テレンティウス作『兄弟』







ADELPHOE
P. TERENTI AFRI
岩波版テレンティウス作『兄弟』(対訳)

C. SULPICI APOLLINARIS PERIOCHA
ガイウス・スルピキウス・アポリナリスによる梗概

Duos cum haberet Demea adulescentulos,
デメアスには二人の息子がいたが、
dat Micioni fratri adoptandum Aeschinum,
長男のアイスキヌスを弟のミキオンに養子として預け、
sed Ctesiphonem retinet. hunc citharistriae
次男のクテシフォンを手元に残した。クテシフォンは
lepore captum sub duro ac tristi patre
キタラ弾きの娘に熱を上げたが、父デメアスは厳格で頑固なため、
frater celabat Aeschinus; famam rei,
アイスキヌスが弟の恋を匿ってやる。恋の事件の噂が、
amorem in sese transferebat; denique
自分の話のように見せかけて、果ては、
fidicinam lenoni eripit. vitiaverat
キタラ娘を女衒から奪い取る。だがアイスキヌス自身、
idem Aeschinus civem Atticam pauperculam
貧しいアッティカ市民の娘の操を奪い、
fidemque dederat hanc sibi uxorem fore.
必ず妻にするとの約束を交わしていた。
Demea jurgare, graviter ferre; mox tamen, 10
デメアスは怒り、激昂するが、ほどなく
ut veritas patefacta est, ducit Aeschinus
真相が判明し、アイスキヌスは、
vitiatam, potitur Ctesipho citharistriam.
恋した娘と結婚、クテシフォンもキタラ弾きの娘と結ばれる。

PERSONAE
MICIO senex
DEMEA senex
SANNIO leno
AESCHINUS adulescens
BACCHIS meretrix
PARMENO servos
SYRUS servos
CTESIPHO adulescens
SOSTRATA matrona
CANTHARA anus
GETA servos
HEGIO senex
PAMPHILA virgo
DROMO puer.

ミキオン 老人、アイスキヌスの養父、デメアスの弟。アテナエに住む。
デメアス 老人、アイスキヌスとクテシフォンの実父、ミキオンの兄。田舎に住む。
サンニオン 女衒。
アイスキヌス 若者、デメアスの息子、クテシフォンの兄。パンフィラの恋人。
バッキス 遊女、クテシフォンの恋人。
パルメノン アイスキヌスの奴隷。
シュルス ミキオンの奴隷。
クテシフォン 若者、デメアスの息子、アイスキヌスの弟、バッキスの恋人
ソストラータ 婦人、パンフィラの母。アテナエに住む。
カンタラ 老婆、ソストラータの奴隷。
ゲタ ソストラータの奴隷。
ヘギオン 老人、デメアスの親友。アテナエに住む。
ドロモン 少年、ミキオンの奴隷
ステファニオン 少年、ミキオンの奴隷。
パンフィラ 乙女、ソストラータの娘、アイスキヌスの恋人。

場所 アテナエ。ミキオンの家とソストラータの家が並んで建つ。

PROLOGUS
前口上
postquam poeta sensit scripturam suam
われらが作者は、今から上演する作品が
ab iniquis observari et advorsarios
敵意をもつ批評家によって酷評され、ライバルたちの
rapere in pejorem partem quam acturi sumus,
あら捜しの的になるなることを十分心得ておりますので、
indicio de se ipse erit, vos eritis judices,
この際進んで被告席に立つことにし、皆様の裁きを仰ごうとの覚悟です。
laudin an vitio duci id factum oporteat.
作者がこの作品で行ったことは、誉れと悪徳のどちらに値するのか、よく考えください。
Synapothnescontes Diphili comoediast.
『心中する者たち』は、ディピルスの喜劇ですが、
eam Commorientis Plautus fecit fabulam.
プラウトゥスはこれを同じ題の芝居に翻案しました。
in Graeca adulescens est qui lenoni eripit
ギリシアの作品では、作品の前半で女衒から
meretricem in prima fabula. eum Plautus locum
遊女を奪い取る若者が登場します。しかしプラウトゥスは、
reliquit integrum, eum hic sumpsit sibi 10
この場面をすっかり省きました。一方、テレンティウスは、
in adelphos, verbum de verbo expressum extulit.
それを字句どおりに翻訳し、『兄弟』に取り入れたのです。
eam nos acturi sumus novam. pernoscite
ただいまから、皆様にはまったく装いも新たな作品をお目にかけますが、
furtumne factum existumetis an locum
これを見て盗作とお考えになるか、それとも従来なおざりにされてきた
reprehensum qui praeteritus neglegentiast.
場面を復活させたと思われるか、とくとお考えください。
nam quod isti dicunt malivoli, homines nobilis
さて、テレンティウスを目の敵にする連中は、貴族の方々が
hunc adjutare assidueque una scribere,
彼を支援し、つねに一体となって作品の完成に力を貸していると言います。
quod illi maledictum vehemens esse existumant,
彼らはこれで激しく非難したつもりでいるようですが、
eam laudem hic ducit maxumam quom illis placet
テレンティウスは、これこそ最大の名誉と考えます。今日お集まりの皆様をはじめ、
qui vobis univorsis et populo placent,
ローマ国民が日頃敬愛するお歴々が目をかけてくださるのですのですから。
quorum opera in bello, in otio, in negotio 20
戦時はもちろんのこと、仕事に従事するときもそうでないときも、
suo quisque tempore usust sine superbia.
必要なときにそのお力添えを退ける無礼者はおりますまい。
dehinc ne exspectetis argumentum fabulae:
芝居の梗概については、触れずにおきましょう。
senes qui primi venient, ii partem aperient,
まず初めに老人たちが舞台に現れ、その一部を説明しますし、
in agendo partem ostendent. facite aequanimitas
残りの部分についても、芝居が進むにつれて明らかになりましょう。
poetae ad scribendum augeat industriam.
どうか公平な判断をたまわり、作者が今後も芝居を書く情熱を燃やせるよう、ご協力のほどお願い申し上げます。

I.I MICIO senex
第一幕第一場(早朝のアテネ。
ミキオン、家から出てくる。自分と兄貴の教育観の違いを独白する)

MI. Storax! non rediit hac nocte a cena Aeschinus
ミキオン (家に向かって)おい、ストラックス! (独白)アイスキヌスは、昨日の夜、晩餐に出たきりまだ戻らないし、
neque servolorum quisquam qui advorsum ierant.
お付きの奴隷たちも誰ひとり戻ってこない。
profecto hoc vere dicunt: si absis uspiam
まったくうまく言ったものだ、「家を留守にして
aut ibi si cesses, evenire ea satius est
羽を伸ばすなら、子を甘やかす親じゃなく、
quae in te uxor dicit et quae in animo cogitat 30
怒った妻の怒鳴る言葉や、心の中で案ずる思いが
irata quam illa quae parentes propitii.
実際に起こる方がまし」と。
uxor, si cesses, aut te amare cogitat
妻は夫の帰りが遅いと、つい別の女を追い回しているとか、
aut tete amari aut potare atque animo obsequi
別の女に愛されているとか、勘ぐるものだ。「今頃酒を飲んで上機嫌、
et tibi bene esse soli, quom sibi sit male.
ひとりいい思いをしてどういうつもり? わたしはつらい思いで待っているのに」なんて思うかもしれない。
ego quia non rediit filius quae cogito et
それに比べてこのわしは、息子が家に帰らないというだけで、考えることときたら!
quibus nunc sollicitor rebus! ne aut ille alserit
今は何という不安に苦しめられていることか!風邪を引いてないかとか、
aut uspiam ceciderit aut praefregerit
どこかで転んで骨を折ったんじゃないか、なんて切りがない。
aliquid. vah! quemquamne hominem in animo instituere aut
まったく人間てやつは、自分以上に大事なものを心に作り出し、
parare quod sit carius quam ipsest sibi!
用意したがるものときている。
atque ex me hic natus non est, sed ex fratre. is adeo 40
だが、あの子は本当はわしの子じゃなく、兄貴の子なんだ。
dissimili studiost iam inde ab adulescentia.
兄貴は若い頃から、わしとはまるで好みが違っていた。
ego hanc clementem vitam urbanam atque otium
わしはごらんのとおり、平穏でゆとりある都会生活を送っている。
secutus sum et, quod fortunatum isti putant,
人によっては、至福のように考える者もいるが、
uxorem numquam habui. ille contra haec omnia:
とにかく結婚なんかしたこともない。それにひきかえ、兄貴はわしの生活にないものをみんなもっている。
ruri agere vitam, semper parce ac duriter
田舎暮らしに、倹約づくの窮屈な暮らし、
se habere. uxorem duxit, nati filii
妻が一人に子供が二人。
duo. inde ego hunc maiorem adoptavi mihi,
このうち長男のアイスキヌスをわしが養子に迎えたのだ。
eduxi e parvolo, habui, amavi pro meo.
この子は小さい頃から実の子と思って愛し、
in eo me oblecto, solum id est carum mihi.
面倒を見てきた。目に入れても痛くない、わしの唯一の生きがいだ。
ille ut item contra me habeat facio sedulo. 50
わしとて、この子に好かれるよう精いっぱい努力してきたつもりだ。
do, praetermitto, non necesse habeo omnia
何から何までわしの言うとおりにする必要はないと考え、
pro meo jure agere. postremo, alii clanculum
金は欲しいだけ与え、細かいことには目をつぶってきた。ともかく、
patres quae faciunt, quae fert adulescentia,
よその子が親に内緒ですることや、若気の至りでしでかすことにはいろいろあるが、
ea ne me celet consuefeci filium.
うちの子に限っては、わしに隠れてやらないようしつけたつもりだ。
nam qui mentiri aut fallere institerit patrem aut
実際、親に平気で嘘をついたり、だましたりするような子は、
audebit, tanto magis audebit ceteros.
他人にはなおさら平気で嘘をつくものだ。
pudore et liberalitate liberos
親としては、子の廉恥心を育て上げ、寛大な態度でしつける方が、
retinere satius esse credo quam metu.
脅しを使って締め上げるよりもずっと大切なことなのだ。
haec fratri mecum non conveniunt neque placent.
だが、兄貴はこんなことを話しても、賛成するどころか嫌な顔をするだけだ。
venit ad me saepe clamans ”quid agis, Micio? 60
いつもうちに来てはこう怒鳴る、「ミキオン、いったい何をしてくれるんだ?
quor perdis adulescentem nobis? quor amat?
どうしてうちの倅を骨抜きにするんだ? どうしてあいつが女の尻を追い回し、
quor potat? quor tu his rebus sumptum suggeris,
酒浸りにならんといけないんだ? おまえもまた、どうしてそんな自堕落な生活のつけを支払い、
vestitu nimio indulges? nimium ineptus es.”
買いたい放題服を買ってやるんだ? 本当に大間抜けだよ」なんてね。
nimium ipsest durus praeter aequomque et bonum,
でも、兄貴こそ厳しすぎるし、あれでは公平とも立派とも呼べない。
et errat longe mea quidem sententia
力で得た支配権が、友愛で結ばれた絆以上に
qui imperium credat gravius esse aut stabilius
揺るぎない確かな価値をもつと信じることは、
vi quod fit quam illud quod amicitia adjungitur.
わしの考えとはまるで違っている。
mea sic est ratio et sic animum induco meum:
わしのやり方、方針はむしろこうだ。
malo coactus qui suom officium facit,
罰を恐れて義務を果たす者は、
dum id rescitum iri credit, tantisper cavet; 70
事がばれるのを恐れる間だけ気をつければそれでいい。
si sperat fore clam, rursum ad ingenium redit.
ばれずに済むと思ったら、また自分のしたいことに取りかかる。
ill‘ quem beneficio adjungas ex animo facit,
一方、親切心で結ばれた子供は、何をするにせよ心を込めて行うもの。
studet par referre, praesens absensque idem erit.
親に恩返しをしようと努め、親がいてもいなくても変わらぬ自分でいるだろう。
hoc patriumst, potius consuefacere filium
父親のなすべきは、息子が他人に脅されてではなく、
sua sponte recte facere quam alieno metu:
自分の意思で正しく行動できるようにしつけることである。
hoc pater et dominus interest. hoc qui nequit,
この点で、父親は奴隷の主人とは大違いだ。このしつけのできない者にかぎって、
fateatur nescire imperare liberis.
子の教育がうまくいかないと告白する羽目になる。
sed estne hic ipsus de quo agebam? et certe is est.
おや、噂をすれば何とやら。ご当人のお出ましかな? いや、本当にそのようだ。
nescioquid tristem video. credo, iam ut solet
何だか浮かぬ顔をしているぞ。きっと、いつものように、
jurgabit. salvom te advenire, Demea, 80
お目玉を頂戴しそうな雲行きだ。(デメアスに)デメアス、よく来てくれたね。
gaudemus.
元気そうで何よりじゃないか。


I.II DEMEA MICIO SENES DUO
第一幕第二場(デメアス登場。第一の口論)

DE. ehem, opportune! te ipsum quaerito.
デメアス やっと見つけたぞ。おまえをさんざん探し回ってたんだ。
MI. quid tristis es? DE. rogas me, ubi nobis Aeschinus
ミキオン どうしてそんなに冴えない顔をしてるんだい。デメアス 間の抜けたことを聞くじゃないか。わしらにはアイスキヌスがついているっていうのに。
siet, quid tristis ego sim? MI. dixin hoc fore?
ミキオン(観客に)ほら、言ってたとおりでしょう。
quid fecit? DE. quid ille fecerit? quem neque pudet
(デメアスに向かって)あの子が何かしたって言うのかい? デメアス 何かしたかだと? あの恥知らずの
quicquam nec metuit quemquam neque legem putat
怖いものなしの無法者めが。
tenere se ullam. nam illa quae antehac facta sunt
今までのことは全部目をつぶってもいい。
omitto: modo quid dissignavit? MI. quidnam id est?
だがな、今度しでかしたことは、一体どういうつもりなんだ? ミキオン 全体何の話だい?
DE. fores effregit atque in aedis irruit
デメアス あいつはな、他人の家の扉を壊し、中へ飛び込むと、
alienas. ipsum dominum atque omnem familiam
その家の主人と奴隷を
mulcavit usque ad mortem. eripuit mulierem 90
片っ端から死ぬほど打ちのめし、惚れた女を
quam amabat. clamant omnes indignissume
奪い去ったということだ。みんな大変なことをやってくれたと
factum esse. hoc advenienti quot mihi, Micio,
大騒ぎだ。ここへ来る途中も、何遍この話をされたことか!
dixere! in orest omni populo. denique,
町中この話でもちきりだ。要するに、
si conferendum exemplumst, non fratrem videt
比べる手本がほしければ、弟をよく見ろってことだ。
rei dare operam, ruri esse parcum ac sobrium?
あの子は仕事に精を出し、田舎でつつましくまじめに暮らしている。
nullum huius simile factum. haec quom illi, Micio,
それにひきかえ、あいつは何ひとつ似たようなことはしない。だがな、ミキオン、
dico, tibi dico. tu illum corrumpi sinis.
これはアイスキヌスだけでなく、おまえにも責任がある。おまえはあの子が堕落するのを黙って見ているだけじゃないか。
MI. homini imperito numquam quicquam injustiust,
ミキオン(穏やかに)世間知らずの男ほど始末に負えないものはない。
qui nisi quod ipse fecit nil rectum putat.
自分でやらないことはみんな間違っていると考えるのだから。
DE. quorsum istuc? MI. quia tu, Demea, haec male judicas. 100
デメアス それはどういう意味だ? ミキオン デメアス、この問題を誤解しているのはあんたの方だからさ。
non est flagitium, mihi crede, adulescentulum
わしに言わせれば、若い男が女と遊んだり、
scortari neque potari, non est, neque fores
酒を飲んだりすることなんて何でもない。ちっとも恥ずべきことじゃない。
effringere. haec si neque ego neque tu fecimus,
家の戸を破ったことも、全然恥じゃない。わしらはこんなことをやらなかったかもしれないが、
non siit egestas facere nos. tu nunc tibi
金がなくてできなかっただけのことなんだ。あのころ金がなくて、
id laudi ducis quod tum fecisti inopia?
仕方なくやってやっていた生活を、今になって、立派な生活だったというつもりかい?
injuriumst. nam si esset unde fieret,
そんな馬鹿な話はない。もし金さえあったなら、わしらだって
faceremus. et tu illum tuom, si esses homo,
同じことをやっていただろう。あんたも人の子なら、
sineres nunc facere dum per aetatem licet
息子に今はしたいことをさせてやればいい。若気の至りで許されるうちが花なんだ。
potius quam, ubi te exspectatum ejecisset foras,
あんたを家の外に追い出すまで辛抱してから、
alieniore aetate post faceret tamen. 110
いい年をして同じ過ちをしでかすよりずっといい。
DE. pro Juppiter, tu homo adigis me ad insaniam.
デメアス(怒って)まったく何てことを言うんだ? わしの頭をおかしくする気か?
non est flagitium facere haec adulescentulum? MI. ah!
若い男があんなことをしても、ちっとも恥ではないと言うのか? ミキオン 頼むから、
ausculta, ne me optundas de hac re saepius.
わしの言うことを聞いてくれ。このことで何度もがみがみ言わんでくれ。
tuom filium dedisti adoptandum mihi.
いいかい、あんたはあの子を養子としてわしにくれたんだ。
is meus est factus. si quid peccat, Demea,
つまり、あの子はわしのものになったんだ。もし、あの子が何か罪を犯したら、
mihi peccat. ego illi maxumam partem fero.
それはわしの顔に泥を塗ることになる。こういったことで責任を負うのは、みんなこのわしなんだ。
opsonat, potat, olet unguenta? de meo.
あの子は宴会に出かけ、酒を飲み、香水を振りまいているが、金はみんなわしから出てるのさ。
amat? dabitur a me argentum dum erit commodum;
あの子に女ができれば、都合のつくだけ金は渡し、
ubi non erit, fortasse excludetur foras.
都合がつかなきゃ、あの子が門前払いを食うだけさ。
fores effregit? restituentur; discidit 120
あの子が戸を壊した。よろしい、修理をしょう。
vestem? resarcietur. est ―dis gratia―
人の服を破った。よろしい、これも弁償しよう。神々のおかげで、
est unde haec fiant; et adhuc non molesta sunt.
こうしたことを可能にする金がわしにはあるのだ。今のところ、何の不都合もない。
postremo aut desine aut cedo quemvis arbitrum.
要するに、あんたにはお引きとり願いたいということだ。さもなくば、誰か仲裁人でも呼ぶことだな。
te plura in hac re peccare ostendam. DE. ei mihi!
そうすれば、この件でどれだけあんたが迷惑をかけているかを洗いざらい報告してやろう。デメアス 何だと!
pater esse disce ab illis qui vere sciunt.
おまえこそ、物のわかった人間から、父親がなんたるかを学ぶがいい。
MI. natura tu illi pater es, consiliis ego.
ミキオン あの子の実の親はあんたでも、教育したのはこのわしだ。
DE. tun consiliis quicquam? MI. ah! si pergis, abiero.
デメアス おまえがどんな教育をしたというんだ? ミキオン 同じ話をしつこくするなら、ここから出て行くぞ。
DE. sicin agis? MI. an ego totiens de eadem re audiam?
デメアス そんな態度でわしに向かう気か? ミキオン それじゃあ、何度も同じ話を聞かなきゃならんというのか。
DE. curaest mihi. MI. et mihi curaest. verum, Demea,
デメアス あの子が心配でならんのさ。ミキオン わしだって心配さ。だがな、デメアス、
curemus aequam uterque partem. tu alterum, 130
お互い心配事は山分けしようじゃないか。あんたはあんたの、
ego item alterum. nam ambos curare propemodum
わしはわしの息子の世話に徹するのさ。あんたが二人の息子の心配をするってことは、
reposcere illumst quem dedisti. DE. ah! Micio!
いったん養子に出した子を返してくれと頼むのと同じことだ。デメアス ミキオン、それは違う!
MI. mihi sic videtur. DE. quid istic? si tibi istuc placet,
ミキオン いや、違わない。デメアス どうして? まあいい。あんたがそれでいいというのなら、
profundat, perdat, pereat. nil ad me attinet.
あの子に浪費させ、破産させ、破滅させるがいい。どうせわしには関係のないことさ。
iam si verbum unum posthac ― MI. rursum, Demea,
もうひとこと言わせてもらえば・・ミキオン おい、
irascere? DE. an non credis? repeto quem dedi?
まだ何か愚痴を言うつもりかい? デメアス わしの言うことは、何も聞いてもらえないのか? わしは一度やった子を返せと言っているんじゃない。
aegrest. alienus non sum. si obsto ― em, desino.
ただこの胸が傷むのだ。わしは赤の他人じゃないんだ。もしわしが反対すれば・・いや、やめておこう。
unum vis curem: curo. et est dis gratia,
おまえは、わしが一人の息子の世話だけしていればいいと言うが、実際そのとおりやってきたつもりだ。神々のおかげで、
quom ita ut volost. iste tuos ipse sentiet
わしの息子は思ったとおりに育ってくれた。おまえの息子も、
posterius ― nolo in illum gravius dicere. 140
いつか思い知るだろう。あの子のことで、これ以上うるさく言うことはやめにしよう。
MI. nec nil neque omnia haec sunt quae dicit. tamen
ミキオン(独白)兄貴の言ったことはまったく的外れでもないが、全部が正しいわけでもない。
non nil molesta haec sunt mihi. sed ostendere
あの子のやったことは確かに深刻な問題だが、
me aegre pati illi nolui. nam itast homo:
わしは弱っているところを見られたくなかったのだ。兄貴とはあんな人間だ。
quom placo, advorsor sedulo et deterreo,
兄貴の気持ちを落ち着かせるには、こっちが辛抱強く反論し、抵抗しなくてはならない。
tamen vix humane patitur. verum si augeam
だが、兄貴は人間らしく我慢してくれるわけではない。といって、もし気持ちを高ぶらせたり、
aut etiam adjutor sim eius iracundiae,
怒りの火に油を注ぐ結果を招いたら、
insaniam profecto cum illo. etsi Aeschinus
まちがいなく、このわしも、兄貴と一緒に気がおかしくなってしまうだろう。ともかく、アイスキヌスは、
non nullam in hac re nobis facit injuriam.
この一件でわれわれに何の迷惑もかけていないとは言いきれない。
quam hic non amavit meretricem? aut quoi non dedit
あの子はこれまでどれだけの女と遊び、どれだけの金を貢いできたことか!
aliquid? postremo nuper (credo iam omnium 150
先日も―ようやく女道楽に飽きたらしく―
taedebat) dixit velle uxorem ducere.
身を固めたいと言っていたところなのに。
sperabam iam defervisse adulescentiam.
若者の情熱の火が、少しは弱まることを望んでいたわしとすれば、
gaudebam. ecce autem de integro! nisi, quidquid est,
結婚は大歓迎だ。だが、なんてこった! あいつはまたやってくれた。とにかく、
volo scire atque hominem convenire, si apud forumst.
事情を詳しく知らんといかん。広場にいるなら、今すぐにでも会いたいところだ。

II.I SANNIO BACCHIS AESCHINUS leno meretrix adulescens PARMENO servos
第二幕第一場(アイスキヌスとパルメノン、バッキスを連れて登場。サンニオンが後から来る)

SA. obsecro, populares, ferte misero atque innocenti auxilium,
サンニオン(観客に向かって)お願いだ、みなさん。惨めで無実の男をお助けください。
subvenite inopi. AE. otiose, nunciam ilico hic consiste.
哀れなあっしをお助けください。アイスキヌス(女に向かって)心配しなくていいぞ。少しの間だけそこに立っていればいい。
quid respectas? nil periclist. numquam dum ego adero hic te tanget.
何を振り返って見てるんだ? 心配することは何もない。僕がついているかぎり、おまえには指一本触れさせはしない。
SA. ego istam invitis omnibus. AE. quamquamst scelestus non committet hodie umquam iterum ut vapulet.
サンニオン 誰が何と言おうと、おれはその娘を[つかまえるぞ]。アイスキヌス あいつは悪党だが、今日一日で二度も殴られような真似はするまい。
SA. Aesehine, audi, ne te ignarum fuisse dicas meorum morum, 160
サンニオン おい、アイスキヌス。よく聞け。おれの正体を知らんとは言わせないぞ。
leno ego sum. AE. scio. SA. at ita ut usquam fuit fide quisquam optuma.
おれさまは、正真正銘の女衒なのだ。アイスキヌス そんなこと知っているさ。サンニオン だがな、おれさまほどまっとうな男は、どこを探してもいないのだ。
tu quod te posterius purges hanc injuriam mi nolle
後になって、あんな馬鹿なことをしなければよかったと後悔しても、
factam esse, huius non faciam. crede hoc, ego meum jus persequar
(指を鳴らして)こんなものでは済まされないぞ。よし、これだけは覚えておけ。おれは必ず然るべき法に訴えてやる。
neque tu verbis solves umquam quod mihi re male feceris.
こんな無礼を働いた事実は、どんなに弁解したところで取り返せないからな。
novi ego vostra haec: ”nollem factum.” jusjurandum dabitur te esse
おまえたちのせりふはお見通しだ。「ごめんなさい。誓って言います。
indignum injuria hac, indignis quom egomet sim acceptus modis.
あなたはこんなことをしてよい人ではありませんでした」。今こんな卑劣な挨拶をしておきながらな。
AE. abi prae strenue ac fores aperi. SA. ceterum hoc nihili facis?
アイスキヌス(パルメノンに)早く、先に行って家の戸を開けろ。サンニオン 何だと、おれの言うことを無視する気か。(パルメノン、家の戸を開ける)
AE. i intro nunciam. SA. enim non sinam. AE. accede illuc, Parmeno:
アイスキヌス(女に)早く中に入れ。サンニオン どっこい、そうはさせないぞ。アイスキヌス パルメノン、サンニオンに近づくんだ。
nimium istuc abisti. hic propter hunc adsiste: em sic volo.
遠すぎる。こっちだ、こいつの近くに立つんだ。(パルメノン、指示に従う)よし、それでいい。
cave nunciam oculos a meis oculis quoquam demoveas tuos, 170
僕の目をじっと見てろよ。絶対にそらせたら駄目だ。
ne mora sit, si innuerim, quin pugnus continuo in mala haereat.
合図をしたら、すぐこいつの顎に拳骨をお見舞いしてやるんだ。
SA. istuc volo ergo ipsum experiri. AE. em serva: omitte mulierem.
サンニオン 命令どおりやれるかな。(サンニオン、女をつかむ)アイスキヌス(パルメノンに)おい、気をつけろ。パルメノン 女を放さんか。(サンニオンを殴る)
SA. o facinus indignum! AE geminabit nisi caves. SA. ei miseriam!
サンニオン ああ、なんてひどいことを! アイスキヌス 油断すると二発目をくらうぞ。(パルメノン、再び殴る)サンニオン ああ、なんてことだ!
AE. non innueram, verum in istam partem potius peccato tamen.
アイスキヌス 合図はしなかったんだが。同じ間違えるなら、こういう間違いをやった方がいい。
i nunciam. SA. quid hoc reist? regnumne, Aesehine, hic tu possides?
さあ、中に入れ。(女とパルメノン、中に入る)サンニオン これはいったいどういうつもりだ? アイスキヌスよ、まるでこの国の王様気取りじゃないか。
AE. si possiderem, ornatus esses ex tuis virtutibus.
アイスキヌス(皮肉を込めて)僕が王なら、おまえには日頃の善行にふさわしい衣装を着せてやろう。
SA. quid tibi rei mecumst? AE. nil. SA. quid? nostin qui sim? AE. non desidero.
サンニオン どんな物をくれるつもりだ? アイスキヌス 何もなしだ。サンニオン なんだと。おれさまが誰かわかってるのか? アイスキヌス 知りたくもないわ。
SA. tetigin tui quicquam? AE. si attigisses, ferres infortunium.
サンニオン おれがおまえの財産に手をつけたとでも言うのか? アイスキヌス そんなことをしたら、ただでは済まされないぞ。
SA. qui tibi magis licet meam habere pro qua ego argentum dedi?
サンニオン じゃあ、おまえにはいったいどんな権利があって、おれが買った女を勝手に自分の物にできるんだ?
responde. AE. ante aedes non fecisse erit melius hic convicium: 180
答えてもらおうか。アイスキヌス この家のまえで大声を出さぬ方が身のためだ。
nam si molestus pergis esse, iam intro abripiere atque ibi
これ以上迷惑をかけるなら、中に引きずり込んで、
usque ad necem operiere loris. SA. loris liber? AE. sic erit.
死ぬほど鞭でひっぱたいてやるぞ。サンニオン 自由人を鞭で打つ気か? アイスキヌス そのとおり。
SA. o hominem impurum! hicin libertatem aiunt esse aequam omnibus?
サンニオン ああ、なんて汚い奴なんだ! この国では、自由が万人に等しく与えられているはずじゃないのか?
AE. si satis iam debacchatus es, leno, audi, si vis, nunciam.
アイスキヌス さあ、おまえはもうじゅうぶん馬鹿騒ぎをしたんだから、女衒の親父よ、今度は僕の話を聞いてもらおうか。
SA. egon debacchatus sum autem an tu in me? AE. mitte ista atque ad rem redi.
サンニオン このおれが馬鹿騒ぎだと? おまえがおれに馬鹿な真似をしたんじゃないか。アイスキヌス どうだっていい。さあ、本題に戻ろう。
SA. quam rem? quo redeam? AE. iamne me vis dicere id quod ad te attinet?
サンニオン 何の話だ? どこに戻るんだ? アイスキヌス 耳よりの話があるんだが、聞きたくないか?
SA. cupio, modo aequi aliquid. AE. vah! leno iniqua me non volt loqui!
サンニオン いかさまでなければな。アイスキヌス なんと、女衒でも、いかさまを聞くのはお気に召さぬらしい。
SA. leno sum, fateor, pernicies communis adulescentium,
サンニオン そうさ、たしかにおれさまは女衒だ。若者みんなの敵、
perjurus, pestis. tamen tibi a me nullast orta injuria.
ぺてん師、ダニのような男とはおれさまのことだ。だがな、おまえにはまだこれっぽっちもいかさまをしてないんだぞ。
AE. nam hercle etiam hoc restat. SA. Illuc, quaeso, redi quo coepisti, Aeschine. 190
アイスキヌス じゃあ、これからってわけだな。サンニオン アイスキヌス、いいからさっきの話に戻ってくれ。
AE. minis viginti tu illam emisti ―quae res tibi vortat male!
アイスキヌス おまえは二〇ミナであの娘を買ったな。この罰当たりめ!
argenti tantum dabitur. SA. quid si ego tibi illam nolo vendere?
仕方がない、僕が同額払って買い受けよう。サンニオン 何だと? もし嫌だと言ったらどうする気だ?
coges me? AE. minume. SA. namque id metui. AE. neque vendundam censeo,
無理やりうんと言わせる気か? アイスキヌス とんでもない。サンニオン どうなるかと思ったぜ。アイスキヌス そもそもあの女は自由人だ。売買は
quae liberast. nam ego liberali illam assero causa manu.
禁じられている。だから、あの女はこの僕が自由人の申し立てをするつもりだ。
nunc vide utrum vis, argentum accipere an causam meditari tuam.
さあ、どっちにするかよく考えることだな。金を受け取るのか、それとも裁判所で弁明するのか、さあ、どっちなんだ。
delibera hoc dum ego redeo, leno. SA. pro supreme Juppiter,
僕が家に戻っている間に、おまえもよく考えることだな。(アイスキヌス、ミキオンの家の中に入る)サンニオン(独白)ああ、至高神ユッピテル様、
minume miror qui insanire occipiunt ex injuria.
こんないかさまで気が狂う人間がいても、あっしは驚きません。
domo me eripuit, verberavit, me invito abduxit meam;
あの小僧はあっしを店の中でつかまえ、たたきのめしたばかりか、無理やり女をひったくっていったんでさあ。
homini misero plus quingentos colaphos infregit mihi.200
惨めなあっしは、しこたま拳骨を食らったんです。
ob male facta haec tantidem emptam postulat sibi tradier.199
あれだけ悪事を働いておいて、今度はその礼にあっしの買った女を元値で買い受けると言ってきた。
verum enim, quando bene promeruit, fiat: suom jus postulat.
だが待てよ、これは案外うまい話かもしれんぞ。ひとつ乗るとするか。相手も当然の権利を主張しているわけだし。
age, iam cupio si modo argentum reddat. sed ego hoc hariolor:
よし、金さえちゃんと払うなら、こっちは喜んで取引きに応じよう。だが待てよ。なんか馬鹿なことをしゃべっている気もするな。
ubi me dixero dare tanti, testis faciet ilico
おれがこれだけの値段で売ると言ったら、あいつはその時点で
vendidisse me. de argento, somnium: ”mox, cras redi.”
「売買成立」と証人を立てるかもしれん。そうなりゃ金は泡と消えちまう。「支払いはまた後で、明日にでも」てな具合だ。
id quoque possum ferre si modo reddat, quamquam injuriumst.
いや、遅れてもちゃんと払うのなら我慢しよう。もちろんあるまじき行為にはちがいないが。
verum cogito id quod res est: quando eum quaestum occeperis,
だが、現実をよく見ないといけないわけだ。求めるものを手にするには、
accipiunda et mussitanda injuria adulescentiumst.
小僧どもの不当な仕打ちも甘受しなけりゃならん。
sed nemo dabit. frustra ego mecum has rationes puto.
そうは言っても、誰も金を払ってくれんかもしれん。こんな計算を一人でやっていても、いっこうに埓があかんわい。

II.II SYRUS SANNIO servos leno
第二幕第二場(シュルス、ミキオンの家から出てくる)

SY. tace! egomet conveniam iam ipsum. cupide accipiat faxo atque etiam
シュルス(中にいるアイスキヌスに向かって)あとは黙って見ていてください。あっしが今から掛け合ってみます。あいつには
bene dicat secum esse actum. quid istuc Sanniost quod te audio 210
若旦那の条件を喜んで飲み込ませ、大儲けをしたと言わせましょう。(前に進み出て)おい、サンニオン。さっき若旦那と
nescioquid concertasse cum ero? SA. numquam vidi iniquius
何かもめているのが聞こえたが、いったい何だったんだ。サンニオン おれたちが
certationem comparatam quam quae hodie inter nos fuit.
今日やった喧嘩ほど不公平なものはない。
ego vapulando, ill‘ verberando, usque ambo defessi sumus.
おれは殴られ、あいつが殴る。おかげで二人ともへとへとさ。
SY. tua culpa. SA. quid facerem? SY. adulescenti morem gestum oportuit.
シュルス 自業自得だね。サンニオン おれはどうすればよかったんだ? シュルス 相手はまだ若い。機嫌をとってやればよかったんだ。
SA. qui potui melius qui hodie usque os praebui? SY. age, scis quid loquar: 215
サンニオン 顔まで差し出したっていうのに、どうすりゃもっとうまくいったと言うんだ? シュルス おまえにはおれの答えなんて見当もつかんだろうよ。
pecuniam in loco negligere maxumum interdumst lucrum. hui!
時宜を得て目先の利益を無視することが、最大の利益を生むことにつながるものなのだ。それなのに
metuisti, si nunc de tuo jure concessisses paullulum atque
大馬鹿者のおまえは、自分の権利をちょっとでも譲歩したら、
adulescenti esses morigeratus, hominum homo stultissume,
若者に迎合したことになるんじゃないかと心配し、
ne non tibi istuc faeneraret. SA. ego spem pretio non emo.
そんなことをして何の得になるなんて考えている。サンニオン あいにくおれは、金で希望を買う主義じゃない。
SY. numquam rem facies. abi, nescis inescare homines, Sannio. 220
シュルス そんな根性じゃ金はできないぞ。まったく、おまえには人を騙すということができないのか?
SA. credo istuc melius esse, verum ego numquam adeo astutus fui,
サンニオン それができれば苦労はないさ。だが、あいにく頭がうまく回らないんで、
quin quidquid possem mallem auferre potius in praesentia.
目の前にあってすぐにかっぱらえる物を頂戴する方が得だと思っている。
SY. age, novi tuom animum. quasi iam usquam tibi sint viginti minae
シュルス そうか、おまえがどんな人間かはおよそ察しがついた。だがな、あの二〇ミナは手を出せば届く所に転がっているも同然だ。
dum huic obsequare. praeterea autem te aiunt proficisci Cyprum, SA. hem!
若旦那に愛嬌を振りまけばそれでいいんだ。それはそうと、おまえさん、キュプルス島に出かけるっていうじゃないか。サンニオン おっと、これはやばい。
SY. coemisse hinc quae illuc veheres multa, navem conductam. hoc, scio,
シュルス 向こうに持ち込む商品をたっぷり買い込んであることや、船を借り出したことぐらいお見通しさ。
animus tibi pendet. ubi illinc, spero, redieris tamen, hoc ages.
おまえさん、どうせこの商売のことで頭がいっぱいなんだろう。だけど、あっちから戻ってきたら、若旦那との取引きはよろしく頼むぞ。
SA. nusquam pedem! perii hercle! hac illi spe hoc inceperunt. SY. timet:
サンニオン 駄目だ。一歩も譲るつもりはない。(傍白)ああどうしよう。連中は弱みにつけこんで、取引きを始める気なのだ。シュルス(傍白)青い顔をしているぞ。 injeci scrupulum homini. SA. o scelera! illud vide
悩みの種をまいてやったからな。サンニオン(傍白)悪党どもめ。なんてこった、
ut in ipso articulo oppressit. emptae mulieres
痛いときに痛いところを突くじゃないか。女はたくさん買い込んであるし、
complures et item hinc alia quae porto Cyprum. 230
ここからキュプルスへもっていく商品もたっぷり用意してある。
nisi eo ad mercatum venio, damnum maxumumst.
万一、売りに行けなくなったら、最大の損失をこうむることになる。
nunc si hoc omitto ac tum agam ubi illinc rediero,
逆にこの取引きをしばらく中断し、商売を終えて戻ってきたときには
nil est: refrixerit res. ”nunc demum venis?
もう後の祭り。交渉は決裂する。「今頃何しに来たんだ?
quor passu‘s? ubi eras?” ut sit satius perdere
なぜ放っておいたんだ? いったいどこに行ってたんだ」なんて言われちまう。
quam hic nunc manere tam diu aut tum persequi.
ここにもうしばらくとどまるにせよ、戻ってから交渉するにせよ、いずれにしても、すっかり失ってしまう方が、まだましだ。
SY. iamne enumerasti quod ad te rediturum putes?
シュルス 島に行けばどのくらい儲けが出るのか、計算済みなんだろうな?
SA. hoccin illo dignumst? hoccin incipere Aeschinum,
サンニオン(傍白)だいたいあの男がこんな事をしてもよいのだろうか。
per oppressionem ut hanc mi eripere postulet!
アイスキヌスともあろう男が、女をわしから力づくで奪い取ろうなどと!
SY. labascit. unum hoc habe. vide si satis placet.
シュルス(傍白)この男、迷っているな。(サンニオンに向かって)よし、これが最後のチャンスだ。それでいいかどうかよく考えることだ。
potius quam venias in periclum, Sannio, 240
丸儲けか丸損か、そんな危険を冒すよりも、
servesne an perdas totum, dividuom face.
とりあえず半分儲けることを考えたらどうだ。
minas decem corradet alicunde. SA. ei mihi!
若旦那は、一〇ミナくらいどっかからかき集めてくるはずだ。サンニオン そんな馬鹿な!
etiam de sorte nunc venio in dubium miser?
惨めなおれは元金の保証もないのか?
pudet nil? omnis dentis labefecit mihi,
あいつは恥を知らないのか? おれの歯を全部がたがたにした上、
praeterea colaphis tuber est totum caput.
頭を殴ってこぶだらけにしてくれた。
etiam insuper defrudet? nusquam abeo. SY. ut lubet.
今度はその上ペテンまでかける気か。おれは一歩も引かないぞ。シュルス(立ち去るふりをして)勝手にしろ。
numquid vis quin abeam? SA. immo hercle hoc quaeso, Syre:
おれはもう帰るが、何かほかに用はないか? サンニオン おいシュルス、ちょっと待ってくれ。これだけはぜひ頼みたい。
utut haec sunt acta, potius quam litis sequar,
どんなにひどい目に遭わされたにせよ、裁判沙汰にするくらいなら、
meum mihi reddatur saltem quanti emptast, Syre.
せめてあの女を買った元金だけでも支払ってもらえないか?
scio te non usum antehac amicitia mea; 250
(猫なで声で)これまでおれたち二人は、およそ友人らしい付き合いはしてこなかったかもしれん。
memorem me dices esse et gratum. SY. sedulo
(金を渡しながら)だが、これに免じて、おれがおまえの好意をいつも覚えていて、感謝している気持ちをくんでほしい。シュルス よし、やれるだけ
faciam. sed Ctesiphonem video: laetus est
やってみよう。おや、あれはクテシフォンの坊っちゃんだ。女のことで、
de amica. SA. quid quod te oro? SY. paullisper mane.
有頂天だぞ。サンニオン おい、いま頼んだことはどうなるんだ? シュルス ちょっと待ってろ。

II.III CTESIPHO SANNIO SYRUS adulescens leno servos
第二幕第三場(クテシフォン登場)

CT. abs quivis homine, quomst opus, beneficium accipere gaudeas:
クテシフォン(シュルスとサンニオンに気づかぬ様子で)困った時には誰であれ、他人から助けを受けるのは嬉しいものだ。
verum enimvero id demum juvat si quem aequomst facere is bene facit.
なおさら嬉しいのは、本来助けるべき人が助けてくれた場合だ。
o frater, frater, quid ego nunc te laudem? satis certo scio,
ああ、兄さん、兄さん。あなたのことは、どうやって褒めればよいのでしょう? 確かなことは、
numquam ita magnifice quicquam dicam, id virtus quin superet tua.
どんなに褒めても、あなたの美徳は十分伝えられないということです。
itaque unam hanc rem me habere praeter alios praecipuam arbitror
兄さんほど類いまれな才能の持ち主はどこにもいないし、何よりありがたいことに、
fratrem homini nemini esse primarum artium magis principem.
そんな兄さんが僕にはついているんだ。
SY. o Ctesipho. CT. o Syre, Aeschinus ubist? SY. ellum, te exspectat domi. CT. hem! 260
シュルス(進み出て)やあ、若旦那。クテシフォン おや、シュルスか。兄さんはどこにいるんだい? シュルス 家の中であなたをお待ちです。クテシフォン(夢見るような表情で)ああ!
SY. quid est? CT. quid sit? illius opera, Syre, nunc vivo. festivom caput!
シュルス いったいどうしたんです。クテシフォン どうしたかって? 僕は今、兄さんのおかげでこうして生きていられるんだ。なんてすばらしい人なんだろう。
quin omnia sibi post putarit esse prae meo commodo,
兄さんは僕の都合を最優先し、自分のことは何でも後回しにしようとする。
maledicta, famam, meum laborem et peccatum in se transtulit.
世間の批判や陰口、僕の起こした厄介ごとや失敗の一切をみんな自分で引っかぶってくれる。
nil pote supra. quidnam foris crepuit? SY. mane, mane! ipse exit foras.
これ以上何も言うことができないほどだ。あれ、何で家の戸の開く音がするんだろう。(近づこうとする)シュルス ほらほら、ご当人のお出ましですよ。

II.IV AESCHINUS CTESIPEO SYRUS SANNIO adulescentes duo servos leno
第二幕第四場(アイスキヌス登場)

AE. ubist ille sacrilegus? SA. me quaerit. numquidnam effert? occidi:
アイスキヌス あの悪党はどこにいる? サンニオン(前に進み出て)おれを探しているんだな。さあ、金はもってきたかな。こいつは駄目だ。
nil video. AE. ehem, opportune! te ipsum quaero. quid fit, Ctesipho?
金なんかどこにも見えない。アイスキヌス おや、これはいい所で会えたな、クテシフォン。ちょうどおまえを捜していたところだ。どうだい気分は?
in tutost omnis res. omitte vero tristitiem tuam.
万事うまく運んでいるから、不景気な顔はどっかへ捨てることだ。
CT. ego illam hercle vero omitto quiquidem te habeam fratrem. o mi Aeschine,
クテシフォン もちろんさ。だって僕にはこんなすばらしい兄さんがいるんだからね。おお、わがアイスキヌスよ。
o mi germane! ah! vereor coram in os te laudare amplius,
おお、わが兄弟よ! これ以上面と向かって褒めると、
ne id assentandi magis quam quo habeam gratum facere existumes. 270
感謝のためでなく、ごますりのためにそうしていると疑われそうだ。
AE. age, inepte, quasi nunc non norimus nos inter nos, Ctesipho.
アイスキヌス おいおいクテシフォン、水臭いぞ。僕らはまるで互いのことを知らぬ仲のようじゃないか。
hoc mihi dolet, nos paene sero scisse et paene in eum locum
気づくのがもう少し遅かったら、力になろうと思ったときにはもう手遅れだったかもしれない。
redisse ut, si omnes cuperent, nil tibi possent auxiliarier.
なぜもっと早く打ち明けてくれなかったかと思うと悲しくなるのさ。
CT. pudebat. AE. ah! stultitiast istaec, non pudor. tam ob parvulam
クテシフォン きまりが悪くて言い出せなかったんだ。アイスキヌス 単なる軽はずみにすぎないじゃないか。ちっとも恥ずべきことじゃない。そんな些細なことで、
rem paene e patria! turpe dictu. deos quaeso ut istaec prohibeant.
もうちょっとでこの国から逃げ出すところだったなんて! 口にするのも憚られることだ。神々よ、断じてそんなことは許し給うな。
CT. peccavi. AE. quid ait tandem nobis Sannio? SY. iam mitis est.
クテシフォン まったく僕が悪かったよ。アイスキヌス(シュルスに向かって)ところでサンニオンは何と言っている? シュルス もう黙っておとなしくしています。
AE. ego ad forum ibo ut hunc absolvam. tu intro ad illam, Ctesipho.
アイスキヌス それじゃあ、広場に行って金を用意してこよう。クテシフォン、おまえは中に入って女に顔を見せておやり。
SA. Syre, insta. SY. eamus. namque hic properat in Cyprum. SA. ne tam quidem
サンニオン シュルス、せき立てろ。シュルス 若旦那、そろそろ出かけましょうか。こいつはキュプルス島に急ぐようです。サンニオン(怒って)おまえが思うほど
quam vis. etiam maneo otiosus hic. SY. reddetur. ne time.
急いでいないぞ。まだここでのんびり過ごすつもりだ。シュルス 金は払ってやる。びくびくするな。
SA. at ut omne reddat. SY. omne reddet: tace modo ac sequere hac. SA. sequor. 280
サンニオン 全額耳をそろえて払ってもらうからな。シュルス わかっている。いいから黙ってこっちへ来い。サンニオン それじゃあ、ついていこう。
(アイスキヌスとサンニオン退場。シュルスは家から出てきたクテシフォンに呼び止められる)
CT. heus, heus, Syre! SY. hem quid est! CT. obsecro hercle te, hominem istum impurissumum
クテシフォン おいおい、シュルス。シュルス 何です? クテシフォン 折入って頼みたいことがある。あのどうしようもないならず者に
quam primum absolvitote ne, si magis irritatus siet,
できるだけ早く金を払ってくれ。あいつを怒らせると、
aliqua ad patrem hoc permanet atque ego tum perpetuo perierim.
事件が親父にばれて、僕はもう一巻の終わりだからな。
SY. non fiet, bono animo esto. tu cum illa intus te oblecta interim
シュルス そうはさせませんよ。大船に乗ったつもりでいてください。その間、若旦那は家の中で女とたっぷり楽しんでいればいいんです。
et lectulos jube sterni nobis et parari cetera.
晩餐の椅子とその他必要な品々の準備はお任せください。
ego iam transacta re convortam me domum cum opsonio.
あっしは用事をすませ次第、食料を調達して家に戻るとしましょう。
CT. ita quaeso. quando hoc bene successit, hilare hunc sumamus diem.
クテシフォン ぜひそうお願いする。万事首尾よく運んだことだし、楽しい一日を過ごすとしよう。
(クテシフォン、家の中に入る。シュルス退場)
III.I SOSTRATA CANTHARA matrona anus
第三幕第一場(カンタラを連れてソストラータ)

SO. obsecro, mea nutrix, quid nunc fiet? CA. quid fiat rogas?
ソストラータ ねえ婆や、娘は今どんな具合かしら? カンタラ どんな具合かですって?
recte edepol, spero. modo dolores, mea tu, occipiunt primulum.
心配ご無用、あたしが請け合います。(家の方を見ながら)かわいそうに。最初の陣痛が始まったのね。
iam nunc times. quasi numquam adfueris, numquam tute pepereris? 290
(ソストラータに)今になって怖じ気づくのですか。まるでお産に立ち会ったことも、自分で無事に子供を生んだこともないみたいですわ。
SO. miseram me! neminem habeo―solae sumus: Geta autem hic non adest―
ソストラータ ああ、なんてことでしょう。肝心なときに誰もそばにいてくれないわ。ゲタもいないし、いるのは私たち二人だけよ。
nec quem ad obstetricem mittam, nec qui accersat Aeschinum.
産婆も呼びにやれないし、アイスキヌスを呼びにやる使いの者もいないのよ。
CA. pol is quidem iam hic aderit. nam numquam unum intermittit diem
カンタラ 大丈夫、あの人ならすぐにここに来てくれるでしょう。一日たりとも姿を現さなかった
quin semper veniat. SO. solus mearum miseriarumst remedium.
ためしはありません。ソストラータ 今となっては、あの人だけが、私の悲しみの救い主なのです。
CA. e re nata melius fieri haud potuit quam factumst, era,
カンタラ たしかに、いろんなことを考え合わせると、万事これでよかったのですわ。
quando vitium oblatumst, quod ad illum attinet potissumum,
あんな間違いがあったにせよ、相手として見れば、立派で気立てもよく、
talem, tali genere atque animo, natum ex tanta familia.
またあれだけの家柄のご出身です。
SO. ita pol est ut dicis. salvos nobis deos quaeso ut siet.
ソストラータ まったくあなたの言うとおりだわ。神様、どうか、あの人が無事でいてくれますように。

III.II GETA SOSTRATA CANTHARA servos matrona anus
(ゲタ、勢いよく走り込んでくる)
GE. nunc illud est quom, si omnia omnes sua consilia conferant
ゲタ(女二人には気づかずに独白)みんなで智恵を寄せ集め、
atque huic malo salutem quaerant, auxili nil adferant, 300
この災難の救いを求めても、もう誰にもどうすることもできない。
quod mihique eraeque filiaeque erilist. vae misero mihi!
誰もあっしや奥さんやお嬢さんを救えっこない。ああ、もうだめだ!
tot res repente circumvallant se unde emergi non potest,
突然たくさんの不幸なが、そそり立つ壁のようにあっしらを封じ込め、抜け出すこともできないでいる。
vis, egestas, injustitia, solitudo, infamia.
暴力、貧困、不正、孤独、恥。
hoccin saeclum! o scelera, o genera sacrilega, o hominem impium!
なんたる世の中だ! おお、神を冒涜する連中よ、おお、罰当たりな人間よ!
SO. me miseram, quidnamst quod sic video timidum et properantem Getam?
ソストラータ(カンタラに)まあ、何てことでしょう。どうしてゲタはあんなに怖じ気づいて、あわてているのかしら?
GE. quem neque fides neque jusjurandum neque illum misericordia
ゲタ(独白)人間の誠意、誓い、あわれみの気持ち、さらに間近に迫った出産だって、
repressit neque reflexit neque quod partus instabat prope,
もうあいつを止めたり、引き戻したりできない。
quoi miserae indigne per vim vitium obtulerat. SO. non intellego
罰当たりめ、いたいけなお嬢さんを力づくで自分のものにしておきながら。ソストラータ 私はゲタの言っていることがよくわからない。
satis quae loquatur. CA. propius obsecro accedamus, Sostrata. GE. ah
カンタラ もう少しそばまで行ってみましょうか。
me miserum! vix sum compos animi, ita ardeo iracundia. 310
ゲタ(独白)ああ、情けない。まったく気が狂っちまいそうだ。怒りの炎でこんなにも燃えているぞ。
nil est quod malim quam illam totam familiam dari mi obviam,
こうなりゃ、なんとしてでもあいつの家族全員に会って、
ut ego iram hanc in eos evomam omnem, dum aegritudo haec est recens.
この怒りをすっかり吐き出してやるしかない。この悲痛な思いが生々しいうちにな。
satis mihi id habeam supplici dum illos ulciscar meo modo.
連中に復讐できるなら、どんな罰だって甘受しよう。
seni animam primum exstinguerem ipsi qui illud produxit scelus.
まず手始めに、あの罰当たりを育てたじいさんの息の根を止めてやる。
tum autem Syrum impulsorem, vah, quibus illum lacerarem modis!
次はあいつをそそのかした張本人、シュルスの番だ。ありとある手を使って八つ裂きにしてくれよう!
sublimen medium arriperem et capite in terra statuerem,
体の真ん中で宙づりにし、脳天を地面にたたきつけ、
ut cerebro dispergat viam.
脳味噌を道にばらまいてやるぞ。
adulescenti ipsi eriperem oculos, post haec praecipitem darem.
あの小僧の目玉はくりぬいて、体ごとまっ逆さまに突き落としてくれる。
ceteros ruerem, agerem, raperem, tunderem et prosternerem.
残りの連中はぶったたき、追い回し、引っつかみ、踏んづけて、ぐうの音も出ないようにしてやるぞ。
sed cesso eram hoc malo impertire propere? SO. revocemus. Geta! GE. hem! 320
しまった、何をぐずぐずしているんだろう。奥さんに一刻も早くこの事件を伝えなくては! ソストラータ(カンタラに)さあ、声をかけるわよ。(ゲタの後ろから)ちょっと、ゲタ。ゲタ なんだい?
quisquis es, sine me. SO. ego sum Sostrata. GE. ubi east? te ipsam quaerito,
誰だか知らんが、放っておいてくれ。ソストラータ 私です。ソストラータよ。ゲタ え、どこに?(振り向いて)奥さんか。ちょうど探していたところなんです。
SO. te exspecto: oppido opportune te obtulisti mi obviam.
ソストラータ 私もです。いい時に帰ってきてくれたわね。
GE. era ― SO. quid est? quid trepidas? GE. ei mihi! CA. quid festinas, mi Geta?
ゲタ 奥さん、実は・・ ソストラータ どうかしたの? 何をそんなに取り乱しているの? ゲタ もうむちゃくちゃなんです。カンタラ 何をそんなにあわてているの?
animam recipe. GE. prorsus― SO. quid istic ”prorsus” ergost? GE. periimus!
ちょっとは落ちつきなさいな。ゲタ もうまったく・・。ソストラータ「もうまったく」どうしたの? ゲタ あっしらはもう一巻の終わり、
actumst! SO. eloquere, obsecro te , quid sit. GE. iam― SO. quid ”iam,” Geta?
万事休すなんです。ソストラータ お願い、何があったのか話して ゲタ もう・・。ソストラータ 「もう」どうしたの?
GE . Aeschinus― SO. quid is ergo? GE. alienus est ab nostra familia. SO. hem!
ゲタ アイスキヌスは・・。ソストラータ あの人がどうかしたの? ゲタ この家とは縁もゆかりもなくなったのです。ソストラータ まあ!
perii! quare? GE. amare occepit aliam. SO. vae miserae mihi!
なんてこと。なぜそんな?(顔を両手の中にうずめる)ゲタ 別の女ができちまったんです。ソストラータ ああ、なんてこと!
GE. neque id occulte fert, ab lenone ipsus eripuit palam.
ゲタ それも、こそこそするんじゃないんです。白昼堂々と置屋から女を奪って出てきたんです。
SO. satin hoc certumst? GE. certum. hisce oculis egomet vidi, Sostrata. SO. me miseram!
ソストラータ それはたしかに本当のことなんだね。ゲタ もちろんですとも、奥さん、この目でしっかり見たんですぜ。ソストラータ(涙にむせびながら)ああ、何てことでしょう! 
quid iam credas? aut quoi credas? nostrumne Aeschinum, 330
これからは何を信じ、誰を頼ればいいっていうの? あのアイスキヌスが、
nostram vitam omnium, in quo nostrae spes opesque omnes sitae
そんなことをするなんて! あの人は私たちみんなの命そのものだったわ。希望も生きる力も、何もかもあの人に託していたのよ。
erant? qui se sine hac jurabat se unum numquam victurum diem?
あの子なしには一日だって生きていけないと誓ったのは誰だったの?
qui se in sui gremio positurum puerum dicebat patris,
子供が生まれたら、父親らしく膝の上にのせ、
ita obsecraturum ut liceret hanc sibi uxorem ducere?
あの子を妻にする許しをもらうって言ってたのはどこの誰なの?
GE. era, lacrumas mitte ac potius quod ad hanc rem opus est porro prospice.
ゲタ 奥さん、涙は拭きましょう。そしてこの問題をどうやって解決したらいいかを考えましょう。
patiamurne an narremus quoipiam? CA. au au, mi homo, sanun es?
じっと我慢しますか、それとも誰かに相談しますか? カンタラ あら、おまえ、気は確かかい?
an hoc proferendum tibi videtur esse? GE. miquidem non placet.
こんなことを他人に打ち明けていいと思っているの? ゲタ あっしだって気は進みませんがね。
iam primum illum alieno animo a nobis esse res ipsa indicat.
だいいちあの男の心がこっちから離れてるってことは、明白な事実ですが、
nunc, si hoc palam proferimus, ille infitias ibit, sat scio:
このことを今さら公にしたところで、相手は否定するに決まってます。そんなことは百も承知です。
tua fama et gnatae vita in dubium veniet. tum si maxume 340
奥さんの名誉とお嬢さんの生活が危うくなるだけです。仮に相手が洗いざらい白状したところで、
fateatur, quom amat aliam, non est utile hanc illi dari.
別の女がいる以上、お嬢さんをあいつにやるのは得策ではありません。
quapropter quoquo pacto tacitost opus. SO. ah! minume gentium!
だから、どんな手を使ってでも沈黙を守る必要があるのです。ソストラータ それは駄目です。
non faciam. GE. quid ages? SO. proferam. CA. hem! mi Sostrata, vide quam rem agis.
絶対そんなことはしません。ゲタ じゃあ、どうするんです? ソストラータ すべてを打ち明けるのです。カンタラ ああ、何てこと! ご自分のなさることがおわかりですの?
SO. peiore res loco non potis est esse quam in quo nunc sitast.
ソストラータ 事態は、今より悪くなるはずがありません。
primum indotatast. tum praeterea, quae secunda ei dos erat,
第一、うちの娘には持参金がないんです。加えて、第二の持参金といえるものさえ失いました。
periit: pro virgini dari nuptum non potest. hoc relicuomst:
あの子を生娘として嫁にやることはもうできなくなったのです。残るはこの方法一つです。
si infitias ibit, testis mecumst anulus quem miserat.
あの人が白を切るつもりなら、前に家の中で落としていった指輪が証拠として使えるでしょう。
postremo, quando ego conscia mihi sum a me culpam esse hanc procul
最後にもう一つ。私はアイスキヌスの犯した罪についてはまったく何の関わりもなかったと胸を張って言えるのです。
neque pretium neque rem ullam intercessisse illa aut me indignam, Geta,
だから、娘と私の名誉のためにも、金銭などの裏取引は断じてなかったと法廷で証言するつもりです。
experiar. GE. quid istic? cedo ut melius dicas. SO. tu, quantum potest 350
ゲタ ま、いいでしょう。おっしゃるようにするのがいいと思います。ソストラータ じゃあ、おまえは今すぐ
abi atque Hegioni cognato huius rem enarrato omnem ordine.
親戚のヘギオンの所へ行って、一部始終を話してきなさい。
nam is nostro Simulo fuit summus et nos coluit maxume.
あの人はシルムスと一番仲がよかったし、今も私たちのことを一番心配してくれる人なのです。
GE. nam hercle alius nemo respiciet nos. SO. propera tu, mea Canthara,
ゲタ 本当に、あの人以外は誰もあっしらの面倒を見てくれない。(ゲタ退場)ソストラータ カンタラ、あなたもできるだけ急いで
curre, obstetricem accerse, ut quom opus sit ne in mora nobis siet.
産婆さんを呼びに走ってちょうだい。必要な時に手遅れにならないためです。(カンタラ退場。ソストラータ、家の中に入る)

III.III DEMEA SYRUS senex servos
第三幕第三場(デメアス登場)

DE. disperii! Ctesiphonem audivi filium
デメアス(独白)ああ、もう駄目だ! せがれのクテシフォンも、
una fuisse in raptione cum Aeschino.
アイスキヌスとぐるになって女をさらったという話だ。
id misero restat mihi mali si illum potest,
多少は見どころがあると思っていたクテシフォンも、放蕩の道に足を踏み入れたとするならば、
qui aliquoi reist, etiam eum ad nequitiem adducere.
不幸なわしにとっては、この世で最悪の出来事が起こったことになる。
ubi ego illum quaeram? credo abductum in ganeum
それにしても。あの子はいったいどこにいるんだ? 飲み屋にでも引きずり込まれに違いない。
aliquo. persuasit ille impurus, sat scio. 360
どのみち、あのごろつきがそそのかしたに決まっている。
sed eccum Syrum ire video. hinc scibo iam ubi siet.
おや、シュルスが来るぞ。こいつにクテシフォンの居所を教えてもらおう。
atque hercle hic de grege illost. si me senserit
いや、駄目だ。シュルスもごろつきの一味だった。クテシフォンを探していることがわかったら、
eum quaeritare, numquam dicet carnufex.
やっこさん、居場所は死んでも言わんだろう。
non ostendam id me velle. SY. omnem rem modo seni
よし、探してるなんて、おくびにも出さないぞ。シュルス(傍白)ミキオンの旦那にはたった今、
quo pacto haberet enarramus ordine .
事件の経緯を洗いざらい話してきた。
nil quicquam vidi laetius. DE. pro Juppiter,
あんなに喜ぶ人の顔は見たことがない。デメアス(傍白)おお全能の神よ、
hominis stultitiam! SY. collaudavit filium.
なんと愚かな弟だろう! シュルス(傍白)息子を誉めちぎり、
mihi, qui id dedissem consilium, egit gratias.
知恵を授けたこのおれに礼まで言ったよ。
DE. dirrumpor. SY. argentum annumeravit ilico.
デメアス(傍白)怒りで胸が張り裂けそうだ。シュルス(傍白)おまけにその場で銀貨を数え、
dedit praeterea in sumptum dimidium minae: 370
半ミナもくれたんだ。
id distributum sanest ex sententia. DE. em,
その金で思いどおりの買い物ができたってわけだ。デメアス(傍白)首尾よく事が運ぶには、
huic mandes si quid recte curatum velis.
こういう男に頼むに限る。(前に進み出る)
SY. ehem, Demea! haud aspexeram te. quid agitur?
シュルス(驚いたふりをして)あっ、これはデメアスの旦那、お姿が目に入りませんでした。ご機嫌麗しく存じます。
DE. quid agatur? vostram nequeo mirari satis
デメアス 何がご機嫌麗しくだ。おまえたちのやり方には、
rationem. SY. est hercle inepta, ne dicam dolo, atque
あきれて開いた口がふさがらんわ。シュルス たしかにばかげた話ですがね。正直言って
absurda. piscis ceteros purga, Dromo.
くだらんことだと思っています。(家の中に向かって乱暴に)おい、ドロモン、ほかの魚はみんな洗っておくんだぞ。
gongrum istum maxumum in aqua sinito ludere
そのでっかい鰻はしばらく水の中で泳がせておけ。
tantisper. ubi ego venero, exossabitur;
おれが戻ったら、骨を抜くからな。
prius nolo. DE. haecin flagitia! SY. miquidem non placent
先に手をつけたらただじゃおかねえぞ。デメアス まったくなんという恥さらしだ。シュルス(振り返って)あっしだって喜んでやっているわけじゃないんですよ。
et clamo saepe. salsamenta haec, Stephanio, 380
だから、始終大声を張り上げるってわけです。(家の中に向かって)おい、ステファニオン、
fac macerentur pulchre. DE. di vostram fidem!
その塩漬けの魚はたっぷり水に漬けておくんだ。デメアス まったくミキオンは、
utrum studione id sibi habet an laudi putat
息子を駄目にすることしか趣味がないのか、
fore, si perdiderit gnatum? vae misero mihi!
それとも、そうすることが自慢なのか? ああ、我とわが身が情けない。
videre videor iam diem illum quom hinc egens
あいつが一文無しになってここを離れ、
profugiet aliquo militatum. SY. o Demea,
傭兵を志願して外国に逃げ出すその日が目に浮かぶようだ。シュルス さすが、デメアスの旦那だ。
istuc est sapere, non quod ante pedes modost
目の前の出来事ばかりか、これから起こることがらも
videre sed etiam illa quae futura sunt
お見通しとは、まったく頭のいいお人だ。
prospicere. DE. quid? istaec iam penes vos psaltriast?
デメアス 何を言っているんだ。それで、おまえの家に例のキタラ娘はいるのか?
SY. ellam intus. DE. eho! an domist habiturus? SY. credo, ut est
シュルス ええ、中にいます。デメアス 何だと!あいつ、娘を家に囲う気か? シュルス きっとそのおつもりでしょう。
dementia. DE. haecin fieri! SY. inepta lenitas 390
正気の沙汰とは思えませんがね。デメアス そんなことがあっていいものか。シュルス ミキオンの旦那が坊っちゃんを溺愛し、
patris et facilitas prava. DE. fratris me quidem
何でもしたい放題させたからです。デメアス わしは弟のことが恥ずかしい。
pudet pigetque. SY. nimium inter vos, Demea, ac
胸くそが悪くなる。シュルス デメアスの旦那、
(non quia ades praesens dico hoc) pernimium interest.
あなたがおいでだから言うわけじゃありませんが、あなた方兄弟は全然似てませんね。
tu quantus quantus nil nisi sapientia‘s,
あなたときたら、この上なく聡明なお方、
ill‘ somnium. sineres vero illum tu tuom
それにひきかえミキオンの旦那はまったくぼんくら同然です。あなたなら自分の息子に
facere haec? DE. sinerem illum? aut non sex totis mensibus
あんな真似をさせますか? デメアス とんでもない。わしなら
prius olfecissem quam ille quicquam coeperet?
せがれが何かおっぱじめる半年前に、とっくにかぎつけるさ。
SY. vigilantiam tuam tu mihi narras? DE. sic siet
シュルス 旦那が千里眼をおもちだってことは、よく存じております。デメアス うちの子には
modo ut nunc est, quaeso. SY. ut quisque suom volt esse, itast.
今のままでいてほしい。ただそれだけだ。シュルス 二人の坊っちゃんは、めいめいお父上の期待どおりにお育ちとお見受けします。
DE. quid eum? vidistin hodie? SY. tuomne filium? 400
デメアス ところで、あの子はどうした? どっかで見かけたか? シュルス 旦那の坊っちゃんですか?
abigam hunc rus. iamdudum aliquid ruri agere arbitror.
(傍白)後で田舎まで送ってあげるとしよう。(デメアスに)今ごろ田舎で仕事に精を出していると思います。
DE. satin scis ibi esse? SY. oh! qui egomet produxi. DE. optumest:
デメアス 田舎にいると何でわかる? シュルス 連れていったのはこのあっしです。デメアス でかした。
metui ne haereret hic. SY. atque iratum admodum.
この辺りをうろついているんじゃないかと心配してたんだ。シュルス おまけにかんかんになって怒っていました。
DE. quid autem? SY. adortust jurgio fratrem apud forum
デメアス いったい何をだ? シュルス キタラ娘の一件です。広場の真ん中で
de psaltria ista. DE. ain vero? SY. vah! nil reticuit.
アイスキヌスに食って掛かっていましたよ。デメアス(歓喜に満ちて)それは本当か? シュルス 誰はばからず大声を出しておられました。
nam ut numerabatur forte argentum, intervenit
あっしが金の計算をしていると、突然クテシフォンの坊っちゃんが現れて、
homo de improviso. coepit clamare: ”o Aeschine,
大声で怒鳴り始めたのです。「アイスキヌス、
haecin flagitia facere te! haec te admittere
こんな破廉恥をするなんて! わが家の名誉に
indigna genere nostro!” DE. oh! lacrumo gaudio!
泥を塗ることになるぞ!」と。デメアス ああ、うれしすぎて涙が出る!
SY. ”non tu hoc argentum perdis sed vitam tuam.” 410
シュルス「いま失うのは支払ったその金ではなく、兄さんの人生そのものなのだ」とも。
DE. salvos sit! spero. est similis maiorum suom. SY. hui!
デメアス あの子に祝福あれ! まさにご先祖様の生まれ変わりだ。シュルス まったくです。
DE. Syre, praeceptorum plenust istorum ille. SY. phy!
デメアス シュルス、あの子はそういう警句をいっぱいもっているんだ。シュルス おっしゃるとおりで。
domi habuit unde disceret. DE. fit sedulo:
ご家庭に立派なお手本をおもちですから。デメアス わしは命がけなんだ。
nil praetermitto, consuefacio. denique
何も見逃さない。しつけに懸命なのだ。いつもこう命じている。
inspicere tamquam in speculum in vitas omnium
「鏡を見るように、他人の生活を観察し、
jubeo atque ex aliis sumere exemplum sibi.
自分の手本になるものは何でも取り入れろ」とな。
”hoc facito.” SY. recte sane. DE. ”hoc fugito.” SY. callide.
「こうしろ」と言ってある。シュルス まったく賢明です。デメアス「それは駄目だ」とも。シュルス お見事です。
DE. ”hoc laudist.” SY. istaec res est. DE. ”hoc vitio datur.”
デメアス「これは立派な行いだ」とも。シュルス ごもっともです。「こんなことは罪だ」とも。
SY. probissume. DE. porro autem ― SY. non hercle otiumst
シュルス 完璧だ。デメアス さらにだ・・シュルス あいにく
nunc mi auscultandi. piscis ex sententia 420
今は旦那のお話を伺っている時間がないもので。おあつらえ向きの魚が
nactus sum. hi mihi ne corrumpantur cautiost.
手に入ったんです。腐らせないよう気をつけなくっちゃならんのです。
nam id nobis tam flagitiumst quam illa, Demea,
万一間違いがあったのでは、
non facere vobis quae modo dixti. et quod queo
いま旦那が言ったことをやらない奴と同じくらい罰当たり呼ばわれされちまう。
conservis ad eundem istunc praecipio modum.
それであっしも、召使いの連中にはできるだけ同じことを言ってるんです。
”hoc salsumst, hoc adustumst, hoc lautumst parum.
「こいつは塩が利きすぎてるし、こっちは焦げすぎだ。こいつは全然洗えてない。
illud recte. iterum sic memento.” sedulo
あれはまだいい。次も同じようにすることだ。覚えとけ」てな具合にね。
moneo quae possum pro mea sapientia.
あっしの知るかぎりのことを教えてやるんです
postremo tamquam in speculum in patinas, Demea,
最後に一言付け加えますとね、デメアスの旦那、ちょうど鏡を見るように皿をみろと命じてもあるんです。
inspicere jubeo et moneo quid facto usu‘ sit.
どうすることが大切かを言い含めてあるんです。
inepta haec esse nos quae facimus sentio. 430
こんな努力も無駄ってことはよくわかっています。
verum quid facias? ut homost, ita morem geras.
でも他に何ができるというのですか? 相手に応じてやり方を変えるしかないわけです。
numquid vis? DE. mentem vobis meliorem dari.
で、ほかに何かご希望でも? デメアス(ぶっきらぼうに)おまえの頭がよくなることさ。
SY. tu rus hinc ibis? DE. recta. SY. nam quid tu hic agas,
シュルス もう田舎にお帰りですか。デメアス さよう、まっすぐ家に帰る。シュルス たしかに旦那がありがたいお話をしたって
ubi si quid bene praecipias nemo obtemperet?
誰も聞こうとしないんですから、ここにいたって意味はありませんね。(シュルス、家の中に入る)
DE. ego vero hinc abeo, quando is quam ob rem huc veneram
デメアス(独白)ここを引き払おう。息子のためにここに来たのだが、
rus abiit. illum curo unum, ille ad me attinet.
その息子が田舎に帰ったのだからな。わしはあの子の世話だけをやる。あの子だけが気がかりなのだ。
quando ita volt frater, de istoc ipse viderit.
弟はアイスキヌスの世話だけしてればいい。自分でそう望んだのだから。
sed quis illic est procul quem video? estne Hegio
おや、あそこに見えるのは誰だい。郷里の仲間、
tribulis noster? si satis cerno is herclest. vaha!
ヘギオンじゃないか。この目に狂いがなければたしかにそうだ。おお、
homo amicus nobis iam inde a puero. o di boni! 440
竹馬の友よ、ああ善良な神々よ、
ne illius modi iam magna nobis civium
われわれ市民の間には、ああした人間がまるでいなくなったのです。
paenuriast. homo antiqua virtute ac fide.
昔ながらの美徳と信義をそなえた友よ!
haud cito mali quid ortum ex hoc sit publice.
こんな男に公務を任せておけば、不正のはびこるのも防げるだろうに。
quam gaudeo, ubi etiam huius generis reliquias
こうした人間のいるのを見れば、
restare video! ah! vivere etiam nunc lubet.
なんて快く思えるんだろう! ああ、生きることも喜びになるぞ。
opperiar hominem hic ut salutem et colloquar.
ここで待ち受け、挨拶を交わし、ちょっと話をしようか。

III.IV HEGIO DEMEA GETA PAMPHILIA SENES DUO servos virgo
第三幕第四場(ヘギオンとゲタ、話をしながら登場)

HE. pro di inmortales, facinus indignum, Geta!
ヘギオン(デメアスに気づかず)まったく何てことだ、ゲタ、破廉恥きわまりない話じゃないか!
quid narras? GE. sic est factum. HE. ex illan familia
本当に何てことを言うんだ!ゲタ 申し上げたとおりでございます。ヘギオン よりによってあの家族から
tam illiberale facinus esse ortum! o Aeschine,
こんな浅ましい事件が起きるなんて! アイスキヌスよ、
pol haud paternum istuc dedisti. DE. videlicet 450
本当におまえは父に背くことをやってしまったんだぞ。デメアス(傍白)どうやら
de psaltria hac audivit. id illi nunc dolet
キタラ娘のことを聞いたらしい。他人事なのに、
alieno, at pater is nihili pendit. ei mihi!
あんなに悲しんでいるぞ。父親はまったくどこ吹く風といった様子だったのに。ああ、なんてことだ。
utinam hic prope adesset alicubi atque audiret haec!
ここにミキオンがいて、ヘギオンのせりふを聞いてくれたらなあ!
HE. nisi facient quae illos aequomst, haud sic auferent.
ヘギオン 間違いを犯しても、あんな風にごまかしてはいけない。
GE. in te spes omnis, Hegio, nobis sitast.
ゲタ ヘギオン様、あっしらの生きる希望は、みんなあなたに託されているのです。
te solum habemus, tu‘s patronus, tu pater.
あなただけなのです。守り神、父親代わりはあなたしかいないのです。
ille tibi moriens nos commendavit senex.
大旦那は亡くなるとき、あっしらのことをあなたに託しました。
si deseris tu, periimus. HE. cave dixeris!
いま見捨てられたらりしちゃ、みんなお終いでさあ。ヘギオン 言葉に気をつけるがいい。
neque faciam neque me satis pie posse arbitror.
おまえたちを見捨てたりしないし、これまで十分義務を尽くせたとも思ってはいない。
DE. adibo. salvere Hegionem plurumum 460
デメアス(傍白)よし、行こう。(進み出て)これはヘギオン、
jubeo. HE. oh! te quaerebam ipsum. salve, Demea.
ごきげんよう。ヘギオン おや、これはデメアス。今あんたを探していたところだ。
DE. quid autem? HE. maior filius tuos Aeschinus,
デメアス 何かあったのか? ヘギオン 実は、あんたの上の息子で
quem fratri adoptandum dedisti, neque boni
ミキオンに養子にやったアイスキヌスのことだ。あいつは
neque liberalis functus officiumst viri.
良識ある自由人としての義務をまるで果たしていないのだ。
DE. quid istuc est? HE. nostrum amicum noras Simulum atque
デメアス いったい何の話だ? ヘギオン 同年輩の友人シムルスを知っているな。
aequalem? DE. quidni? HE. filiam eius virginem
デメアス もちろんだとも。ヘギオン アイスキヌスはシムルスの娘を
vitiavit. DE. hem! HE. mane. nondum audisti, Demea,
傷物にしたって話だ。デメアス 何だって? ヘギオン まあ、落ちつけ。
quod est gravissumum. DE. an quid est etiam amplius?
もっと大事なことを話さなくちゃならん。デメアス まさか、まだ続きがあるんじゃなかろうな?
HE. vero amplius. nam hoc quidem ferundum aliquo modost.
ヘギオン じつはそのまさかなんだ。今の話だけならなんとか我慢もできるだろう。
persuasit nox, amor, vinum, adulescentia: 470
夜中に突然アモルに襲われたとか、酒の力も手伝って若気の至りでしでかしたとか。
humanumst. ubi scit factum, ad matrem virginis
これなら、人間として許される話かもしれん。だがな、やっこさん、自分のしたことに気づくと娘の母親に会いに行き、
venit ipsus ultro lacrumans, orans, obsecrans,
娘を妻にくれと涙ながらに懇願し、
fidem dans, jurans se illam ducturum domum.
とうとう誓いまで立てた。
ignotumst, tacitumst, creditumst. virgo ex eo
それで罪は許され、事件も不問に付された。母親はあいつの言葉を信じたからだ。だが、娘はこのことが原因で
compressu gravida factast. mensis decumus est.
子を宿し、今では妊娠十ヶ月の体だ。
ill‘ bonus vir nobis psaltriam, si dis placet,
ところがだ、ご立派なあの男は、事もあろうに
paravit quicum vivat; illam deserit.
キタラ娘を買い取って同棲を始めたのだ。あっちの娘は捨てたってわけさ。
DE. pro certo tu istaec dicis? HE. mater virginis
デメアス それはたしかに本当のことか? ヘギオン 何より母親と娘に聞けばいい。
in mediost, ipsa virgo, res ipsa, hic Geta
娘のおなかを見れば一目瞭然さ。それに、ここにゲタがいる。
praeterea, ut captust servolorum, non malus 480
奴隷としては折り紙つきの働き者だ。
neque iners. alit illas, solus omnem familiam
この男が一人で娘の家族の食べ物を世話し、
sustentat. hunc abduce, vinci, quaere rem.
みんなの面倒を見ているんだ。こいつをひっとらえて縛り上げ、真相を聞いてみたらいい。
GE. immo hercle extorque, nisi ita factumst, Demea.
ゲタ デメアスの旦那、今の話がもし嘘だとしたら誓ってもいい。あっしを拷問にかけてください。
postremo non negabit. coram ipsum cedo.
結局、本人も否認しきれんでしょう。さああっしの前に連れてきてください。
DE. pudet. nec quid agam nec quid huic respondeam
デメアス(傍白)穴があれば入りたい心境だ。いったいどうすればいいのか、こいつに何て答えればいいのか、
scio. PA. miseram me! differor doloribus.
わしにはわからない。パンフィラ(家の中で)ああ苦しいわ。痛くって死にそうよ!
Juno Lucina, fer opem. serva me. obsecro. HE. hem!
ユノ・ルキナ様、どうかお助けください! お願いです。どうか私を助けてください。ヘギオン 何だと?
numnam illa, quaeso, parturit? GE. certe, Hegio.
どうやら出産も時間の問題ってわけか? ゲタ おっしゃるとおりで、ヘギオン様。
HE. em, illaec fidem nunc vostram implorat, Demea.
ヘギオン デメアス、あの娘は必死になっておまえたち一家の信義に訴えているんだぞ。
quod vos vis cogit, id voluntate impetret. 490
どの道、やらなきゃならんことなら、こっちから進んでやった方がいい。
haec primum ut fiant deos quaeso ut vobis decet.
何よりあんたの家柄にふさわしく善処してほしい。
sin aliter animus voster est, ego, Demea,
たとえあんたに別の考えがあるとしても、
summa vi defendam hanc atque illum mortuom.
わしは全力をあげてあの娘と死んだ父親の味方をするからな。
cognatus mihi erat; una a pueris parvolis
あの男はわしと血がつながっていたのだ。幼い頃から
sumus educti; una semper militiae et domi
一緒に育てられ、戦時も平時もいつも一緒だったし、
fuimus; paupertatem una pertulimus gravem.
極貧の暮らしも力を合わせて堪え忍んだのだ。
quapropter nitar, faciam, experiar, denique
だから、あの一家を見殺しにするくらいなら力を尽くし、
animam relinquam potius quam illas deseram.
できるかぎりの手を打って、それでも駄目なら死んだ方がはるかにましだ。
quid mihi respondes? DE. fratrem conveniam, Hegio.
おい、何とか言ったらどうだ。デメアス よし、ミキオンに会いに行くぞ。
HE. sed, Demea, hoc tu facito cum animo cogites. 500
ヘギオン だがデメアス、このことは肝に銘じておくことだ。
quam vos facillume agitis, quam estis maxume
暮らし向きがどんなに豊かになろうと、
potentes, dites, fortunati, nobiles,
また権力や富を手にし、幸運に恵まれてどんなに高い官職を得ても、
tam maxume vos aequo animo aequa noscere
それだけいっそう公平な心で正義をわきまえる必要がある。
oportet, si vos voltis perhiberi probos.
もし立派な男と言われたければな。
DE. redito. fient quae fieri aequomst omnia.
デメアス ではこれで。引き留めて悪かった。やるべきことはみんなやっておくつもりだ。
HE. decet te facere. Geta, duc me intro ad Sostratam.
ヘギオン うん、それがいい。ゲタ、ソストラータの家まで案内しておくれ。(ヘギオン、ゲタとともにソストラータの家に入る)
DE. non me indicente haec fiunt. utinam hic sit modo
デメアス(独白)だからこうなると言ったんだ。もうこのあたりで
defunctum! verum nimia illaec licentia
けりをつけてもらいたい! まったく親が子を甘やかしすぎるから、
profecto evadit in aliquod magnum malum.
こんな大変な不幸が起こるんだ。
ibo ac requiram fratrem ut in eum haec evomam. 510
よし、弟に会って問いただそう。いま聞いた話を洗いざらいぶちまけるぞ。

III.V HEGIO senex
第三幕第五場(ヘギオン、再び舞台に登場)

bono animo fac sis, Sostrata, et istam quod potes
ヘギオン(戸口で)では、ソストラータ。気をしっかりもって、精いっぱい
fac consolere. ego Micionem, si apud forumst,
パンフィラの力になってくれ。ミキオンは広場にいるかもしれん。
conveniam atque ut res gestast narrabo ordine.
彼に会って事件の一部始終を話してこよう。
si est facturus ut sit officium suom,
もしもミキオンが義務を果たすというのなら、
faciat. sin aliter de hac rest eius sententia,
ぜひそうしてもらうし、この件に関し、互いの意見が食い違うようなら、
respondeat mi, ut quid agam quam primum sciam.
はっきりそう言ってもらおう。その方が、できるだけ早く次に打つ手が見つかるというものた。

IV.I CTESIPHO SYRUS adulescens servos
第四幕第一場(クテシフォンとシュルス、ミキオンの家から出てくる)

CT. ain patrem hinc abisse rus? SY. iamdudum. CT. dic, sodes. SY. apud villamst
クテシフォン 父さんは田舎に帰ったというのかい? シュルス ええ、とっくに。クテシフォン 詳しく話してくれないか。シュルス 旦那は田舎の別荘にお戻りで、
nunc quom maxume operis aliquid facere credo CT. utinam quidem!
今頃は畑仕事に精を出しておられるはずです。クテシフォン 本当にそうでありますように!
quod cum salute eius fiat, ita se defetigarit velim,
できれば健康を害することなく、いっそ三日間ほど
ut triduo hoc perpetuo prorsum e lecto nequeat surgere. 520
寝床から起き上がれぬくらい、くたばってしまえばいいのに。
SY ita fiat, et istoc si qui potis est rectius. CT. ita. nam hunc diem
シュルス ごもっとも。でも、できればもっとましなことが。クテシフォン そうともさ。今日という日が、
misere nimis cupio, ut coepi, perpetuom in laetitia degere.
まだ始まったばかりで、いつまでも愉快に過ごせるものであったらと心から思うよ。
et illud rus nulla alia causa tam male odi nisi quia propest.
とにかくあの田舎の家はここから近すぎていかん。
quod si abesset longius,
もっと遠ければ、
prius nox oppressisset illi quam huc revorti posset iterum.
親父がここに引き返す途中で夜中になるだろう。
nunc ubi me illi non videbit, iam huc recurret. sat scio
今頃僕がいないのに気づいて、あわててこっちに引き返そうとしてるに決まってる。
rogitabit me ubi fuerim: ”ego hodie toto non vidi die.”
僕を見つけたら、一日どこにいたかを聞くだろう。「今日の一日おまえを見なかったぞ」てな調子さ。
quid dicam? SY. nilne in mentemst? CT. numquam quicquam. SY. tanto nequior.
何て答えればいいんだ。シュルス いい考えが浮かばぬと? クテシフォン 万事休すだ。シュルス それは困りましたな。
cliens, amicus, hospes nemost vobis? CT. sunt. quid postea?
誰か頼りになるお友達や知り合いはいないんですか。クテシフォン いるにはいるさ。だけど、いたらどうなるっていうんだ。
SY. hisce opera ut data sit? CT. quae non data sit? non potest fieri. SY. potest. 530
シュルス 力になってもらうんです。クテシフォン 助けてくれなきゃどうする。だいいちそんなことは無理に決まってるじゃないか。シュルス 大丈夫。
CT. interdius. sed si hic pernocto, causae quid dicam, Syre?
クテシフォン(心配そうに)昼間ならまだしも、ここで夜明かしすることになったら、親父になんて言い訳すればいいんだい。
SY. vah! quam vellem etiam noctu amicis operam mos esset dari!
シュルス たしかに夜通し友人に手を貸すなんてことは誰もしませんがね。
quin tu otiosus esto: ego illius sensum pulchre calleo.
とにかく坊っちゃんは気を楽にもっていてください。旦那のことはこのあっしが一番よく知っていますから。
quom fervit maxume, tam placidum quam ovem reddo. CT. quomodo?
かんかんに怒ってらしても、子羊のようにおとなしくなるように宥めてさしあげます。クテシフォン いったいどうやって?
SY. laudarier te audit lubenter. facio te apud illum deum.
シュルス 旦那は坊っちゃんが褒められるのを聞くと有頂天になります。坊っちゃんを神のごとしと褒め称え、
virtutes narro. CT. meas? SY. tuas. homini ilico lacrumae cadunt
美徳の数々を語ってさしあげます。クテシフォン 僕の美徳? シュルス そう、あなたの美徳。
quasi puero gaudio. em tibi autem! CT. quidnamst? SY. lupus in fabula.
旦那は子供のように歓喜の涙にむせぶでしょう。(通りを探して)ほら、ご覧なさい。クテシフォン いったい何をだ? シュルス 噂をすればなんとやら。
CT. pater est? SY. ipsust. CT. Syre, quid agimus? SY. fuge modo intro, ego videro.
クテシフォン まさか親父じゃあるまいな? シュルス ええ、そのまさかで。クテシフォン シュルス、どうすりゃいいんだ? シュルス とにかく中へ。後は何とかしますから。
CT. si quid rogabit, nusquam tu me. audistin? SY. potin ut desinas?
クテシフォン 親父が何を尋ねても、僕を見たなんて絶対言わんでくれよ。わかったな。シュルス しっ、静かに。(クテシフォン、家の中に入る)

IV.II DEMEA CTESIPHO SYRUS senex adulescens servos
第四幕第二場(デメアス登場)

DE. ne ego homo sum infelix! fratrem nusquam invenio gentium. 540
デメアス(シュルスに気づかず)今日は本当についてないぞ。ミキオンの奴、どこにもいやしない。
praeterea autem, dum illum quaero, a villa mercennarium
あちこち探していると、今度は別荘から小作人が現れて、
vidi. is filium negat esse ruri,nec quid agam scio.
クテシフォンは田舎にいないなんてぬかしやがる。いったいどうすればいいんだ。
CT. Syre! SY. quid est? CT. men quaerit? SY. verum. CT. perii. SY. quin tu animo bono‘s.
クテシフォン(入り口まで来て小声で)おい、シュルス。シュルス 何です? クテシフォン 親父は僕を探しているのか? シュルス そのようで。クテシフォン もう駄目だ。シュルス 坊っちゃん、しっかりなさい。(クテシフォン、再び家の中に入る)
DE. quid hoc, malum, infelicitatis? nequeo satis decernere
デメアス いったい何でこんな目に遭うのか、さっぱりわからんぞ。
nisi me credo huic esse natum rei, ferundis miseriis.
わしはまるで不幸を堪え忍ぶように生まれついたとしか思えない。
primus sentio mala nostra, primus rescisco omnia,
今回の不始末についても、わしが真っ先に気づいたわけだし、事の成りゆきの一部始終を知ったのもこのわしが最初だ。
primus porro obnuntio. aegre solus si quid fit fero.
その上、これを伝える役もわしが真っ先に引き受けるってわけだ。何か厄介なことが起こるたびに、一人で重荷を背負い込むのはいつもわしだ。
SY. rideo hunc. primum ait se scire. is solus nescit omnia.
シュルス(傍白)このせりふには吹き出しちまうぜ。旦那は自分が最初に気づいたなんて言うが、いまだに一部始終を知らずにいるのは旦那だけだ。
DE. nunc redeo: si forte frater redierit viso. CT. Syre,
デメアス とにかくやっと家についたぞ。ミキオンが戻ってないか見てやろう。
obsecro, vide ne ille huc prorsus se irruat. SY. etiam taces? 550
クテシフォン(再び戸口に近づいて)おい、シュルス。お願いだ、親父がここに入ってこないようにうまくやってくれよ。シュルス どうかお静かに。
ego cavebo. CT. numquam hercle hodie ego istuc committam tibi.
後はあっしが何とかしますから。クテシフォン いや、今日はおまえに任せっぱなしにはできない。
nam me iam in cellam aliquam cum illa concludam. id tutissumumst.
これからあの娘と二人でどこかに部屋を借り切るつもりだからな。それが一番の安全策なのだ。
SY. age, tamen ego hunc amovebo. DE. sed eccum sceleratum Syrum.
シュルス そいつは名案でございます。あっしはとにかく旦那をおっぱらいましょう。(クテシフォン、家の中に引っ込む)デメアス おや、あそこにいるのは悪党のシュルスじゃないのか。
SY. non hercle hic quidem durare quisquam, si sic fit, potest.
シュルス(一人で嘆くふりをして)こんなことがまかり通るなんて。我慢できる奴がどこにいる?
scire equidem volo quot mihi sint domini. quae haec est miseria!
おれには何人のご主人がいるというんだ。情けないったらありゃしない。
DE. quid ille gannit? quid volt? quid ais, bone vir? est frater domi?
デメアス あいつは何をぶつぶつ言ってるんだ。どうしてくれと?(シュルスに)おいおまえさん。弟はいるかね。
SY. quid, malum, ”bone vir” mihi narras? equidem perii. DE. quid tibist?
シュルス 何だってあっしのことを「おまえさん」なんて言い方をなさるんです。あっしはもう死んだも同然でさあ。デメアス 何があったというんだ。
SY. rogitas? Ctesipho me pugnis miserum et istam psaltriam
シュルス どうしたもこうしたも、クテシフォンの旦那があっしとキタラ娘を拳骨で殴り倒し、
usque occidit. DE. hem! quid narras? SY. em, vide ut discidit labrum!
死にそうな目に遭わしたんでさあ。デメアス 何の話だ? シュルス ごらんなせえ、唇がこんなに切れちまったんだ。
DE. quam ob rem? SY. me impulsore hanc emptam esse ait. DE. non tu eum rus hinc modo 560
デメアス 何でそんなことに? シュルス 坊っちゃんは、あっしが無理やり女を買わせたなんて言うんです。デメアス おまえはさっき息子を
produxe aibas? SY. factum. verum venit post insaniens.
田舎に送ってきたと言ったじゃないか。シュルス それは確かですが、坊っちゃんは怒ってまたここに戻ってきたのです。
nil pepercit. non puduisse verberare hominem senem!
手加減なしに、あっしみたいな老人を殴って平気な顔をしています。
quem ego modo puerum tantillum in manibus gestavi meis.
(手で表わしながら)こんなに小さい時分には、あっしの腕の中で抱いてさしあげたのに。
DE. laudo. Ctesipho, patrissas. abi, virum te judico.
デメアス でかしたぞ、クテシフォン。それでこそわしの息子だ。それでこそ一人前の男だ。
SY. laudas? ne ille continebit posthac, si sapiet, manus.
シュルス でかしたですって? 坊っちゃんに分別があったなら、今後一切拳を振り上げないと約束してもらいたいもんです。
DE. fortiter! SY. perquam, quia miseram mulierem et me servolum
デメアス 勇気ある行いだ。シュルス まったく。やり返すこともできないか弱い女や、
qui referire non audebam vicit. hui! perfortiter!
あっしみたいな奴隷をやっつけたんだから、ご立派と言うほかありません。
DE. non potuit melius. idem quod ego sensit te esse huic rei caput.
デメアス 最高のお手柄だ。わしも睨んでおったが、息子はおまえがこの事件の首謀者と見抜いたわけだ。
sed estne frater intus? SY. non est. DE. ubi illum inveniam cogito.
ところで、ミキオンは中にいるかね。シュルス いいえ。デメアス いったいどこに行ったら捕まえられるんだ?
SY. scio ubi sit, verum hodie numquam monstrabo. DE. hem! quid ais? SY. ita. 570
シュルス どこにおられるか存じていますが、今はお話しするわけにはまいりません。デメアス なんだと? シュルス いま申し上げたとおりでございます。
DE. dimminuetur tibi quidem iam cerebrum. SY. at nomen nescio
デメアス こいつ、脳天をたたき割るぞ。シュルス 誰のお宅か
illius hominis, sed locum novi ubi sit. DE. dic ergo locum.
名前は存じませんが、場所ならどこか知っています。デメアス じゃあ、その場所を教えてもらおう。
SY. nostin porticum apud macellum hanc deorsum? DE. quidni noverim?
シュルス(指で示しながら)あっちに降りていくと、肉市場のアーケードがありますね? デメアス ああ、知ってるぞ。
SY. praeterito hanc recta platea sursum. ubi eo veneris,
シュルス この道をまっすぐ上っていって、そこに着いたら、
clivos deorsum vorsumst: hac te praecipitato. postea
今度は目の前に下り坂が続きますから、その道を降りていってください。
est ad hanc manum sacellum: ibi angiportum propter est,
すると、こっちの方角に聖堂があって、そのすぐそばに小道が見えます。
DE. quodnam? SY. illi ubi etiam caprificus magnast. DE. novi. SY. hac pergito.
デメアス どの道のことなんだ。シュルス 大きないちじくの木のある道です。デメアス ああ、あの道か。シュルス その道をずっと行くんです。
DE. id quidem angiportum non est pervium. SY. verum hercle. vah!
デメアス だが、あの細い道は通り抜けができないはずだ。シュルス いやまったくそのとおり。
censen hominem me esse? erravi. in porticum rursum redi.
あっしも人間だってことがおわかりで? うっかりしてました。またもとのアーケードまで戻ってもらいましょう。
sane hac multo propius ibis et minor est erratio. 580
そうだ、こっちの方がずっと近いし、迷いっこなしだ。
scin Cratini huius ditis aedes? DE. scio. SY. ubi eas praeterieris,
旦那は、あの金持ちのクラティヌスのお屋敷をご存知で? デメアス もちろん。シュルス そこを通り越して、
ad sinistram hac recta platea. ubi ad Dianae veneris,
左手にどんどん進んでいってディアナの社に着くと、
ito ad dextram. prius quam ad portam venias, apud ipsum lacum
今度はそこを右手に曲がるんです。この町の門に着く前に、池の畔には
est pistrilla et exadvorsum fabrica: ibist. DE. quid ibi facit?
パン屋があって、その向かい側に細工師の店があります。その店にミキオンの旦那はいらっしゃいます。デメアス そこで何をやってるんだ?
SY. lectulos in sole ilignis pedibus faciundos dedit.
シュルス 屋外用の樫の木の足のついた椅子をいくつかご注文になっています。
DE. ubi potetis vos? bene sane! sed cesso ad eum pergere?
デメアス 酒を飲むときに使うってわけだ。まったくいいご身分だ。よし、今すぐ探しに行くとするか。(デメアス退場)
SY. i sane. ego te exercebo hodie, ut dignus es, silicernium!
シュルス よし、行け。今日はひからびたあんたにお似合いの運動をたっぷりやってもらうことにしよう。
Aeschinus otiose cessat. prandium corrumpitur.
それにしても、アイスキヌスはいやに遅いな。料理がまずくなっちまう。
Ctesipho autem in amorest totus. ego iam prospiciam mihi.
クテシフォンはすっかり女に夢中だし。よし、わしも自分のことをさせてもらうぞ。.
nam iam abibo atque unum quidquid, quod quidem erit bellissumum, 590
今から中に入って、一番うまい物をつまみ食いし、
carpam et cyathos sorbilans paulatim hunc producam diem.
杯を重ねて今日をのんびり過ごさせていただこう。(シュルス、家の中に入る)

IV.III MICIO HEGIO SENES DUO
第四幕第三場(ヘギオンとミキオン、登場)

MI. ego in hac re nil reperio, quam ob rem lauder tanto opere, Hegio.
ミキオン ヘギオン、こんなことでどうしてそんなに褒められるのか、さっぱりわからんよ。
meum officium facio. quod peccatum a nobis ortumst corrigo.
自分たちの不始末をわびたまでのこと、やるべきことをやったまでさ。
nisi si me in illo credidisti esse hominum numero qui ita putant,
たしかに、世間には不正を犯しておいて、それを非難されると、
sibi fieri injuriam ultro, si quam fecere ipsi expostules,
逆に食ってかかる連中もいるがね。まさか、わしがそんな手合いの一人だと思っていたんじゃあるまいね。
et ultro accusant. id quia non est a me factum agis gratias?
つまり、今回食ってかからないから感謝しているってわけかい?
HE. ah! minume. numquam te aliter atque es in animum induxi meum.
ヘギオン とんでもない。わしは、あんたという人間を誤解したためしがないはずだ。
sed quaeso,ut una mecum ad matrem virginis eas,Micio,
だがな、ミキオン。ぜひ一緒にあの娘の母親の所に行ってはくれまいか。
atque istaec eadem quae mihi dixti tute dicas mulieri:
そして、わしに話したのと同じことを彼女に言ってもらいたいのだ。
suspicionem hanc propter fratrem, eius esse et illam psaltriam. 600
つまり、弟のせいで今回の誤解が生じたということ、あのキタラ弾きは弟の女だってことをあんたの口から説明してほしい。
MI. si ita aequom censes aut si ita opus est facto,eamus. HE. bene facis.
ミキオン それが正しいこと、必要なことだと言うのなら、いっしょに行ってもかまわんよ。ヘギオン そいつはありがたい。
nam et illic animum iam relevabis, quae dolore ac miseria
そうすれば、今は悲しみと産みの苦しみで辛い思いをしているあの娘の心もずいぶん楽になるだろうし、
tabescit, et tuo officio fueris functus. sed si aliter putas,
あんたも果たすべき義務を立派に務めたことになるだろう。だが、もし本心では同意しかねると言うのなら、
egomet narrabo quae mihi dixti. MI. immo ego ibo. HE. bene facis.
さっき話してくれた言葉は、わしの口から説明するよ。ミキオン とんでもない、自分で話に行くさ。ヘギオン そいつはありがたい。
omnes quibus res sunt minus secundae magis sunt nescioquo modo
運に恵まれない連中は、どういうわけか
suspiciosi. ad contumeliam omnia accipiunt magis.
疑い深くなる。何だって自分たちをばかにする話と受け取ってしまう。
propter suam impotentiam se semper credunt claudier.
金がないため、笑いものにされているとつい思ってしまうのだ。
quapropter te ipsum purgare ipsi coram placabilius est.
だから、あんた自身が母親の前で疑いを晴らせば、彼女も気持ちをやわらげるだろう。
MI. et recte et verum dicis. HE. sequere me ergo hac intro. MI. maxume.
ミキオン まったくあんたの言うとおりだ。ヘギオン では一緒に中へ入るとしよう。ミキオン よし、そうしよう。(ミキオン、ソストラータの家の中に入る)

IV.IV AESCHINUS adulescens
第四幕第四場

AE. discrucior animi! hoccine de improviso mali mihi obici tantum 610
アイスキヌス ああ心が千々に乱れる。思いがけない不幸が僕を襲い、
ut neque quid me faciam nec quid agam certum siet!
自分でもどうすればいいのか、何をしたらいいのかわからない!
membra metu debilia sunt: animus timore obstipuit.
恐怖で手足の力も抜け、心も恐ろしさのあまり
pectori consistere nil consili quit.vah!
ぶるぶる震え、落ちついて考える力もわいてこない。
quo modo me ex hac expediam turba?
ああ、いったいどうやってこんな嵐のような事態を切り抜ければいいのだろう?
tanta nunc suspicio de me incidit. neque ea inmerito.
今、僕は大きな疑惑の渦中にいて、
Sostrata credit mihi me psaltriam hanc emisse. id anus
mi indicium fecit.
しかも、疑われるだけの理由をもっている。ソストラータさんは、
nam ut hinc forte ad obstetricem erat missa, ubi vidi, ilico
僕があのキタラ娘を買い取ったと思いこんでいる。あの老婆がそうほのめかしたのだ。
accedo. rogito Pamphila quid agat, iam partus adsiet
産婆を呼びに行くのを見かけたので、「パンフィラの具合はどうだ? 出産が近いから
eon obstetricem accersat. illa exclamat: ”abi, abi iam, Aeschine. 620
使いにやられたのか?」と聞くと、こう叫んだのだ。「あっちへ行け、アイスキヌス。あっちへ行け」
satis diu dedisti verba, sat adhuc tua nos frustratast fides.”
よくまあ長いこと口先であたし達を騙してくれたわね。あんたを信じた分、ばかを見たよ」と。
”hem! quid istuc, obsecro” inquam ”est?” ”valeas, habeas illam quae placet!”
「おい、どういう意味なんだ?」と尋ねると、「ごきげんよう。ほれた女を大事にしな」なんて言うじゃないか。
sensi ilico id illas suspicari, sed me reprehendi tamen
とっさに僕は誤解されていると思ったが、ぐっと我慢した。
ne quid de fratre garrulae illi dicerem ac fieret palam.
あんな口の軽い連中に、弟のことを打ち明けたり、ましてそれが明るみに出たりしては困ると思ったからだ。
nunc quid faciam? dicam fratris esse hanc? quod minumest opus
では、これからいったいどうすればいいんだろう? いっそ女は弟のものだと白状したものか? いや、そんな真似は絶対できっこない。
usquam efferri. ac mitto: fieri potis est ut ne qua exeat.
よし、すべてはこのままにしておこう。まだ表沙汰にしなくてすみそうだから。
ipsum id metuo ut credant. tot concurrunt veri similia:
とはいえ、みんな噂を信じるにちがいない。事実と思うような証拠がたくさん出そろっているんだから。
egomet rapui ipse, egomet solvi argentum, ad me abductast domum.
だいいち、キタラ娘を奪ったのはこの僕だ。金を払い、家に連れて帰ったのもこの僕だ。
haec adeo mea culpa fateor fieri. non me hanc rem patri,
どれもこれも、僕の過ちで起きたことばかりなんだ。起こったことは仕方がないとして、
utut erat gesta, indicasse! exorassem ut eam ducerem. 630
せめて事件の顛末を父に打ち明け、パンフィラとの結婚を認めてもらうように頼めばよかったんだ。
cessatum usque adhuc est: nunc porro, Aeschine, expergiscere.
それを今日までぐずぐず引き延ばしてきたのだ。アイスキヌスよ、もういい加減に目を覚ませ!
nunc hoc primumst: ad illas ibo ut purgem me. accedam ad fores.
いま真っ先にしないといけないのはこのことだ。今こそパンフィラの家族に会って、身の潔白を証明しよう。よし、門に近づくぞ。(近づこうとすれば)
perii! horresco semper ubi pultare hasce occipio miser.
いや、駄目だ。いざ門をたたくとなると、つい気後れして怖くなる。
heus, heus, Aeschinus ego sum! aperite aliquis actutum ostium.
(門をたたく)おーい、おーい、アイスキヌスだ。誰か早く家の戸を開けてくれ。(家の戸が開く)
prodit nescioquis. concedam huc.
おや、誰か出てくるぞ。こっちに下がって見ていよう。(アイスキヌス、見つからぬよう陰に隠れる)

IV.V MICIO AESCHINUS senex adulescens
第四幕第五場(ミキオン、話しながら家の外に出てくる)

MI. ita uti dixi, Sostrata,
ミキオン(戸口で)では、ソストラータさん、いま言ったように
facite. ego Aeschinum conveniam, ut quo modo acta haec sunt sciat.
しておいてください。わたしはアイスキヌスに会って、事情を話してきます。
sed quis ostium hic pultavit? AE. pater herclest! perii! MI. Aeschine,
(傍白)いったい誰だろう、さっき門をたたいたのは? アイスキヌス(傍白)あの声は、たしかに父さんだ! ああ、もうだめだ。ミキオン アイスキヌス!
AE. quid huic hic negotist? MI. tune has pepulisti fores?
アイスキヌス(傍白)父さんはこんな所で何をしているのだろう。ミキオン この門を叩いたのはおまえだろう?
tacet. quor non ludo hunc aliquantisper? melius est,
(傍白)おや、黙ってるぞ。よし、ちょっとからかってやろう。
quandoquidem hoc numquam mihi ipse voluit credere. 640
今回、わしに何も相談もしなかったのだから当然の報いだ。
nil mihi respondes? AE. non equidem istas, quod sciam.
(大声で)おい、何も答えないのか? アイスキヌス(しどろもどろで)僕が叩いたのはその門じゃない・・と思いますけど。
MI. ita? nam mirabar quid hic negoti esset tibi.
ミキオン そうかい。なんでこんな所に用があるのかと思っただけさ。
erubuit. salva res est. AE. dic, sodes, pater,
(傍白)顔が真っ赤だ。一件落着だ。アイスキヌス 父さんこそ答えてください。
tibi vero quid istic est rei? MI. nil mihi quidem.
いったいこんな所に何の用があるんです? ミキオン わしの用事ではない。
amicus quidam me a foro abduxit modo
友人から裁判の相談をもちかけられて
huc advocatum sibi. AE. quid? MI. ego dicam tibi.
ここに来たのだ。アイスキヌス いったい、どんな話で? ミキオン よし、教えてやろう。
habitant hic quaedam mulieres pauperculae.
この家には貧しい母と娘が暮らしておる。
ut opinor eas non nosse te, et certo scio.
おまえはまだ二人を知らんと思うがな。それも当然だ。
neque enim diu huc migrarunt. AE. quid tum postea?
二人はここに来てまだ間がないからな。アイスキヌス それで、どうなったのですか?
MI. virgo cum matre. AE. perge. MI. haec virgo orbast patre. 650
ミキオン 娘が母と暮らしている。アイスキヌス 続けてください。ミキオン 娘は父を失った。
hic meus amicus illi genere est proxumus.
この父親の一番近い血縁が、わしの友人というわけだ。
huic leges cogunt nubere hanc. AE. perii! MI. quid est?
法律で、娘はこの男に嫁がねばならん。アイスキヌス ああ、駄目だ! ミキオン どうかしたか?
AE. nil, recte. perge. MI. is venit ut secum avehat.
アイスキヌス いえ何も。大丈夫、続けてください。ミキオン その友人が、娘を連れて帰るために、ここまで来るのだ。
nam habitat Mileti. AE. hem! virginem ut secum avehat?
なにせ、ミレトゥスに住んでいるのだからな。アイスキヌス 娘を連れて帰るですって?
MI. sic est. AE. Miletum usque obsecro? MI. ita. AE. animo malest.
ミキオン そうだ。アイスキヌス 冗談じゃない、ミレトゥスまでだって? ミキオン さよう。アイスキヌス (傍白)ああ、考えるだけで気分が悪くなる。
quid ipsae? quid aiunt? MI. quid illas censes? nil enim.
(ミキオンに)で、母と娘は? 二人は何て言ってるんですか? ミキオン 二人が何て言ってるかだって? まだ何も口にしてはいない。
commenta mater est esse ex alieno viro
母親は、娘がよその男の子をはらんだなんて言っておったが、
nescioquo puerum natum, neque eum nominat;
怪しいもんだ。名前は明かしてくれないのだからな。
priorem esse illum, non oportere huic dari.
その男に優先権があるから、わしの友人に嫁にやるわけにはいかん、などと抜かしおる。
AE. eho! nonne haec justa tibi videntur postea? 660
アイスキヌス それじゃあ、父さんはこの母親の言い分が間違ってるとでも?
MI. non. AE. obsecro, non? an illam hinc abducet, pater?
ミキオン ああ、間違っておる。アイスキヌス 誓ってそう思いますか? それじゃ、父さんの友人が娘を連れて帰るってわけですか?
MI. quid illam ni abducat? AE. factum a vobis duriter
ミキオン 当然じゃないか。アイスキヌス よくまあ、そんな残酷で
immisericorditerque atque etiam, sist, pater,
無慈悲なことを。はっきり言って、父さん、
dicendum magis aperte, illiberaliter.
それは自由人のすることじゃない。
MI. quam ob rem? AE. rogas me? quid illi tandem creditis
ミキオン 何でそう思うんだ? アイスキヌス 何でかって? その娘を先に愛し、
fore animi misero qui illa consuevit prior,
たぶん、今も激しく愛しているその男の気持ちが
qui infelix haud scio an illam misere nunc amet,
どんなにつらいか、父さんにはわかる?
quom hanc sibi videbit praesens praesenti eripi
可哀想に、女は目の前から奪われ、連れていかれるんだ。
abduci ab oculis? facinus indignum, pater.
こんなこと、父さん、許せる?
MI. qua ratione istuc? quis despondit? quis dedit? 670
ミキオン どんな理屈でそんなことが言えるかね? いったい誰が娘の結婚を許したんだ?
quoi quando nupsit? auctor his rebus quis est?
娘は誰と、いつ結婚したって言うんだ? 誰がそれを承認した?
quor duxit alienam? AE. an sedere oportuit
また、なんでその男は他人の婚約者と結婚できるんだ? アイスキヌス じゃあ、その娘は
domi virginem tam grandem dum cognatus huc
あの年になって、親戚の男が迎えに来るまで、
illinc veniret exspectantem? haec, mi pater,
家の中で座って待ってなきゃいけなかったの? 父さん、あなたこそ、
te dicere aequom fuit et id defendere.
断固としてミレトゥスの男にそう主張すればよかったんだ!
MI. ridiculum! advorsumne illum causam dicerem,
ミキオン そんな馬鹿な。訴訟を依頼された相手を
quoi veneram advocatus? sed quid ista, Aeschine
訴えろと言うのか。それはそうと、アイスキヌス、なんでこの問題に
nostra? aut quid nobis cum illis? abeamus. quid est?
われわれが関わらなくちゃならんのだ? この家のことは、われわれには関係のない話じゃないか。さあ、帰ろう。(アイスキヌス泣き出す)いったいどうした?
quid lacrumas? AE. pater, obsecro, ausculta. MI. Aeschine, audivi omnia
なぜ涙を流す? アイスキヌス お願いだ。父さん、僕の話を聞いてほしい。ミキオン(やや間を置いて)アイスキヌス、わしは話の一部始終を聞いて
et scio. nam te amo. quo magis quae agis curae sunt mihi. 680
わけも知っている。おまえを愛しているからだ。だから、おまえのすることなすこと、みんな気がかりなのだ。
AE. ita velim me promerentem ames dum vivas, mi pater,
アイスキヌス 父さん、僕は罪を犯しながら、今まで隠してきた。そう思うだけでこの胸が痛むし、父さんに会わす顔なんてないさ。
ut me hoc delictum admisisse in me, id mihi vehementer dolet
でも、これからは父さんが生きているかぎり、それだけ一層父さんの気持ちに答えられるように
et me tui pudet. MI. credo hercle. nam ingenium novi tuom
頑張りたいと思う。(顔を両手で隠す)ミキオン よし、わしはその言葉を信じよう。お前の自由人としての立派な心意気を知っているからな。
liberale. sed vereor ne indiligens nimium sies.
だがな、おまえはちょっと不注意の度が過ぎるように思う。
in qua civitate tandem te arbitrare vivere?
自分がいったいどんな社会で暮らしているのか、わかっているのか?
virginem vitiasti quam te non jus fuerat tangere.
触れる権利さえもっていない乙女を犯したんだぞ。
iam id peccatum primum sane magnum,at humanum tamen.
第一に、この罪は重い。重いとはいえ、それでも人間的であると言える。
fecere alii saepe item boni. at postquam evenit, cedo,
立派な人間でも、こうした過ちは犯しかねないからだ。しかしな、おまえは罪を犯した後、
numquam circumspexti? aut numquid tute prospexti tibi,
いったい何を考えたのだ? 自分が何をどうすればいいか、
quid fieret,qua fieret? si te ipsum mihi puduit proloqui, 690
きちんと考えたのか? わしに打ち明けるのが恥ずかしかったと言うが、
qua resciscerem? haec dum dubitas, menses abierunt decem.
それじゃあ、わしはどうやって事実を知ればよかったのだ? おまえが躊躇している間に、十月が過ぎてしまったのだぞ。
prodidisti te et illam miseram et gnatum, quod quidem in te fuit.
おまえは事実を隠しながら、自分と可哀想な娘、さらには生まれてくる子供まで裏切ったんだ。
quid? credebas dormienti haec tibi confecturos deos?
なぜだ? 眠っている間に、神が首尾よく解決してくれると思ったのか?
et illam sine tua opera in cubiculum iri deductum domum?
努力しないでも、娘が嫁になって、寝室に来てくれると思ったのか?
nolim ceterarum rerum te socordem eodem modo.
別の問題についても、同じ不注意はけっして犯してほしくない。
bono animo‘s. duces uxorem hanc. AE. hem! MI. bono, inquam, animo‘s. AE. pater
さあ、元気を出せ。そしてあの娘を嫁に迎えてやれ。アイスキヌス えっ? ミキオン 元気を出せと言ってるんだ。アイスキヌス 父さん、
obsecro, nunc ludis nunc tu me? MI. ego te? quam ob rem? AE. nescio.
まさか、僕をからかっているの? ミキオン わしがおまえを? どうして? アイスキヌス わからない。
quia tam misere hoc esse cupio verum, eo vereor magis.
今まで本当にそうなればいいと思っていただけに、かえって、本当になるのが怖いんだ。
MI. abi domum ac deos comprecare ut uxorem accersas. abi!
ミキオン さあ、ここを出て、花嫁を連れてこれるよう神々に頼んでこい。行け。
AE. quid? eam uxorem? MI. iam. AE. iam? MI. iam,quantum potest. AE. di me,pater, 700
アイスキヌス 何だって? 今すぐ花嫁を? ミキオン 今すぐに。アイスキヌス 今すぐに? ミキオン そう、できるだけ早くだ。アイスキヌス 父さん、八百万の神々が
omnes oderint ni magis te quam oculos nunc ego amo meos.
僕を憎んでもいい、もし僕が自分の目より父さんを愛していないとするならば。
MI. quid? quam illam? AE. aeque. MI. perbenigne. AE. quid? ille ubist Milesius?
ミキオン 何だって? 彼女以上にかい。アイスキヌス 同じくらい。ミキオン これはご親切に。アイスキヌス(不安になって)どうしよう? あのミレトゥスの人は、どこにいるんだろう?
MI. periit, abiit, navem escendit. sed quor cessas? AE. abi, pater
ミキオン あの男は消えた。船に乗って帰ったよ。とにかく、ぐずぐずしている場合じゃない。アイスキヌス 父さんが行って、
tu potius deos comprecare. nam tibi eos certo scio,
神々にお祈りしてほしい。僕なんかよりずっと立派な人だから、
quo vir melior multo‘s quam ego, obtemperaturos magis.
神々も父さんの願いなら聞いてくれるでしょう。
MI. ego eo intro ut quae opus sunt parentur. tu fac ut dixi, si sapis.
ミキオン では、わしは中に入って必要な物の準備をしてこよう。おまえも賢明なら、わしが言ったとおりにすることだ。(ミキオン、家の中に入る)
AE. quid hoc est negoti? hoc est patrem esse aut hoc est filium esse?
アイスキヌス いったいどうなってるんだろう? こんな親父と息子がどこにいると思う?
si frater aut sodalis esset, qui magis morem gereret?
仮に兄弟や親友であっても、あんなには振る舞えないぞ。
hic non amandus, hicine non gestandus in sinust? hem!
父さんは本当にこころを許せる愛すべき人だ。ああ、父さん!
itaque adeo magnam mi inicit sua commoditate curam, 710
あんなにも親身になって僕のことを気遣ってくれるから、
ne forte imprudens faciam quod nolit: sciens cavebo.
僕も父さんが眉をひそめるようなことは、うかうかやっていられない。これからは、十分気をつけよう。
sed cesso ire intro, ne morae meis nuptiis egomet siem?
じゃあ、中に入るとするか。自分の結婚の邪魔はしたくないからな。

IV.VI DEMEA senex
第四幕第六場(デメアス、疲れ果てた様子で登場)

DE. defessus sum ambulando. ut, Syre, te cum tua
デメアス 歩き回って、もうくたくただ。シュルスめ、ユッピテル様が、
monstratione magnus perdat Juppiter!
おまえとあの道案内を一緒に滅ぼしてくれますように!
perreptavi usque omne oppidum: ad portum, ad lacum,
町中はい回って探したのだ。あいつの言っていた門や池はもとより、
quo non? neque illi fabrica ulla erat nec fratrem homo
探さなかった場所なんてあるものか? 家具屋なんてどこにもなかったし、
vidisse se aibat quisquam. nunc vero domi
弟を見たと言う奴もどこにもいなかった。よし、こうなったら、
certum obsiderest usque donec redierit.
家に帰ってくるまで、ここで待たせてもらうぞ。

IV. VII MICIO DEMEA SENES DUO
第四幕第七場(ミキオン登場、戸口で、家の中のアイスキヌスに向かって)

MI. ibo, illis dicam nullam esse in nobis moram
ミキオン じゃあ、行ってくる。向こうにはこっちの準備が万端整ったと言っておこう。
DE. sed eccum ipsum. te iamdudum quaero, Micio. 720
デメアス やっと見つけたぞ。おまえをずいぶん探していたんだぞ、ミキオン。
MI. quidnam? DE. fero alia flagitia ad te ingentia
ミキオン どうかしたのかい? デメアス おまえの自慢の息子が、またとんでもない不始末をやってくれた。
boni illius adulescentis. MI. ecce autem! DE. nova,
その話を伝えに来たのだ。ミキオン おや、またかい! デメアス 前代未聞の
capitalia. MI. ohe iam! DE. ah! nescis qui vir sit. MI. scio.
大失態だぞ。ミキオン おいおい。デメアス あいつがどんな男か、おまえにはわかっちゃいない。ミキオン いや、ちゃんとわかってるさ。
DE. ah! stulte, tu de psaltria me somnias
デメアス ああ、馬鹿な奴め。どうせキタラ女の話だと思ってるんだろう。
agere. hoc peccatum in virginemst civem. MI. scio.
今度は、事もあろうに市民権のある娘の操を奪ったのだ。ミキオン その話なら知っているよ。
DE. oho! scis et patere? MI. quidni patiar? DE. dic mihi,
デメアス ほう、知っていて許すと言うのか? ミキオン 許したら悪いかい? デメアス おまえは、
non clamas? non insanis? MI. non. malim quidem-
我を忘れて怒鳴ったりできないのか? ミキオン できないね。そんなことより・・
DE. puer natust. MI. di bene vortant! DE. virgo nil habet-
デメアス(さえぎって)子供までできたんだぞ。ミキオン 神々の祝福がありますように! デメアス 娘は一文無しだぞ。
MI. audivi. DE. et ducenda indotatast. MI. scilicet.
ミキオン それも聞いている。デメアス 持参金なしの嫁をもらうんだぞ。ミキオン もちろんそうなるだろう。
DE. quid nunc futurumst? MI. id enim quod res ipsa fert. 730
デメアス じゃあ、これからどうなるわけだ? ミキオン なるようになるさ。
illinc hinc transferetur virgo. DE. o Juppiter!
(ソストラータの家を指して)あっちからここまで、娘を連れてくるまでのこと。デメアス ああ、神様、
istocin pacto oportet? MI. quid faciam amplius?
こんなことがあっていいものか? ミキオン これ以上何をどうしろっていうんだい?
DE. quid facias? si non ipsa re tibi istuc dolet,
デメアス どうするかだと? 息子のことで心を痛めていないのが本音でも、
simulare certest hominis. MI. quin iam virginem
心配するそぶりを見せるのが人間というものだ。ミキオン いや、もう娘は、
despondi, res compositast, fiunt nuptiae,
嫁にもらうと約束したんだ。縁談は成立、後は挙式を待つばかりだ。
dempsi metum omnem. haec magis sunt hominis. DE. ceterum
悩みはすっかり解決したし、これこそ人間らしい身の処し方だと思うがね。デメアス それじゃあ、
placet tibi factum, Micio? MI. non, si queam
ミキオン、おまえはアイスキヌスのしたことに満足しているんだな? ミキオン いや、
mutare. nunc quom non queo, animo aequo fero.
今から破談にできるなら話は別だ。しかし、いまさらそんなこともできない以上、事の成りゆきは冷静に見守るしかないわけだ。
ita vitast hominum quasi quom ludas tesseris.
人生はさいころを振るようなもので、
si illud quod maxume opus est iactu non cadit, 740
一番出てほしいと思った目が出なくても、
illud quod cecidit forte, id arte ut corrigas.
偶然出た目でやりくりするしかないのさ。
DE. corrector! nemp‘ tua arte viginti minae
デメアス やりくりするだと! ふん、おまえの手際のよさで、
pro psaltria periere. quae quantum potest
じつに二〇ミナがキタラ女のために失われたのだ。あの女は、できるだけ早く
aliquo abiciundast, si non pretio, gratiis.
どっかへ売り飛ばすに限る。利益は当てにせずにな。
MI. nequest neque illam sane studeo vendere.
ミキオン いや、手放そうとは思わないし、売るつもりもない。
DE. quid igitur facies? MI. domi erit. DE. pro divom fidem!
デメアス じゃあどうする気だ。ミキオン 家に置いておく。デメアス 何だって!
meretrix et materfamilias una in domo?
商売女と堅気の女が、同じ屋根の下で暮らすって言うのか?
MI. quor non? DE. sanum te credis esse? MI. equidem arbitror.
ミキオン  暮らせないか? デメアス 気が狂ったんじゃあるまいね。ミキオン もちろん正気さ。
DE. ita me di ament, ut video tuam ego ineptiam,
デメアス ああ、神様。わしはおまえみたいな愚か者を相手にしないといけないのか?
facturum credo, ut habeas quicum cantites. 750
おまえはキタラ女と歌うのが趣味じゃないのか?
MI. quor non? DE. et nova nupta eadem haec discet? MI. scilicet.
ミキオン 歌ったら悪いかね? デメアス その新妻も、商売女に歌を習うわけか? ミキオン 当然そうなるな。
DE. tu inter eas restim ductans saltabis. MI. probe.
デメアス じゃあ、おまえも紐をもって女どもの前で踊るのか?(踊る振りをする)ミキオン そのとおり。
DE. probe? MI. Et tu nobiscum una, si opus sit. DE. ei mihi!
デメアス そのとおりだと? ミキオン よかったらあんたも一緒に踊らないか? デメアス 何だって!
non te haec pudent? MI. iam vero omitte, Demea,
おまえ、恥ずかしいと思わないのか? ミキオン デメアス、もういい加減に
tuam istanc iracundiam atque ita uti decet
怒りを鎮めたらどうだ。あんたの息子の結婚だぞ、
hilarum ac lubentem fac te gnati in nuptiis.
もっと陽気に楽しく振る舞ってくれないと困るじゃないか。
ego hos convenio. post huc redeo.DE. o Juppiter!
(ソストラータの家を指して)わしは今から、新婦の家族を呼びに行き、後でここへ戻って来る。(ミキオン、ソストラータの家に入る)デメアス まったく何てことだ!
hancin vitam! hoscin mores! hanc dementiam!
何たる人生! 何たる生き方! 何たる狂気!
uxor sine dote veniet, intus psaltriast.
持参金なしで嫁が来るだと? 家の中にキタラ女が住むだと?
domus sumptuosa, adulescens luxu perditus, 760
さては、家によっぽど金が余って仕方がないと見える。息子の贅沢で身を滅ぼしたのだ。
senex delirans. ipsa si cupiat Salus,
親父の方も頭がいかれたようだ。救いの女神(サルス)がお望みとあっても、
servare prorsus non potest hanc familiam.
こんな親子を救い出すことは絶対にできっこない。

V.I SYRUS DEMEA servos senex
第五幕第一場(千鳥足でシュルス登場)

SY. edepol, Syrisce, te curasti molliter
シュルス シュルス君、本当にいろいろお世話になったね。
lauteque munus administrasti tuom.
君は立派に務めを果たしてくれた。
abi! sed postquam intus sum omnium rerum satur,
もう、下がってよろしい。中でいろんなごちそうをたらふく食ったんで、
prodeambulare huc lubitumst. DE. illud, sis, vide:
ちょっとばかり散歩でもしてこようか。デメアス(傍白)なんだ、あのざまは。
exemplum disciplinae! SY. ecce autem hic adest
立派なしつけの見本じゃないか。シュルス おやおや、ここにおられるのは
senex noster. quid fit? quid tu‘s tristis? DE. o scelus!
旦那様じゃないですか。どうなすったんです? 何でまたそんなに不機嫌な顔をしてるんです? デメアス このならず者が!
SY. ohe iam! tu verba fundis hic, Sapientia?
シュルス おやまあ、知恵の神さん、こんな所でがなり立てるんですか。
DE. tu si meus esses- SY. dis quidem esses, Demea, 770
デメアス もし、おまえがわしの奴隷だったら・・シュルス(さえぎって)財産はうんと増え、
ac tuam rem constabilisses. DE. -exemplo omnibus
旦那は大金持ちになっています。デメアス いや、おまえを手本とするよう、
curarem ut esses. SY. quam ob rem? quid feci? DE. rogas?
他の奴隷どもに言ってやる。シュルス いったいどうして。何かしましたっけ? デメアス とぼける気か?
in ipsa turba atque in peccato maxumo,
たいへんな不始末をやらかしたと大騒ぎしているのに、
quod vix sedatum satis est, potasti, scelus,
万事解決したとばかりに、酒なんか飲みおって。不埒な奴め。
quasi re bene gesta. SY. sane nollem huc exitum.
まだ騒ぎは鎮まっていないんだぞ。シュルス(傍白)ちぇ、こんな所へ出てくるんじゃなかったよ。

V.II DROMO DEMEA SYRUS puer senex servos
第五幕第二場(ドロモン、ミキオンの家の前に姿を現わす)

DR. heus Syre! rogat te Ctesipho ut redeas. SY. abi!
ドロモン おいシュルス、クテシフォンの坊っちゃんがお呼びだぞ。シュルス こら、あっちへ行け。(ドロモン、家の中に入る)
DE. quid Ctesiphonem hic narrat? SY. nil. DE. eho, carnufex!
デメアス おい、どうしてあいつはクテシフォンの名を呼んだのだ? シュルス 何でもありませんよ。デメアス この野郎、
est Ctesipho intus? SY. non est. DE. quor hic nominat?
さてはクテシフォンが中にいるな? シュルス いいえ、とんでもありません。デメアス じゃあ、どうして息子の名前を呼んだんだ?
SY. est alius quidam, parasitaster paullulus.
シュルス 別の男のことでさあ。ほら、ろくでなしの居候がいたでしょう。
nostin? DE. iam scibo. SY. quid agis? quo abis? DE. mitte me. 780
旦那もご存じのはずで? デメアス よし、今つきとめてやる。(デメアス、入り口に向かおうとする)シュルス(デメアスを捕まえ)旦那、何をする? どこに行こうってんだ? デメアス おいこら、放せ。
SY. noli, inquam. DE. non manum abstines, mastigia?
シュルス 放すもんか。デメアス その手を放さんか、ろくでなしめ。
an tibi iam mavis cerebrum dispergam hic? SY. abit.
それとも、ここで脳天をたたき割ってほしいのか?(シュルスを振り切り、中へ入る)シュルス(目で追いながら)ああ、行っちまった。
edepol comissatorem haud sane commodum,
まったく何て人だ。一緒に酒なんて飲めない相手だ。
praesertim Ctesiphoni! quid ego nunc agam?
とりわけクテシフォンにとってはな! さあて、これからどうしようか?
nisi, dum haec silescunt turbae, interea in angulum
騒ぎが納まるまで、どこか隅に引っ込んで、
aliquo abeam atque edormiscam hoc villi. sic agam.
酒をちびりちびり飲んで一眠りしよう。うん、それがいい。

V.III MICIO DEMEA SENES DUO
第五幕第三場(ソストラータの家からミキオン登場。戸口で家の中に向かって)

MI. parata a nobis sunt, ita ut dixi, Sostrata.
ミキオン ソストラータさん、言ってましたように、準備はできています。
ubi vis-quisnam a me pepulit tam graviter fores?
いつでもお好きなときにどうぞ。(振り返って)おや、誰だろう、うちの戸を乱暴に閉める奴は?(デメアス登場)
DE. ei mihi! quid faciam? quid agam? quid clamem aut querar?
デメアス こんちくしょう。何をどうすりゃいいんだ? なんて怒鳴ればいいんだ? なんて嘆いたらいいんだ?
o caelum, o terra, o maria Neptuni! MI. em tibi! 790
「おお天よ、大地よ、ネプゥトゥヌスの海よ!」なんて具合にか? ミキオン(傍白)なんだ、デメアスか。
rescivit omnem rem. id nunc clamat. ilicet,
やっこさん、すべてを知ったとみえる。大騒ぎしているのはそのせいだ。万事休すだ。
paratae lites. succurrendumst. DE. eccum adest
さあ、一騒動が始まるぞ。何とかしなくちゃいけないな。デメアス(ミキオンを見つけ)こんな所にいるぞ。
communis corruptela nostrum liberum.
二人の息子をダメにした張本人だ。
MI. tandem reprime iracundiam atque ad te redi.
ミキオン 頼むから、怒るのはやめてくれ。いつものあんたに戻るんだ。
DE. repressi, redii, mitto maledicta omnia:
デメアス 怒ってなんかいないし、いつもの自分に戻っているつもりだ。もう怒鳴ったりもしない。
rem ipsam putemus. dictum hoc inter nos fuit
事実を一緒に見つめよう。あんたはわしの、
(ex te adeost ortum) ne tu curares meum
わしはあんたの息子のことには、首を突っこまない約束だったな?
neve ego tuom? responde. MI. factumst. non nego.
これはあんたが言い出したことだ。違うか? ミキオン そのとおりだ。否定はしない。
DE. quor nunc apud te potat? quor recipis meum?
デメアス それじゃあ、なんであいつは、今おまえの家で酒を飲んでいるんだ? なんでわしの息子を家に呼んだのだ?
quor emis amicam, Micio? numqui minus 800
なんで女を買い与えたんだ、ミキオン? まさか
mihi idem jus aequomst esse quod mecumst tibi?
こっちも同じことをして構わない道理があるって言うのか?
quando ego tuom non curo, ne cura meum.
いいか、わしはおまえの息子のことで、これっぽっちも干渉してないのだから、おまえもわしの息子に手出しはするな。
MI. non aequom dicis. DE. non? MI. nam vetus verbum hoc quidemst,
ミキオン あんたの言ってることは少し的外れじゃないか。デメアス そうかい? ミキオン 昔から言うだろう。
communia esse amicorum inter se omnia.
「友はすべてを分かちもつ」とな。
DE. facete! nunc demum istaec nata oratiost?
デメアス うまいことを言って、今思いついたせりふじゃないのか。
MI. ausculta paucis nisi molestumst, Demea.
ミキオン デメアス、よかったら、少し聞いてもらいたい話があるんだ。
principio, si id te mordet, sumptum filii
まず、二人の息子の使った金のことで引っかかるのなら、
quem faciunt, quaeso, hoc facito tecum cogites.
こう考えてもらえればありがたい。
tu illos duo olim pro re tollebas tua,
昔はあんたが自分の金で二人の面倒を見ていたわけだ。
quod satis putabas tua bona ambobus fore, 810
持ち金で二人を十分に養っていけると思っていたことと思う。
et me tum uxorem credidisti scilicet
あんたはあんたで、このわしがいずれ嫁をもらうと思っていたに
ducturum. eandem illam rationem antiquam optine.
違いない。だったら当時の考えに戻ってみてくれないか。
conserva, quaere, parce, fac quam plurumum
あんたは金を稼ぎ、ため込み、節約する。できるだけ多くの財産を二人に残し、
illis relinquas, gloriam tu istam optine.
人から賞賛を得るよう努めたらいい。
mea, quae praeter spem evenere, utantur sine.
わしの財産といったって、もともと運よく授かったものだ。若い二人が勝手に使ってくれたって構わない。
de summa nil decedet: quod hinc accesserit,
つまり、あんたの財産はびた一文減るわけじゃない。わしの懐から出た金は、
id de lucro putato esse omne. haec si voles
みんなあんたの利益と考えてくれたらいいんだ。
in animo vere cogitare, Demea,
デメアス、このことは、よくよく考えてみれば、
et mihi et tibi et illis dempseris molestiam.
わしやあんた、それに二人の息子の厄介ごとを、みんなまとめて解決してくれるんだ。
DE. mitto rem: consuetudinem amborum- MI. mane. 820
デメアス 金の話はどうでもいい。わしには二人の生き方そのものが・・ミキオン まあ待ってくれ。
scio. istuc ibam. multa in homine, Demea,
気持ちはよく分かる。今そのことについて言おうとしていたんだ。デメアス
signa insunt ex quibus conjectura facile fit,
人間にはいろんな個性があって、それを基にして、他人は好き勝手な判断を下すものだ。
duo quom idem faciunt, saepe ut possis dicere
たとえば、二人の息子は始終同じことをしているのに、あんたはこんな風に言わないか?
”hoc licet impune facere huic, illi non licet,”
「こんなことをしても、おまえには罰を与えない。あいつなら絶対許さんが」といった具合に。
non quo dissimilis res sit sed quo is qui facit.
やることが違うからではなく、やる人間が違うから、そう言うわけだ。
quae ego inesse in illis video, ut confidam fore
あの二人なら大丈夫。申し分のない男になった。
ita ut volumus. video sapere, intellegere, in loco
わしにはわかるさ。二人には分別も知恵もある。ここと言うときには、
vereri, inter se amare. scire est liberum
ちゃんと敬意を払うし、互いに相手を愛してもいる。だからあんたは、
ingenium atque animum. quovis illos tu die
二人の個性や心持ちを十分理解してやることだ。そうすれば、いつかは二人の心を
redducas. at enim metuas, ne ab re sint tamen 830
取り戻すこともできるだろう。といっても、今は金のことで、
omissiores paullo. o noster Demea
二人がちょっとだらしないと心配かもしれない。でも、いいかいデメアス、
ad omnia alia aetate sapimus rectius.
ほかのことなら何だって人間は年をとればそれだけ賢くなるくせに、
solum unum hoc vitium affert senectus hominibus.
たった一つ、これだけが年寄りの欠点と言えるものがある。
attentiores sumus ad rem omnes quam sat est.
年寄りは皆、必要以上に財産に執着するという点だ。
quod illos sat aetas acuet. DE. ne nimium modo
寄る年波が人間を十分貪欲にしてくれるのだ。デメアス だがな、ミキオン、わしには
bonae tuae istae nos rationes, Micio,
あんたのその寛容な考えや公平な物の見方とやらが、
et tuos iste animus aequos subvortat. MI. tace!
わしらの一家を破滅させはしないかと心配なのだ。ミキオン ちょっと待ってくれ。
non fiet. mitte iam istaec. da te hodie mihi.
そうはならんさ。不安があれば、今のうちに消してくれ。今日のところはこのわしに下駄を預けてほしい。
exporge frontem. DE. scilicet ita tempu‘ fert,
さあ、眉間のしわは伸ばすことだ。デメアス たしかに、状況から見てそうするほかはなさそうだ。
faciundumst. ceterum ego rus cras cum filio 840
言うとおりにするよ。だがな、明日の日の出とともに、わしは息子と
cum primo luci ibo hinc. MI. de nocte censeo.
田舎に帰るからな。ミキオン 別に夜中でもかまわんがね。
hodie modo hilarum fac te. DE. et istam psaltriam
とにかく今日は陽気にやってくれ。デメアス あのキタラ女も
una illuc mecum hinc abstraham. MI. pugnaveris.
わしが家まで連れて帰るぞ。ミキオン(笑って)せいぜい息子と張り合ったらいい。
eo pacto prorsum illi alligaris filium.
そうすれば、これからもあの子を家につなぎとめていられるからな。
modo facito ut illam serves. DE. ego istuc videro.
ただし、女からはくれぐれも目を離すなよ。デメアス わかった、十分注意しよう。
atque ibi favillae plena, fumi ac pollinis
田舎では料理や粉引きに精を出させ、
coquendo sit faxo et molendo. praeter haec
燃えている灰や煙、粉で一杯にしてやろう。おまけに
meridie ipso faciam ut stipulam conligat.
真っ昼間から藁を集めに行かせるぞ。
tam excoctam reddam atque atram quam carbost. MI. placet.
そうやってひからびさせて、炭みたいに真っ黒に日焼けさせるのだ。ミキオン そりゃ愉快だ。.
nunc mihi videre sapere. atque equidem filium 850
あんたもようやく話がわかるようになったな。
tum etiam si nolit, cogam ut cum illa una cubet.
そうなったらわしは、クテシフォンがどんなに嫌がっても、あの娘と一緒に寝るように命じてやるぞ。
DE. derides? fortunatu‘s qui isto animo sies.
デメアス(苦々しく)からかうつもりかい? めでたい気分になれてあんたは幸せだよ。
ego sentio- MI. ah! pergisne? DE. iam iam desino.
わしは思うのだが・・。ミキオン(さえぎって)また始めるのかい? デメアス わかった。もうやめとくよ。
MI. i ergo intro, et quoi reist ei rei hunc sumamus diem.
じゃあ、中へ入ったらいい。お互いやるべきことをやって、今日一日を締めくくろう。

V.IV DEMEA senex
第五幕第四場(デメアス登場)

DE. numquam ita quisquam bene subducta ratione ad vitam fuit,
デメアス 人はどんなに人生の計画を上手く立てたつもりでも、
quin res, aetas, usus semper aliquid apportet novi,
自分をとりまく状況が変わったり、年を取ったり、経験を重ねることで、必ず何か新しいことを発見したり、
aliquid moneat, ut illa quae te scisse credas nescias,
注意すべき教訓を得たりするものだ。知っていると思いこんでいたことを本当は何も知らなかったり、
et quae tibi putaris prima,in experiundo ut repudies.
最も大切だと思っていた考えが、実際の生活においては、自分でも受け入れられないものであったりする。
quod nunc mi evenit. nam ego vitam duram quam vixi usque adhuc
このことが、今まさに、我とわが身に降りかかっているのだ。わしも人生を終わり近くまで駆け抜けてきて、
prope iam excurso spatio omitto. id quam ob rem? re ipsa repperi 860
ようやくこれまでの厳格な生き方を放棄しようと決意したのだ。それはいったいなぜか? 現実を通して、
facilitate nil esse homini melius neque clementia.
愛想よく寛大に生きることこそ、人間にとって最も大切なことだと学んだからにほかならない。
id esse verum ex me atque ex fratre quoivis facilest noscere.
この教訓こそ真実だ。それは、わしとミキオンの生き方を比べれば、誰の目にも一目瞭然だ。
ill‘ suam semper egit vitam in otio, in conviviis,
あいつは仲間と飲み食いしては気ままに過ごす。
clemens, placidus; nulli laedere os, arridere omnibus;
穏やかで平和な暮らしだ。誰の面子を傷つけることもなく、いつも笑顔で皆に接している。
sibi vixit, sibi sumptum fecit: omnes bene dicunt, amant.
自分のために生き、自分のために金を使うだけだ。しかし、誰もあいつのことを悪く言わんし、慕ってもいる。
ego ille agrestis, saevos, tristis, parcus, truculentus, tenax
それにひきかえ、このわしは粗野で短気な田舎者、けちで無愛想な頑固者ときている。
duxi uxorem. quam ibi miseriam vidi! nati filii,
おまけに嫁なんかもらっちまった。おかげでどんなに辛い思いをしたことか! その上、二人の子供までできてしまった。
alia cura. heia autem, dum studeo illis ut quam plurumum
苦労の種がまたひとつ増えたってわけだ。それでも、わしは家族のために精いっぱいがんばったつもりだ。
facerem, contrivi in quaerundo vitam atque aetatem meam.
自分の生活と時間をすり減らしながらな。
nunc exacta aetate hoc fructi pro labore ab eis fero, 870
こうしてわしの人生も終わりに近づいた。なのに、これまでの苦労の報酬として受け取るものは、
odium. ille alter sine labore patria potitur commoda.
ただの憎しみだ。一方、弟は何の苦労もせずに、父親としての喜びを享受している。
illum amant, me fugitant. illi credunt consilia omnia,
息子達は、あいつにはなつくが、わしには近寄りもせん。あいつの忠告なら何だって素直に聞く。
illum diligunt, apud illum sunt ambo, ego desertu‘ sum.
弟のことが好きでたまらんのだ。今だって二人揃ってあいつの家にいるし、わしなんて見捨てられたも同然だ。
illum ut vivat optant, meam autem mortem exspectant scilicet.
弟のことは長生きするように祈るくせに、わしのことは、どうせ早くあの世に行けばいいと思っているに違いない。
ita eos meo labore eductos maxumo hic fecit suos
つまりだ。わしが手塩に掛けて育てた二人を、弟は易々と自分のものにしたってわけだ。
paullo sumptu. miseriam omnem ego capio, hic potitur gaudia.
辛い目に会うのはいつもこのわしで、いい目をするのは、いつもあいつだ。
age age, nunciam experiamur contra ecquid ego possiem
よし、わかったぞ。これからは正反対のことをしてやるぞ。
blande dicere aut benigne facere, quando hoc provocat.
人に愛想よく話したり、親切にしたりするのは、今度はわしの番だ。あいつが先手を打ったのだからな。
ego quoque a meis me amari et magni pendi postulo.
わしだって家族の皆から愛されたいし、尊敬もされたい。
si id fit dando atque obsequendo, non posteriores feram.880
もし物を与えたり、言いなりになることでそれが叶うなら、脇役なんか誰がやるものか。
deerit: id mea minime refert qui sum natu maxumus.
金はどんどんなくなるだろうが、どうせこっちは老い先が短いんだ。どうってことはないだろう。

V.V SYRUS DEMEA servos senex
第五幕第五場(シュルス登場)

SY. heus Demea! orat frater ne abeas longius.
シュルス おやまあ、デメアスの旦那。ミキオンの旦那が遠くへ行かぬようにとおっしゃっていましたが。
DE. quid homo? o Syre noster, salve. quid fit? quid agitur?
デメアス(愛想よく)おや、どちらさんで? おやまあ、シュルスか。やあ、元気かい? どうだい調子は?
SY. recte. DE. optumest. iam nunc haec tria primum addidi
シュルス(驚いて)元気にやってますが。デメアス そりゃあいい。(傍白)もう初めての言葉を三つもしゃべったぞ。
praeter naturam. ”o noster,” ”quid fit?”,”quid agitur?”
まったく性に合わないせりふだがな。「おやまあ、あんたか。元気かい? どうだい調子は?」なんてね。
servom haud illiberalem praebes te et tibi
(シュルスに)おまえは、奴隷にしておくのはもったいない男だ。
lubens bene faxim. SY. gratiam habeo. DE. atqui, Syre,
ぜひ便宜を図ってやろう。シュルス お言葉ありがとうございます。デメアス いや、
hoc verumst et ipsa re experiere propediem.
本当にそう思うんだ。そのうちどういうことかがわかるだろう。(シュルス退場)

V.VI GETA DEMEA servos senex
第五幕第六場(ゲタ、ソストラータの家から現われて)

GE. era, ego huc ad hos proviso quam mox virginem
ゲタ 奥さん、あっしは隣へ行って、後どれくらいでお嬢さんを
accersant. sed eccum Demeam. salvos sies. 890
迎えに来るのか見てきます。(デメアスを見て)おや、デメアスの旦那、ごきげんよろしゅう。
DE. o qui vocare? GE. Geta. DE. Geta, hominem maxumi
デメアス えっと、あんたは何て名前だったかな? ゲタ ゲタですが。デメアス そうそう、ゲタだ。
preti te esse hodie judicavi animo meo.
おまえは何て見所のある奴なんだろうと、今も感心していたところなんだ。
nam is mihi profectost servos spectatus satis,
主人への細かい気配りのできる者こそ、あっぱれな奴隷と言わねばならん。
quoi dominus curaest, ita ut tibi sensi, Geta,
今あんたを見てそう感じたんだ、ゲタ。
et tibi ob eam rem, si quid usus venerit,
そういうわけで、いつか機会があれば、
lubens bene faxim. meditor esse affabilis,
あんたにも喜んで施しをしたいと思っている。(傍白)これも人当たりをよくする訓練だが、
et bene procedit. GE. bonus es quom haec existumas.
効果はてきめんのようだ。ゲタ そんな風にお考えくだすって、どうもありがとうございます。
DE. paullatim plebem primulum facio meam.
デメアス(傍白)こうやって、少しずつわしの支持者を増やしていくことから始めよう。

V.VII AESCHINUS DEMEA SYRUS GETA adulescens senex SERVI DUO
第五幕第七場(アイスキヌス登場)

AE. occidunt mequidem dum nimis sanctas nuptias
アイスキヌス(周囲に気づかずに)あんなにおおげさに結婚式の準備をするなんて、
student facere. in apparando consumunt diem. 900
まったく死にそうな気分になるよ。準備だけで丸一日かかりそうだ。
DE. quid agitur, Aeschine? AE. ehem, pater mi! tu hic eras?
デメアス おや、アイスキヌスじゃないか。アイスキヌス あっ父さん。父さんこそ、こんな所になぜいるの?
DE. tuos hercle vero et animo et natura pater
デメアス なぜって、わしこそおまえを生んだ実の父であり、心底おまえのことを愛しているからさ。
qui te amat plus quam hosce oculos. sed quor non domum
おまえのことは、この両目よりも大切に思っているつもりだ。だが、なんだってもっと早く
uxorem accersis? AE. cupio. verum hoc mihi moraest,
花嫁を連れてこないんだい? アイスキヌス そうしたいんですが、あいにく邪魔が入ってるんです。
tibicina et hymenaeum qui cantent. DE. eho!
笛吹き女や、婚礼の曲を歌う女達がいっぱいいるんですよ。デメアス よければ、
vin tu huic seni auscultare? AE. quid? DE. missa haec face,
この老人の言うことに耳を貸してもらえんかな? アイスキヌス と言うと? デメアス みんな追い返してしまうのさ。
hymenaeum,turbam,lampadas,tibicinas,
歌を歌う女も、群衆も、婚礼の火も、笛吹き女も、みんなだ。
atque hanc in horto maceriam jube dirui
それより、庭の垣根を今すぐたたき壊すように
quantum potest. hac transfer, unam fac domum.
命じるんだ。花嫁はこっちから直に連れてくればいい。つまりだ、家を一つにしてしまうんだ。
transduce et matrem et familiam omnem ad nos. AE. placet, 910
相手の母親も、奴隷達も、みんなまとめてこっちに連れてこい。アイスキヌス 賛成!
pater lepidissume. DE. euge! iam lepidus vocor.
父さんはすばらしい! デメアス(傍白)やったぞ。あの子に「すばらしい」なんて言われたぞ。
fratri aedes fient perviae, turbam domum
これでミキオンの家は、だれもが自由に出入りできるようになる。家にはわんさと人が集まって、
adducet, sumptu amittet multa. quid mea?
あいつの懐からはどんどん金がなくなっていくぞ。わしの知ったことじゃないが。
ego lepidus ineo gratiam. jube nunciam
わしは人から「すばらしい」と言われ、感謝されるのだ。さあ、
dinumeret ille Babylo viginti minas.
あの旦那には今すぐ二〇ミナを払わせよう。
Syre, cessas ire ac facere? SY. quid ago? DE. dirue.
(シュルスに)早く仕事に取りかかれ。シュルス あっしが何を? デメアス 垣根をぶっこわすんだ。
tu illas abi ac transduce. GE. di tibi, Demea,
(アイスキヌスに)あちらの家に行って、花嫁を連れてくるんだ。(シュルス退場)ゲタ デメアスの旦那に神の恵みが
bene faciant, quom te video nostrae familiae
授かりますように。旦那はあっしら一家のために、
tam ex animo factum velle. DE. dignos arbitror.
親身になって力を貸してくれたんだ。デメアス 当然のことをしたまでだ。(ゲタ退場)
quid tu ais? AE. sic opinor. DE. multo rectiust 920
(アイスキヌスに)おまえはどう思うかね。アイスキヌス 父さんに賛成です。デメアス 身重で
quam illam puerperam hac nunc duci per viam
大変な時だから、通りを連れて歩くよりもずっといいと思ってな。
aegrotam. AE. nil enim melius vidi, mi pater.
アイスキヌス これ以上ない名案ですとも、父さん。
DE. sic soleo. sed eccum Micio egreditur foras.
デメアス こんなのはお手の物さ。おや、ミキオンが外へ出てくるぞ。

V.VIII MICIO DEMEA AESCHINUS SENES DUO adulescens
第五幕第八場(驚いた表情でミキオンが登場)

MI. Jubet frater? ubi is est? tun jubes hoc, Demea?
ミキオン 兄貴の命令だって? デメアスはいったいどこにいる?(前に進み出て)デメアス、これはみんなあんたが命じたことなのか?
DE. ego vero jubeo et hac re et aliis omnibus
デメアス そうだ、わしが命じたのだ。このことに限らず、
quam maxume unam facere nos hanc familiam,
出来るかぎりうちの家はあちらの家族と一つにならんといかん。
colere, adjuvare, adjungere. AE. ita quaeso, pater.
何より相手の家族を大切にし、協力し、親密になるべきだ。アイスキヌス(ミキオンに)父さん、ぜひそうさせてください。
MI. haud aliter censeo. DE. immo hercle ita nobis decet.
ミキオン 反対する気持ちは毛頭ないさ。デメアス そうさ、まったくこうするのが当然だ。
primum huius uxorist mater. MI. est. quid postea?
だいいち、アイスキヌスの嫁には母親がいる。ミキオン 確かに。それで?
DE. proba et modesta. MI. ita aiunt. DE. natu grandior. 930
デメアス なかなか正直でいい人だ。ミキオン みんなそう言っている。デメアス だが、もう若くはない。
MI. scio. DE. parere iamdiu haec per annos non potest.
ミキオン そりゃそうさ。デメアス 年のせいで、もう子どもを生むこともできない。
nec qui eam respiciat quisquamst. solast. MI. quam hic rem agit?
そばで世話をしてやる人間もいなくなる。天涯孤独だ。ミキオン(傍白)何が言いたいんだろう?
DE. hanc te aequomst ducere, et te operam ut fiat dare.
デメアス あんたは、あの母親と結婚するのが一番だ。(アイスキヌスに)おまえも二人が結婚できるように力を貸すんだ。
MI. me ducere autem? DE. te. MI. me? DE. te, inquam. MI. ineptis. DE. si tu sis homo,
ミキオン このわしが結婚? デメアス そう、あんたがだ。ミキオン このわしが? デメアス そう、あんたしかいない。ミキオン 冗談はよせ。デメアス(アイスキヌスに)おまえも男なら、
hic faciat. AE. mi pater! MI. quid tu autem huic, asine, auscultas? DE. nil agis.
うんと言わせるんだ。アイスキヌス(ミキオンに)父さん、お願いだ! ミキオン このばか者め、何でデメアスの言うことを聞くんだ。デメアス あがいても無駄だ。
fieri aliter non potest. MI. deliras. AE. sine te exorem, mi pater.
逃げられない運命だからな。ミキオン おまえ、頭がおかしくなったのか。アイスキヌス(ミキオンに)頼むよ、父さん、お願いだ。(手をミキオンの肩にかける)
MI. insanis. aufer! DE. age, da veniam filio. MI. satin sanus es?
ミキオン おまえまで気が狂ったな。その手を放せ。(手を払いのける)デメアス さあ、息子の頼みを聞いてやったらどうだ。ミキオン 本当に気は確かなのか?
ego novos maritus anno demum quinto et sexagensumo
わしはもう六五になったんだ。今さら花婿になって
fiam atque anum decrepitam ducam? idne estis auctores mihi?
よぼよぼの婆さんを嫁にもらえって言うのか? そんなことをわしに頼まなくてもいいだろう?
AE. fac. promisi ego illis. MI. promisti autem? de te largitor, puer. 940
アイスキヌス お願いです。相手の家にはもう約束してあるんです。ミキオン 何、約束だと? おまえは何て気前のいい奴なんだ。
DE. age, quid si quid te maius oret? MI. quasi non hoc sit maxumum.
デメアス さあて、この子がもっと大きな物をねだったら、あんたはどうするかね? ミキオン 今のが一番大きいんじゃないのか?
DE. da veniam. AE. ne gravare. DE. fac, promitte. MI. non omittitis?
デメアス 素直に、はいと言えばいいんだ。アイスキヌス 大げさに考えなくたっていいんですよ。デメアス さあ、結婚に同意したまえ。(デメアスとアイスキヌス、手をミキオンの肩にかける)ミキオン 頼むからその手を離してくれ。
AE. non, nisi te exorem. MI. vis est haec quidem. DE. age prolixe, Micio.
アイスキヌス 父さんが同意するまで放すもんですか。ミキオン こんなのは力づくじゃないか? デメアス さあ、心を広くもて、ミキオン
MI. etsi hoc mihi pravom,ineptum,absurdum atque alienum a vita mea
ミキオン こんなふざけた話があるもんか。まったくばかげためちゃくちゃな話じゃないか。わしの生き方とは、
videtur, si vos tanto opere istuc voltis, fiat. AE. bene facis.
天と地ほど異なるやり方だ。だが、そこまで二人が言うのなら仕方がない、結婚するよ。アイスキヌス ありがとう、父さん。
merito te amo. DE. verum quid ego dicam, hoc quom confit quod volo?
だから、父さんが好きなんだ。デメアス さて。(傍白)次は何て言おうか? 願いがもうかなったぞ。
MI. quid nunc quod restat? DE.Hegio: est his cognatus proxumus,
ミキオン まだ何か言い足りないことでもあるのかい? デメアス 実はヘギオンのことなんだ。ソストラータと血のつながった男だが、
affinis nobis, pauper. bene nos aliquid facere illi decet.
今回の結婚で、われわれの親戚になったわけだ。だが、いかんせん金がない。われわれとしても、ぜひ何とかしてやる必要がある。
MI. quid facere? DE. agellist hic sub urbe paullum quod locitas foras.
ミキオン いったい何をすればいいんだ? デメアス あんたは郊外に小さな畑をもっていて、それを他人に貸しているだろう。
huic demus qui fruatur. MI. paullum id autemst? DE. si multumst, tamen 950
あれをそっくりヘギオンに与えたい。生活の足しになるだろう。ミキオン あれが小さな畑だって? デメアス 大きな地所と言うのなら、
faciundumst. pro patre huic est, bonus est, noster est, recte datur.
なおさら譲ってやるべきだ。あの男はこれまで娘の父親代わりを勤めてきた。立派な男だし、何よりわれわれの親戚だ。譲って当然だ。
postremo non meum illud verbum facio quod tu, Micio,
なんなら、ミキオン、あんたのせりふをわしの言葉にしてお返ししようか。
bene et sapienter dixti dudum: ”vitium commune omniumst,
立派で思慮深い言葉だ。「たった一つ、この点だけが年寄りの欠点と言えるのだ。
quod nimium ad rem in senecta attenti sumus”. hanc maculam nos decet
つまり年寄りは皆、必要以上に財産に執着する」とな。たしかに、この過ちだけは
effugere. et dictumst vere et re ipsa fieri oportet. AE. mi pater!
何とかして避けたいものだ。あんたの言ったことは正しいし、後は実行あるのみだ。アイスキヌス(ミキオンに)父さん、お願いだ。
MI. quid istic? dabitur quandoquidem hic volt. DE. gaudeo.
ミキオン しかたない。この子も望んでいることだし、約束するよ。デメアス わしもうれしく思うぞ。
nunc tu germanu‘s pariter animo et corpore.
これであんたとわしは身も心も本当の兄弟になったぞ。
suo sibi gladio hunc jugulo.
(傍白)相手の剣で相手を倒したわけだ。

V.IX. SYRUS DEMEA MICIO AESCHINUS servos SENES DUO adulescens
第五幕第九場(シュルス、ミキオンの家から外に出てくる)

SY. factumst quod jussisti, Demea.
シュルス デメアスの旦那、言いつけどおりにやっときましたぜ。
DE. frugi homo‘s. ergo edepol hodie mea quidem sententia
デメアス 実にまめな男だ。(ミキオンに)これはあくまでわしの考えだが、
judico Syrum fieri esse aequom liberum. MI. istunc liberum? 960
今ここでシュルスを解放すれば筋が通ると思うのだ。ミキオン こいつを解放?
quodnam ob factum? DE. multa. SY. o noster Demea, edepol vir bonu‘s.
いったいなぜだ? デメアス 理由ならいくらでもあるさ。シュルス ああ、デメアス様。あなたは本当に立派なお方だ。
ego istos vobis usque a pueris curavi ambos sedulo.
あっしは、二人の坊っちゃんがまだずっと小さい時分から、ずっとお世話させていただきました。
docui, monui, bene praecepi semper quae potui omnia.
いつもできるかぎりのことを教え、注意し、忠告して参りました。
DE. res apparet. et quidem porro haec: opsonare cum fide,
デメアス 歴然たる事実だ。おまけに安心して食事の支度や
scortum adducere, apparare de die convivium.
女の世話も任せられるし、真っ昼間から晩餐の準備も頼めるからな。
non mediocris hominis haec sunt officia. SY. o lepidum caput!
凡庸な人間には、真似のできない忠誠心の現われだ。シュルス ああ、何て素晴らしい人なんだ!
DE. postremo hodie in psaltria hac emunda hic adjutor fuit,
デメアス そのうえ、今日キタラ娘を買い受ける手助けをしてくれたのが、このシュルスなんだ。
hic curavit. prodesse aequomst: alii meliores erunt.
いろいろ頑張ってくれてね。なにか褒美が出ても当然だろう。ほかの奴隷たちの励みにもなる。
denique hic volt fieri. MI. vin tu hoc fieri? AE. cupio. MI. si quidem
何よりアイスキヌスがシュルスの解放を望んでいるんだ。ミキオン(アイスキヌスに)本当にそう願っているのか。アイスキヌス もちろんですとも。ミキオン そこまでおまえが言うなら・・。
tu vis, Syre, eho, accede huc ad me. liber esto. SY. bene facis. 970
シュルス、こっちへ来るんだ。(解放に必要な作法を行って)よし、これでおまえは自由の身だ。シュルス ありがとうございます。
omnibu‘ gratiam habeo, et seorsum tibi praeterea, Demea.
みなさんに感謝します。(デメアスに)とくにデメアスの旦那にはお世話になりました。
DE. gaudeo. AE. et ego. SY. credo. utinam hoc perpetuom fiat gaudium,
デメアス よかった。アイスキヌス 僕もうれしいよ。シュルス その気持ち、わかります。願わくば、この喜びがくもりなきものとなるように、
Phrygiam ut uxorem meam una mecum videam liberam!
妻のプリュギアがあっしと一緒に解放されますように!
DE. optumam quidem mulierem. SY. et quidem tuo nepoti huius filio
デメアス あれは本当によくできた女だからな。シュルス 今日も旦那のお孫さんに、つまりこちらの(とアイスキヌスを指す)
hodie prima mammam dedit haec. DE. hercle vero serio,
旦那のぼっちゃんに初めて乳を飲ませたんですぜ。デメアス まじめな話、
siquidem prima dedit, haud dubiumst quin emitti aequom siet.
初めて乳をやったのがプリュギアなら、解放されて当然だ。文句なしだ。
MI. ob eam rem? DE. ob eam. postremo a me argentum quantist sumito.
ミキオン そんな理由で解放してやれと言うのか? デメアス そう、そのとおり。後で金なら必要なだけこのわしに請求してくれたらいい。
SY. di tibi, Demea, omnes semper omnia optata offerant!
シュルス ああ、デメアス様。八百万の神々が旦那の願い事をいつも何でもかなえてくれますように!
MI. Syre, processisti hodie pulchre. DE. siquidem porro, Micio,
ミキオン シュルスめ、今日はまんまとしてやられたわい。デメアス ミキオンよ、今の約束を実行したうえで、
tu tuom officium facies atque huic aliquid paullum prae manu 980
シュルスに当面の生活費として、現金を少しばかり
dederis unde utatur. reddet tibi cito. MI. istoc vilius.
貸してやってはどうかな。こいつはすぐに返すはずだ。ミキオン 返すときには、減っているさ。
DE. frugi homost. SY. reddam hercle, da modo. AE. age, pater. MI. post consulam.
デメアス こいつは正直な男だ。シュルス ちゃんと返します、お願いですから、貸してください。アイスキヌス 頼むから、ねえ父さん! ミキオン 考えておこう。
DE. faciet. SY. o vir optime! AE. o pater mi festivissume!
デメアス(アイスキヌスに)金は出させる。シュルス ああ、最高の人だ。アイスキヌス ああ、なんてすてきな父さんなんだろう!(シュルス退場)
MI. quid istuc? quae res tam repente mores mutavit tuos?
ミキオン(デメアスに)これはいったいどういうことなんだ? どうしてこんなに急に今までのやり方を変えてしまったんだ?
quod prolubium? quae istaec subitast largitas? DE. dicam tibi:
単なる気まぐれかい? とにかく、どうしてそんなに突然気前がよくなったんだ? デメアス そのわけを話そうか。
ut id ostenderem, quod te isti facilem et festivom putant,
実はあんたに教えてやりたいことがあったのさ。これまで二人の息子はあんたのことを人当たりのいい気さくな男と思ってきたようだが、
id non fieri ex vera vita neque adeo ex aequo et bono,
それは何もあんたの正直な生き方から生まれた結果ではないし、ましてや正しい立派な人格のもたらした結果でもない。
sed ex assentando, indulgendo et largiendo, Micio.
何でも言うことを聞いてやり、甘やかし放題甘やかし、欲しがる物を何でも買ってやった結果に過ぎなかったわけさ。
nunc adeo si ob eam rem vobis mea vita invisa, Aeschine, est,
そんなわけで、今までのわしの生き方が、おまえたちにとって気にくわない面があったとしても、
quia non justa injusta prorsus omnia omnino obsequor, 990
それは善悪を問わず、何であれ、わしはおまえたちの機嫌をとるつもりがなかったからなんだ。
missos facio. effundite, emite, facite quod vobis lubet.
だがわしもな、今までのやり方はもうやめにするよ。これからも好きなだけ金を使えばいいし、やりたいようにやればいい。
sed si voltis potius, quae vos propter adulescentiam
だがな、もし若気の至りで物事の本質がよく見えないときや、
minus videtis, magis impense cupitis, consulitis parum,
どうしても欲望に負けてしまうとか、熟慮に欠けてしまうことがあって、
haec reprehendere et corrigere me et secundare in loco,
それについてわしに叱ってほしいとか、正してほしいとか、ここというときに力になってほしいとか思うのなら、
ecce me qui id faciam vobis. AE. tibi, pater, permittimus.
そのときには、いつだっておまえたちのために力になってやるつもりだ。アイスキヌス 父さん、僕らは父さんの言うことに従いたいと思うよ。
plus scis quod opus factost. sed de fratre quid fiet? DE. sino:
何をしたらいいかは父さんがよく知っているから。でも、クテシフォンのことはどうしよう? デメアス もういい、許すよ。
habeat, in istac finem faciat. MI. istuc recte. Ω plaudite.
好きにすればいいさ。だがこれを最初で最後にしてもらいたいね。ミキオン そう、これでめでたく万事解決だ。座方 では皆様、拍手をよろしくお願いします。