キケロ『占い師の回答について』(対訳版)
参考にした英訳はShackleton BaileyのものとLoeb Libraryのものと仏訳である。
テキストはラテンライブラリのものをもとにShackleton Baileyの校訂を加えた。
DE HARUSPICUM RESPONSO
IN P CLODIUM IN SENATU HABITA
M. TULLI CICERONIS ORATIO
『占い師の回答について』(前56年5月)
I
[1] Hesterno die, patres conscripti, cum me et vestra dignitas et frequentia(群衆) equitum Romanorum praesentium, quibus senatus dabatur(傍聴を許された), magno opere commosset(感動させる), putavi mihi reprimendam(押しとどめる) esse P. Clodi impudicam(恥知らずの) impudentiam(厚かましさ), cum is publicanorum(徴税請負人) causam stultissimis interrogationibus impediret(妨害する), P. Tullioni Syro(シリアの) navaret operam(=助ける) atque ei se, cui totus venierat(買収される), etiam vobis inspectantibus venditaret(取り入ろうとする).
第一章
1 元老院議員の皆さん、昨日、私はプブリウス・クローディウス君(※)の厚顔無恥を押し留めるのは私の役割であると思ったのであります。皆さんならびにローマ騎士階級の満場のご臨席ご高覧をたまわりまして私が大いに感動していた時に、彼は徴税請負人のための審議を馬鹿げた質問によって妨害して、シリアのプブリウス・トゥリオーを助けて、その男に身も心も捧げて、皆さんが見ている前で、その男に取り入ろうとしたからであります。
※前92~52年、前58年護民官、前56年造営官。
Itaque hominem furentem exsultantemque continui(引き止める) simul ac periculum judici(裁判にかけられる危険) intendi(意図する): duobus inceptis(着手する) verbis omnem impetum(激情) gladiatoris ferociamque compressi(抑制する).
そこで私が告訴してやると言うと、威張り散らしていたあの男は急におとなしくなったのであります。あの剣闘士の慢心の発作をすっかり鎮めてやるには告訴の一言で事足りたのであります。
[2] Ac tamen ignarus(知らない+疑問詞) ille qui consules essent, exsanguis(血の気のない) atque aestuans(興奮する) se ex curia repente proripuit(飛び出す), cum quibusdam fractis(壊れた) iam atque inanibus minis(脅し) et cum illius Pisoniani temporis Gabinianique terroribus: quem cum egredientem insequi(追いかける) coepissem, cepi equidem fructum(満足) maximum et ex consurrectione(起立) omnium vestrum et ex comitatu(付き添い) publicanorum.
2 あの男は今の執政官(=レントゥルスとフィリップス)が誰であるかも忘れて、怒りで顔を真っ青にして、もはや無意味となった脅し文句を切れぎれに言って、ピソーとガビニウスの時代の恐ろしい出来事を並べて、元老院から突然飛び出して行ったのです。出ていくあの男を私が追いかけようとした時、皆さんが総立ちになって、徴税請負人たちが私のあとについて来てくれたことに、私は大きな満足感を味わいました。
Sed vaecors(乱心した) repente sine suo vultu, sine colore, sine voce constitit(立ち止まる); deinde respexit et, simul atque Cn. Lentulum consulem aspexit(見つける), concidit(倒れる、完) in curiae paene limine; recordatione, credo, Gabini sui desiderioque Pisonis.
ところが、乱心したあの男は顔から血の気を無くして声をもなく急に立ち止まったのです。そして振り向いた彼は執政官のグナエウス・レントゥルス(マルケッリヌス)君を目にすると同時に、元老院の敷居のところに倒れ込んだのです。さしずめ、仲間のガビニウスのことを思い出したのでしょうか。あるいは、ピソーのことを懐かしんだのでしょう。
Cuius ego de effrenato et praecipiti furore quid dicam? An potest gravioribus(比) a me verbis vulnerari quam est statim(瞬間に) in facto(クローディウスの行動に) ipso a gravissimo viro, P. Servilio, confectus(打ち倒す) ac trucidatus(ひどい目に会わせる)?
私はあの男の制御の効かない情緒不安定ぶりについて何を言うべきでしょうか。それとも、私は彼にダメージを与えるのに、威厳のあるプブリウス・セルウィリウス氏(前79年執政官)がその場で彼をこてんぱんに怒鳴りつけた以上の厳しい言葉を見つけられるでしょうか。
cuius si iam vim et gravitatem illam singularem ac paene divinam assequi possem, tamen non dubito quin ea quae conjecerit(未完) inimicus quam ea quae collega(同僚執政官=セルウィリウス) patris emisit leviora atque hebetiora(<hebes鈍い) esse videantur.
セルウィリウス氏特有の人並み外れた威厳と力強さを私が身に付けられたとしても、一人の政敵が放った言葉の矢玉は、あの男の父親の同僚執政官(前79年)であるセルウィウス氏が放った矢玉ほどぐさりと来ないのは疑いがありません。
II
[3] Sed tamen mei facti rationem exponere illis volo qui hesterno die dolore me elatum(<effero 我を忘れさせる) et iracundia longius prope progressum(進む) arbitrabantur quam sapientis hominis cogitata(慎重な) ratio postulasset. Nihil feci iratus, nihil impotenti(自制心のない) animo, nihil non diu consideratum ac multo ante meditatum.
第二章
3 しかしながら、皆さんの中には、私は昨日怒りと憎みに我を忘れて賢明な人間が守るべき分別の枠を越えて少々やり過ぎたと思っている人もいるでしょう。そこで、あの行動の説明をさせて下さい。私が昨日したことは決して怒りに駆られて行ったことではなく、全てはあらかじめ充分考えていたことだったのです。
Ego enim me, patres conscripti, inimicum semper esse professus(公言する) sum duobus, qui me, qui rem publicam cum defendere deberent, servare possent, cumque ad consulare officium ipsis insignibus(勲章) illius imperi, ad meam salutem non solum auctoritate sed etiam precibus vestris vocarentur, primo reliquerunt, deinde prodiderunt, postremo oppugnarunt, praemiisque nefariae pactionis funditus una cum re publica (←me)oppressum exstinctumque voluerunt;
確かに、元老院議員の皆さん、私が二人の人間(※)に敵意を抱いていることはこれまでずっと公言してきています。というのは、彼らには私だけでなく共和制を守るべき義務があったからです。彼らには私だけでなく共和制を救うだけの力があったのです。ところが、彼らがその権力の勲章ゆえに執政官としての義務を遂行するよう求められ、皆さんの勧告だけでなく皆さんの嘆願によって私を救うように求められた時、二人はまず私を見捨て、次に私を敵に売り渡し、最後に私を攻撃したのです。そして、不正な契約の報酬を得るための、私を共和制とともに葬り去ろうとしたのです。
※前58年の執政官ガビニウスとピソー。ガビニウスはポンペイウスの副官、ピソーの娘はカエサルの妻。
quique suo ductu et imperio cruento illo atque funesto supplicia(被害) neque a sociorum(同盟国) moenibus prohibere(防ぐ) neque hostium urbibus inferre(与える、攻撃する) potuerunt(=quiqueはここまで), excisionem(破壊), inflammationem(火つけ), eversionem(ひっくり返すこと), depopulationem(略奪), vastitatem(荒廃), ea sua cum praeda(戦利品、女奪) meis omnibus tectis atque agris intulerunt.
また将軍として彼らが殺戮と破壊をもたらすあの命令権を使って出来たことは、同盟国の城壁を損害から守ることでも、敵の町に損害を与えることでもなく、破壊と放火と転覆と略奪と荒廃をあらゆる私の家と土地にもたらして、自分たちの戦利品にすることだったのです。
[4] Cum his furiis et facibus(扇動者), cum his, inquam, exitiosis(破壊的な) prodigiis(怪物) ac paene huius imperi pestibus bellum mihi inexpiabile(和解のない) dico esse susceptum, neque id tamen ipsum tantum quantum meus ac meorum, sed tantum quantum vester atque omnium bonorum dolor postulavit.
4 この狂った扇動者たち、この破壊的な怪物たち、この帝国を滅亡させようとした者たちに対して、私は命ある限り戦うことを宣言しています。もっとも、私がこれ程まで戦うのは、皆さんと全ての閥族派の人たちの苦しみのためであって、私と私の家族の苦しみのためではありません。
III
In Clodium vero non est hodie meum maius odium quam illo die fuit cum illum ambustum(焼く) religiosissimis ignibus cognovi muliebri ornatu(衣装) ex incesto stupro(近親相姦) atque ex domo pontificis maximi emissum. Tum, tum, inquam, vidi ac multo ante prospexi(予見する) quanta tempestas excitaretur, quanta impenderet procella(嵐) rei publicae.
第三章
しかしながら、今日の私はクローディウス君に対して大きな憎しみを抱いているわけではありません。確かにかつてのあの日の私の憎しみは大きなものでした。それは彼が罪深い密通をして、女装したまま神聖な炎に身を焦がして大神祇官(=カエサル)の家から飛び出して来たのを私が知った日でした。その時でした、大きな嵐が起ころうとしている事に私が気づいたのは。そうです。私は大きな嵐が共和国に迫っていることにずっと前から気づいたのです。
Videbam illud scelus tam importunum(厄介な), audaciam tam immanem(巨大な) adulescentis furentis, nobilis, vulnerati non posse arceri(閉込める) oti(平和) finibus(範囲): erupturum illud malum aliquando, si impunitum(抑制されない) fuisset, ad perniciem(破滅) civitatis. Non multum mihi sane post ad odium accessit(増える).
私は分かったのです。心に傷を持つあの乱暴な貴族の若者は途方もない大胆さで残虐非道な悪事を働いて平和な世の中をぶち壊してしまうだろう、もしこの悪人を懲らしめないで放置していると、いつか暴発してこの国を滅ぼしてしまうに違いないと。しかし、あの男に対する私の憎しみはそこまでで、それ以上に大きくなることはなかったのです。
[5] Nihil enim contra me fecit odio mei, sed odio severitatis, odio dignitatis, odio rei publicae: non me magis violavit quam senatum, quam equites Romanos, quam omnis bonos, quam Italiam cunctam: non denique in me sceleratior(極悪の) fuit quam in ipsos deos immortalis. Etenim illos eo scelere violavit quo nemo antea: in me fuit eodem animo quo etiam eius familiaris Catilina, si vicisset, fuisset.
5 というのは、クローディウス君の私に対する攻撃は、一つとして私に対する憎しみから出たものではなかったからです。むしろそれは世間の厳しさに対する反発、権威に対する反発、共和制に対する反発から出たものだったのです。彼が乱暴を働いたのは私に対してではなく、むしろ元老院とローマ騎士階級と全ての閥族派の人たちとイタリア全土に対してだったのです。結局、彼が罪深いのは私に対してではなく不死なる神々に対してだったのです。実際、彼が神々を冒涜した犯罪はそれまで誰もしたことのないことだったのです。一方、彼の私に対する態度は、彼の友人のカティリナが私に勝っていたら取ったと思われる態度でした。
Itaque eum numquam a me esse accusandum putavi, non plus quam stipitem(でくのぼう) illum(=accusandum) qui quorum hominum esset nesciremus, nisi se Ligurem(<Ligus) ipse esse diceret. Quid enim hunc persequar, pecudem(家畜) ac beluam(獣), pabulo(飼料) inimicorum meorum et glande(どんぐり) corruptum? qui si sensit quo se scelere devinxerit(繋がる), non dubito quin sit miserrimus; sin autem id non videt, periculum est ne(~である危険がある) se stuporis(愚かさ) excusatione defendat.
ですから、私は彼を告訴しようと思ったことは一度もありません。それは自分からリグスと名乗ったあの愚か者(※)を私が告訴しようと思わなかったのと同じです。彼は自分の出身地を誰にも知られていなかったのにわざわざ自分から明かしたような男です。どうして私があんな男を告訴する必要があるでしょうか。彼は私の政敵たちのドングリの餌で買収された家畜なのです。彼がもし自分がどんな悪事に巻き込まれているかに気付いているなら、疑いもなく彼は可哀想な男なのです。逆にもし彼がそれに気付いていなければ、愚かさを理由に罪を免れる危険性があるのです。
※キケロの復帰に反対した護民官。『セスティウス弁護』(69節)参照。リグスという名前は野蛮なリグレス族を連想されるので別の名前を使った人のことが『クルエンティウス弁護』(72節)に出ている。
[6]
Accedit(加わる) etiam quod exspectatione omnium fortissimo et clarissimo viro, T. Annio, devota(ささげられた) et constituta ista hostia(いけにえ) esse videtur; cui me praeripere(奪う) desponsam(約束された) iam et destinatam(確定した) laudem, cum ipse eius opera et dignitatem et salutem reciperarim(完接), valde est iniquum.
6 それに加えて、あの男は勇敢で高名なティトゥス・アンニウス(ミロー※)君のいけにえに捧げられることを誰もが期待しているのです。ミロー君の力でこの地位と名誉を取り戻した私が、彼のものとなるのが決まっている名声を横取りしたら、それは著しく不当なことでしょう。
※以下、ミローと訳す。
IV
Etenim ut P. ille Scipio natus mihi videtur ad interitum exitiumque Carthaginis, qui illam a multis imperatoribus obsessam, oppugnatam, labefactam, paene captam aliquando quasi fatali adventu solus evertit(滅ぼす), sic T. Annius ad illam pestem comprimendam, exstinguendam, funditus delendam natus esse videtur et quasi divino munere donatus(与えられた) rei publicae. Solus ille cognovit quem ad modum armatum civem, qui lapidibus, qui ferro alios fugaret(逃走させる), alios domi contineret, qui urbem totam, qui curiam, qui forum, qui templa omnia caede incendiisque terreret, non modo vinci verum etiam vinciri(<vincio 縛る) oporteret.
第四章
プブリウス・スキビオはカルタゴを壊滅させるために生まれて来たと思われていますが、それはカルタゴが多くの将軍たちによって包囲され攻撃されて弱体化してほとんど陥落寸前だったときに運命の采配によって一人でカルタゴを滅したからです。それと同じように、ミロー君もまたあの疫病神を押さえつけて息の根を止めて完全に滅ぼすために生まれて来たように思えるのです。彼はまさに共和国に対する神の恵みなのです。ある者には石を投げて、ある者には剣を振るって逃走させ、ある者を家に閉じ込め、町全体と元老院と中央広場と全ての神殿を殺人と放火によって恐怖に陥れたあの武装した男を、どのようにして倒してどのようにして縛り上げたらよいかは、ミロー君だけが見つけたことなのです。
[7] Huic ego et tali et ita de me ac de patria merito viro numquam mea voluntate praeripiam eum praesertim reum(犯罪者) cuius ille inimicitias non solum suscepit propter salutem meam, verum etiam appetivit(熱望する).
7 ミロー君とはこのような人であり、その上に私と祖国に対して大きな貢献をした人なのですから、その彼から私がわざわざ彼の被告人を取り上げる積もりは毛頭ありません。何しろミロー君は私のためにあの男との争いを引き受けてくれただけではなく、熱望さえしてくれたのですから。
Sed si etiam nunc illaqueatus(罠にかける) iam omnium legum periculis, irretitus(罠にかける) odio bonorum omnium, exspectatione(待つこと) supplici iam non diuturna implicatus(混乱した), feretur tamen haesitans(ためらう) et in me impetum impeditus(邪魔されて) facere conabitur(未), resistam(未) et aut concedente(大目に見る) aut etiam adjuvante Milone eius conatum refutabo:
しかしながら、今やあの男はあらゆる法の罠に絡め取られ、全ての閥族派の人たちの憎しみの網に囚われて、遠からず訪れる罰に動揺しているにも関わらず、彼がよろよろと私の方にやって来て、とまどいながらも私に攻撃をしかけて来たら、私は自ら立ち上がって彼の攻撃を跳ね退けるでしょう。その時には、ミロー君も私のことを大目に見てくれるでしょうし、手助けもしてくれるでしょう。
velut hesterno die cum mihi stanti stans minaretur, voce tantum attigi(言及する、完) legum metum(脅威) et judici(裁判). Consedit(座る、完) ille: conticui(黙る). Diem dixisset(告訴する、過去完接), ut jecerat(口に出す、過去完直): fecissem ut ei statim tertius a praetore dies diceretur. Atque hoc sic(→) moderetur(抑制する、接) et cogitet, si contentus sit iis sceleribus quae commisit, esse se iam consecratum Miloni: si quod in me telum intenderit(完接), statim me esse arrepturum(<arripio つかむ) arma judiciorum atque legum.
ですから昨日は、立ち上がっている私に対して彼も立ちあがって脅してきた時には、私は法的手続きに出ると脅してやりました。それで彼は座ったのです。そこで私も口をつぐみました。もし彼が言ったように私を告発したなら、私はすぐさま法務官の二日後の召喚状を彼が受け取るようにしたでしょう。ですから、彼は自制すべきなのです。そして、彼がこれまで犯した悪事で満足するなら、私は彼のことをミロー君に委ねるが、もし武器を取って私を攻撃してくれば、すぐさま法的手続きという武器を取るだろうと、彼は考えるべきなのです。
[8] Atque paulo ante, patres conscripti, contionem(演説) habuit quae est ad me tota delata(知らせる); cuius contionis primum universum argumentum sententiamque audite(命); cum riseritis(完接) impudentiam hominis, tum a me de tota contione audietis(未).
8 そして、元老院議員の皆さん、彼はつい先程集会で演説していましたが、その内容は全て私に報告されています。皆さんはまずその全体の要旨と考え方をお聞きください。そしてあの男の図々しさをひとしきりお笑い頂きましょう。その後で、その演説の内容を全部お話しましょう。
V
De religionibus sacris et caerimoniis est contionatus(演説する), patres conscripti, Clodius: Publius, inquam, Clodius sacra et religiones neglegi violari pollui questus est! Non mirum si hoc vobis ridiculum(滑稽な) videtur: etiam sua contio(聴衆) risit hominem, quo modo(~のように) ipse gloriari solet(→confixum), ducentis(200の、多くの) confixum(打撃を受ける) senati consultis(中複), quae sunt omnia contra illum pro religionibus facta, hominemque eum qui pulvinaribus(神殿) Bonae deae stuprum intulerit, eaque sacra quae viri(属) oculis(複与) ne imprudentis(そうと知らずに、属) quidem aspici fas est, non solum aspectu virili(男の) sed flagitio stuproque violarit, in contione de religionibus neglectis conqueri(不平を言う).
第五章
元老院議員の皆さん、クローディウス君は神聖な宗教の儀式について演説したのです。そうです。あのプブリウス・クローディウス君が、神聖な宗教がないがしろにされ汚され冒涜されていると嘆いたのであります。これを滑稽だと皆さんが思っても不思議ではありません。彼の聴衆さえも笑いました。なにしろ彼はいつも自慢しているように宗教の仕来たりを乱したとして元老院から多くの非難決議を受けた男なのですから。おまけに彼は、ボナデア神の祭壇で無礼な振舞いをしたり、男にはうっかり見ることも許されない儀式を覗き見ただけでなく密通を働いて女神を冒涜した人間なのです。その彼が集会で宗教がなおざりにされていると嘆いたのです。
[9] Itaque nunc proxima contio eius exspectatur de pudicitia. Quid enim interest utrum ab altaribus(祭壇) religiosissimis fugatus(追い払う) de sacris et religionibus conqueratur, an ex sororum cubiculo egressus pudorem pudicitiamque defendat? Responsum haruspicum(複属) hoc recens de fremitu(轟音) in contione recitavit, in quo cum aliis multis scriptum etiam illud est, id quod audistis, LOCA SACRA ET RELIGIOSA PROFANA(汚れた) HABERI: in ea causa esse dixit domum meam a religiosissimo sacerdote, P. Clodio, consecratam.
9 この調子では次に彼は貞節について演説するのではないかと思われす。神聖な祭壇から追い払われた男が神聖な儀式について嘆いているのですから、妹の寝室から出て来た男が純潔と貞節を擁護しても不思議ではありません。その集会で彼は最近起きた轟音について占い師たちが出した今回の回答を朗読しました。その中には他の多くの事のほかに、皆さんが聞いた「聖別された場所が汚されたこと」が書かれています。そして、そこで問題になっているのはプブリウス・クローディウスという敬虔な神官によって聖別された私の家だと、彼は言ったのです。
[10] Gaudeo mihi de toto hoc ostento(兆し), quod haud scio an gravissimum multis his annis huic ordini nuntiatum sit, datam non modo justam sed etiam necessariam causam esse dicendi; reperietis enim ex hoc toto prodigio atque responso nos de istius scelere ac furore ac de impendentibus periculis maximis prope iam voce Jovis Optimi Maximi praemoneri(予め警告する).
10 この現象の全体について発言する正当かつ必然的な理由が与えられたことを私は喜んでいます。それは過去数年間で元老院に報告された恐らく最も深刻なものだからです。皆さんはこの現象の全容とそれに対する回答から、私たちがあの男の犯罪と狂気と、さらには大きな危険について、言わば最高神ユピテルの声で警告されていることを見出すでしょう。
[11] Sed primum expiabo(清める) religionem(禁忌) aedium mearum, si id facere vere ac sine cuiusquam dubitatione(=確実に) potero; sin scrupulus(疑念) tenuissimus residere alicui videbitur, non modo patienti sed etiam libenti(喜んで) animo portentis(与複) deorum immortalium religionique parebo.
11 しかし、その前にまず、私の家には宗教上の禁忌の疑いが全くないことをはっきりさせておきましょう。もしそれでどんな疑いも無くなるならいいのですが、もしまだ少しでも疑いが残ると言う人がいるのなら、私は辛抱強く、いやむしろ喜んで、不死なる神々の予兆と宗教の要請に従うつもりです。
VI
Sed quae tandem est in hac urbe tanta(←奪女) domus ab ista suspicione religionis tam vacua atque pura? Quamquam vestrae domus, patres conscripti, ceterorumque civium multo maxima ex parte sunt liberae religione, tamen una mea domus judiciis omnibus liberata in hac urbe sola est. Te enim appello, Lentule, et te, Philippe. Ex hoc haruspicum responso decrevit senatus ut de locis sacris religiosis ad hunc ordinem(=元老院) referretis(未完接、議題にする). Potestisne referre de mea domo, quae, ut dixi, sola in hac urbe omni religione omnibus judiciis liberata est?
第六章
しかしながら、一体この大きな町で私の家ほど禁忌の疑いから完璧に免れている家があるでしょうか。元老院議員の皆さん、皆さんの家もその他の市民の家も大抵の場合宗教の禁忌から免れていますが、この町の中で唯一つ私の家だけがあらゆる人々の判断によって宗教の禁忌を解かれているのです。レントゥルス(マルケッリヌス)君とフィリップス君(=二人はこの年の執政官)にお尋ねします。元老院はこの占い師の回答を受けて、「聖別された場所」を元老院の議題にすることを求める決議をしています。では、君たちは私の家を元老院の議題にすることが出来るのでしょうか。今言ったように、この町で私の家だけがあらゆる人々の判断によって宗教的禁忌を完全に解かれているというのに。
Quam primum inimicus ipse in illa tempestate ac nocte rei publicae, cum cetera scelera stilo illo impuro Sex. Cloeli ore tincto conscripsisset(法を書いた), ne una quidem attigit littera religionis; deinde eandem domum populus Romanus, cuius est summa potestas omnium rerum, comitiis centuriatis omnium aetatum ordinumque suffragiis eodem jure esse jussit quo fuisset; postea vos, patres conscripti, non quo dubia res esset, sed ut huic furiae, si diutius in hac urbe quam delere cuperet(未完接) maneret(未完接), vox interdiceretur(禁じる), decrevistis ut de mearum aedium religione ad pontificum collegium referretur.
第一に、私の政敵が共和国の嵐の夜に、汚らわしいセクティウス・クロエウスの口で濡らした鉄筆によって多くの悪事を法案にしたためた時、一言も私の家の禁忌には触れなかったのです。第二に、全ての事について最高の権限を持つローマの民衆がケントゥリア民会で、全世代と全階級が一致して、あの家は昔と同じ状態に戻すべしと命じたのです。その後、元老院議員の皆さん、あなた達は私の家の禁忌について神祇官団に諮問すべしと決議をしたのです。しかもそれは私の家に禁忌の疑いがあるからではなく、あの気の狂った男が自分で破壊しようとしたこの町にこれ以上留まったとしても、もう文句を言わせなようにするためだったのです。
[12] Quae tanta religio(禁忌) est qua non in nostris dubitationibus atque in maximis superstitionibus(迷信) unius P. Servili aut M. Luculli responso ac verbo liberemur? De sacris publicis, de ludis maximis, de deorum penatium Vestaeque matris caerimoniis, de illo ipso sacrificio(供儀) quod fit pro salute populi Romani, quod post Romam conditam huius unius casti(信心深い) tutoris(=クローディウス) religionum scelere violatum est, quod(→id) tres pontifices statuissent, id semper populo Romano, semper senatui, semper ipsis dis immortalibus satis sanctum, satis augustum, satis religiosum esse visum est.
12 私たちがどれほど深い迷信に囚われていても、プブリウス・セルウィリウス氏かマルクス・ルクルス氏(=前73年執政官、ルキウス・ルクルスの弟)ただ一人がひとこと言えばどんな強い宗教的禁忌も解けるのです。ローマの民衆も元老院も神々自身も、三人の神祇官の判断で充分に神聖で権威があるとずっと考えてきたのです。それは国の祭儀についてだけでなく、大きな見せ物についても、家の神についても、母なるウェスタの祭儀についても、ローマの民衆を守るために行われる供儀についても同じなのです。そして、この供儀をあの信心深い一人の宗教の保護者が犯罪によってローマ建国以来初めて汚したのです。
At vero meam domum P. Lentulus, consul et pontifex, P. Servilius, M. Lucullus, Q. Metellus, M'. Glabrio, M. Messalla, L. Lentulus, flamen Martialis, P. Galba, Q. Metellus Scipio, C. Fannius, M. Lepidus, L. Claudius rex sacrorum, M. Scaurus, M. Crassus, C. Curio, Sex. Caesar flamen Quirinalis, Q. Cornelius, P. Albinovanus, Q. Terentius, pontifices minores, causa cognita, duobus locis dicta, maxima frequentia amplissimorum ac sapientissimorum civium astante(立ち会い), omni religione una mente omnes liberaverunt.
ところが、私の家は次の神祇官団の方々が全員一致してあらゆる宗教的な禁忌を解いて下さったのです。
執政官で神祇官のプブリウス・レントゥルス(スピンテル)君、
プブリウス・セルウィリウス氏、
マルクス・ルクルス氏、
クィントゥス・メテッルス氏(クレティクス)、
マニウス・グラブリオ氏、
マルクス・メッサッラ君、
マルスの神官ルキウス・レントゥルス(ニゲル)君、
プブリウス・ガルバ君、
メテッルス・スキピオ君、
ガイウス・ファンニウス君、
マルクス・レピドス君、
神聖の王ルキウス・クラウディウス君、
マルクス・スカウルス(アエミリウス)君、
マルクス・クラッスス氏、
ガイウス・クリオ(スクリボニウス)氏、
クイリヌスの神官セクストゥス・カエサル(ユリウス)君、
副神祇官のクィントゥス・コルネリウス君と
プブリウス・アルビノバヌス君と
クィントゥス・テレンティウス君だったのです(※)。彼らは問題を知った後に二度にわたって話し合って、大勢の高名な市民たちの立ち会いのもとにそれを行ったのです(%)。
※13人の神祇官とマルスの神官と神聖の王とクイリヌスの神官と副神祇官3人。
%9月29日と30日日。
VII
[13] Nego umquam post sacra constituta, quorum eadem est antiquitas quae ipsius urbis(町と同じぐらい古い), ulla de re, ne de capite quidem virginum Vestalium, tam frequens collegium judicasse.
第七章
13 この国に宗教儀式が創設されて以来(それはローマ自体の歴史に匹敵する長い歴史をもっています)、どんな問題に関しても、ウェスタの処女に対する死罪の容疑についてさえも、神祇官団のこれほど多くの人たちが判断を下したことは一度もなかったのです。
Quamquam ad facinoris disquisitionem(審査) interest adesse quam plurimos: ita est enim interpretatio(判断) illa pontificum(複属), ut eidem(主複) potestatem habeant judicum(神祇官は陪審の力を持つ): religionis explanatio(判断) vel ab uno pontifice perito recte fieri potest, quod idem in judicio capitis durum atque iniquum est: tamen sic reperietis(未), frequentiores pontifices de mea domo quam umquam de caerimoniis virginum judicasse.
もっとも、犯罪事実の審査の場合には出来るだけ多くの人が出席することが重要です。というのは、神祇官たちの判断は陪審と同じ力があるからです。宗教的な禁忌の判断は、経験のある神祇官が一人いれば公平に行えますが、死罪の判断はそれでは乱暴で不公平になります。それに対して、私の家についてはヴェスタの儀式に関するどんな場合よりも多くの神祇官が判断を下したことが皆さんにはお分かりになるでしょう。
Postero die(翌日) frequentissimus senatus te consule designato, Lentule(=前56年の執政官), sententiae principe, P. Lentulo et Q. Metello consulibus(=前57の執政官) referentibus statuit, cum omnes pontifices qui erant huius ordinis adessent, cumque alii qui honoribus populi Romani antecedebant multa de collegi judicio verba fecissent, omnesque idem scribendo adessent(参加する), domum meam judicio pontificum religione liberatam videri.
その翌日、元老院が満員で開かれました。執政官のレントゥルス(スピンテル)君とメテッルス君(ネポス)がこの問題を元老院に提出すると、翌年の執政官であるレントゥルス(マルケッリヌス)君が真っ先に発言して、神祇官団の判断通りに私の家は宗教的な禁忌を解かれていると元老院は決議したのです。その場にはこの階級に属する全ての神祇官が出席していました。そして、ローマの民衆から信任された高位の多くの元老たちが神祇官団の先の判断について充分議論した後、全員が決議の署名に参加したのです。
[14] De hoc igitur loco sacro potissimum videntur haruspices dicere, qui locus solus ex privatis locis omnibus hoc praecipue juris habet, ut ab ipsis qui sacris praesunt sacer non esse judicatus sit?
14 それなのに、占い師たちが「聖別された場所」と言っているのは私の家だとどうして言えるでしょうか。私の家はあらゆる個人の家の中で唯一、まさに聖別された場所を管理する人たちによって聖別されていないと判断されるという特別な権利を与えられた場所なのです。
Verum(しかし) referte(投票に掛ける), quod ex senatus consulto(←11 decrevit) facere debetis. Aut vobis(=執政官) cognitio(調査) dabitur, qui primi de hac domo sententiam dixistis et eam religione omni liberastis, aut senatus ipse judicabit, qui uno illo solo antistite(庇護者) sacrorum dissentiente frequentissimus antea judicavit, aut,―id quod certe fiet,―ad pontifices reicietur(委ねる), quorum auctoritati fidei prudentiae maiores nostri sacra religionesque et privatas et publicas commendarunt(完).
しかし、君たち執政官は元老院決議(11節)で求められた通りに聖別された場所を元老院の議題にするといいでしょう。調査は君たちがすればいいでしょう。君たちは私の家について初めて意見を表明して、この家を宗教的な禁秘から解いた人たちですから。あるいは、元老院自身が決議を出してもいいのでしょう。元老院はこの件ですでに宗教の庇護者である一人を除く全員一致で決議を出してくれたのですから。あるいは、きっとそうなると思いますが、神祇官たちに諮問して下さっていいでしょう。我らの父祖たちは神祇官の権威と信頼と英知に公と個人の神聖な祭儀を委ねてきたのですから。
Quid ergo ii possunt aliud judicare ac judicaverunt? Multae sunt domus in hac urbe, patres conscripti, atque haud scio an paene cunctae jure optimo, sed tamen jure privato, jure hereditario, jure auctoritatis, jure mancipi(購入者), jure nexi(担保): nego esse ullam domum aliam privato (=iure) eodem quo quae optima lege(最高の条件を備えた家), publico vero omni praecipuo(特別な) et humano et divino jure munitam;
それで神祇官たちが一度下した判断とは異なる判断を下すことなどあり得るでしょうか。元老院議員の皆さん、この町には沢山の家がありますが、恐らく殆ど全ての家は最高の権利で守られているでしょう。しかしそれは、私的な権利、相続権、所有権、購入者の権利、担保の権利に過ぎません。私の家のように申し分のない私的な権利だけでなく、人と神に関する公的で特別な権利によって守られている家は他にはないのです。
[15] quae primum aedificatur ex auctoritate senatus pecunia publica, deinde contra vim nefariam huius gladiatoris tot senati consultis munita atque saepta est.
15 しかも私の家は、第一に元老院決議に従って公金で再建されているのであり、第二に、何度も出された元老院決議によってこの剣闘士の卑劣な暴力から守られているのです。
VIII
Primum negotium isdem magistratibus(=執政官) est datum anno superiore, ut curarent ut sine vi(暴力を受けずに) aedificare mihi liceret, quibus(←isdem) in maximis periculis universa res publica commendari solet; deinde, cum ille saxis et ignibus et ferro vastitatem meis sedibus intulisset(過去完接), decrevit senatus eos qui id fecissent lege de vi(暴行罪), quae est in eos qui universam rem publicam oppugnassent, teneri. Vobis vero referentibus, o post hominum memoriam fortissimi atque optimi consules! decrevit idem senatus frequentissimus (=eum) qui meam domum violasset contra rem publicam esse facturum.
第八章
そもそも、昨年私が暴力による妨害を受けずに家を再建できるように配慮するという任務が与えられたのは、共和国全体が大きな危険にさらされたときにいつもそれを守る任務が与えられるのと同じ政務官(=執政官)だったのです。次に、あの男が石と火と剣で私の家を破壊した時には、元老院はその犯人には共和国全体を攻撃する者に対する刑法が適用されると決議したのです。さらに、人類史上最も勇敢で最も優れた執政官たちである君たちの動議によって、元老院は私の家を破壊する者は国家に反逆する者であるという決議を圧倒的多数で採択したのです。
[16] Nego ullo de opere publico, de monumento, de templo tot senatus exstare consulta(中複) quot de mea domo, quam senatus unam post hanc urbem constitutam(=conditam) ex aerario(国庫) aedificandam, a pontificibus liberandam, a magistratibus defendendam, a judicibus puniendam(損害賠償する) putarit. P. Valerio pro maximis in rem publicam beneficiis data domus est in Velia publice, at mihi in Palatio restituta;
16 どんな公共の建造物も記念碑も神殿も、私の家ほど多くの元老院決議が出されたことはないのです。ローマ建国以来、国庫の金で再建され、神祇官たちによって禁忌を解かれ、政務官たちによって安全を守られ、裁判官たちによって損害を賠償されることを元老院が決めたのは私の家だけなのです。プブリウス・ウァレリウス(前509年執政官)は共和国に多大な貢献をしたとして、ウェリアの丘の家が国から与えられましたが、私はパラティヌスの丘の家が国によって再建されたのです。
illi locus, at mihi etiam parietes atque tectum; illi quam ipse privato jure tueretur(未完接), mihi quam publice magistratus omnes defenderent(未完接). Quae quidem ego si aut per me aut ab aliis haberem, non praedicarem apud vos, ne nimis gloriari viderer; sed quae sunt mihi data a vobis, cum ea attemptentur(攻撃される、現接) eius lingua cuius ante manu eversa(目、破壊された←ea) vos mihi et liberis meis manibus vestris reddidistis, non ego de meis sed de vestris factis loquor, nec vereor ne haec mea vestrorum beneficiorum praedicatio non grata potius quam adrogans videatur.
さらに、ウァレリウスには家の土地が与えられただけなのに、私にはさらに家まで与えられたのです。しかも、彼に与えられた家は彼が私法に基づいて自分で守ったのに対して、私に与えられた家は公法に基づいて政務官全員が守っているのです。もしこれらが私が自分の力で手に入れたり、皆さん以外の人から手入れたものなら、どうして皆さんの前で公言したりするでしょう。それでは自慢になってしまいます。そうではなくて、これらは皆さんから私に与えられたものであり、それが以前暴力で破壊された時には、皆さんが私と私の子供たちに手づから返して下さったものなのです。それがいま同じ人から言葉の攻撃にさらされているのです。つまり、私がいま話しているのは自分のした事ではなく皆さんがして下さった事なのです。したがって、皆さんのご尽力をこうして私が公言するのは感謝ではなく思い上がりだと思われるわけがないのであります。
[17] Quamquam si me tantis laboribus pro communi salute perfunctum(耐える、所) efferret(我を忘れさせる) aliquando ad gloriam(自慢) in refutandis maledictis hominum improborum animi quidam dolor(憤り), quis non ignosceret? Vidi enim hesterno die quendam murmurantem, quem aiebant negare ferri me posse, quia, cum ab hoc eodem impurissimo parricida rogarer(未完接受1) cuius essem civitatis, respondi, probantibus(称賛) et vobis et equitibus Romanis, eius esse quae carere me non potuisset.
17 しかしながら、私はこの国を救うためにあれほどの苦難を経験した人間です。その私が邪悪な人間の中傷をはねのけようとして、怒りの余りにたまたま自慢話をしたとしても、誰が大目に見ないでしょうか。ところが、私は昨日ぶつぶつ文句を言っている人がいるのに気付きました。その人は私のことを耐え難い男だと言ったそうであります。というのは、その汚れた反逆者が私にどこの国の人間かと尋ねた時、私は自分がなくてはならない国の人間だと答えて、皆さんと騎士階級の人たちの喝采を浴びたからだと言うのです。
Ille, ut opinor, ingemuit(うめく、不平を言う). Quid igitur responderem(未完接)? quaero ex eo ipso qui(誰が) ferre me non potest. Me civem esse Romanum? vix litterate respondissem. An tacuissem. Desertum negotium. Potest quisquam vir in rebus magnis cum invidia(悪意) versatus satis graviter(印象的に) inimici contumeliis(侮辱) sine sua laude(自分を褒める) respondere? At ipse non modo respondet quidquid potest, cum est lacessitus(挑発されて), sed etiam gaudet se ab amicis quid respondeat admoneri.
あの男はさぞ不満だったことでしょう。では私はどう答えるべきだったのでしょうか。私のことを耐え難い男だと言った人にお尋ねしましょう。私はローマ市民だと言うべきだったのでしょうか。そんな答えでは月並みすぎたでしょう。それとも私は黙っているべきだったのでしょうか。それでは務めを放棄したことになったでしょう。大切な問題で悪意にさらされている時に、自分自身を誉めることなしに胸にグサリと来るように敵の侮辱をやり返せる人がいるでしょうか。一方、あの男はというと、人から挑発されてもありきたりの答えをするだけでなく、答えを喜んで友人たちから教えてもらう始末です。
IX
[18] Sed quoniam mea causa expedita(解く) est, videamus nunc quid haruspices dicant. Ego enim fateor me et magnitudine ostenti et gravitate responsi et una atque constanti haruspicum voce vehementer esse commotum; neque is sum qui, si cui forte videor plus quam ceteri, qui aeque atque ego sunt occupati(多忙な), versari in studio litterarum, iis delecter aut utar omnino litteris quae nostros animos deterrent(遠ざける) atque avocant a religione.
第九章
18 さて、私の家には問題がないことが明らかになったと思うので、次は占い師たちが何を言っているかを見てみましょう。私は正直言ってこの怪奇現象の規模とそれに対する占い師たちの回答の深刻さ、さらには占い師たちの意見が全員一致していることに驚いているのです。私は多忙な人間のわりには読書好きに見えるとしても、人の気持ちを宗教から遠ざけるような書物(※)を好んで読むような人間ではありません。
※エピクロス哲学。自分は無神論者ではないと言っている。
Ego vero primum habeo auctores ac magistros religionum colendarum(尊重されるべき宗教の) maiores nostros: quorum mihi tanta fuisse sapientia videtur ut satis superque prudentes sint qui illorum prudentiam non dicam adsequi, sed quanta fuerit perspicere possint; qui statas(定着した) sollemnisque caerimonias pontificatu, rerum bene gerundarum auctoritates augurio, fatorum veteres praedictiones Apollinis vatum libris, portentorum expiationes Etruscorum disciplina contineri putaverunt;
第一に、我らの父祖たちは宗教を尊重することにおいて私の師であり先達であると思っております。私は父祖たちは非常に高い英知の持ち主だったと思っております。ですから、彼らの英知を自分のものには出来なくても、それがどれほど大きなものであったかを理解できる人は十二分な英知の持ち主だと思っています。そして、我らの父祖たちによれば、確立した宗教儀式のために神祇官がおり、良き行動の指針のために占い師がおり、運命に関する古代の神託のためにアポロンの予言者の書(=シビュラの予言書)があり、怪奇現象の浄めのためにエトルリア人の教えがあるのであります。
quae quidem tanta est ut nostra memoria primum Italici belli funesta illa principia(初まり), post Sullani Cinnanique temporis extremum(最悪の) paene discrimen, tum hanc recentem urbis inflammandae delendique imperi conjurationem non obscure nobis paulo ante praedixerint.
実際、エトルリア人の知識はたいしたもので、私が覚えている限りでは、先ずはイタリア戦争の不幸な始まりを、次にスラとキンナのいわば最終戦争を、さらに最近では町を焼き帝国を破壊しようとするついこの前の陰謀(=カティリナの陰謀)を明確に予言しました。
[19] Deinde, si quid habui oti, etiam cognovi multa homines doctos sapientisque(哲学者) et dixisse et scripta de deorum immortalium numine reliquisse; quae quamquam divinitus perscripta video, tamen eius modi sunt ut ea maiores nostri docuisse illos, non ab illis didicisse videantur. Etenim quis est tam vecors qui aut, cum suspexit in caelum, deos esse non sentiat, et ea quae tanta mente(知性) fiunt(創造), ut vix quisquam arte ulla ordinem rerum(現象) ac necessitudinem persequi possit, casu fieri putet, aut, cum deos esse intellexerit, non intellegat(接) eorum numine hoc tantum imperium esse natum et auctum et retentum?
19 第二に、また私は暇がある時に、哲学者たちが神の意思について多くを語り多くを書き残していることを知りました。それらは素晴らしい文章で書かれていますが、その内容は我らの父祖たちが彼らに教えたものであって、父祖たちが彼らから学んだとは思えないようなものなのです。実際、空を見上げた時に神が存在すると思わないような、そんな愚かな人がいるでしょうか。あれほどの知性による創造物を偶然の産物だと考えるような人がいるでしょうか。その規則正しい必然的な現象を何かの技術によって達成できるような人などいないのです。あるいは、神の存在を理解しているのに、これほど大きな帝国が生まれて成長して維持されているのは神の意思によるものであることを理解できないような人がいるでしょうか。
Quam volumus(=quamvis) licet(たとえ~でも), patres conscripti, ipsi nos amemus, tamen nec numero Hispanos(→superavimus) nec robore Gallos nec calliditate Poenos nec artibus Graecos nec denique hoc ipso huius gentis ac terrae domestico nativoque(生まれつきの) sensu Italos ipsos ac Latinos, sed pietate ac religione atque hac una sapientia, quod deorum numine omnia regi gubernarique perspeximus, omnis gentis nationesque superavimus.
元老院議員の皆さん、私たちの愛国心がどれほど大きくても、私たちはヒスパニア人には人口で、ガリア人には体力で、ずる賢さではカルタゴ人に、芸術ではギリシア人に、この土地と民族に特有の感覚ではイタリア人とラテン人に劣っているのです。しかし、私たちは、敬虔さと信仰心だけでなく、抜きん出た英知をもって、この世の全ては神の意思によって支配され管理されていることを知っているがゆえに、全ての民族に優っているのであります。
X
[20] Qua re, ne plura de re minime loquar dubia, adhibete animos, et mentes vestras, non solum aures, ad haruspicum vocem admovete(=adhibete): QUOD IN AGRO LATINIENSI AUDITUS EST STREPITUS(地鳴り) CUM FREMITU(轟音). Mitto haruspices, mitto illam veterem ab ipsis dis immortalibus, ut hominum fama est, Etruriae traditam disciplinam: nos nonne haruspices esse possumus? Exauditus in agro propinquo et suburbano(近郊の) est strepitus quidam reconditus(深遠な) et horribilis fremitus armorum.
第十章
20 ですから、疑いようのない事についての私の話はこの辺にして、皆さんは耳をそばだてて占い師の回答の言葉をよくお聞きください。「ラテンの田舎で大きな地鳴りと轟音が聞こえた」。占い師と、神々からエトルリアに伝えられた古い教えがなければ、この意味が私たちに分からないでしょうか。近郊の野原で訳の分からない大きな地鳴りと武器の恐ろしい轟音が聞こえたのです。
Quis est ex gigantibus illis, quos poetae ferunt bellum dis immortalibus intulisse, tam impius qui hoc(奪) tam novo tantoque motu non magnum aliquid deos(主) populo Romano praemonstrare et praecinere(予言する) fateatur? De ea re scriptum est: POSTILIONES(供犠の要求) ESSE JOVI(<Juppiter), SATURNO, NEPTUNO, TELLURI, DIS CAELESTIBUS.
巨人族は神々と戦いを起こしたと詩人たちは伝えていますが、いくら不敬な彼らもこの奇妙な大地の大きな変動は神々がローマの民衆に何か重要なことを予言している前兆だと言うでしょう。これについて占い師たちはこう書いています。「ユピテルとサトゥルヌスとネプトゥルヌスとテッルス神と天空の神々から浄めの供犠が求めれている」
[21] Audio quibus dis violatis expiatio debeatur, sed hominum quae ob delicta(違反) quaero(無いことに気付く). LUDOS MINUS DILIGENTER FACTOS POLLUTOSVE. Quos ludos? Te appello, Lentule,―tui sacerdoti(神官職、属) sunt tensae(神像を運ぶ車), curricula(競争), praecentio(前奏), ludi, libationes epulaeque ludorum,―vosque, pontifices, ad quos epulones(祭司団) Jovis Optimi Maximi, si quid est praetermissum aut commissum(違反), afferunt, quorum(=神祇官) de sententia illa eadem renovata(やり直す) atque instaurata(やり直す) celebrentur(儀式を行う、接). Qui sunt ludi minus diligenter facti, quando aut quo scelere polluti?
21 ここから私はどの神が冒涜されたから浄めの供犠が要求されているかは分かりますが、人間のどんな罪に対する浄めなのかはまだ分かりません。「見世物の進行に手落ちがあって汚された」。それはどの見世物のことでしょうか。レントゥルス(マルケッリヌス、現執政官)君、君にお尋ねします(神像を運ぶ車、競争、前奏、見世物、献酒、見世物の宴会は神官としての君の仕事でした)。そして神祇官の皆さん、もし何か手抜きや間違いがある場合には、最大最高の神ユピテルの祭司団が皆さんに知らせて、皆さんの意見によって見世物を全部やり直すことになっているので、あなた達にもお尋ねします。どの見世物の進行に手落ちがあったでしょうか。また、いつどんな汚れを受けたのでしょうか。
Respondebis et pro te et pro collegis tuis, etiam pro pontificum collegio, nihil cuiusquam aut neglegentia contemptum aut scelere esse pollutum: omnia sollemnia(宗教儀式) ac justa(正当な) ludorum omnibus rebus observatis, summa cum caerimonia(神聖さ) esse servata.
レントゥルス君、君は自分と自分の同僚と神祇官団のために「誰かの不注意による手落ちもないし、誰かの不正によって汚れされたこともない。 見せ物の宗教儀式は全てが規則に従って正当に最高の神聖さをもって執り行われた」と答えるでしょう。
XI
[22] Quos igitur haruspices ludos minus diligenter factos pollutosque esse dicunt? Eos quorum ipsi di immortales atque illa mater Idaea te,―te, Cn. Lentule, cuius abavi(高祖父) manibus esset accepta,―spectatorem(検査人) esse voluit. Quod ni(=si non) tu Megalesia(メガレシア祭) illo die spectare voluisses, haud scio an vivere nobis atque his de rebus iam queri non liceret. Vis enim innumerabilis incitata ex omnibus vicis(通り) collecta servorum ab hoc aedile religioso(=クローディウス) repente e fornicibus(凱旋門、アーケード) ostiisque(門) omnibus in scaenam signo dato immissa irrupit.
第十一章
22 では、進行に手落ちがあって汚されたと占い師たちが言っているのはどの見世物なのでしょうか。グナエウス・レントゥルス(マルケッリヌス)君、それは不死なる神々とイダ母神(この女神は君の高祖父の手で導入された女神です♯)の思し召しで、君が見物していた見世物なのです。もしあの日君がメガレシア祭(=イダ母神を祭る)を見物する気になっていなければ、私はいくら長生きしても次のような事件を告発できなかったでしょう。この敬虔な造営官(※)が町の通りから呼び集めた大量の奴隷が、合図と共に突然全ての門かあらステージになだれ込んで来たのです。
※クローディウスは前56年の造営官
♯コルネリウス・スキピオ・ナシカが前204年に導入した(リビウス39巻14章参照)。あとの大地母神と同じ。
Tua tum, tua, Cn. Lentule, eadem virtus fuit quae in privato quondam tuo proavo(曽祖父); te, nomen, imperium, vocem, aspectum, impetum tuum stans(立つ) senatus equitesque Romani et omnes boni sequebantur, cum ille(=クローディウス) servorum eludentium(あざける) multitudini senatum populumque Romanum vinctum(身動きが取れない) ipso consessu(聴衆) et constrictum spectaculis(見物席) atque impeditum turba(群衆) et angustiis tradidisset.
グナエウス・レントゥルス君、君がその時見せた勇気は無役の君の曾祖父(=スキピオ・ナシカ)が見せたのと同じものでした。満員の見物席で身動きが取れない元老たちとローマの民衆が群衆に遮られて隅で立ち往生しているところへ、あの男は奴隷たちの群を放って嘲笑させたのですが、その場にいた元老院とローマの騎士階級と全ての閥族派の人たちは立ち上がって、君と君の名前と君の命令と君の声と君のまなざしと君の勇気に倣ったのです。
[23] An si ludius(踊り手) constitit, aut tibicen repente conticuit, aut puer ille patrimus et matrimus si tensam non tenuit, si lorum(革紐) omisit, aut si aedilis verbo aut simpuvio(お神酒のひしゃく) aberravit(ミスをする), ludi sunt non rite facti, eaque errata expiantur, et mentes deorum immortalium ludorum instauratione placantur: si ludi ab laetitia ad metum traducti, si non intermissi sed perempti(だいなしにする) atque sublati sunt, si civitati universae, scelere eius qui ludos ad luctum conferre voluit, exstiterunt dies illi pro festis paene funesti, dubitabimus quos ille fremitus nuntiet ludos esse pollutos?
23 あるいは、もし躍り手が立ち止まったり、笛吹きが演奏を止めたり、父母が健在の奴隷が神像の車を制御できずに革紐を手から離したり、造営官が台詞を間違えたり杯を落としたりした場合なら、見世物がちゃんと行われなかったのだから、その過ちを償って見世物をやり直せば神々の御心はなだめられるのです。しかしながら、もし見世物が楽しみから恐怖に変わり、進行に粗相があったどころか全てが台無しにされて、楽しみを悲しみに変えようとしたあの男の犯行のせいで、国民の祭日が不吉な日になってしまったのなら、あの轟音が告げている汚された見世物とはどの見世物のことかは明らかではないでしょうか。
[24] Ac si volumus ea quae de quoque deo nobis tradita sunt recordari, hanc Matrem Magnam, cuius ludi violati, polluti, paene ad caedem et ad funus(葬儀、破滅) civitatis conversi sunt, hanc, inquam, accepimus(完) agros et nemora(森) cum quodam strepitu fremituque peragrare(さまよう).
24 そして、もし私たちがそれぞれの神についての伝承を思い出す気になれば、確か、この大いなる母神(※)が野山を地鳴りと轟音を伴ってさまようのは、自らの見世物が冒涜されたり汚されたりして、ほとんど殺戮と町の破壊と化した時だという伝承があるのです。
※マグナ・マテル、大地母神キュベレー。
XII
Haec igitur vobis, haec populo Romano et scelerum indicia ostendit et periculorum signa patefecit. Nam quid ego de illis ludis loquar quos in Palatio nostri maiores ante templum in ipso Matris Magnae conspectu Megalesibus(メガレシア祭) fieri celebrarique voluerunt? qui sunt more institutisque maxime casti, sollemnes, religiosi; quibus ludis primum(→locum) ante populi consessum senatui(与) locum(座席) P. Africanus iterum consul ille maior dedit, ut eos ludos haec lues(疫病神=クローディウス、女) impura pollueret(未完接)!
第十二章
つまり、この女神は犯罪が行われたことを皆さんとローマの民衆に示して、危機の予兆を明らかにしたのであります。そもそも、この見世物が大いなる母神の神殿に向かって女神の面前でメガレシア祭の日にパラティウムの丘で挙行されることは、我らの父祖たちが決めたことであります。こんなことは私が言うまでもありません。また、この見世物は慣習と制度によって特に厳粛で神聖なものとされているのです。さらに、二度目の執政官だったプブリウス・アフリカヌス(前194)いわゆる大アフリカヌスが、民衆の席の前の一列目に元老たちが座るように観客席を割り振ったのはこの神に対する見世物の時だったのです。そして、この見世物をあの不埒な疫病神が汚したのであります。
quo(その結果) si qui liber(自由人) aut spectandi aut etiam religionis causa accesserat, manus afferebantur(暴力を加える), quo matrona(既婚女性) nulla adiit(完直) propter vim(多数) consessumque servorum.
その結果、見物目的や信仰目的で参加した自由人は暴力にさらされることになったのであり、奴隷が大量に観客席に押し寄せたために既婚女性は誰も参加しなかったのであります。
Ita ludos eos, quorum religio tanta est ut ex ultimis terris arcessita in hac urbe consederit, qui uni(主複) ludi ne verbo(→Latino) quidem appellantur Latino, ut vocabulo(名前) ipso et appetita(求めた) religio externa(海外の) et Matris Magnae nomine suscepta(受け入れた) declaretur(明らかである)―hos ludos servi fecerunt, servi spectaverunt, tota denique hoc aedile(奪、この男が造営官の時に) servorum Megalesia fuerunt.
メガレシア祭は地の果てから招かれてこの町に定着した神聖な祭りです。この祭りの見世物はラテン語の名前で呼ばれることのないただ一つの見世物なのです。ですから、祭りの名前からもこの神が海外から招かれた神で、大いなる母神の名前でローマの神となったことは明らかなのです。その祭りの見世物を奴隷が行い奴隷が見物したのです。この男が造営官の時に、メガレシア祭はことごとく奴隷のものになってしまったのです。
[25] Pro di immortales! qui magis nobiscum loqui possetis, si essetis versareminique(<versor歩きまわる) nobiscum? Ludos esse pollutos significastis ac plane dicitis(現). Quid magis inquinatum(汚す), deformatum, perversum, conturbatum(乱す) dici potest quam omne servitium(中), permissu(許可) magistratus liberatum, in alteram scaenam immissum, alteri praepositum, ut alter consessus potestati(支配) servorum obiceretur(もたらす), alter servorum totus esset?
25 ああ、不死なる神々よ、もし汝ら我らの中に居ませば、我らに語りかけるに他の方法あらんや。汝ら見世物が汚されしことを明確に語りしなり。一人の政務官の許可により解き放たれたるなべての奴隷はこなたの舞台になだれ込みあなたの舞台を占領せり。その果てこなたの観客席は奴隷の支配下に置かれ、あなたの観客席は全てが奴隷の席となりおおせり。かくなるにまさりて汚れたること、恥ずべきこと、異常なること、混乱したることあると言えんや。
Si examen(群れ) apium(蜂) ludis in scaenam caveamve(観客席) venisset, haruspices acciendos(呼ぶ) ex Etruria putaremus(未完接): videmus universi repente examina tanta servorum immissa in populum Romanum saeptum atque inclusum, et non commovemur? Atque in apium fortasse examine nos(目) ex Etruscorum scriptis haruspices(主) ut a servitio caveremus(未完接) monerent(未完接).
もし蜂の大群が見世物の舞台と観客席にやって来たのなら、エトルリアの占い師を呼ぶべきだと私たちは思ったでしょう。私たちはローマの民衆が身動きが取れずに立ち往生しているところに奴隷の大群が突然なだれ込むのを皆で目にして、平気でいられるのでしょうか。しかも、蜂の大群だったなら、おそらく占い師たちはエトルリアの書物から、奴隷の蜂起を警戒すべきだと私たちに忠告したはずなのです。
[26]
Quod igitur ex aliquo disjuncto(異なる) diversoque(異なる) monstro(前兆) significatum(示された) caveremus(未完接), id cum ipsum sibi monstrum est, et cum in eo ipso periculum est ex quo periculum portenditur, non pertimescemus(未)? Istius modi Megalesia fecit pater tuus, istius modi patruus(父方の伯父)? Is mihi etiam generis(生まれ) sui mentionem facit, cum Athenionis(※) aut Spartaci exemplo ludos facere maluerit quam C. aut Appi Claudiorum(伯父と父)?
26 全く異なる形で示された前兆からも警戒すべきことがそのまま現実に起こって、それか危険な事であってそこからさらなる危険が予期される時に、私たちは平気でいられるのでしょうか。君の父親も君の伯父もメガレシア祭をあんな風に行ったのでしょうか。あの男はガイウス・クラウディウス(♯)とアッピウス・クラウディウス(♭)のようにではなく、アテニオー(※)とスパルタクス(%)の例にならって見世物を行おうとしておきながら、自分の生まれがどうのと私に言うのでしょうか。
♯前92年執政官、クローディウスの伯父。
♭前79年執政官、クローディウスの父。
※シシリアの奴隷の反乱(前103~101年)の指導者。
%イタリアの奴隷の反乱(前73~71年)の指導者。
Illi cum ludos facerent, servos de cavea(観客席) exire jubebant: tu in alteram servos immisisti, ex altera liberos ejecisti. Itaque qui(=奴隷) antea voce praeconis(触れ役) a liberis semovebantur(遠ざけられた), tuis ludis non voce sed manu liberos a se segregabant.
この二人は見世物を挙行する時には、奴隷は観客席から出て行くように命じました。ところが君はこちらの観客席には奴隷を送り込み、あちらの観客席からは自由人を追い出したのです。以前は触れ役の声で自由人から遠ざけられた奴隷たちが、君の見世物では声ではなく暴力によって自由人を遠ざけたのです。
XIII
Ne hoc quidem tibi in mentem veniebat, Sibyllino sacerdoti, haec sacra(目) maiores nostros ex vestris libris expetisse(得た), si illi(=シビュラの予言書) sunt vestri quos tu impia mente conquiris(求める), violatis oculis legis(読む<lego), contaminatis manibus attrectas(触れる)?
第十三章
クローディウス君、君はシビュラ(※)の神官ですが、もし君がシビュラの予言書を汚れた心で見つけて汚れた目で読んで汚れた手で持っているなら、我らの父祖たちはこの祭事をシビュラの予言書から探し出したものだということを君は学ばなかったのでしょうか。
※シビュラはアポロンの巫女、女予言者
[27] Hac igitur vate(予言者=シビュラ) suadente(勧める) quondam, defessa(疲弊した) Italia Punico bello atque ab Hannibale vexata, sacra ista nostri maiores ascita(取り入れた) ex Phrygia Romae collocarunt; quae vir is accepit qui est optimus populi Romani judicatus, P. Scipio, femina autem quae matronarum castissima putabatur, Quinta Claudia, cuius priscam illam severitatem mirifice tua soror existimatur imitata.
27 イタリアがポエニ戦争で疲弊してハンニバル(※)によって荒らされていた時に、我らの父祖たちはこの予言者のすすめでフルギア(=キュベレの聖地)からこの祭儀を取り入れてローマに定着させたのです(前204年)。この祭儀を導入したのはローマで最高の市民だと思われているプブリウス・スキピオ(前191年執政官)と、最も貞潔な婦人だと思われていたクインタ・クラウディアでした。君の妹(=クローディア)は彼女の古風な厳格さを見事に手本にしていると思われています。
※第二回ポエニ戦争(前218~201年)のカルタゴの将軍。
Nihil te igitur neque maiores tui conjuncti cum his religionibus, neque sacerdotium(祭司職) ipsum, quo est haec tota religio constituta, neque curulis aedilitas(造営官職), quae maxime hanc tueri religionem solet, permovit(促す) quo minus castissimos ludos omni flagitio pollueres, dedecore maculares(汚す), scelere obligares(責を負わせる).
君はこの行事に携わった祖先を持ち、この行事の全てを制定した祭司職に就いて、この行事をいつも非常に大切にする上級造営官だったにも関わらず、この神聖な見世物をあらゆる破廉恥かつ不名誉な行為で冒涜して、犯罪に巻き込んだのです。
[28] Sed quid ego id admiror? qui accepta pecunia(奪) Pessinuntem ipsum, sedem domiciliumque Matris deorum, vastaris(略奪する、完接), et Brogitaro Gallograeco, impuro homini ac nefario, cuius legati te tribuno dividere(分配する) in aede Castoris tuis operis(ゴロツキ) nummos(お金) solebant, totum illum locum fanumque vendideris, sacerdotem ab ipsis aris pulvinaribusque(台座) detraxeris(取り去る), omnia illa quae vetustas, quae Persae, quae Syri, quae reges omnes qui Europam Asiamque tenuerunt semper summa religione coluerunt, perverteris;
28 しかし、私はこんなことには驚きません。なぜなら、君は金をもらってこの神々の母神の座のあるペッシヌース(※)を略奪して、全ての土地と神殿を売り払った人なのですから。その相手は、君が護民官の時にはいつもカストール神殿で自分の召使いを使って君のゴロツキに金を配っていたガッログラエキ族(♯)の放埒で悪名高いブロギタロス(%)なのです。さらに君は この神の台座と祭壇から神官を引き剥がして、この神の儀式をことごとく破壊したのです。それはヨーロッパとアジアの王たちだけでなく、ぺルシア人とシリア人からも最高の畏怖をもって古来から長く育まれて来たものなのです。
※小アジア中央、フリギアの町ペッシヌス、キュベレの聖地。
♯ガリアギリシア族と読めるように、ガリアから来た小アジア・ガラティアの部族、ガラティア人。
%ガラティア国のデイオタルス王の婿。キケロ『セクスティウス弁護』26章参照。
quae denique nostri maiores tam sancta duxerunt ut, cum refertam urbem atque Italiam fanorum(神殿) haberemus, tamen nostri imperatores maximis et periculosissimis bellis huic deae vota(誓い) facerent, eaque(=vota) in ipso Pessinunte ad illam ipsam principem aram et in illo loco fanoque persolverent(果たす).
この儀式を我らの父祖たちも非常に神聖なものだと考えました。そのために、ローマとイタリアの至る所に神殿があるにも関わらず、我が国の将軍たちは、危険に満ちた大きな戦いの前にはこの女神に誓いを立てたのです。そして、まさにペッシヌースのその神殿の最も高い祭壇でその誓約を果たしたのです。
[29] Quod(=ペッシヌスの神殿) cum Deiotarus religione sua castissime tueretur, quem unum habemus in orbe terrarum fidelissimum huic imperio atque amantissimum nostri nominis(民族), Brogitaro, ut ante dixi, addictum(売りに出した) pecunia tradidisti. Atque hunc tamen Deiotarum saepe a senatu regali nomine dignum existimatum, clarissimorum imperatorum testimoniis ornatum, tu etiam regem appellari cum Brogitaro jubes.
29 ローマの支配に世界で最も忠実でローマ人に最も友好的なデイオタルスはこのペッシヌースの神殿を深く崇拝して守ってきた人なのです。ところが君はそれを先程言ったようにブロギタロスに売り払ってしまったのです。さらに、デイオタルスは元老院から王たるに相応しい人だと度々評価され、有名な将軍たちからも賛辞をもらっていた人でしたが、君は彼にブロギタロスとの共同統治を命じたのです。
Sed alter(=デイオタルス) est rex judicio senatus per nos, pecunia Brogitarus per te appellatus: . . . alterum putabo regem, si habuerit unde(手段) tibi solvat(返かす、接現) quod ei per syngrapham(支払いの約束) credidisti(貸す).
しかしながら、私たちがデイオタルスを王と呼ぶのは元老院の決議のためですが、君がブロギタロスを王と呼ぶのは金が絡んでいるからなのです。私はブロギタロスが手形によって君から借りたことになっている金を払えるようになるまでは王と呼ぶ気はありません。
Nam cum multa regia(王に相応しい) sunt in Deiotaro tum illa maxime, quod tibi nummum(お金) nullum dedit, quod eam partem legis tuae quae congruebat cum judicio senatus, ut ipse rex esset, non repudiavit(拒否する), Pessinuntem per scelus a te violatum et sacerdote sacrisque spoliatum recuperavit, ut in pristina religione servaret, quod caerimonias ab omni vetustate acceptas a Brogitaro pollui non sinit, mavultque(<malo) generum suum(主) munere(贈り物) tuo quam illud fanum antiquitate religionis carere(動).
というのは、デイオタルスは多くの事は措いても、次の点で立派な王と言えるのです。それは君には一銭も払っていないこと、君の法案の中で彼が王であるという元老院の決議と一致するところだけを尊重したこと、君の悪事によって破壊されて神官と聖物を奪われたペッシヌースの神殿を自分の手に取り戻して、昔の儀式を復活させたこと、昔から伝わった儀式がブロギタロスによって汚されるままにしなかったこと、あの神殿から伝統ある儀式が失われるべきではないと考えて、自分の婿から君の贈り物(※)を取り上げたことなのです。
※ペッシヌースの神官職。
Sed ut ad haec responsa redeam, ex quibus est primum de ludis, quis est qui id non totum in istius(=クローディウス) ludos praedictum et responsum esse fateatur?
ところで、占い師の回答に話を戻すと、その初めの部分は見世物に関するものですが(=21節)、皆さんはあの予兆とそれに対する回答の全てがクローディウスの見世物に向けられたものであることをお認めになったと思います。
XIV
[30] Sequitur(次は) de locis sacris, religiosis. O impudentiam miram! de mea domo dicere audes? Committe(委ねる) vel consulibus vel senatui vel collegio pontificum tuam(君の家を). Ac mea quidem his tribus omnibus judiciis, ut dixi antea, liberata est; at in iis aedibus quas tu, Q. Seio, equite Romano, viro optimo, per te apertissime interfecto, tenes, sacellum(礼拝堂) dico fuisse. Tabulis(記録) hoc censoriis, memoria multorum firmabo(証明する) ac docebo:
第十四章
30 次に来るのは聖別された場所についてです(=9節)。全く、君の厚かましさには驚きです。それが私の家のことだと君は言うのでしょうか。君の家について執政官か元老院か神祇官団に尋ねてみるといいのです。既に言ったように、私の家はこの三者の判断によって禁忌を解かれているのです。しかし、ローマの騎士階級に属するあの立派なセイウス氏を君が公然と殺害して手に入れた屋敷の中に礼拝堂があったのを私は知っています(前58年)。私はこれを監察官の記録と多くの人たちの記憶から証明して見せましょう。
Agatur(議題にすべき) modo haec res, quam ex eo senatus consulto quod nuper est factum referri ad nos necesse est, habeo quae de locis religiosis velim dicere(=habeo ..dicere構文「言うことがある」).
聖別された場所が議題とされるなら(最近出された元老院決議に従ってこれは私たちの議題にしなければなりません)、この事については私も一言言わせて頂きたいのです。
[31] Cum(→tum) de domo tua dixero(未来完), in qua tamen ita est inaedificatum(覆う) sacellum ut alius fecerit(完接), tibi tantum modo sit demoliendum, tum videbo num mihi necesse sit de aliis etiam aliquid dicere. Putant enim ad me non nulli pertinere(私の責任に属する) magmentarium(生贄の内蔵を祭る社) Telluris(大地母神) aperire(開く). Nuper id patuisse dicunt, et ego recordor. Nunc sanctissimam partem ac sedem maximae religionis privato dicunt vestibulo contineri(含まれている).
31 君の家には他人が作った礼拝堂があったのにまだ取り壊していないのです。私は君の家についてだけでなく、他の場所についても言うことがあります。大地母神(キュベレー)の神殿を人々のために開くのは私の仕事だと言う人がいるからです。それは最近まで戸外にあって万人に開かれていたと言われていて、それは私も覚えています。ところが、いま最大の宗教の最も神聖な神域が個人の玄関の中になっていると言われているのです。
Multa me movent: quod aedes Telluris est curationis(監督) meae, quod is qui illud magmentarium sustulit mea domo(与) pontificum judicio liberata secundum(~に有利に) fratrem suum judicatum(非人称+与、与える) esse dicebat; movet me etiam in hac caritate annonae(穀物の値段), sterilitate agrorum, inopia frugum religio Telluris, et eo magis quod eodem ostento Telluri postilio(供儀の要求) deberi dicitur.
多くの事があって私は黙ってはおれません。大地母神の神殿の管理は私の仕事です。その神殿を取り壊した人(※)は、私の家が神祇官の判断によって禁忌を解かれた時に、私の家は彼の弟のものだと言った人なのです。さらに穀物の値段が高騰して、田畑が不毛で、食糧不足に陥っている時に、大地母神の礼拝のことも気がかりなのです。あの予兆によって大地母神に対する浄めが必要と言われているから尚更です。
※クローディウスの兄アッピィウス(前97~49年、前58年法務官、前54年執政官)。
[32] Vetera fortasse loquimur; quamquam hoc si minus civili jure perscriptum est, lege tamen naturae, communi jure gentium sanctum est ut nihil mortales a dis immortalibus usu capere(使用取得) possint.
32 私は古い話を持ち出しているしれません。しかし、死すべき人間は不死なる神々のものを自分のものにできないというのは、市民法に規定されていなくても、自然法と万民法によって決められている事なのです。
XV
Verum tamen antiqua neglegimus: etiamne(疑問) ea neglegamus(接) quae fiunt cum maxime(ちょうど今), quae videmus?(今の話) L. Pisonem quis nescit his temporibus ipsis maximum et sanctissimum Dianae sacellum in Caeliculo(地名) sustulisse? Adsunt(出廷している) vicini eius loci; multi sunt etiam in hoc ordine qui sacrificia gentilicia(氏族の) illo ipso in sacello stato loco anniversaria factitarint(完接). Et quaerimus di immortales(主) quae loca desiderent(動、現接), quid significent(現接), de quo loquantur? A Sex. Serrano sanctissima sacella suffossa(くずす), inaedificata, oppressa, summa denique turpitudine foedata(けがす) esse nescimus?
第十五章
しかし、あまり昔の事はいいとしても、まさにいま行われている事、いま目の前で起きていることを私たちは放置していいのでしょうか。ルキウス・ピソー(※)がつい最近市内のカエリキュルス(=ローマの地名)のディアナ女神の神聖な大礼拝堂を取り壊したことは誰でも知っています。その場所の隣人がここに出席しています。氏族の供儀をまさにその礼拝堂の決まった場所で毎年行って来た元老たちも多いのです。これでも私たちは神々がどの場所のことに不満を言っているか、何を示しているか、何について言っているか分からないでしょうか。セクスティウス・セッラーヌス(%)によって多くの礼拝堂が傷つけられたり、閉じ込められたり、倒されたりして、醜く汚されたことを私たちは知らないでしょうか。
※前58年執政官、キケロ『ピソー弾劾』参照。
%前63年財務官、前57年護民官。『セスティウス弁護』にクローディウスに買収された人間として出てくる。
[33] Tu meam domum religiosam facere potuisti? Qua mente? quam amiseras(過去完). Qua manu? qua disturbaras(過去完). Qua voce? qua incendi jusseras. Qua lege? quam ne in illa quidem impunitate tua scripseras. Quo pulvinari(台座)? quod stupraras(冒涜する). Quo simulacro? quod ereptum ex meretricis sepulcro in imperatoris monumento collocaras.
33 君は私の家を聖別したと言いますが、君にそんなことが出来たでしょうか。君は心を捨ててしまった人なのです。君はその手で私の家を破壊したのです。君はその声で放火を命じたのです。君は何をしても罰を受けない時代にさえ、私の家の聖別を許す法律は書かなかったのです。君は聖台を冒涜した人なのです。君は娼婦の墓から彫像を盗んで来て将軍の記念碑の中に置いた人なのです。
Quid habet mea domus religiosi nisi quod (=domus主)impuri et sacrilegi(神聖冒涜な人の→) parietem tangit? Itaque ne quis meorum imprudens introspicere tuam domum possit ac te sacra illa tua facientem videre, tollam(上げる) etiam altius(より高く) tectum, non ut ego te despiciam, sed tu ne aspicias urbem eam(目隠しにするため) quam delere voluisti.
私の家に禁忌の疑いがあるとしたら、それは神を冒涜する人の家に壁を接していることだけでしょう。そのために、私は家族の誰かが屋根からうっかり君の家の中を覗いて君が自分の聖事にふけっているところを見ないように、家の屋根を高くしなければなりません。そうすれば、私は君の家を見下ろすことはなくなり、君も自分が破壊しようとしたローマが見えなくなるでしょう。
XVI
[34] Sed iam haruspicum reliqua responsa videamus. ORATORES(使節) CONTRA JUS FASQUE INTERFECTOS. Quid est hoc? De Alexandrinis esse video sermonem; quem ego non refuto. Sic enim sentio, jus legatorum, cum hominum praesidio munitum sit, tum etiam divino jure esse vallatum(守る).
第十六章
34 ところで次に占い師の回答の残りの部分を見てみましょう。「この世の掟と神の掟に反して使節が殺害された」。これはどういうことでしょう。アレキサンドリア人(※)についての話があるのは私も知っています。その話を私は否定しません。使節の権利は人間の法によって守られているだけでなく、神の法によっても守られていると私は思っています。
※アカデミア派の哲学者アレクサンドリアのディオン、キケロ『カエリウス弁護』24節参照。
Sed quaero ab illo qui omnes indices(密告者) tribunus e carcere(牢獄) in forum effudit(解き放つ), cuius arbitrio sicae(短刀) nunc omnes atque omnia venena tractantur, qui cum Hermarcho Chio syngraphas fecit, ecquid(いったい~か) sciat unum acerrimum adversarium Hermarchi, Theodosium, legatum ad senatum a civitate libera missum sica percussum? quod non minus quam de Alexandrinis indignum dis immortalibus esse visum certo scio.
しかし、私はあの男に聞きたいのです。彼は護民官の時に全ての密告者を牢獄から広場に解き放ち、あらゆる短刀と毒薬を使った事件を指図し、キオスのヘルマルコスに手形を書いた男です。その彼は自由国から元老院に送られた使節であるテオドシウスという人が刺殺されたことを何か知っているのではないかと。この人はヘルマルコスの仇敵だったのです。この事件を神々はアレキサンドリア人殺しと同じように
お怒りだと私は思うのです。
[35] Nec confero nunc in te unum omnia. Spes maior esset salutis, si praeter te nemo esset impurus; plures sunt; hoc(この事実に) et tu tibi confidis(自信を深める) magis et nos prope jure diffidimus(絶望する). Quis Platorem ex Orestide, quae pars Macedoniae libera est, hominem in illis locis clarum ac nobilem, legatum Thessalonicam(目的地) ad nostrum, ut se ipse appellavit, 'imperatorem' venisse nescit? quem ille propter pecuniam, quam ab eo extorquere non poterat, in vincla(牢獄) conjecit(投げ込む), et medicum(医者) intromisit(送り込む) suum qui legato socio amico libero foedissime et crudelissime venas(血管) incideret(切り開く).
35 いま私は全てを君一人のせいにするつもりはありません。不埒な人間が君だけなら私たちの未来は明るいでしょう。ところが不埒な人間は沢山います。ですから、君はますます自信を深めて、私たちは正義の実現に自信が持てないのです。マケドニアの自由都市オレスティスの高名な貴族プラトール氏が、テッサロニキにいた我が国の自称将軍(※)のところに使節として出向いたことは誰でも知っています。ところが、この将軍はこの人から金が取れないと分かると牢獄に放りこんで、自分の医者を送り込んで、自由で友好的なこの使節の血管を残酷にも裂かせたのです。
※ピソー、『ピソー弾劾』83節参照。
Secures (斧) suas cruentari(動) scelere noluit: nomen quidem populi Romani tanto scelere contaminavit ut id nulla re possit nisi ipsius supplicio expiari. Quales hunc(主) carnifices(死刑執行人、目) putamus habere(動), qui etiam medicis suis non ad salutem sed ad necem utatur?
この将軍は自分の斧を犯罪の血で汚したくなかったが、ローマ人の名前をひどい犯罪で汚してしまったのです。その結果、自ら罰を受けてその償いをする羽目になったのです。彼は自分の医師を治療ではなく人殺しに使う男ですから、彼の殺し屋はどんなにひどい人間でしょうか。
XVII
[36] Sed recitemus(接) quid sequitur(直). FIDEM JUSQUE JURANDUM NEGLECTUM. Hoc quid sit per se ipsum non facile interpretor, sed ex eo quod sequitur suspicor de tuorum judicum manifesto(明らかな) perjurio(偽証) dici, quibus olim erepti(没収する) essent nummi(=賄賂) nisi a senatu praesidium postulassent. Qua re(なぜ) autem de his dici suspicer haec(→) etiam causa est, quod sic statuo(考える), et illud in hac civitate esse maxime illustre atque insigne perjurium, et te ipsum tamen in perjuri crimen ab iis quibuscum conjurasti(完直2単) non vocari.
第十七章
36 では、占い師の回答の続きを読みましょう。「信義と誓いが無視された」。これが何のことかはそれだけで理解するのは私も難しいのですが、その続きを読むと君の陪審団が行った明らかな偽証のことを言っているのだと分かります。あの時彼らが元老院に護衛を要求していなかったら、もらった賄賂は強奪されていたことでしょう(※)。さらに私がこの陪審団を指していると思う理由は、この町ではあれほど明白な偽証はなかっただけでなく、買収した人たちから君自身は偽証の罪で訴えられることがなかったからです(%)。
※ボナ・デア裁判で当初クローディウスに不利な評決を出すと思われていた陪審員たちはクローディウス側からの攻撃を恐れて裁判所への行き帰りに護衛を要求したが、買収されてクローディウスに有利な評決を出したため、護衛の目的が変わったと皮肉っている(『アッティクス宛書簡集』16の5)。
%クローディウスが買収の誓いを守ったことで逆に陪審団の偽証は証明されたと言いたいらしい。
[37] Et video in haruspicum responsum haec esse subjuncta(付言する): SACRIFICIA VETUSTA OCCULTAQUE MINUS DILIGENTER FACTA POLLUTAQUE. Haruspices haec loquuntur an patrii penatesque di? Multi enim sunt, credo, in quos huius malefici suspicio cadat? Quis praeter hunc unum? Obscure dicitur quae sacra polluta sint? Quid planius, quid religiosius, quid gravius(印象的な) dici potest? VETUSTA OCCULTAQUE.
37 さらに占い師たちの回答には次の言葉が付言されています。「太古の神秘の供儀の執行に手落ちがあって汚された」。これは言っているのは占い師でしょうか、それとも先祖伝来の祖国と家の神々でしょうか。いずれにせよ、このような不正の疑いのある人が沢山いるでしょうか。そんな人がこの男以外にいるでしょうか。どの供儀が汚されたと言っているか明らかではないでしょうか。「太古の秘められた」という、これ以上に明白でこれ以上に神聖でこれ以上に分かりやすい言い方があるでしょうか(※)。
※ボナ・デア神の供儀を指す。
Nego ulla verba Lentulum, gravem oratorem ac disertum, saepius, cum te accusaret, usurpasse(使う) quam haec quae nunc ex Etruscis libris in te conversa(向ける) atque interpretata(適用する) dicuntur. Etenim quod sacrificium tam vetustum est quam hoc quod a regibus aequale huius urbis accepimus? quod autem tam occultum quam id quod non solum curiosos oculos excludit sed etiam errantis, quo non modo improbitas(あつかましさ) sed ne imprudentia(意図しないこと) quidem possit intrare?
これは今はエトルリアの書物から引かれた言葉ですが、雄弁で力強い弁論家であるレントゥルス君(※)が君を告発した時には、どんな言葉よりもこの言葉を頻繁に君に対して使ったのです。実際、王の時代から一貫して受け継がれて来たこの供儀ほど古い供儀があるでしょうか。悪意のある罪だけでなく無意識の罪も防ぐために好奇の目で見るだけでなくうっかり見ることも禁じられているこの供儀ほど秘められた供儀があるでしょうか。
※前49年に執政官になるレントゥルス・クルス。
quod quidem sacrificium nemo ante P. Clodium omni memoria violavit, nemo umquam adiit, nemo neglexit, nemo vir aspicere non horruit, quod fit per virgines Vestalis, fit pro populo Romano, fit in ea domo quae est in imperio, fit incredibili caerimonia, fit ei deae cuius ne nomen quidem viros scire fas est, quam iste idcirco Bonam dicit quod (=dea 主)in tanto sibi(自分に対する) scelere ignoverit(完接).
プブリウス・クローディウスがこの供儀を汚す前はそんなことをする人はローマの歴史上誰もいなかったのです。それどころか、男性でこの供儀に近付く人も、この供儀を軽んじる人も、この供儀を恐れもなく見る人もいなかったのです。この供儀は命令権を持つ人の家でウェスタの処女によってローマ市民のために行われる不思議な儀式なのです。男性はこの供儀の対象となる女神の名前を知ることは許されないのですが、あの男はその女神が神聖冒涜の罪を許してくれたと思ったので「ボナ(善い女神)」と呼んでいるのです。
XVIII
Non ignovit, mihi crede, non: nisi forte tibi esse ignotum putas, quod te judices emiserunt(自由にする) excussum(調べ尽くす) et exhaustum(枯渇させる), suo judicio absolutum, omnium(=judicio) condemnatum, aut quod oculos, ut opinio illius religionis est, non perdidisti.
第十八章
しかし、女神はけっして君の犯罪を許していないのです。君が許されたと考えるのは、誰もが有罪だと思った君を、陪審団が君の財布から一文残らず巻き上げて無罪放免にしたからでしょうか、それとも、その儀式について言われているのとは違って、君は視力を失わなかったからでしょうか。
[38] Quis enim ante te sacra illa vir sciens viderat(過去完), ut quisquam poenam quae sequeretur(動) id scelus(目) scire posset? An tibi luminis obesset(害になる) caecitas(盲目) plus quam libidinis? Ne id quidem sentis, coniventes(目を閉じる、自) illos oculos abavi(高祖父) tui magis optandos fuisse quam hos flagrantes sororis? Tibi vero, si diligenter attendes(人の話を聞く), intelleges(未) hominum poenas deesse adhuc, non deorum.
38 実際には君より前にわざとその供儀を見た人はいないのですから、その犯罪の報いとしてどんな罰を受けるか知っている人はいないのです。それとも、情欲で盲目になるよりその目が見えなくなる方が君には辛いのでしょうか。君の妹のぎらぎらした目よりも君の高祖父のしょぼついた目の方が優れていると君は思わないのでしょうか。しかし、君もよく考えたら、人々の下す罰は免れても神々の下す罰は免れていない事が分かるはずです。
Homines te in re foedissima defenderunt, homines turpissimum nocentissimumque laudarunt, homines prope confitentem(自白する) judicio liberaverunt, hominibus injuria tui stupri illata in ipsos dolori non fuit, homines tibi arma alii in me, alii post in illum invictum civem dederunt, hominum beneficia prorsus(すっかり) concedo tibi iam maiora non esse quaerenda:
確かに、人々はひどいことをした君を守りました。人々は恥ずべき行為をした君に推薦状を書きました。人々はほとんど罪を自供した君を無罪放免にしました。密通によって人を侮辱した君に人々は腹を立てませんでした。ある人々は私に向ける武力を君に与え、その後、ある人々は無敵の市民に向ける武力を君に与えました。これ以上ないほどの支援を人々は君に与えたのです。これは潔く私も認めましょう。
[39] A dis quidem immortalibus quae potest homini maior esse poena furore atque dementia? Nisi forte in tragoediis (=eos) quos vulnere ac dolore corporis cruciari et consumi vides, graviores deorum immortalium iras subire quam illos qui furentes inducuntur(登場) putas. Non sunt illi ejulatus(号泣) et gemitus Philoctetae tam miseri, quamquam sunt acerbi, quam illa exsultatio(歓喜) Athamantis et quam senium(悲しみ) matricidarum(母殺しの犯人).
39 一方、人間にとって神が与える狂気の罰より大きな罰があるでしょうか。それとも君は悲劇の登場人物で神々の激しい怒りを買っているのは肉体の負傷で苦しんでいる人であって、狂気に取り憑かれた人ではないと言うのでしょうか。フィロクテテスの苦しみに満ちた号泣がどれほど痛ましいものだとしても、アタマース(※)の歓喜と母殺し犯の苦悩(♯)ほど不幸ではないのです。
※狂気に憑かれて自分の息子を殺してしまう。
♯オレステス、アルクマエオン、母を殺して復讐の神に追われ狂気にとり憑かれる。
Tu cum furiales in contionibus voces mittis, cum domos civium evertis, cum lapidibus optimos viros foro pellis(追い出す), cum ardentes faces in vicinorum tecta iactas, cum aedes sacras inflammas, cum servos concitas, cum sacra ludosque conturbas, cum uxorem sororemque non discernis, cum quod ineas cubile(寝床、名詞) non sentis, tum baccharis(<bacchor), tum furis, tum das eas poenas quae solae sunt hominum sceleri a dis immortalibus constitutae.
君が集会で気違いじみた言葉を発する時、君が市民の家を壊す時、君が立派な人たちに石を投げて広場から追い出す時、君が燃え盛る松明を隣人の家に投げる時、君が神殿に火を点ける時、君が奴隷たちを狩り集める時、君が儀式と見世物を混乱に陥らせる時、君が妻と妹の区別が付かなくなる時、君がどの寝床に入ればいいか分からなくなる時、君は狂気に取り憑かれているのです。そして、人間の罪に対して神が定めた唯一つの罰を受けているのです。
Nam corporis quidem nostri infirmitas multos subit casus per se, denique ipsum corpus tenuissima de causa saepe conficitur: deorum tela in impiorum mentibus figuntur(突き刺す). Qua re miserior es cum in omnem fraudem(迷妄) raperis(受) oculis quam si omnino oculos non haberes.
なぜなら、私たちの肉体は弱いものでただでも多くの災難に出会うものですし、些細な原因で倒れてしまいます。一方、神の矢は不敬な人間の心に突き刺さるのです。ですから、君がたとえ視力を失ったとしても、それよりその目によってあらゆる迷妄に引き込まれる方が、君の不幸は大きいのです(※)。
※この一段はShackleton Baileyの英訳本から落ちている。
XIX
[40] Sed quoniam de iis omnibus quae haruspices commissa esse dicunt satis est dictum, videamus quid idem haruspices a dis iam immortalibus dicant moneri. Monent NE PER OPTIMATIUM(複属、貴族階級) DISCORDIAM DISSENSIONEMQUE PATRIBUS PRINCIPIBUSQUE CAEDES PERICULAQUE CREENTUR AUXILIOQUE DIVINITUS DEFICIANTUR, QUA RE AD UNIUS IMPERIUM RES REDEAT EXERCITUSQUE †APULSUS DEMINUTIOQUE ACCEDAT†.
第十九章
40 占い師たちが言及した様々な犯罪については以上で充分でしょう。次に、占い師たちが挙げている神々からの警告について見て行きましょう。「貴族階級の人々の不和と仲違いによって元老たちと指導者たちに殺人の危険がもたらされないようにせよ。そして、神からの保護を失わないようにせよ。その結果、国が一人の支配に陥らないようにせよ・・」
Haruspicum verba sunt haec omnia: nihil addo de meo. Quis igitur optimatium discordiam molitur(企てる)? Idem iste, nec ulla vi ingeni aut consili sui, sed quodam errore nostro; quem quidem ille, quod (=error) obscurus non erat, facile perspexit. Hoc(→quod) enim etiam turpius afflictatur res publica quod ne ab eo quidem vexatur, ut tamquam fortis in pugna vir acceptis a forti adversario(敵の) vulneribus adversis(正面の) honeste cadere(倒れる) videatur.
占い師の言葉はこれで全てです。私は一言も付け加えてはおりません。では、誰が貴族階級の不和を企んでいるのでしょうか。それはまさにあの男なのです。しかも、彼はそれを自分の才能と知恵によってではなく、私たちの過ちに乗じているのです。それは誰の目にも明らかなので彼は容易に気付きました。共和国はあの男と勇敢に真正面から戦って負傷して名誉ある倒れ形をしたとは思えないから、なおさらこの敗北は不名誉なことなのです。
[41] Ti. Gracchus convellit statum civitatis, qua gravitate vir, qua eloquentia, qua dignitate! Nihil ut a patris avique Africani praestabili insignique virtute, praeterquam quod a senatu desciverat(過去完), deflexisset. Secutus est C. Gracchus, quo ingenio, qua eloquentia, quanta vi, quanta gravitate dicendi! ut dolerent boni non illa tanta ornamenta ad meliorem mentem voluntatemque(目的) esse conversa.
41 ティベリウス・グラックスがこの国の政治体制を脅かした時、彼は何と力強く、何と雄弁で、何と威厳があったことでしょうか。彼は元老院から離反したことを除けば、父親と祖父アフリカヌスの並外れて優れた資質に背くようなことは一切なかったのです。あとに続いたガイウス・グラックスも、何と才気溢れ、何と雄弁で、何と力強く、何と説得力があったことでしょうか。閥族派の人たちは彼がそれだけの美質をもっと立派でもっと優れた目的のために向けなかったことを嘆いたものです。
Ipse Saturninus ita fuit effrenatus et paene demens ut actor esset egregius et ad animos imperitorum(無知な大衆) excitandos inflammandosque perfectus. Nam quid ego de Sulpicio loquar? Cuius tanta in dicendo gravitas, tanta jucunditas, tanta ubertas fuit, ut posset, vel ut prudentes errarent, vel ut boni minus bene sentiren, perficere dicendo. Cum his conflictari et pro salute patriae cotidie dimicare erat omnino illis qui tum rem publicam gubernabant molestum; sed habebat ea molestia quandam tamen dignitatem.
手に負えない荒くれ者だったサトゥルニーヌス(※)でさえも演説の名手で、無知な大衆の心を掻き立てて扇動するのが上手かったものです。スルピキウス(%)については何を言うべきでしょうか。彼の演説には説得力と楽しさと饒舌さがあったので、賢明な人たちを迷わせ、閥族派の人たちの判断を狂わせるほどの力がありました。当時国政を預かっていた人たちは国家の安全のためにこれらの人たちと毎日のように争っていたのです。それは彼らにとって悩みの種でしたが、それなりの遣り甲斐があったものです。
※前103、100年の護民官。
%スルピキウス・ルフス、前88年護民官。
XX
[42] Hic vero de quo ego ipse tam multa nunc dico, pro di immortales! quid est, quid valet, quid affert, ut tanta civitas, si cadet,―quod di omen(予兆) obruant(接)!―a viro tamen confecta videatur(接)? Qui post patris mortem primam illam aetatulam(幼年期) suam ad scurrarum(遊び人、属複) locupletium(属複) libidines detulit(委ねる), quorum intemperantia(淫乱) expleta(満足する) in domesticis(→stupris) est germanitatis(兄弟関係) stupris(密通) volutatus(没頭する);
第二十章
42 ああ、それに比べて私がこんなに沢山の言葉を費やしているこの男はどうでしょうか。彼は何者でしょうか、彼はどんな値打ちがあるのでしょうか、この大国が仮にも倒れるとするなら(そんなことになりませんように)、一人の男によって倒されたように見えてしまうようなどんな事を彼はしているのでしょうか。彼は父親の死後その若い体を裕福な遊び人たちの欲望に捧げて、彼らの情欲を満たしてやり、それが終わると兄弟との密通にふけったような男なのです。
deinde iam robustus provinciae se ac rei militari dedit, atque ibi piratarum contumelias perpessus(経験する) etiam Cilicum libidines barbarorumque satiavit(満足させる=敗北した?); post exercitu L. Luculli sollicitato(悩ます) per nefandum scelus fugit illim(=illinc), Romaeque recenti adventu suo cum propinquis(親族) suis decidit(示談にした) ne reos faceret(親族を訴えない引き換えに金をとった), a Catilina pecuniam accepit ut turpissime praevaricaretur(通帳した弁護人になる).
それから、成人してからは属州の軍隊に身を委ねたのですが、海賊からひどい目に遭ってキリキア人と野蛮人たちの欲望を満たすこととなったのです(前67年)。その後、とんでもない悪事を犯してルキウス・ルクルスの軍隊を困らせた後に、そこから脱走しました。ローマに帰るとさっそく自分の親族を訴えると脅して示談金をせしめたのです。さらに、カティリナからも金をもらって弁護人と共謀して告発人になったのです(※)。
※カティリナの弁護人キケロが告発人クローディウスと共謀したことが『アッティクス宛書簡集』11に出ている。
Inde cum Murena se in Galliam contulit, in qua provincia mortuorum testamenta conscripsit(=捏造), pupillos necavit, nefarias cum multis scelerum pactiones societatesque conflavit; unde ut rediit, quaestum(利益) illum maxime fecundum uberemque(豊かな) campestrem(選挙の) totum ad se ita redegit ut homo popularis fraudaret improbissime populum, idemque vir clemens divisores(賄賂の分配役) omnium tribuum domi ipse suae crudelissima morte mactaret(未完接、殺す).
それから、彼はムレーナ(※)に付いてガリアに行った時、その属州で死人の遺書を偽造し、相続人の少年を殺し、多くの犯罪者と取引きをして仲間を作ったのです。そこからまたローマに戻ると、民衆の味方であるはずの彼は卑劣にも民衆を欺いて、慈悲深くも全部族の賄賂の分配役の人間を自分の家で残虐なやり方で殺すことで、豊かな収入源である選挙の利益を独り占めにしたのです。
※前64~63年ガリア・ナルボネンシス(南東フランス)の総督だった。
[43] Exorta est illa rei publicae, sacris, religionibus, auctoritati vestrae, judiciis publicis funesta quaestura(財務官職), in qua idem iste deos hominesque, pudorem, pudicitiam, senatus auctoritatem, jus, fas, leges, judicia violavit. Atque hic ei gradus(前進)―o misera tempora stultasque nostras discordias!―P. Clodio gradus ad rem publicam hic primus fuit et aditus(接近) ad popularem jactationem(扇動) atque ascensus(階段).
43 それから彼は財務官(=63年)になったのです。それはこの国とこの国の祭儀とこの国の宗教と元老院の権威と、この国の裁判にとって不吉な出来事でした。財務官としてあの男は神々と人間と、人々の道徳感情を踏みにじり、元老院の権威と正義と神と人の掟と法廷を侮辱したのです。プブリウス・クローディウスはこの地位を国政への最初の足掛かりとして、デマゴーグへの道を登り始めたのですが、ああ、それはあの不幸な時代と私たちの内紛のお陰だったのです。
Nam Ti. Graccho invidia(悪評1) Numantini foederis(条約), cui feriendo(調印する), (=グラックスが)quaestor C. Mancini consulis cum esset, interfuerat(関わる), et in eo foedere improbando senatus severitas(2) dolori et timori fuit, eaque res illum fortem et clarum virum a gravitate patria desciscere coegit; C. autem Gracchum mors fraterna, pietas(家族愛), dolor, magnitudo animi ad expetendas(追及する) domestici sanguinis poenas(復讐) excitavit;
ティベリウス・グラックスの場合は、執政官ガイウス・マンキニウスの財務官として自身が調印に関わったヌマンティアとの条約が批判にさらされ、厳格な元老院によってその条約が否定されたことで、憎しみと不安に駆られたという事情がありました。その結果、この聡明で勇気ある人は父の歩んだ厳格な道から離れるしかなくなったのです。一方、ガイウス・グラックスは兄の死と家族愛と怒りと剛気な精神のために、一族の血の復讐へと駆り立てたてられたのです。
Saturninum, quod in annonae caritate quaestorem a sua frumentaria procuratione(管理) senatus amovit eique rei M. Scaurum praefecit, scimus dolore factum esse popularem(民衆派になった); Sulpicium ab optima causa profectum(<proficiscor) Gaioque Julio consulatum contra leges petenti resistentem longius quam voluit popularis aura(人気) provexit(高める).
サトゥルニーヌスは、穀物価格の高騰の時に元老院が財務官であった自分を穀物の管理の職から外して、その仕事をマルクス・スカウルス氏(※)に任せたために、恨みを抱いて民衆派になったことを私たちは知っています。スルピキウスは最初は立派な理由から出発しました。ガイウス・ユリウス(%)が法に違反して執政官選挙に出ることに反対したのです。しかし、彼は民衆の人気によって自分の望み以上に祭り上げられてしまったのです。
※マルクス・アエミリウス・スカウルス、前115年執政官。
%ガイウス・ユリウス・ウォピスク・ストラボー、前130頃~85年、法務官職を経ずに執政官選挙に出ようとした。
XXI
[44] Fuit in his omnibus causa etsi non justa,―nulla enim potest cuiquam male de re publica merendi(国に害をなす) justa esse causa,―gravis tamen et cum aliquo animi virilis dolore conjuncta: P. Clodius a crocota(サフラン色の衣裳), a mitra(頭飾り), a muliebribus soleis(サンダル) purpureisque fasceolis(帯), a strophio(胸衣ストマッカー), a psalterio(竪琴), a flagitio, a stupro est factus repente popularis.
第二十一章
44 これらの人たちの動機は正当なものではなかったのですが(国に害をなす人間には正当な動機などあり得ないからです)男らしい怒りと結びついた深刻なものがあったのです。それに対してクローディウスの動機は女が着るサフラン色の衣装と女が付ける頭飾りと女の履くサンダルと紫のガーターとブラジャーと竪琴と不品行と密通で、突如として民衆派になったのです。
Nisi eum mulieres exornatum(飾られた) ita deprendissent(捕まえる), nisi ex eo loco quo eum adire fas non fuerat ancillarum(女奴隷) beneficio(好意) emissus(逃がす) esset, populari homine populus Romanus, res publica cive tali careret(無しで済ます). Hanc ob amentiam in discordiis nostris, de quibus ipsis his prodigiis recentibus a dis immortalibus admonemur, arreptus(奪い取る) est unus ex patriciis cui tribuno plebis fieri [non] liceret(未完接).
もし着飾ったあの男を捕まえたのが女でなかったら、もしあの男が立入禁止の場所から女奴隷に助けられて逃げ出せていなかったら、ローマの民衆はこんな民衆派を持たずに済んでいたでしょう。また、この共和国はこんな市民を持たずに済んでいたでしょう。神々が最近の予兆によって警告した私たちの不和の最中に、あの男はあの気違いじみた行動(※)のために貴族階級から抜け出して護民官になることが許されたのです(%)。
※ボナ・デア神の供儀への侵入をさす。
%前59年に執政官カエサルの力で平民になり選挙に当選して前58年の護民官になった。
[45] Quod anno ante frater Metellus et concors(一致して) etiam tum senatus,(当時は全員一致して) principe Cn. Pompeio sententiam dicente, excluserat(過去完) acerrimeque(明白に) una voce ac mente restiterat, id post discidium optimatium(貴族), de quo ipso nunc monemur, ita perturbatum itaque permutatum est
45 この事はその前年(=前60年)に彼の兄のメテッルス(ケレル)君(※)とまだ分裂していなかった元老院が阻止したことであり、グナエウス・ポンペイウスが最初の発言者となって、全員が心を一つにして明確に反対したことなのです。それがいま占い師たちがまさに警告した貴族階級の間の不和が起こると、その後、混乱して流れが変わってしまったのです。
※前100頃~前59年、前63年法務官、前60年執政官、妻はクローディア(カトゥルスの詩のレスビアのモデル)。
ut quod frater consul ne fieret obstiterat(立ちはだかる), quod affinis et sodalis(親友) clarissimus vir, qui illum(=クローディウス) reum non laudarat, excluserat, id is consul efficeret in discordiis principum qui illi unus inimicissimus esse debuerat, eo fecisse auctore(=ポンペイウス) se diceret cuius auctoritatis neminem posset paenitere.
彼の兄が執政官の時に実現を阻み、彼の親類であり親友である有名な人(♯)(あの人は彼が被告となった裁判で推薦演説もしなかった)も反対していたことを、彼を誰より嫌っていたはずの一人の執政官(※)が指導者たちの不和に乗じて実現してしまったのであります。その執政官は誰もが進んで助言を仰ぐある人(%)の勧めに従ってそうしたまでだと言ったのです。
♯%ポンペイウス。
※前59年に執政官になったカエサルはクローディウスに自分の妻を寝取られたとされている。
Injecta fax est foeda(忌まわしい) ac luctuosa rei publicae; petita est auctoritas vestra, gravitas amplissimorum ordinum, consensio bonorum omnium, totus denique civitatis status(政体). Haec enim certe petebantur(←petita), cum in me cognitorem(見出した人) harum omnium rerum(←haec) illa flamma illorum temporum coniciebatur(向ける). Excepi et pro patria solus exarsi, sic tamen ut vos isdem ignibus circumsaepti me primum ictum(打つ) pro vobis et fumantem(煙る) videretis.
こうして忌まわしくも悲しむべき松明が共和国に対して投じられたのです。狙われたのは、皆さんの権威と最高階級の威厳と閥族派の結束であり、この国の政治体制でした。これら全ての守護者だった私に向かって当時の燃え盛る松明が投じられたということは、これらが攻撃目標となっていたということなのです。祖国のために私はこの松明を一人で受け止めて炎上したのです。しかしながら、私が最初に皆さんに代わって松明を受けて炎上するのを見ていた皆さんも、同じ炎に取り囲まれていたのす。
XXII
[46] Non sedabantur discordiae, sed etiam crescebat inter eos odium a quibus nos defendi putabamur. Ecce(見よ) isdem auctoribus, Pompeio principe, qui cupientem Italiam, flagitantes(しつこく要求する) vos, populum Romanum desiderantem(=結果) non auctoritate sua solum, sed etiam precibus ad meam salutem excitavit, restituti sumus.
第二十二章
46 貴族たちの不和は治まることはありませんでした。それどころか、私を守ると思われていた人たちの間の反目は深まるばかりでした。しかしご覧のように、その同じ人たちがポンペイウス氏を先頭にして立ち上がってくれたお陰で私は復活したのです。ポンペイウス氏は私を復帰させるためにその権威を行使するだけでなく懇願さえして、イタリア全土と皆さんとローマの民衆に働きかけてくれました。その結果、私の帰国をイタリア全土が求め、皆さんが執拗に要求し、ローマの民衆が熱望するようになったのです。
Sit discordiarum finis aliquando, a diuturnis dissensionibus conquiescamus(接). Non sinit eadem ista labes(女); eas habet contiones, ea(主女) miscet(混乱させる) ac turbat ut modo se his, modo vendat(自分を売り込む) illis, nec tamen ita ut se quisquam, si ab isto laudatus sit, laudatiorem putet(接), sed ut eos quos non amant ab eodem gaudeant vituperari.
私たちはそろそろ不和を終わらせるべきです。私たちは長年にわたる反目に終止符を打つべきなのです。しかし、あの疫病神はそれを許さないでしょう。彼は演説して扇動して混乱を引き起こして、ある時はこちらの党派にある時はあちらの党派に取り入ろうしているのです。しかも、それは相手を褒めて自尊心をくすぐるやり方ではなく、相手が嫌う人の悪口を言って喜ばせるやり方なのです。
Atque ego hunc non miror―quid enim faciat aliud?― illos homines sapientissimos gravissimosque miror, primum quod quemquam clarum hominem atque optime de re publica saepe meritum impurissimi voce hominis violari facile patiuntur, deinde si existimant perditi hominis profligatique(堕落した) maledictis posse, id quod minime conducit(役に立つ) ipsis, cuiusquam gloriam dignitatemque violari, postremo quod non sentiunt, id quod tamen mihi iam suspicari videntur, illius furentes ac volaticos(不意の) impetus in se ipsos posse converti.
私は彼のやり方には驚いていません。それはまさに彼がしそうなことだからです。しかし、私が驚いているのは賢明なはずのご立派な人たちの方なのです。なぜなら、第一に、彼らは国家にしばしば多大の貢献をしてきた高名な人物(=ポンペイウス)があの男の汚ない言葉で攻撃されているのを傍観しているからであり、第二に、彼ら自身には何の得にもならないのに、堕落した男の悪口によって誰かの名誉と威信が傷つけられると思っているからであり、最後に、これは彼らも今では気づいていると思いますが、彼の気違いじみた気紛れの攻撃が自分自身に向けられる可能性があることを分かっていないからす。
[47] Atque ex hac nimia non nullorum alienatione(離反) a quibusdam haerent ea tela in re publica quae, quam diu haerebant in uno me, graviter equidem sed aliquanto levius ferebam. An iste nisi primo se dedisset(~を味方につける) iis quorum animos a vestra auctoritate sejunctos esse arbitrabatur, nisi eos in caelum suis laudibus praeclarus auctor extolleret,
47 しかし、こうして人々の間に大きな亀裂が生まれることで、共和国に中にくさびが打ち込またのです。それが私一人に打ち込まれていた限りにおいては、私にとって深刻な打撃でしたが、今ほど深刻ではなかったのです。というのは、最初、彼は元老院の権威から離反していると見なした人々を味方に付け、その人たちをおだててうまく口車に乗せて舞い上がらせ、
nisi exercitum C. Caesaris―in quo fallebat(嘘を付いている), sed eum nemo redarguebat(異議を唱える)―nisi eum, inquam, exercitum signis infestis in curiam se immissurum(突進させる) minitaretur, nisi se Cn. Pompeio adjutore, M. Crasso auctore, quae faciebat facere clamaret, nisi consules causam conjunxisse secum, in quo uno non mentiebatur, confirmaret, tam crudelis mei, tam sceleratus rei publicae vexator(迫害者) esse potuisset?
カエサルの軍隊を(それは嘘でしたが、誰も否定しなかったのです)、カエサルの軍隊を反旗をひるがえして元老院に突進させると脅し、自分がすることはポンペイウス氏の助言とクラッスス氏のお墨付きを得ていると言い、執政官たちは自分と利害を共にしていると(これだけは嘘ではありませんでした)自信をもって言うに及んで、彼はあれほど残酷にあれほど卑劣に私と共和国を迫害することが出来たのです(※)。
※前58年5月のキケロ追放。
XXIII
[48] Idem postea quam respirare vos a metu caedis(殺害), emergere auctoritatem vestram e fluctibus(大波) illis servitutis, reviviscere memoriam ac desiderium mei vidit, vobis se coepit subito fallacissime(偽の) venditare; tum leges Julias(シーザーの法) contra auspicia latas et hic et in contionibus dicere, in quibus legibus inerat curiata illa lex quae totum eius tribunatum continebat(含む), quod caecus amentia(奪) non videbat.
第二十三章
48 しかしその後、彼は皆さんが虐殺の恐怖から立ち直って、元老院の権威を隷属の大波の中から取り戻して、私を懐かしみ私を呼び戻したいと思い始めたのを見ると、途端に猫かぶりをして皆さんに取り入ろうとし始めたのです。そして彼は「カエサルの法は占いに反して提案された」と、ここ元老院と民会で発言したのです。その法案の中には自分を護民官にする根拠となったクリア法(※)が含まれていたのですが、それは狂気のために盲目になっていた彼の眼中にはなかったのです。
※クローディウスを平民にする法
Producebat(未完) fortissimum virum, M. Bibulum; quaerebat ex eo, C. Caesare leges ferente de caelo semperne(~かどうか) servasset; semper se ille servasse dicebat. Augures interrogabat, quae ita lata essent rectene lata essent; illi vitio(不吉な) lata esse dicebant. Ferebant in oculis(愛する) hominem quidam boni viri et de me optime meriti, sed illius, ut ego arbitror, furoris ignari. Longius processit; in ipsum Cn. Pompeium, auctorem, ut praedicare est solitus, consiliorum suorum, invehi(非難する) coepit; inibat gratiam(人気を得る) a non nullis.
彼は勇敢なマルクス・ビブルスを呼び出して、「カエサルが法案を元老院に提案した時、あなたは天空をずっと観察していましたか」と質問したのです。すると、ビブルスは「ずっと観察していた」と答えました。するとあの男は「その間に提案された法案は正しく提案されたと言えますか」と卜占官に尋ねました。彼らは「それは正式に提案されたものとは言えない」と答えました。私のためにずいぶん尽力してくれた閥族派の人たちはこの男の狂気を知らなかったのか、この男をもてはやし始めたのです。あの男はそこでやめませんでした。なぜなら、あの男がいつも自分の政策の助言者だと公言していたポンペイウス氏を攻撃し始めたからです。そこでまた彼は支持者を獲得しました。
[49] Tum vero elatus est spe posse se, quoniam togatum(文民の) domestici belli exstinctorem(消す人) nefario scelere foedasset(退ける), illum etiam, illum externorum bellorum hostiumque victorem affligere(破滅させる); tum est illa in templo Castoris scelerata(→sica) et paene deletrix(破壊者) huius imperi sica(短刀) deprensa; tum ille cui nulla hostium diutius urbs umquam fuit clausa, qui omnes angustias(隘路), omnes altitudines moenium objectas(前に置かれた) semper vi ac virtute perfregit(突き破る), obsessus(<obsideo 包囲された) ipse est domi meque non nulla imperitorum vituperatione timiditatis meae consilio et facto suo liberavit.
49 そこで彼は内戦を鎮圧した文民を卑劣な犯罪によって退けたのだから、あの外敵との戦いに勝った人(♯)も倒せるかもしれないと思いました(※)。カストール神殿の中で呪われた短剣、この帝国を破滅させようとする短剣が見つかったのはその時のことです。敵のどんな町も短期に攻略し、どんな隘路もどんな高い城壁も武勇によっていつも突破してきたこの人の家が包囲されてしまったのです(%)。そこで彼は自分が意図した行動によって、無知な人たちから掛けられた臆病者という私の汚名を晴らしてくれたのです。
♯ポンペイウス
※前58年8月
%前58年の最後まで
Nam si Cn. Pompeio, viro uni omnium fortissimo quicumque nati sunt, miserum magis fuit quam turpe, quam diu ille tribunus plebis fuit, lucem non aspicere, carere publico, minas eius perferre(耐える), cum in contionibus diceret(未完接) velle se in Carinis aedificare alteram porticum, quae Palatio responderet, certe mihi exire domo mea ad privatum dolorem fuit luctuosum, ad rationem rei publicae gloriosum(誇らしい).
というのは、あの男が護民官でいる間は、誰よりも勇敢なポンペイウス氏が、外の光りを目にせず、公共の場所から姿を消したのです。あの男がパラティウムの丘の家に匹敵する回廊をカリーナエ地区(※)に建てる積もりだと集会で言った時も、その脅しに耐えたのです。もしそれが悲しむべきことであってもを恥ずべきことでなかったのなら、私が自分の家を出たことは、個人としては耐えがたい苦痛でしたが、共和国のためには誇らしいことだったとなるからです。
※ポンペイウスの家がある。
XXIV
[50] Videtis igitur hominem per se ipsum iam pridem afflictum ac jacentem perniciosis optimatium discordiis excitari, cuius initia furoris dissensionibus(意見の相違) eorum qui tum a vobis sejuncti videbantur sustentata sunt. Reliqua(残り) iam praecipitantis(没落する) tribunatus etiam post tribunatum obtrectatores(けなす人) eorum atque adversarii(敵) defenderunt; ne a re publica rei publicae pestis removeretur restiterunt(反対する), etiam ne causam diceret(自分を弁護する), etiam ne privatus(無役) esset.
第二十四章
50 とっくに力を失って本人としては元気がなかったあの男が(♯)頭をもたげたのは、貴族階級の致命的ないがみ合いのおかげだったということが、皆さんはもうお分かりでしょう。実際、彼が馬鹿げた考えを持ち始めたきっかけは、その頃皆さんから袂を分かったと思われていた人々(※)の間の意見の相違だったのです。彼が護民官として力を失っていた残りの時期と護民官を辞めた後、この三人をライバルや政敵たちは彼を支援したのです。そのためにこの国賊は共和国から追放されたり被告席に立たされるどころか、役職にもありつけたのです。
♯護民官だった前58年の終盤。
※三頭政治家たちを指す。
%前56年に造営官になっている。
Etiamne in sinu atque in deliciis quidam optimi viri viperam(マムシ) illam venenatam ac pestiferam habere potuerunt? quo tandem decepti munere? 'Volo,' inquiunt, 'esse qui in contione detrahat(傷つける) de Pompeio.' Detrahat ille vituperando? Velim sic hoc vir summus atque optime de mea salute meritus accipiat ut a me dicitur; dicam quidem certe quod sentio. Mihi me dius fidius tum de illius amplissima dignitate detrahere cum illum maximis laudibus efferebat(持ち上げる) videbatur.
実際、あんな毒蛇を懐に入れて飼い馴らせるようなすごい人がいたでしょうか。その人たちは何の得があると思ったのでしょうか。「ポンペイウスのことを演壇でやりこめる人間が居て欲しいのだ」と言うかも知れません。しかしながら、あの男は彼を中傷することで彼をやりこめたことになっているのでしょうか。ここにいる私の帰国の恩人であり徳にあふれた人には、私の言うことをそのまま受け取って欲しいのです。私は正直に言いましょう。いいですか、私はあの男が最高の賛辞で彼を持ち上げていた時こそ、彼の最高の名声を傷つけていたと思っているのです。
[51] Utrum tandem C. Marius splendidior(輝いて) cum eum C. Glaucia(=政敵) laudabat, an cum eundem iratus postea vituperabat? An ille demens et iam pridem ad poenam exitiumque praeceps foedior(恥ずべき) aut inquinatior(汚れた) in Cn. Pompeio accusando quam in universo senatu vituperando fuit? quod quidem miror, cum alterum gratum sit iratis, alterum esse tam bonis civibus non acerbum.
51 一体全体、マリウスの名声はグラウキアが褒めていた時と、後に腹立たしくけなしていた時と、どちらが輝いていたでしょうか。あの気の狂った男は報復されて破滅する日へ突き進んでいた時にポンペイウス氏を中傷し始めましたが、その時の言葉遣いの卑劣さ口汚さは元老院の全員を中傷していた時と同じものなのです。ところが不思議なことに、ポンペイウス氏に腹を立てていたあの立派な人たちが彼に対する中傷を歓迎した時には、元老院に対する中傷は耳障りではなくなっていたのです。
Sed ne id viros optimos diutius delectet, legant hanc eius contionem de qua loquor; in qua Pompeium ornat,―an potius deformat? certe laudat, et unum esse in hac civitate dignum huius imperi gloria dicit, et significat se illi esse amicissimum et reconciliationem(回復) esse gratiae(好意の) factam.
しかし、私が今から話す彼の演説を読むなら、閥族派の人たちはもうそんなことを喜んではいられないでしょう。彼はそこではポンペイウス氏を褒めているのです。あるいはそれを中傷と呼ぶべきでしょうか。とにかく、彼は氏を褒めているのです。ポンペイウス氏はこの国でこの帝国の名誉に唯一人ふさわしい人だと言い、彼は自分の親友で既に彼とは仲直りしたと言っているのです。
[52] Quod ego quamquam quid sit nescio, tamen hoc statuo, hunc, si amicus esset Pompeio, laudaturum illum non fuisse. Quid enim, si illi inimicissimus esset, amplius ad eius laudem minuendam facere potuisset? Videant ii qui illum Pompeio inimicum esse gaudebant, ob eamque causam in tot tantisque sceleribus conivebant, et non numquam eius indomitos atque effrenatos furores plausu etiam suo prosequebantur(賛える), quam se cito inverterit. Nunc enim iam laudat illum: in eos invehitur quibus se antea venditabat. Quid existimatis eum, si reditus ei gratiae patuerit, esse facturum, qui tam libenter in opinionem gratiae irrepat(入り込む)?
52 私はこれがどういうことか分かりませんが、一つだけは確かだと思います。それは、もしあの男がポンペイウス氏の親友なら彼を褒めたりしないと言うことです。なぜなら、もし彼がポンペイウス氏に敵意を抱いていたとすれば、ポンペイウス氏の評価を下げるにはこれ以上の方法はないからです。彼がポンペイウス氏に敵対していることを面白がっていた人たちは、この男の多くの悪事に目をつぶって、この男の抑制の効かない気違い沙汰に拍手を送ってきましたが、彼の変わり身の早さに気を付けた方がいいでしょう。いま彼はポンペイウス氏を褒めて、その一方で、かつて自分が取り入ろうとした人たちをけなしているのです。自分がポンペイウス氏と仲直りしたという噂を何とか作り出そうとしている彼が実際にポンペイウス氏の好意が取り戻すことが出来たら、彼が次に何をするか皆さんにはお分かりでしょうか。
XXV
[53] Quas ego alias(形) optimatium discordias a dis immortalibus definiri(指定する) putem? nam hoc quidem verbo neque P. Clodius neque quisquam de gregalibus(仲間) eius aut de consiliariis(助言者) designatur. Habent Etrusci libri certa nomina quae in id genus civium cadere possint: Deteriores, repulsos, quod iam audietis(未), hos appellant quorum et mentes et res sunt perditae longeque a communi salute dijunctae.
第二十五章
53 神々が言う「貴族階級の人々の不和」とはこれ以外の何を指しているでしょうか。この言葉が指しているのはプブリウス・クローディウスでも彼の仲間や助言者でもないのです。エトルリアの書物の中ではこの種の人間に対してはちゃんとした名前が付いているのです。皆さんは既にお聞き及びでしょうが、それは「落ちこぼれ」「除け者」というもので、身も心も堕落して平穏な社会から切り離された人々のことをそう呼んでいるのです。
Qua re cum di immortales monent de optimatium discordia, de clarissimorum et optime meritorum civium dissensione praedicunt; cum principibus periculum caedemque portendunt, in tuto(安全地帯) collocant Clodium, qui tantum abest a principibus quantum a puris, quantum ab religiosis.
つまり、神々が貴族階級の人々の不和について警告した時、それはこの町の最も高名な人たちの仲違い、この町の功労者たちの内紛について言っているのです。神々が指導者たちに殺人の危険を予兆で示した時、クローディウスだけは安全だと言っているのです。なぜなら、彼は貞潔さや敬虔さから程遠いように、指導者からは程遠い人だからです。
[54] Vobis, o clarissimi atque optimi cives, et vestrae saluti consulendum et prospiciendum(用心する) vident. Caedes principum ostenditur; id quod interitum optimatium sequi necesse est adjungitur(付け加える); ne in unius imperium res recidat admonemur. Ad quem metum si deorum monitis(警告<monita) non duceremur(未完接), tamen ipsi nostro sensu conjecturaque raperemur(急ぐ、未完); neque enim ullus alius discordiarum solet esse exitus inter claros et potentis viros nisi aut universus interitus aut victoris dominatus ac regnum.
54 高名かつ賢明なる皆さん、神々は皆さんに対して身の安全に充分注意すべきだと言っているのです。予兆によって指導者たちの殺害が示されているのです。そして、貴族たちが殺害されたあとに必然的に何が起こるかが、その後に示されています。つまり、国が一人の支配に陥ることが警告されているのです。もし神々の警告によって私たちがこの危険性を教えられなかったとしても、私たち自身の判断と推測によってこの恐れに行き着いていたことでしょう。高名な有力者たちの仲違いの結末は、全員が滅んでしまうか、勝者による独裁以外にはないのす。
Dissensit(完) cum C.Mario, clarissimo civi, consul nobilissimus et fortissimus, L. Sulla; horum uterque(両者とも) ita cecidit victus ut victor idem regnaverit. Cum Octavio collega Cinna dissedit; utrique horum secunda fortuna regnum est largita(与える), adversa mortem. Idem iterum Sulla superavit; tum sine dubio habuit regalem potestatem, quamquam rem publicam reciperarat.
高貴な生まれの勇敢な執政官スラは高名な市民ガイウス・マリウスと反目していました。この二人は両者ともに一度は敗れて没落し、その後両者はともに勝って独裁者となったのです。キンナはその同僚のオクタウィウス(=前87年執政官)と反目しました。二人はともに幸運に恵まれて独裁者になり、運に見放されて死んだのです。スラは二度も勝者となりました。その時彼は共和制を復活させましたが、疑いもなく独裁者となったのです。
[55] Inest hoc tempore haud obscurum odium, atque id insitum penitus et inustum(焼きつく) animis hominum amplissimorum; dissident principes; captatur occasio(主). Qui non tantum opibus valent nescio quam fortunam tamen ac tempus exspectant: qui sine controversia plus possunt, ii fortasse non numquam consilia ac sententias inimicorum suorum extimescunt. Tollatur(接) haec e civitate discordia: jam omnes isti qui portenduntur metus(主複) exstinguentur(未), jam ista serpens, quae tum hic delitiscit(身を潜める) tum se emergit et fertur illuc, compressa atque illisa(打ち砕く) morietur.
55 いま有力者たちの心に敵意があるのは明らかです。憎しみは彼らの心に深く染み付いて焦がしているのです。リーダーたちは反目してチャンスをうかがっているのです。劣勢にある者たちは何かの偶発事件が起こって状況が変わるのを待っており、疑いもなく優勢な者たちも敵方の発言や計画を恐れています。こんないがみ合いはこの国から根絶せねばなりません。そうすれば、予兆で示されている全ての恐れはすぐに消えて無くなるでしょう。そして、ある時はあちらへある時はこちらへと棲家を変えるあの蛇も、打ち砕かれて息絶えることでしょう。
XXVI
Monent autem(さらに) eidem(=di) NE OCCULTIS CONSILIIS RES PUBLICA LAEDATUR. Quae sunt occultiora quam eius qui in contione ausus est dicere justitium(裁判停止) edici(布告する) oportere, juris dictionem(裁判) intermitti, claudi aerarium, judicia tolli? Nisi forte existimatis hanc tantam colluvionem(混乱) illi(与) tantamque eversionem civitatis in mentem subito in rostris cogitanti venire(思いつく) potuisse.
第二十六章
さらに神々は警告しています。「秘められた計画によって共和国が損なわれてはならない」と。あの男の計画ほどに秘められたものがあるでしょうか。あの男は演壇で裁判の停止と司法の中止と国庫の閉鎖と法廷の廃止を布告すべしと大胆にも言ってのけたのです。国家をこんな大混乱に陥らせることを、あの男が突然演壇で思い付いたと皆さんはお考えでしょうか。
Est quidem ille plenus vini stupri somni, plenusque inconsideratissimae ac dementissimae temeritatis; verum tamen nocturnis vigiliis, etiam coitione(共謀) hominum, justitium illud concoctum(考えだす) atque meditatum est. Mementote, patres conscripti, verbo illo nefario temptatas(試された) aures nostras et perniciosam(破滅的な) viam audiendi consuetudine esse munitam(道を開く).
確かに彼はいつも酒と放蕩に浸ってうつらうつらしている男です。確かに彼は実に無思慮で非常識極まる男です。しかしながら、あの裁判の停止は夜警の間に仲間と一緒に思案を巡らして考え出したことなのです。元老院議員の皆さん、思い出して下さい。彼はそんな恐ろしい言葉で私たちの耳を試していたのです。そうして私たちの耳を慣らすことで、破滅への道を用意していたのです。
[56] Sequitur illud, NE DETERIORIBUS REPULSISQUE HONOS AUGEATUR(与える). Repulsos videamus, nam deteriores qui sint, post docebo. Sed tamen in eum cadere hoc verbum maxime qui sit unus omnium mortalium sine ulla dubitatione deterrimus, concedendum est. Qui sunt igitur repulsi(排除された)? Non, ut opinor, ii qui aliquando honorem vitio civitatis, non suo, non sunt adsecuti;
56 次へ行きましょう。「落ちこぼれたちと除け者たちに官位を与えてはならない」。落ちこぼれとは誰かは後で教えるとして(もっとも、誰にも増して疑いなく最低の一人の人間がこの言葉に当てはまることは誰もが認めるでしょう)、除け者たちについて見てみましょう。それはどんな人のことでしょうか。それは本人の欠点のせいではなく社会の欠陥のために当選できなかった人のことではありません。
nam id quidem multis saepe optimis civibus atque honestissimis viris accidit. Repulsi sunt ii quos ad omnia progredientes(どんなことでもする人), quos munera contra leges gladiatoria parantes, quos apertissime largientes(賄賂を使う人) non solum alieni sed etiam sui, vicini, tribules(同部族の人), urbani, rustici reppulerunt:
というのは、こういう事は立派な人たちにもよくあることだからです。除け者とは、法に反して剣闘士の見世物をしたり公然と賄賂をくばったりあらゆる手段を講じたのに、他人の票だけでなく親族も隣人も同族の票も都会の票も田舎の票も得られず落選した人のことなのです。
hi ne honore augeantur monent. Debet esse gratum(ありがたい) quod praedicunt(伝える), sed tamen huic malo populus Romanus ipse nullo haruspicum admonitu sua sponte prospexit(警戒する).
そんな人を官職に就けてはいけないと警告しているのです。占い師の警告は感謝すべきですが、ローマの民衆はそんな警告がなくても自発的にこんな不幸な事態は避けてきたのです。
[57] DETERIORES CAVETE; quorum quidem est magna natio(やから), sed tamen eorum omnium hic dux est atque princeps; etenim si unum hominem deterrimum poeta praestanti aliquis ingenio fictis conquisitisque(選り抜きの) vitiis deformatum vellet inducere(導入する), nullum profecto dedecus reperire posset quod in hoc non inesset, multaque in eo penitus defixa atque haerentia praeteriret(未完接).
57 「落ちこぼれたちを警戒せよ」。この手のやからは沢山います。ところが、この男こそ彼ら全員のリーダーでありボスなのです。実際、卓越した才能ある劇作家が極め付きの悪徳を持っている悪人を舞台に登場させようとして色んな悪徳を考え出しても、この男は全部すでに持っているし、それ以外にも劇作家が思い付かないような多くの悪徳を隠し持っているのです。
XXVII
Parentibus et dis immortalibus et patriae nos primum natura conciliat(結びつける); eodem enim tempore et suscipimur in lucem et hoc caelesti(天の) spiritu augemur(成長する) et certam in sedem civitatis ac libertatis adscribimur. Iste paternum nomen, sacra, memoriam, gentem Fonteiano nomine obruit(隠す、無効にする、完); deorum ignis, solia(玉座), mensas(祭壇), abditos(隠された) ac penetrales(内部の) focos(炉), occulta et maribus(男>mas) non invisa solum, sed etiam inaudita sacra inexpiabili scelere pervertit(打ち倒す), idemque earum templum inflammavit dearum quarum ope etiam aliis incendiis subvenitur(救う).
第二十七章
この世に生を受けた私たちは第一に両親と神々と祖国に結び付けられます。私たちはこの世の光と天の息吹によって成長すると同時に、自由な市民権を享受する場所を割り当てられるからです。ところが、あの男は父親の名前も祭儀も記憶も氏族もフォンテイウスの名前のために廃棄してしまったのです。一方、彼は神々の神聖な炎も玉座も祭壇もぶち壊し、深く秘められた炉と、男が見聞きすることを禁じられた秘儀を穢して、償いようのない罪を犯したのです。さらに、彼は多くの火災の被害から我々を守ってくれている女神の神殿に火を放ったのです。
[58] Quid de patria loquar? qui primum eum civem vi, ferro, periculis urbe(町から), orbatum omnibus patriae praesidiis depulit(追い出す) quem vos patriae conservatorem esse saepissime judicaritis(完接), deinde everso(倒す>everto) senatus, ut ego semper dixi, comite(←仲間), duce, ut ille dicebat, senatum ipsum, principem(指導者) salutis mentisque publicae, vi, caede incendiisque pervertit(打ち倒す);
58 彼が祖国に何をしたかは言うまでもありません。あの男は第一に、皆さんが祖国の守護者と何度も宣言した一人の市民を暴力の脅しによって町から追い出して、祖国が与える保護を完全に奪ったのです。次に彼は私の言う元老院仲間、彼の言う元老院のリーダー(=ポンペイウス)を打ち倒して、この国の安寧と人々の精神の拠り所である元老院を暴力と殺戮と放火によって覆したのです。
sustulit duas leges, Aeliam et Fufiam, maxime rei publicae salutares(有益な), censuram exstinxit, intercessionem removit, auspicia delevit, consules sceleris sui socios aerario, provinciis, exercitu armavit, reges qui erant vendidit, qui non erant appellavit, Cn. Pompeium ferro domum compulit, imperatorum monumenta evertit, inimicorum domus disturbavit, vestris monumentis suum nomen inscripsit. Infinita sunt scelera quae ab illo in patriam sunt edita(実行する). Quid? quae in singulos civis quos necavit, socios quos diripuit, imperatores quos prodidit, exercitus quos temptavit(いじくる)?
さらに彼は共和国にとって極めて有益な二つの法であるアエリウス法とフフィウス法を廃止しただけでなく、監察官を廃止し、拒否権を廃止し、占いを廃止したのです。そして、犯罪仲間の執政官たちに国庫の富と属州と軍隊を与え、既存の王権を売りに出して別の人間を王にして、ポンペイウス氏を武力で家に押し込め、将軍たちの記念碑を覆し、政敵の家を壊し、皆さんの記念碑に自分の名を刻んだのです。彼が祖国に対して犯した悪事の数には限りがありません。さらに、彼は人々を殺し同盟国を略奪し将軍たちを裏切り軍隊を台無しにするという悪事を犯したのです。
[59] Quid vero? ea quanta sunt quae in ipsum se scelera, quae in suos edidit(引き起こす)! Quis minus umquam pepercit(容赦する) hostium castris(陣営) quam ille omnibus corporis sui partibus? quae navis umquam in flumine publico tam vulgata(売られた) omnibus quam istius aetas fuit?
59 さらに、彼は自分自身と自分の身内にさえもあらゆる悪事を犯したのです。彼は自分の体のどの部分も容赦しませんでした。敵の陣営にそれほど容赦ない扱いをした人がいるでしょうか。若い盛りの彼はどんな渡し船よりも多くの人に利用されたのです。
quis umquam nepos(道楽者) tam libere est cum scortis(娼婦) quam hic cum sororibus volutatus? quam denique tam immanem Charybdim poetae fingendo exprimere(生み出す) potuerunt, quae tantos exhauriret gurgites(貪欲を満たす) quantas iste Byzantiorum Brogitarorumque praedas exsorbuit(飲み尽くす)? aut tam eminentibus canibus Scyllam tamque jejunis(空腹の、奪複) quam quibus istum videtis, Gelliis, Clodiis, Titiis, rostra ipsa mandentem(噛み砕く)?
彼が自分の妹に溺れたほどに娼婦に溺れた道楽者がいるでしょうか。あの男がビザンチンとブロギタロスの戦利品を奪い取ったほどに貪欲な大食らいの怪物カリュブディスを作り出せた作家がいるでしょうか。あるいは、演壇の戦利品を食い尽くしたあの男の犬たち、皆さんもご存知のゲッリスとクロエリウスとティトゥスほどに、ずば抜けて腹を空かせたスキュラの犬たちを作り出せた作家がいるでしょうか。
[60] Qua re, id quod extremum est in haruspicum responso, providete NE REI PUBLICAE STATUS COMMUTETUR; etenim vix haec, si undique fulciamus(支える、接) iam labefacta, vix, inquam, nixa(よりかかる) in omnium nostrum umeris cohaerebunt(まとまる、未).
60 そして、占い師たちの回答の最後の言葉にあるように、皆さんは「この共和制という政体が変わらないよう」に用心しなければなりません。しかし、既に弱体化したこの国をたとえ私たちが八方手を尽くして支えたとしても、私たち全員の肩の上に乗っているこの国を崩壊から守るのは容易なことではないでしょう。
XXVIII
Fuit quondam ita firma haec civitas et valens ut neglegentiam senatus vel etiam injurias civium ferre posset(未完接). Jam non potest. Aerarium nullum est, vectigalibus(租税) non fruuntur qui redemerunt(請け負う), auctoritas principum cecidit, consensus ordinum est divulsus(引き裂く), judicia perierunt, suffragia descripta(割り当てる) tenentur a paucis, bonorum animus ad nutum nostri ordinis expeditus(機敏な) iam non erit(未), civem qui se pro patriae salute(~のために) opponat invidiae frustra posthac requiretis.
第二十八章
かつてはこの国も強固で頑健だったので、元老院の怠慢にも市民たちの暴力にも耐えられました。しかし、今はそんな力はありません。国庫は空になり、徴税請負人は仕事をなくし、指導者たちの権威は地に落ち、階級間の団結は引き裂かれ、法廷は消滅して、投票権は少数の手に握られています。閥族派の人たちはもはや元老院のために馳せ参じることはないでしょうし、祖国を守るために悪意に立ち向かう市民はもはや見当たらないでしょう。
[61] Qua re hunc statum(状態) qui nunc est, qualiscumque est(弱体化しているが), nulla alia re nisi concordia retinere possumus; nam ut meliore simus loco ne optandum quidem est illo impunito(罰されない); deteriore autem statu ut simus, unus est inferior gradus(段階) aut interitus aut servitutis; quo ne trudamur(追い込む) di immortales nos admonent, quoniam iam pridem humana consilia ceciderunt.
61 したがって、この政治体制を現状のまま維持するだけでも、私たちは仲良く調和する以外にはないのです。というのは、あの男が無罪放免となった以上はこの状況の改善は望むべくもありませんが、もし現状を維持できなければ、この国は破滅か隷属の奈落の底に落ちるしかないからです。人間の知恵は既に地に落ちていると見た天の神々は私たちにそんな事態に追い込まれないようにと警告しているのです。
Atque ego hanc orationem, patres conscripti, tam tristem, tam gravem non suscepissem, non quin(ないからではなく) hanc personam(役割) et has partes, honoribus populi Romani, vestris plurimis ornamentis mihi tributis(与えられた), deberem et possem sustinere, sed tamen facile tacentibus ceteris reticuissem; sed haec oratio omnis fuit non auctoritatis meae, sed publicae religionis. Mea fuerunt verba fortasse plura, sententiae quidem omnes haruspicum, ad quos aut referri nuntiata ostenta non convenit aut eorum responsis commoveri necesse est.
元老院議員の皆さん、私はこんな重苦しくて聞きづらい話をすべきではなかったのかもしれません。それはこれほどの名誉と多くの高い地位をローマの民衆から授けられた私には、この役割を引き受ける義務も能力もなかったからではありません。むしろ、私は自分の義務と能力を差し置いて、他の人たちと一緒に黙っていることも出来たでしょう。しかしながら この演説は私の考えを述べたものではなく、この国の宗教界の意見を述べたものなのです。大部分の言葉は私のものですが、意見は全て占い師たちのものなのです。もし報告された前兆について彼らの意見を求めるのが良いことなら、私たちは彼らの回答を重視すべきなのです。
[62] Quod si cetera magis pervulgata(ありふれた) nos saepe et leviora moverunt, vox ipsa deorum immortalium non mentes omnium permovebit(動かす)? Nolite enim id putare accidere posse quod in fabulis saepe videtis fieri, ut deus aliqui delapsus de caelo coetus(集まり) hominum adeat, versetur in terris, cum hominibus colloquatur. Cogitate genus sonitus(音、属) eius quem Latinienses nuntiarunt(完), recordamini(思い出す、2複) illud etiam quod nondum est relatum, quod eodem fere tempore factus in agro Piceno Potentiae nuntiatur terrae motus horribilis cum multis quibusdam metuendisque rebus: haec eadem profecto quae prospicimus impendentia pertimescetis(未).
62 もし私たちが些細な日常茶飯事にも不安を抱くのなら、神々の言葉には誰の心も大きく揺り動かされるはずでしょう。空から降りてきた神が人々の集まりに加わったり地上を歩き回ったりして人々と話をするのを皆さんは芝居の世界でよく見るでしょう。それが現実の世界でも起きると思って欲しいとは私も言いません。そうではなくて、ラテン人が報告した音の種類をよく考えて欲しいのです。そして、これは皆さんには諮問されていませんが、ほぼ同時にポテンティアのピケヌム地方で多くの恐ろしい出来事を伴う恐ろしい地震が起きたという知らせがあることを思い出して欲しいのです。そうすれば必ずや皆さんもまた、私がこの国に差し迫っていると予想する事態の恐しさが分かって頂けるでしょう。
[63] Etenim haec deorum immortalium vox, haec paene oratio judicanda est, cum ipse mundus, cum maria atque terrae(主複) motu quodam novo contremiscunt(震える) et inusitato aliquid(何かを) sono incredibilique praedicunt. In quo constituendae nobis quidem sunt procurationes et obsecratio(祈祷式), quem ad modum monemur. Sed faciles sunt preces(祈願) apud eos(=deos) qui ultro nobis viam salutis ostendunt: nostrae nobis sunt inter nos irae discordiaeque placandae.
63 この世の海と大地がこれまでにない動きでどよめいて、これまでにない信じがたい音を立てて、何かを告げているのです。私たちはこれを神の声、神の言葉と見なすべきです。そして、占い師の忠告に従って償いの祈りを捧げるべきなのです。しかしながら、私たちに救いの道を自ら示してくれる神々の怒りを祈りによって鎮めるのは容易く出来ることでしょう。一方、私たちの互いの怒りと不和を和らげることは、私たち自身がしなければならないことなのです。
Translated into Japanese by (c)Tomokazu Hanafusa 2014.11.11―2015.2.25