万葉仮名で読む万葉集  万葉集を本屋で買つて来ても本棚に置いたままである人が多いはずだ。漢字仮名交じ り文で書いてあるから読んだらわかると思ふのだが、実際に読んでみると分かりやすい ものでないことがすぐに分かる。  注釈の付いてゐない岩波文庫ならなほさら、注釈つきの角川文庫でも同じことである。 そこで、これは全訳で読むしかないと講談社文庫を買つてくるが、それでもやはり本棚 に置いたままになつてしまふ。  本文を読んでから全訳で意味を知りながら読み進んで行つても、分かつたやうな分か らないやうな、分かつても何だそれだけかといふ程度の感興しか得られない場合が多い からである。  となると、これはそもそもの読み方が間違つてゐるのではないかと思ふしかない。万 葉集の歌は漢字仮名交じり文で作られたものではない。それを漢字仮名交じりで理解し ようとするからうまく行かないのだ。やはり万葉集は元々書かれた万葉仮名、当時の日 本語が託された漢字の姿のままで読むべきなのだと。  さう思つて本屋に行くと、普通に売られてゐる万葉集、訓読万葉集、新訓万葉集、訳 文万葉集などと題されたものは漢字仮名混じり文の歌集であり、そこには元の漢字文つ まり原文が含まれてゐず、それは校本万葉集とか萬葉集本文篇などと題されたもので読 む必要があることが分かる(講談社文庫本には原文も付いている)。  その原文が読める万葉集のなかでは、一番コンパクトで値段も手頃で最新の研究成果 が含まれてゐるのが「おうふう」(以前の桜楓社)といふ出版社から出ている『萬葉集』 である。この本は題名に原文とか校本とか書いてないので、漢字仮名交じりの解説本と 間違へて買つた人が多いためか、古本屋でよく売られているので簡単に手に入る。  この本には万葉仮名の横に振り仮名が付いてゐる。万葉仮名と言つてもいきなり読ん でも分からないので、この振り仮名を頼りに読んで行くわけである。かうして読んでい くと、これまで買つて本棚の肥やしになつてゐる漢字仮名交じりの万葉集の存在意義が 分かつてくる。これらは万葉仮名の読み方と意味の解釈を記録したものだつたのである。  しかし、そのうちに万葉仮名+振り仮名だけを読んでいても、意味が分かる歌がたく さんあることに気づいてくる。つまり、万葉仮名には漢字の音だけを使つたものと、漢 字の意味も利用したものの二種類があつて、漢字の意味も利用した万葉仮名で書かれて ゐる歌の場合には、じつと眺めてゐれば、漢字から歌の意味が分かつて来るのである。  一方、漢字の音だけを利用した万葉仮名で書かれている歌の場合は、ほぼ一つの音に 一つの漢字が充てられてゐて、個々の漢字から歌の意味を推測することは難しいので、 何度も読んでその音だけから意味を推測しなければならない(かういふ歌は第5、14、15、 17、18、20巻に収録されている。このタイプの万葉仮名が後の変体仮名を含む平仮名に なつたものと思はれる)。  例へば、否定の「ず」は前者では漢文式に「不」が使はれているのに対して、後者で は意味とは関係ない「受」がよく使はれるといふ具合である。  そして、前者の歌の場合は、それを読むのは漢字仮名交じり文を読むのとそれほど大 きな差がないことが次第に分かつてくるのだ。かうやつて次第に万葉仮名に慣れてくる と、他人の目を通さずに直接自分の目で万葉集を読むことが出来るやうになつて、読ん だ歌の面白さも違つて来るのである。  ただし、漢字から歌の意味が取れると言つても、やはり古文の教養は必要である。た とへば「な~そ」は否定の命令で「~み」で理由を示すなどの構文の知識、「にほひ」 が匂ひではなく色を指すこと、「去る」は「来る」ことであり、「直(ただ)に」は 「単に」ではなく「直接に」といふ意味であることなど、古語の知識も必要だ。  また、意味としては重要でない枕詞(まくらことば)の存在、「もふ」だけで「思ふ」 であること、「もとな」でむやみに激しいことを意味すること、「はしき」で「いとし い」ことを意味することとか、普通は濁音なのが清音になつてゐることが多いなど万葉 特有の知識を持つてゐるか、訳本や古語辞典などで学びながら読む必要がある。  なほ、以下に掲載したテキストは、以前にネット上にあつたものをダウンロードして おいたもので、万葉仮名で書かれた歌とその振り仮名、漢文の詞書が含まれてゐる。  それをxyzzyエディタを使つてユニコード・ファイルにして、漢字が「・」で表記され てゐたものに、出来る限りの漢字を充て、それが出来ないものは代はりの似た漢字を充て、 それ以外は■にしてその後に漢字の成り立ちを[]の中に示した。漢字の成り立ちでは、偏 (へん)と旁(つくり)を+で繋ぎ、上下の関係は並べて示した。  また、元のテキストでは漢字の並び→振り仮名の並びとなつてゐたが、漢字の下に振 り仮名が来るやうにして、振り仮名の五・七・五の先頭に漢字の五・七・五を合はせた。 さらに、折り返し表示にすると振り仮名が漢字の下に来ないので、テキスト表示のまま とした。振り仮名と漢字をずれずに表示するにはMSゴシックなど等幅フォントを使ふ必 要がある。  右端で自動的に改行しないブラウザを使うと漢字と振り仮名の対応がよく分かる。 代用漢字は以下の通り。原文の漢字との違ひを→の後に示した。 叨→刀が刂 煮→レンガが火 缻→偏と旁が反対 皃→ルがハ 嵬→山が偏 蓑→卄衣 県→呉の口が日 毘→[田+比] 役→彳が人偏 晴→[日+齊] 敘→余が[人ヨノ] 怪→圣が坙 弛→也が施の旁 慥→造が送 匈→胸の月が下 嫺→女偏+感 憾→感が可 獵→[獣偏+葛] 俤→弟が弖 碍→石偏なし  彷徨→行人偏が人偏 疥→介が尒 椄→木偏が人偏 菎→比が匕 衒→玄が含 臓→月が貝 摻→手偏が足偏 勤→旧字 祜→示偏が礻(3364と3611のみ。残りは祜のまま。これはFirefoxの場合。IEでは全部ネになる) 縵→又が方(七つのうち最初の三つ。四つ目からは縵のまま) 01 0001 雜歌 01 0001 泊瀬朝倉宮御宇天皇代 大泊瀬稚武天皇 01 0001 天皇御製歌 01 0001 篭毛與 美篭母乳 布久思毛與 美夫君志持  此岳尓   菜採須兒  家告閑   名告紗根  虚見津  山跡乃國者   押奈戸手  吾許曽居   師吉名倍手 吾己曽座   我許背齒   告目  家呼毛名雄母 こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち このをかに なつますこ いへのらせ なのらさね そらみつ やまとのくには おしなべて われこそをれ しきなべて われこそをれ われにこそは のらめ いへをもなをも 01 0002 高市岡本宮御宇天皇代 息長足日廣額天皇 01 0002 天皇登香具山望國之時御製歌 01 0002 山常庭   村山有等    取與呂布  天乃香具山   騰立    國見乎為者   國原波   煙立龍     海原波   加萬目立多都  怜憾國曽   蜻嶋    八間跡能國者 やまとには むらやまあれど とりよろふ あめのかぐやま のぼりたち くにみをすれば くにはらは けぶりたつたつ うなはらは かまめたつたつ うましくにぞ あきづしま やまとのくには 01 0003 天皇遊獵内野之時中皇命使間人連老獻歌 01 0003 八隅知之  我大王乃    朝庭    取撫賜     夕庭    伊縁立之    御執乃   梓弓之     奈加弭乃  音為奈利  朝獵尓   今立須良思   暮獵尓   今他田渚良之  御執能   梓弓之     奈加弭乃  音為奈里 やすみしし わがおほきみの あしたには とりなでたまひ ゆふべには いよりだたしし みとらしの あづさのゆみの なかはずの おとすなり あさがりに いまたたすらし ゆふがりに いまたたすらし みとらしの あづさのゆみの なかはずの おとすなり 01 0004 反歌 01 0004 玉剋春   内乃大野尓   馬數而   朝布麻須等六  其草深野 たまきはる うちのおほのに うまなめて あさふますらむ そのくさふかの 01 0005 幸讃岐國安益郡之時軍王見山作歌 01 0005 霞立    長春日乃    晩家流   和豆肝之良受  村肝乃   心乎痛見    奴要子鳥  卜歎居者    珠手次   懸乃宜久    遠神    吾大王乃    行幸能   山越風乃    獨座    吾衣手尓    朝夕尓   還比奴礼婆   大夫登   念有我母    草枕    客尓之有者   思遣    鶴寸乎白土   網能浦之   海處女等之   焼塩乃   念曽所焼    吾下情 かすみたつ ながきはるひの くれにける わづきもしらず むらきもの こころをいたみ ぬえことり うらなげをれば たまだすき かけのよろしく とほつかみ わがおほきみの いでましの やまこすかぜの ひとりをる わがころもでに あさよひに かへらひぬれば ますらをと おもへるわれも くさまくら たびにしあれば おもひやる たづきをしらに あみのうらの あまをとめらが やくしほの おもひぞやくる あがしたごころ 01 0006 反歌 01 0006 山越乃   風乎時自見   寐夜不落   家在妹乎    懸而小竹櫃 やまごしの かぜをときじみ ぬるよおちず いへなるいもを かけてしのひつ 01 0006 右撿日本書紀 無幸於讃岐國 亦軍王未詳也 但山上憶良大夫類聚歌林曰 記曰 天皇十一年己亥冬十二月己巳朔壬午幸于伊与温湯宮云〃 一書是時宮前在二樹木 此之二樹斑鳩比米二鳥大集 時勅多挂稲穂而養之 乃作歌云〃 若疑従此便幸之歟 01 0007 明日香川原宮御宇天皇代 天豊財重日足姫天皇 01 0007 額田王歌 未詳 01 0007 金野乃   美草苅葺    屋杼礼里之 兎道乃宮子能  借五百磯所念 あきののの みくさかりふき やどれりし うぢのみやこの かりほしおもほゆ 01 0007 右撿山上憶良大夫類聚歌林曰 一書戊申年幸比良宮大御歌 但紀曰 五年春正月己卯朔辛巳天皇至自紀温湯 三月戊寅朔天皇幸吉野宮而肆宴焉 庚辰日天皇幸近江之平浦 01 0008 後岡本宮御宇天皇代 天豊財重日足姫天皇位後即位後岡本宮 01 0008 額田王歌 01 0008 熟田津尓  船乗世武登   月待者   潮毛可奈比沼  今者許藝乞菜 にきたつに ふなのりせむと つきまてば しほもかなひぬ いまはこぎでな 01 0008 右撿山上憶良大夫類聚歌林曰 飛鳥岡本宮御宇天皇元年己丑九年丁酉十二月己巳朔壬午 天皇大后幸于伊豫湯宮 後岡本宮馭宇天皇七年辛酉春正月丁酉朔壬寅 御船西征始就于海路 庚戌御船泊于伊豫熟田津石湯行宮 天皇御覧昔日猶存之物 當時忽起感愛之情 所以因製歌詠為之哀傷也 即此歌者天皇御製焉 但額田王歌者別有四首 01 0009 幸于紀温泉之時額田王作歌 01 0009 莫囂圓隣之大相七兄爪謁氣 吾瀬子之  射立為兼    五可新何本              わがせこが いたたせりけむ いつかしがもと 01 0010 中皇命徃于紀温泉之時御歌 01 0010 君之齒母  吾代毛所知哉  磐代乃   岡之草根乎   去来結手名 きみがよも わがよもしるや いはしろの をかのくさねを いざむすびてな 01 0011 吾勢子波  借盧作良須   草無者   小松下乃    草乎苅核 わがせこは かりほつくらす かやなくは こまつがしたの かやをからさね 01 0012 吾欲之   野嶋波見世追  底深伎   阿胡根能浦乃  珠曽不拾 或頭云 吾欲    子嶋羽見遠 わがほりし のしまはみせつ そこふかき あごねのうらの たまぞひりはぬ  わがほりし こしまはみしを 01 0012 右撿山上憶良大夫類聚歌林曰 天皇御製歌云〃 01 0013 中大兄近江宮御宇天皇三山歌 01 0013 高山波   雲根火雄男志等 耳梨與   相諍競伎    神代従   如此尓有良之  古昔母   然尓有許曽   虚蝉毛   嬬乎  相挌良思吉 かぐやまは うねびををしと みみなしと あひあらそひき かむよより かくにあるらし いにしへも しかにあれこそ うつせみも つまを あらそふらしき 01 0014 反歌 01 0014 高山与   耳梨山与    相之時   立見尓来之   伊奈美國波良 かぐやまと みみなしやまと あひしとき たちてみにこし いなみくにはら 01 0015 渡津海乃  豊旗雲尓    伊理比紗之 今夜乃月夜   清明己曽 わたつみの とよはたくもに いりひさし こよひのつくよ さやけくありこそ 01 0015 右一首歌今案不似反歌也 但舊本以此歌載於反歌 故今猶載此次 亦紀曰 天豊財重日足姫天皇先四年乙巳立天皇為皇太子 01 0016 近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇謚曰天智天皇 01 0016 天皇詔内大臣藤原朝臣競憐春山萬花之艶秋山千葉之彩時額田王以歌判之歌 01 0016 冬木成   春去来者    不喧有之   鳥毛来鳴奴   不開有之   花毛佐家礼杼  山乎茂   入而毛不取   草深    執手母不見  秋山乃   木葉乎見而者  黄葉乎婆  取而曽思努布  青乎者   置而曽歎久   曽許之恨之   秋山吾者 ふゆこもり はるさりくれば なかずありし とりもきなきぬ さかずありし はなもさけれど やまをしみ いりてもとらず くさふかみ とりてもみず あきやまの このはをみては もみつをば とりてぞしのふ あをきをば おきてぞなげく そこしうらめし あきやまわれは 01 0017 額田王下近江國時作歌井戸王即和歌 01 0017 味酒   三輪乃山  青丹吉   奈良能山乃  山際    伊隠萬代   道隈    伊積流萬代尓  委曲毛   見管行武雄   數〃毛   見放武八萬雄  情無    雲乃  隠障倍之也 うまさけ みわのやま あをによし ならのやまの やまのまに いかくるまで みちのくま いつもるまでに つばらにも みつつゆかむを しばしばも みさけむやまを こころなく くもの かくさふべしや 01 0018 反歌 01 0018 三輪山乎  然毛隠賀    雲谷裳   情有南畝    可苦佐布倍思哉 みわやまを しかもかくすか くもだにも こころあらなも かくさふべしや 01 0018 右二首歌山上憶良大夫類聚歌林曰 遷都近江國時 御覧三輪山御歌焉 日本書紀曰 六年丙寅春三月辛酉朔己卯遷都于近江 01 0019 綜麻形乃  林始乃     狭野榛能  衣尓著成    目尓都久和我勢 へそかたの はやしのさきの さのはりの きぬにつくなす めにつくわがせ 01 0019 右一首歌今案不似和歌 但舊本載于此次 故以猶載焉 01 0020 天皇遊獵蒲生野時額田王作歌 01 0020 茜草指   武良前野逝   標野行   野守者不見哉  君之袖布流 あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる 01 0021 皇太子答御歌 明日香宮御宇天皇謚曰天武天皇 01 0021 紫草能   尓保敝類妹乎  尓苦久有者  人嬬故尓    吾戀目八方 むらさきの にほへるいもを にくくあらば ひとづまゆゑに あれこひめやも 01 0021 紀曰 天皇七年丁卯夏五月五日縦於獵蒲生野 于時大皇弟諸王内臣及群臣皆悉従焉 01 0022 明日香清御原宮天皇代 天渟中原瀛真人天皇謚曰天武天皇 01 0022 十市皇女参赴於伊勢神宮時見波多横山巖吹芡刀自作歌 01 0022 河上乃   湯都盤村二   草武左受  常丹毛冀名   常處女煮手 かはのべの ゆついはむらに くさむさず つねにもがもな とこをとめにて 01 0022 吹芡刀自未詳也 但紀曰 天皇四年乙亥春二月乙亥朔丁亥十市皇女阿閇皇女参赴於伊勢神宮 01 0023 麻續王流於伊勢國伊良虞嶋之時人哀傷作歌 01 0023 打麻乎  麻續王     白水郎有哉 射等篭荷四間乃 珠藻苅麻須 うちそを をみのおほきみ あまなれや いらごのしまの たまもかります 01 0024 麻續王聞之感傷和歌 01 0024 空蝉之   命乎惜美    浪尓所濕  伊良虞能嶋之  玉藻苅食 うつせみの いのちををしみ なみにぬれ いらごのしまの たまもかりをす 01 0024 右案日本紀曰 天皇四年乙亥夏四月戊戌朔乙卯 三位麻續王有罪流于因幡 一子流伊豆嶋 一子流血鹿嶋也 是云配于伊勢國伊良虞嶋者 若疑後人縁歌辞而誤記乎 01 0025 天皇御製歌 01 0025 三吉野之  耳我嶺尓    時無曽   雪者落家留   間無曽  雨者零計類   其雪乃   時無如     其雨乃   間無如    隈毛不落   念乍叙来     其山道乎 みよしのの みみがのみねに ときなくぞ ゆきはふりける まなくぞ あめはふりける そのゆきの ときなきがごと そのあめの まなきがごと くまもおちず おもひつつぞくる そのやまみちを 01 0026 或本歌 01 0026 三芳野之  耳我山尓    時自久曽  雪者落等言    無間曽  雨者落等言    其雪    不時如     其雨    無間如    隈毛不堕   思乍叙来     其山道乎 みよしのの みみがのやまに ときじくぞ ゆきはふるといふ まなくぞ あめはふるといふ そのゆきの ときじきがごと そのあめの まなきがごと くまもおちず おもひつつぞくる そのやまみちを 01 0026 右句〃相換 因此重載焉 01 0027 天皇幸于吉野宮時御製歌 01 0027 淑人乃   良跡吉見而   好常言師   芳野吉見与   良人四来三 よきひとの よしとよくみて よしといひし よしのよくみよ よきひとよくみ 01 0027 紀曰 八年己卯五月庚辰朔甲申幸于吉野宮 01 0028 藤原宮御宇天皇代 高天原廣野姫天皇 元年丁亥十一年譲位軽太子 尊号曰太上天皇 01 0028 天皇御製歌 01 0028 春過而   夏来良之    白妙能   衣乾有     天之香来山 はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あめのかぐやま 01 0029 過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌 01 0029 玉手次   畝火之山乃   橿原乃   日知之御世従 或云 自宮      阿礼座師  神之盡     樛木乃   弥継嗣尓    天下    所知食之乎 或云 食来      天尓満   倭乎置而    青丹吉   平山乎超 或云 虚見   倭乎置    青丹吉   平山越而    何方    御念食可 或云 所念計米可   天離    夷者雖有    石走    淡海國乃    樂浪乃   大津宮尓    天下    所知食兼    天皇之   神之御言能   大宮者   此間等雖聞   大殿者   此間等雖云   春草之   茂生有     霞立    春日之霧流 或云 霞立    春日香霧流   夏草香   繁成奴留    百磯城之  大宮處     見者悲毛 或云 見者左夫思母 たまだすき うねびのやまの かしはらの ひじりのみよゆ   ひじりのみやゆ あれましし かみのことごと つがのきの いやつぎつぎに あめのした しらしめししを  しらしめしける そらにみつ やまとをおきて あをによし ならやまをこえ そらみつ やまとをおき あをによし ならやまこえて いかさまに おもほしめせか おもほしけめか あまざかる ひなにはあれど いはばしる あふみのくにの ささなみの おほつのみやに あめのした しらしめしけむ すめろきの かみのみことの おほみやは ここときけども おほとのは ここといへども はるくさの しげくおひたる かすみたつ はるひのきれる  かすみたつ はるひかきれる なつくさか しげくなりぬる ももしきの おほみやところ みればかなしも みればさぶしも 01 0030 反歌 01 0030 樂浪之   思賀乃辛碕   雖幸有    大宮人之    船麻知兼津 ささなみの しがのからさき さきくあれど おほみやひとの ふねまちかねつ 01 0031 左散難弥乃 志我能大和太 一云 比良乃     與杼六友  昔人二     亦母相目八毛 一云 将會跡母戸八 ささなみの しがのおほわだ   ひらのおほわだ よどむとも むかしのひとに またもあはめやも  あはむともへや 01 0032 高市古人感傷近江舊堵作歌 或書云高市連黒人 01 0032 古     人尓和礼有哉   樂浪乃   故京乎     見者悲寸 いにしへの ひとにわれあれや ささなみの ふるきみやこを みればかなしき 01 0033 樂浪乃   國都美神乃   浦佐備而  荒有京     見者悲毛 ささなみの くにつみかみの うらさびて あれたるみやこ みればかなしも 01 0034 幸于紀伊國時川嶋皇子御作歌 或云山上憶良作 01 0034 白浪乃   濱松之枝乃   手向草   幾代左右二賀  年乃経去良武 一云 年者経尓計武 しらなみの はままつがえの たむけぐさ いくよまでにか としのへぬらむ   としはへにけむ 01 0034 日本紀曰 朱鳥四年庚寅秋九月天皇幸紀伊國也 01 0035 越勢能山時阿閇皇女御作歌 01 0035 此也是能  倭尓四手者   我戀流   木路尓有云   名二負勢能山 これやこの やまとにしては あがこふる きぢにありとふ なにおふせのやま 01 0036 幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌 01 0036 八隅知之  吾大王之    所聞食   天下尓    國者思毛  澤二雖有    山川之   清河内跡    御心乎   吉野乃國之   花散相   秋津乃野邊尓  宮柱    太敷座波    百磯城乃  大宮人者    船並弖   旦川渡     船競    夕河渡     此川乃   絶事奈久    此山乃   弥高思良珠   水激    瀧之宮子波   見礼跡不飽可問 やすみしし わごおほきみの きこしをす あめのしたに くにはしも さはにあれども やまかはの きよきかふちと みこころを よしののくにの はなぢらふ あきづののへに みやばしら ふとしきませば ももしきの おほみやひとは ふななめて あさかはわたる ふなぎほひ ゆふかはわたる このかはの たゆることなく このやまの いやたかしらす みづはしる たぎのみやこは みれどあかぬかも 01 0037 反歌 01 0037 雖見飽奴   吉野乃河之   常滑乃   絶事奈久    復還見牟 みれどあかぬ よしののかはの とこなめの たゆることなく またかへりみむ 01 0038 安見知之  吾大王    神長柄   神佐備世須登  芳野川   多藝津河内尓  高殿乎   高知座而    上立    國見乎為勢婆  疊有    青垣山    〃神乃   奉御調等    春部者  花挿頭持    秋立者   黄葉頭刺理 一云 黄葉加射之   逝副   川之神母   大御食尓  仕奉等     上瀬尓   鵜川乎立   下瀬尓   小網刺渡    山川母   依弖奉流    神乃御代鴨 やすみしし わごおほきみ かむながら かむさびせすと よしのがは たぎつかふちに たかどのを たかしりまして のぼりたち くにみをせせば たたなはる あをかきやま やまつみの まつるみつきと はるへは はなかざしもち あきたてば もみちかざせり  もみちばかざし ゆきそふ かはのかみも おほみけに つかへまつると かみつせに うかはをたち しもつせに さでさしわたす やまかはも よりてつかふる かみのみよかも 01 0039 反歌 01 0039 山川毛   因而奉流    神長柄   多藝津河内尓  船出為加母 やまかはも よりてつかふる かむながら たぎつかふちに ふなでせすかも 01 0039 右日本紀曰 三年己丑正月天皇幸吉野宮 八月幸吉野宮 四年庚寅二月幸吉野宮 五月幸吉野宮 五年辛卯正月幸吉野宮 四月幸吉野宮者 未詳知何月従駕作歌 01 0040 幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌 01 0040 嗚呼見乃浦尓 船乗為良武   嫺嬬等之  珠裳乃須十二  四寳三都良武香 あみのうらに ふなのりすらむ をとめらが たまものすそに しほみつらむか 01 0041 釼著    手節乃埼二   今日毛可母 大宮人之    玉藻苅良武 くしろつく たふしのさきに けふもかも おほみやひとの たまもかるらむ 01 0042 潮左為二  五十等兒乃嶋邊 榜船荷   妹乗良六鹿   荒嶋廻乎 しほさゐに いらごのしまへ こぐふねに いものるらむか あらきしまみを 01 0043 當麻真人麻呂妻作歌 01 0043 吾勢枯波  何所行良武   己津物   隠乃山乎    今日香越等六 わがせこは いづくゆくらむ おきつもの なばりのやまを けふかこゆらむ 01 0044 石上大臣従駕作歌 01 0044 吾妹子乎  去来見乃山乎  高三香裳  日本能不所見  國遠見可聞 わぎもこを いざみのやまを たかみかも やまとのみえぬ くにとほみかも 01 0044 右日本紀曰 朱鳥六年壬辰春三月丙寅朔戊辰以浄廣肆廣瀬王等為留守官 於是中納言三輪朝臣高市麻呂脱其冠位擎上於朝重諌曰 農作之前車駕未可以動 辛未天皇不従諌 遂幸伊勢 五月乙丑朔庚午御阿胡行宮 01 0045 軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌 01 0045 八隅知之  吾大王    高照    日之皇子 神長柄   神佐備世須等  太敷為   京乎置而    隠口乃   泊瀬山者    真木立  荒山道乎    石根   禁樹押靡    坂鳥乃   朝越座而    玉限    夕去来者    三雪落   阿騎乃大野尓  旗須為寸  四能乎押靡   草枕    多日夜取世須  古昔念而 やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこ かむながら かむさびせすと ふとしかす みやこをおきて こもりくの はつせのやまは まきたつ あらきやまぢを いはがね さへきおしなべ さかどりの あさこえまして たまかぎる ゆふさりくれば みゆきふる あきのおほのに はたすすき しのをおしなべ くさまくら たびやどりせす いにしへおもひて 01 0046 短歌 01 0046 阿騎乃野尓 宿旅人     打靡    寐毛宿良目八方 古部念尓 あきののに やどるたびびと うちなびき いもぬらめやも いにしへおもふに 01 0047 真草苅   荒野者雖有    葉     過去君之    形見跡曽来師 まくさかる あらのにはあれど もみちばの すぎにしきみが かたみとぞこし 01 0048 東     野炎      立所見而  反見為者    月西渡 ひむかしの のにかぎろひの たつみえて かへりみすれば つきかたぶきぬ 01 0049 日雙斯   皇子命乃    馬副而   御獵立師斯   時者来向 ひなみしの みこのみことの うまなめて みかりたたしし ときはきむかふ 01 0050 藤原宮之役民作歌 01 0050 八隅知之  吾大王    高照    日乃皇子 荒妙乃   藤原我宇倍尓   食國乎   賣之賜牟登   都宮者   高所知武等   神長柄   所念奈戸二   天地毛   縁而有許曽   磐走    淡海乃國之   衣手能   田上山之    真木佐苦 桧乃嬬手乎  物乃布能  八十氏河尓   玉藻成   浮倍流礼    其乎取登  散和久御民毛  家忘    身毛多奈不知  鴨自物   水尓浮居而   吾作    日之御門尓  不知國   依巨勢道従   我國者   常世尓成牟   圖負留   神龜毛     新代登   泉乃河尓    持越流   真木乃都麻手乎 百不足   五十日太尓作  泝須良牟  伊蘇波久見者  神随尓有之 やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこ あらたへの ふぢはらがうへに をすくにを めしたまはむと みあらかは たかしらさむと かむながら おもほすなへに あめつちも よりてあれこそ いはばしる あふみのくにの ころもでの たなかみやまの まきさく ひのつまでを もののふの やそうぢかはに たまもなす うかべながせれ そをとると さわくみたみも いへわすれ みもたなしらず かもじもの みづにうきゐて わがつくる ひのみかどに しらぬくに よしこせぢより わがくには とこよにならむ あやおへる くすしきかめも あらたよと いづみのかはに もちこせる まきのつまでを ももたらず いかだにつくり のぼすらむ いそはくみれば かむながらならし 01 0050 右日本紀曰 朱鳥七年癸巳秋八月幸藤原宮地 八年甲午春正月幸藤原宮 冬十二月庚戌朔乙卯遷居藤原宮 01 0051 従明日香宮遷居藤原宮乃後志貴皇子御作歌 01 0051 婇女乃  袖吹反     明日香風  京都乎遠見   無用尓布久 うねめの そでふきかへす あすかかぜ みやこをとほみ いたづらにふく 01 0052 藤原宮御井歌 01 0052 八隅知之  和期大王   高照    日之皇子 麁妙乃   藤井我原尓   大御門   始賜而     埴安乃   堤上尓     在立之   見之賜者   日本乃  青香具山者   日経乃   大御門尓   春山跡   之美佐備立有  畝火乃  此美豆山者   日緯能   大御門尓   弥豆山跡  山佐備伊座   耳為之   青菅山者    背友乃  大御門尓   宜名倍   神佐備立有   名細   吉野乃山者   影友乃   大御門従   雲居尓曽  遠久有家留   高知也   天之御蔭   天知也   日之御影乃  水許曽婆  常尓有米   御井之清水 やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこ あらたへの ふぢゐがはらに おほみかど はじめたまひて はにやすの つつみのうへに ありたたし めしたまへば やまとの あをかぐやまは ひのたての おほみかどに はるやまと しみさびたてり うねびの このみづやまは ひのよこの おほみかどに みづやまと やまさびいます みみなしの あをすがやまは そともの おほみかどに よろしなへ かむさびたてり なぐはし よしののやまは かげともの おほみかどゆ くもゐにぞ とほくありける たかしるや あめのみかげ あめしるや ひのみかげの みづこそば つねにあらめ みゐのましみづ 01 0053 短歌 01 0053 藤原之   大宮都加倍   安礼衝哉  處女之友者   乏吉呂賀聞 ふぢはらの おほみやつかへ あれつくや をとめがともは ともしきろかも 01 0053 右歌作者未詳 01 0054 大寳元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀伊國時歌 01 0054 巨勢山乃  列〃椿     都良〃〃尓 見乍思奈    許湍乃春野乎 こせやまの つらつらつばき つらつらに みつつしのはな こせのはるのを 01 0054 右一首坂門人足 01 0055 朝毛吉   木人乏母    亦打山   行来跡見良武  樹人友師母 あさもよし きひとともしも まつちやま ゆきくとみらむ きひとともしも 01 0055 右一首調首淡海 01 0056 或本歌 01 0056 河上乃   列〃椿     都良〃〃尓 雖見安可受   巨勢能春野者 かはのべの つらつらつばき つらつらに みれどもあかず こせのはるのは 01 0056 右一首春日蔵首老 01 0057 二年壬寅太上天皇幸于参河國時歌 01 0057 引馬野尓  仁保布榛原   入乱    衣尓保波勢   多鼻能知師尓 ひくまのに にほふはりはら いりみだれ ころもにほはせ たびのしるしに 01 0057 右一首長忌寸奥麻呂 01 0058 何所尓可  船泊為良武   安礼乃埼  榜多味行之   棚無小舟 いづくにか ふなはてすらむ あれのさき こぎたみゆきし たななしをぶね 01 0058 右一首高市連黒人 01 0059 譽謝女王作歌 01 0059 流経    妻吹風之    寒夜尓   吾勢能君者   獨香宿良武 ながらふる つまふくかぜの さむきよに わがせのきみは ひとりかぬらむ 01 0060 長皇子御歌 01 0060 暮相而    朝面無美    隠尓加   氣長妹之    廬利為里計武 よひにあひて あしたおもなみ なばりにか けながくいもが いほりせりけむ 01 0061 舎人娘子従駕作歌 01 0061 大夫之   得物矢手挿   立向    射流圓方波   見尓清潔之 ますらをの さつやたばさみ たちむかひ いるまとかたは みるにさやけし 01 0062 三野連入唐時春日蔵首老作歌 名闕 01 0062 在根良   對馬乃渡    〃中尓   幣取向而    早還許年 ありねよし つしまのわたり わたなかに ぬさとりむけて はやかへりこね 01 0063 山上臣憶良在大唐時憶本郷作歌 01 0063 去来子等  早日本邊    大伴乃   御津乃濱松   待戀奴良武 いざこども はやくやまとへ おほともの みつのはままつ まちこひぬらむ 01 0064 慶雲三年丙午幸于難波宮時 志貴皇子御作歌 01 0064 葦邊行   鴨之羽我比尓  霜零而   寒暮夕     倭之所念 あしへゆく かものはがひに しもふりて さむきゆふべは やまとしおもほゆ 01 0065 長皇子御歌 01 0065 霰打    安良礼松原   住吉乃   弟日娘与    見礼常不飽香聞 あられうつ あられまつばら すみのえの おとひをとめと みれどあかぬかも 01 0066 太上天皇幸于難波宮時歌 01 0066 大伴乃   高師能濱乃   松之根乎  枕宿杼     家之所偲由 おほともの たかしのはまの まつがねを まくらきぬれど いへししのはゆ 01 0066 右一首置始東人 01 0067 旅尓之而  物戀之伎尓   鶴之鳴毛  不所聞有世者   孤悲而死萬思 たびにして ものこほしきに たづがねも きこえずありせば こひてしなまし 01 0067 右一首高安大嶋 01 0068 大伴乃   美津能濱尓有  忘貝    家尓有妹乎   忘而念哉 おほともの みつのはまなる わすれがひ いへなるいもを わすれておもへや 01 0068 右一首身人部王 01 0069 草枕    客去君跡    知麻世婆  崖之埴布尓   仁寳播散麻思呼 くさまくら たびゆくきみと しらませば きしのはにふに にほはさましを 01 0069 右一首清江娘子進長皇子 姓氏未詳 01 0070 太上天皇幸于吉野宮時高市連黒人作歌 01 0070 倭尓者   鳴而歟来良武  呼兒鳥   象乃中山    呼曽越奈流 やまとには なきてかくらむ よぶこどり きさのなかやま よぶぞこゆなる 01 0071 大行天皇幸于難波宮時歌 01 0071 倭戀    寐之不所宿尓  情無    此渚埼未尓   多津鳴倍思哉 やまとこひ いのねらえぬに こころなく このすさきみに たづなくべしや 01 0071 右一首忍坂部乙麻呂 01 0072 玉藻苅   奥敝波不榜   敷妙乃   枕乃邊人    忘可祢津藻 たまもかる おきへはこがじ しきたへの まくらのあたり わすれかねつも 01 0072 右一首式部卿藤原宇合 01 0073 長皇子御歌 01 0073 吾妹子乎  早見濱風    倭有    吾松椿     不吹有勿勤 わぎもこを はやみはまかぜ やまとなる あをまつつばき ふかざるなゆめ 01 0074 大行天皇幸于吉野宮時歌 01 0074 見吉野乃  山下風之    寒久尓   為當也今夜毛  我獨宿牟 みよしのの やまのあらしの さむけくに はたやこよひも あがひとりねむ 01 0074 右一首或云 天皇御製歌 01 0075 宇治間山  朝風寒之    旅尓師手  衣應借     妹毛有勿久尓 うぢまやま あさかぜさむし たびにして ころもかすべき いももあらなくに 01 0075 右一首長屋王 01 0076 和銅元年戊申 天皇御製 01 0076 大夫之   鞆乃音為奈利   物部乃   大臣      楯立良思母 ますらをの とものおとすなり もののふの おほまへつきみ たてたつらしも 01 0077 御名部皇女奉和御歌 01 0077 吾大王    物莫御念    須賣神乃  嗣而賜流    吾莫勿久尓 わごおほきみ ものなおもほし すめかみの つぎてたまへる われなけなくに 01 0078 和銅三年庚戌春二月従藤原宮遷于寧樂宮時御輿停長屋原廻望古郷作歌 一書云太上天皇御製 01 0078 飛鳥    明日香能里乎  置而伊奈婆  君之當者    不所見香聞安良武 一云 君之當乎    不見而香毛安良牟 とぶとりの あすかのさとを おきていなば きみがあたりは みえずかもあらむ    きみがあたりを みずてかもあらむ 01 0079 或本従藤原京遷于寧樂宮時歌 01 0079 天皇乃   御命畏美    柔備尓之  家乎擇   隠國乃   泊瀬乃川尓   舼浮而   吾行河乃    川隈之   八十阿不落   万段    顧為乍     玉桙乃   道行晩     青丹吉   楢乃京師乃   佐保川尓  伊去至而    我宿有   衣乃上従    朝月夜   清尓見者    栲乃穂尓  夜之霜落    磐床等   川之水凝    冷夜乎   息言無久    通乍    作家尓     千代二手尓 座多公与     吾毛通武 おほきみの みことかしこみ にきびにし いへをおき こもりくの はつせのかはに ふねうけて わがゆくかはの かはくまの やそくまおちず よろづたび かへりみしつつ たまほこの みちゆきぐらし あをによし ならのみやこの さほがはに いゆきいたりて わがねたる ころものうへゆ あさづくよ さやかにみれば たへのほに よるのしもふり いはとこと かはのみづこり さむきよを やすむことなく かよひつつ つくれるいへに ちよまでに いませおほきみよ あれもかよはむ 01 0080 反歌 01 0080 青丹吉   寧樂乃家尓者  万代尓   吾母将通    忘跡念勿 あをによし ならのいへには よろづよに あれもかよはむ わするとおもふな 01 0080 右歌作主未詳 01 0081 和銅五年壬子夏四月遣長田王于伊勢齋宮時山邊御井作歌 01 0081 山邊乃   御井乎見我弖利 神風乃   伊勢處女等   相見鶴鴨 やまのべの みゐをみがてり かむかぜの いせをとめども あひみつるかも 01 0082 浦佐夫流  情佐麻祢之   久堅乃   天之四具礼能  流相見者 うらさぶる こころさまねし ひさかたの あめのしぐれの ながらふみれば 01 0083 海底    奥津白波    立田山   何時鹿越奈武  妹之當見武 わたのそこ おきつしらなみ たつたやま いつかこえなむ いもがあたりみむ 01 0083 右二首今案不似御井所作 若疑當時誦之古歌歟 01 0084 寧樂宮 01 0084 長皇子與志貴皇子於佐紀宮倶宴歌 01 0084 秋去者   今毛見如    妻戀尓   鹿将鳴山曽   高野原之宇倍 あきさらば いまもみるごと つまごひに かなかむやまぞ たかのはらのうへ 01 0084 右一首長皇子 02 0085 相聞 02 0085 難波高津宮御宇天皇代 大鷦鷯天皇謚曰仁徳天皇 02 0085 磐姫皇后思天皇御作歌四首 02 0085 君之行   氣長成奴    山多都祢  迎加将行    待尓可将待 きみがゆき けながくなりぬ やまたづね むかへかゆかむ まちにかまたむ 02 0085 右一首歌山上憶良臣類聚歌林載焉 02 0086 如此許   戀乍不有者    高山之   磐根四巻手   死奈麻死物呼 かくばかり こひつつあらずは たかやまの いはねしまきて しなましものを 02 0087 在管裳   君乎者将待   打靡    吾黒髪尓    霜乃置萬代日 ありつつも きみをばまたむ うちなびく あがくろかみに しものおくまでに 02 0088 秋田之   穂上尓霧相   朝霞    何時邊乃方二  我戀将息 あきのたの ほのへにきらふ あさかすみ いつへのかたに あがこひやまむ 02 0089 或本歌曰 02 0089 居明而   君乎者将待   奴婆珠能  吾黒髪尓    霜者零騰文 ゐあかして きみをばまたむ ぬばたまの あがくろかみに しもはふるとも 02 0089 右一首古歌集中出 02 0090 古事記曰 軽太子姧軽太郎女 故其太子流於伊豫湯也 此時衣通王不堪戀慕而追徃時歌曰 02 0090 君之行   氣長久成奴   山多豆乃  迎乎将徃    待尓者不待 此云山多豆者是今造木者也 きみがゆき けながくなりぬ やまたづの むかへをゆかむ まつにはまたじ 02 0090 右一首歌古事記与類聚歌林所説不同歌主亦異焉 因撿日本紀曰 難波高津宮御宇大鷦鷯天皇廿二年春正月天皇語皇后納八田皇女将為妃 時皇后不聴 爰天皇歌以乞於皇后云〃 卅年秋九月乙卯朔乙丑皇后遊行紀伊國到熊野岬取其處之御綱葉而還 於是天皇伺皇后不在而娶八田皇女納於宮中 時皇后到難波濟 聞天皇合八田皇女大恨之云〃 亦曰 遠飛鳥宮御宇雄朝嬬稚子宿祢天皇廿三年春三月甲午朔庚子木梨軽皇子為太子 容姿佳麗見者自感 同母妹軽太娘皇女亦艶妙也云〃 遂竊通乃悒懐少息廿四年夏六月御羮汁凝以作氷 天皇異之卜其所由 卜者曰 有内乱 盖親〃相姧乎云〃 仍移太娘皇女於伊豫者 今案二代二時不見此歌也 02 0091 近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇謚曰天智天皇 02 0091 天皇賜鏡王女御歌一首 02 0091 妹之家毛   継而見麻思乎  山跡有   大嶋嶺尓    家母有猿尾 一云 妹之當    継而毛見武尓 一云 家居麻之乎 いもがいへも つぎてみましを やまとなる おほしまのねに いへもあらましを いもがあたり つぎてもみむに   いへをらましを 02 0092 鏡王女奉和御歌一首 02 0092 秋山之   樹下隠     逝水乃   吾許曽益目   御念従者 あきやまの このしたがくり ゆくみづの われこそまさめ おもほすよりは 02 0093 内大臣藤原卿娉鏡王女時鏡王女贈内大臣歌一首 02 0093 玉匣    覆乎安美    開而行者   君名者雖有    吾名之惜裳 たまくしげ おほふをやすみ あけていなば きみがなはあれど わがなしをしも 02 0094 内大臣藤原卿報贈鏡王女歌一首 02 0094 玉匣    将見圓山乃   狭名葛   佐不寐者遂尓  有勝麻之自 或本歌曰玉匣    三室戸山乃 たまくしげ みむろのやまの さなかづら さねずはつひに ありかつましじ   たまくしげ みむろとやまの 02 0095 内大臣藤原卿娶采女安見兒時作歌一首 02 0095 吾者毛也 安見兒得有   皆人乃   得難尓為云   安見兒衣多利 あはもや やすみこえたり みなひとの えかてにすとふ やすみこえたり 02 0096 久米禅師娉石川郎女時歌五首 02 0096 水薦苅   信濃乃真弓   吾引者   宇真人佐備而  不欲常将言可聞 禅師 みこもかる しなぬのまゆみ わがひかば うまひとさびて いなといはむかも 02 0097 三薦苅   信濃乃真弓   不引為而  強佐留行事乎  知跡言莫君二 郎女 みこもかる しなぬのまゆみ ひかずして しひさるわざを しるといはなくに 02 0098 梓弓    引者随意    依目友   後心乎     知勝奴鴨 郎女 あづさゆみ ひかばまにまに よらめども のちのこころを しりかてぬかも 02 0099 梓弓    都良絃取波氣  引人者   後心乎     知人曽引 禅師 あづさゆみ つらをとりはけ ひくひとは のちのこころを しるひとぞひく 02 0100 東人之 荷向篋乃 荷之緒尓毛 妹情尓 乗尓家留香問 禅師 あづまひとの のさきのはこの にのをにも いもはこころに のりにけるかも 02 0101 大伴宿祢娉巨勢郎女時歌一首 大伴宿祢諱曰安麻呂也難波朝右大臣大紫大伴長徳卿之第六子平城朝任大納言兼大将軍薨也 02 0101 玉葛    實不成樹尓波  千磐破   神曽著常云    不成樹別尓 たまかづら みならぬきには ちはやぶる かみぞつくといふ ならぬきごとに 02 0102 巨勢郎女報贈歌一首 即近江朝大納言巨勢人卿之女也 02 0102 玉葛    花耳開而    不成有者   誰戀尓有目    吾孤悲念乎 たまかづら はなのみさきて ならずあるは たがこひにあらめ あれこひもふを 02 0103 明日香清御原宮御宇天皇代 天渟中原瀛真人天皇謚曰天武天皇 02 0103 天皇賜藤原夫人御歌一首 02 0103 吾里尓   大雪落有    大原乃   古尓之郷尓   落巻者後 わがさとに おほゆきふれり おほはらの ふりにしさとに ふらまくはのち 02 0104 藤原夫人奉和歌一首 02 0104 吾岡之   於可美尓言而  令落    雪之摧之    彼所尓塵家武 わがをかの おかみにいひて ふらしめし ゆきのくだけし そこにちりけむ 02 0105 藤原宮御宇天皇代 天皇謚曰持統天皇元年丁亥十一年譲位軽太子尊号曰太上天皇也 02 0105 大津皇子竊下於伊勢神宮上来時大伯皇女御作歌二首 02 0105 吾勢祜乎  倭邊遣登    佐夜深而  鷄鳴露尓    吾立所霑之 わがせこを やまとへやると さよふけて あかときつゆに われたちぬれぬ 02 0106 二人行杼   去過難寸    秋山乎   如何君之    獨越武 ふたりゆけど ゆきすぎかたき あきやまを いかにかきみが ひとりこゆらむ 02 0107 大津皇子贈石川郎女御歌一首 02 0107 足日木乃  山之四付二   妹待跡   吾立所沾    山之四附二 あしひきの やまのしづくに いもまつと われたちぬれぬ やまのしづくに 02 0108 石川郎女奉和歌一首 02 0108 吾乎待跡  君之沾計武   足日木能  山之四附二   成益物乎 あをまつと きみがぬれけむ あしひきの やまのしづくに ならましものを 02 0109 大津皇子竊婚石川女郎時津守連通占露其事皇子御作歌一首 未詳 02 0109 大船之   津守之占尓   将告登波  益為尓知而   我二人宿之 おほぶねの つもりがうらに のらむとは まさしにしりて わがふたりねし 02 0110 日並皇子尊贈賜石川女郎御歌一首 女郎字曰大名兒也 02 0110 大名兒   彼方野邊尓   苅草乃   束之間毛    吾忘目八 おほなこを をちかたのへに かるかやの つかのあひだも われわすれめや 02 0111 幸于吉野宮時弓削皇子贈与額田王歌一首 02 0111 古尓    戀流鳥鴨    弓絃葉乃  三井能上従   鳴濟遊久 いにしへに こふるとりかも ゆづるはの みゐのうへより なきわたりゆく 02 0112 額田王奉和歌一首 従倭京進入 02 0112 古尓    戀良武鳥者   霍公鳥   盖哉鳴之    吾念流碁騰 いにしへに こふらむとりは ほととぎす けだしやなきし あがもへるごと 02 0113 従吉野折取蘿生松柯遣時額田王奉入歌一首 02 0113 三吉野乃  玉松之枝者   波思吉香聞 君之御言乎   持而加欲波久 みよしのの たままつがえは はしきかも きみがみことを もちてかよはく 02 0114 但馬皇女在高市皇子宮時思穂積皇子御作歌一首 02 0114 秋田之   穂向乃所縁   異所縁   君尓因奈名   事痛有登母 あきのたの ほむきのよれる かたよりに きみによりなな こちたくありとも 02 0115 勅穂積皇子遣近江志賀山寺時但馬皇女御作歌一首 02 0115 遺居而   戀管不有者    追及武   道之阿廻尓   標結吾勢 おくれゐて こひつつあらずは おひしかむ みちのくまみに しめゆへわがせ 02 0116 但馬皇女在高市皇子宮時竊接穂積皇子事既形而御作歌一首 02 0116 人事乎   繁美許知痛美  己世尓   未渡      朝川渡 ひとごとを しげみこちたみ おのがよに いまだわたらぬ あさかはわたる 02 0117 舎人皇子御歌一首 02 0117 大夫哉   片戀将為跡   嘆友    鬼乃益卜雄   尚戀二家里 ますらをや かたこひせむと なげけども しこのますらを なほこひにけり 02 0118 舎人娘子奉和歌一首 02 0118 嘆管    大夫之     戀礼許曽  吾髪結乃    漬而奴礼計礼 なげきつつ ますらをのこの こふれこそ わがかみゆひの ひちてぬれけれ 02 0119 弓削皇子思紀皇女御歌四首 02 0119 芳野河   逝瀬之早見   須臾毛   不通事無    有巨勢濃香問 よしのがは ゆくせをはやみ しましくも よどむことなく ありこせぬかも 02 0120 吾妹兒尓  戀乍不有者    秋芽之   咲而散去流   花尓有猿尾 わぎもこに こひつつあらずは あきはぎの さきてちりぬる はなにあらましを 02 0121 暮去者   塩満来奈武   住吉乃   淺鹿乃浦尓   玉藻苅手名 ゆふさらば しほみちきなむ すみのえの あさかのうらに たまもかりてな 02 0122 大船之   泊流登麻里能  絶多日二  物念痩奴    人能兒故尓 おほぶねの はつるとまりの たゆたひに ものもひやせぬ ひとのこゆゑに 02 0123 三方沙弥娶園臣生羽之女未経幾時臥病作歌三首 02 0123 多氣婆奴礼 多香根者長寸  妹之髪   比来不見尓   掻入津良武香 三方沙弥 たけばぬれ たかねばながき いもがかみ このころみぬに かきれつらむか 02 0124 人皆者   今波長跡    多計登雖言  君之見師髪   乱有等母 娘子 ひとみなは いまはながしと たけといへど きみがみしかみ みだれたりとも 02 0125 橘之    蔭履路乃    八衢尓   物乎曽念    妹尓不相而 三方沙弥 たちばなの かげふむみちの やちまたに ものをぞおもふ いもにあはずして 02 0126 石川女郎贈大伴宿祢田主歌一首 即佐保大納言大伴卿之第二子母曰巨勢朝臣也 02 0126 遊士跡   吾者聞流乎   屋戸不借  吾乎還利    於曽能風流士 みやびをと われはきけるを やどかさず われをかへせり おそのみやびを 02 0126 大伴田主字曰仲郎 容姿佳艶風流秀絶 見人聞者靡不歎息也 時有石川女郎 自成雙栖之感恒悲獨守之難 意欲寄書未逢良信 爰作方便而似賎嫗 己提堝子而到寝側 哽音蹢足叩戸諮曰 東隣貧女将取火来矣 於是仲郎暗裏非識冒隠之形 慮外不堪拘接之計 任念取火就跡歸去也 明後女郎既恥自媒之可愧 復恨心契之弗果 因作斯歌以贈謔戯焉 02 0127 大伴宿祢田主報贈歌一首 02 0127 遊士尓   吾者有家里   屋戸不借  令還吾曽    風流士者有 みやびをに あれはありけり やどかさず かへししわれぞ みやびをにはある 02 0128 同石川女郎更贈大伴田主中郎歌一首 02 0128 吾聞之   耳尓好似    葦若末乃   足痛吾勢    勤多扶倍思 わがききし みみによくにる あしのうれの あしひくわがせ つとめたぶべし 02 0128 右依中郎足疾贈此歌問訊也 02 0129 大津皇子宮侍石川女郎贈大伴宿祢宿奈麻呂歌一首 女郎字曰山田郎女也宿奈麻呂宿祢者大納言兼大将軍卿之第三子也 02 0129 古之   嫗尓為而也   如此許   戀尓将沈    如手童兒 一云 戀乎大尓  忍金手武    多和良波乃如 ふりにし おみなにしてや かくばかり こひにしづまむ たわらはのごと こひをだに しのびかねてむ たわらはのごと 02 0130 長皇子与皇弟御歌一首 02 0130 丹生乃河  瀬者不渡而   由久遊久登 戀痛吾弟    乞通来祢 にふのかは せはわたらずて ゆくゆくと こひたしわがせ いでかよひこね 02 0131 柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首 并短歌 02 0131 石見乃海   角乃浦廻乎   浦無等   人社見良目   滷無等 一云 礒無登   人社見良目   能咲八師  浦者無友    縦畫屋師  滷者無鞆 一云 礒者      鯨魚取   海邊乎指而   和多豆乃  荒礒乃上尓   香青生     玉藻息津藻   朝羽振   風社依米    夕羽振流  浪社来縁    浪之共   彼縁此依    玉藻成   依宿之妹乎 一云 波之伎余思 妹之手本乎   露霜乃   置而之来者   此道乃   八十隈毎    萬段    顧為騰     弥遠尓   里者放奴    益高尓   山毛越来奴   夏草之   念思奈要而   志怒布良武 妹之門将見   靡此山 いはみのうみ つののうらみを うらなしと ひとこそみらめ かたなしと  いそなしと ひとこそみらめ よしゑやし うらはなくとも よしゑやし かたはなくとも いそはなくとも いさなとり うみへをさして にきたづの ありそのうへに かあをくおふる たまもおきつも あさはふる かぜこそよせめ ゆふはふる なみこそきよれ なみのむた かよりかくより たまもなす よりねしいもを  はしきよし いもがたもとを つゆしもの おきてしくれば このみちの やそくまごとに よろづたび かへりみすれど いやとほに さとはさかりぬ いやたかに やまもこえきぬ なつくさの おもひしなえて しのふらむ いもがかどみむ なびけこのやま 02 0132 反歌二首 02 0132 石見乃也  高角山之    木際従   我振袖乎    妹見都良武香 いはみのや たかつのやまの このまより わがふるそでを いもみつらむか 02 0133 小竹之葉者 三山毛清尓   乱友    吾者妹思     別来礼婆 ささのはは みやまもさやに さやげども われはいもおもふ わかれきぬれば 02 0134 或本反歌曰 02 0134 石見尓有  高角山乃    木間従文  吾袂振乎    妹見監鴨 いはみなる たかつのやまの このまゆも わがそでふるを いもみけむかも 02 0135 角障経   石見之海乃   言佐敝久  辛乃埼有    伊久里尓曽 深海松生流   荒礒尓曽  玉藻者生流   玉藻成   靡寐之兒乎   深海松乃  深目手思騰    佐宿夜者  幾毛不有    延都多之  別之来者    肝向    心乎痛     念乍    顧為騰     大舟之   渡乃山之    黄葉乃   散之乱尓    妹袖    清尓毛不見   嬬隠有   屋上乃山乃 一云 室上山     自雲間   渡相月乃    雖惜    隠比来者    天傳    入日刺奴礼   大夫跡   念有吾毛    敷妙乃   衣袖者     通而沾奴 つのさはふ いはみのうみの ことさへく からのさきなる いくりにぞ ふかみるおふる ありそにぞ たまもはおふる たまもなす なびきねしこを ふかみるの ふかめておもへど さねしよは いくだもあらず はふつたの わかれしくれば きもむかふ こころをいたみ おもひつつ かへりみすれど おほぶねの わたりのやまの もみちばの ちりのまがひに いもがそで さやにもみえず つまごもる やかみのやまの  むろかみやまの くもまより わたらふつきの をしけども かくらひくれば あまづたふ いりひさしぬれ ますらをと おもへるわれも しきたへの ころものそでは とほりてぬれぬ 02 0136 反歌二首 02 0136 青駒之   足掻乎速    雲居曽   妹之當乎    過而来計類 一云   當者   隠来計留 あをこまが あがきをはやみ くもゐにぞ いもがあたりを すぎてきにける いもがあたりは かくりきにける 02 0137 秋山尓   落黄葉     須臾者   勿散乱曽    妹之當将見 一云 知里勿乱曽 あきやまに おつるもみちば しましくは なちりまがひそ いもがあたりみむ ちりなまがひそ 02 0138 或本歌一首 并短歌 02 0138 石見之海   津乃浦乎無美  浦無跡   人社見良米   滷無跡   人社見良目   吉咲八師  浦者雖無    縦恵夜思  滷者雖無    勇魚取   海邊乎指而   柔田津乃  荒礒之上尓   蚊青生     玉藻息都藻   明来者   浪己曽来依   夕去者   風己曽来依   浪之共   彼依此依    玉藻成   靡吾宿之    敷妙之   妹之手本乎   露霜乃   置而之来者   此道之   八十隈毎    萬段    顧雖為     弥遠尓   里放来奴    益高尓   山毛超来奴   早敷屋師  吾嬬乃兒我   夏草乃   思志萎而    将嘆    角里将見    靡此山 いはみのうみ つのうらをなみ うらなしと ひとこそみらめ かたなしと ひとこそみらめ よしゑやし うらはなくとも よしゑやし かたはなくとも いさなとり うみへをさして にきたつの ありそのうへに かあをくおふる たまもおきつも あけくれば なみこそきよれ ゆふされば かぜこそきよせ なみのむた かよりかくより たまもなす なびきわがねし しきたへの いもがたもとを つゆしもの おきてしくれば このみちの やそくまごとに よろづたび かへりみすれど いやとほに さとさかりきぬ いやたかに やまもこえきぬ はしきやし わがつまのこが なつくさの おもひしなえて なげくらむ つののさとみむ なびけこのやま 02 0139 反歌一首 02 0139 石見之海   打歌山乃    木際従   吾振袖乎    妹将見香 いはみのうみ うつたのやまの このまより わがふるそでを いもみつらむか 02 0139 右歌躰雖同句〃相替 因此重載 02 0140 柿本朝臣人麻呂妻依羅娘子与人麻呂相別歌一首 02 0140 勿念跡   君者雖言    相時    何時跡知而加  吾不戀有牟 なおもひと きみはいへども あはむとき いつとしりてか あがこひずあらむ 02 0141 挽歌 02 0141 後岡本宮御宇天皇代 02 0141 天豊財重日足姫天皇譲位後即後岡本宮 02 0141 有間皇子自傷結松枝歌二首 02 0141 磐白乃   濱松之枝乎   引結    真幸有者    亦還見武 いはしろの はままつがえを ひきむすび まさきくあらば またかへりみむ 02 0142 家有者    笥尓盛飯乎   草枕    旅尓之有者   椎之葉尓盛 いへにあれば けにもるいひを くさまくら たびにしあれば しひのはにもる 02 0143 長忌寸意吉麻呂見結松哀咽歌二首 02 0143 磐代乃   崖之松枝    将結    人者反而    復将見鴨 いはしろの きしのまつがえ むすびけむ ひとはかへりて またみけむかも 02 0144 磐代之   野中尓立有   結松    情毛不解    古所念 未詳 いはしろの のなかにたてる むすびまつ こころもとけず いにしへおもほゆ 02 0145 山上臣憶良追和歌一首 02 0145 鳥翔成 有我欲比管   見良目杼母 人社不知    松者知良武         ありがよひつつ みらめども ひとこそしらね まつはしるらむ 02 0145 右件歌等雖不挽柩之時所作准擬歌意 故以載于挽歌類焉 02 0146 大寳元年辛丑幸于紀伊國時見結松歌一首 柿本朝臣人麻呂歌集中出也 02 0146 後将見跡  君之結有    磐代乃   子松之宇礼乎  又将見香聞 のちみむと きみがむすべる いはしろの こまつがうれを またもみむかも 02 0147 近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇謚曰天智天皇 02 0147 天皇聖躬不豫之時太后奉御歌一首 02 0147 天原    振放見者    大王乃   御壽者長久    天足有 あまのはら ふりさけみれば おほきみの みいのちはながく あまたらしたり 02 0148 一書曰近江天皇聖躰不豫御病急時太后奉獻御歌一首 02 0148 青旗乃   木旗能上乎   賀欲布跡羽 目尓者雖視   直尓不相香裳 あをはたの こはたのうへを かよふとは めにはみれども ただにあはぬかも 02 0149 天皇崩後之時倭太后御作歌一首 02 0149 人者縦   念息登母    玉蘰    影尓所見乍   不所忘鴨 ひとはよし おもひやむとも たまかづら かげにみえつつ わすらえぬかも 02 0150 天皇崩時婦人作歌一首 姓氏未詳 02 0150 空蝉師   神尓不勝者   離居而   朝嘆君     放居而   吾戀君     玉有者   手尓巻持而   衣有者   脱時毛無    吾戀    君曽伎賊乃夜  夢所見鶴 うつせみし かみにあへねば はなれゐて あさなげくきみ はなれゐて あがこふるきみ たまならば てにまきもちて きぬならば ぬくときもなく あがこふる きみぞきぞのよ いめにみえつる 02 0151 天皇大殯之時歌二首 02 0151 如是有乃  懐知勢婆    大御船   泊之登萬里人  標結麻思乎 額田王 かからむと かねてしりせば おほみふね はてしとまりに しめゆはましを 02 0152 八隅知之  吾期大王乃   大御船   待可将戀    四賀乃辛埼 舎人吉年 やすみしし わごおほきみの おほみふね まちかこふらむ しがのからさき 02 0153 太后御歌一首 02 0153 鯨魚取   淡海乃海乎   奥放而   榜来船    邊附而  榜来船    奥津加伊  痛勿波祢曽   邊津加伊 痛莫波祢曽   若草乃   嬬之  念鳥立 いさなとり あふみのうみを おきさけて こぎくるふね へつきて こぎくるふね おきつかい いたくなはねそ へつかい いたくなはねそ わかくさの つまの おもふとりたつ 02 0154 石川夫人歌一首 02 0154 神樂浪乃  大山守者    為誰可   山尓標結    君毛不有國 ささなみの おほやまもりは たがためか やまにしめゆふ きみもあらなくに 02 0155 従山科御陵退散之時額田王作歌一首 02 0155 八隅知之  和期大王之   恐也    御陵奉仕流   山科乃   鏡山尓     夜者毛  夜之盡    晝者母  日之盡    哭耳呼  泣乍在而哉    百磯城乃  大宮人者    去別南 やすみしし わごおほきみの かしこきや みはかつかふる やましなの かがみのやまに よるはも よのことごと ひるはも ひのことごと ねのみを なきつつありてや ももしきの おほみやひとは ゆきわかれなむ 02 0156 明日香清御原宮御宇天皇代 天渟中原瀛真人天皇謚曰天武天皇 02 0156 十市皇女薨時高市皇子尊御作歌三首 02 0156 三諸之  神之神須疑   已具耳矣自得見監乍共 不寝夜叙多 みもろの みわのかむすぎ            いねぬよぞおほき 02 0157 神山之   山邊真蘇木綿  短木綿   如此耳故尓   長等思伎 みわやまの やまへまそゆふ みじかゆふ かくのみからに ながくとおもひき 02 0158 山振之   立儀足     山清水   酌尓雖行    道之白鳴 やまぶきの たちよそひたる やましみづ くみにゆかめど みちのしらなく 02 0158 紀曰 七年戊寅夏四月丁亥朔癸巳十市皇女卒然病發薨於宮中 02 0159 天皇崩之時大后御作歌一首 02 0159 八隅知之  我大王之    暮去者   召賜良之    明来者   問賜良志    神岳乃   山之黄葉乎   今日毛鴨  問給麻思    明日毛鴨  召賜萬旨    其山乎   振放見乍    暮去者   綾哀      明来者   裏佐備晩    荒妙乃   衣之袖者    乾時文無 やすみしし わごおほきみの ゆふされば めしたまふらし あけくれば とひたまふらし かむをかの やまのもみちを けふもかも とひたまはまし あすもかも めしたまはまし そのやまを ふりさけみつつ ゆふされば あやにかなしみ あけくれば うらさびくらし あらたへの ころものそでは ふるときもなし 02 0160 一書曰 天皇崩之時太上天皇御製歌二首 02 0160 燃火物   取而褁而    福路庭   入澄不言八面  智男雲 もゆるひも とりてつつみて ふくろには いるといはずやも 02 0161 向南山   陳雲之     青雲之   星離去     月矣離而 きたやまに たなびくくもの あをくもの ほしさかりゆく つきをはなれて 02 0162 天皇崩之後八年九月九日奉為御齋會之夜夢裏習賜御歌一首 古歌集中出 02 0162 明日香能 清御原乃宮尓  天下    所知食之   八隅知之  吾大王    高照    日之皇子 何方尓   所念食可    神風乃   伊勢能國者  奥津藻毛  靡足波尓    塩氣能味  香乎礼流國尓  味凝   文尓乏寸    高照    日之御子 あすかの きよみのみやに あめのした しらしめしし やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこ いかさまに おもほしめせか かむかぜの いせのくには おきつもも なみたるなみに しほけのみ かをれるくにに うまこり あやにともしき たかてらす ひのみこ 02 0163 藤原宮御宇天皇代 高天原廣野姫天皇天皇元年丁亥十一年譲位軽太子尊号曰太上天皇 02 0163 大津皇子薨之後大来皇女従伊勢齋宮上京之時御作歌二首 02 0163 神風乃   伊勢能國尓母  有益乎   奈何可来計武  君毛不有尓 かむかぜの いせのくににも あらましを なにしかきけむ きみもあらなくに 02 0164 欲見    吾為君毛    不有尓   奈何可来計武  馬疲尓 みまくほり わがするきみも あらなくに なにしかきけむ うまつかるるに 02 0165 移葬大津皇子屍於葛城二上山之時大来皇女哀傷御作歌二首 02 0165 宇都曽見乃 人尓有吾哉    従明日者  二上山乎    弟世登吾将見 うつそみの ひとにあるわれや あすよりは ふたがみやまを いろせとあがみむ 02 0166 礒之於尓   生流馬酔木乎  手折目杼  令視倍吉君之  在常不言尓 いそのうへに さけるあしびを たをらめど みすべききみが ありといはなくに 02 0166 右一首今案不似移葬之歌 盖疑従伊勢神宮還京之時路上見花感傷哀咽作此歌乎 02 0167 日並皇子尊殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首 并短歌 02 0167 天地之   初時之     久堅之   天河原尓    八百萬   千萬神之    神集    〃座而     神分    〃之時尓    天照    日女之命 一云 指上    日女之命    天乎婆  所知食登   葦原乃   水穂之國乎   天地之   依相之極     所知行   神之命等    天雲之   八重掻別而 一云 天雲之   八重雲別而   神下    座奉之     高照    日之皇子波 飛鳥之   浄之宮尓    神随    太布座而    天皇之   敷座國等    天原    石門乎開    神上    〃座奴 一云  神登    座尓之可婆   吾王     皇子之命乃   天下    所知食世者   春花之   貴在等      望月乃   満波之計武跡  天下 一云 食國   四方之人乃  大船之   思憑而     天水    仰而待尓    何方尓   御念食可    由縁母無  真弓乃岡尓   宮柱    太布座     御在香乎  高知座而    明言尓   御言不御問   日月之  數多成塗    其故    皇子之宮人   行方不知毛 一云 刺竹之   皇子宮人    歸邊不知尓為 あめつちの はじめのときの ひさかたの あまのかはらに やほよろづ ちよろづかみの かむつどひ つどひいまして かむはかり はかりしときに あまてらす ひるめのみこと さしのぼる ひるめのみこと あめをば しらしめせと あしはらの みづほのくにを あめつちの よりあひのきはみ しらしめす かみのみことと あまくもの やへかきわきて  あまくもの やへくもわきて かむくだし いませまつりし たかてらす ひのみこは とぶとりの きよみのみやに かむながら ふとしきまして すめろきの しきますくにと あまのはら いはとをひらき かむあがり あがりいましぬ かむのぼり いましにしかば わごおほきみ みこのみことの あめのした しらしめしせば はるはなの たふとくあらむと もちづきの たたはしけむと あめのした をすくに よものひとの おほぶねの おもひたのみて あまつみづ あふぎてまつに いかさまに おもほしめせか つれもなき まゆみのをかに みやばしら ふとしきいまし みあらかを たかしりまして あさことに みこととはさず ひつきの まねくなりぬる そこゆゑに みこのみやひと ゆくへしらずも  さすたけの みこのみやひと ゆくへしらにす 02 0168 反歌二首 02 0168 久堅乃   天見如久    仰見之   皇子乃御門之  荒巻惜毛 ひさかたの あめみるごとく あふぎみし みこのみかどの あれまくをしも 02 0169 茜刺    日者雖照有   烏玉之   夜渡月之    隠良久惜毛 或本以件歌為後皇子尊殯宮之時歌反也 あかねさす ひはてらせれど ぬばたまの よわたるつきの かくらくをしも 02 0170 或本歌一首 02 0170 嶋宮    勾乃池之    放鳥    人目尓戀而   池尓不潜 しまのみや まがりのいけの はなちどり ひとめにこひて いけにかづかず 02 0171 皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首 02 0171 高光    我日皇子乃   萬代尓   國所知麻之   嶋宮波母 たかひかる わがひのみこの よろづよに くにしらさまし しまのみやはも 02 0172 嶋宮    上池有     放鳥    荒備勿行    君不座十方 しまのみや うへのいけなる はなちどり あらびなゆきそ きみまさずとも 02 0173 高光    吾日皇子乃   伊座世者  嶋御門者    不荒有益乎 たかひかる わがひのみこの いましせば しまのみかどは あれずあらましを 02 0174 外尓見之  檀乃岡毛   君座者    常都御門跡   侍宿為鴨 よそにみし まゆみのをかも きみませば とこつみかどと とのゐするかも 02 0175 夢尓谷   不見在之物乎   欝悒    宮出毛為鹿   佐日之隈廻乎 いめにだに みずありしものを おほほしく みやでもするか さひのくまみを 02 0176 天地与   共将終登    念乍    奉仕之     情違奴 あめつちと ともにをへむと おもひつつ つかへまつりし こころたがひぬ 02 0177 朝日弖流  佐太乃岡邊尓  群居乍   吾等哭涙    息時毛無 あさひてる さだのをかへに むれゐつつ わがなくなみた やむときもなし 02 0178 御立為之  嶋乎見時    庭多泉   流涙      止曽金鶴 みたたしの しまをみるとき にはたづみ ながるるなみた とめぞかねつる 02 0179 橘之    嶋宮尓者    不飽鴨   佐田乃岡邊尓  侍宿為尓徃 たちばなの しまのみやには あかねかも さだのをかへに とのゐしにゆく 02 0180 御立為之  嶋乎母家跡 住鳥毛 荒備勿行 年替左右 みたたしの しまをもいへと すむとりも あらびなゆきそ としかはるまで 02 0181 御立為之  嶋之荒礒乎   今見者   不生有之草    生尓来鴨 みたたしの しまのありそを いまみれば おひずありしくさ おひにけるかも 02 0182 鳥■[土+一ノ皿]立 飼之鴈乃兒   栖立去者  檀岡尓     飛反来年 とぐらたて     かひしかりのこ すだちなば まゆみのをかに とびかへりこね 02 0183 吾御門   千代常登婆尓  将榮等   念而有之    吾志悲毛 わがみかど ちよとことばに さかえむと おもひてありし あれしかなしも 02 0184 東乃    多藝能御門尓  雖伺侍   昨日毛今日毛  召言毛無 ひむかしの たぎのみかどに さもらへど きのふもけふも めすこともなし 02 0185 水傳    礒乃浦廻乃   石上乍自  木丘開道乎   又将見鴨 みなづたふ いそのうらみの いはつつじ もくさくみちを またもみむかも 02 0186 一日者   千遍参入之   東乃    大寸御門乎   入不勝鴨 ひとひには ちたびまゐりし ひむかしの おほきみかどを いりかてぬかも 02 0187 所由無   佐太乃岡邊尓  反居者   嶋御橋尓    誰加住儛無 つれもなき さだのをかへに かへりゐば しまのみはしに たれかすまはむ 02 0188 旦覆    日之入去者   御立之   嶋尓下座而   嘆鶴鴨 たなぐもり ひのいりゆけば みたたしの しまにおりゐて なげきつるかも 02 0189 旦日照   嶋乃御門尓   欝悒    人音毛不為者   真浦悲毛 あさひてる しまのみかどに おほほしく ひとおともせねば まうらがなしも 02 0190 真木柱   太心者     有之香杼  此吾心     鎮目金津毛 まきばしら ふときこころは ありしかど このあがこころ しづめかねつも 02 0191 毛許呂裳遠 春冬片設而   幸之    宇陁乃大野者  所念武鴨 けころもを ときかたまけて いでましし うだのおほのは おもほえむかも 02 0192 朝日照   佐太乃岡邊尓  鳴鳥之   夜鳴變布    此年己呂乎 あさひてる さだのをかへに なくとりの よなきかへらふ このとしころを 02 0193 八多篭良我 夜晝登不云    行路乎   吾者皆悉    宮道叙為 はたこらが よるひるといはず ゆくみちを われはことごと みやぢにぞする 02 0193 右日本紀曰 三年己丑夏四月癸未朔乙未薨 02 0194 柿本朝臣人麻呂獻泊瀬部皇女忍坂部皇子歌一首 并短歌 02 0194 飛鳥    明日香乃河之  上瀬尓   生玉藻者    下瀬尓   流觸経     玉藻成   彼依此依    靡相之   嬬乃命乃    多田名附  柔膚尚乎    劔刀    於身副不寐者  烏玉乃   夜床母荒良無 一云     阿礼奈牟 所虚故   名具鮫兼天   氣田敷藻  相屋常念而 一云 公毛相哉登   玉垂乃   越能大野之   旦露尓   玉裳者埿打   夕霧尓   衣者沾而    草枕    旅宿鴨為留   不相君故 とぶとりの あすかのかはの かみつせに おふるたまもは しもつせに ながれふらばふ たまもなす かよりかくより なびかひし つまのみことの たたなづく にきはだすらを つるぎたち みにそへねねば ぬばたまの よどこもあるらむ  よどこもあれなむ そこゆゑに なぐさめかねて けだしくも あふやとおもひて きみもあふやと たまだれの をちのおほのの あさつゆに たまもはひづち ゆふぎりに ころもはぬれて くさまくら たびねかもする あはぬきみゆゑ 02 0195 反歌一首 02 0195 敷妙乃   袖易之君    玉垂之   越野過去    亦毛将相八方 一云 乎知野尓過奴 しきたへの そでかへしきみ たまだれの をちのすぎゆく またもあはめやも  をちのにすぎぬ 02 0195 右或本曰 葬河嶋皇子越智野之時 獻泊瀬部皇女歌也 日本紀云 朱鳥五年辛卯秋九月己巳朔丁丑浄大参皇子川嶋薨 02 0196 明日香皇女木缻殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首 并短歌 02 0196 飛鳥    明日香乃河之  上瀬    石橋渡 一云  石浪      下瀬    打橋渡     石橋 一云 石浪    生靡留    玉藻毛叙  絶者生流    打橋    生乎為礼流  川藻毛叙  干者波由流   何然毛   吾王能     立者   玉藻之母許呂  臥者   川藻之如久   靡相之   宜君之     朝宮乎   忘賜哉     夕宮乎   背賜哉     宇都曽臣跡 念之時    春部者  花折挿頭    秋立者   黄葉挿頭    敷妙之   袖携      鏡成    雖見不猒    三五月之  益目頬染    所念之   君与時〃    幸而    遊賜之     御食向   木缻之宮乎   常宮跡   定賜      味澤相   目辞毛絶奴   然有鴨 一云 所己乎之毛 綾尓憐     宿兄鳥之  片戀嬬 一云 為乍      朝鳥 一云 朝霧    徃来為君之   夏草乃   念之萎而    夕星之   彼徃此去    大船    猶預不定見者  遣悶流   情毛不在    其故    為便知之也   音耳母   名耳毛不絶   天地之   弥遠長久    思将徃    御名尓懸世流  明日香河  及万代     早布屋師  吾王乃     形見何此焉 とぶとりの あすかのかはの かみつせに いはばしわたし いしなみわたし しもつせに うちはしわたす いはばしに いしなみに おひなびける たまももぞ たゆればおふる うちはしに おひををれる かはももぞ かるればはゆる なにしかも わごおほきみの たたせば たまものもころ こやせば かはものごとく なびかひし よろしききみが あさみやを わすれたまふや ゆふみやを そむきたまふや うつそみと おもひしとき はるへは はなをりかざし あきたてば もみちばかざし しきたへの そでたづさはり かがみなす みれどもあかず もちづきの いやめづらしみ おもほしし きみとときとき いでまして あそびたまひし みけむかふ きのへのみやを とこみやと さだめたまひて あぢさはふ めこともたえぬ しかれかも  そこをしも あやにかなしみ ぬえとりの かたこひづま かたこひしつつ あさとりの あさぎりの かよはすきみが なつくさの おもひしなえて ゆふつつの かゆきかくゆき おほぶねの たゆたふみれば なぐさもる こころもあらず そこゆゑに せむすべしれや おとのみも なのみもたえず あめつちの いやとほながく しのひゆかむ みなにかかせる あすかがは よろづよまでに はしきやし わごおほきみの かたみかここを 02 0197 短歌二首 02 0197 明日香川  四我良美渡之  塞益者   進留水母    能杼尓賀有萬思 一云    水乃 与杼尓加有益 あすかがは しがらみわたし せかませば ながるるみづも のどにかあらまし ながるるみづの よどにかあらまし 02 0198 明日香川  明日谷将見等 一云 左倍    念八方 一云 念香毛   吾王      御名忘世奴 一云 御名不所忘 あすかがは あすだにみむと あすさへみむと おもへやも  おもへかも わごおほきみの みなわすれせぬ  みなわすらえぬ 02 0199 高市皇子尊城上殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首 并短歌 02 0199 挂文    忌之伎鴨 一云 由遊志計礼杼母 言久母   綾尓畏伎    明日香乃 真神之原尓   久堅能   天都御門乎   懼母    定賜而     神佐扶跡  磐隠座     八隅知之  吾大王乃    所聞見為  背友乃國之   真木立  不破山越而   狛劔    和射見我原乃  行宮尓   安母理座而   天下    治賜 一云  掃賜而     食國乎   定賜等     鷄之鳴   吾妻乃國之   御軍士乎  喚賜而    千磐破   人乎和為跡   不奉仕   國乎治跡 一云 掃部等     皇子随   任賜者     大御身尓  大刀取帶之   大御手尓  弓取持之    御軍士乎  安騰毛比賜   齊流    皷之音者    雷之    聲登聞麻俤   吹響流   小角乃音母 一云 笛乃音波   敵見有   虎可叨吼登   諸人之   恊流麻俤尓 一云 聞或麻泥    指擧有   幡之靡者    冬木成   春去来者    野毎   著而有火之 一云 冬木成   春野焼火乃   風之共   靡如久     取持流   弓波受乃驟   三雪落   冬乃林尓 一云 由布乃林   飃可毛   伊巻渡等    念麻俤   聞之恐久 一云 諸人    見或麻俤尓   引放    箭之繁計久  大雪乃   乱而来礼 一云 霰成    曽知余里久礼婆 不奉仕   立向之毛    露霜之   消者消倍久   去鳥乃   相競端尓 一云 朝霜之   消者消言尓   打蝉等   安良蘇布波之尓 渡會乃   齋宮従     神風尓   伊吹或之    天雲乎   日之目毛不令見 常闇尓   覆賜而     定之    水穂之國乎   神随    太敷座而    八隅知之  吾大王之    天下    申賜者     萬代尓   然之毛将有登 一云 如是毛安良無等  木綿花乃  榮時尓     吾大王    皇子之御門乎 一云 刺竹    皇子御門乎   神宮尓   装束奉而    遣使    御門之人毛   白妙乃   麻衣著     埴安乃   御門之原尓   赤根刺   日之盡    鹿自物   伊波比伏管   烏玉能   暮尓至者    大殿乎   振放見乍    鶉成    伊波比廻    雖侍候   佐母良比不得者 春鳥之   佐麻欲比奴礼者 嘆毛   未過尓     憶毛   未不盡者    言左敝久  百濟之原従   神葬    〃伊座而    朝毛吉   木上宮乎    常宮等   高之奉而    神随    安定座奴    雖然    吾大王之    萬代跡   所念食而    作良志之  香来山之宮   萬代尓   過牟登念哉   天之如   振放見乍    玉手次   懸而将偲    恐有騰文 かけまくも ゆゆしきかも  ゆゆしけれども いはまくも あやにかしこき あすかの まかみがはらに ひさかたの あまつみかどを かしこくも さだめたまひて かむさぶと いはがくります やすみしし わごおほきみの きこしめす そとものくにの まきたつ ふはやまこえて こまつるぎ わざみがはらの かりみやに あもりいまして あめのした をさめたまひ はらひたまひて をすくにを さだめたまふと とりがなく あづまのくにの みいくさを めしたまひて ちはやぶる ひとをやはせと まつろはぬ くにををさめと くにをはらへと みこながら よさしたまへば おほみみに たちとりはかし おほみてに ゆみとりもたし みいくさを あどもひたまひ ととのふる つづみのおとは いかづちの こゑときくまで ふきなせる くだのおとも   ふえのおとは あたみたる とらかほゆると もろひとの おびゆるまでに  ききまとふまで ささげたる はたのなびきは ふゆこもり はるさりくれば のごとに つきてあるひの  ふゆこもり はるのやくひの かぜのむた なびくがごとく とりもてる ゆはずのさわき みゆきふる ふゆのはやしに ゆふのはやし つむじかも いまきわたると おもふまで ききのかしこく もろひとの みまとふまでに ひきはなつ やのしげけく おほゆきの みだれてきたれ あられなす そちよりくれば まつろはず たちむかひしも つゆしもの けなばけぬべく ゆくとりの あらそふはしに あさしもの けなばけとふに うつせみと あらそふはしに わたらひの いつきのみやゆ かむかぜに いふきまとはし あまくもを ひのめもみせず とこやみに おほひたまひて さだめてし みづほのくにを かむながら ふとしきまして やすみしし わごおほきみの あめのした まをしたまへば よろづよに しかしもあらむと  かくしもあらむと ゆふばなの さかゆるときに わごおほきみ みこのみかどを   さすたけの みこのみかどを かむみやに よそひまつりて つかはしし みかどのひとも しろたへの あさごろもきて はにやすの みかどのはらに あかねさす ひのことごと ししじもの いはひふしつつ ぬばたまの ゆふへになれば おほとのを ふりさけみつつ うづらなす いはひもとほり さもらへど さもらひえねば はるとりの さまよひぬれば なげきも いまだすぎぬに おもひも いまだつきねば ことさへく くだらのはらゆ かむはぶり はぶりいまして あさもよし きのへのみやを とこみやと たかくまつりて かむながら しづまりましぬ しかれども わごおほきみの よろづよと おもほしめして つくらしし かぐやまのみや よろづよに すぎむともへや あめのごと ふりさけみつつ たまだすき かけてしのはむ かしこけれども 02 0200 短歌二首 02 0200 久堅之   天所知流    君故尓   日月毛不知   戀渡鴨 ひさかたの あめしらしぬる きみゆゑに ひつきもしらず こひわたるかも 02 0201 埴安乃   池之堤之    隠沼乃   去方乎不知   舎人者迷惑 はにやすの いけのつつみの こもりぬの ゆくへをしらに とねりはまとふ 02 0202 或書反歌一首 02 0202 哭澤之   神社尓三輪須恵 雖禱祈   我王者     高日所知奴 なきさはの もりにみわすゑ いのれども わごおほきみは たかひしらしぬ 02 0202 右一首類聚歌林曰 桧隈女王怨泣澤神社之歌也 案日本紀云 十年丙申秋七月辛丑朔庚戌後皇子尊薨 02 0203 但馬皇女薨後穂積皇子冬日雪落遥望御墓悲傷流涕御作歌一首 02 0203 零雪者   安播尓勿落   吉隠之   猪養乃岡之   寒有巻尓 ふるゆきは あはになふりそ よなばりの ゐかひのをかの さむくあらまくに 02 0204 弓削皇子薨時置始東人作歌一首 并短歌 02 0204 安見知之  吾王     高光    日之皇子 久堅乃   天宮尓    神随    神等座者    其乎霜   文尓恐美    晝波毛  日之盡    夜羽毛  夜之盡    臥居雖嘆    飽不足香裳 やすみしし わごおほきみ たかひかる ひのみこ ひさかたの あまつみやに かむながら かみといませば そこをしも あやにかしこみ ひるはも ひのことごと よるはも よのことごと ふしゐなげけど あきだらぬかも 02 0205 反歌一首 02 0205 王者    神西座者    天雲之   五百重之下尓  隠賜奴 おほきみは かみにしませば あまくもの いほへがしたに かくりたまひぬ 02 0206 又短歌一首 02 0206 神樂浪之  志賀左射礼浪  敷布尓   常丹跡君之   所念有計類 ささなみの しがさざれなみ しくしくに つねにときみが おもほせりける 02 0207 柿本朝臣人麻呂妻死之後泣血哀慟作歌二首 并短歌 02 0207 天飛也   軽路者    吾妹兒之  里尓思有者   懃     欲見騰     不已行者   人目乎多見   真根久徃者  人應知見    狭根葛   後毛将相等   大船之   思憑而     玉蜻    磐垣淵之    隠耳    戀管在尓    度日乃   晩去之如    照月乃   雲隠如     奥津藻之  名延之妹者   黄葉乃   過伊去等    玉梓之   使乃言者    梓弓    聲尓聞而 一云 聲耳聞而    将言為便  世武為便不知尓 聲耳乎   聞而有不得者   吾戀    千重之一隔毛  遣悶流   情毛有八等    吾妹子之  不止出見之   軽市尓    吾立聞者    玉手次   畝火乃山尓   喧鳥之   音母不所聞   玉桙    道行人毛    獨谷    似之不去者   為便乎無見 妹之名喚而   袖曽振鶴 或本有謂之 名耳   聞而有不得者 句 あまとぶや かるのみちは わぎもこが さとにしあれば ねもころに みまくほしけど やまずゆかば ひとめをおほみ まねくゆかば ひとしりぬべみ さねかづら のちもあはむと おほぶねの おもひたのみて たまかぎる いはかきふちの こもりのみ こひつつあるに わたるひの くれぬるがごと てるつきの くもがくるごと おきつもの なびきしいもは もみちばの すぎていにきと たまづさの つかひのいへば あづさゆみ おとにききて  おとのみききて いはむすべ せむすべしらに おとのみを ききてありえねば あがこふる ちへのひとへも なぐさもる こころもありやと わぎもこが やまずいでみし かるのいちに わがたちきけば たまだすき うねびのやまに なくとりの こゑもきこえず たまほこの みちゆくひとも ひとりだに にてしゆかねば すべをなみ いもがなよびて そでぞふりつる    なのみを ききてありえねば 02 0208 短歌二首 02 0208 秋山之   黄葉乎茂    迷流    妹乎将求    山道不知母 一云 路不知而 あきやまの もみちをしげみ まとひぬる いもをもとめむ やまぢしらずも  みちしらずして 02 0209 黄葉之   落去奈倍尓   玉梓之   使乎見者    相日所念 もみちばの ちりゆくなへに たまづさの つかひをみれば あひしひおもほゆ 02 0210 打蝉等   念之時尓 一云 宇都曽臣等 念之      取持而   吾二人見之   趍出之   堤尓立有    槻木之   己知碁知乃枝之 春葉之   茂之如久    念有之   妹者雖有    憑有之   兒等尓者雖有  世間乎   背之不得者   蜻火之   燎流荒野尓   白妙之   天領巾隠    鳥自物   朝立伊麻之弖   入日成   隠去之鹿齒   吾妹子之  形見尓置有   若兒乃   乞泣毎     取與    物之無者    烏徳自物   腋挾持     吾妹子与  二人吾宿之   枕付    嬬屋之内尓   晝羽裳  浦不樂晩之   夜者裳  氣衝明之    嘆友    世武為便不知尓 戀友    相因乎無見   大鳥乃   羽易乃山尓   吾戀流   妹者伊座等   人云者    石根左久見手  名積来之  吉雲曽無寸   打蝉等   念之妹之    珠蜻    髣髴谷裳    不見思者 うつせみと おもひしときに うつそみと おもひしときに とりもちて わがふたりみし はしりでの つつみにたてる つきのきの こちごちのえの はるのはの しげきがごとく おもへりし いもにはあれど たのめりし こらにはあれど よのなかを そむきしえねば かぎるひの もゆるあらのに しろたへの あまひれがくり とりじもの あさだちいまして いりひなす かくりにしかば わぎもこが かたみにおける みどりこの こひなくごとに とりあたふ ものしなければ をとこじもの わきばさみもち わぎもこと ふたりわがねし まくらづく つまやのうちに ひるはも うらさびくらし よるはも いきづきあかし なげけども せむすべしらに こふれども あふよしをなみ おほとりの はがひのやまに あがこふる いもはいますと ひとのいへば いはねさくみて なづみこし よけくもぞなき うつせみと おもひしいもが たまかぎる ほのかにだにも みえなくもへば 02 0211 短歌二首 02 0211 去年見而之 秋乃月夜者   雖照    相見之妹者   弥年放 こぞみてし あきのつくよは てらせれど あひみしいもは いやとしさかる 02 0212 衾道乎   引手乃山尓   妹乎置而   山徑徃者    生跡毛無 ふすまぢを ひきでのやまに いもをおきて やまぢをゆけば いけりともなし 02 0213 或本歌曰 02 0213 宇都曽臣等 念之時     携手    吾二見之    出立    百兄槻木    虚知期知尓 枝刺有如    春葉    茂如      念有之   妹庭雖在    恃有之   妹庭雖在    世中    背不得者    香切火之  燎流荒野尓   白栲    天領巾隠    鳥自物   朝立伊行而    入日成   隠西加婆    吾妹子之  形見尓置有   緑兒之   乞哭別     取委    物之無者    男自物    腋挾持     吾妹子與  二吾宿之    枕附    嬬屋内尓    日者   浦不怜晩之   夜者   息衝明之    雖嘆    為便不知    雖戀    相縁無     大鳥    羽易山尓    汝戀    妹座等     人云者    石根割見而   奈積来之  好雲叙無    宇都曽臣  念之妹我    灰而座者 うつそみと おもひしときに たづさはり わがふたりみし いでたちの ももえつきのき こちごちに えださせるごと はるのはの しげれるがごと おもへりし いもにはあれど たのめりし いもにはあれど よのなかを そむきしえねば かぎるひの もゆるあらのに しろたへの あまひれがくり とりじもの あさだちいゆきて いりひなす かくりにしかば わぎもこが かたみにおける みどりこの こひなくごとに とりあたふ ものしなければ をとこじもの わきばさみもち わぎもこと ふたりわがねし まくらづく つまやのうちに ひるはも うらさびくらし よるはも いきづきあかし なげけども せむすべしらに こふれども あふよしをなみ おほとりの はがひのやまに ながこふる いもはいますと ひとのいへば いはねさくみて なづみこし よけくもぞなき うつそみと おもひしいもが はひにてませば 02 0214 短歌三首 02 0214 去年見而之 秋月夜者    雖度    相見之妹者   益年離 こぞみてし あきのつくよは わたれども あひみしいもは いやとしさかる 02 0215 衾路    引出山     妹置     山路念邇    生刀毛無 ふすまぢを ひきでのやまに いもをおきて やまぢおもふに いけるともなし 02 0216 家来而   吾屋乎見者   玉床之   外向来     妹木枕 いへにきて わがやをみれば たまどこの ほかにむきけり いもがこまくら 02 0217 吉備津采女死時柿本朝臣人麻呂作歌一首 并短歌 02 0217 秋山    下部留妹   奈用竹乃  騰遠依子等者  何方尓   念居可    栲紲之   長命乎     露己曽婆  朝尓置而    夕者   消等言   霧己曽婆  夕立而     明者   失等言   梓弓    音聞吾母    髣髴見之  事悔敷乎    布栲乃   手枕纒而    劔刀    身二副寐價牟  若草    其嬬子者    不怜弥可  念而寐良武   悔弥可   念戀良武    時不在   過去子等我   朝露乃如也   夕霧乃如也 あきやまの したへるいも なよたけの とをよるこらは いかさまに おもひをれか たくなはの ながきいのちを つゆこそば あしたにおきて ゆふべは きゆといへ きりこそば ゆふべにたちて あしたは うすといへ あづさゆみ おときくわれも おほにみし ことくやしきを しきたへの たまくらまきて つるぎたち みにそへねけむ わかくさの そのつまのこは さぶしみか おもひてぬらむ くやしみか おもひこふらむ ときならず すぎにしこらが あさつゆのごと ゆふぎりのごと 02 0218 短歌二首 02 0218 樂浪之   志我津子等何 一云 志我乃津之子我 罷道之   川瀬道     見者不怜毛 ささなみの しがつのこらが   しがのつのこが まかりぢの かはせのみちを みればさぶしも 02 0219 天數    凡津子之   相日    於保尓見敷者  今叙悔 そらかぞふ おほつのこが あひしひに おほにみしかば いまぞくやしき 02 0220 讃岐狭岑嶋視石中死人柿本朝臣人麻呂作歌一首 并短歌 02 0220 玉藻吉   讃岐國者    國柄加   雖見不飽   神柄加    幾許貴寸    天地   日月與共    満将行   神乃御面跡   次来    中乃水門従   船浮而   吾榜来者    時風    雲居尓吹尓   奥見者   跡位浪立   邊見者  白浪散動    鯨魚取   海乎恐     行船乃   梶引折而    彼此之   嶋者雖多    名細之  狭岑之嶋乃 荒磯面尓 廬作而見者 浪音乃 茂濱邊乎 敷妙乃 枕尓為而 荒床 自伏君之 家知者 徃而毛将告 妻知者 来毛問益乎 玉桙之 道太尓不知 欝悒久 待加戀良武 愛伎妻等者 たまもよし さぬきのくには くにからか みれどもあかぬ かむからか ここだたふとき あめつち ひつきとともに たりゆかむ かみのみおもと つぎきたる なかのみなとゆ ふねうけて わがこぎくれば ときつかぜ くもゐにふくに おきみれば とゐなみたち へみれば しらなみさわく いさなとり うみをかしこみ ゆくふねの かぢひきをりて をちこちの しまはおほけど なぐはし さみねのしまの ありそもに いほりてみれば なみのおとの しげきはまへを しきたへの まくらになして あらとこに ころふすきみが いへしらば ゆきてもつげむ つましらば きもとはましを たまほこの みちだにしらず おほほしく まちかこふらむ はしきつまらは 02 0221 反歌二首 02 0221 妻毛有者   採而多宜麻之  作美乃山  野上乃宇波疑  過去計良受也 つまもあらば つみてたげまし さみのやま ののへのうはぎ すぎにけらずや 02 0222 奥波    来依荒磯乎   色妙乃   枕等巻而    奈世流君香聞 おきつなみ きよるありそを しきたへの まくらとまきて なせるきみかも 02 0223 柿本朝臣人麻呂在石見國臨死時自傷作歌一首 02 0223 鴨山之   磐根之巻有   吾乎鴨   不知等妹之   待乍将有 かもやまの いはねしまける われをかも しらにといもが まちつつあるらむ 02 0224 柿本朝臣人麻呂死時妻依羅娘子作歌二首 02 0224 且今日〃〃〃 吾待君者    石水之   貝尓交而 一云 谷尓      有登不言八方 けふけふと  あがまつきみは いしかはの かひにまじりて たににまじりて ありといはずやも 02 0225 直相者    相不勝     石川尓   雲立渡礼    見乍将偲 ただのあひは あひかつましじ いしかはに くもたちわたれ みつつしのはむ 02 0226 丹比真人擬柿本朝臣人麻呂之意報歌一首 名闕 02 0226 荒浪尓   縁来玉乎    枕尓置    吾此間有跡    誰将告 あらなみに よりくるたまを まくらにおき われここにありと たれかつげなむ 02 0227 或本歌曰 02 0227 天離    夷之荒野尓   君乎置而   念乍有者     生刀毛無 あまざかる ひなのあらのに きみをおきて おもひつつあれば いけるともなし 02 0227 右一首歌作者未詳 但古本以此歌載於此次也 02 0228 寧樂宮 02 0228 和銅四年歳次辛亥河邊宮人姫嶋松原見嬢子屍悲嘆作歌二首 02 0228 妹之名者  千代尓将流   姫嶋之   子松之末尓   蘿生萬代尓 いもがなは ちよにながれむ ひめしまの こまつがうれに こけむすまでに 02 0229 難波方   塩干勿有曽祢   沈之    妹之光儀乎   見巻苦流思母 なにはがた しほひなありそね しづみにし いもがすがたを みまくくるしも 02 0230 霊龜元年歳次乙卯秋九月志貴親王薨時作歌一首 并短歌 02 0230 梓弓    手取持而    大夫之   得物矢手挾   立向    高圓山尓    春野焼   野火登見左右  燎火乎   何如問者    玉桙之   道来人乃    泣涙    ■[雨泳]霂尓落者 白妙之   衣埿漬而    立留    吾尓語久    何鴨    本名唁     聞者  泣耳師所哭   語者   心曽痛     天皇之   神之御子之  御駕之   手火之光曽   幾許照而有 あづさゆみ てにとりもちて ますらをの さつやたばさみ たちむかふ たかまとやまに はるのやく のびとみるまで もゆるひを なにかととへば たまほこの みちくるひとの なくなみた こさめにふれば  しろたへの ころもひづちて たちとまり われにかたらく なにしかも もとなとぶらふ きけば ねのみしなかゆ かたれば こころぞいたき すめろきの かみのみこの いでましの たひのひかりぞ ここだてりたる 02 0231 短歌二首 02 0231 高圓之   野邊秋芽子   徒     開香将散    見人無尓 たかまとの のへのあきはぎ いたづらに さきかちるらむ みるひとなしに 02 0232 御笠山   野邊徃道者   己伎太雲  繁荒有可     久尓有勿國 みかさやま のへゆくみちは こきだくも しげくあれたるか ひさにあらなくに 02 0233 右歌笠朝臣金村歌集出 02 0233 或本歌曰 02 0233 高圓之   野邊乃秋芽子  勿散祢   君之形見尓   見管思奴播武 たかまとの のへのあきはぎ なちりそね きみがかたみに みつつしぬはむ 02 0234 三笠山   野邊従遊久道  己伎太久母 荒尓計類鴨   久尓有名國 みかさやま のへゆゆくみち こきだくも あれにけるかも ひさにあらなくに 03 0235 雜歌 03 0235 天皇御遊雷岳之時柿本朝臣人麻呂作歌一首 03 0235 皇者    神二四座者   天雲之   雷之上尓     廬為流鴨    王     神座者     雲隠    伊加土山尓   宮敷座 おほきみは かみにしませば あまくもの いかづちのうへに いほりせるかも おほきみは かみにしませば くもがくる いかづちやまに みやしきいます 03 0235 右或本云獻忍壁皇子也 其歌曰 03 0236 天皇賜志斐嫗御歌一首 03 0236 不聴跡雖云  強流志斐能我  強語    比者不聞而    朕戀尓家里 いなといへど しふるしひのが しひかたり このころきかずて あれこひにけり 03 0237 志斐嫗奉和歌一首 嫗名未詳 03 0237 不聴雖謂   語礼〃〃常   詔許曽   志斐伊波奏   強語登言 いなといへど かたれかたれと のらせこそ しひいはまをせ しひかたりといふ 03 0238 長忌寸意吉麻呂應 詔歌一首 03 0238 大宮之   内二手所聞   網引為跡  網子調流    海人之呼聲 おほみやの うちまできこゆ あびきすと あごととのふる あまのよびこゑ 03 0238 右一首 03 0239 長皇子遊獵路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首 并短歌 03 0239 八隅知之  吾大王    高光    吾日乃皇子乃  馬並而   三獵立流    弱薦乎   獵路乃小野尓  十六社者  伊波比拜目   鶉己曽   伊波比廻礼   四時自物  伊波比拜    鶉成    伊波比毛等保理 恐等    仕奉而     久堅乃   天見如久    真十鏡   仰而雖見    春草之   益目頬四寸   吾於富吉美可聞 やすみしし わごおほきみ たかひかる わがひのみこの うまなめて みかりたたせる わかこもを かりぢのをのに ししこそは いはひをろがめ うづらこそ いはひもとほれ ししじもの いはひをろがみ うづらなす いはひもとほり かしこみと つかへまつりて ひさかたの あめみるごとく まそかがみ あふぎてみれど はるくさの いやめづらしき わごおほきみかも 03 0240 反歌一首 03 0240 久堅乃   天歸月乎    網尓刺   我大王者    盖尓為有 ひさかたの あまゆくつきを あみにさし わごおほきみは きぬがさにせり 03 0241 或本反歌一首 03 0241 皇者    神尓之坐者   真木乃立  荒山中尓    海成可聞 おほきみは かみにしませば まきのたつ あらやまなかに うみをなすかも 03 0242 弓削皇子遊吉野時御歌一首 03 0242 瀧上之    三船乃山尓   居雲乃   常将有等    和我不念久尓 たぎのうへの みふねのやまに ゐるくもの つねにあらむと わがおもはなくに 03 0243 春日王奉和歌一首 03 0243 王者    千歳二麻佐武  白雲毛   三船乃山尓   絶日安良米也 おほきみは ちとせにまさむ しらくもも みふねのやまに たゆるひあらめや 03 0244 或本歌一首 03 0244 三吉野之  御船乃山尓   立雲之   常将在跡    我思莫苦二 みよしのの みふねのやまに たつくもの つねにあらむと わがおもはなくに 03 0244 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 03 0245 長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首 03 0245 如聞    真貴久     奇母    神左備居賀   許礼能水嶋 きけるごと まことたふとく くすしくも かむさびをるか これのみづしま 03 0246 葦北乃   野坂乃浦従   船出為而  水嶋尓将去    浪立莫勤 あしきたの のさかのうらゆ ふなでして みづしまにゆかむ なみたつなゆめ 03 0247 石川大夫和歌一首 名闕 03 0247 奥浪    邊波雖立    和我世故我 三船乃登麻里  瀾立目八方 おきつなみ へなみたつとも わがせこが みふねのとまり なみたためやも 03 0247 右今案 従四位下石川宮麻呂朝臣 慶雲年中任大貳 又正五位下石川朝臣吉美侯 神龜年中任小貳 不知兩人誰作此歌焉 03 0248 又長田王作歌一首 03 0248 隼人乃   薩麻乃迫門乎  雲居奈須  遠毛吾者    今日見鶴鴨 はやひとの さつまのせとを くもゐなす とほくもわれは けふみつるかも 03 0249 柿本朝臣人麻呂羈旅歌八首 03 0249 三津埼   浪矣恐     隠江乃  舟公宣奴嶋尓 みつのさき なみをかしこみ こもりえの 03 0250 珠藻苅   敏馬乎過    夏草之   野嶋之埼尓   舟近著奴 一本云 處女乎過而   夏草乃   野嶋我埼尓   伊保里為吾等者 たまもかる みぬめをすぎて なつくさの のしまがさきに ふねちかづきぬ  をとめをすぎて なつくさの のしまがさきに いほりすわれは 03 0251 粟路之  野嶋之前乃   濱風尓   妹之結     紐吹返 あはぢの のしまがさきの はまかぜに いもがむすびし ひもふきかへす 03 0252 荒栲    藤江之浦尓   鈴寸釣   泉郎跡香将見  旅去吾乎 一本云 白栲乃   藤江能浦尓   伊射利為流 あらたへの ふぢえのうらに すずきつる あまとかみらむ たびゆくわれを  しろたへの ふぢえのうらに いざりする 03 0253 稲日野毛  去過勝尓    思有者   心戀敷     可古能嶋所見 一云  湖見 いなびのも ゆきすぎかてに おもへれば こころこほしき かこのしまみゆ かこのみなとみゆ 03 0254 留火之   明大門尓    入日哉   榜将別     家當不見 ともしびの あかしおほとに いるひにか こぎわかれなむ いへのあたりみず 03 0255 天離    夷之長道従   戀来者   自明門     倭嶋所見 一本云 家門當見由 あまざかる ひなのながちゆ こひくれば あかしのとより やまとしまみゆ  いへのあたりみゆ 03 0256 飼飯海乃   庭好有之    苅薦乃   乱出所見     海人釣船 一本云 武庫乃海能  尓波好有之   伊射里為流 海部乃釣船   浪上従所見 けひのうみの にはよくあらし かりこもの みだれていづみゆ あまのつりぶね  むこのうみの にはよくあらし いざりする あまのつりぶね なみのうへゆみゆ 03 0257 鴨君足人香具山歌一首 并短歌 03 0257 天降付   天之芳来山   霞立    春尓至婆    松風尓   池浪立而    櫻花    木乃晩茂尓   奥邊波  鴨妻喚     邊津方尓 味村左和伎   百礒城之  大宮人乃    退出而   遊船尓波    梶棹毛   無而不樂毛   己具人奈四二 あもりつく あめのかぐやま かすみたつ はるにいたれば まつかぜに いけなみたちて さくらばな このくれしげに おきへは かもつまよばひ へつへに あぢむらさわき ももしきの おほみやひとの まかりでて あそぶふねには かぢさをも なくてさぶしも こぐひとなしに 03 0258 反歌二首 03 0258 人不榜   有雲知之    潜為    鴦与高部共   船上住 ひとこがず あらくもしるし かづきする をしとたかべと ふねのうへにすむ 03 0259 何時間毛  神左備祁留鹿  香山之   鉾榲之本尓    薜生左右二 いつのまも かむさびけるか かぐやまの ほこすぎがもとに こけむすまでに 03 0260 或本歌云 03 0260 天降就   神乃香山    打靡    春去来者    櫻花    木暗茂     松風丹   池浪飆     邊津遍者  阿遅村動    奥邊者   鴨妻喚     百式乃   大宮人乃    去出    榜来舟者    竿梶母   無而佐夫之毛  榜与雖思 あもりつく かみのかぐやま うちなびく はるさりくれば さくらばな このくれしげに まつかぜに いけなみたちて へつへには あぢむらさわく おきへには かもつまよばふ ももしきの おほみやひとの まかりでて こぎけるふねは さをかぢも なくてさぶしも こがむとおもへど 03 0260 右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟 03 0261 柿本朝臣人麻呂獻新田部皇子歌一首 并短歌 03 0261 八隅知之  吾大王    高輝    日之皇子 茂座    大殿於      久方    天傳来     白雪仕物  徃来乍     益及常世 やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこ しきいます おほとののうへに ひさかたの あまづたひくる ゆきじもの ゆきかよひつつ いやとこよまで 03 0262 反歌一首 03 0262 矢釣山   木立不見    落乱    雪驪      朝樂毛 やつりやま こだちもみえず ふりまがふ ゆきにさわける あしたたのしも 03 0263 従近江國上来時刑部垂麻呂作歌一首 03 0263 馬莫疾    打莫行     氣並而   見弖毛和我歸  志賀尓安良七國 うまないたく うちてなゆきそ けならべて みてもわがゆく しがにあらなくに 03 0264 柿本朝臣人麻呂従近江國上来時至宇治河邊作歌一首 03 0264 物乃部能  八十氏河乃   阿白木尓  不知代経浪乃  去邊白不母 もののふの やそうぢかはの あじろきに いさよふなみの ゆくへしらずも 03 0265 長忌寸奥麻呂歌一首 03 0265 苦毛    零来雨可    神之埼   狭野乃渡尓   家裳不有國 くるしくも ふりくるあめか みわのさき さののわたりに いへもあらなくに 03 0266 柿本朝臣人麻呂歌一首 03 0266 淡海乃海   夕浪千鳥    汝鳴者   情毛思努尓   古所念 あふみのうみ ゆふなみちどり ながなけば こころもしのに いにしへおもほゆ 03 0267 志貴皇子御歌一首 03 0267 牟佐〃婢波 木末求跡    足日木乃  山能佐都雄尓  相尓来鴨 むささびは こぬれもとむと あしひきの やまのさつをに あひにけるかも 03 0268 長屋王故郷歌一首 03 0268 吾背子我  古家乃里之   明日香庭  乳鳥鳴成    嬬待不得而 わがせこが ふるへのさとの あすかには ちどりなくなり つままちかねて 03 0268 右今案 従明日香遷藤原宮之後作此歌歟 03 0269 阿倍女郎屋部坂歌一首 03 0269 人不見者  我袖用手    将隠乎   所焼乍可将有   不服而来来 ひとみずは わがそでもちて かくさむを もえつつかあらむ きずてきにけり 03 0270 高市連黒人羈旅歌八首 03 0270 客為而   物戀敷尓    山下    赤乃曽保船   奥榜所見 たびにして ものこほしきに やましたの あけのそほぶね おきをこぐみゆ 03 0271 櫻田部   鶴鳴渡     年魚市方  塩干二家良之  鶴鳴渡 さくらだへ たづなきわたる あゆちがた しほひにけらし たづなきわたる 03 0272 四極山   打越見者    笠縫之   嶋榜隠     棚無小船 しはつやま うちこえみれば かさぬひの しまこぎかくる たななしをぶね 03 0273 未詳 03 0273 礒前    榜手廻行者   近江海    八十之湊尓   鵠佐波二鳴 いそのさき こぎたみゆけば あふみのうみ やそのみなとに たづさはになく 03 0274 吾船者   枚乃湖尓    榜将泊   奥部莫避    左夜深去来 わがふねは ひらのみなとに こぎはてむ おきへなさかり さよふけにけり 03 0275 何處    吾将宿     高嶋乃   勝野原尓    此日暮去者 いづくにか われはやどらむ たかしまの かちののはらに このひくれなば 03 0276 妹母我母   一有加母    三河有   二見自道    別不勝鶴 一本云 水河乃  二見之自道   別者    吾勢毛吾文   獨可文将去 いももあれも ひとつなれかも みかはなる ふたみのみちゆ わかれかねつる  みかはの ふたみのみちゆ わかれなば わがせもわれも ひとりかもゆかむ 03 0277 速来而母  見手益物乎   山背    高槻村     散去奚留鴨 はやきても みてましものを やましろの たかのつきむら ちりにけるかも 03 0278 石川少郎歌一首 03 0278 然之海人者  軍布苅塩焼   無暇    髪梳乃小櫛   取毛不見久尓 しかのあまは めかりしほやき いとまなみ くしげのをぐし とりもみなくに 03 0278 右今案 石川朝臣君子号曰少郎子也 03 0279 高市連黒人歌二首 03 0279 吾妹兒二  猪名野者令見都 名次山   角松原     何時可将示 わぎもこに ゐなのはみせつ なすきやま つののまつばら いつかしめさむ 03 0280 去来兒等  倭部早     白菅乃   真野乃榛原   手折而将歸 いざこども やまとへはやく しらすげの まののはりはら たをりてゆかむ 03 0281 黒人妻答歌一首 03 0281 白菅乃   真野之榛原   徃左来左  君社見良目   真野乃榛原 しらすげの まののはりはら ゆくさくさ きみこそみらめ まののはりはら 03 0282 春日蔵首老歌一首 03 0282 角障経   石村毛不過   泊瀬山   何時毛将超   夜者深去通都 つのさはふ いはれもすぎず はつせやま いつかもこえむ よはふけにつつ 03 0283 高市連黒人歌一首 03 0283 墨吉乃   得名津尓立而  見渡者   六兒乃泊従   出流船人 すみのえの えなつにたちて みわたせば むこのとまりゆ いづるふなびと 03 0284 春日蔵首老歌一首 03 0284 焼津邊   吾去鹿齒    駿河奈流  阿倍乃市道尓  相之兒等羽裳 やきつへに わがゆきしかば するがなる あべのいちぢに あひしこらはも 03 0285 丹比真人笠麻呂徃紀伊國超勢能山時作歌一首 03 0285 栲領巾乃  懸巻欲寸    妹名乎   此勢能山尓   懸者奈何将有 一云 可倍波伊香尓安良牟 たくひれの かけまくほしき いもがなを このせのやまに かけばいかにあらむ かへばいかにあらむ 03 0286 春日蔵首老即和歌一首 03 0286 宜奈倍   吾背乃君之   負来尓之  此勢能山乎   妹者不喚 よろしなへ わがせのきみが おひきにし このせのやまを いもとはよばじ 03 0287 幸志賀時石上卿作歌一首 名闕 03 0287 此間為而  家八方何處   白雲乃   棚引山乎    超而来二家里 ここにして いへやもいづち しらくもの たなびくやまを こえてきにけり 03 0288 穂積朝臣老歌一首 03 0288 吾命之    真幸有者    亦毛将見  志賀乃大津尓  縁流白浪 わがいのちの まさきくあらば またもみむ しがのおほつに よするしらなみ 03 0288 右今案 不審幸行年月 03 0289 間人宿祢大浦初月歌二首 03 0289 天原    振離見者    白真弓   張而懸有    夜路者将吉 あまのはら ふりさけみれば しらまゆみ はりてかけたり よみちはよけむ 03 0290 椋橋乃   山乎高可    夜隠尓   出来月乃    光乏 くらはしの やまをたかみか よごもりに いでくるつきの ひかりともしき 03 0291 小田事勢能山歌一首 03 0291 真木葉乃  之奈布勢能山  之努波受而 吾超去者    木葉知家武 まきのはの しなふせのやま しのはずて わがこえゆけば このはしりけむ 03 0292 角麻呂歌四首 03 0292 久方乃   天之探女之   石船乃   泊師高津者   淺尓家留香裳 ひさかたの あまのさぐめが いはふねの はてしたかつは あせにけるかも 03 0293 塩干乃  三津之海女乃 久具都持  玉藻将苅    率行見 しほひの みつのあまの くぐつもち たまもかるらむ いざゆきてみむ 03 0294 風乎疾    奥津白浪    高有之   海人釣船    濱眷奴 かぜをいたみ おきつしらなみ たかからし あまのつりぶね はまにかへりぬ 03 0295 清江乃   木笶松原    遠神    我王之     幸行處 すみのえの きしのまつばら とほつかみ わごおほきみの いでましところ 03 0296 田口益人大夫任上野國司時至駿河浄見埼作歌二首 03 0296 廬原乃   浄見乃埼乃   見穂之浦乃  寛見乍     物念毛奈信 いほはらの きよみのさきの みほのうらの ゆたけきみつつ ものもひもなし 03 0297 晝見騰   不飽田兒浦    大王之   命恐      夜見鶴鴨 ひるみれど あかぬたごのうら おほきみの みことかしこみ よるみつるかも 03 0298 弁基歌一首 03 0298 亦打山   暮越行而    廬前乃   角太河原尓   獨可毛将宿 まつちやま ゆふこえゆきて いほさきの すみだかはらに ひとりかもねむ 03 0298 右或云 弁基者春日蔵首老之法師名也 03 0299 大納言大伴卿歌一首 未詳 03 0299 奥山之   菅葉淩     零雪乃   消者将惜    雨莫零行年 おくやまの すがのはしのぎ ふるゆきの けなばをしけむ あめなふりそね 03 0300 長屋王駐馬寧樂山作歌二首 03 0300 佐保過而  寧樂乃手祭尓  置幣者   妹乎目不離   相見染跡衣 さほすぎて ならのたむけに おくぬさは いもをめかれず あひみしめとぞ 03 0301 磐金之   凝敷山乎    超不勝而  哭者泣友    色尓将出八方 いはがねの こごしきやまを こえかねて ねにはなくとも いろにいでめやも 03 0302 中納言安倍廣庭卿歌一首 03 0302 兒等之家道  差間遠焉    野干玉乃  夜渡月尓    競敢六鴨 こらがいへぢ ややまとほきを ぬばたまの よわたるつきに きほひあへむかも 03 0303 柿本朝臣人麻呂下筑紫國時海路作歌二首 03 0303 名細寸   稲見乃海之   奥津浪   千重尓隠奴   山跡嶋根者 なぐはしき いなみのうみの おきつなみ ちへにかくりぬ やまとしまねは 03 0304 大王之   遠乃朝庭跡   蟻通    嶋門乎見者   神代之所念 おほきみの とほのみかどと ありがよふ しまとをみれば かむよしおもほゆ 03 0305 高市連黒人近江舊都歌一首 03 0305 如是故尓  不見跡云物乎   樂浪乃   舊都乎     令見乍本名 かくゆゑに みじといふものを ささなみの ふるきみやこを みせつつもとな 03 0305 右歌或本曰少辨作也 未審此少弁者也 03 0306 幸伊勢國之時安貴王作歌一首 03 0306 伊勢海之   奥津白浪    花尓欲得  褁而妹之    家褁為 いせのうみの おきつしらなみ はなにもが つつみていもが いへづとにせむ 03 0307 博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首 03 0307 皮為酢寸  久米能若子我  伊座家留 一云 家牟    三穂乃石室者  雖見不飽鴨 一云 安礼尓家留可毛 はだすすき くめのわくごが いましける   いましけむ みほのいはやは みれどあかぬかも あれにけるかも 03 0308 常磐成   石室者今毛   安里家礼騰 住家類人曽   常無里家留 ときはなす いはやはいまも ありけれど すみけるひとぞ つねなかりける 03 0309 石室戸尓  立在松樹    汝乎見者  昔人乎     相見如之 いはやどに たてるまつのき なをみれば むかしのひとを あひみるごとし 03 0310 門部王詠東市之樹作歌一首 後賜姓大原真人氏也 03 0310 東     市之殖木乃   木足左右  不相久美    宇倍戀尓家利 ひむかしの いちのうゑきの こだるまで あはずひさしみ うべこひにけり 03 0311 按作村主益人従豊前國上京時作歌一首 03 0311 梓弓    引豊國之    鏡山    不見久有者   戀敷牟鴨 あづさゆみ ひきとよくにの かがみやま みずひさならば こほしけむかも 03 0312 式部卿藤原宇合卿被使改造難波堵之時作歌一首 03 0312 昔者社   難波居中跡   所言奚米  今者京引     都備仁鷄里 むかしこそ なにはゐなかと いはれけめ いまはみやこひき みやこびにけり 03 0313 土理宣令歌一首 03 0313 見吉野之  瀧乃白浪    雖不知   語之告者    古所念 みよしのの たぎのしらなみ しらねども かたりしつげば いにしへおもほゆ 03 0314 波多朝臣小足歌一首 03 0314 小浪    礒越道有    能登湍河  音之清左    多藝通瀬毎尓 さざれなみ いそこしぢなる のとせがは おとのさやけさ たぎつせごとに 03 0315 暮春之月幸芳野離宮時中納言大伴卿奉勅作歌一首 并短歌 未逕奏上歌 03 0315 見吉野之  芳野乃宮者   山可良志  貴有師     水可良思  清有師     天地与   長久      萬代尓   不改将有    行幸之宮 みよしのの よしののみやは やまからし たふとくあらし かはからし さやけくあらし あめつちと ながくひさしく よろづよに かはらずあらむ いでましのみや 03 0316 反歌 03 0316 昔見之   象乃小河乎   今見者   弥清      成尓来鴨 むかしみし きさのをがはを いまみれば いよよさやけく なりにけるかも 03 0317 山部宿祢赤人望不盡山歌一首 并短歌 03 0317 天地之   分時従     神左備手  高貴寸     駿河有   布士能高嶺乎  天原    振放見者    度日之   陰毛隠比    照月乃   光毛不見    白雲母   伊去波伐加利  時自久曽  雪者落家留   語告    言継将徃    不盡能高嶺者 あめつちの わかれしときゆ かむさびて たかくたふとき するがなる ふじのたかねを あまのはら ふりさけみれば わたるひの かげもかくらひ てるつきの ひかりもみえず しらくもも いゆきはばかり ときじくぞ ゆきはふりける かたりつぎ いひつぎゆかむ ふじのたかねは 03 0318 反歌 03 0318 田兒之浦従  打出而見者    真白衣   不盡能高嶺尓  雪波零家留 たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ ふじのたかねに ゆきはふりける 03 0319 詠不盡山歌一首 并短歌 03 0319 奈麻余美乃 甲斐乃國  打縁流   駿河能國与   己知其智乃 國之三中従   出立有   不盡能高嶺者  天雲毛   伊去波伐加利  飛鳥母   翔毛不上    燎火乎   雪以滅    落雪乎   火用消通都   言不得   名不知     霊母    座神香聞    石花海跡  名付而有毛   彼山之   堤有海曽    不盡河跡  人乃渡毛    其山之   水乃當焉    日本之   山跡國乃    鎮十方   座祇可聞    寳十方   成有山可聞   駿河有   不盡能高峯者  雖見不飽香聞 なまよみの かひのくに うちよする するがのくにと こちごちの くにのみなかゆ いでたてる ふじのたかねは あまくもも いゆきはばかり とぶとりも とびものぼらず もゆるひを ゆきもちけち ふるゆきを ひもちけちつつ いひもえず なづけもしらず くすしくも いますかみかも せのうみと なづけてあるも そのやまの つつめるうみぞ ふじかはと ひとのわたるも そのやまの みづのたぎちぞ ひのもとの やまとのくにの しづめとも いますかみかも たからとも なれるやまかも するがなる ふじのたかねは みれどあかぬかも 03 0320 反歌 03 0320 不盡嶺尓  零置雪者    六月    十五日消者   其夜布里家利 ふじのねに ふりおくゆきは みなつきの もちにけぬれば そのよふりけり 03 0321 布士能嶺乎 高見恐見    天雲毛   伊去羽斤    田菜引物緒 ふじのねを たかみかしこみ あまくもも いゆきはばかり たなびくものを 03 0321 右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此 03 0322 山部宿祢赤人至伊豫温泉作歌一首 并短歌 03 0322 皇神祖之  神乃御言乃   敷座    國之盡     湯者霜  左波尓雖在   嶋山之   宜國跡     極此疑   伊豫能高嶺乃  射狭庭乃  崗尓立而    敲思    辞思為師    三湯之上乃  樹村乎見者   臣木毛   生継尓家里   鳴鳥之   音毛不更    遐代尓   神左備将徃   行幸處 すめろきの かみのみことの しきませる くにのことごと ゆはしも さはにあれども しまやまの よろしきくにと こごしかも いよのたかねの いざにはの をかにたたして うちじのひ ことしのひせし みゆのうへの こむらをみれば おみのきも おひつぎにけり なくとりの こゑもかはらず とほきよに かむさびゆかむ いでましところ 03 0323 反歌 03 0323 百式紀乃  大宮人之    飽田津尓  船乗将為    年之不知久 ももしきの おほみやひとの にきたつに ふなのりしけむ としのしらなく 03 0324 登神岳山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 03 0324 三諸乃  神名備山尓   五百枝刺  繁生有     都賀乃樹乃 弥継嗣尓    玉葛    絶事無     在管裳   不止将通    明日香能 舊京師者    山高三   河登保志呂之  春日者   山四見容之   秋夜者   河四清之    旦雲二   多頭羽乱   夕霧丹   河津者驟    毎見    哭耳所泣    古思者 みもろの かむなびやまに いほえさし しじにおひたる つがのきの いやつぎつぎに たまかづら たゆることなく ありつつも やまずかよはむ あすかの ふるきみやこは やまだかみ かはとほしろし はるのひは やましみがほし あきのよは かはしさやけし あさくもに たづはみだる ゆふぎりに かはづはさわく みるごとに ねのみしなかゆ いにしへおもへば 03 0325 反歌 03 0325 明日香河  川余藤不去   立霧乃   念應過     孤悲尓不有國 あすかがは かはよどさらず たつきりの おもひすぐべき こひにあらなくに 03 0326 門部王在難波見漁父燭光作歌一首 後賜姓大原真人氏也 03 0326 見渡者   明石之浦尓   焼火乃   保尓曽出流   妹尓戀久 みわたせば あかしのうらに ともすひの ほにぞいでぬる いもにこふらく 03 0327 或娘子等贈褁乾鰒戯請通觀僧之咒願時通觀作歌一首 03 0327 海若之   奥尓持行而    雖放    宇礼牟曽此之  将死還生 わたつみの おきにもちゆきて はなつとも うれむぞこれが よみがへりなむ 03 0328 大宰少貳小野老朝臣歌一首 03 0328 青丹吉   寧樂乃京師者  咲花乃   薫如      今盛有 あをによし ならのみやこは さくはなの にほへるがごと いまさかりなり 03 0329 防人司佑大伴四綱歌二首 03 0329 安見知之  吾王乃     敷座在   國中者     京師所念 やすみしし わがおほきみの しきませる くにのうちには みやこしおもほゆ 03 0330 藤浪之   花者盛尓    成来    平城京乎    御念八君 ふぢなみの はなはさかりに なりにけり ならのみやこを おもほすやきみ 03 0331 帥大伴卿歌五首 03 0331 吾盛    復将變八方   殆     寧樂京乎    不見歟将成 わがさかり またをちめやも ほとほとに ならのみやこを みずかなりなむ 03 0332 吾命毛    常有奴可     昔見之   象小河乎    行見為 わがいのちも つねにもあらぬか むかしみし きさのをがはを ゆきてみむため 03 0333 淺茅原   曲曲二     物念者   故郷之     所念可聞 あさぢはら つばらつばらに ものもへば ふりにしさとし おもほゆるかも 03 0334 萱草    吾紐二付    香具山乃  故去之里乎   忘之為 わすれぐさ わがひもにつく かぐやまの ふりにしさとを わすれむがため 03 0335 吾行者   久者不有    夢乃和太  湍者不成而   淵有毛 わがゆきは ひさにはあらじ いめのわだ せにはならずて ふちにしあらも 03 0336 沙弥満誓詠綿歌一首 造筑紫觀音寺別當俗姓笠朝臣麻呂也 03 0336 白縫   筑紫乃綿者   身著而   未者伎祢杼   暖所見 しらぬひ つくしのわたは みにつけて いまだはきねど あたたけくみゆ 03 0337 山上憶良臣罷宴歌一首 03 0337 憶良等者  今者将罷    子将哭   其彼母毛    吾乎将待曽 おくららは いまはまからむ こなくらむ それそのははも わをまつらむぞ 03 0338 大宰帥大伴卿讃酒歌十三首 03 0338 驗無    物乎不念者   一坏乃   濁酒乎     可飲有良師 しるしなき ものをもはずは ひとつきの にごれるさけを のむべくあるらし 03 0339 酒名乎   聖跡負師     古昔    大聖之     言乃宜左 さけのなを ひじりとおほせし いにしへの おほきひじりの ことのよろしさ 03 0340 古之    七賢      人等毛   欲為物者    酒西有良師 いにしへの ななのさかしき ひとたちも ほりせしものは さけにしあるらし 03 0341 賢跡    物言従者    酒飲而   酔哭為師    益有良之 さかしみと ものいふよりは さけのみて ゑひなきするし まさりてあるらし 03 0342 将言為便  将為便不知   極     貴物者     酒西有良之 いはむすべ せむすべしらず きはまりて たふときものは さけにしあるらし 03 0343 中〃尓   人跡不有者   酒壷二   成而師鴨    酒二染甞 なかなかに ひととあらずは さかつほに なりにてしかも さけにしみなむ ○ 03 0344 痛醜    賢良乎為跡   酒不飲   人乎熟見者   猿二鴨似 あなみにく さかしらをすと さけのまぬ ひとをよくみば さるにかもにむ ○ 03 0345 價無    寳跡言十方    一坏乃   濁酒尓     豈益目八方 あたひなき たからといふとも ひとつきの にごれるさけに あにまさめやも 03 0346 夜光    玉跡言十方   酒飲而   情乎遣尓    豈若目八方 よるひかる たまといふとも さけのみて こころをやるに あにしかめやも 03 0347 世間之   遊道尓     怜者    酔泣為尓    可有良師 よのなかの あそびのみちに たのしきは ゑひなきするに あるべくあるらし 03 0348 今代尓之  樂有者     来生者   蟲尓鳥尓毛   吾羽成奈武 このよにし たのしくあらば こむよには むしにとりにも われはなりなむ ○ 03 0349 生者    遂毛死     物尓有者   今生在間者   樂乎有名 いけるもの つひにもしぬる ものにあれば このよなるまは たのしくをあらな 03 0350 黙然居而  賢良為者    飲酒而   酔泣為尓    尚不如来 もだをりて さかしらするは さけのみて ゑひなきするに なほしかずけり 03 0351 沙弥満誓歌一首 03 0351 世間乎   何物尓将譬   旦開    榜去師船之   跡無如 よのなかを なににたとへむ あさびらき こぎにしふねの あとなきごとし 03 0352 若湯座王歌一首 03 0352 葦邊波  鶴之哭鳴而   湖風    寒吹良武    津乎能埼羽毛 あしへは たづがねなきて みなとかぜ さむくふくらむ つをのさきはも 03 0353 釋通觀歌一首 03 0353 見吉野之  高城乃山尓   白雲者   行憚而     棚引所見 みよしのの たかきのやまに しらくもは ゆきはばかりて たなびけりみゆ 03 0354 日置少老歌一首 03 0354 縄乃浦尓   塩焼火氣    夕去者   行過不得而   山尓棚引 なはのうらに しほやくけぶり ゆふされば ゆきすぎかねて やまにたなびく 03 0355 生石村主真人歌一首 03 0355 大汝    小彦名乃    将座    志都乃石室者  幾代将経 おほなむぢ すくなびこなの いましけむ しつのいはやは いくよへにけむ 03 0356 上古麻呂歌一首 03 0356 今日可聞  明日香河乃   夕不離   川津鳴瀬之   清有良武 或本歌發句云 明日香川  今毛可毛等奈 けふもかも あすかのかはの ゆふさらず かはづなくせの さやけくあるらむ    あすかがは いまもかもとな 03 0357 山部宿祢赤人歌六首 03 0357 縄浦従    背向尓所見   奥嶋    榜廻舟者    釣為良下 なはのうらゆ そがひにみゆる おきつしま こぎみるふねは つりしすらしも 03 0358 武庫浦乎   榜轉小舟    粟嶋矣   背尓見乍    乏小舟 むこのうらを こぎみるをぶね あはしまを そがひにみつつ ともしきをぶね 03 0359 阿倍乃嶋  宇乃住石尓   依浪    間無比来    日本師所念 あべのしま うのすむいそに よするなみ まなくこのころ やまとしおもほゆ 03 0360 塩干去者  玉藻苅蔵    家妹之    濱褁乞者    何矣示 しほひなば たまもかりつめ いへのいもが はまづとこはば なにをしめさむ 03 0361 秋風乃   寒朝開乎    佐農能岡  将超公尓    衣借益矣 あきかぜの さむきあさけを さぬのをか こゆらむきみに きぬかさましを 03 0362 美沙居   石轉尓生    名乗藻乃  名者告志弖余  親者知友 みさごゐる いそみにおふる なのりその なはのらしてよ おやはしるとも 03 0363 或本歌曰 03 0363 美沙居   荒礒尓生    名乗藻乃  吉名者告世   父母者知友 みさごゐる ありそにおふる なのりその よしなはのらせ おやはしるとも 03 0364 笠朝臣金村塩津山作歌二首 03 0364 大夫之   弓上振起     射都流矢乎 後将見人者   語継金 ますらをの ゆずゑふりおこせ いつるやを のちみむひとも かたりつぐがね 03 0365 塩津山   打越去者    我乗有   馬曽爪突    家戀良霜 しほつやま うちこえゆけば あがのれる うまぞつまづく いへこふらしも 03 0366 角鹿津乗船時笠朝臣金村作歌一首 并短歌 03 0366 越海之    角鹿乃濱従   大舟尓   真梶貫下     勇魚取   海路尓出而   阿倍寸管  我榜行者    大夫乃   手結我浦尓   海未通女  塩焼炎     草枕    客之有者    獨為而   見知師無美   綿津海乃  手二巻四而有  珠手次   懸而之努櫃   日本嶋根乎 こしのうみの つのがのはまゆ おほぶねに まかぢぬきおろし いさなとり うみぢにいでて あへきつつ わがこぎゆけば ますらをの たゆひがうらに あまをとめ しほやくけぶり くさまくら たびにしあれば ひとりして みるしるしなみ わたつみの てにまかしたる たまだすき かけてしのひつ やまとしまねを 03 0367 反歌 03 0367 越海乃    手結之浦矣   客為而   見者乏見    日本思櫃 こしのうみの たゆひがうらを たびにして みればともしみ やまとしのひつ 03 0368 石上大夫歌一首 03 0368 大船二   真梶繁貫    大王之   御命恐     礒廻為鴨 おほぶねに まかぢしじぬき おほきみの みことかしこみ いそみするかも 03 0368 右今案 石上朝臣乙麻呂任越前國守盖此大夫歟 03 0369 和歌一首 03 0369 物部乃   臣之壮士者   大王    任乃随意    聞跡云物曽 もののふの おみのをとこは おほきみの まけのまにまに きくといふものぞ 03 0369 右作者未審 但笠朝臣金村之歌中出也 03 0370 安倍廣庭卿歌一首 03 0370 雨不零   殿雲流夜之   潤濕跡   戀乍居寸    君待香光 あめふらず とのぐもるよの ぬれひてど こひつつをりき きみまちがてり 03 0371 出雲守門部王思京歌一首 後賜大原真人氏也 03 0371 飫海乃    河原之乳鳥   汝鳴者   吾佐保河乃   所念國 おうのうみの かはらのちどり ながなけば わがさほがはの おもほゆらくに 03 0372 山部宿祢赤人登春日野作歌一首 并短歌 03 0372 春日乎  春日山乃    高座之   御笠乃山尓   朝不離   雲居多奈引   容鳥能   間無數鳴    雲居奈須  心射左欲比   其鳥乃   片戀耳二    晝者毛  日之盡    夜者毛  夜之盡    立而居而  念曽吾為流    不相兒故荷 はるひを かすがのやまの たかくらの みかさのやまに あささらず くもゐたなびき かほとりの まなくしばなく くもゐなす こころいさよひ そのとりの かたこひのみに ひるはも ひのことごと よるはも よのことごと たちてゐて おもひぞあがする あはぬこゆゑに 03 0373 反歌 03 0373 高按之   三笠乃山尓   鳴鳥之   止者継流    戀哭為鴨 たかくらの みかさのやまに なくとりの やめばつがるる こひもするかも 03 0374 石上乙麻呂朝臣歌一首 03 0374 雨零者   将盖跡念有   笠乃山   人尓莫令盖   霑者漬跡裳 あめふらば きむとおもへる かさのやま ひとになきせそ ぬれはひつとも 03 0375 湯原王芳野作歌一首 03 0375 吉野尓有  夏實之河乃   川余杼尓  鴨曽鳴成    山影尓之弖 よしのなる なつみのかはの かはよどに かもぞなくなる やまかげにして 03 0376 湯原王宴席歌二首 03 0376 秋津羽之  袖振妹乎    珠匣    奥尓念乎    見賜吾君 あきづはの そでふるいもを たまくしげ おくにおもふを みたまへあがきみ 03 0377 青山之   嶺乃白雲    朝尓食尓  恒見杼毛    目頬四吾君 あをやまの みねのしらくも あさにけに つねにみれども めづらしあがきみ 03 0378 山部宿祢赤人詠故太政大臣藤原家之山池歌一首 03 0378 昔者之   舊堤者     年深    池之瀲尓    水草生家里 いにしへの ふるきつつみは としふかみ いけのなぎさに みくさおひにけり 03 0379 大伴坂上郎女祭神歌一首 并短歌 03 0379 久堅之   天原従     生来    神之命    奥山乃   賢木之枝尓   白香付   木綿取付而   齋戸乎   忌穿居     竹玉乎   繁尓貫垂    十六自物  膝折伏     手弱女之  押日取懸    如此谷裳  吾者祈奈牟   君尓不相可聞 ひさかたの あまのはらより あれきたる かみのみこと おくやまの さかきのえだに しらかつけ ゆふとりつけて いはひべを いはひほりすゑ たかたまを しじにぬきたれ ししじもの ひざをりふして たわやめの おすひとりかけ かくだにも あれはこひなむ きみにあはじかも 03 0380 反歌 03 0380 木綿疊   手取持而    如此谷母  吾波乞甞    君尓不相鴨 ゆふたたみ てにとりもちて かくだにも あれはこひなむ きみにあはじかも 03 0380 右歌者 以天平五年冬十一月供祭大伴氏神之時 聊作此歌 故曰祭神歌 03 0381 筑紫娘子贈行旅歌一首 娘子字曰兒嶋 03 0381 思家登    情進莫     風候    好為而伊麻世  荒其路 いへおもふと こころすすむな かざまもり よくしていませ あらしそのみち 03 0382 登筑波岳丹比真人國人作歌一首 并短歌 03 0382 鷄之鳴   東國尓     高山者   左波尓雖有   朋神之   貴山乃     儕立乃   見杲石山跡   神代従   人之言嗣    國見為   築羽乃山矣   冬木成   時敷時跡    不見而徃者  益而戀石見   雪消為   山道尚矣    名積叙吾来煎 とりがなく あづまのくにに たかやまは さはにあれども ふたかみの たふときやまの なみたちの みがほしやまと かむよより ひとのいひつぎ くにみする つくはのやまを ふゆこもり ときじきときと みずてゆかば ましてこほしみ ゆきげする やまみちすらを なづみぞあがける 03 0383 反歌 03 0383 築羽根矣  卌耳見乍    有金手   雪消乃道矣   名積来有鴨 つくはねを よそのみみつつ ありかねて ゆきげのみちを なづみけるかも 03 0384 山部宿祢赤人歌一首 03 0384 吾屋戸尓  韓藍種生之     雖干    不懲而亦毛   将蒔登曽念 わがやどに からあゐまきおほし かれぬれど こりずてまたも まかむとぞおもふ 03 0385 仙柘枝歌三首 03 0385 霰零    吉志美我高嶺乎 險跡    草取可奈和   妹手乎取 あられふり きしみがたけを さがしみと くさとりかなわ いもがてをとる 03 0385 右一首或云 吉野人味稲与柘枝仙媛歌也 但見柘枝傳無有此歌 03 0386 此暮    柘之左枝乃   流来者   樑者不打而   不取香聞将有 このゆふべ つみのさえだの ながれこば やなはうたずて とらずかもあらむ 03 0386 右一首 03 0387 古尓    樑打人乃    無有世伐  此間毛有益    柘之枝羽裳 いにしへに やなうつひとの なかりせば ここにもあらまし つみのえだはも 03 0387 右一首若宮年魚麻呂作 03 0388 羈旅歌一首 并短歌 03 0388 海若者   霊寸物香    淡路嶋   中尓立置而    白浪乎   伊与尓廻之   座待月   開乃門従者   暮去者   塩乎令満    明去者   塩乎令干   塩左為能  浪乎恐美    淡路嶋   礒隠居而    何時鴨   此夜乃将明跡   侍従尓   寐乃不勝宿者  瀧上乃    淺野之鴙    開去歳   立動良之    率兒等   安倍而榜出牟  尓波母之頭氣師 わたつみは くすしきものか あはぢしま なかにたておきて しらなみを いよにめぐらし ゐまちづき あかしのとゆは ゆふされば しほをみたしめ あけされば しほをひしめ しほさゐの なみをかしこみ あはぢしま いそがくりゐて いつしかも このよのあけむと さもらふに いのねかてねば たぎのうへの あさののきぎし あけぬとし たちさわくらし いざこども あへてこぎでむ にはもしづけし 03 0389 反歌 03 0389 嶋傳    敏馬乃埼乎   許藝廻者  日本戀久    鶴左波尓鳴 しまづたひ みぬめのさきを こぎみれば やまとこほしく たづさはになく 03 0389 右歌若宮年魚麻呂誦之 但未審作者 03 0390 譬喩歌 03 0390 紀皇女御歌一首 03 0390 軽池之    汭廻徃轉留   鴨尚尓   玉藻乃於丹   獨宿名久二 かるのいけの うらみゆきみる かもすらに たまものうへに ひとりねなくに 03 0391 造筑紫觀世音寺別當沙弥満誓歌一首 03 0391 鳥総立 足柄山尓 船木伐 樹尓伐歸都 安多良船材乎 とぶさたて あしがらやまに ふなききり きにきりゆきつ あたらふなきを 03 0392 大宰大監大伴宿祢百代梅歌一首 03 0392 烏珠之   其夜乃梅乎   手忘而   不折来家里   思之物乎 ぬばたまの そのよのうめを たわすれて をらずきにけり おもひしものを ○ 03 0393 満誓沙弥月歌一首 03 0393 不所見十方 孰不戀有米   山之末尓  射狭夜歴月乎  外見而思香 みえずとも たれこひざらめ やまのはに いさよふつきを よそにみてしか 03 0394 余明軍歌一首 03 0394 印結而   我定義之    住吉乃   濱乃小松者   後毛吾松 しめゆひて わがさだめてし すみのえの はまのこまつは のちもあがまつ 03 0395 笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首 03 0395 託馬野尓  生流紫     衣染    未服而     色尓出来 たくまのに おふるむらさき きぬにしめ いまだきずして いろにいでにけり 03 0396 陸奥之   真野乃草原   雖遠    面影為而    所見云物乎 みちのくの まののかやはら とほけども おもかげにして みゆといふものを 03 0397 奥山之   磐本菅乎    根深目手  結之情     忘不得裳 おくやまの いはもとすげを ねふかめて むすびしこころ わすれかねつも 03 0398 藤原朝臣八束梅歌二首 八束後名真楯房前第三子 03 0398 妹家尓    開有梅之    何時毛〃〃〃 将成時尓    事者将定 いもがいへに さきたるうめの いつもいつも なりなむときに ことはさだめむ 03 0399 妹家尓    開有花之    梅花    實之成名者   左右将為 いもがいへに さきたるはなの うめのはな みにしなりなば かもかくもせむ 03 0400 大伴宿祢駿河麻呂梅歌一首 03 0400 梅花    開而落去登   人者雖云   吾標結之    枝将有八方 うめのはな さきてちりぬと ひとはいへど わがしめゆひし えだにあらめやも 03 0401 大伴坂上郎女宴親族之日吟歌一首 03 0401 山守之   有家留不知尓  其山尓   標結立而    結之辱為都 やまもりの ありけるしらに そのやまに しめゆひたてて ゆひのはぢしつ 03 0402 大伴宿祢駿河麻呂即和歌一首 03 0402 山主者   盖雖有      吾妹子之  将結標乎    人将解八方 やまもりは けだしはありとも わぎもこが ゆひけむしめを ひととかめやも 03 0403 大伴宿祢家持贈同坂上家之大嬢歌一首 03 0403 朝尓食尓  欲見      其玉乎   如何為鴨    従手不離有牟 あさにけに みまくほりする そのたまを いかにせばかも てゆかれずあらむ 03 0404 娘子報佐伯宿祢赤麻呂贈歌一首 03 0404 千磐破   神之社四    無有世伐  春日之野邊   粟種益乎 ちはやぶる かみのやしろし なかりせば かすがののへに あはまかましを 03 0405 佐伯宿祢赤麻呂更贈歌一首 03 0405 春日野尓  粟種有世伐   待鹿尓   継而行益乎    社師怨焉 かすがのに あはまけりせば ししまちに つぎてゆかましを やしろしうらめし 03 0406 娘子復報歌一首 03 0406 吾祭    神者不有    大夫尓   認有神曽    好應祀 わがまつる かみにはあらず ますらをに つきたるかみぞ よくまつるべし 03 0407 大伴宿祢駿河麻呂娉同坂上家之二嬢歌一首 03 0407 春霞    春日里之    殖子水葱  苗有跡云師    柄者指尓家牟 はるかすみ かすがのさとの うゑこなぎ なへなりといひし えはさしにけむ 03 0408 大伴宿祢家持贈同坂上家之大嬢歌一首 03 0408 石竹之   其花尓毛我   朝旦    手取持而    不戀日将無 なでしこが そのはなにもが あさなさな てにとりもちて こひぬひなけむ 03 0409 大伴宿祢駿河麻呂歌一首 03 0409 一日尓波  千重浪敷尓   雖念    奈何其玉之   手二巻難寸 ひとひには ちへなみしきに おもへども なぞそのたまの てにまきかたき 03 0410 大伴坂上郎女橘歌一首 03 0410 橘乎    屋前尓殖生    立而居而  後雖悔     驗将有八方 たちばなを やどにうゑおほし たちてゐて のちにくゆとも しるしあらめやも 03 0411 和歌一首 03 0411 吾妹兒之  屋前之橘    甚近    殖而師故二   不成者不止 わぎもこが やどのたちばな いとちかく うゑてしゆゑに ならずはやまじ 03 0412 市原王歌一首 03 0412 伊奈太吉尓 伎須賣流玉者  無二    此方彼方毛   君之随意 いなだきに きすめるたまは ふたつなし かにもかくにも きみがまにまに 03 0413 大網公人主宴吟歌一首 03 0413 須麻乃海人之 塩焼衣乃    藤服    間遠之有者    未著穢 すまのあまの しほやききぬの ふぢころも まとほにしあれば いまだきなれず 03 0414 大伴宿祢家持歌一首 03 0414 足日木能  石根許其思美  菅根乎   引者難三等   標耳曽結焉 あしひきの いはねこごしみ すがのねを ひかばかたみと しめのみぞゆふ 03 0415 挽歌 03 0415 上宮聖徳皇子出遊竹原井之時見龍田山死人悲傷御作歌一首 小墾田宮御宇天皇代墾田宮御宇者豊御食炊屋姫天皇也諱額田謚推古 03 0415 家有者  妹之手将纒  草枕  客尓臥有  此旅人憾怜 いへにあらば いもがてまかむ くさまくら たびにこやせる このたびとあはれ 03 0416 大津皇子被死之時磐余池陂流涕御作歌一首 03 0416 百傳    磐余池尓    鳴鴨乎   今日耳見哉   雲隠去牟 ももづたふ いはれのいけに なくかもを けふのみみてや くもがくりなむ 03 0416 右藤原宮朱鳥元年冬十月 03 0417 河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首 03 0417 王之    親魄相哉    豊國乃   鏡山乎     宮登定流 おほきみの にきたまあへや とよくにの かがみのやまを みやとさだむる 03 0418 豊國乃   鏡山之     石戸立   隠尓計良思   雖待不来座 とよくにの かがみのやまの いはとたて こもりにけらし まてどきまさず 03 0419 石戸破   手力毛欲得   手弱寸  女有者      為便乃不知苦 いはとわる たぢからもがも たよわき をみなにしあれば すべのしらなく 03 0420 石田王卒之時丹生王作歌一首 并短歌 03 0420 名湯竹乃  十縁皇子   狭丹頬相  吾大王者    隠久乃   始瀬乃山尓   神左備尓  伊都伎坐等   玉梓乃   人曽言鶴    於余頭礼可 吾聞都流   狂言加   我聞都流母   天地尓   悔事乃     世間乃   悔言者     天雲乃   曽久敝能極   天地乃   至流左右二   杖策毛   不衝毛去而   夕衢占問  石卜以而    吾屋戸尓  御諸乎立而   枕邊尓   齋戸乎居    竹玉乎   無間貫垂    木綿手次  可比奈尓懸而  天有   左佐羅能小野之 七相菅   手取持而    久堅乃   天川原尓    出立而   潔身而麻之乎  高山乃   石穂乃上尓   伊座都類香物 なゆたけの とをよるみこ さにつらふ わごおほきみは こもりくの はつせのやまに かむさびに いつきいますと たまづさの ひとぞいひつる およづれか わがききつる たはことか わがききつるも あめつちに くやしきことの よのなかの くやしきことは あまくもの そくへのきはみ あめつちの いたれるまでに つゑつきも つかずもゆきて ゆふけとひ いしうらもちて わがやどに みもろをたてて まくらへに いはひべをすゑ たかたまを まなくぬきたれ ゆふだすき かひなにかけて あめなる ささらのをのの ななふすげ てにとりもちて ひさかたの あまのかはらに いでたちて みそぎてましを たかやまの いはほのうへに いませつるかも 03 0421 反歌 03 0421 逆言之   狂言等可聞   高山之   石穂乃上尓   君之臥有 およづれの たはこととかも たかやまの いはほのうへに きみがこやせる 03 0422 石上    振乃山有    杉村乃   思過倍吉    君尓有名國 いそのかみ ふるのやまなる すぎむらの おもひすぐべき きみにあらなくに 03 0423 同石田王卒之時山前王哀傷作歌一首 03 0423 角障経   石村之道乎   朝不離   将歸人乃    念乍    通計萬口波   霍公鳥   鳴五月者    菖蒲    花橘乎     玉尓貫 一云 貫交    蘰尓将為登   九月能   四具礼能時者  黄葉乎   折挿頭跡    延葛乃   弥遠永 一云  田葛根乃  弥遠長尓    萬世尓   不絶等念而 一云 大舟之   念憑而     将通    君乎婆明日従 一云 君乎従明日者  外尓可聞見牟 つのさはふ いはれのみちを あささらず ゆきけむひとの おもひつつ かよひけまくは ほととぎす なくさつきには あやめぐさ はなたちばなを たまにぬき  ぬきまじへ かづらにせむと ながつきの しぐれのときは もみちばを をりかざさむと はふくずの いやとほながく くずのねの いやとほながに よろづよに たえじとおもひて おほぶねの おもひたのみて かよひけむ きみをばあすゆ   きみをあすゆは よそにかもみむ 03 0423 右一首或云柿本朝臣人麻呂作 03 0424 或本反歌二首 03 0424 隠口乃   泊瀬越女我   手二纒在  玉者乱而    有不言八方 こもりくの はつせをとめが てにまける たまはみだれて ありといはずやも 03 0425 河風    寒長谷乎    歎乍    公之阿流久尓  似人母逢耶 かはかぜの さむきはつせを なげきつつ きみがあるくに にるひともあへや ○ 03 0425 右二首者或云紀皇女薨後山前王代石田王作之也 03 0426 柿本朝臣人麻呂見香具山屍悲慟作歌一首 03 0426 草枕    羈宿尓     誰嬬可   國忘有     家待真國 くさまくら たびのやどりに たがつまか くにわすれたる いへまたまくに 03 0427 田口廣麻呂死之時刑部垂麻呂作歌一首 03 0427 百不足   八十隅坂尓   手向為者  過去人尓    盖相牟鴨 ももたらず やそくまさかに たむけせば すぎにしひとに けだしあはむかも 03 0428 土形娘子火葬泊瀬山時柿本朝臣人麻呂作歌一首 03 0428 隠口能   泊瀬山之    山際尓   伊佐夜歴雲者  妹鴨有牟 こもりくの はつせのやまの やまのまに いさよふくもは いもにかもあらむ 03 0429 溺死出雲娘子火葬吉野時柿本朝臣人麻呂作歌二首 03 0429 山際従   出雲兒等者   霧有哉   吉野山     嶺霏霺 やまのまゆ いづものこらは きりなれや よしののやまの みねにたなびく 03 0430 八雲刺   出雲子等    黒髪者   吉野川     奥名豆颯 やくもさす いづものこらが くろかみは よしののかはの おきにづさふ 03 0431 過勝鹿真間娘子墓時山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 東俗語云 可豆思賀能麻末能弖胡  かづしかのままのてご 03 0431 古昔    有家武人之   倭文幡乃  帶解替而    廬屋立   妻問為家武   勝壮鹿乃  真間之手兒名之 奥槨乎   此間登波聞杼  真木葉哉  茂有良武    松之根也  遠久寸     言耳毛   名耳母吾者   不可忘 いにしへに ありけむひとの しつはたの おびときかへて ふせやたて つまどひしけむ かつしかの ままのてこなが おくつきを こことはきけど まきのはや しげくあるらむ まつがねや とほくひさしき ことのみも なのみもわれは わすらゆましじ 03 0432 反歌 03 0432 吾毛見都  人尓毛将告   勝壮鹿之  間〃能手兒名之 奥津城處 われもみつ ひとにもつげむ かつしかの ままのてこなが おくつきところ 03 0433 勝壮鹿乃  真〃乃入江尓  打靡    玉藻苅兼    手兒名志所念 かつしかの ままのいりえに うちなびく たまもかりけむ てこなしおもほゆ 03 0434 和銅四年辛亥河邊宮人見姫嶋松原美人屍哀慟作歌四首 03 0434 加座皤夜能 美保乃浦廻之  白管仕   見十方不怜   無人念者 或云  見者悲霜    無人思丹 かざはやの みほのうらみの しらつつじ みれどもさぶし なきひとおもへば みればかなしも なきひとおもふに 03 0435 見津見津四 久米能若子我  伊觸家武  礒之草根乃   干巻惜裳 みつみつし くめのわくごが いふれけむ いそのくさねの かれまくをしも 03 0436 人言之   繁比日     玉有者   手尓巻以而   不戀有益雄 ひとごとの しげきこのころ たまならば てにまきもちて こひずあらましを 03 0437 妹毛吾毛   清之河乃    河岸之   妹我可悔    心者不持 いももあれも きよみのかはの かはきしの いもがくゆべき こころはもたじ 03 0437 右案 年紀并所處及娘子屍作歌人名已見上也 但歌辞相違是非難別 因以累載於玆次焉 03 0438 神龜五年戊辰大宰帥大伴卿思戀故人歌三首 03 0438 愛     人之纒而師   敷細之   吾手枕乎    纒人将有哉 うつくしき ひとのまきてし しきたへの わがたまくらを まくひとあらめや 03 0438 右一首別去而経數旬作歌 03 0439 應還    時者成来    京師尓而  誰手本乎可   吾将枕 かへるべく ときはなりけり みやこにて たがたもとをか わがまくらかむ 03 0440 在京    荒有家尓    一宿者   益旅而     可辛苦 みやこなる あれたるいへに ひとりねば たびにまさりて くるしかるべし 03 0440 右二首臨近向京之時作歌 03 0441 神龜六年己巳左大臣長屋王賜死之後倉橋部女王作歌一首 03 0441 大皇之   命恐      大荒城乃   時尓波不有跡   雲隠座 おほきみの みことかしこみ おほあらきの ときにはあらねど くもがくります 03 0442 悲傷膳部王歌一首 03 0442 世間者   空物跡     将有登曽  此照月者    満闕為家流 よのなかは むなしきものと あらむとぞ このてるつきは みちかけしける 03 0442 右一首作者未詳 03 0443 天平元年己巳攝津國班田史生丈部龍麻呂自経死之時判官大伴宿祢三中作歌一首 并短歌 03 0443 天雲之   向伏國     武士登   所云人者    皇祖    神之御門尓   外重尓  立候     内重尓   仕奉      玉葛    弥遠長     祖名文   継徃物与    母父尓   妻尓子等尓   語而    立西日従    帶乳根乃  母命者     齋忌戸乎  前坐置而     一手者   木綿取持   一手者   和細布奉    平     間幸座与     天地乃   神祇乞禱    何在     歳月日香    茵花    香君之     牛留鳥   名津匝来与   立居而   待監人者    王之    命恐      押光   難波國尓    荒玉之   年経左右二   白栲    衣不干     朝夕    在鶴公者    何方尓   念座可     欝蝉乃   惜此世乎    露霜    置而徃監    時尓不在之天 あまくもの むかぶすくにの もののふと いはれしひとは すめろきの かみのみかどに とのへに たちさもらひ うちのへに つかへまつりて たまかづら いやとほながく おやのなも つぎゆくものと おもちちに つまにこどもに かたらひて たちにしひより たらちねの ははのみことは いはひべを まへにすゑおきて かたてには ゆふとりもち かたてには にきたへまつり たひらけく まさきくいませと あめつちの かみをこひのみ いかにあらむ としつきひにか つつじはな にほへるきみが にほどりの なづさひこむと たちてゐて まちけむひとは おほきみの みことかしこみ おしてる なにはのくにに あらたまの としふるまでに しろたへの ころももほさず あさよひに ありつるきみは いかさまに おもひいませか うつせみの をしきこのよを つゆしもの おきていにけむ ときにあらずして 03 0444 反歌 03 0444 昨日社   公者在然    不思尓   濱松之於     雲棚引 きのふこそ きみはありしか おもはぬに はままつがうへに くもにたなびく 03 0445 何時然跡  待牟妹尓    玉梓乃   事太尓不告   徃公鴨 いつしかと まつらむいもに たまづさの ことだにつげず いにしきみかも 03 0446 天平二年庚午冬十二月大宰帥大伴卿向京上道之時作歌五首 03 0446 吾妹子之  見師鞆浦之    天木香樹者 常世有跡    見之人曽奈吉 わぎもこが みしとものうらの むろのきは とこよにあれど みしひとぞなき 03 0447 鞆浦之    礒之室木    将見毎   相見之妹者   将所忘八方 とものうらの いそのむろのき みむごとに あひみしいもは わすらえめやも 03 0448 礒上丹    根蔓室木    見之人乎  何在登問者   語将告可 いそのうへに ねばふむろのき みしひとを いづらととはば かたりつげむか 03 0448 右三首過鞆浦日作歌 03 0449 与妹来之  敏馬能埼乎   還左尓   獨之見者    涕具末之毛 いもとこし みぬめのさきを かへるさに ひとりしみれば なみたぐましも 03 0450 去左尓波  二吾見之    此埼乎   獨過者     情悲喪 一云  見毛左可受伎濃 ゆくさには ふたりわがみし このさきを ひとりすぐれば こころがなしも みもさかずきぬ 03 0450 右二首過敏馬埼日作歌 03 0451 還入故郷家即作歌三首 03 0451 人毛奈吉  空家者     草枕    旅尓益而    辛苦有家里 ひともなき むなしきいへは くさまくら たびにまさりて くるしかりけり 03 0452 与妹為而  二作之     吾山齋者  木高繁     成家留鴨 いもとして ふたりつくりし わがしまは こだかくしげく なりにけるかも 03 0453 吾妹子之  殖之梅樹    毎見    情咽都追    涕之流 わぎもこが うゑしうめのき みるごとに こころむせつつ なみたしながる 03 0454 天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首 03 0454 愛八師   榮之君乃    伊座勢婆  昨日毛今日毛  吾乎召麻之乎 はしきやし さかえしきみの いましせば きのふもけふも わをめさましを 03 0455 如是耳   有家類物乎   芽子花   咲而有哉跡   問之君波母 かくのみに ありけるものを はぎのはな さきてありやと とひしきみはも 03 0456 君尓戀   痛毛為便奈美  蘆鶴之   哭耳所泣    朝夕四天 きみにこひ いたもすべなみ あしたづの ねのみしなかゆ あさよひにして 03 0457 遠長    将仕物常    念有之   君師不座者   心神毛奈思 とほながく つかへむものと おもへりし きみしまさねば こころどもなし 03 0458 若子乃   匍匐多毛登保里 朝夕    哭耳曽吾泣    君無二四天 みどりこの はひたもとほり あさよひに ねのみぞあがなく きみなしにして 03 0458 右五首資人余明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌 03 0459 見礼杼不飽  伊座之君我   黄葉乃   移伊去者    悲喪有香 みれどあかず いまししきみが もみちばの うつりいゆけば かなしくもあるか 03 0459 右一首勅内礼正縣犬養宿祢人上使撿護卿病 而醫藥無驗逝水不留 因斯悲慟即作此歌 03 0460 七年乙亥大伴坂上郎女悲嘆尼理願死去作歌一首 并短歌 03 0460 栲角乃   新羅國従    人事乎   吉跡所聞而   問放流   親族兄弟    無國尓   渡来座而    大皇之   敷座國尓    内日指   京思美弥尓   里家者   左波尓雖在   何方尓   念鷄目鴨    都礼毛奈吉 佐保乃山邊尓  哭兒成   慕来座而    布細乃   宅乎毛造    荒玉乃   年緒長久    住乍    座之物乎    生者    死云事尓     不免    物尓之有者   憑有之   人乃盡     草枕    客有間尓    佐保河乎  朝河渡     春日野乎  背向尓見乍   足氷木乃  山邊乎指而   晩闇跡   隠益去礼    将言爲便  将為須敝不知尓 俳佪    直獨而     白細之   衣袖不干    嘆乍    吾泣涙     有間山   雲居軽引    雨尓零寸八 たくづのの しらきのくにゆ ひとごとを よしときかして とひさくる うがらはらがら なきくにに わたりきまして おほきみの しきますくにに うちひさす みやこしみみに さといへは さはにあれども いかさまに おもひけめかも つれもなき さほのやまへに なくこなす したひきまして しきたへの いへをもつくり あらたまの としのをながく すまひつつ いまししものを いけるもの しぬといふことに まぬかれぬ ものにしあれば たのめりし ひとのことごと くさまくら たびなるほとに さほがはを あさかはわたり かすがのを そがひにみつつ あしひきの やまへをさして ゆふやみと かくりましぬれ いはむすべ せむすべしらに たもとほり ただひとりして しろたへの ころもでほさず なげきつつ わがなくなみた ありまやま くもゐたなびき あめにふりきや 03 0461 反歌 03 0461 留不得   壽尓之在者    敷細乃   家従者出而   雲隠去寸 とどめえぬ いのちにしあれば しきたへの いへゆはいでて くもがくりにき 03 0461 右新羅國尼名曰理願也 遠感王徳歸化聖朝 於時寄住大納言大将軍大伴卿家既逕數紀焉 惟以天平七年乙亥忽沈運病既趣泉界 於是大家石川命婦依餌藥事徃有間温泉而不會此喪 但郎女獨留葬送屍柩既訖 仍作此歌贈入温泉 03 0462 十一年己卯夏六月大伴宿祢家持悲傷亡妾作歌一首 03 0462 従今者   秋風寒     将吹焉   如何獨    長夜乎将宿 いまよりは あきかぜさむく ふきなむを いかにかひとり ながきよをねむ 03 0463 弟大伴宿祢書持即和歌一首 03 0463 長夜乎   獨哉将宿跡   君之云者   過去人之    所念久尓 ながきよを ひとりかねむと きみがいへば すぎにしひとの おもほゆらくに 03 0464 又家持見砌上瞿麦花作歌一首 03 0464 秋去者   見乍思跡    妹之殖之   屋前乃石竹   開家流香聞 あきさらば みつつしのへと いもがうゑし やどのなでしこ さきにけるかも 03 0465 移朔而後悲嘆秋風家持作歌一首 03 0465 虚蝉之   代者無常跡   知物乎   秋風寒     思努妣都流可聞 うつせみの よはつねなしと しるものを あきかぜさむみ しのひつるかも 03 0466 又家持作歌一首 并短歌 03 0466 吾屋前尓  花曽咲有    其乎見杼  情毛不行    愛八師   妹之有世婆   水鴨成   二人雙居    手折而毛  令見麻思物乎  打蝉乃   借有身在者   露霜乃   消去之如久   足日木乃  山道乎指而   入日成   隠去可婆    曽許念尓  胸己所痛    言毛不得  名付毛不知   跡無    世間尓有者    将為須辨毛奈思 わがやどに はなぞさきたる そをみれど こころもゆかず はしきやし いもがありせば みかもなす ふたりならびゐ たをりても みせましものを うつせみの かれるみなれば つゆしもの けぬるがごとく あしひきの やまぢをさして いりひなす かくりにしかば そこもふに むねこそいたき いひもえず なづけもしらず あともなき よのなかにあれば せむすべもなし 03 0467 反歌 03 0467 時者霜   何時毛将有乎  情哀    伊去吾妹可   若子乎置而 ときはしも いつもあらむを かなしくも いゆくわぎもか みどりこをおきて 03 0468 出行    道知末世波   豫     妹乎将留    塞毛置末思乎 いでてゆく みちしらませば あらかじめ いもをとどめむ せきもおかましを 03 0469 妹之見師  屋前尓花咲   時者経去  吾泣涙     未干尓 いもがみし やどにはなさき ときはへぬ わがなくなみた いまだひなくに 03 0470 悲緒未息更作歌五首 03 0470 如是耳   有家留物乎   妹毛吾毛   如千歳     憑有来 かくのみに ありけるものを いももあれも ちとせのごとく たのみたりけり 03 0471 離家    伊麻須吾妹乎  停不得   山隠都礼    情神毛奈思 いへざかり いますわぎもを とどめかね やまがくしつれ こころどもなし 03 0472 世間之   常如此耳跡   可都知跡  痛情者     不忍都毛 よのなかは つねかくのみと かつしれど いたきこころは しのびかねつも 03 0473 佐保山尓  多奈引霞    毎見    妹乎思出    不泣日者無 さほやまに たなびくかすみ みるごとに いもをおもひで なかぬひはなし 03 0474 昔許曽   外尓毛見之加  吾妹子之  奥槨常念者     波之吉佐寳山 むかしこそ よそにもみしか わぎもこが おくつきとおもへば はしきさほやま 03 0475 十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首 03 0475 挂巻母   綾尓恐之    言巻毛   齋忌志伎可物 吾王     御子乃命   萬代尓   食賜麻思    大日本   久邇乃京者   打靡    春去奴礼婆   山邊尓波  花咲乎為里   河湍尓波  年魚小狭走   弥日異   榮時尓     逆言之   狂言登加聞   白細尓   舎人装束而   和豆香山  御輿立之而   久堅乃   天所知奴礼   展轉    埿打雖泣    将為須便毛奈思 かけまくも あやにかしこし いはまくも ゆゆしきかも わがおほきみ みこのみこと よろづよに めしたまはまし おほやまと くにのみやこは うちなびく はるさりぬれば やまへには はなさきををり かはせには あゆこさばしり いやひけに さかゆるときに およづれの たはこととかも しろたへに とねりよそひて わづかやま みこしたたして ひさかたの あめしらしぬれ こいまろび ひづちなけども せむすべもなし 03 0476 反歌 03 0476 吾王     天所知牟登   不思者   於保尓曽見谿流 和豆香蘇麻山 わがおほきみ あめしらさむと おもはねば おほにぞみける わづかそまやま 03 0477 足桧木乃  山左倍光    咲花乃   散去如寸    吾王香聞 あしひきの やまさへひかり さくはなの ちりゆくごとき わがおほきみかも 03 0477 右三首二月三日作歌 03 0478 挂巻毛   文尓恐之    吾王     皇子之命   物乃負能  八十伴男乎   召集聚   率比賜比    朝獵尓   鹿猪踐起    暮獵尓   鶉鴙履立   大御馬之  口抑駐     御心乎   見為明米之   活道山   木立之繁尓   咲花毛   移尓家里    世間者   如此耳奈良之  大夫之   心振起      劔刀    腰尓取佩    梓弓    靭取負而    天地与   弥遠長尓    萬代尓   如此毛欲得跡  憑有之   皇子乃御門乃  五月蝿成  驟驂舎人者   白栲尓   服取著而    常有之    咲比振麻比   弥日異   更経見者    悲呂可聞 かけまくも あやにかしこし わがおほきみ みこのみこと もののふの やそとものをを めしつどへ あどもひたまひ あさがりに ししふみおこし ゆふがりに とりふみたて おほみまの くちおさへとめ みこころを めしあきらめし いくぢやま こだちのしげに さくはなも うつろひにけり よのなかは かくのみならし ますらをの こころふりおこし つるぎたち こしにとりはき あづさゆみ ゆきとりおひて あめつちと いやとほながに よろづよに かくしもがもと たのめりし みこのみかどの さばへなす さわくとねりは しろたへに ころもとりきて つねにありし ゑまひふるまひ いやひけに かはらふみれば かなしきろかも 03 0479 反歌 03 0479 波之吉可聞 皇子之命乃   安里我欲比 見之活道乃   路波荒尓鷄里 はしきかも みこのみことの ありがよひ めししいくぢの みちはあれにけり 03 0480 大伴之   名負靭帶而     萬代尓   憑之心     何所可将寄 おほともの なにおふゆきおびて よろづよに たのみしこころ いづくかよせむ 03 0480 右三首三月廿四日作歌 03 0481 悲傷死妻高橋朝臣作歌一首 并短歌 03 0481 白細之   袖指可倍弖   靡寐    吾黒髪乃    真白髪尓  成極      新世尓   共将有跡    玉緒乃   不絶射妹跡   結而石   事者不果    思有之   心者不遂    白妙之   手本矣別    丹杵火尓之 家従裳出而   緑兒乃   哭乎毛置而   朝霧    髣髴為乍    山代乃   相樂山乃    山際    徃過奴礼婆   将云為便  将為便不知   吾妹子跡  左宿之妻屋尓  朝庭    出立偲     夕尓波   入居嘆會    腋挾    兒乃泣毎    雄自毛能   負見抱見    朝鳥之   啼耳哭管    雖戀    効矣無跡    辞不問   物尓波在跡   吾妹子之  入尓之山乎   因鹿跡叙念 しろたへの そでさしかへて なびきねし あがくろかみの ましらがに なりなむきはみ あらたよに ともにあらむと たまのをの たえじいいもと むすびてし ことははたさず おもへりし こころはとげず しろたへの たもとをわかれ にきびにし いへゆもいでて みどりこの なくをもおきて あさぎりの おほになりつつ やましろの さがらかやまの やまのまに ゆきすぎぬれば いはむすべ せむすべしらに わぎもこと さねしつまやに あしたには いでたちしのひ ゆふべには いりゐなげかひ わきばさむ このなくごとに をとこじもの おひみうだきみ あさとりの ねのみなきつつ こふれども しるしをなみと こととはぬ ものにはあれど わぎもこが いりにしやまを よすかとぞおもふ 03 0482 反歌 03 0482 打背見乃  世之事尓在者   外尓見之  山矣耶今者   因香跡思波牟 うつせみの よのことにあれば よそにみし やまをやいまは よすかとおもはむ 03 0483 朝鳥之   啼耳鳴六    吾妹子尓  今亦更     逢因矣無 あさとりの ねのみしなかむ わぎもこに いままたさらに あふよしをなみ 03 0483 右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉 04 0484 相聞 04 0484 難波天皇妹奉上在山跡皇兄御歌一首 04 0484 一日社   人母待吉    長氣乎   如此耳待者   有不得勝 ひとひこそ ひともまちよき ながきけを かくのみまたば ありかつましじ 04 0485 崗本天皇御製一首 并短歌 04 0485 神代従   生継来者    人多    國尓波満而   味村乃   去来者行跡   吾戀流   君尓之不有者   晝波  日乃久流留麻弖 夜者  夜之明流寸食   念乍    寐宿難尓登   阿可思通良久茂 長此夜乎 かむよより あれつぎくれば ひとさはに くににはみちて あぢむらの かよひはゆけど あがこふる きみにしあらねば ひるは ひのくるるまで よるは よのあくるきはみ おもひつつ いもねかてにと あかしつらくも ながきこのよを 04 0486 反歌 04 0486 山羽尓   味村驂     去奈礼騰  吾者左夫思恵  君二四不在者 やまのはに あぢむらさわき ゆくなれど われはさぶしゑ きみにしあらねば 04 0487 淡海路乃  鳥篭之山有   不知哉川  氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有 あふみぢの とこのやまなる いさやがは けのころごろは こひつつもあらむ 04 0487 右今案 高市崗本宮後崗本宮二代二帝各有異焉 但偁崗本天皇未審其指 04 0488 額田王思近江天皇作歌一首 04 0488 君待登   吾戀居者    我屋戸之  簾動之     秋風吹 きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく 04 0489 鏡王女作歌一首 04 0489 風乎太尓  戀流波乏之   風小谷   将来登時待者  何香将嘆 かぜをだに こふるはともし かぜをだに こむとしまたば なにかなげかむ 04 0490 吹芡刀自歌二首 04 0490 真野之浦乃  与騰乃継橋   情由毛   思哉妹之    伊目尓之所見 まののうらの よどのつぎはし こころゆも おもへかいもが いめにしみゆる 04 0491 河上乃   伊都藻之花乃  何時〃〃   来益我背子   時自異目八方 かはのべの いつものはなの いつもいつも きませわがせこ ときじけめやも 04 0492 田部忌寸櫟子任大宰時歌四首 04 0492 衣手尓   取等騰己保里  哭兒尓毛  益有吾乎    置而如何将為 舎人吉年 ころもでに とりとどこほり なくこにも まされるわれを おきていかにせむ 04 0493 置而行者   妹将戀可聞   敷細乃   黒髪布而    長此夜乎 田部忌寸櫟子 おきていなば いもこひむかも しきたへの くろかみしきて ながきこのよを 04 0494 吾妹兒矣  相令知     人乎許曽  戀之益者    恨三念 わぎもこを あひしらしめし ひとをこそ こひのまされば うらめしみおもへ 04 0495 朝日影   尓保敝流山尓  照月乃   不猒君乎    山越尓置手 あさひかげ にほへるやまに てるつきの あかざるきみを やまごしにおきて 04 0496 柿本朝臣人麻呂歌四首 04 0496 三熊野之  浦乃濱木綿   百重成   心者雖念    直不相鴨 みくまのの うらのはまゆふ ももへなす こころはもへど ただにあはぬかも 04 0497 古尓    有兼人毛    如吾歟   妹尓戀乍    宿不勝家牟 いにしへに ありけむひとも あがごとか いもにこひつつ いねかてずけむ 04 0498 今耳之   行事庭不有   古     人曽益而    哭左倍鳴四 いまのみの わざにはあらず いにしへの ひとぞまさりて ねにさへなきし 04 0499 百重二物  来及毳常    念鴨    公之使乃    雖見不飽有武 ももへにも きしかぬかもと おもへかも きみがつかひの みれどあかずあらむ 04 0500 碁檀越徃伊勢國時留妻作歌一首 04 0500 神風之   伊勢乃濱荻   折伏    客宿也将為   荒濱邊尓 かむかぜの いせのはまをぎ をりふせて たびねやすらむ あらきはまへに 04 0501 柿本朝臣人麻呂歌三首 04 0501 未通女等之 袖振山乃    水垣之   久時従     憶寸吾者 をとめらが そでふるやまの みづかきの ひさしきときゆ おもひきわれは 04 0502 夏野去   小壮鹿之角乃  束間毛   妹之心乎    忘而念哉 なつのゆく をしかのつのの つかのまも いもがこころを わすれておもへや 04 0503 珠衣乃   狭藍左謂沈   家妹尓    物不語来而    思金津裳 たまきぬの さゐさゐしづみ いへのいもに ものいはずきにて おもひかねつも 04 0504 柿本朝臣人麻呂妻歌一首 04 0504 君家尓   吾住坂乃     家道乎毛  吾者不忘    命不死者 きみがいへに わがすみさかの いへぢをも あれはわすれじ いのちしなずは 04 0505 安倍女郎歌二首 04 0505 今更    何乎可将念    打靡    情者君尓    縁尓之物乎 いまさらに なにをかおもはむ うちなびき こころはきみに よりにしものを 04 0506 吾背子波  物莫念     事之有者   火尓毛水尓母  吾莫七國 わがせこは ものなおもひそ ことしあらば ひにもみづにも われなけなくに 04 0507 駿河婇女歌一首 04 0507 敷細乃   枕従久〃流   涙二曽   浮宿乎思家類  戀乃繁尓 しきたへの まくらゆくくる なみたにぞ うきねをしける こひのしげきに 04 0508 三方沙弥歌一首 04 0508 衣手乃   別今夜従    妹毛吾母   甚戀名     相因乎奈美 ころもでの わかるこよひゆ いももあれも いたくこひむな あふよしをなみ 04 0509 丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首 并短歌 04 0509 臣女乃   匣尓乗有    鏡成    見津乃濱邊尓  狭丹頬相  紐解不離    吾妹兒尓  戀乍居者    明晩乃   旦霧隠    鳴多頭乃   哭耳之所哭   吾戀流   千重乃一隔母  名草漏   情毛有哉跡    家當     吾立見者    青旗乃   葛木山尓    多奈引流  白雲隠     天佐我留  夷乃國邊尓   直向    淡路乎過   粟嶋乎   背尓見管    朝名寸二  水手之音喚   暮名寸二  梶之聲為乍    浪上乎    五十行左具久美 磐間乎   射徃廻     稲日都麻  浦箕乎過而   鳥自物   魚津左比去者  家乃嶋   荒礒之宇倍尓  打靡    四時二生有   莫告我   奈騰可聞妹尓  不告来二計謀 おみのめの くしげにのれる かがみなす みつのはまへに さにつらふ ひもときさけず わぎもこに こひつつをれば あけぐれの あさぎりごもり なくたづの ねのみしなかゆ あがこふる ちへのひとへも なぐさもる こころもありやと いへのあたり わがたちみれば あをはたの かづらきやまに たなびける しらくもがくる あまさがる ひなのくにへに ただむかふ あはぢをすぎ あはしまを そがひにみつつ あさなぎに かこのこゑよび ゆふなぎに かぢのおとしつつ なみのうへを いゆきさぐくみ いはのまを いゆきもとほり いなびつま うらみをすぎて とりじもの なづさひゆけば いへのしま ありそのうへに うちなびき しじにおひたる なのりそが などかもいもに いはずきにけむ 04 0510 反歌 04 0510 白細乃   袖解更而    還来武   月日乎數而   徃而来猿尾 しろたへの そでときかへて かへりこむ つきひをよみて ゆきてこましを 04 0511 幸伊勢國時當麻麻呂大夫妻作歌一首 04 0511 吾背子者  何處将行    己津物   隠之山乎    今日歟超良武 わがせこは いづくゆくらむ おきつもの なばりのやまを けふかこゆらむ 04 0512 草嬢歌一首 04 0512 秋田之   穂田乃苅婆加  香縁相者   彼所毛加人之  吾乎事将成 あきのたの ほだのかりばか かよりあはば そこもかひとの あをことなさむ 04 0513 志貴皇子御歌一首 04 0513 大原之   此市柴乃    何時鹿跡  吾念妹尓    今夜相有香裳 おほはらの このいちしばの いつしかと あがもふいもに こよひあへるかも 04 0514 阿倍女郎歌一首 04 0514 吾背子之  盖世流衣之   針目不落   入尓家良之   我情副 わがせこが けせるころもの はりめおちず こもりにけらし あがこころさへ ○ 04 0515 中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首 04 0515 獨宿而   絶西紐緒    忌見跡   世武為便不知  哭耳之曽泣 ひとりねて たえにしひもを ゆゆしみと せむすべしらず ねのみしぞなく 04 0516 阿倍女郎答歌一首 04 0516 吾以在   三相二搓流    絲用而   附手益物    今曽悔寸 わがもてる みつあひによれる いともちて つけてましもの いまぞくやしき 04 0517 大納言兼大将軍大伴卿歌一首 04 0517 神樹尓毛  手者觸云乎    打細丹   人妻跡云者    不觸物可聞 かむきにも てはふるといふを うつたへに ひとづまといへば ふれぬものかも 04 0518 石川郎女歌一首 即佐保大伴大家也 04 0518 春日野之  山邊道乎    与曽理無  通之君我    不所見許呂香裳 かすがのの やまへのみちを よそりなく かよひしきみが みえぬころかも 04 0519 大伴女郎歌一首 今城王之母也今城王後賜大原真人氏也 04 0519 雨障    常為公者    久堅乃   昨夜雨尓     将懲鴨 あまつつみ つねするきみは ひさかたの きぞのよのあめに こりにけむかも 04 0520 後人追同歌一首 04 0520 久堅乃   雨毛落粳    雨乍見  於君副而     此日令晩 ひさかたの あめもふらぬか あまつつみ きみにたぐひて このひくらさむ 04 0521 藤原宇合大夫遷任上京時常陸娘子贈歌一首 04 0521 庭立    麻手苅干    布暴    東女乎     忘賜名 にはにたつ あさでかりほし ぬのさらす あづまをみなを わすれたまふな 04 0522 京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 卿諱曰麻呂也 04 0522 嫺嬬等之  珠篋有     玉櫛乃   神家武毛    妹尓阿波受有者 をとめらが たまくしげなる たまくしの かむさびけむも いもにあはずあれば 04 0523 好渡    人者年母    有云乎    何時間曽毛   吾戀尓来 よくわたる ひとはとしにも ありといふを いつのまにぞも あれこひにける 04 0524 蒸被    奈胡也我下丹  雖臥    与妹不宿者   肌之寒霜 むしぶすま なごやがしたに ふせれども いもとしねねば はだしさむしも 04 0525 大伴郎女和歌四首 04 0525 狭穂河乃  小石踐渡    夜干玉之  黒馬之来夜者  年尓母有粳 さほがはの いしふみわたり ぬばたまの くろまくるよは としにもあらぬか 04 0526 千鳥鳴   佐保乃河瀬之  小浪    止時毛無    吾戀者 ちどりなく さほのかはせの さざれなみ やむときもなし あがこふらくは 04 0527 将来云毛   不来時有乎   不来云乎   将来常者不待  不来云物乎 こむといふも こぬときあるを こじといふを こむとはまたじ こじといふものを 04 0528 千鳥鳴   佐保乃河門乃  瀬乎廣弥  打橋渡須    奈我来跡念者 ちどりなく さほのかはとの せをひろみ うちはしわたす ながくとおもへば 04 0528 右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也 04 0529 又大伴坂上郎女歌一首 04 0529 佐保河乃  涯之官能    少歴木莫苅焉  在乍毛   張之来者    立隠金 さほがはの きしのつかさの しばなかりそね ありつつも はるしきたらば たちかくるがね 04 0530 天皇賜海上女王御歌一首 寧樂宮即位天皇也 04 0530 赤駒之   越馬柵乃    緘結師   妹情者     疑毛奈思 あかごまの こゆるうませの しめゆひし いもがこころは うたがひもなし 04 0530 右今案 此歌擬古之作也 但以時當便賜斯歌歟 04 0531 海上王奉和歌一首 志貴皇子之女也 04 0531 梓弓    爪引夜音之    遠音尓毛   君之御幸乎   聞之好毛 あづさゆみ つまびくよおとの とほおとにも きみがみゆきを きかくしよしも 04 0532 大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 佐保大納言卿之第三子也 04 0532 打日指   宮尓行兒乎   真悲見   留者苦     聴去者為便無 うちひさす みやにゆくこを まかなしみ とむればくるし やればすべなし 04 0533 難波方   塩干之名凝   飽左右二  人之見兒乎   吾四乏毛 なにはがた しほひのなごり あくまでに ひとのみるこを われしともしも 04 0534 安貴王歌一首 并短歌 04 0534 遠嬬    此間不在者    玉桙之   道乎多遠見   思空    安莫國    嘆虚    不安物乎    水空徃   雲尓毛欲成  高飛   鳥尓毛欲成  明日去而  於妹言問    為吾    妹毛事無    為妹    吾毛事無久   今裳見如    副而毛欲得 とほづまの ここにしあらねば たまほこの みちをたどほみ おもふそら やすけなくに なげくそら くるしきものを みそらゆく くもにもがも たかとぶ とりにもがも あすゆきて いもにことどひ あがために いももことなく いもがため われもことなく いまもみるごと たぐひてもがも 04 0535 反歌 04 0535 敷細乃   手枕不纒    間置而    年曽経来    不相念者 しきたへの たまくらまかず あひだおきて としぞへにける あはなくもへば 04 0535 右安貴王娶因幡八上采女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也 04 0536 門部王戀歌一首 04 0536 飫宇能海之  塩干乃鹵之   片念尓   思哉将去    道之永手呼 おうのうみの しほひのかたの かたもひに おもひやゆかむ みちのながてを 04 0536 右門部王任出雲守時娶部内娘子也 未有幾時 既絶徃来 累月之後更起愛心 仍作此歌贈致娘子 04 0537 高田女王贈今城王歌六首 04 0537 事清    甚毛莫言    一日太尓  君伊之哭者   痛寸敢物 こときよく いたもないひそ ひとひだに きみいしなくは あへかたきかも 04 0538 他辞乎   繁言痛     不相有寸  心在如     莫思吾背子 ひとごとを しげみこちたみ あはざりき こころあるごと なおもひわがせこ 04 0539 吾背子師  遂常云者    人事者   繁有登毛     出而相麻志乎 わがせこし とげむといはば ひとごとは しげくはありとも いでてあはましを 04 0540 吾背子尓  復者不相香常   思墓    今朝別之    為便無有都流 わがせこに またはあはじかと おもへばか けさのわかれの すべなかりつる 04 0541 現世尓波  人事繁     来生尓毛  将相吾背子   今不有十方 このよには ひとごとしげし こむよにも あはむわがせこ いまにあらずとも 04 0542 常不止   通之君我    使不来   今者不相跡   絶多比奴良思 つねやまず かよひしきみが つかひこず いまはあはじと たゆたひぬらし 04 0543 神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子作歌一首 并短歌 笠朝臣金村 04 0543 天皇之   行幸乃随意   物部乃   八十伴雄与   出去之    愛夫者     天翔哉   軽路従     玉田次   畝火乎見管   麻裳吉   木道尓入立   真土山   越良武公者   黄葉乃   散飛見乍    親     吾者不念    草枕    客乎便宜常   思乍    公将有跡    安蘇〃二破 且者雖知    之加須我仁 黙然得不在者   吾背子之  徃乃萬〃    将追跡者  千遍雖念    手弱女   吾身之有者    道守之   将問答乎    言将遣   為便乎不知跡  立而爪衝 おほきみの みゆきのまにま もののふの やそとものをと いでてゆきし うるはしづまは あまとぶや かるのみちより たまだすき うねびをみつつ あさもよし きぢにいりたち まつちやま こゆらむきみは もみちばの ちりとぶみつつ にきびにし われはおもはず くさまくら たびをよろしと おもひつつ きみはあらむと あそそには かつはしれども しかすがに もだもえあらねば わがせこが ゆきのまにまに おはむとは ちたびおもへど たわやめの あがみにしあれば みちもりの とはむこたへを いひやらむ すべをしらにと たちてつまづく 04 0544 反歌 04 0544 後居而   戀乍不有者    木國乃   妹背乃山尓   有益物乎 おくれゐて こひつつあらずは きのくにの いもせのやまに あらましものを 04 0545 吾背子之  跡履求     追去者   木乃關守伊   将留鴨 わがせこが あとふみもとめ おひゆかば きのせきもりい とどめてむかも 04 0546 二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子作歌一首 并短歌 笠朝臣金村 04 0546 三香乃原  客之屋取尓   珠桙乃   道能去相尓    天雲之   外耳見管    言将問   縁乃無者    情耳    咽乍有尓    天地    神祇辞因而   敷細乃   衣手易而    自妻跡   憑有今夜    秋夜之   百夜乃長    有与宿鴨 みかのはら たびのやどりに たまほこの みちのゆきあひに あまくもの よそのみみつつ こととはむ よしのなければ こころのみ むせつつあるに あめつちの かみことよせて しきたへの ころもでかへて おのづまと たのめるこよひ あきのよの ももよのながさ ありこせぬかも 04 0547 反歌 04 0547 天雲之   外従見     吾妹兒尓  心毛身副    縁西鬼尾 あまくもの よそにみしより わぎもこに こころもみさへ よりにしものを 04 0548 今夜之  早開者     為便乎無三 秋百夜乎    願鶴鴨 こよひの はやくあくれば すべをなみ あきのももよを ねがひつるかも 04 0549 五年戊辰大宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首 04 0549 天地之   神毛助与    草枕    羈行君之    至家左右 あめつちの かみもたすけよ くさまくら たびゆくきみが いへにいたるまで 04 0550 大船之   念憑師     君之去者   吾者将戀名   直相左右二 おほぶねの おもひたのみし きみがいなば あれはこひむな ただにあふまでに 04 0551 山跡道之  嶋乃浦廻尓   縁浪    間無牟     吾戀巻者 やまとぢの しまのうらみに よするなみ あひだもなけむ あがこひまくは 04 0551 右三首作者未詳 04 0552 大伴宿祢三依歌一首 04 0552 吾君者   和氣乎波死常  念可毛   相夜不相夜   二走良武 あがきみは わけをばしねと おもへかも あふよあはぬよ ふたはしるらむ 04 0553 丹生女王贈大宰帥大伴卿歌二首 04 0553 天雲乃   遠隔乃極    遠鷄跡裳  情志行者    戀流物可聞 あまくもの そきへのきはみ とほけども こころしゆけば こふるものかも 04 0554 古人乃   令食有     吉備能酒  病者為便無   貫簀賜牟 ふるひとの たまへしめたる きびのさけ やめばすべなし ぬきすたばらむ 04 0555 大宰帥大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首 04 0555 為君    醸之待酒    安野尓   獨哉将飲    友無二思手 きみがため かみしまちさけ やすののに ひとりやのまむ ともなしにして 04 0556 賀茂女王贈大伴宿祢三依歌一首 故左大臣長屋王之女也 04 0556 筑紫船   未毛不来者   豫     荒振公乎    見之悲左 つくしぶね いまだもこねば あらかじめ あらぶるきみを みるがかなしさ 04 0557 土師宿祢水道従筑紫上京海路作歌二首 04 0557 大船乎   榜乃進尓    磐尓觸   覆者覆     妹尓因而者 おほぶねを こぎのすすみに いはにふり かへらばかへれ いもによりては ○ 04 0558 千磐破   神之社尓    我挂師   幣者将賜    妹尓不相國 ちはやぶる かみのやしろに わがかけし ぬさはたばらむ いもにあはなくに 04 0559 大宰大監大伴宿祢百代戀歌四首 04 0559 事毛無   生来之物乎   老奈美尓  如是戀乎毛   吾者遇流香聞 こともなく いきこしものを おいなみに かかるこひをも あれはあへるかも 04 0560 孤悲死牟  後者何為牟   生日之   為社妹乎    欲見為礼 こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそいもを みまくほりすれ 04 0561 不念乎   思常云者    大野有   三笠社之    神思知三 おもはぬを おもふといはば おほのなる みかさのもりの かみししらさむ 04 0562 無暇    人之眉根乎   徒     令掻乍     不相妹可聞 いとまなく ひとのまよねを いたづらに かかしめつつも あはぬいもかも 04 0563 大伴坂上郎女歌二首 04 0563 黒髪二   白髪交     至耆    如是有戀庭   未相尓 くろかみに しろかみまじり おゆるまで かかるこひには いまだあはなくに 04 0564 山菅之   實不成事乎   吾尓所依  言礼師君者   与孰可宿良牟 やますげの みならぬことを われによせ いはれしきみは たれとかぬらむ 04 0565 賀茂女王歌一首 04 0565 大伴乃   見津跡者不云  赤根指   照有月夜尓   直相在登聞 おほともの みつとはいはじ あかねさす てれるつくよに ただにあへりとも 04 0566 大宰大監大伴宿祢百代等贈驛使歌二首 04 0566 草枕    羈行君乎    愛見    副而曽来四   鹿乃濱邊乎 くさまくら たびゆくきみを うるはしみ たぐひてぞこし しかのはまへを 04 0566 右一首大監大伴宿祢百代 04 0567 周防在  磐國山乎    将超日者  手向好為与   荒其道 すはなる いはくにやまを こえむひは たむけよくせよ あらしそのみち 04 0567 右一首少典山口忌寸若麻呂 以前天平二年庚午夏六月 帥大伴卿忽生瘡脚疾苦枕席 因此馳驛上奏 望請庶弟稲公姪胡麻呂欲語遺言者 勅右兵庫助大伴宿祢稲公治部少丞大伴宿祢胡麻呂兩人 給驛發遣令省卿病 而逕數旬幸得平復于時稲公等以病既療發府上京於是大監大伴宿祢百代少典山口忌寸若麻呂及卿男家持等相送驛使共到夷守驛家 聊飲悲別乃作此歌 04 0568 大宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首 04 0568 三埼廻之  荒礒尓縁    五百重浪  立毛居毛    我念流吉美 みさきみの ありそによする いほへなみ たちてもゐても あがもへるきみ 04 0568 右一首筑前掾門部連石足 04 0569 辛人之   衣染云      紫之    情尓染而    所念鴨 からひとの ころもそむといふ むらさきの こころのしみて おもほゆるかも 04 0570 山跡邊   君之立日乃   近付者   野立鹿毛    動而曽鳴 やまとへに きみがたつひの ちかづけば のにたつしかも とよめてぞなく 04 0570 右二首大典麻田連陽春 04 0571 月夜吉   河音清之     率此間   行毛不去毛   遊而将歸 つくよよし かはのおときよし いざここに ゆくもゆかぬも あそびてゆかむ 04 0571 右一首防人佑大伴四綱 04 0572 大宰帥大伴卿上京之後沙弥満誓贈卿歌二首 04 0572 真十鏡   見不飽君尓   所贈哉   旦夕尓     左備乍将居 まそかがみ みあかぬきみに おくれてや あしたゆふべに さびつつをらむ 04 0573 野干玉之  黒髪變     白髪手裳  痛戀庭     相時有来 ぬばたまの くろかみかはり しらけても いたきこひには あふときありけり 04 0574 大納言大伴卿和歌二首 04 0574 此間在而  筑紫也何處   白雲乃   棚引山之    方西有良思 ここにして つくしやいづち しらくもの たなびくやまの かたにしあるらし 04 0575 草香江之  入江二求食   蘆鶴乃   痛多豆多頭思  友無二指天 くさかえの いりえにあさる あしたづの あなたづたづし ともなしにして 04 0576 大宰帥大伴卿上京之後筑後守葛井連大成悲嘆作歌一首 04 0576 従今者   城山道者    不樂牟   吾将通常    念之物乎 いまよりは きのやまみちは さぶしけむ わがかよはむと おもひしものを 04 0577 大納言大伴卿新袍贈攝津大夫高安王歌一首 04 0577 吾衣    人莫著曽    網引為   難波壮士乃   手尓者雖觸 あがころも ひとになきせそ あびきする なにはをとこの てにはふるとも 04 0578 大伴宿祢三依悲別歌一首 04 0578 天地与   共久      住波牟等  念而有師    家之庭羽裳 あめつちと ともにひさしく すまはむと おもひてありし いへのにははも 04 0579 余明軍與大伴宿祢家持歌二首 明軍者大納言卿之資人也 04 0579 奉見而   未時太尓    不更者   如年月     所念君 みまつりて いまだときだに かはらねば としつきのごと おもほゆるきみ 04 0580 足引乃   山尓生有    菅根乃   懃見巻     欲君可聞 あしひきの やまにおひたる すがのねの ねもころみまく ほしききみかも 04 0581 大伴坂上家之大娘報贈大伴宿祢家持歌四首 04 0581 生而有者   見巻毛不知   何如毛   将死与妹常   夢所見鶴 いきてあれば みまくもしらず なにしかも しなむよいもと いめにみえつる 04 0582 大夫毛   如此戀家流乎  幼婦之   戀情尓     比有目八方 ますらをも かくこひけるを たわやめの こふるこころに たぐひあらめやも 04 0583 月草之   徙安久     念可母   我念人之    事毛告不来 つきくさの うつろひやすく おもへかも あがもふひとの こともつげこぬ 04 0584 春日山   朝立雲之    不居日無  見巻之欲寸   君毛有鴨 かすがやま あさたつくもの ゐぬひなく みまくのほしき きみにもあるかも 04 0585 大伴坂上郎女歌一首 04 0585 出而将去   時之波将有乎   故     妻戀為乍    立而可去哉 いでていなむ ときしはあらむを ことさらに つまごひしつつ たちていぬべしや 04 0586 大伴宿祢稲公贈田村大嬢歌一首 大伴宿奈麻呂卿之女也 04 0586 不相見者  不戀有益乎   妹乎見而  本名如此耳   戀者奈何将為 あひみずは こひざらましを いもをみて もとなかくのみ こひばいかにせむ 04 0586 右一首姉坂上郎女作 04 0587 笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首 04 0587 吾形見   〃管之努波世  荒珠    年之緒長    吾毛将思 わがかたみ みつつしのはせ あらたまの としのをながく われもしのはむ 04 0588 白鳥能   飛羽山松之   待乍曽   吾戀度     此月比乎 しらとりの とばやままつの まちつつぞ あがこひわたる このつきごろを 04 0589 衣手乎   打廻乃里尓   有吾乎   不知曽人者   待跡不来家留 ころもでを うちみのさとに あるわれを しらにぞひとは まてどこずける 04 0590 荒玉    年之経去者   今師波登  勤与吾背子   吾名告為莫 あらたまの としのへぬれば いましはと ゆめよわがせこ わがなのらすな 04 0591 吾念乎   人尓令知哉   玉匣    開阿氣津跡   夢西所見 あがもひを ひとにしるれか たまくしげ ひらきあけつと いめにしみゆる 04 0592 闇夜尓   鳴奈流鶴之   外耳    聞乍可将有    相跡羽奈之尓 やみのよに なくなるたづの よそのみに ききつつかあらむ あふとはなしに 04 0593 君尓戀   痛毛為便無見  楢山之   小松下尓    立嘆鴨 きみにこひ いたもすべなみ ならやまの こまつがもとに たちなげくかも 04 0594 吾屋戸之  暮陰草乃    白露之   消蟹本名    所念鴨 わがやどの ゆふかげくさの しらつゆの けぬがにもとな おもほゆるかも 04 0595 吾命之    将全牟限    忘目八   弥日異者    念益十方 わがいのちの またけむかぎり わすれめや いやひにけには おもひますとも 04 0596 八百日徃  濱之沙毛    吾戀二   豈不益歟    奥嶋守 やほかゆく はまのまなごも あがこひに あにまさらじか おきつしまもり 04 0597 宇都蝉之  人目乎繁見   石走    間近君尓    戀度可聞 うつせみの ひとめをおほみ いはばしの まちかききみに こひわたるかも 04 0598 戀尓毛曽  人者死為    水無瀬河  下従吾痩    月日異 こひにもぞ ひとはしにする みなせがは したゆあれやす つきにひにけに 04 0599 朝霧之   欝相見之    人故尓   命可死     戀渡鴨 あさぎりの おほにあひみし ひとゆゑに いのちしぬべく こひわたるかも 04 0600 伊勢海之   礒毛動尓    因流浪   恐人尓     戀渡鴨 いせのうみの いそもとどろに よするなみ かしこきひとに こひわたるかも 04 0601 従情毛   吾者不念寸    山河毛   隔莫國     如是戀常羽 こころゆも われはおもはずき やまかはも へだたらなくに かくこひむとは 04 0602 暮去者   物念益     見之人乃  言問為形    面景為而 ゆふされば ものもひまさる みしひとの こととふすがた おもかげにして 04 0603 念西    死為物尓    有麻世波  千遍曽吾者   死變益 おもふにし しにするものに あらませば ちたびぞわれは しにかへらまし 04 0604 劔大刀   身尓取副常   夢見津   何如之恠曽毛  君尓相為 つるぎたち みにとりそふと いめにみつ なにのさがぞも きみにあはむため 04 0605 天地之   神理      無者社   吾念君尓    不相死為目 あめつちの かみのことわり なくはこそ あがもふきみに あはずしにせめ 04 0606 吾毛念    人毛莫忘    多奈和丹  浦吹風之    止時無有 われもおもふ ひともなわすれ おほなわに うらふくかぜの やむときもなし 04 0607 皆人乎   宿与殿金者   打礼杼   君乎之念者    寐不勝鴨 みなひとを ねよとのかねは うつなれど きみをしおもへば いねかてぬかも 04 0608 不相念    人乎思者    大寺之   餓鬼之後尓   額衝如 あひおもはぬ ひとをおもふは おほてらの がきのしりへに ぬかつくごとし 04 0609 従情毛   我者不念寸    又更    吾故郷尓    将還来者 こころゆも われはおもはずき またさらに わがふるさとに かへりこむとは 04 0610 近有者    雖不見在乎   弥遠    君之伊座者   有不勝自 ちかくあれば みねどありしを いやとほく きみがいまさば ありかつましじ 04 0610 右二首相別後更来贈 04 0611 大伴宿祢家持和歌二首 04 0611 今更    妹尓将相八跡   念可聞   幾許吾胸    欝悒将有 いまさらに いもにあはめやと おもへかも ここだあがむね いぶせくあるらむ 04 0612 中〃者   黙毛有益乎    何為跡香  相見始兼    不遂尓 なかなかに もだもあらましを なにすとか あひみそめけむ とげざらまくに 04 0613 山口女王贈大伴宿祢家持歌五首 04 0613 物念跡   人尓不所見常  奈麻強尓  常念弊利    在曽金津流 ものもふと ひとにみえじと なましひに つねにおもへり ありぞかねつる 04 0614 不相念    人乎也本名   白細之   袖漬左右二   哭耳四泣裳 あひおもはぬ ひとをやもとな しろたへの そでひつまでに ねのみしなくも 04 0615 吾背子者  不相念跡裳    敷細乃   君之枕者    夢所見乞 わがせこは あひおもはずとも しきたへの きみがまくらは いめにみえこそ 04 0616 劔大刀   名惜雲     吾者無   君尓不相而   年之経去礼者 つるぎたち なのをしけくも われはなし きみにあはずて としのへぬれば 04 0617 従蘆邊   満来塩乃    弥益荷   念歟君之    忘金鶴 あしべより みちくるしほの いやましに おもへかきみが わすれかねつる 04 0618 大神女郎贈大伴宿祢家持歌一首 04 0618 狭夜中尓  友喚千鳥    物念跡   和備居時二   鳴乍本名 さよなかに ともよぶちどり ものもふと わびをるときに なきつつもとな 04 0619 大伴坂上郎女怨恨歌一首 并短歌 04 0619 押照   難波乃菅之   根毛許呂尓 君之聞四手   年深    長四云者    真十鏡   磨師情乎    縦手師   其日之極    浪之共   靡珠藻乃    云々    意者不持    大船乃   憑有時丹    千磐破   神哉将離    空蝉乃   人歟禁良武   通為    君毛不来座   玉梓之   使母不所見   成奴礼婆  痛毛為便無三  夜干玉乃  夜者須我良尓  赤羅引   日母至闇    雖嘆    知師乎無三  雖念    田付乎白二   幼婦常   言雲知久    手小童之  哭耳泣管    俳佪    君之使乎    待八兼手六 おしてる なにはのすげの ねもころに きみがきこして としふかく ながくしいへば まそかがみ とぎしこころを ゆるしてし そのひのきはみ なみのむた なびくたまもの かにかくに こころはもたず おほぶねの たのめるときに ちはやぶる かみかさくらむ うつせみの ひとかさふらむ かよはしし きみもきまさず たまづさの つかひもみえず なりぬれば いたもすべなみ ぬばたまの よるはすがらに あからひく ひもくるるまで なげけども しるしをなみ おもへども たづきをしらに たわやめと いはくもしるく たわらはの ねのみなきつつ たもとほり きみがつかひを まちやかねてむ 04 0620 反歌 04 0620 従元    長謂管      不令恃者  如是念二    相益物歟 はじめより ながくといひつつ たのめずは かかるおもひに あはましものか 04 0621 西海道節度使判官佐伯宿祢東人妻贈夫君歌一首 04 0621 無間    戀尓可有牟    草枕    客有公之    夢尓之所見 あひだなく こふれにかあらむ くさまくら たびなるきみが いめにしみゆる 04 0622 佐伯宿祢東人和歌一首 04 0622 草枕    客尓久     成宿者   汝乎社念    莫戀吾妹 くさまくら たびにひさしく なりぬれば なをこそおもへ なこひそわぎも 04 0623 池邊王宴誦歌一首 04 0623 松之葉尓  月者由移去   黄葉乃   過哉君之    不相夜多焉 まつのはに つきはゆつりぬ もみちばの すぐれやきみが あはぬよぞおほき 04 0624 天皇思酒人女王御製歌一首 女王者穂積皇子之孫女也 04 0624 道相而    咲之柄尓    零雪乃   消者消香二   戀云吾妹 みちにあひて ゑまししからに ふるゆきの けなばけぬがに こふといふわぎも 04 0625 高安王褁鮒贈娘子歌一首 高安王者後賜姓大原真人氏 04 0625 奥弊徃   邊去伊麻夜   為妹    吾漁有     藻臥束鮒 おきへゆき へをゆきいまや いもがため わがすなどれる もふしつかふな 04 0626 八代女王獻 天皇歌一首 04 0626 君尓因   言之繁乎    古郷之   明日香乃河尓  潔身為尓去   一尾云 龍田超   三津之濱邊尓  潔身四二由久 きみにより ことのしげきを ふるさとの あすかのかはに みそぎしにゆく     たつたこえ みつのはまへに みそぎしにゆく 04 0627 娘子報贈佐伯宿祢赤麻呂歌一首 04 0627 吾手本   将巻跡念牟    大夫者   變水■[宀求]  白髪生二有 わがたもと まかむとおもはむ ますらをは をちみづもとめ しらがおひにけり 04 0628 佐伯宿祢赤麻呂和歌一首 04 0628 白髪生流   事者不念    變水者   鹿煮藻闕二毛  求而将行 しらがおふる ことはおもはず をちみづは かにもかくにも もとめてゆかむ 04 0629 大伴四綱宴席歌一首 04 0629 奈何鹿   使之来流    君乎社   左右裳     待難為礼 なにすとか つかひのきつる きみをこそ かにもかくにも まちがてにすれ 04 0630 佐伯宿祢赤麻呂歌一首 04 0630 初花之   可散物乎    人事乃   繁尓因而    止息比者鴨 はつはなの ちるべきものを ひとごとの しげきによりて よどむころかも 04 0631 湯原王贈娘子歌二首 志貴皇子之子也 04 0631 宇波弊無  物可聞人者   然許    遠家路乎    令還念者 うはへなき ものかもひとは かくばかり とほきいへぢを かへさくもへば 04 0632 目二破見而 手二破不所取  月内之    楓如      妹乎奈何責 めにはみて てにはとらえぬ つきのうちの かつらのごとき いもをいかにせむ ○ 04 0633 娘子報贈歌二首 04 0633 幾許    思異目鴨    敷細之   枕片去     夢所見来之 ここだくも おもひけめかも しきたへの まくらかたさる いめにみえける 04 0634 家二四手  雖見不飽乎   草枕    客毛妻与    有之乏左 いへにして みれどあかぬを くさまくら たびにもつまと あるがともしさ 04 0635 湯原王亦贈歌二首 04 0635 草枕    客者嬬者    雖率有   匣内之     珠社所念 くさまくら たびにはつまは ゐたれども くしげのうちの たまをこそおもへ 04 0636 余衣    形見尓奉    布細之   枕不離     巻而左宿座 あがころも かたみにまつる しきたへの まくらをさけず まきてさねませ 04 0637 娘子復報贈歌一首 04 0637 吾背子之  形見之衣    嬬問尓   余身者不離   事不問友 わがせこが かたみのころも つまどひに あがみはさけじ こととはずとも 04 0638 湯原王亦贈歌一首 04 0638 直一夜   隔之可良尓   荒玉乃   月歟経去跡   心遮 ただひとよ へだてしからに あらたまの つきかへぬると こころはまとふ 04 0639 娘子復報贈歌一首 04 0639 吾背子我  如是戀礼許曽  夜干玉能  夢所見管   寐不所宿家礼 わがせこが かくこふれこそ ぬばたまの いめにみえつつ いねらえずけれ 04 0640 湯原王亦贈歌一首 04 0640 波之家也思 不遠里乎    雲居尓也  戀管将居    月毛不経國 はしけやし まちかきさとを くもゐにや こひつつをらむ つきもへなくに 04 0641 娘子復報贈歌一首 04 0641 絶常云者   和備染責跡   焼大刀乃  隔付経事者   幸也吾君 たゆといはば わびしみせむと やきたちの へつかふことは さきくやあがきみ 04 0642 湯原王歌一首 04 0642 吾妹兒尓  戀而乱者    久流部寸二 懸而縁与    余戀始 わぎもこに こひてみだれば くるへきに かけてよせむと あがこひそめし 04 0643 紀女郎怨恨歌三首 鹿人大夫之女名曰小鹿也 安貴王之妻也 04 0643 世間之   女尓思有者    吾渡    痛背乃河乎   渡金目八 よのなかの をみなにしあらば わがわたる あなせのかはを わたりかねめや 04 0644 今者吾羽   和備曽四二結類 氣乃緒尓  念師君乎    縦左久思者 いまはあれは わびぞしにける いきのをに おもひしきみを ゆるさくもへば 04 0645 白細乃   袖可別     日乎近見  心尓咽飯    哭耳四所泣 しろたへの そでわかるべき ひをちかみ こころにむせひ ねのみしなかゆ 04 0646 大伴宿祢駿河麻呂歌一首 04 0646 大夫之   思和備乍    遍多    嘆久嘆乎    不負物可聞 ますらをの おもひわびつつ たびまねく なげくなげきを おはぬものかも 04 0647 大伴坂上郎女歌一首 04 0647 心者    忘日無久    雖念    人之事社    繁君尓阿礼 こころには わするるひなく おもへども ひとのことこそ しげききみにあれ 04 0648 大伴宿祢駿河麻呂歌一首 04 0648 不相見而  氣長久成奴   比日者   奈何好去哉   言借吾妹 あひみずて けながくなりぬ このころは いかにさきくや いふかしわぎも 04 0649 大伴坂上郎女歌一首 04 0649 夏葛之   不絶使乃    不通有者  言下有如     念鶴鴨 なつくずの たえぬつかひの よどめれば ことしもあるごと おもひつるかも 04 0649 右坂上郎女者佐保大納言卿之女也 駿河麻呂此高市大卿之孫也 兩卿兄弟之家女孫姑姪之族 是以題歌送答相問起居 04 0650 大伴宿祢三依離復相歡歌一首 04 0650 吾妹兒者  常世國尓    住家良思  昔見従     變若益尓家利 わぎもこは とこよのくにに すみけらし むかしみしより をちましにけり 04 0651 大伴坂上郎女歌二首 04 0651 久堅乃   天露霜     置二家里  宅有人毛    待戀奴濫 ひさかたの あめのつゆしも おきにけり いへなるひとも まちこひぬらむ 04 0652 玉主尓   珠者授而    勝且毛   枕与吾者     率二将宿 たまもりに たまはさづけて かつがつも まくらとあれとは いざふたりねむ 04 0653 大伴宿祢駿河麻呂歌三首 04 0653 情者    不忘物乎    儻     不見日數多   月曽経去来 こころには わすれぬものを たまさかに みぬひさまねく つきぞへにける 04 0654 相見者   月毛不経尓   戀云者    乎曽呂登吾乎  於毛保寒毳 あひみては つきもへなくに こふといはば をそろとあれを おもほさむかも 04 0655 不念乎   思常云者    天地之   神祇毛知寒 邑礼左變 おもはぬを おもふといはば あめつちの かみもしらさむ 04 0656 大伴坂上郎女歌六首 04 0656 吾耳曽   君尓者戀流   吾背子之  戀云事波     言乃名具左曽 あれのみぞ きみにはこふる わがせこが こふといふことは ことのなぐさぞ 04 0657 不念常   曰手師物乎   翼酢色之   變安寸     吾意可聞 おもはじと いひてしものを はねずいろの うつろひやすき あがこころかも 04 0658 雖念    知僧裳無跡   知物乎   奈何幾許    吾戀渡 おもへども しるしもなしと しるものを なにかここだく あがこひわたる 04 0659 豫     人事繁     如是有者   四恵也吾背子  奥裳何如荒海藻 あらかじめ ひとごとしげし かくしあらば しゑやわがせこ おくもいかにあらめ 04 0660 汝乎与吾乎  人曽離奈流   乞吾君    人之中言    聞起名湯目 なをとあとを ひとぞさくなる いであがきみ ひとのなかこと ききこすなゆめ 04 0661 戀〃而   相有時谷    愛寸    事盡手四    長常念者 こひこひて あへるときだに うるはしき ことつくしてよ ながくとおもはば ○ 04 0662 市原王歌一首 04 0662 網兒之山  五百重隠有   佐堤乃埼  左手蝿師子之  夢二四所見 あごのやま いほへかくせる さでのさき さではへしこが いめにしみゆる 04 0663 安都宿祢年足歌一首 04 0663 佐穂度   吾家之上二   鳴鳥之   音夏可思吉   愛妻之兒 さほわたり わぎへのうへに なくとりの こゑなつかしき はしきつまのこ 04 0664 大伴宿祢像見歌一首 04 0664 石上    零十方雨二   将關哉   妹似相武登   言義之鬼尾 いそのかみ ふるともあめに つつまめや いもにあはむと いひてしものを 04 0665 安倍朝臣蟲麻呂歌一首 04 0665 向座而   雖見不飽    吾妹子二  立離徃六     田付不知毛 むかひゐて みれどもあかぬ わぎもこに たちわかれゆかむ たづきしらずも 04 0666 大伴坂上郎女歌二首 04 0666 不相見者  幾久毛     不有國   幾許吾者    戀乍裳荒鹿 あひみぬは いくひささにも あらなくに ここだくあれは こひつつもあるか 04 0667 戀〃而   相有物乎    月四有者   夜波隠良武   須臾羽蟻待 こひこひて あひたるものを つきしあれば よはこもるらむ しましはありまて 04 0667 右大伴坂上郎女之母石川内命婦与安陪朝臣蟲満之母安曇外命婦同居姉妹同氣之親焉 縁此郎女蟲満相見不踈相談既密 聊作戯歌以為問答也 04 0668 厚見王歌一首 04 0668 朝尓日尓  色付山乃    白雲之   可思過     君尓不有國 あさにけに いろづくやまの しらくもの おもひすぐべき きみにあらなくに 04 0669 春日王歌一首 志貴皇子之子母曰多紀皇女也 04 0669 足引之   山橘乃     色丹出与   語言継而    相事毛将有 あしひきの やまたちばなの いろにいでよ かたらひつぎて あふこともあらむ 04 0670 湯原王歌一首 04 0670 月讀之   光二来益    足疾乃   山寸隔而    不遠國 つくよみの ひかりにきませ あしひきの やまきへなりて とほからなくに 04 0671 和歌一首 不審作者 04 0671 月讀之   光者清     雖照有   惑情      不堪念 つくよみの ひかりはきよく てらせれど まとふこころに おもひあへなくに 04 0672 安倍朝臣蟲麻呂歌一首 04 0672 倭文手纒  數二毛不有   壽持    奈何幾許    吾戀渡 しつたまき かずにもあらぬ いのちもて なにかここだく あがこひわたる 04 0673 大伴坂上郎女歌二首 04 0673 真十鏡   磨師心乎    縦者    後尓雖云    驗将在八方 まそかがみ とぎしこころを ゆるしてば のちにいふとも しるしあらめやも 04 0674 真玉付   彼此兼手    言齒五十戸常 相而後社    悔二破有跡五十戸 またまつく をちこちかねて いひはいへど あひてのちこそ くいにはありといへ 04 0675 中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首 04 0675 娘子部四  咲澤二生流    花勝見   都毛不知    戀裳摺可聞 をみなへし さきさはにおふる はなかつみ かつてもしらぬ こひもするかも 04 0676 海底    奥乎深目手   吾念有   君二波将相   年者経十方 わたのそこ おきをふかめて あがもへる きみにはあはむ としはへぬとも 04 0677 春日山   朝居雲乃    欝     不知人尓毛   戀物香聞 かすがやま あさゐるくもの おほほしく しらぬひとにも こふるものかも 04 0678 直相而    見而者耳社   霊剋    命向      吾戀止眼 ただにあひて みてばのみこそ たまきはる いのちにむかふ あがこひやまめ 04 0679 不欲常云者  将強哉吾背   菅根之   念乱而     戀管母将有 いなといはば しひめやわがせ すがのねの おもひみだれて こひつつもあらむ 04 0680 大伴宿祢家持与交遊別歌三首 04 0680 盖毛    人之中言    聞可毛   幾許雖待    君之不来益 けだしくも ひとのなかごと きこせかも ここだくまてど きみがきまさぬ 04 0681 中〃尓   絶年云者    如此許   氣緒尓四而   吾将戀八方 なかなかに たゆとしいはば かくばかり いきのをにして あれこひめやも 04 0682 将念    人尓有莫國    懃     情盡而     戀流吾毳 おもふらむ ひとにあらなくに ねもころに こころつくして こふるあれかも 04 0683 大伴坂上郎女歌七首 04 0683 謂言之   恐國曽     紅之    色莫出曽    念死友 いふことの かしこきくにぞ くれなゐの いろにないでそ おもひしぬとも ○ 04 0684 今者吾波   将死与吾背   生十方   吾二可縁跡    言跡云莫苦荷 いまはあれは しなむよわがせ いけりとも われによるべしと いふといはなくに 04 0685 人事    繁哉君之    二鞘之   家乎隔而    戀乍将座 ひとごとを しげみかきみが ふたさやの いへをへだてて こひつつまさむ 04 0686 比者    千歳八徃裳   過与    吾哉然念    欲見鴨 このころは ちとせやゆきも すぎぬると あれやしかもふ みまくほりかも 04 0687 愛常    吾念情     速河之   雖塞〃友    猶哉将崩 うるはしと あがもふこころ はやかはの せきにせくとも なほやくえなむ 04 0688 青山乎   横敘雲之    灼然    吾共咲為而   人二所知名 あをやまを よこぎるくもの いちしろく われとゑまして ひとにしらゆな 04 0689 海山毛   隔莫國     奈何鴨   目言乎谷裳   幾許乏寸 うみやまも へだたらなくに なにしかも めことをだにも ここだともしき 04 0690 大伴宿祢三依悲別歌一首 04 0690 照月乎   闇尓見成而   哭涙    衣沾津     干人無二 てるつきを やみにみなして なくなみた ころもぬらしつ ほすひとなしに 04 0691 大伴宿祢家持贈娘子歌二首 04 0691 百礒城之  大宮人者    雖多有    情尓乗而    所念妹 ももしきの おほみやひとは さはにあれど こころにのりて おもほゆるいも 04 0692 得羽重無  妹二毛有鴨    如此許   人情乎     令盡念者 うはへなき いもにもあるかも かくばかり ひとのこころを つくさくもへば 04 0693 大伴宿祢千室歌一首 未詳 04 0693 如此耳   戀哉将度    秋津野尓  多奈引雲能   過跡者無二 かくのみし こひやわたらむ あきづのに たなびくくもの すぐとはなしに 04 0694 廣河女王歌二首 穂積皇子之孫女上道王之女也 04 0694 戀草呼   力車二     七車    積而戀良苦   吾心柄 こひくさを ちからくるまに ななくるま つみてこふらく あがこころから ○ 04 0695 戀者今葉   不有常吾羽   念乎    何處戀其    附見繋有 こひはいまは あらじとわれは おもへるを いづくのこひぞ つかみかかれる ○ 04 0696 石川朝臣廣成歌一首 後賜姓高圓朝臣氏也 04 0696 家人尓   戀過目八方   川津鳴   泉之里尓    年之歴去者 いへびとに こひすぎめやも かはづなく いづみのさとに としのへぬれば 04 0697 大伴宿祢像見歌三首 04 0697 吾聞尓   繋莫言     苅薦之   乱而念     君之直香曽 わがききに かけてないひそ かりこもの みだれておもふ きみがただかぞ 04 0698 春日野尓  朝居雲之    敷布二   吾者戀益    月二日二異二 かすがのに あさゐるくもの しくしくに あれはこひます つきにひにけに 04 0699 一瀬二波  千遍障良比   逝水之   後毛将相    今尓不有十方 ひとせには ちたびさはらひ ゆくみづの のちにもあはむ いまにあらずとも 04 0700 大伴宿祢家持到娘子之門作歌一首 04 0700 如此為而哉 猶八将退    不近    道之間乎    煩参来而 かくしてや なほやまからむ まとほくの みちのあひだを なづみまゐきて 04 0701 河内百枝娘子贈大伴宿祢家持歌二首 04 0701 波都波都尓 人乎相見而   何将有    何日二箇    又外二将見 はつはつに ひとをあひみて いかにあらむ いづれのひにか またよそにみむ 04 0702 夜干玉之  其夜乃月夜   至于今日  吾者不忘    無間苦思念者 ぬばたまの そのよのつくよ けふまでに あれはわすれず まなくしおもへば 04 0703 巫部麻蘇娘子歌二首 04 0703 吾背子乎  相見之其日   至于今日  吾衣手者    乾時毛奈志 わがせこを あひみしそのひ けふまでに わがころもでは ふるときもなし 04 0704 栲縄之   永命乎     欲苦波   不絶而人乎   欲見社 たくなはの ながきいのちを ほりしくは たえずてひとを みまくほりこそ 04 0705 大伴宿祢家持贈童女歌一首 04 0705 葉根蘰   今為妹乎    夢見而   情内二     戀渡鴨 はねかづら いまするいもを いめにみて こころのうちに こひわたるかも 04 0706 童女来報歌一首 04 0706 葉根蘰   今為妹者    無四呼   何妹其     幾許戀多類 はねかづら いまするいもは なかりしを いづれのいもぞ ここだこひたる 04 0707 粟田女娘子贈大伴宿祢家持歌二首 04 0707 思遣    為便乃不知者  片垸之   底曽吾者    戀成尓家類 注土垸之中 おもひやる すべのしらねば かたもひの そこにぞあれは こひなりにける 04 0708 復毛将相    因毛有奴可  白細之   我衣手二    齋留目六 またもあはむ よしもあらぬか しろたへの あがころもでに いはひとどめむ 04 0709 豊前國娘子大宅女歌一首 未審姓氏 04 0709 夕闇者   路多豆多頭四  待月而   行吾背子    其間尓母将見 ゆふやみは みちたづたづし つきまちて いませわがせこ そのまにもみむ 04 0710 安都扉娘子歌一首 04 0710 三空去   月之光二    直一目   相三師人之   夢西所見 みそらゆく つきのひかりに ただひとめ あひみしひとの いめにしみゆる 04 0711 丹波大女娘子歌三首 04 0711 鴨鳥之   遊此池尓     木葉落而   浮心      吾不念國 かもとりの あそぶこのいけに このはおちて うきたるこころ わがおもはなくに 04 0712 味酒呼   三輪之祝我   忌杉    手觸之罪歟   君二遇難寸 うまさけを みわのはふりが いはふすぎ てふれしつみか きみにあひかたき 04 0713 垣穂成   人辞聞而    吾背子之  情多由多比   不合頃者 かきほなす ひとごとききて わがせこが こころたゆたひ あはぬこのころ 04 0714 大伴宿祢家持贈娘子歌七首 04 0714 情尓者   思渡跡     縁乎無三  外耳為而    嘆曽吾為 こころには おもひわたれど よしをなみ よそのみにして なげきぞあがする 04 0715 千鳥鳴   佐保乃河門之  清瀬乎   馬打和多思   何時将通 ちどりなく さほのかはとの きよきせを うまうちわたし いつかかよはむ 04 0716 夜晝    云別不知    吾戀    情盖      夢所見寸八 よるひると いふわきしらず あがこふる こころはけだし いめにみえきや 04 0717 都礼毛無  将有人乎    獨念尓   吾念者     惑毛安流香 つれもなく あるらむひとを かたもひに われはおもへば わびしくもあるか 04 0718 不念尓   妹之咲儛乎   夢見而   心中二     燎管曽呼留 おもはぬに いもがゑまひを いめにみて こころのうちに もえつつぞをる 04 0719 大夫跡   念流吾乎    如此許   三礼二見津礼  片念男責 ますらをと おもへるわれを かくばかり みつれにみつれ かたもひをせむ 04 0720 村肝之   情摧而     如此許   余戀良苦乎   不知香安類良武 むらきもの こころくだけて かくばかり あがこふらくを しらずかあるらむ 04 0721 獻 天皇歌一首 大伴坂上郎女在佐保宅作也 04 0721 足引乃   山二四居者   風流無三  吾為類和射乎  害目賜名 あしひきの やまにしをれば みやびなみ わがするわざを とがめたまふな 04 0722 大伴宿祢家持歌一首 04 0722 如是許   戀乍不有者    石木二毛  成益物乎    物不思四手 かくばかり こひつつあらずは いはきにも ならましものを ものもはずして 04 0723 大伴坂上郎女従跡見庄賜留宅女子大嬢歌一首 并短歌 04 0723 常呼二跡  吾行莫國    小金門尓  物悲良尓    念有之   吾兒乃刀自緒  野干玉之  夜晝跡不言    念二思   吾身者痩奴   嘆丹師   袖左倍沾奴   如是許   本名四戀者   古郷尓   此月期呂毛   有勝益士 つねをにと わがゆかなくに をかなとに ものがなしらに おもへりし あがこのとじを ぬばたまの よるひるといはず おもふにし あがみはやせぬ なげくにし そでさへぬれぬ かくばかり もとなしこひば ふるさとに このつきごろも ありかつましじ 04 0724 反歌 04 0724 朝髪之   念乱而     如是許   名姉之戀曽   夢尓所見家留 あさかみの おもひみだれて かくばかり なねにこふれぞ いめにみえける 04 0724 右歌報賜大嬢進歌也 04 0725 獻 天皇歌二首 大伴坂上郎女在春日里作也 04 0725 二寳鳥乃  潜池水     情有者    君尓吾戀     情示左祢 にほどりの かづくいけみづ こころあらば きみにあがこふる こころしめさね 04 0726 外居而   戀乍不有者    君之家乃   池尓住云    鴨二有益雄 よそにゐて こひつつあらずは きみがいへの いけにすむとふ かもにあらましを 04 0727 大伴宿祢家持贈坂上家大嬢歌二首 離絶數年復會相聞徃来 04 0727 萱草    吾下紐尓    著有跡   鬼乃志許草   事二思安利家理 わすれぐさ わがしたびもに つけたれど しこのしこくさ ことにしありけり 04 0728 人毛無   國母有粳    吾妹兒与  携行而      副而将座 ひともなき くにもあらぬか わぎもこと たづさはりゆきて たぐひてをらむ 04 0729 大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首 04 0729 玉有者   手二母将巻乎  欝瞻乃   世人有者    手二巻難石 たまならば てにもまかむを うつせみの よのひとなれば てにまきがたし 04 0730 将相夜者  何時将有乎   何如為常香 彼夕相而    事之繁裳 あはむよは いつもあらむを なにすとか そのよひあひて ことのしげきも 04 0731 吾名者毛  千名之五百名尓 雖立    君之名立者   惜社泣 わがなはも ちなのいほなに たちぬとも きみがなたたば をしみこそなけ 04 0732 又大伴宿祢家持和歌三首 04 0732 今時者四  名之惜雲    吾者無   妹丹因者    千遍立十方 いましはし なのをしけくも われはなし いもによりては ちへにたつとも 04 0733 空蝉乃   代也毛二行   何為跡鹿  妹尓不相而   吾獨将宿 うつせみの よやもふたゆく なにすとか いもにあはずて あがひとりねむ 04 0734 吾念    如此而不有者  玉二毛我  真毛妹之    手二所纒乎 あがもひは かくてあらずは たまにもが まこともいもが てにまかれむを 04 0735 同坂上大嬢贈家持歌一首 04 0735 春日山   霞多奈引    情具久   照月夜尓    獨鴨念 かすがやま かすみたなびき こころぐく てれるつくよに ひとりかもねむ 04 0736 又家持和坂上大嬢歌一首 04 0736 月夜尓波  門尓出立    夕占問   足卜乎曽為之   行乎欲焉 つくよには かどにいでたち ゆふけとひ あしうらをぞせし ゆかまくをほり 04 0737 同大嬢贈家持歌二首 04 0737 云々    人者雖云    若狭道乃  後瀬山之    後毛将會君 かにかくに ひとはいふとも わかさぢの のちせのやまの のちもあはむきみ 04 0738 世間之   苦物尓     有家良之  戀二不勝而   可死念者 よのなかは くるしきものに ありけらし こひにあへずて しぬべきおもへば 04 0739 又家持和坂上大嬢歌二首 04 0739 後湍山   後毛将相常   念社    可死物乎    至今日毛生有 のちせやま のちもあはむと おもへこそ しぬべきものを けふまでもいけれ 04 0740 事耳乎   後毛相跡    懃     吾乎令憑而   不相可聞 ことのみを のちもあはむと ねもころに あれをたのめて あはざらむかも 04 0741 更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首 04 0741 夢之相者   苦有家里    覺而    掻探友     手二毛不所觸者 いめのあひは くるしかりけり おどろきて かきさぐれども てにもふれねば ○ 04 0742 一重耳   妹之将結    帶乎尚   三重可結    吾身者成 ひとへのみ いもがむすばむ おびをすら みへむすぶべく あがみはなりぬ 04 0743 吾戀者   千引乃石乎   七許    頚二将繋母   神之諸伏 あがこひは ちびきのいはを ななばかり くびにかけむも かみのまにまに 04 0744 暮去者   屋戸開設而   吾将待   夢尓相見二   将来云比登乎 ゆふさらば やどあけまけて あれまたむ いめにあひみに こむといふひとを 04 0745 朝夕二   将見時左倍也  吾妹之   雖見如不見   由戀四家武 あさよひに みむときさへや わぎもこが みれどみぬごと なほこほしけむ 04 0746 生有代尓  吾者未見  事絶而  如是憾怜  縫流囊者 いけるよに あれはいまだみず ことたえて かくおもしろく ぬへるふくろは 04 0747 吾妹兒之  形見乃服    下著而   直相左右者    吾将脱八方 わぎもこが かたみのころも したにきて ただにあふまでは われぬかめやも 04 0748 戀死六   其毛同曽    奈何為二  人目他言    辞痛吾将為 こひしなむ そこもおやじぞ なにせむに ひとめひとごと こちたみあがせむ 04 0749 夢二谷   所見者社有    如此許   不所見有者   戀而死跡香 いめにだに みえばこそあらめ かくばかり みえずしあるは こひてしねとか 04 0750 念絶    和備西物尾   中〃荷   奈何辛苦    相見始兼 おもひたえ わびにしものを なかなかに なにかくるしく あひみそめけむ 04 0751 相見而者  幾日毛不経乎  幾許久毛  久流比尓久流必 所念鴨 あひみては いくかもへぬを ここだくも くるひにくるひ おもほゆるかも ○ 04 0752 如是許   面影耳     所念者   何如将為    人目繁而 かくばかり おもかげのみに おもほえば いかにかもせむ ひとめおほくして 04 0753 相見者   須臾戀者    奈木六香登 雖念弥     戀益来 あひみてば しましもこひは なぎむかと おもへどいよよ こひまさりけり 04 0754 夜之穂杼呂 吾出而来者    吾妹子之  念有四九四   面影二三湯 よのほどろ わがいでてくれば わぎもこが おもへりしくし おもかげにみゆ 04 0755 夜之穂杼呂 出都追来良久  遍多數   成者吾胸    截焼如 よのほどろ いでつつくらく たびまねく なればあがむね たちやくごとし 04 0756 大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首 04 0756 外居而   戀者苦     吾妹子乎  次相見六    事計為与 よそにゐて こふればくるし わぎもこを つぎてあひみむ ことはかりせよ 04 0757 遠有者    和備而毛有乎   里近    有常聞乍    不見之為便奈沙 とほくあらば わびてもあらむを さとちかく ありとききつつ みぬがすべなさ 04 0758 白雲之   多奈引山之   高〃二   吾念妹乎    将見因毛我母 しらくもの たなびくやまの たかたかに あがもふいもを みむよしもがも 04 0759 何      時尓加妹乎   牟具良布能 穢屋戸尓    入将座 いかにあらむ ときにかいもを むぐらふの きたなきやどに いりいませなむ 04 0759 右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上大嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答 04 0760 大伴坂上郎女従竹田庄贈女子大嬢歌二首 04 0760 打渡    竹田之原尓   鳴鶴之   間無時無    吾戀良久波 うちわたす たかたのはらに なくたづの まなくときなし あがこふらくは 04 0761 早河之  湍尓居鳥之  縁乎奈弥  念而有師  吾兒羽裳憾怜 はやかはの せにゐるとりの よしをなみ おもひてありし あがこはもあはれ 04 0762 紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 女郎名曰小鹿也 04 0762 神左夫跡  不欲者不有    八多也八多 如是為而後二  佐夫之家牟可聞 かむさぶと いなぶにはあらず はたやはた かくしてのちに さぶしけむかも 04 0763 玉緒乎 沫緒二搓而 結有者 在手後二毛 不相在目八方 たまのをを あわをによりて むすべらば ありてのちにも あはざらめやも 04 0764 大伴宿祢家持和歌一首 04 0764 百年尓   老舌出而    与余牟友  吾者不猒    戀者益友 ももとせに おいしたいでて よよむとも あれはいとはじ こひはますとも 04 0765 在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首 04 0765 一隔山   重成物乎    月夜好見  門尓出立    妹可将待 ひとへやま へなれるものを つくよよみ かどにいでたち いもかまつらむ 04 0766 藤原郎女聞之即和歌一首 04 0766 路遠    不来常波知有  物可良尓  然曽将待    君之目乎保利 みちとほみ こじとはしれる ものからに しかぞまつらむ きみがめをほり 04 0767 大伴宿祢家持更贈大嬢歌二首 04 0767 都路乎   遠哉妹之    比来者   得飼飯而雖宿  夢尓不所見来 みやこぢを とほみかいもが このころは うけひてぬれど いめにみえこぬ 04 0768 今所知   久邇乃京尓   妹二不相   久成      行而早見奈 いましらす くにのみやこに いもにあはず ひさしくなりぬ ゆきてはやみな 04 0769 大伴宿祢家持報贈紀女郎歌一首 04 0769 久堅之   雨之落日乎   直獨    山邊尓居者   欝有来 ひさかたの あめのふるひを ただひとり やまへにをれば いぶせくありけり 04 0770 大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首 04 0770 人眼多見   不相耳曽    情左倍   妹乎忘而    吾念莫國 ひとめおほみ あはなくのみぞ こころさへ いもをわすれて わがおもはなくに 04 0771 偽毛    似付而曽為流  打布裳   真吾妹兒    吾尓戀目八 いつはりも につきてぞする うつしくも まことわぎもこ あれにこひめや ○ 04 0772 夢尓谷 将所見常吾者 保杼毛友 不相志思者 諾不所見有武 いめにだに みえむとわれは ほどけども あひしおもはねば うべみえずあらむ 04 0773 事不問   木尚味狭藍   諸弟等之  練乃村戸二   所詐来 こととはぬ きすらあぢさゐ もろとらが ねりのむらへに あざむかえけり 04 0774 百千遍   戀跡云友    諸弟等之  練乃言羽者   吾波不信 ももちたび こふといふとも もろとらが ねりのことばは われはたのまじ 04 0775 大伴宿祢家持贈紀女郎歌一首 04 0775 鶉鳴    故郷従     念友    何如裳妹尓   相縁毛無寸 うづらなく ふりにしさとゆ おもへども なにぞもいもに あふよしもなき 04 0776 紀女郎報贈家持歌一首 04 0776 事出之者  誰言尓有鹿    小山田之  苗代水乃    中与杼尓四手 ことでしは たがことにあるか をやまだの なはしろみづの なかよどにして 04 0777 大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首 04 0777 吾妹子之  屋戸乃籬乎   見尓徃者  盖従門     将返却可聞 わぎもこが やどのまがきを みにゆかば けだしかどより かへしてむかも 04 0778 打妙尓   前垣乃酢堅   欲見    将行常云哉   君乎見尓許曽 うつたへに まがきのすがた みまくほり ゆかむといへや きみをみにこそ 04 0779 板盖之   黒木乃屋根者  山近之   明日取而    持将参来 いたふきの くろきのやねは やまちかし あすのひとりて もちてまゐこむ 04 0780 黒樹取   草毛苅乍    仕目利   勤和氣登    将譽十方不有 一云 仕登母 くろきとり かやもかりつつ つかへめど いそしきわけと ほめむともあらず  つかふとも 04 0781 野干玉能  昨夜者令還   今夜左倍  吾乎還莫    路之長手呼 ぬばたまの きぞはかへしつ こよひさへ われをかへすな みちのながてを 04 0782 紀女郎褁物贈友歌一首 女郎名曰小鹿也 04 0782 風高    邊者雖吹    為妹    袖左倍所沾而  苅流玉藻焉 かぜたかく へにはふけども いもがため そでさへぬれて かれるたまもぞ 04 0783 大伴宿祢家持贈娘子歌三首 04 0783 前年之   先年従     至今年   戀跡奈何毛   妹尓相難 をととしの さきつとしより ことしまで こふれどなぞも いもにあひがたき 04 0784 打乍二波  更毛不得言    夢谷    妹之手本乎   纒宿常思見者 うつつには さらにもえいはず いめにだに いもがたもとを まきぬとしみば 04 0785 吾屋戸之  草上白久     置露乃   壽母不有惜   妹尓不相有者 わがやどの くさのうへしろく おくつゆの みもをしからず いもにあはずあれば 04 0786 大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首 04 0786 春之雨者  弥布落尓    梅花    未咲久     伊等若美可聞 はるさめは いやしきふるに うめのはな いまださかなく いとわかみかも 04 0787 如夢    所念鴨     愛八師   君之使乃    麻祢久通者 いめのごと おもほゆるかも はしきやし きみがつかひの まねくかよへば 04 0788 浦若見   花咲難寸    梅乎殖而   人之事重三   念曽吾為類 うらわかみ はなさきがたき うめをうゑて ひとごとしげみ おもひぞあがする 04 0789 又家持贈藤原朝臣久須麻呂歌二首 04 0789 情八十一  所念可聞    春霞    軽引時二    事之通者 こころぐく おもほゆるかも はるかすみ たなびくときに ことのかよへば 04 0790 春風之   聲尓四出名者   有去而   不有今友     君之随意 はるかぜの おとにしいでなば ありさりて いまにあらずとも きみがまにまに 04 0791 藤原朝臣久須麻呂来報歌二首 04 0791 奥山之   磐影尓生流    菅根乃   懃吾毛     不相念有哉 おくやまの いはかげにおふる すがのねの ねもころわれも あひおもはざれや 04 0792 春雨乎   待常二師有四   吾屋戸之  若木乃梅毛   未含有 はるさめを まつとにしあらし わがやどの わかきのうめも いまだふふめり 05 0793 雜歌 05 0793 大宰帥大伴卿報凶問歌一首 05 0793 禍故重疊 凶問累集 永懐崩心之悲 獨流断腸之泣 但依兩君大助傾命纔継耳 筆不盡言古今所歎 05 0793 余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理 よのなかは むなしきものと しるときし いよよますます かなしかりけり 05 0793 神龜五年六月二十三日 05 0794 日本挽歌一首 05 0794 盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠競走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖 偕老違於要期獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来猒離此穢土 本願託生彼浄刹 05 0794 大王能   等保乃朝庭等  斯良農比 筑紫國尓    泣子那須  斯多比枳摩斯提 伊企陁尓母 伊摩陁夜周米受 年月母   伊摩他阿良祢婆 許〃呂由母 於母波奴阿比陁尓 宇知那毘枳 許夜斯努礼 伊波牟須弊 世武須弊斯良尓 石木乎母  刀比佐氣斯良受 伊弊那良婆 迦多知波阿良牟乎 宇良賣斯企 伊毛乃美許等能 阿礼乎婆母 伊可尓世与等可 尓保鳥能  布多利那良毘為 加多良比斯 許〃呂曽牟企弖 伊弊社可利伊摩須 おほきみの とほのみかどと しらぬひ つくしのくにに なくこなす したひきまして いきだにも いまだやすめず としつきも いまだあらねば こころゆも おもはぬあひだに うちなびき こやしぬれ いはむすべ せむすべしらに いはきをも とひさけしらず いへならば かたちはあらむを うらめしき いものみことの あれをばも いかにせよとか にほどりの ふたりならびゐ かたらひし こころそむきて いへざかりいます 05 0795 反歌 05 0795 伊弊尓由伎弖 伊可尓可阿我世武 摩久良豆久 都摩夜佐夫斯久 於母保由倍斯母 いへにゆきて いかにかあがせむ まくらづく つまやさぶしく おもほゆべしも 05 0796 伴之伎与之 加久乃未可良尓 之多比己之 伊毛我己許呂乃 須別毛須別那左 はしきよし かくのみからに したひこし いもがこころの すべもすべなさ 05 0797 久夜斯可母 可久斯良摩世婆 阿乎尓与斯 久奴知許等其等 美世摩斯母乃乎 くやしかも かくしらませば あをによし くぬちことごと みせましものを 05 0798 伊毛何美斯 阿布知乃波那波 知利奴倍斯 和何那久那美多 伊摩陁飛那久尓 いもがみし あふちのはなは ちりぬべし わがなくなみた いまだひなくに 05 0799 大野山   紀利多知和多流 和何那宜久 於伎蘇乃可是尓 紀利多知和多流 おほのやま きりたちわたる わがなげく おきそのかぜに きりたちわたる 05 0799 神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上 05 0800 令反或情歌一首 并序 05 0800 或有人 知敬父母忘於侍養 不顧妻子軽於脱屣 自稱倍俗先生 意氣雖揚青雲之上 身體猶在塵俗之中 未驗修行得道之聖 盖是亡命山澤之民 所以指示三綱更開五教 遺之以歌令反其或 歌曰 05 0800 父母乎   美礼婆多布斗斯 妻子美礼婆 米具斯宇都久志 余能奈迦波 加久叙許等和理 母智騰利乃 可可良波志母与 由久弊斯良祢婆 宇既具都遠 奴伎都流其等久 布美奴伎提 由久智布比等波 伊波紀欲利 奈利提志比等迦 奈何名能良佐祢 阿米弊由迦婆 奈何麻尓麻尓 都智奈良婆 大王伊摩周   許能提羅周 日月能斯多波  阿麻久毛能 牟迦夫周伎波美 多尓具久能 佐和多流伎波美 企許斯遠周 久尓能麻保良叙 可尓迦久尓 保志伎麻尓麻尓 斯可尓波阿羅慈迦 ちちははを みればたふとし めこみれば めぐしうつくし よのなかは かくぞことわり もちどりの かからはしもよ ゆくへしらねば うけぐつを ぬきつるごとく ふみぬきて ゆくちふひとは いはきより なりでしひとか ながなのらさね あめへゆかば ながまにまに つちならば おほきみいます このてらす ひつきのしたは あまくもの むかぶすきはみ たにぐくの さわたるきはみ きこしをす くにのまほらぞ かにかくに ほしきまにまに しかにはあらじか 05 0801 反歌 05 0801 比佐迦多能 阿麻遅波等保斯 奈保〃〃尓 伊弊尓可弊利提 奈利乎斯麻佐尓 ひさかたの あまぢはとほし なほなほに いへにかへりて なりをしまさに 05 0802 思子等歌一首 并序 05 0802 釋迦如来金口正説 等思衆生如羅睺羅 又説 愛無過子 至極大聖尚有愛子之心 况乎世間蒼生誰不愛子乎 05 0802 宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尓 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農 うりはめば こどもおもほゆ くりはめば ましてしぬはゆ いづくより きたりしものぞ まなかひに もとなかかりて やすいしなさぬ 05 0803 反歌 05 0803 銀母    金母玉母    奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母 しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも 05 0804 哀世間難住歌一首 并序 05 0804 易集難排八大辛苦 難遂易盡百年賞樂 古人所歎今亦及之 所以因作一章之歌 以撥二毛之歎 其歌曰 05 0804 世間能   周弊奈伎物能波 年月波   奈何流〃其等斯 等利都〃伎 意比久留母能波 毛〃久佐尓 勢米余利伎多流 遠等咩良何 遠等咩佐備周等 可羅多麻乎 多母等尓麻可志 或有此句云 之路多倍乃   袖布利可伴之  久礼奈為乃 阿可毛須蘇毘伎 余知古良等 手多豆佐波利提 阿蘇比家武 等伎能佐迦利乎 等〃尾迦祢 周具斯野利都礼 美奈乃和多 迦具漏伎可美尓 伊都乃麻可 斯毛乃布利家武 久礼奈為能 一云 尓能保奈須 意母提乃宇倍尓 伊豆久由可 斯和何伎多利斯 一云 都祢奈利之 恵麻比麻欲毘伎 散久伴奈能 宇都呂比尓家利 余乃奈可伴 可久乃未奈良之 麻周羅遠乃 遠刀古佐備周等 都流伎多智 許志尓刀利波枳 佐都由美乎 多尓伎利物知提 阿迦胡麻尓 志都久良宇知意伎 波比能利提 阿蘇比阿留伎斯 余乃奈迦野 都祢尓阿利家留 遠等咩良何 佐那周伊多斗乎 意斯比良伎 伊多度利与利提 麻多麻提乃 多麻提佐斯迦閇 佐祢斯欲能 伊久陁母阿羅祢婆 多都可豆恵 許志尓多何祢提 可由既婆 比等尓伊等波延 可久由既婆 比等尓邇久麻延 意余斯遠波 迦久能尾奈良志 多麻枳波流 伊能知遠志家騰 世武周弊母奈斯 よのなかの すべなきものは としつきは ながるるごとし とりつつき おひくるものは ももくさに せめよりきたる をとめらが をとめさびすと からたまを たもとにまかし       しろたへの   そでふりかはし くれなゐの あかもすそびき よちこらと てたづさはりて あそびけむ ときのさかりを とどみかね すぐしやりつれ みなのわた かぐろきかみに いつのまか しものふりけむ くれなゐの    にのほなす おもてのうへに いづくゆか しわがきたりし    つねなりし ゑまひまよびき さくはなの うつろひにけり よのなかは かくのみならし ますらをの をとこさびすと つるぎたち こしにとりはき さつゆみを たにぎりもちて あかごまに しつくらうちおき はひのりて あそびあるきし よのなかや つねにありける をとめらが さなすいたとを おしひらき いたどりよりて またまでの たまでさしかへ さねしよの いくだもあらねば たつかづゑ こしにたがねて かゆけば ひとにいとはえ かくゆけば ひとににくまえ およしをは かくのみならし たまきはる いのちをしけど せむすべもなし 05 0805 反歌 05 0805 等伎波奈周 迦久斯母何母等 意母閇騰母 余能許等奈礼婆 等登尾可祢都母 ときはなす かくしもがもと おもへども よのことなれば とどみかねつも 05 0805 神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良 05 0806 伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 歌詞兩首 大宰帥大伴卿 05 0806 多都能馬母 伊麻勿愛弖之可 阿遠尓与志 奈良乃美夜古尓 由吉帝己牟丹米 たつのまも いまもえてしか あをによし ならのみやこに ゆきてこむため 05 0807 宇豆都仁波 安布余志勿奈子 奴婆多麻能 用流能伊昧仁越 都伎提美延許曽 うつつには あふよしもなし ぬばたまの よるのいめにを つぎてみえこそ 05 0808 答歌二首 05 0808 多都乃麻乎 阿礼波毛等米牟 阿遠尓与志 奈良乃美夜古邇 許牟比等乃多仁 たつのまを あれはもとめむ あをによし ならのみやこに こむひとのたに 05 0809 多陁尓阿波須 阿良久毛於保久 志岐多閇乃 麻久良佐良受提 伊米尓之美延牟 ただにあはず あらくもおほく しきたへの まくらさらずて いめにしみえむ 05 0810 大伴淡等謹状 05 0810 梧桐日本琴一面 對馬結石山孫枝 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇巒 晞■[朝の左+尞の上・于]九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴 不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰 05 0810 伊可尓安良武 日能等伎尓可母 許恵之良武 比等能比射乃倍 和我麻久良可武 いかにあらむ ひのときにかも こゑしらむ ひとのひざのへ わがまくらかむ 05 0811 僕報詩詠曰 琴娘子答曰 05 0811 許等〃波奴 樹尓波安里等母 宇流波之吉 伎美我手奈礼能 許等尓之安流倍志 こととはぬ きにはありとも うるはしき きみがたなれの ことにしあるべし 05 0811 敬奉徳音 幸甚〃〃 片時覺 即感於夢言慨然不得止黙 故附公使聊以進御耳 謹状不具 天平元年十月七日附使進上 謹通 中衛高明閤下 謹空 05 0812 跪承芳音 嘉懽交深 乃知 龍門之恩復厚蓬身之上 戀望殊念常心百倍 謹和白雲之什以奏野鄙之歌 房前謹状 謹通 尊門 記室 十一月八日 附還使大監 05 0812 許等騰波奴 紀尓茂安理等毛 和何世古我 多那礼乃美巨騰 都地尓意加米移母 こととはぬ きにもありとも わがせこが たなれのみこと つちにおかめやも 05 0813 筑前國怡土郡深江村子負原 臨海丘上有二石 大者長一尺二寸六分 圍一尺八寸六分 重十八斤五兩 小者長一尺一寸 圍一尺八寸 重十六斤十兩 並皆堕圓状如鷄子 其美好者不可勝論 所謂俓尺璧是也 或云 此二石者肥前國彼杵郡平敷之石 當占而取之 去深江驛家二十許里 近在路頭 公私徃来 莫不下馬跪拜 古老相傳曰 徃者息長足日女命征討新羅國之時 用玆兩石挿著御袖之中以為鎮懐 實是御裳中矣 所以行人敬拜此石 乃作歌曰 05 0813 可既麻久波 阿夜尓可斯故斯 多良志比咩 可尾能弥許等 可良久尓遠 武氣多比良宜弖 弥許〃呂遠 斯豆迷多麻布等 伊刀良斯弖 伊波比多麻比斯 麻多麻奈須 布多都能伊斯乎 世人尓   斯咩斯多麻比弖 余呂豆余尓 伊比都具可祢等 和多能曽許 意枳都布可延乃 宇奈可美乃 故布乃波良尓 美弖豆可良 意可志多麻比弖 可武奈何良 可武佐備伊麻須 久志美多麻 伊麻能遠都豆尓 多布刀伎呂可儛 かけまくは あやにかしこし たらしひめ かみのみこと からくにを むけたひらげて みこころを しづめたまふと いとらして いはひたまひし またまなす ふたつのいしを よのひとに しめしたまひて よろづよに いひつぐがねと わたのそこ おきつふかえの うなかみの こふのはらに みてづから おかしたまひて かむながら かむさびいます くしみたま いまのをつつに たふときろかむ 05 0814 阿米都知能 等母尓比佐斯久 伊比都夏等 許能久斯美多麻 志可志家良斯母 あめつちの ともにひさしく いひつげと このくしみたま しかしけらしも 05 0814 右事傳言 那珂郡伊知郷蓑嶋人建部牛麻呂是也 05 0815 梅花歌卅二首 并序 05 0815 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧 鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 促膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇 古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠 05 0815 武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎岐都〃 多努之岐乎倍米 大貳紀卿 むつきたち はるのきたらば かくしこそ うめををきつつ たのしきをへめ 05 0816 烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛 小貳小野大夫 うめのはな いまさけるごと ちりすぎず わがへのそのに ありこせぬかも 05 0817 烏梅能波奈 佐吉多流僧能〃 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜 小貳粟田大夫 うめのはな さきたるそのの あをやぎは かづらにすべく なりにけらずや 05 0818 波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都〃夜 波流比久良佐武 筑前守山上大夫 はるされば まづさくやどの うめのはな ひとりみつつや はるひくらさむ 05 0819 余能奈可波 古飛斯宜志恵夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母 奈良麻之勿能怨 豊後守大伴大夫 よのなかは こひしげしゑや かくしあらば うめのはなにも ならましものを 05 0820 烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理 筑後守葛井大夫 うめのはな いまさかりなり おもふどち かざしにしてな いまさかりなり 05 0821 阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能弥弖能〃知波 知利奴得母與斯 笠沙弥 あをやなぎ うめとのはなを をりかざし のみてののちは ちりぬともよし 05 0822 和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母 主人 わがそのに うめのはなちる ひさかたの あめよりゆきの ながれくるかも 05 0823 烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都〃 大監伴氏百代 うめのはな ちらくはいづく しかすがに このきのやまに ゆきはふりつつ 05 0824 烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃〃 多氣乃波也之尓 于具比須奈久母 小監阿氏奥嶋 うめのはな ちらまくをしみ わがそのの たけのはやしに うぐひすなくも 05 0825 烏梅能波奈 佐岐多流曽能〃 阿遠夜疑遠 加豆良尓志都〃 阿素毘久良佐奈 小監土氏百村 うめのはな さきたるそのの あをやぎを かづらにしつつ あそびくらさな 05 0826 有知奈毘久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武 大典史氏大原 うちなびく はるのやなぎと わがやどの うめのはなとを いかにかわかむ 05 0827 波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓 小典山氏若麻呂 はるされば こぬれがくりて うぐひすぞ なきていぬなる うめがしづえに 05 0828 比等期等尓 乎理加射之都〃 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母 大判事丹氏麻呂 ひとごとに をりかざしつつ あそべども いやめづらしき うめのはなかも 05 0829 烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良婆那 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也 藥師張氏福子 うめのはな さきてちりなば さくらばな つぎてさくべく なりにてあらずや 05 0830 萬世尓   得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子 筑前介佐氏子首 よろづよに としはきふとも うめのはな たゆることなく さきわたるべし 05 0831 波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓 壹岐守板氏安麻呂 はるなれば うべもさきたる うめのはな きみをおもふと よいもねなくに 05 0832 烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯 神司荒氏稲布 うめのはな をりてかざせる もろひとは けふのあひだは たのしくあるべし 05 0833 得志能波尓 波流能伎多良婆 可久斯己曽 烏梅乎加射之弖 多努志久能麻米 大令史野氏宿奈麻呂 としのはに はるのきたらば かくしこそ うめをかざして たのしくのまめ 05 0834 烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛〃等利能 己恵能古保志枳 波流岐多流良斯 小令史田氏肥人 うめのはな いまさかりなり ももとりの こゑのこほしき はるきたるらし 05 0835 波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素毘尓 阿比美都流可母 藥師高氏義通 はるさらば あはむともひし うめのはな けふのあそびに あひみつるかも 05 0836 烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布尓志阿利家利 陰陽師礒氏法麻呂 うめのはな たをりかざして あそべども あきだらぬひは けふにしありけり 05 0837 波流能努尓 奈久夜汙隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曽能尓 汙米何波奈佐久 笇師志氏大道 はるののに なくやうぐひす なつけむと わがへのそのに うめがはなさく 05 0838 烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖 大隈目榎氏鉢麻呂 うめのはな ちりまがひたる をかひには うぐひすなくも はるかたまけて 05 0839 波流能努尓 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流 筑前目田氏真上 はるののに きりたちわたり ふるゆきと ひとのみるまで うめのはなちる 05 0840 波流楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓 壹岐目村氏彼方 はるやなぎ かづらにをりし うめのはな たれかうかべし さかづきのへに 05 0841 于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由 對馬目高氏老 うぐひすの おときくなへに うめのはな わぎへのそのに さきてちるみゆ 05 0842 和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇毘都〃 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美 薩摩目高氏海人 わがやどの うめのしづえに あそびつつ うぐひすなくも ちらまくをしみ 05 0843 宇梅能波奈 乎理加射之都〃 毛呂比登能 阿蘇夫遠美礼婆 弥夜古之叙毛布 土師氏御道 うめのはな をりかざしつつ もろひとの あそぶをみれば みやこしぞもふ 05 0844 伊母我陛邇 由岐可母不流登 弥流麻提尓 許〃陁母麻我不 烏梅能波奈可毛 小野氏國堅 いもがへに ゆきかもふると みるまでに ここだもまがふ うめのはなかも 05 0845 宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米 筑前拯門氏石足 うぐひすの まちかてにせし うめがはな ちらずありこそ おもふこがため 05 0846 可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛 小野氏淡理 かすみたつ ながきはるひを かざせれど いやなつかしき うめのはなかも 05 0847 員外思故郷歌兩首 05 0847 和我佐可理 伊多久〃多知奴 久毛尓得夫 久須利波武等母 麻多遠知米也母 わがさかり いたくくたちぬ くもにとぶ くすりはむとも またをちめやも 05 0848 久毛尓得夫 久須利波牟用波 美也古弥婆 伊夜之吉阿何微 麻多越知奴倍之 くもにとぶ くすりはむよは みやこみば いやしきあがみ またをちぬべし 05 0849 後追和梅歌四首 05 0849 能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿 のこりたる ゆきにまじれる うめのはな はやくなちりそ ゆきはけぬとも 05 0850 由吉能伊呂遠 有婆比弖佐家流 有米能波奈 伊麻左加利奈利 弥牟必登母我聞 ゆきのいろを うばひてさける うめのはな いまさかりなり みむひともがも 05 0851 和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母 わがやどに さかりにさける うめのはな ちるべくなりぬ みむひともがも 05 0852 烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽 一云 伊多豆良尓 阿例乎知良須奈 左氣尓于可倍許曽 うめのはな いめにかたらく みやびたる はなとあれもふ さけにうかべこそ    いたづらに あれをちらすな さけにうかべこそ 05 0853 遊於松浦河序 05 0853 余以暫徃松浦之縣逍遥 聊臨玉嶋之潭遊覧 忽値釣魚女子等也 花容無雙 光儀無匹 開柳葉於眉中發桃花於頬上 意氣淩雲 風流絶世 僕問曰 誰郷誰家兒等 若疑神仙者乎 娘等皆咲答曰 兒等者漁夫之舎兒 草菴之微者 無郷無家 何足稱云 唯性便水 復心樂山 或臨洛浦而徒羨玉魚 乍臥巫峡以空望烟霞 今以邂逅相遇貴客 不勝感應輙陳欵曲 而今而後豈可非偕老哉 下官對曰 唯〃 敬奉芳命 于時日落山西 驪馬将去 遂申懐抱 因贈詠歌曰 05 0853 阿佐里須流 阿末能古等母等 比得波伊倍騰 美流尓之良延奴 有麻必等能古等 あさりする あまのこどもと ひとはいへど みるにしらえぬ うまひとのこと 05 0854 答詩曰 05 0854 多麻之末能 許能可波加美尓 伊返波阿礼騰 吉美乎夜佐之美 阿良波佐受阿利吉 たましまの このかはかみに いへはあれど きみをやさしみ あらはさずありき 05 0855 蓬客等更贈歌三首 05 0855 麻都良河波 可波能世比可利 阿由都流等 多〃勢流伊毛何 毛能須蘇奴例奴 まつらがは かはのせひかり あゆつると たたせるいもが ものすそぬれぬ 05 0856 麻都良奈流 多麻之麻河波尓 阿由都流等 多〃世流古良何 伊弊遅斯良受毛 まつらなる たましまがはに あゆつると たたせるこらが いへぢしらずも 05 0857 等富都比等 末都良能加波尓 和可由都流 伊毛我多毛等乎 和礼許曽末加米 とほつひと まつらのかはに わかゆつる いもがたもとを われこそまかめ 05 0858 娘等更報歌三首 05 0858 和可由都流 麻都良能可波能 可波奈美能 奈美邇之母波婆 和礼故飛米夜母 わかゆつる まつらのかはの かはなみの なみにしもはば われこひめやも 05 0859 波流佐礼婆 和伎覇能佐刀能 加波度尓波 阿由故佐婆斯留 吉美麻知我俤尓 はるされば わぎへのさとの かはどには あゆこさばしる きみまちがてに 05 0860 麻都良我波 奈〃勢能與騰波 与等武等毛 和礼波与騰麻受 吉美遠志麻多武 まつらがは ななせのよどは よどむとも われはよどまず きみをしまたむ 05 0861 後人追和之詩三首 帥老 05 0861 麻都良河波 可波能世波夜美 久礼奈為能 母能須蘇奴例弖 阿由可都流良武 まつらがは かはのせはやみ くれなゐの ものすそぬれて あゆかつるらむ 05 0862 比等未奈能 美良武麻都良能 多麻志末乎 美受弖夜和礼波 故飛都〃遠良武 ひとみなの みらむまつらの たましまを みずてやわれは こひつつをらむ 05 0863 麻都良河波 多麻斯麻能有良尓 和可由都流 伊毛良遠美良牟 比等能等母斯佐 まつらがは たましまのうらに わかゆつる いもらをみらむ ひとのともしさ 05 0864 宜啓 伏奉四月六日賜書 跪開封函 拜讀芳藻 心神開朗 似懐泰初之月 鄙懐除袪 若披樂廣之天 至若羈旅邊城 懐古舊而傷志 年矢不停 憶平生而落涙 但達人安排 君子無悶 伏冀 朝宣懐翟之化 暮存放龜之術 架張趙於百代 追松喬於千齡耳 兼奉垂示 梅苑芳席 群英摛藻 松浦玉潭 仙媛贈答 類杏壇各言之作 疑衡皐税駕之篇 耽讀吟諷 感謝歡怡 宜戀主之誠 誠逾犬馬 仰徳之心 心同葵藿 而碧海分地 白雲隔天 徒積傾延 何慰勞緒 孟秋膺節 伏願 萬祐日新 今因相撲部領使 謹付片紙 宜謹啓 不次 奉和諸人梅花歌一首 05 0864 於久礼為天 那我古飛世殊波 弥曽能不乃 于梅能波奈尓忘 奈良麻之母能乎 おくれゐて ながこひせずは みそのふの うめのはなにも ならましものを 05 0865 和松浦仙媛歌一首 05 0865 伎弥乎麻都 〃〃良乃于良能 越等賣良波 等己与能久尓能 阿麻越等賣可忘 きみをまつ まつらのうらの をとめらは とこよのくにの あまをとめかも 05 0866 思君未盡重題二首 05 0866 波漏〃〃尓 於忘方由流可母 志良久毛能 知弊仁邊多天留 都久紫能君仁波 はろはろに おもはゆるかも しらくもの ちへにへだてる つくしのくには 05 0867 枳美可由伎 氣那我久奈理奴 奈良遅那留 志満乃己太知母 可牟佐飛仁家里 きみがゆき けながくなりぬ ならぢなる しまのこだちも かむさびにけり 05 0867 天平二年七月十日 05 0868 憶良誠惶頓首謹啓 憶良聞 方岳諸侯 都督刺史 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端 口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰 05 0868 麻都良我多 佐欲比賣能故何 比列布利斯 夜麻能名乃尾夜 伎〃都〃遠良武 まつらがた さよひめのこが ひれふりし やまのなのみや ききつつをらむ 05 0869 多良志比賣 可尾能美許等能 奈都良須等 美多〃志世利斯 伊志遠多礼美吉 一云 阿由都流等 たらしひめ かみのみことの なつらすと みたたしせりし いしをたれみき    あゆつると 05 0870 天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上 05 0870 毛〃可斯母 由加奴麻都良遅 家布由伎弖 阿須波吉奈武遠 奈尓可佐夜礼留 ももかしも ゆかぬまつらぢ けふゆきて あすはきなむを なにかさやれる 05 0871 大伴佐提比古郎子 特被朝命 奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦 佐用嬪面 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝 黯然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰 05 0871 得保都必等 麻通良佐用比米 都麻胡非尓 比例布利之用利 於返流夜麻能奈 とほつひと まつらさよひめ つまごひに ひれふりしより おへるやまのな 05 0872 後人追和 05 0872 夜麻能奈等 伊賓都夏等可母 佐用比賣何 許能野麻能閇仁 必例遠布利家牟 やまのなと いひつげとかも さよひめが このやまのへに ひれをふりけむ 05 0873 最後人追和 05 0873 余呂豆余尓 可多利都夏等之 許能多氣仁 比例布利家良之 麻通羅佐用嬪面 よろづよに かたりつげとし このたけに ひれふりけらし まつらさよひめ 05 0874 最〃後人追和二首 05 0874 宇奈波良能 意吉由久布祢遠 可弊礼等加 比礼布良斯家武 麻都良佐欲比賣 うなはらの おきゆくふねを かへれとか ひれふらしけむ まつらさよひめ 05 0875 由久布祢遠 布利等騰尾加祢 伊加婆加利 故保斯苦阿利家武 麻都良佐欲比賣 ゆくふねを ふりとどみかね いかばかり こほしくありけむ まつらさよひめ 05 0876 書殿餞酒日倭歌四首 05 0876 阿麻等夫夜 等利尓母賀母夜 美夜故麻提 意久利摩遠志弖 等比可弊流母能 あまとぶや とりにもがもや みやこまで おくりまをして とびかへるもの 05 0877 比等母祢能 宇良夫礼遠留尓 多都多夜麻 美麻知可豆加婆 和周良志奈牟迦 ひともねの うらぶれをるに たつたやま みまちかづかば わすらしなむか 05 0878 伊比都〃母 能知許曽斯良米 等乃斯久母 佐夫志計米夜母 吉美伊麻佐受斯弖 いひつつも のちこそしらめ とのしくも さぶしけめやも きみいまさずして 05 0879 余呂豆余尓 伊麻志多麻比提 阿米能志多 麻乎志多麻波祢 美加度佐良受弖 よろづよに いましたまひて あめのした まをしたまはね みかどさらずて 05 0880 敢布私懐歌三首 05 0880 阿麻社迦留 比奈尓伊都等世 周麻比都〃 美夜故能提夫利 和周良延尓家利 あまざかる ひなにいつとせ すまひつつ みやこのてぶり わすらえにけり 05 0881 加久能未夜 伊吉豆伎遠良牟 阿良多麻能 吉倍由久等志乃 可伎利斯良受提 かくのみや いきづきをらむ あらたまの きへゆくとしの かぎりしらずて 05 0882 阿我農斯能 美多麻〃〃比弖 波流佐良婆 奈良能美夜故尓 咩佐宜多麻波祢 あがぬしの みたまたまひて はるさらば ならのみやこに めさげたまはね 05 0882 天平二年十二月六日 筑前國司山上憶良謹上 05 0883 三嶋王後追和松浦佐用嬪面歌一首 05 0883 於登尓吉岐 目尓波伊麻太見受 佐容比賣我 必礼布理伎等敷 吉民萬通良楊満 おとにきき めにはいまだみず さよひめが ひれふりきとふ きみまつらやま 05 0884 大伴君熊凝歌二首 大典麻田陽春作 05 0884 國遠伎   路乃長手遠   意保〃斯久 計布夜須疑南  己等騰比母奈久 くにとほき みちのながてを おほほしく けふやすぎなむ ことどひもなく 05 0885 朝露乃   既夜須伎我身  比等國尓  須疑加弖奴可母 意夜能目遠保利 あさつゆの けやすきあがみ ひとくにに すぎかてぬかも おやのめをほり 05 0886 敬和為熊凝述其志歌六首 并序 筑前國守山上憶良 05 0886 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日 為相撲使ム國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸 在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 待我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父 痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰 05 0886 宇知比佐受 宮弊能保留等  多羅知斯夜 波〃何手波奈例 常斯良奴  國乃意久迦袁  百重山   越弖須疑由伎  伊都斯可母 京師乎美武等  意母比都〃 迦多良比遠礼騰 意乃何身志 伊多波斯計礼婆 玉桙乃   道乃久麻尾尓  久佐太袁利 志婆刀利志伎提 等許自母能 宇知許伊布志提 意母比都〃 奈宜伎布勢良久 國尓阿良婆  父刀利美麻之  家尓阿良婆  母刀利美麻志  世間波   迦久乃尾奈良志 伊奴時母能 道尓布斯弖夜  伊能知周疑南  一云 和何余須疑奈牟 うちひさず みやへのぼると たらちしや ははがてはなれ つねしらぬ くにのおくかを ももへやま こえてすぎゆき いつしかも みやこをみむと おもひつつ かたらひをれど おのがみし いたはしければ たまほこの みちのくまみに くさだをり しばとりしきて とこじもの うちこいふして おもひつつ なげきふせらく くににあらば ちちとりみまし いへにあらば ははとりみまし よのなかは かくのみならし いぬじもの みちにふしてや いのちすぎなむ    わがよすぎなむ 05 0887 多良知子能 波〃何目美受提 意保〃斯久 伊豆知武伎提可 阿我和可留良武 たらちしの ははがめみずて おほほしく いづちむきてか あがわかるらむ 05 0888 都祢斯良農 道乃長手袁   久礼〃〃等 伊可尓可由迦牟 可利弖波奈斯尓 一云 可例比波奈之尓 つねしらぬ みちのながてを くれくれと いかにかゆかむ かりてはなしに    かれひはなしに 05 0889 家尓阿利弖  波〃何刀利美婆 奈具佐牟流 許〃呂波阿良麻志 斯奈婆斯農等母 一云 能知波志奴等母 いへにありて ははがとりみば なぐさむる こころはあらまし しなばしぬとも    のちはしぬとも 05 0890 出弖由伎斯  日乎可俗閇都〃 家布〃〃等 阿袁麻多周良武 知〃波〃良波母 一云 波〃我迦奈斯佐 いでてゆきし ひをかぞへつつ けふけふと あをまたすらむ ちちははらはも    ははがかなしさ 05 0891 一世尓波  二遍美延農   知〃波〃袁 意伎弖夜奈何久 阿我和加礼南 一云 相別南 ひとよには ふたたびみえぬ ちちははを おきてやながく あがわかれなむ   あひわかれなむ 05 0892 貧窮問答歌一首 并短歌 05 0892 風雜    雨布流欲乃  雨雜    雪布流欲波  為部母奈久 寒之安礼婆   堅塩乎   取都豆之呂比  糟湯酒   宇知須〃呂比弖 之叵夫可比 鼻毘之毘之尓  志可登阿良農 比宜可伎撫而  安礼乎於伎弖 人者安良自等  富己呂倍騰 寒之安礼婆   麻被    引可賀布利  布可多衣   安里能許等其等 伎曽倍騰毛 寒夜須良乎   和礼欲利母 貧人乃     父母波   飢寒良牟   妻子等波  乞〃泣良牟    此時者   伊可尓之都〃可 汝代者和多流  天地者   比呂之等伊倍杼 安我多米波 狭也奈里奴流  日月波  安可之等伊倍騰 安我多米波 照哉多麻波奴  人皆可   吾耳也之可流  和久良婆尓 比等〃波安流乎 比等奈美尓 安礼母作乎   綿毛奈伎  布可多衣乃   美留乃其等 和〃氣佐我礼流 可〃布能尾 肩尓打懸    布勢伊保能 麻宜伊保乃内尓  直土尓   藁解敷而    父母波   枕乃可多尓   妻子等母波 足乃方尓   圍居而   憂吟      可麻度柔播 火氣布伎多弖受 許之伎尓波 久毛能須可伎弖 飯炊    事毛和須礼提  奴延鳥乃  能杼与比居尓  伊等乃伎提 短物乎     端伎流等  云之如     楚取    五十戸良我許恵波 寝屋度麻俤 来立呼比奴   可久婆可里 須部奈伎物能可 世間乃道 かぜまじり あめふるよの あめまじり ゆきふるよは すべもなく さむくしあれば かたしほを とりつづしろひ かすゆざけ うちすすろひて しはぶかひ はなびしびしに しかとあらぬ ひげかきなでて あれをおきて ひとはあらじと ほころへど さむくしあれば あさぶすま ひきかがふり ぬのかたきぬ ありのことごと きそへども さむきよすらを われよりも まづしきひとの ちちははは うゑこゆらむ めこどもは こふこふなくらむ このときは いかにしつつか ながよはわたる あめつちは ひろしといへど あがためは さくやなりぬる ひつきは あかしといへど あがためは てりやたまはぬ ひとみなか あのみやしかる わくらばに ひととはあるを ひとなみに あれもなれるを わたもなき ぬのかたきぬの みるのごと わわけさがれる かかふのみ かたにうちかけ ふせいほの まげいほのうちに ひたつちに わらときしきて ちちははは まくらのかたに めこどもは あとのかたに かくみゐて うれへさまよひ かまどには ほけふきたてず こしきには くものすかきて いひかしく こともわすれて ぬえとりの のどよひをるに いとのきて みじかきものを はしきると いへるがごとく しもととる さとをさがこゑは ねやどまで きたちよばひぬ かくばかり すべなきものか よのなかのみち 05 0893 世間乎   宇之等夜佐之等 於母倍杼母 飛立可祢都   鳥尓之安良祢婆 よのなかを うしとやさしと おもへども とびたちかねつ とりにしあらねば 05 0893 山上憶良頓首謹上 05 0894 好去好来歌一首反歌二首 05 0894 神代欲理  云傳久良久   虚見通  倭國者     皇神能   伊都久志吉國  言霊能   佐吉播布國等  加多利継  伊比都賀比計理 今世能   人母許等期等  目前尓   見在知在    人佐播尓  満弖播阿礼等母  高光    日御朝庭  神奈我良  愛能盛尓    天下    奏多麻比志   家子等   撰多麻比天   勅旨    反云 大命    戴持弖     唐能    遠境尓     都加播佐礼 麻加利伊麻勢 宇奈原能  邊尓母奥尓母  神豆麻利  宇志播吉伊麻須 諸能    大御神等    船舳尓 反云 布奈能閇尓 道引麻遠志   天地能   大御神等    倭    大國霊     久堅能   阿麻能見虚喩  阿麻賀氣利 見渡多麻比   事畢    還日者     又更    大御神等    船舳尓   御手打掛弖   墨縄遠   播倍多留期等久 阿遅可遠志 智可能岫欲利  大伴    御津濱備尓   多太泊尓  美船播将泊   都〃美無久 佐伎久伊麻志弖 速歸坐勢 かむよより いひつてくらく そらみつ やまとのくには すめかみの いつくしきくに ことだまの さきはふくにと かたりつぎ いひつがひけり いまのよの ひともことごと めのまへに みたりしりたり ひとさはに みちてはあれども たかひかる ひのみかど かむながら めでのさかりに あめのした まをしたまひし いへのこと えらひたまひて おほみこと    おほみこと いただきもちて もろこしの とほきさかひに つかはされ まかりいませ うなはらの へにもおきにも かむづまり うしはきいます もろもろの おほみかみたち ふなのへに  ふなのへに みちびきまをし あめつちの おほみかみたち やまとの おほくにみたま ひさかたの あまのみそらゆ あまがけり みわたしたまひ ことをはり かへらむひには またさらに おほみかみたち ふなのへに みてうちかけて すみなはを はへたるごとく あぢかをし ちかのさきより おほともの みつのはまびに ただはてに みふねははてむ つつみなく さきくいまして はやかへりませ 05 0895 反歌 05 0895 大伴    御津松原    可吉掃弖  和礼立待    速歸坐勢 おほともの みつのまつばら かきはきて われたちまたむ はやかへりませ 05 0896 難波津尓  美船泊農等   吉許延許婆 紐解佐氣弖   多知婆志利勢武 なにはつに みふねはてぬと きこえこば ひもときさけて たちばしりせむ 05 0896 天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良 謹上 大唐大使卿記室 05 0897 沈痾自哀文 山上憶良作 05 0897 竊以 朝夕佃食山野者 猶無灾害而得度世 謂常執弓箭不避六齋 所値禽獣不論大小孕及不孕並皆敘食 以此為業者也 晝夜釣漁河海者 尚有慶福而全経俗 謂漁夫潜女各有所勤 男者手把竹竿能釣波浪之上 女者腰帶鑿篭潜採深潭之底者也 况乎我従胎生迄于今日 自有修善之志 曽無作悪之心 謂聞諸悪莫作諸善奉行之教也 所以礼拜三寳 無日不勤 毎日誦経發露懺悔也 敬重百神 鮮夜有闕 謂敬拜天地諸神等也 嗟乎媿哉 我犯何罪遭此重疾 謂未知過去所造之罪若是現前所犯之過 無犯罪過何獲此病乎 初沈痾已来 年月稍多 謂経十餘年也 是時年七十有四 鬢髪斑白 筋力尫羸 不但年老復加斯病 諺曰 痛瘡潅塩 短材截端 此之謂也 四支不動 百節皆疼 身體太重 猶負鈞石 廿四銖為一兩 十六兩爲一斤 卅斤為一鈞 四鈞為一石 合一百廿斤也 懸布欲立 如折翼之鳥 倚杖且歩 此跛足之驢 吾以身已穿俗 心亦累塵 欲知禍之所伏 祟之所隠 龜卜之門 巫祝之室 無不徃問 若實若妄 随其所教 奉幣帛 無不祈禱 然而弥有増苦 曽無減差 吾聞 前代多有良醫 救療蒼生病患 至若楡柎扁鵲華他秦和緩葛稚川陶隠居張仲景等 皆是在世良醫無不除愈也 扁鵲姓秦字越人 渤海郡人也 割胸採心易而置之投以神藥即寤如平也 華他字元化 沛國譙人也 若有病結積沈重在内者 刳腸取病縫復摩膏四五日差之 追望件醫 非敢所及 若逢聖醫神藥者 仰願 割刳五蔵抄探百病 尋達膏肓之隩處 肓鬲也 心下為膏 攻之不可 達之不及 藥不至焉 欲顯二竪之逃匿 謂晉景公疾秦醫緩視而還者可謂為鬼所敘也 命根既盡 終其天年 尚為哀 聖人賢人者一切含霊誰免此道乎 何况生録未半為鬼枉敘 顏色壮年 為病横困者乎 在世大患 孰甚于此 志恠記云 廣平前大守北海徐玄方之女 年十八歳而死 其霊謂馮馬子曰 案我生録當壽八十餘歳 今為妖鬼所枉敘已経四年 此遇馮馬子乃得更活是也 内教云瞻浮州人壽百二十歳 謹案此數非必不得過此 故壽延経云 有比丘名曰難達 臨命終時詣佛請壽 則延十八年 但善為者天地相畢 其壽夭者業報所招 随其脩短而為半也 未盈斯笇而遄死去 故曰未半也 任徴君曰 病従口入 故君子節其飲食 由斯言之 人遇疾病不必妖鬼 夫醫方諸家之廣説 飲食禁忌之厚訓 知易行難之鈍情 三者盈目滿耳由来久矣 抱朴子曰 人但不知其當死之日 故不憂耳 若誠知羽翮可得延期者 必将為之 以此而觀 乃知我病盖斯飲食所招而不能自治者乎 帛公略説曰 伏思自勵以斯長生 〃可貪也 死可畏也 天地之大徳曰生 故死人不及生鼠 雖為王侯 一日絶氣 積金如山 誰為富哉 威勢如海 誰為貴哉 遊仙窟曰 九泉下人 一錢不直 孔子曰 受之於天 不可變易者形也 受之於命 不可請益者壽也 見鬼谷先生相人書 故知生之極貴命之至重 欲言〃窮 何以言之 欲慮〃絶 何由慮之 惟以人無賢愚 世無古今 咸悉嗟歎 歳月競流 晝夜不息 曽子曰 徃而不反者年也 宣尼臨川之歎亦是矣也 老疾相催 朝夕侵動 一代懽樂未盡席前 魏文惜時賢詩曰 未盡西苑夜劇作北邙塵也 千年愁苦更継坐後 古詩云 人生不滿百何懐千年憂矣 若夫群生品類 莫不皆以有盡之身並求無窮之命 所以道人方士 自負丹経入於名山而合藥之者 養性怡神以求長生 抱朴子曰 神農云 百病不愈 安得長生 帛公又曰 生好物也 死悪物也 若不幸而不得長生者 猶以生涯無病患者為福大哉 今吾為病見悩不得臥坐 向東向西莫知所為 無福至甚惣集于我 人願天従 如有實者 仰願 頓除此病頼得如平 以鼠為喩 豈不愧乎 已見上也 悲歎俗道假合即離易去難留詩一首 并序 竊以 釋慈之示教 謂釋氏慈氏 先開三歸五戒 謂歸依佛法僧 而化法界 謂一不敘生二不偸盗三不邪婬四不妄語五不飲酒 周孔之垂訓 前張三綱五教 謂君臣父子夫婦 以濟邦國 謂父義母慈兄友弟順子孝 故知 引導雖二 得悟惟一也 但以世無恒質 所以陵谷更變 人無定期 所以壽夭不同 撃目之間 百齡已盡 申臂之頃 千代亦空 旦作席上之主 夕為泉下之客 白馬走来 黄泉何及 隴上青松空懸信劔 野中白楊但吹悲風 是知 世俗本無隠遁之室 原野唯有長夜之臺 先聖已去 後賢不留 如有贖而可免者 古人誰無價金乎 未聞獨存遂見世終者 所以維摩大士疾玉體于方丈 釋迦能仁掩金容于雙樹 内教曰 不欲黒闇之後来 莫入徳天之先至 徳天者生也 黒闇者死也 故知 生必有死 〃若不欲不如不生 况乎縦覺始終之恒數 何慮存亡之大期者也 俗道變化猶撃目 人事経紀如申臂 空与浮雲行大虚 心力共盡無所寄 05 0897 老身重病経年辛苦及思兒等歌七首 長一首 短六首 05 0897 霊剋    内限者 謂瞻浮州人壽一百二十年也 平氣久   安久母阿良牟遠  事母無   裳無母阿良牟遠  世間能   宇計久都良計久 伊等能伎提 痛伎瘡尓波   鹹塩遠   潅知布何其等久   益〃母   重馬荷尓    表荷打等   伊布許等能其等 老尓弖阿留  我身上尓    病遠等   加弖阿礼婆   晝波母  歎加比久良志  夜波母  息豆伎阿可志  年長久   夜美志渡礼婆  月累    憂吟比     許等〃〃波 斯奈〃等思騰   五月蝿奈周 佐和久兒等遠  宇都弖〃波 死波不知   見乍阿礼婆  心波母延農   可尓可久尓 思和豆良比   祢能尾志奈可由 たまきはる うちのかぎりは          たひらけく やすくもあらむを こともなく もなくもあらむを よのなかの うけくつらけく いとのきて いたききずには からしほを そそくちふがごとく ますますも おもきうまにに うはにうつと いふことのごと おいにてある あがみのうへに やまひをと くはへてあれば ひるはも なげかひくらし よるはも いきづきあかし としながく やみしわたれば つきかさね うれへさまよひ ことことは しななとおもへど さばへなす さわくこどもを うつてては しにはしらず みつつあれば こころはもえぬ かにかくに おもひわづらひ ねのみしなかゆ 05 0898 反歌 05 0898 奈具佐牟留 心波奈之尓   雲隠    鳴徃鳥乃    祢能尾志奈可由 なぐさむる こころはなしに くもがくり なきゆくとりの ねのみしなかゆ 05 0899 周弊母奈久 苦志久阿礼婆  出波之利  伊奈〃等思騰   許良尓佐夜利奴 すべもなく くるしくあれば いではしり いななとおもへど こらにさやりぬ 05 0900 富人能   家能子等能   伎留身奈美 久多志須都良牟 絁綿良波母 とみひとの いへのこどもの きるみなみ くたしすつらむ きぬわたらはも 05 0901 麁妙能   布衣遠陁尓   伎世難尓  可久夜歎敢   世牟周弊遠奈美 あらたへの ぬのきぬをだに きせかてに かくやなげかむ せむすべをなみ 05 0902 水沫奈須  微命母     栲縄能   千尋尓母何等  慕久良志都 みなわなす もろきいのちも たくなはの ちひろにもがと ねがひくらしつ 05 0903 倭文手纒  數母不在    身尓波在等  千年尓母何等  意母保由留加母 しつたまき かずにもあらぬ みにはあれど ちとせにもがと おもほゆるかも 05 0903 去神龜二年作之 但以類故更載於玆 天平五年六月丙申朔三日戊戌作 05 0904 戀男子名古日歌三首 05 0904 長一首 短二首 05 0904 世人之   貴慕      七種之   寳毛我波    何為    和我中能  産礼出有    白玉之   吾子古日者   明星之   開朝者     敷多倍乃  登許能邊佐良受 立礼杼毛  居礼杼毛 登母尓戯礼   夕星乃   由布弊尓奈礼婆 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛   表者奈佐我利  三枝之   中尓乎祢牟登  愛久    志我可多良倍婆 何時可毛  比等〃奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃   於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃     尓布敷可尓 覆来礼婆    世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡   弖尓登利毛知弖 天神    阿布藝許比乃美 地祇    布之弖額拜   可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等  立阿射里  我例乞能米登  須臾毛   余家久波奈之尓 漸〃    可多知都久保里 朝〃    伊布許登夜美 霊剋    伊乃知多延奴礼 立乎杼利  足須里佐家婢  伏仰    武祢宇知奈氣吉 手尓持流  安我古登婆之都 世間之道 よのひとの たふとびねがふ ななくさの たからもわれは なにせむに わがなかの うまれいでたる しらたまの あがこふるひは あかほしの あくるあしたは しきたへの とこのべさらず たてれども をれども ともにたはぶれ ゆふつつの ゆふべになれば いざねよと てをたづさはり ちちははも うへはなさがり さきくさの なかにをねむと うつくしく しがかたらへば いつしかも ひととなりいでて あしけくも よけくもみむと おほぶねの おもひたのむに おもはぬに よこしまかぜの にふふかに おほひきぬれば せむすべの たどきをしらに しろたへの たすきをかけ まそかがみ てにとりもちて あまつかみ あふぎこひのみ くにつかみ ふしてぬかつき かからずも かかりも かみのまにまにと たちあざり あれこひのめど しましくも よけくはなしに やくやくに かたちつくほり あさなさな いふことやみ たまきはる いのちたえぬれ たちをどり あしすりさけび ふしあふぎ むねうちなげき てにもてる あがことばしつ よのなかのみち 05 0905 反歌 05 0905 和可家礼婆 道行之良士   末比波世武 之多敝乃使   於比弖登保良世 わかければ みちゆきしらじ まひはせむ したへのつかひ おひてとほらせ 05 0906 布施於吉弖 吾波許比能武  阿射無加受 多太尓率去弖  阿麻治思良之米 ふせおきて あれはこひのむ あざむかず ただにゐゆきて あまぢしらしめ 05 0906 右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉 06 0907 雜歌 06 0907 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首 并短歌 06 0907 瀧上之   御舟乃山尓    水枝指   四時尓生有   刀我乃樹能 弥継嗣尓    萬代    如是二二知三  三芳野之  蜻蛉乃宮者   神柄香   貴将有     國柄鹿   見欲将有    山川乎   清〃      諾之神代従   定家良思母 たぎのうへの みふねのやまに みづえさし しじにおひたる とがのきの いやつぎつぎに よろづよに かくししらさむ みよしのの あきづのみやは かむからか たふとくあらむ くにからか みがほしからむ やまかはを きよみさやけみ うべしかむよゆ さだめけらしも 06 0908 反歌二首 06 0908 毎年    如是裳見壮鹿  三吉野乃  清河内之    多藝津白浪 としのはに かくもみてしか みよしのの きよきかふちの たぎつしらなみ 06 0909 山高三   白木綿花    落多藝追  瀧之河内者   雖見不飽香聞 やまだかみ しらゆふばなに おちたぎつ たぎのかふちは みれどあかぬかも 06 0910 或本反歌曰 06 0910 神柄加   見欲賀藍    三吉野乃  瀧乃河内者   雖見不飽鴨 かむからか みがほしからむ みよしのの たぎのかふちは みれどあかぬかも 06 0911 三芳野之  秋津乃川之   万世尓   断事無     又還将見 みよしのの あきづのかはの よろづよに たゆることなく またかへりみむ 06 0912 泊瀬女   造木綿花    三吉野   瀧乃水沫    開来受屋 はつせめの つくるゆふばな みよしのの たぎのみなわに さきにけらずや 06 0913 車持朝臣千年作歌一首 并短歌 06 0913 味凍   綾丹乏敷    鳴神乃   音耳聞師    三芳野之  真木立山湯   見降者   川之瀬毎    開来者   朝霧立    夕去者   川津鳴奈利   紐不解   客尓之有者   吾耳為而  清川原乎    見良久之惜蒙 うまこり あやにともしく なるかみの おとのみききし みよしのの まきたつやまゆ みおろせば かはのせごとに あけくれば あさぎりたつ ゆふされば かはづなくなり ひもとかぬ たびにしあれば あのみして きよきかはらを みらくしをしも 06 0914 反歌一首 06 0914 瀧上乃    三船之山者   雖畏    思忘      時毛日毛無 たぎのうへの みふねのやまは かしこけど おもひわするる ときもひもなし 06 0915 或本反歌曰 06 0915 千鳥鳴   三吉野川之   川音    止時梨二    所思公 ちどりなく みよしのがはの かはおとの やむときなしに おもほゆるきみ 06 0916 茜刺    日不並二    吾戀    吉野之河乃   霧丹立乍 あかねさす ひならべなくに あがこひは よしののかはの きりにたちつつ 06 0916 右年月不審 但以歌類載於此次焉 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作 06 0917 神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 06 0917 安見知之  和期大王之   常宮等   仕奉流     左日鹿野由 背匕尓所見   奥嶋    清波瀲尓    風吹者   白浪左和伎   潮干者   玉藻苅管    神代従   然曽尊吉    玉津嶋夜麻 やすみしし わごおほきみの とこみやと つかへまつれる さひかのゆ そがひにみゆる おきつしま きよきなぎさに かぜふけば しらなみさわき しほふれば たまもかりつつ かむよより しかぞたふとき たまつしまやま 06 0918 反歌二首 06 0918 奥嶋    荒礒之玉藻   潮干滿   伊隠去者    所念武香聞 おきつしま ありそのたまも しほひみち いかくりゆかば おもほえむかも 06 0919 若浦尓    塩滿来者    滷乎無美  葦邊乎指天   多頭鳴渡 わかのうらに しほみちくれば かたをなみ あしべをさして たづなきわたる 06 0919 右年月不記 但偁従駕玉津嶋也 因今撿注行幸年月以載之焉 06 0920 神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首 并短歌 06 0920 足引之   御山毛清   落多藝都   芳野河之    河瀬乃   浄乎見者    上邊者   千鳥數鳴    下邊者   河津都麻喚   百礒城乃  大宮人毛    越乞尓   思自仁思有者  毎見    文丹乏     玉葛    絶事無     萬代尓   如是霜願跡   天地之   神乎曽禱    恐有等毛 あしひきの みやまもさやに おちたぎつ よしののかはの かはのせの きよきをみれば かみへには ちどりしばなく しもへには かはづつまよぶ ももしきの おほみやひとも をちこちに しじにしあれば みるごとに あやにともしみ たまかづら たゆることなく よろづよに かくしもがもと あめつちの かみをぞいのる かしこけれども 06 0921 反歌二首 06 0921 萬代    見友将飽八   三芳野乃  多藝都河内之  大宮所 よろづよに みともあかめや みよしのの たぎつかふちの おほみやところ 06 0922 人皆乃   壽毛吾母    三吉野乃  多吉能床磐乃  常有沼鴨 ひとみなの いのちもわれも みよしのの たぎのとこはの つねにあらぬかも 06 0923 山部宿祢赤人作歌二首 并短歌 06 0923 八隅知之  和期大王乃   高知為   芳野宮者    立名附   青垣隠     河次乃   清河内曽    春部者  花咲乎遠里   秋去者   霧立渡     其山之   弥益〃尓    此河之   絶事無     百石木能  大宮人者    常将通 やすみしし わごおほきみの たかしらす よしののみやは たたなづく あをかきごもり かはなみの きよきかふちぞ はるへは はなさきををり あきされば きりたちわたる そのやまの いやますますに このかはの たゆることなく ももしきの おほみやひとは つねにかよはむ 06 0924 反歌二首 06 0924 三吉野乃  象山際乃    木末尓波  幾許毛散和口  鳥之聲可聞 みよしのの きさやまのまの こぬれには ここだもさわく とりのこゑかも 06 0925 烏玉之   夜乃深去者   久木生留   清河原尓    知鳥數鳴 ぬばたまの よのふけゆけば ひさぎおふる きよきかはらに ちどりしばなく 06 0926 安見知之  和期大王波   見吉野乃  飽津之小野笶  野上者    跡見居置而   御山者   射目立渡    朝獵尓   十六履起之   夕狩尓   十里蹋立   馬並而   御獵曽立為   春之茂野尓 やすみしし わごおほきみは みよしのの あきづのをのの ののうへには とみすゑおきて みやまには いめたてわたし あさがりに ししふみおこし ゆふがりに とりふみたて うまなめて みかりぞたたす はるのしげのに 06 0927 反歌一首 06 0927 足引之   山毛野毛    御獵人   得物矢手挾   散動而有所見 あしひきの やまにものにも みかりひと さつやたばさみ さわきてありみゆ 06 0927 右不審先後 但以便故載於此次 06 0928 冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首 并短歌 06 0928 忍照   難波乃國者   葦垣乃   古郷跡     人皆之   念息而     都礼母無  有之間尓    續麻成   長柄之宮尓   真木柱   太高敷而    食國乎   治賜者     奥鳥    味経乃原尓   物部乃   八十伴雄者   廬為而   都成有     旅者安礼十方 おしてる なにはのくには あしかきの ふりにしさとと ひとみなの おもひやすみて つれもなく ありしあひだに うみをなす ながらのみやに まきばしら ふとたかしきて をすくにを をさめたまへば おきつとり あぢふのはらに もののふの やそとものをは いほりして みやこなしたり たびにはあれども 06 0929 反歌二首 06 0929 荒野等丹  里者雖有    大王之   敷座時者    京師跡成宿 あらのらに さとはあれども おほきみの しきますときは みやことなりぬ 06 0930 海未通女  棚無小舟    榜出良之  客乃屋取尓   梶音所聞 あまをとめ たななしをぶね こぎづらし たびのやどりに かぢのおときこゆ 06 0931 車持朝臣千年作歌一首 并短歌 06 0931 鯨魚取   濱邊乎清三   打靡    生玉藻尓    朝名寸二  千重浪縁   夕菜寸二  五百重波因   邊津浪之  益敷布尓    月二異二  日日雖見    今耳二   秋足目八方   四良名美乃 五十開廻有   住吉能濱 いさなとり はまへをきよみ うちなびき おふるたまもに あさなぎに ちへなみよる ゆふなぎに いほへなみよる へつなみの いやしくしくに つきにけに ひにひにみとも いまのみに あきだらめやも しらなみの いさきめぐれる すみのえのはま 06 0932 反歌一首 06 0932 白浪之   千重来縁流   住吉能   岸乃黄土粉   二寶比天由香名 しらなみの ちへにきよする すみのえの きしのはにふに にほひてゆかな 06 0933 山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 06 0933 天地之   遠我如     日月之  長我如     臨照   難波乃宮尓   和期大王   國所知良之   御食都國  日之御調等  淡路乃  野嶋之海子乃  海底    奥津伊久利二  鰒珠    左盤尓潜出   船並而   仕奉之     貴見礼者 あめつちの とほきがごとく ひつきの ながきがごとく おしてる なにはのみやに わごおほきみ くにしらすらし みけつくに ひのみつきと あはぢの のしまのあまの わたのそこ おきついくりに あはびたま さはにかづきで ふねなめて つかへまつるし たふとしみれば 06 0934 反歌一首 06 0934 朝名寸二  梶音所聞     三食津國  野嶋乃海子乃  船二四有良信 あさなぎに かぢのおときこゆ みけつくに のしまのあまの ふねにしあるらし 06 0935 三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首 并短歌 06 0935 名寸隅乃  船瀬従所見   淡路嶋   松帆乃浦尓   朝名藝尓  玉藻苅管    暮菜寸二  藻塩焼乍    海未通女  有跡者雖聞   見尓将去  餘四能無者   大夫之   情者梨荷    手弱女乃  念多和美手   俳佪    吾者衣戀流   船梶雄名三 なきすみの ふなせゆみゆる あはぢしま まつほのうらに あさなぎに たまもかりつつ ゆふなぎに もしほやきつつ あまをとめ ありとはきけど みにゆかむ よしのなければ ますらをの こころはなしに たわやめの おもひたわみて たもとほり あれはぞこふる ふねかぢをなみ 06 0936 反歌二首 06 0936 玉藻苅   海未通女等   見尓将去  船梶毛欲得   浪高友 たまもかる あまをとめども みにゆかむ ふねかぢもがも なみたかくとも 06 0937 徃廻    雖見将飽八   名寸隅乃  船瀬之濱尓   四寸流思良名美 ゆきめぐり みともあかめや なきすみの ふなせのはまに しきるしらなみ 06 0938 山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 06 0938 八隅知之  吾大王乃    神随    高所知流   稲見野能  大海乃原笶    荒妙    藤井乃浦尓   鮪釣等   海人船散動   塩焼等   人曽左波尓有   浦乎吉美  宇倍毛釣者為  濱乎吉美  諾毛塩焼    蟻徃来   御覧母知師   清白濱 やすみしし わごおほきみの かむながら たかしらせる いなみのの おほうみのはらの あらたへの ふぢゐのうらに しびつると あまぶねさわく しほやくと ひとぞさはにある うらをよみ うべもつりはす はまをよみ うべもしほやく ありがよひ めさくもしるし きよきしらはま 06 0939 反歌三首 06 0939 奥浪 邊波安美 射去為登 藤江乃浦尓 船曽動流 おきつなみ へなみしづけみ いざりすと ふぢえのうらに ふねぞさわける 06 0940 不欲見野乃 淺茅押靡 左宿夜之 氣長在者 家之小篠生 いなみのの あさぢおしなべ さぬるよの けながくしあれば いへししのはゆ 06 0941 明方    潮干乃道乎   従明日者  下咲異六    家近附者 あかしがた しほひのみちを あすよりは したゑましけむ いへちかづけば 06 0942 過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 06 0942 味澤相   妹目不數見而  敷細乃   枕毛不巻    櫻皮纒   作流舟二    真梶貫   吾榜来者    淡路乃  野嶋毛過   伊奈美嬬  辛荷乃嶋之   嶋際従   吾宅乎見者   青山乃   曽許十方不見  白雲毛   千重尓成来沼  許伎多武流 浦乃盡     徃隠    嶋乃埼〃    隈毛不置   憶曽吾来     客乃氣長弥 あぢさはふ いもがめかれて しきたへの まくらもまかず かにはまき つくれるふねに まかぢぬき わがこぎくれば あはぢの のしまもすぎ いなみつま からにのしまの しまのまゆ わぎへをみれば あをやまの そこともみえず しらくもも ちへになりきぬ こぎたむる うらのことごと ゆきかくる しまのさきざき くまもおかず おもひぞあがくる たびのけながみ 06 0943 反歌三首 06 0943 玉藻苅   辛荷乃嶋尓   嶋廻為流  水烏二四毛有哉 家不念有六 たまもかる からにのしまに しまみする うにしもあれや いへおもはざらむ 06 0944 嶋隠    吾榜来者    乏毳    倭邊上     真熊野之船 しまがくり わがこぎくれば ともしかも やまとへのぼる まくまののふね 06 0945 風吹者   浪可将立跡   伺候尓   都太乃細江尓  浦隠居 かぜふけば なみかたたむと さもらひに つだのほそえに うらがくりをり 06 0946 過敏馬浦時山部宿祢赤人作歌一首 并短歌 06 0946 御食向   淡路乃嶋二   直向    三犬女乃浦能  奥部庭   深海松採   浦廻庭   名告藻苅   深見流乃  見巻欲跡    莫告藻之  己名惜三    間使裳   不遣而吾者   生友奈重二 みけむかふ あはぢのしまに ただむかふ みぬめのうらの おきへには ふかみるとる うらみには なのりそかる ふかみるの みまくほしけど なのりその おのがなをしみ まづかひも やらずてわれは いけりともなし 06 0947 反歌一首 06 0947 為間乃海人之 塩焼衣乃    奈礼名者香 一日母君乎   忘而将念 すまのあまの しほやききぬの なれなばか ひとひもきみを わすれておもはむ 06 0947 右作歌年月未詳也 但以類故載於此次 06 0948 四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首 并短歌 06 0948 真葛延   春日之山者   打靡    春去徃跡    山上丹   霞田名引    高圓尓   鸎鳴沼     物部乃   八十友能壮者  折木四哭之 来継比日    如此續   常丹有脊者   友名目而  遊物尾      馬名目而  徃益里乎    待難丹   吾為春乎    决巻毛   綾尓恐     言巻毛   湯〃敷有跡    豫     兼而知者    千鳥鳴   其佐保川丹   石二生    菅根取而    之努布草  解除而益乎   徃水丹   潔而益乎    天皇之   御命恐     百礒城之  大宮人之    玉桙之   道毛不出    戀比日 まくずはふ かすがのやまは うちなびく はるさりゆくと やまのへに かすみたなびく たかまとに うぐひすなきぬ もののふの やそとものをは かりがねの きつぐこのころ かくつぎて つねにありせば ともなめて あそばましものを うまなめて ゆかましさとを まちがてに わがするはるを かけまくも あやにかしこし いはまくも ゆゆしくあらむと あらかじめ かねてしりせば ちどりなく そのさほがはに いはにおふる すがのねとりて しのふくさ はらへてましを ゆくみづに みそぎてましを おほきみの みことかしこみ ももしきの おほみやひとの たまほこの みちにもいでず こふるこのころ 06 0949 反歌一首 06 0949 梅柳    過良久惜    佐保乃内尓  遊事乎     宮動〃尓 うめやなぎ すぐらくをしみ さほのうちに あそびしことを みやもとどろに 06 0949 右神龜四年正月 數王子及諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 作者未詳 06 0950 五年戊辰幸于難波宮時作歌四首 06 0950 大王之   界賜跡     山守居    守云山尓     不入者不止 おほきみの さかひたまふと やまもりすゑ もるといふやまに いらずはやまじ 06 0951 見渡者   近物可良    石隠    加我欲布珠乎  不取不已 みわたせば ちかきものから いそがくり かがよふたまを とらずはやまじ 06 0952 韓衣    服楢乃里之   嬬待尓   玉乎師付牟   好人欲得 からころも きならのさとの つままつに たまをしつけむ よきひともがも 06 0953 竿壮鹿之  鳴奈流山乎   越将去   日谷八君    當不相将有 さをしかの なくなるやまを こえゆかむ ひだにやきみが はたあはざらむ 06 0953 右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作之也 06 0954 膳王歌一首 06 0954 朝波    海邊尓安左里為  暮去者   倭部越     鴈四乏母 あしたには うみへにあさりし ゆふされば やまとへこゆる かりしともしも 06 0954 右作歌之年不審也 但以歌類便載此次 06 0955 大宰小貳石川朝臣足人歌一首 06 0955 刺竹之   大宮人乃    家跡住   佐保能山乎者  思哉毛君 さすたけの おほみやひとの いへとすむ さほのやまをば おもふやもきみ 06 0956 帥大伴卿和歌一首 06 0956 八隅知之  吾大王乃    御食國者  日本毛此間毛  同登曽念 やすみしし わごおほきみの をすくには やまともここも おやじとぞおもふ 06 0957 冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述懐作歌 帥大伴卿歌一首 06 0957 去来兒等  香椎乃滷尓   白妙之   袖左倍所沾而  朝菜採手六 いざこども かしひのかたに しろたへの そでさへぬれて あさなつみてむ 06 0958 大貳小野老朝臣歌一首 06 0958 時風    應吹成奴    香椎滷   潮干汭尓    玉藻苅而名 ときつかぜ ふくべくなりぬ かしひがた しほひのうらに たまもかりてな 06 0959 豊前守宇努首男人歌一首 06 0959 徃還    常尓我見之   香椎滷   従明日後尓波  見縁母奈思 ゆきがへり つねにわがみし かしひがた あすゆのちには みむよしもなし 06 0960 帥大伴卿遥思芳野離宮作歌一首 06 0960 隼人乃   湍門乃磐母   年魚走   芳野之瀧尓   尚不及家里 はやひとの せとのいはほも あゆはしる よしののたぎに なほしかずけり 06 0961 帥大伴卿宿次田温泉聞鶴喧作歌一首 06 0961 湯原尓   鳴蘆多頭者   如吾    妹尓戀哉    時不定鳴 ゆのはるに なくあしたづは あがごとく いもにこふれか ときわかずなく 06 0962 天平二年庚午 勅遣擢駿馬使大伴道足宿祢時歌一首 06 0962 奥山之   磐尓蘿生    恐毛    問賜鴨     念不堪國 おくやまの いはにこけむし かしこくも とひたまふかも おもひあへなくに 06 0962 右 勅使大伴道足宿祢饗于帥家 此日會集衆諸相誘驛使葛井連廣成言須作歌詞 登時廣成應聲即吟此歌 06 0963 冬十一月大伴坂上郎女發帥家上道超筑前國宗形郡名兒山之時作歌一首 06 0963 大汝    小彦名能    神社者   名著始鷄目   名耳乎  名兒山跡負而   吾戀之   千重之一重裳  奈具佐米七國 おほなむぢ すくなびこなの かみこそは なづけそめけめ なのみを なごやまとおひて あがこふる ちへのひとへも なぐさめなくに 06 0964 同坂上郎女向京海路見濱貝作歌一首 06 0964 吾背子尓  戀者苦     暇有者    拾而将去    戀忘貝 わがせこに こふればくるし いとまあらば ひりひてゆかむ こひわすれがひ 06 0965 冬十二月大宰帥大伴卿上京時娘子作歌二首 06 0965 凡有者   左毛右毛将為乎 恐跡    振痛袖乎    忍而有香聞 おほならば かもかもせむを かしこみと ふりたきそでを しのびてあるかも 06 0966 倭道者   雲隠有     雖然    余振袖乎    無礼登母布奈 やまとぢは くもがくりたり しかれども わがふるそでを なめしともふな 06 0966 右大宰帥大伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌 06 0967 大納言大伴卿和歌二首 06 0967 日本道乃  吉備乃兒嶋乎  過而行者   筑紫乃子嶋   所念香聞 やまとぢの きびのこしまを すぎてゆかば つくしのこしま おもほえむかも 06 0968 大夫跡   念在吾哉    水莖之   水城之上尓   泣将拭 ますらをと おもへるわれや みづくきの みづきのうへに なみたのごはむ 06 0969 三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首 06 0969 須臾    去而見壮鹿   神名火乃  淵者淺而    瀬二香成良武 しましくも ゆきてみてしか かむなびの ふちはあせにて せにかなるらむ 06 0970 指進乃 栗栖乃小野之  芽花    将落時尓之   行而手向六     くるすのをのの はぎのはな ちらむときにし ゆきてたむけむ 06 0971 四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首 并短歌 06 0971 白雲乃   龍田山乃    露霜尓   色附時丹    打超而   客行公者    五百隔山  伊去割見   賊守    筑紫尓至    山乃曽伎  野之衣寸見世常 伴部乎   班遣之     山彦乃   将應極     谷潜乃   狭渡極     國方乎   見之賜而   冬木成   春去行者    飛鳥乃   早御来     龍田道之  岳邊乃路尓   丹管士乃  将薫時能    櫻花    将開時尓    山多頭能  迎参出六    公之来益者 しらくもの たつたのやまの つゆしもに いろづくときに うちこえて たびゆくきみは いほへやま いゆきさくみ あたまもる つくしにいたり やまのそき ののそきみよと とものへを あかちつかはし やまびこの こたへむきはみ たにぐくの さわたるきはみ くにかたを めしたまひて ふゆこもり はるさりゆかば とぶとりの はやくきまさね たつたぢの をかへのみちに につつじの にほはむときの さくらばな さきなむときに やまたづの むかへまゐでむ きみしきまさば 06 0972 反歌一首 06 0972 千萬乃   軍奈利友    言擧不為   取而可来    男常曽念 ちよろづの いくさなりとも ことあげせず とりてきぬべき をとことぞおもふ 06 0972 右撿補任文八月十七日任東山〃陰西海節度使 06 0973 天皇賜酒節度使卿等御歌一首 并短歌 06 0973 食國    遠乃御朝庭尓  汝等之   如是退去者   平久    吾者将遊    手抱而   我者将御在   天皇朕   宇頭乃御手以  掻撫曽   祢宜賜   打撫曽   祢宜賜   将還来日    相飲酒曽    此豊御酒者 をすくにの とほのみかどに いましらし かくまかりなば たひらけく われはあそばむ たむだきて われはいまさむ すめらわれ うづのみてもち かきなでぞ ねぎたまふ うちなでぞ ねぎたまふ かへりこむひに あひのまむきぞ このとよみきは 06 0974 反歌一首 06 0974 大夫之   去跡云道曽    凡可尓   念而行勿    大夫之伴 ますらをの ゆくといふみちぞ おほろかに おもひてゆくな ますらをのとも 06 0974 右御歌者或云太上天皇御製也 06 0975 中納言安倍廣庭卿歌一首 06 0975 如是為管  在久乎好叙   霊剋    短命乎      長欲為流 かくしつつ あらくをよみぞ たまきはる みじかきいのちを ながくほりする 06 0976 五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首 06 0976 難波方   潮干乃奈凝   委曲見   在家妹之    待将問多米 なにはがた しほひのなごり よくみてむ いへなるいもが まちとはむため 06 0977 直超乃   此徑尓弖師   押照哉   難波乃海跡   名附家良思蒙 ただこえの このみちにてし おしてるや なにはのうみと なづけけらしも 06 0978 山上臣憶良沈痾之時歌一首 06 0978 士也母   空應有      萬代尓   語續可     名者不立之而 をとこやも むなしくあるべき よろづよに かたりつぐべき なはたてずして 06 0978 右一首山上憶良臣沈痾之時 藤原朝臣八束使河邊朝臣東人令問所疾之状 於是憶良臣報語已畢 有須拭涕悲嘆口吟此歌 06 0979 大伴坂上郎女与姪家持従佐保還歸西宅歌一首 06 0979 吾背子我  著衣薄      佐保風者  疾莫吹     及家左右 わがせこが けるころもうすし さほかぜは いたくなふきそ いへにいたるまで 06 0980 安倍朝臣蟲麻呂月歌一首 06 0980 雨隠    三笠乃山乎   高御香裳  月乃不出来   夜者更降管 あまごもり みかさのやまを たかみかも つきのいでこぬ よはふけにつつ 06 0981 大伴坂上郎女月歌三首 06 0981 獵高乃   高圓山乎    高弥鴨   出来月乃    遅将光 かりたかの たかまとやまを たかみかも いでくるつきの おそくてるらむ 06 0982 烏玉乃   夜霧立而    不清    照有月夜乃   見者悲沙 ぬばたまの よぎりのたちて おほほしく てれるつくよの みればかなしさ 06 0983 山葉    左佐良榎壮子  天原    門度光     見良久之好藻 やまのはの ささらえをとこ あまのはら とわたるひかり みらくしよしも 06 0983 右一首歌或云 月別名曰佐散良衣壮士也 縁此辞作此歌 06 0984 豊前國娘子月歌一首 娘子字曰大宅姓氏未詳也 06 0984 雲隠    去方乎無跡   吾戀    月哉君之    欲見為流 くもがくり ゆくへをなみと あがこふる つきをかきみが みまくほりする 06 0985 湯原王月歌二首 06 0985 天尓座   月讀壮子    幣者将為  今夜乃長者   五百夜継許増 あめにます つくよみをとこ まひはせむ こよひのながさ いほよつぎこそ 06 0986 愛也思   不遠里乃    君来跡   大能備尓鴨   月之照有 はしきやし まちかきさとの きみこむと おほのびにかも つきのてりたる 06 0987 藤原八束朝臣月歌一首 06 0987 待難尓   余為月者    妹之著   三笠山尓    隠而有来 まちがてに わがするつきは いもがきる みかさのやまに かくりてありけり 06 0988 市原王宴禱父安貴王歌一首 06 0988 春草者   後波落易    巖成    常磐尓座    貴吾君 はるくさは のちはうつろふ いはほなす ときはにいませ たふときあがきみ 06 0989 湯原王打酒歌一首 06 0989 焼刀之   加度打放    大夫之   禱豊御酒尓   吾酔尓家里 やきたちの かどうちはなち ますらをの ほくとよみきに われゑひにけり 06 0990 紀朝臣鹿人跡見茂岡之松樹歌一首 06 0990 茂岡尓   神佐備立而   榮有    千代松樹乃   歳之不知久 しげをかに かむさびたちて さかえたる ちよまつのきの としのしらなく 06 0991 同鹿人至泊瀬河邊作歌一首 06 0991 石走    多藝千流留   泊瀬河   絶事無     亦毛来而将見 いはばしり たぎちながるる はつせがは たゆることなく またもきてみむ 06 0992 大伴坂上郎女詠元興寺之里歌一首 06 0992 古郷之   飛鳥者雖有   青丹吉   平城之明日香乎 見樂思好裳 ふるさとの あすかはあれど あをによし ならのあすかを みらくしよしも 06 0993 同坂上郎女初月歌一首 06 0993 月立而   直三日月之   眉根掻   氣長戀之    君尓相有鴨 つきたちて ただみかづきの まよねかき けながくこひし きみにあへるかも 06 0994 大伴宿祢家持初月歌一首 06 0994 振仰而   若月見者    一目見之  人乃眉引    所念可聞 ふりさけて みかづきみれば ひとめみし ひとのまよびき おもほゆるかも 06 0995 大伴坂上郎女宴親族歌一首 06 0995 如是為乍  遊飲與     草木尚   春者生管    秋者落去 かくしつつ あそびのみこそ くさきすら はるはおひつつ あきはちりゆく 06 0996 六年甲戌海犬養宿祢岡麻呂應 詔歌一首 06 0996 御民吾   生有驗在     天地之   榮時尓     相樂念者 みたみわれ いけるしるしあり あめつちの さかゆるときに あへらくもへば 06 0997 春三月幸于難波宮之時歌六首 06 0997 住吉乃   粉濱之四時美  開藻不見  隠耳哉     戀度南 すみのえの こはまのしじみ あけもみず こもりてのみや こひわたりなむ 06 0997 右一首作者未詳 06 0998 如眉    雲居尓所見   阿波乃山  懸而榜舟    泊不知毛 まよのごと くもゐにみゆる あはのやま かけてこぐふね とまりしらずも 06 0998 右一首船王作 06 0999 従千沼廻  雨曽零来    四八津之白水郎 綱手乾有    沾将堪香聞 ちぬみより あめぞふりくる しはつのあま  つなてほしたり ぬれもあへむかも 06 0999 右一首遊覧住吉濱還宮之時道上守部王應 詔作歌 06 1000 兒等之有者  二人将聞乎   奥渚尓   鳴成多頭乃   暁之聲 こらしあらば ふたりきかむを おきつすに なくなるたづの あかときのこゑ 06 1000 右一首守部王作 06 1001 大夫者   御獵尓立之   未通女等者 赤裳須素引   清濱備乎 ますらをは みかりにたたし をとめらは あかもすそびく きよきはまびを 06 1001 右一首山部宿祢赤人作 06 1002 馬之歩    押止駐余    住吉之   岸乃黄土    尓保比而将去 うまのあゆみ おさへとどめよ すみのえの きしのはにふに にほひてゆかむ 06 1002 右一首安倍朝臣豊継作 06 1003 筑後守外従五位下葛井連大成遥見海人釣船作歌一首 06 1003 海嫺嬬   玉求良之    奥浪    恐海尓     船出為利所見 あまをとめ たまもとむらし おきつなみ かしこきうみに ふなでせりみゆ 06 1004 桉作村主益人歌一首 06 1004 不所念   来座君乎    佐保川乃  河蝦不令聞   還都流香聞 おもほえず きまししきみを さほがはの かはづきかせず かへしつるかも ○ 06 1004 右内匠大属桉作村主益人聊設飲饌以饗長官佐為王 未及日斜王既還歸 於時益人怜惜不猒之歸仍作此歌 06 1005 八年丙子夏六月幸于芳野離宮之時山邊宿祢赤人應 詔作歌一首 并短歌 06 1005 八隅知之  我大王之    見給    芳野宮者    山高    雲曽軽引    河速弥   湍之聲曽清寸   神佐備而  見者貴之    宜名倍   見者清之    此山乃   盡者耳社    此河乃   絶者耳社    百師紀能  大宮所     止時裳有目 やすみしし わごおほきみの めしたまふ よしののみやは やまだかみ くもぞたなびく かははやみ せのおとぞきよき かむさびて みればたふとし よろしなへ みればさやけし このやまの つきばのみこそ このかはの たえばのみこそ ももしきの おほみやところ やむときもあらめ 06 1006 反歌一首 06 1006 自神代   芳野宮尓    蟻通    高所知者    山河乎吉三 かむよより よしののみやに ありがよひ たかしらせるは やまかはをよみ 06 1007 市原王悲獨子歌一首 06 1007 言不問   木尚妹與兄    有云乎    直獨子尓    有之苦者 こととはぬ きすらいもとせと ありといふを ただひとりごに あるがくるしさ 06 1008 忌部首黒麻呂恨友賒来歌一首 06 1008 山之葉尓  不知世経月乃  将出香常  我待君之    夜者更降管 やまのはに いさよふつきの いでむかと あがまつきみが よはふけにつつ 06 1009 冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時 御製歌一首 06 1009 橘者    實左倍花左倍  其葉左倍  枝尓霜雖降   益常葉之樹 たちばなは みさへはなさへ そのはさへ えにしもふれど いやとこはのき 06 1009 右冬十一月九日 従三位葛城王従四位上佐為王等 辞皇族之高名賜外家之橘姓已訖 於時太上天皇〃后共在于皇后宮以為肆宴而即御製賀橘之歌并賜御酒宿祢等也 或云 此歌一首太上天皇御歌 但天皇〃后御歌各有一首者 其歌遺落未得探求焉 今撿案内 八年十一月九日葛城王等願橘宿祢之姓上表 以十七日依表乞賜橘宿祢 06 1010 橘宿祢奈良麻呂應 詔歌一首 06 1010 奥山之   真木葉淩    零雪乃   零者雖益    地尓落目八方 おくやまの まきのはしのぎ ふるゆきの ふりはますとも つちにおちめやも 06 1011 冬十二月十二日歌儛所之諸王臣子等集葛井連廣成家宴歌二首 06 1011 比来古儛盛興 古歳漸晩 理宜共盡古情同唱古歌 故擬此趣輙獻古曲二節 風流意氣之士儻有此集之中 争發念心〃和古體 06 1011 我屋戸之  梅咲有跡    告遣者   来云似有    散去十方吉 わがやどの うめさきたりと つげやらば こといふににたり ちりぬともよし 06 1012 春去者   乎呼理尓乎呼里 鸎之    鳴吾嶋曽    不息通為 はるされば ををりにををり うぐひすの なくわがしまぞ やまずかよはせ 06 1013 九年丁丑春正月橘少卿并諸大夫等集彈正尹門部王家宴歌二首 06 1013 豫     公来座武跡   知麻世婆  門尓屋戸尓毛  珠敷益乎 あらかじめ きみきまさむと しらませば かどにやどにも たましかましを 06 1013 右一首主人門部王 後賜姓大原真人氏也 06 1014 前日毛   昨日毛今日毛  雖見    明日左倍見巻  欲寸君香聞 をとつひも きのふもけふも みつれども あすさへみまく ほしききみかも 06 1014 右一首橘宿祢文成 即少卿之子也 06 1015 榎井王後追和歌一首 志貴親王之子也 06 1015 玉敷而   待益欲利者   多鷄蘇香仁 来有今夜四   樂所念 たましきて またましよりは たけそかに きたるこよひし たのしくおもほゆ 06 1016 春二月諸大夫等集左少辨巨勢宿奈麻呂朝臣家宴歌一首 06 1016 海原之   遠渡乎     遊士之   遊乎将見登   莫津左比曽来之 うなはらの とほきわたりを みやびをの みやびをみむと なづさひぞこし 06 1016 右一首書白紙懸著屋壁也 題云 蓬莱仙媛所化蘰 為風流秀才之士矣 斯凡客不所望見哉 06 1017 夏四月大伴坂上郎女奉拜賀茂神社之時便超相坂山望見近江海而晩頭還来作歌一首 06 1017 木綿疊   手向乃山乎   今日越而  何野邊尓    廬将為吾等 ゆふたたみ たむけのやまを けふこえて いづれののへに いほりせむわれ 06 1018 十年戊寅元興寺之僧自嘆歌一首 06 1018 白珠者   人尓不所知   不知友縦    雖不知   吾之知有者   不知友任意 しらたまは ひとにしらえず しらずともよし しらずとも われししれらば しらずともよし 06 1018 右一首或云 元興寺之僧獨覺多智 未有顯聞 衆諸狎侮 因此僧作此歌自嘆身才也 06 1019 石上乙麻呂卿配土左國之時歌三首 并短歌 06 1019 石上    振乃尊者    弱女乃   或尓縁而    馬自物   縄取附    肉自物   弓笶圍而    王     命恐      天離    夷部尓退    古衣    又打山従    還来奴香聞 いそのかみ ふるのみことは たわやめの まとひによりて うまじもの なはとりつけ ししじもの ゆみやかくみて おほきみの みことかしこみ あまざかる ひなへにまかる ふるころも まつちのやまゆ かへりこぬかも 06 1020 王     命恐見     刺並    國尓出座    愛耶   吾背乃公矣   繋巻裳   湯〃石恐石   住吉乃   荒人神    船舳尓   牛吐賜     付賜将    嶋之埼前    依賜将    礒乃埼前    荒浪    風尓不令遇   莫管見   身疾不有    急     令變賜根    本國部尓 おほきみの みことかしこみ さしならぶ くににいでます はしけや わがせのきみを かけまくも ゆゆしかしこし すみのえの あらひとかみ ふなのへに うしはきたまひ つきたまはむ しまのさきざき よりたまはむ いそのさきざき あらきなみ かぜにあはせず つつみなく やまひあらせず すむやけく かへしたまはね もとつくにへに 06 1022 父公尓   吾者真名子叙  妣刀自尓  吾者愛兒叙   参昇    八十氏人乃   手向為   恐乃坂尓    幣奉    吾者叙追    遠杵土左道矣 ちちぎみに われはまなごぞ ははとじに われはまなごぞ まゐのぼる やそうぢひとの たむけする かしこのさかに ぬさまつり われはぞおへる とほきとさぢを 06 1023 反歌一首 06 1023 大埼乃   神之小濱者   雖小    百船純毛    過迹云莫國 おほさきの かみのをはまは せばけれど ももふなびとも すぐといはなくに 06 1024 秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首 06 1024 長門有   奥津借嶋    奥真経而  吾念君者    千歳尓母我毛 ながとなる おきつかりしま おくまへて あがもふきみは ちとせにもがも 06 1024 右一首長門守巨曽倍對馬朝臣 06 1025 奥真経而  吾乎念流    吾背子者  千年五百歳   有巨勢奴香聞 おくまへて われをおもへる わがせこは ちとせいほとせ ありこせぬかも 06 1025 右一首右大臣和歌 06 1026 百磯城乃  大宮人者    今日毛鴨  暇无跡     里尓不出将有 ももしきの おほみやひとは けふもかも いとまをなみと さとにいでずあるらむ 06 1026 右一首右大臣傳云 故豊嶋采女歌 06 1027 橘     本尓道履    八衢尓   物乎曽念    人尓不所知 たちばなの もとにみちふむ やちまたに ものをぞおもふ ひとにしらえず 06 1027 右一首右大辨高橋安麻呂卿語云 故豊嶋采女之作也 但或本云三方沙弥戀妻苑臣作歌也 然則豊嶋采女當時當所口吟此歌歟 06 1028 十一年乙卯 天皇遊獵高圓野之時小獣泄走都里之中 於是適値勇士生而見獲即以此獣獻上御在所副歌一首 獣名俗曰牟射佐妣 むざさび 06 1028 大夫之   高圓山尓    迫有者   里尓下来流   牟射佐毘曽此 ますらをの たかまとやまに せめたれば さとにおりける むざさびぞこれ 06 1028 右一首大伴坂上郎女作之也 但未逕奏而小獣死斃 因此獻歌停之 06 1029 十二年庚辰冬十月依大宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時河口行宮内舎人大伴宿祢家持作歌一首 06 1029 河口之   野邊尓廬而   夜乃歴者  妹之手本師   所念鴨 かはくちの のへにいほりて よのふれば いもがたもとし おもほゆるかも 06 1030 天皇御製歌一首 06 1030 妹尓戀   吾乃松原    見渡者   潮干乃滷尓   多頭鳴渡 いもにこひ あがのまつばら みわたせば しほひのかたに たづなきわたる 06 1030 右一首今案 吾松原在三重郡 相去河口行宮遠矣 若疑御在朝明行宮之時所製御歌 傳者誤之歟 06 1031 丹比屋主真人歌一首 06 1031 後尓之   人乎思久    四泥能埼  木綿取之泥而  好徃跡其念 おくれにし ひとをしのはく しでのさき ゆふとりしでて さきくとぞおもふ 06 1031 右案此歌者不有此行之作乎 所以然言 勅大夫従河口行宮還京勿令従駕焉 何有詠思泥埼作歌哉 06 1032 狭殘行宮大伴宿祢家持作歌二首 06 1032 天皇之   行幸之随    吾妹子之  手枕不巻    月曽歴去家留 おほきみの みゆきのまにま わぎもこが たまくらまかず つきぞへにける 06 1033 御食國   志麻乃海部有之  真熊野之  小船尓乗而   奥部榜所見 みけつくに しまのあまならし まくまのの をぶねにのりて おきへこぐみゆ 06 1034 美濃國多藝行宮大伴宿祢東人作歌一首 06 1034 従古    人之言来流   老人之   變若云水曽    名尓負瀧之瀬 いにしへゆ ひとのいひける おいびとの をつといふみづぞ なにおふたぎのせ 06 1035 大伴宿祢家持作歌一首 06 1035 田跡河之  瀧乎清美香   従古    官仕兼     多藝乃野之上尓 たどかはの たぎをきよみか いにしへゆ みやつかへけむ たぎのののうへに 06 1036 不破行宮大伴宿祢家持作歌一首 06 1036 關無者   還尓谷藻    打行而   妹之手枕    巻手宿益乎 せきなくは かへりにだにも うちゆきて いもがたまくら まきてねましを 06 1037 十五年癸未秋八月十六日内舎人大伴宿祢家持讃久邇京作歌一首 06 1037 今造    久邇乃王都者  山河之   清見者     宇倍所知良之 いまつくる くにのみやこは やまかはの さやけきみれば うべしらすらし 06 1038 高丘河内連歌二首 06 1038 故郷者   遠毛不有    一重山   越我可良尓   念曽吾世思 ふるさとは とほくもあらず ひとへやま こゆるがからに おもひぞあがせし 06 1039 吾背子與  二人之居者   山高    里尓者月波   不曜十方余思 わがせこと ふたりしをれば やまだかみ さとにはつきは てらずともよし 06 1040 安積親王宴左少辨藤原八束朝臣家之日内舎人大伴宿祢家持作歌一首 06 1040 久堅乃   雨者零敷    念子之   屋戸尓今夜者  明而将去 ひさかたの あめはふりしけ おもふこが やどにこよひは あかしてゆかむ 06 1041 十六年甲申春正月五日諸卿大夫集安倍蟲麻呂朝臣家宴歌一首 作者不審 06 1041 吾屋戸乃  君松樹尓    零雪乃   行者不去    待西将待 わがやどの きみまつのきに ふるゆきの ゆきにはゆかじ まちにしまたむ 06 1042 同月十一日登活道岡集一株松下飲歌二首 06 1042 一松    幾代可歴流   吹風乃   聲之清者    年深香聞 ひとつまつ いくよかへぬる ふくかぜの おとのきよきは としふかみかも 06 1042 右一首市原王作 06 1043 霊剋    壽者不知    松之枝   結情者     長等曽念 たまきはる いのちはしらず まつがえを むすぶこころは ながくとぞおもふ 06 1043 右一首大伴宿祢家持作 06 1044 傷惜寧樂京荒墟作歌三首 作者不審 06 1044 紅尓    深染西     情可母   寧樂乃京師尓  年之歴去倍吉 くれなゐに ふかくしみにし こころかも ならのみやこに としのへぬべき 06 1045 世間乎   常無物跡    今曽知   平城京師之   移徙見者 よのなかを つねなきものと いまぞしる ならのみやこの うつろふみれば 06 1046 石綱乃   又變若反    青丹吉   奈良乃都乎   又将見鴨 いはつなの またをちかへり あをによし ならのみやこを またもみむかも 06 1047 悲寧樂故郷作歌一首 并短歌 06 1047 八隅知之  吾大王乃    高敷為   日本國者    皇祖乃   神之御代自   敷座流   國尓之有者   阿礼将座  御子之嗣継   天下    所知座跡    八百萬   千年矣兼而   定家牟   平城京師者   炎乃    春尓之成者   春日山   御笠之野邊尓  櫻花    木晩牢     皃鳥者   間無數鳴    露霜乃   秋去来者    射駒山   飛火賀嵬丹   芽乃枝乎  石辛見散之   狭男壮鹿者 妻呼令動    山見者   山裳見皃石   里見者   里裳住吉    物負之   八十伴緒乃   打経而   思煎敷者    天地乃   依會限      萬世丹   榮将徃迹    思煎石   大宮尚矣    恃有之   名良乃京矣   新世乃   事尓之有者   皇之    引乃真尓真荷  春花乃   遷日易     村鳥乃   旦立徃者    刺竹之   大宮人能    踏平之   通之道者    馬裳不行   人裳徃莫者   荒尓異類香聞 やすみしし わがおほきみの たかしかす やまとのくには すめろきの かみのみよより しきませる くににしあれば あれまさむ みこのつぎつぎ あめのした しらしまさむと やほよろづ ちとせをかねて さだめけむ ならのみやこは かぎろひの はるにしなれば かすがやま みかさののへに さくらばな このくれがくり かほとりは まなくしばなく つゆしもの あきされくれば いこまやま とぶひがたけに はぎのえを しがらみちらし さをしかは つまよびとよむ やまみれば やまもみがほし さとみれば さともすみよし もののふの やそとものをの うちはへて おもへりしくは あめつちの よりあひのきはみ よろづよに さかえゆかむと おもへりし おほみやすらを たのめりし ならのみやこを あらたよの ことにしあれば おほきみの ひきのまにまに はるはなの うつろひかはり むらとりの あさだちゆけば さすたけの おほみやひとの ふみならし かよひしみちは うまもゆかず ひともゆかねば あれにけるかも 06 1048 反歌二首 06 1048 立易    古京跡     成者    道之志婆草   長生尓異煎 たちかはり ふるきみやこと なりぬれば みちのしばくさ ながくおひにけり 06 1049 名付西   奈良乃京之   荒行者   出立毎尓    嘆思益 なつきにし ならのみやこの あれゆけば いでたつごとに なげきしまさる 06 1050 讃久邇新京歌二首 并短歌 06 1050 明津神  吾皇之  天下  八嶋之中尓  國者霜  多雖有  里者霜  澤尓雖有  山並之  宜國跡  川次之  立合郷跡  山代乃  鹿脊山際尓  宮柱  太敷奉  高知為  布當乃宮者  河近見  湍音叙清  山近見  鳥賀鳴慟  秋去者  山裳動響尓  左男鹿者  妻呼令響  春去者  岡邊裳繁尓  巖者  花開乎呼理  痛憾怜  布當乃原  甚貴  大宮處  諾己曽  吾大王者  君之随  所聞賜而  刺竹乃  大宮此跡  定異等霜 あきつかみ わがおほきみの あめのした やしまのうちに くにはしも さはにあれども さとはしも さはにあれども やまなみの よろしきくにと かはなみの たちあふさとと やましろの かせやまのまに みやばしら ふとしきまつり たかしらす ふたぎのみやは かはちかみ せのおとぞきよき やまちかみ とりがねとよむ あきされば やまもとどろに さをしかは つまよびとよめ はるされば をかへもしじに いはほには はなさきををり あなあはれ ふたぎのはら いとたふと おほみやところ うべしこそ わがおほきみは きみながら きかしたまひて さすたけの おほみやここと さだめけらしも 06 1051 反歌二首 06 1051 三日原   布當乃野邊   清見社   大宮處 一云  此跡標刺    定異等霜 みかのはら ふたぎののへを きよみこそ おほみやところ こことしめさし さだめけらしも 06 1052 山高来   川乃湍清石   百世左右  神之味将徃   大宮所 やまだかく かはのせきよし ももよまで かむしみゆかむ おほみやところ 06 1053 吾皇     神乃命乃    高所知   布當乃宮者   百樹成   山者木高之   落多藝都  湍音毛清之    鸎乃    来鳴春部者   巖者    山下耀     錦成    花咲乎呼里   左壮鹿乃  妻呼秋者    天霧合   之具礼乎疾   狭丹頬歴  黄葉散乍    八千年尓  安礼衝之乍   天下    所知食跡    百代尓母  不可易     大宮處 わがおほきみ かみのみことの たかしらす ふたぎのみやは ももきもり やまはこだかし おちたぎつ せのおともきよし うぐひすの きなくはるへは いはほには やましたひかり にしきなす はなさきををり さをしかの つまよぶあきは あまぎらふ しぐれをいたみ さにつらふ もみちちりつつ やちとせに あれつかしつつ あめのした しらしめさむと ももよにも かはるましじき おほみやところ 06 1054 反歌五首 06 1054 泉川    徃瀬乃水之   絶者許曽  大宮地     遷徃目 いづみがは ゆくせのみづの たえばこそ おほみやところ うつろひゆかめ 06 1055 布當山   山並見者    百代尓毛  不可易     大宮處 ふたぎやま やまなみみれば ももよにも かはるましじき おほみやところ 06 1056 嫺嬬等之  續麻繋云     鹿脊之山  時之徃者    京師跡成宿 をとめらが うみをかくといふ かせのやま ときのゆければ みやことなりぬ 06 1057 鹿脊之山  樹立矣繁三   朝不去   寸鳴響為    鸎之音 かせのやま こだちをしげみ あささらず きなきとよもす うぐひすのこゑ 06 1058 狛山尓   鳴霍公鳥    泉河    渡乎遠見    此間尓不通 一云 渡遠哉     不通有武 こまやまに なくほととぎす いづみがは わたりをとほみ ここにかよはず  わたりとほみか かよはざるらむ 06 1059 春日悲傷三香原荒墟作歌一首 并短歌 06 1059 三香原   久邇乃京師者  山高    河之瀬清    在吉迹   人者雖云   在吉跡   吾者雖念    故去之  里尓四有者   國見跡   人毛不通    里見者   家裳荒有    波之異耶 如此在家留可  三諸著   鹿脊山際尓   開花之   色目列敷    百鳥之   音名束敷    在杲石   住吉里乃    荒樂苦惜哭 みかのはら くにのみやこは やまだかみ かはのせきよし ありよしと ひとはいへど ありよしと われはおもへど ふりにし さとにしあれば くにみれど ひともかよはず さとみれば いへもあれたり はしけや かくありけるか みもろつく かせやまのまに さくはなの いろめづらしき ももとりの こゑなつかしき ありがほし すみよきさとの あるらくをしも 06 1060 反歌二首 06 1060 三香原   久邇乃京者   荒去家里  大宮人乃    遷去礼者 みかのはら くにのみやこは あれにけり おほみやひとの うつろひぬれば 06 1061 咲花乃   色者不易    百石城乃  大宮人叙    立易奚流 さくはなの いろはかはらず ももしきの おほみやひとぞ たちかはりける 06 1062 難波宮作歌一首 并短歌 06 1062 安見知之  吾大王乃    在通    名庭乃宮者   不知魚取  海片就而    玉拾    濱邊乎近見   朝羽振   浪之聲摻     夕薙丹   櫂合之聲所聆   暁之    寐覺尓聞者   海石之  塩干乃共   汭渚尓波  千鳥妻呼    葭部尓波  鶴鳴動     視人乃   語丹為者    聞人之   視巻欲為    御食向   味原宮者    雖見不飽香聞 やすみしし わがおほきみの ありがよふ なにはのみやは いさなとり うみかたづきて たまひりふ はまへをちかみ あさはふる なみのおとさわき ゆふなぎに かぢのおときこゆ あかときの ねざめにきけば いくりの しほひのむた うらすには ちどりつまよぶ あしべには たづがねとよむ みるひとの かたりにすれば きくひとの みまくほりする みけむかふ あぢふのみやは みれどあかぬかも 06 1063 反歌二首 06 1063 有通    難波乃宮者   海近見   漁童女等之   乗船所見 ありがよふ なにはのみやは うみちかみ あまをとめらが のれるふねみゆ 06 1064 塩干者   葦邊尓摻    白鶴乃   妻呼音者    宮毛動響二 しほふれば あしへにさわく あしたづの つまよぶこゑは みやもとどろに 06 1065 過敏馬浦時作歌一首 并短歌 06 1065 八千桙之  神乃御世自   百船之   泊停跡     八嶋國   百船純乃    定而師   三犬女乃浦者  朝風尓   浦浪左和寸   夕浪尓   玉藻者来依   白沙    清濱部者    去還    雖見不飽    諾石社   見人毎尓    語嗣    偲家良思吉   百世歴而  所偲将徃    清白濱 やちほこの かみのみよより ももふねの はつるとまりと やしまくに ももふなびとの さだめてし みぬめのうらは あさかぜに うらなみさわき ゆふなみに たまもはきよる しらまなご きよきはまへは ゆきがへり みれどもあかず うべしこそ みるひとごとに かたりつぎ しのひけらしき ももよへて しのはえゆかむ きよきしらはま 06 1066 反歌二首 06 1066 真十鏡   見宿女乃浦者  百船    過而可徃    濱有七國 まそかがみ みぬめのうらは ももふねの すぎてゆくべき はまならなくに 06 1067 濱清    浦愛見     神世自   千船湊     大和太乃濱 はまぎよく うらうるはしみ かむよより ちふねのはつる おほわだのはま 06 1067 右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也 07 1068 雜歌 07 1068 詠天 07 1068 天海丹    雲之波立    月船    星之林丹    榜隠所見 あめのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こぎかくるみゆ 07 1068 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1069 詠月 07 1069 常者曽   不念物乎    此月之   過匿巻     惜夕香裳 つねはさね おもはぬものを このつきの すぎかくらまく をしきよひかも 07 1070 大夫之   弓上振起     獵高之   野邊副清    照月夜可聞 ますらをの ゆずゑふりおこし かりたかの のへさへきよく てるつくよかも 07 1071 山末尓   不知夜歴月乎  将出香登  待乍居尓    夜曽降家類 やまのはに いさよふつきを いでむかと まちつつをるに よぞふけにける 07 1072 明日之夕  将照月夜者   片因尓   今夜尓因而   夜長有 あすのよひ てらむつくよは かたよりに こよひによりて よながくあらなむ 07 1073 玉垂之   小簾之間通   獨居而   見驗無     暮月夜鴨 たまだれの をすのまとほし ひとりゐて みるしるしなき ゆふづくよかも 07 1074 春日山   押而照有    此月者   妹之庭母    清有家里 かすがやま おしててらせる このつきは いもがにはにも さやけくありけり 07 1075 海原之   道遠鴨     月讀    明少      夜者更下乍 うなはらの みちとほみかも つくよみの ひかりすくなき よはふけにつつ 07 1076 百師木之  大宮人之    退出而   遊今夜之    月清左 ももしきの おほみやひとの まかりでて あそぶこよひの つきのさやけさ 07 1077 夜干玉之  夜渡月乎    将留尓   西山邊尓    塞毛有粳毛 ぬばたまの よわたるつきを とどめむに にしのやまへに せきもあらぬかも 07 1078 此月之   此間来者    且今跡香毛 妹之出立    待乍将有 このつきの ここにきたれば いまとかも いもがいでたち まちつつあるらむ 07 1079 真十鏡   可照月乎    白妙乃   雲香隠流    天津霧鴨 まそかがみ てるべきつきを しろたへの くもかかくせる あまつきりかも 07 1080 久方乃   天照月者    神代尓加  出反等六    年者経去乍 ひさかたの あまてるつきは かむよにか いでかへるらむ としはへにつつ 07 1081 烏玉之  夜渡月乎  憾怜 吾居袖尓 露曽置尓鷄類 ぬばたまの よわたるつきを おもしろみ わがをるそでに つゆぞおきにける 07 1082 水底之  玉障清  可見裳  照月夜鴨  夜之深去者 みなそこの たまさへさやに みつべくも てるつくよかも よのふけゆけば 07 1083 霜雲入  為登尓可将有  久堅之  夜渡月乃  不見念者 しもぐもり すとにかあるらむ ひさかたの よわたるつきの みえなくもへば 07 1084 山末尓  不知夜経月乎  何時母  吾待将座  夜者深去乍 やまのはに いさよふつきを いつとかも あがまちをらむ よはふけにつつ 07 1085 妹之當  吾袖将振  木間従  出来月尓  雲莫棚引 いもがあたり わがそでふらむ このまより いでくるつきに くもなたなびき 07 1086 靭懸流  伴雄廣伎  大伴尓  國将榮常  月者照良思 ゆきかくる とものをひろき おほともに くにさかえむと つきはてるらし 07 1087 詠雲 07 1087 痛足河  〃浪立奴  巻目之  由槻我高仁  雲居立有良志 あなしがは かはなみたちぬ まきむくの ゆつきがたけに くもゐたてるらし 07 1088 足引之  山河之瀬之  響苗尓  弓月高  雲立渡 あしひきの やまがはのせの なるなへに ゆつきがたけに くもたちわたる 07 1088 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1089 大海尓  嶋毛不在尓  海原  絶塔浪尓  立有白雲 おほうみに しまもあらなくに うなはらの たゆたふなみに たてるしらくも 07 1089 右一首伊勢従駕作 07 1090 詠雨 07 1090 吾妹子之  赤裳裙之  将染埿  今日之■[雨泳]霂尓 吾共所沾名 わぎもこが あかものすその ひづちなむ けふのこさめに  われさへぬれな 07 1091 可融  雨者莫零  吾妹子之  形見之服  吾下尓著有 とほるべく あめはなふりそ わぎもこが かたみのころも われしたにけり 07 1092 詠山 07 1092 動神之  音耳聞  巻向之  桧原山乎  今日見鶴鴨 なるかみの おとのみききし まきむくの ひばらのやまを けふみつるかも 07 1093 三毛侶之 其山奈美尓   兒等手乎  巻向山者    継之宜霜 みもろの そのやまなみに こらがてを まきむくやまは つぎのよろしも 07 1094 我衣    色取染     味酒   三室山     黄葉為在 あがころも いろどりそめむ うまさけ みむろのやまは もみちしにけり 07 1094 右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1095 三諸就   三輪山見者   隠口乃   始瀬之桧原   所念鴨 みもろつく みわやまみれば こもりくの はつせのひばら おもほゆるかも 07 1096 昔者之   事波不知乎   我見而毛  久成奴     天之香具山 いにしへの ことはしらぬを われみても ひさしくなりぬ あめのかぐやま 07 1097 吾勢子乎  乞許世山登   人者雖云   君毛不来益   山之名尓有之 わがせこを こちこせやまと ひとはいへど きみもきまさず やまのなにあらし 07 1098 木道尓社  妹山在云      玉櫛上   二上山母    妹許曽有来 きぢにこそ いもやまありといへ たまくしげ ふたがみやまも いもこそありけれ 07 1099 詠岳 07 1099 片岡之   此向峯     椎蒔者   今年夏之    陰尓将化疑 かたをかの このむかつをに しひまかば ことしのなつの かげにならむか 07 1100 詠河 07 1100 巻向之   病足之川由   徃水之   絶事無     又反将見 まきむくの あなしのかはゆ ゆくみづの たゆることなく またかへりみむ 07 1101 黒玉之   夜去来者    巻向之   川音高之母    荒足鴨疾 ぬばたまの ゆふさりくれば まきむくの かはおとたかしも あらしかもとき 07 1101 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1102 大王之   御笠山之    帶尓為流  細谷川之    音乃清也 おほきみの みかさのやまの おびにせる ほそたにがはの おとのさやけさ 07 1103 今敷者   見目屋跡念之   三芳野之  大川余杼乎   今日見鶴鴨 いましくは みめやとおもひし みよしのの おほかはよどを けふみつるかも 07 1104 馬並而   三芳野河乎   欲見    打越来而曽   瀧尓遊鶴 うまなめて みよしのがはを みまくほり うちこえきてぞ たぎにあそびつる 07 1105 音聞    目者未見     吉野川   六田之与杼乎  今日見鶴鴨 おとにきき めにはいまだみぬ よしのがは むつたのよどを けふみつるかも 07 1106 河豆鳴   清川原乎    今日見而者 何時可越来而  見乍偲食 かはづなく きよきかはらを けふみては いつかこえきて みつつしのはむ 07 1107 泊瀬川   白木綿花尓   堕多藝都  瀬清跡     見尓来之吾乎 はつせがは しらゆふばなに おちたぎつ せをさやけみと みにこしわれを 07 1108 泊瀬川   流水尾之    湍乎早   井提越浪之   音之清久 はつせがは ながるるみをの せをはやみ いでこすなみの おとのきよけく 07 1109 佐桧乃熊  桧隈川之    瀬乎早   君之手取者   将縁言毳 さひのくま ひのくまがはの せをはやみ きみがてとらば ことよせむかも 07 1110 湯種蒔   荒木之小田矣  求跡    足結者所沾   此水之湍尓 ゆたねまく あらきのをだを もとめむと あゆひはぬれぬ このかはのせに 07 1111 古毛    如此聞乍哉   偲兼    此古河之    清瀬之音矣 いにしへも かくききつつか しのひけむ このふるかはの きよきせのおとを 07 1112 波祢蘰   今為妹乎    浦若三   去来率去河之  音之清左 はねかづら いまするいもを うらわかみ いざいざかはの おとのさやけさ 07 1113 此小川   白氣結     瀧至    八信井上尓    事上不為友 このをがは きりぞむすべる たぎちゆく はしりゐのうへに ことあげせねども 07 1114 吾紐乎   妹手以而    結八川   又還見     万代左右荷 わがひもを いもがてもちて ゆふやがは またかへりみむ よろづよまでに 07 1115 妹之紐   結八河内乎   古之    并人見等    此乎誰知 いもがひも ゆふやかふちを いにしへの みなひとみきと ここをたれしる 07 1116 詠露 07 1116 烏玉之   吾黒髪尓    落名積   天之露霜    取者消乍 ぬばたまの あがくろかみに ふりなづむ あめのつゆしも とればけにつつ 07 1117 詠花 07 1117 嶋廻為等  礒尓見之花   風吹而   波者雖縁    不取不止 しまみすと いそにみしはな かぜふきて なみはよすとも とらずはやまじ 07 1118 詠葉 07 1118 古尓    有險人母    如吾等架  弥和乃桧原尓  挿頭折兼 いにしへに ありけむひとも あがごとか みわのひばらに かざしをりけむ 07 1119 徃川之   過去人之    手不折者  裏觸立     三和之桧原者 ゆくかはの すぎにしひとの たをらねば うらぶれたてり みわのひばらは 07 1119 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1120 詠蘿 07 1120 三芳野之  青根我峯之   蘿席    誰将織     経緯無二 みよしのの あをねがたけの こけむしろ たれかおりけむ たてぬきなしに 07 1121 詠草 07 1121 妹等所   我通路     細竹爲酢寸 我通      靡細竹原 いもらがり わがゆくみちの しのすすき われしかよはば なびけしのはら 07 1122 詠鳥 07 1122 山際尓   渡秋沙乃    行将居   其河瀬尓    浪立勿湯目 やまのまに わたるあきさの ゆきてゐむ そのかはのせに なみたつなゆめ 07 1123 佐保河之  清河原尓    鳴知鳥   河津跡二    忘金都毛 さほがはの きよきかはらに なくちどり かはづとふたつ わすれかねつも 07 1124 佐保川尓  小驟千鳥    夜三更而  尓音聞者    宿不難尓 さほがはに さをどるちどり さよふけて ながこゑきけば いねかてなくに 07 1125 思故郷 07 1125 清湍尓   千鳥妻喚    山際尓   霞立良武    甘南備乃里 きよきせに ちどりつまよび やまのまに かすみたつらむ かむなびのさと 07 1126 年月毛   未経尓     明日香川  湍瀬由渡之   石走無 としつきも いまだへなくに あすかがは せぜゆわたしし いはばしもなし 07 1127 詠井 07 1127 隕田寸津  走井水之     清有者    癈者吾者    去不勝可聞 おちたぎつ はしりゐのみづの きよくあれば おきてはわれは ゆきかてぬかも 07 1128 安志妣成  榮之君之    穿之井之  石井之水者   雖飲不飽鴨 あしびなす さかえしきみが ほりしゐの いしゐのみづは のめどあかぬかも 07 1129 詠倭琴 07 1129 琴取者   嘆先立     盖毛    琴之下樋尓   嬬哉匿有 こととれば なげきさきだつ けだしくも ことのしたびに つまやこもれる 07 1130 芳野作 07 1130 神左振   磐根己凝敷   三芳野之  水分山乎    見者悲毛 かむさぶる いはねこごしき みよしのの みくまりやまを みればかなしも 07 1131 皆人之   戀三芳野    今日見者  諾母戀来    山川清見 みなひとの こふるみよしの けふみれば うべもこひけり やまかはきよみ 07 1132 夢乃和太  事西在来     寤毛    見而来物乎   念四念者 いめのわだ ことにしありけり うつつにも みてけるものを おもひしおもへば 07 1133 皇祖神之  神宮人     冬薯蕷葛  弥常敷尓    吾反将見 すめろきの かみのみやひと ところづら いやとこしくに われかへりみむ 07 1134 能野川   石迹柏等    時齒成   吾者通     万世左右二 よしのがは いはとかしはと ときはなす われはかよはむ よろづよまでに 07 1135 山背作 07 1135 氏河齒   与杼湍無之   阿自呂人  舟召音     越乞所聞 うぢかはは よどせなからし あじろひと ふねよばふこゑ をちこちきこゆ 07 1136 氏河尓   生菅藻乎    河早    不取来尓家里  褁為益緒 うぢかはに おふるすがもを かははやみ とらずきにけり つとにせましを 07 1137 氏人之   譬乃足白    吾在者   今齒与良増   木積不来友 うぢひとの たとへのあじろ われならば いまはよらまし こつみこずとも 07 1138 氏河乎   船令渡呼跡   雖喚    不所聞有之   檝音毛不為 うぢかはを ふねわたせをと よばへども きこえずあらし かぢのおともせず 07 1139 千早人   氏川浪乎    清可毛   旅去人之    立難為 ちはやひと うぢかはなみを きよみかも たびゆくひとの たちかてにする 07 1140 攝津作 07 1140 志長鳥   居名野乎来者  有間山   夕霧立     宿者無而 一本云 猪名乃浦廻乎  榜来者 しながとり ゐなのをくれば ありまやま ゆふぎりたちぬ やどりはなしに  ゐなのうらみを こぎくれば 07 1141 武庫河   水尾急嘉    赤駒    足何久激    沾祁流鴨 むこがはの みををはやみか あかごまの あがくたぎちに ぬれにけるかも 07 1142 命     幸久吉     石流    垂水〃乎    結飲都 いのちをし さきくよけむと いはばしる たるみのみづを むすびてのみつ 07 1143 作夜深而  穿江水手鳴   松浦船   梶音高之     水尾早見鴨 さよふけて ほりえこぐなる まつらぶね かぢのおとたかし みをはやみかも 07 1144 悔毛    滿奴流塩鹿   墨江之   岸乃浦廻従   行益物乎 くやしくも みちぬるしほか すみのえの きしのうらみゆ ゆかましものを 07 1145 為妹    貝乎拾等    陳奴乃海尓  所沾之袖者   雖涼常不干 いもがため かひをひりふと ちぬのうみに ぬれにしそでは ほせどかわかず 07 1146 目頬敷   人乎吾家尓   住吉之   岸乃黄土    将見因毛欲得 めづらしき ひとをわぎへに すみのえの きしのはにふを みむよしもがも 07 1147 暇有者    拾尓将徃    住吉之   岸因云      戀忘貝 いとまあらば ひりひにゆかむ すみのえの きしによるといふ こひわすれがひ 07 1148 馬雙而   今日吾見鶴   住吉之   岸之黄土    於万世見 うまなめて けふわがみつる すみのえの きしのはにふを よろづよにみむ 07 1149 住吉尓   徃云道尓     昨日見之  戀忘貝     事二四有家里 すみのえに ゆくといふみちに きのふみし こひわすれがひ ことにしありけり 07 1150 墨吉之   岸尓家欲得   奥尓邊尓  縁白浪     見乍将思 すみのえの きしにいへもが おきにへに よするしらなみ みつつしのはむ 07 1151 大伴之   三津之濱邊乎  打曝    因来浪之    逝方不知毛 おほともの みつのはまへを うちさらし よせくるなみの ゆくへしらずも 07 1152 梶之音曽   髣髴為鳴    海未通女  奥藻苅尓    舟出為等思母 一云 暮去者   梶之音為奈利 かぢのおとぞ ほのかにすなる あまをとめ おきつもかりに ふなですらしも   ゆふされば かぢのおとすなり 07 1153 住吉之   名兒之濱邊尓  馬立而   玉拾之久    常不所忘 すみのえの なごのはまへに うまたてて たまひりひしく つねわすらえず 07 1154 雨者零   借廬者作    何暇尓   吾兒之塩干尓  玉者将拾 あめはふる かりほはつくる いつのまに あごのしほひに たまはひりはむ 07 1155 奈呉乃海之  朝開之奈凝   今日毛鴨  礒之浦廻尓   乱而将有 なごのうみの あさけのなごり けふもかも いそのうらみに みだれてあるらむ 07 1156 住吉之   遠里小野之   真榛以   須礼流衣乃   盛過去 すみのえの とほさとをのの まはりもち すれるころもの さかりすぎゆく 07 1157 時風    吹麻久不知   阿胡乃海之  朝明之塩尓   玉藻苅奈 ときつかぜ ふかまくしらに あごのうみの あさけのしほに たまもかりてな 07 1158 住吉之   奥津白浪    風吹者   来依留濱乎   見者浄霜 すみのえの おきつしらなみ かぜふけば きよするはまを みればきよしも 07 1159 住吉之   岸之松根    打曝    縁来浪之    音之清羅 すみのえの きしのまつがね うちさらし よせくるなみの おとのさやけさ 07 1160 難波方   塩干丹立而   見渡者   淡路嶋尓    多豆渡所見 なにはがた しほひにたちて みわたせば あはぢのしまに たづわたるみゆ 07 1161 羈旅作 07 1161 離家    旅西在者    秋風    寒暮丹     鴈喧度 いへざかり たびにしあれば あきかぜの さむきゆふべに かりなきわたる 07 1162 圓方之   湊之渚鳥    浪立也   妻唱立而    邊近著毛 まとかたの みなとのすどり なみたてや つまよびたてて へにちかづくも 07 1163 年魚市方  塩干家良思   知多乃浦尓  朝榜舟毛    奥尓依所見 あゆちがた しほひにけらし ちたのうらに あさこぐふねも おきによるみゆ 07 1164 塩干者   共滷尓出     鳴鶴之   音遠放     礒廻為等霜 しほふれば ともにかたにいで なくたづの こゑとほざかる いそみすらしも 07 1165 暮名寸尓  求食為鶴    塩滿者   奥浪高三    己妻喚 ゆふなぎに あさりするたづ しほみてば おきなみたかみ おのづまよぶも 07 1166 古尓    有監人之    覓乍    衣丹揩牟    真野之榛原 いにしへに ありけむひとの もとめつつ きぬにすりけむ まののはりはら 07 1167 朝入為等  礒尓吾見之   莫告藻乎  誰嶋之     白水郎可将苅 あさりすと いそにわがみし なのりそを いづれのしまの あまかかりけむ 07 1168 今日毛可母 奥津玉藻者   白浪之   八重折之於丹   乱而将有 けふもかも おきつたまもは しらなみの やへをるがうへに みだれてあるらむ 07 1169 近江之海   湖者八十    何尓加   公之舟泊    草結兼 あふみのうみ みなとはやそち いづくにか きみがふねはて くさむすびけむ 07 1170 佐左浪乃  連庫山尓    雲居者   雨曽零智否   反来吾背 ささなみの なみくらやまに くもゐれば あめぞふるちふ かへりこわがせ 07 1171 大御舟   竟而佐守布   高嶋之   三尾勝野之   奈伎左思所念 おほみふね はててさもらふ たかしまの みをのかちのの なぎさしおもほゆ 07 1172 何處可   舟乗為家牟   高嶋之   香取乃浦従   己藝出来船 いづくにか ふなのりしけむ たかしまの かとりのうらゆ こぎでくるふね 07 1173 斐太人之  真木流云     尓布乃河  事者雖通    船曽不通 ひだひとの まきながすといふ にふのかは ことはかよへど ふねぞかよはぬ 07 1174 霰零    鹿嶋之埼乎   浪高    過而夜将行   戀敷物乎 あられふり かしまのさきを なみたかみ すぎてやゆかむ こほしきものを 07 1175 足柄乃   筥根飛超    行鶴乃   乏見者     日本之所念 あしがらの はこねとびこえ ゆくたづの ともしきみれば やまとしおもほゆ 07 1176 夏麻引   海上滷乃    奥洲尓   鳥者簀竹跡   君者音文不為 なつそびく うなかみがたの おきつすに とりはすだけど きみはおともせず 07 1177 若狭在   三方之海之   濱清美   伊徃變良比   見跡不飽可聞 わかさなる みかたのうみの はまぎよみ いゆきかへらひ みれどあかぬかも 07 1178 印南野者  徃過奴良之   天傳    日笠浦     波立見 一云  思賀麻江者 許藝須疑奴良思 いなみのは ゆきすぎぬらし あまづたふ ひかさのうらに なみたてりみゆ しかまえは こぎすぎぬらし 07 1179 家尓之弖  吾者将戀名   印南野乃  淺茅之上尓   照之月夜乎 いへにして あれはこひむな いなみのの あさぢがうへに てりしつくよを 07 1180 荒礒超   浪乎恐見    淡路嶋   不見哉将過去  幾許近乎 ありそこす なみをかしこみ あはぢしま みずかすぎなむ ここだちかきを 07 1181 朝霞    不止軽引    龍田山   船出将為日者  吾将戀香聞 あさかすみ やまずたなびく たつたやま ふなでせむひは あれこひむかも 07 1182 海人小船  帆毳張流登   見左右荷  鞆之浦廻二   浪立有所見 あまをぶね ほかもはれると みるまでに とものうらみに なみたてりみゆ 07 1183 好去而   亦還見六    大夫乃   手二巻持在   鞆之浦廻乎 まさきくて またかへりみむ ますらをの てにまきもてる とものうらみを 07 1184 鳥自物   海二浮居而   奥浪    驂乎聞者    數悲哭 とりじもの うみにうきゐて おきつなみ さわくをきけば あまたかなしも 07 1185 朝菜寸二  真梶榜出而   見乍来之  三津乃松原   浪越似所見 あさなぎに まかぢこぎでて みつつこし みつのまつばら なみごしにみゆ 07 1186 朝入為流  海未通女等之  袖通    沾西衣     雖干跡不乾 あさりする あまをとめらが そでとほり ぬれにしころも ほせどかわかず 07 1187 網引為   海子哉見    飽浦     清荒礒     見来吾 あびきする あまとかみらむ あくのうらの きよきありそを みにこしわれを 07 1187 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1188 山超而   遠津之濱之   石管自   迄吾来     含而有待 やまこえて とほつのはまの いはつつじ わがくるまでに ふふみてありまて 07 1189 大海尓   荒莫吹     四長鳥   居名之湖尓   舟泊左右手 おほうみに あらしなふきそ しながとり ゐなのみなとに ふねはつるまで 07 1190 舟盡    可志振立而   廬利為   名子江乃濱邊  過不勝鳧 ふねはてて かしふりたてて いほりせむ なごえのはまへ すぎかてぬかも 07 1191 妹門    出入乃河之    瀬速見   吾馬爪衝     家思良下 いもがかど いでいりのかはの せをはやみ あがうまつまづく いへおもふらしも 07 1192 白栲尓   丹保布信土之  山川尓   吾馬難     家戀良下 しろたへに にほふまつちの やまがはに あがうまなづむ いへこふらしも 07 1193 勢能山尓  直向      妹之山   事聴屋毛    打橋渡 せのやまに ただにむかへる いものやま ことゆるせやも うちはしわたす 07 1194 木國之   狭日鹿乃浦尓  出見者   海人之燎火   浪間従所見 きのくにの さひかのうらに いでみれば あまのともしび なみのまゆみゆ 07 1195 麻衣    著者夏樫    木國之   妹背之山二   麻蒔吾妹 あさごろも ければなつかし きのくにの いもせのやまに あさまくわぎも 07 1195 右七首者藤原卿作 未審年月 07 1196 欲得褁登  乞者令取    貝拾    吾乎沾莫    奥津白浪 つともがと こはばとらせむ かひひりふ われをぬらすな おきつしらなみ 07 1197 手取之   柄二忘跡    礒人之曰師  戀忘貝     言二師有来 てにとるが からにわすると あまのいひし こひわすれがひ ことにしありけり ○ 07 1198 求食為跡  礒二住鶴    暁去者   濱風寒弥    自妻喚毛 あさりすと いそにすむたづ あけされば はまかぜさむみ おのづまよぶも 07 1199 藻苅舟   奥榜来良之   妹之嶋   形見之浦尓   鶴翔所見 もかりぶね おきこぎくらし いもがしま かたみのうらに たづかけるみゆ 07 1200 吾舟者   従奥莫離    向舟    片待香光    従浦榜将會 わがふねは おきゆなさかり むかへぶね かたまちがてり うらゆこぎあはむ 07 1201 大海之   水底豊三    立浪之   将依思有     礒之清左 おほうみの みなそことよみ たつなみの よらむとおもへる いそのさやけさ 07 1202 自荒礒毛  益而思哉    玉之裏    離小嶋     夢所見 ありそゆも ましておもへか たまのうらの はなれこしまの いめにしみゆる 07 1203 礒上尓    爪木折焼    為汝等   吾潜来之    奥津白玉 いそのうへに つまきをりたき ながためと わがかづきこし おきつしらたま 07 1204 濱清美   礒尓吾居者    見者    白水郎可将見  釣不為尓 はまぎよみ いそにわがをれば みむひとは あまとかみらむ つりもせなくに 07 1205 奥津梶   漸〃志夫乎   欲見    吾為里乃    隠久惜毛 おきつかぢ やくやくしぶを みまくほり わがするさとの かくらくをしも 07 1206 奥津波   部都藻纒持   依来十方  君尓益有    玉将縁八方 一云 奥津浪   邊浪布敷    縁来登母 おきつなみ へつもまきもち よせくとも きみにまされる たまよせめやも  おきつなみ へなみしくしく よせくとも 07 1207 粟嶋尓   許枳将渡等   思鞆    赤石門浪    未佐和来 あはしまに こぎわたらむと おもへども あかしのとなみ いまださわけり 07 1208 妹尓戀   余越去者    勢能山之  妹尓不戀而   有之乏左 いもにこひ わがこえゆけば せのやまの いもにこひずて あるがともしさ 07 1209 人在者   母之最愛子曽  麻毛吉   木川邊之    妹与背山 ひとならば ははがまなごぞ あさもよし きのかはのべの いもとせのやま 07 1210 吾妹子尓  吾戀行者    乏雲    並居鴨     妹与勢能山 わぎもこに あがこひゆけば ともしくも ならびをるかも いもとせのやま 07 1211 妹當     今曽吾行    目耳谷   吾耳見乞    事不問侶 いもがあたり いまぞわがゆく めのみだに われにみえこそ こととはずとも 07 1212 足代過而  絲鹿乃山之   櫻花    不散在南     還来万代 あてすぎて いとかのやまの さくらばな ちらずもあらなむ かへりくるまで 07 1213 名草山   事西在来     吾戀    千重一重    名草目名國 なぐさやま ことにしありけり あがこふる ちへのひとへも なぐさめなくに 07 1214 安太部去  小為手乃山之  真木葉毛  久不見者    蘿生尓家里 あだへゆく をすてのやまの まきのはも ひさしくみねば こけむしにけり 07 1215 玉津嶋   能見而伊座   青丹吉   平城有人之   待問者如何 たまつしま よくみていませ あをによし ならなるひとの まちとはばいかに 07 1216 塩滿者   如何将為跡香  方便海之  神我手渡    海部未通女等 しほみたば いかにせむとか わたつみの かみがてわたる あまをとめども 07 1217 玉津嶋   見之善雲    吾無    京徃而     戀幕思者 たまつしま みてしよけくも われはなし みやこにゆきて こひまくもへば 07 1218 黒牛乃海    紅丹穂経    百礒城乃  大宮人四    朝入為良霜 くろうしのうみ くれなゐにほふ ももしきの おほみやひとし あさりすらしも 07 1219 若浦尓    白浪立而    奥風    寒暮者     山跡之所念 わかのうらに しらなみたちて おきつかぜ さむきゆふべは やまとしおもほゆ 07 1220 為妹    玉乎拾跡    木國之   湯等乃三埼二  此日鞍四通 いもがため たまをひりふと きのくにの ゆらのみさきに このひくらしつ 07 1221 吾舟乃   梶者莫引    自山跡   戀来之心    未飽九二 わがふねの かぢはなひきそ やまとより こひこしこころ いまだあかなくに 07 1222 玉津嶋   雖見不飽    何為而   褁持将去     不見人之為 たまつしま みれどもあかず いかにして つつみもちゆかむ みぬひとのため 07 1223 綿之底   奥己具舟乎   於邊将因  風毛吹額    波不立而 わたのそこ おきこぐふねを へによせむ かぜもふかぬか なみたてずして 07 1224 大葉山   霞蒙      狭夜深而  吾船将泊    停不知文 おほばやま かすみたなびき さよふけて わがふねはてむ とまりしらずも 07 1225 狭夜深而  夜中乃方尓   欝之苦   呼之舟人    泊兼鴨 さよふけて よなかのかたに おほほしく よびしふなびと はてにけむかも 07 1226 神前    荒石毛不所見  浪立奴   従何處将行   与奇道者無荷 みわのさき ありそもみえず なみたちぬ いづくゆゆかむ よきぢはなしに 07 1227 礒立    奥邊乎見者   海藻苅舟  海人榜出良之  鴨翔所見 いそにたち おきへをみれば めかりぶね あまこぎづらし かもかけるみゆ 07 1228 風早之   三穂乃浦廻乎  榜舟之   船人動     浪立良下 かざはやの みほのうらみを こぐふねの ふなびとさわく なみたつらしも 07 1229 吾舟者   明石之湖尓    榜泊牟   奥方莫放    狭夜深去来 わがふねは あかしのみなとに こぎはてむ おきへなさかり さよふけにけり 07 1230 千磐破   金之三埼乎   過鞆    吾者不忘    壮鹿之須賣神 ちはやぶる かねのみさきを すぎぬとも あれはわすれじ しかのすめかみ 07 1231 天霧相   日方吹羅之   水莖之   岡水門尓    波立渡 あまぎらひ ひかたふくらし みづくきの をかのみなとに なみたちわたる 07 1232 大海之   波者畏     然有十方  神乎齋祀而   船出為者如何 おほうみの なみはかしこし しかれども かみをいはひて ふなでせばいかに 07 1233 未通女等之 織機上乎     真櫛用   掻上栲嶋    波間従所見 をとめらが おるはたのうへを まくしもち かかげたくしま なみのまゆみゆ 07 1234 塩早三   礒廻荷居者   入潮為   海人鳥屋見濫  多比由久和礼乎 しほはやみ いそみにをれば かづきする あまとやみらむ たびゆくわれを 07 1235 浪高之   奈何梶執    水鳥之   浮宿也應為   猶哉可榜 なみたかし いかにかぢとり みづとりの うきねやすべき なほやこぐべき 07 1236 夢耳    継而所見乍   竹嶋之   越礒波之    敷布所念 いめのみに つぎてみえつつ たかしまの いそこすなみの しくしくおもほゆ 07 1237 静母    岸者波者    縁家留香  此屋通     聞乍居者 しづけくも きしにはなみは よせけるか これのやとほし ききつつをれば 07 1238 竹嶋乃   阿戸白波者   動友    吾家思      五百入鉇染 たかしまの あどしらなみは さわけども われはいへおもふ いほりかなしみ 07 1239 大海之   礒本由須理   立波之   将依念有     濱之浄奚久 おほうみの いそもとゆすり たつなみの よらむとおもへる はまのきよけく 07 1240 珠匣    見諸戸山矣   行之鹿齒  面白四手    古昔所念 たまくしげ みもろとやまを ゆきしかば おもしろくして いにしへおもほゆ 07 1241 黒玉之   玄髪山乎    朝越而   山下露尓    沾来鴨 ぬばたまの くろかみやまを あさこえて やましたつゆに ぬれにけるかも 07 1242 足引之   山行暮     宿借者   妹立待而    宿将借鴨 あしひきの やまゆきぐらし やどからば いもたちまちて やどかさむかも 07 1243 視渡者   近里廻乎    田本欲   今衣吾来    礼巾振之野尓 みわたせば ちかきさとみを たもとほり いまぞわがくる ひれふりしのに 07 1244 未通女等之 放髪乎     木綿山   雲莫蒙     家當将見 をとめらが はなりのかみを ゆふのやま くもなたなびき いへのあたりみむ 07 1245 四可能白水郎乃 釣船之紼    不堪    情念而      出而来家里 しかのあまの  つりぶねのつな あへずして こころにおもひて いでてきにけり 07 1246 之加乃白水郎之 焼塩煙     風乎疾    立者不上    山尓軽引 しかのあまの  しほやくけぶり かぜをいたみ たちはのぼらず やまにたなびく 07 1246 右件歌者古集中出 07 1247 大穴道   少御神     作     妹勢能山    見吉 おほなむぢ すくなみかみの つくらしし いもせのやまを みらくしよしも 07 1248 吾妹子   見偲      奥藻    花開在     我告与 わぎもこと みつつしのはむ おきつもの はなさきたらば あれにつげこそ 07 1249 君為    浮沼池     菱採    我染袖     沾在哉 きみがため うきぬのいけの ひしつむと わがそめしそで ぬれにけるかも 07 1250 妹為    菅實採     行吾    山路惑     此日暮 いもがため すがのみつみに ゆくわれは やまぢにまとひ このひくらしつ 07 1250 右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1251 問答 07 1251 佐保河尓  鳴成智鳥    何師鴨   川原乎思努比  益河上 さほがはに なくなるちどり なにしかも かはらをしのひ いやかはのぼる 07 1252 人社者   意保尓毛言目  我幾許   師努布川原乎  標結勿謹 ひとこそは おほにもいはめ わがここだ しのふかはらを しめゆふなゆめ 07 1252 右二首詠鳥 07 1253 神樂浪之  思我津乃白水郎者 吾無二   潜者莫為    浪雖不立 ささなみの しがつのあまは  あれなしに かづきはなせそ なみたたずとも 07 1254 大船尓   梶之母有奈牟   君無尓   潜為八方    波雖不起 おほぶねに かぢしもあらなむ きみなしに かづきせめやも なみたたずとも 07 1254 右二首詠白水郎 07 1255 臨時 07 1255 月草尓   衣曽染流    君之為   綵色衣     将摺跡念而 つきくさに ころもぞそむる きみがため まだらのころも すらむとおもひて 07 1256 春霞    井上従直尓   道者雖有   君尓将相登   他廻来毛 はるかすみ ゐのへゆただに みちはあれど きみにあはむと たもとほりくも 07 1257 道邊之   草深由利乃   花咲尓   咲之柄二    妻常可云也 みちのべの くさふかゆりの はなゑみに ゑますがからに つまといふべしや 07 1258 黙然不有跡  事之名種尓   云言乎   聞知良久波   少可者有来 もだあらじと ことのなぐさに いふことを ききしれらくは あしくはありけり 07 1259 佐伯山   于花以之    哀我    手鴛取而者   花散鞆 さへきやま うのはなもちし かなしきが てをしとりてば はなはちるとも 07 1260 不時    斑衣      服欲香   嶋針原     時二不有鞆 ときじくの まだらのころも きほしきか しまのはりはら ときにあらねども 07 1261 山守之   里邊通     山道曽   茂成来     忘来下 やまもりの さとへかよひし やまみちぞ しげくなりける わすれけらしも 07 1262 足病之   山海石榴開   八峯越   鹿待君之    伊波比嬬可聞 あしひきの やまつばきさく やつをこえ ししまつきみが いはひづまかも 07 1263 暁跡    夜烏雖鳴    此山上之  木末之於者   未静之 あかときと よがらすなけど このやまの こぬれがうへは いまだしづけし 07 1264 西市尓    但獨出而     眼不並   買師絹之    商自許里鴨 にしのいちに ただひとりいでて めならべず かひてしきぬの あきじこりかも 07 1265 今年去   新嶋守之    麻衣    肩乃間乱者   誰取見 ことしゆく にひさきもりが あさごろも かたのまよひは たれかとりみむ 07 1266 大舟乎   荒海尓榜出   八船多氣  吾見之兒等之  目見者知之母 おほぶねを あるみにこぎで やふねたけ わがみしこらが まみはしるしも 07 1267 就所發思 旋頭歌 07 1267 百師木乃  大宮人之    踏跡所      奥浪    来不依有勢婆   不失有麻思乎 ももしきの おほみやひとの ふみしあとところ おきつなみ きよらずありせば うせずあらましを 07 1267 右十七首古歌集出 07 1268 兒等手乎  巻向山者    常在常    過徃人尓    徃巻目八方 こらがてを まきむくやまは つねにあれど すぎにしひとに ゆきまかめやも 07 1269 巻向之   山邊響而    徃水之   三名沫如    世人吾等者 まきむくの やまへとよみて ゆくみづの みなわのごとし よのひとわれは 07 1269 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1270 寄物發思 07 1270 隠口乃   泊瀬之山丹   照月者   盈県為焉    人之常無 こもりくの はつせのやまに てるつきは みちかけしけり ひとのつねなき 07 1270 右一首古歌集出 07 1271 行路 07 1271 遠有而   雲居尓所見   妹家尓    早将至     歩黒駒 とほくして くもゐにみゆる いもがいへに はやくいたらむ あゆめくろこま 07 1271 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1272 旋頭歌 07 1272 劔後    鞘納野邇    葛引吾妹    真袖以   著點等鴨    夏草苅母 たちのしり さやにいりのに くずひくわぎも まそでもち きせてむとかも なつくさかるも 07 1273 住吉    波豆麻公之   馬乗衣     雜豆臈   漢女乎座而   縫衣叙 すみのえの はづまのきみが うまのりごろも さひづらふ あやめをすゑて ぬへるころもぞ 07 1274 住吉    出見濱     柴莫苅曽尼   未通女等  赤裳下     閏将徃見 すみのえの いでみのはまの しばなかりそね をとめらが あかものすその ぬれてゆかむみむ 07 1275 住吉    小田苅為子   賎鴨無     奴雖在    妹御為     私田苅 すみのえの をだをからすこ やつこかもなき やつこあれど いもがみためと わたくしだかる 07 1276 池邊    小槻下     細竹苅嫌    其谷    公形見尓    監乍将偲 いけのべの をつきがしたの しのなかりそね それをだに きみがかたみに みつつしのはむ 07 1277 天在   日賣菅原    草莫苅嫌 弥  那綿    香烏髪     飽田志付勿 あめなる ひめすがはらの くさなかりそね みなのわた かぐろきかみに あくたしつくも 07 1278 夏影    房之下邇    衣裁吾妹    裏儲    吾為裁者    差大裁 なつかげの つまやのしたに きぬたつわぎも うらまけて あがためたたば ややおほにたて 07 1279 梓弓    引津邊在    莫謂花     及採    不相有目八方   勿謂花 あづさゆみ ひきつのべなる なのりそのはな つむまでに あはずあらめやも なのりそのはな 07 1280 撃日刺   宮路行丹    吾裳破     玉緒    念妄      家在矣 うちひさす みやぢをゆくに わがもはやれぬ たまのをの おもひみだれて いへにあらましを 07 1281 公為    手力勞     織在衣服叙   春去    何色      揩者吉 きみがため たぢからつかれ おれるころもぞ はるさらば いかなるいろに すりてばよけむ 07 1282 橋立    倉椅山     立白雲     見欲    我為苗     立白雲 はしたての くらはしやまに たてるしらくも みまくほり わがするなへに たてるしらくも 07 1283 橋立    倉椅川     石走者裳    壮子時   我度為     石走者裳 はしたての くらはしがはの いはのはしはも をざかりに わがわたりてし いはのはしはも 07 1284 橋立    倉椅川     河静菅     余苅    笠裳不編     川静菅 はしたての くらはしがはの かはのしづすげ わがかりて かさもあまなくに かはのしづすげ 07 1285 春日尚   田立羸     公哀      若草    孋無公     田立羸 はるひすら たにたちつかる きみしかなしも わかくさの つまなききみが たにたちつかる 07 1286 開木代   来背社     草勿手折    己時    立雖榮     草勿手折 やましろの くせのやしろの くさなたをりそ わがときと たちざかゆとも くさなたをりそ 07 1287 青角髪   依網原     人相鴨     石走    淡海縣     物語為 あをみづら よさみのはらに ひとあはむかも いはばしる あふみあがたの ものがたりせむ 07 1288 水門   葦末葉     誰手折     吾背子   振手見     我手折 みなとの あしのうらばを たれかたをりし わがせこが ふるてをみむと われぞたをりし 07 1289 垣越    犬召越     鳥獵為公    青山    葉茂山邊    馬安公 かきごしに いぬよびこして とがりするきみ あをやまの しげきやまへに うまやすめきみ 07 1290 海底    奥玉藻之    名乗曽花    妹与吾    此何有跡    莫語之花 わたのそこ おきつたまもの なのりそのはな いもとあれと ここにしありと なのりそのはな 07 1291 此岡    草苅小子    勿然苅     有乍    公来座     御馬草為 このをかに くさかるわらは しかなかりそね ありつつも きみがきまさば みまくさにせむ 07 1292 江林    次完也物    求吉      白栲    袖纒上     完待我背 えばやしに やどるししやも もとむるによき しろたへの そでまきあげて ししまつわがせ 07 1293 丸雪降   遠江      吾跡川楊    雖苅   亦生云      余跡川楊 あられふり とほつあふみの あどかはやなぎ かれども またもおふといふ あどかはやなぎ 07 1294 朝月    日向山     月立所見    遠妻    持在人     看乍偲 あさづきの ひむかのやまに つきたてりみゆ とほづまを もちたるひとし みつつしのはむ 07 1294 右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1295 春日在   三笠乃山二   月船出     遊士之   飲酒坏尓    陰尓所見管 かすがなる みかさのやまに つきのふねいづ みやびをの のむさかづきに かげにみえつつ 07 1296 譬喩歌 07 1296 寄衣 07 1296 今造    斑衣服     面影    吾尓所念    未服友 いまつくる まだらのころも おもかげに われにおもほゆ いまだきねども 07 1297 紅     衣染      雖欲    著丹穂哉    人可知 くれなゐに ころもそめまく ほしけども きてにほはばか ひとのしるべき 07 1298 干各    人雖云     織次    我廿物     白麻衣 かにかくに ひとはいふとも おりつがむ わがはたものの しろあさごろも 07 1299 寄玉 07 1299 安治村   十依海     船浮    白玉採     人所知勿 あぢむらの とをよるうみに ふねうけて しらたまとると ひとにしらゆな 07 1300 遠近    礒中在     白玉    人不知     見依鴨 をちこちの いそのなかなる しらたまを ひとにしらえず みむよしもがも 07 1301 海神    手纒持在    玉故    石浦廻     潜為鴨 わたつみの てにまきもてる たまゆゑに いそのうらみに かづきするかも 07 1302 海神    持在白玉    見欲    千遍告     潜為海子 わたつみの もてるしらたま みまくほり ちたびぞのりし かづきするあまは 07 1303 潜為    海子雖告    海神    心不得     所見不云 かづきする あまはのれども わたつみの こころしえねば みゆといはなくに 07 1304 寄木 07 1304 天雲    棚引山     隠在    吾下心     木葉知 あまくもの たなびくやまの こもりたる あがしたごころ このはしりけむ 07 1305 雖見不飽   人國山     木葉    己心      名著念 みれどあかぬ ひとくにやまの このはをぞ あがこころから なつかしみおもふ 07 1306 寄花 07 1306 是山    黄葉下     花矣我   小端見     反戀 このやまの もみちがしたの はなをわれ はつはつにみて さらにこふるも 07 1307 寄川 07 1307 従此川   船可行     雖在     渡瀬別     守人有 このかはゆ ふねはゆくべく ありといへど わたりぜごとに もるひとのありて 07 1308 寄海 07 1308 大海    候水門     事有     従何方君    吾率淩 おほうみを さもらふみなと ことしあらば いづへゆきみは わをゐしのがむ 07 1309 風吹    海荒      明日言    應久       公随 かぜふきて うみはあるとも あすといはば ひさしくあるべし きみがまにまに 07 1310 雲隠    小嶋神之    恐者    目間      心間哉 くもがくる こしまのかみの かしこけば めこそへだてれ こころへだてや 07 1310 右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出 07 1311 寄衣 07 1311 橡     衣人皆     事無跡   曰師時従    欲服所念 つるはみの きぬはひとみな ことなしと いひしときより きほしくおもほゆ 07 1312 凡尓    吾之念者    下服而   穢尓師衣乎   取而将著八方 おほろかに われしおもはば したにきて なれにしきぬを とりてきめやも 07 1313 紅之    深染之衣    下著而   上取著者    事将成鴨 くれなゐの こそめのころも したにきて うへにとりきば ことなさむかも 07 1314 橡     解濯衣之     恠     殊欲服     此暮可聞 つるはみの ときあらひきぬの あやしくも ことにきほしき このゆふべかも 07 1315 橘之    嶋尓之居者   河遠    不曝縫之    吾下衣 たちばなの しまにしをれば かはとほみ さらさずぬひし あがしたごろも 07 1316 寄絲 07 1316 河内女之  手染之絲乎   絡反    片絲尓雖有    将絶跡念也 かふちめの てそめのいとを くりかへし かたいとにあれど たえむともへや 07 1317 寄玉 07 1317 海底    沈白玉     風吹而   海者雖荒    不取者不止 わたのそこ しづくしらたま かぜふきて うみはあるとも とらずはやまじ 07 1318 底清    沈有玉乎    欲見    千遍曽告之   潜為白水郎 そこきよみ しづけるたまを みまくほり ちたびぞのりし かづきするあまは 07 1319 大海之   水底照之    石著玉   齋而将採    風莫吹行年 おほうみの みなそこてらし しづくたま いはひてとらむ かぜなふきそね 07 1320 水底尓   沈白玉     誰故    心盡而     吾不念尓 みなそこに しづくしらたま たがゆゑに こころつくして わがおもはなくに 07 1321 世間    常如是耳加   結大王   白玉之緒    絶樂思者 よのなかは つねかくのみか むすびてし しらたまのをの たゆらくもへば 07 1322 伊勢海之   白水郎之嶋津我 鰒玉    取而後毛可   戀之将繁 いせのうみの あまのしまつが あはびたま とりてのちもか こひのしげけむ 07 1323 海之底   奥津白玉    縁乎無三  常如此耳也   戀度味試 わたのそこ おきつしらたま よしをなみ つねかくのみや こひわたりなむ 07 1324 葦根之   懃念而      結義之   玉緒云者     人将解八方 あしのねの ねもころおもひて むすびてし たまのをといはば ひととかめやも 07 1325 白玉乎   手者不纒尓   匣耳    置有之人曽   玉令詠流 しらたまを てにはまかずに はこのみに おけりしひとぞ たまなげかする 07 1326 照左豆我  手尓纒古須   玉毛欲得  其緒者替而   吾玉尓将為 てるさづが てにまきふるす たまもがも そのをはかへて わがたまにせむ 07 1327 秋風者   継而莫吹    海底    奥在玉乎    手纒左右二 あきかぜは つぎてなふきそ わたのそこ おきなるたまを てにまくまでに 07 1328 寄日本琴 07 1328 伏膝    玉之小琴之   事無者   甚幾許     吾将戀也毛 ひざにふす たまのをごとの ことなくは いたくここだく あれこひめやも 07 1329 寄弓 07 1329 陸奥之   吾田多良真弓  著絃而   引者香人之   吾乎事将成 みちのくの あだたらまゆみ つらはけて ひかばかひとの あをことなさむ 07 1330 南淵之   細川山     立檀    弓束纒及    人二不所知 みなふちの ほそかはやまに たつまゆみ ゆづかまくまで ひとにしらえじ 07 1331 寄山 07 1331 磐疊    恐山常     知管毛   吾者戀香    同等不有尓 いはたたみ かしこきやまと しりつつも あれはこふるか なみならなくに 07 1332 石金之   凝敷山尓    入始而   山名付染    出不勝鴨 いはがねの こごしきやまに いりそめて やまなつかしみ いでかてぬかも 07 1333 佐穂山乎  於凡尓見之鹿跡 今見者   山夏香思母   風吹莫勤 さほやまを おほにみしかど いまみれば やまなつかしも かぜふくなゆめ 07 1334 奥山之   於石蘿生    恐常    思情乎     何如裳勢武 おくやまの いはにこけむし かしこけど おもふこころを いかにかもせむ 07 1335 思賸     痛文為便無   玉手次   雲飛山仁    吾印結 おもひあまり いたもすべなみ たまだすき うねびのやまに われしめゆひつ 07 1336 寄草 07 1336 冬隠    春乃大野乎   焼人者   焼不足香文   吾情熾 ふゆこもり はるのおほのを やくひとは やきたらねかも あがこころやく 07 1337 葛城乃   高間草野    早知而   標指益乎    今悔拭 かづらきの たかまのかやの はやしりて しめささましを いまぞくやしき 07 1338 吾屋前尓  生土針     従心毛   不想人之    衣尓須良由奈 わがやどに おふるつちはり こころゆも おもはぬひとの きぬにすらゆな 07 1339 鴨頭草丹  服色取     揩目伴   移變色登    偁之苦沙 つきくさに ころもいろどり すらめども うつろふいろと いふがくるしさ 07 1340 紫     絲乎曽吾搓    足桧之   山橘乎     将貫跡念而 むらさきの いとをぞあがよる あしひきの やまたちばなを ぬかむともひて 07 1341 真珠付   越能菅原    吾不苅   人之苅巻    惜菅原 またまつく をちのすがはら わがからず ひとのからまく をしきすがはら 07 1342 山高    夕日隠奴    淺茅原   後見多米尓   標結申尾 やまだかみ ゆふひかくりぬ あさぢはら のちみむために しめゆはましを 07 1343 事痛者   左右将為乎   石代之   野邊之下草   吾之苅而者 一云 紅之    寫心哉     於妹不相将有 こちたくは かもかもせむを いはしろの のへのしたくさ われしかりてば  くれなゐの うつしこころや いもにあはずあらむ 07 1344 真鳥住   卯名手之神社之 菅根乎   衣尓書付    令服兒欲得 まとりすむ うなてのもりの すがのねを きぬにかきつけ きせむこもがも 07 1345 常不     人國山乃    秋津野乃  垣津幡鴛    夢見鴨 つねにあらぬ ひとくにやまの あきづのの かきつはたをし いめにみしかも 07 1346 姫押    生澤邊之    真田葛原  何時鴨絡而   我衣将服 をみなへし さきさはのべの まくずはら いつかもくりて わがきぬにきむ 07 1347 於君似   草登見従    我標之   野山之淺茅   人莫苅根 きみににる くさとみしより わがしめし のやまのあさぢ ひとなかりそね 07 1348 三嶋江之  玉江之薦乎   従標之   己我跡曽念    雖未苅 みしまえの たまえのこもを しめしより おのがとぞおもふ いまだからねど 07 1349 如是為而也 尚哉将老    三雪零   大荒木野之   小竹尓不有九二 かくしてや なほやおいなむ みゆきふる おほあらきのの しのにあらなくに 07 1350 淡海之哉  八橋乃小竹乎  不造笶而  信有得哉     戀敷鬼呼 あふみのや やばせのしのを やはがずて まことありえむや こほしきものを 07 1351 月草尓   衣者将揩    朝露尓   所沾而後者   徙去友 つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも 07 1352 吾情    湯谷絶谷    浮蓴    邊毛奥毛    依勝益士 あがこころ ゆたにたゆたに うきぬなは へにもおきにも よりかつましじ 07 1353 寄稲 07 1353 石上    振之早田乎   雖不秀   繩谷延与    守乍将居 いそのかみ ふるのわさだを ひでずとも しめだにはへよ もりつつをらむ 07 1354 寄木 07 1354 白菅之   真野乃榛原   心従毛   不念吾之    衣尓揩 しらすげの まののはりはら こころゆも おもはぬわれし ころもにすりつ 07 1355 真木柱   作蘇麻人    伊左佐目丹 借廬之為跡   造計米八方 まきばしら つくるそまびと いささめに かりほのためと つくりけめやも 07 1356 向峯尓   立有桃樹    将成哉等  人曽耳言焉   汝情勤 むかつをに たてるもものき ならめやと ひとぞささやく ながこころゆめ 07 1357 足乳根乃  母之其業    桑尚    願者衣尓    著常云物乎 たらちねの ははのそのなる くはすらに ねがへばきぬに きるといふものを 07 1358 波之吉也思 吾家乃毛桃   本繁    花耳開而    不成在目八方 はしきやし わぎへのけもも もとしげく はなのみさきて ならざらめやも 07 1359 向岳之   若楓木     下枝取   花待伊間尓   嘆鶴鴨 むかつをの わかかつらのき しづえとり はなまついまに なげきつるかも 07 1360 寄花 07 1360 氣緒尓   念有吾乎    山治左能  花尓香公之   移奴良武 いきのをに おもへるわれを やまぢさの はなにかきみが うつろひぬらむ 07 1361 墨吉之   淺澤小野之   垣津幡   衣尓揩著    将衣日不知毛 すみのえの あささはをのの かきつはた きぬにすりつけ きむひしらずも 07 1362 秋去者   影毛将為跡   吾蒔之   韓藍之花乎    誰採家牟 あきさらば うつしもせむと わがまきし からあゐのはなを たれかつみけむ 07 1363 春日野尓  咲有芽子者   片枝者   未含有     言勿絶行年 かすがのに さきたるはぎは かたえだは いまだふふめり ことなたえそね 07 1364 欲見    戀管待之    秋芽子者  花耳開而    不成可毛将有 みまくほり こひつつまちし あきはぎは はなのみさきて ならずかもあらむ 07 1365 吾妹子之  屋前之秋芽子  自花者   實成而許曽   戀益家礼 わぎもこが やどのあきはぎ はなよりは みになりてこそ こひまさりけれ 07 1366 寄鳥 07 1366 明日香川  七瀬之不行尓  住鳥毛   意有社     波不立目 あすかがは ななせのよどに すむとりも こころあれこそ なみたてざらめ 07 1367 寄獣 07 1367 三國山   木末尓住歴   武佐左妣乃 此待鳥如    吾俟将痩 みくにやま こぬれにすまふ むささびの とりまつごとく われまちやせむ 07 1368 寄雲 07 1368 石倉之   小野従秋津尓  發渡    雲西裳在哉    時乎思将待 いはくらの をのゆあきづに たちわたる くもにしもあれや ときをしまたむ 07 1369 寄雷 07 1369 天雲    近光而     響神之   見者恐     不見者悲毛 あまくもに ちかくひかりて なるかみの みればかしこし みねばかなしも 07 1370 寄雨 07 1370 甚多毛   不零雨故    庭立水   太莫逝     人之應知 はなはだも ふらぬあめゆゑ にはたつみ いたくなゆきそ ひとのしるべく 07 1371 久堅之   雨尓波不著乎  恠毛    吾袖者     干時無香 ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わがころもでは ふるときなきか 07 1372 寄月 07 1372 三空徃   月讀壮士    夕不去   目庭雖見    因縁毛無 みそらゆく つくよみをとこ ゆふさらず めにはみれども よるよしもなし 07 1373 春日山   〃高有良之   石上     菅根将見尓   月待難 かすがやま やまたかからし いはのうへの すがのねみむに つきまちがたし 07 1374 闇夜者   辛苦物乎    何時跡   吾待月毛    早毛照奴賀 やみのよは くるしきものを いつしかと あがまつつきも はやもてらぬか 07 1375 朝霜之   消安命     為誰    千歳毛欲得跡  吾念莫國 あさしもの けやすきいのち たがために ちとせもがもと わがおもはなくに 07 1375 右一首者不有譬喩歌類也 但闇夜歌人所心之故並作此歌 因以此歌載於此次 07 1376 寄赤土 07 1376 山跡之  宇陁乃真赤土  左丹著者  曽許裳香人之  吾乎言将成 やまとの うだのまはにの さにつかば そこもかひとの あをことなさむ 07 1377 寄神 07 1377 木綿懸而  祭三諸乃    神佐備而  齋尓波不在    人目多見許曽 ゆふかけて まつるみもろの かむさびて いむとにはあらず ひとめおほみこそ 07 1378 木綿懸而  齋此神社    可超    所念可毛    戀之繁尓 ゆふかけて いむこのもりも こえぬべく おもほゆるかも こひのしげきに 07 1379 寄河 07 1379 不絶逝   明日香川之   不逝有者  故霜有如     人之見國 たえずゆく あすかのかはの よどめらば ゆゑしもあるごと ひとのみまくに 07 1380 明日香川  湍瀬尓玉藻者  雖生有   四賀良美有者  靡不相 あすかがは せぜにたまもは おひたれど しがらみあれば なびきあはなくに 07 1381 廣瀬河   袖衝許     淺乎也   心深目手    吾念有良武 ひろせがは そでつくばかり あさきをや こころふかめて あがもへるらむ 07 1382 泊瀬川   流水沫之    絶者許曽  吾念心     不遂登思齒目 はつせがは ながるみなわの たえばこそ あがもふこころ とげじとおもはめ 07 1383 名毛伎世婆 人可知見    山川之   瀧情乎     塞敢而有鴨 なげきせば ひとしりぬべみ やまがはの たぎつこころを せかへてあるかも 07 1384 水隠尓   氣衝餘     早川之   瀬者立友    人二将言八方 みごもりに いきづきあまり はやかはの せにはたつとも ひとにいはめやも 07 1385 寄埋木 07 1385 真鉇持   弓削河原之   埋木之   不可顕      事尓不有君 まかなもち ゆげのかはらの うもれきの あらはるましじき ことにあらなくに 07 1386 寄海 07 1386 大船尓   真梶繁貫    水手出去之 奥者将深    潮者干去友 おほぶねに まかぢしじぬき こぎでなば おきはふかけむ しほはひぬとも 07 1387 伏超従   去益物乎    間守尓   所打沾     浪不數為而 ふしこえゆ ゆかましものを まもらふに うちぬらさえぬ なみよまずして 07 1388 石灑    岸之浦廻尓   縁浪    邊尓来依者香  言之将繁 いはそそき きしのうらみに よするなみ へにきよらばか ことのしげけむ 07 1389 礒之浦尓   来依白浪    反乍    過不勝者    誰尓絶多倍 いそのうらに きよるしらなみ かへりつつ すぎかてなくは たれにたゆたへ 07 1390 淡海之海   浪恐登     風守    年者也将経去  榜者無二 あふみのうみ なみかしこみと かぜまもり としはやへなむ こぐとはなしに 07 1391 朝奈藝尓  来依白浪    欲見    吾雖為     風許増不令依 あさなぎに きよるしらなみ みまくほり われはすれども かぜこそよせね 07 1392 寄浦沙 07 1392 紫之    名高浦之    愛子地   袖耳觸而    不寐香将成 むらさきの なたかのうらの まなごつち そでのみふれて ねずかなりなむ 07 1393 豊國之   聞之濱邊之   愛子地   真直之有者    何如将嘆 とよくにの きくのはまへの まなごつち まなほにしあらば なにかなげかむ 07 1394 寄藻 07 1394 塩満者   入流礒之    草有哉   見良久少    戀良久乃太寸 しほみてば いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき 07 1395 奥浪    依流荒礒之   名告藻者  心中尓     疾跡成有 おきつなみ よするありその なのりそは こころのうちに つつみとなれり 07 1396 紫之    名高浦乃    名告藻之  於礒将靡    時待吾乎 むらさきの なたかのうらの なのりその いそになびかむ ときまつわれを 07 1397 荒礒超   浪者恐     然為蟹   海之玉藻之   憎者不有手 ありそこす なみはかしこし しかすがに うみのたまもの にくくはあらずて 07 1398 寄船 07 1398 神樂聲浪乃 四賀津之浦能  船乗尓   乗西意     常不所忘 ささなみの しがつのうらの ふなのりに のりにしこころ つねわすらえず 07 1399 百傳    八十之嶋廻乎  榜船尓   乗尓志情   忘不得裳 ももづたふ やそのしまみを こぐふねに のりにしこころ わすれかねつも 07 1400 嶋傳    足速乃小舟   風守    年者也経南   相常齒無二 しまづたふ あばやのをぶね かぜまもり としはやへなむ あふとはなしに 07 1401 水霧相   奥津小嶋尓   風乎疾見   船縁金都    心者念杼 みなぎらふ おきつこしまに かぜをいたみ ふねよせかねつ こころはもへど 07 1402 殊放者   奥従酒甞    湊自    邊著経時尓   可放鬼香 ことさけば おきゆさけなむ みなとより へつかふときに さくべきものか 07 1403 旋頭歌 07 1403 三幣帛取  神之祝我    鎮齋杉原    燎木伐   殆之國     手斧所取奴 みぬさとり みわのはふりが いはふすぎはら たききこり ほとほとしくに てをのとらえぬ 07 1404 挽歌 07 1404 鏡成    吾見之君乎   阿婆乃野之 花橘之     珠尓拾都 かがみなす わがみしきみを あばののの はなたちばなの たまにひりひつ 07 1405 蜻野叨   人之懸者    朝蒔    君之所思而    嗟齒不病 あきづのを ひとのかくれば あさまきし きみがおもほえて なげきはやまず 07 1406 秋津野尓  朝居雲之    失去者   前裳今裳    無人所念 あきづのに あさゐるくもの うせゆけば きのふもけふも なきひとおもほゆ 07 1407 隠口乃   泊瀬山尓    霞立    棚引雲者    妹尓鴨在武 こもりくの はつせのやまに かすみたち たなびくくもは いもにかもあらむ 07 1408 狂語香   逆言哉     隠口乃   泊瀬山尓    廬為云 たはことか およづれことか こもりくの はつせのやまに いほりせりといふ 07 1409 秋山  黄葉憾怜  浦觸而  入西妹者  待不来 あきやまの もみちあはれと うらぶれて いりにしいもは まてどきまさず 07 1410 世間者   信二代者    不徃有之  過妹尓     不相念者 よのなかは まことふたよは ゆかざらし すぎにしいもに あはなくもへば 07 1411 福     何有人香    黒髪之   白成左右    妹之音乎聞 さきはひの いかなるひとか くろかみの しろくなるまで いもがこゑをきく 07 1412 吾背子乎  何處行目跡   辟竹之   背向尓宿之久  今思悔裳 わがせこを いづちゆかめと さきたけの そがひにねしく いましくやしも 07 1413 庭津鳥   可鷄乃垂尾乃  乱尾乃   長心毛     不所念鴨 にはつとり かけのたりをの みだれをの ながきこころも おもほえぬかも 07 1414 薦枕    相巻之兒毛   在者社   夜乃深良久毛  吾惜責 こもまくら あひまきしこも あらばこそ よのふくらくも わがをしみせめ 07 1415 玉梓能   妹者珠氈    足氷木乃  清山邊     蒔散柒 たまづさの いもはたまかも あしひきの きよきやまへに まけばちりぬる 07 1416 或本歌曰 07 1416 玉梓之   妹者花可毛   足日木乃  此山影尓    麻氣者失留 たまづさの いもははなかも あしひきの このやまかげに まけばうせぬる 07 1417 羈旅歌 07 1417 名兒乃海乎  朝榜来者  海中尓  鹿子曽鳴成  憾怜其水手 なごのうみを あさこぎくれば わたなかに かこぞなくなる あはれそのかこ 08 1418 春雜歌 08 1418 志貴皇子懽御歌一首 08 1418 石激    垂見之上乃   左和良妣乃 毛要出春尓    成来鴨 いはばしる たるみのうへの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも 08 1419 鏡王女歌一首 08 1419 神奈備乃  伊波瀬乃社之  喚子鳥   痛莫鳴     吾戀益 かむなびの いはせのもりの よぶこどり いたくななきそ あがこひまさる 08 1420 駿河采女歌一首 08 1420 沫雪香   薄太礼尓零登  見左右二  流倍散波    何物之花其毛 あわゆきか はだれにふると みるまでに ながらへちるは なにのはなぞも 08 1421 尾張連歌二首 名闕 08 1421 春山之   開乃乎為里尓  春菜採   妹之白紐    見九四与四門 はるやまの さきのををりに はるなつむ いもがしらひも みらくしよしも 08 1422 打靡  春来良之  山際  遠木末乃  開徃見者 うちなびく はるきたるらし やまのまの とほきこぬれの さきゆくみれば 08 1423 中納言阿倍廣庭卿歌一首 08 1423 去年春  伊許自而殖之  吾屋外之  若樹梅者  花咲尓家里 こぞのはる いこじてうゑし わがやどの わかきのうめは はなさきにけり 08 1424 山部宿祢赤人歌四首 08 1424 春野尓  須美礼採尓等  来師吾曽  野乎奈都可之美 一夜宿二来 はるののに すみれつみにと こしわれぞ のをなつかしみ ひとよねにける 08 1425 足比奇乃  山櫻花  日並而  如是開有者  甚戀目夜裳 あしひきの やまさくらばな ひならべて かくさきたらば いとこひめやも 08 1426 吾勢子尓  令見常念之  梅花  其十方不所見  雪乃零有者 わがせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえず ゆきのふれれば 08 1427 従明日者  春菜将採跡  標之野尓  昨日毛今日母  雪波布利管 あすよりは はるなつまむと しめしのに きのふもけふも ゆきはふりつつ 08 1428 草香山歌一首 08 1428 忍照  難波乎過而  打靡  草香乃山乎  暮晩尓  吾越来者  山毛世尓  咲有馬酔木乃  不悪  君乎何時  徃而早将見 おしてる なにはをすぎて うちなびく くさかのやまを ゆふぐれに わがこえくれば やまもせに さけるあしびの にくからぬ きみをいつしか ゆきてはやみむ 08 1428 右一首依作者微不顕名字 08 1429 櫻花歌一首 并短歌 08 1429 嫺嬬等之  頭挿乃多米尓  遊士之   蘰之多米等   敷座流   國乃波多弖尓  開尓鷄類  櫻花能     丹穂日波母安奈尓 をとめらが かざしのために みやびをの かづらのためと しきませる くにのはたてに さきにける さくらのはなの にほひはもあなに 08 1430 反歌 08 1430 去年之春  相有之君尓   戀尓手師  櫻花者     迎来良之母 こぞのはる あへりしきみに こひにてし さくらのはなは むかへけらしも 08 1430 右二首若宮年魚麻呂誦之 08 1431 山部宿祢赤人歌一首 08 1431 百濟野乃  芽古枝尓    待春跡   居之鸎     鳴尓鷄鵡鴨 くだらのの はぎのふるえに はるまつと をりしうぐひす なきにけむかも 08 1432 大伴坂上郎女柳歌二首 08 1432 吾背兒我  見良牟佐保道乃 青柳乎   手折而谷裳   見縁欲得 わがせこが みらむさほぢの あをやぎを たをりてだにも みむよしもがも 08 1433 打上    佐保能河原之  青柳者   今者春部登   成尓鷄類鴨 うちのぼる さほのかはらの あをやぎは いまははるへと なりにけるかも 08 1434 大伴宿祢三林梅歌一首 08 1434 霜雪毛   未過者     不思尓   春日里尓    梅花見都 しもゆきも いまだすぎねば おもはぬに かすがのさとに うめのはなみつ 08 1435 厚見王歌一首 08 1435 河津鳴   甘南備河尓   陰所見而  今香開良武   山振乃花 かはづなく かむなびかはに かげみえて いまかさくらむ やまぶきのはな 08 1436 大伴宿祢村上梅歌二首 08 1436 含有常   言之梅我枝   今旦零四  沫雪二相而    将開可聞 ふふめりと いひしうめがえ けさふりし あわゆきにあひて さきぬらむかも 08 1437 霞立    春日之里    梅花    山下風尓    落許須莫湯目 かすみたつ かすがのさとの うめのはな やまのあらしに ちりこすなゆめ 08 1438 大伴宿祢駿河丸歌一首 08 1438 霞立    春日里之    梅花    波奈尓将問常  吾念奈久尓 かすみたつ かすがのさとの うめのはな はなにとはむと わがおもはなくに 08 1439 中臣朝臣武良自歌一首 08 1439 時者今者   春尓成跡    三雪零   遠山邊尓    霞多奈婢久 ときはいまは はるになりぬと みゆきふる とほやまのべに かすみたなびく 08 1440 河邊朝臣東人歌一首 08 1440 春雨乃   敷布零尓    高圓    山能櫻者    何如有良武 はるさめの しくしくふるに たかまとの やまのさくらは いかにかあるらむ 08 1441 大伴宿祢家持鸎歌一首 08 1441 打霧之   雪者零乍    然為我二  吾宅乃苑尓   鸎鳴裳 うちきらひ ゆきはふりつつ しかすがに わぎへのそのに うぐひすなくも 08 1442 大蔵少輔丹比屋主真人歌一首 08 1442 難波邊尓  人之行礼波   後居而   春菜採兒乎   見之悲也 なにはへに ひとのゆければ おくれゐて はるなつむこを みるがかなしさ 08 1443 丹比真人乙麻呂歌一首 屋主真人之第二子也 08 1443 霞立    野上乃方尓    行之可波  鸎鳴都     春尓成良思 かすみたつ ののうへのかたに ゆきしかば うぐひすなきつ はるになるらし 08 1444 高田女王歌一首 高安之女也 08 1444 山振之   咲有野邊乃   都保須美礼 此春之雨尓    盛奈里鷄利 やまぶきの さきたるのへの つほすみれ このはるのあめに さかりなりけり 08 1445 大伴坂上郎女歌一首 08 1445 風交    雪者雖零    實尓不成  吾宅之梅乎   花尓令落莫 かぜまじり ゆきはふるとも みにならぬ わぎへのうめを はなにちらすな 08 1446 大伴宿祢家持春鴙歌一首 08 1446 春野尓   安佐留鴙乃   妻戀尓   己我當乎    人尓令知管 はるののに あさるきぎしの つまごひに おのがあたりを ひとにしれつつ 08 1447 大伴坂上郎女歌一首 08 1447 尋常    聞者苦寸    喚子鳥   音奈都炊    時庭成奴 よのつねに きくはくるしき よぶこどり こゑなつかしき ときにはなりぬ 08 1447 右一首天平四年三月一日佐保宅作 08 1448 春相聞 08 1448 大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首 08 1448 吾屋外尓  蒔之瞿麦    何時毛   花尓咲奈武   名蘇経乍見武 わがやどに まきしなでしこ いつしかも はなにさきなむ なそへつつみむ 08 1449 大伴田村家毛大嬢與妹坂上大嬢歌一首 08 1449 茅花抜   淺茅之原乃   都保須美礼 今盛有     吾戀苦波 つばなぬく あさぢがはらの つほすみれ いまさかりなり あがこふらくは 08 1450 大伴宿祢坂上郎女歌一首 08 1450 情具伎   物尓曽有鷄類   春霞    多奈引時尓   戀乃繁者 こころぐき ものにぞありける はるかすみ たなびくときに こひのしげきは 08 1451 笠女郎贈大伴家持歌一首 08 1451 水鳥之   鴨乃羽色乃    春山乃   於保束無毛   所念可聞 みづとりの かものはのいろの はるやまの おほつかなくも おもほゆるかも 08 1452 紀女郎歌一首 名曰小鹿也 08 1452 闇夜有者  宇倍毛不来座  梅花    開月夜尓    伊而麻左自常屋 やみならば うべもきまさじ うめのはな さけるつくよに いでまさじとや 08 1453 天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首 并短歌 08 1453 玉手次   不懸時無    氣緒尓   吾念公者    虚蝉之   世人有者    大王之   命恐      夕去者   鶴之妻喚    難波方   三津埼従    大舶尓   二梶繁貫    白浪乃   高荒海乎    嶋傳    伊別徃者    留有    吾者幣引    齋乍    公乎者将待   早還万世 たまだすき かけぬときなく いきのをに あがもふきみは うつせみの よのひとなれば おほきみの みことかしこみ ゆふされば たづがつまよぶ なにはがた みつのさきより おほぶねに まかぢしじぬき しらなみの たかきあるみを しまづたひ いわかれゆかば とどまれる われはぬさひき いはひつつ きみをばまたむ はやかへりませ 08 1454 反歌 08 1454 波上従    所見兒嶋之   雲隠    穴氣衝之    相別去者 なみのうへゆ みゆるこしまの くもがくり あないきづかし あひわかれなば 08 1455 玉切    命向      戀従者   公之三舶乃   梶柄母我 たまきはる いのちにむかひ こひむゆは きみがみふねの かぢからにもが 08 1456 藤原朝臣廣嗣櫻花贈娘子歌一首 08 1456 此花乃   一与能内尓   百種乃   言曽隠有    於保呂可尓為莫 このはなの ひとよのうちに ももくさの ことぞこもれる おほろかにすな ○ 08 1457 娘子和歌一首 08 1457 此花乃   一与能裏波   百種乃   言持不勝而   所折家良受也 このはなの ひとよのうちは ももくさの こともちかねて をらえけらずや ○ 08 1458 厚見王贈久米女郎歌一首 08 1458 室戸在   櫻花者     今毛香聞  松風疾     地尓落良武 やどにある さくらのはなは いまもかも まつかぜはやみ つちにちるらむ 08 1459 久米女郎報贈歌一首 08 1459 世間毛   常尓師不有者   室戸尓有  櫻花乃     不所比日可聞 よのなかも つねにしあらねば やどにある さくらのはなの ちれるころかも 08 1460 紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 08 1460 戯奴之為 變云和氣 吾手母須麻尓  春野尓   抜流茅花曽   御食而肥座 わけがため  わけ あがてもすまに はるののに ぬけるつばなぞ めしてこえませ 08 1461 晝者咲   夜者戀宿    合歡木花  君耳将見哉   和氣佐倍尓見代 ひるはさき よるはこひぬる ねぶのはな きみのみみめや わけさへにみよ 08 1461 右折攀合歡花并茅花贈也 08 1462 大伴家持贈和歌二首 08 1462 吾君尓   戯奴者戀良思  給有    茅花乎雖喫   弥痩尓夜須 あがきみに わけはこふらし たばりたる つばなをはめど いややせにやす 08 1463 吾妹子之  形見乃合歡木者 花耳尓   咲而盖     實尓不成鴨 わぎもこが かたみのねぶは はなのみに さきてけだしく みにならじかも 08 1464 大伴家持贈坂上大嬢歌一首 08 1464 春霞    軽引山乃    隔者    妹尓不相而   月曽経去来 はるかすみ たなびくやまの へなれれば いもにあはずて つきぞへにける 08 1464 右従久邇京贈寧樂宅 08 1465 夏雜歌 08 1465 藤原夫人歌一首 明日香清御原宮御宇天皇之夫人也 字曰大原大刀自 即新田部皇子之母也 08 1465 霍公鳥   痛莫鳴     汝音乎   五月玉尓    相貫左右二 ほととぎす いたくななきそ ながこゑを さつきのたまに あへぬくまでに 08 1466 志貴皇子御歌一首 08 1466 神名火乃  磐瀬乃社之   霍公鳥   毛無乃岳尓   何時来将鳴 かむなびの いはせのもりの ほととぎす けなしのをかに いつかきなかむ 08 1467 弓削皇子御歌一首 08 1467 霍公鳥   無流國尓毛   去而師香  其鳴音乎    聞者辛苦母 ほととぎす なかるくににも ゆきてしか そのなくこゑを きけばくるしも 08 1468 小治田廣瀬王霍公鳥歌一首 08 1468 霍公鳥   音聞小野乃   秋風尓   芽開礼也    聲之乏寸 ほととぎす こゑきくをのの あきかぜに はぎさきたれや こゑのともしき 08 1469 沙弥霍公鳥歌一首 08 1469 足引之   山霍公鳥    汝鳴者   家有妹     常所思 あしひきの やまほととぎす ながなけば いへなるいもは つねにしおもほゆ 08 1470 刀理宣令歌一首 08 1470 物部乃   石瀬之社乃   霍公鳥   今毛鳴奴香   山之常影尓 もののふの いはせのもりの ほととぎす いまもなかぬか やまのとかげに 08 1471 山部宿祢赤人歌一首 08 1471 戀之家婆  形見尓将為跡  吾屋戸尓  殖之藤浪    今開尓家里 こひしけば かたみにせむと わがやどに うゑしふぢなみ いまさきにけり 08 1472 式部大輔石上堅魚朝臣歌一首 08 1472 霍公鳥   来鳴令響    宇乃花能  共也来之登   問麻思物乎 ほととぎす きなきとよもす うのはなの ともにやこしと とはましものを 08 1472 右神龜五年戊辰大宰帥大伴卿之妻大伴郎女遇病長逝焉 于時 勅使式部大輔石上朝臣堅魚遣大宰府弔喪并賜物也 其事既畢驛使及府諸卿大夫等共登記夷城而望遊之日乃作此歌 08 1473 大宰帥大伴卿和歌一首 08 1473 橘之    花散里乃    霍公鳥   片戀為乍    鳴日四曽多寸 たちばなの はなちるさとの ほととぎす かたこひしつつ なくひしぞおほき 08 1474 大伴坂上郎女思筑紫大城山歌一首 08 1474 今毛可聞  大城乃山尓   霍公鳥   鳴令響良武   吾無礼杼毛 いまもかも おほきのやまに ほととぎす なきとよむらむ われなけれども 08 1475 大伴坂上郎女霍公鳥歌一首 08 1475 何奇毛   幾許戀流    霍公鳥   鳴音聞者    戀許曽益礼 なにしかも ここだくこふる ほととぎす なくこゑきけば こひこそまされ 08 1476 小治田朝臣廣耳歌一首 08 1476 獨居而   物念夕尓    霍公鳥   従此間鳴渡   心四有良思 ひとりゐて ものもふよひに ほととぎす こゆなきわたる こころしあるらし 08 1477 大伴家持霍公鳥歌一首 08 1477 宇能花毛  未開者     霍公鳥   佐保乃山邊   来鳴令響 うのはなも いまださかねば ほととぎす さほのやまへに きなきとよもす 08 1478 大伴家持橘歌一首 08 1478 吾屋前之  花橘乃     何時毛   珠貫倍久    其實成奈武 わがやどの はなたちばなの いつしかも たまにぬくべく そのみなりなむ 08 1479 大伴家持晩蝉歌一首 08 1479 隠耳    居者欝悒    奈具左武登 出立聞者    来鳴日晩 こもりのみ をればいぶせみ なぐさむと いでたちきけば きなくひぐらし 08 1480 大伴書持歌二首 08 1480 我屋戸尓  月押照有    霍公鳥   心有今夜     来鳴令響 わがやどに つきおしてれり ほととぎす こころあらばこぞ きなきとよもせ 08 1481 我屋戸前乃 花橘尓     霍公鳥   今社鳴米    友尓相流時 わがやどの はなたちばなに ほととぎす いまこそなかめ ともにあへるとき 08 1482 大伴清縄歌一首 08 1482 皆人之   待師宇能花   雖落    奈久霍公鳥   吾将忘哉 みなひとの まちしうのはな ちりぬとも なくほととぎす われわすれめや 08 1483 奄君諸立歌一首 08 1483 吾背子之  屋戸乃橘    花乎吉美  鳴霍公鳥    見曽吾来之 わがせこが やどのたちばな はなをよみ なくほととぎす みにぞわがこし 08 1484 大伴坂上郎女歌一首 08 1484 霍公鳥   痛莫鳴     獨居而   寐乃不所宿   聞者苦毛 ほととぎす いたくななきそ ひとりゐて いのねらえぬに きけばくるしも 08 1485 大伴家持唐棣花歌一首 08 1485 夏儲而   開有波祢受   久方乃   雨打零者    将移香 なつまけて さきたるはねず ひさかたの あめうちふらば うつろひなむか 08 1486 大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首 08 1486 吾屋前之  花橘乎     霍公鳥   来不喧地尓   令落常香 わがやどの はなたちばなを ほととぎす きなかずつちに ちらしてむとか 08 1487 霍公鳥   不念有寸    木晩乃   如此成左右尓  奈何不来喧 ほととぎす おもはずありき このくれの かくなるまでに なにかきなかぬ 08 1488 大伴家持懽霍公鳥歌一首 08 1488 何處者   鳴毛思仁家武  霍公鳥   吾家乃里尓   今日耳曽鳴 いづくにか なきもしにけむ ほととぎす わぎへのさとに けふのみぞなく 08 1489 大伴家持惜橘花歌一首 08 1489 吾屋前之  花橘者     落過而   珠尓可貫    實尓成二家利 わがやどの はなたちばなは ちりすぎて たまにぬくべく みになりにけり 08 1490 大伴家持霍公鳥歌一首 08 1490 霍公鳥   雖待不来喧   菖蒲草   玉尓貫日乎   未遠美香 ほととぎす まてどきなかず あやめぐさ たまにぬくひを いまだとほみか 08 1491 大伴家持雨日聞霍公鳥喧歌一首 08 1491 宇乃花能  過者惜香    霍公鳥   雨間毛不置   従此間喧渡 うのはなの すぎばをしみか ほととぎす あままもおかず こゆなきわたる 08 1492 橘歌一首 遊行女婦 08 1492 君家乃    花橘者     成尓家利  花乃有時尓    相益物乎 きみがいへの はなたちばなは なりにけり はなのあるときに あはましものを 08 1493 大伴村上橘歌一首 08 1493 吾屋前乃  花橘乎     霍公鳥   来鳴令動而   本尓令散都 わがやどの はなたちばなを ほととぎす きなきとよめて もとにちらしつ 08 1494 大伴家持霍公鳥歌二首 08 1494 夏山之   木末乃繁尓   霍公鳥   鳴響奈流    聲之遥佐 なつやまの こぬれのしげに ほととぎす なきとよむなる こゑのはるけさ 08 1495 足引乃   許乃間立八十一 霍公鳥   如此聞始而   後将戀可聞 あしひきの このまたちくく ほととぎす かくききそめて のちこひむかも 08 1496 大伴家持石竹花歌一首 08 1496 吾屋前之  瞿麦乃花    盛有    手折而一目   令見兒毛我母 わがやどの なでしこのはな さかりなり たをりてひとめ みせむこもがも 08 1497 惜不登筑波山歌一首 08 1497 筑波根尓  吾行利世波   霍公鳥   山妣兒令響   鳴麻志也其 つくはねに わがゆけりせば ほととぎす やまびことよめ なかましやそれ 08 1497 右一首高橋連蟲麻呂之歌中出 08 1498 夏相聞 08 1498 大伴坂上郎女歌一首 08 1498 無暇    不来之君尓   霍公鳥   吾如此戀常   徃而告社 いとまなみ きまさぬきみに ほととぎす あれかくこふと ゆきてつげこそ 08 1499 大伴四縄宴吟歌一首 08 1499 事繁    君者不来益   霍公鳥   汝太尓来鳴   朝戸将開 ことしげみ きみはきまさず ほととぎす なれだにきなけ あさとひらかむ 08 1500 大伴坂上郎女歌一首 08 1500 夏野之   繁見丹開有   姫由理乃  不所知戀者   苦物曽 なつののの しげみにさける ひめゆりの しらえぬこひは くるしきものぞ 08 1501 小治田朝臣廣耳歌一首 08 1501 霍公鳥   鳴峯乃上能    宇乃花之  猒事有哉    君之不来益 ほととぎす なくみねのうへの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ 08 1502 大伴坂上郎女歌一首 08 1502 五月之  花橘乎     為君    珠尓社貫    零巻惜美 さつきの はなたちばなを きみがため たまにこそぬけ ちらまくをしみ 08 1503 紀朝臣豊河歌一首 08 1503 吾妹兒之  家乃垣内乃   佐由理花  由利登云者   不欲云二似 わぎもこが いへのかきつの さゆりばな ゆりといへるは いなといふににる 08 1504 高安歌一首 08 1504 暇無    五月乎尚尓   吾妹兒我  花橘乎     不見可将過 いとまなみ さつきをすらに わぎもこが はなたちばなを みずかすぎなむ 08 1505 大神女郎贈大伴家持歌一首 08 1505 霍公鳥   鳴之登時    君之家尓   徃跡追者    将至鴨 ほととぎす なきしすなはち きみがいへに ゆけとおひしは いたりけむかも 08 1506 大伴田村大嬢与妹坂上大嬢歌一首 08 1506 古郷之   奈良思乃岳能  霍公鳥   言告遣之    何如告寸八 ふるさとの ならしのをかの ほととぎす ことつげやりし いかにつげきや 08 1507 大伴家持攀橘花贈坂上大嬢歌一首 并短歌 08 1507 伊加登伊可等 有吾屋前尓   百枝刺   於布流橘    玉尓貫   五月乎近美   安要奴我尓 花咲尓家里   朝尓食尓  出見毎     氣緒尓   吾念妹尓    銅鏡    清月夜尓    直一眼   令覩麻而尓波  落許須奈  由米登云管   幾許    吾守物乎    宇礼多伎也 志許霍公鳥   暁之    裏悲尓     雖追雖追   尚来鳴而    徒     地尓令散者   為便乎奈美 攀而手折都   見末世吾妹兒 いかといかと あるわがやどに ももえさし おふるたちばな たまにぬく さつきをちかみ あえぬがに はなさきにけり あさにけに いでみるごとに いきのをに あがもふいもに まそかがみ きよきつくよに ただひとめ みするまでには ちりこすな ゆめといひつつ ここだくも わがもるものを うれたきや しこほととぎす あかときの うらがなしきに おへどおへど なほしきなきて いたづらに つちにちらせば すべをなみ よぢてたをりつ みませわぎもこ 08 1508 反歌 08 1508 望降    清月夜尓    吾妹兒尓  令覩常念之    屋前之橘 もちぐたち きよきつくよに わぎもこに みせむとおもひし やどのたちばな 08 1509 妹之見而  後毛将鳴    霍公鳥   花橘乎     地尓落津 いもがみて のちもなかなむ ほととぎす はなたちばなを つちにちらしつ 08 1510 大伴家持贈紀女郎歌一首 08 1510 瞿麦者   咲而落去常   人者雖言   吾標之野乃   花尓有目八方 なでしこは さきてちりぬと ひとはいへど わがしめしのの はなにあらめやも 08 1511 秋雜歌 08 1511 崗本天皇御製歌一首 08 1511 暮去者   小倉乃山尓   鳴鹿者   今夜波不鳴   寐宿家良思母 ゆふされば をぐらのやまに なくしかは こよひはなかず いねにけらしも 08 1512 大津皇子御歌一首 08 1512 経毛無   緯毛不定    未通女等之 織黄葉尓    霜莫零 たてもなく ぬきもさだめず をとめらが おるもみちばに しもなふりそね 08 1513 穂積皇子御歌二首 08 1513 今朝之旦開  鴈之鳴聞都   春日山   黄葉家良思   吾情痛之 けさのあさけ かりがねききつ かすがやま もみちにけらし あがこころいたし 08 1514 秋芽者   可咲有良之    吾屋戸之  淺茅之花乃   散去見者 あきはぎは さきぬべくあらし わがやどの あさぢがはなの ちりゆくみれば 08 1515 但馬皇女御歌一首 一書云子部王作 08 1515 事繁    里尓不住者   今朝鳴之  鴈尓副而    去益物乎 一云 國尓不有者 ことしげき さとにすまずは けさなきし かりにたぐひて ゆかましものを くににあらずは 08 1516 山部王惜秋葉歌一首 08 1516 秋山尓   黄反木葉乃   移去者   更哉秋乎    欲見世武 あきやまに もみつこのはの うつりなば さらにやあきを みまくほりせむ 08 1517 長屋王歌一首 08 1517 味酒   三輪乃祝之   山照    秋乃黄葉乃   散莫惜毛 うまさけ みわのはふりが やまてらす あきのもみちの ちらまくをしも 08 1518 山上臣憶良七夕歌十二首 08 1518 天漢    相向立而    吾戀之   君来益奈利   紐解設奈 一云 向河 あまのがは あひむきたちて あがこひし きみきますなり ひもときまけな かはにむかひて 08 1518 右養老八年七月七日應令 08 1519 久方之   漢瀬尓     船泛而   今夜可君之   我許来益武 ひさかたの あまのかはせに ふねうけて こよひかきみが わがりきまさむ 08 1519 右神龜元年七月七日夜左大臣宅 08 1520 牽牛者   織女等     天地之   別時由     伊奈宇之呂 河向立     思空    不安久尓   嘆空    不安久尓   青浪尓   望者多要奴   白雲尓   渧者盡奴    如是耳也  伊伎都枳乎良牟 如是耳也  戀都追安良牟  佐丹塗之  小船毛賀茂  玉纒之   真可伊毛我母 一云 小棹毛何毛  朝奈藝尓  伊可伎渡   夕塩尓 一云 夕倍尓毛  伊許藝渡   久方之   天河原尓    天飛也   領巾可多思吉 真玉手乃  玉手指更    餘宿毛   寐而師可聞 一云 伊毛左祢而師加 秋尓安良受登母 一云 秋不待登毛 ひこほしは たなばたつめと あめつちの わかれしときゆ いなうしろ かはにむきたち おもふそら やすけなくに なげくそら やすけなくに あをなみに のぞみはたえぬ しらくもに なみたはつきぬ かくのみや いきづきをらむ かくのみや こひつつあらむ さにぬりの をぶねもがも たままきの まかいもがも    をさをもがも あさなぎに いかきわたり ゆふしほに  ゆふべにも いこぎわたり ひさかたの あまのかはらに あまとぶや ひれかたしき またまでの たまでさしかへ あまたよも いねてしかも   いもさねてしか あきにあらずとも   あきまたずとも 08 1521 反歌 08 1521 風雲者   二岸尓     可欲倍杼母 吾遠嬬之 一云 波之嬬乃    事曽不通 かぜくもは ふたつのきしに かよへども わがとほづまの わがはしづまの ことぞかよはぬ 08 1522 多夫手二毛 投越都倍吉   天漢    敝太而礼婆可母 安麻多須辨奈吉 たぶてにも なげこしつべき あまのがは へだてればかも あまたすべなき 08 1522 右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 一云帥家作 08 1523 秋風之   吹尓之日従   何時可登  吾待戀之    君曽来座流 あきかぜの ふきにしひより いつしかと あがまちこひし きみぞきませる 08 1524 天漢    伊刀河浪者   多〃祢杼母 伺候難之    近此瀬呼 あまのがは いとかはなみは たたねども さもらひがたし ちかきこのせを 08 1525 袖振者   見毛可波之都倍久 雖近    度為便無    秋西安良祢波 そでふらば みもかはしつべく ちかけども わたるすべなし あきにしあらねば 08 1526 玉蜻蜒   髣髴所見而   別去者   毛等奈也戀牟  相時麻而波 たまかぎる ほのかにみえて わかれなば もとなやこひむ あふときまでは 08 1526 右天平二年七月八日夜帥家集會 08 1527 牽牛之   迎嬬船     己藝出良之 天漢原尓    霧之立波 ひこほしの つまむかへぶね こぎづらし あまのかはらに きりのたてるは 08 1528 霞立    天河原尓    待君登   伊徃還尓    裳襴所沾 かすみたつ あまのかはらに きみまつと いゆきがへるに ものすそぬれぬ 08 1529 天河    浮津之浪音    佐和久奈里 吾待君思    舟出為良之母 あまのがは うきつのなみおと さわくなり あがまつきみし ふなですらしも 08 1530 大宰諸卿大夫并官人等宴筑前國蘆城驛家歌二首 08 1530 娘部思   秋芽子交    蘆城野   今日乎始而   萬代尓将見 をみなへし あきはぎまじる あしきのを けふをはじめて よろづよにみむ 08 1531 珠匣    葦木乃河乎   今日見者  迄萬代     将忘八方 たまくしげ あしきのかはを けふみては よろづよまでに わすらえめやも 08 1531 右二首作者未詳 08 1532 笠朝臣金村伊香山作歌二首 08 1532 草枕    客行人毛    徃觸者   尓保比奴倍久毛 開流芽子香聞 くさまくら たびゆくひとも ゆきふらば にほひぬべくも さけるはぎかも 08 1533 伊香山   野邊尓開有   芽子見者  公之家有    尾花之所念 いかごやま のへにさきたる はぎみれば きみがいへなる をばなしおもほゆ 08 1534 石川朝臣老夫歌一首 08 1534 娘部志   秋芽子折礼   玉桙乃   道去褁跡    為乞兒 をみなへし あきはぎをれれ たまほこの みちゆきづとと こはむこのため 08 1535 藤原宇合卿歌一首 08 1535 我背兒乎  何時曽且今登  待苗尓   於毛也者将見  秋風吹 わがせこを いつぞいまかと まつなへに おもやはみえむ あきのかぜふく 08 1536 縁達帥歌一首 08 1536 暮相而    朝面羞     隠野乃   芽子者散去寸  黄葉早續也 よひにあひて あしたおもなみ なばりのの はぎはちりにき もみちはやつげ 08 1537 山上臣憶良詠秋野花歌二首 08 1537 秋野尓   咲有花乎    指折    可伎數者    七種花 其一 あきののに さきたるはなを およびをり かきかぞふれば ななくさのはな 08 1538 芽之花   乎花葛花    瞿麦之花    姫部志   又藤袴     朝皃之花 其二 はぎのはな をばなくずはな なでしこがはな をみなへし またふぢはかま あさがほのはな 08 1539 天皇御製歌二首 08 1539 秋田乃   穂田乎鴈之鳴  闇尓    夜之穂杼呂尓毛 鳴渡可聞 あきのたの ほだをかりがね くらけくに よのほどろにも なきわたるかも 08 1540 今朝乃旦開  鴈鳴寒     聞之奈倍  野邊能淺茅曽  色付丹来 けさのあさけ かりがねさむく ききしなへ のへのあさぢぞ いろづきにける 08 1541 大宰帥大伴卿歌二首 08 1541 吾岳尓   棹壮鹿来鳴   先芽之   花嬬問尓    来鳴棹壮鹿 わがをかに さをしかきなく はつはぎの はなづまとひに きなくさをしか 08 1542 吾岳之   秋芽花     風乎痛    可落成     将見人裳欲得 わがをかの あきはぎのはな かぜをいたみ ちるべくなりぬ みむひともがも 08 1543 三原王歌一首 08 1543 秋露者    移尓有家里    水鳥乃   青羽乃山能   色付見者 あきのつゆは うつしにありけり みづとりの あをばのやまの いろづくみれば 08 1544 湯原王七夕歌二首 08 1544 牽牛之   念座良武    従情    見吾辛苦    夜之更降去者 ひこほしの おもひますらむ こころゆも みるわれくるし よのふけゆけば 08 1545 織女之   袖續三更之   五更者   河瀬之鶴者   不鳴友吉 たなばたの そでつぐよひの あかときは かはせのたづは なかずともよし 08 1546 市原王七夕歌一首 08 1546 妹許登   吾去道乃    河有者    附目緘結跡   夜更降家類 いもがりと わがゆくみちの かはしあれば つくめむすぶと よぞふけにける 08 1547 藤原朝臣八束歌一首 08 1547 棹四香能  芽二貫置有    露之白珠    相佐和仁  誰人可毛    手尓将巻知布 さをしかの はぎにぬきおける つゆのしらたま あふさわに たれのひとかも てにまかむちふ 08 1548 大伴坂上郎女晩芽子歌一首 08 1548 咲花毛   乎曽呂波猒    奥手有   長意尓     尚不如家里 さくはなも をそろはいとはし おくてなる ながきこころに なほしかずけり 08 1549 典鑄正紀朝臣鹿人至衛門大尉大伴宿祢稲公跡見庄作歌一首 08 1549 射目立而  跡見乃岳邊之  瞿麦花     総手折   吾者将去     寧樂人之為 いめたてて とみのをかへの なでしこがはな ふさたをり われはもちてゆく ならひとのため 08 1550 湯原王鳴鹿歌一首 08 1550 秋芽之   落乃乱尓    呼立而   鳴奈流鹿之   音遥者 あきはぎの ちりのまがひに よびたてて なくなるしかの こゑのはるけさ 08 1551 市原王歌一首 08 1551 待時而   落鍾礼能    雨零收   開朝香     山之将黄變 ときまちて ふれるしぐれの あめやみぬ あけむあしたか やまのもみたむ 08 1552 湯原王蟋蟀歌一首 08 1552 暮月夜   心毛思努尓   白露乃   置此庭尓    蟋蟀鳴毛 ゆふづくよ こころもしのに しらつゆの おくこのにはに こほろぎなくも 08 1553 衛門大尉大伴宿祢稲公歌一首 08 1553 鍾礼能雨   無間零者    三笠山   木末歴     色附尓家里 しぐれのあめ まなくしふれば みかさやま こぬれあまねく いろづきにけり 08 1554 大伴家持和歌一首 08 1554 皇之    御笠乃山能   秋黄葉   今日之鍾礼尓  散香過奈牟 おほきみの みかさのやまの もみちばは けふのしぐれに ちりかすぎなむ 08 1555 安貴王歌一首 08 1555 秋立而   幾日毛不有者   此宿流   朝開之風者   手本寒母 あきたちて いくかもあらねば このねぬる あさけのかぜは たもとさむしも 08 1556 忌部首黒麻呂歌一首 08 1556 秋田苅   借廬毛未    壊者    鴈鳴寒     霜毛置奴我二 あきたかる かりほもいまだ こほたねば かりがねさむし しももおきぬがに 08 1557 故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首 08 1557 明日香河  逝廻丘之    秋芽子者  今日零雨尓   落香過奈牟 あすかがは ゆきみるをかの あきはぎは けふふるあめに ちりかすぎなむ 08 1557 右一首丹比真人國人 08 1558 鶉鳴    古郷之     秋芽子乎  思人共     相見都流可聞 うづらなく ふりにしさとの あきはぎを おもふひとどち あひみつるかも 08 1559 秋芽子者  盛過乎     徒尓    頭刺不挿    還去牟跡哉 あきはぎは さかりすぐるを いたづらに かざしにささず かへりなむとや 08 1559 右二首沙弥尼等 08 1560 大伴坂上郎女跡見田庄作歌二首 08 1560 妹目乎   始見之埼乃 秋芽子者  此月其呂波   落許須莫湯目 いもがめを のさきの  あきはぎは このつきごろは ちりこすなゆめ 08 1561 吉名張乃  猪養山尓    伏鹿之   嬬呼音乎    聞之登聞思佐 よなばりの ゐかひのやまに ふすしかの つまよぶこゑを きくがともしさ 08 1562 巫部麻蘇娘子鴈歌一首 08 1562 誰聞都   従此間鳴渡   鴈鳴乃   嬬呼音乃    乏知在乎 たれききつ こゆなきわたる かりがねの つまよぶこゑの ともしくもあるか 08 1563 大伴家持和歌一首 08 1563 聞津哉登  妹之問勢流   鴈鳴者   真毛遠     雲隠奈利 ききつやと いもがとはせる かりがねは まこともとほく くもがくるなり 08 1564 日置長枝娘子歌一首 08 1564 秋付者   尾花我上尓   置露乃   應消毛吾者    所念香聞 あきづけば をばながうへに おくつゆの けぬべくもあれは おもほゆるかも 08 1565 大伴家持和歌一首 08 1565 吾屋戸乃  一村芽子乎   念兒尓   不令見殆    令散都類香聞 わがやどの ひとむらはぎを おもふこに みせずほとほと ちらしつるかも 08 1566 大伴家持秋歌四首 08 1566 久堅之   雨間毛不置   雲隠    鳴曽去奈流   早田鴈之哭 ひさかたの あままもおかず くもがくり なきぞゆくなる わさだかりがね 08 1567 雲隠    鳴奈流鴈乃   去而将居  秋田之穂立   繁之所念 くもがくり なくなるかりの ゆきてゐむ あきたのほたち しげくしおもほゆ 08 1568 雨隠    情欝悒     出見者   春日山者    色付二家利 あまごもり こころいぶせみ いでみれば かすがのやまは いろづきにけり 08 1569 雨晴而   清照有     此月夜   又更而     雲勿田菜引 あめはれて きよくてりたる このつくよ またさらにして くもなたなびき 08 1569 右四首天平八年丙子秋九月作 08 1570 藤原朝臣八束歌二首 08 1570 此間在而  春日也何處   雨障    出而不行者   戀乍曽乎流 ここにして かすがやいづち あまつつみ いでてゆかねば こひつつぞをる 08 1571 春日野尓  鍾礼零所見   明日従者  黄葉頭刺牟   高圓乃山 かすがのに しぐれふるみゆ あすよりは もみちかざさむ たかまとのやま 08 1572 大伴家持白露歌一首 08 1572 吾屋戸乃  草花上之    白露乎   不令消而玉尓  貫物尓毛我 わがやどの をばながうへの しらつゆを けたずてたまに ぬくものにもが 08 1573 大伴利上歌一首 08 1573 秋之雨尓   所沾乍居者   雖賎    吾妹之屋戸志  所念香聞 あきのあめに ぬれつつをれば いやしけど わぎもがやどし おもほゆるかも 08 1574 右大臣橘家宴歌七首 08 1574 雲上尓    鳴奈流鴈之   雖遠    君将相跡    手廻来津 くものうへに なくなるかりの とほけども きみにあはむと たもとほりきつ 08 1575 雲上尓    鳴都流鴈乃   寒苗    芽子乃下葉者  黄變可毛 くものうへに なきつるかりの さむきなへ はぎのしたばは もみちぬるかも 08 1575 右二首 08 1576 此岳尓   小壮鹿履起    宇加埿良比 可聞可聞為良久 君故尓許曽 このをかに をしかふみおこし うかねらひ かもかもすらく きみゆゑにこそ 08 1576 右一首長門守巨曽倍朝臣津嶋 08 1577 秋野之   草花我末乎   押靡而   来之久毛知久  相流君可聞 あきののの をばながうれを おしなべて こしくもしるく あへるきみかも 08 1578 今朝鳴而  行之鴈鳴    寒可聞   此野乃淺茅   色付尓家類 けさなきて ゆきしかりがね さむみかも このののあさぢ いろづきにける 08 1578 右二首阿倍朝臣蟲麻呂 08 1579 朝扉開而   物念時尓    白露乃   置有秋芽子   所見喚鷄本名 あさとあけて ものもふときに しらつゆの おけるあきはぎ みえつつもとな 08 1580 棹壮鹿之  来立鳴野之   秋芽子者  露霜負而    落去之物乎 さをしかの きたちなくのの あきはぎは つゆしもおひて ちりにしものを 08 1580 右二首文忌寸馬養 天平十年戊寅秋八月廿日 08 1581 橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首 08 1581 不手折而  落者惜常    我念之   秋黄葉乎    挿頭鶴鴨 たをらずて ちりなばをしと あがもひし あきのもみちを かざしつるかも 08 1582 希将見   人尓令見跡   黄葉乎   手折曽我来師   雨零久仁 めづらしき ひとにみせむと もみちばを たをりぞあがこし あめのふらくに 08 1582 右二首橘朝臣奈良麻呂 08 1583 黄葉乎   令落鍾礼尓   所沾而来而 君之黄葉乎   挿頭鶴鴨 もみちばを ちらすしぐれに ぬれてきて きみがもみちを かざしつるかも 08 1583 右一首久米女王 08 1584 希将見跡  吾念君者    秋山乃   始黄葉尓    似許曽有家礼 めづらしと あがもふきみは あきやまの はつもみちばに にてこそありけれ 08 1584 右一首長忌寸娘 08 1585 平山乃   峯之黄葉    取者落   鍾礼能雨師   無間零良志 ならやまの みねのもみちば とればちる しぐれのあめし まなくふるらし 08 1585 右一首内舎人縣犬養宿祢吉男 08 1586 黄葉乎   落巻惜見    手折来而  今夜挿頭津   何物可将念 もみちばを ちらまくをしみ たをりきて こよひかざしつ なにをかおもはむ 08 1586 右一首縣犬養宿祢持男 08 1587 足引乃   山之黄葉    今夜毛加  浮去良武    山河之瀬尓 あしひきの やまのもみちば こよひもか うかびゆくらむ やまがはのせに 08 1587 右一首大伴宿祢書持 08 1588 平山乎   令丹黄葉    手折来而  今夜挿頭都   落者雖落 ならやまを にほはすもみち たをりきて こよひかざしつ ちらばちるとも 08 1588 右一首三手代人名 08 1589 露霜尓   逢有黄葉乎   手折来而  妹挿頭都   後者落十方 つゆしもに あへるもみちを たをりきて いもとかざしつ のちはちるとも 08 1589 右一首秦許遍麻呂 08 1590 十月    鍾礼尓相有   黄葉乃   吹者将落    風之随 かむなづき しぐれにあへる もみちばの ふかばちりなむ かぜのまにまに 08 1590 右一首大伴宿祢池主 08 1591 黄葉乃   過麻久惜美   思共    遊今夜者    不開毛有奴香 もみちばの すぎまくをしみ おもふどち あそぶこよひは あけずもあらぬか 08 1591 右一首内舎人大伴宿祢家持 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也 08 1592 大伴坂上郎女竹田庄作歌二首 08 1592 然不有    五百代小田乎  苅乱    田廬尓居者   京師所念 しかとあらぬ いほしろをだを かりみだり たぶせにをれば みやこしおもほゆ 08 1593 隠口乃   始瀬山者    色附奴   鍾礼乃雨者   零尓家良思母 こもりくの はつせのやまは いろづきぬ しぐれのあめは ふりにけらしも 08 1593 右天平十一年己卯秋九月作 08 1594 佛前唱歌一首 08 1594 思具礼能雨  無間莫零    紅尓    丹保敝流山之  落巻惜毛 しぐれのあめ まなくなふりそ くれなゐに にほへるやまの ちらまくをしも 08 1594 右冬十月皇后宮之維摩講 終日供養大唐高麗等種〃音樂 尓乃唱此歌詞 彈琴者市原王 忍坂王 後賜姓大原真人赤麻呂也 歌子者田口朝臣家守 河邊朝臣東人 置始連長谷等十數人也 08 1595 大伴宿祢像見歌一首 08 1595 秋芽子乃  枝毛十尾二   降露乃   消者雖消    色出目八方 あきはぎの えだもとををに おくつゆの けなばけぬとも いろにいでめやも 08 1596 大伴宿祢家持到娘子門作歌一首 08 1596 妹家之    門田乎見跡   打出来之  情毛知久    照月夜鴨 いもがいへの かどたをみむと うちでこし こころもしるく てるつくよかも 08 1597 大伴宿祢家持秋歌三首 08 1597 秋野尓   開流秋芽子   秋風尓   靡流上尓    秋露置有 あきののに さけるあきはぎ あきかぜに なびけるうへに あきのつゆおけり 08 1598 棹壮鹿之  朝立野邊乃   秋芽子尓  玉跡見左右   置有白露 さをしかの あさたつのへの あきはぎに たまとみるまで おけるしらつゆ 08 1599 狭尾壮鹿乃 胸別尓可毛   秋芽子乃  散過鷄類    盛可毛行流 さをしかの むなわけにかも あきはぎの ちりすぎにける さかりかもいぬる 08 1599 右天平十五年癸未秋八月見物色作 08 1600 内舎人石川朝臣廣成歌二首 08 1600 妻戀尓   鹿鳴山邊之   秋芽子者  露霜寒     盛須疑由君 つまごひに かなくやまへの あきはぎは つゆしもさむみ さかりすぎゆく 08 1601 目頬布   君之家有    波奈須為寸 穂出秋乃     過良久惜母 めづらしき きみがいへなる はなすすき ほにいづるあきの すぐらくをしも 08 1602 大伴宿祢家持鹿鳴歌二首 08 1602 山妣姑乃  相響左右    妻戀尓   鹿鳴山邊尓   獨耳為手 やまびこの あひとよむまで つまごひに かなくやまへに ひとりのみして 08 1603 頃者之   朝開尓聞者   足日木箆  山呼令響    狭尾壮鹿鳴哭 このころの あさけにきけば あしひきの やまよびとよめ さをしかなくも 08 1603 右二首天平十五年癸未八月十六日作 08 1604 大原真人今城傷惜寧樂故郷歌一首 08 1604 秋去者   春日山之    黄葉見流  寧樂乃京師乃  荒良久惜毛 あきされば かすがのやまの もみちみる ならのみやこの あるらくをしも 08 1605 大伴宿祢家持歌一首 08 1605 高圓之   野邊乃秋芽子  比日之   暁露尓     開兼可聞 たかまとの のへのあきはぎ このころの あかときつゆに さきにけむかも 08 1606 秋相聞 08 1606 額田王思近江天皇作歌一首 08 1606 君待跡   吾戀居者    我屋戸乃  簾令動     秋之風吹 きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく 08 1607 鏡王女作歌一首 08 1607 風乎谷   戀者乏     風乎谷   将来常思待者  何如将嘆 かぜをだに こふるはともし かぜをだに こむとしまたば なにかなげかむ 08 1608 弓削皇子御歌一首 08 1608 秋芽子之  上尓置有    白露乃   消可毛思奈萬思 戀管不有者 あきはぎの うへにおきたる しらつゆの けかもしなまし こひつつあらずは 08 1609 丹比真人歌一首 名闕 08 1609 宇陁乃野之 秋芽子師弩藝  鳴鹿毛   妻尓戀樂苦   我者不益 うだののの あきはぎしのぎ なくしかも つまにこふらく われにはまさじ 08 1610 丹生女王贈大宰帥大伴卿歌一首 08 1610 高圓之   秋野上乃    瞿麦之花    丁壮香見  人之挿頭師   瞿麦之花 たかまとの あきののうへの なでしこがはな うらわかみ ひとのかざしし なでしこがはな 08 1611 笠縫女王歌一首 六人部王之女母曰田形皇女也 08 1611 足日木乃  山下響     鳴鹿之   事乏可母    吾情都末 あしひきの やましたとよめ なくしかの ことともしかも わがこころつま 08 1612 石川賀係女郎歌一首 08 1612 神佐夫等  不許者不有    秋草乃   結之紐乎    解者悲哭 かむさぶと いなぶにはあらず あきくさの むすびしひもを とくはかなしも 08 1613 賀茂女王歌一首 長屋王之女母曰阿倍朝臣也 08 1613 秋野乎   旦徃鹿乃    跡毛奈久  念之君尓    相有今夜香 あきののを あさゆくしかの あともなく おもひしきみに あへるこよひか 08 1613 右歌或云椋橋部女王作 或云笠縫女王作 08 1614 遠江守櫻井王奉 天皇歌一首 08 1614 九月之   其始鴈乃    使尓毛   念心者     所聞来奴鴨 ながつきの そのはつかりの つかひにも おもふこころは きこえこぬかも 08 1615 天皇賜報和御歌一首 08 1615 大乃浦之   其長濱尓    縁流浪   寛公乎     念比日 大浦者遠江國之海濱名也 おほのうらの そのながはまに よするなみ ゆたけくきみを おもふこのころ 08 1616 笠女郎贈大伴宿祢家持歌一首 08 1616 毎朝    吾見屋戸乃   瞿麦之   花尓毛君波   有許世奴香裳 あさごとに わがみるやどの なでしこが はなにもきみは ありこせぬかも 08 1617 山口女王贈大伴宿祢家持歌一首 08 1617 秋芽子尓  置有露乃    風吹而   落涙者     留不勝都毛 あきはぎに おきたるつゆの かぜふきて おつるなみたは とどめかねつも 08 1618 湯原王贈娘子歌一首 08 1618 玉尓貫   不令消賜良牟  秋芽子乃  宇礼和〃良葉尓 置有白露 たまにぬき けたずたばらむ あきはぎの うれわわらばに おけるしらつゆ 08 1619 大伴家持至姑坂上郎女竹田庄作歌一首 08 1619 玉桙乃   道者雖遠    愛哉師   妹乎相見尓   出而曽吾来之 たまほこの みちはとほけど はしきやし いもをあひみに いでてぞあがこし 08 1620 大伴坂上郎女和歌一首 08 1620 荒玉之   月立左右二   来不益者  夢西見乍    思曽吾勢思 あらたまの つきたつまでに きまさねば いめにしみつつ おもひぞあがせし 08 1620 右二首天平十一年己卯秋八月作 08 1621 巫部麻蘇娘子歌一首 08 1621 吾屋前之  芽子花咲有    見来益   今二日許    有者将落 わがやどの はぎのはなさけり みにきませ いまふつかだみ あらばちりなむ 08 1622 大伴田村大嬢与妹坂上大嬢歌二首 08 1622 吾屋戸乃  秋之芽子開   夕影尓   今毛見師香   妹之光儀乎 わがやどの あきのはぎさく ゆふかげに いまもみてしか いもがすがたを 08 1623 吾屋戸尓  黄變蝦手    毎見    妹乎懸管    不戀日者無 わがやどに もみつかへるて みるごとに いもをかけつつ こひぬひはなし 08 1624 坂上大娘秋稲蘰贈大伴宿祢家持歌一首 08 1624 吾之蒔有  早田之穂立   造有    蘰曽見乍    師弩波世吾背 わがまける わさだのほたち つくりたる かづらぞみつつ しのはせわがせ 08 1625 大伴宿祢家持報贈歌一首 08 1625 吾妹兒之  業跡造有    秋田    早穂乃蘰    雖見不飽可聞 わぎもこが なりとつくれる あきのたの わさほのかづら みれどあかぬかも 08 1626 又報脱著身衣贈家持歌一首 08 1626 秋風之   寒比日     下尓将服  妹之形見跡   可都毛思努播武 あきかぜの さむきこのころ したにきむ いもがかたみと かつもしのはむ 08 1626 右三首天平十一年己卯秋九月徃来 08 1627 大伴宿祢家持攀非時藤花并芽子黄葉二物贈坂上大嬢歌二首 08 1627 吾屋前之  非時藤之    目頬布   今毛見壮鹿   妹之咲容乎 わがやどの ときじきふぢの めづらしく いまもみてしか いもがゑまひを 08 1628 吾屋前之  芽子乃下葉者  秋風毛   未吹者     如此曽毛美照 わがやどの はぎのしたばは あきかぜも いまだふかねば かくぞもみてる 08 1628 右二首天平十二年庚辰夏六月徃来 08 1629 大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌一首 并短歌 08 1629 叩〃    物乎念者    将言為便  将為〃便毛奈之 妹与吾    手携而     旦者    庭尓出立    夕者    床打拂     白細乃   袖指代而    佐寐之夜也 常尓有家類   足日木能  山鳥許曽婆   峯向尓   嬬問為云     打蝉乃   人有我哉    如何為跡可 一日一夜毛   離居而   嘆戀良武    許己念者  胸許曽痛    其故尓   情奈具夜登   高圓乃   山尓毛野尓母  打行而   遊徃杼     花耳    丹穂日手有者  毎見    益而所思    奈何為而  忘物曽     戀云物呼 ねもころに ものをおもへば いはむすべ せむすべもなし いもとあれと てたづさはりて あしたには にはにいでたち ゆふべには とこうちはらひ しろたへの そでさしかへて さねしよや つねにありける あしひきの やまどりこそば をむかひに つまどひすといへ うつせみの ひとなるわれや なにすとか ひとひひとよも さかりゐて なげきこふらむ ここもへば むねこそいたき そこゆゑに こころなぐやと たかまとの やまにものにも うちゆきて あそびあるけど はなのみに にほひてあれば みるごとに ましてしのはゆ いかにして わすれむものぞ こひといふものを 08 1630 反歌 08 1630 高圓之   野邊乃容花   面影尓   所見乍妹者   忘不勝裳 たかまとの のへのかほばな おもかげに みえつついもは わすれかねつも 08 1631 大伴宿祢家持贈安倍女郎歌一首 08 1631 今造    久邇能京尓   秋夜乃   長尓獨     宿之苦左 いまつくる くにのみやこに あきのよの ながきにひとり ぬるがくるしさ 08 1632 大伴宿祢家持従久邇京贈留寧樂宅坂上大娘歌一首 08 1632 足日木乃  山邊尓居而   秋風之   日異吹者    妹乎之曽念 あしひきの やまへにをりて あきかぜの ひにけにふけば いもをしぞおもふ 08 1633 或者贈尼歌二首 08 1633 手母須麻尓 殖之芽子尓也  還者    雖見不飽    情将盡 てもすまに うゑしはぎにや かへりては みれどもあかず こころつくさむ 08 1634 衣手尓   水澁付左右   殖之田乎  引板吾波倍   真守有栗子 ころもでに みしぶつくまで うゑしたを ひきたわがはへ まもれるくるし 08 1635 尼作頭句并大伴宿祢家持所誂尼續末句等和歌一首 08 1635 佐保河之  水乎塞上而    殖之田乎  尼作 苅流早飯者    獨奈流倍思 家持續 さほがはの みづをせきあげて うゑしたを    かれるはついひは ひとりなるべし 08 1636 冬雜歌 08 1636 舎人娘子雪歌一首 08 1636 大口能   真神之原尓   零雪者   甚莫零     家母不有國 おほくちの まかみがはらに ふるゆきは いたくなふりそ いへもあらなくに 08 1637 太上天皇 御製歌一首 08 1637 波太須珠寸 尾花逆葺    黒木用   造有室者    迄萬代 はだすすき をばなさかふき くろきもち つくれるむろは よろづよまでに 08 1638 天皇 御製歌一首 08 1638 青丹吉   奈良乃山有   黒木用   造有室者    雖居座不飽可聞 あをによし ならのやまなる くろきもち つくれるむろは ませどあかぬかも 08 1638 右聞之御在左大臣長屋王佐保宅肆宴 御製 08 1639 大宰帥大伴卿冬日見雪憶京歌一首 08 1639 沫雪    保杼呂保杼呂尓 零敷者   平城京師    所念可聞 あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならのみやこし おもほゆるかも 08 1640 大宰帥大伴卿梅歌一首 08 1640 吾岳尓   盛開有     梅花    遺有雪乎    乱鶴鴨 わがをかに さかりにさける うめのはな のこれるゆきを まがへつるかも 08 1641 角朝臣廣辨雪梅歌一首 08 1641 沫雪尓   所落開有    梅花    君之許遣者   与曽倍弖牟可聞 あわゆきに ふらえてさける うめのはな きみがりやらば よそへてむかも 08 1642 安倍朝臣奥道雪歌一首 08 1642 棚霧合   雪毛零奴可   梅花    不開之代尓   曽倍而谷将見 たなぎらひ ゆきもふらぬか うめのはな さかぬがしろに そへてだにみむ 08 1643 若櫻部朝臣君足雪歌一首 08 1643 天霧之   雪毛零奴可   灼然    此五柴尓    零巻乎将見 あまぎらひ ゆきもふらぬか いちしろく このいつしばに ふらまくをみむ 08 1644 三野連石守梅歌一首 08 1644 引攀而   折者可落    梅花    袖尓古寸入津  染者雖染 ひきよぢて をらばちるべみ うめのはな そでにこきれつ しまばしむとも 08 1645 巨勢朝臣宿奈麻呂雪歌一首 08 1645 吾屋前之  冬木乃上尓   零雪乎   梅花香常    打見都流香裳 わがやどの ふゆきのうへに ふるゆきを うめのはなかと うちみつるかも 08 1646 小治田朝臣東麻呂雪歌一首 08 1646 夜干玉乃  今夜之雪尓   率所沾名  将開朝尓    消者惜家牟 ぬばたまの こよひのゆきに いざぬれな あけむあしたに けなばをしけむ 08 1647 忌部首黒麻呂雪歌一首 08 1647 梅花    枝尓可散登   見左右二  風尓乱而    雪曽落久類 うめのはな えだにかちると みるまでに かぜにみだれて ゆきぞふりくる 08 1648 紀少鹿女郎梅歌一首 08 1648 十二月尓者 沫雪零跡    不知可毛  梅花開     含不有而 しはすには あわゆきふると しらねかも うめのはなさく ふふめらずして 08 1649 大伴宿祢家持雪梅歌一首 08 1649 今日零之  雪尓競而    我屋前之  冬木梅者    花開二家里 けふふりし ゆきにきほひて わがやどの ふゆきのうめは はなさきにけり 08 1650 御在西池邊肆宴歌一首 08 1650 池邊乃   松之末葉尓   零雪者   五百重零敷   明日左倍母将見 いけのべの まつのうらばに ふるゆきは いほへふりしけ あすさへもみむ 08 1650 右一首作者未詳 但堅子阿倍朝臣虫麻呂傳誦之 08 1651 大伴坂上郎女歌一首 08 1651 沫雪乃   比日續而    如此落者  梅始花     散香過南 あわゆきの このころつぎて かくふらば うめのはつはな ちりかすぎなむ 08 1652 他田廣津娘子梅歌一首 08 1652 梅花    折毛不折毛   見都礼杼母 今夜能花尓   尚不如家利 うめのはな をりもをらずも みつれども こよひのはなに なほしかずけり 08 1653 縣犬養娘子依梅發思歌一首 08 1653 如今    心乎常尓    念有者   先咲花乃    地尓将落八方 いまのごと こころをつねに おもへらば まづさくはなの つちにおちめやも 08 1654 大伴坂上郎女雪歌一首 08 1654 松影乃   淺茅之上乃   白雪乎   不令消将置   言者可聞奈吉 まつかげの あさぢがうへの しらゆきを けたずておかむ ことはかもなき 08 1655 冬相聞 08 1655 三國真人人足歌一首 08 1655 高山之   菅葉之努藝   零雪之   消跡可曰毛   戀乃繁鷄鳩 たかやまの すがのはしのぎ ふるゆきの けぬとかいはも こひのしげけく 08 1656 大伴坂上郎女歌一首 08 1656 酒坏尓   梅花浮      念共    飲而後者    落去登母与之 さかづきに うめのはなうかべ おもふどち のみてののちは ちりぬともよし 08 1657 和歌一首 08 1657 官尓毛   縦賜有     今夜耳   将飲酒可毛   散許須奈由米 つかさにも ゆるしたまへり こよひのみ のまむさけかも ちりこすなゆめ 08 1657 右酒者官禁制偁 京中閭里不得集宴 但親〃一二飲樂聴許者 縁此和人作此發句焉 08 1658 藤原后奉 天皇御歌一首 08 1658 吾背兒与  二有見麻世波  幾許香   此零雪之    懽有麻思 わがせこと ふたりみませば いくばくか このふるゆきの うれしくあらまし 08 1659 池田廣津娘子歌一首 08 1659 真木乃於尓  零置有雪乃    敷布毛   所念可聞    佐夜問吾背 まきのうへに ふりおけるゆきの しくしくも おもほゆるかも さよとへわがせ 08 1660 大伴宿祢駿河麻呂歌一首 08 1660 梅花    令落冬風    音耳    聞之吾妹乎   見良久志吉裳 うめのはな ちらすあらしの おとのみに ききしわぎもを みらくしよしも 08 1661 紀少鹿女郎歌一首 08 1661 久方乃   月夜乎清美   梅花    心開而     吾念有公 ひさかたの つくよをきよみ うめのはな こころひらけて あがもへるきみ 08 1662 大伴田村大娘与妹坂上大娘歌一首 08 1662 沫雪之   可消物乎    至今尓   流経者     妹尓相曽 あわゆきの けぬべきものを いままでに ながらへぬるは いもにあはむとぞ 08 1663 大伴宿祢家持歌一首 08 1663 沫雪乃   庭尓零敷    寒夜乎   手枕不纒    一香聞将宿 あわゆきの にはにふりしき さむきよを たまくらまかず ひとりかもねむ 09 1664 雜歌 09 1664 泊瀬朝倉宮御宇大泊瀬幼武天皇御製歌一首 09 1664 暮去者   小椋山尓    臥鹿之   今夜者不鳴   寐家良霜 ゆふされば をぐらのやまに ふすしかは こよひはなかず いねにけらしも 09 1664 右或本云崗本天皇御製 不審正指 因以累載 09 1665 崗本宮御宇天皇幸紀伊國時歌二首 09 1665 為妹    吾玉拾     奥邊有   玉縁将来    奥津白浪 いもがため われたまひりふ おきへなる たまよせもちこ おきつしらなみ 09 1666 朝霧尓   沾尓之衣    不干而   一哉君之    山道将越 あさぎりに ぬれにしころも ほさずして ひとりかきみが やまぢこゆらむ 09 1666 右二首作者未詳 09 1667 大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首 09 1667 為妹    我玉求     於伎邊有  白玉依来    於伎都白浪 いもがため われたまもとむ おきへなる しらたまよせこ おきつしらなみ 09 1667 右一首上見既畢 但歌辞小換 年代相違 因以累載 09 1668 白埼者   幸在待      大船尓   真梶繁貫    又将顧 しらさきは さきくはありまて おほぶねに まかぢしじぬき またかへりみむ 09 1669 三名部乃浦  塩莫満     鹿嶋在   釣為海人乎   見變来六 みなへのうら しほなみちそね かしまなる つりするあまを みてかへりこむ 09 1670 朝開 滂出而我者 湯羅前 釣為海人乎 見反将来 あさびらき こぎでてわれは ゆらのさき つりするあまを みてかへりこむ 09 1671 湯羅乃前  塩乾尓祁良志  白神之   礒浦箕乎    敢而滂動 ゆらのさき しほひにけらし しらかみの いそのうらみを あへてこぐなり 09 1672 黒牛方    塩干乃浦乎   紅     玉裙須蘇延   徃者誰妻 くろうしがた しほひのうらを くれなゐの たまもすそびき ゆくはたがつま 09 1673 風莫乃   濱之白浪    徒     於斯依久流   見人無 一云  於斯依来藻 かざなしの はまのしらなみ いたづらに ここによせくる みるひとなしに ここによせくも 09 1673 右一首山上臣憶良類聚歌林曰 長忌寸意吉麻呂應詔作此歌 09 1674 我背兒我  使将来歟跡   出立之   此松原乎    今日香過南 わがせこが つかひこむかと いでたちの このまつばらを けふかすぎなむ 09 1675 藤白之   三坂乎越跡   白栲之   我衣手者    所沾香裳 ふぢしろの みさかをこゆと しろたへの あがころもでは ぬれにけるかも 09 1676 勢能山尓  黄葉常敷    神岳之   山黄葉者    今日散濫 せのやまに もみちつねしく かむをかの やまのもみちは けふかちるらむ 09 1677 山跡庭   聞徃歟     大我野之  竹葉苅敷    廬為有跡者 やまとには きこえもゆくか おほがのの たかはかりしき いほりせりとは 09 1678 木國之   昔弓雄之    響矢用   鹿取靡     坂上尓曽安留 きのくにの むかしさつをの なりやもち しかとりなべし さかのうへにぞある ○ 09 1679 城國尓   不止将徃来   妻社    妻依来西尼   妻常言長柄 一云 嬬賜尓毛    嬬云長良 きのくにに やまずかよはむ つまのもり つまよしこせね つまといひながら つまたまはにも つまといひながら 09 1679 右一首或云坂上忌寸人長作 09 1680 後人歌二首 09 1680 朝裳吉   木方徃君我   信土山   越濫今日曽   雨莫零根 あさもよし きへゆくきみが まつちやま こゆらむけふぞ あめなふりそね 09 1681 後居而   吾戀居者    白雲    棚引山乎    今日香越濫 おくれゐて あがこひをれば しらくもの たなびくやまを けふかこゆらむ 09 1682 獻忍壁皇子歌一首 詠仙人形 09 1682 常之倍尓  夏冬徃哉    裘     扇不放     山住人 とこしへに なつふゆゆけや かはごろも あふぎはなたぬ やまにすむひと 09 1683 獻舎人皇子歌二首 09 1683 妹手    取而引与治   捄手折   吾刺可     花開鴨 いもがてを とりてひきよぢ ふさたをり わがかざすべく はなさけるかも 09 1684 春山者   散過去鞆     三和山者  未含      君待勝尓 はるやまは ちりすぎゆけども みわやまは いまだふふめり きみまちがてに 09 1685 泉河邊間人宿祢作歌二首 09 1685 河瀬    激乎見者    玉藻鴨   散乱而在    川常鴨 かはのせの たぎつをみれば たまもかも ちりみだれたる かはのつねかも 09 1686 孫星    頭刺玉之    嬬戀    乱祁良志    此川瀬尓 ひこほしの かざしのたまは つまごひに みだれにけらし このかはのせに 09 1687 鷺坂作歌一首 09 1687 白鳥    鷺坂山     松影    宿而徃奈    夜毛深徃乎 しらとりの さぎさかやまの まつかげに やどりてゆかな よもふけゆくを 09 1688 名木河作歌二首 09 1688 焱干    人母在八方   沾衣乎   家者夜良奈   羈印 あぶりほす ひともあれやも ぬれきぬを いへにはやらな たびのしるしに 09 1689 在衣邊   著而榜尼    杏人    濱過者     戀布在奈利 ありそへに つきてこがさね からももの はまをすぐれば こほしくありなり 09 1690 高嶋歌二首 09 1690 高嶋之   阿渡川波者   驟鞆    吾者家思     宿加奈之弥 たかしまの あどかはなみは さわけども われはいへおもふ やどりかなしみ 09 1691 客在者   三更刺而    照月    高嶋山     隠惜毛 たびなれば よなかをさして てるつきの たかしまやまに かくらくをしも 09 1692 紀伊國作歌二首 09 1692 吾戀    妹相佐受    玉浦丹    衣片敷     一鴨将寐 あがこふる いもはあはさず たまのうらに ころもかたしき ひとりかもねむ 09 1693 玉匣    開巻惜     恡夜矣   袖可礼而    一鴨将寐 たまくしげ あけまくをしき あたらよを ころもでかれて ひとりかもねむ 09 1694 鷺坂作歌一首 09 1694 細比礼乃  鷺坂山     白管自   吾尓尼保波尼  妹尓示 たくひれの さぎさかやまの しらつつじ われににほはに いもにしめさむ 09 1695 泉河作歌一首 09 1695 妹門    入出見川乃    床奈馬尓  三雪遺     未冬鴨 いもがかど いりいづみがはの とこなめに みゆきのこれり いまだふゆかも 09 1696 名木河作歌三首 09 1696 衣手乃   名木之川邊乎  春雨    吾立沾等    家念良武可 ころもでの なぎのかはへを はるさめに われたちぬると いへおもふらむか 09 1697 家人    使在之      春雨乃   与久列杼吾等乎 沾念者 いへびとの つかひにしあらし はるさめの よくれどわれを ぬらさくもへば 09 1698 焱干    人母在八方   家人    春雨須良乎   間使尓為 あぶりほす ひともあれやも いへびとの はるさめすらを まづかひにする 09 1699 宇治河作歌二首 09 1699 巨椋乃   入江響奈理   射目人乃  伏見何田井尓  鴈渡良之 おほくらの いりえなるなり いめひとの ふしみがたゐに かりわたるらし 09 1700 金風    山吹瀬乃    響苗    天雲翔     鴈相鴨 あきかぜに やまぶきのせの なるなへに あまくもかける かりにあへるかも 09 1701 獻弓削皇子歌三首 09 1701 佐宵中等  夜者深去良斯  鴈音    所聞空     月渡見 さよなかと よはふけぬらし かりがねの きこゆるそらゆ つきわたるみゆ 09 1702 妹當     茂苅音     夕霧    来鳴而過去   及乏 いもがあたり しげきかりがね ゆふぎりに きなきてすぎぬ すべなきまでに 09 1703 雲隠    鴈鳴時     秋山    黄葉片待    時者雖過 くもがくり かりなくときは あきやまの もみちかたまつ ときはすぐれど 09 1704 獻舎人皇子歌二首 09 1704 捄手折   多武山霧    茂鴨    細川瀬     波驟祁留 ふさたをり たむのやまぎり しげみかも ほそかはのせに なみのさわける 09 1705 冬木成   春部戀而    殖木    實成時     片待吾等叙 ふゆこもり はるへをこひて うゑしきの みになるときを かたまつわれぞ 09 1706 舎人皇子御歌一首 09 1706 黒玉    夜霧立     衣手    高屋於     霏霺麻天尓 ぬばたまの よぎりはたちぬ ころもでの たかやのうへに たなびくまでに ○ 09 1707 鷺坂作歌一首 09 1707 山代    久世乃鷺坂   自神代   春者張乍    秋者散来 やましろの くせのさぎさか かむよより はるははりつつ あきはちりけり 09 1708 泉河邊作歌一首 09 1708 春草    馬咋山自    越来奈流  鴈使者     宿過奈利 はるくさを うまくひやまゆ こえくなる かりのつかひは やどりすぐなり 09 1709 獻弓削皇子歌一首 09 1709 御食向   南淵山之    巖者    落波太列可   削遺有 みけむかふ みなふちやまの いはほには ふりしはだれか きえのこりたる 09 1709 右柿本朝臣人麻呂之歌集所出 09 1710 吾妹兒之  赤裳埿塗而   殖之田乎  苅将蔵     倉無之濱 わぎもこが あかもひづちて うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま 09 1711 百轉    八十之嶋廻乎  榜雖来   粟小嶋者    雖見不足可聞 ももづたふ やそのしまみを こぎくれど あはのこしまは みれどあかぬかも 09 1711 右二首或云柿本朝臣人麻呂作 09 1712 登筑波山詠月一首 09 1712 天原    雲無夕尓    烏玉乃   宵度月乃    入巻恡毛 あまのはら くもなきよひに ぬばたまの よわたるつきの いらまくをしも 09 1713 幸芳野離宮時歌二首 09 1713 瀧上乃  三船山従  秋津邊  来鳴度者  誰喚兒鳥 たぎのうへの みふねのやまゆ あきづへに きなきわたるは たれよぶこどり 09 1714 落多藝知  流水之  磐觸  与杼賣類与杼尓 月影所見 おちたぎち ながるるみづの いはにふれ よどめるよどに つきのかげみゆ 09 1714 右三首作者未詳 09 1715 槐本歌一首 09 1715 樂浪之  平山風之  海吹者  釣為海人之  袂變所見 ささなみの ひらやまかぜの うみふけば つりするあまの そでかへるみゆ 09 1716 山上歌一首 09 1716 白那弥乃  濱松之木乃  手酬草  幾世左右二箇  年薄経監 しらなみの はままつのきの たむけぐさ いくよまでにか としはへにけむ 09 1716 右一首或云川嶋皇子御作歌 09 1717 春日歌一首 09 1717 三川之  淵瀬物不落  左提刺尓  衣手潮  干兒波無尓 みつかはの ふちせもおちず さでさすに ころもでぬれぬ ほすこはなしに 09 1718 高市歌一首 09 1718 足利思代  榜行舟薄  高嶋之  足速之水門尓  極尓監鴨 あどもひて こぎにしふねは たかしまの あどのみなとに はてにけむかも 09 1719 春日蔵歌一首 09 1719 照月遠   雲莫隠     嶋陰尓   吾船将極    留不知毛 てるつきを くもなかくしそ しまかげに わがふねはてむ とまりしらずも 09 1719 右一首或本云 小辨作也 或記姓氏無記名字 或偁名号不偁姓氏 然依古記便以次載 凡如此類下皆放焉 09 1720 元仁歌三首 09 1720 馬屯而   打集越来    今日見鶴  芳野之川乎   何時将顧 うまなめて うちむれこえき けふみつる よしののかはを いつかへりみむ 09 1721 辛苦 晩去日鴨 吉野川 清河原乎 雖見不飽君 くるしくも くれゆくひかも よしのがは きよきかはらを みれどあかなくに 09 1722 吉野川   河浪高見    多寸能浦乎  不視歟成甞   戀布真國 よしのがは かはなみたかみ たぎのうらを みずかなりなむ こほしけまくに 09 1723 絹歌一首 09 1723 河蝦鳴   六田乃河之   川楊乃   根毛居侶雖見  不飽河鴨 かはづなく むつたのかはの かはやぎの ねもころみれど あかぬかはかも 09 1724 嶋足歌一首 09 1724 欲見    来之久毛知久  吉野川   音清左     見二友敷 みまくほり こしくもしるく よしのがは おとのさやけさ みるにともしく 09 1725 麻呂歌一首 09 1725 古之    賢人之     遊兼    吉野川原    雖見不飽鴨 いにしへの さかしきひとの あそびけむ よしののかはら みれどあかぬかも 09 1725 右柿本朝臣人麻呂之歌集出 09 1726 丹比真人歌一首 09 1726 難波方   塩干尓出而   玉藻苅   海未通女等   汝名告左祢 なにはがた しほひにいでて たまもかる あまをとめども ながなのらさね 09 1727 和歌一首 09 1727 朝入為流  人跡乎見座   草枕    客去人尓    妾名者不教 あさりする ひととをみませ くさまくら たびゆくひとに わがなはのらじ 09 1728 石川卿歌一首 09 1728 名草目而  今夜者寐南   従明日波  戀鴨行武    従此間別者 なぐさめて こよひはねなむ あすよりは こひかもゆかむ こゆわかれなば 09 1729 宇合卿歌三首 09 1729 暁之    夢所見乍    梶嶋乃   石超浪乃    敷弖志所念 あかときの いめにみえつつ かぢしまの いそこすなみの しきてしおもほゆ 09 1730 山品之   石田乃小野之  母蘇原   見乍哉公之   山道越良武 やましなの いはたのをのの ははそはら みつつかきみが やまぢこゆらむ 09 1731 山科乃   石田社尓    布麻越者  盖吾妹尓    直相鴨 やましなの いはたのもりに たむけせば けだしわぎもに ただにあはむかも 09 1732 碁師歌二首 09 1732 祖母山   霞棚引     左夜深而  吾舟将泊    等万里不知母 おほばやま かすみたなびき さよふけて わがふねはてむ とまりしらずも 09 1733 思乍    雖来〃不勝而  水尾埼   真長乃浦乎   又顧津 おもひつつ くれどきかねて みをのさき まながのうらを またかへりみつ 09 1734 小辨歌一首 09 1734 高嶋之   足利湖乎    滂過而   塩津菅浦    今香将滂 たかしまの あどのみなとを こぎすぎて しほつすがうら いまかこぐらむ 09 1735 伊保麻呂歌一首 09 1735 吾疊    三重乃河原之  礒裏尓    如是鴨跡    鳴河蝦可物 わがたたみ みへのかはらの いそのうらに かくしもがもと なくかはづかも 09 1736 式部大倭芳野作歌一首 09 1736 山高見   白木綿花尓   落多藝津  夏身之川門   雖見不飽香聞 やまだかみ しらゆふばなに おちたぎつ なつみのかはと みれどあかぬかも 09 1737 兵部川原歌一首 09 1737 大瀧乎   過而夏箕尓   傍為而   浄川瀬     見何明沙 おほたぎを すぎてなつみに ちかくして きよきかはせを みるがさやけさ 09 1738 詠上総末珠名娘子歌一首 并短歌 09 1738 水長鳥   安房尓継有   梓弓    末乃珠名者   胸別之   廣吾妹    腰細之   須軽娘子之   其姿之   端正尓     如花    咲而立者    玉桙乃   道徃人者    己行    道者不去而   不召尓   門至奴     指並    隣之君者    預     己妻離而    不乞尓   鎰左倍奉    人皆乃   如是迷有者   容艶    縁而曽妹者   多波礼弖有家留 しながとり あはにつぎたる あづさゆみ すゑのたまなは むなわけの ひろきわぎも こしぼその すがるをとめの そのかほの きらきらしきに はなのごと ゑみてたてれば たまほこの みちゆくひとは おのがゆく みちはゆかずて よばなくに かどにいたりぬ さしならぶ となりのきみは あらかじめ おのづまかれて こはなくに かぎさへまつる ひとみなの かくまとへれば うちしなひ よりてぞいもは たはれてありける 09 1739 反歌 09 1739 金門尓之  人乃来立者   夜中母   身者田菜不知  出曽相来 かなとにし ひとのきたてば よなかにも みはたなしらず いでてぞあひける 09 1740 詠水江浦嶋子一首 并短歌 09 1740 春日之   霞時尓     墨吉之   岸尓出居而   釣船之   得乎良布見者  古之    事曽所念     水江之   浦嶋兒之    堅魚釣   鯛釣矜     及七日   家尓毛不来而  海界乎   過而榜行尓    海若    神之女尓    邂尓    伊許藝趍   相誂良比   言成之賀婆   加吉結   常代尓至    海若    神之宮乃   内隔之   細有殿尓    携     二人入居而   耆不為   死不為而    永世尓   有家留物乎   世間之   愚人乃    吾妹兒尓  告而語久    須臾者   家歸而     父母尓   事毛告良比   如明日   吾者来南登   言家礼婆  妹之答久    常世邊   復變来而    如今    将相跡奈良婆  此篋    開勿勤常    曽己良久尓 堅目師事乎   墨吉尓   還来而     家見跡   宅毛見金手   里見跡   里毛見金手   恠常    所許尓念久   従家出而   三歳之間尓   垣毛無   家滅目八跡   此筥乎   開而見手齒   如本    家者将有登   玉篋    小披尓     白雲之   自箱出而    常世邊   棚引去者    立走    叨袖振     反側    足受利四管   頓     情消失奴    若有之    皮毛皺奴    黒有之    髪毛白斑奴   由奈由奈波 氣左倍絶而   後遂    壽死祁流    水江之   浦嶋子之    家地見 はるのひの かすめるときに すみのえの きしにいでゐて つりぶねの とをらふみれば いにしへの ことぞおもほゆる みづのえの うらしまのこが かつをつり たひつりほこり なぬかまで いへにもこずて うなさかを すぎてこぎゆくに わたつみの かみのをとめに たまさかに いこぎむかひ あひあとらひ ことなりしかば かきむすび とこよにいたり わたつみの かみのみやの うちのへの たへなるとのに たづさはり ふたりいりゐて おいもせず しにもせずして ながきよに ありけるものを よのなかの おろかひとの わぎもこに かたりていはく しましくは いへにかへりて ちちははに こともかたらひ あすのごと われはきなむと いひければ いもがいへらく とこよへに またかへりきて いまのごと あはむとならば このくしげ ひらくなゆめと そこらくに かためしことを すみのえに かへりきたりて いへみれど いへもみかねて さとみれど さともみかねて あやしみと そこにおもはく いへゆいでて みとせのからに かきもなく いへうせめやと このはこを ひらきてみてば もとのごと いへはあらむと たまくしげ すこしひらくに しらくもの はこよりいでて とこよへに たなびきゆけば たちばしり さけびそでふり こいまろび あしずりしつつ たちまちに こころけうせぬ わかくありし はだもしわみぬ くろくありし かみもしらけぬ ゆなゆなは いきさへたえて のちつひに いのちしにける みづのえの うらしまのこが いへところみゆ 09 1741 反歌 09 1741 常世邊   可住物乎    劔刀    己之行柄    於曽也是君 とこよへに すむべきものを つるぎたち ながこころから おそやこのきみ 09 1742 見河内大橋獨去娘子歌一首 并短歌 09 1742 級照   片足羽河之   左丹塗   大橋之上従    紅     赤裳數十引   山藍用    揩衣服而    直獨    伊渡為兒者   若草乃   夫香有良武   橿實之   獨歟将宿    問巻乃   欲我妹之    家乃不知久     しなでる かたしはがはの さにぬりの おほはしのうへゆ くれなゐの あかもすそびき やまあゐもち すれるきぬきて ただひとり いわたらすこは わかくさの つまかあるらむ かしのみの ひとりかぬらむ とはまくの ほしきわぎもが いへのしらなく 09 1743 反歌 09 1743 大橋之   頭尓家有者    心悲久   獨去兒尓    屋戸借申尾 おほはしの つめにいへあらば まかなしく ひとりゆくこに やどかさましを 09 1744 見武蔵小埼沼鴨作歌一首 09 1744 前玉之   小埼乃沼尓   鴨曽翼霧    己尾尓   零置流霜乎    掃等尓有斯 さきたまの をさきのぬまに かもぞはねきる おのがをに ふりおけるしもを はらふとにあらし 09 1745 那賀郡曝井歌一首 09 1745 三栗乃   中尓向有    曝井之   不絶将通    彼所尓妻毛我 みつぐりの なかにむかへる さらしゐの たえずかよはむ そこにつまもが 09 1746 手綱濱歌一首 09 1746 遠妻四   高尓有世婆   不知十方  手綱乃濱能   尋来名益 とほづまし たかにありせば しらずとも たづなのはまの たづねきなまし 09 1747 春三月諸卿大夫等下難波時歌二首 并短歌 09 1747 白雲之   龍田山之    瀧上之    小桉嶺尓    開乎為流  櫻花者     山高    風之不息者   春雨之   継而零者    最末枝者 落過去祁利   下枝尓  遺有花者    須臾者   落莫乱     草枕    客去君之    及還来 しらくもの たつたのやまの たぎのうへの をぐらのみねに さきををる さくらのはなは やまだかみ かぜしやまねば はるさめの つぎてしふれば ほつえは ちりすぎにけり しづえに のこれるはなは しましくは ちりなまがひそ くさまくら たびゆくきみが かへりくるまで 09 1748 反歌 09 1748 吾去者   七日者不過   龍田彦   勤此花乎    風尓莫落 わがゆきは なぬかはすぎじ たつたひこ ゆめこのはなを かぜになちらし 09 1749 白雲乃   立田山乎    夕晩尓   打越去者    瀧上之    櫻花者     開有者   落過祁里    含有者   可開継     許知期智乃 花之盛尓    雖不見在  君之三行者   今西應有 しらくもの たつたのやまを ゆふぐれに うちこえゆけば たぎのうへの さくらのはなは さきたるは ちりすぎにけり ふふめるは さきつぎぬべし こちごちの はなのさかりに あらねども きみがみゆきは いまにしあるべし 09 1750 反歌 09 1750 暇有者    魚津柴比渡   向峯之   櫻花毛     折末思物緒 いとまあらば なづさひわたり むかつをの さくらのはなも をらましものを 09 1751 難波経宿明日還来之時歌一首 并短歌 09 1751 嶋山乎   射徃廻流    河副乃   丘邊道従    昨日己曽  吾超来壮鹿   一夜耳   宿有之柄二   峯上之    櫻花者     瀧之瀬従  落堕而流    君之将見  其日左右庭   山下之    風莫吹登    打越而   名二負有社尓   風祭為奈 しまやまを いゆきめぐれる かはそひの をかへのみちゆ きのふこそ わがこえこしか ひとよのみ ねたりしからに みねのうへの さくらのはなは たぎのせゆ ちらひてながる きみがみむ そのひまでには やまおろしの かぜなふきそと うちこえて なにおへるもりに かざまつりせな 09 1752 反歌 09 1752 射行相乃   坂之踏本尓   開乎為流  櫻花乎     令見兒毛欲得 いゆきあひの さかのふもとに さきををる さくらのはなを みせむこもがも 09 1753 撿税使大伴卿登筑波山時歌一首 并短歌 09 1753 衣手   常陸國     二並    筑波乃山乎   欲見    君来座登    熱尓    汗可伎奈氣  木根取   嘯鳴登     峯上乎    公尓令見者   男神毛  許賜     女神毛  千羽日給而   時登無   雲居雨零    筑波嶺乎  清照      言借石   國之真保良乎  委曲尓   示賜者     歡登    紐之緒解而   家如    解而曽遊    打靡    春見麻之従者  夏草之   茂者雖在    今日之樂者 ころもで ひたちのくにの ふたならぶ つくはのやまを みまくほり きみきませりと あつけくに あせかきなげ このねとり うそぶきのぼり みねのうへを きみにみすれば をかみも ゆるしたまひ めかみも ちはひたまひて ときとなく くもゐあめふる つくはねを さやにてらして いふかりし くにのまほらを つばらかに しめしたまへば うれしみと ひものをときて いへのごと とけてぞあそぶ うちなびく はるみましゆは なつくさの しげくはあれど けふのたのしさ 09 1754 反歌 09 1754 今日尓   何如将及    筑波嶺   昔人之     将来其日毛 けふのひに いかにかしかむ つくはねに むかしのひとの きけむそのひも 09 1755 詠霍公鳥一首 并短歌 09 1755 鸎之    生卵乃中尓   霍公鳥   獨所生而    己父尓   似而者不鳴  己母尓   似而者不鳴  宇能花乃  開有野邊従   飛翻    来鳴令響    橘之    花乎居令散   終日    雖喧聞吉    幣者将為  遐莫去     吾屋戸之  花橘尓     住度鳥 うぐひすの かひごのなかに ほととぎす ひとりうまれて ながちちに にてはなかず ながははに にてはなかず うのはなの さきたるのへゆ とびかけり きなきとよもし たちばなの はなをゐちらし ひねもすに なけどききよし まひはせむ とほくなゆきそ わがやどの はなたちばなに すみわたれとり 09 1756 反歌 09 1756 掻霧之   雨零夜乎    霍公鳥   鳴而去成    憾怜其鳥 かききらひ あめのふるよを ほととぎす なきてゆくなり あはれそのとり 09 1757 登筑波山歌一首 并短歌 09 1757 草枕    客之憂乎    名草漏   事毛有哉跡   筑波嶺尓  登而見者    尾花落   師付之田井尓  鴈泣毛   寒来喧奴    新治乃   鳥羽能淡海毛  秋風尓   白浪立奴    筑波嶺乃  吉久乎見者   長氣尓   念積来之    憂者息沼 くさまくら たびのうれへを なぐさもる こともありやと つくはねに のぼりてみれば をばなちる しづくのたゐに かりがねも さむくきなきぬ にひばりの とばのあふみも あきかぜに しらなみたちぬ つくはねの よけくをみれば ながきけに おもひつみこし うれへはやみぬ 09 1758 反歌 09 1758 筑波嶺乃  須蘇廻乃田井尓 秋田苅   妹許将遣    黄葉手折奈 つくはねの すそみのたゐに あきたかる いもがりやらむ もみちたをらな 09 1759 登筑波嶺為嬥歌會日作歌一首 并短歌 09 1759 鷲住    筑波乃山之   裳羽服津乃 其津乃上尓   率而    未通女壮士之  徃集    加賀布嬥歌尓  他妻尓   吾毛交牟    吾妻尓   他毛言問    此山乎   牛掃神之    従来    不禁行事叙   今日耳者  目串毛勿見   事毛咎莫    嬥歌者東俗語曰賀我比 わしのすむ つくはのやまの もはきつの そのつのうへに あどもひて をとめをとこの ゆきつどひ かがふかがひに ひとづまに あれもまじらむ おのづまに ひともこととへ このやまを うしはくかみの むかしより いさめぬわざぞ けふのみは めぐしもなみそ こともとがむな かがひ 09 1760 反歌 09 1760 男神尓  雲立登     斯具礼零  沾通友     吾将反哉 をかみに くもたちのぼり しぐれふり ぬれとほるとも われかへらめや 09 1760 右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出 09 1761 詠鳴鹿一首 并短歌 09 1761 三諸之  神邊山尓    立向    三垣乃山尓   秋芽子之  妻巻六跡    朝月夜   明巻鴦視    足日木乃  山響令動    喚立鳴毛 みもろの かむなびやまに たちむかふ みかきのやまに あきはぎの つまをまかむと あさづくよ あけまくをしみ あしひきの やまびことよめ よびたてなくも 09 1762 反歌 09 1762 明日之夕  不相有八方   足日木乃  山彦令動    呼立哭毛 あすのよひ あはざらめやも あしひきの やまびことよめ よびたてなくも 09 1762 右件歌或云柿本朝臣人麻呂作 09 1763 沙弥女王歌一首 09 1763 倉橋之   山乎高歟    夜牢尓   出来月之    片待難 くらはしの やまをたかみか よごもりに いでくるつきの かたまちがたき 09 1763 右一首間人宿祢大浦歌中既見 但末一句相換 亦作歌兩主不敢正指 因以累載 09 1764 七夕歌一首 并短歌 09 1764 久堅乃   天漢尓    上瀬尓   珠橋渡之    下湍尓   船浮居     雨零而   風不吹登毛   風吹而   雨不落等物   裳不令濕  不息来益常   玉橋渡須 ひさかたの あまのがはに かみつせに たまはしわたし しもつせに ふねをうけすゑ あめふりて かぜふかずとも かぜふきて あめふらずとも もぬらさず やまずきませと たまはしわたす 09 1765 反歌 09 1765 天漢    霧立渡     且今日〃〃〃 吾待君之    船出為等霜 あまのがは きりたちわたる けふけふと  あがまつきみし ふなですらしも 09 1765 右件歌或云中衛大将藤原北卿宅作也 09 1766 相聞 09 1766 振田向宿祢退筑紫國時歌一首 09 1766 吾妹兒者  久志呂尓有奈武  左手乃   吾奥手二    纒而去麻師乎 わぎもこは くしろにあらなむ ひだりての あがおくのてに まきていなましを 09 1767 抜氣大首任筑紫時娶豊前國娘子紐兒作歌三首 09 1767 豊國乃   加波流波吾宅  紐兒尓   伊都我里座者  革流波吾家 とよくにの かはるはわぎへ ひものこに いつがりをれば かはるはわぎへ 09 1768 石上    振乃早田乃   穂尓波不出  心中尓     戀流比日 いそのかみ ふるのわさだの ほにはいでず こころのうちに こふるこのころ 09 1769 如是耳志  戀思度者    霊剋    命毛吾波    惜雲奈師 かくのみし こひしわたれば たまきはる いのちもあれは をしけくもなし 09 1770 大神大夫任長門守時集三輪河邊宴歌二首 09 1770 三諸乃  神能於婆勢流  泊瀬河   水尾之不断者  吾忘礼米也 みもろの かみのおばせる はつせがは みをしたえずは われわすれめや 09 1771 於久礼居而 吾波也将戀   春霞    多奈妣久山乎  君之越去者 おくれゐて あれはやこひむ はるかすみ たなびくやまを きみがこえいなば 09 1771 右二首古集中出 09 1772 大神大夫任筑紫國時阿倍大夫作歌一首 09 1772 於久礼居而 吾者哉将戀   稲見野乃  秋芽子見都津  去奈武子故尓 おくれゐて あれはやこひむ いなみのの あきはぎみつつ いなむこゆゑに 09 1773 獻弓削皇子歌一首 09 1773 神南備   神依板尓    為杉乃   念母不過    戀之茂尓 かむなびの かむよりいたに するすぎの おもひもすぎず こひのしげきに 09 1774 獻舎人皇子歌二首 09 1774 垂乳根乃  母之命乃    言尓有者   年緒長     憑過武也 たらちねの ははのみことの ことにあらば としのをながく たのめすぎむや 09 1775 泊瀬河   夕渡来而    我妹兒何  家門      近舂二家里 はつせがは ゆふわたりきて わぎもこが いへのかなとに ちかづきにけり 09 1775 右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出 09 1776 石川大夫遷任上京時播磨娘子贈歌二首 09 1776 絶等寸笶  山之峯上乃   櫻花    将開春部者   君之将思 たゆらきの やまのをのへの さくらばな さかむはるへは きみししのはむ 09 1777 君無者   奈何身将装餝  匣有    黄楊之小梳毛  将取跡毛不念 きみなくは なぞみよそはむ くしげなる つげのをぐしも とらむともおもはず 09 1778 藤井連遷任上京時娘子贈歌一首 09 1778 従明日者  吾波孤悲牟奈  名欲山   石踏平之    君我越去者 あすよりは あれはこひむな なほりやま いはふみならし きみがこえいなば 09 1779 藤井連和歌一首 09 1779 命乎志   麻勢久可願   名欲山   石踐平之    復亦毛来武 いのちをし まさきくもがも なほりやま いはふみならし またまたもこむ 09 1780 鹿嶋郡苅野橋別大伴卿歌一首 并短歌 09 1780 牡牛乃    三宅之滷尓   指向    鹿嶋之埼尓   狭丹塗之  小船儲    玉纒之   小梶繁貫    夕塩之   満乃登等美尓  三船子呼  阿騰母比立而  喚立而   三船出者    濱毛勢尓  後奈美居而   反側    戀香裳将居   足垂之   泣耳八将哭   海上之   其津乎指而   君之己藝歸者 ことひうしの みやけのかたに さしむかふ かしまのさきに さにぬりの をぶねをまけ たままきの をかぢしじぬき ゆふしほの みちのとどみに みふなこを あどもひたてて よびたてて みふねいでなば はまもせに おくれなみゐて こいまろび こひかもをらむ あしずりし ねのみやなかむ うなかみの そのつをさして きみがこぎゆかば 09 1781 反歌 09 1781 海津路乃  名木名六時毛  渡七六   加九多都波二  船出可為八 うみつぢの なぎなむときも わたらなむ かくたつなみに ふなですべしや 09 1781 右二首高橋連蟲麻呂之歌集中出 09 1782 与妻歌一首 09 1782 雪己曽波  春日消良米   心佐閇   消失多列夜   言母不徃来 ゆきこそは はるひきゆらめ こころさへ きえうせたれや こともかよはぬ ○ 09 1783 妻和歌一首 09 1783 松反    四臂而有八羽  三栗    中上不来    麻呂等言八子 まつがへり しひてあれやは みつぐりの なかのぼりこぬ まろといふやつこ 09 1783 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集中出 09 1784 贈入唐使歌一首 09 1784 海若之   何神乎     齋祈者歟  徃方毛来方毛  船之早兼 わたつみの いづれのかみを いのらばか ゆくさもくさも ふねのはやけむ 09 1784 右一首渡海年記未詳 09 1785 神龜五年戊辰秋八月歌一首 并短歌 09 1785 人跡成   事者難乎    和久良婆尓 成吾身者    死毛生毛   公之随意常   念乍    有之間尓    虚蝉乃   代人有者    大王之   御命恐美    天離    夷治尓登    朝鳥之   朝立為管    群鳥之   群立行者    留居而   吾者将戀奈   不見久有者 ひととなる ことはかたきを わくらばに なれるあがみは しにもいきも きみがまにまと おもひつつ ありしあひだに うつせみの よのひとなれば おほきみの みことかしこみ あまざかる ひなをさめにと あさとりの あさだちしつつ むらとりの むらだちゆかば とまりゐて あれはこひむな みずひさにあらば 09 1786 反歌 09 1786 三越道之  雪零山乎    将越日者  留有吾乎    懸而小竹葉背 みこしぢの ゆきふるやまを こえむひは とまれるわれを かけてしのはせ 09 1787 天平元年己巳冬十二月歌一首 并短歌 09 1787 虚蝉乃   世人有者    大王之   御命恐弥    礒城嶋能  日本國乃    石上    振里尓    紐不解   丸寐乎為者   吾衣有   服者奈礼奴   毎見    戀者雖益    色二山上復有山者 一可知美    冬夜之   明毛不得呼   五十母不宿二 吾齒曽戀流   妹之直香仁 うつせみの よのひとなれば おほきみの みことかしこみ しきしまの やまとのくにの いそのかみ ふるのさとに ひもとかず まろねをすれば わがきたる ころもはなれぬ みるごとに こひはまされど いろにいでば   ひとしりぬべみ ふゆのよの あかしもえぬを いもねずに  あれはぞこふる いもがただかに 09 1788 反歌 09 1788 振山従   直見渡     京二曽   寐不宿戀流   遠不有尓 ふるやまゆ ただにみわたす みやこにぞ いもねずこふる とほくあらなくに 09 1789 吾妹兒之  結手師紐乎   将解八方  絶者絶十方   直二相左右二 わぎもこが ゆひてしひもを とかめやも たえばたゆとも ただにあふまでに 09 1789 右件五首笠朝臣金村之歌中出 09 1790 天平五年癸酉遣唐使舶發難波入海之時親母贈子歌一首 并短歌 09 1790 秋芽子乎  妻問鹿許曽   一子二   子持有跡五十戸 鹿兒自物  吾獨子之    草枕    客二師徃者   竹珠乎   密貫垂     齋戸尓   木綿取四手而  忌日管   吾思吾子    真好去有欲得 あきはぎを つまとふかこそ ひとりごに こもてりといへ かこじもの あがひとりごの くさまくら たびにしゆけば たかたまを しじにぬきたれ いはひべに ゆふとりしでて いはひつつ あがもへるあご まさきくありこそ 09 1791 反歌 09 1791 客人之   宿将為野尓   霜降者   吾子羽褁    天乃鶴群 たびひとの やどりせむのに しもふらば あがこはぐくめ あめのたづむら 09 1792 思娘子作歌一首 并短歌 09 1792 白玉之   人乃其名矣   中〃二   辞緒下延    不遇日之  數多過者    戀日之   累行者     思遣    田時乎白土   肝向    心摧而     珠手次   不懸時無    口不息   吾戀兒矣    玉釧    手尓取持而   真十鏡   直目尓不視者  下桧山   下逝水乃    上丹不出   吾念情     安虚歟毛 しらたまの ひとのそのなを なかなかに ことをしたばへ あはぬひの まねくすぐれば こふるひの かさなりゆけば おもひやる たどきをしらに きもむかふ こころくだけて たまだすき かけぬときなく くちやまず あがこふるこを たまくしろ てにとりもちて まそかがみ ただめにみねば したひやま したゆくみづの うへにいでず あがもふこころ やすきそらかも 09 1793 反歌 09 1793 垣保成   人之横辞    繁香裳   不遭日數多   月乃経良武 かきほなす ひとのよこごと しげみかも あはぬひまねく つきのへぬらむ 09 1794 立易    月重而     雖不遇   核不所忘    面影思天 たちかはり つきかさなりて あはねども さねわすらえず おもかげにして 09 1794 右三首田邊福麻呂之歌集出 09 1795 挽歌 09 1795 宇治若郎子宮所歌一首 09 1795 妹等許   今木乃嶺    茂立    嬬待木者    古人見祁牟 いもらがり いまきのみねに しげりたつ つままつのきは ふるひとみけむ 09 1796 紀伊國作歌四首 09 1796 黄葉之   過去子等    携     遊礒麻     見者悲裳 もみちばの すぎにしこらと たづさはり あそびしいそを みればかなしも 09 1797 塩氣立   荒礒丹者雖在   徃水之   過去妹之    方見等曽来 しほけたつ ありそにはあれど ゆくみづの すぎにしいもが かたみとぞこし 09 1798 古家丹   妹等吾見    黒玉之   久漏牛方乎   見佐府下 いにしへに いもとわがみし ぬばたまの くろうしがたを みればさぶしも 09 1799 玉津嶋   礒之裏未之   真名子仁文 尓保比尓去名  妹觸險 たまつしま いそのうらみの まなごにも にほひにゆかな いももふれけむ 09 1799 右五首柿本朝臣人麻呂之歌集出 09 1800 過足柄坂見死人作歌 09 1800 小垣内之  麻矣引干    妹名根之  作服異六    白細乃   紐緒毛不解   一重結   帶矣三重結   苦伎尓   仕奉而     今谷裳   國尓退而    父妣毛   妻矣毛将見跡  思乍    徃祁牟君者   鳥鳴    東國能     恐耶    神之三坂尓   和霊乃   服寒等丹    烏玉乃   髪者乱而    邦問跡   國矣毛不告   家問跡   家矣毛不云   益荒夫乃  去能進尓    此間偃有 をかきつの あさをひきほし いもなねが つくりきせけむ しろたへの ひもをもとかず ひとへゆふ おびをみへゆひ くるしきに つかへまつりて いまだにも くににまかりて ちちははも つまをもみむと おもひつつ ゆきけむきみは とりがなく あづまのくにの かしこきや かみのみさかに にきたへの ころもさむらに ぬばたまの かみはみだれて くにとへど くにをものらず いへとへど いへをものらず ますらをの ゆきのすすみに ここにこやせる 09 1801 過葦屋處女墓時作歌一首 并短歌 09 1801 古之    益荒丁子    各競    妻問為祁牟   葦屋乃   菟名日處女乃  奥城矣   吾立見者    永世乃   語尓為乍    後人    偲尓世武等   玉桙乃   道邊近     磐構    作冢矣     天雲乃   退部乃限    此道矣   去人毎     行因    射立嘆日    或人者   啼尓毛哭乍   語嗣    偲継来     處女等賀  奥城所     吾并    見者悲喪    古思者 いにしへの ますらをのこの あひきほひ つまどひしけむ あしのやの うなひをとめの おくつきを わがたちみれば ながきよの かたりにしつつ のちひとの しのひにせむと たまほこの みちのべちかく いはかまへ つくれるつかを あまくもの そきへのきはみ このみちを ゆくひとごとに ゆきよりて いたちなげかひ あるひとは ねにもなきつつ かたりつぎ しのひつぎける をとめらが おくつきところ われさへに みればかなしも いにしへおもへば 09 1802 反歌 09 1802 古乃    小竹田丁子乃  妻問石   菟會處女乃   奥城叙此 いにしへの しのだをとこの つまどひし うなひをとめの おくつきぞこれ 09 1803 語継    可良仁文幾許  戀布矣   直目尓見兼   古丁子 かたりつぐ からにもここだ こほしきを ただめにみけむ いにしへをとこ 09 1804 哀弟死去作歌一首 并短歌 09 1804 父母賀   成乃任尓    箸向    弟乃命者    朝露乃   銷易杵壽    神之共   荒競不勝而   葦原乃   水穂之國尓   家無哉   又還不来    遠津國   黄泉乃界丹   蔓都多乃  各〃向〃    天雲乃   別石徃者    闇夜成   思迷匍匐    所射十六乃 意矣痛     葦垣之   思乱而     春鳥能   啼耳鳴乍    味澤相   宵晝不云     蜻蜒火之  心所燎管    悲悽別焉 ちちははが なしのまにまに はしむかふ おとのみことは あさつゆの けやすきいのち かみのむた あらそひかねて あしはらの みづほのくにに いへなみか またかへりこぬ とほつくに よみのさかひに はふつたの おのがむきむき あまくもの わかれしゆけば やみよなす おもひまとはひ いゆししの こころをいたみ あしかきの おもひみだれて はるとりの ねのみなきつつ あぢさはふ よるひるといはず かぎるひの こころもえつつ なげくわかれを 09 1805 反歌 09 1805 別而裳   復毛可遭    所念者   心乱      吾戀目八方 一云 意盡而 わかれても またもあふべく おもほえば こころみだれて あれこひめやも  こころつくして 09 1806 蘆桧木笶  荒山中尓    送置而    還良布見者   情苦喪 あしひきの あらやまなかに おくりおきて かへらふみれば こころぐるしも 09 1806 右七首田邊福麻呂之歌集出 09 1807 詠勝鹿真間娘子歌一首 并短歌 09 1807 鷄鳴    吾妻乃國尓   古昔尓   有家留事登   至今    不絶言来    勝壮鹿乃  真間乃手兒奈我 麻衣尓   青衿著    直佐麻乎  裳者織服而   髪谷母   掻者不梳    履乎谷   不著雖行    錦綾之    中丹褁有    齋兒毛   妹尓将及哉   望月之   満有面輪二   如花    咲而立有者   夏蟲乃   入火之如     水門入尓   船己具如久   歸香具礼  人乃言時    幾時毛   不生物呼    何為跡歟  身乎田名知而  浪音乃    驟湊之     奥津城尓  妹之臥勢流   遠代尓   有家類事乎   昨日霜   将見我其登毛  所念可聞 とりがなく あづまのくにに いにしへに ありけることと いままでに たえずいひける かつしかの ままのてこなが あさきぬに あをくびつけ ひたさをを もにはおりきて かみだにも かきはけづらず くつをだに はかずゆけども にしきあやの なかにつつめる いはひこも いもにしかめや もちづきの たれるおもわに はなのごと ゑみてたてれば なつむしの ひにいるがごとく みなといりに ふねこぐごとく ゆきかぐれ ひとのいふとき いくばくも いけらじものを なにすとか みをたなしりて なみのおとの さわくみなとの おくつきに いもがこやせる とほきよに ありけることを きのふしも みけむがごとも おもほゆるかも 09 1808 反歌 09 1808 勝壮鹿之  真間之井見者  立平之   水挹家武    手兒名之所念 かつしかの ままのゐみれば たちならし みづくましけむ てこなしおもほゆ 09 1809 見菟原處女墓歌一首 并短歌 09 1809 葦屋之   菟名負處女之  八年兒之  片生乃時従    小放尓   髪多久麻弖尓  並居    家尓毛不所見  虚木綿乃  牢而座在者   見而師香跡 悒憤時之    垣廬成   人之誂時    智弩壮士  宇奈比壮士乃  廬八燎   須酒師競   相結婚   為家類時者   焼大刀乃  手穎押祢利   白檀弓   靫取負而    入水    火尓毛将入跡  立向    競時尓     吾妹子之  母尓語久    倭文手纒  賎吾之故     大夫之   荒争見者    雖生    應合有哉     宍串呂   黄泉尓将待跡  隠沼乃   下延置而    打歎    妹之去者    血沼壮士  其夜夢見    取次寸   追去祁礼婆   後有    菟原壮士伊   仰天    叨於良妣   ■[足+昆]地 牙喫建怒而   如己男尓  負而者不有跡   懸佩之   小劔取佩    冬■[卄叙]蕷都良 尋去祁礼婆   親族共   射歸集    永代尓   標将為跡    遐代尓   語将継常    處女墓   中尓造置     壮士墓   此方彼方二   造置有    故縁聞而    雖不知   新喪之如毛   哭泣鶴鴨 あしのやの うなひをとめの やとせこの かたおひのときゆ をはなりに かみたくまでに ならびをる いへにもみえず うつゆふの こもりてをれば みてしかと いぶせむときの かきほなす ひとのとふとき ちぬをとこ うなひをとこの ふせやたき すすしきほひ あひよばひ しけるときには やきたちの たかみおしねり しらまゆみ ゆきとりおひて みづにいり ひにもいらむと たちむかひ きほひしときに わぎもこが ははにかたらく しつたまき いやしきわがゆゑ ますらをの あらそふみれば いけりとも あふべくもあれや ししくしろ よみにまたむと こもりぬの したばへおきて うちなげき いもがいぬれば ちぬをとこ そのよいめにみ とりつつき おひゆきければ おくれたる うなひをとこい あめあふぎ さけびおらび つちをふみ  きかみたけびて もころをに まけてはあらじと かけはきの をたちとりはき ところづら    とめゆきければ うがらどち いゆきつどひ ながきよに しるしにせむと とほきよに かたりつがむと をとめつか なかにつくりおき をとこつか このもかのもに つくりおける ゆゑよしききて しらねども にひものごとも ねなきつるかも 09 1810 反歌 09 1810 葦屋之   宇奈比處女之  奥槨乎   徃来跡見者   哭耳之所泣 あしのやの うなひをとめの おくつきを ゆきくとみれば ねのみしなかゆ 09 1811 墓上之    木枝靡有    如聞    陳努壮士尓之  依家良信母 つかのうへの このえなびけり きけるごと ちぬをとこにし よりにけらしも 09 1811 右五首高橋連蟲麻呂之歌集中出 10 1812 春雜歌 10 1812 久方之   天芳山     此夕    霞霏霺     春立下 ひさかたの あめのかぐやま このゆふべ かすみたなびく はるたつらしも 10 1813 巻向之   桧原丹立流   春霞    欝之思者     名積米八方 まきむくの ひばらにたてる はるかすみ おほにしおもはば なづみこめやも 10 1814 古     人之殖兼    杉枝    霞霏霺     春者来良之 いにしへの ひとのうゑけむ すぎがえに かすみたなびく はるきたるらし 10 1815 子等我手乎 巻向山丹    春去者   木葉淩而    霞霏霺 こらがてを まきむくやまに はるされば このはしのぎて かすみたなびく 10 1816 玉蜻    夕去来者    佐豆人之  弓月我高荷   霞霏霺 たまかぎる ゆふさりくれば さづひとの ゆつきがたけに かすみたなびく 10 1817 今朝去而  明日者来牟等  云子鹿丹 旦妻山丹    霞霏霺 けさゆきて あすはきなむと      あさづまやまに かすみたなびく 10 1818 子等名丹  關之宜     朝妻之   片山木之尓   霞多奈引 こらがなに かけのよろしき あさづまの かたやまきしに かすみたなびく 10 1818 右柿本朝臣人麻呂歌集出 10 1819 詠鳥 10 1819 打霏    春立奴良志   吾門之   柳乃宇礼尓   鸎鳴都 うちなびく はるたちぬらし わがかどの やなぎのうれに うぐひすなきつ 10 1820 梅花    開有岳邊尓   家居者   乏毛不有     鸎之音 うめのはな さけるをかへに いへをれば ともしくもあらず うぐひすのこゑ 10 1821 春霞    流共尓     青柳之   枝喙持而    鸎鳴毛 はるかすみ ながるるなへに あをやぎの えだくひもちて うぐひすなくも 10 1822 吾瀬子乎  莫越山能    喚子鳥   君喚變瀬    夜之不深刀尓 わがせこを なこしのやまの よぶこどり きみよびかへせ よのふけぬとに 10 1823 朝井代尓  来鳴杲鳥    汝谷文   君丹戀八    時不終鳴 あさゐでに きなくかほとり なれだにも きみにこふれや ときわかずなく 10 1824 冬隠    春去来之    足比木乃  山二文野二文  鸎鳴裳 ふゆこもり はるさりくれば あしひきの やまにものにも うぐひすなくも 10 1825 紫之    根延横野之   春野庭   君乎懸管    鸎名雲 むらさきの ねばふよこのの はるのには きみをかけつつ うぐひすなくも 10 1826 春之在者  妻乎求等    鸎之    木末乎傳    鳴乍本名 はるされば つまをもとむと うぐひすの こぬれをつたひ なきつつもとな 10 1827 春日有   羽買之山従   狭帆之内敝  鳴徃成者    孰喚子鳥 かすがなる はがひのやまゆ さほのうちへ なきゆくなるは たれよぶこどり 10 1828 不答尓   勿喚動曽    喚子鳥   佐保乃山邊乎  上下二 こたへぬに なよびとよめそ よぶこどり さほのやまへを のぼりくだりに 10 1829 梓弓    春山近     家居之   續而聞良牟   鸎之音 あづさゆみ はるやまちかく いへをれば つぎてきくらむ うぐひすのこゑ 10 1830 打靡    春去来者    小竹之末丹  尾羽打觸而   鸎鳴毛 うちなびく はるさりくれば しののうれに をはうちふれて うぐひすなくも 10 1831 朝霧尓   之努〃尓所沾而 喚子鳥   三船山従    喧渡所見 あさぎりに しののにぬれて よぶこどり みふねのやまゆ なきわたるみゆ 10 1832 打靡    春去来者    然為蟹   天雲霧相    雪者零管 うちなびく はるさりにけり しかすがに あまくもきらひ ゆきはふりつつ 10 1833 梅花    零覆雪乎     褁持    君令見跡    取者消管 うめのはな ふりおほふゆきを つつみもち きみにみせむと とればけにつつ 10 1834 梅花    咲落過奴    然為蟹   白雪庭尓    零重管 うめのはな さきちりすぎぬ しかすがに しらゆきにはに ふりしきりつつ 10 1835 今更    雪零目八方   蜻火之   燎留春部常   成西物乎 いまさらに ゆきふらめやも かぎるひの もゆるはるへと なりにしものを 10 1836 風交    雪者零乍    然為蟹   霞田菜引    春去尓来 かぜまじり ゆきはふりつつ しかすがに かすみたなびき はるさりにけり 10 1837 山際尓   鸎喧而     打靡    春跡雖念    雪落布沼 やまのまに うぐひすなきて うちなびく はるとおもへど ゆきふりしきぬ 10 1838 峯上尓    零置雪師     風之共   此間散良思   春者雖有 みねのうへに ふりおけるゆきし かぜのむた ここにちるらし はるにはあれども 10 1838 右一首筑波山作 10 1839 為君    山田之澤    恵具採跡  雪消之水尓   裳裾所沾 きみがため やまだのさはに ゑぐつむと ゆきげのみづに ものすそぬれぬ 10 1840 梅枝尓   鳴而移徙    鸎之    翼白妙尓    沫雪曽落 うめがえに なきてうつろふ うぐひすの はねしろたへに あわゆきぞふる 10 1841 山高三   零来雪乎    梅花    落鴨来跡    念鶴鴨 一云  梅花    開香裳落跡 やまだかみ ふりくるゆきを うめのはな ちりかもくると おもひつるかも うめのはな さきかもちると 10 1842 除雪而    梅莫戀     足曳之   山片就而    家居為流君 ゆきをおきて うめをなこひそ あしひきの やまかたづきて いへゐせるきみ 10 1842 右二首問答 10 1843 詠霞 10 1843 昨日社   年者極之賀   春霞    春日山尓    速立尓来 きのふこそ としははてしか はるかすみ かすがのやまに はやたちにけり 10 1844 寒過    暖来良思    朝烏指   滓鹿能山尓   霞軽引 ふゆすぎて はるきたるらし あさひさす かすがのやまに かすみたなびく 10 1845 鸎之    春成良思    春日山   霞棚引     夜目見侶 うぐひすの はるになるらし かすがやま かすみたなびく よめにみれども 10 1846 詠柳 10 1846 霜干    冬柳者     見人之   蘰可為     目生来鴨 しもがれの ふゆのやなぎは みるひとの かづらにすべく もえにけるかも 10 1847 淺緑    染懸有跡    見左右二  春楊者     目生来鴨 あさみどり そめかけたりと みるまでに はるのやなぎは もえにけるかも 10 1848 山際尓   雪者零管    然為我二  此河楊波    毛延尓家留可聞 やまのまに ゆきはふりつつ しかすがに このかはやぎは もえにけるかも 10 1849 山際之   雪者不消有乎  水敘合   川之副者    目生来鴨 やまのまの ゆきはけざるを みなぎらふ かはのそひには もえにけるかも 10 1850 朝旦    吾見柳     鸎之    来居而應鳴   森尓早奈礼 あさなさな わがみるやなぎ うぐひすの きゐてなくべき もりにはやなれ 10 1851 青柳之   絲乃細紗    春風尓   不乱伊間尓   令視子裳欲得 あをやぎの いとのくはしさ はるかぜに みだれぬいまに みせむこもがも 10 1852 百礒城   大宮人之    蘰有    垂柳者     雖見不飽鴨 ももしきの おほみやひとの かづらける しだりやなぎは みれどあかぬかも 10 1853 梅花    取持見者    吾屋前之  柳乃眉師    所念可聞 うめのはな とりもちみれば わがやどの やなぎのまよし おもほゆるかも 10 1854 詠花 10 1854 鸎之    木傳梅乃    移者    櫻花之     時片設奴 うぐひすの こづたふうめの うつろへば さくらのはなの ときかたまけぬ 10 1855 櫻花    時者雖不過   見人之   戀盛常     今之将落 さくらばな ときはすぎねど みるひとの こひのさかりと いまはちるらむ 10 1856 我刺    柳絲乎     吹乱    風尓加妹之   梅乃散覧 わがさせる やなぎのいとを ふきみだる かぜにかいもが うめのちるらむ 10 1857 毎年    梅者開友    空蝉之   世人吾羊蹄   春無有来 としのはに うめはさけども うつせみの よのひとわれし はるなかりけり 10 1858 打細尓   鳥者雖不喫   縄延    守巻欲寸    梅花鴨 うつたへに とりははまねど しめはへて もらまくほしき うめのはなかも 10 1859 馬並而   高山部乎    白妙丹   令艶色有者   梅花鴨 うまなめて たかのやまへを しろたへに にほはしたるは うめのはなかも 10 1860 花咲而   實者不成登裳  長氣    所念鴨     山振之花 はなさきて みはならねども ながきけに おもほゆるかも やまぶきのはな 10 1861 能登河之  水底并尓    光及尓   三笠乃山者   咲来鴨 のとがはの みなそこさへに てるまでに みかさのやまは さきにけるかも 10 1862 見雪者   未冬有     然為蟹   春霞立     梅者散乍 ゆきみれば いまだふゆなり しかすがに はるかすみたち うめはちりつつ 10 1863 去年咲之  久木今開    徒     土哉将堕     見人名四二 こぞさきし ひさぎいまさく いたづらに つちにかもおちむ みるひとなしに 10 1864 足日木之  山間照     櫻花    是春雨尓    散去鴨 あしひきの やまのまてらす さくらばな このはるさめに ちりゆかむかも 10 1865 打靡    春避来之 山際 最木末乃 咲徃見者 うちなびく はるさりくらし やまのまの とほきこぬれの さきゆくみれば 10 1866 春鴙鳴   高圓邊丹    櫻花    散流歴     見人毛我母 きぎしなく たかまとのへに さくらばな ちりてながらふ みむひともがも 10 1867 阿保山之  佐宿木花者   今日毛鴨  散乱      見人無二 あほやまの さくらのはなは けふもかも ちりみだるらむ みるひとなしに 10 1868 川津鳴   吉野河之    瀧上乃    馬酔之花曽   置末勿勤 かはづなく よしののかはの たぎのうへの あしびのはなぞ はしにおくなゆめ 10 1869 春雨尓   相争不勝而   吾屋前之  櫻花者     開始尓家里      はるさめに あらそひかねて わがやどの さくらのはなは さきそめにけり 10 1870 春雨者   甚勿零     櫻花    未見尓     散巻惜裳 はるさめは いたくなふりそ さくらばな いまだみなくに ちらまくをしも 10 1871 春去者   散巻惜     梅花    片時者不咲   含而毛欲得 はるされば ちらまくをしき うめのはな しましはさかず ふふみてもがも 10 1872 見渡者   春日之野邊尓  霞立    開艶者     櫻花鴨 みわたせば かすがののへに かすみたち さきにほへるは さくらばなかも 10 1873 何時鴨   此夜乃将明   鸎之    木傳落     梅花将見 いつしかも このよのあけむ うぐひすの こづたひちらす うめのはなみむ 10 1874 詠月 10 1874 春霞    田菜引今日之  暮三伏一向夜 不穢照良武   高松之野尓 はるかすみ たなびくけふの ゆふづくよ  きよくてるらむ たかまつののに 10 1875 春去者   紀之許能暮之  夕月夜   欝束無裳    山陰尓指天 一云 春去者   木陰多     暮月夜 はるされば きのこのくれの ゆふづくよ おほつかなしも やまかげにして  はるされば このくれおほみ ゆふづくよ 10 1876 朝霞    春日之晩者   従木間   移歴月乎    何時可将待 あさかすみ はるひのくれば このまより うつろふつきを いつとかまたむ 10 1877 詠雨 10 1877 春之雨尓  有来物乎    立隠    妹之家道尓   此日晩都 はるさめに ありけるものを たちかくり いもがいへぢに このひくらしつ 10 1878 詠河 10 1878 今徃而   聞物尓毛我   明日香川  春雨零而    瀧津湍音乎 いまゆきて きくものにもが あすかがは はるさめふりて たぎつせのおとを 10 1879 詠煙 10 1879 春日野尓  煙立所見    嫺嬬等四  春野之菟芽子  採而煮良思文 かすがのに けぶりたつみゆ をとめらし はるののうはぎ つみてにらしも 10 1880 野遊 10 1880 春日野之  淺茅之上尓   念共    遊今日     忘目八方 かすがのの あさぢがうへに おもふどち あそぶけふのひ わすらえめやも 10 1881 春霞    立春日野乎   徃還    吾者相見    弥年之黄土 はるかすみ たつかすがのを ゆきがへり われはあひみむ いやとしのはに 10 1882 春野尓   意将述跡    念共    来之今日者   不晩毛荒粳 はるののに こころのべむと おもふどち こしけふのひは くれずもあらぬか 10 1883 百礒城之  大宮人者    暇有也    梅乎挿頭而   此間集有 ももしきの おほみやひとは いとまあれや うめをかざして ここにつどへる 10 1884 歎舊 10 1884 寒過    暖来者     年月者   雖新有     人者舊去 ふゆすぎて はるのきたれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく 10 1885 物皆者   新吉      唯     人者舊之    應宜 ものみなは あらたしきよし ただしくも ひとはふりにし よろしかるべし 10 1886 懽逢 10 1886 住吉之   里行之鹿齒   春花乃   益希見     君相有香聞 すみのえの さとゆきしかば はるはなの いやめづらしき きみにあへるかも 10 1887 旋頭歌 10 1887 春日在   三笠乃山尓   月母出奴可母   佐紀山尓  開有櫻之    花乃可見 かすがなる みかさのやまに つきもいでぬかも さきやまに さけるさくらの はなのみゆべく 10 1888 白雪之   常敷冬者    過去家良霜   春霞    田菜引野邊之  鸎鳴焉 しらゆきの つねしくふゆは すぎにけらしも はるかすみ たなびくのへに うぐひすなくも 10 1889 譬喩歌 10 1889 吾屋前之  毛桃之下尓   月夜指   下心吉     菟楯頃者 わがやどの けももがしたに つくよさし したごころよし うたてこのころ 10 1890 春相聞 10 1890 春山    友鸎      鳴別    眷益間     思御吾 はるやまの ともうぐひすの なきわかれ かへりますまも おもほせわれを 10 1891 冬隠    春開花     手折以   千遍限     戀渡鴨 ふゆこもり はるさくはなを たをりもち ちたびのかぎり こひわたるかも 10 1892 春山    霧惑在     鸎     我益      物念哉 はるやまの きりにまとへる うぐひすも われにまさりて ものもはめやも 10 1893 出見    向岡      本繁    開在花     不成不止 いでてみる むかひのをかに もとしげく さきたるはなの ならずはやまじ 10 1894 霞發    春永日     戀暮    夜深去     妹相鴨 かすみたつ はるのながひを こひくらし よもふけゆくに いももあはぬかも 10 1895 春去    先三枝     幸命在    後相      莫戀吾妹 はるされば まずさきくさの さきくあらば のちにもあはむ なこひそわぎも 10 1896 春去    為垂柳     十緒    妹心      乗在鴨 はるされば しだりやなぎの とををにも いもはこころに のりにけるかも 10 1896 右柿本朝臣人麻呂歌集出 10 1897 寄鳥 10 1897 春之在者  伯勞鳥之草具吉 雖不所見  吾者見将遣   君之當乎婆 はるされば もずのかやぐき みえずとも われはみやらむ きみがあたりをば 10 1898 容鳥之   間無數鳴    春野之   草根乃繁    戀毛為鴨 かほとりの まなくしばなく はるののの くさねのしげき こひもするかも 10 1899 寄花 10 1899 春去者   宇乃花具多思  吾越之   妹我垣間者   荒来鴨 はるされば うのはなぐたし わがこえし いもがかきまは あれにけるかも 10 1900 梅花    咲散苑尓    吾将去   君之使乎    片待香花光 うめのはな さきちるそのに われゆかむ きみがつかひを かたまちがてり 10 1901 藤浪    咲春野尓    蔓葛    下夜之戀者   久雲在 ふぢなみの さけるはるのに はふくずの したよしこひば ひさしくもあらむ 10 1902 春野尓   霞棚引     咲花乃   如是成二手尓  不逢君可母 はるののに かすみたなびき さくはなの かくなるまでに あはぬきみかも 10 1903 吾瀬子尓  吾戀良久者   奥山之   馬酔花之    今盛有 わがせこに あがこふらくは おくやまの あしびのはなの いまさかりなり 10 1904 梅花    四垂柳尓    折雜    花尓供養者   君尓相可毛 うめのはな しだりやなぎに をりまじへ はなにそなへば きみにあはむかも 10 1905 姫部思   咲野尓生    白管自   不知事以    所言之吾背 をみなへし さきのにおふる しらつつじ しらぬこともち いはれしわがせ 10 1906 梅花    吾者不令落   青丹吉   平城之人    来管見之根 うめのはな われはちらさじ あをによし ならなるひとも きつつみるがね 10 1907 如是有者   何如殖兼    山振乃   止時喪哭    戀良苦念者 かくしあらば なにかうゑけむ やまぶきの やむときもなく こふらくもへば 10 1908 寄霜 10 1908 春去者   水草之上尓   置霜乃   消乍毛我者    戀度鴨 はるされば みくさのうへに おくしもの けにつつもあれは こひわたるかも 10 1909 寄霞 10 1909 春霞    山棚引     欝     妹乎相見    後戀毳 はるかすみ やまにたなびき おほほしく いもをあひみて のちこひむかも 10 1910 春霞    立尓之日従   至今日   吾戀不止    本之繁家波 一云 片念尓指天 はるかすみ たちにしひより けふまでに あがこひやまず もとのしげけば  かたもひにして 10 1911 左丹頬経  妹乎念登    霞立    春日毛晩尓   戀度可母 さにつらふ いもをおもふと かすみたつ はるひもくれに こひわたるかも 10 1912 霊寸春   吾山之於尓    立霞    雖立雖座    君之随意 たまきはる わがやまのうへに たつかすみ たつともうとも きみがまにまに 10 1913 見渡者   春日之野邊   立霞    見巻之欲    君之容儀香 みわたせば かすがののへに たつかすみ みまくのほしき きみがすがたか 10 1914 戀乍毛   今日者暮都   霞立    明日之春日乎  如何将晩 こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかにくらさむ 10 1915 寄雨 10 1915 吾背子尓  戀而為便莫   春雨之   零別不知    出而来可聞 わがせこに こひてすべなみ はるさめの ふるわきしらず いでてこしかも 10 1916 今更    君者伊不徃   春雨之   情乎人之    不知有名國 いまさらに きみはいゆかじ はるさめの こころをひとの しらざらなくに 10 1917 春雨尓   衣甚      将通哉   七日四零者   七日不来哉 はるさめに ころもはいたく とほらめや なぬかしふらば なぬかこじとや 10 1918 梅花    令散春雨    多零    客尓也君之   廬入西留良武 うめのはな ちらすはるさめ いたくふる たびにやきみが いほりせるらむ 10 1919 寄草 10 1919 國栖等之  春菜将採    司馬乃野之 數君麻     思比日 くにすらが はるなつむらむ しまののの しばしばきみを おもふこのころ 10 1920 春草之   繁吾戀     大海    方徃浪之    千重積 はるくさの しげきあがこひ おほうみの へにゆくなみの ちへにつもりぬ 10 1921 不明    公乎相見而   菅根乃   長春日乎    孤悲渡鴨 おほほしく きみをあひみて すがのねの ながきはるひを こひわたるかも 10 1922 寄松 10 1922 梅花    咲而落去者   吾妹乎   将来香不来香跡 吾待乃木曽 うめのはな さきてちりなば わぎもこを こむかこじかと あがまつのきぞ 10 1923 寄雲 10 1923 白檀弓   今春山尓    去雲之   逝哉将別    戀敷物乎 しらまゆみ いまはるやまに ゆくくもの ゆきかわかれむ こほしきものを 10 1924 贈蘰 10 1924 大夫之   伏居嘆而    造有    四垂柳之    蘰為吾妹 ますらをの ふしゐなげきて つくりたる しだりやなぎの かづらせわぎも 10 1925 悲別 10 1925 朝戸出乃  君之儀乎    曲不見而  長春日乎    戀八九良三 あさとでの きみがすがたを よくみずて ながきはるひを こひやくらさむ 10 1926 問答 10 1926 春山之   馬酔花之    不悪    公尓波思恵也  所因友好 はるやまの あしびのはなの にくからぬ きみにはしゑや よそるともよし 10 1927 石上    振乃神杉    神備西   吾八更〃    戀尓相尓家留 いそのかみ ふるのかむすぎ かむびにし あれやさらさら こひにあひにける ○ 10 1927 右一首不有春歌而猶以和故載於玆次 10 1928 狭野方波  實尓雖不成   花耳    開而所見社   戀之名草尓 さのかたは みにならずとも はなのみに さきてみえこそ こひのなぐさに 10 1929 狭野方波  實尓成西乎   今更    春雨零而    花将咲八方 さのかたは みになりにしを いまさらに はるさめふりて はなさかめやも 10 1930 梓弓    引津邊有    莫告藻之  花咲及二    不會君毳 あづさゆみ ひきつのへなる なのりその はなさくまでに あはぬきみかも 10 1931 川上之   伊都藻之花乃  何時〃〃   来座吾背子   時自異目八方 かはのべの いつものはなの いつもいつも きませわがせこ ときじけめやも ○ 10 1932 春雨之   不止零〃    吾戀    人之目尚矣   不令相見 はるさめは やまずふるふる あがこふる ひとのめすらを あひみせなくに 10 1933 吾妹子尓  戀乍居者    春雨之   彼毛知如    不止零乍 わぎもこに こひつつをれば はるさめは それもしるごと やまずふりつつ 10 1934 相不念    妹哉本名    菅根乃   長春日乎    念晩牟 あひおもはぬ いもをやもとな すがのねの ながきはるひを おもひくらさむ 10 1935 春去者 先鳴鳥乃 鸎之 事先立之 君乎之将待 はるされば まづなくとりの うぐひすの ことさきだちし きみをしまたむ 10 1936 相不念    将有兒故    玉緒    長春日乎    念晩久 あひおもはず あるらむこゆゑ たまのをの ながきはるひを おもひくらさく 10 1937 夏雜歌 10 1937 詠鳥 10 1937 大夫之   出立向     故郷之   神名備山尓   明来者   柘之左枝尓   暮去者   小松之若末尓  里人之   聞戀麻田    山彦乃   答響萬田    霍公鳥   都麻戀為良思  左夜中尓鳴 ますらをの いでたちむかふ ふるさとの かむなびやまに あけくれば つみのさえだに ゆふされば こまつがうれに さとびとの ききこふるまで やまびこの あひとよむまで ほととぎす つまごひすらし さよなかになく 10 1938 反歌 10 1938 客尓為而  妻戀為良思   霍公鳥   神名備山尓   左夜深而鳴 たびにして つまごひすらし ほととぎす かむなびやまに さよふけてなく 10 1938 右古歌集中出 10 1939 霍公鳥   汝始音者    於吾欲得  五月之珠尓   交而将貫 ほととぎす ながはつこゑは われにもが さつきのたまに まじへてぬかむ 10 1940 朝霞    棚引野邊    足桧木乃  山霍公鳥    何時来将鳴 あさかすみ たなびくのへに あしひきの やまほととぎす いつかきなかむ 10 1941 旦霧    八重山越而   喚孤鳥   吟八汝来    屋戸母不有九二 あさぎりの やへやまこえて よぶこどり なきやながくる やどもあらなくに 10 1942 霍公鳥   鳴音聞哉    宇能花乃  開落岳尓    田葛引嫺嬬 ほととぎす なくこゑきくや うのはなの さきちるをかに くずひくをとめ 10 1943 月夜吉   鳴霍公鳥    欲見    吾草取有    見人毛欲得 つくよよみ なくほととぎす みまくほり われくさとれり みむひともがも 10 1944 藤浪之   散巻惜     霍公鳥   今城岳叨    鳴而越奈利 ふぢなみの ちらまくをしみ ほととぎす いまきのをかを なきてこゆなり 10 1945 旦霧    八重山越而   霍公鳥   宇能花邊柄   鳴越来 あさぎりの やへやまこえて ほととぎす うのはなへから なきてこえきぬ 10 1946 木高者   曽木不殖    霍公鳥   来鳴令響而   戀令益 こだかくは かつてきうゑじ ほととぎす きなきとよめて こひまさらしむ 10 1947 難相    君尓逢有夜   霍公鳥   他時従者    今社鳴目 あひかたき きみにあへるよ ほととぎす あたしときゆは いまこそなかめ 10 1948 木晩之   暮闇有尓 一云 有者      霍公鳥   何處乎家登   鳴渡良武 このくれの ゆふやみなるに ゆふやみなれば ほととぎす いづくをいへと なきわたるらむ 10 1949 霍公鳥   今朝之旦明尓  鳴都流波  君将聞可    朝宿疑将寐 ほととぎす けさのあさけに なきつるは きみききけむか あさいかねけむ 10 1950 霍公鳥   花橘之     枝尓居而  鳴響者     花波散乍 ほととぎす はなたちばなの えだにゐて なきとよもせば はなはちりつつ 10 1951 慨哉    四去霍公鳥   今社者   音之干蟹    来喧響目 うれたきや しこほととぎす いまこそは こゑのかるがに きなきとよめめ 10 1952 今夜乃  於保束無荷   霍公鳥   喧奈流聲之   音乃遥左 こよひの おほつかなきに ほととぎす なくなるこゑの おとのはるけさ 10 1953 五月山   宇能花月夜   霍公鳥   雖聞不飽    又鳴鴨 さつきやま うのはなづくよ ほととぎす きけどもあかず またもなかぬかも 10 1954 霍公鳥   来居裳鳴香   吾屋前乃  花橘乃     地二落六見牟 ほととぎす きゐもなかぬか わがやどの はなたちばなの つちにおちむみむ 10 1955 霍公鳥   厭時無     菖蒲    蘰将為日    従此鳴度礼 ほととぎす いとふときなし あやめぐさ かづらにせむひ こゆなきわたれ 10 1956 山跡庭   啼而香将来   霍公鳥   汝鳴毎     無人所念 やまとには なきてかくらむ ほととぎす ながなくごとに なきひとおもほゆ 10 1957 宇能花乃  散巻惜     霍公鳥   野出山入      来鳴令動 うのはなの ちらまくをしみ ほととぎす のにいでやまにいり きなきとよもす 10 1958 橘之    林乎殖     霍公鳥   常尓冬及    住度金 たちばなの はやしをうゑむ ほととぎす つねにふゆまで すみわたるがね 10 1959 雨晴之   雲尓副而    霍公鳥   指春日而    従此鳴度 あまはれの くもにたぐひて ほととぎす かすがをさして こゆなきわたる 10 1960 物念登   不宿旦開尓   霍公鳥   鳴而左度    為便無左右二 ものもふと いねぬあさけに ほととぎす なきてさわたる すべなきまでに 10 1961 吾衣    於君令服与登  霍公鳥   吾乎領     袖尓来居管 あがころも きみにきせよと ほととぎす われをうながす そでにきゐつつ 10 1962 本人    霍公鳥乎八   希将見   今哉汝来    戀乍居者 もとつひと ほととぎすをや めづらしみ いまかながくる こひつつをれば 10 1963 如是許   雨之零尓    霍公鳥   宇乃花山尓   猶香将鳴 かくばかり あめのふらくに ほととぎす うのはなやまに なほかなくらむ 10 1964 詠蝉 10 1964 黙然毛将有  時母鳴奈武   日晩乃   物念時尓    鳴管本名 もだもあらむ ときもなかなむ ひぐらしの ものもふときに なきつつもとな 10 1965 詠榛 10 1965 思子之   衣将摺尓    〃保比与  嶋之榛原    秋不立友 おもふこが ころもすらむに にほひこそ しまのはりはら あきたたずとも 10 1966 詠花 10 1966 風散    花橘叨     袖受而    為君御跡    思鶴鴨 かぜにちる はなたちばなを そでにうけて きみがみあとと しのひつるかも 10 1967 香細寸   花橘乎     玉貫    将送妹者    三礼而毛有香 かぐはしき はなたちばなを たまにぬき おくらむいもは みつれてもあるか 10 1968 霍公鳥   来鳴響     橘之    花散庭乎    将見人八孰 ほととぎす きなきとよもす たちばなの はなちるにはを みむひとやたれ 10 1969 吾屋前之  花橘者     落尓家里  悔時尓     相在君鴨 わがやどの はなたちばなは ちりにけり くやしきときに あへるきみかも 10 1970 見渡者   向野邊乃    石竹之   落巻惜毛    雨莫零行年 みわたせば むかひののへの なでしこが ちらまくをしも あめなふりそね 10 1971 雨間開而   國見毛将為乎  故郷之   花橘者     散家武可聞 あままあけて くにみもせむを ふるさとの はなたちばなは ちりにけむかも 10 1972 野邊見者  瞿麦之花    咲家里   吾待秋者    近就良思母 のへみれば なでしこがはな さきにけり あがまつあきは ちかづくらしも 10 1973 吾妹子尓  相市乃花波   落不過   今咲有如    有与奴香聞 わぎもこに あふちのはなは ちりすぎず いまさけるごと ありこせぬかも 10 1974 春日野之  藤者散去而   何物鴨   御狩人之    折而将挿頭 かすがのの ふぢはちりにて なにをかも みかりのひとの をりてかざさむ 10 1975 不時    玉乎曽連有   宇能花乃  五月乎待者   可久有 ときならず たまをぞぬける うのはなの さつきをまたば ひさしくあるべみ 10 1976 問答 10 1976 宇能花乃  咲落岳従    霍公鳥   鳴而沙度    公者聞津八 うのはなの さきちるをかゆ ほととぎす なきてさわたる きみはききつや 10 1977 聞津八跡  君之問世流   霍公鳥   小竹野尓所沾而 従此鳴綿類 ききつやと きみがとはせる ほととぎす しののにぬれて こゆなきわたる 10 1978 譬喩歌 10 1978 橘     花落里尓    通名者   山霍公鳥    将令響鴨 たちばなの はなちるさとに かよひなば やまほととぎす とよもさむかも 10 1979 夏相聞 10 1979 寄鳥 10 1979 春之在者  酢軽成野之   霍公鳥   保等穂跡妹尓  不相来尓家里 はるされば すがるなすのの ほととぎす ほとほといもに あはずきにけり 10 1980 五月山   花橘尓     霍公鳥   隠合時尓    逢有公鴨 さつきやま はなたちばなに ほととぎす こもらふときに あへるきみかも 10 1981 霍公鳥   来鳴五月之   短夜毛   獨宿者     明不得毛 ほととぎす きなくさつきの みじかよも ひとりしぬれば あかしかねつも 10 1982 寄蝉 10 1982 日倉足者  時常雖鳴    我戀    手弱女我者   不定哭 ひぐらしは ときとなけども かたこひに たわやめあれは ときわかずなく 10 1983 寄草 10 1983 人言者   夏野乃草之   繁友    妹与吾師    携宿者 ひとごとは なつののくさの しげくとも いもとあれとし たづさはりねば 10 1984 廼者之   戀乃繁久    夏草乃   苅掃友     生布如 このころの こひのしげけく なつくさの かりそくれども おひしくごとし 10 1985 真田葛延  夏野之繁    如是戀者  信吾命      常有目八面 まくずはふ なつののしげく かくこひば まことわがいのち つねにあらめやも 10 1986 吾耳哉   如是戀為良武  垣津旗   丹頬合妹者   如何将有 あのみかも かくこひすらむ かきつはた につらふいもは いかにあるらむ 10 1987 寄花 10 1987 片搓尓   絲叨曽吾搓    吾背兒之  花橘乎     将貫跡母日手 かたよりに いとをぞあがよる わがせこが はなたちばなを ぬかむともひて 10 1988 鸎之    徃来垣根乃   宇能花之  厭事有哉    君之不来座 うぐひすの かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ 10 1989 宇能花之  開登波無二   有人尓   戀也将渡    獨念尓指天 うのはなの さくとはなしに あるひとに こひやわたらむ かたもひにして 10 1990 吾社葉   憎毛有目    吾屋前之  花橘乎     見尓波不来鳥屋 われこそは にくくもあらめ わがやどの はなたちばなを みにはこじとや 10 1991 霍公鳥   来鳴動     岡邊有   藤浪見者    君者不来登夜 ほととぎす きなきとよもす をかへなる ふぢなみみには きみはこじとや 10 1992 隠耳    戀者苦     瞿麦之   花尓開出与   朝旦将見 こもりのみ こふればくるし なでしこが はなにさきでよ あさなさなみむ 10 1993 外耳    見筒戀牟    紅乃    末採花之    色不出友 よそのみに みつつこひなむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいでずとも 10 1994 寄露 10 1994 夏草乃   露別衣     不著尓   我衣手乃    干時毛名寸 なつくさの つゆわけごろも つけなくに わがころもでの ふるときもなき 10 1995 寄日 10 1995 六月之   地副割而    照日尓毛  吾袖将乾哉   於君不相四手 みなつきの つちさへさけて てるひにも わがそでひめや きみにあはずして 10 1996 秋雜歌 10 1996 七夕 10 1996 天漢    水左閇而照   舟竟    舟人      妹等所見寸哉 あまのがは みづさへにてる ふねはてて ふねなるひとは いもとみえきや 10 1997 久方之   天漢原丹    奴延鳥之  裏歎座都    乏諸手丹 ひさかたの あまのかはらに ぬえとりの うらなげましつ すべなきまでに 10 1998 吾戀    嬬者知遠    徃船乃   過而應来哉   事毛告火 あがこひを つまはしれるを ゆくふねの すぎてくべしや こともつげなむ 10 1999 朱羅引   色妙子     數見者   人妻故     吾可戀奴 あからひく しきたへのこを しばみれば ひとづまゆゑに あれこひぬべし 10 2000 天漢    安渡丹     船浮而   秋立待等    妹告与具 あまのがは やすのわたりに ふねうけて あきたつまつと いもにつげこそ 10 2001 従蒼天   徃来吾等須良  汝故    天漢道     名積而叙来 おほそらゆ かよふわれすら ながゆゑに あまのかはぢを なづみてぞこし 10 2002 八千戈   神自御世    乏孋    人知尓来    告思者 やちほこの かみのみよより ともしづま ひとしりにけり つぎてしおもへば 10 2003 吾等戀   丹穂面     今夕母可  天漢原     石枕巻 あがこふる にのほのおもわ こよひもか あまのかはらに いはまくらまく 10 2004 己孋    乏子等者    竟津    荒礒巻而寐    君待難 おのがつま ともしきこらは はてむつの ありそまきてねむ きみまちがてに 10 2005 天地等   別之時従    自孋    然叙年而在    金待吾者 あめつちと わかれしときゆ おのがつま しかぞとしにある あきまつわれは 10 2006 孫星    嘆須孋     事谷毛   告尓叙来鶴   見者苦弥 ひこほしは なげかすつまに ことだにも つげにぞきつる みればくるしみ 10 2007 久方    天印等     水無川   隔而置之    神世之恨 ひさかたの あまつしるしと みなしがは へだてておきし かむよしうらめし 10 2008 黒玉    宵霧隠     遠鞆    妹傳      速告与 ぬばたまの よぎりごもりて とほけども いもがつたへは はやくつげこそ 10 2009 汝戀    妹命者     飽足尓   袖振所見都   及雲隠 ながこふる いものみことは あきだらに そでふるみえつ くもがくるまで 10 2010 夕星毛   徃来天道    及何時鹿  仰而将待    月人壮 ゆふつつも かよふあまぢを いつまでか あふぎてまたむ つくひとをとこ 10 2011 天漢    已向立而    戀等尓   事谷将告    孋言及者 あまのがは いむかひたちて こほしらに ことだにつげむ つまといふまでは 10 2012 水良玉   五百都集乎   解毛不見  吾者年可太奴  相日待尓 しらたまの いほつつどひを ときもみず われはねかてぬ あはむひまつに 10 2013 天漢    水陰草     金風    靡見者     時来之 あまのがは みづかげくさの あきかぜに なびかふみれば ときはきにけり 10 2014 吾等待之  白芽子開奴   今谷毛   尓寳比尓徃奈  越方人邇 あがまちし あきはぎさきぬ いまだにも にほひにゆかな をちかたひとに 10 2015 吾世子尓  裏戀居者    天漢    夜船滂動    梶音所聞 わがせこに うらごひをれば あまのがは よふねこぐなる かぢのおときこゆ 10 2016 真氣長   戀心自     白風    妹音所聴     紐解徃名 まけながく こふるこころゆ あきかぜに いもがおときこゆ ひもときゆかな 10 2017 戀敷者   氣長物乎    今谷    乏之牟可哉   可相夜谷 こひしくは けながきものを いまだにも ともしむべしや あふべきよだに 10 2018 天漢    去歳渡代    遷閇者   河瀬於踏    夜深去来 あまのがは こぞのわたりで うつろへば かはせをふむに よぞふけにける 10 2019 自古    擧而之服    不顧    天河津尓    年序経去来 いにしへゆ あげてしはたも かへりみず あまのかはづに としぞへにける 10 2020 天漢    夜船滂而    雖明    将相等念夜    袖易受将有 あまのがは よふねをこぎて あけぬとも あはむとおもふよ そでかへずあらむ 10 2021 遥■[女+嘆の右]等 手枕易     寐夜    鷄音莫動    明者雖明 とほづまと     たまくらかへて さぬるよは とりがねななき あけばあけぬとも 10 2022 相見久   猒雖不足    稲目    明去来理    舟出為牟孋 あひみらく あきだらねども いなのめの あけさりにけり ふなでせむつま 10 2023 左尼始而  何太毛不在者   白栲    帶可乞哉    戀毛不過者 さねそめて いくだもあらねば しろたへの おびこふべしや こひもすぎねば 10 2024 万世    携手居而    相見鞆   念可過     戀尓有莫國 よろづよに たづさはりゐて あひみとも おもひすぐべき こひにあらなくに 10 2025 万世    可照月毛    雲隠    苦物叙     将相登雖念 よろづよに てるべきつきも くもがくり くるしきものぞ あはむとおもへど 10 2026 白雲    五百遍隠    雖遠    夜不去将見   妹當者 しらくもの いほへにかくり とほくとも ゆふさらずみむ いもがあたりは 10 2027 為我登   織女之     其屋戸尓  織白布     織弖兼鴨 あがためと たなばたつめの そのやどに おるしろたへは おりてけむかも 10 2028 君不相    久時      織服    白栲衣     垢附麻弖尓 きみにあはず ひさしきときゆ おるはたの しろたへごろも あかつくまでに 10 2029 天漢    梶音聞      孫星    与織女     今夕相霜 あまのがは かぢのおときこゆ ひこほしと たなばたつめと こよひあふらしも 10 2030 秋去者   川霧      天川    河向居而    戀夜多 あきされば かはぞきらへる あまのがは かはにむきゐて こふるよぞおほき 10 2031 吉哉   雖不直     奴延鳥   浦嘆居     告子鴨 よしゑや ただならずとも ぬえとりの うらなげをりと つげむこもがも 10 2032 一年邇   七夕耳     相人之   戀毛不過者   夜深徃久毛 一云 不盡者     佐宵曽明尓来 ひととせに なぬかのよのみ あふひとの こひもすぎねば よはふけゆくも  こひもつきねば さよぞあけにける 10 2033 天漢    安川原    定而神競者磨待無 あまのがは やすのかはらに 10 2033 此歌一首庚辰年作之 右柿本朝臣人麻呂之歌集出 10 2034 棚機之   五百機立而   織布之   秋去衣     孰取見 たなばたの いほはたたてて おるぬのの あきさりごろも たれかとりみむ 10 2035 年有而    今香将巻    烏玉之   夜霧隠     遠妻手乎 としにありて いまかまくらむ ぬばたまの よぎりごもれる とほづまのてを 10 2036 吾待之   秋者来沼    妹与吾    何事在曽    紐不解在牟 あがまちし あきはきたりぬ いもとあれと なにごとあれぞ ひもとかずあらむ 10 2037 年之戀   今夜盡而    明日従者  如常哉     吾戀居牟 としのこひ こよひつくして あすよりは つねのごとくや あがこひをらむ 10 2038 不合者   氣長物乎    天漢    隔又哉     吾戀将居 あはなくは けながきものを あまのがは へだててまたや あがこひをらむ 10 2039 戀家口   氣長物乎    可合有    夕谷君之    不来益有良武 こひしけく けながきものを あふべくある よひだにきみが きまさずあるらむ 10 2040 牽牛    与織女     今夜相   天漢門尓    浪立勿謹 ひこほしと たなばたつめと こよひあふ あまのかはとに なみたつなゆめ 10 2041 秋風    吹漂蕩     白雲者   織女之     天津領巾毳 あきかぜの ふきただよはす しらくもは たなばたつめの あまつひれかも 10 2042 數裳    相不見君矣   天漢    舟出速為    夜不深間 しばしばも あひみぬきみを あまのがは ふなではやせよ よのふけぬとに 10 2043 秋風之   清夕      天漢    舟滂度     月人壮子 あきかぜの きよきゆふべに あまのがは ふねこぎわたる つくひとをとこ 10 2044 天漢    霧立度     牽牛之   檝音所聞     夜深徃 あまのがは きりたちわたり ひこほしの かぢのおときこゆ よのふけゆけば 10 2045 君舟    今滂来良之   天漢    霧立度     此川瀬 きみがふね いまこぎくらし あまのがは きりたちわたる このかはのせに 10 2046 秋風尓   河浪起     蹔     八十舟津    三舟停 あきかぜに かはなみたちぬ しましくは やそのふなつに みふねとどめよ 10 2047 天漢    河聲清之     牽牛之   秋滂船之    浪摻香 あまのがは かはのおときよし ひこほしの あきこぐふねの なみのさわきか 10 2048 天漢    河門立     吾戀之   君来奈里    紐解待 一云  天河    川向立 あまのがは かはとにたちて あがこひし きみきますなり ひもときまたむ あまのがは かはにむきたち 10 2049 天漢    河門座而    年月    戀来君     今夜會可母 あまのがは かはとにをりて としつきを こひこしきみに こよひあへるかも 10 2050 明日従者  吾玉床乎    打拂    公常不宿    孤可母寐 あすよりは わがたまどこを うちはらひ きみといねずて ひとりかもねむ 10 2051 天原    徃射跡     白檀    挽而隠在    月人壮子 あまのはら ゆきてをいむと しらまゆみ ひきてかくれる つくひとをとこ 10 2052 此夕    零来雨者    男星之   早滂船之    賀伊乃散鴨 このゆふべ ふりくるあめは ひこほしの はやこぐふねの かいのちりかも 10 2053 天漢    八十瀬霧合   男星之   時待船     今滂良之 あまのがは やそせきらへり ひこほしの ときまつふねは いましこぐらし 10 2054 風吹而   河浪起     引船丹   度裳来     夜不降間尓 かぜふきて かはなみたちぬ ひきふねに わたりもきませ よのふけぬとに 10 2055 天河    遠渡者     無友    公之舟出者   年尓社候 あまのがは とほきわたりは なけれども きみがふなでは としにこそまて 10 2056 天漢    打橋度     妹之家道   不止通     時不待友 あまのがは うちはしわたせ いもがいへぢ やまずかよはむ ときまたずとも 10 2057 月累    吾思妹     會夜者   今之七夕    續巨勢奴鴨 つきかさね あがもふいもに あへるよは いましななよを つぎこせぬかも 10 2058 年丹装    吾舟滂     天河    風者吹友    浪立勿忌 としによそふ わがふねこがむ あまのがは かぜはふくとも なみたつなゆめ 10 2059 天河    浪者立友 吾舟者 率滂出 夜之不深間尓 あまのがは なみはたつとも わがふねは いざこぎださむ よのふけぬとに 10 2060 直今夜   相有兒等尓   事問母   未為而     左夜曽明二来 ただこよひ あひたるこらに ことどひも いまだせずして さよぞあけにける 10 2061 天河    白浪高     吾戀    公之舟出者   今為下 あまのがは しらなみたかし あがこふる きみがふなでは いましすらしも 10 2062 機     蹋木持徃而    天漢    打橋度     公之来為 はたものの まねきもちゆきて あまのがは うちはしわたす きみがこむため 10 2063 天漢    霧立上     棚幡乃   雲衣能     飄袖鴨 あまのがは きりたちのぼる たなばたの くものころもの かへるそでかも 10 2064 古     織義之八多乎  此暮    衣縫而     君待吾乎 いにしへに おりてしはたを このゆふべ ころもにぬひて きみまつわれを 10 2065 足玉母   手珠毛由良尓  織旗乎   公之御衣尓   縫将堪可聞 あしだまも ただまもゆらに おるはたを きみがみけしに ぬひもあへむかも 10 2066 擇月日   逢義之有者   別乃   惜有君者    明日副裳欲得 つきひえり あひてしあれば わかれの をしかるきみは あすさへもがも 10 2067 天漢    渡瀬深弥    泛船而   掉来君之    檝音所聞 あまのがは わたりぜふかみ ふねうけて こぎくるきみが かぢのおときこゆ 10 2068 天原    振放見者    天漢    霧立渡     公者来良志 あまのはら ふりさけみれば あまのがは きりたちわたる きみしきぬらし 10 2069 天漢    瀬毎幣     奉     情者君乎    幸来座跡 あまのがは せごとにぬさを たてまつる こころはきみを さきくきませと 10 2070 久堅之   天河津尓    舟泛而   君待夜等者   不明毛有寐鹿 ひさかたの あまのかはづに ふねうけて きみまつよらは あけずもあらぬか 10 2071 天河    足沾渡     君之手毛  未枕者     夜之深去良久 あまのがは なづさひわたり きみがても いまだまかねば よのふけぬらく 10 2072 渡守    船度世乎跡   呼音之   不至者疑    梶聲之不為 わたりもり ふねわたせをと よぶこゑの いたらねばかも かぢのおとのせぬ 10 2073 真氣長   河向立     有之袖   今夜巻跡    念之吉沙 まけながく かはにむきたち ありしそで こよひまかむと おもへるがよさ 10 2074 天河    渡湍毎     思乍    来之雲知師   逢有久念者 あまのがは わたりぜごとに おもひつつ こしくもしるし あへらくもへば 10 2075 人左倍也  見不継将有    牽牛之   嬬喚舟之    近附徃乎 一云 見乍有良武 ひとさへや みつがずあるらむ ひこほしの つまよぶふねの ちかづきゆくを みつつあるらむ 10 2076 天漢    瀬乎早鴨    烏珠之   夜者闌尓乍   不合牽牛 あまのがは せをはやみかも ぬばたまの よはふけにつつ あはぬひこほし 10 2077 渡守    舟早渡世    一年尓   二遍徃来    君尓有勿久尓 わたりもり ふねはやわたせ ひととせに ふたたびかよふ きみにあらなくに 10 2078 玉葛    不絶物可良   佐宿者   年之度尓    直一夜耳 たまかづら たえぬものから さぬらくは としのわたりに ただひとよのみ 10 2079 戀日者   食長物乎    今夜谷   令乏應哉    可相物乎 こふるひは けながきものを こよひだに ともしむべしや あふべきものを 10 2080 織女之   今夜相奈婆   如常    明日乎阻而   年者将長 たなばたの こよひあひなば つねのごと あすをへだてて としはながけむ 10 2081 天漢    棚橋渡     織女之   伊渡左牟尓   棚橋渡 あまのがは たなはしわたせ たなばたの いわたらさむに たなはしわたせ 10 2082 天漢    河門八十有   何尓可   君之三船乎   吾待将居 あまのがは かはとやそあり いづくにか きみがみふねを あがまちをらむ 10 2083 秋風乃   吹西日従    天漢    瀬尓出立    待登告許曽 あきかぜの ふきにしひより あまのがは せにいでたちて まつとつげこそ 10 2084 天漢    去年之渡湍   有二家里  君之将来    道乃不知久 あまのがは こぞのわたりぜ あれにけり きみがきまさむ みちのしらなく 10 2085 天漢    湍瀬尓白浪   雖高    直渡来沼    待者苦三 あまのがは せぜにしらなみ たかけども ただわたりきぬ またばくるしみ 10 2086 牽牛之   嬬喚舟之    引綱乃   将絶跡君乎   吾之念勿國 ひこほしの つまよぶふねの ひきつなの たえむときみを わがおもはなくに 10 2087 渡守    舟出為将出   今夜耳   相見而後者   不相物可毛 わたりもり ふなでしいでむ こよひのみ あひみてのちは あはじものかも 10 2088 吾隠有    檝棹無而    渡守    舟将借八方   須臾者有待 わがかくせる かぢさをなくて わたりもり ふねかさめやも しましはありまて 10 2089 乾坤之   初時従     天漢    射向居而    一年丹   兩遍不遭    妻戀尓   物念人     天漢    安乃川原乃   有通    出乃渡丹    具穂船乃  艫丹裳舳丹裳  船装    真梶繁拔    旗芒    本葉裳具世丹  秋風乃   吹来夕丹    天河    白浪淩     落沸    速湍渉     稚草乃   妻手枕迹    大舟乃   思憑而     滂来等六  其夫乃子我   荒珠乃   年緒長     思来之   戀将盡     七月    七日之夕者   吾毛悲焉 あめつちの はじめのときゆ あまのがは いむかひをりて ひととせに ふたたびあはぬ つまごひに ものもへるひと あまのがは やすのかはらの ありがよふ いでのわたりに そほぶねの ともにもへにも ふなよそひ まかぢしじぬき はたすすき もとはもそよに あきかぜの ふきくるよひに あまのがは しらなみしのぎ おちたぎつ はやせわたりて わかくさの つまのてまくと おほぶねの おもひたのみて こぎくらむ そのつまのこが あらたまの としのをながく おもひこし こひをつくさむ ふみつきの なぬかのよひは あれもかなしも 10 2090 反歌 10 2090 狛錦    紐解易之    天人乃   妻問夕叙    吾裳将偲 こまにしき ひもときかはし あめひとの つまとふよひぞ われもしのはむ 10 2091 彦星之   河瀬渡     左小舟乃  得行而将泊   河津石所念 ひこほしの かはせをわたる さをぶねの えゆきてはてむ かはづしおもほゆ 10 2092 天地跡   別之時従    久方乃   天驗常     定大王   天之河原尓   璞     月累而     妹尓相   時候跡     立待尓   吾衣手尓    秋風之   吹反者     立座    多土伎乎不知  村肝    心不知欲比   解衣    思乱而     何時跡   吾待今夜    此川    行長      有得鴨 あめつちと わかれしときゆ ひさかたの あまつしるしと さだめてし あまのかはらに あらたまの つきかさなりて いもにあふ ときさもらふと たちまつに わがころもでに あきかぜの ふきかへらへば たちてゐて たどきをしらに むらきもの こころいさよひ とききぬの おもひみだれて いつしかと あがまつこよひ このかはの ながれのながく ありこせぬかも 10 2093 反歌 10 2093 妹尓相   時片待跡    久方乃   天之漢原尓   月叙経来 いもにあふ ときかたまつと ひさかたの あまのかはらに つきぞへにける 10 2094 詠花 10 2094 竿志鹿之  心相念      秋芽子之  鍾礼零丹    落僧惜毛 さをしかの こころあひおもふ あきはぎの しぐれのふるに ちらくしをしも 10 2095 夕去    野邊秋芽子   末若    露枯      金待難 ゆふされば のへのあきはぎ うらわかみ つゆにぞかるる あきまちがてに 10 2095 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 10 2096 真葛原   名引秋風    毎吹    阿太乃大野之  芽子花散 まくずはら なびくあきかぜ ふくごとに あだのおほのの はぎのはなちる 10 2097 鴈鳴之   来喧牟日及   見乍将有   此芽子原尓   雨勿零根 かりがねの きなかむひまで みつつあらむ このはぎはらに あめなふりそね 10 2098 奥山尓   住云男鹿之   初夜不去  妻問芽子乃   散久惜裳 おくやまに すむとふしかの ゆふさらず つまとふはぎの ちらまくをしも 10 2099 白露乃   置巻惜     秋芽子乎  折耳折而    置哉枯 しらつゆの おかまくをしみ あきはぎを をりのみをりて おきやからさむ 10 2100 秋田苅   借廬之宿    丹穂経及  咲有秋芽子   雖見不飽香聞 あきたかる かりほのやどの にほふまで さけるあきはぎ みれどあかぬかも 10 2101 吾衣    揩有者不在    高松之   野邊行之者   芽子之揩類曽 あがころも すれるにはあらず たかまつの のへゆきしかば はぎのすれるぞ 10 2102 此暮    秋風吹奴    白露尓   荒争芽子之   明日将咲見 このゆふべ あきかぜふきぬ しらつゆに あらそふはぎの あすさかむみむ 10 2103 秋風    冷成奴     馬並而   去来於野行奈  芽子花見尓 あきかぜは すずしくなりぬ うまなめて いざのにゆかな はぎのはなみに 10 2104 朝杲    朝露負     咲雖云    暮陰社     咲益家礼 あさがほは あさつゆおひて さくといへど ゆふかげにこそ さきまさりけれ 10 2105 春去者   霞隠      不所見有師 秋芽子咲    折而将挿頭 はるされば かすみがくりて みえざりし あきはぎさきぬ をりてかざさむ 10 2106 沙額田乃  野邊乃秋芽子  時有者   今盛有     折而将挿頭 さぬかたの のへのあきはぎ ときなれば いまさかりなり をりてかざさむ 10 2107 事更尓   衣者不揩    佳人部為  咲野之芽子尓  丹穂日而将居 ことさらに ころもはすらじ をみなへし さきののはぎに にほひてをらむ 10 2108 秋風者   急〃吹来    芽子花   落巻惜三    競立見 あきかぜは とくとくふきこ はぎのはな ちらまくをしみ きほひたたむみむ 10 2109 我屋前之  芽子之若末長   秋風之   吹南時尓    将開跡思手 わがやどの はぎのうれながし あきかぜの ふきなむときに さかむともひて 10 2110 人皆者   芽子乎秋云    縦吾等者  乎花之末乎   秋跡者将言 ひとみなは はぎをあきといふ よしわれは をばながうれを あきとはいはむ 10 2111 玉梓    公之使乃    手折来有  此秋芽子者   雖見不飽鹿裳 たまづさの きみがつかひの たをりける このあきはぎは みれどあかぬかも 10 2112 吾屋前尓  開有秋芽子   常有者    我待人尓   令見猿物乎 わがやどに さけるあきはぎ つねにあらば あがまつひとに みせましものを 10 2113 手寸十名相 殖之久知久   出見者   屋前之早芽子  咲尓家類香聞       うゑしくしるく いでみれば やどのはつはぎ さきにけるかも 10 2114 吾屋外尓  殖生有     秋芽子乎  誰標刺     吾尓不所知 わがやどに うゑおほしたる あきはぎを たらかしめさす われにしらえず 10 2115 手取者   袖并丹覆    美人部師  此白露尓    散巻惜 てにとれば そでさへにほふ をみなへし このしらつゆに ちらまくをしも 10 2116 白露尓   荒争金手    咲芽子   散惜兼     雨莫零根 しらつゆに あらそひかねて さけるはぎ ちらばをしけむ あめなふりそね 10 2117 嫺嬬等尓  行相乃速稲乎   苅時    成来下     芽子花咲 をとめらに ゆきあひのわせを かるときに なりにけらしも はぎのはなさく 10 2118 朝霧之   棚引小野之   芽子花   今哉散濫    未猒尓 あさぎりの たなびくをのの はぎのはな いまかちるらむ いまだあかなくに 10 2119 戀之久者  形見尓為与登  吾背子我  殖之秋芽子   花咲尓家里 こひしくは かたみにせよと わがせこが うゑしあきはぎ はなさきにけり 10 2120 秋芽子   戀不盡跡    雖念    思恵也安多良思 又将相八方 あきはぎに こひつくさじと おもへども しゑやあたらし またもあはめやも 10 2121 秋風者   日異吹奴    高圓之   野邊之秋芽子  散巻惜裳 あきかぜは ひにけにふきぬ たかまとの のへのあきはぎ ちらまくをしも 10 2122 大夫之  心者無而  秋芽子之  戀耳八方  奈積而有南 ますらをの こころはなしに あきはぎの こひのみにやも なづみてありなむ 10 2123 吾待之  秋者来奴  雖然  芽子之花曽毛  未開家類 あがまちし あきはきたりぬ しかれども はぎのはなぞも いまださかずける 10 2124 欲見  吾待戀之  秋芽子者  枝毛思美三荷  花開二家里 みまくほり あがまちこひし あきはぎは えだもしみみに はなさきにけり 10 2125 春日野之  芽子落者  朝東  風尓副而  此間尓落来根 かすがのの はぎしちりなば あさこちの かぜにたぐひて ここにちりこね 10 2126 秋芽子者  於鴈不相常   言有者香 一云 言有可聞  音乎聞而者   花尓散去流 あきはぎは かりにあはじと いへればか   いへれかも こゑをききては はなにちりぬる 10 2127 秋去者   妹令視跡    殖之芽子  露霜負而    散来毳 あきさらば いもにみせむと うゑしはぎ つゆしもおひて ちりにけるかも 10 2128 詠鴈 10 2128 秋風尓   山跡部越    鴈鳴者   射矢遠放    雲隠筒 あきかぜに やまとへこゆる かりがねは いやとほざかる くもがくりつつ 10 2129 明闇之   朝霧隠     鳴而去   鴈者言戀    於妹告社 あけぐれの あさぎりごもり なきてゆく かりはあがこひ いもにつげこそ 10 2130 吾屋戸尓  鳴之鴈哭    雲上尓    今夜喧成    國方可聞遊群 わがやどに なきしかりがね くものうへに こよひなくなり くにへかもゆく 10 2131 左小壮鹿之 妻問時尓    月乎吉三  切木四之泣所聞 今時来等霜 さをしかの つまとふときに つきをよみ かりがねきこゆ いましくらしも 10 2132 天雲之   外鴈鳴     従聞之   薄垂霜零    寒此夜者 一云 弥益〃尓    戀許曽増焉 あまくもの よそにかりがね ききしより はだれしもふり さむしこのよは いやますますに こひこそまされ 10 2133 秋田    吾苅婆可能   過去者   鴈之喧所聞   冬方設而 あきのたの わがかりばかの すぎぬれば かりがねきこゆ ふゆかたまけて 10 2134 葦邊在   荻之葉左夜藝  秋風之   吹来苗丹    鴈鳴渡 一云  秋風尓   鴈音所聞    今四来霜 あしへなる をぎのはさやぎ あきかぜの ふきくるなへに かりなきわたる あきかぜに かりがねきこゆ いましくらしも 10 2135 押照   難波穿江之   葦邊者   鴈宿有疑    霜乃零尓 おしてる なにはほりえの あしへには かりねたるかも しものふらくに 10 2136 秋風尓   山飛越     鴈鳴之   聲遠離     雲隠良思 あきかぜに やまとびこゆる かりがねの こゑとほざかる くもがくるらし 10 2137 朝尓徃   鴈之鳴音者   如吾    物念可毛    聲之悲 あさにゆく かりのなくねは あがごとく ものもへれかも こゑのかなしき 10 2138 多頭我鳴乃 今朝鳴奈倍尓  鴈鳴者   何處指香    雲隠良武 たづがねの けさなくなへに かりがねは いづちさしてか くもがくるらむ 10 2139 野干玉之  夜渡鴈者    欝     幾夜乎歴而鹿  己名乎告 ぬばたまの よわたるかりは おほほしく いくよをへてか おのがなをのる 10 2140 璞     年之経徃者   阿跡念登  夜渡吾乎    問人哉誰 あらたまの としのへぬれば あどもふと よわたるわれを とふひとやたれ 10 2141 詠鹿鳴 10 2141 比日之   秋朝開尓    霧隠    妻呼雄鹿之   音之亮左 このころの あきのあさけに きりごもり つまよぶしかの こゑのさやけさ 10 2142 左男壮鹿之 妻整登     鳴音之   将至極     靡芽子原 さをしかの つまととのふと なくこゑの いたらむきはみ なびけはぎはら 10 2143 於君戀   裏觸居者    敷野之   秋芽子淩    左小壮鹿鳴裳 きみにこひ うらぶれをれば しきののの あきはぎしのぎ さをしかなくも 10 2144 鴈来    芽子者散跡   左小壮鹿之 鳴成音毛    裏觸丹来 かりはきぬ はぎはちりぬと さをしかの なくなるこゑも うらぶれにけり 10 2145 秋芽子之  戀裳不盡者   左壮鹿之  聲伊續伊継    戀許増益焉 あきはぎの こひもつきねば さをしかの こゑいつぎいつぎ こひこそまされ 10 2146 山近    家哉可居    左小壮鹿乃 音乎聞乍    宿不勝鴨 やまちかく いへやをるべき さをしかの こゑをききつつ いねかてぬかも 10 2147 山邊尓   射去薩雄者   雖大有    山尓文野尓文  紗少壮鹿鳴母 やまのべに いゆくさつをは おほくあれど やまにものにも さをしかなくも 10 2148 足日木笶  山従来世波   左小壮鹿之 妻呼音     聞益物乎 あしひきの やまよりきせば さをしかの つまよぶこゑを きかましものを 10 2149 山邊庭   薩雄乃祢良比  恐跡    小壮鹿鳴成   妻之眼乎欲焉 やまへには さつをのねらひ かしこけど をしかなくなり つまのめをほり 10 2150 秋芽子之  散去見     欝三    妻戀為良思   棹壮鹿鳴母 あきはぎの ちりゆくみれば おほほしみ つまごひすらし さをしかなくも 10 2151 山遠    京尓之有者    狭小壮鹿之 妻呼音者    乏毛有香 やまとほき みやこにしあれば さをしかの つまよぶこゑは ともしくもあるか 10 2152 秋芽子之  散過去者    左小壮鹿者 和備鳴将為名  不見者乏焉 あきはぎの ちりすぎゆかば さをしかは わびなきせむな みずはともしみ 10 2153 秋芽子之  咲有野邊者   左少壮鹿曽 露乎別乍    嬬問四家類 あきはぎの さきたるのへは さをしかぞ つゆをわけつつ つまどひしける 10 2154 奈何壮鹿之 和備鳴為成   盖毛    秋野之芽子也  繁将落 なぞしかの わびなきすなる けだしくも あきののはぎや しげくちるらむ 10 2155 秋芽子之  開有野邊    左壮鹿者  落巻惜見    鳴去物乎 あきはぎの さきたるのへに さをしかは ちらまくをしみ なきゆくものを 10 2156 足日木乃  山之跡陰尓   鳴鹿之   聲聞為八方   山田守酢兒 あしひきの やまのとかげに なくしかの こゑきかすやも やまだもらすこ 10 2157 詠蝉 10 2157 暮影    来鳴日晩之   幾許    毎日聞跡    不足音可聞 ゆふかげに きなくひぐらし ここだくも ひごとにきけど あかぬこゑかも 10 2158 詠蟋 10 2158 秋風之   寒吹奈倍    吾屋前之  淺茅之本尓   蟋蟀鳴毛 あきかぜの さむくふくなへ わがやどの あさぢがもとに こほろぎなくも 10 2159 影草乃   生有屋外之   暮陰尓   鳴蟋蟀者    雖聞不足可聞 かげくさの おひたるやどの ゆふかげに なくこほろぎは きけどあかぬかも 10 2160 庭草尓   村雨落而    蟋蟀之   鳴音聞者    秋付尓家里 にはくさに むらさめふりて こほろぎの なくこゑきけば あきづきにけり 10 2161 詠蝦 10 2161 三吉野乃  石本不避    鳴川津   諾文鳴来    河乎浄 みよしのの いはもとさらず なくかはづ うべもなきけり かはをさやけみ 10 2162 神名火之  山下動     去水丹   川津鳴成    秋登将云鳥屋 かむなびの やましたとよみ ゆくみづに かはづなくなり あきといはむとや 10 2163 草枕    客尓物念    吾聞者   夕片設而    鳴川津可聞 くさまくら たびにものもひ わがきけば ゆふかたまけて なくかはづかも 10 2164 瀬呼速見  落當知足    白浪尓   河津鳴奈里   朝夕毎 せをはやみ おちたぎちたる しらなみに かはづなくなり あさよひごとに 10 2165 上瀬尓   河津妻呼    暮去者   衣手寒三    妻将枕跡香 かみつせに かはづつまよぶ ゆふされば ころもでさむみ つままかむとか ○ 10 2166 詠鳥 10 2166 妹手呼   取石池之    浪間従   鳥音異鳴     秋過良之 いもがてを とろしのいけの なみのまゆ とりがねけになく あきすぎぬらし 10 2167 秋野之   草花我末    鳴百舌鳥  音聞濫香    片聞吾妹 あきののの をばながうれに なくもずの こゑきくらむか かたきけわぎも 10 2168 詠露 10 2168 冷芽子丹  置白露     朝〃    珠年曽見流   置白露 あきはぎに おけるしらつゆ あさなさな たまとしぞみる おけるしらつゆ 10 2169 暮立之   雨落毎 一云  打零者     春日野之  尾花之上乃   白露所念 ゆふだちの あめふるごとに あめうちふれば かすがのの をばながうへの しらつゆおもほゆ 10 2170 秋芽子之  枝毛十尾丹   露霜置    寒毛時者    成尓家類可聞 あきはぎの えだもとををに つゆしもおき さむくもときは なりにけるかも 10 2171 白露    与秋芽子者   戀乱    別事難     吾情可聞 しらつゆと あきのはぎとは こひみだれ わくことかたき あがこころかも 10 2172 吾屋戸之  麻花押靡    置露尓   手觸吾妹兒   落巻毛将見 わがやどの をばなおしなべ おくつゆに てふれわぎもこ ちらまくもみむ 10 2173 白露乎   取者可消    去来子等  露尓争而    芽子之遊将為 しらつゆを とらばけぬべし いざこども つゆにきほひて はぎのあそびせむ 10 2174 秋田苅   借廬乎作    吾居者   衣手寒     露置尓家留 あきたかる かりほをつくり わがをれば ころもでさむく つゆぞおきにける 10 2175 日来之   秋風寒     芽子之花  令散白露    置尓来下 このころの あきかぜさむし はぎのはな ちらすしらつゆ おきにけらしも 10 2176 秋田苅   ■[卄店]手搖奈利 白露志   置穂田無跡   告尓来良思 一云 告尓来良思 あきたかる とまでうごくなり しらつゆし おくほだなしと つげにきぬらし  つげにくらしも 10 2177 詠山 10 2177 春者毛要  夏者緑丹    紅之    綵色尓所見   秋山可聞 はるはもえ なつはみどりに くれなゐの まだらにみゆる あきのやまかも 10 2178 詠黄葉 10 2178 妻隠    矢野神山    露霜尓   〃寳比始    散巻惜 つまごもる やののかむやま つゆしもに にほひそめたり ちらまくをしも 10 2179 朝露尓   染始      秋山尓   鍾礼莫零    在渡金 あさつゆに にほひそめたる あきやまに しぐれなふりそ ありわたるがね 10 2179 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 10 2180 九月乃   鍾礼乃雨丹   沾通    春日之山者   色付丹来 ながつきの しぐれのあめに ぬれとほり かすがのやまは いろづきにけり 10 2181 鴈鳴之   寒朝開之    露有之   春日山乎    令黄物者 かりがねの さむきあさけの つゆならし かすがのやまを もみたすものは 10 2182 比日之   暁露丹     吾屋前之  芽子乃下葉者  色付尓家里 このころの あかときつゆに わがやどの はぎのしたばは いろづきにけり 10 2183 鴈音者   今者来鳴沼   吾待之   黄葉早継    待者辛苦母 かりがねは いまはきなきぬ あがまちし もみちはやつげ またばくるしも 10 2184 秋山乎   謹人懸勿    忘西    其黄葉乃    所思君 あきやまを ゆめひとかくな わすれにし そのもみちばの おもほゆらくに 10 2185 大坂乎   吾越来者    二上尓   黄葉流     志具礼零乍 おほさかを わがこえくれば ふたがみに もみちばながる しぐれふりつつ 10 2186 秋去者   置白露尓    吾門乃   淺茅何浦葉   色付尓家里 あきされば おくしらつゆに わがかどの あさぢがうらば いろづきにけり 10 2187 妹之袖   巻来乃山之   朝露尓   仁寳布黄葉之  散巻惜裳 いもがそで まききのやまの あさつゆに にほふもみちの ちらまくをしも 10 2188 黄葉之   丹穂日者繁   然鞆    妻梨木乎    手折可佐寒 もみちばの にほひはしげし しかれども つまなしのきを たをりかざさむ 10 2189 露霜乃   寒夕之     秋風丹   黄葉尓来之   妻梨之木者 つゆしもの さむきゆふべの あきかぜに もみちにけらし つまなしのきは 10 2190 吾門之   淺茅色就    吉魚張能  浪柴乃野之   黄葉散良新 わがかどの あさぢいろづく よなばりの なみしばののの もみちちるらし 10 2191 鴈之鳴乎  聞鶴奈倍尓   高松之   野上乃草曽    色付尓家留 かりがねを ききつるなへに たかまつの ののうへのくさぞ いろづきにける 10 2192 吾背兒我  白細衣     徃觸者   應染毛     黄變山可聞 わがせこが しろたへごろも ゆきふらば にほひぬべくも もみつやまかも 10 2193 秋風之   日異吹者    水莖能   岡之木葉毛   色付尓家里 あきかぜの ひにけにふけば みづくきの をかのこのはも いろづきにけり 10 2194 鴈鳴乃   来鳴之共    韓衣    裁田之山者   黄始有 かりがねの きなきしなへに からころも たつたのやまは もみちそめたり 10 2195 鴈之鳴   聲聞苗荷    明日従者  借香能山者   黄始南 かりがねの こゑきくなへに あすよりは かすがのやまは もみちそめなむ 10 2196 四具礼能雨  無間之零者   真木葉毛  争不勝而    色付尓家里 しぐれのあめ まなくしふれば まきのはも あらそひかねて いろづきにけり 10 2197 灼然    四具礼乃雨者  零勿國   大城山者    色付尓家里 いちしろく しぐれのあめは ふらなくに おほきのやまは いろづきにけり 10 2197 謂大城山者在筑前國御笠郡之大野山頂号曰大城者也 10 2198 風吹者   黄葉散乍    小雲    吾松原     清在莫國 かぜふけば もみちちりつつ すくなくも あがのまつばら きよくあらなくに 10 2199 物念    隠座而     今日見者  春日山者    色就尓家里 ものもふと こもらひをりて けふみれば かすがのやまは いろづきにけり 10 2200 九月    白露負而    足日木乃  山之将黄變   見幕下吉 ながつきの しらつゆおひて あしひきの やまのもみたむ みまくしもよし 10 2201 妹許跡   馬桉置而     射駒山   撃越来者    紅葉散筒 いもがりと うまにくらおきて いこまやま うちこえくれば もみちちりつつ 10 2202 黄葉為   時尓成良之   月人    楓枝乃     色付見者 もみちする ときになるらし つくひとの かつらのえだの いろづくみれば 10 2203 里異    霜者置良之   高松    野山司之    色付見者 さともけに しもはおくらし たかまつの のやまづかさの いろづくみれば 10 2204 秋風之   日異吹者    露重     芽子之下葉者  色付来 あきかぜの ひにけにふけば つゆをおもみ はぎのしたばは いろづきにけり 10 2205 秋芽子乃  下葉赤     荒玉乃   月之歴去者   風疾鴨 あきはぎの したばもみちぬ あらたまの つきのへぬれば かぜいたみかも 10 2206 真十鏡   見名淵山者   今日鴨   白露置而    黄葉将散 まそかがみ みなふちやまは けふもかも しらつゆおきて もみちちるらむ 10 2207 吾屋戸之  淺茅色付    吉魚張之  夏身之上尓   四具礼零疑 わがやどの あさぢいろづく よなばりの なつみのうへに しぐれふるらし 10 2208 鴈鳴之   寒鳴従     水莖之   岡乃葛葉者   色付尓来 かりがねの さむくなきしゆ みづくきの をかのくずはは いろづきにけり 10 2209 秋芽子之  下葉乃黄葉   於花継   時過去者    後将戀鴨 あきはぎの したばのもみち はなにつぐ ときすぎゆかば のちこひむかも 10 2210 明日香河  黄葉流     葛木    山之木葉者   今之落疑 あすかがは もみちばながる かづらきの やまのこのはは いましちるらし 10 2211 妹之紐   解登結而    立田山   今許曽黄葉   始而有家礼 いもがひも とくとむすびて たつたやま いまこそもみち そめてありけれ 10 2212 鴈鳴之   寒喧之従    春日有   三笠山者    色付丹家里 かりがねの さむくなきしゆ かすがなる みかさのやまは いろづきにけり 10 2213 比者之   五更露尓    吾屋戸乃  秋之芽子原   色付尓家里 このころの あかときつゆに わがやどの あきのはぎはら いろづきにけり 10 2214 夕去者   鴈之越徃    龍田山   四具礼尓競   色付尓家里 ゆふされば かりのこえゆく たつたやま しぐれにきほひ いろづきにけり 10 2215 左夜深而  四具礼勿零   秋芽子之  本葉之黄葉   落巻惜裳 さよふけて しぐれなふりそ あきはぎの もとばのもみち ちらまくをしも 10 2216 古郷之   始黄葉乎    手折以   今日曽吾来   不見人之為 ふるさとの はつもみちばを たをりもち けふぞわがこし みぬひとのため 10 2217 君之家乃   黄葉早者    落     四具礼乃雨尓  所沾良之母 きみがいへの もみちははやく ちりにけり しぐれのあめに ぬれにけらしも 10 2218 一年    二遍不行    秋山乎   情尓不飽    過之鶴鴨 ひととせに ふたたびゆかぬ あきやまを こころにあかず すぐしつるかも 10 2219 詠水田 10 2219 足曳之   山田佃子    不秀友   縄谷延与    守登知金 あしひきの やまだつくるこ ひでずとも しめだにはへよ もるとしるがね 10 2220 左小壮鹿之 妻喚山之    岳邊在   早田者不苅   霜者雖零 さをしかの つまよぶやまの をかへなる わさだはからじ しもはふるとも 10 2221 我門尓   禁田乎見者   沙穂内之   秋芽子為酢寸  所念鴨 わがかどに もるたをみれば さほのうちの あきはぎすすき おもほゆるかも 10 2222 詠河 10 2222 暮不去   河蝦鳴成    三和河之  清瀬音乎     聞師吉毛 ゆふさらず かはづなくなる みわがはの きよきせのおとを きかくしよしも 10 2223 詠月 10 2223 天海     月船浮     桂梶    懸而滂所見   月人壮子 あめのうみに つきのふねうけ かつらかぢ かけてこぐみゆ つくひとをとこ 10 2224 此夜等者  沙夜深去良之  鴈鳴乃   所聞空従    月立度 このよらは さよふけぬらし かりがねの きこゆるそらゆ つきたちわたる 10 2225 吾背子之  挿頭之芽子尓  置露乎   清見世跡    月者照良思 わがせこが かざしのはぎに おくつゆを さやかにみよと つきはてるらし 10 2226 無心    秋月夜之    物念跡   寐不所宿    照乍本名 こころなき あきのつくよの ものもふと いのねらえぬに てりつつもとな 10 2227 不念尓   四具礼乃雨者  零有跡   天雲霽而    月夜清焉 おもはぬに しぐれのあめは ふりたれど あまくもはれて つくよさやけし 10 2228 芽子之花  開乃乎再入緒  見代跡可聞 月夜之清    戀益良國 はぎのはな さきのををりを みよとかも つくよのきよき こひまさらくに 10 2229 白露乎   玉作有     九月    在明之月夜    雖見不飽可聞 しらつゆを たまになしたる ながつきの ありあけのつくよ みれどあかぬかも 10 2230 詠風 10 2230 戀乍裳   稲葉掻別    家居者   乏不有      秋之暮風 こひつつも いなばかきわけ いへをれば ともしくもあらず あきのゆふかぜ 10 2231 芽子花   咲有野邊    日晩之乃  鳴奈流共    秋風吹 はぎのはな さきたるのへに ひぐらしの なくなるなへに あきのかぜふく 10 2232 秋山之   木葉文未    赤者    今旦吹風者   霜毛置應久 あきやまの このはもいまだ もみたねば けさふくかぜは しももおきぬべく 10 2233 詠芳 10 2233 高松之   此峯迫尓    笠立而   盈盛有     秋香乃吉者 たかまつの このみねもせに かさたてて みちさかりたる あきのかのよさ 10 2234 詠雨 10 2234 一日    千重敷布    我戀    妹當      為暮零所見 ひとひには ちへにしくしく あがこふる いもがあたりに しぐれふるみゆ 10 2234 右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 10 2235 秋田苅   客乃廬入尓   四具礼零  我袖沾     干人無二 あきたかる たびのいほりに しぐれふり わがそでぬれぬ ほすひとなしに 10 2236 玉手次   不懸時無    吾戀    此具礼志零者  沾乍毛将行 たまだすき かけぬときなし あがこひは しぐれしふらば ぬれつつもいかむ 10 2237 黄葉乎   令落四具礼能  零苗尓   夜副衣寒    一之宿者 もみちばを ちらすしぐれの ふるなへに よさへぞさむき ひとりしぬれば 10 2238 詠霜 10 2238 天飛也   鴈之翅乃    覆羽之   何處漏香    霜之零異牟 あまとぶや かりのつばさの おほひばの いづくもりてか しものふりけむ 10 2239 秋相聞 10 2239 金山    舌日下     鳴鳥    音谷聞     何嘆 あきやまの したひがしたに なくとりの こゑだにきかば なにかなげかむ 10 2240 誰彼    我莫問     九月    露沾乍     君待吾 たそかれと われをなとひそ ながつきの つゆにぬれつつ きみまつわれを 10 2241 秋夜    霧發渡     凡〃    夢見      妹形矣 あきのよの きりたちわたり おほほしく いめにぞみつる いもがすがたを 10 2242 秋野    尾花末     生靡    心妹      依鴨 あきののの をばながうれの おひなびき こころはいもに よりにけるかも 10 2243 秋山    霜零覆     木葉落   歳雖行     我忘八 あきやまに しもふりおほひ このはちり としはゆくとも われわすれめや 10 2243 右柿本朝臣人麻呂之歌集出 10 2244 寄水田 10 2244 住吉之   岸乎田尓墾   蒔稲     乃而及苅    不相公鴨 すみのえの きしをたにはり まきしいねを かくてかるまで あはぬきみかも 10 2245 劔後    玉纒田井尓   及何時可  妹乎不相見   家戀将居 たちのしり たままきたゐに いつまでか いもをあひみず いへこひをらむ 10 2246 秋田之   穂上置     白露之   可消吾者     所念鴨 あきのたの ほのへにおける しらつゆの けぬべくもあれは おもほゆるかも 10 2247 秋田之   穂向之所依   片縁    吾者物念    都礼無物乎 あきのたの ほむきのよれる かたよりに あれはものもふ つれなきものを 10 2248 秋田苅   借廬作     五百入為而 有藍君叨    将見依毛欲得 あきたかる かりほをつくり いほりして あるらむきみを みむよしもがも 10 2249 鶴鳴之   所聞田井尓   五百入為而 吾客有跡     於妹告社 たづがねの きこゆるたゐに いほりして われたびにありと いもにつげこそ 10 2250 春霞    多奈引田居尓  廬付而   秋田苅左右   令思良久 はるかすみ たなびくたゐに いほつきて あきたかるまで おもはしむらく 10 2251 橘乎    守部乃五十戸之 門田早稲  苅時過去    不来跡為等霜 たちばなを もりへのさとの かどたわせ かるときすぎぬ こじとすらしも 10 2252 寄露 10 2252 秋芽子之  開散野邊之   暮露尓   沾乍来益    夜者深去鞆 あきはぎの さきちるのへの ゆふつゆに ぬれつつきませ よはふけぬとも 10 2253 色付相   秋之露霜    莫零根   妹之手本乎   不纒今夜者 いろづかふ あきのつゆしも なふりそね いもがたもとを まかぬこよひは 10 2254 秋芽子之  上尓置有    白露之   消鴨死猿    戀乍不有者 あきはぎの うへにおきたる しらつゆの けかもしなまし こひつつあらずは 10 2255 吾屋前   秋芽子上     置露    市白霜     吾戀目八面 わがやどの あきはぎのうへに おくつゆの いちしろくしも あれこひめやも 10 2256 秋穂乎   之努尓押靡   置露    消鴨死益    戀乍不有者 あきのほを しのにおしなべ おくつゆの けかもしなまし こひつつあらずは 10 2257 露霜尓   衣袖所沾而   今谷毛   妹許行名    夜者雖深 つゆしもに ころもでぬれて いまだにも いもがりゆかな よはふけぬとも 10 2258 秋芽子之  枝毛十尾尓   置露之   消毳死猿    戀乍不有者 あきはぎの えだもとををに おくつゆの けかもしなまし こひつつあらずは 10 2259 秋芽子之  上尓白露    毎置    見管曽思怒布  君之光儀呼 あきはぎの うへにしらつゆ おくごとに みつつぞしのふ きみがすがたを 10 2260 寄風 10 2260 吾妹子者  衣丹有南     秋風之   寒比来     下著益乎 わぎもこは ころもにあらなむ あきかぜの さむきこのころ したにきましを ○ 10 2261 泊瀬風   如是吹三更者  及何時   衣片敷     吾一将宿 はつせかぜ かくふくよるは いつまでか ころもかたしき あがひとりねむ 10 2262 寄雨 10 2262 秋芽子乎  令落長雨之   零比者   一起居而    戀夜曽大寸 あきはぎを ちらすながめの ふるころは ひとりおきゐて こふるよぞおほき 10 2263 九月    四具礼乃雨之  山霧    烟寸吾胸     誰乎見者将息 一云 十月    四具礼乃雨降 ながつきの しぐれのあめの やまぎりの いぶせきあがむね たれをみばやまむ  かむなづき しぐれのあめふり 10 2264 寄蟋 10 2264 蟋蟀之   待歡      秋夜乎   寐驗無     枕与吾者 こほろぎの まちよろこぶる あきのよを ぬるしるしなし まくらとあれとは 10 2265 寄蝦 10 2265 朝霞    鹿火屋之下尓  鳴蝦    聲谷聞者    吾将戀八方 あさかすみ かひやがしたに なくかはづ こゑだにきかば あれこひめやも 10 2266 寄鴈 10 2266 出去者    天飛鴈之    可泣美   且今日〃〃〃云二 年曽経去家類 いでていなば あまとぶかりの なきぬべみ けふけふといふに としぞへにける 10 2267 寄鹿 10 2267 左小壮鹿之 朝伏小野之   草若美   隠不得而    於人所知名 さをしかの あさふすをのの くさわかみ かくらひかねて ひとにしらゆな 10 2268 左小壮鹿之 小野之草伏   灼然    吾不問尓    人乃知良久 さをしかの をののくさふし いちしろく わがとはなくに ひとのしれらく 10 2269 寄鶴 10 2269 今夜乃  暁降      鳴鶴之   念不過     戀許増益也 こよひの あかときくたち なくたづの おもひはすぎず こひこそまされ 10 2270 寄草 10 2270 道邊之   乎花我下之   思草    今更尓     何物可将念 みちのべの をばながしたの おもひぐさ いまさらさらに なにをかおもはむ 10 2271 寄花 10 2271 草深三   蟋多      鳴屋前   芽子見公者   何時来益牟 くさふかみ こほろぎさはに なくやどの はぎみにきみは いつかきまさむ 10 2272 秋就者   水草花乃    阿要奴蟹  思跡不知    直尓不相在者 あきづけば みくさのはなの あえぬがに おもへどしらじ ただにあはざれば 10 2273 何為等加  君乎将猒    秋芽子乃  其始花之    歡寸物乎 なにすとか きみをいとはむ あきはぎの そのはつはなの うれしきものを 10 2274 展轉    戀者死友    灼然    色庭不出    朝容皃之花 こいまろび こひはしぬとも いちしろく いろにはいでじ あさがほのはな 10 2275 言出而    云者忌染    朝皃乃   穂庭開不出   戀為鴨 ことにいでて いはばゆゆしみ あさがほの ほにはさきでぬ こひもするかも 10 2276 鴈鳴之   始音聞而    開出有   屋前之秋芽子  見来吾世古 かりがねの はつこゑききて さきでたる やどのあきはぎ みにこわがせこ 10 2277 左小壮鹿之 入野乃為酢寸  初尾花   何時加     妹之手将枕 さをしかの いりののすすき はつをばな いづれのときか いもがてまかむ 10 2278 戀日之   氣長有者     三苑圃能  辛藍花之     色出尓来 こふるひの けながくしあれば みそのふの からあゐのはなの いろにいでにけり 10 2279 吾郷尓   今咲花乃    娘部四   不堪情     尚戀二家里 わがさとに いまさくはなの をみなへし あへぬこころに なほこひにけり 10 2280 芽子花   咲有乎見者   君不相    真毛久二    成来鴨 はぎのはな さけるをみれば きみにあはず まこともひさに なりにけるかも 10 2281 朝露尓   咲酢左乾垂   鴨頭草之  日斜共     可消所念 あさつゆに さきすさびたる つきくさの ひくるるなへに けぬべくおもほゆ 10 2282 長夜乎   於君戀乍    不生者   開而落西    花有益乎 ながきよを きみにこひつつ いけらずは さきてちりにし はなにあらましを 10 2283 吾妹兒尓  相坂山之    皮為酢寸  穂庭開不出   戀度鴨 わぎもこに あふさかやまの はだすすき ほにはさきでず こひわたるかも 10 2284 率尓    今毛欲見    秋芽子之  四搓二将有    妹之光儀乎 ゆくりなく いまもみがほし あきはぎの しなひにあるらむ いもがすがたを 10 2285 秋芽子之  花野乃為酢寸  穂庭不出   吾戀度     隠嬬波母 あきはぎの はなののすすき ほにはいでず あがこひわたる こもりづまはも 10 2286 吾屋戸尓  開秋芽子    散過而   實成及丹    於君不相鴨 わがやどに さきしあきはぎ ちりすぎて みになるまでに きみにあはぬかも 10 2287 吾屋前之  芽子開二家里  不落間尓  早来可見    平城里人 わがやどの はぎさきにけり ちらぬまに はやきてみべし ならのさとびと 10 2288 石走    間〃生有    皃花乃   花西有来     在筒見者 いはばしの ままにおひたる かほばなの はなにしありけり ありつつみれば 10 2289 藤原    古郷之     秋芽子者  開而落去寸   君待不得而 ふぢはらの ふりにしさとの あきはぎは さきてちりにき きみまちかねて 10 2290 秋芽子乎  落過沼蛇    手折持   雖見不怜    君西不有者 あきはぎを ちりすぎぬべみ たをりもち みれどさぶしも きみにしあらねば 10 2291 朝開    夕者消流    鴨頭草乃  可消戀毛    吾者為鴨 あしたさき ゆふべはけぬる つきくさの けぬべきこひも あれはするかも 10 2292 蜓野之   尾花苅副    秋芽子之  花乎葺核    君之借廬 あきづのの をばなかりそへ あきはぎの はなをふかさね きみがかりほに 10 2293 咲友    不知師有者   黙然将有   此秋芽子乎   令視管本名 さけりとも しらずしあらば もだもあらむ このあきはぎを みせつつもとな 10 2294 寄山 10 2294 秋去者   鴈飛越     龍田山   立而毛居而毛  君乎思曽念 あきされば かりとびこゆる たつたやま たちてもゐても きみをしぞおもふ 10 2295 寄黄葉 10 2295 我屋戸之  田葛葉日殊   色付奴   不来座君者   何情曽毛 わがやどの くずはひにけに いろづきぬ きまさぬきみは なにこころぞも 10 2296 足引乃   山佐奈葛    黄變及   妹尓不相哉   吾戀将居 あしひきの やまさなかづら もみつまで いもにあはずや あがこひをらむ 10 2297 黄葉之   過不勝兒乎   人妻跡   見乍哉将有    戀敷物乎 もみちばの すぎかてぬこを ひとづまと みつつかもあらむ こほしきものを 10 2298 寄月 10 2298 於君戀   之奈要浦觸   吾居者   秋風吹而    月斜焉 きみにこひ しなえうらぶれ わがをれば あきかぜふきて つきかたぶきぬ 10 2299 秋夜之   月疑意君者   雲隠    須臾不見者   幾許戀敷 あきのよの つきかもきみは くもがくり しましもみねば ここだこほしき 10 2300 九月之   在明能月夜    有乍毛   君之来座者   吾将戀八方 ながつきの ありあけのつくよ ありつつも きみがきまさば あれこひめやも 10 2301 寄夜 10 2301 忍咲八師  不戀登為跡   金風之   寒吹夜者    君乎之曽念 よしゑやし こひじとすれど あきかぜの さむくふくよは きみをしぞおもふ 10 2302 或者之   痛情無跡    将念    秋之長夜乎   寤臥耳 あるひとの あなこころなと おもふらむ あきのながよを ねさめふすのみ 10 2303 秋夜乎   長跡雖言    積西    戀盡者     短有家里 あきのよを ながしといへど つもりにし こひをつくせば みじかくありけり 10 2304 寄衣 10 2304 秋都葉尓  〃寳敝流衣   吾者不服  於君奉者    夜毛著金 あきつはに にほへるころも われはきじ きみにまつらば よるもきるがね 10 2305 問答 10 2305 旅尚    襟解物乎    事繁三   丸宿吾為     長此夜 たびにすら ひもとくものを ことしげみ まろねぞあがする ながきこのよを 10 2306 四具礼零  暁月夜     紐不解   戀君跡     居益物 しぐれふる あかときづくよ ひもとかず こふらむきみと をらましものを 10 2307 於黄葉   置白露之    色葉二毛  不出跡念者    事之繁家口 もみちばに おくしらつゆの にほひにも いでじとおもへば ことのしげけく 10 2308 雨零者   瀧都山川    於石觸   君之摧     情者不持 あめふれば たぎつやまがは いはにふれ きみがくだかむ こころはもたじ 10 2308 右一首不類秋歌而以和載之也 10 2309 譬喩歌 10 2309 祝部等之  齋経社之    黄葉毛   標縄越而    落云物乎 はふりらが いはふやしろの もみちばも しめなはこえて ちるといふものを 10 2310 旋頭歌 10 2310 蟋蟀之   吾床隔尓    鳴乍本名    起居管   君尓戀尓    宿不勝尓 こほろぎの あがとこのべに なきつつもとな おきゐつつ きみにこふるに いねかてなくに 10 2311 皮為酢寸  穂庭開不出   戀乎吾為    玉蜻    直一目耳    視之人故尓 はだすすき ほにはさきでぬ こひをあがする たまかぎる ただひとめのみ みしひとゆゑに 10 2312 冬雜歌 10 2312 我袖尓   雹手走     巻隠    不消有     妹為見 わがそでに あられたばしる まきかくし けたずてあらむ いもがみむため 10 2313 足曳之   山鴨高     巻向之   木志乃子松二  三雪落来 あしひきの やまかもたかき まきむくの きしのこまつに みゆきふりくる 10 2314 巻向之   桧原毛未    雲居者   子松之末由   沫雪流 まきむくの ひばらもいまだ くもゐねば こまつがうれゆ あわゆきながる 10 2315 足引    山道不知    白牫牱   枝母等乎〃尓  雪落者  或云 枝毛多和〃〃 あしひきの やまぢもしらず しらかしの えだもとををに ゆきのふれれば えだもたわたわ 10 2315 右柿本朝臣人麻呂之歌集出也 但件一首 或本云三方沙弥作 10 2316 詠雪 10 2316 奈良山乃  峯尚霧合    宇倍志社  前垣之下乃   雪者不消家礼 ならやまの みねなほきらふ うべしこそ まがきのしたの ゆきはけずけれ 10 2317 殊落者   袖副沾而    可通    将落雪之    空尓消二管 ことふらば そでさへぬれて とほるべく ふらなむゆきは そらにけにつつ 10 2318 夜乎寒三  朝戸乎開    出見者   庭毛薄太良尓  三雪落有 一云 庭裳保杼呂尓  雪曽零而有 よをさむみ あさとをひらき いでみれば にはもはだらに みゆきふりたり にはもほどろに ゆきぞふりたる 10 2319 暮去者   衣袖寒之    高松之   山木毎     雪曽零有 ゆふされば ころもでさむし たかまつの やまのきごとに ゆきぞふりたる 10 2320 吾袖尓   零鶴雪毛    流去而    妹之手本    伊行觸粳 わがそでに ふりつるゆきも ながれゆきて いもがたもとに いゆきふれぬか 10 2321 沫雪者   今日者莫零   白妙之   袖纒将干    人毛不有君 あわゆきは けふはなふりそ しろたへの そでまきほさむ ひともあらなくに 10 2322 甚多毛   不零雪故    言多毛   天三空者    陰相管 はなはだも ふらぬゆきゆゑ こちたくも あまつみそらは くもらひにつつ 10 2323 吾背子乎  且今〃〃    出見者   沫雪零有    庭毛保杼呂尓 わがせこを いまかいまかと いでみれば あわゆきふれり にはもほどろに 10 2324 足引    山尓白者    我屋戸尓  昨日暮     零之雪疑意 あしひきの やまにしろきは わがやどに きのふのゆふべ ふりしゆきかも 10 2325 詠花 10 2325 誰苑之   梅花毛     久堅之   清月夜尓    幾許散来 たがそのの うめのはなぞも ひさかたの きよきつくよに ここだちりくる 10 2326 梅花    先開枝乎    手折而者  褁常名付而   与副手六香聞 うめのはな まづさくえだを たをりてば つととなづけて よそへてむかも 10 2327 誰苑之   梅尓可有家武   幾許毛   開有可毛    見我欲左右手二 たがそのの うめにかありけむ ここだくも さきにけるかも みがほしまでに 10 2328 来可視   人毛不有尓    吾家有   梅之早花    落十方吉 きてみべき ひともあらなくに わぎへなる うめのはつはな ちりぬともよし 10 2329 雪寒三   咲者不開    梅花    縦比来者    然而毛有金 ゆきさむみ さきにはさかず うめのはな よしこのころは かくてもあるがね 10 2330 詠露 10 2330 為妹    末枝梅乎    手折登波  下枝之露尓   沾尓家類可聞 いもがため ほつえのうめを たをるとは しづえのつゆに ぬれにけるかも 10 2331 詠黄葉 10 2331 八田乃野之 淺茅色付    有乳山   峯之沫雪    寒零良之 やたののの あさぢいろづく あらちやま みねのあわゆき さむくふるらし 10 2332 詠月 10 2332 左夜深者  出来牟月乎   高山之   峯白雲     将隠鴨 さよふけば いでこむつきを たかやまの みねのしらくも かくしなむかも 10 2333 冬相聞 10 2333 零雪    虚空可消    雖戀    相依無     月経在 ふるゆきの そらにけぬべく こふれども あふよしなしに つきぞへにける 10 2334 阿和雪   千重零敷    戀為来   食永我     見偲 あわゆきは ちへにふりしけ こひしくの けながきあれは みつつしのはむ 10 2334 右柿本朝臣人麻呂之歌集出 10 2335 寄露 10 2335 咲出照   梅之下枝尓   置露之   可消於妹     戀頃者 さきでてる うめのしづえに おくつゆの けぬべくもいもに こふるこのころ 10 2336 寄霜 10 2336 甚毛    夜深勿行    道邊之   湯小竹之於尓  霜降夜焉 はなはだも よふけてなゆき みちのべの ゆささのうへに しものふるよを 10 2337 寄雪 10 2337 小竹葉尓  薄太礼零覆    消名羽鴨  将忘云者     益所念 ささのはに はだれふりおほひ けなばかも わすれむといへば ましておもほゆ 10 2338 霰落    板暇風吹    寒夜也   旗野尓今夜   吾獨寐牟 あられふり いたまかぜふき さむきよや はたのにこよひ あがひとりねむ 10 2339 吉名張乃  野木尓零覆    白雪乃   市白霜     将戀吾鴨 よなばりの のきにふりおほふ しらゆきの いちしろくしも こひむあれかも 10 2340 一眼見之  人尓戀良久   天霧之   零来雪之    可消所念 ひとめみし ひとにこふらく あまぎらひ ふりくるゆきの けぬべくおもほゆ 10 2341 思出    時者為便無   豊國之   木綿山雪之   可消所念 おもひづる ときはすべなみ とよくにの ゆふやまゆきの けぬべくおもほゆ 10 2342 如夢    君乎相見而   天霧之   落来雪之    可消所念 いめのごと きみをあひみて あまぎらひ ふりくるゆきの けぬべくおもほゆ 10 2343 吾背子之  言愛美     出去者    裳引将知    雪勿零 わがせこが ことうるはしみ いでてゆかば もびきしるけむ ゆきなふりそね 10 2344 梅花    其跡毛不所見  零雪之   市白兼名    間使遣者 一云 零雪尓   間使遣者    其将知奈 うめのはな それともみえず ふるゆきの いちしろけむな まづかひやらば ふるゆきに まづかひやらば それとしらむな 10 2345 天霧相   零来雪之    消友    於君合常    流経度 あまぎらひ ふりくるゆきの けなめども きみにあはむと ながらへわたる 10 2346 窺良布   跡見山雪之   灼然    戀者妹名    人将知可聞 うかねらふ とみやまゆきの いちしろく こひばいもがな ひとしらむかも 10 2347 海小船   泊瀬乃山尓   落雪之   消長戀師    君之音曽為流 あまをぶね はつせのやまに ふるゆきの けながくこひし きみがおとぞする 10 2348 和射美能 嶺徃過而    零雪乃   猒毛無跡    白其兒尓 わざみの みねゆきすぎて ふるゆきの いとひもなしと まをせそのこに 10 2349 寄花 10 2349 吾屋戸尓  開有梅乎    月夜好美  夕〃令見    君乎社待也 わがやどに さきたるうめを つくよよみ よひよひみせむ きみをこそまて 10 2350 寄夜 10 2350 足桧木乃  山下風波    雖不吹   君無夕者    豫寒毛 あしひきの やまのあらしは ふかねども きみなきよひは かねてさむしも 11 2351 旋頭歌 11 2351 新室    壁草苅邇    御座給根    草如    依逢未通女者   公随 にひむろの かべくさかりに いましたまはね くさのごと よりあふをとめは きみがまにまに 11 2352 新室    踏静子之    手玉鳴裳    玉如    所照公乎    内等白世 にひむろを ふみしづむこが ただましなるも たまのごと てらせるきみを うちにとまをせ 11 2353 長谷   弓槻下     吾隠在妻     赤根刺   所光月夜邇   人見點鴨 一云 人見豆良牟可 はつせの ゆつきがしたに わがかくせるつま あかねさす てれるつくよに ひとみてむかも ひとみつらむか 11 2354 健男之 念乱而 隠在其妻 天地 通雖光 所顕目八方 一云 大夫乃 思多鷄備弖 ますらをの おもひみだれて かくせるそのつま あめつちに とほりてるとも あらはれめやも ますらをの おもひたけびて 11 2355 恵得    吾念妹者    早裳死耶    雖生    吾邇應依     人云名國 うつくしと あがもふいもは はやもしなぬか いけりとも われによるべしと ひとのいはなくに 11 2356 狛錦 紐片叙 床落邇祁留 明夜志 将来得云者 取置待 こまにしき ひものかたへぞ とこにおちにける あすのよし きなむといはば とりおきてまたむ 11 2357 朝戸出   公足結乎    閏露原     早起    出乍吾毛    裳下閏奈 あさとでの きみがあゆひを ぬらすつゆはら はやくおき いでつつわれも もすそぬらさな 11 2358 何為    命本名     永欲為     雖生    吾念妹     安不相 なにせむに いのちをもとな ながくほりせむ いけれども あがもふいもに やすくあはなくに 11 2359 息緒    吾雖念     人目多社     吹風    有數〃     應相物 いきのをに われはおもへど ひとめおほみこそ ふくかぜに あらばしばしば あはましものを 11 2360 人祖     未通女兒居   守山邊柄    朝〃    通公      不来哀 ひとのおやの をとめこすゑて もるやまへから あさなさな かよひしきみが こねばかなしも 11 2361 天在   一棚橋     何将行     穉草    妻所云      足壮嚴 あめなる ひとつたなはし いかにかゆかむ わかくさの つまがりといはば あしかざりせむ 11 2362 開木代   来背若子    欲云余     相狭丸   吾欲云      開木代来背 やましろの くせのわくごが よしといふわれ あふさわに われをほしといふ やましろのくせ 11 2362 右十二首柿本朝臣人麻呂之歌集出 11 2363 岡前    多未足道乎   人莫通     在乍毛   公之来     曲道為 をかのさき たみたるみちを ひとなかよひそ ありつつも きみがきまさむ よきみちにせむ 11 2364 玉垂    小簾之寸鷄吉仁 入通来根    足乳根之  母我問者    風跡将申 たまだれの をすのすけきに いりかよひこね たらちねの ははがとはさば かぜとまをさむ 11 2365 内日左須  宮道尓相之   人妻姤     玉緒之   念乱而     宿夜四曽多寸 うちひさす みやぢにあひし ひとづまゆゑに たまのをの おもひみだれて ぬるよしぞおほき 11 2366 真十鏡   見之賀登念    妹相可聞     玉緒之   絶有戀之    繁比者 まそかがみ みてしかとおもふ いももあはぬかも たまのをの たえたるこひの しげきこのころ 11 2367 海原乃   路尓乗哉    吾戀居     大舟之   由多尓将有   人兒由恵尓 うなはらの みちにのりてや あがこひをらむ おほぶねの ゆたにあるらむ ひとのこゆゑに 11 2367 右五首古歌集中出 11 2368 正述心緒 11 2368 垂乳根乃  母之手放    如是許   無為便事者   未為國 たらちねの ははがてはなれ かくばかり すべなきことは いまだせなくに 11 2369 人所寐   味宿不寐    早敷八四  公目尚     欲嘆 或本歌云 公矣思尓    暁来鴨 ひとのぬる うまいはねずて はしきやし きみがめすらを ほりてなげくも きみをおもふに あけにけるかも 11 2370 戀死    戀死耶     玉桙    路行人     事告無 こひしなば こひもしねとや たまほこの みちゆくひとの ことつげもなし 11 2371 心     千遍雖念    人不云    吾戀孋     見依鴨 こころには ちへにおもへど ひとにいはぬ あがこひづまを みむよしもがも 11 2372 是量    戀物      知者    遠可見     有物 かくばかり こひむものぞと しらませば とほくもみべく あらましものを 11 2373 何時    不戀時     雖不有   夕方任     戀無乏 いつはしも こひぬときとは あらねども ゆふかたまけて こふはすべなし 11 2374 是耳    戀度      玉切    不知命     歳経管 かくのみし こひやわたらむ たまきはる いのちもしらぬ としはへにつつ 11 2375 吾以後   所生人     如我    戀為道     相与勿湯目 あれゆのち うまれむひとは あがごとく こひするみちに あひこすなゆめ 11 2376 健男    現心      吾無    夜晝不云     戀度 ますらをの うつしこころも われはなし よるひるといはず こひしわたれば 11 2377 何為    命継      吾妹    不戀前     死物 なにせむに いのちつぎけむ わぎもこに こひぬさきにも しなましものを 11 2378 吉恵哉  不来座公    何為    不猒吾     戀乍居 よしゑや きまさぬきみを なにせむに いとはずあれは こひつつをらむ 11 2379 見度    近渡乎     廻     今哉来座    戀居 みわたせば ちかきわたりを たもとほり いまかきますと こひつつぞをる 11 2380 早敷哉  誰障鴨     玉桙    路見遺     公不来座 はしきや たがさふれかも たまほこの みちみわすれて きみがきまさぬ 11 2381 公目    見欲      是二夜   千歳如     吾戀哉 きみがめを みまくほりして このふたよ ちとせのごとも あれはこふるか 11 2382 打日刺   宮道人     雖滿行   吾念公     正一人 うちひさす みやぢをひとは みちゆけど あがもふきみは ただひとりのみ ○ 11 2383 世中    常如      雖念    半手不忘    猶戀在 よのなかは つねかくのみと おもへども はたたわすれず なほこひにけり 11 2384 我勢古波  幸座      遍来    我告来     人来鴨 わがせこは さきくいますと かへりきて あれにつげこむ ひともこぬかも 11 2385 麁玉    五年雖経    吾戀    跡無戀     不止恠 あらたまの いつとせふれど あがこふる あとなきこひの やまなくもあやし 11 2386 石尚    行應通     建男    戀云事      後悔在 いはほすら ゆきとほるべき ますらをも こひといふことは のちくいにけり 11 2387 日竝    人可知     今日    如千歳     有与鴨 ひならべば ひとしりぬべみ けふのひは ちとせのごとも ありこせぬかも 11 2388 立座    態不知     雖念    妹不告     間使不来 たちてゐて たどきもしらず おもへども いもにつげねば まづかひもこず 11 2389 烏玉    是夜莫明    朱引    朝行公     待苦 ぬばたまの このよなあけそ あからひく あさゆくきみを またばくるしも 11 2390 戀為    死為物     有者    我身千遍    死反 こひするに しにするものに あらませば あがみはちたび しにかへらまし 11 2391 玉響    昨夕      見物    今朝      可戀物 たまかぎる きのふのゆふべ みしものを けふのあしたに こふべきものか 11 2392 中〃    不見有     従相見   戀心      益念 なかなかに みずあらましを あひみてゆ こほしきこころ まさりておもほゆ 11 2393 玉桙    道不行為有者   惻隠    此有戀     不相 たまほこの みちゆかずあらば ねもころの かかるこひには あはずあらましを 11 2394 朝影    吾身成     玉垣入   風所見     去子故 あさかげに あがみはなりぬ たまかきる ほのかにみえて いにしこゆゑに ○ 11 2395 行〃    不相妹故    久方    天露霜     沾在哉 ゆきゆきて あはぬいもゆゑ ひさかたの あめのつゆしも ぬれにけるかも 11 2396 玉坂    吾見人     何有     依以      亦一目見 たまさかに わがみしひとを いかにあらむ よしをもちてか またひとめみむ 11 2397 蹔     不見戀     吾妹    日〃来     事繁 しましくも みねばこほしき わぎもこを ひにひにきなば ことのしげけむ 11 2398 玉切    及世定     恃     公依      事繁 たまきはる よまでとさだめ たのめたる きみによりてし ことのしげけく 11 2399 朱引    秦不経     雖寐    心異      我不念 あからひく はだもふれずて ねたれども こころをけには わがおもはなくに 11 2400 伊田何   極太甚     利心    及失念      戀故 いでいかに ここだはなはだ とごころの うするまでおもふ こひゆゑにこそ 11 2401 戀死    戀死哉     我妹    吾家門     過行 こひしなば こひもしねとか わぎもこが わぎへのかどを すぎてゆくらむ 11 2402 妹當     遠見者     恠     吾戀      相依無 いもがあたり とほくもみれば あやしくも あれはこふるか あふよしなしに 11 2403 玉久世   清川原     身秡為   齋命      妹為 たまくせの きよきかはらに みそぎして いはふいのちは いもがためこそ 11 2404 思依    見依      物有     一日間     忘念 おもひより みてはよりにし ものにあれど ひとひのほとも わすれておもへや 11 2405 垣廬鳴   人雖云     狛錦    紐解開     公無 かきほなす ひとはいへども こまにしき ひもときあけし きみにあらなくに 11 2406 狛錦    紐解開     夕谷    不知有命     戀有 こまにしき ひもときあけて ゆふべだに しらずあるいのち こひつつかあらむ 11 2407 百積    船潜納     八占刺   母雖問     其名不謂 ももさかの ふねかくりいる やうらさし はははとふとも そのなはのらじ 11 2408 眉根削   鼻鳴紐解    待哉    何時見     念吾 まよねかき はなひひもとけ まつらむか いつかもみむと おもへるわれを 11 2409 君戀    浦経居     悔     我裏紐     結手徒 きみにこひ うらぶれをれば くやしくも わがしたびもの ゆふてたゆきか 11 2410 璞之    年者竟杼    敷白之   袖易子少    忘而念哉 あらたまの としははつれど しきたへの そでかへしこを わすれておもへや 11 2411 白細布   袖小端     見柄    如是有戀    吾為鴨 しろたへの そでをはつはつ みしからに かかるこひをも あれはするかも 11 2412 我妹    戀無乏     夢見     吾雖念     不所寐 わぎもこに こひてすべなみ いめにみむと われはおもへど いねらえなくに 11 2413 故無    吾裏紐     令解    人莫知     及正逢 ゆゑもなく わがしたびもを とけしめて ひとになしらせ ただにあふまでに 11 2414 戀事    意追不得    出行者    山川      不知来 こふること なぐさめかねて いでてゆけば やまをかはをも しらずきにけり 11 2415 寄物陳思 11 2415 處女等乎  袖振山  水垣乃  久時由  念来吾等者 をとめらを そでふるやまの みづかきの ひさしきときゆ おもひけりわれは 11 2416 千早振   神持在     命     誰為      長欲為 ちはやぶる かみのもたせる いのちをば たがためにかも ながくほりせむ 11 2417 石上    振神杉     神成    戀我      更為鴨 いそのかみ ふるのかむすぎ かむさぶる こひをもあれは さらにするかも 11 2418 何      名負神     幣嚮奉者  吾念妹     夢谷見 いかにあらむ なにおふかみに たむけせば あがもふいもを いめにだにみむ 11 2419 天地    言名絶     有     汝吾      相事止 あめつちと いふなのたえて あらばこそ いましもあれも あふことやまめ 11 2420 月見    國同      山隔    愛妹      隔有鴨 つきみれば くにはおやじぞ やまへなり うつくしいもは へなりたるかも 11 2421 ■[糸+參の上・漆の右下]路者 石蹈山     無鴨    吾待公     馬爪盡 くるみちは          いはふむやまは なくもがも あがまつきみが うまつまづくに 11 2422 石根蹈   重成山     雖不有   不相日數    戀度鴨 いはねふみ へなれるやまは あらねども あはぬひまねみ こひわたるかも 11 2423 路後    深津嶋山    蹔     君目不見    苦有 みちのしり ふかつしまやま しましくも きみがめみねば くるしくもあるか 11 2424 紐鏡    能登香山    誰故    君来座在    紐不開寐 ひもかがみ のとかのやまも たがゆゑか きみきませるに ひもとかずねむ 11 2425 山科    強田山     馬雖在    歩吾来      汝念不得 やましなの こはたのやまを うまはあれど かちよりあがこし なをおもひかねて 11 2426 遠山    霞被      益遐    妹目不見    吾戀 とほやまに かすみたなびき いやとほに いもがめみねば あれこひにけり 11 2427 是川    瀬〃敷浪    布〃    妹心      乗在鴨 うぢかはの せぜのしきなみ しくしくに いもはこころに のりにけるかも 11 2428 千早人   宇治度     速瀬    不相有     後我孋 ちはやひと うぢのわたりの はやきせに あはずありとも のちもわがつま 11 2429 早敷哉  不相子故    徒     是川瀬     裳襴潤 はしきや あはぬこゆゑに いたづらに うぢかはのせに もすそぬらしつ 11 2430 是川    水阿和逆纒    行水    事不反     思始為 うぢかはの みなあわさかまき ゆくみづの ことかへらずぞ おもひそめたる 11 2431 鴨川    後瀬静     後相     妹者我     雖不今 かもがはの のちせしづけく のちもあはむ いもにはわれは いまにあらずとも 11 2432 言出     云忌〃     山川之   當都心     塞耐在 ことにいでて いはばゆゆしみ やまがはの たぎつこころを せかへたりけり 11 2433 水上     如數書     吾命    妹相      受日鶴鴨 みづのうへに かずかくごとき わがいのち いもにあはむと うけひつるかも 11 2434 荒礒越   外徃波乃    外心    吾者不思    戀而死鞆 ありそこし ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはじ こひてしぬとも 11 2435 淡海〃    奥白浪     雖不知   妹所云      七日越来 あふみのうみ おきつしらなみ しらずとも いもがりといはば なぬかこえこむ 11 2436 大船    香取海     慍下     何有人     物不念有 おほぶねの かとりのうみに いかりおろし いかなるひとか ものもはずあらむ 11 2437 奥藻    隠障浪     五百重浪  千重敷〃    戀度鴨 おきつもを かくさふなみの いほへなみ ちへにしくしく こひわたるかも 11 2438 人事    蹔吾妹     縄手引   従海益     深念 ひとごとは しましぞわぎも つなてひく うみゆまさりて ふかくしぞおもふ 11 2439 淡海     奥嶋山     奥儲    吾念妹     事繁 あふみのうみ おきつしまやま おくまけて あがもふいもが ことのしげけく 11 2440 近江海    奥滂船     重下     蔵公之     事待吾序 あふみのうみ おきこぐふねの いかりおろし こもりてきみが ことまつわれぞ 11 2441 隠沼    従裏戀者    無乏    妹名告     忌物矣 こもりぬの したゆこふれば すべをなみ いもがなのりつ いむべきものを 11 2442 大土    採雖盡     世中    盡不得物     戀在 おほつちは とりつくすとも よのなかの つくしえぬものは こひにしありけり 11 2443 隠處    澤泉在     石根    通念       吾戀者 こもりどの さはいづみなる いはねゆも とほしてぞおもふ あがこふらくは 11 2444 白檀    石邊山     常石有   命哉      戀乍居 しらまゆみ いそへのやまの ときはなる いのちなれやも こひつつをらむ 11 2445 淡海〃    沈白玉     不知    従戀者     今益 あふみのうみ しづくしらたま しらずして こひせしよりは いまこそまされ 11 2446 白玉    纒持      従今    吾玉為     知時谷 しらたまを まきてもちたり いまよりは わがたまにせむ しれるときだに 11 2447 白玉    従手纒     不忘    念       何畢 しらたまを てにまきしより わすれじと おもひしことは いつかをはらむ ○ 11 2448 白玉    間開乍     貫緒    縛依      後相物 しらたまの あひだあけつつ ぬけるをも くくりよすれば のちもあふものを 11 2449 香山尓   雲位桁曳    於保〃思久 相見子等乎   後戀牟鴨 かぐやまに くもゐたなびき おほほしく あひみしこらを のちこひむかも 11 2450 雲間従   狭俓月乃    於保〃思久 相見子等乎   見因鴨 くもまより さわたるつきの おほほしく あひみしこらを みむよしもがも 11 2451 天雲    依相遠     雖不相   異手枕     吾纒哉 あまくもの よりあひとほみ あはずとも あたしたまくら われまかめやも 11 2452 雲谷    灼發      意追    見乍居     及直相 くもだにも しるくしたたば なぐさめて みつつもをらむ ただにあふまでに 11 2453 春楊    葛山      發雲    立座      妹念 はるやなぎ かづらきやまに たつくもの たちてもゐても いもをしぞおもふ ○ 11 2454 春日山   雲座隠     雖遠    家不念     公念 かすがやま くもゐかくりて とほけども いへはおもはず きみをしぞおもふ 11 2455 我故    所云妹     高山之   峯朝霧     過兼鴨 わがゆゑに いはれしいもは たかやまの みねのあさぎり すぎにけむかも 11 2456 烏玉    黒髪山     山草    小雨零敷    益〃所思 ぬばたまの くろかみやまの やますげに こさめふりしき しくしくおもほゆ 11 2457 大野    小雨被敷    木本    時依来     我念人 おほのらに こさめふりしき このもとに ときとよりこね あがもへるひと 11 2458 朝霜    消〃      念乍    何此夜     明鴨 あさしもの けなばけぬべく おもひつつ いかにこのよを あかしてむかも 11 2459 吾背兒我  濱行風     弥急    急事      益不相有 わがせこが はまゆくかぜの いやはやに はやことなさば いやあはずあらむ 11 2460 遠妹     振仰見     偲     是月面      雲勿棚引 とほきいもが ふりさけみつつ しのふらむ このつきのおもに くもなたなびき 11 2461 山葉    追出月      端〃    妹見鶴     及戀 やまのはに さしいづるつきの はつはつに いもをぞみつる こほしきまでに 11 2462 我妹    吾矣念者    真鏡    照出月      影所見来 わぎもこし われをおもはば まそかがみ てりいづるつきの かげにみえこね 11 2463 久方    天光月     隠去    何名副     妹偲 ひさかたの あまてるつきの かくりなば なにになそへて いもをしのはむ 11 2464 若月    清不見     雲隠    見欲      宇多手比日 みかづきの さやにもみえず くもがくり みまくぞほしき うたてこのころ 11 2465 我背兒尓  吾戀居者    吾屋戸之  草佐倍思    浦乾来 わがせこに あがこひをれば わがやどの くささへおもひ うらぶれにけり 11 2466 朝茅原   小野印     空事    何在云      公待 あさぢはら をのにしめゆふ むなことを いかなりといひて きみをしまたむ 11 2467 路邊    草深百合之   後云     妹命      我知 みちのべの くさぶかゆりの ゆりもといふ いもがいのちを われしらめやも 11 2468 湖葦     交在草     知草    人皆知     吾裏念 みなとあしに まじれるくさの しりくさの ひとみなしりぬ あがしたもひは 11 2469 山萵苣   白露重     浦経    心深      吾戀不止 やまぢさの しらつゆおもみ うらぶれて こころもふかく あがこひやまず 11 2470 湖    核延子菅    不竊隠   公戀乍     有不勝鴨 みなとに さねばふこすげ ぬすまはず きみにこひつつ ありかてぬかも 11 2471 山代    泉小菅     凡浪    妹心      吾不念 やましろの いづみのこすげ なみなみに いもがこころを わがおもはなくに 11 2472 見渡    三室山     石穂菅   惻隠吾     片念為 一云  三諸山之    石小菅 みわたしの みむろのやまの いはほすげ ねもころあれは かたもひぞする みもろのやまの いはこすげ 11 2473 菅根    惻隠君     結為    我紐緒     解人不有 すがのねの ねもころきみが むすばしし わがひものをは とくひともなし 11 2474 山菅    乱戀耳     令為乍   不相妹鴨    年経乍 やますげの みだれこひのみ せしめつつ あはぬいもかも としはへにつつ 11 2475 我屋戸   甍子太草    雖生    戀忘草     見未生 わがやどの のきのしだくさ おひたれど こひわすれぐさ みるにいまだおひず 11 2476 打田    稗數多     雖有     擇為我     夜一人宿 うつたには ひえはしあまた ありといへど えらえしあれぞ よをひとりぬる 11 2477 足引    名負山菅     押伏    君結      不相有哉 あしひきの なにおふやますげ おしふせて きみしむすばば あはずあらめやも 11 2478 秋柏    潤和川邊    細竹目   人不顏面    公无勝 あきがしは うるわかはへの しののめの ひとにはしのび きみにあへなくに 11 2479 核葛    後相      夢耳    受日度     年経乍 さねかづら のちもあはむと いめのみに うけひわたりて としはへにつつ 11 2480 路邊    壹師花     灼然    人皆知     我戀孋 或本歌曰 灼然    人知尓家里   継而之念者 みちのべの いちしのはなの いちしろく ひとみなしりぬ あがこひづまは  いちしろく ひとしりにけり つぎてしおもへば 11 2481 大野    跡状不知    印結    有不得     吾眷 おほのらに たどきもしらず しめゆひて ありかつましじ あがこふらくは 11 2482 水底    生玉藻     打靡    心依      戀比日 みなそこに おふるたまもの うちなびき こころはよりて こふるこのころ 11 2483 敷栲之   衣手離而    玉藻成   靡可宿濫    和乎待難尓 しきたへの ころもでかれて たまもなす なびきかぬらむ わをまちがてに 11 2484 君不来者  形見為等    我二人   殖松木     君乎待出牟 きみこずは かたみにせむと わがふたり うゑしまつのき きみをまちいでむ 11 2485 袖振    可見限     吾雖有    其松枝     隠在 そでふらば みつべきかぎり われはあれど そのまつがえに かくらひにけり 11 2486 珍海     濱邊小松    根深    吾度戀     人子姤 或本歌曰 血沼之海之  塩干能小松   根母己呂尓 戀屋度     人兒故尓 ちぬのうみの はまへのこまつ ねふかめて あれこひわたる ひとのこゆゑに  ちぬのうみの しほひのこまつ ねもころに こひやわたらむ ひとのこゆゑに 11 2487 平山    子松末     有廉叙波  我思妹     不相止者 ならやまの こまつがうれの うれむぞは あがもふいもに あはずやみなむ 11 2488 礒上     立廻香樹     心哀    何深目     念始 いそのうへに たてるむろのき  ねもころに なにしかふかめ おもひそめけむ 11 2489 橘     本我立     下枝取   成哉君     問子等 たちばなの もとにわをたて しづえとり ならむやきみと とひしこらはも 11 2490 天雲尓   翼打附而    飛鶴乃   多頭〃〃思鴨  君不座者 あまくもに はねうちつけて とぶたづの たづたづしかも きみしまさねば 11 2491 妹戀    不寐朝明    男為鳥   従是此度    妹使 いもにこひ いねぬあさけに をしどりの こゆかくわたる いもがつかひか 11 2492 念     餘者      丹穂鳥   足沾来     人見鴨 おもふにし あまりにしかば にほどりの なづさひこしを ひとみけむかも 11 2493 高山    峯行完     友衆     袖不振来    忘念勿 たかやまの みねゆくししの ともをおほみ そでふらずきぬ わするとおもふな 11 2494 大船    真檝繁拔    榜間    極太戀     年在如何 おほぶねに まかぢしじぬき こぐほとも ここだこふるを としにあらばいかに 11 2495 足常    母養子     眉隠    隠在妹     見依鴨 たらつねの ははがかふこの まよごもり こもれるいもを みむよしもがも 11 2496 肥人    額髪結在    染木綿   染心      我忘哉 一云  所忘目八方 こまひとの ぬかがみゆへる しめゆふの しみにしこころ われわすれめや わすらえめやも 11 2497 早人    名負夜音    灼然    吾名謂     孋恃 はやひとの なにおふよこゑ いちしろく わがなはのりつ つまとたのませ 11 2498 劔刀    諸刄利     足蹈    死〃      公依 つるぎたち もろはのときに あしふみて しなばしなむよ きみによりては 11 2499 我妹  戀度  劔刀  名惜  念不得 わぎもこに こひしわたれば つるぎたち なのをしけくも おもひかねつも 11 2500 朝月  日向黄楊櫛  雖舊  何然公  見不飽 あさづきの ひむかつげくし ふりぬれど なにしかきみが みれどあかずけむ 11 2501 里遠    眷浦経     真鏡    床重不去    夢所見与 さとどほみ こひうらぶれぬ まそかがみ とこのへさらず いめにみえこそ 11 2502 真鏡    手取以     朝〃    雖見君     飽事無 まそかがみ てにとりもちて あさなさな みれどもきみは あくこともなし 11 2503 夕去    床重不去    黄楊枕   何然汝     主待固 ゆふされば とこのへさらぬ つげまくら なにしかなれが ぬしまちがたき 11 2504 解衣    戀乱乍     浮沙    生吾      有度鴨 とききぬの こひみだれつつ うきまなご いきてもあれは ありわたるかも 11 2505 梓弓    引不許     有者    此有戀     不相 あづさゆみ ひきてゆるさず あらませば かかるこひには あはずあらましを 11 2506 事霊    八十衢     夕占問   占正謂     妹相依 ことだまの やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにのる いもはあひよらむ 11 2507 玉桙    路徃占     占相    妹逢      我謂 たまほこの みちゆきうらの うらまさに いもはあはむと われにのりつも 11 2508 問答 11 2508 皇祖乃   神御門乎    懼見等   侍従時尓    相流公鴨 すめろきの かみのみかどを かしこみと さもらふときに あへるきみかも 11 2509 真祖鏡   雖見言哉     玉限    石垣淵乃    隠而在孋 まそかがみ みともいはめやも たまかぎる いはかきふちの こもりたるつま 11 2509 右二首 11 2510 赤駒之   足我枳速者   雲居尓毛  隠徃序     袖巻吾妹 あかごまが あがきはやけば くもゐにも かくりゆかむぞ そでまけわぎも 11 2511 隠口乃   豊泊瀬道者   常滑乃   恐道曽     尓心由眼 こもりくの とよはつせぢは とこなめの かしこきみちぞ ながこころゆめ 11 2512 味酒之  三毛侶乃山尓  立月之   見我欲君我   馬之音曽為 うまさけ みもろのやまに たつつきの みがほしきみが うまのおとぞする 11 2512 右三首 11 2513 雷神    小動      刺雲    雨零耶     君将留 なるかみの すこしとよみて さしくもり あめもふらぬか きみをとどめむ 11 2514 雷神    小動      雖不零   吾将留     妹留者 なるかみの すこしとよみて ふらずとも われとどまらむ いもしとどめば 11 2514 右二首 11 2515 布細布   枕動      夜不寐   思人      後相物 しきたへの まくらうごきて よるもねず おもふひとには のちもあふものを 11 2516 敷細布   枕人      事問哉   其枕     苔生負為 しきたへの まくらはひとに こととへや そのまくらには こけむしにたり 11 2516 右二首 11 2516 以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出 11 2517 正述心緒 11 2517 足千根乃  母尓障良婆   無用    伊麻思毛吾毛  事應成 たらちねの ははにさはらば いたづらに いましもあれも ことなるべしや 11 2518 吾妹子之  吾呼送跡    白細布乃  袂漬左右二   哭四所念 わぎもこが われをおくると しろたへの そでひつまでに なきしおもほゆ 11 2519 奥山之   真木乃板戸乎  押開    思恵也出来根  後者何将為 おくやまの まきのいたとを おしひらき しゑやいでこね のちはなにせむ 11 2520 苅薦能   一重叨敷而   紗眠友   君共宿者    冷雲梨 かりこもの ひとへをしきて さぬれども きみとしぬれば さむけくもなし 11 2521 垣幡    丹頬経君叨   率尓    思出乍     嘆鶴鴨 かきつはた につらふきみを ゆくりなく おもひでつつも なげきつるかも 11 2522 恨登    思狭名盤    在之者   外耳見之    心者雖念 うらめしと おもふさなはに ありしかば よそのみぞみし こころはもへど 11 2523 散頬相   色者不出    小文    心中      吾念名君 さにつらふ いろにはいでず すくなくも こころのうちに わがおもはなくに 11 2524 吾背子尓  直相者社     名者立米  事之通尓    何其故 わがせこに ただにあはばこそ なはたため ことのかよひに なにかそこゆゑ 11 2525 懃     片念為歟    比者之   吾情利乃    生戸裳名寸 ねもころに かたもひすれか このころの あがこころどの いけるともなき 11 2526 将待尓   到者妹之    懽跡    咲儀乎     徃而早見 まつらむに いたらばいもが うれしみと ゑまむすがたを ゆきてはやみむ 11 2527 誰此乃   吾屋戸来喚   足千根乃  母尓所嘖    物思吾呼 たれぞこの わがやどきよぶ たらちねの ははにころはえ ものもへるあれを 11 2528 左不宿夜者 千夜毛有十方   我背子之  思可悔     心者不持 さねぬよは ちよにもありとも わがせこが おもひくゆべき こころはもたじ 11 2529 家人者   路毛四美三荷  雖徃来   吾待妹之    使不来鴨 いへびとは みちもしみみに かよへども あがまついもが つかひこぬかも 11 2530 璞之    寸戸我竹垣   編目従毛  妹志所見者   吾戀目八方 あらたまの きへがたかかき あみめゆも いもしみえなば あれこひめやも 11 2531 吾背子我  其名不謂跡   玉切    命者棄     忘賜名 わがせこが そのなのらじと たまきはる いのちはすてつ わすれたまふな 11 2532 凡者    誰将見鴨    黒玉乃   我玄髪乎    靡而将居 おほならば たがみむとかも ぬばたまの わがくろかみを なびけてをらむ 11 2533 面忘    何有人之    為物焉   言者為金津   継手志念者 おもわすれ いかなるひとの するものぞ われはしかねつ つぎてしおもへば 11 2534 不相思    人之故可    璞之    年緒長     言戀将居 あひおもはぬ ひとのゆゑにか あらたまの としのをながく あがこひをらむ 11 2535 凡乃    行者不念     言故    人尓事痛    所云物乎 おほろかの こころはおもはじ わがゆゑに ひとにこちたく いはれしものを 11 2536 氣緒尓   妹乎思念者    年月之   徃覧別毛    不所念鳧 いきのをに いもをしおもへば としつきの ゆくらむわきも おもほえぬかも 11 2537 足千根乃  母尓不所知   吾持留   心者吉恵    君之随意 たらちねの ははにしらえず わがもてる こころはよしゑ きみがまにまに 11 2538 獨寝等   茭朽目八方   綾席    緒尓成及    君乎之将待 ひとりぬと こもくちめやも あやむしろ をになるまでに きみをしまたむ 11 2539 相見者   千歳八去流   否乎鴨   我哉然念    待公難尓 あひみては ちとせやいぬる いなをかも あれやしかもふ きみまちがてに 11 2540 振別之   髪乎短弥    青草乎   髪尓多久濫   妹乎師僧於母布 ふりわけの かみをみじかみ はるくさを かみにたくらむ いもをしぞおもふ 11 2541 佪俳    徃箕之里尓   妹乎置而   心空在     土者蹈鞆 たもとほり ゆきみのさとに いもをおきて こころそらなり つちはふめども 11 2542 若草乃   新手枕乎    巻始而   夜哉将間    二八十一不在國 わかくさの にひたまくらを まきそめて よをやへだてむ にくくあらなくに 11 2543 吾戀之   事毛語     名草目六  君之使乎    待八金手六 あがこふる こともかたらひ なぐさめむ きみがつかひを まちやかねてむ 11 2544 寤者    相縁毛無    夢谷    間無見君    戀尓可死 うつつには あふよしもなし いめにだに まなくみえきみ こひにしぬべし 11 2545 誰彼登   問者将答    為便乎無  君之使乎    還鶴鴨 たそかれと とはばこたへむ すべをなみ きみがつかひを かへしつるかも 11 2546 不念丹   到者妹之    歡三跡   咲牟眉曳    所思鴨 おもはぬに いたらばいもが うれしみと ゑまむまよびき おもほゆるかも 11 2547 如是許   将戀物衣常   不念者   妹之手本乎   不纒夜裳有寸 かくばかり こひむものぞと おもはねば いもがたもとを まかぬよもありき 11 2548 如是谷裳  吾者戀南    玉梓之   君之使乎    待也金手武 かくだにも あれはこひなむ たまづさの きみがつかひを まちやかねてむ 11 2549 妹戀    吾哭涕     敷妙    木枕通而    袖副所沾 或本歌曰 枕通而     巻者寒母 いもにこひ わがなくなみた しきたへの まくらとほりて そでさへぬれぬ   まくらとほりて まけばさむしも 11 2550 立念     居毛曽念    紅之    赤裳下引    去之儀乎 たちておもひ ゐてもぞおもふ くれなゐの あかもすそびき いにしすがたを 11 2551 念之    餘者      為便無三  出曽行之    其門乎見尓 おもふにし あまりにしかば すべをなみ いでてぞゆきし そのかどをみに ○ 11 2552 情者    千遍敷及    雖念    使乎将遣    為便之不知久 こころには ちへにしくしく おもへども つかひをやらむ すべのしらなく 11 2553 夢耳    見尚幾許    戀吾者    寤見者     益而如何有 いめのみに みてすらここだ こふるあれは うつつにみてば ましていかにあらむ 11 2554 對面者   面隠流     物柄尓   継而見巻能   欲公毳 あひみては おもかくさるる ものからに つぎてみまくの ほしききみかも 11 2555 旦戸乎  速莫開     味澤相   目之乏流君   今夜来座有 あさとを はやくなあけそ あぢさはふ めがほるきみが こよひきませる 11 2556 玉垂之   小簀之垂簾乎  徃褐    寐者不眠友   君者通速為 たまだれの をすのたれすを ゆきかちに いはなさずとも きみはかよはせ 11 2557 垂乳根乃  母白者     公毛余毛   相鳥羽梨丹   年可経 たらちねの ははにまをさば きみもあれも あふとはなしに としぞへぬべき 11 2558 愛等    思篇来師    莫忘登   結之紐乃    解樂念者 うつくしと おもへりけらし なわすれと むすびしひもの とくらくもへば 11 2559 昨日見而  今日社間    吾妹兒之  幾許継手    見巻欲毛 きのふみて けふこそへだて わぎもこが ここだくつぎて みまくしほしも 11 2560 人毛無   古郷尓     有人乎   愍久也君之   戀尓令死 ひともなき ふりにしさとに あるひとを めぐくやきみが こひにしなする 11 2561 人事之   繁間守而    相十方八  反吾上尓    事之将繁 ひとごとの しげきまもりて あふともや なほわがうへに ことのしげけむ 11 2562 里人之   言縁妻乎    荒垣之   外也吾将見    悪有名國 さとびとの ことよせづまを あらがきの よそにやあがみむ にくくあらなくに 11 2563 他眼守   君之随尓    余共尓   夙興乍     裳裾所沾 ひとめもる きみがまにまに われさへに はやくおきつつ ものすそぬれぬ 11 2564 夜干玉之  妹之黒髪    今夜毛加  吾無床尓    靡而宿良武 ぬばたまの いもがくろかみ こよひもか わがなきとこに なびけてぬらむ 11 2565 花細    葦垣越尓    直一目   相視之兒故   千遍嘆津 はなぐはし あしかきごしに ただひとめ あひみしこゆゑ ちたびなげきつ 11 2566 色出而    戀者人見而   應知    情中之     隠妻波母 いろにいでて こひばひとみて しりぬべし こころのうちの こもりづまはも 11 2567 相見而者  戀名草六跡   人者雖云   見後尓曽毛   戀益家類 あひみては こひなぐさむと ひとはいへど みてのちにぞも こひまさりける 11 2568 凡     吾之念者    如是許   難御門乎    退出米也母 おほろかに われしおもはば かくばかり かたきみかどを まかりでめやも 11 2569 将念    其人有哉    烏玉之   毎夜君之    夢西所見 或本歌曰 夜晝不云     吾戀渡 おもふらむ そのひとなれや ぬばたまの よごとにきみが いめにしみゆる   よるひるといはず あがこひわたる 11 2570 如是耳   戀者可死    足乳根之  母毛告都    不止通為 かくのみし こひばしぬべみ たらちねの ははにもつげつ やまずかよはせ 11 2571 大夫波   友之驂尓    名草溢   心毛将有     我衣苦寸 ますらをは とものさわきに なぐさもる こころもあらむを われぞくるしき 11 2572 偽毛    似付曽為    何時従鹿  不見人戀等   人之死為 いつはりも につきてぞする いつよりか みぬひとこふと ひとのしにせし 11 2573 情左倍   奉有君尓    何物乎鴨  不云言此跡    吾将竊食 こころさへ まつれるきみに なにをかも いはずていひしと わがぬすまはむ 11 2574 面忘    太尓毛得為也登 手握而   雖打不寒    戀云奴 おもわすれ だにもえすやと たにぎりて うてどもこりず こひといふやつこ 11 2575 希将見   君乎見常衣    左手之   執弓方之    眉根掻礼 めづらしき きみをみむとこそ ひだりての ゆみとるかたの まよねかきつれ 11 2576 人間守   蘆垣越尓    吾妹子乎  相見之柄二   事曽左太多寸 ひとまもり あしかきごしに わぎもこを あひみしからに ことぞさだおほき 11 2577 今谷毛   目莫令乏    不相見而  将戀年月    久家真國 いまだにも めなともしめそ あひみずて こひむとしつき ひさしけまくに 11 2578 朝宿髪   吾者不梳    愛     君之手枕    觸義之鬼尾 あさねがみ われはけづらじ うるはしき きみがたまくら ふれてしものを 11 2579 早去而   何時君乎    相見等   念之情     今曽水葱少熱 はやゆきて いつしかきみを あひみむと おもひしこころ いまぞなぎぬる 11 2580 面形之   忘左在者    小豆鳴   男士物屋    戀乍将居 おもかたの わするさあらば あづきなく をとこじものや こひつつをらむ 11 2581 言云者   三〃二田八酢四  小九毛   心中二     我念羽奈九二 ことにいへば みみにたやすし すくなくも こころのうちに わがおもはなくに 11 2582 小豆奈九  何狂言     今更    小童言為流   老人二四手 あづきなく なにのたはこと いまさらに わらはことする おいびとにして 11 2583 相見而   幾久毛     不有尓   如年月     所思可聞 あひみては いくひささにも あらなくに としつきのごと おもほゆるかも 11 2584 大夫登   念有吾乎    如是許   令戀波     小可者在来 ますらをと おもへるわれを かくばかり こひせしむるは あしくはありけり ○ 11 2585 如是為乍  吾待印     有鴨    世人皆乃    常不在國 かくしつつ あがまつしるし あらぬかも よのひとみなの つねにあらなくに 11 2586 人事    茂君      玉梓之   使不遣     忘跡思名 ひとごとを しげみときみに たまづさの つかひもやらず わするとおもふな 11 2587 大原    古郷      妹置     吾稲金津    夢所見乍 おほはらの ふりにしさとに いもをおきて われいねかねつ いめにみえつつ 11 2588 夕去者   公来座跡    待夜之   名凝衣今    宿不勝為 ゆふされば きみきまさむと まちしよの なごりぞいまも いねかてにする 11 2589 不相思    公者在良思   黒玉    夢不見     受旱宿跡 あひおもはず きみはあるらし ぬばたまの いめにもみえず うけひてぬれど 11 2590 石根踏   夜道不行    念跡    妹依者     忍金津毛 いはねふみ よみちゆかじと おもへれど いもによりては しのびかねつも 11 2591 人事    茂間守跡    不相在    終八子等    面忘南 ひとごとの しげきまもると あはずあらば つひにやこらが おもわすれなむ 11 2592 戀死    後何為     吾命     生日社     見幕欲為礼 こひしなむ のちはなにせむ わがいのちの いけるひにこそ みまくほりすれ 11 2593 敷細    枕動而     宿不所寝  物念此夕    急明鴨 しきたへの まくらうごきて いねらえず ものもふこよひ はやもあけぬかも 11 2594 不徃吾    来跡可夜    門不閇   憾怜吾妹子   待筒在 ゆかぬあれを こむとかよるも かどささず あはれわぎもこ まちつつあるらむ ○ 11 2595 夢谷    何鴨不所見   雖所見   吾鴨迷     戀茂尓 いめにだに なにかもみえぬ みゆれども あれかもまとふ こひのしげきに 11 2596 名草漏   心莫二     如是耳   戀也度     月日殊 或本歌曰 奥津浪   敷而耳八方   戀度奈牟 なぐさもる こころはなしに かくのみし こひやわたらむ つきにひにけに  おきつなみ しきてのみやも こひわたりなむ 11 2597 何為而   忘物      吾妹子丹  戀益跡     所忘莫苦二 いかにして わすれむものぞ わぎもこに こひはまされど わすらえなくに 11 2598 遠有跡    公衣戀流    玉桙乃   里人皆尓    吾戀八方 とほくあれど きみにぞこふる たまほこの さとびとみなに あれこひめやも 11 2599 驗無    戀毛為鹿    暮去者   人之手枕而   将寐兒故 しるしなき こひをもするか ゆふされば ひとのてまきて ぬらむこゆゑに 11 2600 百世下   千代下生    有目八方  吾念妹乎    置嘆 ももよしも ちよしもいきて あらめやも あがもふいもを おきてなげくも 11 2601 現毛    夢毛吾者    不思寸   振有公尓    此間将會十羽 うつつにも いめにもわれは おもはずき ふりたるきみに ここにあはむとは 11 2602 黒髪    白髪左右跡   結大王   心一乎     今解目八方 くろかみの しろかみまでと むすびてし こころひとつを いまとかめやも 11 2603 心乎之   君尓奉跡    念有者   縦比来者    戀乍乎将有 こころをし きみにまつると おもへれば よしこのころは こひつつをあらむ 11 2604 念出而   哭者雖泣    灼然    人之可知    嘆為勿謹 おもひでて ねにはなくとも いちしろく ひとのしるべく なげかすなゆめ 11 2605 玉桙之   道去夫利尓   不思    妹乎相見而   戀比鴨 たまほこの みちゆきぶりに おもはぬに いもをあひみて こふるころかも 11 2606 人目多    常如是耳志   候者    何時      吾不戀将有 ひとめおほみ つねかくのみし さもらはば いづれのときか あがこひずあらむ 11 2607 敷細之   衣手可礼天   吾乎待登  在濫子等者   面影尓見 しきたへの ころもでかれて あをまつと あるらむこらは おもかげにみゆ 11 2608 妹之袖   別之日従    白細乃   衣片敷     戀管曽寐留 いもがそで わかれしひより しろたへの ころもかたしき こひつつぞぬる 11 2609 白細之   袖者間結奴   我妹子我  家當乎     不止振四二 しろたへの そではまゆひぬ わぎもこが いへのあたりを やまずふりしに 11 2610 夜干玉之  吾黒髪乎    引奴良思  乱而反     戀度鴨 ぬばたまの わがくろかみを ひきぬらし みだれてなほも こひわたるかも 11 2611 今更    君之手枕    巻宿米也  吾紐緒乃    解都追本名 いまさらに きみがたまくら まきねめや わがひものをの とけつつもとな 11 2612 白細布乃  袖觸而夜    吾背子尓  吾戀落波    止時裳無 しろたへの そでふれてしよ わがせこに あがこふらくは やむときもなし 11 2613 夕卜尓毛  占尓毛告有   今夜谷   不来君乎    何時将待 ゆふけにも うらにものれる こよひだに きまさぬきみを いつとかまたむ 11 2614 眉根掻   下言借見    思有尓   去家人乎    相見鶴鴨 或本歌曰 眉根掻   誰乎香将見跡  思乍    氣長戀之    妹尓相鴨 一書歌曰 眉根掻   下伊布可之美  念有之   妹之容儀乎   今日見都流香裳 まよねかき したいふかしみ おもへるに いにしへびとを あひみつるかも   まよねかき たれをかみむと おもひつつ けながくこひし いもにあへるかも  まよねかき したいふかしみ おもへりし いもがすがたを けふみつるかも 11 2615 敷栲乃   枕巻而     妹与吾    寐夜者無而   年曽経来 しきたへの まくらをまきて いもとあれと ぬるよはなくて としぞへにける 11 2616 奥山之   真木乃板戸乎  音速見   妹之當乃    霜上尓宿奴 おくやまの まきのいたとを おとはやみ いもがあたりの しものうへにねぬ 11 2617 足日木能  山櫻戸乎    開置而   吾待君乎    誰留流 あしひきの やまさくらとを あけおきて あがまつきみを たれかとどむる 11 2618 月夜好三  妹二相跡    直道柄   吾者雖来    夜其深去来 つくよよみ いもにあはむと ただちから われはきつれど よぞふけにける 11 2619 寄物陳思 11 2619 朝影尓  吾身者成  辛衣  襴之不相而  久成者 あさかげに あがみはなりぬ からころも すそのあはずて ひさしくなれば 11 2620 解衣之   思乱而     雖戀    何如汝之故跡  問人毛無 とききぬの おもひみだれて こふれども なぞながゆゑと とふひともなき 11 2621 摺衣    著有跡夢見津   寤者    孰人之     言可将繁 すりごろも けりといめにみつ うつつには いづれのひとの ことかしげけむ 11 2622 志賀乃白水郎之 塩焼衣     雖穢    戀云物者     忘金津毛 しかのあまの  しほやききぬの なれぬれど こひといふものは わすれかねつも 11 2623 呉藍之   八塩乃衣    朝旦    穢者雖為    益希将見裳 くれなゐの やしほのころも あさなさな なれはすれども いやめづらしも 11 2624 紅之    深染衣     色深    染西鹿齒蚊   遺不得鶴 くれなゐの こそめのころも いろぶかく しみにしかばか わすれかねつる 11 2625 不相尓   夕卜乎問常   幣尓置尓   吾衣手者    又曽可續 あはなくに ゆふけをとふと ぬさにおくに わがころもでは またぞつぐべき 11 2626 古衣    打棄人者    秋風之   立来時尓    物念物其 ふるごろも うちつるひとは あきかぜの たちくるときに ものもふものぞ 11 2627 波祢蘰   今為妹之    浦若見   咲見慍見    著四紐解 はねかづら いまするいもが うらわかみ ゑみみいかりみ つけしひもとく 11 2628 去家之   倭文旗帶乎   結垂    孰云人毛     君者不益 一書歌曰 古之    狭織之帶乎   結垂    誰之能人毛   君尓波不益 いにしへの しつはたおびを むすびたれ たれといふひとも きみにはまさじ   いにしへの さおりのおびを むすびたれ たれしのひとも きみにはまさじ 11 2629 不相友   吾波不怨    此枕    吾等念而    枕手左宿座 あはずとも われはうらみじ このまくら われとおもひて まきてさねませ 11 2630 結紐    解日遠     敷細    吾木枕     蘿生来 ゆひしひも とかむひとほみ しきたへの わがこまくらは こけむしにけり 11 2631 夜干玉之  黒髪色天    長夜叨   手枕之上尓    妹待覧蚊 ぬばたまの くろかみしきて ながきよを たまくらのうへに いもまつらむか 11 2632 真素鏡   直二四妹乎   不相見者  我戀不止    年者雖経 まそかがみ ただにしいもを あひみずは あがこひやまじ としはへぬとも 11 2633 真十鏡   手取持手    朝旦    将見時禁屋   戀之将繁 まそかがみ てにとりもちて あさなさな みむときさへや こひのしげけむ 11 2634 里遠    戀和備尓家里  真十鏡   面影不去    夢所見社 さとどほみ こひわびにけり まそかがみ おもかげさらず いめにみえこそ 11 2634 右一首上見柿本朝臣人麻呂之歌中也 但以句〃相換 故載於玆 11 2635 劔刀    身尓佩副流   大夫也   戀云物乎     忍金手武 つるぎたち みにはきそふる ますらをや こひといふものを しのびかねてむ 11 2636 劔刀    諸刄之於荷   去觸而   所敘鴨将死   戀管不有者 つるぎたち もろはのうへに ゆきふれて しにかもしなむ こひつつあらずは 11 2637 ■[口+一血] 鼻乎曽嚏鶴   劔刀    身副妹之    思来下 うちはなひ  はなをぞひつる つるぎたち みにそふいもし おもひけらしも 11 2638 梓弓    末之腹野尓   鷹田為   君之弓食之   将絶跡念甕屋 あづさゆみ すゑのはらのに とがりする きみがゆづるの たえむともへや 11 2639 葛木之   其津彦真弓   荒木尓毛  憑也君之    吾之名告兼 かづらきの そつびこまゆみ あらきにも たのめやきみが わがなのりけむ 11 2640 梓弓    引見弛見    不来者不来 来者来其乎奈何 不来者来者其乎 あづさゆみ ひきみゆるへみ こずはこず こばこそをなぞ こずはこばそを 11 2641 時守之   打鳴鼓     數見者   辰尓波成    不相毛恠 ときもりの うちなすつづみ よみみれば ときにはなりぬ あはなくもあやし 11 2642 燈之    陰尓蚊蛾欲布  虚蝉之   妹蛾咲状思   面影尓所見 ともしびの かげにかがよふ うつせみの いもがゑまひし おもかげにみゆ 11 2643 玉戈之   道行疲     伊奈武思侶 敷而毛君乎   将見因母鴨 たまほこの みちゆきつかれ いなむしろ しきてもきみを みむよしもがも 11 2644 小墾田之  板田乃橋之   壊者    従桁将去    莫戀吾妹 をはりだの いただのはしの こほれなば けたよりゆかむ なこひそわぎも 11 2645 宮材引   泉之追馬喚犬二 立民乃   息時無     戀渡可聞 みやきひく いづみのそまに たつたみの やすむときなく こひわたるかも 11 2646 住吉乃   津守網引之   浮笶緒乃  得干蚊将去   戀管不有者 すみのえの つもりあびきの うけのをの うかれかゆかむ こひつつあらずは 11 2647 東細布   従空延越    遠見社   目言踈良米   絶跡間也 よこくもの そらゆひきこし とほみこそ めことかるらめ たゆとへだてや 11 2648 云々    物者不念    斐太人乃  打墨縄之    直一道二 かにかくに ものはおもはじ ひだひとの うつすみなはの ただひとみちに 11 2649 足日木之  山田守翁    置蚊火之  下粉枯耳    余戀居久 あしひきの やまだもるをぢ おくかひの したこがれのみ あがこひをらく 11 2650 十寸板持   盖流板目乃   不合相者   如何為跡可   吾宿始兼 そきいたもち ふけるいための あはずあらば いかにせむとか わがねそめけむ 11 2651 難波人   葦火燎屋之   酢四手雖有  己妻許増    常目頬次吉 なにはひと あしひたくやの すしてあれど おのがつまこそ とこめづらしき 11 2652 妹之髪   上小竹葉野之  放駒    蕩去家良思   不合思者 いもがかみ あげたかはのの はなちごま あらびにけらし あはなくもへば 11 2653 馬音之    跡杼登毛為者  松陰尓   出曽見鶴    若君香跡 うまのおとの とどともすれば まつかげに いでてぞみつる けだしきみかと 11 2654 君戀    寝不宿朝明   誰乗流   馬足音      吾聞為 きみにこひ いねぬあさけに たがのれる うまのあのおとぞ われにきかする 11 2655 紅之    襴引道乎    中置而    妾哉将通    公哉将来座 一云 須蘇衝河乎 又曰 待香将待 くれなゐの すそびくみちを なかにおきて われかかよはむ きみかきまさむ  すそつくかはを  まちにかまたむ 11 2656 天飛也   軽乃社之    齋槻    幾世及将有    隠嬬其毛 あまとぶや かるのやしろの いはひつき いくよまであらむ こもりづまぞも 11 2657 神名火尓  紐呂寸立而   雖忌    人心者     間守不敢物 かむなびに ひもろきたてて いはへども ひとのこころは まもりあへぬもの 11 2658 天雲之   八重雲隠    鳴神之   音耳尓八方   聞度南 あまくもの やへくもがくり なるかみの おとのみにやも ききわたりなむ 11 2659 争者    神毛悪為    縦咲八師  世副流君之   悪有莫君尓 あらそへば かみもにくます よしゑやし よそふるきみが にくくあらなくに 11 2660 夜並而   君乎来座跡   千石破   神社乎     不祈日者無 よならべて きみをきませと ちはやぶる かみのやしろを のまぬひはなし 11 2661 霊治波布  神毛吾者    打棄乞   四恵也壽之   恡無 たまぢはふ かみもわれをば うつてこそ しゑやいのちの をしけくもなし 11 2662 吾妹兒   又毛相等    千羽八振  神社乎     不禱日者無 わぎもこに またもあはむと ちはやぶる かみのやしろを のまぬひはなし 11 2663 千葉破   神之伊垣毛   可越    今者吾名之   惜無 ちはやぶる かみのいかきも こえぬべし いまはわがなの をしけくもなし 11 2664 暮月夜   暁闇夜乃    朝影尓   吾身者成奴   汝乎念金手 ゆふづくよ あかときやみの あさかげに あがみはなりぬ なをおもひかねて 11 2665 月之有者   明覧別裳    不知而   寐吾来乎    人見兼鴨 つきしあれば あくらむわきも しらずして ねてわがこしを ひとみけむかも 11 2666 妹目之   見巻欲家口   夕闇之   木葉隠有    月待如 いもがめの みまくほしけく ゆふやみの このはごもれる つきまつごとし 11 2667 真袖持   床打拂     君待跡   居之間尓    月傾 まそでもち とこうちはらひ きみまつと をりしあひだに つきかたぶきぬ 11 2668 二上尓   隠経月之    雖惜    妹之田本乎   加流類比来 ふたがみに かくらふつきの をしけども いもがたもとを かるるこのころ 11 2669 吾背子之  振放見乍    将嘆    清月夜尓    雲莫田名引 わがせこが ふりさけみつつ なげくらむ きよきつくよに くもなたなびき 11 2670 真素鏡   清月夜之    湯徙去者  念者不止    戀社益 まそかがみ きよきつくよの ゆつりなば おもひはやまず こひこそまさめ 11 2671 今夜之  在開月夜     在乍文   公叨置者    待人無 こよひの ありあけのつくよ ありつつも きみをおきては まつひともなし 11 2672 此山之   嶺尓近跡    吾見鶴   月之空有    戀毛為鴨 このやまの みねにちかしと わがみつる つきのそらなる こひもするかも 11 2673 烏玉乃   夜渡月之    湯移去者  更哉妹尓    吾戀将居 ぬばたまの よわたるつきの ゆつりなば さらにやいもに あがこひをらむ 11 2674 朽網山   夕居雲     薄徃者   余者将戀名   公之目乎欲 くたみやま ゆふゐるくもの うすれなば あれはこひむな きみがめをほり 11 2675 君之服   三笠之山尓   居雲乃   立者継流    戀為鴨 きみがきる みかさのやまに ゐるくもの たてばつがるる こひもするかも 11 2676 久堅之   天飛雲尓    在而然   君相見     落日莫死 ひさかたの あまとぶくもに ありてしか きみをあひみむ おつるひなしに 11 2677 佐保乃内従  下風之     吹礼波   還者胡粉    歎夜衣大寸 さほのうちゆ あらしのかぜの ふきぬれば かへりはしらに なげくよぞおほき 11 2678 級寸八師  不吹風故    玉匣    開而左宿之   吾其悔寸 はしきやし ふかぬかぜゆゑ たまくしげ あけてさねにし あれぞくやしき 11 2679 窓超尓   月臨照而    足桧乃   下風吹夜者   公乎之其念 まどこしに つきおしてりて あしひきの あらしふくよは きみをしぞおもふ 11 2680 河千鳥   住澤上尓     立霧之   市白兼名    相言始而者 かはちどり すむさはのうへに たつきりの いちしろけむな あひいひそめてば 11 2681 吾背子之  使乎待跡    笠毛不著  出乍其見之   雨落久尓 わがせこが つかひをまつと かさもきず いでつつぞみし あめのふらくに 11 2682 辛衣    君尓内著    欲見    戀其晩師之   雨零日乎 からころも きみにうちきせ みまくほり こひぞくらしし あめのふるひを 11 2683 彼方之   赤土少屋尓   ■[雨泳]霂零 床共所沾    於身副我妹 をちかたの はにふのをやに こさめふり  とこさへぬれぬ みにそへわぎも 11 2684 笠無登   人尓者言手   雨乍見   留之君我    容儀志所念 かさなしと ひとにはいひて あまつつみ とまりしきみが すがたしおもほゆ ○ 11 2685 妹門    去過不勝都   久方乃   雨毛零奴可   其乎因将為 いもがかど ゆきすぎかねつ ひさかたの あめもふらぬか そをよしにせむ 11 2686 夜占問   吾袖尓     置露乎   於公令視跡   取者消管 ゆふけとふ わがころもでに おくつゆを きみにみせむと とればけにつつ 11 2687 櫻麻乃   苧原之下草   露有者    令明而射去   母者雖知 さくらをの をふのしたくさ つゆしあれば あかしていゆけ はははしるとも 11 2688 待不得而  内者不入    白細布之  吾袖尓     露者置奴鞆 まちかねて うちにはいらじ しろたへの あがころもでに つゆはおきぬとも 11 2689 朝露之   消安吾身    雖老    又若反     君乎思将待 あさつゆの けやすきあがみ おいぬとも またをちかへり きみをしまたむ 11 2690 白細布乃  吾袖尓     露者置   妹者不相    猶豫四手 しろたへの あがころもでに つゆはおき いもはあはさず たゆたひにして 11 2691 云々    物者不念    朝露之   吾身一者    君之随意 かにかくに ものはおもはじ あさつゆの あがみひとつは きみがまにまに 11 2692 夕凝    霜置来     朝戸出尓  甚踐而     人尓所知名 ゆふこりの しもおきにけり あさとでに いたくしふみて ひとにしらゆな 11 2693 如是許   戀乍不有者    朝尓日尓  妹之将履    地尓有申尾 かくばかり こひつつあらずは あさにけに いもがふむらむ つちにあらましを 11 2694 足日木之  山鳥尾乃    一峯越   一目見之兒尓  應戀鬼香 あしひきの やまどりのをの ひとをこえ ひとめみしこに こふべきものか 11 2695 吾妹子尓  相縁乎無    駿河有   不盡乃高嶺之  焼管香将有 わぎもこに あふよしをなみ するがなる ふじのたかねの もえつつかあらむ 11 2696 荒熊之   住云山之     師齒迫山  責而雖問    汝名者不告 あらくまの すむといふやまの しはせやま せめてとふとも ながなはのらじ 11 2697 妹之名毛  吾名毛立者   惜社    布仕能高嶺之  燎乍渡 或歌曰 君名毛   妾名毛立者   惜己曽   不盡乃高山之  燎乍毛居 いもがなも わがなもたたば をしみこそ ふじのたかねの もえつつわたれ きみがなも わがなもたたば をしみこそ ふじのたかねの もえつつもをれ 11 2698 徃而見而  来戀敷     朝香方   山越置代     宿不勝鴨 ゆきてみて くればこほしき あさかがた やまごしにおきて いねかてぬかも 11 2699 安太人乃  八名打度    瀬速    意者雖念    直不相鴨 あだひとの やなうちわたす せをはやみ こころはもへど ただにあはぬかも 11 2700 玉蜻    石垣淵之    隠庭    伏雖死     汝名羽不謂 たまかぎる いはかきふちの こもりには ふしてしぬとも ながなはのらじ 11 2701 明日香川  明日文将渡   石走    遠心者     不思鴨 あすかがは あすもわたらむ いはばしの とほきこころは おもほえぬかも 11 2702 飛鳥川   水徃増     弥日異   戀乃増者    在勝申自 あすかがは みづゆきまさり いやひけに こひのまさらば ありかつましじ 11 2703 真薦苅   大野川原之   水隠    戀来之妹之   紐解吾者 まこもかる おほのがはらの みごもりに こひこしいもが ひもとくわれは 11 2704 悪氷木乃  山下動     逝水之   時友無雲    戀度鴨 あしひきの やましたとよみ ゆくみづの ときともなくも こひわたるかも 11 2705 愛八師   不相君故    徒尓    此川瀬尓    玉裳沾津 はしきやし あはぬきみゆゑ いたづらに このかはのせに たまもぬらしつ 11 2706 泊湍川   速見早湍乎   結上而    不飽八妹登   問師公羽裳 はつせがは はやみはやせを むすびあげて あかずやいもと とひしきみはも 11 2707 青山之   石垣沼間乃   水隠尓   戀哉将度    相縁乎無 あをやまの いはかきぬまの みごもりに こひやわたらむ あふよしをなみ 11 2708 四長鳥   居名山響尓   行水乃   名耳所縁之   内妻波母 一云 名耳所縁而   戀管哉将在 しながとり ゐなやまとよに ゆくみづの なのみよそりし こもりづまはも なのみよそりて こひつつやあらむ 11 2709 吾妹子   吾戀樂者    水有者   之賀良三超而  應逝所思 或本歌發句云 相不思    人乎念久 わぎもこに あがこふらくは みづならば しがらみこして ゆくべくおもほゆ    あひおもはぬ ひとをおもはく 11 2710 狗上之   鳥篭山尓有   不知也河  不知二五寸許瀬 余名告奈 いぬかみの とこのやまなる いさやがは いさとをきこせ わがなのらすな 11 2711 奥山之   木葉隠而    行水乃   音聞従     常不所忘 おくやまの このはがくりて ゆくみづの おとききしより つねわすらえず 11 2712 言急者   中波余騰益   水無河   絶跡云事乎    有超名湯目 こととくは なかはよどませ みなしがは たゆといふことを ありこすなゆめ 11 2713 明日香河  逝湍乎早見   将速登   待良武妹乎   此日晩津 あすかがは ゆくせをはやみ はやけむと まつらむいもを このひくらしつ 11 2714 物部乃   八十氏川之   急瀬    立不得戀毛   吾為鴨 一云  立而毛君者   忘金津藻 もののふの やそうぢかはの はやきせに たちえぬこひも あれはするかも たちてもきみは わすれかねつも 11 2715 神名火   打廻前乃    石淵    隠而耳八    吾戀居 かむなびの うちみのさきの いはぶちの こもりてのみや あがこひをらむ 11 2716 自高山   出来水     石觸    破衣念      妹不相夕者 たかやまゆ いでくるみづの いはにふれ くだけてぞおもふ いもにあはぬよは 11 2717 朝東風尓  井堤超浪之   世染似裳  不相鬼故    瀧毛響動二 あさこちに ゐでこすなみの よそめにも あはぬものゆゑ たぎもとどろに 11 2718 高山之   石本瀧千    逝水之   音尓者不立   戀而雖死 たかやまの いはもとたぎち ゆくみづの おとにはたてじ こひてしぬとも 11 2719 隠沼乃   下尓戀者    飽不足   人尓語都    可忌物乎 こもりぬの したにこふれば あきだらず ひとにかたりつ いむべきものを 11 2720 水鳥乃   鴨之住池之    下樋無   欝悒君     今日見鶴鴨 みづとりの かものすむいけの したびなみ いぶせききみを けふみつるかも 11 2721 玉藻苅   井堤乃四賀良美 薄可毛   戀乃余杼女留  吾情可聞 たまもかる ゐでのしがらみ うすみかも こひのよどめる あがこころかも 11 2722 吾妹子之  笠乃借手乃   和射見野尓 吾者入跡    妹尓告乞 わぎもこが かさのかりての わざみのに われはいりぬと いもにつげこそ 11 2723 數多不有   名乎霜惜三   埋木之   下従其戀    去方不知而 あまたあらぬ なをしもをしみ うもれきの したゆぞこふる ゆくへしらずて 11 2724 冷風之   千江之浦廻乃  木積成   心者依     後者雖不知 あきかぜの ちえのうらみの こつみなす こころはよりぬ のちはしらねど 11 2725 白細砂   三津之黄土   色出而    不云耳衣    我戀樂者 しらまなご みつのはにふの いろにいでて いはなくのみぞ あがこふらくは 11 2726 風不吹   浦尓浪立    無名乎毛  吾者負香    逢者無二 一云 女跡念而 かぜふかぬ うらになみたち なきなをも われはおへるか あふとはなしに をみなとおもひて 11 2727 酢蛾嶋之  夏身乃浦尓   依浪    間文置     吾不念君 すがしまの なつみのうらに よするなみ あひだもおきて わがおもはなくに 11 2728 淡海之海   奥津嶋山    奥間経而  我念妹之    言繁苦 あふみのうみ おきつしまやま おくまへて あがもふいもが ことのしげけく 11 2729 霰零    遠津大浦尓    縁浪    縦毛依十方   憎不有君 あられふり とほつおほうらに よするなみ よしもよすとも にくくあらなくに 11 2730 木海之   名高之浦尓   依浪    音高鳧     不相子故尓 きのうみの なたかのうらに よするなみ おとだかきかも あはぬこゆゑに 11 2731 牛窓之   浪乃塩左猪   嶋響    所依之君    不相鴨将有 うしまどの なみのしほさゐ しまとよみ よそりしきみは あはずかもあらむ 11 2732 奥波    邊浪之来縁   左太能浦之  此左太過而   後将戀可聞 おきつなみ へなみのきよる さだのうらの このさだすぎて のちこひむかも 11 2733 白浪之   来縁嶋乃    荒礒尓毛  有申物尾    戀乍不有者 しらなみの きよするしまの ありそにも あらましものを こひつつあらずは 11 2734 塩滿者   水沫尓浮    細砂裳   吾者生鹿     戀者不死而 しほみてば みなわにうかぶ まなごにも あれはなりてしか こひはしなずて 11 2735 住吉之   城師乃浦箕尓  布浪之   數妹乎     見因欲得 すみのえの きしのうらみに しくなみの しくしくいもを みむよしもがも 11 2736 風緒痛    甚振浪能    間無    吾念君者    相念濫香 かぜをいたみ いたぶるなみの あひだなく あがもふきみは あひおもふらむか 11 2737 大伴之   三津乃白浪   間無    我戀良苦乎   人之不知久 おほともの みつのしらなみ あひだなく あがこふらくを ひとのしらなく 11 2738 大船乃   絶多経海尓   重石下    何如為鴨    吾戀将止 おほぶねの たゆたふうみに いかりおろし いかにせばかも あがこひやまむ 11 2739 水沙兒居  奥麁礒尓    縁浪    徃方毛不知   吾戀久波 みさごゐる おきつありそに よするなみ ゆくへもしらず あがこふらくは 11 2740 大船之   艫毛舳毛    依浪    依友吾者    君之任意 おほぶねの ともにもへにも よするなみ よすともわれは きみがまにまに 11 2741 大海二   立良武浪者   間将有    公二戀等九   止時毛梨 おほうみに たつらむなみは あひだあらめ きみにこふらく やむときもなし 11 2742 壮鹿海部乃  火氣焼立而    燎塩乃   辛戀毛     吾為鴨 しかのあまの けぶりやきたてて やくしほの からきこひをも あれはするかも 11 2742 右一首或云石川君子朝臣作之 11 2743 中〃二   君二不戀者   枚浦乃    白水郎有申尾   玉藻苅管 或本歌曰 中〃尓   君尓不戀波   留牛馬浦之  海部尓有益男   珠藻苅〃 なかなかに きみにこひずは ひらのうらの あまにあらましを たまもかりつつ   なかなかに きみにこひずは なはのうらの あまにあらましを たまもかるかる 11 2744 鈴寸取   海部之燭火   外谷    不見人故    戀比日 すずきとる あまのともしび よそにだに みぬひとゆゑに こふるこのころ 11 2745 湊入之    葦別小舟    障多見    吾念公尓    不相頃者鴨 みなといりの あしわけをぶね さはりおほみ あがもふきみに あはぬころかも 11 2746 庭浄    奥方榜出    海舟乃   執梶間無    戀為鴨 にはきよみ おきへこぎづる あまぶねの かぢとるまなき こひもするかも 11 2747 味鎌之   塩津乎射而   水手船之  名者謂手師乎  不相将有八方 あぢかまの しほつをさして こぐふねの なはのりてしを あはずあらめやも 11 2748 大船尓   葦荷苅積    四美見似裳 妹心尓     乗来鴨 おほぶねに あしにかりつみ しみみにも いもはこころに のりにけるかも 11 2749 驛路尓   引舟渡     直乗尓   妹情尓     乗来鴨 はゆまぢに ひきふねわたし ただのりに いもはこころに のりにけるかも 11 2750 吾妹子   不相久     馬下乃   阿倍橘乃    蘿生左右 わぎもこに あはずひさしも うましもの あべたちばなの こけむすまでに 11 2751 味乃住   渚沙乃入江之  荒礒松   我乎待兒等波  但一耳 あぢのすむ すさのいりえの ありそまつ あをまつこらは ただひとりのみ 11 2752 吾妹兒乎  聞都賀野邊能  靡合歡木  吾者隠不得    間無念者 わぎもこを ききつがのへの しなひねぶ あれはしのびえず まなくしおもへば 11 2753 浪間従   所見小嶋之   濱久木   久成奴     君尓不相四手 なみのまゆ みゆるこしまの はまひさぎ ひさしくなりぬ きみにあはずして 11 2754 朝柏    閏八河邊之   小竹之眼笶 思而宿者    夢所見来 あさがしは うるやかはへの しののめの しのひてぬれば いめにみえけり 11 2755 淺茅原   苅標刺而    空事文   所縁之君之   辞鴛鴦将待 あさぢはら かりしめさして むなことも よそりしきみが ことをしまたむ 11 2756 月草之   借有命      在人乎   何知而鹿    後毛将相云 つきくさの かりなるいのちに あるひとを いかにしりてか のちもあはむといふ 11 2757 王之    御笠尓縫有   在間菅   有管雖看    事無吾妹 おほきみの みかさにぬへる ありますげ ありつつみれど ことなしわぎも 11 2758 菅根之   懃妹尓     戀西    益卜男心    不所念鳧 すがのねの ねもころいもに こふるにし ますらをごころ おもほえぬかも 11 2759 吾屋戸之  穂蓼古幹    採生之   實成左右二   君乎志将待 わがやどの ほたでふるから つみおほし みになるまでに きみをしまたむ 11 2760 足桧之   山澤佪具乎   採将去    日谷毛相為   母者責十方 あしひきの やまさはゑぐを つみにゆかむ ひだにもあはせ はははせむとも 11 2761 奥山之   石本菅乃    根深毛   所思鴨     吾念妻者 おくやまの いはもとすげの ねふかくも おもほゆるかも あがおもひづまは 11 2762 蘆垣之   中之似兒草   尓故余漢  我共咲為而   人尓所知名 あしかきの なかのにこぐさ にこよかに われとゑまして ひとにしらゆな 11 2763 紅之    淺葉乃野良尓  苅草乃   束之間毛    吾忘渚菜 くれなゐの あさはののらに かるかやの つかのあひだも あをわすらすな 11 2764 為妹    壽遺在     苅薦之   念乱而     應死物乎 いもがため いのちのこせり かりこもの おもひみだれて しなましものを 11 2765 吾妹子尓  戀乍不有者    苅薦之   思乱而     可死鬼乎 わぎもこに こひつつあらずは かりこもの おもひみだれて しなましものを 11 2766 三嶋江之  入江之薦乎   苅尓社   吾乎婆公者   念有来 みしまえの いりえのこもを かりにこそ あれをばきみは おもひたりけれ 11 2767 足引乃   山橘之     色出而    吾戀南雄     人目難為名 あしひきの やまたちばなの いろにいでて あれはこひなむを ひとめかたみすな 11 2768 葦多頭乃  颯入江乃    白菅乃   知為等     乞痛鴨 あしたづの さわくいりえの しらすげの しらせむためと こちたくあるかも 11 2769 吾背子尓  吾戀良久者   夏草之   苅除十方    生及如 わがせこに あがこふらくは なつくさの かりそくれども おひしくごとし 11 2770 道邊乃   五柴原能    何時毛〃〃〃 人之将縦    言乎思将待 みちのべの いつしばはらの いつもいつも ひとのゆるさむ ことをしまたむ 11 2771 吾妹子之  袖乎憑而    真野浦之   小菅乃笠乎   不著而来二来有 わぎもこが そでをたのみて まののうらの こすげのかさを きずてきにけり 11 2772 真野池之   小菅乎笠尓   不縫為而  人之遠名乎   可立物可 まののいけの こすげをかさに ぬはずして ひとのとほなを たつべきものか 11 2773 刺竹    齒隠有     吾背子之  吾許不来者   吾将戀八方 さすたけの よごもりてあれ わがせこが わがりしこずは あれこひめやも 11 2774 神南備能  淺小竹原乃   美     妾思公之    聲之知家口 かむなびの あさじのはらの うるはしみ あがもふきみが こゑのしるけく 11 2775 山高    谷邊蔓在    玉葛    絶時無     見因毛欲得 やまだかみ たにへにはへる たまかづら たゆるときなく みむよしもがも 11 2776 道邊    草冬野丹    履干    吾立待跡    妹告乞 みちのべの くさをふゆのに ふみからし われたちまつと いもにつげこそ ○ 11 2777 疊薦    隔編數     通者    道之柴草    不生有申尾 たたみこも へだてあむかず かよはさば みちのしばくさ おひずあらましを 11 2778 水底尓   生玉藻之    生不出    縦比者     如是而将通 みなそこに おふるたまもの おひはいでず よしこのころは かくてかよはむ 11 2779 海原之   奥津縄乗    打靡    心裳四怒尓   所念鴨 うなはらの おきつなはのり うちなびく こころもしのに おもほゆるかも 11 2780 紫之    名高乃浦之   靡藻之   情者妹尓    因西鬼乎 むらさきの なたかのうらの なびきもの こころはいもに よりにしものを 11 2781 海底    奥乎深目手   生藻之   最今社     戀者為便無寸 わたのそこ おきをふかめて おふるもの もともいまこそ こひはすべなき 11 2782 左寐蟹齒  孰共毛宿常   奥藻之   名延之君之   言待吾乎 さぬがには たれともねめど おきつもの なびきしきみが ことまつわれを 11 2783 吾妹子之  奈何跡裳吾   不思者   含花之     穂應咲 わぎもこが なにともわれを おもはずは ふふめるはなの ほにさきぬべし 11 2784 隠庭    戀而死鞆    三苑原之  鷄冠草花乃    色二出目八方 こもりには こひてしぬとも みそのふの からあゐのはなの いろにいでめやも 11 2785 開花者   雖過時有     我戀流   心中者     止時毛梨 さくはなは すぐるときあれど あがこふる こころのうちは やむときもなし 11 2786 山振之   尓保敝流妹之  翼酢色乃   赤裳之為形   夢所見管 やまぶきの にほへるいもが はねずいろの あかものすがた いめにみえつつ 11 2787 天地之   依相極      玉緒之   不絶常念    妹之當見津 あめつちの よりあひのきはみ たまのをの たえじとおもふ いもがあたりみつ 11 2788 生緒尓   念者苦     玉緒乃   絶天乱名    知者知友 いきのをに おもへばくるし たまのをの たえてみだれな しらばしるとも 11 2789 玉緒之   絶而有戀之   乱者    死巻耳其    又毛不相為而 たまのをの たえたるこひの みだれなば しなまくのみぞ またもあはずして 11 2790 玉緒之   久栗縁乍    末終    去者不別    同緒将有 たまのをの くくりよせつつ すゑつひに ゆきはわかれず おやじをにあらむ 11 2791 片絲用    貫有玉之    緒乎弱   乱哉為南    人之可知 かたいともち ぬきたるたまの ををよわみ みだれやしなむ ひとのしるべく 11 2792 玉緒之   寫意哉     年月乃   行易及     妹尓不逢将有 たまのをの うつしこころや としつきの ゆきかはるまで いもにあはずあらむ 11 2793 玉緒之   間毛不置    欲見    吾思妹者    家遠在而 たまのをの あひだもおかず みまくほり あがもふいもは いへどほくして 11 2794 隠津之   澤立見尓有   石根従毛  達而念      君尓相巻者 こもりづの さはたつみなる いはねゆも とほしてぞおもふ きみにあはまくは 11 2795 木國之   飽等濱之    忘貝    我者不忘    年者雖歴 きのくにの あくらのはまの わすれがひ あれはわすれじ としはへぬとも 11 2796 水泳    玉尓接有    礒貝之   獨戀耳     年者経管 みづくくる たまにまじれる いそかひの かたこひのみに としはへにつつ 11 2797 住吉之   濱尓縁云    打背貝   實無言以    余将戀八方 すみのえの はまによるとふ うつせかひ みなきこともち あれこひめやも 11 2798 伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓   潜云    鰒貝之     獨念荷指天 いせのあまの  あさなゆふなに かづくとふ あはびのかひの かたもひにして 11 2799 人事乎   繁跡君乎    鶉鳴    人之古家尓   相語而遣都 ひとごとを しげみときみを うづらなく ひとのふるへに かたらひてやりつ 11 2800 旭時等   鷄鳴成     縦恵也思  獨宿夜者    開者雖明 あかときと かけはなくなり よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも 11 2801 大海之   荒礒之渚鳥   朝名旦名  見巻欲乎    不所見公可聞 おほうみの ありそのすどり あさなさな みまくほしきを みえぬきみかも 11 2802 念友    念毛金津    足桧之   山鳥尾之    永此夜乎 或本歌曰 足日木乃  山鳥之尾乃   四垂尾乃  永長夜乎    一鴨将宿 おもへども おもひもかねつ あしひきの やまどりのをの ながきこのよを   あしひきの やまどりのをの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ 11 2803 里中尓   鳴奈流鷄之   喚立而   甚者不鳴    隠妻羽毛 一云 里動    鳴成鷄 さとなかに なくなるかけの よびたてて いたくはなかぬ こもりづまはも さととよめ なくなるかけの 11 2804 高山尓   高部左渡    高〃尓   余待公乎    待将出可聞 たかやまに たかべさわたり たかたかに あがまつきみを まちいでむかも 11 2805 伊勢能海従  鳴来鶴乃    音杼侶毛  君之所聞者   吾将戀八方 いせのうみゆ なきくるたづの おとどろも きみしきこさば あれこひめやも 11 2806 吾妹兒尓  戀尓可有牟    奥尓住   鴨之浮宿之   安雲無 わぎもこに こふれにかあらむ おきにすむ かものうきねの やすけくもなき 11 2807 可旭    千鳥數鳴    白細乃   君之手枕    未猒君 あけぬべく ちどりしばなく しろたへの きみがたまくら いまだあかなくに 11 2808 問答 11 2808 眉根掻   鼻火紐解    待八方   何時毛将見跡  戀来吾乎 まよねかき はなひひもとけ まてりやも いつかもみむと こひこしあれを 11 2808 右上見柿本朝臣人麻呂之歌中 但以問答故累載於玆也 11 2809 今日有者  鼻火鼻火之   眉可由見  思之言者    君西在来 けふなれば はなひはなひし まよかゆみ おもひしことは きみにしありけり 11 2809 右二首 11 2810 音耳乎   聞而哉戀    犬馬鏡   直目相而    戀巻裳太口 おとのみを ききてやこひむ まそかがみ ただめにあひて こひまくもいたく 11 2811 此言乎   聞跡平     真十鏡    照月夜裳   闇耳見 このことを きかむとならし まそかがみ てれるつくよも やみのみにみゆ 11 2811 右二首 11 2812 吾妹兒尓  戀而為便無三  白細布之  袖反之者    夢所見也 わぎもこに こひてすべなみ しろたへの そでかへししは いめにみえきや 11 2813 吾背子之  袖反夜之    夢有之    真毛君尓    如相有 わがせこが そでかへすよの いめにあらし まこともきみに あへりしごとし 11 2813 右二首 11 2814 吾戀者   名草目金津   真氣長   夢不所見而   年之経去礼者 あがこひは なぐさめかねつ まけながく いめにみえずて としのへぬれば 11 2815 真氣永   夢毛不所見   雖絶    吾之片戀者   止時毛不有 まけながく いめにもみえず たゆれども あがかたこひは やむときもなし 11 2815 右二首 11 2816 浦觸而   物莫念     天雲之   絶多不心    吾念莫國 うらぶれて ものなおもひそ あまくもの たゆたふこころ わがおもはなくに 11 2817 浦觸而   物者不念    水無瀬川  有而毛水者   逝云物乎 うらぶれて ものはおもはじ みなせがは ありてもみづは ゆくといふものを 11 2817 右二首 11 2818 垣津旗   開沼之菅乎   笠尓縫   将著日乎待尓  年曽経去来 かきつはた さきぬのすげを かさにぬひ きむひをまつに としぞへにける 11 2819 臨照   難波菅笠    置古之   後者誰将著   笠有莫國 おしてる なにはすがかさ おきふるし のちはたがきむ かさにあらなくに 11 2819 右二首 11 2820 如是谷裳  妹乎待南    左夜深而  出来月之    傾二手荷 かくだにも いもをまちなむ さよふけて いでくるつきの かたぶくまでに 11 2821 木間従   移歴月之    影惜     俳佪尓     左夜深去家里 このまより うつろふつきの かげををしみ たちもとほるに さよふけにけり 11 2821 右二首 11 2822 栲領巾乃  白濱浪乃    不肯縁    荒振妹尓    戀乍曽居 一云 戀流己呂可母 たくひれの しらはまなみの よりもあへず あらぶるいもに こひつつぞをる こふるころかも 11 2823 加敝良末尓 君社吾尓    栲領巾之  白濱浪乃    縁時毛無 かへらまに きみこそわれに たくひれの しらはまなみの よるときもなき 11 2823 右二首 11 2824 念人    将来跡知者   八重六倉  覆庭尓     珠布益乎 おもふひと こむとしりせば やへむぐら おほへるにはに たましかましを 11 2825 玉敷有   家毛何将為   八重六倉  覆小屋毛    妹与居者 たましける いへもなにせむ やへむぐら おほへるをやも いもとをりてば 11 2825 右二首 11 2826 如是為乍  有名草目手   玉緒之   絶而別者    為便可無 かくしつつ ありなぐさめて たまのをの たえてわかれば すべなかるべし 11 2827 紅     花西有者    衣袖尓   染著持而    可行所念 くれなゐの はなにしあらば ころもでに そめつけもちて ゆくべくおもほゆ 11 2827 右二首 11 2828 譬喩 11 2828 紅之    深染乃衣乎   下著者   人之見久尓   仁寳比将出鴨 くれなゐの こそめのきぬを したにきば ひとのみらくに にほひいでむかも 11 2829 衣霜    多在南      取易而   著者也君之   面忘而有 ころもしも さはにもあらなむ とりかへて きればやきみが おもわすれたる 11 2829 右二首寄衣喩思 11 2830 梓弓    弓束巻易    中見刺   更雖引     君之随意 あづさゆみ ゆづかまきかへ なかみさし さらにひくとも きみがまにまに 11 2830 右一首寄弓喩思 11 2831 水沙兒居  渚座船之    夕塩乎   将待従者    吾社益 みさごゐる すにをるふねの ゆふしほを まつらむよりは われこそまされ 11 2831 右一首寄船喩思 11 2832 山河尓   筌乎伏而   不肯盛    年之八歳乎   吾竊儛師 やまがはに うへをふせて もりもあへず としのやとせを わがぬすまひし 11 2832 右一首寄魚喩思 11 2833 葦鴨之   多集池水    雖溢    儲溝方尓    吾将越八方 あしがもの すだくいけみづ はふるとも まけみぞのへに われこえめやも 11 2833 右一首寄水喩思 11 2834 日本之  室原乃毛桃   本繁    言大王物乎   不成不止 やまとの むろふのけもも もとしげく いひてしものを ならずはやまじ 11 2834 右一首寄菓喩思 11 2835 真葛延   小野之淺茅乎  自心毛   人引目八面   吾莫名國 まくずはふ をののあさぢを こころゆも ひとひかめやも われなけなくに 11 2836 三嶋菅   未苗在     時待者   不著也将成   三嶋菅笠 みしますげ いまだなへなり ときまたば きずやなりなむ みしますがかさ 11 2837 三吉野之  水具麻我菅乎  不編尓   苅耳苅而    将乱跡也 みよしのの みぐまがすげを あまなくに かりのみかりて みだりてむとや 11 2838 河上尓   洗若菜之    流来而   妹之當乃    瀬社因目 かはかみに あらふわかなの ながれきて いもがあたりの せにこそよらめ 11 2838 右四首寄草喩思 11 2839 如是為哉  猶八成牛鳴   大荒木之   浮田之社之   標尓不有尓 かくしてや なほやなりなむ おほあらきの うきたのもりの しめにあらなくに 11 2839 右一首寄標喩思 11 2840 幾多毛   不零雨故    吾背子之  三名乃幾許   瀧毛動響二 いくばくも ふらぬあめゆゑ わがせこが みなのここだく たぎもとどろに 11 2840 右一首寄瀧喩思 12 2841 正述心緒 12 2841 我背子之  朝明形     吉不見   今日間     戀暮鴨 わがせこが あさけのすがた よくみずて けふのあひだを こひくらすかも 12 2842 我心    等望使念     新夜    一夜不落    夢見与 あがこころ ともしみおもへば あらたよの ひとよもおちず いめにみえこそ 12 2843 愛     我念妹     人皆    如去見耶    手不纒為 うつくしと あがもふいもを ひとみなの ゆくごとみめや てにまかずして 12 2844 比日    寐之不寐    敷細布   手枕纒     寐欲 このころの いのねらえぬは しきたへの たまくらまきて ねまくほりこそ 12 2845 忘哉    語       意遣    雖過不過    猶戀 わするやと ものがたりして なぐさめて すぐせどすぎず なほこひにけり 12 2846 夜不寐   安不有     白細布   衣不脱     及直相 よるもねず やすくもあらず しろたへの ころもはぬかじ ただにあふまでに 12 2847 後相     吾莫戀      妹雖云    戀間      年経乍 のちもあはむ あれになこひそと いもはいへど こふるあひだに としはへにつつ 12 2848 直不相    有諾      夢谷    何人      事繁 或本歌曰 寤者    諾毛不相     夢左倍 ただにあはず あるはうべなり いめにだに なにしかひとの ことのしげけむ うつつには うべもあはなくに いめにさへ 12 2849 烏玉    彼夢      見継哉   袖乾日無    吾戀矣 ぬばたまの そのいめにだに みえつぐや そでふるひなく あれはこふるを 12 2850 現     直不相     夢谷    相見与     我戀國 うつつには ただにはあはず いめにだに あふとみえこそ あがこふらくに 12 2851 寄物陳思 12 2851 人所見    表結      人不見    裏紐開     戀日太 ひとにみゆる うへはむすびて ひとにみえぬ したびもあけて こふるひぞおほき 12 2852 人言    繁時      吾妹    衣有       裏服矣 ひとごとの しげきときには わぎもこは ころもにあらなむ したにきましを 12 2853 真珠服   遠兼      念     一重衣     一人服寐 またまつく をちをしかねて おもへこそ ひとへのころも ひとりきてぬれ 12 2854 白細布   我紐緒     不絶間   戀結為     及相日 しろたへの わがひものをの たえぬまに こひむすびせむ あはむひまでに 12 2855 新治    今作路     清     聞鴨      妹於事矣 にひばりの いまつくるみち さやかにも ききてけるかも いもがうへのことを 12 2856 山代    石田社     心鈍     手向為在    妹相難 やましろの いはたのもりに こころおそく たむけしたれや いもにあひがたき 12 2857 菅根之   惻隠〃〃    照日    乾哉吾袖    於妹不相為 すがのねの ねもころごろに てるひにも ひめやわがそで いもにあはずして 12 2858 妹戀    不寐朝     吹風    妹経者     吾与経 いもにこひ いねぬあさけに ふくかぜは いもにしふれば われとふれなむ 12 2859 飛鳥川   奈川柴避越   来     信今夜     不明行哉 あすかがは なづさひわたり こしものを まことこよひは あけずもゆかぬか 12 2860 八釣川   水底不絶    行水    續戀      是比歳 或本歌曰 水尾母不絶 やつりがは みなそこたえず ゆくみづの つぎてぞこふる このとしころを  みをもたえせず 12 2861 礒上 生小松 名惜 人不知 戀渡鴨 或本歌曰 巖上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨 いそのうへに おふるこまつの なををしみ ひとにしらえず こひわたるかも いはのうへに たてるこまつの なををしみ ひとにはいはず こひわたるかも 12 2862 山川    水陰生      山草    不止妹     所念鴨 やまがはの みづかげにおふる やますげの やまずもいもは おもほゆるかも 12 2863 淺葉野   立神古     菅根    惻隠誰故     吾不戀  或本歌曰 誰葉野尓  立志奈比垂 あさはのに たちかむさぶる すがのねの ねもころたがゆゑ あがこひなくに   たがはのに たちしなひたる 12 2863 右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出 12 2864 正述心緒 12 2864 吾背子乎  且今〃〃跡  待居尓  夜更深去者  嘆鶴鴨 わがせこを いまかいまかと まちをるに よのふけゆけば なげきつるかも 12 2865 玉釼  巻宿妹母  有者許増  夜之長毛  歡有倍吉 たまくしろ まきぬるいもも あらばこそ よのながけくも うれしくあるべき 12 2866 人妻尓  言者誰事  酢衣乃  此紐解跡  言者孰言 ひとづまに いふはたがこと さごろもの このひもとけと いふはたがこと 12 2867 如是許   将戀物其跡   知者    其夜者由多尓  有益物乎 かくばかり こひむものぞと しらませば そのよはゆたに あらましものを 12 2868 戀乍毛   後将相跡    思許増   己命乎     長欲為礼 こひつつも のちもあはむと おもへこそ おのがいのちを ながくほりすれ 12 2869 今者吾者   将死与吾妹   不相而   念渡者     安毛無 いまはあれは しなむよわぎも あはずして おもひわたれば やすけくもなし 12 2870 我背子之  将来跡語之   夜者過去  思咲八更〃   思許理来目八面 わがせこが きなむといひし よはすぎぬ しゑやさらさら しこりこめやも 12 2871 人言之   讒乎聞而    玉桙之   道毛不相常    云吾妹 ひとごとの よこすをききて たまほこの みちにもあはじと いへりしわぎも 12 2872 不相毛   懈常念者    弥益二   人言繁     所聞来可聞 あはなくも うしとおもへば いやましに ひとごとしげく きこえくるかも 12 2873 里人毛   謂告我祢    縦咲也思  戀而毛将死   誰名将有哉 さとびとも かたりつぐがね よしゑやし こひてもしなむ たがなならめや 12 2874 慥     使乎無跡    情乎曽   使尓遣之    夢所見哉 たしかなる つかひをなみと こころをぞ つかひにやりし いめにみえきや 12 2875 天地尓   小不至     大夫跡   思之吾耶    雄心毛無寸 あめつちに すこしいたらぬ ますらをと おもひしわれや をごころもなき 12 2876 里近    家哉應居    此吾目之   人目乎為乍   戀繁口 さとちかく いへやをるべき このあがめの ひとめをしつつ こひのしげけく 12 2877 何時奈毛  不戀有登者   雖不有   得田直比来   戀之繁母 いつはなも こひずありとは あらねども うたてこのころ こひししげしも 12 2878 黒玉之   宿而之晩乃   物念尓   割西匈者    息時裳無 ぬばたまの いねてしよひの ものもひに さけにしむねは やむときもなし 12 2879 三空去   名之惜毛    吾者無   不相日數多   年之経者 みそらゆく なのをしけくも われはなし あはぬひまねく としのへぬれば 12 2880 得管二毛  今毛見壮鹿   夢耳    手本纒宿登   見者辛苦毛 或本歌發句云 吾妹兒乎 うつつにも いまもみてしか いめのみに たもとまきぬと みればくるしも      わぎもこを 12 2881 立而居   為便乃田時毛  今者無   妹尓不相而   月之経去者 或本歌曰 君之目不見而  月之経去者 たちてゐて すべのたどきも いまはなし いもにあはずて つきのへぬれば    きみがめみずて つきのへぬれば 12 2882 不相而   戀度等母    忘哉    弥日異者    思益等母 あはずして こひわたるとも わすれめや いやひにけには おもひますとも 12 2883 外目毛   君之光儀乎   見而者社  吾戀山目    命不死者 一云 壽向      吾戀止目 よそめにも きみがすがたを みてばこそ あがこひやまめ いのちしなずは いのちにむかふ あがこひやまめ 12 2884 戀管母   今日者在目杼  玉匣    将開明日    如何将暮 こひつつも けふはあらめど たまくしげ あけなむあすを いかにくらさむ 12 2885 左夜深而  妹乎念出    布妙之   枕毛衣世二   嘆鶴鴨 さよふけて いもをおもひで しきたへの まくらもそよに なげきつるかも 12 2886 他言者   真言痛     成友    彼所将障    吾尓不有國 ひとごとは まことこちたく なりぬとも そこにさはらむ われにあらなくに 12 2887 立居    田時毛不知   吾意    天津空有    土者踐鞆 たちてゐて たどきもしらず あがこころ あまつそらなり つちはふめども 12 2888 世間之   人辞常     所念莫   真曽戀之    不相日乎多美 よのなかの ひとのことばと おもほすな まことぞこひし あはぬひをおほみ 12 2889 乞如何   吾幾許戀流    吾妹子之  不相跡言流   事毛有莫國 いでいかに あがここだこふる わぎもこが あはじといへる こともあらなくに 12 2890 夜干玉之  夜乎長鴨    吾背子之  夢尓夢西    所見還良武 ぬばたまの よをながみかも わがせこが いめにいめにし みえかへるらむ 12 2891 荒玉之   年緒長     如此戀者  信吾命      全有目八面 あらたまの としのをながく かくこひば まことわがいのち またくあらめやも 12 2892 思遣    為便乃田時毛  吾者無   不相數多    月之経去者 おもひやる すべのたどきも われはなし あはずてまねく つきのへぬれば 12 2893 朝去而    暮者来座    君故尓   忌〃久毛吾者   歎鶴鴨 あしたゆきて ゆふべはきます きみゆゑに ゆゆしくもあれは なげきつるかも 12 2894 従聞    物乎念者    我匈者   破而摧而    鋒心無 ききしより ものをおもへば あがむねは われてくだけて とごころもなし 12 2895 人言乎   繁三言痛三   我妹子二  去月従     未相可母 ひとごとを しげみこちたみ わぎもこに いにしつきより いまだあはぬかも 12 2896 歌方毛   曰管毛有鹿    吾有者   地庭不落    空消生 うたがたも いひつつもあるか われならば つちにはおちじ そらにけなまし 12 2897 何      日之時可毛   吾妹子之  裳引之容儀   朝尓食尓将見 いかにあらむ ひのときにかも わぎもこが もびきのすがた あさにけにみむ 12 2898 獨居而   戀者辛苦    玉手次   不懸将忘    言量欲 ひとりゐて こふればくるし たまだすき かけずわすれむ ことはかりもが 12 2899 中〃二   黙然毛有申尾   小豆無   相見始而毛   吾者戀香 なかなかに もだもあらましを あづきなく あひみそめても あれはこふるか 12 2900 吾妹子之  咲眉引     面影    懸而本名    所念可毛 わぎもこが ゑまひまよびき おもかげに かかりてもとな おもほゆるかも 12 2901 赤根指   日之暮去者   為便乎無三 千遍嘆而    戀乍曽居 あかねさす ひのくれゆけば すべをなみ ちたびなげきて こひつつぞをる 12 2902 吾戀者   夜晝不別    百重成   情之念者     甚為便無 あがこひは よるひるわかず ももへなす こころしおもへば いたもすべなし 12 2903 五十殿寸太 薄寸眉根乎   徒     令掻管     不相人可母 いとのきて うすきまよねを いたづらに かかしめつつも あはぬひとかも 12 2904 戀〃而   後裳将相常   名草漏   心四無者    五十寸手有目八面 こひこひて のちもあはむと なぐさもる こころしなくは いきてあらめやも 12 2905 幾     不生有命乎    戀管曽   吾者氣衝    人尓不所知 いくばくも いけらじいのちを こひつつぞ あれはいきづく ひとにしらえず 12 2906 他國尓   結婚尓行而   大刀之緒毛 未解者     左夜曽明家流 ひとくにに よばひにゆきて たちがをも いまだとかねば さよぞあけにける 12 2907 大夫之   聡神毛     今者無   戀之奴尓    吾者可死 ますらをの さときこころも いまはなし こひのやつこに われはしぬべし 12 2908 常如是   戀者辛苦    蹔毛    心安目六    事計為与 つねかくし こふればくるし しましくも こころやすめむ ことはかりせよ 12 2909 凡尓    吾之念者    人妻尓   有云妹尓     戀管有米也 おほろかに われしおもはば ひとづまに ありといふいもに こひつつあらめや 12 2910 心者    千重百重    思有杼   人目乎多見   妹尓不相可母 こころには ちへにももへに おもへれど ひとめをおほみ いもにあはぬかも 12 2911 人目多見   眼社忍礼    小毛    心中尓     吾念莫國 ひとめおほみ めこそしのぶれ すくなくも こころのうちに わがおもはなくに 12 2912 人見而   事害目不為   夢尓吾   今夜将至    屋戸閇勿勤 ひとのみて こととがめせぬ いめにわれ こよひいたらむ やどさすなゆめ 12 2913 何時左右二 将生命曽    凡者    戀乍不有者    死上有 いつまでに いかむいのちぞ おほかたは こひつつあらずは しなましものを 12 2914 愛等    念吾妹乎    夢見而   起而探尓    無之不怜 うつくしと おもふわぎもを いめにみて おきてさぐるに なきがさぶしさ 12 2915 妹登曰者   無礼恐     然為蟹   懸巻欲     言尓有鴨 いもといはば なめしかしこし しかすがに かけまくほしき ことにあるかも 12 2916 玉勝間   相登云者    誰有香   相有時左倍   面隠為 たまかつま あはむといふは たれなるか あへるときさへ おもかくしする 12 2917 寤香    妹之来座有   夢可毛   吾香惑流    戀之繁尓 うつつにか いもがきませる いめにかも あれかまとへる こひのしげきに 12 2918 大方者   何鴨将戀    言擧不為   妹尓依宿牟   年者近綬 おほかたは なにかもこひむ ことあげせず いもによりねむ としはちかきを 12 2919 二為而   結之紐乎    一為而   吾者解不見   直相及者 ふたりして むすびしひもを ひとりして あれはときみじ ただにあふまでは 12 2920 終命     此者不念    唯毛    妹尓不相    言乎之曽念 しなむいのち ここはおもはず ただしくも いもにあはざる ことをしぞおもふ 12 2921 幼婦者   同情      須臾    止時毛無久   将見等曽念 たわやめは おなじこころに しましくも やむときもなく みてむとぞおもふ 12 2922 夕去者  於君将相跡    念許増   日之晩毛    悞有家礼 ゆふさらば きみにあはむと おもへこそ ひのくるらくも うれしくありけれ 12 2923 直今日毛  君尓波相目跡   人言乎   繁不相而    戀度鴨 ただけふも きみにはあはめど ひとごとを しげみあはずて こひわたるかも 12 2924 世間尓   戀将繁跡    不念者   君之手本乎   不枕夜毛有寸 よのなかに こひしげけむと おもはねば きみがたもとを まかぬよもありき 12 2925 緑兒之   為社乳母者   求云     乳飲哉君之   於毛求覧 みどりこの ためこそおもは もとむといへ ちのめやきみが おももとむらむ 12 2926 悔毛    老尓来鴨    我背子之  求流乳母尓   行益物乎 くやしくも おいにけるかも わがせこが もとむるおもに ゆかましものを 12 2927 浦觸而   可例西袖叨   又巻者   過西戀以    乱今可聞 うらぶれて かれにしそでを またまかば すぎにしこひい みだれこむかも 12 2928 各寺師   人死為良思   妹尓戀   日異羸沼    人丹不所知 おのがじし ひとしにすらし いもにこひ ひにけにやせぬ ひとにしらえず 12 2929 夕〃    吾立待尓    若雲    君不来益者   應辛苦 よひよひに あがたちまつに けだしくも きみきまさずは くるしくあるべし 12 2930 生代尓   戀云物乎     相不見者  戀中尓毛    吾曽苦寸 いけるよに こひといふものを あひみねば こひのうちにも われぞくるしき 12 2931 念管    座者苦毛    夜干玉之  夜尓至者    吾社湯龜 おもひつつ をればくるしも ぬばたまの ゆふべにならば われこそゆかめ 12 2932 情庭    燎而念杼    虚蝉之   人目乎繁    妹尓不相鴨 こころには もえておもへど うつせみの ひとめをおほみ いもにあはぬかも 12 2933 不相念    公者雖座    肩戀丹   吾者衣戀    君之光儀 あひおもはず きみはまさめど かたこひに あれはぞこふる きみがすがたに 12 2934 味澤相   目者非不飽   携     不問事毛    苦勞有来 あぢさはふ めはあかざらね たづさはり こととはなくも くるしくありけり 12 2935 璞之    年緒永     何時左右鹿 我戀将居    壽不知而 あらたまの としのをながく いつまでか あがこひをらむ いのちしらずて 12 2936 今者吾者   指南与我兄   戀為者   一夜一日毛   安毛無 いまはあれは しなむよわがせ こひすれば ひとよひとひも やすけくもなし 12 2937 白細布之  袖折反     戀者香   妹之容儀乃   夢二四三湯流 しろたへの そでをりかへし こふればか いもがすがたの いめにしみゆる 12 2938 人言乎   繁三毛人髪三  我兄子乎  目者雖見    相因毛無 ひとごとを しげみこちたみ わがせこを めにはみれども あふよしもなし 12 2939 戀云者    薄事有     雖然    我者不忘    戀者死十方 こひといへば うすきことなり しかれども あれはわすれじ こひはしぬとも 12 2940 中〃二   死者安六    出日之   入別不知    吾四九流四毛 なかなかに しなばやすけむ いづるひの いるわきしらぬ われしくるしも 12 2941 念八流   跡状毛我者   今者無   妹二不相而   年之経行者 おもひやる たどきもわれは いまはなし いもにあはずて としのへぬれば 12 2942 吾兄子尓  戀跡二四有四   小兒之   夜哭乎為乍   宿不勝苦者 わがせこに こふとにしあらし みどりこの よなきをしつつ いねかてなくは 12 2943 我命之 長欲家口 偽乎 好為人乎 執許乎 わがいのちの ながくほしけく いつはりを よくするひとを とらふばかりを 12 2944 人言    繁跡妹     不相    情裏      戀比日 ひとごとを しげみといもに あはずして こころのうちに こふるこのころ 12 2945 玉梓之   君之使乎    待之夜乃  名凝其今毛   不宿夜乃大寸 たまづさの きみがつかひを まちしよの なごりぞいまも いねぬよのおほき 12 2946 玉桙之   道尓行相而    外目耳毛  見者吉子乎   何時鹿将待 たまほこの みちにゆきあひて よそめにも みればよきこを いつとかまたむ 12 2947 念西    餘西鹿齒    為便乎無美 吾者五十日手寸 應忌鬼尾 或本歌曰 門出而    吾反側乎    人見監可毛 一云 無乏    出行      家當見 柿本朝臣人麻呂歌集云 尓保鳥之  奈津柴比来乎  人見鴨 おもふにし あまりにしかば すべをなみ われはいひてき いむべきものを   かどにいでて わがこいふすを ひとみけむかも  すべをなみ いでてぞゆきし いへのあたりみに       にほどりの なづさひこしを ひとみけむかも 12 2948 明日者   其門将去    出而見与  戀有容儀    數知兼 あすのひは そのかどゆかむ いでてみよ こひたるすがた あまたしるけむ 12 2949 得田價異  心欝悒     事計    吉為吾兄子   相有時谷 うたてけに こころいぶせし ことはかり よくせわがせこ あへるときだに 12 2950 吾妹子之  夜戸出乃光儀  見而之従  情空有     地者雖踐 わぎもこが よとでのすがた みてしより こころそらなり つちはふめども 12 2951 海石榴市之 八十衢尓    立平之   結紐乎     解巻惜毛 つばきちの やそのちまたに たちならし むすびしひもを とかまくをしも 12 2952 吾齡之    衰去者     白細布之  袖乃狎尓思   君乎母准其念 わがいのちの おとろへぬれば しろたへの そでのなれにし きみをしぞおもふ 12 2953 戀君    吾哭涕     白妙    袖兼所漬    為便母奈之 きみにこひ わがなくなみた しろたへの そでさへひちて せむすべもなし 12 2954 従今者   不相跡為也   白妙之   我衣袖之    干時毛奈吉 いまよりは あはじとすれや しろたへの あがころもでの ふるときもなき 12 2955 夢可登  情班      月數多   干西君之    事之通者 いめかと こころはまとふ つきまねく かれにしきみが ことのかよへば 12 2956 未玉之   年月兼而    烏玉乃   夢尓所見    君之容儀者 あらたまの としつきかねて ぬばたまの いめにみえけり きみがすがたは 12 2957 従今者   雖戀妹尓    将相哉母  床邊不離    夢尓所見乞 いまよりは こふともいもに あはめやも とこのべさらず いめにみえこそ 12 2958 人見而   言害目不為   夢谷    不止見与    我戀将息 或本歌頭云 人目多    直者不相 ひとのみて こととがめせぬ いめにだに やまずみえこそ あがこひやまむ    ひとめおほみ ただにはあはず 12 2959 現者    言絶有     夢谷    嗣而所見与   直相左右二 うつつには こともたえたり いめにだに つぎてみえこそ ただにあふまでに 12 2960 虚蝉之   宇都思情毛   吾者無   妹乎不相見而   年之経去者 うつせみの うつしこころも われはなし いもをあひみずて としのへぬれば 12 2961 虚蝉之   常辞登     雖念    継而之聞者   心遮焉 うつせみの つねのことばと おもへども つぎてしきけば こころはまとふ 12 2962 白細之   袖不數而宿   烏玉之   今夜者早毛   明者将開 しろたへの そでかれてぬる ぬばたまの こよひははやも あけなばあけなむ 12 2963 白細之   手本寛久    人之宿   味宿者不寐哉  戀将渡 しろたへの たもとゆたけく ひとのぬる うまいはねずや こひわたりなむ 12 2964 寄物陳思 12 2964 如是耳   在家流君乎   衣尓有者   下毛将著跡   吾念有家留 かくのみに ありけるきみを きぬにあらば したにもきむと あがもへりける 12 2965 橡之    袷衣      裏尓為者  吾将強八方   君之不来座 つるはみの あはせのころも うらにせば われしひめやも きみがきまさぬ 12 2966 紅     薄染衣     淺尓    相見之人尓   戀比日可聞 くれなゐの うすそめごろも あさらかに あひみしひとに こふるころかも 12 2967 年之経者  見管偲登    妹之言思   衣乃縫目    見者哀裳 としのへば みつつしのへと いもがいひし ころものぬひめ みればかなしも 12 2968 橡之    一重衣     裏毛無   将有兒故    戀渡可聞 つるはみの ひとへのころも うらもなく あるらむこゆゑ こひわたるかも 12 2969 解衣之   念乱而     雖戀    何之故其跡   問人毛無 とききぬの おもひみだれて こふれども なにのゆゑぞと とふひともなし 12 2970 桃花褐   淺等乃衣    淺尓    念而妹尓    将相物香裳 ももそめの あさらのころも あさらかに おもひていもに あはむものかも 12 2971 大王之   塩焼海部乃   藤衣    穢者雖為    弥希将見毛 おほきみの しほやくあまの ふぢころも なれはすれども いやめづらしも 12 2972 赤帛之   純裏衣     長欲    我念君之    不所見比者鴨 あかきぬの ひつらのころも ながくほり あがもふきみが みえぬころかも 12 2973 真玉就   越乞兼而    結鶴    言下紐之    所解日有米也 またまつく をちこちかねて むすびつる わがしたびもの とくるひあらめや 12 2974 紫     帶之結毛    解毛不見  本名也妹尓   戀度南 むらさきの おびのむすびも ときもみず もとなやいもに こひわたりなむ 12 2975 高麗錦   紐之結毛    解不放   齋而待杼    驗無可聞 こまにしき ひものむすびも ときさけず いはひてまてど しるしなきかも 12 2976 紫     我下紐乃    色尓不出   戀可毛将痩   相因乎無見 むらさきの わがしたびもの いろにいでず こひかもやせむ あふよしをなみ 12 2977 何故可   不思将有    紐緒之   心尓入而    戀布物乎 なにゆゑか おもはずあらむ ひものをの こころにいりて こほしきものを 12 2978 真十鏡   見座吾背子   吾形見   将持辰尓    将不相哉 まそかがみ みませわがせこ わがかたみ もてらむときに あはずあらめやも 12 2979 真十鏡   直目尓君乎   見者許増  命對      吾戀止目 まそかがみ ただめにきみを みてばこそ いのちにむかふ あがこひやまめ 12 2980 犬馬鏡   見不飽妹尓   不相而   月之経去者   生友名師 まそかがみ みあかぬいもに あはずして つきのへぬれば いけりともなし 12 2981 祝部等之  齋三諸乃    犬馬鏡   懸而偲     相人毎 はふりらが いはふみもろの まそかがみ かけてしのひつ あふひとごとに 12 2982 針者有杼   妹之無者    将著哉跡  吾乎令煩    絶紐之緒 はりはあれど いもしなければ つけめやと われをなやまし たゆるひものを 12 2983 高麗劔   己之景迹故   外耳    見乍哉君乎   戀渡奈牟 こまつるぎ ながこころから よそのみに みつつやきみを こひわたりなむ 12 2984 劔大刀   名之惜毛    吾者無   比来之間    戀之繁尓 つるぎたち なのをしけくも われはなし このころのまの こひのしげきに 12 2985 梓弓    末者師不知   雖然    真坂者君尓   縁西物乎 一本歌曰 梓弓    末乃多頭吉波  雖不知   心者君尓    因之物乎 あづさゆみ すゑはししらず しかれども まさかはきみに よりにしものを   あづさゆみ すゑのたづきは しらねども こころはきみに よりにしものを 12 2986 梓弓    引見縦見    思見而   既心齒     因尓思物乎 あづさゆみ ひきみゆるへみ おもひみて すでにこころは よりにしものを 12 2987 梓弓    引而不緩    大夫哉   戀云物乎    忍不得牟 あづさゆみ ひきてゆるへぬ ますらをや こひとふものを しのびかねてむ 12 2988 梓弓    末中一伏三起  不通有之  君者會奴    嗟羽将息 あづさゆみ すゑのなかころ よどめりし きみにはあひぬ なげきはやめむ 12 2989 今更    何壮鹿将念    梓弓    引見縦見    縁西鬼乎 いまさらに なにをかおもはむ あづさゆみ ひきみゆるへみ よりにしものを 12 2990 嫺嬬等之  續麻之多田有  打麻懸   續時無二    戀度鴨 をとめらが うみをのたたり うちそかけ うむときなしに こひわたるかも 12 2991 垂乳根之  母我養蚕乃   眉隠    馬聲蜂音石花蜘■[虫+厨]荒鹿 異母二不相而 たらちねの ははがかふこの まよごもり いぶせくもあるか       いもにあはずして 12 2992 玉手次   不懸者辛苦   懸垂者   續手見巻之   欲寸君可毛 たまだすき かけねばくるし かけたれば つぎてみまくの ほしききみかも 12 2993 紫     綵色之蘰    花八香尓  今日見人尓   後将戀鴨 むらさきの まだらのかづら はなやかに けふみしひとに のちこひむかも 12 2994 玉蘰    不懸時無    戀友    何如妹尓    相時毛名寸 たまかづら かけぬときなく こふれども なにしかいもに あふときもなき 12 2995 相因之   出来左右者   疊薦    重編數     夢西将見 あふよしの いでくるまでは たたみこも へだてあむかず いめにしみえむ 12 2996 白香付   木綿者花物   事社者   何時之真坂毛  常不所忘 しらかつく ゆふははなもの ことこそは いつのまさかも つねわすらえね 12 2997 石上    振之高橋    高〃尓   妹之将待    夜曽深去家留 いそのかみ ふるのたかはし たかたかに いもがまつらむ よぞふけにける 12 2998 湊入之    葦別小船    障多     今来吾乎    不通跡念莫 或本歌曰 湊入尓    蘆別小船    障多     君尓不相而   年曽経来 みなといりの あしわけをぶね さはりおほみ いまこむわれを よどむとおもふな   みなといりに あしわけをぶね さはりおほみ きみにあはずて としぞへにける 12 2999 水乎多    上尓種蒔    比要乎多   擇擢之業曽   吾獨宿 みづをおほみ あげにたねまき ひえをおほみ えらえしわざぞ あがひとりぬる 12 3000 霊合者   相宿物乎    小山田之  鹿猪田禁如   母之守為裳 一云 母之守之師 たまあはば あひねむものを をやまだの ししだもるごと ははしもらすも  ははがもらしし 12 3001 春日野尓  照有暮日之   外耳    君乎相見而   今曽悔寸 かすがのに てれるゆふひの よそのみに きみをあひみて いまぞくやしき 12 3002 足日木乃  従山出流    月待登   人尓波言而    妹待吾乎 あしひきの やまよりいづる つきまつと ひとにはいひて いもまつわれを 12 3003 夕月夜   五更闇之    不明    見之人故    戀渡鴨 ゆふづくよ あかときやみの おほほしく みしひとゆゑに こひわたるかも 12 3004 久堅之   天水虚尓    照月之   将失日社    吾戀止目 ひさかたの あまつみそらに てるつきの うせなむひこそ あがこひやまめ 12 3005 十五日   出之月乃    高〃尓   君乎座而    何物乎加将念 もちのひに いでにしつきの たかたかに きみをいませて なにをかおもはむ 12 3006 月夜好   門尓出立    足占為而   徃時禁八    妹二不相有 つくよよみ かどにいでたち あしうらして ゆくときさへや いもにあはずあらむ 12 3007 野干玉   夜渡月之    清者    吉見而申尾   君之光儀乎 ぬばたまの よわたるつきの さやけくは よくみてましを きみがすがたを 12 3008 足引之    山呼木高三  暮月乎   何時君乎    待之苦沙 あしひきの やまをこだかみ ゆふづきを いつかときみを まつがくるしさ 12 3009 橡之    衣解洗     又打山   古人尓者    猶不如家利 つるはみの きぬときあらひ まつちやま もとつひとには なほしかずけり 12 3010 佐保川之  川浪不立    静雲    君二副而    明日兼欲得 さほがはの かはなみたたず しづけくも きみにたぐひて あすさへもがも 12 3011 吾妹兒尓  衣借香之    宜寸川   因毛有額    妹之目乎将見 わぎもこに ころもかすがの よしきがは よしもあらぬか いもがめをみむ 12 3012 登能雲入  雨零川之    左射礼浪  間無毛君者   所念鴨 とのぐもり あめふるかはの さざれなみ まなくもきみは おもほゆるかも 12 3013 吾妹兒哉  安乎忘為莫   石上    袖振川之    将絶跡念倍也 わぎもこや あをわすらすな いそのかみ そでふるかはの たえむともへや 12 3014 神山之   山下響     逝水之   水尾不絶者   後毛吾妻 みわやまの やましたとよみ ゆくみづの みをしたえずは のちもわがつま 12 3015 如神    所聞瀧之    白浪乃   面知君之    不所見比日 かみのごと きこゆるたぎの しらなみの おもしるきみが みえぬこのころ 12 3016 山川之   瀧尓益流    戀為登曽  人知尓来    無間念者 やまがはの たぎにまされる こひすとぞ ひとしりにける まなくしおもへば 12 3017 足桧木之  山川水之    音不出    人之子姤    戀渡青頭鷄 あしひきの やまがはみづの おとにいでず ひとのこゆゑに こひわたるかも 12 3018 高湍尓有 能登瀬乃川之  後将合    妹者吾者    今尓不有十方 こせなる のとせのかはの のちもあはむ いもにはわれは いまにあらずとも 12 3019 浣衣    取替河之    河余杼能  不通牟心    思兼都母 あらひきぬ とりかひがはの かはよどの よどまむこころ おもひかねつも 12 3020 斑鳩之   因可乃池之   宜毛    君乎不言者   念衣吾為流 いかるがの よるかのいけの よろしくも きみをいはねば おもひぞあがする 12 3021 絶沼之   下従者将戀   市白久   人之可知    歎為米也母 こもりぬの したゆはこひむ いちしろく ひとのしるべく なげきせめやも 12 3022 去方無三  隠有小沼乃   下思尓   吾曽物念    頃者之間 ゆくへなみ こもれるをぬの したもひに あれぞものもふ このころのあひだ 12 3023 隠沼乃   下従戀餘     白浪之   灼然出      人之可知 こもりぬの したゆこひあまり しらなみの いちしろくいでぬ ひとのしるべく 12 3024 妹目乎   見巻欲江之   小浪    敷而戀乍    有跡告乞 いもがめを みまくほりえの さざれなみ しきてこひつつ ありとつげこそ 12 3025 石走    垂水之水能   早敷八師  君尓戀良久   吾情柄 いはばしる たるみのみづの はしきやし きみにこふらく あがこころから 12 3026 君者不来  吾者故無    立浪之   數和備思    如此而不来跡也 きみはこず われはゆゑなみ たつなみの しくしくわびし かくてこじとや 12 3027 淡海之海   邊多波人知   奥浪    君乎置者    知人毛無 あふみのうみ へたはひとしる おきつなみ きみをおきては しるひともなし 12 3028 大海之   底乎深目而   結義之   妹心者     疑毛無 おほうみの そこをふかめて むすびてし いもがこころは うたがひもなし 12 3029 貞能汭尓   依流白浪    無間    思乎如何    妹尓難相 さだのうらに よするしらなみ あひだなく おもふをなにか いもにあひがたき 12 3030 念出而   為便無時者   天雲之   奥香裳不知   戀乍曽居 おもひでて すべなきときは あまくもの おくかもしらず こひつつぞをる 12 3031 天雲乃   絶多比安    心有者    吾乎莫憑    待者苦毛 あまくもの たゆたひやすき こころあらば あれをなたのめ またばくるしも 12 3032 君之當    見乍母将居   伊駒山   雲莫蒙    雨者雖零 きみがあたり みつつもをらむ いこまやま くもなたなびき あめはふるとも 12 3033 中〃二   如何知兼    吾山尓   焼流火氣能   外見申尾 なかなかに なにかしりけむ わがやまに もゆるけぶりの よそにみましを 12 3034 吾妹兒尓  戀為便名鴈   匈乎熱    旦戸開者    所見霧可聞 わぎもこに こひすべながり むねをあつみ あさとあくれば みゆるきりかも 12 3035 暁之    朝霧隠     反羽二   如何戀乃    色丹出尓家留 あかときの あさぎりごもり かへらばに なにしかこひの いろにいでにける 12 3036 思出    時者為便無   佐保山尓  立雨霧乃    應消所念 おもひづる ときはすべなみ さほやまに たつあまぎりの けぬべくおもほゆ 12 3037 敘目山   徃反道之    朝霞    髣髴谷八    妹尓不相牟 きりめやま ゆきがへりぢの あさかすみ ほのかにだにや いもにあはずあらむ 12 3038 如此将戀  物等知者    夕置而    旦者消流    露有申尾 かくこひむ ものとしりせば ゆふべおきて あしたはけぬる つゆにあらましを 12 3039 暮置而    旦者消流    白露之   可消戀毛    吾者為鴨 ゆふべおきて あしたはけぬる しらつゆの けぬべきこひも あれはするかも ○ 12 3040 後遂尓   妹将相跡    旦露之   命者生有    戀者雖繁 のちつひに いもにあはむと あさつゆの いのちはいけり こひはしげけど ○ 12 3041 朝旦    草上白      置露乃   消者共跡    云師君者毛 あさなさな くさのうへしろく おくつゆの けなばともにと いひしきみはも 12 3042 朝日指   春日能小野尓  置露乃   可消吾身    惜雲無 あさひさす かすがのをのに おくつゆの けぬべきあがみ をしけくもなし 12 3043 露霜乃   消安我身    雖老    又若反     君乎思将待 つゆしもの けやすきあがみ おいぬとも またをちかへり きみをしまたむ 12 3044 待君常   庭西居者    打靡    吾黒髪尓    霜曽置尓家類 或本歌尾句云 白細之   吾衣手尓    露曽置尓家類 きみまつと にはにしをれば うちなびく あがくろかみに しもぞおきにける      しろたへの あがころもでに つゆぞおきにける 12 3045 朝霜乃   可消耳也    時無二   思将度     氣之緒尓為而 あさしもの けぬべくのみや ときなしに おもひわたらむ いきのをにして 12 3046 左佐浪之  波越安蹔仁   落小雨   間文置而    吾不念國 ささなみの なみこすあざに ふるこさめ あひだもおきて わがおもはなくに 12 3047 神左備而  巖尓生     松根之   君心者     忘不得毛 かむさびて いはほにおふる まつがねの きみがこころは わすれかねつも 12 3048 御獵為   鴈羽之小野之  櫟柴之   奈礼波不益   戀社益 みかりする かりはのをのの ならしばの なれはまさらず こひこそまされ 12 3049 櫻麻之   麻原乃下草   早生者    妹之下紐    不解有申尾 さくらをの をふのしたくさ はやくおひば いもがしたびも とかずあらましを 12 3050 春日野尓  淺茅標結    断米也登  吾念人者    弥遠長尓 かすがのに あさぢしめゆひ たえめやと あがもふひとは いやとほながに 12 3051 足桧木之  山菅根乃    懃     吾波曽戀流   君之光儀尓 或本歌曰 吾念人乎    将見因毛我母 あしひきの やますがのねの ねもころに あれはぞこふる きみがすがたに    あがもふひとを みむよしもがも 12 3052 垣津旗   開澤生      菅根之   絶跡也君之   不所見頃者 かきつはた さきさはにおふる すがのねの たゆとやきみが みえぬこのころ 12 3053 足桧木之  山菅根之    懃     不止念者    於妹将相可聞 あしひきの やますがのねの ねもころに やまずおもはば いもにあはむかも 12 3054 相不念    有物乎鴨    菅根乃   懃懇      吾念有良武 あひおもはず あるものをかも すがのねの ねもころごろに あがもへるらむ 12 3055 山菅之   不止而公乎   念可母   吾心神之    頃者名寸 やますげの やまずてきみを おもへかも あがこころどの このころはなき 12 3056 妹門    去過不得而   草結    風吹解勿    又将顧 一云  直相麻弖尓 いもがかど ゆきすぎかねて くさむすぶ かぜふきとくな またかへりみむ ただにあふまでに 12 3057 淺茅原   茅生丹足蹈   意具美   吾念兒等之   家當見津 一云  妹之      家當見津 あさぢはら ちふにあしふみ こころぐみ あがもふこらが いへのあたりみつ あがもふいもが いへのあたりみつ 12 3058 内日刺   宮庭有跡    鴨頭草乃  移情      吾思名國 うちひさす みやにはあれど つきくさの うつろふこころ わがおもはなくに 12 3059 百尓千尓  人者雖言    月草之   移情      吾将持八方 ももにちに ひとはいふとも つきくさの うつろふこころ われもためやも 12 3060 萱草    吾紐尓著    時常無   念度者     生跡文奈思 わすれぐさ わがひもにつく ときとなく おもひわたれば いけりともなし 12 3061 五更之   目不酔草跡   此乎谷   見乍座而    吾少偲為 あかときの めさましぐさと これをだに みつついまして われをしのはせ 12 3062 萱草    垣毛繁森    雖殖有   鬼之志許草   猶戀尓家利 わすれぐさ かきもしみみに うゑたれど しこのしこくさ なほこひにけり 12 3063 淺茅原   小野尓標結   空言毛   将相跡令聞   戀之名種尓 或本歌曰 将来知志    君矣志将待 あさぢはら をのにしめゆふ むなことも あはむときこせ こひのなぐさに    こむとしらせし きみをしまたむ 12 3063 又見柿本朝臣人麻呂歌集 然落句小異耳 12 3064 人皆之   笠尓縫云     有間菅   在而後尓毛   相等曽念 ひとみなの かさにぬふといふ ありますげ ありてのちにも あはむとぞおもふ 12 3065 三吉野之  蜻乃小野尓   苅草之   念乱而     宿夜四曽多 みよしのの あきづのをのに かるかやの おもひみだれて ぬるよしぞおほき 12 3066 妹待跡   三笠乃山之   山菅之   不止八将戀   命不死者 いもまつと みかさのやまの やますげの やまずやこひむ いのちしなずは 12 3067 谷迫    峯邊延有    玉葛    令蔓之有者   年二不来友 一云 石葛 令蔓之有者 たにせばみ みねへにはへる たまかづら はへてしあらば としにこずとも  いはつなの はへてしあらば 12 3068 水莖之   岡乃田葛葉緒  吹變    面知兒等之   不見比鴨 みづくきの をかのくずはを ふきかへし おもしるこらが みえぬころかも 12 3069 赤駒之   射去羽計    真田葛原  何傳言     直将吉 あかごまの いゆきはばかる まくずはら なにのつてこと ただにしえけむ 12 3070 木綿疊   田上山之    狭名葛   在去之毛    今不有十方 ゆふたたみ たなかみやまの さなかづら ありさりてしも いまにあらずとも 12 3071 丹波道之  大江乃山之   真玉葛   絶牟乃心    我不思 たにはぢの おほえのやまの たまかづら たえむのこころ わがもはなくに 12 3072 大埼之   有礒乃渡    延久受乃  徃方無哉    戀度南 おほさきの ありそのわたり はふくずの ゆくへもなくや こひわたりなむ 12 3073 木綿褁 一云  疊   白月山之    佐奈葛   後毛必     将相等曽念 或本歌曰 将絶跡妹乎   吾念莫久尓 ゆふつつみ ゆふたたみ しらつきやまの さなかづら のちもかならず あはむとぞおもふ   たえむといもを わがおもはなくに 12 3074 唐棣花色之  移安      情有者    年乎曽寸経   事者不絶而 はねずいろの うつろひやすき こころあれば としをぞきふる ことはたえずて 12 3075 如此為而曽 人之死云     藤浪乃   直一目耳    見之人故尓 かくしてぞ ひとのしぬといふ ふぢなみの ただひとめのみ みしひとゆゑに 12 3076 住吉之   敷津之浦乃   名告藻之  名者告而之乎  不相毛恠 すみのえの しきつのうらの なのりその なはのりてしを あはなくもあやし 12 3077 三佐呉集  荒礒尓生流   勿謂藻乃  吉名者令告   父母者知等毛 みさごゐる ありそにおふる なのりその よしなはのらせ おやはしるとも 12 3078 浪之共   靡玉藻乃    片念尓   吾念人之    言乃繁家口 なみのむた なびくたまもの かたもひに あがもふひとの ことのしげけく 12 3079 海若之   奥津玉藻之   靡将寐   早来座君    待者苦毛 わたつみの おきつたまもの なびきねむ はやきませきみ またばくるしも 12 3080 海若之   奥尓生有    縄乗乃   名者曽不告   戀者雖死 わたつみの おきにおひたる なはのりの なはさねのらじ こひはしぬとも 12 3081 玉緒乎   片緒尓搓而   緒乎弱弥  乱時尓     不戀有目八方 たまのをを かたをによりて ををよわみ みだるるときに こひずあらめやも 12 3082 君尓不相   久成宿     玉緒之   長命之     惜雲無 きみにあはず ひさしくなりぬ たまのをの ながきいのちの をしけくもなし 12 3083 戀事    益今者     玉緒之   絶而乱而    可死所念 こふること まされるいまは たまのをの たえてみだれて しぬべくおもほゆ 12 3084 海處女   潜取云      忘貝    代二毛不忘   妹之光儀者 あまをとめ かづきとるといふ わすれがひ よにもわすれじ いもがすがたは ○ 12 3085 朝影尓   吾身者成奴   玉蜻    髣髴所見而   徃之兒故尓 あさかげに あがみはなりぬ たまかぎる ほのかにみえて いにしこゆゑに 12 3086 中〃二   人跡不在者   桑子尓毛  成益物乎    玉之緒許 なかなかに ひととあらずは くはこにも ならましものを たまのをばかり 12 3087 真菅吉   宗我乃河原尓  鳴千鳥   間無吾背子   吾戀者 ますがよし そがのかはらに なくちどり まなしわがせこ あがこふらくは 12 3088 戀衣    著楢乃山尓   鳴鳥之   間無時無    吾戀良苦者 こひごろも きならのやまに なくとりの まなくときなし あがこふらくは 12 3089 遠津人   獵道之池尓   住鳥之   立毛居毛    君乎之曽念 とほつひと かりぢのいけに すむとりの たちてもゐても きみをしぞおもふ 12 3090 葦邊徃   鴨之羽音之    聲耳    聞管本名    戀度鴨 あしへゆく かものはのおとの おとのみに ききつつもとな こひわたるかも 12 3091 鴨尚毛   己之妻共    求食為而  所遺間尓    戀云物乎 かもすらも おのがつまどち あさりして おくるるほとに こふといふものを 12 3092 白檀    斐太乃細江之  菅鳥乃   妹尓戀哉    寐宿金鶴 しらまゆみ ひだのほそえの すがとりの いもにこふれか いをねかねつる 12 3093 小竹之上尓  来居而鳴鳥   目乎安見  人妻姤尓    吾戀二来 しののうへに きゐてなくとり めをやすみ ひとづまゆゑに あれこひにけり 12 3094 物念常   不宿起有    旦開者   和備弖鳴成   鷄左倍 ものもふと いねずおきたる あさけには わびてなくなり にはつとりさへ 12 3095 朝烏    早勿鳴     吾背子之  旦開之容儀   見者悲毛 あさからす はやくななきそ わがせこが あさけのすがた みればかなしも 12 3096 柜楉越尓   麦咋駒乃    雖詈    猶戀久     思不勝焉 うませごしに むぎはむこまの のらゆれど なほしこほしく おもひかねつも 12 3097 左桧隈   桧隈河尓    駐馬    馬尓水令飲   吾外将見 さひのくま ひのくまがはに うまとどめ うまにみづかへ われよそにみむ 12 3098 於能礼故  所詈而居者   ■[馬+忩]馬之 面高夫駄尓   乗而應来哉 おのれゆゑ のらえてをれば あをうまの   おもたかぶだに のりてくべしや 12 3098 右一首 平群文屋朝臣益人傳云 昔多紀皇女竊嫁高安王被嘖之時 御作此歌 但高安王左降任之伊与國守也 12 3099 紫草乎   草跡別〃    伏鹿之   野者殊異為而  心者同 むらさきを くさとわくわく ふすしかの のはことにして こころはおやじ 12 3100 不想乎   想常云者    真鳥住   卯名手乃社之  神思将御知 おもはぬを おもふといはば まとりすむ うなてのもりの かみししらさむ 12 3101 問答歌 12 3101 紫者    灰指物曽    海石榴市之 八十街尓    相兒哉誰 むらさきは はひさすものぞ つばきちの やそのちまたに あへるこやたれ 12 3102 足千根乃  母之召名乎   雖白    路行人乎    孰跡知而可 たらちねの ははがよぶなを まをさめど みちゆくひとを たれとしりてか 12 3102 右二首 12 3103 不相    然将有     玉梓之   使乎谷毛    待八金手六 あはなくは しかもありなむ たまづさの つかひをだにも まちやかねてむ 12 3104 将相者   千遍雖念    蟻通    人眼乎多    戀乍衣居 あはむとは ちたびおもへど ありがよふ ひとめをおほみ こひつつぞをる 12 3104 右二首 12 3105 人目太    直不相而    盖雲    吾戀死者    誰名将有裳 ひとめおほみ ただにあはずて けだしくも あがこひしなば たがなならむも 12 3106 相見    欲為者     従君毛   吾曽益而    伊布可思美為也 あひみまく ほしみしすれば きみよりも われぞまさりて いふかしみする 12 3106 右二首 12 3107 空蝉之   人目乎繁    不相而   年之経者    生跡毛奈思 うつせみの ひとめをおほみ あはずして としのへぬれば いけりともなし 12 3108 空蝉之   人目繁者    夜干玉之  夜夢乎     次而所見欲 うつせみの ひとめおほくは ぬばたまの よるのいめにを つぎてみえこそ 12 3108 右二首 12 3109 慇懃   憶吾妹乎     人言之   繁尓因而    不通比日可聞 ねもころに おもふわぎもを ひとごとの しげきによりて よどむころかも 12 3110 人言之   繁思有者    君毛吾毛   将絶常云而   相之物鴨 ひとごとの しげくしあらば きみもあれも たえむといひて あひしものかも 12 3110 右二首 12 3111 為便毛無  片戀乎為登   比日尓   吾可死者    夢所見哉 すべもなき かたこひをすと このころに あがしぬべきは いめにみえきや 12 3112 夢見而   衣乎取服    装束間尓  妹之使曽    先尓来 いめにみて ころもをとりき よそふまに いもがつかひぞ さきだちにける 12 3112 右二首 12 3113 在有而   後毛将相登   言耳乎   堅要管     相者無尓 ありさりて のちもあはむと ことのみを かためいひつつ あふとはなしに 12 3114 極而    吾毛相登    思友    人之言社    繁君尓有 ありさりて われもあはむと おもへども ひとのことこそ しげききみにあれ 12 3114 右二首 12 3115 氣緒尓   言氣築之    妹尚乎   人妻有跡    聞者悲毛 いきのをに わがいきづきし いもすらを ひとづまなりと きけばかなしも 12 3116 我故尓   痛勿和備曽   後遂    不相登要之   言毛不有尓 わがゆゑに いたくなわびそ のちつひに あはじといひし こともあらなくに 12 3116 右二首 12 3117 門立而   戸毛閇而有乎  何處従鹿  妹之入来而   夢所見鶴 かどたてて ともさしたるを いづくゆか いもがいりきて いめにみえつる 12 3118 門立而   戸者雖闔    盗人之   穿穴従     入而所見牟 かどたてて とはさしたれど ぬすびとの ほれるあなより いりてみえけむ 12 3118 右二首 12 3119 従明日者  戀乍将去     今夕彈   速初夜従    綏解我妹 あすよりは こひつつもゆかむ こよひだに はやくよひより ひもとけわぎも 12 3120 今更    将寐哉我背子  荒田夜之  全夜毛不落   夢所見欲 いまさらに ねめやわがせこ あらたよの ひとよもおちず いめにみえこそ 12 3120 右二首 12 3121 吾勢子之  使乎待跡    笠不著   出乍曽見之   雨零尓 わがせこが つかひをまつと かさもきず いでつつぞみし あめのふらくに 12 3122 無心    雨尓毛有鹿   人目守   乏妹尓     今日谷相乎 こころなき あめにもあるか ひとめもり ともしきいもに けふだにあはむを 12 3122 右二首 12 3123 直獨    宿杼宿不得而  白細    袖乎笠尓著   沾乍曽来 ただひとり ぬれどねかねて しろたへの そでをかさにき ぬれつつぞこし 12 3124 雨毛零   夜毛更深利   今更    君将行哉    紐解設名 あめもふり よもふけにけり いまさらに きみゆかめやも ひもときまけな 12 3124 右二首 12 3125 久堅乃   雨零日乎    我門尓   蓑笠不蒙而   来有人哉誰 ひさかたの あめのふるひを わがかどに みのかさきずて けるひとやたれ 12 3126 纒向之   病足乃山尓   雲居乍   雨者雖零    所沾乍焉来 まきむくの あなしのやまに くもゐつつ あめはふれども ぬれつつぞこし 12 3126 右二首 12 3127 羈旅發思 12 3127 度會    大川邊     若歴木   吾久在者    妹戀鴨 わたらひの おほかはのべの わかひさぎ わがひさならば いもこひむかも 12 3128 吾妹子   夢見来     倭路    度瀬別     手向吾為 わぎもこを いめにみえこと やまとぢの わたりぜごとに たむけぞあがする 12 3129 櫻花    開哉散     及見    誰此      所見散行 さくらばな さきかもちると みるまでに たれかもここに みえてちりゆく 12 3130 豊洲    聞濱松     心哀    何妹      相云始 とよくにの きくのはままつ ねもころに なにしかいもに あひいひそめけむ 12 3130 右四首柿本朝臣人麻呂歌集出 12 3131 月易而   君乎婆見登   念鴨    日毛不易為而  戀之重 つきかへて きみをばみむと おもへかも ひもかへずして こひのしげけむ 12 3132 莫去跡   變毛来哉常   顧尓    雖徃不歸    道之長手矣 なゆきそと かへりもくやと かへりみに ゆけどかへらず みちのながてを 12 3133 去家而   妹乎念出    灼然    人之應知    歎将為鴨 たびにして いもをおもひで いちしろく ひとのしるべく なげきせむかも 12 3134 里離    遠有莫國     草枕    旅登之思者    尚戀来 さとさかり とほくあらなくに くさまくら たびとしおもへば なほこひにけり 12 3135 近有者    名耳毛聞而   名種目津  今夜従戀乃   益〃南 ちかくあれば なのみもききて なぐさめつ こよひゆこひの いやまさりなむ 12 3136 客在而   戀者辛苦    何時毛   京行而     君之目乎将見 たびにして こふればくるし いつしかも みやこにゆきて きみがめをみむ 12 3137 遠有者    光儀者不所見  如常    妹之咲者    面影為而 とほくあれば すがたはみえず つねのごと いもがゑまひは おもかげにして 12 3138 年毛不歴  反来甞跡    朝影尓   将待妹之    面影所見 としもへず かへりきなむと あさかげに まつらむいもし おもかげにみゆ 12 3139 玉桙之   道尓出立    別来之   日従于念    忘時無 たまほこの みちにいでたち わかれこし ひよりおもふに わするときなし 12 3140 波之寸八師 志賀在戀尓毛   有之鴨   君所遺而    戀敷念者 はしきやし しかあるこひにも ありしかも きみにおくれて こほしきおもへば 12 3141 草枕    客之悲     有苗尓   妹乎相見而   後将戀可聞 くさまくら たびのかなしく あるなへに いもをあひみて のちこひむかも 12 3142 國遠    直不相     夢谷    吾尓所見社   相日左右二 くにとほみ ただにはあはず いめにだに われにみえこそ あはむひまでに 12 3143 如是将戀  物跡知者    吾妹兒尓  言問麻思乎   今之悔毛 かくこひむ ものとしりせば わぎもこに こととはましを いましくやしも 12 3144 客夜之   久成者     左丹頬合  紐開不離    戀流比日 たびのよの ひさしくなれば さにつらふ ひもときさけず こふるこのころ 12 3145 吾妹兒之  阿乎偲良志   草枕    旅之丸寐尓   下紐解 わぎもこし あをしのふらし くさまくら たびのまろねに したびもとけぬ 12 3146 草枕    旅之衣     紐解    所念鴨     此年比者 くさまくら たびのころもの ひもとけて おもほゆるかも このとしころは 12 3147 草枕    客之紐解    家之妹志   吾乎待不得而  歎良霜 くさまくら たびのひもとく いへのいもし あをまちかねて なげかすらしも 12 3148 玉釼    巻寝志妹乎   月毛不経  置而八将越   此山岫 たまくしろ まきねしいもを つきもへず おきてやこえむ このやまのさき 12 3149 梓弓    末者不知杼   愛美    君尓副而    山道越来奴 あづさゆみ すゑはしらねど うるはしみ きみにたぐひて やまぢこえきぬ 12 3150 霞立    春長日乎    奥香無   不知山道乎   戀乍可将来 かすみたつ はるのながひを おくかなく しらぬやまぢを こひつつかこむ 12 3151 外耳    君乎相見而   木綿牒   手向乃山乎   明日香越将去 よそのみに きみをあひみて ゆふたたみ たむけのやまを あすかこえいなむ 12 3152 玉勝間   安倍嶋山之   暮露尓   旅宿得為也   長此夜乎 たまかつま あべしまやまの ゆふつゆに たびねえせめや ながきこのよを 12 3153 三雪零   越乃大山    行過而   何日可     我里乎将見 みゆきふる こしのおほやま ゆきすぎて いづれのひにか わがさとをみむ 12 3154 乞吾駒    早去欲     亦打山   将待妹乎    去而速見牟 いであがこま はやくゆきこそ まつちやま まつらむいもを ゆきてはやみむ 12 3155 悪木山   木末悉     明日従者  靡有社      妹之當将見 あしきやま こぬれことごと あすよりは なびきてありこそ いもがあたりみむ 12 3156 鈴鹿河   八十瀬渡而   誰故加   夜越尓将越   妻毛不在君 すずかがは やそせわたりて たがゆゑか よごえにこえむ つまもあらなくに 12 3157 吾妹兒尓  又毛相海之   安河    安寐毛不宿尓  戀度鴨 わぎもこに またもあふみの やすのかは やすいもねずに こひわたるかも 12 3158 客尓有而  物乎曽念    白浪乃   邊毛奥毛    依者無尓 たびにして ものをぞおもふ しらなみの へにもおきにも よるとはなしに 12 3159 湖轉尓   滿来塩能    弥益二   戀者雖剰    不所忘鴨 みなとみに みちくるしほの いやましに こひはまされど わすらえぬかも 12 3160 奥浪    邊浪之来依   貞浦乃    此左太過而   後将戀鴨 おきつなみ へなみのきよる さだのうらの このさだすぎて のちこひむかも 12 3161 在千方   在名草目而   行目友   家有妹伊 将欝悒 ありちがた ありなぐさめて ゆかめども いへなるいもい おほほしみせむ 12 3162 水咫衝石  心盡而     念鴨    此間毛本名   夢西所見 みをつくし こころつくして おもへかも ここにももとな いめにしみゆる 12 3163 吾妹兒尓  觸者無二    荒礒廻尓  吾衣手者    所沾可母 わぎもこに ふるとはなしに ありそみに わがころもでは ぬれにけるかも 12 3164 室之浦之   湍門之埼有   鳴嶋之   礒越浪尓    所沾可聞 むろのうらの せとのさきなる なきしまの いそこすなみに ぬれにけるかも 12 3165 霍公鳥   飛幡之浦尓   敷浪乃   屡君乎     将見因毛鴨 ほととぎす とばたのうらに しくなみの しくしくきみを みむよしもがも 12 3166 吾妹兒乎  外耳哉将見   越懈乃    子難懈乃    嶋楢名君 わぎもこを よそのみやみむ こしのうみの こがたのうみの しまならなくに 12 3167 浪間従   雲位尓所見   粟嶋之   不相物故    吾尓所依兒等 なみのまゆ くもゐにみゆる あはしまの あはぬものゆゑ わによそるこら 12 3168 衣袖之   真若之浦之   愛子地   間無時無    吾戀钁 ころもでの まわかのうらの まなごつち まなくときなし あがこふらくは 12 3169 能登海尓   釣為海部之   射去火之  光尓伊徃    月待香光 のとのうみに つりするあまの いざりひの ひかりにいませ つきまちがてり 12 3170 思香乃白水郎乃 釣為燭有    射去火之  髣髴妹乎    将見因毛欲得 しかのあまの  つりしともせる いざりひの ほのかにいもを みむよしもがも 12 3171 難波方   水手出船之   遥〃    別来礼杼    忘金津毛 なにはがた こぎづるふねの はろはろに わかれきぬれど わすれかねつも 12 3172 浦廻榜   熊野舟附    目頬志久  懸不思     月毛日毛無 うらみこぐ くまのぶねつき めづらしく かけておもはぬ つきもひもなし 12 3173 松浦舟   乱穿江之    水尾早   檝取間無    所念鴨 まつらぶね さわくほりえの みをはやみ かぢとるまなく おもほゆるかも 12 3174 射去為   海部之檝音    湯桉干   妹心      乗来鴨 いざりする あまのかぢのおと ゆくらかに いもはこころに のりにけるかも 12 3175 若浦尓    袖左倍沾而   忘貝    拾杼妹者    不所忘尓 或本歌末句云 忘可祢都母 わかのうらに そでさへぬれて わすれがひ ひりへどいもは わすらえなくに     わすれかねつも 12 3176 草枕    羈西居者    苅薦之   擾妹尓     不戀日者無 くさまくら たびにしをれば かりこもの みだれていもに こひぬひはなし 12 3177 然海部之   礒尓苅干    名告藻之  名者告手師乎  如何相難寸 しかのあまの いそにかりほす なのりその なはのりてしを なにかあひがたき 12 3178 國遠見   念勿和備曽   風之共   雲之行如    言者将通 くにとほみ おもひなわびそ かぜのむた くものゆくごと ことはかよはむ 12 3179 留西    人乎念尓    蜒野    居白雲     止時無 とまりにし ひとをおもふに あきづのに ゐるしらくもの やむときもなし 12 3180 悲別歌 12 3180 浦毛無   去之君故    朝旦    本名焉戀    相跡者無杼 うらもなく いにしきみゆゑ あさなさな もとなぞこふる あふとはなけど 12 3181 白細之   君之下紐    吾左倍尓  今日結而名   将相日之為 しろたへの きみがしたびも われさへに けふむすびてな あはむひのため 12 3182 白妙之   袖之別者    雖惜    思乱而     赦鶴鴨 しろたへの そでのわかれは をしけども おもひみだれて ゆるしつるかも 12 3183 京師邊   君者去之乎   孰解可   言紐緒乃    結手懈毛 みやこへに きみはいにしを たれとけか わがひものをの ゆふてたゆきも 12 3184 草枕 客去君乎 人目多 袖不振為而 安萬田悔毛 くさまくら たびゆくきみを ひとめおほみ そでふらずして あまたくやしも 12 3185 白銅鏡   手二取持而   見常不足   君尓所贈而   生跡文無 まそかがみ てにとりもちて みれどあかぬ きみにおくれて いけりともなし 12 3186 陰夜之   田時毛不知   山越而   徃座君者    何時将待 くもりよの たどきもしらぬ やまこえて いますきみをば いつとかまたむ 12 3187 立名付   青垣山之    隔者    數君乎     言不問可聞 たたなづく あをかきやまの へなりなば しばしばきみを こととはじかも 12 3188 朝霞    蒙山乎     越而去者   吾波将戀奈   至于相日 あさかすみ たなびくやまを こえていなば あれはこひむな あはむひまでに 12 3189 足桧乃   山者百重    雖隠    妹者不忘    直相左右二 一云 雖隠    君乎思苦    止時毛無 あしひきの やまはももへに かくすとも いもはわすれじ ただにあふまでに かくせども きみをおもはく やむときもなし 12 3190 雲居有   海山超而    伊徃名者  吾者将戀名   後者相宿友 くもゐなる うみやまこえて いゆきなば あれはこひむな のちはあひぬとも 12 3191 不欲恵八師 不戀登為杼   木綿間山  越去之公之   所念良國 よしゑやし こひじとすれど ゆふまやま こえにしきみが おもほゆらくに 12 3192 草陰之   荒藺之埼乃   笠嶋乎   見乍可君之   山道超良無 一云 三坂越良牟 くさかげの あらゐのさきの かさしまを みつつかきみが やまぢこゆらむ  みさかこゆらむ 12 3193 玉勝間   嶋熊山之    夕晩    獨可君之    山道将越 一云 暮霧尓   長戀為乍    寐不勝可母 たまかつま しまくまやまの ゆふぐれに ひとりかきみが やまぢこゆらむ ゆふぎりに ながこひしつつ いねかてぬかも 12 3194 氣緒尓   吾念君者    鷄鳴    東方重坂乎   今日可越覧 いきのをに あがもふきみは とりがなく あづまのさかを けふかこゆらむ 12 3195 磐城山   直越来益    礒埼    許奴美乃濱尓  吾立将待 いはきやま ただこえきませ いそさきの こぬみのはまに われたちまたむ 12 3196 春日野之  淺茅之原尓   後居而   時其友無    吾戀良苦者 かすがのの あさぢがはらに おくれゐて ときぞともなし あがこふらくは 12 3197 住吉乃   崖尓向有    淡路嶋   憾怜登君乎   不言日者无 すみのえの きしにむかへる あはぢしま あはれときみを いはぬひはなし 12 3198 明日従者  将行乃河之   出去者    留吾者     戀乍也将有 あすよりは いなむのかはの いでていなば とまれるあれは こひつつやあらむ 12 3199 海之底   奥者恐     礒廻従   水手運徃為   月者雖経過 わたのそこ おきはかしこし いそみより こぎたみゆかせ つきはへぬとも 12 3200 飼飯乃浦尓  依流白浪    敷布二   妹之容儀者   所念香毛 けひのうらに よするしらなみ しくしくに いもがすがたは おもほゆるかも 12 3201 時風    吹飯乃濱尓   出居乍   贖命者     妹之為社 ときつかぜ ふけひのはまに いでゐつつ あかふいのちは いもがためこそ 12 3202 柔田津尓  舟乗将為跡   聞之苗   如何毛君之   所見不来将有 にきたつに ふなのりせむと ききしなへ なにぞもきみが みえこずあるらむ 12 3203 三沙呉居  渚尓居舟之   榜出去者  裏戀監     後者會宿友 みさごゐる すにをるふねの こぎでなば うらごほしけむ のちはあひぬとも 12 3204 玉葛    無恙行核    山菅乃   思乱而     戀乍将待 たまかづら さきくいまさね やますげの おもひみだれて こひつつまたむ 12 3205 後居而   戀乍不有者    田篭之浦乃  海部有申尾    珠藻苅〃 おくれゐて こひつつあらずは たごのうらの あまにあらましを たまもかるかる 12 3206 筑紫道之  荒礒乃玉藻   苅鴨    君久      待不来 つくしぢの ありそのたまも かるとかも きみがひさしく まてどきまさぬ 12 3207 荒玉乃   年緒永     照月    不猒君八    明日別南 あらたまの としのをながく てるつきの あかざるきみや あすわかれなむ 12 3208 久将在    君念尓     久堅乃   清月夜毛    闇夜耳見 ひさにあらむ きみをおもふに ひさかたの きよきつくよも やみのみにみゆ 12 3209 春日在   三笠乃山尓   居雲乎   出見毎     君乎之曽念 かすがなる みかさのやまに ゐるくもを いでみるごとに きみをしぞおもふ 12 3210 足桧木乃  片山鴙     立徃牟   君尓後而    打四鷄目八方 あしひきの かたやまきぎし たちゆかむ きみにおくれて うつしけめやも 12 3211 問答歌 12 3211 玉緒乃   徙心哉     八十梶懸  水手出牟船尓  後而将居 たまのをの うつしこころや やそかかけ こぎでむふねに おくれてをらむ 12 3212 八十梶懸  嶋隠去者    吾妹兒之  留登将振    袖不所見可聞 やそかかけ しまがくりなば わぎもこが とまれとふらむ そでみえじかも 12 3212 右二首 12 3213 十月    鍾礼乃雨丹   沾乍哉   君之行疑    宿可借疑 かむなづき しぐれのあめに ぬれつつか きみはゆくらむ やどかかるらむ 12 3214 十月    雨間毛不置   零尓西者  誰里之     宿可借益 かむなづき あままもおかず ふりにせば いづれのさとの やどかからまし 12 3214 右二首 12 3215 白妙乃   袖之別乎    難見為而  荒津之濱    屋取為鴨 しろたへの そでのわかれを かたみして あらつのはまに やどりするかも 12 3216 草枕    羈行君乎    荒津左右  送来      飽不足社 くさまくら たびゆくきみを あらつまで おくりぞきぬる あきだらねこそ 12 3216 右二首 12 3217 荒津海    吾幣奉     将齋    早還座     面變不為 あらつのうみ われぬさまつり いはひてむ はやかへりませ おもがはりせず 12 3218 旦〃    筑紫乃方乎   出見乍   哭耳吾泣     痛毛為便無三 あさなさな つくしのかたを いでみつつ ねのみぞあがなく いたもすべなみ 12 3218 右二首 12 3219 豊國乃   聞之長濱    去晩    日之昏去者   妹食序念 とよくにの きくのながはま ゆきぐらし ひのくれゆけば いもをしぞおもふ 12 3220 豊國能   聞乃高濱    高〃二   君待夜等者   左夜深来 とよくにの きくのたかはま たかたかに きみまつよらは さよふけにけり 12 3220 右二首 13 3221 雜歌 13 3221 冬木成  春去来者  朝尓波  白露置  夕尓波  霞多奈妣久  汗瑞能振  樹奴礼我之多尓 鸎鳴母 ふゆこもり はるさりくれば あしたには しらつゆおく ゆふべには かすみたなびく  こぬれがしたに うぐひすなくも 13 3221 右一首 13 3222 三諸者  人之守山    本邊者  馬酔木花開   末邊方  椿花開     浦妙    山曽  泣兒守山 みもろは ひとのもるやま もとへは あしびはなさく すゑへは つばきはなさく うらぐはし やまぞ なくこもるやま 13 3222 右一首 13 3223 霹靂之   日香天之 九月乃   鍾礼乃落者   鴈音文   未来鳴     甘南備乃  清三田屋乃   垣津田乃  池之堤之    百不足   五十槻枝丹   水枝指   秋赤葉     真割持   小鈴文由良尓  手弱女尓  吾者有友    引攀而   峯文十遠仁   捄手折   吾者持而徃    公之頭刺荷 かむとけの そらの  ながつきの しぐれのふれば かりがねも いまだきなかね かむなびの きよきみたやの かきつたの いけのつつみの ももたらず いつきがえだに みづえさす あきのもみちば まきもてる こすずもゆらに たわやめに あれはあれども ひきよぢて えだもとををに ふさたをり あれはもちてゆく きみがかざしに 13 3224 反歌 13 3224 獨耳    見者戀染    神名火乃  山黄葉     手折来君 ひとりのみ みればこほしみ かむなびの やまのもみちば たをりけりきみ 13 3224 右二首 13 3225 天雲之   影塞所見    隠来笶   長谷之河者   浦無蚊   船之依不来   礒無蚊   海部之釣不為  吉咲八師  浦者無友    吉畫矢寺  礒者無友    奥津浪   諍榜入来    白水郎之釣船 あまくもの かげさへみゆる こもりくの はつせのかはは うらなみか ふねのよりこぬ いそなみか あまのつりせぬ よしゑやし うらはなくとも よしゑやし いそはなくとも おきつなみ きほひこぎりこ あまのつりぶね 13 3226 反歌 13 3226 沙邪礼浪  浮而流     長谷河   可依礒之    無蚊不怜也 さざれなみ うきてながるる はつせがは よるべきいその なきがさぶしさ 13 3226 右二首 13 3227 葦原笶   水穂之國丹   手向為跡  天降座兼    五百万   千万神之    神代従   云續来在    甘南備乃  三諸山者    春去者   春霞立     秋徃者   紅丹穂経    甘甞備乃  三諸乃神之   帶為    明日香之河之  水尾速   生多米難    石枕    蘿生左右二   新夜乃   好去通牟    事計    夢尓令見社   劔刀    齋祭      神二師座者 あしはらの みづほのくにに たむけすと あもりましけむ いほよろづ ちよろづかみの かむよより いひつぎきたる かむなびの みもろのやまは はるされば はるかすみたつ あきされば くれなゐにほふ かむなびの みもろのかみの おびにせる あすかのかはの みをはやみ むしためがたき いそまくら こけむすまでに あらたよの さきくかよはむ ことはかり いめにみえこそ つるぎたち いはひまつれる かみにしませば 13 3228 反歌 13 3228 神名備能  三諸之山丹   隠蔵杉   思将過哉    蘿生左右 かむなびの みもろのやまに いはふすぎ おもひすぎめや こけむすまでに 13 3229 五十串立  神酒座奉    神主部之  雲聚玉蔭    見者乏文 いくしたて みわすゑまつる はふりべが うずのたまかげ みればともしも 13 3229 右三首 但或書此短歌一首無有載之也 13 3230 帛叨    楢従出而    水蓼   穂積至     鳥網張   坂手乎過   石走    甘南備山丹   朝宮    仕奉而     吉野部登  入座見者    古所念 みてぐらを ならよりいでて みづたで ほづみにいたり となみはる さかてをすぎ いはばしる かむなびやまに あさみやに つかへまつりて よしのへと いりますみれば いにしへおもほゆ 13 3231 反歌 13 3231 月日    攝友      久経流   三諸之山    砺津宮地 但或本歌曰 故王都     跡津宮地也 つきはひは かはらひぬとも ひさにふる みもろのやまの とつみやところ    ふるきみやこの とつみやところ 13 3231 右二首 13 3232 斧取而   丹生桧山    木折来而  ■[木+筏]尓作 二梶貫   礒榜廻乍    嶋傳    雖見不飽    三吉野乃  瀧動〃     落白浪 をのとりて にふのひやまの きこりきて ふねにつくり  まかぢぬき いそこぎみつつ しまづたひ みれどもあかず みよしのの たぎもとどろに おつるしらなみ 13 3233 反歌 13 3233 三芳野   瀧動〃     落白浪     留西    妹見西巻    欲白浪 みよしのの たぎもとどろに おつるしらなみ とまりにし いもにみせまく ほしきしらなみ 13 3233 右二首 13 3234 八隅知之  和期大皇   高照    日之皇子之 聞食    御食都國  神風之   伊勢乃國者  國見者之毛   山見者   高貴之     河見者   左夜氣久清之  水門成   海毛廣之    見渡   嶋名高之    己許乎志毛 間細美香母   挂巻毛   文尓恐     山邊乃   五十師乃原尓 内日刺   大宮都可倍   朝日奈須  目細毛   暮日奈須  浦細毛    春山之   四名比盛而   秋山之   色名付思吉   百礒城之  大宮人者    天地    与日月共    万代尓母我 やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこの きこしをす みけつくに かむかぜの いせのくには くにみればしも やまみれば たかくたふとし かはみれば さやけくきよし みなとなす うみもゆたけし みわたす しまもなだかし ここをしも まぐはしみかも かけまくも あやにかしこき やまのべの いしのはらに うちひさす おほみやつかへ あさひなす まぐはしも ゆふひなす うらぐはしも はるやまの しなひさかえて あきやまの いろなつかしき ももしきの おほみやひとは あめつちと ひつきとともに よろづよにもが 13 3235 反歌 13 3235 山邊乃   五十師乃御井者 自然    成錦乎     張流山可母 やまのべの いしのみゐは  おのづから なれるにしきを はれるやまかも 13 3235 右二首 13 3236 空見津  倭國     青丹吉   常山越而    山代之   管木之原   血速舊   于遅乃渡   瀧屋之   阿後尼之原尾  千歳尓  闕事無     万歳尓   有通将得    山科之   石田之社之   須馬神尓  奴左取向而   吾者越徃    相坂山遠 そらみつ やまとのくに あをによし ならやまこえて やましろの つつきのはら ちはやぶる うぢのわたり たぎつやの あごねのはらを ちとせに かくることなく よろづよに ありがよはむと やましなの いはたのもりの すめかみに ぬさとりむけて われはこえゆく あふさかやまを 13 3237 或本歌曰 13 3237 緑丹吉   平山過而    物部之   氏川渡     未通女等尓 相坂山丹    手向草   絲取置而    我妹子尓  相海之海之   奥浪    来因濱邊乎   久礼〃〃登 獨曽我来     妹之目乎欲 あをによし ならやますぎて もののふの うぢかはわたり をとめらに あふさかやまに たむけくさ ぬさとりおきて わぎもこに あふみのうみの おきつなみ きよるはまへを くれくれと ひとりぞあがくる いもがめをほり 13 3238 反歌 13 3238 相坂乎   打出而見者    淡海之海   白木綿花尓   浪立渡 あふさかを うちいでてみれば あふみのうみ しらゆふばなに なみたちわたる 13 3238 右三首 13 3239 近江之海   泊八十有    八十嶋之  嶋之埼邪伎   安利立有  花橘乎     末枝尓  毛知引懸   仲枝尓   伊加流我懸  下枝尓  比米乎懸  己之母乎  取久乎不知   己之父乎  取久乎思良尓  伊蘇婆比座与  伊可流我等比米登 あふみのうみ とまりやそあり やそしまの しまのさきざき ありたてる はなたちばなを ほつえに もちひきかけ なかつえに いかるがかけ しづえに ひめをかけ ながははを とらくをしらに ながちちを とらくをしらに いそばひをるよ いかるがとひめと 13 3239 右一首 13 3240 王     命恐      雖見不飽   楢山越而    真木積  泉河乃     速瀬    竿刺渡     千速振   氏渡乃     多企都瀬乎 見乍渡而    近江道乃  相坂山丹    手向為   吾越徃者    樂浪乃   志我能韓埼   幸有者    又反見     道前    八十阿毎    嗟乍    吾過徃者    弥遠丹   里離来奴    弥高二   山文越来奴   劔刀    鞘従拔出而   伊香胡山  如何吾将為   徃邊不知而 おほきみの みことかしこみ みれどあかぬ ならやまこえて まきつむ いづみのかはの はやきせを さをさしわたり ちはやぶる うぢのわたりの たぎつせを みつつわたりて あふみぢの あふさかやまに たむけして わがこえゆけば ささなみの しがのからさき さきくあらば またかへりみむ みちのくま やそくまごとに なげきつつ わがすぎゆけば いやとほに さとさかりきぬ いやたかに やまもこえきぬ つるぎたち さやゆぬきでて いかごやま いかにあがせむ ゆくへしらずて 13 3241 反歌 13 3241 天地乎   歎乞禱     幸有者    又反見     思我能韓埼 あめつちを なげきこひのみ さきくあらば またかへりみむ しがのからさき 13 3241 右二首 但此短歌者 或書云穂積朝臣老配於佐渡之時作歌者也 13 3242 百岐年  三野之國之  高北之   八十一隣之宮尓 日向尓   行靡闕矣    有登聞而   吾通道之    奥十山   三野之山  靡得   人雖跡     如此依等  人雖衝     無意山之     奥礒山   三野之山 ももきね みののくにの たかきたの くくりのみやに ひむかひに ゆきかくるなく ありとききて わがゆくみちの おきそやま みののやま なびけと ひとはふめども かくよれと ひとはつけども こころなきやまの おきそやま みののやま 13 3242 右一首 13 3243 處女等之  麻笥垂有    續麻成   長門之浦丹   朝奈祇尓  満来塩之    夕奈祇尓  依来波乃    彼塩乃   伊夜益舛二   彼浪乃   伊夜敷布二   吾妹子尓  戀乍来者    阿胡乃海之  荒礒之於丹   濱菜採   海部處女等   纓有   領巾文光蟹   手二巻流  玉毛湯良羅尓  白栲乃   袖振所見津   相思羅霜 をとめらが をけにたれたる うみをなす ながとのうらに あさなぎに みちくるしほの ゆふなぎに よせくるなみの そのしほの いやますますに そのなみの いやしくしくに わぎもこに こひつつくれば あごのうみの ありそのうへに はまなつむ あまをとめらが うなげる ひれもてるがに てにまける たまもゆららに しろたへの そでふるみえつ あひおもふらしも 13 3244 反歌 13 3244 阿胡乃海之  荒礒之上之   少浪    吾戀者     息時毛無 あごのうみの ありそのうへの さざれなみ あがこふらくは やむときもなし 13 3244 右二首 13 3245 天橋文   長雲鴨    高山文   高雲鴨    月夜見乃  持有越水    伊取来而  公奉而     越得之旱物 あまはしも ながくもがも たかやまも たかくもがも つくよみの もてるをちみづ いとりきて きみにまつりて をちえてしかも 13 3246 反歌 13 3246 天有哉   月日如     吾思有   公之日異    老落惜文 あめなるや つきひのごとく あがもへる きみがひにけに おゆらくをしも 13 3246 右二首 13 3247 沼名河之  底奈流玉   求而   得之玉可毛  拾而   得之玉可毛  安多良思吉 君之  老落惜毛 ぬながはの そこなるたま もとめて えしたまかも ひりひて えしたまかも あたらしき きみが おゆらくをしも 13 3247 右一首 13 3248 相聞 13 3248 式嶋之   山跡之土丹   人多    満而雖有     藤浪乃   思纒      若草乃   思就西     君目二   戀八将明    長此夜乎 しきしまの やまとのくにに ひとさはに みちてはあれども ふぢなみの おもひまつはり わかくさの おもひつきにし きみがめに こひやあかさむ ながきこのよを 13 3249 反歌 13 3249 式嶋乃   山跡乃土丹   人二    有年念者     難可将嗟 しきしまの やまとのくにに ひとふたり ありとしおもはば なにかなげかむ 13 3249 右二首 13 3250 蜻嶋    倭之國者    神柄跡   言擧不為國    雖然    吾者事上為    天地之   神文甚     吾念    心不知哉    徃影乃   月文経徃者   玉限    日文累     念戸鴨   胸不安     戀烈鴨   心痛      末遂尓   君丹不會者   吾命乃    生極      戀乍文   吾者将度    犬馬鏡   正目君乎    相見天者社   吾戀八鬼目 あきづしま やまとのくには かむからと ことあげせぬくに しかれども われはことあげす あめつちの かみもはなはだ あがもへる こころしらずや ゆくかげの つきもへぬれば たまかぎる ひもかさなりて おもへかも むねのくるしき こふれかも こころのいたき すゑつひに きみにあはずは わがいのちの いけらむかぎり こひつつも あれはわたらむ まそかがみ まさめにきみを あひみてばこそ あがこひやまめ 13 3251 反歌 13 3251 大舟能   思憑      君故尓   盡心者     惜雲梨 おほぶねの おもひたのめる きみゆゑに つくすこころは をしけくもなし 13 3252 久堅之   王都乎置而   草枕    羈徃君乎    何時可将待 ひさかたの みやこをおきて くさまくら たびゆくきみを いつとかまたむ 13 3253 柿本朝臣人麻呂歌集歌曰 13 3253 葦原    水穂國者    神在随   事擧不為國    雖然    辞擧叙吾為     言幸    真福座跡    恙無    福座者     荒礒浪   有毛見登    百重波   千重浪尓敷   言上為吾     言上為吾 あしはらの みづほのくには かむながら ことあげせぬくに しかれども ことあげぞあがする ことさきく まさきくませと つつみなく さきくいまさば ありそなみ ありてもみむと ももへなみ ちへなみにしき ことあげすわれは ことあげすわれは 13 3254 反歌 13 3254 志貴嶋   倭國者     事霊之   所佐國叙    真福在与具 しきしまの やまとのくには ことだまの たすくるくにぞ まさきくありこそ 13 3254 右五首 13 3255 従古    言續来口    戀為者   不安物登    玉緒之   継而者雖云   處女等之  心乎胡粉    其将知   因之無者    夏麻引   命方貯     借薦之   心文小竹荷   人不知   本名曽戀流   氣之緒丹四天 いにしへゆ いひつぎけらく こひすれば くるしきものと たまのをの つぎてはいへど をとめらが こころをしらに そをしらむ よしのなければ なつそびく いのちかたまけ かりこもの こころもしのに ひとしれず もとなぞこふる いきのをにして 13 3256 反歌 13 3256 數〃丹   不思人叵    雖有    蹔文吾者     忘枝沼鴨 しくしくに おもはずひとは あるらめど しましくもあれは わすらえぬかも 13 3257 直不来   自此巨勢道柄  石椅跡   名積序吾来    戀天窮見 ただにこず こゆこせぢから いはせふみ なづみぞあがこし こひてすべなみ 13 3257 或本以此歌一首為之 紀伊國之  濱尓縁云     鰒珠    拾尓登謂而    徃之君   何時到来 歌之反歌也 具見下也 但依古本亦累載玆           きのくにの はまによるといふ あはびたま ひりひにといひて ゆきしきみ いつきまさむと 13 3257 右三首 13 3258 荒玉之   年者来去而   玉梓之   使之不来者   霞立    長春日乎    天地丹   思足椅     帶乳根笶  母之養蚕之   眉隠    氣衝渡     吾戀    心中少     人丹言   物西不有者    松根    松事遠     天傳    日之闇者    白木綿之  吾衣袖裳    通手沾沼 あらたまの としはきゆきて たまづさの つかひのこねば かすみたつ ながきはるひを あめつちに おもひたらはし たらちねの ははがかふこの まよごもり いきづきわたり あがこふる こころのうちを ひとにいふ ものにしあらねば まつがねの まつこととほみ あまづたふ ひのくれぬれば しろたへの あがころもでも とほりてぬれぬ 13 3259 反歌 13 3259 如是耳師  相不思有者     天雲之   外衣君者    可有〃来 かくのみし あひおもはずあらば あまくもの よそにぞきみは あるべくありける 13 3259 右二首 13 3260 小治田之  年魚道之水乎  間無曽  人者挹云     時自久曽  人者飲云     挹人之   無間之如   飲人之   不時之如    吾妹子尓  吾戀良久波   已時毛無 をはりだの あゆぢのみづを まなくぞ ひとはくむといふ ときじくぞ ひとはのむといふ くむひとの まなきがごと のむひとの ときじきがごと わぎもこに あがこふらくは やむときもなし 13 3261 反歌 13 3261 思遣    為便乃田付毛  今者無   於君不相而   年之歴去者 おもひやる すべのたづきも いまはなし きみにあはずて としのへぬれば 13 3261 今案 此反歌謂之於君不相者於理不合也 宜言於妹不相也 13 3262 或本反歌曰 13 3262 楉垣    久時従     戀為者   吾帶緩     朝夕毎 みづかきの ひさしきときゆ こひすれば わがおびゆるふ あさよひごとに 13 3262 右三首 13 3263 己母理久乃 泊瀬之河之   上瀬尓   伊杭乎打   下湍尓   真杭乎挌   伊杭尓波  鏡乎懸    真杭尓波  真玉乎懸   真珠奈須  我念妹毛    鏡成    我念妹毛    有跡謂者社    國尓毛  家尓毛由可米  誰故可将行 こもりくの はつせのかはの かみつせに いくひをうち しもつせに まくひをうち いくひには かがみをかけ まくひには またまをかけ またまなす あがもふいもも かがみなす あがもふいもも ありといはばこそ くににも いへにもゆかめ たがゆゑかゆかむ 13 3263 撿古事記曰 件歌者木梨之軽太子自死之時所作者也 13 3264 反歌 13 3264 年渡    麻弖尓毛人者  有云乎    何時之間曽母  吾戀尓来 としわたる までにもひとは ありといふを いつのまにぞも あがこひにける 13 3265 或書反歌曰 13 3265 世間乎   倦迹思而    家出為   吾哉難二加   還而将成 よのなかを うしとおもひて いへでせし あれやなににか かへりてならむ 13 3265 右三首 13 3266 春去者   花咲乎呼里   秋付者   丹之穂尓黄色  味酒乎   神名火山之   帶丹為留  明日香之河乃  速瀬尓   生玉藻之    打靡    情者因而    朝露之   消者可消    戀久毛   知久毛相    隠都麻鴨 はるされば はなさきををり あきづけば にのほににほふ うまさけを かむなびやまの おびにせる あすかのかはの はやきせに おふるたまもの うちなびき こころはよりて あさつゆの けなばけぬべく こほしくも しるくもあへる こもりづまかも 13 3267 反歌 13 3267 明日香河  瀬湍之珠藻之  打靡    情者妹尓    因来鴨 あすかがは せぜのたまもの うちなびき こころはいもに よりにけるかも 13 3267 右二首 13 3268 三諸之  神奈備山従   登能陰   雨者落来奴   雨霧相   風左倍吹奴   大口乃   真神之原従   思管    還尓之人    家尓到伎也 みもろの かむなびやまゆ とのぐもり あめはふりきぬ あまぎらひ かぜさへふきぬ おほくちの まかみがはらゆ おもひつつ かへりにしひと いへにいたりきや 13 3269 反歌 13 3269 還尓之   人乎念等    野干玉之  彼夜者吾毛   宿毛寐金手寸 かへりにし ひとをおもふと ぬばたまの そのよはわれも いもねかねてき 13 3269 右二首 13 3270 刺将焼   小屋之四忌屋尓 掻将棄   破薦乎敷而    所挌将折  鬼之四忌手乎  指易而   将宿君故    赤根刺   晝者終尓    野干玉之  夜者須柄尓   此床乃   比師跡鳴左右  嘆鶴鴨 さしやかむ をやのしこやに かきすてむ やれこもをしきて うちをらむ しこのしこてを さしかへて ぬらむきみゆゑ あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの よるはすがらに このとこの ひしとなるまで なげきつるかも 13 3271 反歌 13 3271 我情    焼毛吾有    愛八師   君尓戀毛    我之心柄 あがこころ やくもわれなり はしきやし きみにこふるも あがこころから 13 3271 右二首 13 3272 打延而   思之小野者   不遠   其里人之    標結等   聞手師日従   立良久乃  田付毛不知   居久乃  於久鴨不知   親之    己之家尚乎   草枕    客宿之如久   思空    不安物乎    嗟空    過之不得物乎   天雲之   行莫〃     蘆垣乃   思乱而     乱麻乃   麻笥乎無登  吾戀流   千重乃一重母  人不令知  本名也戀牟   氣之緒尓為而 うちはへて おもひしをのは まちかき そのさとびとの しめゆふと ききてしひより たてらくの たづきもしらず をらくの おくかもしらず にきびにし わがいへすらを くさまくら たびねのごとく おもふそら くるしきものを なげくそら すぐしえぬものを あまくもの ゆくらゆくらに あしかきの おもひみだれて みだれをの をけをなみと あがこふる ちへのひとへも ひとしれず もとなやこひむ いきのをにして 13 3273 反歌 13 3273 二無    戀乎思為者   常帶乎    三重可結    我身者成 ふたつなき こひをしすれば つねのおびを みへむすぶべく あがみはなりぬ 13 3273 右二首 13 3274 為須部乃  田付叨不知   石根乃   興凝敷道乎   石床笶   根延門叨    朝庭    出居而嘆    夕庭    入居而思    白栲乃   吾衣袖叨    折反    獨之寐者    野干玉   黒髪布而    人寐    味眠不睡而   大舟乃   徃良行羅二   思乍    吾睡夜等呼   讀文将敢鴨 せむすべの たづきをしらに いはがねの こごしきみちを いはとこの ねばへるかどを あしたには いでゐてなげき ゆふべには いりゐてしのひ しろたへの あがころもでを をりかへし ひとりしぬれば ぬばたまの くろかみしきて ひとのぬる うまいはねずて おほぶねの ゆくらゆくらに おもひつつ わがぬるよらを よみもあへむかも 13 3275 反歌 13 3275 一眠    夜笇跡     雖思    戀茂二     情利文梨 ひとりぬる よをかぞへむと おもへども こひのしげきに こころどもなし 13 3275 右二首 13 3276 百不足   山田道乎    浪雲乃   愛妻跡     不語    別之来者    速川之   徃文不知   衣袂笶   反裳不知    馬自物   立而爪衝    為須部乃  田付乎白粉   物部乃   八十乃心叨   天地二   念足橋     玉相者   君来益八跡   吾嗟    八尺之嗟    玉桙乃   道来人乃    立留    何常問者    答遣    田付乎不知   散釣相   君名曰者    色出     人可知     足日木能  山従出     月待跡   人者云而    君待吾乎 ももたらず やまだのみちを なみくもの うつくしづまと かたらはず わかれしくれば はやかはの ゆくもしらず ころもでの かへるもしらず うまじもの たちてつまづき せむすべの たづきをしらに もののふの やそのこころを あめつちに おもひたらはし たまあはば きみきますやと わがなげく やさかのなげき たまほこの みちくるひとの たちとまり いかにととはば こたへやる たづきをしらに さにつらふ きみがなのらば いろにいでて ひとしりぬべみ あしひきの やまよりいづる つきまつと ひとにはいひて きみまつわれを 13 3277 反歌 13 3277 眠不睡   吾思君者    何處邊   今夜誰与可   雖待不来 いもねずに あがもふきみは いづくへに こよひたれとか まてどきまさぬ 13 3277 右二首 13 3278 赤駒    厩立      黒駒    厩立而     彼乎飼   吾徃如     思妻    心乗而     高山    峯之手折丹   射目立   十六待如    床敷而   吾待公     犬莫吠行年 あかごまを うまやにたてて くろこまを うまやにたてて それをかひ わがゆくがごと おもひづま こころにのりて たかやまの みねのたをりに いめたてて ししまつがごと とこしきて あがまつきみを いぬなほえそね 13 3279 反歌 13 3279 葦垣之   末掻別而    君越跡   人丹勿告    事者棚知 あしかきの すゑかきわけて きみこゆと ひとになつげそ ことはたなしれ 13 3279 右二首 13 3280 妾背兒者  雖待来不益   天原    振左氣見者   黒玉之   夜毛深去来   左夜深而  荒風乃吹者   立待留   吾袖尓     零雪者   凍渡奴     今更    公来座哉    左奈葛   後毛相得    名草武類  心乎持而    二袖持   床打拂     卯管庭   君尓波不相   夢谷    相跡所見社   天之足夜乎 わがせこは まてどきまさず あまのはら ふりさけみれば ぬばたまの よもふけにけり さよふけて あらしのふけば たちまてる わがころもでに ふるゆきは こほりわたりぬ いまさらに きみきまさめや さなかづら のちもあはむと なぐさむる こころをもちて まそでもち とこうちはらひ うつつには きみにはあはず いめにだに あふとみえこそ あめのたりよを 13 3281 或本歌曰 13 3281 吾背子者  待跡不来    鴈音文   動而寒     烏玉乃   宵文深去来   左夜深跡  阿下乃吹者   立待尓   吾衣袖尓    置霜文   氷丹左叡渡   落雪母   凍渡奴     今更    君来目八    左奈葛   後文将會常 大舟乃 思憑迹 現庭 君者不相 夢谷 相所見欲 天之足夜尓 わがせこは まてどきまさず かりがねも とよみてさむし ぬばたまの よもふけにけり さよふくと あらしのふけば たちまつに わがころもでに おくしもも ひにさえわたり ふるゆきも こほりわたりぬ いまさらに きみきまさめや さなかづら のちもあはむと おほぶねの おもひたのめど うつつには きみにはあはず いめにだに あふとみえこそ あめのたりよに 13 3282 反歌 13 3282 衣袖丹   山下吹而    寒夜乎   君不来者    獨鴨寐 ころもでに あらしのふきて さむきよを きみきまさずは ひとりかもねむ 13 3283 今更    戀友君二    相目八毛  眠夜乎不落   夢所見欲 いまさらに こふともきみに あはめやも ぬるよをおちず いめにみえこそ 13 3283 右四首 13 3284 菅根之   根毛一伏三向凝呂尓 吾念有   妹尓縁而者   言之禁毛   無在乞常    齋戸乎   石相穿居    竹珠乎   無間貫垂    天地之   神祇乎曽吾祈   甚毛為便無見 すがのねの ねもころごろに   あがもへる いもによりては ことのいみも なくありこそと いはひべを いはひほりすゑ たかたまを まなくぬきたれ あめつちの かみをぞあがのむ いたもすべなみ 13 3284 今案 不可言之因妹者 應謂之縁君也 何則反歌云公之随意焉 13 3285 反歌 13 3285 足千根乃  母尓毛不謂   褁有之   心者縦     公之随意 たらちねの ははにもいはず つつめりし こころはよしゑ きみがまにまに 13 3286 或本歌曰 13 3286 玉手次   不懸時無    吾念有   君尓依者    倭文幣乎  手取持而    竹珠叨   之自二貫垂   天地之   神叨曽吾乞    痛毛須部奈見 たまだすき かけぬときなく あがもへる きみによりては しつぬさを てにとりもちて たかたまを しじにぬきたれ あめつちの かみをぞあがのむ いたもすべなみ 13 3287 反歌 13 3287 乾坤乃   神乎禱而    吾戀    公以必     不相在目八方 あめつちの かみをいのりて あがこふる きみいかならず あはずあらめやも 13 3288 或本歌曰 13 3288 大船之   思憑而     木妨己   弥遠長     我念有   君尓依而者   言之故毛   無有欲得    木綿手次  肩荷取懸    忌戸乎   齋穿居     玄黄之   神祇二衣吾祈   甚毛為便無見 おほぶねの おもひたのみて さなかづら いやとほながく あがもへる きみによりては ことのゆゑも なくありこそと ゆふだすき かたにとりかけ いはひべを いはひほりすゑ あめつちの かみにぞあがのむ いたもすべなみ 13 3288 右五首 13 3289 御佩乎   劔池之     蓮葉尓   渟有水之    徃方無   我為時尓    應相登   相有君乎    莫寐等  母寸巨勢友   吾情    清隅之池之    池底    吾者不忘    正相左右二 みはかしを つるぎのいけの はちすばに たまれるみづの ゆくへなみ わがするときに あふべしと あひたるきみを なねそと ははきこせども あがこころ きよすみのいけの いけのそこ あれはわすれじ ただにあふまでに 13 3290 反歌 13 3290 古之    神乃時従    會計良思  今心文     常不所忘 いにしへの かみのときより あひけらし いまのこころも つねわすらえず 13 3290 右二首 13 3291 三芳野之  真木立山尓   青生     山菅之根乃   慇懃    吾念君者    天皇之   遣之万〃    或本云 王     命恐      夷離    國治尓登 或本云 天踈    夷治尓等    群鳥之   朝立行者    後有    我可将戀奈   客有者   君可将思    言牟為便  将為須便不知 或書有 足日木   山之木末尓 句也 延津田乃  歸之 或本無歸之句也 別之數     惜物可聞 みよしのの まきたつやまに あをくおふる やますがのねの ねもころに あがもふきみは おほきみの まけのまにまに     おほきみの みことかしこみ ひなざかる くにをさめにと  あまざかる ひなをさめにと むらとりの あさだちいなば おくれたる あれかこひむな たびにある きみかしのはむ いはむすべ せむすべしらに    あしひきの やまのこぬれに  はふつたの ゆきの        わかれのあまた をしきものかも 13 3292 反歌 13 3292 打蝉之   命乎長     有社等   留吾者     五十羽旱将待 うつせみの いのちをながく ありこそと とまれるわれは いはひてまたむ 13 3292 右二首 13 3293 三吉野之  御金高尓    間無序  雨者落云     不時曽   雪者落云     其雨    無間如    彼雪    不時如     間不落   吾者曽戀    妹之正香尓 みよしのの みかねがたけに まなくぞ あめはふるといふ ときじくぞ ゆきはふるといふ そのあめの まなきがごと そのゆきの ときじきがごと まもおちず あれはぞこふる いもがただかに 13 3294 反歌 13 3294 三雪落   吉野之高二   居雲之   外丹見子尓   戀度可聞 みゆきふる よしののたけに ゐるくもの よそにみしこに こひわたるかも 13 3294 右二首 13 3295 打久津   三宅乃原従   常土    足迹貫    夏草乎   腰尓魚積   如何有哉  人子故曽    通簀文吾子   諾〃名    母者不知   諾〃名    父者不知   蜷腸    香黒髪丹    真木綿持  阿邪左結垂   日本之  黄楊乃小櫛乎  抑刺    卜細子    彼曽吾孋 うちひさつ みやけのはらゆ ひたつちに あしふみぬき なつくさを こしになづみ いかなるや ひとのこゆゑぞ かよはすもあご うべなうべな はははしらじ うべなうべな ちちはしらじ みなのわた かぐろきかみに まゆふもち あざさゆひたれ やまとの つげのをぐしを おさへさす うらぐはしこ それぞわがつま 13 3296 反歌 13 3296 父母尓   不令知子故   三宅道乃  夏野草乎    菜積来鴨 ちちははに しらせぬこゆゑ みやけぢの なつののくさを なづみけるかも 13 3296 右二首 13 3297 玉田次   不懸時無    吾念    妹西不會波    赤根刺   日者之弥良尓  烏玉之   夜者酢辛二   眠不睡尓  妹戀丹     生流為便無 たまだすき かけぬときなく あがもへる いもにしあはねば あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの よるはすがらに いもねずに いもにこふるに いけるすべなし 13 3298 反歌 13 3298 縦恵八師  二〃火四吾妹  生友    各鑿社吾     戀度七目 よしゑやし しなむよわぎも いけりとも かくのみこそあが こひわたりなめ 13 3298 右二首 13 3299 見渡尓   妹等者立志   是方尓   吾者立而   思虚    不安國    嘆虚    不安國    左丹柒之  小舟毛鴨   玉纒之   小檝毛鴨   榜渡乍毛     相語妻遠 或本歌頭句云 己母理久乃 波都世乃加波乃 乎知可多尓 伊母良波多〃志 己乃加多尓 和礼波多知弖 みわたしに いもらはたたし このかたに われはたちて おもふそら やすけなくに なげくそら やすけなくに さにぬりの をぶねもがも たままきの をかぢもがも こぎわたりつつも かたらふつまを     こもりくの はつせのかはの をちかたに いもらはたたし このかたに われはたちて 13 3299 右一首 13 3300 忍照   難波乃埼尓   引登    赤曽朋舟    曽朋舟尓  綱取繋    引豆良比  有雙雖為    曰豆良賓  有雙雖為    有雙不得叙   所言西我身 おしてる なにはのさきに ひきのぼる あけのそほぶね そほぶねに つなとりかけ ひこづらひ ありなみすれど いひづらひ ありなみすれど ありなみえずぞ いはれにしあがみ 13 3300 右一首 13 3301 神風之   伊勢乃海之  朝奈伎尓  来依深海松   暮奈藝尓  来因俣海松   深海松乃  深目師吾乎   俣海松乃  復去反     都麻等不言登可聞  思保世流君 かむかぜの いせのうみの あさなぎに きよるふかみる ゆふなぎに きよるまたみる ふかみるの ふかめしわれを またみるの またゆきがへり つまといはじとかも おもほせるきみ 13 3301 右一首 13 3302 紀伊國之  室之江邊尓   千年尓  障事無     万世尓   如是将在登    大舟之   思恃而     出立之   清瀲尓     朝名寸二  来依深海松   夕難岐尓  来依縄法    深海松之  深目思子等遠  縄法之   引者絶登夜   散度人之  行之屯尓    鳴兒成   行取左具利   梓弓    弓腹振起     志乃岐羽矣 二手挾     離兼    人斯悔     戀思者 きのくにの むろのえのべに ちとせに さはることなく よろづよに かくしもあらむと おほぶねの おもひたのみて いでたちの きよきなぎさに あさなぎに きよるふかみる ゆふなぎに きよるなはのり ふかみるの ふかめしこらを なはのりの ひけばたゆとや さとびとの ゆきのつどひに なくこなす ゆきとりさぐり あづさゆみ ゆばらふりおこし しのぎはを ふたつたばさみ はなちけむ ひとしくやしも こふらくもへば 13 3302 右一首 13 3303 里人之   吾丹告樂    汝戀    愛妻者     黄葉之   散乱有     神名火之  此山邊柄 或本云 彼山邊     烏玉之   黒馬尓乗而   河瀬乎   七湍渡而    裏觸而   妻者會登    人曽告鶴 さとびとの あれにつぐらく ながこふる うつくしづまは もみちばの ちりまがひたる かむなびの このやまへから  そのやまへから ぬばたまの くろまにのりて かはのせを ななせわたりて うらぶれて つまはあひきと ひとぞつげつる 13 3304 反歌 13 3304 不聞而   黙然有益乎    何如文   公之正香乎   人之告鶴 きかずして もだもあらましを なにしかも きみがただかを ひとのつげつる 13 3304 右二首 13 3305 問答 13 3305 物不念   道行去毛    青山乎   振放見者    茵花    香未通女   櫻花    盛未通女   汝乎曽母  吾丹依云     吾叨毛曽  汝丹依云     荒山毛   人師依者    余所留跡序云  汝心勤 ものもはず みちゆくゆくも あをやまを ふりさけみれば つつじはな にほえをとめ さくらばな さかえをとめ なれをぞも われによすといふ われをもぞ なれによすといふ あらやまも ひとしよすれば よそるとぞいふ ながこころゆめ 13 3306 反歌 13 3306 何為而   戀止物序     天地乃   神乎禱迹    吾八思益 いかにして こひやまむものぞ あめつちの かみをいのれど あれやおもひます 13 3307 然有社   年乃八歳叨   鑚髪乃   吾同子叨過   橘     末枝乎過而   此河能   下文長     汝情待 しかれこそ としのやとせを きりかみの よちこをすぎて たちばなの ほつえをすぎて このかはの したにもながく ながこころまて 13 3308 反歌 13 3308 天地之   神尾母吾者   禱而寸   戀云物者    都不止来 あめつちの かみをもわれは いのりてき こひとふものは さねやまずけり 13 3309 柿本朝臣人麻呂之集歌 13 3309 物不念   路行去裳    青山乎   振酒見者    都追慈花  尓太遥越賣  作樂花   佐可遥越賣  汝乎叙母  吾尓依云     吾乎叙物  汝尓依云     汝者如何念也   念社    歳八年乎    斬髪    与知子乎過   橘之    末枝乎須具里  此川之   下母長久    汝心待 ものもはず みちゆくゆくも あをやまを ふりさけみれば つつじはな にほえをとめ さくらばな さかえをとめ なれをぞも われによすといふ われをぞも なれによすといふ なはいかにおもふ おもへこそ としのやとせを きりかみの よちこをすぐり たちばなの ほつえをすぐり このかはの したにもながく ながこころまて 13 3309 右五首 13 3310 隠口乃   泊瀬乃國尓   左結婚丹  吾来者    棚雲利   雪者零来   左雲理  雨者落来   野鳥   雉動      家鳥 可鷄毛鳴 左夜者明 此夜者昶奴 入而且将眠 此戸開為 こもりくの はつせのくにに さよばひに わがきたれば たなぐもり ゆきはふりく さぐもり あめはふりく のつとり きぎしはとよむ いへつとり かけもなく さよはあけ このよはあけぬ いりてかつねむ このとひらかせ 13 3311 反歌 13 3311 隠来乃   泊瀬小國丹   妻有者    石者履友    猶来〃 こもりくの はつせをくにに つましあれば いしはふめども なほしきにけり 13 3312 隠口乃   長谷小國    夜延為   吾天皇寸与   奥床仁   母者睡有   外床丹  父者寐有   起立者   母可知     出行者    父可知     野干玉之  夜者昶去奴   幾許雲   不念如      隠孋香聞 こもりくの はつせをくにに よばひせす あがすめろきよ おくどこに はははねたり とどこに ちちはねたり おきたたば ははしりぬべし いでてゆかば ちちしりぬべし ぬばたまの よはあけゆきぬ ここだくも おもふごとならぬ こもりづまかも 13 3313 反歌 13 3313 川瀬之   石迹渡     野干玉之  黒馬之来夜者  常二有沼鴨 かはのせの いしふみわたり ぬばたまの くろまくるよは つねにあらぬかも 13 3313 右四首 13 3314 次嶺経  山背道乎   人都末乃  馬従行尓    己夫之   歩従行者    毎見    哭耳之所泣   曽許思尓  心之痛之    垂乳根乃  母之形見跡   吾持有   真十見鏡尓   蜻領巾   負並持而    馬替吾背 つぎねふ やましろぢを ひとづまの うまよりゆくに おのづまし かちよりゆけば みるごとに ねのみしなかゆ そこもふに こころしいたし たらちねの ははがかたみと わがもてる まそみかがみに あきづひれ おひなめもちて うまかへわがせ 13 3315 反歌 13 3315 泉川    渡瀬深見    吾世古我  旅行衣     蒙沾鴨 いづみがは わたりぜふかみ わがせこが たびゆきごろも ひづちなむかも 13 3316 或本反歌曰 13 3316 清鏡    雖持吾者    記無    君之歩行    名積去見者 まそかがみ もてれどわれは しるしなし きみがかちより なづみゆくみれば 13 3317 馬替者   妹歩行将有   縦恵八子  石者雖履    吾二行 うまかはば いもかちならむ よしゑやし いしはふむとも わはふたりゆかむ 13 3317 右四首 13 3318 木國之   濱因云     鰒珠    将拾跡云而    妹乃山   勢能山越而   行之君   何時来座跡   玉桙之   道尓出立    夕卜乎   吾問之可婆   夕卜之   吾尓告良久  吾妹兒哉  汝待君者    奥浪    来因白珠    邊浪之   縁流白珠    求跡曽   君之不来益   拾登曽   公者不来益   久有     今七日許    早有者    今二日許    将有等曽  君者聞之二〃  勿戀吾妹 きのくにの はまによるとふ あはびたま ひりはむといひて いものやま せのやまこえて ゆきしきみ いつきまさむと たまほこの みちにいでたち ゆふうらを わがとひしかば ゆふうらの われにのらく わぎもこや ながまつきみは おきつなみ きよるしらたま へつなみの よするしらたま もとむとぞ きみはきまさぬ ひりふとぞ きみはきまさぬ ひさにあらば いまなぬかだみ はやくあらば いまふつかだみ あらむとぞ きみはきこしし なこひそわぎも 13 3319 反歌 13 3319 杖衝毛   不衝毛吾者   行目友   公之将来    道之不知苦 つゑつきも つかずもわれは ゆかめども きみがきまさむ みちのしらなく 13 3320 直不徃    此従巨勢道柄  石瀬踏   求曽吾来     戀而為便奈見 ただにゆかず こゆこせぢから いはせふみ もとめぞあがこし こひてすべなみ 13 3321 左夜深而  今者明奴登   開戸手  木部行君乎   何時可将待 さよふけて いまはあけぬと とをあけて きへゆくきみを いつとかまたむ 13 3322 門座    郎子内尓    雖至    痛之戀者    今還金 かどにます わがせはうちに いたるとも いたくしこひば いまかへりこむ 13 3322 右五首 13 3323 譬喩歌 13 3323 師名立  都久麻左野方  息長之   遠智能小菅  不連尓   伊苅持来    不敷尓   伊苅持来而   置而  吾乎令偲    息長之   遠智能子菅 しなたつ つくまさのかた おきながの をちのこすげ あまなくに いかりもちきて しかなくに いかりもちきて おきて われをしのはす おきながの をちのこすげ 13 3323 右一首 13 3324 挽歌 13 3324 挂纒毛   文恐      藤原    王都志弥美尓  人下    満雖有      君下    大座常     徃向    年緒長     仕来    君之御門乎   如天    仰而見乍    雖畏    思憑而     何時可聞  日足座而    十五月之  多田波思家武登 吾思    皇子命者    春避者   殖槻於之     遠人    待之下道湯   登之而   國見所遊    九月之   四具礼乃秋者  大殿之   砌志美弥尓   露負而   靡芽乎     珠手次   懸而所偲    三雪零   冬朝者     刺楊    根張梓矣    御手二   所取賜而    所遊    我王矣     烟立    春日暮     喚犬追馬鏡 雖見不飽者   万歳    如是霜欲得常  大船之   憑有時尓    涙言    目鴨迷     大殿矣   振放見者    白細布   餝奉而     内日刺   宮舎人方 一云 者       雪穂    麻衣服者    夢鴨    現前鴨跡    雲入夜之  迷間      朝裳吉   城於道従    角障経   石村乎見乍   神葬    〃奉者     徃道之   田付叨知    雖思    印乎無見   雖歎    奥香乎無見  御袖    徃觸之松矣    言不問   木雖在     荒玉之   立月毎     天原    振放見管    珠手次   懸而思名    雖恐有 かけまくも あやにかしこし ふぢはらの みやこしみみに ひとはしも みちてはあれども きみはしも おほくいませど ゆきむかふ としのをながく つかへこし きみがみかどを あめのごと あふぎてみつつ かしこけど おもひたのみて いつしかも ひたらしまして もちづきの たたはしけむと あがもへる みこのみことは はるされば うゑつきがうへの とほつひと まつのしたぢゆ のぼらして くにみあそばし ながつきの しぐれのあきは おほとのの みぎりしみみに つゆおひて なびけるはぎを たまだすき かけてしのはし みゆきふる ふゆのあしたは さしやなぎ ねはりあづさを おほみてに とらしたまひて あそばしし わがおほきみを かすみたつ はるのひくらし まそかがみ みれどあかねば よろづよに かくしもがもと おほぶねの たのめるときに なくわれの めかもまとへる おほとのを ふりさけみれば しろたへに かざりまつりて うちひさす みやのとねりは みやのとねりは たへのほの あさきぬければ いめにかも うつつにかもと くもりよの まとへるほとに あさもよし きのへのみちゆ つのさはふ いはれをみつつ かむはぶり はぶりまつれば ゆくみちの たづきをしらに おもへども しるしをなみ なげけども おくかをなみ おほみそで ゆきふれしまつを こととはぬ きにはありとも あらたまの たつつきごとに あまのはら ふりさけみつつ たまだすき かけてしのはな かしこくありとも 13 3325 反歌 13 3325 角障経   石村山丹    白栲    懸有雲者    皇可聞 つのさはふ いはれのやまに しろたへに かかれるくもは おほきみろかも 13 3325 右二首 13 3326 礒城嶋之  日本國尓    何方    御念食可    津礼毛無  城上宮尓    大殿乎   都可倍奉而   殿隠    〃座者     朝者    召而使    夕者    召而使    遣之    舎人之子等者  行鳥之   群而待     有雖待   不召賜者    劔刀    磨之心乎    天雲尓   念散之    展轉    土打哭杼母   飽不足可聞 しきしまの やまとのくにに いかさまに おもほしめせか つれもなき きのへのみやに おほとのを つかへまつりて とのごもり こもりいませば あしたには めしてつかひ ゆふべには めしてつかひ つかはしし とねりのこらは ゆくとりの むらがりてまち ありまてど めしたまはねば つるぎたち とぎしこころを あまくもに おもひちらし こいまろび ひづちなけども あきだらぬかも 13 3326 右一首 13 3327 百小竹之  三野王     金厩     立而飼駒    角厩       立而飼駒    草社者   取而飼曰戸    水社者   挹而飼曰戸    何然    大分青馬之   鳴立鶴 ももしのの みののおほきみ にしのうまや たててかふこま ひむかしのうまや たててかふこま くさこそは とりてかふといへ みづこそは くみてかふといへ なにしかも あしげのうまの いばえたてつる 13 3328 反歌 13 3328 衣袖   大分青馬之   嘶音    情有鳧     常従異鳴 ころもで あしげのうまの いばゆこゑ こころあれかも つねゆけになく 13 3328 右二首 13 3329 白雲之   棚曳國之    青雲之   向伏國乃    天雲    下有人者    妾耳鴨   君尓戀濫    吾耳鴨   夫君尓戀礼薄  天地    満言      戀鴨    匈之病有    念鴨    意之痛     妾戀叙   日尓異尓益   何時橋物  不戀時等者   不有友   是九月乎    吾背子之  偲丹為与得   千世尓物 偲渡登     万代尓   語都我部等   始而之   此九月之    過莫呼   伊多母為便無見 荒玉之   月乃易者    将為須部乃 田度伎乎不知  石根之   許凝敷道之   石床之   根延門尓    朝庭    出座而嘆    夕庭    入座戀乍    烏玉之   黒髪敷而    人寐    味寐者不宿尓  大船之   行良行良尓   思乍    吾寐夜等者   數物不敢鴨 しらくもの たなびくくにの あをくもの むかぶすくにの あまくもの したなるひとは あのみかも きみにこふらむ あのみかも きみにこふれば あめつちに ことをたらはし こふれかも むねのくるしき おもへかも こころのいたき あがこひぞ ひにけにまさる いつはしも こひぬときとは あらねども このながつきを わがせこが しのひにせよと ちよにも しのひわたれと よろづよに かたりつがへと はじめてし このながつきの すぎまくを いたもすべなみ あらたまの つきのかはれば せむすべの たどきをしらに いはがねの こごしきみちの いはどこの ねばへるかどに あしたには いでゐてなげき ゆふべには いりゐこひつつ ぬばたまの くろかみしきて ひとのぬる うまいはねずに おほぶねの ゆくらゆくらに おもひつつ わがぬるよらは よみもあへぬかも 13 3329 右一首 13 3330 隠来之   長谷之川之   上瀬尓   鵜矣八頭漬   下瀬尓   鵜矣八頭漬   上瀬之   年魚矣令咋   下瀬之   鮎矣令咋    麗妹尓    鮎遠惜    麗妹尓    鮎矣惜    投左乃   遠離居而    思空    不安國    嘆空    不安國    衣社薄   其破者     継乍物   又母相登言    玉社者   緒之絶薄    八十一里喚鷄 又物逢登曰    又毛不相物者    孋尓志有来 こもりくの はつせのかはの かみつせに うをやつかづけ しもつせに うをやつかづけ かみつせの あゆをくはしめ しもつせの あゆをくはしめ くはしいもに あゆををしみ くはしいもに あゆををしみ なぐるさの とほざかりゐて おもふそら やすけなくに なげくそら やすけなくに きぬこそば それやれぬれば つぎつつも またもあふといへ たまこそば をのたえぬれば くくりつつ  またもあふといへ またもあはぬものは つまにしありけり 13 3331 隠来之   長谷之山   青幡之   忍坂山者    走出之   宜山之 出立之 妙山叙 惜 山之 荒巻惜毛 こもりくの はつせのやま あをはたの おさかのやまは はしりでの よろしきやまの いでたちの くはしきやまぞ あたらしき やまの あれまくをしも 13 3332 高山    与海社者   山随    如此毛現    海随    然真有目    人者花物曽    空蝉与人 たかやまと うみとこそは やまながら かくもうつしく うみながら しかただならめ ひとははなものぞ うつせみよひと 13 3332 右三首 13 3333 王之    御命恐     秋津嶋   倭雄過而    大伴之   御津之濱邊従  大舟尓   真梶繁貫    旦名伎尓  水手之音為乍   夕名寸尓  梶音為乍     行師君   何時来座登   大卜置而  齋度尓     狂言哉   人之言釣    我心    盡之山之    黄葉之   散過去常    公之正香乎 おほきみの みことかしこみ あきづしま やまとをすぎて おほともの みつのはまへゆ おほぶねに まかぢしじぬき あさなぎに かこのこゑしつつ ゆふなぎに かぢのおとしつつ ゆきしきみ いつきまさむと うらおきて いはひわたるに たはことか ひとのいひつる あがこころ つくしのやまの もみちばの ちりすぎにきと きみがただかを 13 3334 反歌 13 3334 狂言哉   人之云鶴    玉緒乃   長登君者    言手師物乎 たはことか ひとのいひつる たまのをの ながくときみは いひてしものを 13 3334 右二首 13 3335 玉桙之   道去人者    足桧木之  山行野徃    直海    川徃渡     不知魚取  海道荷出而   惶八    神之渡者    吹風母   和者不吹    立浪母   踈不立     跡座浪之  塞道麻     誰心    勞跡鴨     直渡異六    直渡異六 たまほこの みちゆくひとは あしひきの やまゆきのゆき にはたづみ かはゆきわたり いさなとり うみぢにいでて かしこきや かみのわたりは ふくかぜも のどにはふかず たつなみも おほにはたたず とゐなみの ささふるみちを たがこころ いたはしとかも ただわたりけむ ただわたりけむ 13 3336 鳥音之   所聞海尓    高山麻   障所為而    奥藻麻   枕所為     蛾葉之   衣谷不服尓   不知魚取  海之濱邊尓   浦裳無   所宿有人者   母父尓   真名子尓可有六  若■[卄彐彐]之 妻香有異六   思布    言傳八跡    家問者   家乎母不告   名問跡   名谷母不告   哭兒如   言谷不語    思鞆    悲物者     世間有      世間有 とりがねの かしまのうみに たかやまを へだてになして おきつもを まくらになして ひむしはの きぬだにきずに いさなとり うみのはまへに うらもなく こやせるひとは おもちちに まなごにかあらむ わかくさの   つまかありけむ おもほしき ことつてむやと いへとへば いへをものらず なをとへど なだにものらず なくこなす ことだにつげず おもへども かなしきものは よのなかにぞある よのなかにぞある 13 3337 反歌 13 3337 母父毛   妻毛子等毛   高〃二   来跡待異六   人之悲紗 おもちちも つまもこどもも たかたかに こむとまちけむ ひとのかなしさ 13 3338 蘆桧木乃  山道者将行   風吹者   浪之塞     海道者不行 あしひきの やまぢはゆかむ かぜふけば なみのささふる うみぢはゆかじ 13 3339 或本歌 備後國神嶋濱調使首見屍作歌一首 并短歌 13 3339 玉桙之   道尓出立    葦引乃   野行山行    潦     川徃渉     鯨名取   海路丹出而   吹風裳   母穂丹者不吹  立浪裳   箟跡丹者不起  恐耶    神之渡乃    敷浪乃   寄濱部丹    高山矣   部立丹置而   汭潭矣   枕丹巻而    占裳無   偃為公者    母父之   愛子丹裳在将   稚草之   妻裳有将等   家問跡   家道裳不云   名矣問跡  名谷裳不告   誰之言矣  勞鴨      腫浪能   恐海矣     直渉異将 たまほこの みちにいでたち あしひきの のゆきやまゆき にはたづみ かはゆきわたり いさなとり うみぢにいでて ふくかぜも おほにはふかず たつなみも のどにはたたず かしこきや かみのわたりの しきなみの よするはまへに たかやまを へだてにおきて うらふちを まくらにまきて うらもなく こやせるきみは おもちちの まなごにもあらむ わかくさの つまもあらむと いへとへど いへぢものらず なをとへど なだにものらず たがことを いたはしとかも とゐなみの かしこきうみを ただわたりけむ 13 3340 反歌 13 3340 母父裳   妻裳子等裳   高〃丹   来将跡待    人乃悲 おもちちも つまもこどもも たかたかに こむとまつらむ ひとのかなしさ 13 3341 家人乃   将待物矣    津煎裳無  荒礒矣巻而   偃有公鴨 いへびとの まつらむものを つれもなく ありそをまきて なせるきみかも 13 3342 汭潭    偃為公矣    今日〃〃跡 将来跡将待   妻之可奈思母 うらふちに こやせるきみを けふけふと こむとまつらむ つましかなしも 13 3343 汭浪    来依濱丹    津煎裳無  偃為公賀    家道不知裳 うらなみの きよするはまに つれもなく こやせるきみが いへぢしらずも 13 3343 右九首 13 3344 此月者   君将来跡    大舟之   思憑而     何時可登  吾待居者    黄葉之   過行跡     玉梓之   使之云者    螢成    髣髴聞而    大土乎   火穂跡而    立居而   去方毛不知   朝霧乃   思或而     杖不足   八尺乃嘆    〃友    記乎無見跡   何所鹿   君之将座跡   天雲乃   行之随尓    所射完乃  行文将死跡   思友    道之不知者   獨居而   君尓戀尓    哭耳思所泣 このつきは きみきまさむと おほぶねの おもひたのみて いつしかと あがまちをれば もみちばの すぎていにきと たまづさの つかひのいへば ほたるなす ほのかにききて おほつちを ほのほとふみて たちてゐて ゆくへもしらず あさぎりの おもひまとひて つゑたらず やさかのなげき なげけども しるしをなみと いづくにか きみがまさむと あまくもの ゆきのまにまに いゆししの ゆきもしなむと おもへども みちのしらねば ひとりゐて きみにこふるに ねのみしなかゆ 13 3345 反歌 13 3345 葦邊徃   鴈之翅乎    見別    公之佩具之   投箭之所思 あしへゆく かりのつばさを みるごとに きみがおばしし なぐやしおもほゆ 13 3345 右二首 但或云 此短歌者防人之妻所作也 然則應知長歌亦此同作焉 13 3346 欲見者   雲居所見    愛     十羽能松原   小子等   率和出将見   琴酒者   國丹放甞    別避者   宅仁離南    乾坤之   神志恨之    草枕    此羈之氣尓   妻應離哉 みまくほり くもゐにみゆる うるはしき とばのまつばら わらはども いざわいでみむ ことさけば くににさけなむ ことさけば いへにさけなむ あめつちの かみしうらめし くさまくら このたびのけに つまさくべしや 13 3347 反歌 13 3347 草枕    此羈之氣尓   妻放    家道思     生為便無 或本歌曰 羈乃氣二為而 くさまくら このたびのけに つまさかり いへぢおもふに いけるすべなし   たびのけにして 13 3347 右二首 14 3348 東歌 14 3348 奈都素妣久 宇奈加美我多能 於伎都渚尓 布祢波等杼米牟 佐欲布氣尓家里 なつそびく うなかみがたの おきつすに ふねはとどめむ さよふけにけり 14 3348 右一首上総國歌 14 3349 可豆思加乃 麻萬能宇良未乎 許具布祢能 布奈妣等佐和久 奈美多都良思母 かづしかの ままのうらみを こぐふねの ふなびとさわく なみたつらしも 14 3349 右一首下総國歌 14 3350 筑波祢乃  尓比具波麻欲能 伎奴波安礼杼 伎美我美家思志 安夜尓伎保思母 或本歌曰 多良知祢能 又云 安麻多伎保思母 つくはねの にひぐはまよの きぬはあれど きみがみけしし あやにきほしも      たらちねの    あまたきほしも 14 3351 筑波祢尓  由伎可母布良留 伊奈乎可母 加奈思吉兒呂我 尓努保佐流可母 つくはねに ゆきかもふらる いなをかも かなしきころが にのほさるかも 14 3351 右二首常陸國歌 14 3352 信濃奈流  須我能安良能尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣婆 登伎須疑尓家里 しなぬなる すがのあらのに ほととぎす なくこゑきけば ときすぎにけり 14 3352 右一首信濃國歌 14 3353 相聞 14 3353 阿良多麻能 伎倍乃波也之尓 奈乎多弖天 由伎可都麻思自 移乎佐伎太多尼 あらたまの きへのはやしに なをたてて ゆきかつましじ いをさきだたね 14 3354 伎倍比等乃 萬太良夫須麻尓 和多佐波太 伊利奈麻之母乃 伊毛我乎杼許尓 きへひとの まだらぶすまに わたさはだ いりなましもの いもがをどこに 14 3354 右二首遠江國歌 14 3355 安麻乃波良 不自能之婆夜麻 己能久礼能 等伎由都利奈波 阿波受可母安良牟 あまのはら ふじのしばやま このくれの ときゆつりなば あはずかもあらむ 14 3356 不盡能祢乃 伊夜等保奈我伎 夜麻治乎毛 伊母我理登倍婆 氣尓餘婆受吉奴 ふじのねの いやとほながき やまぢをも いもがりとへば けによばずきぬ 14 3357 可須美為流 布時能夜麻備尓 和我伎奈婆 伊豆知武吉弖加 伊毛我奈氣可牟 かすみゐる ふじのやまびに わがきなば いづちむきてか いもがなげかむ 14 3358 佐奴良久波 多麻乃緒婆可里 古布良久波 布自能多可祢乃 奈流佐波能其登 或本歌曰 麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与 一本歌曰 阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛 さぬらくは たまのをばかり こふらくは ふじのたかねの なるさはのごと      まかなしみ ぬらくはしけらく さならくは いづのたかねの なるさはなすよ      あへらくは たまのをしけや こふらくは ふじのたかねに ふるゆきなすも 14 3359 駿河能宇美  於思敝尓於布流 波麻都豆良 伊麻思乎多能美 波播尓多我比奴 一云 於夜尓多我比奴 するがのうみ おしへにおふる はまつづら いましをたのみ ははにたがひぬ    おやにたがひぬ 14 3359 右五首駿河國歌 14 3360 伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 美太礼志米梅楊 或本歌曰 之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武 いづのうみに たつしらなみの ありつつも つぎなむものを みだれしめめや たつしらくもの たえつつも つがむともへや みだれそめけむ 14 3360 右一首伊豆國歌 14 3361 安思我良能 乎弖毛許乃母尓 佐須和奈乃 可奈流麻之豆美 許呂安礼比毛等久 あしがらの をてもこのもに さすわなの かなるましづみ ころあれひもとく 14 3362 相模祢乃 乎美祢見可久思 和須礼久流 伊毛我名欲妣弖 吾乎祢之奈久奈 或本歌曰 武蔵祢能 乎美祢見可久思 和須礼遊久 伎美我名可氣弖 安乎祢思奈久流 さがむねの をみねみかくし わすれくる いもがなよびて あをねしなくな むざしねの をみねみかくし わすれゆく きみがなかけて あをねしなくる 14 3363 和我世古乎 夜麻登敝夜利弖 麻都之太須 安思我良夜麻乃 須疑乃木能末可 わがせこを やまとへやりて まつしだす あしがらやまの すぎのこのまか 14 3364 安思我良能 波祜祢乃夜麻尓 安波麻吉弖 實登波奈礼留乎 阿波奈久毛安夜思 或本歌末句曰 波布久受能 比可波与利己祢 思多奈保那保尓 あしがらの はこねのやまに あはまきて みとはなれるを あはなくもあやし        はふくずの ひかばよりこね したなほなほに 14 3365 可麻久良乃 美胡之能佐吉能 伊波久叡乃 伎美我久由倍伎 己許呂波母多自 かまくらの みごしのさきの いはくえの きみがくゆべき こころはもたじ 14 3366 麻可奈思美 佐祢尓和波由久 可麻久良能 美奈能瀬河泊尓 思保美都奈武賀 まかなしみ さねにわはゆく かまくらの みなのせがはに しほみつなむか 14 3367 母毛豆思麻 安之我良乎夫祢 安流吉於保美 目許曽可流良米 己許呂波毛倍杼 ももづしま あしがらをぶね あるきおほみ めこそかるらめ こころはもへど 14 3368 阿之我利能 刀比能可布知尓 伊豆流湯能 余尓母多欲良尓 故呂河伊波奈久尓 あしがりの とひのかふちに いづるゆの よにもたよらに ころがいはなくに 14 3369 阿之我利乃 麻萬能古須氣乃 須我麻久良 安是加麻可左武 許呂勢多麻久良 あしがりの ままのこすげの すがまくら あぜかまかさむ ころせたまくら 14 3370 安思我里乃 波故祢能祢呂乃 尓古具佐能 波奈都豆麻奈礼也 比母登可受祢牟 あしがりの はこねのねろの にこぐさの はなつづまなれや ひもとかずねむ 14 3371 安思我良乃 美佐可加思古美 久毛利欲能 阿我志多婆倍乎 許知弖都流可毛 あしがらの みさかかしこみ くもりよの あがしたばへを こちでつるかも 14 3372 相模治乃  余呂伎能波麻乃 麻奈胡奈須 兒良波可奈之久 於毛波流留可毛 さがむぢの よろぎのはまの まなごなす ころはかなしく おもはるるかも 14 3372 右十二首相模國歌 14 3373 多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎 たまがはに さらすてづくり さらさらに なにぞこのこの ここだかなしき 14 3374 武蔵野尓  宇良敝可多也伎 麻左弖尓毛 乃良奴伎美我名 宇良尓悌尓家里 むざしのに うらへかたやき まさでにも のらぬきみがな うらにでにけり 14 3375 武蔵野乃  乎具奇我吉藝志 多知和可礼 伊尓之与比欲利 世呂尓安波奈布与 むざしのの をぐきがきぎし たちわかれ いにしよひより せろにあはなふよ 14 3376 古非思家波 素弖毛布良武乎 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓豆奈由米 或本歌曰 伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃  宇家良我波奈乃 伊呂尓悌受安良牟 こひしけば そでもふらむを むざしのの うけらがはなの いろにづなゆめ      いかにして こひばかいもに むざしのの うけらがはなの いろにでずあらむ 14 3377 武蔵野乃  久佐波母呂武吉 可毛可久母 伎美我麻尓末尓 吾者余利尓思乎 むざしのの くさはもろむき かもかくも きみがまにまに わはよりにしを 14 3378 伊利麻治能 於保屋我波良能 伊波為都良 比可婆奴流〃〃 和尓奈多要曽祢 いりまぢの おほやがはらの いはゐづら ひかばぬるぬる わになたえそね 14 3379 和我世故乎 安杼可母伊波武 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 登吉奈伎母能乎 わがせこを あどかもいはむ むざしのの うけらがはなの ときなきものを 14 3380 佐吉多萬能 津尓乎流布祢乃 可是乎伊多美 都奈波多由登毛 許登奈多延曽祢 さきたまの つにをるふねの かぜをいたみ つなはたゆとも ことなたえそね 14 3381 奈都蘇妣久 宇奈比乎左之弖 等夫登利乃 伊多良武等曽与 阿我之多波倍思 なつそびく うなひをさして とぶとりの いたらむとぞよ あがしたばへし 14 3381 右九首武蔵國歌 14 3382 宇麻具多能 祢呂乃佐左葉能 都由思母能 奴礼弖和伎奈婆 汝者故布婆曽毛 うまぐたの ねろのささばの つゆしもの ぬれてわきなば なはこふばぞも 14 3383 宇麻具多能 祢呂尓可久里為 可久太尓毛 久尓乃登保可婆 奈我目保里勢牟 うまぐたの ねろにかくりゐ かくだにも くにのとほかば ながめほりせむ 14 3383 右二首上総國歌 14 3384 可都思加能 麻末能手兒奈乎 麻許登可聞 和礼尓余須等布 麻末乃弖胡奈乎 かづしかの ままのてごなを まことかも われによすとふ ままのてごなを 14 3385 可豆思賀能 麻萬能手兒奈我 安里之可婆 麻末乃於須比尓 奈美毛登杼呂尓 かづしかの ままのてごなが ありしかば ままのおすひに なみもとどろに 14 3386 尓保杼里能 可豆思加和世乎 尓倍須登毛 曽能可奈之伎乎 刀尓多弖米也母 にほどりの かづしかわせを にへすとも そのかなしきを とにたてめやも 14 3387 安能於登世受 由可牟古馬母我 可豆思加乃 麻末乃都藝波思 夜麻受可欲波牟 あのおとせず ゆかむこまもが かづしかの ままのつぎはし やまずかよはむ 14 3387 右四首下総國歌 14 3388 筑波祢乃  祢呂尓可須美為 須宜可提尓 伊伎豆久伎美乎 為祢弖夜良佐祢 つくはねの ねろにかすみゐ すぎかてに いきづくきみを ゐねてやらさね 14 3389 伊毛我可度 伊夜等保曽吉奴 都久波夜麻 可久礼奴保刀尓 蘇提婆布利弖奈 いもがかど いやとほそきぬ つくはやま かくれぬほとに そではふりてな 14 3390 筑波祢尓  可加奈久和之能 祢乃未乎可 奈伎和多里南牟 安布登波奈思尓 つくはねに かかなくわしの ねのみをか なきわたりなむ あふとはなしに 14 3391 筑波祢尓  曽我比尓美由流 安之保夜麻 安志可流登我毛 左祢見延奈久尓 つくはねに そがひにみゆる あしほやま あしかるとがも さねみえなくに 14 3392 筑波祢乃  伊波毛等杼呂尓 於都流美豆 代尓毛多由良尓 和我於毛波奈久尓 つくはねの いはもとどろに おつるみづ よにもたゆらに わがおもはなくに 14 3393 筑波祢乃  乎弖毛許能母尓 毛利敝須恵 波播已毛礼杼母 多麻曽阿比尓家留 つくはねの をてもこのもに もりべすゑ ははいもれども たまぞあひにける 14 3394 左其呂毛能 乎豆久波祢呂能 夜麻乃佐吉 和須良許婆古曽 那乎可家奈波賣 さごろもの をづくはねろの やまのさき わすらこばこそ なをかけなはめ 14 3395 乎豆久波乃 祢呂尓都久多思 安比太欲波 佐波太奈利努乎 萬多祢天武可聞 をづくはの ねろにつくたし あひだよは さはだなりのを またねてむかも 14 3396 乎都久波乃 之氣吉許能麻欲 多都登利能 目由可汝乎見牟 左祢射良奈久尓 をづくはの しげきこのまよ たつとりの めゆかなをみむ さねざらなくに 14 3397 比多知奈流 奈左可能宇美乃 多麻毛許曽 比氣波多延須礼 阿杼可多延世武 ひたちなる なさかのうみの たまもこそ ひけばたえすれ あどかたえせむ 14 3397 右十首常陸國歌 14 3398 比等未奈乃 許等波多由登毛 波尓思奈能 伊思井乃手兒我 許登奈多延曽祢 ひとみなの ことはたゆとも はにしなの いしゐのてごが ことなたえそね 14 3399 信濃道者  伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之牟奈 久都波氣和我世 しなぬぢは いまのはりみち かりばねに あしふましむな くつはけわがせ 14 3400 信濃奈流  知具麻能河泊能 左射礼思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟 しなぬなる ちぐまのかはの さざれしも きみしふみてば たまとひろはむ 14 3401 中麻奈尓  宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波 ちぐまなに うきをるふねの こぎでなば あふことかたし けふにしあらずは 14 3401 右四首信濃國歌 14 3402 比能具礼尓 宇須比乃夜麻乎 古由流日波 勢奈能我素悌母 佐夜尓布良思都 ひのぐれに うすひのやまを こゆるひは せなのがそでも さやにふらしつ 14 3403 安我古非波 麻左香毛可奈思 久佐麻久良 多胡能伊利野乃 於久母可奈思母 あがこひは まさかもかなし くさまくら たごのいりのの おくもかなしも 14 3404 可美都氣努 安蘇能麻素武良 可伎武太伎 奴礼杼安加奴乎 安杼加安我世牟 かみつけの あそのまそむら かきむだき ぬれどあかぬを あどかあがせむ 14 3405 可美都氣努 乎度能多杼里我 可波治尓毛 兒良波安波奈毛 比等理能未思弖 或本歌曰 可美都氣乃 乎野乃多杼里我 安波治尓母 世奈波安波奈母 美流比登奈思尓 かみつけの をどのたどりが かはぢにも こらはあはなも ひとりのみして      かみつけの をののたどりが あはぢにも せなはあはなも みるひとなしに 14 3406 可美都氣野 左野乃九久多知 乎里波夜志 安礼波麻多牟恵 許登之許受登母 かみつけの さののくくたち をりはやし あれはまたむゑ ことしこずとも 14 3407 可美都氣努 麻具波思麻度尓 安佐日左指 麻伎良波之母奈 安利都追見礼婆 かみつけの まぐはしまどに あさひさし まぎらはしもな ありつつみれば 14 3408 尓比多夜麻 祢尓波都可奈那 和尓余曽利 波之奈流兒良師 安夜尓可奈思母 にひたやま ねにはつかなな わによそり はしなるこらし あやにかなしも 14 3409 伊香保呂尓 安麻久母伊都藝 可奴麻豆久 比等登於多波布 伊射祢志米刀羅 いかほろに あまくもいつぎ かぬまづく ひととおたはふ いざねしめとら 14 3410 伊香保呂能 蘇比乃波里波良 祢毛己呂尓 於久乎奈加祢曽 麻左可思余加婆 いかほろの そひのはりはら ねもころに おくをなかねそ まさかしよかば 14 3411 多胡能祢尓 与西都奈波倍弖 与須礼騰毛 阿尓久夜斯豆之 曽能可抱与吉尓 たごのねに よせつなはへて よすれども あにくやしづし そのかほよきに 14 3412 賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母 かみつけの くろほのねろの くずはがた かなしけこらに いやざかりくも 14 3413 刀祢河泊乃 可波世毛思良受 多太和多里 奈美尓安布能須 安敝流伎美可母 とねがはの かはせもしらず ただわたり なみにあふのす あへるきみかも 14 3414 伊香保呂能 夜左可能為提尓 多都努自能 安良波路萬代母 佐祢乎佐祢弖婆 いかほろの やさかのゐでに たつのじの あらはろまでも さねをさねてば 14 3415 可美都氣努 伊可保乃奴麻尓 宇恵古奈宜 可久古非牟等夜 多祢物得米家武 かみつけの いかほのぬまに うゑこなぎ かくこひむとや たねもとめけむ 14 3416 可美都氣努 可保夜我奴麻能 伊波為都良 比可波奴礼都追 安乎奈多要曽祢 かみつけの かほやがぬまの いはゐづら ひかばぬれつつ あをなたえそね 14 3417 可美都氣努 伊奈良能奴麻乃 於保為具左 与曽尓見之欲波 伊麻許曽麻左礼 かみつけの いならのぬまの おほゐぐさ よそにみしよは いまこそまされ 14 3417 柿本朝臣人麻呂歌集出也 14 3418 可美都氣努 佐野田能奈倍能 武良奈倍尓 許登波佐太米都 伊麻波伊可尓世母 かみつけの さのだのなへの むらなへに ことはさだめつ いまはいかにせも 14 3419 伊可保世欲 奈可中次下 於毛比度路   久麻許曽之都等 和須礼西奈布母 いかほせよ おもひどろ くまこそしつと         わすれせなふも 14 3420 可美都氣努 佐野乃布奈波之 登里波奈之 於也波佐久礼騰 和波佐可流賀倍 かみつけの さののふなはし とりはなし おやはさくれど わはさかるがへ 14 3421 伊香保祢尓 可未奈那里曽祢 和我倍尓波 由恵波奈家杼母 兒良尓与里弖曽 いかほねに かみななりそね わがへには ゆゑはなけども こらによりてぞ 14 3422 伊可保可是 布久日布加奴日 安里登伊倍杼 安我古非能未思 等伎奈可里家利 いかほかぜ ふくひふかぬひ ありといへど あがこひのみし ときなかりけり 14 3423 可美都氣努 伊可抱乃祢呂尓 布路与伎能 遊吉須宜可提奴 伊毛賀伊敝乃安多里 かみつけの いかほのねろに ふろよきの ゆきすぎかてぬ いもがいへのあたり 14 3423 右廿二首上野國歌 14 3424 之母都家野 美可母乃夜麻能 許奈良能須 麻具波思兒呂波 多賀家可母多牟 しもつけの みかものやまの こならのす まぐはしころは たがけかもたむ 14 3425 志母都家努 安素乃河泊良欲 伊之布麻受 蘇良由登伎奴与 奈我己許呂能礼 しもつけの あそのかはらよ いしふまず そらゆときぬよ ながこころのれ 14 3425 右二首下野國歌 14 3426 安比豆祢能 久尓乎佐杼抱美 安波奈波婆 斯努比尓勢毛等 比毛牟須婆佐祢 あひづねの くにをさどほみ あはなはば しのひにせもと ひもむすばさね 14 3427 筑紫奈留  尓抱布兒由恵尓 美知能久乃 可刀利乎登女乃 由比思比毛等久 つくしなる にほふこゆゑに みちのくの かとりをとめの ゆひしひもとく 14 3428 安太多良乃 祢尓布須思之能 安里都〃毛 安礼波伊多良牟 祢度奈佐利曽祢 あだたらの ねにふすししの ありつつも あれはいたらむ ねどなさりそね 14 3428 右三首陸奥國歌 14 3429 譬喩歌 14 3429 等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎 とほつあふみ いなさほそえの みをつくし あれをたのめて あさましものを 14 3429 右一首遠江國歌 14 3430 斯太能宇良乎 阿佐許求布祢波 与志奈之尓 許求良米可母与 余志許佐流良米 しだのうらを あさこぐふねは よしなしに こぐらめかもよ よしこさるらめ 14 3430 右一首駿河國歌 14 3431 阿之我里乃 安伎奈乃夜麻尓 比古布祢乃 斯利比可志母與 許己波故賀多尓 あしがりの あきなのやまに ひこふねの しりひかしもよ ここばこがたに 14 3432 阿之賀利乃 和乎可鷄夜麻能 可頭乃木能 和乎可豆佐祢母 可豆佐可受等母 あしがりの わをかけやまの かづのきの わをかづさねも かづさかずとも 14 3433 多伎木許流 可麻久良夜麻能 許太流木乎 麻都等奈我伊波婆 古非都追夜安良牟 たききこる かまくらやまの こだるきを まつとながいはば こひつつやあらむ 14 3433 右三首相模國歌 14 3434 可美都家野 安蘇夜麻都豆良 野乎比呂美 波比尓思物能乎 安是加多延世武 かみつけの あそやまつづら のをひろみ はひにしものを あぜかたえせむ 14 3435 伊可保呂乃 蘇比乃波里波良 和我吉奴尓 都伎与良之母与 比多敝登於毛敝婆 いかほろの そひのはりはら わがきぬに つきよらしもよ ひたへとおもへば 14 3436 志良登保布 乎尓比多夜麻乃 毛流夜麻乃 宇良賀礼勢奈那 登許波尓毛我母 しらとほふ をにひたやまの もるやまの うらがれせなな とこはにもがも 14 3436 右三首上野國歌 14 3437 美知乃久能 安太多良末由美 波自伎於伎弖 西良思馬伎那婆 都良波可馬可毛 みちのくの あだたらまゆみ はじきおきて せらしめきなば つらはかめかも 14 3437 右一首陸奥國歌 14 3438 雜歌 14 3438 都武賀野尓 須受我於等伎許由 可牟思太能 等能乃奈可知師 登我里須良思母 或本歌曰 美都我野尓 又曰 和久胡思 つむがのに すずがおときこゆ かむしだの とののなかちし とがりすらしも      みつがのに    とののわくごし 14 3439 須受我祢乃 波由馬宇馬夜能 都追美井乃 美都乎多麻倍奈 伊毛我多太手欲 すずがねの はゆまうまやの つつみゐの みづをたまへな いもがただてよ 14 3440 許乃河泊尓 安佐菜安良布兒 奈礼毛安礼毛 余知乎曽母弖流 伊悌兒多婆里尓 一云 麻之毛安礼母 このかはに あさなあらふこ なれもあれも よちをぞもてる いでこたばりに    ましもあれも 14 3441 麻等保久能 久毛為尓見由流 伊毛我敝尓 伊都可伊多良武 安由賣安我古麻 柿本朝臣人麻呂歌集曰 等保久之弖 又曰 安由賣久路古麻 まとほくの くもゐにみゆる いもがへに いつかいたらむ あゆめあがこま            とほくして    あゆめくろこま 14 3442 安豆麻治乃 手兒乃欲妣左賀 古要我祢弖 夜麻尓可祢牟毛 夜杼里波奈之尓 あづまぢの てごのよびさか こえがねて やまにかねむも やどりはなしに 14 3443 宇良毛奈久 和我由久美知尓 安乎夜宜乃 波里弖多弖礼波 物能毛比弖都母 うらもなく わがゆくみちに あをやぎの はりてたてれば ものもひでつも 14 3444 伎波都久乃 乎加能久君美良 和礼都賣杼 故尓毛美多奈布 西奈等都麻佐祢 きはつくの をかのくくみら われつめど こにもみたなふ せなとつまさね 14 3445 美奈刀能 安之我奈可那流 多麻古須氣 可利己和我西古 等