『骨董室』について





 この作品中にはモーフリニューズ公爵夫人の年齢は書かれていないが、『ド・ガディニャン公妃の秘密』の中の記述(全集24巻323頁)から23歳であると推定される。

230頁下第二段落から231頁上第三段落の最初にかけて言及される「館」は「城館(chastle)」のことでその後のデグリニョン館(hotel)とは別のものを指しているらしい。

272頁上の「イギリスの虎」とは「イギリス風の少年馬丁」

273頁上「珍鴨」〔ちんちんかもかもの略か〕は「逐電」

273頁下「浮き上がり」は「引き立て」
 

276頁上「オペラの踊り子どもは神話状態に移行していた。晩に・・人形に化していた」インターネット版の『骨董室』"Le cabinet des antiques"のテキストには elles sont passees a l'etat mythologique.の前に il n'y a plus de filles d'Opera の一文がある。これを杉捷夫訳と宮下志郎訳〔345頁〕の両者ともに訳していない。杉はコナール版のテキストを使ったと言っている。宮下は何も書いていないが、同じものを使ったのだろう。ここのところは両者とも「神話」という熟語を使ったため意味不明になっている。

 ここは「かつてのオペラ座の踊り子はもういない。伝説の中の存在になってしまっている。現代の劇場風俗では、踊り子や女優たちは『女権宣言』のような滑稽な存在になっている。彼女たちはいわば操り人形でしかなく、昼間の貞淑な母親が夜に男役のズボンをはいて足を上げているのだ」 という意味か。

277頁下「活索」は「わな」

293頁上「かくれ家は・・・インドの妖精の手で飾り付けが施されていた」(杉)、「この小部屋は・・・インドの妖精の手で飾り付けがなされていて」(宮下)、はインドの妖精が装飾屋を営んでいるわけがないから「隠れ家は・・・インドの妖精の絵で飾り付けられていた」。あるいは、『マッシミラ・ドニ』の最後のような比喩的表現であろうか。

293頁下「それは恐ろしい闘争だった。その戦において沢山の涙が流され、そしてついに種族の名誉が勝利を占めたが、ただしそれには条件があった」は「それから恐ろしい戦いが始まった。沢山の涙が流され、最後には一族の名誉が勝利をおさめた。しかし、それも条件付きだった」

294頁上「予想する機能」は「包含する機能」

300頁上「思い違いの犠牲だった」は「思い違いの犠牲者だった」

301頁「この部屋には老人の死体を乗り越えなければ何人と言えども闖入することが出来ないのである」は「そこは老人を殺しでもしないかぎり他には誰も入ることが出来ない部屋である」

312頁下「十万フラン」〔宮下訳405頁も同じ〕は「十万エキュ〔=三十万フラン〕」

313頁下「伯父上」は「叔父上」

314頁上「突如たる照明」は「突然のひらめき」

314頁下「アベ」は「神父」

315頁上「十万フランの受け取り」は「十万エキュの受け取り」

320頁「古いメダル」〔宮下訳も同じ〕は「古銭」か

323頁下「勘定ずくで結婚する連中・・・身を固めさせてやらなければならないのではなかろうか」は「仲人好きならみんな『当てになるお金』と呼ぶものが実際に入ってくるころには、判事には子供たちを片づけるために新たな金が必要になっている」

324頁上「息子のエミールが自分の願いを満たすことが出来る」は「自分の願いを息子のエミールなら叶えられる」〔自分とはブロンデ老人を指す。宮下はエミールを指すと考えて訳しているが意味不明の文になっている〕

331頁下「ブランデュロに対してなされた要求」は「ブランデュロに対してなされた求婚」

348頁「犠牲の全ては主人を知らないのだった」は「犠牲の全てを主人は知らないのだった」
 

手形について


 この小説には手形が登場するが、全て為替手形である。日本で商取引によく使われる約束手形は振出人と支払人が同じで、一定期間後に現金化できる小切手のようなものだが、為替手形では振出人と支払人が別。自分で支払わずに第三者に支払わせる。その第三者を宛先にして振りだし、その第三者が振出人に代わって、手形を持っている人に対して金を払う。

 手形を持っている人は満期日に支払人から満額を受けとるが、満期前でも、引き受けてくれる人がいれば、額面から何割か割り引いた額を現金として受けとることが出来る。

登場した手形は以下のとおり

1.シェネルがヴィクチュリアンにパリ滞在費用を送るための手形:シェネルが国の財務省宛に振りだしたもの。手形を受け取ったソービエに国が金を払う。ソービエが受け取った金をヴィクチュリアンに渡す。ソービエが死んでいたので、シェネルはカルドを受取人として手形を作り直した。

2.ヴィクチュリアンがドゥクロワジェから借金する手形:ヴィクチュリアンがドゥクロワジェ宛に振り出したもの。この手形をヴィクチュリアンはドゥクロワジェの取引先であるケラー商会に持ち込んで割引してもらって現金にしている。手形を手に入れたケラー商会に、宛先のドゥクロワジェが金を払う。その金額はヴィクチュリアンのドゥクロワジェに対する借金となる。

3.ヴィクチュリアンが作った偽造手形:ドゥクロワジェがケラー商会宛に振りだしたことにしたもの。手形を持っているヴィクチュリアンにケラー商会が金を払う。

(敬称略)


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