ut fit ubi quid in animost molestiae, 630
心に悩みがある時によくあるように、
aliam rem ex alia cogitare et ea omnia in
僕の頭には、次から次へと考え事が浮かんできて、しかも何でも悪い方にばかり
peiorem partem. quid opust verbis? dum haec puto,
考えしまうんだ。そして、あれこれ考えてる間に僕は
praeterii imprudens villam. longe iam abieram
いつの間にか村を通りすぎてしまったんだ。気づいた時には
quom sensi: redeo rursum, male me vero habens.
だいぶ遠くまで来てしまっていた。僕は憂鬱な気持ちになって後戻りした。
ubi ad ipsum veni devorticulum, constiti: 635
そして曲がり角に来た所で立ち止まったんだ。
occepi mecum cogitare "hem biduom hic
そしてまた考え始めた。「ほんとに、二日もここで
manendumst soli sine illa? quid tum postea?
彼女なしに一人で過ごさないといけないのか。一体それで何が得られるというんだ。
nil est. quid nil? si non tangendi copiast,
何もない。これはどういうことだ。触れることが許されないということは、
eho ne videndi quidem erit? si illud non licet,
見ることも駄目なんだろうか。触れるのは駄目でも、
saltem hoc licebit. certe extrema linea 640
見ることはいいんだろう。遠くから眺めるだけでも
amare haud nil est." villam praetereo sciens.
何もないよりましだ」とね。僕は今度はわざと村を通り過ぎた。
sed quid hoc quod timida subito egreditur Pythias?
ところで、ピュティアスがおびえた顔をして急に出てきたのはなぜだろう。


Pythias Dorias Phaedria

IV.iii
第四幕第三場 ピュティアス、ドリュアス、パエドリアス(カエレアスが実際に何をしたかが侍女の口から明らかにされる場面)(643-)

PY. Vbi ego illum scelerosum misera atque impium inveniam? aut ubi quaeram?
ピュティアス(独白)どこへ行ったのかしら、あの恥知らずのけしからん男は。どこを探せばいいのかしら。
hocin tam audax facinus facere esse ausum! PHA. perii! hoc quid sit vereor.
あんな大それたひどい事をやってのけるなんて! パエドリアス(傍白)畜生、これはどういうことかとても気になる。
PY. quin etiam insuper scelus, postquam ludificatust virginem, 645
ピュティアス それより何よりひどいのは、少女をもてあそぶだけじゃなくて、
vestem omnem miserae discidit, tum ipsam capillo conscidit.
可哀想なあの子の着ているものを全部引き裂いて、髪の毛までも引きちぎったのよ。
PHA. hem. PY. qui nunc si detur mihi,
パエドリアス(傍白)えっ、なんだって。ピュティアス いまあの男を私に引き渡してくれたら、
ut ego unguibus facile illi in oculos involem venefico!
すぐさまあの野郎の顔をめがけて飛びかかってひっかいてやるわ。
PHA. nescioquid profecto absente nobis(= me) turbatumst domi.
パエドリアス(傍白)僕が家にいない間に何か騒動があったらしい。
adibo. quid istuc? quid festinas? aut quem quaeris, Pythias? 650
行ってみよう。(ピュティアスに)どうした? 何を慌てていんだ。誰を探しているんだ? ピュティアス。
PY. ehem Phaedria, egon? quem quaeram? in'(= i ne)hinc quo dignu's cum donis tuis
ピュティアス ああ、パエドリアスさん、私が誰を探してるですって? あんたは自分
tam lepidis? PHA. quid istuc est rei?
が持ってきたあの気の利いたプレゼントをもってどこかへ消えてしまいなさい。パエドリアス 何があったんだ。
PY. rogas me? eunuchum quem dedisti nobis quas turbas dedit!
ピュティアス 分かってるでしょう。あんたがうちに連れてきた宦官が何をしでかしてくれたかを。
virginem quam erae dono dederat miles, vitiavit. PHA. quid ais?
軍人が花魁のプレゼントに連れてきた少女に乱暴を働いたんですよ。パエドリアス どういうことだ。 
PY. perii. PHA. temulenta's. PY. utinam sic sint qui mihi male volunt! 655
ピュティアス 畜生。パエドリアス お前、酔っ払ってるな。ピュティアス こんな酔い方をするなんて、わたしは御免ですよ。
DO. au obsecro, mea Pythias, quod istuc nam monstrum fuit?
ドリュアス まあ、ピュティアス、どんなひどいことがあったの?
PHA. insanis: qui istuc facere eunuchus potuit? PY. ego illum nescio
パエドリアス(ピュティアスに)頭がおかしいんじゃないか。どうして去勢された男が・・・。ピュティアス あの人が誰だかは知りませんが、
qui fuerit; hoc quod fecit, res ipsa indicat.
あの人がしたことは、事実が物語っています。
virgo ipsa lacrumat neque, quom rogites, quid sit audet dicere.
少女は泣いてばかりいて、何があったか聞いても何も言いません。
ille autem bonus vir nusquam apparet. etiam hoc misera suspicor, 660
あの立派な男はとんずらしてしまいました。ああ、情けない。あの男はきっと
aliquid domo abeuntem abstulisse. PHA. nequeo mirari satis
屋敷から何か盗んでいったんだわ。パエドリアス あんな老いぼれなら
quo ille abire ignavos possit longius, nisi si domum
うちに帰っているのでなければ、そんなに遠くへ行っていないに違いない。
forte ad nos rediit. PY. vise amabo num sit. PHA. iam faxo scies.
ピュティアス お願いしますわ、帰っているか見てきてください。パエドリアス 必ず教えるよ。
DO. perii, obsecro! tam infandum facinus, mea tu, ne audivi quidem.
ドリュアス いやよ、どうしましょう。あんな無茶苦茶な話は聞いたことがないわ。
PY. at pol ego amatores audieram mulierum esse eos maxumos, 665
ピュティアス 宦官は非常な女好きだと聞いたことがあるわ、でも何も出来ないって。
sed nil potesse; verum miserae non in mentem venerat;
あんなことするなんて思いもよらなかったわ。
nam illum aliquo conclusissem neque illi commisissem virginem.
さもなきゃ、あの男は別の部屋に閉じ込めて、けっして少女を任せたりしなかったわ。


Phaedria Dorvs Pythias Dorias

IV.iv
第四幕第四場 パエドリアス、ドーロス、ピュティアス、ドリュアス(パエドリアスが弟のやった狼藉を知る場面)(668-)

PHA. Exi foras, sceleste. at etiam restitas,
パエドリアス(家の中の宦官ドーロスに)おいこの馬鹿、出てこい、逆らうのか、
fugitive? prodi, male conciliate. DORVS. obsecro. PHA. oh
ごろつき。表へ来い。この出来損ない。ドーロス お願いしますよ。パエドリアス ああ、
illud vide, os ut sibi distorsit carnufex! 670
これを見ろ、顔を引きつらしてるよ。この極悪人が。
quid huc tibi reditiost? quid vestis mutatio?
なんで帰ってきてるんだよ。何で服が違うんだよ。
quid narras? paullum si cessassem, Pythias,
どう説明するんだ。(ピュティアスに)もう少し遅れたら、
domi non offendissem, ita iam ornarat fugam.
家の中には見つからなかったところだよ。逃げる準備をしているからね。
PY. haben hominem, amabo? PHA. quidni habeam? PY. o factum bene.
ピュティアス その人を捕まえていますか、ねえ。パエドリアス 当然だよ。ピュティアス それはよかった。
DORIAS. istuc pol vero bene. PY. ubist? PHA. rogitas? non vides? 675
ドリュアス 本当にそれはよかったですわ。ピュティアス(見回して)どこですか。パエドリアス わかるでだろ、見えないのか。
PY. videam? obsecro quem? PHA. hunc scilicet. PY. quis hic est homo?
ピュティアス 見えませんよ。ねえ、誰です。パエドリアス こいつだよ。ピュティアス この人は誰ですか。
PHA. qui ad vos deductus hodiest. PY. hunc oculis suis
パエドリアス 今日おたくに連れていっかれた奴だよ。ピュティアス こんな人
nostrarum numquam quisquam vidit, Phaedria.
誰も見たことはないですよ、パエドリアスさん。
PHA. non vidit? PY. an tu hunc credidisti esse, obsecro,
パエドリアス 見たことないって? ピュティアス あのねえ、あなたはこの人がうちへ連れてこられたと
ad nos deductum? PHA. namque alium habui neminem. PY. au 680
思っているんですか。パエドリアス だって、ほかに誰がいるんだよ。ピュティアス まあ、
ne comparandus hicquidem ad illumst: ille erat
この人はさっきの人とは比べものにならないわ。さっきの人は
honesta facie et liberali. PHA. ita visus est
ハンサムで育ちがよさそうだったもの。パエドリアス 
dudum, quia varia veste exornatus fuit.
さっきは色とりどりの服で着飾っていたから、そう見えたんだろ。
nunc tibi videtur foedus, quia illam non habet.
今はその服を着てないから醜く見えるんだよ。
PY. tace obsecro: quasi vero paullum intersiet. 685
ピュティアス お願い、ちょっと黙ってよ。ぜんぜん違うんだから。
ad nos deductus hodiest adulescentulus,
うちに今日連れてこられたのは若い人だったわ。
quem tu videre vero velles, Phaedria.
あの人だったらあなたも見たいと思うはずよ、パエドリアス。
hic est vietus vetus veternosus senex,
この人はしわくちゃのくたびれたおじいちゃんだわ。
colore mustelino. PHA. hem quae haec est fabula?
それにイタチみたいな色してる。パエドリアス 畜生、何をとんちんかんなことを言ってるんだ。
eo rediges me ut quid egerim egomet nesciam? 690
僕の頭を混乱させて自分がしたことが自分で分からないようにするつもりなのか。
eho tu, emin ego te? DORVS. emisti. PY. iube mi denuo
(ドーロスに)おい、お前、俺が買ったのは確かにお前だな。ドーロス あなたです。ピュティアス 今度はわたしの質問に答えるように言って
respondeat. PHA. roga. PY. venisti hodie ad nos? negat.
下さい。パエドリアス 質問したらいいよ。ピュティアス あんたは今日うちに来た?(パエドリアスに)違うと言ってるわ。
at ille alter venit annos natus sedecim,
おたくの召使のパルメのスが連れてきたのは別の人で、歳も十六
quem secum adduxit Parmeno. PHA. agedum hoc mi expedi
だったわ。パエドリアス(ドーロスに)さあ、まず最初にこれから説明しろ。
primum: istam quam habes unde habes vestem? taces? 695
お前が今着ている服はどこから手に入れたんだ。答えないつもりか?
monstrum hominis, non dicturu's? DORVS. venit Chaerea.
このオカマ野郎。口が聞けないのか。ドーロス カエレアス坊ちゃんが来たんです。
PHA. fraterne? DORVS. ita. PHA. quando? DORVS. hodie. PHA. quam dudum? DORVS. modo.
パエドリアス 僕の弟のか。ドーロス そうです。パエドリアス いつのことだ。ドーロス 今日です。パエドリアス 今日のいつだよ。ドーロス ついさっきです。
PHA. quicum? DORVS. cum Parmenone. PHA. norasne eum prius?
パエドリアス 誰といた。ドーロス 召使のパルメノンさんとです。パエドリアス お前、僕の弟を前から知っているのか。
DORVS. non.nec quis esset umquam audieram dicier.
ドーロス いいえ。誰であるか聞いたことがありません。
PHA. unde igitur fratrem meum esse scibas? DORVS. Parmeno 700
パエドリアス じゃあ、どうしてぼくの弟だと分かったんだ。ドーロス パルメノンさんが
dicebat eum esse. is dedit mi hanc. PHA. occidi.
そう言ってました。弟さんがこの服をくれたんです。パエドリアス これは参ったな。
DORVS. meam ipse induit: post una ambo abierunt foras.
ドーロス 弟さんは私の服を着ました。その後で二人は一緒に外に出て行きました。
PY. iam satis credis sobriam esse me et nil mentitam tibi?
ピュティアス これでもう私が酔っぱらいではないし嘘もついてないことがわかったでしょう。
iam satis certumst virginem vitiatam esse? PHA. age nunc, belua,
これでもう少女が暴行されたことがはっきりたでしょう。 パエドリアス 馬鹿言うなよ。
credis huic quod dicat? PY. quid isti credam? res ipsa indicat. 705
こんな奴の言うことを信用するのか。ピュティアス この人を信じる必要はないわ。事実が物語っています。
PHA. concede istuc paullulum: audin? etiam nunc paullulum: sat est.
パエドリアス(ドーロスに)お前ちょっとこっちへ来い。聞こえるか。もうちょっと。それでいい。
dic dum hoc rursum: Chaerea tuam vestem detraxit tibi?
ちょっと、もう一回言ってくれ。弟がお前の服を奪ったのか。
DORVS. factum. PHA. et eamst indutus? DORVS. factum. PHA. et pro te huc deductust? DORVS. ita.
ドーロス そうです。パエドリアス で、それを着たのか。ドーロス そうです。パエドリアス で、お前の代わりにここへ連れてかれたのか。ドーロス そのとおりです。
PHA. Iuppiter magne, o scelestum atque audacem hominem! PY. vae mihi:
パエドリアス ああ、なんていうことだ。あのいまいましい馬鹿野郎が。ピュティアス(盗み聞きして)ほら、やっぱり、 
etiamnunc non credes indignis nos inrisas(part perf pass f pl acc) modis? 710
これでもまだ嘘だというの、私達がひどい目にあって弄ばれたことを。
PHA. mirum ni tu credas quod iste dicat. quid agam nescio.
パエドリアス お前がこの男の言うことを信じるのも無理は無い。(独白)面倒な事になったぞ。
heus negato rursum. possumne ego hodie ex te exsculpere
(ドーロスに)おい、もう一回聞くから否定するんだぞ。(ピュティアスに聞こえるように)さあ、今こそお前の口から本当のことを聞き出してやるからな。
verum? vidistine fratrem Chaeream? DORVS. non. PHA. non potest
お前は僕の弟のクレメースに会ったのか? ドーロス いいえ。パエドリアス
sine malo fateri, video: sequere hac. modo ait modo negat.
お前は痛い目に会わないと本当のことを言えないんだな。わかったぞ。こっちへこい。(ピュティアスに)あいつ、肯定したり否定したりだね。
ora me. DORVS. obsecro te vero, Phaedria. PHA. i intro nunciam. 715
(ドーロスに)僕に懇願するんだ。ドーロス 本当にお願いしますよ、若旦那。パエドリアス もう中へ入れ。
DORVS. oiei. PHA. alio pacto honeste quomodo hinc abeam nescio.
ドーロス(パエドリアスに蹴られる)痛え。パエドリアス(独白)面目を保ったままこの状況から切り抜けるにはこうするしかないんだ。
actumst, siquidem tu me hic etiam, nebulo, ludificabere.
(中のドーロスに)この能なしめ、僕の事をもう一回からかったりしたら、こうなるんだぞ。(パエドリアスも家に入る)
PY. Parmenonis tam scio esse hanc techinam quam me vivere.
ピュティアス(ドリュアスに) これがパルメノンの策略なのは火を見るより明らかだわね。
DORVS. sic est. PY. inveniam pol hodie parem ubi referam gratiam.
ドリュアス そうよ。ピュティアス これは絶対に仕返しをする機会をすぐに見つけてやるからね。
sed nunc quid faciundum censes, Dorias? DORIAS. de istac rogas 720
ねえ、どうしたらいいと思う、ドリュアス? ドリュアス あの少女のために
virgine? PY. ita, utrum taceam an praedicemne? DORIAS. tu pol, si sapis,
仕返しをするのね? ピュティアス そうよ。このことは黙ってるほうがいいかしら、それとも言い触らしてやるのがいいかしら。ドリュアス そりゃもちろん、あんたが賢ければ、
quod scis nescis neque de eunucho neque de vitio virginis.
あんたが知ってること、宦官のことも少女が乱暴されたことも知らないことにするのよ。
hac re et te omni turba evolves et illi gratum feceris.
そうすりゃ、あんたはこのごたごたから解放されるし彼女にも感謝されるわよ。
id modo dic, abisse Dorum. PY. ita faciam. DORIAS. sed videon Chremen?
だから、ドーロスが居なくなったことだけを言ったらいいわ。ピュティアス そうするわ。ドリュアス ところで、あそこに来るのはクレメースさんかしら。
Thais iam aderit. PY. quid ita? DORIAS. quia, quom inde abeo, iam tum occeperat 725
花魁がもうすぐ到着するわ。ピュティアス どうして? ドリュアス わたしが帰る時、
turba inter eos. PY. tu aufer aurum hoc. ego scibo ex hoc quid siet.
もめごとが始まっていたのよ。ピュティアス その指輪はしまっておきなさい。わたしはあの人から何があったか訊き出すから。


Chremes Pythias

IV.v
第四幕第五場 クレメース、ピュティアス(クレメースがタイスの家に戻ってくる場面)(727-)

CHR. Attat data hercle verba mihi sunt: vicit vinum quod bibi.
クレメース(独白)まったくいっぱい食わされたよ。それに飲んだ酒に飲まれてしまった。
at dum accubabam quam videbar mi esse pulchre sobrius!
座っていた時にはぜんぜん酔ってないと思っていたんだがなあ。
postquam surrexi(<surgo) neque pes neque mens satis suom officium facit.
立ち上がってからは足も頭も言うことを聞かない。
PY. Chreme. CHR. quis est? ehem Pythias: vah quanto nunc formonsior 730
ピュティアス クレメースさん。クレメース 誰だい、ああ、ピュティアスさんか。さっきより
videre mihi quam dudum! PY. certe tuquidem pol multo hilarior.
ずいぶん綺麗になったじゃないか。ピュティアス あなたもずいぶんご機嫌なご様子ですね。
CHR. verbum hercle hoc verum erit "sine Cerere et Libero friget Venus".
クレメース 「恋心は食物と酒で熱くなる」という諺は本当だったね。
sed Thais multo ante venit? PY. anne abiit iam a milite?
ところで、花魁はだいぶ前に着いたのかい? ピュティアス えっ、花魁は軍人のところからもう帰ったんですか。
CHR. iamdudum, aetatem. lites factae sunt inter eos maxumae.
クレメース とっくの昔に。ひどい喧嘩になってしまってね。
PY. nil dixit tu ut sequerere sese? CHR. nil, nisi abiens mi innuit. 735
ピュティアス 花魁はあなたについて来るように言わなかったんですか。クレメース 帰るときに合図をくれましたが、それだけです。
PY. eho nonne id sat erat? CHR. at nescibam id dicere illam, nisi quia
ピュティアス まあ、それでたくさんじゃないですか。クレメース 私は何の合図だか分からなかったんだ。でも
correxit miles, quod intellexi minus; nam me extrusit foras.
私が分からなったことを軍人が教えてくれたよ。つまり、私を外へ追い出したんだ。
sed eccam ipsam: miror ubi ego huic antevorterim.
あっ、彼女があそこに来たようだ。私は彼女をどこで追い越したのかなあ。


Thais Chremes Pythias

IV.vi
第四幕第五場 タイス、クレメース、ピュティアス(軍人が少女を取り返しに来ることをタイスがクレメースに知らせて準備する場面)(739-)

THA. Credo equidem illum iam adfuturum esse, ut illam a me eripiat.sine veniat.
タイス(独白) あの男がもう来る頃だわ、少女を私から取り上げるために。
atqui si illam digito attigerit uno, oculi ilico ecfodientur. 740
でもあの男がもし少女に指一本でも触れたら、私あの男の目を繰り抜いてやるわ。
usque adeo ego illius ferre possum ineptiam et magnifica verba,
あの男の馬鹿話と自慢話は我慢できる、
verba dum sint; verum enim si ad rem conferentur, vapulabit.
それが言葉だけのことならね。でも、行動に出てきたら袋叩きにしてやるわ。
CHR. Thais, ego iamdudum hic adsum. THA. o mi Chreme, te ipsum exspectabam.
クレメース 花魁、私はずっとここにいましたよ。タイス ああ、クレメースさん。あなたのことをお探ししていましたわ。
scin tu turbam hanc propter te esse factam? et adeo ad te attinere hanc
この騒動は元をたどればあなたが原因だということを知ってらして? これは全部あなたのためだということを。
omnem rem? CHR. ad me? qui quaeso,istuc? THA. quia, dum tibi sororem studeo 745
クレメース わたしのため? どうしてそうなるんです。タイス わたしはあなたに妹さんを
reddere ac restituere, haec atque huius modi sum multa passa.
返そうとあれこれしている間に、こんな目に会ったんですのよ。
CHR. ubi east? THA. domi apud me. CHR. hem. THA. quid est?
クレメース あの子はどこですか。タイス あたしのうちにいます。クレメース なんですって? タイス どうかしましたか?
educta ita uti teque illaque dignumst. CHR. quid ais? THA. id quod res est.
彼女は本人にもあなたにも相応しい育てられ方をした子ですわ。クレメース それで? タイス これは本当です。
hanc tibi dono do neque repeto pro illa quicquam abs te preti.
私はあの子をあなたに差し上げます。何の見返りも要求しませんわ。
CHR. et habetur et referetur, Thais, ita uti merita's,gratia. 750
クレメース 受けた恩義は必ず返しますよ、花魁、あなたにはその資格がある。
THA. at enim cave ne prius quam hanc a me accipias amittas, Chreme;
タイス ただ、あの子を私から受け取るまえに、あの子を奪われないようにしてくださいね、クレメースさん。
nam haec east quam miles a me vi nunc ereptum venit.
軍人が今からあの子を取り返しに来ますから。
abi tu, cistellam, Pythias, domo ecfer cum monumentis.
ピュティアスさん、証拠の品が入った箱を家から持ちだしてきてね。
CHR. viden tu illum, Thais, . . PY. ubi sitast? THA. in risco: odiosa cessas.
クレメース 花魁、あの軍人が見えますか。花魁がー ピュティアス(出てきてタイスに)箱はどこですか。タイス トランクの中よ。ぐずね。
CHR. militem secum ad te quantas copias adducere? 755
クレメース 軍人はあなたのところへいったい何人連れてくるんだ。
attat . . THA. num formidulosus obsecro es, mi homo? CHR. apage sis:
まったく。タイス あなた恐いんじゃないでしょうね? クレメース まさか。
egon formidulosus? nemost hominum qui vivat minus.
私が怖がってるですって。私ほど恐さ知らずで生きている男はいませんよ。
THA. atqui ita opust. CHR. ah metuo qualem tu me esse hominem existumes.
タイス そうこなくては。クレメース 私を見損なわってもらっては困りますよ。
THA. immo hoc cogitato: quicum res tibist peregrinus est,
タイス そんなことはありませんわ。これは覚えておいて。この件で関わってるあの軍人は外国人で、
minus potens quam tu, minus notus, minus amicorum hic habens. 760
あなたほどの力はなく、知名度もなく、友人も少ないということを。
CHR. scio istuc. sed tu quod cavere possis stultum admitterest.
クレメース それは知ってます。避けられるトラブルを引き起こしてしまうのは賢明ではありません。
malo ego nos prospicere quam hunc ulcisci accepta iniuria.
被害を受けたあとで仕返しするよりは、被害を予防する方がいいと思います。
tu abi atque obsera ostium intus, dum ego hinc transcurro ad forum:
花魁は中にはいって内側から鍵をかけて下さい。その間に私は広場まで走って行ってきます。
volo ego adesse hic advocatos nobis in turba hac. THA. mane.
この問題では助っ人がいるほうがいいと思いますので。タイス 待って。
CHR. melius est. THA. omitte CHR. iam adero. THA. nil opus est istis, Chreme. 765
クレメース その方がいいですよ。タイス だめよ。クレメース すぐに戻ってきますから。タイス そんな人要らないわ。クレメースさん。
hoc modo dic, sororem illam tuam esse et te parvam virginem
これだけ言って下さい。少女は自分の妹で子供の時に
amisisse, nunc cognosse. signa ostende. PY. adsunt. THA. cape.
居なくなってしまったけど、今度再会したと。そして証拠を見せるのよ。ピュティアス ここにあります。タイス これよ。
si vim faciet, in ius ducito hominem: intellextin? CHR. probe.
もし相手が力ずくで出てきたら、法廷に引き出すしかないわ。分かった? クレメース 確かに。
THA. fac animo haec praesenti dicas. CHR. faciam. THA. attolle pallium.
タイス がんばってそれだけ言ってちょうだい。クレメース やってみましょう。タイス さあ、用意はよくって。
perii, huic ipsist opus patrono quem defensorem paro. 770
(傍白)これは駄目だわ。頼みの綱と思ってるこの人が助っ人を必要としているだもの。


Thraso Gnatho Sanga Chremes Thais

IV.vii
第四幕第七場 トラソン、グナートン、サンガス、クレメース、タイス(トラソンが仲間を連れてタイスに少女の返還を要求する場面)(771-)

THR. Hancine ego ut contumeliam tam insignem in me accipiam, Gnatho?
トラソン グナートン、どうしてこのわしがこんなにはっきりと侮辱をされなきゃいけないんだ?
mori me satiust. Simalio, Donax, Syrisce, sequimini.
こんなことなら死んだほうがましだ。シマリオン、ドナクス、シュリスクス、ついてこい。
primum aedis expugnabo. GNA. recte. THR. virginem eripiam. GNA. probe.
まずは家からやっつけよう。グナートン それがいい。トラソン 少女を奪うのだ。グナートン そのとおり。
THR. male mulcabo ipsam. GNA. pulchre. THR. in medium huc agmen cum vecti, Donax;
トラソン 花魁をたっぷりと懲らしめてやる。グナートン すばらしい。トラソン ドナクスは、真ん中で金テコを持って来い。 
tu, Simalio, in sinistrum cornum; tu, Syrisce, in dexterum. 775
シマリオンは、左翼を担え。シュリスクスは、右翼だ。
cedo alios: ubi centuriost Sanga et manipulus furum(<fur)? SA. eccum adest.
ほかのやつらも連れてこい。百人隊長のサンガスと盗賊団はどこだ。サンガス ここに来ております。
THR. quid,ignave? peniculon pugnare, qui istum huc portes, cogitas?
トラソン どうしたんだ。この役立たずども。そんなスポンジなんか持って来て、それで戦うつもりか。
SA. egon? imperatoris virtutem noveram et vim militum:
サンガス 私ですか? 将軍の勇敢さと兵士たちの力は存じております。
sine sanguine hoc non posse fieri. qui abstergerem volnera?
こういうことは血を見ずには終わりません。傷の血を拭うための備えが必要でありましょう。
THR. ubi alii? GNA. qui malum "alii"? solus Sannio servat domi. 780
トラソン ほかの奴らはどこだ。グナートン ほかの奴らって誰です。あとはサニオだけですが、家で仕事をしてますよ。
THR. tu hosce instrue; ego hic ero post principia: inde omnibus signum dabo.
トラソン お前がこいつらを整列させろ。わしは最前線の後ろに陣どる。そこからみんなに指図するよ。
GNA. illuc(=illud) est sapere: ut hosce instruxit, ipsus sibi cavit loco.
グナートン(傍白)これは賢こいやり方だな。こいつらを整列させて自分は隠れちゃったよ。
THR. idem hoc iam Pyrrus factitavit. CHR. viden tu, Thais, quam hic rem agit?
トラソン これはあのピュロスの好んだ作戦だ。クレメース(タイスに)花魁、あの男は何をしようとしてるかわかりますか。
nimirum consilium illud rectumst de occludendis aedibus.
確かに家を閉めきったのはいい考えでしたね。
THA. sane quod tibi nunc vir videatur esse hic, nebulo magnus est: 785
タイス(クレメースに)あの男があなたの目には立派な男に見えたとしても、所詮はウドの大木なのよ。
ne metuas. THR. quid videtur? GNA. fundam tibi nunc nimis vellem dari,
だから怖がることはないわ。トラソン(グナートンに)情勢はどうだ? グナートン 旦那に投石機があることが非常に望ましいですね。
ut tu illos procul hinc ex occulto caederes: facerent fugam.
そうすれば、離れた所から隠れていてあいつらをやっつけられるんですが。それで退却しますよ。
THR. sed eccam Thaidem ipsam video. GNA. quam mox inruimus? THR. mane.
トラソン 花魁があそに出てきているじゃないか。グナートン すぐに突撃しますか。トラソン 待て。
omnia prius experiri quam armis sapientem decet.
武力を使う前に他の手段を全部ためしてみるのが賢明だ
qui scis an quae iubeam sine vi faciat? GNA. di vostram fidem, 790
たぶん彼女は武力を使わなくてもわしの言うとおりにするぞ。グナートン いやまったく、
quantist sapere! numquam accedo quin abs te abeam doctior.
知恵のあることはなんと価値あることだろう。あなたに近づくたびに一つ賢くなります。
THR. Thais, primum hoc mihi responde: quom tibi do istam virginem,
トラソン 花魁、まずにこの事に答えてくれ。わしがあの少女をあんたにプレゼントしたとき、
dixtin hos dies mihi soli dare te? THA. quid tum postea?
あんたはここ数日わしだけのものになってくれると言ったね。タイス それがどうしたの。
THR. rogitas? quae mi ante oculos coram amatorem adduxti tuom . .
トラソン わかるだろ。ところが、あんたはわしの目の前に自分の良い人を連れてきた。
THA. quid cum illoc(<illic) agas? THR. et cum eo clam te subduxti mihi? 795
タイス それがどうだというの。トラソン そしてその男とわしの前から消えてしまったんだ。
THA. lubuit. THR. Pamphilam ergo huc redde, nisi vi mavis eripi.
タイス そうしたかったからよ。トラソン それなら、少女を返してくれ。もし力ずくで奪われたくなかったらな。
CHR. tibi illam reddat aut tu eam tangas, omnium . . ? GNA. ah quid agis? tace.
クレメース あの子をお前に返すだと、お前はあの子に指一本でも触ったら・・よりによって。 グナートン 何を言ってるんだ。黙れ。
THR. quid tu tibi vis? ego non tangam meam? CHR. tuam autem, furcifer?
トラソン あんたは何が言いたいんだ。わしが自分の女に触れてはならんのか。クレメース 自分の女だと? このゴロツキめ。
GNA. cave sis: nescis quoi maledicas nunc viro. CHR. non tu hinc abis?
グナートン 口に気をつけたほうがいいぜ。あんたは誰にそんな口の聞き方をしているのか知らないのか。クレメース(グナートンに) お前は余計な口出しするな。
scin tu ut tibi res se habeat? si quicquam hodie hic turbae coeperis, 800
(トラソンに)本当の事情をあんたは知っているのか。もしあんたがここで面倒を起こしたら、
faciam ut huius loci dieique meique semper memineris.
今日この日この場所この私のことを永遠に忘れられないようにしてやるぞ。
GNA. miseret tui me qui hunc tantum hominem facias inimicum tibi.
グナートン(クレメースに)哀れなやつだよ。こんな立派な人を敵にまわすなんて。
CHR. diminuam ego caput tuum hodie, nisi abis. GNA. ain vero, canis?
クレメース(トラソンに) さっさと帰らないとあんたの頭を叩き割ってやるぞ。グナートン 本気で言ってるのか、犬め。
sicin(=sin ne) agis? THR. quis tu homo es? quid tibi vis? quid cum illa rei tibist?
おまえ、そういう風に出てくるのか。トラソン(クレメースに)あんたは何者だ。何が望みだ。この件と何の関係があるんだ。
CHR. scibis: principio eam esse dico liberam. THR. hem. CHR. civem Atticam. THR. hui. 805
クレメース(トラソンに)教えてやる。まず第一にあの少女は自由人だ。トラソン え、なんだって。クレメース アテナイ市民だ。トラソン 嘘だろ。
CHR. meam sororem. THR. os durum. CHR. miles, nunc adeo edico tibi
クレメース 私の妹だ。トラソン 厚かましい。クレメース 軍人さん、言っとくが
ne vim facias ullam in illam. Thais, ego eo ad Sophronam
少女に手出しをしてはならんぞ。(タイスに)花魁、私は乳母のソフローナのところへ行って、
nutricem, ut eam adducam et signa ostendam haec. THR. tun me prohibeas
彼女を連れてきて、証拠の品を見せることにする。トラソン(クレメースに)あんたはわしに命令するのか、
meam ne tangam? CHR. prohibebo inquam. GNA. audin tu? furti se adligat:
自分の女に触るなと。クレメース 命令だ。グナートン(トラソンに)聞きましたか。この男は泥棒したこと認めていますよ。
CHR. sat hoc tibist? THR. idem hoc tu, Thais? THA. quaere qui respondeat. 810
クレメース(トラソンに)これで満足か(乳母を呼びに退場)。トラソン 花魁も同じ考えなのか。タイス それに答えてくれる人をお探しなさいな。(家の中へ退場)。
THR. quid nunc agimus? GNA. quin redeamus: iam haec tibi aderit supplicans
トラソン(グナートンに)さあどうするかな。グナートン 帰りましょう。花魁が自分から頼みにやってきますよ。
ultro. THR. credin? GNA. immo certe: novi ingenium mulierum:
トラソン そう思うか。グナートン 確実です。女の本性はよく知っています。
nolunt ubi velis, ubi nolis cupiunt ultro. THR. bene putas.
女というものは、こっちが欲しがるときにはそっけなくして、こっちがそっけなくすると欲しがるものですから。トラソン なるほど。
GNA. iam dimitto exercitum? THR. ubi vis. GNA. Sanga, ita ut fortis decet
グナートン もう軍隊は解散しますか? トラソン 好きにしろ。グナートン サンガス、立派な兵士たちに相応しくふるまうんだ。
milites, domi focique fac vicissim ut memineris. 815
そして、もと通りに家と台所のことに思いを馳せろ。
SA. iamdudum animus est in patinis. GNA. frugi es. THR. vos me hac sequimini.
サンガス もうずっと前から料理のことしか考えてないよ。グナートン 立派だ。トラソン お前たちはわしのあとについてこい。(全員左へ去る)


ACTVS V

Thais Pythias

V.i
第五幕第一場 タイス、ピュティアス(パンピラに暴行したのがカエレアスであることをタイスが知る場面)(817-)

(タイスがピュティアスと家から出てくる)

THA. Pergin, scelesta, mecum perplexe loqui?
タイス 馬鹿ね、いつまでそんなわけの分からないことを言うつもりよ?
"scio nescio,abiit,audivi, ego non adfui."
「私は知ってるけど知らないことにしています。宦官はいないけど、私は聞きました。でも私はその場には居なかったんです」
non tu istuc mihi dictura aperte es quidquid est?
あなた、もっと分かるようにと言ってくれないこと?
virgo conscissa veste lacrumans obticet; 820
服がぎざぎざに破かれて少女は何も言わずに泣いているわ。
eunuchus abiit: quam ob rem? quid factumst? taces?
宦官は居ない。どうしてなの。何があったの。黙ってるつもりなの?
PY. quid tibi ego dicam misera? illum eunuchum negant
ピュティアス 何を言ったらいいでしょうか。あの人は宦官じゃはなかった
fuisse. THA. quis fuit igitur? PY. iste Chaerea.
とみんなは言ってます。タイス それで誰だったのよ。ピュティアス カエレアスさんだと。
THA. qui Chaerea? PY. iste ephebus frater Phaedriae.
タイス カエレアスって誰なの? ピュティアス パエドリアスさんの弟さんですよ。いま兵役中の。
THA. quid ais, venefica? PY. atqui certe comperi. 825
タイス どういうことよ、この嘘つき。ピュティアス でもこれはちゃんと確かめました。
THA. quid is obsecro ad nos? quam ob rem adductust? PY. nescio;
タイス ねえ、その人がうちと何の関係があるのよ。どうして引き入れてしまったのよ。ピュティアス それはわかりませんが、
nisi amasse credo Pamphilam. THA. hem misera occidi,
カエレアスさんが少女に惚れたんだと思います。タイス まあ、困ったわ。
infelix, siquidem tu istaec vera praedicas.
もし本当にあなたの言うとおりなら、もうおしましいだわ。
num id lacrumat virgo? PY. id opinor. THA. quid ais, sacrilega?
じゃあ、そのために少女は泣いてるの? ピュティアス そうだと思います。タイス 何を言ってるのよ? この罰当たり。
istucine interminata sum hinc abiens tibi? 830
私が出かけるときに気をつけなさいと言ったでしょう。
PY. quid facerem? ita ut tu iusti, soli creditast.
ピュティアス どうしたらよかったんですか。私はあなたの言いつけ通りにあの人に少女を任せたんですから。
THA. scelesta, ovem lupo commisisti. dispudet
タイス 馬鹿だねえ、狼に羊を預けるようなもんじゃないの。はずかしいわ。
sic mihi data esse verba. quid illuc hominis est?
じゃあ、わたしは騙されたのね。どんな男だったの?
PY. era mea, tace tace obsecro, salvae sumus:
ピュティアス 花魁、お願いですから、もうおっしゃらないで。大丈夫です。
habemus hominem ipsum. THA. ubi is est? PY. em ad sinisteram. 835
その人は見つかりました。タイス どこに。ピュティアス ほら、左のほうに。
viden? THA. video. PY. conprendi iube, quantum potest.
見えるでしょ。タイス あの人ですか。ピュティアス 早く捕まえるように言って下さい。
THA. quid illo faciemus, stulta? PY. quid facias, rogas?
タイス 馬鹿だね、あの人をどうするんですか。ピュティアス どうするか分からないんですか。
vide amabo, si non, quom aspicias, os impudens
いいですか、近くに来たらよく見て下さい、生意気な顔をしていませんか。
videtur! non est? tum quae eius confidentiast!
そうでしょう? 本当に自信満々なんだから。


Chaerea Thais Pythias

V.ii
第五幕第二場 カエレアス、タイス、ピュティアス(カエレアスがタイスに許してもらう場面)(840-)

CHA. Apud Antiphonem uterque, mater et pater, 840
カエレアス(独白)アンティポンの家には両親が二人とも
quasi dedita opera domi erant, ut nullo modo
わざとのように家にいたよ。だから、
intro ire possem quin viderent me. interim
見られずに中に入れなかった。入口の前に
dum ante ostium sto, notus mihi quidam obviam
立っていると、知っている人が前からやってきた。
venit. ubi vidi, ego me in pedes quantum queo
それに気づくと、僕は人のいない
in angiportum quoddam desertum, inde item 845
横道に大急ぎで駆け込んだ。そこからまた別の横道へ
in aliud, inde in aliud: ita miserrimus
また別の横道へと、人に見つからないように
fui fugitando ne quis me cognosceret.
必死に逃げたよ。
sed estne haec Thais quam video? ipsast. haereo
ところで、今見えてきたのはタイスじゃないか。そうだ。やっかいなことに
quid faciam. quid (refert) mea autem? quid faciet mihi?
なったぞ。まあどうでもいいや。どうもされないだろう。
THA. adeamus. bone vir Dore, salve: dic mihi, 850
タイス(ピュティアスに)話しけてみましょう。(カエレアスに)ドーロスさん、こんにちわ。ねえ、教えてちょうだい。
aufugistin? CHA. era, factum. THA. satine id tibi placet?
あなた逃げ出したの? カエレアス そうです、花魁。タイス あなた満足しました?
CHA. non. THA. credin te impune habiturum? CHA. unam hanc noxiam
カエレアス いいえ。タイス 逃げ出したりしてただで済むと思ってるの? カエレアス 今度だけは
amitte: si aliam admisero umquam, occidito.
見逃して下さい。もう一度やったら、命を差し上げますから。
THA. num meam saevitiam veritus es? CHA. non. THA. quid igitur?
タイス わたしを冷酷な人間だと思ったの? カエレアス いいえ。タイス じゃあ、どうして逃げたの?
CHA. hanc metui ne me criminaretur tibi. 855
カエレアス(ピュティアスを指して)この人が僕のことを言いつけるか心配だったんです。
THA. quid feceras? CHA. paullum quiddam. PY. eho "paullum", impudens?
タイス あんた何をしたのよ。カエレアス ささいなことです。ピュティアス まあ「ささいなこと」だなんて厚かましい。
an paullum hoc esse tibi videtur, virginem
あなたはあれがささいなことだと思うのですか。アテナイ人の少女に
vitiare civem? CHA. conservam esse credidi.
乱暴することが。カエレアス 召使だと思ったのです。
PY. conservam! vix me contineo quin involem in
ピュティアス 召使だって! この人の髪の毛につかみ掛かりたい気持ちを
capillum, monstrum: etiam ultro derisum advenit. 860
抑えられないわ。ひどい人。(タイスに)この人は私たちを馬鹿にするために戻って来たんですよ。
THA. abin hinc, insana? PY. quid ita? vero debeam,
タイス(ピュティアスに) やめなさい、あなた頭がどうかしたの? ピュティアス どうしてですか。
credo, isti quicquam furcifero si id fecerim.
このろくでなしに私がそんなことをしたら、私はこの人に負い目が生ずるというのですね。
praesertim quom se servom fateatur tuom.
特に彼があなたの召使だと認めた以上は。
THA. missa haec faciamus. non te dignum, Chaerea,
タイス この話を済ませましょう。カエレアスさん、あなたに相応しくない
fecisti; nam si ego digna hac contumelia 865
ことをしましたね。なぜって、たとえ私がこんな侮辱をされるのに相応しいとしても、
sum maxume, at tu indignus qui faceres tamen.
あなたはこんなことをしてはいけないわ。
neque edepol quid nunc consili capiam scio
それに私はあの少女をどうしたらいいかわかりません。
de virgine istac: ita conturbasti mihi
私の計画をあなたはだいなしに
rationes omnis, ut eam non possim suis
してしまったので、私はもう少女を思っていたように家族に
ita ut aequom fuerat atque ut studui tradere, 870
ちゃんと引き渡すことができなくなってしまったわ。
ut solidum parerem hoc mi beneficium, Chaerea.
これではもう好意を勝ち取ることができなくなったわ、カエレアスさん。
CHA. at nunc dehinc spero aeternam inter nos gratiam
カエレアス でも、今では僕達の間に揺るぎない信頼関係が生まれると
fore, Thais. saepe ex huiusmodi re quapiam et
思いますよ、花魁。このような事件や不幸なきっかけから
malo principio magna familiaritas
信頼関係は生まれるものです。
conflatast. quid si hoc quispiam voluit deus? 875
これはどこかの神様が望んだことだとしたらどうですか。
THA. equidem pol in eam partem accipioque et volo.
タイス 私もそういう風に思うし、そうあってほしいですわ。
CHA. immo ita quaeso. unum hoc scito, contumeliae
カエレアス そうあって欲しいです。でも、これだけは知っていてください。
me non fecisse causa, sed amoris. THA. scio,
あれはあなたを侮辱するためではなく恋のためだったということを。タイス それは知っています。
et pol propterea mage nunc ignosco tibi.
だからこそむしろあなたを許してあげるのです。
non adeo inhumano ingenio sum, Chaerea, 880
私はそれほど人でなしではないのですよ、カエレアスさん。
neque ita imperita ut quid amor valeat nesciam.
私も恋の力を知らないほど無知な人間ではありません。
CHA. te quoque iam, Thais, ita me di bene ament, amo.
カエレアス 花魁、僕は本当にあなたのことも好きなんです。
PY. tum pol tibi ab istoc, era, cavendum intellego.
ピュティアス 花魁、その人には用心なさるべきだと思います。
CHA. non ausim. PY. nil tibi quicquam credo. THA. desinas.
カエレアス ぼくにはそんな勇気はないですよ。ピュティアス(カエレアスに)お前の言うことなんか信用出来ないよ。タイス(ピュティアスに)よしなさい。
CHA. nunc ego te in hac re mi oro ut adiutrix sies, 885
カエレアス 花魁、お願いですからこの件で僕を助けてください。
ego me tuae commendo et committo fide,
私はあなたにすべてをお任せします。
te mihi patronam capio, Thais, te obsecro:
僕を守って下さい、花魁、お願いします。
emoriar si non hanc uxorem duxero.
僕は彼女を妻にできないなら死んでしまいます。
THA. tamen si pater . . ? CHA. quid? ah volet, certo scio,
タイス でももしあなたのお父様が・・カエレアス なんですって? 父は賛成です。わかっています。
civis modo haec sit. THA. paullulum opperirier 890
彼女はアテナイ市民でさえあれば。タイス すこし待ってくれたら、
si vis, iam frater ipse hic aderit virginis;
少女のお兄さんがここにやってきますわ。
nutricem accersitum iit quae illam aluit parvolam:
小さい頃彼女を養っていた乳母を呼びに行っているのです。
in cognoscendo tute ipse aderis, Chaerea.
カエレアスさん、再会の時にはあなたも居てちょうだい。
CHA. ego vero maneo. THA. vin(vis ne) interea, dum venit,
カエレアス 待ちますよ。タイス よろしければ、少女のお兄さんが来るまで、
domi opperiamur potius quam hic ante ostium? 895
家の前より家の中で一緒に待ちませんこと?
CHA. immo percupio. PY. quam tu rem actura obsecro es?
カエレアス それがいいですね。ピュティアス(タイスに)何をするつもりですか。
THA. nam quid ita? PY. rogitas? hunc tu in aedis cogitas
タイス どうかしたの。ピュティアス わかるでしょう。これから花魁はこの人を家に受け入れる
recipere posthac? THA. quor non? PY. crede hoc meae fide,
おつもりですか。タイスに いいじゃないの。ピュティアス 私を信じて下さい。
dabit hic pugnam aliquam denuo. THA. au tace obsecro.
この男はまたトラブルをもたらすでしょう。タイス お願いだから、黙っていて。
PY. parum perspexisse eius videre audaciam. 900
ピュティアス あなたはこの人の大胆さを見誤っていると思います。
CHA. non faciam, Pythias. PY. non credo, Chaerea,
カエレアス そんなことはしなよ、ピュティアス。ピュティアス 信じられないわ、カエレアス、
nisi si commissum non erit. CHA. quin, Pythias,
実際に何もしないとわかるまでは。カエレアス じゃあ、あなたが僕を見張っていれば
tu me servato. PY. neque pol servandum tibi
いいじゃないですか。ピュティアス 私はあなたに何かを見張らせることもないし、
quicquam dare ausim neque te servare: apage te.
私があなたを見張るつもりもないわ。いい加減にしてよ。
THA. adest optume ipse frater. CHA. perii hercle! obsecro 905
タイス いいところに少女のお兄さんが到着したわ。カエレアス しまった。お願いですから、
abeamus intro, Thais: nolo me in via
中へ入りましょうよ、花魁。僕はこんな服を着ているところを
cum hac veste videat. THA. quam ob rem tandem? an quia pudet?
見られたくないのです。タイスに いったいどうしてですか。恥ずかしいの?
CHA. id ipsum. PY. id ipsum? virgo vero! THA. i prae, sequor.
カエレアス そうなんです。ピュティアス そうなんです? そんな殊勝な言い方をして、まるで少女だわ。タイス(カエレアスに)先に行きなさい。私はあとから行きますから。
tu istic mane ut Chremem intro ducas, Pythias.
ピュティアスはそこにいて、クレメースさんを中に案内してちょうだい。


Pythias Chremes Sophrona

V.iii
第五幕第三場 ピュティアス、クレメース、ソフローナ(クレメースがパンピラの乳母を連れて来る場面)(910-)

PY. Quid, quid venire in mentem nunc possit mihi, 910
ピュティアス(独白)何かいい考えはないかしらねえ、
quidnam qui referam sacrilego illi gratiam
私たちのところにあの男を潜りこませたあの不届き者に
qui hunc supposivit nobis? CHR. move vero ocius
どうやって仕返しをしたらいいか。 クレメース もっと急いでくれ。
te nutrix. SO. moveo. CHR. video, sed nil promoves.
乳母さんよ。ソフローナ 急いでますよ。クレメース わかってる。でも全然前へ進んでいないよ。
PY. iamne ostendisti signa nutrici? CHR. omnia.
ピュティアス(クレメースに)乳母に証拠の品をもう見せたのですか? クレメース 全部見せました。
PY. amabo, quid ait? cognoscitne? CHR. ac memoriter. 915
ピュティアス ねえ、じゃあどうなんですか。認めたんですか? クレメース それもはっきりと。
PY. probe edepol narras; nam illi faveo virgini.
ピュティアス ちゃんと話して下さい。あたしはあの少女が気に入ってるんですもの。
ite intro: iamdudum era vos exspectat domi.
中へ入って下さい。ずっと前から花魁があなた達を中でお待ちですわ。
virum bonum eccum Parmenonem incedere
おや、あそこにパルメノンが来るのが見えるわ。
video: vide ut otiosus it! si dis placet,
あの落ち着いた歩きぶりを見てちょうだい。願わくば、
spero me habere qui(=how) hunc meo excruciem modo. 920
あの男を私の言うとおりに懲らしめてくれる人がいればいいのに。
ibo intro de cognitione ut certum sciam:
私も再会に立ち会うために中に入るわ。
post exibo atque hunc perterrebo sacrilegum.
そのあとでまた出て来てあの罰当たりをどやしつけてやるわ。


Parmeno Pythias

V.iv
第五幕第四場 パルメノン、ピュティアス(ピュティアスがパルメノンに嘘をついて脅す場面)(923-)

PAR. Reviso quidnam Chaerea hic rerum gerat.
パルメノン(独白) カエレアス坊ちゃんがここでどうしているか見てみよう。
quod si astu rem tractavit, di vostram fidem,
いやはや、もし坊ちゃんがうまくやったのなら、
quantam et quam veram laudem capiet Parmeno! 925
このパルメノンめは大いにお褒めに預かることだろう。
nam ut mittam quod ei amorem difficillimum et
だって、あの欲深い花魁の手から、坊ちゃんの愛する少女を
carissimum, a meretrice avara virginem
やすやすと只で何も払わずに手に入れて、
quam amabat, eam confeci sine molestia
最も困難で最も高くつく恋を成就させてあげたんだから。
sine sumptu et sine dispendio: tum hoc alterum,
それに、もう一つあるぞ。
id verost quod ego mi puto palmarium, 930
そしておれはこれこそ本当に傑作だと思うんだが、
me repperisse quo modo adulescentulus
それはおれがあの方法を見つけたお陰で、坊ちゃんは
meretricum ingenia et mores posset noscere
遊女たちの本性や習性を早くも知ることが出来たことでさ。
mature, ut quom cognorit perpetuo oderit.
そのために、坊ちゃんは遊女の存在を知ると同時に遊女が嫌いになる。
quae dum foris sunt nil videtur mundius,
彼女たちが家の外にいるときは、これほど賢いものはないし、
nec mage compositum quicquam nec magis elegans 935
これほど凛として上品なものはないように見える。
quae cum amatore quom cenant ligurriunt.
恋人と一緒に食事をするときには気難しそうにしているからね。
harum videre inluviem sordes inopiam,
遊女たちの汚らしさケチ臭さを知ってること、
quam inhonestae solae sint domi atque avidae cibi,
彼女たちが一人で家にいるときにどんなに食い意地が張ったいやらしい人間であるか
quo pacto ex iure hesterno panem atrum vorent,
どうやって昨日のスープで黒パンを貪るか、
nosse omnia haec salus est adulescentulis. 940
こうしたことを全部を知っていることは、坊ちゃんには救いとなるのだ。
PY. ego pol te pro istis dictis et factis, scelus,
ピュティアス(傍白)この悪党め、絶対にあたしがあんたの言葉と行動の仕返しを
ulciscar, ut ne impune in nos inluseris.
してやるからね。私達に悪さをすると只ではすまないのよ。
pro deum fidem, facinus foedum! o infelicem adulescentulum!
(ここからパルメノンに聞こえるように)まったく、けしからぬ犯罪! ああ不幸な若者よ。
o scelestum Parmenonem, qui istum huc adduxit! PAR. quid est?
あの子をここに引き入れた悪辣なパルメノン! パルメノン 何事だ。
PY. miseret me: itaque ut ne viderem, misera huc ecfugi foras. 945
ピュティアス 可哀想に。もうこの目で見なくていいよに、外へ出てきたのよ。
quae futura exempla dicunt in illum indigna! PAR. o Iuppiter,
みんなあの人を恥ずかしめて見せしめにすると言っているわ。パルメノン ああ、一体全体、
quae illaec turbast? numnam ego perii? adibo. quid istuc, Pythias?
この騒ぎは何なのだ。おれは万事休すということなのかね。行ってみよう。どうしたんだい、ピュティアス。
quid ais? in quem exempla fient? PY. rogitas, audacissime?
どういうことなんだ。誰が見せしめにされんだ。ピュティアス 分かるでしょう。この厚顔無恥。
perdidisti istum quem adduxti pro eunucho adulescentulum,
宦官の代わりにあんたが引き入れたあの若者はあなたのせいで落ちぶれてしてしまったのよ、
dum studes dare verba nobis. PAR. quid ita? aut quid factumst? cedo. 950
それもこれもあんたが私たちを騙そうとしたせいだわ。パルメノン どうしてだ。何があったんだ。言ってくれ。
PY. dicam: virginem istam, Thaidi hodie quae dono datast,
ピュティアス 教えてあげましょう。花魁にプレゼントとして今日届けられたあの少女が、
scis eam hinc civem esse? et fratrem eius esse adprime nobilem?
この町の市民だったことを知っていますか。それに彼女のお兄さんはとても高貴な人だということを。
PAR. nescio. PY. atqui sic inventast: eam istic vitiavit miser.
パルメノン 知らない。ピュティアス それが分かったのよ。その少女に、可哀想に、あなたの坊ちゃんが乱暴したのよ。
ille ubi id rescivit factum frater violentissimus--
その事を知った世にも恐ろし少女の暴力的な兄はー
PAR. quidnam fecit? PY. --conligavit primum eum miseris modis-- 955
パルメノン どうしたんだ。ピュティアス ーひどいやり方で坊ちゃんを縛り上げてー
PAR. conligavit? PY. --atque equidem orante ut ne id faceret Thaide.
パルメノン 縛り上げたのか? ピュティアス ーそれも花魁がやめて欲しいと嘆願するのも聞かずによ。
PAR. quid ais? PY. nunc minatur porro sese id quod moechis solet.
パルメノン それから。ピュティアス 次に彼は間男に対して行われる刑罰を実行すると言っています。
quod ego numquam vidi fieri neque velim. PAR. qua audacia
私はそんな光景は見たことがないし今後も見たくはありません。パルメノン なんと無茶な、
tantum facinus audet? PY. quid ita "tantum"? PAR. an non tibi hoc maxumumst?
そんなひどいことをするなんて。ピュティアス 「そんな」とはどういうことですか。パルメノン そんなにひどい事はないだろ。 
quis homo pro moecho umquam vidit in domo meretricia 960
遊女の家で人が間男で捕まるなんて、誰も見たことはないよ。
prendi quemquam? PY. nescio. PAR. at ne hoc nesciatis, Pythias,
ピュティアス 私も初耳ですわ。パルメノン あんたに言っとくけど、ピュティアス、
dico,edico vobis nostrum esse illum erilem filium. PY. hem
あの坊ちゃんはうちの大旦那様の息子さんなんだぞ。ピュティアス まさか。
obsecro, an is est? PAR. nequam in illum Thais vim fieri sinat!
本当に、そうなんですか。パルメノン 花魁はあの子に暴力を振るうの許しちゃいけないよ。
atque adeo autem quor non egomet intro eo? PY. vide, Parmeno,
それより、いい加減にあっしを中に入れてくれないか。ピュティアス 気をつけなさいよ、パルメノン、
quid agas, ne neque illi prosis et tu pereas; nam hoc putant 965
何をするつもりなの。あの坊ちゃんを助けようとしてあなたがひどい目に合わないようにね。なぜって
quidquid factumst ex te esse ortum. PAR. quid igitur faciam miser?
みんな知ってるんだから、あの仕業は全部あなたが仕組んだことだということをね。パルメノン じゃあ、どうしたらいいんだ。
quidve incipiam? ecce autem video rure redeuntem senem.
何を始めたらいい。おや、あそこに大旦那様が田舎から帰っていらした。
dicam huic an non? ei dicam hercle; etsi mihi magnum malum
大旦那様にこの事を話すべきか話さざるべきか。やっぱり言おう。それであっしが
scio paratum; sed necessest huic ut subveniat. PY. sapis.
罰を受けると分かっていてもだ。大旦那様はきっと助けて下さるだろう。ピュティアス それは賢明なこと。
ego abeo intro: tu isti narra omne ordine ut factum siet. 970
私は中に入ります。あなたはあったことを全部順番にあの人に話しなさい。


Senex Parmeno

V.v
第五幕第五場 大旦那、パルメノン(ピュティアスに騙されたパルメノンが大旦那に事件のことを知らせてしまう場面)(971-)

SE. Ex meo propinquo rure hoc capio commodi:
大旦那(独白)田舎が近いと、田舎も町も嫌いになることが
neque agri neque urbis odium me umquam percipit.
ないという、こんないいことがあるなあ。
ubi satias coepit fieri commuto locum.
飽きてくるたびに場所を変えられるんだから。
sed estne ille noster Parmeno? et certe ipsus est.
ところで、あれはうちのパルメノンじゃないか。そうだあいつだ。
quem praestolare, Parmeno, hic ante ostium? 975
パルメノン! お前家の前で誰を待っているんだ?
PAR. quis homost? ehem salvom te advenire, ere, gaudeo.
パルメノン 誰だろう。おや、大旦那さま、無事のお帰りお喜び申し上げます。
SE. quem praestolare? PAR. perii! lingua haeret metu. SE. hem
大旦那 そこで誰を待ってるんだ。パルメノン まいったな。恐くて舌が凍りついちまう。大旦那 え、
quid est? quid trepidas? satine salve? dic mihi.
何だって? 何をうろたえているんだ。万事順調か、教えてくれ。
PAR. ere, primum te arbitrari id quod res est velim.
パルメノン 大旦那さま、何よりまず何が事実であるかをよく知っていただきたいのです。
quidquid huius factumst, culpa non factumst mea. 980
何があったにしろ、これは私の責任ではございませんので。
SE. quid? PAR. recte sane interrogasti: oportuit
大旦那 どうしたんだ。パルメノン よくぞ聞いて下さいました。
rem praenarrasse me. emit quendam Phaedria
真実を私の口からまずお話しなくてはなりません。若旦那様が
eunuchum quem dono huic daret. SE. quoi? PAR. Thaidi.
宦官をここの花魁にプレゼントしようとお買い求めになったんです。大旦那 誰にだって? パルメノン タイス嬢です。
SE. emit? perii hercle. quanti? PAR. viginti minis.
大旦那 買ったというのか? 参ったな。いくらしたんだ。パルメノン 二〇ミナです。
SE. actumst. PAR. tum quandam fidicinam amat hic Chaerea. 985
大旦那 万事休すだ。パルメノン それからカエレアス坊ちゃんが、ここのギター弾きの女に惚れました。
SE. hem quid? amat? an scit iam ille quid meretrix siet?
大旦那 ええ、何だって? 惚れたって? あの子は遊女がどういうものか知っているのか。
an in astu venit? aliud ex alio malum!
それより、あの子は町に来ているのか。次から次へと面倒ばかり起こしおって。
PAR. ere, ne me spectes. me impulsore haec non facit.
パルメノン 大旦那さま、私の方を見ないで下さい。私がそそのかしたのではありませんから。
SE. omitte de te dicere. ego te, furcifer,
大旦那 お前のことはもういい。このごろつきめ。わしはお前を
si vivo . . ! sed istuc quidquid est primum expedi. 990
わしが生きている限り・・。それよりこの事をちゃんと説明しなさい。
PAR. is pro illo eunucho ad Thaidem hanc deductus est.
パルメノン 坊ちゃんが宦官になりすましてここの花魁の家に入り込んだという次第です。
SE. pro eunuchon? PAR. sic est. hunc pro moecho postea
大旦那 宦官に? パルメノン そうです。それが今度は間男と間違われまして
conprendere intus et constrinxere. SE. occidi.
捕えられて中で縛られているんです。大旦那 まいったな。
PAR. audaciam meretricum specta. SE. numquid est
パルメノン 遊女たちの無茶なやり方もありますし。大旦那 お前がまだ
aliud mali damnive quod non dixeris 995
言ってないことで、ほかにまだ不面目なことは残っていないのかい。
relicuom? PAR. tantumst. SE. cesso huc intro rumpere?
パルメノン これで全部です。大旦那 これはぐずぐずしている場合じゃない。中に押し入るしかないぞ(大旦那、中に入る)。
PAR. non dubiumst quin mi magnum ex hac re sit malum;
パルメノン この調子だときっとおれは大目玉を食うこと間違いなしだな。
nisi, quia necessus fuit hoc facere, id gaudeo
でも、ああするしかなったんだから、
propter me hisce aliquid esse eventurum mali.
おれのせいでもう一つ面倒があの女たちに起これば、それでよしとしよう。
nam iamdiu aliquam causam quaerebat senex 1000
だって、ずっと前から大旦那様はの女たちに目に物見せてやる口実を
quam ob rem insigne aliquid faceret eis: nunc repperit.
探していたんだから。いま、大旦那様はその口実を見つけたぞ。


Pythias Parmeno

V.vi
第五幕第六場 ピュティアス、パルメノン(ピュティアスがパルメノンを騙して脅かして意趣はらしをする場面)(1002-)

(ピュティアスが大笑いしながら家から出てくる)

PY. Numquam edepol quicquam iamdiu quod mage vellem evenire
ピュティアス(独白)こんなに私の思いどおりのことが起こったことはこれまでになかったわ。
mi evenit quam quod modo senex intro ad nos venit errans.
だって、さっき大旦那さんが勘違いしてうちの中に飛び込んできたんだもの。
mihi solae ridiculo fuit quae quid timeret scibam.
大旦那さんの心配の理由を私だけは知っていたもんだからお笑いしたわよ。
PAR. quid hoc autemst? PY. nunc id prodeo ut conveniam Parmenonem. 1005
パルメノン(傍白) これはなんだ。ピュティアス パルメノンのことを見にきたんだけど、
sed ubi obsecro est? PAR. me quaerit haec. PY. atque eccum video: adibo.
あの人はどこかしら。パルメノン おれのことを探しているのかい。ピュティアス(笑いながら)ここにいたわ。側へ行ってみよう。
PAR. quid est, inepta? quid tibi vis? quid rides? pergin? PY. perii!
パルメノン どうしたんだよ、この馬鹿、何がしたいんだ、何がおかしい、まだ笑うのか。ピュティアス いやだわ。
defessa iam sum misera te ridendo. PAR. quid ita? PY. rogitas?
あんたのことを笑いすぎて疲れたわ。パルメノン どういうことだ。ピュティアス わかるでしょ。
numquam pol hominem stultiorem vidi nec videbo. ah
これほど馬鹿な人をこれまで見たことがないし、これからも見ることがないわね。
non possum satis narrare quos ludos praebueris intus. 1010
あんたのせいで、この中がどんな可笑しなことになっているか、とても話し切れないわね。
at etiam primo callidum et disertum credidi hominem.
あんたのことを前は賢くて抜け目のない男だと思ってたのにねえ。
quid? ilicone credere ea quae dixi oportuit te?
どうしてよ。わたしが言ったことをすぐに信じちゃったの?
an paenitebat flagiti, te auctore quod fecisset
あんたが坊ちゃんをそそのかしてあんなことをさせただけで
adulescens, ni(=nisi) miserum insuper etiam patri indicares?
充分に恥ずべきことだったのに、その上、可哀想な坊ちゃんを父親に売り渡してしまうなんて?
nam quid illi credis animi tum fuisse, ubi vestem vidit 1015
だって、あんな服を着ている所を父親に見つけられた坊ちゃんはどう感じた
illam esse eum indutum pater?(パルメノンの絶望を見て)quid est? iam scis te perisse?
と思うの? どうしたの。自分はお終いだとわかったのね。
PAR. ehem quid dixti, pessuma? an mentita es? etiam rides?
パルメノン お前は何を言い出すんだ、この最低女め。あれは出鱈目だったのか。まだ笑うのか。
itan lepidum tibi visumst, scelus, nos inridere? PY. nimium.
俺のことを笑うのがそんなに楽しいか、この性悪女め。ピュティアス とっても楽しいわ。
PAR. siquidem istuc impune habueris . . ! PY. verum? PAR. reddam hercle. PY. credo:
パルメノン 本当にそんなことしてただで済むと思うのか。ピュティアス どうなるの? パルメノン きっと仕返しをしてやるからな。ピュティアス そうでしょうよ。
sed in diem istuc, Parmeno, est fortasse quod minare. 1020
でも、パルメノン、あなたの脅しが実現するのはだいぶ先になりそうね。
tu iam pendebis qui stultum adulescentulum nobilitas(<nobilito)
それよりあんたは今に吊るされるわ。あの愚かな坊ちゃんをたぶらかして
flagitiis et eundem indicas: uterque in te exempla edent.
悪事に手を染めさせておきながら、その坊ちゃんを父親に売ったのだから。二人ともあんたを見せしめにするわよ。
PAR. nullus sum. PY. hic pro illo munere tibi honos est habitus: abeo.
パルメノン おれはもうだめだ。ピュティアス それがあなたのした事に対する報酬なのよ。わたしはもう行くわ(ピュティアス、中へ入る)。
PAR. egomet meo indicio miser quasi sorex hodie perii.
パルメノン ことわざで言うように、おれは自分のおしゃべりのせいで自ら災を呼び込んでしまったよ。


Gnatho Thraso Parmeno

V.vii
第五幕第七場 グナートン、トラソン、(パルメノン)(軍人がタイスに降参をするために来る場面)(1025-)

(グナートンとトラソン、トラソンの家がある右手から登場)

GNA. Quid nunc? qua spe aut quo consilio huc imus? quid coeptas, Thraso? 1025
グナートン 今度は何ですか。どんな目論見とどんな目当てがあってここに来られたのですか。何を始めようと言うのです、トラソンさん。
TRA. egone? ut Thaidi me dedam et faciam quod iubeat. GNA. quid est?
トラソン わしか? 花魁に降参して、彼女に命令されたことをするために来たのさ。グナートン どういうことです。
TRA. qui minus quam Hercules servivit Omphalae? GNA. exemplum placet.
トラソン いいじゃないか。ヘラクレスもオンファレーの言いなりになったんだよ。グナートン いい前例ですな。
utinam tibi conmitigari videam sandalio caput!
(傍白) 花魁のスリッパであんたの頭がボコボコにされたるのを見たいものだ。
sed fores crepuerunt ab ea. TRA. perii! quid hoc autemst mali?
(トラソンに)ところで、花魁のところの扉が開きますよ。トラソン(カエレアスが扉から出てくるのを見て) くそ、なんてこった。 
hunc ego numquam videram etiam. quidnam hic properans prosilit? 1030
こんなやつは見たことがない。一体全体どうしてこいつが急いで出てくるんだ?


Chaerea Parmeno Gnatho Thraso

V.viii
第五幕第八場 カエレアス、パルメノン、グナートン、トラソン(カエレアスが本当の出来事、すべてがうまくいったことをパルメノンに教える場面)(1031-)

CHA. O populares, ecquis me hodie vivit fortunatior?
カエレアス みんさん、この僕ほどに幸福な人間がこの世にいるでしょうか。
nemo hercle quisquam; nam in me plane di potestatem suam
絶対にいないと思います。神様が僕のためにありったけの力を見せてくれたんです。
omnem ostendere quoi tam subito tot congruerint commoda.
こんなにいいことがうまい具合に一度に全部起きるなんて。
PAR. quid hic laetus est? CHA. o Parmeno mi, o mearum voluptatum omnium
パルメノン どうして坊ちゃんはそんなに喜んでいるんだろう。カエレアス ああ、パルメノン、君こそ僕の喜びの全てを
inventor,inceptor,perfector, scis me in quibus sim gaudiis? 1035
考え出して、行動に移して、実現してくれた人だ。僕がどんなに喜んでいるか知っているかい。
scis Pamphilam meam inventam civem? PAR. audivi. CHA. scis sponsam mihi?
僕のパンピラがアテナイ市民だと分かったのを知っているかい。パルメノン 聞きました。カエレアス 彼女が僕と婚約したのを知っているかい。
PAR. bene, ita me di ament, factum. GNA. audin tu, hic quid ait? CHA. tum autem Phaedriae
パルメノン それは本当によかったですね。グナートン(トラソンに傍白) 聞きましたか、あの男が言っていることを。カエレアス 嬉しいことに僕の兄貴のパエドリアスの恋も
meo fratri gaudeo esse amorem omnem in tranquillo: unast domus;
うまく行っているんだよ。みんな一緒に暮らせるんだ。
Thais patri se commendavit, in clientelam et fidem
花魁は僕の父親に気に入られて、我が家に身請けされることに
nobis dedit se. PAR. fratris igitur Thais totast? CHA. scilicet. 1040
なったんだ。パルメノン 花魁がお兄さんのものになったんですか。カエレアス そうだよ。
PAR. iam hoc aliud est quod gaudeamus: miles pelletur foras.
パルメノン それもまた喜ばしいことです。軍人さんは完全に蚊帳の外ですね。
CHA. tu frater ubi ubi est fac quam primum haec audiat. PAR. visam domum.
カエレアス このことを兄貴に真っ先にに知らせてやってくれ。パルメノン 家を見てきます。
TRA. num quid, Gnatho, tu dubitas quin ego nunc perpetuo perierim?
トラソン(グナートンに傍白) グナートンよ、俺はいよいよ永遠にお払い箱らしいね。
GNA. sine dubio opinor. CHA. quid commemorem primum aut laudem maxume?
グナートン どうやらそのようですね。カエレアス(独白)何が一番良かったんだろう。
illumne qui mihi dedit consilium ut facerem, an me qui id ausus sim 1045
僕にやり方を教えてくれたあいつなのか、それともそれを実行する勇気が僕にあったからなのか、
incipere, an fortunam conlaudem quae gubernatrix fuit,
全てをたった一日のうちに
quae tot res tantas tam opportune in unum conclusit diem,
うまく取り計らってくれた運命の神のおかげなのか。
an mei patris festivitatem et facilitatem? o Iuppiter,
それとも、親父が大甘で寛容だったからなのか。ああ、神よ
serva obsecro haec bona nobis!
私たちのこの幸せを末永く守って下さい。


Phaedria Chaerea Thraso Gnatho

V.ix
第五幕第九場 パエドリアス、カエレアス、トラソン、グナートン(トラソンのためにグナートンがパエドリアスたちとトラソンの仲直りをとりもつ場面)(1049-)

               PHA. Di vostram fidem, incredibilia
パエドリアス やれやれ、とても信じられない、
Parmeno modo quae narravit. sed ubist frater? CHA. praesto adest. 1050
パルメノンから今聞いたことだが、弟はどこにいる? カエレアス 僕はここにいますよ。
PHA. gaudeo. CHA. satis credo. nil est Thaide hac, frater, tua
パエドリアス うれしいよ。カエレアス そうでしょう。兄貴、あんたのタイスほど、
dignius quod ametur: ita nostrae omnist fautrix familiae. PHA. hui
愛くるしい女性はいませんよ。彼女はうちの家族全員の守り神ですね。パエドリアス おや、えらく
mihi illam laudas? TRA. perii! quanto minus speist,tanto magis amo.
彼女を褒めるじゃないか。トラソン もうだめだ。希望がなくなるほど、わしの恋心は募ってくる。
obsecro, Gnatho, in te spes est. GNA. quid vis faciam? TRA. perfice hoc
頼む、グナートン、お前が頼りだ。グナートン どうして欲しいんですか。トラソン 
precibus pretio ut haeream in parte aliqua tandem apud Thaidem. 1055
懇願するにせよ、金で丸め込むにしろ、花魁の家のどこかにわしの居場所を残しておいて欲しいんだ。
GNA. difficilest. TRA. siquid conlubitum, novi te. hoc si feceris,
グナートン それはむつかしいです。トラソン やる気さえあればできるさ。お前のことはよく知っている。もしうまくやったら、
quodvis donum praemium a me optato: id optatum auferes.
何でもいいから褒美を要求してくれ。欲しいものを取らせるぞ。
GNA. itane? TRA. sic erit. GNA. si efficio hoc, postulo ut mihi tua domus
グナートン 本当ですか。トラソン 本当だ。グナートン もしこれができたら、旦那の
te praesente absente pateat, invocato ut sit locus
家を旦那がいる時もいない時にも使わせ下さい。招かれなくても僕の場所があるようにして下さい。
semper. TRA. do fidem (hoc) futurum. GNA. adcingar. PHA. quem ego hic audio? 1060
トラソン それは約束するよ。グナートン じゃあ私の方の準備はできてます。パエドリアス いま聞こえるのは誰の声だ。
o Thraso. TRA. salvete. PHA. tu fortasse quae facta hic sient
ああ、トラソンさんですか。トラソン 助けてくれ。パエドリアス 多分あなたは何があったか
nescis. TRA. scio. PHA. quor te ergo in his ego conspicor regionibus?
知らないのです。トラソン 知ってますよ。パエドリアス どうしてこんな所にあなたはいるんですか。
TRA. vobis fretus. PHA. scin quam fretus? miles, edico tibi,
トラソン どうやらわしは君が頼りらしいんだ。パエドリアス それがどの程度か分かってますか、軍人さん。教えてあげましょう。
si te in platea offendero hac post umquam, quod dicas mihi
僕がいつかこの通りであなたと出くわしたら、あなたが
"alium quaerebam, iter hac habui": periisti. GNA. heia haud sic decet. 1065
「別の家を探していて、こっちに来てしまったんだ」と言ったとしても、僕は許しませんよ。グナートン(パエドリアスに) ねえ、そんな言い方はないでしょう。 
PHA. dictumst. TRA. non cognosco vostrum tam superbum . . PHA. sic ago.
パエドリアス もう言っちゃた。トラソン 君はそんなに傲慢な人ではないだろ。パエドリアス ぼくはこれで行くんだ。
GNA. prius audite paucis: quod quom dixero, si placuerit,
グナートン とにかく少し聞いてください。私の言うことが気に入ったら
facitote. CHA. audiamus. GNA. tu concede paullum istuc, Thraso.
その通りにしてほしいんです。カエレアス(パエドリアスに)聞いてやろうよ。グナートン(トラソンに) トラソンさん、ちょっとそこへ下がってください。
principio ego vos ambos credere hoc mihi vehementer velim,
(トラソン以外に聞こえるように)最初にお二人にはこのことを是非とも分かって欲しいんですが、それは
me huius quidquid facio id facere maxume causa mea; 1070
私がこうするのは自分の得になるからだという事です。
verum si idem vobis prodest, vos non facere inscitiast.
もしそれがあなた達にも得になるなら、あなた達がそれをやらないのは愚かなことですよ。
PHA. quid id est? GNA. militem rivalem ego recipiundum censeo. PHA. hem
パエドリアス それは何ですか? グナートン 私が思うに、軍人さんをライバルとして受けいるべきだということです。パエドリアス え、なんだって?
recipiundum? GNA. cogita modo: tu hercle cum illa, Phaedria,
受け入れるべきだって? グナートン ちょっと考えてみてください。今と同じように若旦那が花魁とこれからも
ut lubenter vivis (etenim bene lubenter victitas),
仲良くやっていくためには、実際今は仲がいいですがね、
quod des paullumst et necessest multum accipere Thaidem. 1075
若旦那から花魁へのプレゼントは少しでも、花魁は沢山プレゼントをもらう必要がありますよ。
ut tuo amori suppeditari possit sine sumptu tuo ad
若旦那が自分の恋人に只でこれを全部まかなうのに、
omnia haec, magis opportunus nec magis ex usu tuo
この人ほど好都合であなたの役に立つ人はおりません。
nemost. principio et habet quod det et dat nemo largius.
何よりこの人は与える物を持っているし、誰よりも気前よく与えますよ。
fatuos est, insulsus,tardus,stertit noctes et dies,
この人は愚かで、退屈で、鈍くて、夜も昼もいびきをかくし、
neque istum metuas ne amet mulier. facile pellas ubi velis. 1080
花魁が惚れる心配がありません。それにいつでも好きなときに追い出すことが出来ますよ。
PHA. quid agimus? GNA. praeterea hoc etiam, quod ego vel primum puto,
パエドリアス(カエレアスに)どうしようか。グナートン その上、これが一番大切なことですが、
accipit homo nemo melius prorsus neque prolixius.
この人は誰よりも上手に気前よく人をもてなす人です。
CHA. mirum ni illoc homine quoquo pacto opust. PHA. idem ego arbitror.
カエレアス どのみちこの人が必要なのは確かですね。パエドリアス 僕もそう思う。
GNA. recte facitis. unum etiam hoc vos oro, ut me in vostrum gregem
グナートン よかった。一つこれだけはあなた達にお願いします。私をお二人の仲間に
recipiatis: satis diu hoc iam saxum vorso. PHA. recipimus. 1085
入れてください。それが目当てでもう充分長いことがんばってるんですから。パエドリアス あなたも仲間に入れてあげますよ。
CHA. ac lubenter. GNA. at ego pro istoc, Phaedria et tu Chaerea,
カエレアス しかも、喜んで。グナートン 若旦那と坊ちゃん、私は
hunc comedendum vobis propino et deridendum. CHA. placet.
この人に大盤振る舞いをさせて馬鹿にするのを楽しみにしていますが、この道楽をお二人にお譲りしますよ。カエレアス いいですよ。
PHA. dignus est. GNA. Thraso, ubi vis accede. TRA. obsecro te, quid agimus?
パエドリアス あの人の自業自得ですね。グナートン(トラソンに)トラソンさん、よかったらこっちに来て下さい。トラソン ねえ、俺たちはどうなったんだい。
GNA. quid? isti te ignorabant: postquam eis mores ostendi tuos
グナートン どうなったかって? この人達はあなたのことを知らなかったんです。私がこの人達にあなたの人柄を説明して、 
et conlaudavi secundum facta et virtutes tuas, 1090
ウソ偽りなくあなたの長所を褒めたので、
impetravi. TRA. bene fecisti: gratiam habeo maxumam.
うまく行きましたよ。トラソン よくやった。本当に感謝しているよ。
numquam etiam fui usquam quin me omnes amarent plurimum.
わしが行く所行く所どこでもみなさんがわしを可愛がってくれたものだよ。
GNA. dixin ego in hoc esse vobis Atticam elegantiam?
グナートン(パエドリアスとカエレアスに)ね、この人は都会風に洗練されていると言ったでしょう。
PHA. nil praeter promissum est. ite hac. CANTOR. vos valete et plaudite!
パエドリアス まさに期待どおりだね。こちらへお入り下さい(全員タイスの家に入る)。全員 みなさんごきげんよう、拍手を。

Terence's text from The Latin Library, adapted to the new Loeb version.

参考文献 TERENCE EDITED AND TRANSLATED BY JOHN BARSBY (HARVARD UNIVERSITY PRESS 2001),
TERENCE THE COMEDIES TRANSLATED BY BETTY RACICE (PENGUIN CLASSICS 1965),
Terence's Comedies(Google eブックス) Samuel Patrick Gilbert and Hodges, 1810 (この本は劇詩を散文に直している箇所が便利。訳は意訳。 s にf と似た字体を使っている時代の本である)
Aelii Donati in Eunuchum Terenti commentum

Elementary Latin Dictionary and A Latin Dictionary in Perseus.

and 手持ちのElementary Lain Dictionary.

Translated into Japanese by (c)Tomokazu Hanafusa 2011. 10.27―2015.2.14

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