オイディプス 盲目の老人の子よ、アンティゴネよ、ここはどこだね。だれの国に来たのかね。乞食となったオイディプスに今日はどなたがお恵みを授けてくれるだろうかな。わしは求めるものは少なくもらうものはさらに少なくてもそれで満足なのじゃがな。6
στέργειν(我慢する) γὰρ αἱ πάθαι(不幸) με χὠ χρόνος ξυνὼν我慢することなら不幸と長年の苦労と三つめには生まれの良さのおかげでよく知っている。娘よ、どこかに座れる場所はないのかね。神社であってもなくてもよい。足を止めて座らせてくれ。そして、ここがどこかひとに聞きたいのじゃ。われわれよそ者としては、この町の人間からふるまい方を聞かないといけないんじゃよ。13
ΑΝΤΙΓΟΝΗアンティゴネ おいたわしや、お父様、オイディプスさま、城壁に囲まれた町が遠くに見えますが、ここは月桂樹とオリーブとぶどうの木が鬱蒼とおいしげる神域のようですわ。この奥ではたくさんのナイチンゲールが鳴いています。この丸い岩で足をお休めください。老いたる身で遠路はるばるお疲れさまでした。20
ΟΙ. Κάθιζέ νύν με καὶ φύλασσε τὸν τυφλόν.オイディプス わしを座らせてくれ。盲人の介護をたのむ。
ΑΝ. Χρόνου μὲν οὕνεκ' οὐ μαθεῖν με δεῖ τόδε.アンティゴネ ながの年月ですもの。言われるまでもありませんわ。
ΟΙ. Ἔχεις(できる) διδάξαι δή μ' ὅποι καθέσταμεν(完 来た);オイディプス ここがどこか教えてくれないかね。
ΑΝ. Τὰς γοῦν Ἀθήνας οἶδα, τὸν δὲ χῶρον οὔ.アンティゴネ アテナイであるのは知っていますが、ここの地名までは。
25 ΟΙ. Πᾶς γάρ τις ηὔδα(αὐδάω言う) τοῦτό γ' ἡμὶν ἐμπόρων(旅人).オイディプス アテナイであることは旅の人たちから聞いた。25
ΑΝ. Ἀλλ' ὅστις ὁ τόπος ἦ μάθω μολοῦσά ποι;アンティゴネ ここの地名を行って聞いてきましょうか。
ΟΙ. Ναί, τέκνον, εἴπερ ἐστί γ' ἐξοικήσιμος.オイディプス ああ、娘よ、住人がいるかも聞いて来てくれ。
ΑΝ. Ἀλλ' ἐστὶ μὴν οἰκητός· οἴομαι δὲ δεῖνアンティゴネ 住人はいます。それは行かなくてもわかります。近くに人が来ていますよ。
30 ΟΙ. Ἦ δεῦρο προστείχοντα κἀξωρμημένον(ἐξορμάω急ぐ);オイディプス その人がこっちに急いで近づいてくるというのか。30
ΑΝ. Καὶ δὴ μὲν οὖν παρόντα· χὤ τι σοι λέγεινアンティゴネ もう近くにいます。話しかけられますよ。ここにいらしたから、どうぞ。
ΟΙ. Ὦ ξεῖν', ἀκούων τῆσδε τῆς ὑπέρ τ' ἐμοῦオイディプス 土地の人ですかな。わしはめくらじゃが娘は見えるので娘から聞きました。ちょうどいい時に出て来られたな。わしらが知りたいことを教えてもらえるかな。35
ΞΕΝΟΣコロノスの男 それ以上質問する前に、この社(やしろ)から出てください。ここは神聖な場所で立入禁止なのです。
ΟΙ. Τίς δ' ἔσθ' ὁ χῶρος; τοῦ θεῶν νομίζεται;オイディプス ここは何という土地じゃ。どの神の神域なのですかな。
ΞΕ. Ἄθικτος οὐδ' οἰκητός· αἱ γὰρ ἔμφοβοιコロノスの男 人の住めない神聖不可侵な場所なのです。ここは恐ろしい神、大地の神と夜の神の娘神のものです。40
ΟΙ. Τίνων τὸ σεμνὸν ὄνομ' ἂν εὐξαίμην κλυών;オイディプス 何という神の名をわしは拝めばよいじゃな。
ΞΕ. Τὰς πάνθ' ὁρώσας Εὐμενίδας ὅ γ' ἐνθάδ' ἂνコロノスの男 よその土地ではどうか知りませんが、この土地ではすべてを見そなわすエウメニデスさまと呼ばれています。
ΟΙ. Ἀλλ' ἵλεῳ(ἴλαος) μὲν τὸν ἱκέτην δεξαίατο,オイディプス それはよかった。その親切な神々による嘆願者の受け入れが実現しますように(gracious on their part may be the welcome!)。そうすれば、わしはもはやこの社から離れることはないじゃろう。45
ΞΕ. Τί δ' ἐστὶ τοῦτο; ΟΙ. Ξυμφορᾶς ξύνθημ' ἐμῆς.コロノスの男 それはどういう意味ですか。オイディプス これはわしの運命の前触れなのじゃ。
ΞΕ. Ἀλλ' οὐδ' ἐμοί τοι τοὐξανιστάναι πόλεωςコロノスの男 わたしも町の許可なしにあなたを追い出す気はありません。まずはあなたのことを報告します。
ΟΙ. Πρός νυν θεῶν, ὦ ξεῖνε, μή μ' ἀτιμάσῃςオイディプス 土地の人、こんな乞食と馬鹿にせずに、是非とも教えてほしいことがあるのじゃ。お願いだ答えてくだされ。50
ΞΕ. Σήμαινε, κοὐκ ἄτιμος ἔκ γ' ἐμοῦ φανῇ.コロノスの男 言いなされ。きっと答えてあげますよ。
ΟΙ. Τίς ἔσθ' ὁ χῶρος δῆτ' ἐν ᾧ βεβήκαμεν(完βαίνω);オイディプス それではわしがやってきた土地は何という名前の土地じゃかの。52
ΞΕ. Ὅσ' οἶδα κἀγὼ πάντ' ἐπιστήσῃ(2s) κλυών(ア).コロノスの男 わたしでも知っていることはすべてお聞かせしましょう。この土地全域が神聖です。この土地の持ち主は神ポセイドン。巨人族タイタンの一人、火をもたらす神プロメテウスもいます。あなたが立っている場所はこの土地では青銅の敷居と呼ばれて、アテナイの守りとなっています。近隣の地域はあの騎士コロノスを自分たちの守護神として、土地の人たちはみんなこの地をこの名前で呼んでいるのです。お客人、この土地の伝承は以上です。この話は文芸によってではなく人々の日々の暮らしによって大切にされていることなのです。63
ΟΙ. Ἦ γάρ τινες ναίουσι τούσδε τοὺς τόπους;オイディプス ということはこの地には人が住んでいるのかな。
65 ΞΕ. Καὶ κάρτα, τοῦδε τοῦ θεοῦ γ' ἐπώνυμοι.コロノスの男 たしかに、この神の名前をもつ人たちが住んでいます。65
ΟΙ. Ἄρχει τις αὐτῶν, ἢ 'πὶ τῷ πλήθει λόγος;オイディプス 支配者はだれかいるのかね。それとも民衆で議論して統治しているのかね。
ΞΕ. Ἐκ τοῦ κατ' ἄστυ βασιλέως τάδ' ἄρχεται.コロノスの男 ここも町の王が支配しています。
ΟΙ. Οὗτος δὲ τίς λόγῳ τε καὶ σθένει κρατεῖ;オイディプス 演説と武力を持って支配するその人は誰なんじゃ。
ΞΕ. Θησεὺς καλεῖται, τοῦ πρὶν(先代) Αἰγέως τόκος(子孫).コロノスの男 テセウスという人で先代のアイゲウス王の子です。
70 ΟΙ. Ἆρ' ἄν τις αὐτῷ πομπὸς ἐξ ὑμῶν μόλοι;オイディプス では、あなた方のなかから誰かその人に知らせに行ってくれまいか。70
ΞΕ. Ὡς πρὸς τί; λέξων ἢ καταρτύσων τί σοι;コロノスの男 何のためですか。伝言のためですか、それとも何か準備してもらうためですか。
ΟΙ. Ὡς ἂν προσαρκῶν(助ける) σμικρὰ κερδάνῃ μέγα.オイディプス かれは少しの手助けで大きな利益が得られるぞ。
ΞΕ. Καὶ τίς πρὸς ἀνδρὸς μὴ βλέποντος ἄρκεσις(サービス);コロノスの男 盲目のあなたがどんな利益をもたらすのですか。
ΟΙ. Ὅσ' ἂν λέγωμεν πάνθ' ὁρῶντα λέξομεν.オイディプス 私が語ることを全て目が見えるものとして語るからだ。74
75 ΞΕ. Οἶσθ', ὦ ξέν', ὡς νῦν μὴ σφαλῇς(がっかりする); ἐπείπερ εἶコロノスの男 では、お客さん、こうしてくだされ。悪いようにはしないから。見たところひどい悪運を背負っておられるが生まれは良さそうだから、さっきおられた場所で待っていなされ。私は町ではなく、ここの村の者たちに出来事を話してくる。そなたがここにとどまっているべきか否かは、彼らが決めてくれますから。80
コロノスの男退場オイディプス 娘よ、土地の人は行ってしまったのかの。
ΑΝ. Βέβηκεν, ὥστε πᾶν ἐν ἡσύχῳ, πάτερ,アンティゴネ 行ってしまいました。お父様、もう何でも安心して喋れます。そばにいるのはわたしだけですから。83
ΟΙ. Ὦ πότνιαι δεινῶπες, εὖτε νῦν ἕδραςオイディプス(エウメニデスに祈る) ああ、汝ら、恐ろしい女神たちよ、この国に来て最初に汝らの社にたどり着いたからには、わしとアポロンに優しくしてくだされ。わしにあの多くの不吉なことを告げたアポロンは、この土地こそはわしが放浪の末にいつか最後にたどり着く地、休息の地であると言われたのです。そこにある恐ろしい女神たちの社、よそ人を保護する場所に至るなら、そこでわしは自分の不幸な生涯に別れを告げると。そして、そこに住みついたわしは受け入れてくれる人たちに利益をもたらし、わしを追い出すものに破滅をもたらすと。
σημεῖα(中複) δ' ἥξειν τῶνδέ μοι παρηγγύα(未完παρεγγυάω約束3s),アポロンは約束したのじゃ。このことの前触れが見られるだろうと。それはゼウスのもたらす地震か雷鳴か稲妻だろうと。
Ἔγνωκα μέν νυν ὥς με τήνδε τὴν ὁδὸνしかしながら、わしは知ったのじゃ。汝らエリニュエスがもたらす確かな予兆こそがわしをこの道に導き、この森に連れてきたことをな。さもなければ、しらふの旅人のわしが最初にしらふの女神である汝らに出会って、この神聖なむきだしの岩の椅子に座ることはなかったはずだと。であれば、さあ、汝ら女神たちよ、この上ない不幸にずっと耐えてきたわしがそれに値しないと思われるのでなければ、アポロンの予言どおりに人生の終わり、人生の終着点をわしに与えてくだされ。
Ἴτ', ὦ γλυκεῖαι παῖδες ἀρχαίου Σκότου,さあ、汝らいにしえの夜の懐かしき娘神たちよ、さあ、偉大なるアテナ女神の名を持つどこよりも尊いポリス、アテナイよ、オイディプスという男のこの哀れな抜け殻のような姿を憐れんでくだされ。もはや私は昔の私ではないのじゃから。
ΑΝ. Σίγα· πορεύονται γὰρ οἵδε δή τινεςアンティゴネ お静かになさいませ。こちらから土地の長老たちが参ります。お父様が座っておられるのを調べるのでございましょう。
ΟΙ. Σιγήσομαί τε καὶ σύ μ' ἐξ ὁδοῦ πόδαオイディプス 黙るとしよう。わしを道から見えないように森の中に隠してくだされ。その人たちが何を言うか確かめねばならん。それが分かればわしらがどうすればいいか用心できるからな。
パロドスアッティカの老人たち(歌う) さあ、探せ、どんな奴だ。どこにいる。あの不心得者は、どこへ消えた。目を凝らして呼びかけてあちこち探せ。老いぼれ乞食だ、乞食だぞ。土地の者じゃない。さもなきゃ神聖な森には近づくはずもない。語るも恐ろしい女神たちの社、目をそらし声を潜めて言葉もなく静かに祈りながら詣でる社だ。その神域に恐れ知らずの侵入者がいると聞くも、どこを見てもいったい全体どこにいるやら見つからぬ。
オイディプス、アンティゴネとともに出てくるオイディプス(音楽に合わせて語る) その男はここにいる。盲人は音で見るということわざどおり、あなた達の居場所はわかる。
140 ΧΟ. Ἰὼ ἰώ,アッティカの老人(音楽に合わせて語る) おお、おお、恐ろしい姿、恐ろしい声
ΟΙ. Μή μ', ἱκετεύω, προσίδητ' ἄνομον.オイディプス(音楽に合わせて語る) わしは嘆願者。無法者と間違うな。
ΧΟ. Ζεῦ Ἀλεξῆτορ, τίς ποθ' ὁ πρέσβυς;アッティカの老人(音楽に合わせて語る) 守護神ゼウスよ、この年寄はいったい誰。
ΟΙ. Οὐ πάνυ μοίρας εὐδαιμονίσαι(幸福と呼ぶ)オイディプス(音楽に合わせて語る) この土地の見張り人(にん)たちよ、見ればわかろう、わしは最高の運命には恵まれなかった男じゃよ。さもなきゃ、人の目に頼って歩いたり、大人が子供にすがることはない。
ΧΟ. Ἐή, ἀλαῶν(盲目の) ὀμμάτων ---Ant. 1.アッティカの老人たち(歌う) ああ、生まれついての盲目なのか。おまけにみじめな老いぼれ姿。
Ἀλλ' οὐ μὰν ἔν γ' ἐμοὶその不幸はお前だけのもの。我らには加えられない。お前は奥へ行く。
155 περᾷς· ἀλλ' ἵνα τῷδ' ἐν ἀ-φθέγκτῳあんまり奥へ行くと、声なき草多き谷底へ落ちます。そこの瓶にははちみつの混じった水が入っている。不幸ものよ、そこから離れなされ。用心しながら離れなされ、去りなされ。あんまり奥へ行かれると声が聞こえなくなる。
165 κλύεις, ὦ πολύμοχθ' ἀλᾶτα(放浪者);聞こえるか。乞食よ。我らに話があるなら、聖域から出よ。出てきて差し障りのない場所で話せ。それまでは言葉を控えよ。
170 ΟΙ. Θύγατερ, ποῖ τις(仏on) φροντίδος ἔλθῃ;オイディプス(音楽に合わせて語る) 娘よ、どう考えればいいのだ。
ΑΝ. Ὦ πάτερ, ἀστοῖς ἴσα χρὴ μελετᾶνアンティゴネ(音楽に合わせて語る) お父さま、土地の人たちの考えに従うのがよろしいかと。
ΟΙ. Πρόσθιγέ νύν μου. ΑΝ. Ψαύω καὶ δή.オイディプス(音楽に合わせて語る) わしの手を引いてくれ。アンティゴネ(音楽に合わせて語る) こちらでございます。
ΟΙ. Ὦ ξεῖνοι, μὴ δῆτ' ἀδικηθῶオイディプス(音楽に合わせて語る) 土地の人たちよ、あなた方を信じて出ていくから、決して酷い目にあわさないでくだされ。
アッティカの老人たち(歌う) ご老人、お嫌なら誰もあなたをこの社から追い立てたりしたりせぬ。
ΟΙ. Ἔτ' οὖν; ΧΟ. Ἔτι βαῖνε πόρσω.オイディプス(歌う) ここでよいか。アッティカの老人たち(歌う) もっと前へ。
180 ΟΙ. Ἔτι; ΧΟ. Προβίβαζε(前へ導く), κούρα,オイディプス(歌う) もっとか。アッティカの老人たち(歌う) 娘御よ、見えるあなたが導きなされ。
ΑΝ. Ἕπεο μάν, ἕπε' ὧδ' ἀμαυ-ρῷアンティゴネ(歌う) わたしのあとへ、こちらです。こちらです。お父さま、足元に気をつけて
‹ΟΙ. ----アッティカの老人たち(歌う) 郷に入れば郷に従え、気の毒ですが、我らの恐れるものは恐れていただきたい。
ΟΙ. Ἄγε νυν σύ με, παῖς,オイディプス(音楽に合わせて語る) 娘よ、言葉をかわしても信仰を乱さぬ場所にわしを導け。習慣には逆らえぬ。
ΧΟ. Αὐτοῦ· μηκέτι τοῦδ' αὐτοπέτρου βήματος ἔξω πόδα κλίνῃς.---Ant. 2.アッティカの老人たち(歌う) そこに止まれ。その自然の縁石から奥へ行ってはならぬ。
ΟΙ. Οὕτως; ΧΟ. Ἅλις, ὡς ἀκούεις.オイディプス(歌う) ここでいいのか。アッティカの老人たち(歌う) そこでいい、話をしよう。
195 ΟΙ. Ἦ ἑσθῶ; ΧΟ. Λέχριός(斜め) γ' ἐπ' ἄκρουオイディプス(歌う) 座っていいのか。アッティカの老人たち(歌う) 横にある石の端にでもちょっと腰掛けたまえ。
ΑΝ. Πάτερ, ἐμὸν τόδ'· ἐν ἡσυχαί-ᾳ ‑アンティゴネ(歌う) 父よ、それはわたしの仕事。ゆっくりと一歩一歩行きましょう。
198 ΟΙ. Ἰώ μοί μοι.オイディプス(歌う) ああ。
200 ΑΝ. γεραὸν ἐς χέρα σῶμα σὸνアンティゴネ(歌う) わたしの腕に老体をもたせかけて。
ΟΙ. Ὤμοι δύσφρονος(属) ἄτας.オイディプス(歌う) ああ、くそ、この忌々しい運命め。
ΧΟ. Ὦ τλάμων, ὅτε νῦν χαλᾷς(緩める),アッティカの老人たち(歌う) ああ、苦労してここまで来られたのは気の毒だが、一息ついたら話されよ。あなたはどなたで誰の子でどこの国の人なのかを聞かせたまえ。
オイディプス(歌う) ああ、土地の人たちよ、わしは故郷を追われた者だ。たのむ―
ΧΟ. Τί τόδ' ἀπεννέπεις, γέρον;アッティカの老人たち(歌う)
210 ΟΙ. μή, μή μ' ἀνέρῃ τίς εἰμι,オイディプス(歌う) わしの素性を聞かないでくれ。これ以上の詮索はやめてほしい。
ΧΟ. Τί δέ; ΟΙ. Δεινὰ φύσις. ΧΟ. Αὔδα.アッティカの老人たち(歌う) なぜなのか。オイディプス(歌う) 恐ろしい素性なのじゃ。アッティカの老人たち(歌う) 言いなされ。
ΟΙ. Τέκνον, ὤμοι, τί γεγώνω;オイディプス(歌う) ああ、娘よ、何を言おうか。
ΧΟ. Τίνος εἶ σπέρματος, ‹ὦ›アッティカの老人たち(歌う) ああ、誰の子なのか、お客人、言ってくれ、父は誰なのです。
ΟΙ. Ὤμοι ἐγώ, τί πάθω, τέκνον ἐμόν;オイディプス(歌う) ああ、娘よ、どうすればいい。
ΧΟ. Λέγ', ἐπείπερ ἐπ' ἔσχατα βαίνεις.アッティカの老人たち(歌う) 言いなされ、あなたはもう瀬戸際まで来ておられる。
ΟΙ. Ἀλλ' ἐρῶ· οὐ γὰρ ἔχω κατακρυφάν.オイディプス(歌う) 仕方がない。言おう。隠しようがない。
ΧΟ. Μακρὰ μέλλεται, ἀλλὰ τάχυνε.アッティカの老人たち(歌う) 早くしてくだされ、もう待ち切れない。
220 ΟΙ. Λαΐου ἴστε τιν' ―; ΧΟ. Ὤ ἰοὺ ἰού.オイディプス(歌う) ライオスの息子のことをご存知か。アッティカの老人たち(歌う) ああ、これは恐ろしい。
ΟΙ. Τό τε Λαβδακιδᾶν γένος; ΧΟ. Ὦ Ζεῦ.オイディプス(歌う) テーバイの一族のことだ。アッティカの老人たち(歌う) ああ、神よ。
ΟΙ. Ἄθλιον Οἰδιπόδαν; ΧΟ. Σὺ γὰρ ὅδ' εἶ;オイディプス(歌う) 悲惨なオイディプスのことだ。アッティカの老人たち(歌う) あなたがそうなのか。
ΟΙ. Δέος ἴσχετε μηδὲν ὅσ' αὐδῶ.オイディプス(歌う) わしの言葉を恐がらないでくれ。
ΧΟ. Ἰώ, ὢ ὤ. ΟΙ. Δύσμορος. ΧΟ. Ὢ ὤ.アッティカの老人たち(歌う) ああ、嘆かわしい。オイディプス(歌う) 不運な男だ。アッティカの老人たち(歌う) ああ。
225 ΟΙ. Θύγατερ, τί ποτ' αὐτίκα κύρσει;オイディプス(歌う) 娘よ、何がどうなっている。
ΧΟ. Ἔξω πόρσω(遠くへ) βαίνετε χώρας.アッティカの老人たち(歌う) この土地から出ていきなされ。遠くへな。
ΟΙ. Ἃ δ' ὑπέσχεο(アὑπισχνέομαι2s) ποῖ καταθήσεις(未κατατίθημι果たす);オイディプス(歌う) 約束はどうしてくれるのじゃ。
ΧΟ. Οὐδενὶ μοιριδία(運命の) τίσις(報復) ἔρχεταιアッティカの老人たち(歌う) 騙されたからといって騙すのは辛いだけで何ら面白くはなけれど、ひどい目にあって仕返しをしても罰を受ける定めはない。あなたはこの社をあとにしてこの土地からさっさと出て行きなされ。町にこれ以上の面倒を掛けなされるな。
ΑΝ. Ὦ ξένοι αἰδόφρονες,アンティゴネ(歌う) 心やさしき土地の方々、みなさんはわたしの父の不慮の事件の話を聞いているから、父をお許しになれないのでしょう。でも、みじめなこのわたしをお憐れみくださいませ。これは哀れな父のためにもお願いします。あなたの顔をこの目で見つめながら、この哀れな人にご配慮を頂きたいと、あなたの近親者がするように、お願いしています。不幸なわたしたちの運命はあなたたちの肩に掛かっているのです。是非とも、無理にでもお情けをおかけください。
250 Πρός σ' ὅ τι σοι φίλον οἴκοθεν ἄντομαι,あなたのお子さまと奥さまと富と神さまと、あなたがご家庭で大切にしておられるものにかけて、お願いいたします。人はみな神の導きから逃れられずに罪を犯してしまうことをご存知でしょう。
第一エペイソディオンアッティカの老人 オイディプスの娘御よ、あなたとこの人のことは等しく同情するが、神を畏れる我々としては今言ったこと以上のことは言いかねる。
ΟΙ. Τί δῆτα δόξης, ἢ τί κληδόνος(名声) καλῆςオイディプス アテネの名声も何の役にたとう。ちまたではアテネほど神を尊ぶ国はなく、不幸な旅人を救い助けることにかけてはこれほど力ある国はないと人は言う。
κἀμοίγε ποῦ ταῦτ' ἐστίν, οἵτινες βάθρων(段)私の場合はこれはどうなったじゃ。嘆願者たる私をここから引き剥がして、追い出そうとするとは、わしの名前を恐れるているからだ。恐るべきはわし自身でもわしのしたことでもあるまい。父と母について言わせてもらうなら、わしは被害者であって加害者ではないことは確かなのだ。
ὧν οὕνεκ' ἐκφοβῇ με, τοῦτ' ἐγὼ καλῶςあなたが恐れているのが父母に関することなのは、わしもよく知っている。しかし、どうしてわしに罪があるだろうか。わしはやられたからやり返したからだ。だから、もしわしが相手が誰だか知っていたとしても、それでもわしには罪はない。ところが実際にはわしは何も知らずにあの場所に行き着いたのだ。それに対して、わしを殺そうとした彼らは、意図してそうしたのだ。
275 Ἀνθ' ὧν ἱκνοῦμαι πρὸς θεῶν ὑμᾶς, ξένοι,だから、土地の方々よ、わしは神かけてあなた達にお願いする。わしをこの社から追い立てるのなら、必ずわしを守ってもらいたい。
καὶ μὴ θεοὺς τιμῶντες εἶτα τοὺς θεοὺςそして、神々を敬うあなた達はけっして神々をめくらだと思ってはならんぞ。忘れるな、神々は敬虔な人間ばかりではなく不敬な人間もよく見ていて、神を蔑ろにする人間をけっして逃がなさないからな。
Ξὺν οἷς σὺ μὴ κάλυπτε(曇らせる) τὰς εὐδαίμοναςお前たちはその神々とともにあって、不敬な行動をとってアテナイの幸福な名声を曇らせることがあってはならん。 そうではなくて、これまで嘆願者を安全にかくまってきたように、わしを保護して守るのじゃ。わしの汚い身なりを見て馬鹿にしてはならんぞ。
Ἥκω γὰρ ἱερὸς εὐσεβής τε καὶ φέρωνなぜなら、わしは神聖な使節としてやってきて、この町の人々に利益をもたらす人間だからだ。あなたちの指導者であるこの町の支配者が来たら、その時にわしは話をするからあなた達も全容を知ることになる。それまでは悪さをしてはならんぞ。
ΧΟ. Ταρβεῖν μέν, ὦ γεραιέ, τἀνθυμήματα(考え)アッティカの老人 ご老人よ、あなたの仰ることを尊重せねばならんことは重々分かった。短い言葉ではとても言い表せないからだ。この国の支配者に判断を委ねるしかないようだ。
ΟΙ. Καὶ ποῦ 'σθ' ὁ κραίνων τῆσδε τῆς χώρας, ξένοι;オイディプス してこの地の支配をしておられるのはどなたなのか、土地の人。
ΧΟ. Πατρῷον ἄστυ γῆς(アッティカ) ἔχει· σκοπὸς δέ νιν,アッティカの老人 父上から受け継がれたアッティカの町に住んでおられる。我らをここへ送り出した監視人がその方を呼びにいっている。
ΟΙ. Ἦ καὶ δοκεῖτε τοῦ τυφλοῦ τιν' ἐντροπὴν(配慮)オイディプス では、この盲の男を気遣って、その方本人がやってくると言うのかね。
ΧΟ. Καὶ κάρθ', ὅταν περ τοὔνομ' αἴσθηται τὸ σόν.アッティカの老人 きっと来ますよ。あなたの名を聞けばすぐに。
ΟΙ. Τίς δ' ἔσθ' ὁ κείνῳ τοῦτο τοὔπος ἀγγελῶν;オイディプス この事をその方に誰が伝えるというのかね。
ΧΟ. Μακρὰ κέλευθος· πολλὰ δ' ἐμπόρων ἔπηアッティカの老人 遠く離れているが、道行く人の言葉が広まるのは速い。それを聞きつけて来られるから安心なされよ。ご老人、あなたの名前を誰もが知っている。たとえ深い眠りに休んでおられても、あなたの名を聞けばすぐさまここへやってくるはずだ。
ΟΙ. Ἀλλ' εὐτυχὴς ἵκοιτο τῇ θ' αὑτοῦ πόλειオイディプス 是非とも来てもらいたい。ご自分の町のためにも私のためにも。優れた人なら自分自身を大切にするはずだ。
310 ΑΝ. Ὦ Ζεῦ, τί λέξω; ποῖ φρενῶν ἔλθω, πάτερ;アンティゴネ ああ神様、どうしましょう。お父様、わたしどうかなりそうだわ。
ΟΙ. Τί δ' ἔστι, τέκνον Ἀντιγόνη;オイディプス どうした、アンティゴネよ。
ΑΝ. Γυναῖχ' ὁρῶアンティゴネ 女の子が一人こちらへ向かってくるわ。アイトニアの子馬にまたがって、頭にテッサリアの帽子をかぶっているようだわ。
315 Τί φῶ;どうしましょう。そうだわ、いや違う。私の勘違いかしら、いやそうだわ、やはり違う。分からない。困ったわ、あの子じゃないの。だって、にこにこと合図をしながらこっちへ来るわ。間違いないわ。確かに、懐かしいイスメネだわ。
ΟΙ. Πῶς εἶπας, ὦ παῖ; ΑΝ. Παῖδα σήν, ἐμὴν δ' ὁρᾶνオイディプス 娘よ何を言っている。アンティゴネ あなたの娘、私の妹が見えると言ったのです。
ὅμαιμον· αὐδῇ δ' αὐτίκ' ἔξεστιν μαθεῖν.すぐにその声で知ることができますわ。
ΙΣΜΗΝΗイスメネ 父と姉の名前を呼びかけることは二重の喜びですが、お二人を見つけるのも見るのも苦労しますわ。
ΟΙ. Ὦ τέκνον, ἥκεις; ΙΣ. Ὦ πάτερ δύσμοιρ'(δύσμοιρε) ὁρᾶν.オイディプス ああ娘よ、よくきたね。イスメネ 見るからにおいたわしいお父様。
ΟΙ. Τέκνον, πέφηνας; ΙΣ. Οὐκ ἄνευ μόχθου γέ μοι.オイディプス 娘よ、現れたのか。イスメネ 苦労しましたわ。
330 ΟΙ. Πρόσψαυσον, ὦ παῖ. ΙΣ. Θιγγάνω δυοῖν ὁμοῦ.オイディプス 娘よ、お前に触れさせてくれ。イスメネ 二人一緒に触れますわ。
ΟΙ. Ὦ σπέρμ' ὅμαιμον. ΙΣ. Ὦ δυσάθλιαι τροφαί.オイディプス ああ、わが子よ、そして妹よ。イスメネ ああ、無残な生きざま。
ΟΙ. Ἦ τῆσδε κἀμοῦ; ΙΣ. Δυσμόρου δ' ἐμοῦ τρίτης.オイディプス この子とわしのことかね。イスメネ 三人目にわたしもですわ。
ΟΙ. Τέκνον, τί δ' ἦλθες; ΙΣ. Σῇ, πάτερ, προμηθίᾳ.オイディプス 娘よ、なんのために来たのじゃ。イスメネ 父よ、あなたのことが心配で。
ΟΙ. Πότερα πόθοισι; ΙΣ. Καὶ λόγων γ' αὐτάγγελος(自分で伝える)オイディプス 会いたくて来たのか。イスメネ それにまた直々にお伝えしたいことがありまして、
ξὺν ᾧπερ εἶχον οἰκετῶν(召使い) πιστῷ μόνῳ.一番信用できる召使いを一人連れて。
335 ΟΙ. Οἱ δ' αὐθόμαιμοι ποῖ νεανίαι πονεῖν;オイディプス 娘たちは来ているのに男どもは何をしているのだ。
ΙΣ. Εἴσ' οὗπέρ εἰσι· δεινὰ δ' ἐν κείνοις τὰ νῦν.イスメネ 彼らはみょうなところにいて、いまみょうなことになっていますわ。
ΟΙ. Ὦ πάντ' ἐκείνω τοῖς ἐν Αἰγύπτῳ νόμοιςオイディプス 奴ら二人のやり方はまるでエジプト人そっくりじゃないか。エジプトでは男が家で機を織り、女が外で食い扶持を手に入れる。
Σφῷν(お前たち二人) δ', ὦ τέκν', οὓς μὲν εἰκὸς ἦν πονεῖν τάδε,この仕事をするのがふさわしい者たちは娘のように家を守っているので、娘たちよ、お前たち二人が彼らの代わりに;、私の苦労をしょい込んでくれている。姉の方は幼い時期が終わって女らしくなってくると、かわいそうに、いつも老いたわしと一緒に放浪暮らし。わしの案内をしながら、野生の林の中を、飲まず食わず、裸足でさまよって、大雨のなかも太陽の暑さのなかも、苦労しながら、家の暮らしなどは二の次にして、父を養うことに専念してくれた。
σὺ(イスメネ) δ', ὦ τέκνον, πρόσθεν μὲν ἐξίκου(ἐξικνέομαι2s) πατρὶイスメネよ、お前はわしについて下された神託を教えに来てくれた、テーバイの連中には内緒でな。そして祖国を追放された時にわしを信頼できる守り手となってくれたな。
Νῦν δ' αὖ τίν' ἥκεις μῦθον, Ἰσμήνη, πατρὶ今度ははまたどんな話を持ってきてくれたのだい。何かまた恐ろしい知らせでも持ってきたのか。どんな神託の指示にうながされて祖国からからやってきたのだ。お前が手ぶらで来ないことはよく知っている。何か恐ろしい知らせを持ってきたのか。
ΙΣ. Ἐγὼ τὰ μὲν παθήμαθ' ἅπαθον, πάτερ,イスメネ お父さん、あなたはどんな暮らしをしているのか探してる間に、自分が味わっていた苦労のことはもういいのです。そのことをまた新たに話して悲しんで苦しみを倍にしても仕方がありませんもの。
365 Ἃ δ' ἀμφὶ τοῖν σοῖν δυσμόροιν παίδοιν κακὰそれより、あなたの息子たちの身に迫っている災難についてお知らせするためにに来たのです。クレオンに王座を譲って、町の汚れから守ることで満足していました。あなたの不幸な屋敷に取り付いた古い一族の呪いのことを考えていたからです。
νῦν δ' ἐκ θεῶν του κἀξ ἀλιτηροῦ(悪い) φρενὸςところが、でも神のせいかよこしまな考えのせいか、王位を奪って権力を手にしたいという欲望が、どこまでも不幸な彼らにとりついたのです。
Χὠ μὲν νεάζων(若い) καὶ χρόνῳ μείων γεγὼςそして、あとから生まれたエテオクレスが、先に生まれたポリュネイケスを玉座から退けて国外に追放したのです。兄は、アルゴスの谷に逃れて、新たな婚姻を結んで援軍をかき集めているといういのがもっぱらの噂で、今に彼がカドモスの地を支配するか、天に昇るかというところです。
Ταῦτ' οὐκ ἀριθμός ἐστιν, ὦ πάτερ, λόγων,お父さま、この話は単なる言葉だけの絵空事ではなくて、恐ろしい現実の出来事なのです。しかし、一体、神々は父上の悲しみをいつ癒やしてさしあげるおつもりなのか、私にはまったく見当がつきません。
385 ΟΙ. Ἤδη γὰρ ἔσχες ἐλπίδ' ὡς ἐμοῦ θεοὺςオイディプス というと、そなたには既に神々が私のことをいつか救おうとしておられるという希望があるのか。
ΙΣ. Ἔγωγε τοῖς νῦν γ', ὦ πάτερ, μαντεύμασιν.イスメネ はい、父上、いま出されたばかりの神託を信じる限りは。
ΟΙ. Ποίοισι τούτοις; τί δὲ τεθέσπισται, τέκνον;オイディプス どんな神託だ。何が予言されているのだ。
ΙΣ. Σὲ τοῖς ἐκεῖ ζητητὸν ἀνθρώποις ποτὲイスメネ テーバイの町の幸福のために、父上が、生きている間も死んでからも、テーバイの人たち切望されるだろうというものです。
ΟΙ. Τίς δ' ἂν τοιοῦδ' ὑπ' ἀνδρὸς εὖ πράξειεν ἄν;オイディプス こんな男が誰を幸福にできるというのだ。
ΙΣ. Ἐν σοὶ τὰ κείνων φασὶ γίγνεσθαι κράτη.イスメネ テーバイの勝利は父上次第だということになっているのです。
ΟΙ. Ὅτ' οὐκέτ' εἰμί, τηνικαῦτ' ἄρ' εἴμ' ἀνήρ;オイディプス 死に際になって、ようやくわしも一人前になったわけか。
ΙΣ. Νῦν γὰρ θεοί σ' ὀρθοῦσι, πρόσθε δ' ὤλλυσαν.イスメネ かつて父を陥れた神々が今は父上を救おうとしているのです。
395 ΟΙ. Γέροντα δ' ὀρθοῦν φλαῦρον(無益な) ὃς νέος πέσῃ.オイディプス だが、若くして落ちぶれた者が、年老いてから救われたとて何になる。
ΙΣ. Καὶ μὴν Κρέοντά γ' ἴσθι σοι τούτων χάρινイスメネ でも、とにかくクレオン殿がこの件ですぐにでも見えることは確かなことです。
ΟΙ. Ὅπως τί δράσῃ, θύγατερ; ἐρμήνευέ μοι.オイディプス これは何をしに? 娘よ、教えてくれ。
ΙΣ. Ὥς σ' ἄγχι γῆς στήσωσι Καδμείας, ὅπωςイスメネ 子供たちの家の近くにお父さまを置くためでございます。そうすればお父さまは国内に入ることなく、かれらの手中に入ります。
ΟΙ. Ἡ δ' ὠφέλησις τίς θύρασι κειμένου;オイディプス 国の外に置かれた者がどんな役に立てるのだ。
ΙΣ. Κείνοις ὁ τύμβος δυστυχῶν ὁ σὸς βαρύς.イスメネ 父上のお墓を然るべく祭らなければ、彼らにとって辛いことになるのです。
ΟΙ. Κἄνευ θεοῦ τις τοῦτό γ' ἂν γνώμῃ μάθοι.オイディプス そんな事は神でなくとも分かる。
ΙΣ. Τούτου χάριν τοίνυν σε προσθέσθαι πέλαςイスメネ ですから、そのために父上をご自分の自由のきかぬ所で、しかも国の近くに置こうとしているのです。
ΟΙ. Ἦ καὶ κατασκιῶσι Θηβαίᾳ κόνει;オイディプス それで、テーバイの土に葬ってくれるのだな。
ΙΣ. Ἀλλ' οὐκ ἐᾷ τοὔμφυλον(身内の) αἷμά σ', ὦ πάτερ.イスメネ いいえそれはできません。父上、あなたは身内を殺した人だからです。
ΟΙ. Οὐκ ἆρ' ἐμοῦ γε μὴ κρατήσωσίν ποτε.オイディプス それなら私は奴らの自由にはさせない。
ΙΣ. Ἔσται ποτ' ἆρα τοῦτο Καδμείοις βάρος.イスメネ でもそれはカドモスの末たちを苦しませることになります
410 ΟΙ. Ποίας φανείσης, ὦ τέκνον, συναλλαγῆς;オイディプス 娘よ、どんな巡り合わせでそんなことになるのだ。
ΙΣ. Τῆς σῆς ὑπ' ὀργῆς, σοῖς ὅταν στῶσιν τάφοις.イスメネ いつか父上のお墓のある所に行った時に、父上の怒りのために苦しむのです。
ΟΙ. Ἃ δ' ἐννέπεις κλύουσα τοῦ λέγεις, τέκνον;オイディプス 娘よ、今言ったことを誰から聞いたのじゃ。
ΙΣ. Ἀνδρῶν θεωρῶν Δελφικῆς ἀφ' ἑστίας.イスメネ デルフィの神託を聞きに行った者たちから聞いたのです。
ΟΙ. Καὶ ταῦτ' ἐφ' ἡμῖν Φοῖβος εἰρηκὼς κυρεῖ;オイディプス これはアポロンが私にもたらした神託なのか。
415 ΙΣ. Ὥς φασὶν οἱ μολόντες εἰς Θήβης πέδον.イスメネ テーバイに戻ってきた者たちがそう言っています。
ΟΙ. Παίδων τις οὖν ἤκουσε τῶν ἐμῶν τάδε;オイディプス 私の子供たちもこの神託を聞いているのか。
ΙΣ. Ἄμφω γ' ὁμοίως, κἀξεπίστασθον καλῶς.イスメネ 二人とも聞いてよく知っています。
ΟΙ. Κᾆθ' οἱ κάκιστοι τῶνδ' ἀκούσαντες πάρος(~よりも)オイディプス バカ息子めが、これを聞いても奴らはわしを呼び戻したいとは思わずに王座を望んだのか。
420 ΙΣ. Ἀλγῶ κλύουσα ταῦτ' ἐγώ, φέρω δ' ὅμως.イスメネ それを言われると私もつろうございます。でも仕方がないことですわ。
ΟΙ. Ἀλλ' οἱ θεοί σφιν μήτε τὴν πεπρωμένην(運命の)オイディプス では、願わくば、この運命の争いを神々が終わらせることなく、やつらがいま槍を振り上げて始めようとしているこの戦いの結果がわしの肩にかかっていますように。
425 ὡς οὔτ' ἂν ὃς νῦν σκῆπτρα καὶ θρόνους ἔχειその結果、いま王座と王笏を持っている者はその地位にとどまれず、いったん辞めた者は二度とその地位に戻れませんように。なにしろ奴らは、父たるわしを大切に保護することもせず、ないがしろにして祖国を追い出した連中だからだ。わしは奴らのおかげで家から追い出されて放浪者の身の上となったのだ。
Εἴποις ἂν ὡς θέλοντι τοῦτ' ἐμοὶ τότε町はわしの望み通りにふさわしい贈り物をしただけではないかと言うかもしれないが断じてそうではない。わしが怒りで沸騰していたときには、石子詰になって死ぬことが願わしかったのに、わしの望みをかなえてくれるものは誰もいなかったのだ。
χρόνῳ δ', ὅτ' ἤδη πᾶς ὁ μόχθος ἦν πέπων(軟らか),やがて時がたって、わしの苦しみが和らいで、怒りのせいで過去の自分の過ちを度を越して罰していたことに気づいたのだが、その頃になってあの町は年老いたわしを追放したのだ。あの息子たちは父を助けることが出来たのに助けようとせず、息子たちの一言が無かったために、わしは乞食同然の姿で国外を永遠に放浪する身となったのだ。
445 Ἐκ ταῖνδε δ' οὔσαιν παρθένοιν, ὅσον φύσιςわしの日々の糧や旅の宿の面倒を見て身内のやさしさを見せてくれたのは、もっぱらこの娘たちだった。彼女たちは出来る限りのことをしてくれたのだ。
τὼ δ' ἀντὶ τοῦ φύσαντος εἱλέσθην θρόνουςところが、息子たちときたら父を捨てて玉座と王笏を手にして国を支配することを選んだ。だが奴らは絶対に私を味方にはできないし、テーバイを支配しても何の得もえられないのだ。これはわしにはわかる。今この神託を聴いて、むかしアポロンが私に成就させた神託を思い合わせてみればそうなるのだ。
455 Πρὸς ταῦτα καὶ Κρέοντα πεμπόντων ἐμοῦそのうえ、わしを探させるためにクレオンか誰かあの町の有力者を送るだろう。というのは、土地の人たちよ、もしみなさんが、この恐ろしい守護神たる女神とともにわしを守る気になれば、わしはこの町にとっての強力な救済者となり、わしの敵どもにとっては災難となるだろう。
ΧΟ. Ἐπάξιος μέν, Οἰδίπους, κατοικτίσαι,アッティカの老人 オイディプスよ、あなたもこの娘たちも気の毒な人たちだ。あなたは自分がこの国の救済者になろうとおっしゃるからには、わたしからあなたに有益なことをお教えしたいと思う。
465 ΟΙ. Ὦ φίλταθ', ὡς νῦν πᾶν τελοῦντι προξένει(勧める).オイディプス それはご親切に。わしは何でもやるつもりだから教えて下さい。
ΧΟ. Θοῦ νῦν καθαρμὸν(お供え) τῶνδε δαιμόνων, ἐφ' ἃςアッティカの老人 あなたが到着して最初に入った神の社にお供えをなさってください。
ΟΙ. Τρόποισι ποίοις; ὦ ξένοι, διδάσκετε.オイディプス どんなお供えをするのですか、土地の人、お教えください。
ΧΟ. Πρῶτον μὲν ἱρὰς ἐξ ἀειρύτου χοὰς(御神酒)アッティカの老人 まず手を浄めてから永遠の泉からお神酒(おみき)を汲むのです。
ΟΙ. Ὅταν δὲ τοῦτο χεῦμ' ἀκήρατον(新鮮な) λάβω;オイディプス この新鮮な流れから汲むのですね。それから?
ΧΟ. Κρατῆρές εἰσιν, ἀνδρὸς εὔχειρος(器用な) τέχνη(作品),アッティカの老人 名工の作った瓶がいくつかありますので、それぞれ二つの取っ手と口のところに蓋をしてください。
ΟΙ. Θαλλοῖσιν(葉っぱ), ἢ κρόκαισιν(ウール), ἢ ποίῳ τρόπῳ;オイディプス どうやってするのだ。木の枝か羊毛の布か。
475 ΧΟ. Οἰός(属 羊) γε νεαρᾶς νεοπόκῳ(剃りたて) μαλλῷ(羊毛) λαβών.アッティカの老人 若い羊から刈り取ったばかりの羊毛を使うのです。
ΟΙ. Εἶεν· τὸ δ' ἔνθεν ποῖ τελευτῆσαί με χρή;オイディプス なるほど、次にどうすればいいいのか。
ΧΟ. Χοὰς(お神酒) χέασθαι στάντα πρὸς πρώτην ἕω(朝).アッティカの老人 夜明けの光に向かってそのお神酒を注ぐのです。
ΟΙ. Ἦ τοῖσδε κρωσσοῖς(水差し) οἷς λέγεις χέω τάδε;オイディプス あなたが言った瓶から注ぐのですな。
ΧΟ. Τρισσάς(三重の) γε πηγάς(泉)· τὸν τελευταῖον δ' ὅλον(副).アッティカの老人 三つの瓶から注いで、最後の瓶は全部注ぎます。
480 ΟΙ. Τοῦ τόνδε πλήσας(アπίμπλημι) θῶ; δίδασκε καὶ τόδε.オイディプス その最後の瓶には何を入れておくのかね。それもお教え願いたい。
ΧΟ. Ὕδατος(水), μελίσσης· μηδὲ προσφέρειν μέθυ(ワイン).アッティカの老人 水と蜂蜜です。酒は入れません。
ΟΙ. Ὅταν δὲ τούτων γῆ μελάμφυλλος(黒い葉っぱ) τύχῃ;オイディプス これが黒い葉に覆われた大地に注がれたあとは?
ΧΟ. Τρὶς ἐννέ'(9) αὐτῇ κλῶνας(枝) ἐξ ἀμφοῖν χεροῖνアッティカの老人 九の三倍のオリーブの枝を大地に両手で置きながら、このように祈るのです。
485 ΟΙ. Τούτων ἀκοῦσαι βούλομαι· μέγιστα γάρ.オイディプス それを聞かせてほしい。それが一番大切なことだから。
ΧΟ. Ὥς σφας(彼ら) καλοῦμεν Εὐμενίδας, ἐξ εὐμενῶν(親切な)アッティカの老人 我々はこの神をエウメニデスと呼んでいますので、あなたかあなたの代わりの人が、この神々に親切な心で嘆願者を救済者として受け入れてくれるように頼みなさい。小さな声で短く祈るのです。そして、振り向くことなくこっそりと去るのです。客人よ、あなたがこうしている間わたしに付き添わせてください。さもないとあなたのことが心配ですから。
ΟΙ. Ὦ παῖδε, κλύετον τῶνδε προσχώρων(近隣の) ξένων;オイディプス この土地の人の言葉を聞いたか、娘たちよ。
ΙΣ. Ἠκούσαμέν τε χὤ τι(=καί ὅ τι) δεῖ πρόστασσε(命じる) δρᾶν.イスメネ 聞きました。私たちにできることがあれば、何なりとお命じください。
495 ΟΙ. Ἐμοὶ μὲν οὐχ ὁδωτά(できる)· λείπομαι(出来ない) γὰρ ἐνオイディプス これはわしには出来ない。体力も視力もない。だから、これはお前たち二人のうちのどちらかがやってくれ。真剣にやるなら千人分の仕事も一人で十分できるものだ。だから、さあ急いでやってくれ。だがわしを一人にしないでくれ。わしの体は一人では補助なしでは何も出来ないから。
ΙΣ. Ἀλλ' εἶμ' ἐγὼ τελοῦσα· τὸν τόπον δ' ἵναイスメネ ではわたしがやりますわ。場所を見つける必要があるので場所を教えて下さい。
505 ΧΟ. Τοὐκεῖθεν ἄλσους, ὦ ξένη, τοῦδ'. Ἢν(=ἐάν) δέ τουアッティカの老人 この森の向こう側です。なにか知りたいことがあれば、ここの住人が教えてくれます。
ΙΣ. Χωροῖμ' ἂν ἐς τόδ'· Ἀντιγόνη, σὺ δ' ἐνθάδεイスメネ わたしがそこに行きますから、アンティゴネ、あなたはここでこの人の世話をしてくださいね。親のための苦労は苦労のうちには入りませんから。
コンモスアッティカの老人たち(歌う) むかしの不幸な話を蒸し返すのはよくないが、それでも少し聞いておきたい。
ΟΙ. Τί τοῦτο;オイディプス(歌う) 何を。
ΧΟ. τᾶς δειλαίας ἀπόρου φανείσαςアッティカの老人たち(歌う) あなたが戦っておられる耐え難い傷の不幸な痛みについて
515 ΟΙ. Μὴ πρὸς ξενίας ἀνοίξῃς(はだける)オイディプス(歌う) おもてなしの心があるなら、わたしの恥ずかしい傷の話はしないでくれ。
ΧΟ. Τό τοι πολὺ καὶ μηδαμὰ λῆγον(分 去りつつある)アッティカの老人たち(歌う) うわさは広まって消えることがない。客人よ、わしは本当のところが聞きたい。
ΟΙ. Ὤμοι.オイディプス(歌う) ああ、嘆かわしい。
ΧΟ. Στέρξον(親切にする), ἱκετεύω.アッティカの老人たち(歌う) どうかたのむ。
520 ΟΙ. Φεῦ φεῦ.オイディプス(歌う) いやだいやだ。
ΧΟ. Πείθου· κἀγὼ(ἐγώ πείθομαι) γὰρ ὅσον σὺ προσχρῄζεις.アッティカの老人たち(歌う) わしの願いを聞いてくれ。わたしもあなたの願いは何でも聞いてやるから。
ΟΙ. Ἤνεγκον κακότατ', ὦ ξένοι, ἤνεγκον ἑκών μέν, θεὸς ἴστω· ---Ant. 1.オイディプス(歌う) 土地の人よ、わしは不幸に耐えた、自分から不幸に耐えたのだ、それは神も知れ。しかし、やったことは一つとして自分からやったことはない。
ΧΟ. Ἀλλ' ἐς τί;アッティカの老人たち(歌う) やったこととはどういうことだ。
525 ΟΙ. Κακᾷ μ' εὐνᾷ πόλις οὐδὲν ἴδρις(知って)オイディプス(歌う) テーバイの町が何も知らずにわしに間違った妻と忌まわしい結婚をさせたのだ’。
ΧΟ. Ἦ ματρόθεν, ὡς ἀκούω,アッティカの老人たち(歌う) 噂のように、あなたは自分の母親と忌まわしい結婚をしたのか。
ΟΙ. Ὤμοι, θάνατος μὲν τάδ' ἀκούειν,オイディプス(歌う) ああ、嘆かわしい。土地の人よ、それを耳にするのは死ぬことだ。この二人の娘はわしの―
ΧΟ. Πῶς φῄς;アッティカの老人たち(歌う) 何と言われる。
ΟΙ. παῖδε, δύο δ' ἄτα ‑オイディプス(歌う) 二人の呪わしい娘たち―
ΧΟ. Ὦ Ζεῦ.アッティカの老人たち(歌う) ああ、神よ。
ΟΙ. ματρὸς κοινᾶς(女属) ἀπέβλαστον(ア3pl芽を出す) ὠδῖνος(属 陣痛).オイディプス(歌う) わしの母の腹から生まれたのだ。
ΧΟ. Σοί γ' ἆρ᾽ ἀπόγονοί(子孫) τ' εἰσὶ καὶ ‑ ---Str. 2.アッティカの老人たち(歌う) 彼女たちはあなたの子どもであると同時に―
535 ΟΙ. Κοιναί γε πατρὸς ἀδελφεαί.オイディプス(歌う) 父と同じ母から生まれた父の姉妹でもある。
ΧΟ. Ἰώ. ΟΙ. Ἰὼ δῆτα μυρ-ίωνアッティカの老人たち(歌う) ああ恐ろしい。オイディプス(歌う) ああ恐ろしい。
γ' ἐπιστροφαὶ(新たな攻撃) κακῶν.罪の数々にまた襲われる。
ΧΟ. Ἔπαθες ΟΙ. Ἔπαθον ἄλαστ'(耐えられない) ἔχειν.‑アッティカの老人たち(歌う) 苦しいのか。オイディプス(歌う) 耐え難い苦しみだ。
ΧΟ. Ἔρεξας ‑ ΟΙ. Οὐκ ἔρεξα. ΧΟ. Τί γάρ; ΟΙ. Ἐδεξάμηνアッティカの老人たち(歌う) 犯した罪がか。オイディプス(歌う) 罪は犯していない。アッティカの老人たち(歌う) どうしてだ。オイディプス(歌う) 褒美だった、
540 δῶρον ὃ μήποτ' ἐγὼ ταλακάρδιος(苦しみに満ちた)町を救ったときに間違って受け取ったものだが、苦しみのもとになった。
ΧΟ. Δύστανε, τί γάρ(それでは); ἔθου(行う) φόνον ‑-- Ant. 2.アッティカの老人たち(歌う) 不幸な人だ、ほかに、殺しを―
ΟΙ. Τί τοῦτο; τί δ' ἐθέλεις μαθεῖν;オイディプス(歌う) 何のことだ。何を知りたい。
ΧΟ. πατρός; ΟΙ. Παπαῖ, δευτέραν ἔπαισας, ἐπὶ νόσῳ(苦痛) νόσον.アッティカの老人たち(歌う) 父親を殺したのか。オイディプス(歌う) ああ、苦しみに苦しみの追い打ちだ。
545 ΧΟ. Ἔκανες ‑ ΟΙ. Ἔκανον. Ἔχει δέ μοι ‑アッティカの老人たち(歌う) あなたは人殺しか。オイディプス(歌う) そうだが、
ΧΟ. Τί τοῦτο; ΟΙ. πρὸς δίκας τι. ΧΟ. Τί γάρ; ΟΙ. Ἐγὼ φράσω·アッティカの老人たち(歌う) 何だ。オイディプス(歌う) 正当だった。アッティカの老人たち(歌う) どうして。オイディプス(歌う) 今から言う。
運命に囚われたわしは父を殺したが、法的には潔白だ。知らぬ間にあんな事になったからだ。
ΧΟ. Καὶ μὴν ἄναξ ὅδ' ἡμὶν Αἰγέως(アイゲウス) γόνοςアッティカの老人 ご覧ください、我らの領主でアイゲウスの子テセウスがあなたの言葉で呼び出されてやってきました。
ΘΗΣΕΥΣテセウス ああ、ライオスの子オイディプスよ、わたしは以前から血まみれの失明のことは多くの人から聞いていたので、あなたのことはすぐにわかった。さらに、いま歩きながらこの目で見てさらに確信を持った。
555 Σκευή(ドレス) τε γάρ σε καὶ τὸ δύστηνον κάραそのみなりと顔からわたしにはあなたがどなたであるか明白だからだ。不幸なオイディプスよ、わたしはあなたに憐れみを感じて、尋ねたい。あなたでけではなくあなたの付き添いの人は、町とわたしに何を求めて来たのか。教えてほしい。あなたがどんな恐ろしいことをお求めになっても、わたしはそこから逃げることはない。
ὃς οἶδα καὐτὸς ὡς ἐπαιδεύθην ξένος,わたしはあなたと同じように自分が外国人としてわたしは異国の地で育ったことを知っている。わたしはまた異国の地で誰も経験したのないような命の危険と戦った。だから、あなたのような外国人を助けるすることに決してやぶさかではないつもりだ。なぜなら、わたしも一人のはかない人間であり、明日にはわたしもあなたと同じようになるやも知れないからだ。
ΟΙ. Θησεῦ, τὸ σὸν γενναῖον ἐν σμικρῷ λόγῳオイディプス テセウスよ、短いが品の良いあなたの言葉のおかげで簡単に話すことができる。
σὺ γάρ μ' ὅς εἰμι κἀφ' ὅτου πατρὸς γεγὼςわたしが誰でありわたしの父は誰でありどこの国から来たかは的確に話してくれたから、私の望みだけを話させてもらおう。それだけで十分だ。
575 ΘΗ. Τοῦτ' αὐτὸ νῦν δίδασχ', ὅπως ἂν ἐκμάθω.テセウス わたしがわかるようにそのことを話してほしい。
ΟΙ. Δώσων ἱκάνω τοὐμὸν ἄθλιον δέμαςオイディプス わしはこの見た目の良くない哀れな肉体をあなたに贈り物として与えるために来たのだ。それは美しい肉体よりも大きな利益となる。
ΘΗ. Ποῖον δὲ κέρδος ἀξιοῖς ἥκειν φέρων;テセウス どのような利益をもたらすつもりでおられるのか。
580 ΟΙ. Χρόνῳ μάθοις ἄν, οὐχὶ τῷ παρόντι που.オイディプス そのうち教えて差し上げるが今はできない。
ΘΗ. Ποίῳ γὰρ ἡ σὴ προσφορὰ(提供) δηλώσεται;テセウス というと、その贈り物を頂けるのはいつになるのですか。
ΟΙ. Ὅταν θάνω 'γὼ καὶ σύ μου ταφεὺς(墓掘り人) γένῃ.オイディプス わしが死んで、あなたがわしの墓を作ってくれればすぐにでも。
ΘΗ. Τὰ λοίσθι'(最後) αἰτῇ τοῦ βίου, τὰ δ' ἐν μέσῳテセウス すると、あなたが求めているのは死に際のことで、生きている間のことは構わないのですね。
585 ΟΙ. Ἐνταῦθα γάρ μοι κεῖνα συγκομίζεται.オイディプス そうだ、それで全てが得られるのだ。
ΘΗ. Ἀλλ' ἐν βραχεῖ δὴ τήνδε μ' ἐξαιτῇ χάριν.テセウス なに、そんな頼みなら実に簡単だ。
ΟΙ. Ὅρα γε μήν· οὐ σμικρός, οὔχ, ἁγὼν ὅδε.オイディプス いや、よく考えてくれ。この争いはけっして簡単ではない。
ΘΗ. Πότερα τὰ τῶν σῶν ἐκγόνων ἢ τοῦ λέγεις;テセウス あなたの息子たちの事を言っておられるのか。それとも誰のことなのか。
ΟΙ. Κεῖνοι κομίζειν κεῖσ' ἀναγκάζουσί με.オイディプス 奴らはわしをかの地に戻すように言って来るだろう。
590 ΘΗ. Ἀλλ', εἰ θέλοντά γ'; οὐδὲ σοὶ φεύγειν καλόν.テセウス だが、もしよければ、あなたも戻るのがよろしい。
ΟΙ. Ἀλλ' οὐδ', ὅτ' αὐτὸς ἤθελον, παρίεσαν.オイディプス わしが戻りたかった時には、彼らはそれを許さなかったのだ。
ΘΗ. Ὦ μῶρε, θυμὸς δ' ἐν κακοῖς οὐ ξύμφορον.テセウス 馬鹿な人だ。こんな不幸な状態で意地をはっても仕方がないのに。
ΟΙ. Ὅταν μάθῃς μου, νουθέτει· τανῦν δ' ἔα.オイディプス 何も聞かないうちは黙っていてもらいたい。
ΘΗ. Δίδασκ'· ἄνευ γνώμης γὰρ οὔ με χρὴ λέγειν.テセウス 教えてもらおう。知らない私がとやかく言うべきではなさそうだ。
595 ΟΙ. Πέπονθα, Θησεῦ, δεινὰ πρὸς κακοῖς κακά.オイディプス テセウスよ、わしは苦難の上にまた恐ろしい苦難に見舞われたのだ。
ΘΗ. Ἦ τὴν παλαιὰν ξυμφορὰν γένους ἐρεῖς;テセウス 一族の者たちの昔の不幸のことか。
ΟΙ. Οὐ δῆτ', ἐπεὶ πᾶς τοῦτό γ' Ἑλλήνων θροεῖ.オイディプス そうではない。それならギリシアじゅうに響き渡っている。
ΘΗ. Τί γὰρ τὸ μεῖζον ἢ κατ' ἄνθρωπον νοσεῖς;テセウス というと、その人並外れた苦しみとは何だ。
ΟΙ. Οὕτως ἔχει μοι· γῆς ἐμῆς ἀπηλάθηνオイディプス こういうことだ。わしは息子たちに自分の国から追放されたのだ。父殺しは祖国には二度と戻れないのだ。
ΘΗ. Πῶς δῆτά σ' ἂν πεμψαίαθ'(3pl), ὥστ' οἰκεῖν δίχα;テセウス では、あなたと一緒に暮らさないのに、どうしてあなたを呼び戻そうとするのか。
ΟΙ. Τὸ θεῖον αὐτοὺς ἐξαναγκάσει στόμα.オイディプス 神の言葉のせいでそうせざるを得なくなっているのだ。
ΘΗ. Ποῖον πάθος δείσαντας ἐκ χρηστηρίων;テセウス 神託の何を恐れているのだ。
605 ΟΙ. Ὅτι σφ' ἀνάγκη τῇδε πληγῆναι χθονί.オイディプス 彼らはこの地で敗れる運命なのだ。
ΘΗ. Καὶ πῶς γένοιτ' ἂν τἀμὰ κἀκείνων πικρά;テセウス それで彼らの災難がどうしてわたしの災難になるというのだ。
ΟΙ. Ὦ φίλτατ' Αἰγέως παῖ, μόνοις οὐ γίγνεταιオイディプス ああ、親愛なるアイゲウスの子よ、神々には死も老いもないが、万能の時はほかのことには容赦がない。肉体の力が衰えるように、国家の力も衰える。
θνῄσκει δὲ πίστις, βλαστάνει δ' ἀπιστία,信用が失われ不信が芽生える、友人たちの間でもポリスとポリスの間でも同じ気持ちは続かない。
τοῖς μὲν γὰρ ἤδη(すぐに), τοῖς δ' ἐν ὑστέρῳ χρόνῳ(しばらくして)あるいはすぐに、あるいはしばらくして、暖かい気持ちが冷たくなりまた親しくなる。テーバイとアテナイの間もいま友好的であっても、無限の時が進むにつれて無限の夜と昼を生み出して、
ἐν αἷς τὰ νῦν ξύμφωνα(調和して) δεξιώματα(約束)いま友好的な合意がささいな理由から反故にされて戦いが起こる。
ἵν' οὑμὸς εὕδων καὶ κεκρυμμένος νέκυςそして、ゼウスがなおもゼウスでありゼウスの子アポロンが真実を語るならば、埋葬されて眠っている冷たいわしの骸(むくろ)は彼らの熱い血を吸うのだ。
Ἀλλ' οὐ γὰρ αὐδᾶν ἡδὺ τἀκίνητ'(触れてはならぬ) ἔπη,しかし、言ってはならないことを言うのは辛いことだ。だから始めたばかりだが、話はここでやめさせてもらう、ただ約束は必ず守っていただきたい、オイディプスをこの地に受け入れて住まわせたものは無駄だったとは決して言わせませぬ、仮にも神が私をたぶらかしているのでなければ、
ΧΟ. Ἄναξ, πάλαι καὶ ταῦτα καὶ τοιαῦτ'(他にそのような) ἔπηアッティカの老人 殿、この方は最前からこの国に対してこのようなことを言っておられますから、きっと実行するつもりだと思われます、
ΘΗ. Τίς δῆτ' ἂν ἀνδρὸς εὐμένειαν(親切) ἐκβάλοι(拒否)テセウス わたしはこのような人の親切な申し出を断るつもりはない。第一にわたしたちの友愛のかまどはこんな人のために常に開かれているからであり、第二に神々の嘆願者としてやってきたこの人はこの国と私に少なからぬ返礼をすると言っているからだ。
Ἁγὼ σέβας θεὶς οὔποτ' ἐκβαλῶ χάρινこういうことを尊重して私はこの人の好意を決してなおざりにはせず、この地に市民として住んでいただくつもりだ
Εἰ δ' ἐνθάδ' ἡδὺ τῷ ξένῳ μίμνειν, σέ νινもしこの旅人がここに留まりたいと言うなら、この人を見守ることをお前に命じる。あるいは、わたしとともに町に行くこともできる。オイディプスよ、この中からあなたが望むほうを選ぶことを許そう。わたしはあなたのしたいようにする。
ΟΙ. Ὦ Ζεῦ, διδοίης τοῖσι τοιούτοισιν εὖ.オイディプス ああ、ゼウスよ、このような人に幸運を与えたまえ。
ΘΗ. Τί δῆτα χρῄζεις; ἦ δόμους στείχειν ἐμούς;テセウス それでどうしたいのだ。わたしの家に来たいか。
ΟΙ. Εἴ μοι θέμις γ' ἦν· ἀλλ' ὁ χῶρός ἐσθ' ὅδε ‑オイディプス 許されるならそうしたいところだが、わしの場所はここだ。
645 ΘΗ. Ἐν ᾧ τί πράξεις; οὐ γὰρ ἀντιστήσομαι(反対する)·テセウス ここで何をする気だ。何をしても反対しない。
ΟΙ. ἐν ᾧ κρατήσω(征服) τῶν ἔμ' ἐκβεβληκότων(追放した) ‑オイディプス わしを追放した者たちにここで打ち勝つのだ。
ΘΗ. Μέγ' ἂν λέγοις δώρημα τῆς ξυνουσίας(交際).テセウス あなたがいっしょに居てくれるとは、それはまた大変な贈り物だ
ΟΙ. εἰ σοί γ' ἅπερ φῂς ἐμμενεῖ(3s) τελοῦντί μοι.オイディプス あなたは言ったことは実行されるのなら、
ΘΗ. Θάρσει τὸ τοῦδέ γ' ἀνδρός· οὔ σε μὴ προδῶ.テセウス 私については大丈夫です、あなたを裏切ることはありません。
650 ΟΙ. Οὔτοι σ' ὑφ' ὅρκου γ' ὡς κακὸν πιστώσομαι(誓いで縛る).オイディプス あなたのような立派な人に誓わせるつもりはない。
ΘΗ. Οὔκουν πέρα γ' ἂν οὐδὲν ἢ λόγῳ φέροις.テセウス 私の言葉以上に確かなものはない。
ΟΙ. Πῶς οὖν ποιήσεις; ΘΗ. Τοῦ μάλιστ' ὄκνος σ' ἔχει;オイディプス それでは、どうすると言うのか。テセウス あなたは何をそんなに心配しているのか。
ΟΙ. Ἥξουσιν ἄνδρες ‑ ΘΗ. Ἀλλὰ τοῖσδ' ἔσται μέλον(任されている).オイディプス 奴らが今にやってきて…。テセウス うむ、それはこいつらに任せている。
ΟΙ. Ὅρα με λείπων ‑ ΘΗ. Μὴ δίδασχ' ἃ χρή με δρᾶν.オイディプス 気をつけられよ、わたしを置いて…。テセウス 私のすべきことは分かっている。
655 ΟΙ. Ὀκνοῦντ' ἀνάγκη ‑ ΘΗ. Τοὐμὸν οὐκ ὀκνεῖ(3s) κέαρ.オイディプス わしが不安になるのは当然だ。テセウス 私には何の心配もないぞ。
ΟΙ. Οὐκ οἶσθ' ἀπειλάς ‑ ΘΗ. Οἶδ' ἐγώ σε μή τιναオイディプス 危険が迫っているのをご存知ない…。テセウス わたしの意に反してあなたをここから無理やり連れて行こうとする人などいないことは確かだ。
脅しを受けると人はとやかくいらだって騒ぎ立てたくなるものだが、冷静になって考えてみれば、恐ろしいことは何もない、彼らがたとえあなたを連れ帰ると大口を叩いても、そこに至るまでに大海が姿を現して超えることは出来ないことは明らかだ。アポロンがあなたをこの地に送り出したのでしたら、わたしがこんなことを言わなくても、あなたは安心しておられるとよい。わたしがここにいなくても、わたしの名前だけであなたを災難から守れることは確かなのですから。
第一スタシモンアッティカの老人たち(歌う) 客人よ、良い馬の産地であるこの国の一番うるわしい社、ま白きコロノスにあなたは来た。そこは鋭い鳴き声の小夜鳴鳥が緑の谷で鳴き声を響かせる。鳥は日の差さぬ人の嵐の風も入らぬ人跡のまれでぶどう色の木蔦の多産な葉叢(はむら)の木陰に住んでいる。そこではいつも恍惚としたバッカスが現れては、神の乳母をさまよっている。
Θάλλει(花咲く) δ' οὐρανίας ὑπ' ἄ-χνας(雫) ---Ant. 1.大空の雫のおかげで水仙が美しい房をつけて毎日花を咲かせて、偉大な女神(=デメテルとコレ)のいにしえの花冠となり、またクロッカスの花も咲いて金色に輝く。泉は衰えずにケーフィソスの流れとなってさまよい、毎日広大な大地を純粋な水で潤しながら、この土地の上に溢れていく。ミューズのコーラスも金の手綱のアフロディテもこの地を愛でたまう。
695Ἔστιν δ' οἷον ἐγὼ γᾶς Ἀσίας οὐκ ἐπακούω,---Str. 2.ここにはアジアの地にもドリスのペロプスの巨大な島(ペロポネソス半島)にもかつて育つと聞かぬものあり。人の手をへず自生する木、敵の槍には恐怖の的となり、この島に繁茂して子供たちを育てる緑輝くオリーブの葉叢なり。
Ἄλλον δ' αἶνον(称賛) ἔχω ματροπόλει(母国) τᾷδε κράτιστον,---Ant. 2.我らが次に母国を称えるべきは、偉大な神の贈り物、この地の大きな誇り、馬と子馬と海の支配なり。クロノスの子よ、主ポセイドンよ、汝こそアテナイをこの誇りある地位に確立せり。この道に馬を馴らせる手綱を教えることによって。また、上手に漕い櫂がネレウスの百の足の娘たちのダンスを追って翔ぶがごとくに走るなり。
第二エペイソディオンアンティゴネ ああ、称賛の言葉でこの上なく讃えられし地方よ、この輝かしい言葉をいまこそ行動で表すのが汝の使命なり。
ΟΙ. Τί δ' ἔστιν, ὦ παῖ, καινόν; ΑΝ. Ἆσσον ἔρχεταιオイディプス 娘よ、何があったのだ。アンティゴネ 近くまで来ています、
お父さま、わたしたちのところへあのクレオンさまが家来も連れずにお一人で。
ΟΙ. Ὦ φίλτατοι γέροντες, ἐξ ὑμῶν ἐμοὶオイディプス ああ、親切な老人たちよ、いまこそわしを守るという約束を果たしてくだされ。
ΧΟ. Θάρσει, παρέσται(未). Καὶ γάρ, εἰ γέρων ἐγώ,アッティカの老人 大丈夫、守ります。わたしは老人ですが、この国の力は老いてはおりません。
ΚΡΕΩΝクレオン この国の由緒正しき住人たちよ、あなた達の表情からわたしの到着に対して何らかの恐怖を急にいだいておられる様子が見えますが、心配したり非難したりしてはいけません。
Ἥκω γὰρ οὐχ ὡς δρᾶν τι βουληθείς, ἐπεὶわたしは何かの企みを持って来たのではありません。わたしも年老いていますし、ギリシアの中でも国力を誇る国に来たことを知っているからです。
735 ἀλλ' ἄνδρα τόνδε τηλικόσδ' ἀπεστάληνただわたしはこの歳でありながら、この人にカドモスの地についてくるように説得するために派遣されたのです。一人の指図によるのではなく国民全員の命令で来たのです。わたしは一族の者として国民の誰よりもこの人の苦難を悲しんでいるからです。
740 Ἀλλ', ὦ ταλαίπωρ' Οἰδίπους, κλυών ἐμοῦさあ、不幸なオイディプス殿、わたしの言うことを聞いて家へお帰りなさいませ。正当にもテーバイの国の人々があなたを呼んでいる。なかでもわたしが一番熱心に呼んでいる。[わたしは極悪人ではないのだから、なおさらそうだ。]ご老人、わたしはあなたの不幸を誰よりも悲しんでいるのだ。
745 ὁρῶν σε τὸν δύστηνον ὄντα μὲν ξένον,見れば不幸なあなたは異国に来て彷徨い続けている。付き添いは一人だけで食べるものにも困って乞食暮らしをしている。この娘がこれほど悲惨な境遇にまで落ちているとは思いもよらなかった。かわいそうに乞食ぐらしをしながらあなたの世話を続けているが、あの年でまともな結婚も知らずに、どこの馬の骨とも知れない男の餌食になるとも知れないありさまだ。
Ἆρ' ἄθλιον τοὔνειδος, ὦ τάλας ἐγώ,ああ、嘆かわしい。これは何とも不名誉なことではないか。これはあなたとわたしと一族全員に向けられた侮辱である。
755 ἀλλ', οὐ γὰρ ἔστι τἀμφανῆ κρύπτειν, σύ νυνこんなに人目についてはこんな恥辱を隠すことも出来ない。オイディプス殿、あなたの父祖の神々の名にかけて、お願いする。いまこそわたしの言うとおりにして、自から進んで故郷の父祖の家に帰ってきて、こんな恥辱を人前に晒すことをやめてもらいたい。この国とは丁重にお別れするのがよいでしょう。しかし、祖国はあなたを育ててくれたのだから、祖国をもっと大事になされませ。
ΟΙ. Ὦ πάντα τολμῶν κἀπὸ παντὸς ἂν φέρωνオイディプス このいけ図々しい男め、どんな正当な理由からも狡猾な策略を引き出すやつだな。わしをもう一度捕まえようなどとは、何が目当てでこんなことをするのだ。もしわしがお前に捕まったりしたらわしは慚愧の至りだろうよ。
765 Πρόσθεν τε γάρ με τοῖσιν οἰκείοις κακοῖςかつてわしが家族の不幸で狂っていたときにはあの国を去ることがわしの望みだったのに、お前はわしの願いを叶えようとしなかった。ところが、わしが狂乱に満ち足りて屋敷での暮らしを好むようになったときに家から追い出されて追放されたのだ。お前にはこの身内に対してまったく愛着がなかった。
νῦν τ' αὖθις, ἡνίκ' εἰσορᾷς πόλιν τέ μοιところが今頃になってこの町とこの町のすべての人々がわしに好意的になったと見ると、またわしを元に戻そうとしている。酷いことをまるでいいことのように言ってな。しかし、嫌がる人間を親切に迎えることに何の喜びがあるのだ。
ὥσπερ τις εἴ σοι λιπαροῦντι(頼む) μὲν τυχεῖνたとえば、お前が何かを手に入れたいと望んでいるときにお前を助けず何も与えなかったのに、お前が望むものを手に入れて満足しているときに与えようと言い出されても、感謝することはないだろう。お前ならこんな無意味な喜びを手に入れようと思うだろうか。
τοιαῦτα μέντοι καὶ σὺ προσφέρεις ἐμοί,お前がわしに言い出したことはそういうことなのだ。言葉としては立派だが、やっていることは下卑ている。
Φράσω δὲ καὶ τοῖσδ', ὥς(so that) σε δηλώσω κακόν.わしがこれからいうことも、この人たちにお前が卑劣な人間であることを示すためだ。お前がわしを連れに来たのはわしを屋敷に戻すためではない。わしを近くに住まわせて、町がこの国から害を受けずに無事に暮らせるようにするためなのだ。
Οὐκ ἔστι σοι ταῦτ', ἀλλά σοι τάδ' ἔστ', ἐκεῖだがそうはいかずに、次のようになるのだ。彼の地にはわしの呪いが永遠に住み着くだろう。わしの息子たちがわしの国を継いで手に入れる土地はそこで死ぬだけの場所になる。
Ἆρ' οὐκ ἄμεινον ἢ σὺ τἀν Θήβαις φρονῶ;テーバイの運命についてはお前よりわしの方がよく知っているのではないか。アポロンとその父であるゼウス自身という最も確かなところから聞いているだけになおさらだ
Τὸ σὸν δ' ἀφῖκται δεῦρ' ὑπόβλητον(嘘の) στόμα,お前は舌鋒鋭く見事なつくり話をしてみせたが、いくら喋ったところで手に入るのは救いではなく災いばかりだ
Ἀλλ' οἶδα γάρ σε ταῦτα μὴ πείθων, ἴθι,お前は言ってもわかるまい、去るが良い。わしをここに住まわせてもらいたい。このような身なりでも、喜びが得られるならわしは幸福なのだ。
800 ΚΡ. Πότερα νομίζεις δυστυχεῖν ἔμ' ἐς τὰ σὰ,クレオン そんな事を言ってわたしとあなたのどちらが困ると思っているのかね。
ΟΙ. Ἐμοὶ μέν ἐσθ' ἥδιστον εἰ σὺ μήτ' ἐμὲオイディプス お前がわしとここにいる人たちを説得できないのがわしには愉快でたまらんのじゃ。
ΚΡ. Ὦ δύσμορ', οὐδὲ τῷ χρόνῳ φύσας φανῇクレオン かわいそうに、年はとっても賢くなるどころか、老いて恥辱を重ねているだけだと知られてもいいのか。
ΟΙ. Γλώσσῃ σὺ δεινός· ἄνδρα δ' οὐδέν' οἶδ' ἐγὼオイディプス 口のうまいやつだ。だが、そんなやつに正しい人間はいない。
ΚΡ. Χωρὶς τό τ' εἰπεῖν πολλὰ καὶ τὸ καίρια.クレオン いくら言っても分からないなら仕方がない。
ΟΙ. Ὡς δὴ σὺ βραχέα, ταῦτα δ' ἐν καιρῷ λέγεις.オイディプス お前の言うことは短いが、何が言いたいかよく分かっているぞ。
810 ΚΡ. Οὐ δῆθ' ὅτῳ γε νοῦς ἴσος καὶ σοὶ πάρα.クレオン いいや、お前のような愚か者には分かるまい。
ΟΙ. Ἄπελθ', ἐρῶ γὰρ καὶ πρὸ τῶνδε, μηδέ μεオイディプス 去るがよい。この人たちのかわりにわしが言う。わしはここに住むことになっている。お前に番をしてもらうにはおよばない。
ΚΡ. Μαρτύρομαι τούσδ', οὐ σέ, πρὸς δὲ τοὺς φίλουςクレオン あんたがどんな返事をしたのかについては、あんたではなくこの人たちとわしの仲間たちを証人にする、もしお前を捕まえて…。
815 ΟΙ. Τίς δ' ἄν με τῶνδε συμμάχων ἕλοι βίᾳ;オイディプス ここにいる人たちはわしの味方だ。誰がわしを捕まえるものか。
ΚΡ. Ἦ μὴν σὺ κἄνευ τοῦδε λυπηθεὶς ἔσῃ.クレオン そんな事はせずとも、お前を痛い目に遭わせてやる。
ΟΙ. Ποίῳ σὺν ἔργῳ τοῦτ' ἀπειλήσας ἔχεις;オイディプス そんな脅し文句でわしに何をするつもりだ。
ΚΡ. Παίδοιν δυοῖν σοι τὴν μὲν ἀρτίως ἐγὼクレオン お前の娘のうちの一人はもう捕まえて連れて行っている。もう一人も時間の問題だ。
820 ΟΙ. Οἴμοι. ΚΡ. Τάχ' ἕξεις μᾶλλον οἰμώζειν τάδε.オイディプス ああ、嘆かわしい。クレオン すぐにもっとその嘆き声を上げることになるぞ。
ΟΙ. Τὴν παῖδ' ἔχεις μου; ΚΡ. Τήνδε τ' οὐ μακροῦ χρόνου.オイディプス わしの娘を捕まえたのか。クレオン この娘もすぐに。
ΟΙ. Ἰὼ ξένοι, τί δράσετ'; ἦ προδώσετε,オイディプス おお、土地の人たちよ、これをどうなされる。わしを見捨てるのか。この土地に不敬を働くものを追い出さないのか。
ΧΟ. Χώρει, ξέν', ἔξω θᾶσσον· οὔτε γὰρ τὰ νῦνアッティカの老人 よそ者よ、早く出ていけ。お前のいまの行いも以前の行いも間違っている。
ΚΡ. Ὑμῖν ἂν εἴη τήνδε καιρὸς ἐξάγεινクレオン もしこの娘が進んで付いてこなければ、いやがるこの娘を我々が連れ出すだけだ。
ΑΝ. Οἴμοι τάλαινα, ποῖ φύγω(逃げる); ποίαν λάβωアンティゴネ ああ、どうしましょう。どこへ逃げたらいいの。誰の助けを求めればいいの、神さまか人々か。アッティカの老人 このよそ者め、何をする。
830 ΚΡ. Οὐχ ἅψομαι(つかむ) τοῦδ' ἀνδρός, ἀλλὰ τῆς ἐμῆς.クレオン 捕まえるのはこの男ではない。わたしの娘として捕まえるのだ。
ΟΙ. Ὦ γῆς ἄνακτες. ΧΟ. Ὦ ξέν', οὐ δίκαια δρᾷς.オイディプス ああ、土地の人たちよ。アッティカの老人 よそ者め、それは悪いことだ。
ΚΡ. Δίκαια. ΧΟ. Πῶς δίκαια; ΚΡ. Τοὺς ἐμοὺς ἄγω.クレオン 悪いことではない。アッティカの老人 どうして。クレオン わたしの家族を連れて行くからだ。
コンモスオイディプス(歌う) ああ、町よ
ΧΟ. Τί δρᾷς, ὦ ξέν'; οὐκ ἀφήσεις; τάχ' εἰςアッティカの老人たち(歌う) よそ者よ、何をする。離さないか。そのうち痛い目にあうことになるぞ。
ΚΡ. Εἴργου(控える). ΧΟ. Σοῦ μὲν οὔ, τάδε γε μωμένου.クレオン(歌う) 下がれ。アッティカの老人たち(歌う) そうはいかない。お前がそんなことを企んでいるからには。
ΚΡ. Πόλει μάχῃ γάρ, εἴ τι πημανεῖς(傷つける) ἐμέ.クレオン(歌う) わたしの身に何かあれば、国が相手の戦争になるぞ。
ΟΙ. Οὐκ ἠγόρευον ταῦτ' ἐγώ; ΧΟ. Μέθες χεροῖνオイディプス(歌う) それはわしが言わなかったか。アッティカの老人たち(歌う) 手を離せ、
τὴν παῖδα θᾶσσον. ΚΡ. Μὴ 'πίτασσ' ἃ μὴ κρατεῖς.早くその娘から。クレオン(歌う) わたしはあなたの部下ではない命令するな。
840 ΧΟ. Χαλᾶν(解放する) λέγω σοι. ΚΡ. Σοὶ δ' ἔγωγ' ὁδοιπορεῖν(行く).アッティカの老人たち(歌う) 手を離せと言っている。クレオン(歌う) おいお前、帰るぞ。
ΧΟ. Πρόβαθ' ὧδε, βᾶτε, βᾶτ', ἔντοποι·アッティカの老人たち(歌う) 土地の人たちよ、こちらへ来い、こちらへこちらへ。町が侵されている。我らの町が腕ずくで、さあこちらへ。
ΑΝ. Ἀφέλκομαι(連れ去られる) δύστηνος, ὦ ξένοι, ξένοι.アンティゴネ 土地の人、土地の人、いやよ、わたしはさらわれる。
845 ΟΙ. Ποῦ, τέκνον, εἶ μοι; ΑΝ. Πρὸς βίαν πορεύομαι.オイディプス 娘よ、どこにいる。アンティゴネ 力ずくでさらわれる。
ΟΙ. Ὄρεξον, ὦ παῖ, χεῖρας. ΑΝ. Ἀλλ' οὐδὲν σθένω.オイディプス 娘よ、手を伸ばせ。アンティゴネ もうできないわ。
ΚΡ. Οὐκ ἄξεθ' ὑμεῖς; ΟΙ. Ὦ τάλας ἐγώ, τάλας.クレオン 連れて行け。オイディプス 情けない、情けない。
ΚΡ. Οὔκουν ποτ' ἐκ τούτοιν γε μὴ σκήπτροιν ἔτιクレオン あんたはもう彼女たちを頼り杖代わりにして歩くことは出来ない。わたしはわたしはすでに王の身分でありながら、あんたの祖国とあんたの親族に頼まれてこの役目を果たしにやってきた。あんたはその祖国と親族に対して勝利を得ようとするのなら、そうなさるがよい。なぜなら今にあなたは気が付くはずだ。あんたは身内の忠告に耳を貸さずに我を押し通して、いまやっていることも、以前にやったことも間違いだったと。我を通したばかりにいつも破滅するのだと。
ΧΟ. Ἐπίσχες αὐτοῦ, ξεῖνε. ΚΡ. Μὴ ψαύειν λέγω.アッティカの老人 よそ者よ、ここで止まれ。クレオン わたしにさわるなと言っているだろう。
ΧΟ. Οὔτοι σ' ἀφήσω, τῶνδέ γ' ἐστερημένος.アッティカの老人 いいや、この子たちをさらったからにはお前を離さない。
ΚΡ. Καὶ μεῖζον ἆρα ῥύσιον(代償) πόλει τάχαクレオン そんなことをすればもっと大きな代償をテーバイの町に支払うことになるぞ。二人の娘たちだけでは済まなくなるぞ。
860 ΧΟ. Ἀλλ' ἐς τί τρέψῃ; ΚΡ. Τόνδ' ἀπάξομαι λαβών.アッティカの老人 何とをしようというのだ。クレオン この男を捕まえて人質にさせてもらう。
ΧΟ. Δεινὸν λέγεις σύ. ΚΡ. Τοῦτο νῦν πεπράξεται,アッティカの老人 恐ろしいことを言う。クレオン これはすぐに実行に移される。この国の支配者に妨害されなければの話だが。
ΟΙ. Ὦ φθέγμ' ἀναιδές, ἦ σὺ γὰρ ψαύεις ἐμοῦ;オイディプス なんと恥知らずなことを言う。本当にわしを捕まえるつもりなのか。
ΚΡ. Αὐδῶ σιωπᾶν. ΟΙ. Μὴ γὰρ αἵδε δαίμονεςクレオン 静かにしろ。オイディプス いやここの女神たちがそうはさせないぞ。
わしは貴様を呪ってやるわい。この悪魔め、目を失ったわしの目となってくれている大切な娘を連れ去ったからには、お前もお前の一族たちも、全てをみそなわす太陽神が私と同じような惨めな老年を迎えさせてくれよう。
ΚΡ. Ὁρᾶτε ταῦτα, τῆσδε γῆς ἐγχώριοι;クレオン この地の人々よ、これを見られたか
ΟΙ. Ὁρῶσι κἀμὲ καὶ σέ, καὶ φρονοῦσ' ὅτιオイディプス 見ているとも、わしとお前をな、そして思っているだろう、わしが暴力に対して言葉で仕返しをしていると。
ΚΡ. Οὔτοι καθέξω θυμόν, ἀλλ' ἄξω βίᾳ.クレオン もう我慢がならん。わし一人でも老体に鞭打って、こやつを力づくで連れて去ってやる
コンモスオイディプス(歌う) ああ、なさけない。
ΧΟ. Ὅσον λῆμ'(傲慢) ἔχων ἀφίκου, ξέν', εἰアッティカの老人たち(歌う) よそ者よ、何と思い上がった考えで来たものだ。そんなことをやれると思うとは。
ΚΡ. Δοκῶ. ΧΟ. Τάνδ' ἄρ' οὐκέτι νεμῶ(みなす) πόλιν.クレオン(歌う) やれるとも。アッティカの老人たち(歌う) それならここはポリスとは見做せない。
880 ΚΡ. Τοῖς τοι δικαίοις χὠ βραχὺς νικᾷ μέγαν.クレオン(歌う) 正義は弱者を強者に勝たしめる
ΟΙ. Ἀκούεθ' οἷα φθέγγεται; ΧΟ. Τά γ' οὐ τελεῖ,オイディプス(歌う) 聞いたか、この言いぐさを。アッティカの老人たち(歌う) そんなことはできはしない。神はご存知のはずだ。クレオン(歌う) 神はそうかもしれないが、あなたはそうはいかぬ。
ΧΟ. Ἆρ' οὐχ ὕβρις τάδ'; ΚΡ. Ὕβρις, ἀλλ' ἀνεκτέα.アッティカの老人たち(歌う) これは傲慢ではないか。クレオン(歌う) 傲慢でも我慢してもらおう。
ΧΟ. Ἰὼ πᾶς λεώς, ἰὼ γᾶς πρόμοι,アッティカの老人たち(歌う) ああ、すべての国民よ、この国の指導者たちよ、早く来い。早く来い。こいつらは国境いを越えてきているぞ。
ΘΗ. Τίς ποθ' ἡ βοή; τί τοὔργον; ἐκ τίνος φόβου ποτὲテセウス この声は何だ。何が起こっている。わたしはコロノスの守護神ポセイドンの祭壇で家畜を犠牲にお供えしていところだが、そのわたしを邪魔するあなたたちは何を恐れているのだ。すべてを知るために話してくれ。そのためにここまで無理をして急いできたのだ。
ΟΙ. Ὦ φίλτατ', ἔγνων γὰρ τὸ προσφώνημά(呼びかけ) σου,オイディプス ああ、あなたですか。あなたの声はわかります。いまわしはこの男からひどい目にあっているのです。
ΘΗ. Τὰ ποῖα ταῦτα; τίς δ' ὁ πημήνας(πημαίνω困らせる); λέγε.テセウス 何をされたのですか。あなたをひどい目に合わせたのは誰ですか。言ってください。
ΟΙ. Κρέων ὅδ' ὃν δέδορκας οἴχεται τέκνωνオイディプス あなたの目の前のこのクレオンという男です。わたしの娘をふたりともさらっていったのです。
ΘΗ. Πῶς εἶπας; ΟΙ. Οἷά περ πέπονθ' ἀκήκοας.テセウス 何ということを。オイディプス いまお聞きになったとおりです。
ΘΗ. Οὔκουν τις ὡς τάχιστα προσπόλων μολὼνテセウス 供のものたちの誰か、祭壇にいる人たちを騎士もそうでないものも全員に、犠牲の式典をやめて、旅人が行く二本の道が交差するところへ急行するようにさっさと行って命じて来い。娘たちが行ってしまって、わたしがこのよそ者に暴力で好きなようにされて笑い者になるわけにはいかないのだ。
ἴθ', ὡς ἄνωγα(命ずる), σὺν τάχει. Τοῦτον δ' ἐγώ,急いで行け。もしわたしがこの男に対する怒りからやってきたのなら、この男をわたしはこの手で傷つけてしまうところだった。この男はまさにこの男が拠り所にしてやってきたのと同じ法に従ってもらう。
Οὐ γάρ ποτ' ἔξει(ἔξειμι2s) τῆσδε τῆς χώρας, πρὶν ἂνお前はあの娘たちを連れてきてわたしの目の前に置かないかぎり、この国から出ることはならない。お前はわたしにもお前の生まれにもお前の国にもふさわしくないことをした。お前は正義を実行に移す国、権力が法に基づく国に入り込んで、この国の権威を無視してこうして入り込んで欲しい物を強引に持ち帰って支配下に置いた。そして、この町を無人か奴隷に見立てて、わたしを能無しのごとくに扱った。しかし、お前を悪人にしたてたのはテーバイではない。
920 οὐ γὰρ φιλοῦσιν ἄνδρας ἐκδίκους(無法な) τρέφειν,テーバイの人たちは無法な人間を育てる習慣はない。お前が気の毒な嘆願者を無理やり連れ去って、わたしと神々のものを奪ったと彼らが聞いても、お前を褒めたりしないだろう。わたしならどれほど正当な理由を持っていても、お前の国に入って、
ἄνευ γε τοῦ κραίνοντος(支配者の許可なしに), ὅστις ἦν, χθονὸς誰が支配者だとしてもその人間の許可なしに、人を捕まえたり連れ去ったりはしない。外国人は国民と一緒に暮らすべきものだとわたしなら知っているからだ。
Σὺ δ' ἀξίαν(相応しい) οὐκ οὖσαν αἰσχύνεις πόλινところが、お前には何の権利もなくこの町を辱めたのだ、お前を寄る年並がお前を耄碌させたのだ。
Εἶπον μὲν οὖν καὶ πρόσθεν, ἐννέπω δὲ νῦν,さっきも命じたがもう一度お前に言う。あの娘たちを早くここに連れ戻させるのだ。さもなければ、お前は無理やりこの町に留まってもらうことになる。これは口先だけでお前に言っているのではない、本気で言っているのだ。
ΧΟ. Ὁρᾷς ἵν' ἥκεις, ὦ ξέν'; ὡς ἀφ' ὧν μὲν εἶアッティカの老人 よそ者よ、どうなるかわかっているのか。お前は正しい血筋を持ちながら悪事を犯したことが明らかになっているのだから。
ΚΡ. Ἐγὼ οὔτ' ἄνανδρον(人のいない) τήνδε τὴν πόλιν λέγω,クレオン おお、アイゲウスの子よ、わたしはあなたが言うようにこの町が無人の町だとは思っていないし、わたしのしたこのことは無思慮なことでもない。わたしはアテナイの人たちがわたしの身内に対して決して愛着を持つことはないことも知っている。私の意に反して彼らをかくまうようなことはなかろうと。
Ἤιδη(過去完) δ' ὁθούνεκ' ἄνδρα καὶ πατροκτόνονわたしは知っていた。父親殺しの汚れた男、近親相姦の結婚をして汚れた妻と一緒に住んでいるような男ををあなた達は受け入れないことをだ。
Τοιοῦτον αὐτοῖς(アテナイ人) Ἄρεος εὔβουλον πάγονこの国にはアレオパゴスという裁判所があることをわたしは知っている。その裁判所はこんな放浪者がこの町に住むことは許さないということをね。わたしはアレオパゴスを信用してこの逮捕を行ったのだ。そもそもこの男がわたしとわたしの一族にひどい呪いを掛けたりしたものだから、わたしもこういう強硬手段に出たのだよ。
ἀνθ' ὧν πεπονθὼς ἠξίουν τάδ' ἀντιδρᾶν·わたしは自分がひどい仕打ちを受けたらそれに仕返しをするのは正しいことだと考えてきた。[死んでしまえば何の痛みも感じなくなるけれど、死ぬまで怒りには老いは関係がない。]
Πρὸς ταῦτα πράξεις οἷον ἂν θέλῃς· ἐπεὶこれに対してあなたはしたいようにすればいい。わたしは孤立無援なので正しいことを言ってもここでは弱いが、あなたの行動に対してこの年ではあるが仕返しはさせてもらう。
960 ΟΙ. Ὦ λῆμ(傲慢)' ἀναιδές, τοῦ(誰を) καθυβρίζειν(侮辱する) δοκεῖς,オイディプス おまえはあんなことを口に出して言うとは、何というあきれた恥知らずな男だ。老いたわしを侮辱したつもりだろうが、お前自身を侮辱したことがわからないのか。わしの殺人と結婚と不幸の数々をその口でわざわざ言ってのけるとはな。わしはあんなことを好きでやったのではない、おそらく昔からわしの一族を憎んでおられる神々が望まれたことだったのだ。
Ἐπεὶ καθ' αὑτόν γ' οὐκ ἂν ἐξεύροις ἐμοὶわしが自分と自分の身内に対してあんな過ちを犯すことになったのは何の罰なのか。わしには人から非難されるような落ち度は何もなかったはずだ。だって、教えてほしい。もしわしの父親に神託によって自分の子供に殺されるという予言が下ったとして、それをわしの落ち度にするのがどうして正しいことなのだろうか。わしはまだ父からも母からもまだ生を受けてはおらず、まだまったくこの世に生まれてもいなかったのだ。
Εἰ δ' αὖ φανεὶς(生まれる) δύστηνος, ὡς ἐγὼ 'φάνην,また、不幸にして生まれてしまったわしが父親と小競り合いになって、自分が誰に対して何をしているかまったく知らずに殺してしまったとしても、こんな偶発的な行為について人をを非難することがどうして正しいことでしょうか。
Μητρὸς δέ, τλῆμον, οὐκ ἐπαισχύνῃ γάμουςお前はわしにお前の妹でもある母との結婚のことを話すように強制したことを恥じないのだな。ではその話を今からしよう。こんな汚らわしい話までさせたのはお前だから、わしも黙るわけにはいかない。
Ἔτικτε γάρ μ' ἔτικτεν, ὤμοι μοι κακῶν,お前の妹がわしの母なのはそのとおりだ、ああ、嘆かわしいことだが、そのわしの母が何も知らずに、不名誉なことに、何も知らないわしの子を産んだ。だが一つだけ確かなことがある。お前だけはわしとわしの母の悪口をわかって言っているということだ。わしが彼女を妻にしたのはわかってやったことではないし、この話をするのもわしの意図するところではない。
Ἀλλ' οὐ γὰρ οὔτ' ἐν τοῖσδ' ἀκούσομαι κακὸςしかし、いつもお前が口汚く非難してわしをののしるこの結婚でも父親殺しでも、わしが悪人呼ばわりされる謂われはない。わしの質問にひとつだけ答えてくれ。もし誰かが何の咎もないお前を急に殺しに来たら、その人殺しはお前の父親かどうか質問するのか、それとも即座にやり返すか、どちらなんだ。
995 Δοκῶ μέν, εἴπερ ζῆν φιλεῖς, τὸν αἴτιον(犯人)お前とて生きていたかったら、犯人にやり返すはずだし、それが正しいかどうかなど考えなかったはずだ。そして、わしが陥ったのはまさにこんな抜き差しならぬものだったんだ。しかも神のお導きでな。父がもし生きていたら私の言うことに同意してくれるはずだ。
1000 Σὺ δ', εἶ γὰρ οὐ δίκαιος, ἀλλ' ἅπαν καλὸνところが、お前が悪い人間だから、言っていいことも悪いこともお構いなしに、何を言ってもいいとばかりに、この人たちの前でわしをそんなふうになじるのだ。
Καί σοι τὸ Θησέως ὄνομα θωπεῦσαι(こびる) καλόν,お前がテセウスの名とアテナイの名前にこびるのはよい、アテナイは立派に統治されているからだ。しかし、そうやってしきりに褒めながらもお前は一つのことを忘れている
ὁθούνεκ' εἴ τις γῆ θεοὺς ἐπίσταταιそれは、この町は神を敬うことを並外れてよく知っており、その町からお前は嘆願者のわしを盗み出して捕らえようとし、娘を連れ去ったということだ。
1010Ἀνθ' ὧν ἐγὼ νῦν τάσδε τὰς θεὰς ἐμοὶこのことのためにわしはいまここの女神たちに呼びかけてお願いして、跪いて祈っている。わしの味方になって助けてくれるように、そうしてお前が思い知るようにと、いかなる人たちによってこの町が守られているかを。
ΧΟ. Ὁ ξεῖνος, ὦναξ, χρηστός· αἱ δὲ συμφοραὶ(運命)アッティカの老人 王よ、この旅人はいい人です。この人の運命は破滅的だが、守ってあげるに値します。
ΘΗ. Ἅλις λόγων· ὡς οἱ μὲν ἐξηρπασμένοιテセウス 話はもういい、加害者が急いでいるのに被害者である我々はじっとしているとは。
ΚΡ. Τί δῆτ' ἀμαυρῷ(弱い) φωτὶ προστάσσεις(命ずる) ποεῖν;クレオン このか弱いわたしに何をせよと言われるのか。
ΘΗ. Ὁδοῦ κατάρχειν(先導する) τῆς ἐκεῖ, πομπὸν(付きそい) δ' ἐμὲテセウス あの道を案内をしてくれ、この件でお前を手助けするのは他でもない私である。ここまで大胆なことをやってのけたからにはお前に何の助けも用意もなかったわけではないことは私もよく知っている。こんなことをするには当てになる人間がいるからだ。このことにわたしもよく注意して、一人の男より一つの町の方が弱いということにしないように私が付いて行く。そして、この土地に我々の娘たちがいるなら娘たちを渡してもらわねばならぬ。
εἰ δ' ἐγκρατεῖς φεύγουσιν, οὐδὲν δεῖ πονεῖν·しかし、娘をとらえた者たちがもう逃げてしまっているなら、もはやたやすいことだ。追跡は別の者たちの仕事だ。その者たちから逃げてこの国を出て神にお礼の献げものをすることはできないだろう。さあ、道案内しろ。捕まえたものが捕まえられ、猟師が獲物となるのが運命だ。不正な手段で手に入れたものはけっして手元に残らない。
1034 Νοεῖς τι τούτων, ἢ μάτην τὰ νῦν τέ σοι私の言うことがわかるか、それとも今も以前に計画していたときと同じように無駄なことかな。
ΚΡ. Οὐδὲν σὺ μεμπτὸν(非難すべき) ἐνθάδ' ὢν ἐρεῖς ἐμοί·クレオン ここであなたが何を言おうと私からは何も言うことはない。お返しは帰ってから考えさせてもらう、
ΘΗ. Χωρῶν ἀπείλει νῦν· σὺ δ' ἡμίν, Οἰδίπους,テセウス 脅し文句はみちみち聞かせてもらおう。オイディプスよ、安心してここで待たれよ。わたしがその前に死なないかぎり、あなたの娘たちをあなたのもとに戻すまではわたしが休むことはないことを信じてくれ。
ΟΙ. Ὄναιο(利益を得る), Θησεῦ, τοῦ τε γενναίου χάρινオイディプス ありがとうテセウス、あなたはわしを丁重に扱って正当な配慮をしてくれた。
ΧΟ. Εἴην ὅθι(場所) δαΐων(敵の) ---Str. 1.敵が戻りて武器音高く戦い交えるその場所にわれも立ち会いたし。そこはアポロンに愛されたダフネの街道か、あるいは松明行列で名高きエレウシスの岸辺か。その秘儀は女神デメテルとペルセポネに育くまれて、エウモルポスの子供たちが行い、参加者たちは口外を禁じられている。この国内のきっとそのあたりで戦いを仕掛けたテセウスがすぐに二人の未婚の姉妹を見つけて助け出すことだろう。
ἤ που τὸν ἐφέσπερον(西の) ---Ant. 1.速い馬か戦車で逃げる奴らは、オイアの牧場から出て雪積もるアイガレオス山の西に近づいているか。奴は追いつかれるだろう。このあたりの者たちの戦は力強いし、アテナイの武力も強力だ。馬の轡を輝かせながら、馬術の神アテネと大地を取り巻く大海の守護神ポセイドンを崇める騎士たちが全速力で走る。
Ἔρδουσ' ἢ μέλλουσιν; ὡς ---Str. 2.彼らは戦っているのか、これからか。悲しみに耐えている彼女、身内から悲しい目に遭わされた彼女の苦しみは間もなく収まるのではと予感する。神はことを今日じゅうに実現させる。この戦いはめでたい結果に終わると思う。われは風のように素早く飛べる鳩になって雲居に登ってこの争いを上からこの目で見たいもの。
1085 Ἰὼ θεῶν πάνταρχε παντ-όπτ'(全てをみそなわす) ---Ant. 2.ああ、神々の支配者、全てを見そなわすゼウスよ、この国の守り手たちに、お力添えを賜わり、この捕物を成功させて、栄光を手にさせたまえ。また、汝の恐ろしき娘パラス・アテネも我らに恵みを。また、狩人アポロンとその妹、足速い斑の鹿の追求者アルテミスにも、二神もろともこの国とこの国の民に助太刀に来られたし。
第三エペイソディオンアッティカの老人 ああ、放浪の旅人よ、あなたを見守るわたしの言うとおりになりましたよ。わたしの目にはあなたの娘たちがこちらへ近づいてくるのが見えますから。
ΟΙ. Ποῦ ποῦ; τί φῄς; πῶς εἶπας; ΑΝ. Ὦ πάτερ, πάτερ,オイディプス どこじゃどこじゃ。どういうことじゃ。アンティゴネ ああ、父上、父上、わたしたちをここへ送り返してくれたこの素晴らしい人の姿を、どの神様か、あなたに見せてあげてください。
ΟΙ. Ὦ τέκνον, ἦ πάρεστον; ΑΝ. Αἵδε γὰρ χέρεςオイディプス ああ、娘たちよ、ほんとうにそこにいるのか。アンティゴネ テセウスさまと、あなたの大切な家来たちがその手をで救ってくれたのです。
ΟΙ. Προσέλθετ', ὦ παῖ, πατρί, καὶ τὸ μηδαμὰオイディプス 娘よ、父の方へ来い。もう二度と帰ってこないと思っていたお前のその体を抱かせてくれ。
ΑΝ. Αἰτεῖς ἃ τεύξῃ· σὺν πόθῳ γὰρ ἡ χάρις.アンティゴネ お父様の求めるもは手に入ります。願えばすぐに叶いますから。
ΟΙ. Ποῦ δῆτα, ποῦ 'στόν; ΑΝ. Αἵδ' ὁμοῦ πελάζομεν.オイディプス どこにいるんだ、お前たちは。アンティゴネ 二人で近づいています。
ΟΙ. Ὦ φίλτατ' ἔρνη. ΑΝ. Τῷ τεκόντι πᾶν φίλον.オイディプス ああ、いとしい娘たちよ。アンティゴネ 父親にはかけがいのない存在ですね。
ΟΙ. Ὦ σκῆπτρα φωτός. ΑΝ. Δυσμόρου γε δύσμορα.オイディプス ああ、わしの支えだ。アンティゴネ 不幸な者同士ですわ。
1110 ΟΙ. Ἔχω τὰ φίλτατ', οὐδ' ἔτ' ἂν πανάθλιοςオイディプス 最愛の者たちがこうしてもどったからには、この子たち二人がはたにいるならもし死んでももう不幸ではない。娘よ、父を両側から脇をいっしょに支えてくれ。これまで孤独だった不幸な放浪者に休む場所を与えてくれ。何があったか教えてくれ、ごく短くな。若いお前たちなら話が長くはなるまい。
ΑΝ. Ὅδ' ἔσθ' ὁ σώσας· τοῦδε χρὴ κλύειν, πάτερ,アンティゴネ この人が助けてくれたのですわ。お父様、この人がしたことですからこの人に聞いてくださいね。わたしからする話はあまりありません。
ΟΙ. Ὦ ξεῖνε, μὴ θαύμαζε πρὸς τὸ λιπαρές(熱心に),オイディプス ああ、殿よ、この思いがけずに帰ってきた娘とあまりに長く熱心に話しこんでいると驚かないでくれ。
ἐπίσταμαι γὰρ τήνδε τὴν ἐς τάσδε μοιわしの喜びであるこの娘たちが帰ってきたのはあなたのおかげだと、わしはよく承知している。そなたがこの子らを助け出してくれたのだ、他の誰でもないのだから。神々があなたにそしてこの国に幸福をたまわらんことをわしは願う。私はあなたほど信仰深く公正で正直な人を見たことがない。
εἰδὼς δ' ἀμύνω(報いる) τοῖσδε τοῖς λόγοις τάδε·わしがこんなことを言うのはけっしてお世辞ではない。事実だからだ。なぜなら、わしのこの幸福は他ならぬあなたのおかげだからだ。だから、王よ、わしに右手を差し出してくれ。あなたの手に触れて、もし許されるなら抱擁させてくれ。
Καίτοι τί φωνῶ; πῶς σ' ἂν ἄθλιος γεγὼςいやわしは何を言っているのだ。あらゆる汚れが宿っているこの男に触れるようにあなたに望むなど、この不幸なわしに許されようか。いやだめだ、またそもそもあなたにそんなことをしてもらうわけにはいかない。この不幸は経験したことがない者には、分かち合う事はできないのだから。
Σὺ δ' αὐτόθεν(このままで) μοι χαῖρε, καὶ τὰ λοιπά μουわしはこのままで礼を言いたい。そしてこれからもこれまで同様にわしのことをよろしくお願いする。
ΘΗ. Οὔτ' εἴ τι μῆκος τῶν λόγων ἔθου πλέον,テセウス あなたがあなたの娘との再会を喜んでもっと長く喋っても、私の話より娘たちの話を優先してても、別段私は構わない。そんなことでわたしがとやかく言うわけがない。わたしの人生の栄光は言葉ではなく行動で得るものだと思っているからだ。
1145 Δείκνυμι δ'· ὧν γὰρ ὤμοσ'(ὄμνυμι) οὐκ ἐψευσάμην証明しよう。ご老人よ、わたしが約束したことには一つも嘘はなかったろう。この子たちは無事に連れ戻った、脅しをかけてきた者たちから傷つけられることなく。また、この戦いにどうやって勝利したかは、娘さんたちから聞けばわかるから、わたしから自慢げに話す必要はない。それより、先ほどこちらに来る途中にわたしの耳に飛び込んできた話について、あなたの意見を聞かせて欲しい。私の耳に飛びこんできた話がある。話は簡単だが、奇妙なことなのだ。それに何事も軽く見てはいけないのだ。
ΟΙ. Τί δ' ἔστι, τέκνον Αἰγέως; δίδασκέ με,オイディプス 何事だ、アイゲウスの子よ、教えてくれ、わしはあなたが聞いたことを何も知らないから。
ΘΗ. Φασίν τιν' ἡμῖν ἄνδρα, σοὶ μὲν ἔμπολινテセウス なんでも、あなたの町の人ではないがあなたと血のつながりのある男がポセイドンの祭壇にひれ伏しているということだ。私が呼び戻された時には、犠牲を捧げているときだった。
1160 ΟΙ. Ποδαπόν; τί προσχρῄζοντα τῷ θακήματι;オイディプス どこの国の男だ。ひれふして何を求めているのだ。
ΘΗ. Οὐκ οἶδα πλὴν ἕν· σοῦ γάρ, ὡς λέγουσί μοι,テセウス ひとつだけは確かだ。私が聞いたところでは、少しあなたと話したいということだ、迷惑はかけないからと言っているそうだ。
ΟΙ. Ποῖόν τιν'; οὐ γὰρ ἥδ' ἕδρα σμικροῦ λόγου.オイディプス どんな話だ。嘆願とは大変なことだ。
ΘΗ. Σοὶ φασὶν αὐτὸν ἐς λόγους ἐλθεῖν μολόντ'テセウス 話ができたらここから無事に帰してくれるように求めているそうだ。
ΟΙ. Τίς δῆτ' ἂν εἴη τήνδ' ὁ προσθακῶν ἕδραν;オイディプス それでそんな嘆願をしているとは誰だろうか。
ΘΗ. Ὅρα κατ' Ἄργος εἴ τις ὑμὶν ἐγγενὴςテセウス アルゴスにいるあなたの身内の人で、あなたにこんな事を求めるような人はおられませんかな。
ΟΙ. Ὦ φίλτατε, σχὲς οὗπερ εἶ. ΘΗ. Τί δ' ἔστι σοι;オイディプス それ以上はやめてくれ、テセウス殿。テセウス どうなされたのだ。
1170 ΟΙ. Μή μου δεηθῇς ΘΗ. Πράγματος ποίου; λέγε.オイディプス 勘弁してくれ。テセウス 何を勘弁するのだ。言ってくれ。
ΟΙ. Ἔξοιδ' ἀκούων τῶνδ' ὅς ἐσθ' ὁ προστάτης.オイディプス 今の言葉でその嘆願者が誰か分かったのだ。
ΘΗ. Καὶ τίς ποτ' ἐστίν, ὅν γ' ἐγὼ ψέξαιμί τι;テセウス それで、それは誰だ。私が非難すべきという男は。
ΟΙ. Παῖς οὑμός, ὦναξ, στυγνός, οὗ λόγων ἐγὼオイディプス 私の伜だ。憎たらしい。あいつの言うことを聞くなど御免だ。
1175 ΘΗ. Τί δ'; οὐκ ἀκούειν ἔστι, καὶ μὴ δρᾶν ἃ μὴテセウス どうしてだ。聞くだけで、やりたくない事はしないで済ますというわけにはいかないのか、どうして聞くのもいやなのだ?
ΟΙ. Ἔχθιστον, ὦναξ, φθέγμα τοῦθ' ἥκει πατρί·オイディプス 父親の私にとって、あの伜の声ほど憎たらしい声はない。だから、それだけは勘弁してもらいたい。
ΘΗ. Ἀλλ' εἰ τὸ θάκημ' ἐξαναγκάζει σκόπει·テセウス しかし、嘆願者の言い分は聞かずにはなるまい。さもなければ、神に対する敬意を軽んじることになる。
ΑΝ. Πάτερ, πιθοῦ μοι, κεἰ νέα(主) παραινέσω.アンティゴネ 父上、若いわたしの忠告ですが、わたしの言うとおりにしてください。このテセウス様の気の済むよう、彼が求めるように神様を満足させることをしてください。そして私達の顔に免じて兄が来ることを認めてください。大丈夫です、兄はあなたのためにならないことを言って父上の気持ちを無視することはありません。話を聞くことにどんな害があるのでしょう。悪いことをしようとしているなら喋ればわかるものです。
Ἔφυσας αὐτόν· ὥστε μηδὲ δρῶντά σε(あなたに)父上はあの人の親なのです。父上、悪事の中でも不敬なことを父上にするあの人に対しても、それを悪事でやり返すのは良くないことです。
αἰδοῦ νιν, εἰσὶ χἀτέροις γοναὶ(子孫) κακαὶあの人は哀れんでください。他にも悪い子供がいて怒りっぽくなった人がいますが、友人の優しい言葉に諭されて穏やかになるのです。お父様もいまの不幸ではなく昔の不幸、父母のせいで被った不幸を思い出してください。あの事をよく見たら、怒りっぽさがどんな不幸な結果になるかお父様も分かると思いますわ。あなたも目を無くして盲目になって大きな教訓を得たはずです。だから、私たちに譲歩してください。お父様のように親切にされておきながらお返しをしないのもよくないことですが、わたしのように正しいことを求めているのにしつこく言わされるのもみっともないことなのです。
ΟΙ. Τέκνον, βαρεῖαν(悲しい) ἡδονὴν νικᾶτέ μεオイディプス 娘よ喜べ、悔しいがこの議論ではお前たちの勝ちだ。お前たちの好きなようにすればいい。ただ、テセウス殿、あの子が来てもわしの身柄は誰にも自由にはさせはしない。
ΘΗ. Ἅπαξ τὰ τοιαῦτ', οὐχὶ δὶς χρῄζω κλύειν,テセウス ご老人、そういう話は一度聞くだけで充分です。自慢ではないですが、私に対する神の御加護があるかぎり、あなたの身柄の安全は保証します。
ΧΟ. Ὅστις τοῦ πλέονος μέρους ---Str.アッティカの老人たち(歌う) 適度な人生ではなく過度の長生きを求めるのが愚の骨頂なのは明らかだ。必要以上に長く生きても悲しみばかりが増えて、楽しいことはどこにもない。しかし、悲しみからの救いは誰にも等しくやってくる。それはあの世へ行くこと、つまり最後の死の到来が突然明らかにされるときだ。そのときには賑やかな伴奏も歌もダンスもない。
Μὴ φῦναι(生まれる) τὸν ἅπαντα νικᾷ(超える) ---Ant.何と言っても生まれてこないことが一番だ。その次に良いのは、この世に生まれてしまったら出来るだけ早くもと来たところへ帰ることだ。
Ὡς εὖτ' ἂν τὸ νέον(主) παρῇ(πάρειμι)愚かにも愚かな若者たちには、あらゆる苦しみと悲しみがつきまとう。人殺し、党派争い、喧嘩、戦争、激昂だ。それが次に来るのは老いで、力なし友だちなし交際なしで嫌われるで、災難の中のあらゆる災難がつきまとう。
Ἐν ᾧ τλάμων ὅδ'(オイディプス), οὐκ ἐγὼ μόνος, ---Ep.その災難のさなかにあるのが、この男オイディプスで、我のみにはあらず。北向きの岸辺はあらゆる方向から冬の波に打たれて悩まされるが、そのように、恐ろしい災いが砕ける波のごとくにつきまとって彼を徹底的に悩ませる。それは日没の方角から、日の出の方角、真南の方角、闇につつまれた北国の方角からやってくる。
ΑΝ. Καὶ μὴν ὅδ'(ポリュネイケス) ἡμῖν, ὡς ἔοικεν, ὁ ξένοςアンティゴネ お父様、ご覧なさい、見たところ異国の人がたった一人で目から滂沱の涙を流しながらこちらに来るのが見えます。
ΟΙ. Τίς οὗτος; ΑΝ. Ὅνπερ καὶ πάλαι κατείχομεν(気に留める)オイディプス それは誰だ。アンティゴネ 先程から話題に登っていたポリュネイケスがここに来ているのです。
ΠΟΛΥΝΕΙΚΗΣポリュネウケス ああ嘆かわしい、わたしはどうしたらいいのだ。妹たちよ、わたしは自分の不幸を先に嘆いたらいいのか、それともこの老人の不幸を嘆いたらいいのか。この人は追放されてから彼女たち二人とともにこんな身なりでこの地に来ていたのか。衣服の長年の汚れが忌まわしいほどに老体に染み付いて体を痛めつけている。目を失った頭からは梳らない髪の毛が風になびいている。
ἀδελφὰ(合わせた) δ', ὡς ἔοικε, τούτοισιν φορεῖ彼が持っている食料もその姿に合わせたように惨めなものだ。こんなことになっているとは、私は今頃知ることになるとは。
1265 καὶ μαρτυρῶ κάκιστος ἀνθρώπων τροφαῖςあなたがこんな暮らしを強いられているのはすべて私のせいだ。その事は人の意見ではなく、私の口から言わせてくだされ、
Ἀλλ' ἔστι γὰρ καὶ Ζηνὶ σύνθακος(ともに座る) θρόνων(属複 座)しかしながら、王者ゼウスも何をするときも憐れみを持ってなさいます。ですから、父上、あなたも憐れみを大切にしてください。私も過ちを改めることはできます、これ以上過ちを積み重ねることはありません。
Τί σιγᾷς;父上、どうして黙っておられるのですか。なにかおっしゃってください。私を追い返さないでください。何も答えてはくださらないのですか。何も言わずに私に恥をかかせて突き放すのですか。何を怒っているのかも言わないままで。
1275 Ὦ σπέρματ' ἀνδρὸς τοῦδ', ἐμαὶ δ' ὁμαίμονες,ああ、私と同じ血を分かった妹たちよ、お前たちも父上の頑なにつぐんで何も話さない口を開かせてくれ。ポセイドンの嘆願者たる私に一言も答えないままで不人情に送り出さないようん頼んでくれ。
1280 ΑΝ. Λέγ', ὦ ταλαίπωρ', αὐτὸς ὧν χρείᾳ(必要) πάρει·アンティゴネ ああ、気の毒な人、何がして欲しくてきたのか自分でおっしゃってみてください。たくさん話していれば、喜ばせたり、怒らせたり、同情させたりして、無口の人の口を開かせるものですわ。
ΠΟ. Ἀλλ' ἐξερῶ· καλῶς γὰρ ἐξηγῇ(教える) σύ μοι·ポリュネイケス いいことを教えてくれた。では話そう。私はまず神自身の助けを求めているとことろだったが、この国の支配者はわたしに話をして無事に帰国できる保証をしてそこから立ち上がらせてくれたのだ。
Καὶ ταῦτ' ἀφ' ὑμῶν, ὦ ξένοι, βουλήσομαι(未)つぎに、土地の人たちよ、あなた達から助けを求めたい。妹たちと父の助けも求めたいのだ。わたしがこの国やってきた経緯を、父上、あなたに聞いてほしい。
Γῆς ἐκ πατρῴας ἐξελήλαμαι φυγάς,わたしは祖国を追われて亡命者になっている。それは、わたしは長男であるからあなたの万能の王座に座る権利があると主張したためだ。
1295 Ἀνθ' ὧν μ' Ἐτεοκλῆς, ὢν φύσει νεώτερος,そのために、わたしより年少のエテオクレスが私を追放したのだ。議論で勝ったわけでも、腕力で決着をつけたわけでもなく、町を説得してそうしたのだ。それには何よりもあなたの呪いに原因があると思う。後に預言者からそのように聞いている。
Ἐπεὶ γὰρ ἦλθον Ἄργος ἐς τὸ Δωρικόν,私が義父のアドラストスを連れてドーリア地方のアルゴスに入ったとき、アピスの土地の第一人者で槍で名高い者たちと同盟を結んだ。それは彼らの助けを得てテーバイへの七つの遠征軍を召集して、正義の死を遂げるか、こんな悪事をした者をこの地から追い出すかの決戦をするのだ。
Εἶεν· τί δῆτα νῦν ἀφιγμένος κυρῶ;それはそうと、私が何のためにいまこうしてやって来たのか。それは私と私の同盟者たちのためにあなたに嘆願者としてお願いするためです。いま彼らは七つの軍隊と七つの槍兵たちを従えて、テーバイを完全に包囲しています。
οἷος δορυσσοῦς(槍を使う) Ἀμφιάρεως, τὰ πρῶτα μὲν第一は槍の名手、武藝の第一人者で占い術でもすぐれたアムピアラオス、第二はオイネウスの子、アイトリアのテュデウス、第三はアルゴス生まれのエテオクレス、第四は父親のタラオスに送られたヒッポメドン、第五はカパネウス、テーバイの町を火の海にしてやると豪語している。
1320 ἕκτος δὲ Παρθενοπαῖος Ἀρκὰς(アルカディアの) ὄρνυται(向かう),第六はアルカディアの勇猛果敢なパルテノパイオス、その名が示すように未婚の女[アタランテ]から生まれた[忠実な]息子だ。そして、あなたの息子である私だ。もしあなたの息子でなくても、わたしは悪い運命から生まれて落ちて、あなたの息子と呼ばれている。そのわたしがアルゴスの恐れを知らぬ軍隊をテーバイに率いてきた。
Οἵ σ' ἀντὶ παίδων τῶνδε καὶ ψυχῆς, πάτερ,父上、我々はこの娘たちとあなたの命にかけて、こぞってあなたに伏してお願している。わたしを追放して祖国を奪った弟を罰するために奔走しているこの私に対する厳しい怒りを捨ててほしいと。
Εἰ γάρ τι πιστόν ἐστιν ἐκ χρηστηρίων,神託を信じるならば、あなたが味方になった方が勝利を得るという。祖国の泉と神々にかけて、わたしに耳を傾けて怒りをしずめるようにお願いする。私もあなたもご同樣の放浪する乞食なのですから。
ἄλλους δὲ θωπεύοντες(仕える) οἰκοῦμεν σύ τε我々二人は同じ運命を分け合って、他人に仕えて暮らしているのに、悔しいことに、エテオクレスは屋敷の中で一人玉座について、大威張りで我々二人のことをいっしょにして笑っているのだ。
1340 ὅν, εἰ σὺ τἠμῇ ξυμπαραστήσῃ(助ける) φρενί,ポリュネイケス しかし、もしあなたがわたしの考えに賛同してくれるなら、たいした苦労もなく短時間でやつをやっつけることができる。そうすれば、わたしはあなたをご自分の屋敷に連れ帰って住まわせるし、わたし自身もやつを追い出して家に帰れる。あなたなしではわたしは生きては帰れないが、あなたが協力してくれるなら、こんどはわたしがやつのように大威張りできる。
ΧΟ. Τὸν ἄνδρα, τοῦ πέμψαντος οὕνεκ', Οἰδίπους,アッティカの老人 オイディプス殿、せっかくテセウスさまがこの男を送ってよこしたのですから、このまま送り返さずに何か言ってやりなさい。
ΟΙ. Ἀλλ' εἰ μέν, ἄνδρες τῆσδε δημοῦχοι χθονός,オイディプス この土地の皆さん、この男をここに送ってわしの話を聞くべきだと考えたのがたまたまテセウス殿でなかったら、この男はわしの声を聞くことはなかったじゃろう。だが、今回は特別に聞かせてやろう。聞いたところで、この男は自分の人生を悔やむことにしかなるまい。
ὅς γ', ὦ κάκιστε, σκῆπτρα καὶ θρόνους ἔχων,この男はいま弟がテーバイで握っている王権を握っていたときに、自分の父親であるこのわしを追放して、いまお前が涙ながらで見ているこの身なりにわしをして町を失わせたのだ。それがいまわしと同じ苦境に陥って困っているという次第だ。
1360 Οὐ κλαυστὰ(嘆く) δ' ἐστίν, ἀλλ' ἐμοὶ μὲν οἰστέα私は生きていく限りこの苦しみを嘆かない、耐えて行こうと決めているが、お前がわしを殺そうとしたことは決して忘れることはない。お前はわしをこの食うに困る生活に陥れて追放したのだ。わしはお前のせいで放浪の身になって、日々の生活の糧を他人に求めているのだ。
1365 Εἰ δ' ἐξέφυσα τάσδε μὴ 'μαυτῷ τροφοὺςもしわしが生んだこの娘たちがわしを養ってくれなかったら、お前を当てにしている限り、わしはとっくに死んでいたろうよ。ところが、いまはこの娘たちがわしの命を救ってくれている。彼女たちがわしの養い手であり、彼女たちは女でありながら男の仕事をして尽くしてくれている。その一方で、お前たちはわしから生まれたのではなくてよその人から生まれた子なのだろう。
1370 Τοιγάρ σ' ὁ δαίμων εἰσορᾷ μέν οὔ τί πωだから、これらの軍隊がテーバイの町に向かって動いたとき、お前の運命が明らかになろう。なぜなら、お前はあの町を落とせはせずに、その前にお前が血まみれになってお前の弟と一緒に倒れるからだ。
1375 Τοιάσδ' Ἀρὰς σφῷν πρόσθε τ' ἐξανῆκ'(送り出す) ἐγώ,以前にわしはお前たち二人にそんな呪いの女神たちを送り出しておいた。わしはいまその呪い女神たちにわしを助けに来るように呼びかけている。それは親をないがしろにするのではなく敬うべきことを彼らに学ばせるためにだ。たとえ二人の父親が盲目であってもだ。ところが、娘たちは兄たちとは正反対だ。
1380 Τοιγὰρ τὸ σὸν θάκημα(座り込み) καὶ τοὺς σοὺς θρόνους呪いの女神たちはお前の嘆願の座もお前の玉座にもまさるのだ。古い掟では有名な正義の神がゼウスの横に座っているかぎりは。
Σὺ δ' ἔρρ'(去る) ἀπόπτυστός(嫌われ) τε κἀπάτωρ(ἀπάτωρ父なし) ἐμοῦ,この極悪人め、お前はわしに嫌われてわしに勘当されて、わしが呼びかけておいた呪いの女神たちを連れて去れ。祖国を武力で征服することもなく、アルゴスの谷に帰ることなく、家族の手で殺されて、お前を追い出した者を殺してこい。
Τοιαῦτ' ἀρῶμαι(祈る), καὶ καλῶ τοῦ Ταρτάρου(タルタロス)これがわしの呪いだ。わしは地獄の底にある父譲りの恐ろしい暗闇がお前の棲家となるように呼びかける。わしはここの女神たちに呼びかける、恐ろしい憎しみをお前たち二人に引き起こした戦争の神に呼びかける。
Καὶ ταῦτ' ἀκούσας στεῖχε κἀξάγγελλ' ἰὼνお前はこれを聞いたら帰ってお前のすべてのテーバイの人々とお前の忠実な同盟者たちに知らせてこい。オイディプスが自分の息子たちにこんな褒美をくれたと。
ΧΟ. Πολύνεικες, οὔτε ταῖς παρελθούσαις(通過した) ὁδοῖςアッティカの老人 ポリュネイケス殿、あなたのこれまでの旅路は残念なことでした。もう急いでお帰りなされ。
ΠΟ. Οἴμοι κελεύθου τῆς τ' ἐμῆς δυσπραξίας(不幸),ポリュネイケス ああ嘆かわしい、私のこの旅は失敗だった。仲間に申し訳ない。アルゴスを発ってやってきた旅路の末がこんなものだとは、ああ情けない、そんなことを仲間の誰にも話せない、かと言って兵を返すことも叶わない、黙ってこの運命を迎えるしかない。
1405 Ὦ τοῦδ' ὅμαιμοι παῖδες, ἀλλ' ὑμεῖς, ἐπεὶああ、この私の血を分け持った妹たちよ、お前たちは父のこの呪いの厳しい言葉を聞いたからには、もしこの父の呪いが成就して、お前たち二人が家に帰ることがかなったなら、頼むから、わたしをないがしろにせずに墓に埋葬して葬儀をしてくれ。
Καὶ σφῷν ὁ νῦν ἔπαινος, ὃν κομίζετον(手に入れる)お前たち二人はこの父に尽くすことで褒められているが、わたしに尽くすことでそれに劣らぬ大きな称賛を手に入れるだろう。
ΑΝ. Πολύνεικες, ἱκετεύω σε πεισθῆναί(説得される) τί μοι.アンティゴネ ポリュネイケスよ、あなたに是非聞いてほしいことがあります。
1415 ΠΟ. Ὦ φιλτάτη, τὸ ποῖον, Ἀντιγόνη; λέγε.ポリュネウケス 親愛なるアンティゴネよ、どういうことだ。言ってくれ。
ΑΝ. Στρέψαι στράτευμ' ἐς Ἄργος ὡς τάχιστά γε,アンティゴネ できるだけ早く軍隊をアルゴスに戻して、あなたとこの町を滅亡から救ってくださいませ。
ΠΟ. Ἀλλ' οὐχ οἷόν τε· πῶς γὰρ αὖθις αὖ πάλινポリュネウケス それはできない。どうして私がいまさら怖気づいて軍隊を戻せるだろうか。
1420 ΑΝ. Τί δ' αὖθις, ὦ παῖ, δεῖ σε θυμοῦσθαι; τί σοιアンティゴネ 兄さん、どんな理由があってこのうえ怒りを表す必要があるのですか。祖国を破壊することがあなたに何の得になるのですか。
ΠΟ. Αἰσχρὸν τὸ φεύγειν καὶ τὸ πρεσβεύοντ' ἐμὲポリュネウケス 逃亡は恥だし、年上の私が弟に物笑いの種になるのも恥だ。
ΑΝ. Ὁρᾷς τὰ τοῦδ' οὖν ὥς ἐς ὀρθὸν(確実に) ἐκφέρεις( 成就する)アンティゴネ あなた達二人が互いに殺し合うという父上の神託をあなたは確実に成就することになるのが分からないのですか。
ΠΟ. Χρῄζει(願う) γάρ· ἡμῖν δ' οὐχὶ συγχωρητέα;ポリュネウケス それは父の願いだから。それに従うべきではないのか。
ΑΝ. Οἴμοι τάλαινα· τίς δὲ τολμήσει κλυώνアンティゴネ ああ、悲しいわ。父上の神託を聞いて誰があえてそれに従うでしょうか。
ΠΟ. Οὐδ' ἀγγελοῦμεν(未) φλαῦρ'(悪い)· ἐπεὶ στρατηλάτου(司令官)ポリュネウケス わたしは悪い話は伝えるつもりはない。良い司令官は良い情報だけを伝えて悪い情報は伏せて置くものだ。
ΑΝ. Οὕτως ἄρ', ὦ παῖ, ταῦτά σοι δεδογμένα;アンティゴネ では、お兄さん、あなたはそんなにテーバイを攻撃したいのですか。
ΠΟ. Καὶ μή μ' ἐπίσχῃς γ'· ἀλλ' ἐμοὶ μὲν ἥδ' ὁδὸςポリュネウケス 止めないでくれ。この遠征は父と父の復讐神によって不幸な結果になるとされているが、これはわたしの仕事なのだ。お前たち二人は私のためにあの事を果たしてくれたら幸せになれる。[それは私が死んでからで生きている間はできない] もう放っておいてくれ、二人ともごきげんよう。生きてお前たちに会うことはもうないだろう。アンティゴネ ああ、悲しいわ。
ΠΟ. Μή τοί μ' ὀδύρου. ΑΝ. Καὶ τίς ἄν σ' ὁρμώμενονポリュネウケス 泣かないでくれ。アンティゴネ 兄さん、死ぬことがわかっている道をまっしぐらに進むあなたを誰が悲しまないでしょうか。
ΠΟ. Εἰ χρή, θανοῦμαι. ΑΝ. Μὴ σύ γ', ἀλλ' ἐμοὶ πιθοῦ.ポリュネウケス 必要ならば死ぬまでだ。アンティゴネ 死んではだめ、お願いよ。
ΠΟ. Μὴ πεῖθ' ἃ μὴ δεῖ. ΑΝ. Δυστάλαινά τἄρ' ἐγώ,ポリュネウケス できないことを願わないでくれ。アンティゴネ あなたを失うことは悲しいことだわ。ポリュネイケス いや、こうなるのかああなるのかは運次第なんだ。お前たち二人は不幸な目に会わないように神に祈るよ。誰が見てもお前たちは不幸になるべきではない人たちだ。
第五エペイソディオンアッティカの老人たち(歌う) また新たな災いがこの盲人から生まれ出た。もしこれが運命の仕業でなければ。私は神の意志が無に帰すと言えはしない。時は怠らずに人々の浮き沈みをもたらして、神の意志を成就する。ああ、雷の音がする。神よ。
ΟΙ. Ὦ τέκνα, τέκνα, πῶς ἄν, εἴ τις ἔντοπος(住人),オイディプス ああ、娘たちよ娘たちよ、誰かこの地の人があの素晴らしいテセウスをここへ連れてきてくださらぬか。
ΑΝ. Πάτερ, τί δ' ἐστὶ τἀξίωμ'(要求) ἐφ' ᾧ καλεῖς;アンティゴネ お父さま、その方にどんな御用があるのです。
1460 ΟΙ. Διὸς πτερωτὸς(羽のある) ἥδε μ' αὐτίκ' ἄξεταιオイディプス 神の羽ある稲妻がじきにわしをあの世に連れて行くだろう。さあ早くあの人をよこしてくれ。
ΧΟ. Ἴδε μάλα· μέγας ἐρείπεται(落ちる) ---Ant. 1.アッティカの老人たち(歌う) 見よ、神が投げた言語に絶する雷が落ちてきた。恐怖で髪の毛が逆だった。恐怖で身がすくむ。空に稲妻がまた光る。何事だ。稲妻を投げるのか。恐ろしい。雷は必ず何かを破壊して不幸をもたらす。ああ、大空のゼウスよ、
ΟΙ. Ὦ παῖδες, ἥκει τῷδ' ἐπ' ἀνδρὶ(オイディプス) θέσφατος(神が告げた)オイディプス ああ、娘たちよ、わしに神が告げた人生の終わりがやってくる。そこから逃れるすべはない。
ΑΝ. Πῶς οἶσθα; τῷ δὲ τοῦτο συμβαλὼν(推測する) ἔχεις;アンティゴネ どうして分かるのです? 何からそんな推測をしたのですか。
1475 ΟΙ. Καλῶς κάτοιδ'· ἀλλ(さあ)' ὡς τάχιστά μοι μολὼνオイディプス わしはちゃんと知っているのだ。それより、だれか早くこの国の支配者を連れてきてくれ。
ΧΟ. Ἔα ἔα, ἰδοὺ μάλ' αὖ-θις ---Str. 2.アッティカの老人たち(歌う) ああ、ああ、見よ、また突き刺すような音がまわりを取り囲んでいる。ああ、神よ、汝は母なる大地に暗闇ものをもたらすとしても、慈悲深くあれ。
Ἐναισίου(吉兆の) δὲ σοῦ τύχοι-μι,アッティカの老人たち(歌う) われ幸先よき汝に出会いたい。不幸な男を見たとて無益な返礼を受けませんように。天なるゼウスよ、われ汝に叫ぶ。
ΟΙ. Ἆρ' ἐγγὺς ἁνήρ; ἆρ' ἔτ' ἐμψύχου(生きた), τέκνα,オイディプス 彼は近くまで来ているのか。娘たちよ、彼はわしが生きていて頭がはっきりしている間に会ってくれるのか。
ΑΝ. Τί δ' ἂν θέλοις τὸ πιστὸν(確かな) ἐμφῦναι φρενί;アンティゴネ テセウスさまに何か念押ししたいことでもあるのですか。
ΟΙ. Ἀνθ' ὧν ἔπασχον εὖ, τελεσφόρον(実行される) χάρινオイディプス わしが受けた親切のお返しに約束したお礼を確かなものにしたいのだ。
ΧΟ. Ἰὼ ἰώ, παῖ, βᾶθι, βᾶθ', ---Ant. 2.アッティカの老人たち(歌う) おう、おう、せがれよ来たれ来たれ、海を支配するポセイドンに牡牛の犠牲を捧げる儀式を洞窟でしている汝よ、来たれ。
1500 ΘΗ. Τίς αὖ παρ' ὑμῶν κοινὸς ἠχεῖται(響く) κτύπος(叫び)テセウス これはまた何の騒ぎだ、お前たちだけでなくこの旅人からも大きな声が聞こえてきたが。落雷でも起きたのか、雹が降ったのか。これがもし嵐だというなら、どんな推測もできる。
1505 ΟΙ. Ἄναξ, ποθοῦντι προὐφάνης(受アπροφαίνω2s), καί σοι θεῶνオイディプス 支配者よ、わしの望み通りにあなたは現れてくれた。ここへ来たことであなたには幸運が与えられたのだ。
ΘΗ. Τί δ' ἐστίν, ὦ παῖ Λαΐου, νέορτον(新たに起こった) αὖ;テセウス ライオスの息子オイディプス殿、また今度は何が起こったのですか。
ΟΙ. Ῥοπὴ βίου μοι· καί σ' ἅπερ ξυνῄνεσα(同意)オイディプス わしの死期は近い。わしはあなたとこの町にした約束を違えることなく死にたいのだ。
1510 ΘΗ. Ἐν τῷ δὲ κεῖσαι τοῦ μόρου(死) τεκμηρίῳ(徴候);テセウス 死のどんな徴候があるのですか。
ΟΙ. Αὐτοὶ θεοὶ κήρυκες ἀγγέλλουσί μοι,オイディプス 神ご自身が伝令となって伝えてくれている。昔からの前兆を違えることはない。
ΘΗ. Πῶς εἶπας, ὦ γεραιέ, δηλοῦσθαι τάδε;テセウス ご老人、それはどんな前兆が現れたとおっしゃるのですか。
ΟΙ. Δῖαί τε βρονταὶ(雷) διατελεῖς(続く) τὰ πολλά τεオイディプス ゼウスさまのうち続く雷と、無敵の手から投げられたいく本もの輝く稲妻がそれでございます。
ΘΗ. Πείθεις με· πολλὰ γάρ σε θεσπίζονθ' ὁρῶテセウス あなたは信用できる人だ。あなたは何度も予言したがそのたびに嘘ではなかった。それでどうしろと言われるのか。
ΟΙ. Ἐγὼ διδάξω, τέκνον Αἰγέως, ἃ σοὶオイディプス アイゲウスの子よ、今からあなたとあなたの町にとって永遠に廃れないものを教えてやろう。
1520 Χῶρον μὲν αὐτὸς αὐτίκ' ἐξηγήσομαι(導く),わしが自分の死ぬべき場所へ誰の助けを借りずに道案内しよう。その場所は誰にも明かしてはならない。それだけでなく秘匿したその場所がどのあたりにあるかも明かしてはならない。そうすれば、その場所が近くにあることで外国人の多くの盾や槍の代わりにあなたをいつも守ってくれる。
Ἃ δ' ἐξάγιστα(聖なる) μηδὲ κινεῖται λόγῳ言葉で触れてはならない聖なるものはあなたが一人で行ったときにみずから知るだろう。だからわしはこの町人たちには誰にも口では言わないし、愛するわしの娘たちにも言わない。
1530 Ἀλλ' αὐτὸς αἰεὶ σῷζε, χὤταν(〜ときはいつも) εἰς τέλοςしかしあなたは覚えていて、あなたに死期が到達したときには、後継者になる人だけに明かすのだ。そうして次々と伝えていくのだ。こうすればあなたはテーバイの人たちから乱されることのないこの町に住むことができる。多くの国はたとえうまく統治されていても簡単に傲慢に陥るからだ。
θεοὶ γὰρ εὖ μέν, ὀψὲ δ' εἰσορῶσ'(罰する), ὅταν人が神を捨てて狂気に走るときには、神は遅ばせではあるが罰を与えるからだ。アイゲウスの子よ、あなたはこういう目に遭わないようにしなさい。
Τὰ μὲν τοιαῦτ' οὖν εἰδότ' ἐκδιδάσκομεν(教える).こんなことはわしがくどくど言わなくてももうあなたはご存だろう。神の合図がもう来ている。急いでいこう。もうぐずぐずしてはいられない。
Ὦ παῖδες, ὧδ' ἕπεσθ'· ἐγὼ γὰρ ἡγεμὼν娘たちよ、こちらへついて来なさい。これまでとうって変わって今度はわしがお前たち二人の道案内だ。
Χωρεῖτε, καὶ μὴ ψαύετ', ἀλλ' ἐᾶτέ με進め、わしに触れずに、神聖な墓を見つけるのはわしに任せろ。この国のわしが埋葬される運命の場所だ。ここだ、ここへ来い。道案内の神ヘルメスと黄泉路の神がわしをここに連れてきたからだ。
Ὦ φῶς ἀφεγγές(見えない), πρόσθε πού ποτ' ἦσθ' ἐμόν,ああ、この世の光よ、昔はわしにも見えたが今は見えない光よ、わしの体がお前に触れるのもこれが最後だ、ハデスの元に最後の命を納めに行くところだ。親切な土地の人々よ、あなたもこの町もあなたの家来たちも、お幸せに。そして幸せになったら、あなた達が永遠に幸せになるためにわしが死んだことを忘れないでくれ。
第四スタシモンアッティカの老人たち(歌う) 黄泉の国の女神ペルセポネと、黄泉の神々の王ハデスよ、汝を祈りで称え祭ることが許されるなら、この旅人がすべてを覆い隠す死人の地、ステュクスの神殿に苦しみも運命の嘆きもなくたどり着くことを祈る。この人にはいたづらに多くの災いが襲ったのだからには、再び正義の神がこの人を高めてほしい。
Ὦ χθόνιαι θεαὶ, σῶμά τ' ἀνικάτου(無敵の) ---Ant.地獄の女神たちよ、また無敵のけものよ、多くの客が通る門で眠り洞窟から唸り声を上げていると言われるハデスの不屈の番犬ケルベロスよ、
τόν, ὦ Γᾶς παῖ καὶ大地と地獄の子である死よ、われは汝に祈る、その番犬が道を譲ってくれますように。死者の国にやってきたこの旅人のために。われ汝、永遠の眠りを呼ばわん。
エクソドス使者 市民のみなさん、オイディプスが亡くなったと言えば、もっとも短く報告することになるでしょうが、事の性格上このようなことを簡略に話すことはできません。
ΧΟ. Ὄλωλε γὰρ δύστηνος; ΑΓ. Ὡς λελογχόταアッティカの老人たち お気の毒に、亡くなられたとは。使者 あの方は永遠の命を手に入れられたと心得られよ。
1585 ΧΟ. Πῶς; ἆρα θείᾳ κἀπόνῳ(楽な) τάλας τύχῃ;アッティカの老人 どうやって。神のはからいによってやすらかに亡くなられたのか。
ΑΓ. Τοῦτ' ἐστὶν ἤδη κἀποθαυμάσαι πρέπον.使者 これは驚くべきことです。ここからどうやって出かけたかは、ここにいたあなたもご存じです。身内の介護もなくご自分でみなさんの先頭に立って行かれたのです。
1590 ἐπεὶ δ' ἀφῖκτο τὸν καταρράκτην(切り立った) ὀδὸν(敷居)青銅の階段によって大地の底に通じる切り立った敷居(青銅の敷居)に着かれると、複数に分かれた道の一つに立たれました。それはテセウスとペイリトオスの固い永遠の誓いが刻まれた空瓶の近くでした。
1595 ἀφ' οὗ μέσος στὰς τοῦ τε Θορικίου(トリコス) πέτρουそことトリコスの石の間に立つと、うつろな梨の木と墓石の近くに座って、汚れた衣を脱ぎ、娘たちを呼んで沐浴と御神酒のための流水を工面をさせた。
1600 Τὼ δ', εὐχλόου(緑の) Δήμητρος εἰς προσόψιον(視界)二人の娘は緑色のデメテルの社の丘に行き、父の命じたものをすみやかに取り寄せて、しきたり通りに沐浴させて衣を着せた。
Ἐπεὶ δὲ πᾶσαν εἶχε δρῶντος ἡδονὴν彼の望んだことすべてが滞りなく行われると、地下のゼウスが雷を鳴らした。娘たちはそれを聞くと震え上がり、父の膝に崩れ落ちて泣いて、さらに胸を打ち付けて長い嘆きを漏らし続けました。
1610 Ὁ δ' ὡς ἀκούει φθόγγον ἐξαίφνης(突然) πικρόν,しかし、彼は突然鋭い声を聴くと、娘たちに腕を回すとこう言った。「ああ、娘たちよ、今日この日でお前たちの父親はいなくなる。わしの全ては失われて、わしの辛い介護はもう必要なくなる。
1615 σκληρὰν μέν, οἶδα, παῖδες· ἀλλ' ἓν γὰρ μόνον娘たちよ、お前たちには苦労ばかりかけたが許してほしい。ただわしに一言だけ言わせてほしい。わしは誰よりもおまえたちのことを愛してきた。これからはわしなしで生きていってもらいたい。
1620 Τοιαῦτ' ἐπ' ἀλλήλοισιν ἀμφικείμενοιこう言って彼らは互いに抱き合ってすすり泣いた。しかし、彼らが泣き終わってもう何も声がなくなって静謐があたりを覆ったとき、突然誰かの声が彼を呼んだ。全ての人が恐怖に髪を逆立たせた。彼を何度も呼んでいたのは神だったからだ。
"Ὦ οὗτος οὗτος, Οἰδίπους, τί μέλλομεν「おい、お前、オイディプスよ、さあ行こう。もういいだろう」。神に呼ばれたと感じたオイディプスはこの国の王テセウスに来るように呼んだ。
κἀπεὶ προσῆλθεν, εἶπεν· "Ὦ φίλον κάρα,かれが来ると、オイディプスは頼んだ。「ああ、友よ、娘たちに昔ながらの約束の握手をしてくれ。娘たちよ、お前たちもこの人と握手をしろ。そして約束してくれ。この子たちを自分から見捨てることはないと、何かしようとするときは、すべて善意をもってつねに二人の役に立つようなことをやってくれ」
Ὁ δ', ὡς ἀνὴρ γενναῖος, οὐκ οἴκτου μέτα生まれの良いテセウスは泣くこともなくこの旅人にそうすると誓って約束した。
Ὅπως δὲ ταῦτ' ἔδρασεν, εὐθὺς Οἰδίπους彼がそうするとオイディプスはすぐに盲目の手で自分の娘に言った。「ああ、娘たちよ、この試練に立派に耐えてここから去るのだ。見るべからざるものを見ず、聞くべからざることを聞かずにな。速やかに去れ。ただ一人テセウス王のみがこの場にいてなされることを知るがよい」
1645 Τοσαῦτα φωνήσαντος εἰσηκούσαμενわたしたちは全員彼がそういうのを聞きました。そして娘たちと一緒に泣きながら去ったのです。立ち去って少しして振り返ると、オイディプスの姿はもうどこにも見えませんでした。テセウスが一人まぶしげに手を頭にかざしていた。まるで何か恐ろしもの、見るに堪えないものが現れたかのようだった。
Ἔπειτα μέντοι βαιὸν οὐδὲ σὺν λόγῳしかし、そのすぐあとでわたしたちはテセウスさまが無言で大地の神と空の神に同時に祈りを捧げているのが見えました。
Μόρῳ δ' ὁποίῳ κεῖνος ὤλετ' οὐδ' ἂν εἷςオイディプスがどのようにして亡くなったかはテセウスさまだけが明らかにすると良い。あの人の命を奪ったのは燃え立つ稲妻でもその海からわき起こった竜巻でもない、神々の案内役か大地の口を親切に開いた暗い底だったのです。
Ἀνὴρ γὰρ οὐ στενακτὸς οὐδὲ σὺν νόσοιςというのは、あの方は涙で送られることもなく、病に苦しまれたからでもなく去ったからです。人間の身としては不思議なことです。私の話が馬鹿馬鹿しく思えて信じてもらえなくて仕方がありません。
ΧΟ. Ποῦ δ' αἵ τε παῖδες χοἰ προπέμψαντες(付き添い) φίλων;アッティカの老人 娘たちと親族の付き添いはどこですか。
ΑΓ. Αἵδ' οὐχ ἑκάς· γόων γὰρ οὐκ ἀσήμονες(印のない)使者 彼女たちは近くにいます。二人の泣き声がはっきり聞こえたのでこちらに来るのがわかります。
コンモスアンティゴネ(歌う) ああ、悲しいわ。父の生まれついての呪われた血縁はいつもいつもわたしたち二人の悲しみもと。あの人のためにこれまで多くの苦難を味わいましたが、最期の日にはとんでもないことを見て体験して帰ることになるとは。
ΧΟ. Τί δ' ἔστιν; ΑΝ. Ἔστιν μὲν εἰκάσαι, φίλοι.アッティカの老人たち(歌う) それはなんですか。アンティゴネ(歌う) みなさん、推測はできますわ。
ΧΟ. Βέβηκεν; ΑΝ. Ὡς μάλιστ' ἂν ἐν πόθῳ λάβοις(望む).アッティカの老人たち(歌う) あの人は行ってしまったのですか。アンティゴネ(歌う) 誰もが望むとおりに。そうですわ。戦いにも海にも出会わないように、暗闇の平野が彼をつかんで分からないやり方で連れ去ったのです。
τάλαινα, νῷν δ' ὀλεθρίαかわいそうに、わたしたち二人には恐ろしい闇の世界が目の前に現れたのよ。だって、遠く離れた土地や海の波の上をさまよう私たちはどうして耐え難い暮らしの資を得られるでしょう。
ΙΣ. Οὐ κάτοιδα. Κατά με φόνιοςイスメネ(歌う) わかりません。人殺しのハデスの神は悲しいわたしに老いた父と一緒に死ぬなせてくれたらよかったのよ。だって、これからのわたしの人生は生きるに値しないのですもの。
ΧΟ. Ὦ διδύμα(二重の) τέκνων ἀρίσ-ταアッティカの老人たち(歌う) ああ、最高の姉妹よ、神が送った運命には立派に耐えなさい。けっしてあまり熱くなってはいけません。あなたちの振る舞いは立派なものでした。
ΑΝ. Πόθος(後悔) ‹τοι› καὶ κακῶν ἄρ' ἦν τις· ---Ant. 1.アンティゴネ(歌う) 過ぎ去ってみれば苦しみにも喜びがあったのです。苦しみだったものは喜びだったのです。その時はまだ父はまだわたしの腕の中にいたんですもの。ああ、父よ、ああ、愛する人よ、大地の闇に被われた人よ、あなたはあの世にあっても決してわたしとこの子の愛を失ってはいない。
ΧΟ. Ἔπραξεν ‑ ΑΝ. Ἔπραξεν οἷον ἤθελεν.アッティカの老人たち(歌う) オイディプスどのは― アンティゴネ(歌う) 望みどおりに。
1705 ΧΟ. Τὸ ποῖον;ΑΝ. Ἇς ἔχρῃζε γᾶς ἐπὶ ξέναςアッティカの老人たち(歌う) どのような。アンティゴネ(歌う) 望んだ国で亡くなりました。黄泉の国の暗闇の臥し所を手に入れています。しかも、喪に服して泣いてもらっているのですから。
Ἀνὰ γὰρ ὄμμα σε τόδ', ὦああ、父よ、私の目は涙で濡れているからです。あなたゆえのこの悲しみを取り除く方法をわたしは知りません。ああ嘆かわしい、あなたは異国の地で死にたいと言っていましたが、こうしてわたしと別れて死んでいきましたね。
1715 ΙΣ. Ὦ τάλαινα, τίς ἄρα με πότμοςイスメネ(歌う) ああ、かわいそうなお姉さま、父と別れてわたしとあなたにどんな運命が待っているのでしょう。
1720 ΧΟ. Ἀλλ' ἐπεὶ ὀλβίως γ' ἔλυ-σενアッティカの老人たち(歌う) しかし、友よ、あの方は幸いにも人生の目的を達成されたのですから、悲しむのはおやめなさい。不幸に見舞われない人はいないのです。
ΑΝ. Πάλιν, φίλα, συθῶμεν(σεύω). ΙΣ. Ὡς τί ῥέξομεν;---Str. 2.アンティゴネ(歌う) さあ、妹よ、急いで戻りましょう。イスメネ(歌う) 何をしに戻るのです。
1725 ΑΝ. Ἵμερος ἔχει με ΙΣ. Τίς;アンティゴネ(歌う) 是非とも出発したいことがあるのです。イスメネ(歌う) それは何ですか。
ΑΝ. τὰν χθόνιον(地下の) ἑστίαν ἰδεῖν ‑アンティゴネ(歌う) 地下の住まいを見たいのです。
ΙΣ. Τίνος; ΑΝ. πατρός, τάλαιν' ἐγώ.イスメネ(歌う) 誰の住まいですか。アンティゴネ(歌う) 悲しいけれど、父の住まいを見たいのです。
ΙΣ. Θέμις δὲ πῶς τάδ' ἐστί; μῶνイスメネ(歌う) わかっているはずです。それはできないこと。アンティゴネ(歌う) どうしてそんな貶すようなことを言うのです?
ΙΣ. Καὶ τόδ', ὡς ΑΝ. Τί τόδε μάλ' αὖθις;イスメネ(歌う) それにあのことも。アンティゴネ(歌う) それにまたそれは何を言い出すのです。
ΙΣ. ἄταφος ἔπιτνε δίχα τε παντός.イスメネ(歌う) 父上は墓はなく一人でゆかれたのですわ。
ΑΝ. Ἄγε με, καὶ τότ' ἐπενάριξον(ἐπενᾰρίζω殺す).アンティゴネ(歌う) そこへ私を連れて行って殺してよ。
‹ΙΣ. - -イスメネ(歌う) ああ、みじめだわ。こんなに困り果てて天涯孤独でどうやってみじめな暮らしをできるでしょう。
ΧΟ. Φίλαι, τρέσητε μηδέν. ΑΝ. Ἀλλὰ ποῖ φύγω;---Ant. 2.アッティカの老人たち(歌う) お嬢さんたち、怖がることはありません。アンティゴネ(歌う) でもどこへ逃れたらしいのです。
ΧΟ. Καὶ πάρος ἀπεφύγετον ‑ ΑΝ. ‹τὸ τί;›アッティカの老人たち(歌う) お二人はもう逃れた;のです。アンティゴネ(歌う) どういう意味ですか。
1740 ΧΟ. ‹τὰ› σφῷν τὸ μὴ πίτνειν κακῶς.アッティカの老人たち(歌う) お二人に不幸なことが起きないように。
ΑΝ. Φρονῶ ‑ ΧΟ. Τί δῆθ' ὑπερνοεῖς;アンティゴネ(歌う) 私には考えが…。アッティカの老人たち(歌う) では何を考えているのですか。
ΑΝ. Ὅπως μολούμεθ' ἐς δόμους,アンティゴネ(歌う) どうやって祖国に帰ればいいのか分からないのよ。アッティカの老人たち(歌う) そんなことは考えなさるな。
ΑΝ. Μόγος ἔχει. ΧΟ. Καὶ πάρος ἐπεῖχεν.アンティゴネ(歌う) わたしは苦しいのです。アッティカの老人たち(歌う) それは前から同じでしょう。
1745 ΑΝ. Τοτὲ μὲν ἄπορα, τοτὲ δ' ὕπερθεν.アンティゴネ(歌う) ただ苦しいのではありません。
ΧΟ. Μέγ' ἄρα πέλαγος(海) ἐλάχετόν(λαγχάνω) τι.アッティカの老人たち(歌う) あなたたちの苦しみは計り知れないのです。
ΑΝ. Ναὶ ναί. ΧΟ. Ξύμφημι καὐτός.アンティゴネ(歌う) そうです。アッティカの老人たち(歌う) 私もわかります。
ΑΝ. Φεῦ φεῦ, ποῖ μόλωμεν,アンティゴネ(歌う) ああ、神様、わたしたちはどこへ行けばいいの? 神様はどんな希望を私たちに残してくれたの?
ΘΗ. Παύετε θρῆνον, παῖδες· ἐν οἷς γὰρテセウス(音楽に合わせて語る) 娘たち、嘆くの止めなさい、あの世の闇が喜びとして待っている人を嘆くのは良くない。それは掟に背くことだ。
ΑΝ. Ὦ τέκνον Αἰγέως, προσπίτνομέν σοι.アンティゴネ(音楽に合わせて語る) ああ、アイゲウスの子よ、わたしたちはあんたに伏してお願いします。
1755 ΘΗ. Τίνος, ὦ παῖδες, χρείας ἀνύσαι(達成する);テセウス(音楽に合わせて語る) 娘たちよ、何をしてほしいのかね。
ΑΝ. Τύμβον θέλομενアンティゴネ(音楽に合わせて語る) わたしたちの父親のお墓を見たいのです。
ΘΗ. Ἀλλ' οὐ θεμιτὸν κεῖσ' ἔστι μολεῖν.テセウス(音楽に合わせて語る) しかし、そこへ聞くことは許されてはいない。
ΑΝ. Πῶς εἶπας, ἄναξ, κοίραν'(支配者) Ἀθηνῶν;アンティゴネ(音楽に合わせて語る) アテナイの支配者よ、何を言うのです。
1760 ΘΗ. Ὦ παῖδες, ἀπεῖπεν ἐμοὶ κεῖνοςテセウス(音楽に合わせて語る) ああ、娘たちよ、あの人が禁じているのです、あの場所には近づくことも、あの人の神聖なお墓について人に話すことも。また、わたしがこの約束を守っているかぎりずっとこの国の平和を保てるとおっしゃったのです。
ΑΝ. Ἀλλ' εἰ τάδ' ἔχει κατὰ νοῦν κείνῳ,アンティゴネ(音楽に合わせて語る) しかし、もしそれが父の意向なら、それでわたしは満足しましょう。もしわたしがちがこれから起こる兄弟たちの殺し合いを防げるなら、わたしたちテーバイへ送ってください。
ΘΗ. Δράσω καὶ τάδε, καὶ πάνθ' ὁπόσ' ἂνテセウス(音楽に合わせて語る) ではそうしよう。またあなたたちだけでなく地下に去ったばかりの人のためになることなら何でも必ずするつもりだ。その点で抜かりがあってはならない。
ΧΟ. Ἀλλ' ἀποπαύετε μηδ' ἐπὶ πλείωアッティカの老人たち(音楽に合わせて語る) しかしながらもうおやめなさい。これ以上なげくことはありません。これら全ては神が定めたもうたことなのです。
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